2023年03月23日

【オピニオン】日韓学生フォーラム 米軍、韓国で勝手放題 危機感受けとめ平和報道を=古川英一

                   
kan.jpg
            

「日米で煽っている『台湾有事』には沖縄を犠牲にするという発想があるのではないか」琉球新報の新垣毅報道本部長の危機感に満ちた講演で、沖縄での「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」が始まった。
 このフォーラムは日韓のジャーナリスト志望の学生たちが平和や歴史問題について共に学ぼうと、
6年前に記者などの有志が企画してスタート、JCJの会員も実行委員に加わっている。7回目の今回は1月末から4泊5日の日程で、日韓から30人あまりが参加した。韓国からは学生だけでなく「韓国記者協会」のキム・ドンフン会長も訪れた。 

期間中、沖縄の「今」と「過去」の現場として、普天間飛行場のある宜野湾市や辺野古、糸満市での遺骨収集や、沖縄戦で民間人が集団自決した読谷村のチビチリガマなどを見学し、地元で活動を続けている人や沖縄の2紙の記者などから話を聞いた。
キム会長は、2004年に米軍のヘリが墜落した沖縄国際大学で、米軍は事故直後から現場への日本側の立ち入りを一切認めなかったことなどを聞くと、「沖縄のように韓国でも米軍の事故や、元米軍基地の土壌汚染があっても、米軍の責任が問われることはなかった」と強い口調で学生たちに語った。

県民の反対を尻目に埋め立ての進む辺野古では、抗議の座り込みが続いている。そのリーダーともいえる山城博治さんが日韓の学生たちのために駆けつけてくれた。山城さんは敵基地攻撃能力を日本が持つことに対して「政府は米国と一緒に沖縄で戦争をしようとしている。勝てると思うのなら東京からミサイルを撃てばいい」と怒りを込めて語り、「記者の卵のみなさんは、この地域の平和を願う報道をしてほしい」と訴えた。
 またチビチリガマを案内してくれた知花昌一さんが戦争遺跡はきれいにするのではなく、そのまま残していくべきとしたうえで「若者は絶望してはいけない。絶望したら戦争になる。闘う人がいたら絶望にならない」と学生たちを励ました。
 沖縄の人たちの日本の軍拡政策へのヒリヒリするような危機感を、学生たちはしっかりと受けとめ、これからジャーナリストとしての一歩を踏み出す。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
   
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月27日

【オピニオン】憂慮すべき子どものスポーツ離れ=大野晃

  正月は、高校生の全国大会が集中した。新型コロナウイルス感染症の拡大防止策が緩和され、3年ぶりに正常化した大会が多かったが、ラグビーのように、部や部員不足で都道府県代表戦が行われず、不戦勝で全国大会出場権を得たケースが2県で報告された。複数校の合同チームに大勝しての出場権獲得もあった。
  少子化の深刻化に加え、コロナ禍で部活動が思うようにできず、部や部員減少が急速に進んだようだ。特徴的なのは、公立校での減少が極端に進んでいながら、私立の有力校には100人を超す部員が集中し、地域や学校の格差が顕著に拡大したことだ。

 野球やサッカーと、その他の競技の競技間格差も激しい。競技に挑戦する高校生の特殊専門化が、かつてないほどの広がりを見せ、先細りが懸念される。コロナ禍で競技に親しむ条件が極度に制限されて、気楽に、競技に取り組めなくなったことが大きな要因だろう。
 それだけ、子どもたちのスポーツ離れが進んでいる。全国高校体育連盟が、高校総体への合同チームの参加を認めるなど合同チームを容認する競技が増えたが、小手先の対策でしかない。 
 
 文科省は、教員の負担軽減のため、中学部活動の地域への移行を方針として示したが、地域の受け皿が少なく、頓挫した。1970年代に国民スポーツ振興を目指して各地の公共スポーツ施設つくりを推進した文科省が、1980年代に方針転換して、地域スポーツの主力を民間企業に任せ、商業主義的な国民スポーツ施策を後押しして、地域でのスポーツ組織つくりを放棄したため、自主的な地域スポーツが大きく制限された。

 文科省の先導で、自主的な地域スポーツを育てる環境条件が極端に劣悪化したことを忘れてはなるまい。これに沿って、地方自治体によるスポーツ振興の後退が一般化し、地方公共施設は、民間企業の運営となるとともに、高額を求められる民間企業のジムや教室が、地域スポーツの拠点化した。
  しかし、全国的に、少子化や長引く不景気が、文科省が頼りとすり民間企業の撤退や減少に拍車をかけている。 中学部活動の地域移行は、いわば、文科省が公共的な地域スポーツ振興を捨ておいて、苦し紛れに、地域に任せるというのだから、失政の責任を子どもたちに押しつけるようなものだ。
 子どもたちのスポーツ参加の極端な減少は、将来の国民のスポーツ離れを促進する危険性がある。 働く世代のスポーツ参加は、相変わらず散歩か軽い体操程度だ。 職場でのスポーツ機会は、皆無に近くなった。
 マスメディアは、商業主義的に、トップ競技者の競い合いだけに目を向けて、「スポーツの力」なるものを煽ることに専念しているが、トップ競技者を育てる基盤の危うさには沈黙を決め込んでいる。

 商業主義の暴走で、色あせたオリンピックの再生すら課題にはしていない。文科省、スポーツ庁、そして何にでも沈黙する日本オリンピック委員会、日本スポーツ協会、さらに商業主義的利益しか眼中にない地方自治体の沈黙。
 そして、公共スポーツ組織への批判を回避して、商業主義的利益にまい進するマスメディアの逃避。 これでは、日本スポーツは減退するばかりだろう。
 日本人から、スポーツに親しむ豊かな生活を奪う動きに違いない
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月25日

【オピニオン】統一教会追及、監視を メディアは改めて奮起を=河野慎二

  統一教会の被害者救済をうたった「被害者救済」新法が12月10日、会期末の国会で成立した。
与野党間では、マインドコントロール下での献金の禁止を主張する野党と、勧誘側に「当事者の自由意思を抑圧しないようにする」ことを「配慮義務」にとどめる政府の主張が対立、配慮義務の規定に「十分に」と文言を追加することで与野党が妥協した。
 だが、全国霊感商法対策弁護士連絡会は「配慮義務では『配慮した』との言い逃れが可能。『十分に』と修正しても効果は乏しいのでは」と危惧する。それは、今回の法律が、寄付(献金)の規制であり、統一教会問題の本質である、正体を隠した伝道によって引き起こされたさまざまな人権侵害などの被害を防げないからだ。

 16日法務省が公表した政府から日本司法支援センター(法テラス)に移管した霊感商法など宗教問題の窓口に寄せられた被害相談は、運用開始の11月14日から月末までの半月で428件の相談があり、統一教会関係は約4割の172件。「金銭トラブル」が最も多く6割を占めた。それ以外では「心の悩み」が14%、「親族関係」が11%と続き、養子縁組に関する相談もあったという。

 統一教会問題で政府は関係省庁連絡会議を設け、9月5日に合同電話相談窓口を開設。同月28日までに2251件の相談が殺到。22日時点の1952件について9月末に公表した分析資料によれば統一教会がらみの被害相談は1317件で、その7割が「金銭トラブル」。相談者の寄付(献金)の支出期間でもっとも多かったのは20年以上の37%。2〜5年の7%とあわせ5年以内は25%に達し、「1年以内」との回答も18%を占めた。
 「祝福結婚や先祖解怨といった名目で10年にわたり10万程度〜数百万円の献金を多数繰り返したが取り戻せるか」「家族がこれまで1億円を超えて献金し借金で自己破産した」などの訴えは、統一教会が、メディアの統一教会追及が低迷したのをいいことに「悪行」を重ねてきた事実を物語る。

