2021年11月26日

【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】学術会議問題スクープ 問題意識が生んだ報道 いんぶん赤旗編集局長 小木曽陽司さん

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 受賞発表の9月3日は菅首相が政権を投げ出した日。昨年の「桜を見る会、私物化疑惑」報道のスクープの大賞受賞も安倍さんの退陣表明直後でした。安倍さんは病気、菅さんはコロナ対策に専念するというのが表向きの理由ですが、権力トップの違法行為を暴いて退陣に追い込むスクープを2年連続でやったのは初めてです。
 最初は昨年10月1日付の1面トップ「菅首相、学術会議人事に介入、推薦候補任命せず」のスクープ記事。日本学術会議法は、学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が候補を任命すると定めており、3年ごとに半分が交代する。ところが菅首相は法に反し、学術会議が推薦した6人の任命を拒否した。すべてが安保法制や共謀罪に反論した学者でした。当日は学術会議の総会で、各社が一斉に報道しました。
  私たちは単独スクープになるとは思っていませんでした。きっかけは公開情報だったからです。任命拒否された刑法学者の松宮孝明立命館大学教授が、推薦名簿には名前があったのに、任命名簿にはなかったとSNS、フェイスブックで暴露したのが、9月29日の午後5時40分頃。これが色々な方に共有、拡散された。私たちも重大情報に遭遇し、すぐに体制を整えて取材、報道しました。

  なぜ、大手メディアでなく赤旗の単独スクープになったのか。「ご飯論法」で知られる法政大学教授の上西充子さんは「安倍政権の時代から表現の自由や学問の自由が制限される流れは続いており、赤旗編集局に問題意識があった」と指摘。また、政府の言い分を含めた「両論併記」でなく、赤旗は一歩踏み込んで重大問題だと提示し、深刻さが伝わったと。
  実際、私たちは、菅首相の人事をテコにした権力支配、強権政治は科学の分野にまできたかと強烈な危機感を持ちました。民主主義を揺るがし、社会を萎縮させる。だからこそ違憲・違法の任命拒否は撤回せよと続報、キャンペーンをずっと続けました。
 桜のスクープは「権力の私物化」と捉えた視点の違いが評価されましたが、今回は民主主義の危機への問題意識、感度が問われたとの指摘です。この問題は首相が任命拒否を撤回しない限り解決しない。絶対に曖昧にせず、撤回で決着をつける。そうでなければ政権交代を実現するしかない、との決意でおります。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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2021年11月22日

【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】ETV特集「原発事故最悪のシナリオ=v事故の教訓化終わらず NHKディレクター・石原大史さん

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 JCJ贈賞式にお招きを受けるのは、今回で3度目です。最初は2011年原発事故の年で、ETV特集「ネットワークでつくる放射能汚染地図」がJCJ大賞。2度目は2013年NHKスペシャル「空白の初期被ばく〜消えたヨウ素131を追う〜」がJCJ賞を受賞しました。
 今回の番組の企画意図は「原発事故を危機管理の側面から検証したらどうなるか」というもので、そのキーワードになったのが「最悪のシナリオ」でした。通常「最悪のシナリオ」は、事故の初動のタイミングで必要と言われ、事故防止戦略の道具として事前に必要なはずなのに、今回の場合(4つの原子炉が損傷し)事故の最悪のタイミングである3月15日からさらに一週間以上も経って官邸に届きました。「これは変だ」ということで取材を始めました。
 「最悪のシナリオ」はアメリカ政府・軍、防衛省・自衛隊、東京電力も、それぞれ別個に作っていて、それぞれが違います。そのこと自体が危機管理が混乱した要因のひとつでした。
 制作での苦労はまず第一に、キーパーソンの誰にどうやって話してもらえるか、です。ローラー作戦で仲間たちで一人ひとり口説いていく作業が大変でした。
 第二は、これまで公の場で話したことのない内容を「テレビカメラの前で話してください。対話形式で2、3時間話してほしい」と要求したので、嫌がられました。

 では、なぜ応じてくれたのか。事故対応した人の多くは「あれで良かったのか」と反問、自己反省を繰り返していました。事故後10年を取材する側とのタイミングが合ったのではないか。幸運で有難いことでした。
 第三は、番組にどういうメッセージを込めるかが、最も苦労した点です。あらかじめ、結論やメッセージが決まっていた訳ではなく、取材から見えてきたもので終わろうと決めていましたが、難しかった。最後は「日本人は危機そのものを直視せず、根拠のない楽観論に陥りやすい」などと指摘する元自衛隊統合幕僚幹部や元首相補佐官のインタビューに番組のメッセージを込めました。
 私たちの社会が、事故からどういう教訓を引き出し、何を学ぶかは、未だ全然終わっていません。引き続き、番組制作を続けたいと考えています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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2021年11月20日