 シンポ「統一教会の実像に迫る」(本紙11月号で既報)で藤森研氏が「統一教会の悪行は、まだ全然解明されていない。組織を持っているところは、韓国に取材に行って調べることが出来る。もっと調査報道をやらないと、社会的責任を果たせない」と指摘し、大手メディアに奮起を促した。
 その「空白の30年」に統一教会は国政、地方政治にも浸透。鈴木エイト氏は「(教団との)関係を断つ」と表明している自民党への監視報道の継続を求め、金平茂紀氏は「国会は機能せず、統一教会の本質的な問題がおざなりに扱われていると警鐘を鳴らした。メディアには反省と改めて奮起が問われている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月20日

【オピニオン】有識者会議に読売、現役幹部と日経顧問 問われるメディアの姿勢 専守防衛➡軍事国家に大転換=編集部

 防衛費GNP2%、「敵基地攻撃能力」整備、軍需産業育成…、立て続きにニュースが流れ、軍事増額・強化路線が本格始動している。

メディア取り込み

 この「流れ」のスタートとなった首相の諮問機関「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の顔ぶれは、マスコミ3、金融2、技術系学者2、それに右翼の論客、元駐米大使という構成だ。初めから「防衛力増強」を目指し、メディアを巻き込み、世論操作を狙っていたことが露骨に見て取れる。
 メディアから参加したのは、朝日新聞の元主筆で「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の代表・船橋洋一氏のほか読売新聞グループ本社代表取締役社長・山口寿一氏、日本経済新聞顧問で日本経済研究センター代表理事・会長の喜多恒雄氏。船橋氏は退職してからも発言している言論人だが、他の二人は現役の役員だ。
 政府の審議会や諮問機関に専門の新聞記者がその知識や識見を買われ参加することには、古くからの議論がある。
 「専門性を発揮して政府に働きかけるのも責任だ」などと言われる一方で、審議会などへの参加は、その結論がいかにも社会的に公正で妥当だ、だと見せかけるための道具にしかされていない、という意見が根強くあるからだ。

内実に問題あり

 政府機関については「国語審議会でも参加すべきではない」という主張もある。まして国論を2分3分する防衛問題では一層問題だ。しかもこの有識者会議の議論については発言要旨は発表されたが個人名は伏せられている。
 そもそもこの「会議」は、防衛力を単に軍備でみるだけでなく、総合的な経済・社会体制の中に位置づけ、「総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方」を検討するとうたっている。しかし、その内実は防衛力についての憲法上の位置や、外交による紛争解決の準備についての議論等は一切抜きの会合でしかない。

言いっぱなし会議

 はじめから憲法論抜き、財政論抜き、外交論も抜き,という組織で、その成り立ちも実は何の「権威づけ」もないままという代物だ。
 有識者会議は9月30日、10月20日、11月9日の3回討議、11月21日には報告書がまとめられた。 報告書は、日本周辺が「厳しい安全保障環境」にある、ということを口実に、@相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有A軍事力強化の財源として「国民負担」の必要性B5年以内に防衛力を抜本的に強化する―との方向性を打ち出した。さらに、米国の核戦力を含めた「拡大抑止」や、自衛隊基地の共同使用など日米の「共同対処能力」の強化をうたっている。
  今回の提言では、このために縦割りをなくはした総合的の防衛体制の強化が必要だとして、@研究開発A港湾などの公共インフラBサイバー安全保障―について、連携強化を主張している。


問題をそらす

 この状況にメディアの社説は、読売、産経などを除いた各紙が「倍増ありき再考求める」(東京30日)、「規模ありき理解得られぬ」(神戸2日)「専守防衛の空洞化は許せぬ」(朝日2日)、「専守防衛の形骸化憂う」(東京3日)、「専守防衛の形骸化を招く」(毎日3日)など、岸田政権が唐突に打ち出してきた軍拡推進政策に対して、一応は批判的な主張を展開した。
  しかしそのメディアも政府・自民党側が「増税か」「国債か」と財源問題に焦点をそらし、軍拡そのものの目的や危険性について棚上げしようとしている状況に対しては、見て見ぬふりで無抵抗だ。
 軍需産業育成から、サイバー攻撃まで網羅するという公然化した「軍事国家づくり」は専守防衛はおろか、戦後の日本が積み重ねてきた憲法に基づく非戦「平和主義」を根底から打ち捨てることに他ならない。日本のジャーナリズムはこれでいのだろうか。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月17日

【オピニオン】院内緊急集会 マイナンバーカード 取得の義務化は違法 健康保険証と一体化に反対 医療情報の漏洩心配=小石勝朗(ライター)

 河野太郎デジタル相が10月に突然打ち出した「24年秋の健康保険証廃止」に反対する動きが活発になっている。政府は国民のほぼ全員が持つ保険証をマイナンバーカードと一体化し、カードを半強制的に取得させようと目論む。強引な進め方への批判とともに、医療情報の取り扱いへの危機感が募る。
 「そもそもカードの取得を強制することは法律違反」「法治国家としてあり得ない暴挙だ」
 11月17日と21日に国会議員会館で開かれた反対集会には怒りの声が渦巻いた。開業医らが加入する全国保険医団体連合会や日本弁護士連合会(日弁連)などが主催した。

 マイナンバー法は「申請に基づきカードを発行する」と定める。「強制」や「義務」ではないと政府も国会で明言してきた。健康保険料を払っている人が保険診療を受けるのは当然の権利。任意であるカードを取得していないという理由だけで受診に不利益が生じれば、人命にもかかわる重大な人権侵害だ。
 6月に閣議決定された骨太方針も、保険証を廃止する場合でも「申請があれば保険証は交付される」と明記している。
 さすがに岸田文雄首相も河野発言のわずか11日後に、カードを持たない人が保険診療を受けられるよう「新たな制度を用意する」と国会で答弁した。集会では「新制度をつくるくらいなら今の保険証を存続させれば良いだけの話で予算の無駄遣いだ」と非難された。
 「政府はマイナンバーカードを取らせようと脅しをかけている」との見立てにも共感が集まった。カード取得などへの最大2万円分のポイント付与に1兆8千億円もの予算を組んだのに、取得率は5割強。来年3月までに全国民所持との目標達成は不可能だからだ。

 その意味でマスコミが河野発言を「事実上のカード取得義務化」と報じたのは政府の思うつぼだった。義務化は違法で法改定のハードルも相当高いと分かっているからこそ、政府は「カードを取らないと保険診療が受けられなくなる」というムードを広げようとしているのだから。

 保険証を発行する保険者は集会で、マイナンバーカードには健保の連絡先が記されていないので届け出・申請に漏れや遅れが起きることを不安視した。子どもが修学旅行に保険証としてカードを持参するようになれば紛失が心配される、といった問題点も指摘した。
 保険証廃止に先立ち、医療機関と薬局に対してマイナンバーカードを保険証として使う「オンライン資格確認」のための設備設置が来年4月に義務化される。だが、すでに導入した診療所では患者の利用がほとんどない、との報告もあった。

 むしろ懸念されるのは医療情報の漏洩だ。院内の電子カルテとつながる新システムは診療時間中、外部と回線で接続するので、サイバー攻撃に遭う危険が高まるのだ。機器管理の負担も重く、廃業を考えている高齢の開業医もいるそうだ。
 実は6月の骨太方針には「全国医療情報プラットホームの創設」が盛り込まれている。電子カルテ、電子処方箋などの医療情報を収集して一元管理し、民間もデータを利活用できるようにする構想だ。その基盤にされるのが今回の保険資格確認システムである。危うい企みが仕込まれている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年12月24日

【オピニオン】軍拡の大前提=「脅威」は本当に存在するのか―いまメディアが真っ先に問うべきことは── 梅田正己(歴史研究者・JCJ会員)

日本の防衛費をGDP2%へ一挙倍増すべきだという安倍元首相の遺言≠ェいつの間にか既成事実化されて、いまや自民党内では増税を含む財源問題が中心議題となっている。マスメディアの報道や論調も、防衛力の強化を前提としたものとなっている。たとえば安保政策を大転換した閣議決定翌日の12月17日の朝日新聞の社説はこう書き出されていた。
「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実で、着実な防衛力の整備が必要なことは理解できる。」
 この認識は今回の政府の「国家安全保障戦略」の大前提となる情勢認識と共通している。同「戦略」にもこう書かれていた。「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。」
 しかし、本当にそうなのだろうか。いまこの国は、安保政策を大転換し、防衛費を一挙に倍増し、防衛力を飛躍的に増強しなければならないような危機的状況に直面しているのだろうか。事実にそくして状況を観察・点検し、この国がはたして「戦後最大の軍事的危機」に直面しているのかどうか、政府の主張を検証してみる必要がある。政府の「国家安全保障戦略」で具体的に示されている「脅威」とは、次の3つである。

1)中国の動向――「我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」
2)北朝鮮の動向――「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」
3)ロシアの動向――「ウクライナ侵略によって国際秩序の根幹を揺るがし、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」

 こうした脅威・懸念への対抗措置として、政府は敵基地攻撃能力をふくむ戦後最大の防衛戦略の大転換、軍備の大増強を実行するというのである。しかし本当にこうした脅威が実在するのだろうか。

◆ロシアは本当に「脅威」なのか
 まずウクライナ侵攻によって、戦争の悲惨さを私たちに伝え、震撼させたプーチンのロシアから考えてみよう。ロシアが実際に日本にも侵攻してくるような脅威となる存在なのか――。
 現代世界においては、どんな国であっても、何の理由もなしに他国に侵攻するということはあり得ない。
 今回のウクライナ侵攻も、基本的にはプーチンの大スラブ主義(大ロシア主義)の野望が生み出したものであり、ロシア語を話す人々がロシアと国境を接するウクライナ東南部に住んでいることを口実として実行された。またロシアによる過去の侵略行為も、フィンランドをはじめバルト3国、ポーランドなどすべて国境線を踏み破って行われた。
 それに対し、日本は海によってロシアと隔てられている。またロシアが日本と敵対する理由も事情もない。過去の冷戦時代には、宗谷海峡を渡ってソ連が攻めてくるという話が喧伝され、そのため自衛隊は持てる戦車の半数を北海道に配備したが、やがて冷戦が終わり、軍事的な見地からもそんな作戦行動はあり得ないことが暴露され、日米合作のフィクションだったとして抹消された。
 いかにプーチンといえども、ロシアが日本に侵攻する理由も口実もないのである。「ロシアによる軍事侵攻の脅威」は現実にはまったく成りたたない。 

◆北朝鮮は本当に「脅威」なのか
 次に北朝鮮による「脅威」についてはどうか。その根拠とされるのは、北朝鮮による相次ぐミサイル発射である。とくに日本列島を飛び越す長射程のミサイルが、四半世紀前のテポドン以来、日本に対する脅威として喧伝されてきた。たとえば10月4日朝、日本列島を越え、太平洋はるか沖の東方海上に落下したミサイルは、「Jアラート」によりテレビ放送を1時間近く中断させて国民を不安がらせた。
 しかし、「火星17号」と推測されるそのミサイルは、人工衛星よりもなお高い宇宙空間を平均マッハ4の速さで飛び去ったのであり、「Jアラート」などとはおよそ次元を異にする飛行物体だった。ではなぜ、北朝鮮はミサイル発射実験に固執するのか。理由は、米大陸に到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させたいからである。
 北朝鮮は、米国とはいまなお潜在的交戦状態にある。なぜなら70年前に金日成と米軍の司令官とが調印したのは休戦条約であって、平和条約ではないからである。潜在的交戦状態にあるからこそ、米国は韓国に広大な空軍と陸軍の基地を配置し、毎年、北朝鮮の目の前で、北側海岸への上陸作戦を含む韓国軍との合同演習を威嚇的に実施している。
 北朝鮮は米国との敵対関係を解消し、国際的な経済制裁を解除させて、経済復興にとりくみたい。そのためには、何としても米国と直接交渉をする必要がある。
 そこで2006年の米中ロ韓日との6カ国会議の場でも必死に米国と交渉したし、トランプ前大統領とも3度にわたって会談した。しかし、いずれも寸前のところで米国は身をかわし、交渉は不発に終わっている。

 かくなる上は、米国を、身をかわせなくなる状況にまで追い込むしか方法はない。すなわち、核弾頭を装備したICBMを振りかざすことによって、米国にたいし休戦条約にかわる平和条約の締結を迫るしかない。これがいわば、北朝鮮に残された、彼らが考える最後の生き残り策なのである。したがって、ミサイル発射実験も核実験も、相手国はただ一つ、米国なのである。日本などは眼中にない。
 北朝鮮が日本に対して求めているのは、35年間にわたる植民地支配に対する謙虚な反省と代償であり、かつて日本政府が韓国に対して行なったのと同種の経済協力なのである。
 そしてそのことは、2002年の「日朝平壌宣言」で金正日と小泉純一郎、当時の両国首脳が約束し合っている。日朝国交回復ができれば、それは実現に向かう。その日本に対して、北朝鮮がミサイルを撃ち込んでくることなどあろうわけがない。それは人が自家に火を放つようなものだからである。
 それなのに、自公政権は北朝鮮の現状を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と決めつけ、大軍拡に向かって突進のスタートを切ろうとしている。「Jアラート」によって国民の危機感をあおったのと同様、これもフェイクである。

◆中国は本当に「脅威」なのか
 最後は、「中国の脅威」である。政府の国家安全保障戦略はそれを「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と規定した。近年、中国はたしかに軍事力の強化を急ぎ、南シナ海を力ずくで内海化しようとしている。台湾に対しては8月のペロシ米下院議長の訪台を牽制するためミサイルを連続発射し、その一つが与那国島のEEZの端に着弾した。
 しかし習近平国家主席が実際に台湾に軍事侵攻するなんてことがあるだろうか。もしそれを敢行すれば、いまのロシアがそうであるように、中国は世界中から批判・非難にさらされるに決まっているのに。今日、中国が日本を抜いて米国に次ぐ経済大国となったのは、改革開放政策により国際経済のグラウンドに躍り出て世界の工場≠ニなったことによる。
 バイデン大統領はこの10月に発表した国家安全保障戦略で、中国を「唯一の競争相手」としながらも、両国は「相互依存関係にあり、米国を含む諸外国との共有の利益を享受している」と述べた。実際、米中の昨年の貿易額は輸出入とも前年の3割前後も伸び、過去最高を記録している。
 台湾の国民世論は民進党、国民党ともに圧倒的に現状維持を望んでいる。また台湾はいまや半導体の供給では世界をダントツでリードする先進国だ。その台湾を軍事力で暴力的にねじ伏せられるわけはない。
 経済関係の重要性は、日中間でも同じである。07年以降、日本にとって中国は最大の貿易国であり、日本の対中依存度は高い。中国国内に拠点を置く日系企業は3万を数え、そこには10万人の日本人が生活している。
 さる11月17日、バンコクで岸田首相は習近平氏と初めて対面で会談したが、その席で習氏はこう語った。
「アジアと世界の重要な国家として、われわれには多くの共同利益がある。中日関係の重要性は変わらないだろう。新時代の要請に沿った中日関係を構築していきたい。」(朝日、11.18付)
 経済面に重点を置けば、この発言は額面どおりに受け取ってよいだろう。日中間に、尖閣諸島をめぐる問題はたしかに存在する。しかしこうした問題こそ、外交力によって解決すべきではないか。21世紀の今日、無人島の岩礁をめぐってGNP2位と3位の大国同士が軍事力で争うなんて愚か極まりない対応である。