【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞「五色(いつついろ)のメビウス」分断とは対極の社会を 信濃毎日新聞報道部次長 牛山健一さん

                           
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私たちの報道は、外国人のキャンペーンで始まったわけではありません。新型コロナの影響で苦しんでいる人たち、命の分岐点に立っている人たちの取材をしていく中、外国人が最も歪みの影響を受けていると感じ集中した。なので全くこの問題の専門家でもなく、素人集団で始まった。だからこそ執拗に取材できたのかもしれない。
昨年の夏から秋にかけ二つの大きな出来事があった。一つは浅間山の麓、小諸市のサニーレタス畑で起きた落雷事故。なぜ雷雨の中、農作業を強いられていたのか、死亡した2人は在留期限を超えて滞在していた。それから南牧村の農家で、ベトナム人の元技能実習生と元留学生が傷つけあう傷害事件が起きた。2人は大阪市の会社が国の許可を得ずに派遣した失踪外国人だった。この会社は佐久地方のレタス、白菜の農家に、県外で失踪した技能実習生ら230人を違法に派遣していたことが判明した。若者たちはなぜ元々の職場を逃げ出し、佐久地方に送り込まれたのか疑問は膨んだ。農業だけでなく、建設、製造業、食品加工、介護、私たちの便利な暮らし、手ごろで新鮮な食べ物、高齢者の福祉サービスは外国人労働者の働きなくしてはありない。

新型コロナの影響による出入国制限のため海外渡航しての取材は断念した。でも、ベトナムなどの送り出す派遣会社などの関係者の証言を集め、S N Sやウェブ会議システムを使って現地への取材にも成功し、日本企業・団体への裏金やキックバック、違法な手数料の実態も明らかに。地道な従来型の取材と、ネットも使った若い記者の踏ん張りも闇を暴くことにつながった。
新たな受け入れ制度である特定技能でも、外国人が違法な手数料を支払わされている実態を突き止めた。新型コロナウイルスに感染した外国人住民の苦労、入管法の改悪問題についても早くから取り上げてきた。
「五色(いつついろ)のメビウス」はどういう意味か。五色には多種多様の意味がある。五大陸をイメージし世界の意味を込めた。表が裏になり、裏が表になるメビウスの輪。循環するイメージから無限の可能性も意味する。私たちと世界の関係も同じ、多様な国々をルーツとする人々と一緒に築く社会、分断とは対極の社会を目指したい。少しでも近づけるよう引き続き、掘り下げて伝えていきたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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2021年11月16日

【21年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞『ルポ入管』行政の透明性の向上を 共同通信記者・平野雄吾さん

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    平野さんはエルサレム支局長のためビデオメッセージによるスピーチだった

 難民申請者や在留資格のない外国人を無期限に拘束する入管施設を私が初めて訪れたのは、2017年秋でした。その年の春までカイロ支局で勤務し、ヨーロッパで難民の取材をしていたため帰国後、日本では難民はどういう暮らしをしているのだろうと思ったのが取材のきっかけでした。茨城県牛久市の東日本入国管理センターの面会室で、約2年半で体重が80`から35`に減ったと話す、車椅子姿のパキスタン人に会い、ここで何か大変なことが起きていると直感した。それ以降、牛久入管や品川の 東京入管、時には大阪入管や長崎県の大村入国管理センターにも足を運びました。
 そして職員による暴力、暴言、監禁、懲罰、医療放置など信じがたい実態が収容者の話から出てきました。約2年間の取材・執筆過程で強く感じたのは入管施設の透明性の欠如という問題でした。
 図らずも、私が入管問題に没頭していた18年から20年の間に社会的に大きな問題となったのは、森友や加計、学術会議の問題でした。これらに共通するのは透明性や公平性の欠如です。多くの国民から反発が生まれたのは透明性や公平性が民主主義社会の基盤であり、これを放置すると基盤が揺らぐと感じたからでしょう。 

 私はこの時、入管当局の対応を思い出しました。取材には保安上の理由で答えない。情報公開ではほぼ黒塗りの文書を開示。外部からの視線をシャットアウトする姿勢が入管問題の根本にあるのは間違いありません。透明性の確保は極めて重要で、国家権力の暴走を防ぐ唯一の手段になり得ると思います。
 名古屋入管でスリランカ人女性のウィシュマさんが亡くなり、入管施設では一体何が起きているのか、多くの日本人が関心を寄せはじめました。今問われているのは、公文書の保存、情報開示、行政を監督する第三者委員会、公務員の市民への公表などで透明性向上のためにどんな方法があるかです。『ルポ入管』がJCJ大賞を頂いたのは、日本ジャーナリスト会議が社会に向けて行政の透明性の向上について議論を深めようと呼びかけるメッセージではないかと私は受け止めています。その議論の一助となるよう記者として今後も努力を続けたいと改めて感じています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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