 ところが、この正気の沙汰とは思えない対応を、日本政府は目下、実行に移そうとしている。奄美大島から沖縄本島、宮古島、石垣島、そして与那国島までの南西諸島に、防衛省はミサイル基地、弾薬庫、沿岸監視基地を配備した。沖縄本島にはすでに空自部隊を増強した上に、陸自の第15旅団を実質2倍の「師団」に格上げして増強しようとしている。
 自衛隊は、佐世保に駐屯する「日本版海兵隊」の水陸機動団を中心に、時に米軍とも共同で上陸演習を何度も行なってきた。敵軍に占領された島嶼を、奪回するための上陸演習である。その敵国軍とは、地理を見ても中国軍以外には考えられない。
 「鉄の暴風」によって地形が変わるほどに破壊され、県民の4人に1人が命を奪われた沖縄戦を、戦争体験者がまだ多数生存しているのに、この国の政府は沖縄を戦場に再び戦うための予行演習を続けているのである。
 沖縄戦の歴史的事実を知る人たちは、そのおぞましい光景を、息をのんで見つめている。

◆コモンセンス(常識)で判断しよう
 以上、市民的なコモンセンス(常識)を判断基準として、日本が直面しているとされる「脅威」の実態を検証してきた。私は軍事や国際政治の専門家ではない一ジャーナリスト(書籍編集者)にすぎないが、考えてみればあまりに非常識なことが多すぎる。
 たとえば今回の軍拡の柱とされている「敵基地攻撃能力」である。政府はこれを「反撃能力」とあいまいに一般化しているが、長射程ミサイル(トマホークは1500キロ先まで狙える)を使って相手国を攻撃することに変わりはない。
 では、いつ、どんなときにミサイルを発射するのか。相手国が日本に対する攻撃に「着手」したときだという。しかし、その「着手」の瞬間をどうやってキャッチするのか。それは誰にもわかりません、とおっしゃる。そんなあいまいさを残したまま、トマホーク500発(?)を購入するというのである。
 それでもまあ「着手」の瞬間をキャッチできたと仮定しよう。ではその「反撃」によって、相手国の戦意を打ち砕き、停戦に持ち込めるだろうか。もちろんそれはあり得ない。仮にその「敵基地」を粉砕できたとしても、相手国の「基地」は当然何か所にもわたって配置されている。日本国の「反撃」は逆に「先制攻撃」だとされ、相手国の戦意を誘発して激しい攻撃を招くことになるだろう。
 では、相手国から先に攻撃されたときはどうか。「反撃能力」を持つ自衛隊は、その「能力」を発揮することになる。つまり、相手国の基地をはじめ都市や発電所などのインフラにミサイルを撃ち込むことになる。いま現在、プーチンのロシア軍がウクライナに対して行なっているように!

 いずれにしろ、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の行使は、日本を相手国との全面戦争に引き込むことにほかならない。その危険をあえて冒すために、岸田内閣は大軍拡に踏み込もうとしているのである。いや、「敵基地攻撃能力」は実際にそれを実行するために持つのではない、もしも攻撃してきたら痛い目にあうぞと威嚇して、相手国の攻撃を「抑止」するために軍備を強化するのだ、という意見もある。「核抑止論」にも共通する「軍拡抑止論」である。
 しかし攻撃力(軍事力)というものは、あくまで相対的なものである。一方が軍備を強化すれば、対抗する側もそれに負けまいと軍備を増強する。かつて日本の敗戦で終わった第二次世界大戦の前段がそうだったし、現在の米国と中国との関係がそうである。
 つまり軍拡には終わりがない。5年間で43兆円の軍事費を注ぎ込んだところで、それで安心ということにはならない。時がたてば、次は60兆円、80兆円ということになる。「軍拡抑止論」のジレンマである。

 先日(12月17、18日)行なわれた朝日新聞の全国世論調査では、敵基地攻撃能力の保有について、男性は「賛成」が66%で「反対」が29%、女性は「賛成」「反対」がともに47%だったという。年代別にみると、18〜29歳の若い層が最も高く、70歳以上が最も低かったという。
 「敵基地攻撃能力」なるもののいい加減さとあいまいさ、そこに内在する致命的な危険性については先に見た。にもかかわらず、これほど高い賛成率だったというのは、その実体がよく知られていないことを示しているとしか思われない。ということは、マスメディアが、その実体を深く解明し、伝えていないからに違いない。つまり、マスメディアの社会的役割の放棄である。
 国民世論は、正しい知識とまともな情勢認識によって形成されなければならない。そのための「知る権利」に奉仕するのがマスメディアの役目である。いま私は、マスメディアに、何をおいても近隣諸国「脅威論」のデマゴギーを検証してほしいと思う。(2022年12月20日、記)
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月20日

【オピニオン】記者守らぬ朝日に疑問 映画「標的」全国上映会=山田寿彦

 元日本軍慰安婦が名乗り出た記事を巡り、「捏造記者」と激しいバッシングを浴びた元朝日新聞記者、植村隆さんの闘いを記録したドキュメンタリー映画『標的』(西嶋真司監督、99分)が全国各地で上映されている。朝日新聞社は検証紙面で「捏造」を否定しただけで、植村さんの闘いを支援する姿勢を全く示さなかった。映画に、それを問う視点が欠けていることが惜しまれる。

 戦後、朝日は社史に汚点を残した記事捏造を2回犯している。伊藤律架空会見記(1950年)とサンゴ記事捏造事件(1989年)で、朝記者の名は今や忘れ去られている。だが、植村バッシングでは執筆した記者個人が「捏造」の事実がないのに執拗に「標的」とされ、勤務先(北星学園大学)や家族までもが「標的」とされた。矢面に立つべき朝日新聞「社」は最後まで後ろに隠れ続けた。
 映画に、植村さんの名誉棄損訴訟の被告の一人でジャーナリストの櫻井よしこ氏の記者会見シーンがある。「植村さんに取材しなかったのはなぜか」と問われた櫻井氏はこう答えている。
 「朝日新聞に取材を申し入れたら、木で鼻をくくった回答しかなかった。だから植村さんへの取材はしなかった」
 新聞社は朝日に限らず、自身が取材対象になると、「紙面がすべて」という常套句で説明責任を回避する体質がある。朝日は検証紙面で「女子挺身隊」と「従軍慰安婦」の混同を訂正、植村さんの記事を「事実のねじ曲げない」と結論付けた。説明はしないという朝日の姿勢に驚きはない。しかし、自社の記事が「捏造」と誹謗された責任を記者個人に負わせ続けた朝日新聞「社」の卑劣さは歴史に刻まれるべきだろう。
 バッシングの理不尽が知られ、反応した新聞・テレビは名誉棄損訴訟に転じて以降は冷淡になっていく。
北海道での『標的』連続上映会に先立つ6月7日、道政記者クラブ(加盟29社)で事前レクチャーがあった。道政記者クラブ(加盟29社)であった。だが取材に現れたのは朝日の記者1人だけだった。
 朝日は告知記事に続き、「(慰安婦と告白した女性が)強制的に連行されたという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載」だったとして「その部分は誤りとして訂正した」と、植村さんが訂正が必要な「誤報」を書いたとも読める注釈≠わざわざ付けた。
 経過の詳細を忘れたか知らない読者が、これをどう受け止めただろうか。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月11日

【オピニオン】夢洲カジノできれば 大阪が壊れる カギは「国際競争力」 公的負担は青天井 汚染・沈下対策も不備=桜田照雄さん寄稿

                              
桜田 画像 2017年秋.jpg
  
 安倍・菅政権下でなりふりかまわず喧伝されたカジノを柱とする統合型リゾート(IR)誘致計画は、大本命と目された横浜市の撤退に続き和歌山も断念。公式に誘致を表明しているのは維新が力を入れている大阪府・市の夢洲と長崎県の2地域だけとなった。政府方針の「最大3カ所」に収まる形になったが、世界で猛威をふるうコロナ禍でIR環境も一変した。コロナ以前に夢見た計画と経済効果が見込める保証はなく問題は山積だ。JCJ関西支部の要請で桜田照雄・阪南大学教授に寄稿いただいた。

 大阪府市では、オリックスとMGMリゾーツとの合弁会社である大阪IR社との間で、「基本協定」が2月15日に締結され、事業計画となる「区域整備計画」が公表され、4月26日、国への認定申請が行われました。
 「区域整備計画」は、「国際競争力の高い魅力あるIR施設でなければ、区域整備計画の認定を行わない」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)ので、「国際競争力」がカギです。

誘客競争には勝ち抜けない
 オリックスの責任者が「日本人客だけでも採算がとれる」と大阪市会の参考人質疑で回答したように、6400台のゲームマシンを24時間365日フル稼働させて5000億円近い粗利益を生み出す計画では、韓国やカンボジア、フィリピン、マカオとの誘客競争に勝ち抜くことはできないでしょう。「国際競争力の高い魅力ある」施設からは、ほど遠い施設になりそうです。
 また「国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設と収益面での原動力となるカジノ施設とが一体的に運営され、これまでにないような国際的な会議ビジネス等を展開し、新たなビジネスの起爆剤となり、また、世界に向けて日本の魅力を発信する、まさに総合的なリゾート施設であり、観光や地域振興、雇用創出といった大きな効果が見込まれるもの」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)でなければ、首相答弁との整合性がとれません。
 もっとも、カジノと「一体的に運営」され、「家族で楽しめるエンターテイメント施設」というコンセプトは、容易に実現できそうにはありません。世界の国のどこにも、そのような施設は生まれていませんし、エンターテイメントのコンテンツはある特定のターゲットに狙いを絞ったものがほとんどで、世代を超えて楽しめるコンテンツは存在していません。

法の想定とは矛盾する計画
 このように、計画が具体化されればされるほど、カジノ実施法の想定内容と現実の計画との矛盾があらわになっています。よほどの詭弁を弄しなければ、カジノ実施法の定めをクリアーすることは困難になってきています。

汚染物質含みの土砂で造成
 夢洲のある大阪湾は「洪積層地盤が沈下する世界でも稀な地盤」(故赤井浩一京大名誉教授)です。この地盤・地質問題がカジノ誘致の最大の障害として立ち現れています。
 夢洲の護岸設計は高層建築物を想定していません。したがって、護岸の強化工事が必要になります。万博会場にも使われる夢洲1区は1000万トンを超える焼却灰−ダイオキシンの巣と表現される−を素材に造成されました。カジノ・万博用地とされる夢洲2区・3区は、建設残土と浚渫土砂から造成されています。浚渫土砂の主たる供給源は、大阪市内河川に垂れ流されてきた汚染物質にまみれた川底土砂なのです。

有害汚水の処理施設なし
 行政は、浚渫土砂は海防法(海洋汚染等および海上災害の防止に関する法律,1971年)にしたがって処理してきたといいます。しかしながら、海防法は「浚渫土砂を造成へ有効利用を図る場合、浚渫土砂は造成のための『材料』であり、海防法の廃棄物の定義『人が不要とした物をいう』に該当せず(環境大臣の)許可申請の対象とはならない」と定めています。
 つまり、1987年の埋立開始から、土壌汚染対策法にもとづく環境基準が設定される2006年まで、法の網の目が及ばない環境規制だったのです。また、有害物質を含んだ土壌と雨水による汚染水を処理する施設すら、夢洲2区・3区にはありません。

事業者判断で撤退可能とは
 カジノ事業者が事業を断念する条件の一つに、地盤沈下対策があります。基本協定書には、「設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれに限らない)が生じていないこと、又は、生じるおそれがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者は、……(中略)……適切な措置を講じること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な対策の費用の負担も含むものとする」とあります。
 稀な地盤・規制の不備・沈下対策。万全の対策をとらないかぎり夢洲カジノは実現しません。実現すれば、その後の開発にお墨付きが与えられます。とはいえ、対策費は青天井となるでしょう。最後に、事業の実施が困難だと事業者が判断すれば撤退できる。基本協定書はそう語っています。国はこんな杜撰な計画を認めてはなりません。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月28日

【オピニオン】露「ウクライナ侵攻」に便乗 改憲、核武装の世論づくり 迫られる「平和」守る覚悟=丸山重威

 ロシアのウクライナ侵攻に便乗して、日本の右翼・軍拡勢力が、改憲と核武装を主張する世論づくりに躍起だ。安倍元首相の「核共有論」や、国家基本問題研究所(櫻井よし子理事長)の「9条で国は守れるのか」の「意見広告」はその代表だ。

 核「威嚇」利用し
 核武装の検討主張


 プーチン露大統領は2月24日、「ウクライナの現政権に虐待された人々を保護し、同国を脱ナチス化するために、軍事作戦の実行を決めた」と発表したが、併せて「現代のロシアは、世界でも最も強力な核保有国の一つ」「ロシアへの直接の攻撃は侵略者の壊滅と悲惨な結果につながる」と、核兵器で威嚇した。
 国際的にも批判が高まった「核威嚇」発言だが最初に「便乗」したのが安倍晋三元首相。27日午前のフジテレビで、米国の核兵器を自国領土内に配備・運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)を日本でも議論すべきだ」と述べた。 「日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核三原則があるが、世界はどのように安全が守られているか、議論していくことをタブー視してはならない」とも。早速産経新聞3月1日付主張が「国民守る議論を封じるな」と追随、「文芸春秋」5月号は、安倍氏のほか、E・トッド氏の論文「日本は核武装を」を掲載。特集を組んだ。

 「国を守れない」と
 憲法九条でを攻撃


 もうひとつ、目立つのが、「9条では国を守れない」という「憲法9条攻撃論」。3月13日の自民党大会で岸田文雄首相は、ウクライナ侵略をあげ、「防衛力の強化と党是の改憲の実行に取り組む」「そのための力を得る闘いが参院選」と主張した。自民党は「憲法改正推進本部」を「実現本部」に変更、全国で集会を開いて国民世論を喚起する方針だ。
ロシアの侵略を「だから軍隊を持って対抗しないといけない」とみるか「軍事力の強化は軍事対決・挑発を激化させる。非武装・不戦の九条の意議はますます大きい」とみるか―。九条の会は2月25日「ウクライナ侵略とそれを口実にした9条破壊、改憲は許さない」と声明した。

 九条の会「声明」
 不戦の意義広める


 自民党は、この春、憲法審査会の毎週開催を主張し。実際にこれが進んだ。衆院憲法審査会の新藤義孝自民党幹事は、4月10日、フジテレビで、「憲法9条の最大の問題は国防規定がないことだ」と主張。「この議論は憲法審査会でぜひやりたい。安全保障に対する議論はこれから…」と述べ、動き出した。
 世界が武力で対立する中で、日本が不戦・非武装を貫き、平和と安全を守るか。ウクライナ問題は、その「覚悟」を日本人自身に迫っている。
  丸山重威
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
  
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月15日

【オピニオン】北京冬季五輪 近代五輪の限界露呈 内向き報道見直しを=徳山喜雄

                          
北京五輪.jpg

 政治的な思惑がむきだしとなった北京冬季五輪が閉幕した(2月4〜20日)。新疆ウイグル自治区の少数民族への人権抑圧など問題を抱える開催で、米国や英国、カナダなどは政府当局者を派遣しない外交ボイコットに踏み切った。開会式では習近平国家主席と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長がともに姿をみせ、ロシアのプーチン大統領をはじめカザフスタンのトカエフ大統領、サウジアラビアのムハンマド皇太子ら強権国家の首脳らが並んだ。
 1980年モスクワ五輪はソ連のアフガニスタン侵攻で西側諸国がボイコットし、次の84年ロサンゼルス五輪は報復措置として東側諸国がボイコットした。今回、プーチン大統領は五輪後まもなく、ウクライナへの侵攻をはじめ、核兵器の使用さえちらつかせた。冷戦時代さながらの光景がみられるとともに、近代五輪の限界が露呈した。
一方、日本メディアは自国選手の活躍ばかりに焦点をあて、外国勢の動きをほとんど伝えていない。こうした内向きの五輪報道では、スポーツの素晴らしさや楽しさが十分に伝えられていないという印象を強くもった。

失格泣き崩れる
ジャンプの高梨


 北京は夏季と冬季の五輪を開催する初めての都市となり、これを推進した習主席が開会式で称えられるなど、長期政権に向けての徹底的な五輪の政治利用が浮き彫りとなった。聖火リレーの最終走者にはウイグル族の女性選手が起用され、ここでも政治色の濃い演出が際立った。
 昨夏の東京五輪のように、難易度の高い技に挑戦し失敗した選手を称え、ライバル選手らが抱き合うという感動的なシーンもみられた。しかし、競技のルールや判定をめぐって異例ともいえるトラブルも相次いだ。
 たとえば、スキージャンプで高梨沙羅ら4カ国5人の女子選手がジャンプ後に、スーツサイズの規定違反の判定を受け、失格になった。高梨の場合、スーツの両太ももの部分が規定より2センチ大きいとされたが、2日前の競技でも同じスーツを着ており、問題になっていない。
両手で顔を覆って泣き崩れる高梨の姿がテレビに映しだされたが、見てられなかった。日本メディアは事実関係を伝えるだけで、判定の問題点を強く主張することがなかった。報道のありようを再考してほしい。
 IOCの振る舞いは相変わらず不可解だ。バッハ会長は、張高麗前副首相から性的関係を強要された後に不倫関係にあったと告白した元テニス選手の彭帥さんと会食し、競技をともに観戦した。彭さんは昨年11月、SNSに前副首相との関係を記載したが、直後に削除され一時消息不明になり、物議をかもした。
 彭さんは冬季五輪の選手ではない。ここでなぜバッハ会長がでてくるのか。中国当局による彭さんへの行動制限や脅迫などの疑惑を払拭することにひと役買っているようにしかみえなかった。

ワリエワの悲劇
選手を使い捨て


 ドーピング問題はあとをたたない。国威発揚のための道具として使い、有能な選手を使い捨てていく光景が北京五輪でもみられた。フィギュアスケート女子の15歳のカミラ・ワリエワ(ロシアオリンピック委員会)は、悲劇的な結末を迎えることになった。
 ワリエワは団体で金メダルになったが、五輪前の大会で採取した検体から禁止薬物が検出され、IOCなどは暫定的な資格停止処分とした。しかし、16歳未満の選手が「要保護者」にあたるとの世界反ドーピング機関の規定があり、スポーツ仲裁裁判所は引き続き出場を認める裁定をした。
 これによってワリエワは女子フリーに参加。ここで非情ともいえる寒々とした光景を見た。精神的に追い詰められたワリエワは転倒を繰り返し4位に。こんな失意の選手に対し、著名な女性コーチは慰めるのではなく「なぜ、攻めの滑りをしなかったの。あきらめたの?」などと叱責する声がテレビ中継のマイクにひろわれた。
 ワリエワは赤い手袋をはめた手で顔をおおい泣き崩れていた。ジャンプの高梨が理不尽な判定に泣きつづける姿とも重なった。とりわけロシアにおいて、アスリートを使い捨ての消費財としか扱っていないことが、はっきりと見てとれた。記者会見したバッハ会長は「背筋が凍るような印象をもった」と述べている。
 国家主義による国威発揚のためのアスリートの歯車化と、商業主義による選手の商品化。宿痾ともいえる病に冒された近代五輪は、どこに向かうのだろうか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月25日

【オピニオン】名護市民が私たちに突き付けてきたもの 基地問題 決定権なき決定者 明星大学教授・熊本博之さん寄稿

                               
熊本先生.jpg
     
 辺野古新基地建設に反対する立場から立候補した岸本洋平氏を大差で破り、現職の渡具知武豊氏が二選を決めた1月の名護市長選挙。人口6万4千人ほどの地方自治体の首長選挙に多くの注目が集まったのは、もちろん、米軍普天間飛行場の移設先である辺野古があるからだ。選挙の結果は多くの新聞で一面を飾り、さまざまな論評が掲載された。かくいう私も、20年続けてきた辺野古集落でのフィールドワークに基づき、辺野古住民の立場から見た普天間基地移設問題について書いた『交差する辺野古』を勁草書房から上梓していたことから、いくつかの新聞社から取材を受け、記事を寄稿した。
 これほどまでに注目を集めたにも拘わらず、普天間基地移設問題は、実は名護市長選挙の争点ではなかった。争点になり得なかった、といったほうが正確だろう。それは政府に協調的な立場である渡具知氏が争点から外したというだけの理由ではない。そもそも名護市民は、普天間代替施設という名の新たな米軍基地を、辺野古の海を埋め立てて建設することの是非について、決定権を持っていないからだ。にも拘らず、名護市民は選挙の度に、建設への賛否を問われている。私はこの名護市民が置かれた状況を「決定権なき決定者」と呼んでいる。

止まらない計画

 なぜ決定権がないのか。それは政府が、「国防は国家の専管事項」という論理のもと、地方自治体の国防政策への関与を事実上拒絶しているからだ。そのことを名護市民は、辺野古移設が争点になった1998年の市長選挙からの24年間で、嫌というほど思い知らされた。受け入れを容認する市長が誕生したときだけ選挙結果が尊重され、反対する市長が誕生しても建設計画は止まらない。今回の選挙期間中も、土砂を積んだトラックが辺野古に向かう姿を何度も見かけた。どちらが勝っても建設は進めるという政府のメッセージだったのだろう。
 それでも名護市民は、投票に際して、普天間基地移設問題について考えざるを得なかった。なぜなら、渡具知氏が一期目の実績として掲げ、その継続を公約に挙げていた子ども医療費、学校給食費、保育費の無償化の財源は、市長が辺野古新基地の建設を容認していることに基づいて交付される米軍再編交付金だったからだ。そのため名護市民は、建設を止めることを諦めて交付金を受け取るか、止められる可能性は低くても建設を認めず、交付金も受け取らないかのどちらかを選ぶしかなかったのだ。
 そして名護市民は渡具知市政の継続を選んだ。そこからわかるのは、自分たちの生活が安定する可能性の高い選択をした市民のほうが多かったということだけだ。もちろんその決定は新基地建設を前に進めることになる。だが「止める」という選択肢がない中で出した名護市民の決定は、新基地建設を認めたということにはなるまい。決定権がないのだから、決定することもできないはずだ。

騒音は容認せず

 ではこの結果を、条件つきで受け入れを容認している辺野古区民はどう受け止めただろうか。渡具知氏の当選が確実になったあと、私は、渡具知氏を支持する区民が集まっている辺野古の公民館に向かった。渡具知支持の理由は、辺野古区の要望を聞き、政府に伝えてくれる市長だからだ。だが、公民館は静かなものだった。当選確実の瞬間も、それほど盛り上がってはいなかったという。
 辺野古の区長はその理由を「大事なのはこれからだから」と語ってくれた。辺野古の住民にとって大事なのは、安全に、安心して暮らせる環境を維持することだ。もちろんそのためには新基地の建設がなされないことが一番いいのだが、その可能性は低い。だから、建設されたあとの未来を見据えた上で、騒音の抑止などの施策の実施を、市長を通して政府に要求していく必要がある。区長が言うように、「辺野古は騒音まで容認しているわけではない」のである。

「勝者」なき選挙
 
 茂木自民党幹事長は、選挙結果を受けて「大きな勝利だ」と語ったというが、名護市民のなかに勝者は1人もいない。降りかかってくる負担を拒絶する選択肢を有権者が持たない選挙の勝者は、負担を押しつける者でしかないからだ。その意味では、名護市民、そして沖縄県民が「辺野古移設反対」の民意を何度示しても、それを顧みることなく建設を進める政府を支えてきた本土の私たちも、政府の勝利に加担していることになる。
 だから、東京を中心とするマスメディアが、沖縄での選挙に関する報道でやるべきことは、選挙結果から沖縄の人たちの意識を探ることではない。選挙によって沖縄が本土に突きつけているものを正しく受け取り、本土がやるべきことを示すことなのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
                             
名護市長選.jpg

posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月09日

【オピニオン】検査免除で致命的な感染拡大 「日米地位協定の穴」=前泊博盛

 米軍人・軍属らの日本入国時の入国管理、検疫、防疫態勢の不備が、新型コロナ「オミクロン株」感染拡大の中で国民の怒りをかっている。岸田内閣の「鎖国的」水際対策が、「日米地位協定の穴」からオミクロン株が日本に持ち込まれたからである。
 日米地位協定第九条(軍隊構成員等の出入国)で「合衆国の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用を除外される」とされている。外務省機密文書『日米地位協定の考え方』は「安保条約・地位協定の趣旨からして当然の規定(略)外国軍隊の駐留を認める限り当然のこと」と説明し、軍人、軍属、その家族は外国人の登録・管理などに関する日本法令の適用を「すべて免除される」と強調している。この「九条の穴」からオミクロン株は日本に一気に入り込んできた。
  世界最大級の感染大国アメリカでは、一日で百万人を超えるオミクロン株のパンデミックが昨年秋から始まっていた。しかし、米軍は日本など海外赴任や移動時の入国前PCR検査や抗原定性検査を、ワクチンを2回接種した米兵らには昨年9月から免除していた。出入国管理を米軍任せにしてきた日本にとって、検査免除による米兵らの出入国措置は、致命的なものとなった。

無頓着な政府
 オミクロン株が世界的なパンデミックとなる中、岸田内閣は昨年秋、海外からの入国制限による「鎖国的」水際対策による感染防止を打ち出した。だが、米軍は昨年9月の段階で「ワクチン2回接種者への直前検査なしでの米兵らの日本入国措置への変更」を本政府に伝えていたにも関わらず、対策は講じられず、鎖国的水際対策の防御壁に空いた「地位協定の穴」には無頓着だった。このためオミクロン株による感染拡大は年明けから沖縄、広島、山口など在日米軍基地を抱える地域で一気に広がった。
 感染拡大の中で、岸田内閣は「米軍基地由来もオミクロン株国内感染拡大の要因である可能性は否定できない」と認めた。しかし、岸田内閣は「そのこと(検査なし米兵の日本移動)を聞かされたのは(感染拡大が始まったあとの)昨年12月24日のことだ」と釈明した。釈明に「9月通告」を再主張する米軍に対し、岸田内閣は「米軍との齟齬がある」と釈明を重ねている。
 日本政府が在日米軍基地内での感染拡大に対し、基地外への外出規制などを米軍に求めたのは年明けから。オミクロン株感染でも国内最悪となった沖縄県の玉城デニー知事は「昨年12月20日には日本政府に米軍基地からの感染防止の徹底を求めたが、無視された」と怒りをあらわにしている。

改定求める声
  地位協定の穴から入り込んだ新型コロナの対応に四苦八苦する政府の対応に「日米地位協定の改定」を求める声が、政権与党内からもようやく出始めている。
 自民党は議員連盟「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」を立ちあげ、2004年には独自の地位協定改 定案を策定し、国務省と国防総省に要請した。議連の当時の幹事長は後に外相や防衛相を務めた河野太郎氏、副会長はのちの防衛相となった岩屋毅氏だった。だが、米側に一蹴され、お蔵入りとなった。自民議連の改定案には米軍の訓練は提供施設区域内の実施を原則とし、国内の港湾空港を使用する際は国内法令に従うとしたほか、「人及び動植物の検疫に関しては日本の国内法を適用する」という条文も盛り込まれていた。検疫の見直しが実現していれば、今回の事態は回避できた可能性もある。自民党も米軍への検疫に対する国内法適用の必要性を認識しながら、対米交渉力の欠如から問題が放置されてしまった。そしていま、そのツケが、オミクロン株の感染拡大という形で国民にふりかかかっている。
 「日米地位協定の穴」から漏れる感染症問題を、今後、どう解決するか。いざという時に日本を守ると信じられている日米安保が、国民の命を脅かすことがないように、今回の米軍基地由来の感染拡大問題を機に、地位協定問題が国民的論議となることを期待したい。
 前泊博盛(沖縄国際大学・大学院教授)
posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月08日

【オピニオン】新宿駅上空を低空で8回 安全高度無視の米軍ヘリ 毎日新聞・大場記者に聞く=須貝道雄

                              
毎日新聞社会部、大場弘行記者.jpg
 
 日米地位協定で米軍は様々に優遇されている。毎日新聞は2020年2月から、特権を問う――日米地位協定60年」と題し実情を検証する報道を展開。今年1月に新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞した。印象深いのは、人口密集地の東京で低空飛行する米軍ヘリを追った取材だ。撮影・報道した大場弘行記者=写真=に話を聞いた。

ビル間を抜ける
――何をきっかけに米軍ヘリの低空飛行を追いかけようと思ったのか。
 「米軍ヘリが都心で低空飛行しているとの噂は前からあったが、新聞などではコラムのような記事しか出ていなかった。『特権を問う』シリーズで、本格的に米軍ヘリの飛行実態を映像で撮ろうということになった」
「私は前から公文書問題を取材してきた。戦後から現在まで、日米合同委員会などの交渉記録は70年分くらい、たくさんあるのに、外務省の倉庫に眠っていて、公表されない。ならば米軍の幹部をウオッチすれば、何らかの情報を得られるだろうと、東京・六本木の米軍へリポートに降り立つ幹部を見張り、手がかりをつかもうと考えた。ただすぐに成果は出ない。米軍ヘリの飛行動向も同時に追おうと、写真映像報道センターの加藤隆寛記者らに声をかけて取り組んだ」

――日米地位協定に基づく特例法で、米軍は日本の航空法の適用を受けない。結果として航空法81条で定めた最低安全高度を無視する米軍ヘリが相次ぐ。その姿をどのようにとらえたのか。
「米軍ヘリの観察は高層ビル(高さ200b台)が立ち並ぶ新宿などに拠点を設けて実行した。人口密集地では、ヘリから半径600b以内にある最も高い建物の先端から、300b以上高く飛ばなければならない。これが航空法で定めた最低安全高度だ。米軍ヘリはどのくらいの高さで飛んでいるか、ビルの高さと比べて推定することにした」
「新宿上空を低空飛行する米軍ヘリを最初に見つけたのは20年7月9日午後1時過ぎ。陸軍のブラックホーク2機が上野方面から来て、東京都庁第1本庁舎(高さ243b)とNTTドコモ代々木ビル(270b)の間をすり抜けた。ビルより低い高度で飛ぶ姿を撮影した。二つのビルの間は1100b。この間を抜けたことは明らかに最低安全高度に違反している」

徒労の日も多く
――どのくらいの期間、ヘリを観察したのか。
「この7月9日を皮切りに半年続けた。毎日というわけではなく、うち90日間、都庁の展望台や他の高層ビルから空を眺めた。1日3〜5時間立っていた。六本木の米軍ヘリポートの動きも見続けた」
「ヘリは東京の横田基地、神奈川のキャンプ座間から飛んでくることが多いので、西の空に目を凝らした。西日がきつかった。低空飛行を実際に目にしたのは90日間のうち約20日間・延べ24回。他の日は徒労に終わり、つらいこともあった」
「これは記事でいけるぞと確信したのは20年8月18日だ。六本木の米軍ヘリポートから午前11時前に、迷彩服姿の若い兵士6人を乗せて、ブラックホークが飛び立った。基地のある神奈川方面に向かわず、渋谷駅周辺から新宿へ来て、7月9日と同じく都庁とNTTドコモ代々木ビルの間を抜けた。新宿駅、東京ドーム、上野公園、浅草の上空を通り、東京スカイツリーを過ぎたところでUターンし、同じコースをたどって新宿に戻って来た。遊覧飛行のように見えた。目的はなぞだ。専門家らの話では市街戦を想定した訓練とする見方もある」
「私たちはブラックホークが新宿駅の真上を低空通過する様子を8回確認した。新宿駅は1日の乗降客数が世界最多の350万人。一つ間違えれば大惨事になりかねない」

――問題はどこに。
「日米地位協定は16条で、米軍に対し日本法令の尊重義務を求めている。だが米国側に日本政府はほとんどものを言えないのが実情。米軍任せにしている」  
聞き手・須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号



posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月28日

【オピニオン】いじめ凍死 背景への視点欠く報道続く 発達障害、精神医療に触れず 集会の趣旨を歪曲=℃R田寿彦

211129.jpg

 北海道旭川市で昨年3月、中学2年生(当時)の廣瀬爽(さ)彩(あや)さんが凍死体で見つかった「いじめ凍死事件」を考える市民集会(本紙12月号で既報)を報道各社の多くがニュースとして取り上げた。各社の報道を検証すると、事件の背景として集会が指摘した発達障害診断と精神医療の問題に触れた報道は一つもなかった。事件をとらえる重要な視点がマスコミの無能によって覆い隠される状況が続いている。山田寿彦北海道支部

  集会は精神科医の野田正彰氏を講師に旭川で11月28日、札幌で29日=写真=、釧路でも30日に開かれた。ほぼ同内容の講演で、北海道新聞(道新)は3回の集会をすべて写真付きで記事にした。
 旭川集会の道新の見出しは「社会良くなる努力を」。講演から抜き出した部分は「私たちの社会が良くなる努力をすることが彼女への手向けとなる」「なぜこのような問題が起きたのか問われなければいけない」。
 札幌集会の見出しは「地域の子どもに関心を」。講演の内容は「地域社会を含め、周囲の大人は子どもたちが楽しく学校生活を送れているか関心を持つ義務がある」。
 釧路集会の見出しは「社会のひずみ追究を」。野田氏の言葉として「彼女にとってどういう社会であってほしかったか、私なりに考えて世に訴えていきたい。そして、日本の社会を変える一歩にしたい」と伝えた。
 テレビ各局は旭川集会を報道した。NHKは「子どもをいじめからどう守る 中学生死亡の旭川市で市民集会」の見出しで、野田氏の講演を「今の社会の仕組みでは、子どもたちが自分らしい生き方をするのは難しい。爽彩さんが亡くなった背景はどのようなものか、子どもの立場になって考えることが必要だ」とのみ紹介した。

 他の民放も「講演した精神科医は全国にいじめ問題が広がる中、悩みを抱える生徒の声に大人が耳を傾ける必要があると訴えました」(HTB=テレビ朝日系列)、「(野田氏は)廣瀬さんが亡くなった背景に何があるかを考え、悩みを抱える子どもたちを社会が守っていくことが必要だなどと訴えました」(UHB=フジテレビ系列)といった内容にとどまった。
 筆者は旭川と札幌の集会で司会進行を担当。旭川では、この事件は「いじめを認定しなかった学校の問題」にとどまらず、発達障害診断と精神医療の問題を考えることを避けて通れないと強調した。
 札幌集会では旭川集会の各社報道を強く批判し、「従来のステレオタイプな視点でこの事件は説明できない」と改めて趣旨を説明した。しかし、道新のその後2回の報道内容は変わらなかった。
 野田氏は「社会を良くする努力をすることが彼女への手向けとなるとか、なぜ起きたかが問われなければならないなどと私が言ってもいないことが記事になっている。これは偽造だ」と憤る。

 事件の焦点は「いじめの有無」にあると繰り返し報道されている。集会はそれとは異なる視点を提起した。集会にニュースバリューを認めながら、報道がここまで的を外すのは意図的なのか、記者の筆力の問題なのか。札幌集会を記事にした道新の記者に直接聞いた。
 記者は「他意はない」としながらも、「旭川、札幌、釧路の記事は別々の記者がそれぞれの判断で書いている。ここを書いた、書かなかった、の判断については答えられない。正式な取材ならば会社の広報を通してほしい」と答えた。「発達障害や精神医療の言葉をデスクに削られたのか」との質問にも「答えられない」。署名記事の主体性はどこにあるのだろうか。

 旭川集会の記事を書いた記者にも直接質問したが、「持ち帰らせてほしい」と言ったまま、なしのつぶてだった。そこで道新の広報担当者に以下の質問メールを送った。
 「発達障害や精神医療の問題を書かなかった理由をお答えください。社の判断として削ったのであれば、その理由もお聞かせください。集会の趣旨の核心部分を伝えないのは趣旨の歪曲ではないかと思うが、ご見解をお聞かせください」
 道新からの回答は「いずれも弊紙が読者に伝えるべき内容を吟味して記事化したものです」。これだけだった。
 爽彩さんが発達障害ラベリングと服薬に小学校時代から苦しみ、自殺未遂直後に精神科病院で酷い医療措置を受け、その後も抗精神病薬を死に至るまで服薬させられていたことは、母親が公表した手記などから明らかになっている。
 旭川・札幌集会実行委員の一人で帯広市の元小学校教員、吉田淳一さん(65)は「集会参加者のアンケートは『発達障害や精神医療の問題が背景にあることに気付かされた』という内容のものがほとんどだった。記者がなぜ理解できないのか。明らかに避けているとしか思えない」と疑問を呈した。
 昨年11月9日にNHK『クローズアップ現代+』、同27日のTBS『報道特集』が事件を詳しく報道したが、学校や市教委の隠ぺい体質など、ありきたりの批判をしただけで、深く掘り下げる内容には程遠かった。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする