2024年09月19日

【79年目原爆忌】長崎 祈念式典に政治的圧力=関口達夫(元長崎放送記者)

1面写真・長崎市長平和宣言_長崎・関口さんからの写真・DSC00248.JPG

 8月9日の長崎市平和祈念式典は、原爆死没者を追悼する厳粛な儀式である。その式典に今年、欧米主要国が政治的圧力をかけ、被爆者らの反発を招く異例の事態となった。

 長崎市がガザへの攻撃を続けるイスラエルを式典に招待しなかったことに日本を除くG7のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダとEU(欧州連合)が納得せず、駐日大使を式典に出席させなかったのだ。
 ガザでは子どもや老人など約4万人が殺害されており、世界各地でイスラエルに対する抗議行動が続いている。この状況を踏まえ長崎市は、式典に対する抗議行動など不測の事態が懸念されるとしてロシア、ベラルーシに加え、イスラエルを招待しなかった。その一方でパレスチナは招待した。

 欧米の主要国はこれに対して、長崎市に書簡を送り、「イスラエルのガザ攻撃は自衛権に基づくもの」で招待しないとロシア、ベラルーシと同列に扱うことになり、「誤解を招く」と牽制。式典当日には駐日大使を欠席させ、代わりに格下の領事などを出席させた。
 鈴木史朗市長=写真=は、「イスラエルを招待しなかったのは政治的な理由ではない。式典を平穏に実施するためだ」と強調した。

 長崎市の対応について被爆者団体代表田中重光さんは、「イスラエルのガザ攻撃は、自衛権の範囲を超え、虐殺だ。招待しなかったのは正しい判断」と評価した。別の被爆者団体代表川野浩一さんは、「アメリカなどが、原爆犠牲者を弔うという式典に政治的圧力をかけたのは許せない」と憤った。

 広島市は、8月6日の平和記念式典にロシアとベラルーシ、パレスチナを招待しなかった一方、イスラエルは招待しており、長崎市と対応が分かれた。
 結果だけ見ると長崎市は、欧米主要国の圧力に屈しなかったように写る。しかし、鈴木市長は、元国交省官僚で「平和宣言」では日本政府やアメリカに忖度した形跡がある。
 長崎の「平和宣言」は、学識経験者や被爆者団体代表などで作る平和宣言起草委員会の意見をもとに作成される。
 当初の宣言案では「核保有国ロシアと核保有疑惑国イスラエルによる大きな戦闘が進行している」と書かれていたが、最終の平和宣言では「中東での武力紛争」と変更された。

 これについて起草委員会では「人間の痛みを知る被爆地は、イスラエルによる人権侵害を看過できない」として、イスラエル削除に批判的な意見が出された。
 鈴木市長が、イスラエルを招待しなかったのはこうした市民の意見を無視できなかったためではないか。
 だとすれば市民意識と発言が市長の判断に影響を与え、欧米主要国の圧力を跳ね返したことになる。
 今回の問題は、国際政治と国内政治の影響を受ける被爆地の平和行政を市民が監視し、是正させる重要性を示したと感じている。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
                 
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2024年09月18日

【オピニオン】「核の傘」強化 日本が確認=丸山 重威

  日米両政府は7月28日、東京で上川外相・ブリンケン国務長官、木原防衛相・オースティン国防長官による担当閣僚会議(2+2)を開き、自衛隊と米軍の指揮、統制の「連携強化」を確認した。今回は通常の「2+2」(日米安全保障協議委員会)と併せ、「核の傘」を具体化する「拡大抑止閣僚会議」も初めて開催。日本の有事に「核を含む米国の軍事力」で対抗することを確認した、とされる。
 岸田内閣が「戦後安保政策の大転換」を打ち出し「専守防衛」から「同盟による拡大抑止」に踏み切り、「非核三原則」も捨てて、「核抑止論」に立った「日米防衛協力指針(ガイドライン)」の具体化に進んだ形だ。戦後79年、改めて、「核抑止論」では平和は守れない。核廃絶を」の声を広げていかなければならない。

 核「先制不使用」反対は日本
 米国では、2016年、終焉が近づいたオバマ政権が、戦略見直しの討議の中で「核兵器先制不使用宣言」を計画、実施しようとした。ところがこれに反対したのが日本。計画は頓挫した。

東京新聞2021年4月6日付ワシントン金杉電は、当時の国務省の担当官の証言を次のように紹介している。
 「同盟国の一部の中でも特に日本が『宣言は同盟国を守る米国の決意について、中国に間違ったサインを送る』と懸念を示したと説明。『このことがオバマ大統領が当時、先制不使用政策の断念を決定した理由だった』と明らかにした。(トーマス・カントリーマン元国務次官補)
報道によると、この意見表明を契機に、日米韓の「拡大抑止協議」が始まったが、閣僚レベルの協議は今回が初めてで、結局、日本政府が米国に抱きつく形で認めさせた「核の傘」政策を、この際、閣僚レベルで再確認。「核廃絶」に傾く世界に「待った」を掛け、「核による平和」キャンペーンにしようとの米国の世界戦略にも沿った政策だ。

朝中露「警戒論」を展開
 今回、共同発表では、@北朝鮮による安定を損なう継続的な行動と核・弾道ミサイル計画の追求A中国の加速している透明性を欠いた核戦力の拡大B北朝鮮への軍事協力を含むロシアの軍備管理態勢と国際的な不拡散体制の毀損―をあげ、「同盟の抑止態勢を強化し、軍備管理、リスク低減及び不拡散を通じて、既存の及び新たな戦略的脅威を管理する必要性を再確認した」と、朝中露3国への「警戒論」を展開。日本の非核三原則にも触れず、巧妙に「核抑止論」に誘導している。

 岸田内閣は、昨年のサミットでは「核廃絶」ではなく「核抑止論」に立った宣言を主導したが、ことしの慰霊式でも、国連事務総長メッセージや平和宣言が、日本政府の「核廃絶」や「核兵器禁止条約」への行動を促しているのに背を向け、「核兵器保有国と非保有国の仲介をする」と言うだけ。国民的批判は高まっている。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号   
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2024年09月14日

【オピニオン】「戦争の危機」を煽る政治とメディアの欺瞞を撃つ=梅田正己(書籍編集者)

「今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれません」
 今年4月11日、岸田首相が米国議会で行なった演説の一節である。だから、防衛予算を倍増して大軍拡をするとともに、日米同盟の防衛力を一段と強化する必要があるのです、となる。
 しかし、本当に東アジアに戦争の危機が迫っているのだろうか?

東アジアの「脅威」の実態
 一昨年12月、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」では危機(脅威)の発生源を、ロシア、北朝鮮、中国と特定していた。
 ロシアは確かにウクライナを戦火の中にたたき込んだ。だがそれは独裁者プーチンの「大ロシア思想」によるものだ。いかに帝国主義者プーチンといえども、宗谷海峡をこえて北海道に侵攻することなどあり得ない。
 北朝鮮もミサイルと核開発に固執している。だがそれは、米国との交渉力を手に入れて、70年来の潜在的「交戦状態」を解消、経済制裁の解除とともに、日本とも国交を回復して60年前の日韓基本条約並みの植民地支配に対する補償と経済協力を得たいためだ。
 中国・習近平政権の香港問題や南シナ海問題にみるような、強引で一方的な自己主張には、たしかに目に余るものがある。しかし「中国は一つ」を振りかざしての台湾攻略のリアリティーとなると、問題は別だ。
 半導体にみるように台湾の経済発展はめざましい。それに台湾の世論は圧倒的に「現状維持」だ。その台湾を武力でねじ伏せるなんてできるわけがない。
 ウクライナに倍する軍事力をもつプーチンのロシアも、2年半を費やしながらいまだ東南部4州の制圧にも手を焼いている。
 まして中台の間は台湾海峡で隔てられている。ミサイルだけでは台湾は制圧できない。陸軍による上陸作戦が絶対に必要だ。今から79年前、面積が台湾の30分の1の沖縄本島への上陸作戦でも、米軍は1500隻の艦艇で周囲の海を埋め尽くし、55万人の兵力を必要とした。
 加えて、その上陸作戦を世界中がリアルタイムで注視することになる。台湾攻略の非現実性はこれだけでも明らかだ。

岸田発言の真偽の検証を
 にもかかわらず「台湾有事は日本有事である」とバカな政治家が言った。そして実際、岸田政権は軍事予算を増額して南西諸島にミサイル基地を新設し、日米両軍は「作戦司令部」を統合し、いまこの一文を書いている8月初旬、両軍合同による最大の訓練を実施中である。
 「今日のウクライナは明日の東アジア」の岸田発言を、マスメディアは伝えた。しかし伝えるだけで真偽については全く検証しなかった。ということは、岸田発言を容認し、結果として「東アジアの危機」なる現状認識を黙認したということだ。
 SNSの時代とはいえ、国民世論の動向にはマスメディアが決定的に影響する。私はいま、岸田発言の真偽について各新聞社の論説委員室が徹底論議し、その論議の過程と結論を読者に伝えてほしいと思う。
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2024年07月25日

【オピニオン】被爆79年 根本から問われる広島平和式典 入園規制 表現の自由を侵害 法的根拠なし 民主主義否定=難波健治

 被爆年の「原爆の日」を年後に控えた今年、広島市は2022年以来のロシアとベラルーシの8・6平和記念式典招待見送りを続ける一方、イスラエル招待は維持した。こうした市の姿勢に「どちらも軍事侵攻国。二重基準では」と疑問の声が渦巻く中、今年の式典では「平和記念式典のありようが根本から問われる」ことになる「平和記念公園の全面入園規制」が打ち出され、波紋が広がる。

規制エリア拡大

 私たちが「入園規制」を知ったのは5月7日、市の報道資料公表を受けたメディアの一斉報道によってだった。

 8・6平和記念式典はこれまで、平和公園の南半分で実施されてきた。今年も同じエリアで行なわれる。だが、広島市は今年、「式典会場」の線引きを公園の北半分エリアにも拡大したうえで入園規制を発表した。

 公園の北半分は、元安橋から本川橋を東西につなぐ市道の北側にあり、原爆の子の像や韓国人原爆犠牲者慰霊碑、身元が確認されず引き取り手がない数万柱の遺骨を納めた原爆供養塔などがある。そして、元安川を隔てた対岸には原爆ドームがある。市は、これらをすべて含めた公園全域にわたる入園規制を実施する。というのだ。

 行政法が専門の田村和之広島大学名誉教授は、「自由使用の都市公園での表現活動の制限は、いかなる見地から見ても違憲・違法だ」と指摘する。JCJ広島支部は6月3日、松井一実市長に、「入園規制」への疑問を公開質問状として届け、「問題ある規制なら、発表の報道文書を含め取り消すべきでは」と提起する一方、責任部局に法的根拠などを質した。

協力要請粉飾

 これに対する担当の市民活動推進課の答えは@規制に「法的根拠はない」A規制は「公園を訪れる方々への協力要請にすぎない」だった。

 だが、それは広島市がなぜ、憲法が保障する表現の自由に抵触する恐れが指摘されるのに、法的根拠もなく入園規制を打ち出したのか。「ゼッケン・タスキ・ヘルメット・鉢巻等の着用禁止」などに加え、多くの具体例を挙げて市民の持込物にまで違法と指摘される禁止、規制措置を言い出したのかの説明にはならない。

 しかも広島市がそれを「要請に従わない場合は、平和記念公園外への退去を命令することがある」と報道資料に明記して発表し、メディアがそのまま報じたことを私たちは重視した。

 平和記念式典に「退去命令」を持ち出し、禁止措置や様々な「規制」を前面に出した市の「公園全面入園規制」は、市の発表資料の内容を検討もせず報じたメディアを含め、その「見識」が問われていることは言うまでもない。

1年前の教訓

 この過程で私たちは、1年前に体験したできごとを思い出した。

 昨年5月、広島Gサミットの際、首脳たちの会食場となった老舗旅館がある世界遺産・厳島神社で知られる宮島(廿日市市)に、島ぐるみ(全域)の「入島規制」がかかった。

「このようなケースで、島全域に入域規制が実施できるような法的根拠はないはずだ」という田村名誉教授の指摘を受け、外務省や地元廿日市

市、県民会議事務局に問い合わせた私たちは、今回の広島市と同様の@「法的根拠はない」A「協力要請にすぎない」との回答を得た。

「全島入島規制」が根拠のない協力要請措置にすぎないことが確認されたのである。

 私たちは外務省職員が見ている前を通り、田村先生を含む3人で島に渡った。サミット取材でそこに居合わせた記者たちは、何が起きているのかわからない様子だった。

 私たちは、行政の発表を知らせるだけの報道に警鐘を鳴らすことを目的に行動した。島に渡り、何の「規制」も「罰」も受けずに帰ってきたその結果は、考えつく限りの方法で市民に知らせてきた。しかし、1年後の今、再び、同じことが今度は広島平和記念公園を舞台に繰り広げられようとしているのである。

       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号

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2024年07月19日

【オピニオン】政府主導の改組に抗議 学術会議歴代会長が声明発表=編集部

 2020年の菅政権による学術会議会員候補者の任命拒否を契機に政府が進めている同会議法人化の議論に対し、歴代の学術会議会長6氏が6月10日、岸田首相に「政府主導の見直しを改めることを要望する」とした声明を発表した。

 前会長の梶田隆章・東京大卓越教授は、日本記者クラブでの会見で「日本の学術の終わりの始まりとなることを強く懸念する。極めて危うい」と述べた。
 声明には吉川弘之・東大名誉教授(工学)、黒川清・東大名誉教授、東海大特別栄誉教授、広渡清吾・東大名誉教授(法学)、大西隆・東大名誉教授(工学)、山際寿一・京大名誉教授(人類学)、梶田隆章・東大特別栄誉教授(物理学・ノーベル賞受賞者)の1997年の17期以降、25期までの各会長が署名した。
 声明は、政府が進める「法人化」方針について、
20年に発覚した会員6人の任命拒否問題を「正当化するためと疑われる」と批判。会員選びに外部有識者が意見を述べる「選考助言委員会」設置案についても、「学術会議の独立性と自主性に手をつけるもの」だと懸念を表明。学術会議のあり方は、社会や与野党を超えて国会で議論すべきだとの考えを示した。

理由頑なに拒否 

 菅政権が、推薦された新会員候補者105人のうち、芦名定道・京大教授、宇野重規・東大教授、岡田正則・早大教授、小沢隆一・東京慈恵医大教授、加藤陽子・東大教授、松宮孝明・立命館大教授の6人の任命を拒否した問題は、同会議のほか90を超す学会団体が抗議声明を出すなど、広く反対運動が起きた。
 だが、政府は「任命拒否」の理由説明を拒み、その一方で役員任命や、委員会、分科会などの組織改革や「見直し」が必要だとして問題を学術会議の組織問題にすり替え、強引に改革論議を進め、「総合科学技術・イノベーション会議」の有識者懇談会から「学術会議の在り方に関する政策討議とりまとめ」を得て、内閣府の「日本学術会議の在り方についての方針」を発表。「法人化」の方針を決定した。

政府決定に懸念 

 一方、学術会議も今年4月「政府決定の『学術会議法人化に向けて』に対する懸念」を決議として発表。国の在り方や政府の政策への「基盤勧告機能」など「より良い役割」果たすための要件として@十分な財政措置A組織・制度の政府からの自律性、独立性の担保B海外の多くのアカデミーも採用する会員自身が次期候補者挙げ、選考委員会が推薦する「コ・オプテーション方式」会員選出、会員による会長選出を改めて声明した。
 歴代会長の声明はこれを受けたもので、「世界が直面する人類社会の自然的、共生条件の困難さは一層大きく学術の役割を要請している。学術会議の在り方について政府主導の見直しを改め、学術会議の独立性と自主性を尊重し擁護することを要望する」としている。

提訴し真相解明

 一方、任命を拒否された6人の教授は今年2月、国を訴え「拒否理由」関係文書開示などを求めて立ち上がった。「学術会議は憲法の『学問の自由』に沿い作られた。任命拒否の真相を明らかに」と訴えている。既に6人の氏名と肩書、「R2・6・12」の文字や大きなバツ印が書かれた公文書が明らかになった。
 学術会議が発足当初から何度も「科学者は軍事研究に従事すべきでない」と決議していることや、6人が安倍政権の軍事化推進姿勢などに何らかの形で異議を申し立てたことなどが問題にされ、任命拒否されたと言われている。

 頑なな「説明拒否」で追い詰められた政府が「学術会議改組」で「対抗」しているのも明らかだ。かつて戦争前夜の日本で、研究機関や大学で政府の見解に沿わない研究者が次々とパージされた。主体的な学問研究は政策推進の邪魔とされた。「学問の自由」への攻撃は「思想、信条、の自由」への攻撃に直結する。「ものを言う自由」「研究の自由」をどう守るのか、重要な闘いが始まっている。
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2024年06月07日

【オピニオン】「セクシー田中さん」問題を考える─著作者人格権への視点=萩山拓(ライター)

 日本テレビが昨年秋に放送した連続ドラマ「セクシー田中さん」の原作者である漫画家・芦原妃名子さんが、今年1月末に急死した。この「セクシー田中さん」問題を巡り、原作漫画を出版している小学館が、6月3日、86頁に及ぶ調査報告書を公表した。

★小学館:報告書の概要
 その主な内容は、日テレからドラマ化の相談を受けた昨年6月当初から、芦原さんは小学館の担当編集者を通して、「必ず漫画に忠実に」することをドラマ化の条件として伝えていた。その後、原作にはないオリジナルとなる最後の第9、10話の脚本を巡って、日テレ側と食い違いがあった。結局2話は、芦原さん自らが脚本を執筆。
 ところが放送終了後に、脚本家が、その経緯の「困惑」をSNSに投稿し、それに芦原さんがブログで反論。
 こうした経緯の背景には、日テレが、芦原さんの意向を脚本家に伝え、原作者と脚本家との間を調整するという役割を果たしていない可能性があり、日テレ側が「原作者の意向を代弁した小学館の依頼を素直に受け入れなかったことが、第一の問題であるように思われる」と記した。

 一方で、報告書は小学館側の非にも言及。企画打診から半年間でのドラマ化について、「芦原氏のように原作の世界観の共有を強く求める場合には、結果として期間十分とは言えなかったと思われる」と指摘し、かつメールと口頭で映像化は合意されたものの、その条件にあいまいな要素があったとした。
 今後の指針として、版元作品の映像化の許諾を検討するに当たり、作家の意思や希望を確認し、その意向を第一に尊重した文書を作成し、映像制作者側と交渉するなどとした。さらに契約書締結の早期化や交渉窓口の一本化、危機管理体制の充実、専門窓口やサポート体制などの周知を挙げた。

★日本テレビ:報告書の概要
 すでに日本テレビは5月31日に「セクシー田中さん」問題について、調査報告書を公表している。報告書によると、同局側は昨年6月までに小学館を通じ、ドラマ化に向けた芦原さんの意向を確認し、その意図を最終的にすべて取り入れたとしている。
 しかし、芦原さんの意向や要望が、同局側には提案程度と理解され、脚本家にも伝わっていなかった。しかも同局側は芦原さんと直接面会せず、その後も意思疎通が不十分なまま、改変の許容範囲や撮影のやり直しなどを巡り、芦原さんが不信感を募らせ、脚本家にも否定的な印象を持つようになったという。
 今後のドラマ制作について、報告書は制作側と原作者との直接の面談の必要性などを提言。連載中の作品のドラマ化では、最終回までの構成案を完成させ、オリジナル部分を明確にすることが望ましいなどとした。トラブル回避に向けては「原作者及び脚本家との間で可能な限り早期に契約を締結する」としている。

 報告書に目を通した有識者からは、「日テレは当事者としての猛省がない」と批判されている。まず報告書が「本件原作者の死亡原因の究明については目的としていない」とし、「芦原さんの死に対する哀悼、およびこうした事態に至った経緯への反省が感じられない」などの声が挙がっている。

★欠ける著作者人格権の順守
 さて両社の調査結果から見えてくるのは、原作の改変をめぐって、当初から原作者とドラマ制作側との間で、認識の違いが明確になったことである。
 その背景には、ドラマの制作現場では、人手や制作費が少ない現状がある上に、オリジナル脚本によるドラマ化よりも、原作の評判にオンブして脚本・ドラマ化すれば視聴率が稼げるという計算である。こうした原作モノに頼りがちな映像メディアの事情に、さらに脚本家の意欲や野心なども絡んでくるから複雑になる。
 また出版社側もテレビ・ドラマ化により販売部数が飛躍できるという、売り上げ効果を望む背景がある。どっちもどっちで、それぞれの思惑を秘めながら自分に都合のよい解釈が横行する。

 原作者の意向や要望、はては著作者人格権まで踏みにじっていることすら気づかなくなる。日テレ報告書に対して「芦原さんの死に対する反省を第一に記すべきだった」と、識者から言われるのも無理はない。小学館の報告書には「芦原氏は独立した事業者であるから、小学館の庇護は必要としないかもしれない」という文言が記されている。
 小学館も日テレも、芦原さん本人任せにして、著作者人格権が脅かされているにも関わらず、事態を見守る状態を続けてしまったのではないか。「小学館の社員個人はできるだけのことをしたと思うが、芦原さんが問題を一人で背負い込んでいなかったか、組織として守るために何かできなかったのか。そこに小学館の責任がある」と、影山貴彦(同志社女子大教授)さんは指摘している(「毎日新聞」6/3付)。

著作者人格権著作者の財産的利益ではなく人格的利益(精神的な利益)を守る趣旨で設けられている。勝手に著作物を公表や改変されないこと、著作物が著作者の名誉を害するような方法で使われないこと、著作者名の表示・非表示の権限を持つこと、などが著作者人格権にあたる。
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2024年05月26日

【オピニオン】破綻の「政治改革」金権腐敗は元から変えるべし 問われるメディア 有権者は行動を 枝葉は刈ってもまだ茂る=藤森 研(ジャーナリスト)

 自民党の裏金問題は、真の原因を見ないまま、手直しの「再発防止」が取りざたされている。
 しかし、この間のドタバタ劇を見ていると、森達也が『創』で書いた比喩がピッタリだ。いわく「政治資金規正法の見直しなど枝葉の剪定をしても、季節が廻ればまた生い茂る」。その通りで、金権政治は元から変えなきゃ、直らない。

小選挙区制と
政党助成導入

 30年前の出発点を顧みる。リクルート事件やゼネコン汚職で沸き起こった「政治改革」の嵐は、自民党の分裂と下野を経て、1994年の政治改革4法に収束した。柱は2本。衆院の選挙制度を小選挙区を主とする小選挙区比例代表並立制に変えること、政治資金規制を少し強める代わりに政党への公費助成制度をつくることだった。 
 前者は政治改革熱を権力者が巧妙に選挙制度改革にすり替えた成果≠セ。「政策本位の争いになり金がかからない」「政権交代が起きやすい」を売り文句に、それまでの中選挙区制を小選挙区中心の現制度に変えた。
 小選挙区制導入に対しては、多数党が有利になり、「死票が増えてしまう」「『作られた多数派』を生む」という反対意見も強かった。小選挙区制は民意の集約、比例代表制は民意の反映が特徴だが、民主主義は反映を優先すべきで、人為的な集約は民意を歪める。
 しかし、当時の多くのメディアや世論は中身を吟味することなく「とにかく変えねば」と浮き足立ち、この選挙制度改変を後押ししてしまった。
 30年たって、反対派の意見は正しかった。一度だけ民主党などへの政権交代はあったが、負の効果が圧倒した。
 有権者全体に対する得票割合(絶対得票率)で21年の総選挙を見てみよう。自民党の小選挙区での絶対得票率は26・2%、比例代表では18・9%だった。それにより自民党が獲得したのは小選挙区の議席の64・7%に及び、衆院全体でも55・7%を占めて、追加公認を含め「絶対安定多数」となった。低投票率と小選挙区制の手品だ。
 こうして、制度上有利な多数与党は対野党の選挙で連戦連勝し、安倍長期政権の力の源泉となった。党内では、公認権と政党助成金の配分権を握った自民党トップが「一強」化し、森友、加計、桜、安倍派の裏金と、腐臭漂う驕りを生んだ。

パー券などで
企業団体献金

 もう一本の柱の政治資金規制は、当時も企業・団体献金(寄付)を全面禁止はせず、最初からザルだった。今や、政党支部への寄付やパーティー券の形での企業・団体献金が、大手を振っているのはご覧の通りだ。政党助成金とは二重取りだ。
 企業献金には違法の疑いがぬぐえない。見返りを求めて政治献金をすれば贈賄だし、逆に求めなければ企業に損害を与える背任ではないか、と。
 これに対し政治献金擁護派が頼るのは、八幡製鉄事件での最高裁判決(1970年)だ。「会社は、自然人である国民と同じように、国や政党の特定の政策を支持するなどの政治的行為をする自由を有する」と、企業献金を認めた。営利事業目的を外れるのではないか、との疑問には、企業の災害救援寄金が広く認められていることを例示した。
 しかし、この事件の一審判決は全く逆の判断をしていた。「本件は自民党という特定の政党に対する援助資金だから、特定の宗教に対する寄付と同様、一般社会人が社会的義務と感ずる性質の行為に当たるとは認められない。定款違反だ」と、献金をした社長らを敗訴させた(63年、東京地裁)。
 個人が主体の政治活動の自由を、営利目的の民間企業にも保障した最高裁の論理には、憲法学者らからも批判がある。
なお、労働組合から特定政党への団体献金も、労働組合の成り立ちを考えれば、筋が通らない。

審議会参加で
足並み揃える

 30年前の「政治改革」の過ちに関連して、どうしても触れておかねばならないのは、メディアの責任だ。小選挙区比例代表並立制の原案を作ったのは第8次選挙制度審議会。その会長は小林与三次読売新聞社長(当時)で、委員27人にはテレビ東京会長、日経社長、毎日、産経各論説委員長、NHK考査室長、読売調査研究本部長、朝日編集委員が名を連ねていた。それかあらぬか、各メディアは並立制への選挙制度改変を、足並みを揃えて支持した。
 メディア人の審議会参加は本来、ジャーナリズムの本旨に反する。権力側の「結論ありき」の場に入ってアリバイ作りに利用され、決定には批判がしにくくなるからだ。だが、現在も国の審議会などに入る論説委員らがいる。今は特定の社に限られてきたものの、「審議会不参加」を決めた社でもOBが入ったりする。
 なぜ彼らは国の委員になりたがるのか。知見を社会のために、というのは建前だろう。書ける場は他にある。据え膳で資料をもらえる便宜の誘惑か。言葉はきついが、私の感想を一言で言えば、うす汚い。

企業献金全廃
比例代表こそ

 30年前の政治改革は、いま、見事に破綻した。
 メディアには、目の前の政治の動きを報じるだけでなく、本来の「政治改革」の幹についても、議題設定の機能をぜひ発揮してほしい。
 私が考える改革の方途は3つだ。
 まず、衆院の選挙制度を、民意を正確に反映する比例代表制に変える。歪んだ制度に基づく多数党安定の驕りを、より緊張感のある政治に変えるだろう。
 次に、企業・団体献金を、パーティー券も含めて全廃する。
 第3に、政権交代を推進する。浄化には新しい政治主体が必要だ。
 政治学者のジェラルド・カーティスは、自民党内から抜本改革の声一つ出ない日本政治の現状を、「半昏睡状態」に陥っているとして、こう続けた。「まず有権者が行動しなければ政治家は動こうとしません」
 補選、そして次の総選挙が肝心だ。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
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2024年05月12日

【オピニオン】新NISAで[経済格差]が加速 貧困層に無縁な投資話=木下寿国

 絶対にやったほうがいいよ」−−。先日7年ぶりに開かれた田舎の同窓会に出席した折、小中学校時代を通じて常に成績の一番良かった友人が新NISAを推奨していた。

 人には、それぞれ人生のステージに応じて興味を持ちやすい話題があるようで、その日は、それが投資話だったということだ。どこそこの株式を買えば得だといった話に加え、件の友人が入れ込んでいたのが、今年からスタートした新NISAだった。
 たしかに大金持ちでもないわれわれが、苦しくなるばかりの世の中で、手持ちの虎の子を少しでも増やしたいという気持ちは、とりわけこの歳になってみればよくわかる。口を極めて非難するのもどうかと思われるが、投資で得られる利得というのはしょせん不労所得、褒められたものではないとも思う。ただ、そんな紋切り型の批判を口にしたところで、夢中になっている彼らを説得することはできないだろう。

「貯蓄から投資へ」を標ぼうする政府は、1月から新NISAを始めた。『文芸春秋』5月号の「伝説のサラリーマン投資家が明かす個人資産800億円の投資術」は、新NISAを「投資の利益に対する課税がゼロですから『やらなきゃ絶対に損』という夢のような制度」だと持ち上げている。
ところが同記事を読み込んでいくと、結局、その場その場であらゆる状況に注意を払わねばならず、いわゆるこれだという単純な「投資術」なるものはないことがわかる。

 経済評論家の荻原博子氏は、プレジデントオンラインの記事で、新NISAについて「おやめなさい」と警告している(「金融庁の右肩上がりの新NISAグラフは無責任」)。株は上がるばかりではなく下がることもある、「落ちてもまた戻るなんて誰にも保証できない」「銀行や証券会社も、値下がりしても責任をとってはくれません」などと、反対の理由をいろいろと述べている。
 筆者も、その通りだと思う。ただ、この制度の本当の問題は、そうした技術的な課題よりも、もっと別のところにあるような気がする。それは、新NISAも含め投資という仕組み自体がきわめて不公平なカラクリの上に成り立っているものだということだ。

 新NISAは投資利益に課税されない。そこだけを見れば、政府は極めて気前が良いように見える。本来課税すべき分を負けてやっているのだから。しかし全体を見回してみれば、政府は決して誰に対しても気前よくしているわけではない。対象は、投資をしてくれる人や投資ができる裕福な人たちだけなのである。では、彼らに負けてやった税金はどうするのか。言うまでもない。貧困層も含めた一般国民から徴収した税金で賄っているのである。 

 これは、明らかな所得移転といえる。少々極端な言い方をすれば、貧乏人の苦労の上に成り立っているのが、新NISAという不公平かつ不公正な仕組みなのではないか。こうしたことを推し進めていけば、待っているのは国民経済の一層の二極化だろう。それは、亡国の道でもある。
岸田首相は登場してきたとき、「新しい資本主義」とか「成長と分配の好循環」などのスローガンを掲げていた。まるで小泉政権以来の行き過ぎた新自由主義路線を是正しようとするかのように。ところが、いまやっていることは、まさに強欲資本主義の王道そのもののように見えてならない。
木下寿国
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2024年05月11日

【オピニオン】軍拡路線を訪米で総仕上げ 指揮権「統合」で日米共同で戦争へ=編集部

  岸田首相は4月8日から首相として9年ぶりの国賓待遇で訪米し、バイデン大統領との日米首脳会談に臨んだ。議会の上下両院合同会議での演説、米国が招いたフィリピンのマルコス大統領を交え、初の日米比三国首脳会談を開くなど「日米グローバル・パートナーシップ」を「宣言」した。

米と連携し軍拡
 岸田首相は就任とともに、安倍路線を継承を表明し、その政治手法まで故安倍氏にならい、「閣議決定」を多用。立法府である国会での多数をテコに「審議」の空洞化を進めながら米の対中包囲網戦略と連動する大軍拡路線へと走り出した。
 具体的には22年暮れの「安保3文書」を契機に5年間で47兆円に達する防衛費を増強したほか軍需産業への助成や兵器輸出解禁など実現。23、24年度予算で推し進めてきた。
 ロシアのウクライナ侵攻から2年。「岸田首相は数十年の平和主義を捨て、日本を軍事国家にしようとしている」と書いた米紙「タイム」(23年5月22日号)の記事は現実化している。

 米議会で演説した岸田首相は「日本は第2次大戦の荒廃から立ち直った控えめな同盟国から、外に目を向け、強くコミットした同盟国へと変革してきた」と表明。「自由の存続を確かなものにするため、日本は米国と肩を組んで立ち上がっている」「米国は一人ではない。日本は米国とともにある」(You are not alone. We are with you. )などと強調した。

指揮統制の連携
 岸田首相は「敵基地攻撃能力」の保有や、防衛費増強についてバイデン大統領に「報告」したが、重要で無視できないのは、自衛隊の「統合司令部」常設を決めた日本が、平時、有事に関わらず、作戦計画・運用や武器調達などでの自衛隊と在日米軍の「統合」を確認し、自衛隊と米軍の「指揮統制」の「連携」でも合意したこと。米国がアジア太平洋でことを起こすとき,半ば自動的に自衛隊も動く可能性が含まれる危険極まりない「約束」だ。
  また、日米会談では、AI、量子、半導体、バイオテクノロジー、クリーンエネルギー、宇宙などの科学技術分野での「日米協力」も確認された。問題はこれら技術の「軍事利用」で、会談は日本政府が現行「特定秘密保護法」の拡大を狙う「経済安保秘密保護法案」の衆院通過を見据えてのものと言えよう。

各紙評価は二分
 今回の岸田訪米と日米会談に各紙社説は、肯定的な「世界に広がった多面的な『協働』」(読売)、「抑止力向上の合意実践を首相の積極姿勢を評価する」(産経)、「世界の安定へ重責増す日米同盟」(日経)の3社と、「日米の軍事協力 衆議なき一体化の促進」(東京)、「日米首脳会談 説明なき一体化の加速」(朝日)など国会の議論がほとんどないままの方針転換に懸念を示す社とに2分。日米「同盟変容」、「外交戦略」が問われていると各社社説の多くが疑問を呈していた。

 新自由主義路線を徹底し、日本の平和主義と日本社会全体を問題にしてきた米からは、2000年ころから日本の防衛政策への注文がアーミテージ(元国防副長官)報告などで伝えられてきた。今回も4日に第6次報告が出されており、日米会談はその注文をなぞったものと言えよう。いずれにせよ、日本が国際社会でどう生きていくのか、憲法9条をどう生かしていくのか、まさに国民的な議論が求められている。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
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2024年04月19日

【オピニオン】裏金事件の裏側では 戦争のできる国へ着々=丸山重威

 安倍派出席幹部らの弁明は、「知らなかった」「記憶にない」の大合唱。岸田文雄首相と自民党が「国民への説明」とうたった衆参両院の政治倫理審議会は、開催や誰が出るのか綱引きを含め裏金事件「幕引き」狙ったセレモニーすぎなかった。その間にも秘密保護法の特定秘密を拡大し、罰則付きで民間も対象とする経済安保保護法案や、安保3文書に基づく大軍拡路線推進が狙いの新有識者会議の初会合(いずれも本紙2月号参照)など、看過できない様々の動きが進んだ。
 その代表的な事例が、日本が英国、イタリアと進めている「次期戦闘機共同開発」であり、イスラエルからのドローン導入などだ。日本はポツダム宣言以降、常に「軍事紛争不介入」の憲法原則世界に訴えてきた。だがこれらは防衛費を5年間でGDPの2%にするなどの軍拡路線下でこれまでの日本の憲法原則を大きく逸脱した決定だ。
 しかし、こうした具体的な「政策」が、議論もなく進められ、メディアはそれをチェックしてではなく、決まったきとをただ報じているだけに陥っていることこそ大問題だろう。

戦闘機共同開発
兵器輸出国へ
 戦闘機の共同開発問題は、実は2022年12月に発表され、23年には事業管理の国際機関(GIGO)設立条約に署名が行われた。与党間協議で、「共同開発した武器を直接第三国に売れるかどうか」がさすが問題になり、公明党が難色を示した。しかし、結局「次期戦闘機の共同開発は我が国の安全を確保する上で中核となる」とし「防衛装備品移転3原則」と運用指針を改定、「限定的」といいながら、殺傷兵器の開発、輸出にも道を開いた。

 岸田政権は3月22日にも閣議決定する予定だという。
 同政権は昨年12月には、日本企業がライセンスを得て生産した地対空ミサイル「パトリオット」を米国に輸出可能としており、救難、輸送、警戒、監視、掃海の5類型について、殺傷兵器の輸出を認めている。
共同開発の戦闘機輸出については公明党は「政府の方針が国民に届いていない」と「抵抗」したが、押し切られたという。
もともと、22年末の安保3文書改訂を受けた「武器輸出3原則」は国会論議もなく決められ、「軍事産業支援法」ができて、日本は「世界の兵器廠」路線を歩もうとしている。それで本当にいいのだろうか。

イスラエル製
ドローン導入
 3月12日の参院外交防衛委員会で、共産党の山添拓氏は政府がイスラエルから、小型無人攻撃機(攻撃型ドローン)の導入を計画している事実を明らかにし「ジェノサイド(集団殺害)が指摘される中、イスラエルの軍需産業を支えるなど絶対にやってはならない」と批判した。
 これは、今年1月下旬から2月に、日本が実証のための実機として7機のドローン導入を契約。うち5機がイスラエル製だったというもの。  
 防衛省は、「実証で求める機能・性能を満たし、一般入札で競争性を担保した」と答弁したが、中には、落札額1円のものもあったという。 

 3月末までの実証試験に約100億円の税金が使われるといい、イスラエルを潤していることになる。報道によると、このイスラエル製ドローンの輸入代理店には、「日本エヤークラフトサプライ」「海外物産」「住商エアロシステム」「川崎重工」などが代理店契約をしており、日本商社の兵器ビジネスは広がっている。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
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2024年03月24日

【オピニオン】図書館の民営化の問題・元JCJ賞選考委員 清田義昭=出版部会

 2020年に廃業した出版ニュース社で五十数年仕事をした。出版界の業界誌で『出版年鑑』哉雑誌『出版ニュース』を刊行してきた。読者対象は学校や図書館も含まれる。わたしが編集しているあいだの方針は「出版の自由は出版流通の自由なくしてありえない」という理念であった。出版・表現をもとにした表現物(著作物)は、読者に届いてはじめて存在理由・価値があると考えるからだ。

 こうした視座で業界ウオッチングをつづけた。出版をめぐる問題は山積していてそれをどう解決するかが日々の仕事であった。近年、出版物販売の低迷が課題になっていることは事実だが、とりわけ図書館に関するものが多かった。図書館の利用率が急に増えたわけではないが、図書館についてメディアが取り上げることが目立つ。
 いうまでもなく図書館は税金でつくられ運用されている。図書館は市民が知る・学ぶ・読む場であり、だれもが身につけることができる社会システムでもある。その図書館が、「にぎわい・人あつめ・新手」をキーワードに紹介されている。それらの多くが、いわゆる民営化されたものである。話題になることは否定しないが、それだけでいいのかと思う。

 新自由主義の流れのなかで多くの業種の民営化がすすんでいる。他方ではその破たんが各所で起こっていることも確かだ。そうしたなかで自治体が図書館を民営化することで経費削減を目的にしているのであろう。
 2016年に片山善博元総務大臣が「教育と並んで重要なのが図書館である。人は生涯に亘って成長を続ける存在」そして「人の自立の過程を、学校教育と並んでサポートする知的拠点が図書館にほかならない」。また、民営化が経費削減が目的であってはならないと発言した。
 当時、図書館界で注目された。図書館は専任・専門・正規でなければならない職種である。それは、民営化で本来の使命やノウハウが自治体に蓄積されなくなってしまい、また、その評価ができなくなることにある。

 最近問題になっているのが図書館における非正規職員の比率が約70%になり、賃金が低く、定着率が悪くなって官製ワーキングプアを生んでいることだ。図書館は本と利用者をつなげる場である。それを仕事とするのが図書館司書である。その司書の賃金が低いというのはどうしたことなのだろう。
 海外での図書館司書の専門職としての地位は高い。日本の場合そうなった歴史的経緯があり、その分析も必要だ。それは、国の図書館政策がおかしいからだ。同時に地方自治体が経費節減のために民営化していることが問題であるのは事実だろう。市民が図書館のあり方について協働して考える時期にきているのではないだろうか。(小手指町在住)
 「マスコミ・文化九条の会所沢」会報197号(3月5日発行)より
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2024年03月20日

【オピニオン】ステマ規制後も残る疑問 あご足つき取材 記者は決別せよ=志田義寧

 広告であるにもかかわらず、広告であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が規制されて4カ月が過ぎた。この間、ステマに関する目立った報道はなかったが、インターネット上ではステマが疑われる投稿も少なくなく、消費者の疑心暗鬼は拭えないままだ。本稿ではステマの問題点を改めて指摘するとともに、ステマと疑われても仕方がないあご足付き取材に苦言を呈したい。
                  〇   
 消費者庁は2023年10月1日、景品表示法の規制対象にステマを加えた。代表的なステマは、金銭を支払って良い口コミを書いてもらうことだが、過去には報道記事を装ったステマもあった。
 一般的に消費者は広告であれば、ある程度の誇張が含まれていると認識しており、それに目くじらを立てることはない。しかし、ステマは広告であることが隠されているため、消費者は第三者による公平な評価と勘違いして、合理的に商品・サービスを選択できなくなる懸念が生じる。ステマは「サクラ」や「やらせ」と同様、消費者を欺く悪質な行為と言える。

報道は対象外
 ステマの規制対象は口コミサイトやSNS等への投稿だけでなく、テレビや新聞、雑誌等も含まれる。ただし、報道に関しては「正常な商慣習における取材活動」に基づく記事であれば、ステマには当たらないとされている(消費者庁『ステルスマーケティングに関する検討会報告書』)。では、正常な商慣習における取材活動とは何なのか。報告書は「事業者が媒体に対して、通常考えられる範囲の取材協力費を大きく超えるような金銭等の提供、通常考えられる範囲を超えた謝礼の支払等」があるケースを正常な商慣行を「超えた」取材活動であると指摘している。これは裏を返せば企業の費用負担が常識の範囲内であれば、ステマには当たらないというわけだ。ただ、これには異を唱えたい。記者は企業から交通費等を含めたいかなる利益供与も受けるべきではない。

自動車やIT
 筆者の経験では、自動車業界やIT業界は交通費等を取材先が持つ、いわゆる「あご足付き」の取材ツアーが多い。過去には電子機器の商品発表会で、その商品をお土産として配っていたケースもあった。
 米ワシントン・ポストのコラムニスト、ジョシュ・ロギン氏は2019年3月、ツイッター(現X)で、中国の通信機器メーカー、華為技術(ファーウェイ)から交通費や宿泊費、食事代などが先方持ちの取材ツアーの誘いを受けたと暴露した。当時はトランプ大統領がファーウェイ排除に乗り出していた時期で、ファーウェイからすれば米国人ジャーナリストを招待することは藁にもすがる思いだったに違いない。しかし、その招待は正反対の結果をもたらした。
 外国プレスは取材先からの利益供与を厳しく禁じている。筆者が所属していたロイターも行動規範で「自分で費用を支払い、自分で旅行の手配もするのが基本姿勢だ」「ニュースソースから提供されるいかなる支払い、贈答品、サービス、利益(現金か物品かを問わず)を受け取ってはいけない」と定めている。ワシントン・ポストにも同様の規定があり、ロギン氏はツイッター上で直ちに断りの返信を送っている。

信頼回復へ
 多くのジャーナリストは、取材費用が企業持ちでも筆を曲げることはないと言うだろう。しかし、それを読者が知ったらどう思うか。取材費用を出してもらった商品レビューをいったい誰が信用するというのか。問題は筆を曲げるか否かではない。疑念を持たれること自体が問題なのだ。企業ジャーナリズムが信頼を取り戻すためにも、あご足付き取材という悪しき文化と決別する必要がある。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
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2024年03月15日

【オピニオン】「経済安保」で秘密保護法拡大 民間対象に新法案=丸山重威

  政府は2月7日、経済、技術分野にも秘密保護の「適正評価」(セキュリティ・クリアランス=SC)制度を広げ、秘密保護法の適用対象を拡大して民間事業者も含めることを柱とする改正案を示し自民党部会も了承した。
 秘密保護法は2014年、防衛、外交、スパイ防止、テロ防止の4分野について「特定秘密」を規定し、公務員などの「秘密の取り扱い者」を指定して安全保障に著しい支障を与える(情報)漏えいを防ぐとして成立した。実施状況は、毎年報告されるが、常に表現の自由やプライバシーとの兼ね合いについて問題を抱えてもいる。今回の政府の動きに対し日弁連は1月18日、「反対」の意見書を提出した。

研究者や企業を統制

 今回の改正案では、4分野の「特定秘密」に加えて、「重要経済安保情報」として宇宙やAI、インフラ関連などの「サイバー」「規制制度」「調査・分析・研究開発」4分野で、政府が指定秘密を拡大、民間にもSC制度の調査対象を大幅に広げる仕組みとなった。
 秘密の中身も従来の「機密」や「極秘」に、ごく普通の「コンフィデンシャル」と呼ばれる「秘」まで対象とし、5年の拘禁刑に相当する罰則の対象分野も新設する。
 急速な経済を含めた軍事化を進める岸田政権が,研究開発を国際協力で進めようとする研究者や企業を一層締め付け、国家管理する根拠つくりになりかねない問題法案でもある。

「ツワネ原則」を守れ 

 秘密保護法は制定当初から、国民の知る権利や人権保護と安全保障を両立させるための法制が議論されてきた。国際的には2013年5月、南アフリカのツワネに集まった国際連合、米州機構、欧州安全保障協力機構(OSCE)や70カ国、500人を超える安全保障、国際法の専門家がつくった「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(ツワネ原則)がある。
 A4版11nにのぼる日弁連の反対意見書は、「ツワネ原則に即し、知る権利とプライバシー権が侵害されない国民的な議論を経た制度的保障」を求め、@政府の違法な行為を秘密指定してはならないと規定すること、A公共の利害に関わる事項を明らかにしたジャーナリストや市民が刑事責任を問われることがないこと、B適正な秘密指定がされているかをチェックする政府から真に独立した機構を作ること、C一旦秘密に指定した事項が期間の経過などで公開される仕組みを作ることを挙げた。

意見書はさらに、@人権保障に関わる関連法が改正されようとしている、A官産学協共同の情報統制が進むことになりかねない、B秘密保護法の根本的な欠陥は残されたままである――と指摘。
 特定秘密の対象を明確にし、公共の利益に関する情報の流布で、個人が処罰されないようにすることなどを挙げ、国連自由権規約委員会の指摘を守るよう求めた。また、「秘密指定の要件があいまい」「公務員だけでなくジャーナリストや市民も,独立教唆、凶暴、扇動の段階から処罰されかねない」など、日弁連が指摘してきた問題点を正すよう改めて求めた。
            JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
     
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2024年02月02日

【オピニオン】政治資金の闇あらわ 「裏金づくり」政権揺るがす「政治とカネ」に切り込め=丸山重威

  23年暮れ、政界を揺るがす「政治資金パーティ」裏金疑惑は当初、カネの流れを記帳しない杜撰な会計処理による「記載漏れ」の政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)と思われていたが、「パーティ」を隠れ蓑にカネ集めをし、権力をカネで支配する「裏金つくりの宴」だったことが明らかとなり、当初の「安倍派の政治資金パーティ」問題から、自民党の各派閥にまたがる「政治とカネ」の大問題となって国民の信を失い支持率低下にあえぐ岸田政権を直撃。「政治とカネ」に加え、自民党内に「選挙のカオ」を巡る政局まで生じる事態となった。一方、本来なら疑惑「解明の主役」であるべきメディアは、検察にその座を奪われ後追い取材に終始。政界とは別の大きな課題を抱え込むこととなった。
                     □
 問題を告発したのは、政治資金問題を追及し続ける神戸学院大・上脇博之教授。赤旗日曜版22年11月6日号が報じたことから調べを進めた。

告発に特捜動く 
 11月2日、共同通信などが「自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティ収入を2018〜21年分政治資金収支報告書に過少記載している、と政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)で、東京地検特捜部に告発状が出されていた」と報道。
 問題がクローズアップされ、過小申告額は、清和政策研究会(安倍派)が約1900万円、志帥会(二階派)約950万円、平成研究会(茂木派)約600万円、志公会(麻生派)約400万円、宏池会(岸田派)が約200万円。総額は4000万円などと報じられた。
 地検が動いてその後、安倍派の不記載額は「1億円超」から「5億円」へと膨れ上がった。

裏金のカラクリ
派閥の政治資金パーティは、大量のパーティ券を政治家に割り当て、ノルマを超えた代金を派閥が政治家にキックバックする。そのカネを政治家が自分の政治資金団体に入れ、報告書に記載すれば問題はない。だが、派閥が「政治資金団体の報告には載せるな」と指示していたことで、特捜部は「組織ぐるみの裏金つくり」と見たようだ。
 安倍派は、安倍晋三氏の下、塩谷立会長、下村博文元文科相、世耕弘成参院幹事長、萩生田光一政調会長らが実権を握り、会計の事務総長を松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、高木毅国対委員長(22年から)らが務めてきた。

4閣僚を解任
 地検特捜の捜査が報道される中で、安倍派の閣僚4人、副大臣、政務官合わせて15人や自民党役員(萩生田、世耕、高木氏)も辞任を余儀なくされる状況になった。
結局、閣僚と副大臣は交代、若手の政務官については、大半が留任する形になり、12月14日、4閣僚が辞任、後任の官房長官に林芳正前外相、経産大臣に齋藤健前法相、総務大臣に松本剛明前総務相、農水大臣に坂本哲志元地方創生相が就任、副大臣5人と政務官1人も交代した。

メディアの役割は
 今回問題にされているのは、自民党の派閥による、党と同じ形の資金集めパーティでの裏金作りだが、政党には巨額の政党助成金が支出され、馳・石川県知事の口から明かされた内閣機密費もすべて国民の税金だ。
 カネで政治が歪められている事実は、この一件でいまや隠しようもなくなっている。
 今回の報道を「自主取材」と言っても結局、内実は検察のリークと示唆に引きずられ、政界の「観測」に乗った性格が強いとの印象は避けられない。
 捜査の行方は予断を許さないが、「報告書」やそれ以外の客観的事実の分析から核心をあぶり出すことが中心にならなければならないとすれば、検察が動くまで報じなかった多くのメディアは、またも赤旗に敗け、上脇教授に負けたことになる。
 問題の核心は、当然、政党助成金をどうするか、企業・団体献金をどうするか、内閣機密費をどうするかにある。
 メディアの課題は山積しているが、「政治とカネ」の問題は見過ごしてはならない問題だ。
メデイア本来の役割である権力監視の力を見せてほしいものだ。

                退陣もあり得る政局に

 疑惑の影響か岸田内閣の支持率は、時事通信調査(12月8日〜11日)で17・1%、不支持58・2%、毎日新聞(18〜19日)では、16%、不支持79%、とうとう10%台に転落した。「パー券裏金疑惑」が発展した結果だ。果たして、これで政権は持つのか? 検察の捜査にもよるが、政局は新年早々の岸田退陣もあり得る情勢になっている。
 一日も長く政権の座に居たいという岸田首相にとって、自民党総裁としての再選を確実にするためにも、いつ解散・総選挙が打てるかは大きな課題だった。ところが、ここで勃発した政治資金パーティ問題は、「清和会」にとどまらず、官房長官と3閣僚、副大臣5人、政務官6人にも直接関わる問題とわかり、支持率も低下、政権の存亡にも関わる事態になった。

党のカオ交代も?
 岸田政権は、安倍政権の安保法制に続く「安保3文書」で、敵基地攻撃を可能にし、防衛費の増額、NATOへの接近、中国包囲網―と米国の意向に沿った政策を次々と打ち出した。まさに安保政策の転換で、「安倍政治」を完成させた。
 これまでも、自民党は適当に「顔」を変え「目先」を変えながら、一貫して、対米追随・軍事強化・憲法無視の路線を続けてきたが、24年11月の米大統領選も控え、「首相交代期」に来た、との見方もある。年明け早々からの政局からも目が離せない。 
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号 


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2023年12月17日

【オピニオン】安倍派の裏金づくり・大阪万博「カネとカジノ」=守屋龍一

裏金づくり10億
 「しんぶん赤旗」日曜版(2022年11月6日号)のスクープがきっかけで、上脇博之・神戸学院大学教授が、自民党の政治資金パーティーの不記載問題を刑事告訴し、問題が表面化して1年がたつ。今や東京地検特捜部は、臨時国会が閉会したのを機に、安倍派議員への聴取を本格化させ、他の4派閥にも捜査のメスを入れる事態となった。
 あらためて自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派99人)の政治資金パーティーによる裏金づくりを知るにつけ、開いた口がふさがらない。時効にかからない5年間だけでも裏金の総額は5億円、いや10億円余とも言われ、所属議員の大半にキックバックされていたという。
 個々の議員が得た裏金は5千万円〜数万円の差があるとはいえ、その規模の大きさ、組織性・故意性の悪質さから見ても、政治資金規正法違反での立件は当然である。

ウミが噴きだす
 安倍政権10年の膿″が一気に噴きだしたというほかはない。アベノミクス推進、日銀と共同してのマイナス金利政策、国有地払い下げや設置認可を巡る「森友・加計学園」問題、公文書改ざん、「桜を見る会」への参加者・費用負担への疑惑、統一教会との癒着などなど、自民党内派閥の<一強多弱>に驕り、勝手放題に「政治とカネ」を使いまわしていたと言わざるを得ない。
 安倍派というが、正式には「清和政策研究会」という。由来は中国における諸葛恢の統治を<政清人和>、すなわち「清廉な政治は人民を穏やかにする」と称賛した故事から名づけたといわれる。
 だが実態はどうか。「清廉」どころか、カネに汚いだけでなく、保守タカ派の集まりで改憲を叫び、杉田水脈議員を筆頭にジェンダー平等に背を向け、国民を怒らせている。
 それなのに岸田政権は発足時から安倍派にしっぽを振り、安倍首相の銃撃事件による死という事態に「国葬」で対応し、さらに後継の安倍派幹部を、政権内の重要ポストに充てて優遇するという始末。やっと安倍派の閣僚4人・副大臣5人を交代させ、政務官6人は自主判断に任せるとした。
 とはいえ政権を、どう構成するのか、青写真すら描けていない。今や岸田政権の支持率は23%、レームダック状態に陥っている。しかも足もとの岸田派にも、数千万円のパーティー収入不記載の疑いが浮上している。

狡猾「3重取り」
 政治にはカネがかかると、よく言う。この「政治とカネ」問題をクリアーにするため政党交付金の導入を含む政治資金規正法が、小選挙区制と抱き合わせで1994年に制定された。まず導入された政党交付金の実態を見てみると、国民の税金総額315億円余を9政党に交付している。日本共産党は、この制度に反対し交付金を受け取っていない。
 自民党は159億1千万円の政党交付金を受け取っているうえに、企業・団体からの政治献金24億5千万円(2022年分)を手にし、さらに各派閥が政治資金パーティーを随時開催し、億とか何千万の単位でカネを集めている。まさに「3重取り」しているのだ。
 次に問題なのは、政治家個人への寄付は禁止されたが、政党への寄付は認め、「年間5万円超の寄付者および20万円を超える政治資金パーティー券の購入者は、政治資金収支報告書に氏名・金額などの明細を記載する」と規定したため、5万・20万の寄付をこえないよう分割するなど、明細隠しのカラクリ操作がはびこったのだ。
 さらに「政党本部からの寄付」は、受け取った議員は、その使途や明細について報告する義務がない。
 まさに政治資金規正法がザル法になっていた。共産党が「企業・団体献金(パーティー券購入も含む)の全面禁止法案」を提出しているが、政党助成金制度も廃止し、抜本的に改正するのが急務だ。

維新、ボロ儲け
 大阪・関西万博の開催に猛進する日本維新の会。かつてそこの代表を務め、いま私人と称する橋下徹氏が、テレビ番組で「政治とカネ」の問題に触れ、「企業・団体から一切お金をもらっていない野党はないんです」と、「デマ」を飛ばし、翌日アナウンサーが謝罪する事態となった。
 日本共産党は政党交付金を受け取らず、企業・団体献金を禁じ、政治資金パーティーも開いていないのは常識だ。それすら知らないというのでは、お里(さと)が知れる。
 それどころか日本維新の会・幹部の国会議員が開く政治資金パーティーは1回で1000万円のボロ儲けだという。リテラのWEB記事(11/30)を参照し要約すると、以下のようになっている。
<藤田文武幹事長は2022年11月23日に「藤田文武を応援する会」を開催。この日だけで1518万円の収入、会場費・食事代などの支出510万9825円、利益は1007万8215円(利益率66.3%)である。
 続いて遠藤敬・国対委員長も、2022年12月12日に「議員活動10周年記念パーティー」を開催。1227万9615円の収入、支出263万8640円、964万975円の利益(利益率78.5%)。
 さらに、使途の報告義務がないのをいいことに政策活動費が、日本維新の会・馬場伸幸代表に、2016年から2021年の5年間に約2億4300万円が支出されている。
 2022年11月に公開された2021年分の収支報告書では、「政策活動費」として馬場代表に5600万円、2022年分では藤田文武幹事長に5057万5889万円を支出している。その使途は不明なまま>

万博に批判殺到
 日本維新の会が必死になる大阪・関西万博は、2025年に人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催される。だが遅々として進まない。無駄遣いと批判される「大屋根リング」に350億円もかけ、会場建設費だけでも最大2350億円、当初予算より約1.9倍になる。半年間のイベントのために、国民の税金で賄う国費まで使って運営に1360億円以上も投入する。
 夢洲へのアクセス用・鉄道建設や上下水道整備などを加えれば、万博関連事業費は8900億円。夢洲の地盤補強工事やカジノ事業も含めた全体費用は、なんと1兆2千億円にのぼる。
 万博が終わればパビリオンも大屋根もすべて撤去。一方、2030年に夢洲に開設されるカジノは未来永劫、営業を続ける。大阪・関西万博のレガシーはカジノ! そこに何百億円、何千億円もの税金が使われる。国民の納得など得られるはずがない。
 何よりも日本維新の会は、「カネとカジノ」が絡む、この無駄遣いを止めるのがさき。
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2023年11月18日

【オピニオン】平和を創り出すために─3つのメディアからの考察=大場幸夫

まず「平和の敵」掴む
 今、岸田政権が強引に進めている戦争への動きに対して、私たちは平和の方向をより闡明(せんめい)に創り出さなければなりません。そのためには、進められている戦争政策を見つめ、それに抗う手立てを考え、みんなと論議し、ともに前に歩み出さなければなりません。時間も限られています。
 この間、平和を考えるヒントになる三つのメディア媒体による作品を、見つけましたので紹介します。作品の一つは、「しんぶん 赤旗日曜版」です。見出しはこうです。
 <核攻撃被害も想定  全国300自衛隊基地「強靱化」 防衛省が計画 /岸田政権の「敵基地攻撃」の危険>(しんぶん赤旗日曜版 2023年2月26日号)
 これは赤旗日曜版による防衛省の内部文書のスクープです。ご存知のように、岸田政権は23年度の予算案を1月23日に提出し、大軍拡や原発回帰等の重大問題を国民と国会に対して何らの説明もないままに通しましたが、その提出1カ月前、22年12月と23年2月 にゼネコン40数社、建設コンサルタント50数社の担当者を集め、この計画についての意見交換会を行っているのです。
 この事は、その後成立した「軍事産業支援法」なども見れば、岸田政権がどこを向いているのかを明確に現しています。また、内部文書には「各種脅威に対する施設の強靱化」を図る自衛隊基地が、北海道から沖縄まで300挙げてあります。沖縄はそのうち16カ所です。
 全国どこでも核戦場となることを想定していて、いま沖縄南西諸島で進められている基地強化の「諸工事」が、なんと日本全国で進められていることが分かります。

NPT問題の議論必要 
 作品の二つは、太田昌克・兼原信克・高見澤將林・番匠幸一郎『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書 2022年3月20日刊)です。これは 21年9月に行われた座談会の記録です。 参加者は、共同通信編集委員、元国家安全保障局次長、元軍縮会議日本政府代表部大使、元陸上自衛隊西部方面総監の肩書きを持った人たちで、現政権の核政策を主導してきたメンバーに、ジャーナリスト1人を加えた形です。
 核問題についての座談会の主要な目的は、「核兵器や核抑止について、座学や抽象論を排し、我々を取り巻く具体的な現実に即して話し合うこと」として、本書の章立ては、「核をめぐる現状」、「台湾にアメリカの核の傘を提供すべきか」、「北朝鮮の核」、「ロシアの核」、「サイバーと宇宙」、「日本の核抑止戦略」、「核廃絶と不拡散」とあり、ほぼ主要なテーマが網羅されています。
 各々の論点についての批判は頁の都合上ここでは避けますが、この座談会をかなりざっくり表現しますと、核抑止論の立場からの核廃絶論への批判と非難が大半で、それに抗する「具体的積極的政策提起」 が少し光ると言ってよい内容です。私には、ああそうか、空疎な言葉で飾った基本隠蔽ばかりの政府の核政策には、このような考えが反映していたのかと、「敵」の正体が分かる気がしていますが、核廃絶論からの「本音」が不足しています。
 そしてこの政府の核政策を具体的に跳ね返すには、かなりの力業が必要だと思いました。核廃絶論を訴える場合、もっと具体的政策を論議し提示しない限り、スローガンを叫んでいるだけになって、相手の胸に届かず、味方も増えません。
 私は反核運動や核兵器禁止条約の世界的拡大推進運動に賛成する立場から、様々な集団を一堂に集めて、この本にある章ごとの分科会を提起し、この中で紹介されている具体的積極的政策を、さらに膨らまし広げる論議ができないか、と思いました。
 核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用という3本柱に付け加えて、NPT問題(核拡散防止条約)についても分科会の一つに加えるべきでしょう。太田昌克・共同通信核取材班『「核の今」が分かる本』( 講談社+α新書 2011年7月20日刊)で、太田氏が指摘しているように、この問題も私たちは「人類は核のパワーと共存していけるのか」という現代社会がどうしても避けて通れない重大な問いに答えようとすることですから。 (→続きを読む)
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2023年10月09日

【オピニオン】政権忖度 放送法違反 NHKどうなった=編集部

 昨年12月、前田前会長(当時)以下役員は、稟議で、2024年度からNHKプラスで衛星放送番組を本格配信する設備整備事業を承認した。だが「インターネット活用実施計画」は地上放送番組配信が前提。前田会長ら役員の「承認事業」は放送法違反の行為だった。
 稲葉・現会長は5月16日、経営委員会でこの問題を報告。メディアの報道が始まる約2週間ほど前のことだった。
 だが稲葉会長はこの日、前田前会長のかかわりや責任について触れることなく、「再発防止策」のまとめ経営委員会に打診したが、森下経営委員超に拒否され激論になった。

 経営委員会の本来の業務執行は「役員の職務の執行を監督する」ことだが、森下経営委員長は「経営委は平成19年の改正放送法で、個別の放送番組の編集、その他の協会の業務を執行することができない」と突っぱねた。森下委員長言えば、「かんぽ不正報道」で放送法に反し、個別番組に介入したが、前田前会長らの責任追及になると今度は逃げ腰。その資質が問われる。
 7月11日、稲葉会長は経営委員会で放送法違反の責任を問われた前田前会長は退職金10%減額など関係者の処分を報告した。
 職員の不祥事の管理責任を問われた海老沢勝二、橋元元一元会長が退職金100%カットされたのに比しても軽い処分だが、経営委員からは「厳しすぎる」「特別慰労金を出し、そこから減額しては」など、前会長擁護論が相次いだ。
 
 問題発覚から2か月後の7月25日、稲葉会長は経営委員会に再発防止策を報告したが、内容はごく一般的で、今度は経営委員から「具体的な改善策を改めて示して」「経営の意思決定プロセスのより具体的なルールを設定すべきで」などの要望が相次いだ。今回の問題で、稲葉会長は内部監査結果の公表を拒んでおり、意思決定のプロセスや関係者の責任の所在が不明のままで多くの疑問が残った。
 ここで思い出されるのは、元NHK経営委員長代行で企業のガバナンスに詳しい上村達男氏が「NHKの会長はすべてを一存で決められる専制君主のような存在になりがち」「一歩間違えると独裁もあり得てしまう構造になっている」と指摘していることだ。
 前田前会長はじめ関係者の責任追及とともに、NHKのガバナンスのしくみにもメスを入れる必要がありそうだ。
                           ◇
 NHKの放送した番組についても問題が起きている。5月15日放送の「ニュースウオッチ9」は「ワクチン死」を「コロナ死」と誤認させるような報道をし、BPOが6月9日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
 7月25日の経営委員会では、問題が起きた経緯について、ニュース取材担当者が、ワクチン接種後死亡者の遺族も、コロナ禍で家族を 亡くした遺族であることに変わりはないという認識で取材・制作を進め、不適切な伝え方につながったと説明された。
 しかし、NHK関係者からは、報道局には政府に忖度し、ワクチン被害をタブー視する風潮やワクチンのネガティブ情報を出さない暗黙の了解があるとも聞く。
 問題は現場の取材力の劣化だけでなく、編集責任者の姿勢も影響していないか。第三者機関による踏み込んだ詳しい検証に期待したい。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
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2023年09月20日

【オピニオン】「戦う覚悟」誰のため 戦争前提の麻生発言糺せ=編集部

  麻生太郎自民党副総裁は8月8日、台北市内で講演し「台湾海峡の平和と安定には、強い抑止力が必要で、そのため日米や台湾には『戦う覚悟』が求められている」と強調した。与党の「ナンバー2」の有力政治家が公然と「台湾有事」を語り、「戦う覚悟」を主張した前例はさすがにない。またも「(改憲は)ナチスにならえ」の類の「暴言」「失言」か、と思ったら、メディアは「個人の発言ではなく政府内部を含め調整をした結果だ」(自民党・鈴木馨祐政調副会長)と報じた。

抗議に逃げ腰
 もしそれが事実なら絶対に放置、容認できない状況だが、松野博一官房長官は「コメントを差し控える」と、逃げの一手。一方で台湾の蔡総統は「多くのアドバイスと激励を受けた」とし、中国外務省は「日本の政治家が勝手なことを言い台湾海峡情勢の緊張を騒ぎ立て対立を煽った」「1つの中国の原則と、中日政治4文書に違反する」とし、日本に厳正な申し入れをしたという。
 国内では、立憲民主党の岡田克也幹事長が「軽率な発言」とし、共産党の小池書記局長も「そもそも台湾防衛に防衛力をというのは、専守防衛に反する。日本に必要なのは戦う覚悟ではなく、憲法9条に基づき戦争を起こさせない覚悟だ」と述べた。

 台湾訪問では昨年8月、米国のナンシー・ペロシ下院議長の訪台が物議を醸したが、一方で米中関係は、オバマ政権以来、いわゆる「関与」から「抑止」政策に転換し、「新たな冷戦」とも言われながらも、台湾問題では注意深い対応が続けてきた。
 だが日本では逆に中国挑発の動きが目立ち、昨年12月、萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長など自民党幹部が相次いで訪台した。

  だが、国際的には日本も米国も、国交正常化実現の際「台湾は中国の一部である」との中国側主張を確認している。特に米国は台湾との商業、文化などの交流のため、米国は「台湾関係法」を制定したが、台湾への米国の武器供与では、中国側の異議で供与削減を声明したこともあるなど、米中双方に全面戦争の意志はない。国際法でも「1つの中国」の下での「中台衝突」は「内戦」。米国にも「干渉」できる余地はない。
 
権力監視はどこに
 問題はこの事態に麻生発言を批判する新聞論調が、戦没者追悼式の岸田首相の式辞と併せて「戦わぬ覚悟示してこそ」と書いた16日付東京新聞の社説以外ほとんど見当たらないことだ。
9月18日は、柳条湖事件(満州事変)から92年。関東軍の「謀略」を報じなかった新聞が一斉に軍を支持し「暴支膺懲」へと転換した悔恨の記念日だ。
 8月11日付朝日新聞はこの事件が「爆破の真相探らず追認」と、当時の奉天通信局長薄々気付きながら真相を探らなかったことが朝日の方針転換の伏線だったことを改めて書いた。
 既に2007年の連載企画で報じられ、書籍化もされているが、奉天通信局長は武内文彬記者。「満州事変が起きなかったら日本はつぶれている」と語ったという。 
 メディアは「新たな戦前」に組み込まれ、もはや麻生発言批判すらできない状態に陥ったのだろうか。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号

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2023年09月17日

【オピニオン】核抑止論を否定した 被ばく78年 2つの平和宣言 広島は揺れ動いた=難波健治(広島支部)

1面写真_2023-ヒロシマ平和公園 (002).png
    8月6日、広島平和記念式典

この夏、被爆地・広島は揺れた。そして、一つの確かな手応えを得た。市民が動けば、被爆地の政治を動かすことができるという体験である。「被爆者の思いを無視して核兵器禁止条約の枠組みに入ることを拒み続ける人物は、被爆国の首相として居続けることはできない」――そんな確信を市民に抱かせるほどの「熱い」体験であった。
1面下写真 参列者.JPG
          黙とうする市民たち
 「核抑止論にこれほど焦点が当たった原爆の日はかつてなかったのではないか」。これは、平和記念式典翌日の7日付、地元紙・中国新聞社説の書き出しである。
 背景には、5月に広島で開いたG7サミットが初めて打ち出した核軍縮文書「広島ビジョン」があった。岸田文雄首相を含むG7首脳たちによるこの声明は、「核兵器は存在する限りにおいて防衛目的の役割を果たす」と明記し、核抑止を正当化した。核廃絶への具体的な道筋は何も示さなかった。
 文書が公表されたのはサミット初日の5月19日夜。首脳たちはこの日、原爆資料館を見学し、被爆者の証言に耳を傾け、慰霊碑に花輪を手向けた。しかし核兵器を保有し、核に依存する当事国としての責任感は文書から何も伝わらない。核兵器禁止条約の意義は無視され、核兵器「廃絶」の文字もない。

 広島は、サミットの議長を務めた岸田首相の地元であり、選挙区でもある。
 被爆者団体は動いた。市民も動いた。市役所を訪れて要請文を渡し、街頭でも訴えた。「松井一実・広島市長は8月6日の平和宣言で、『広島ビジョン』の核抑止肯定を否定せよ」「国と自治体は、考えが違って当然だ」と。そこには、「『広島ビジョン』が被爆地広島の考えだと世界の人々に受け止めたら、今後、広島の核兵器廃絶の訴えは説得力を失うだろう」という、強い危機感があった。

 そして8月6日、2023年広島の平和宣言が発せられた。松井市長は、「核抑止論は破綻している」と明言した。「世界中の指導者は、このことを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要がある」と呼びかけた。
 付言しておきたい。式典のあいさつで毎年のように核抑止論を否定してきた広島県の湯崎英彦知事はどう語ったか。
「核抑止論者に問いたい。核抑止が破綻した場合、全人類の命に責任を負えるのですか」と問いかけ、ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては「ウクライナが核兵器を放棄したから侵略を受けているのではありません。ロシアが核兵器を持っているから侵略を止められないのです」としたうえで、この構図は「予想されてきたことではないですか」と核抑止論の矛盾を突いたのだ。

                 核なき世界へ行動を
 さて、岸田首相である。式典でのあいさつや被爆者団体の要望を聞く場で核抑止論についての明確な説明はなかった。
 8日の記者会見で松野博一官房長官は「米国が核を含むあらゆる種類の能力を用いて、日米安全保障条約上の義務を果たすことに全幅の信頼を置いている」と述べた。ミサイル発射などを繰り返す北朝鮮などを念頭に「核抑止力を含む米国の拡大抑止が不可欠」との考えも示した。そのうえで「核兵器のない世界に向けて現実的で実践的な取り組みを継続、強化していく」と語ったのである。

 この夏、私たちは学んだ。核抑止論に立つ政治家たちが口にする「核のない世界」は、私たちが願う「核兵器廃絶」とは違うこと、むしろ「核兵器を存続させるための核軍縮」だということを。

 核抑止論を否定した今年の広島平和宣言について中国新聞は7日付2面で次のような指摘をした。
 松井市長が読み上げた宣言は、「広島ビジョン」をそのまま引用した。その原文である外務省の和訳は、英語の本文に照らすと趣旨が捻じ曲がっている。「国の安全保障を損なう恐れがある限り、(核兵器)廃絶はできない」というのが「ビジョン」本来の意味。その点で今年の平和宣言は、核抑止論を否定とともに、この「条件付きの核兵器廃絶も明確に否定する必要がある」と書いた。

 私たちは事柄の本質を正確に把握したうえで行動しなければならない。
 いま広島では、日米が共に手を携えて戦うための世論づくりと思わせるような事態が続いている。
 広島市教委作成の平和教材「ひろしま平和ノート」が改訂で、この春から『はだしのゲン』(中沢啓治・作)が削除された教材が現場で使われ始めた。同時に第五福竜丸事件も教材から消え、さらに、原爆を投下した米国を「赦(ゆる)し」たうえで「未来志向」で日米の「和解」と「提携」を勧める著者による「父の被爆証言」が大々的に掲載された。
 サミット閉幕後、発表された広島市の平和記念公園と米国ハワイ州にある「パールハーバー国立記念公園」の「姉妹公園協定」も、議会への説明もなく、寝耳に水のような出来事だった。
 太平洋戦争開戦の端緒を開いた真珠湾攻撃と、「戦争終結のためだった」と米側が説明する原爆投下地との姉妹協定は、原爆投下は「因果応報」で「正しかった」と理解されかねない。
 「締結はいったん保留し、全市的な議論を」という市民の申し入れは無視され、調印は1週間後に行われた。

 このようにこの夏、広島は揺れ続けた。市民は声を上げ、メディアも「この広島ビジョンは受け入れがたい」と間髪入れずに主張した。この動きに押される形で平和宣言は、異例の強い調子で核抑止論を否定した。
 しかし、「ウクライナの次は台湾有事」という主張に呼応する大軍拡路線が政府から提起され、市民に対する教育宣伝工作のような試みが、軌を一にして表面化している。
 この夏の確かな手ごたえを踏まえ、「戦争のために、ペンを、カメラを、マイクをとらない」取り組みを、私たちジャ―ナリストも周到に準備しなければならない。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号

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2023年09月04日

【オピニオン】JCJ発足の意義 報道・出版の一大ネットワーク 立命館大学 根津朝彦教授が講演=永山 済(北海道支部)

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 戦後ジャーナリズム史を研究する、根津朝彦・立命館大教授=写真=による「日本ジャーナリスト会議(JCJ)が目指したものー戦後ジャーナリストの職能連帯の試み」と題した講演会が7月22日、北海道大学で開かれた。

 戦後の文化運動など近現代日本思想史研究が専門の水溜真由美・北海道大大学院文学研究院教授が企画し、開催。JCJ北海道支部会員やメディア関係者らを含め、学内外の約20人が参加した。
 根津教授は最初に、アカデミズムの分野ではこれまで、占領期以後の戦後ジャーナリズム史についての研究が乏しかったと指摘、JCJについての先行研究も、内部関係者の記録以外にないのが実態だと述べた。

 JCJは「真実の報道を通じて世界の平和を守る」「言論・出版の自由を守る」など6項目を掲げ1955年2月、発足。JCJ誕生について根津教授は「JCJは当時のジャーナリズム人脈の結節点であり、戦後ジャーナリズムを研究する上で重要」との評価を示した。
 講演では創設から70年代前半までを取り上げた。特に、創設期について初代議長に「世界」編集長の吉野源三郎が就任したことの意味を詳述。レッドパージなど占領政策の影が強く残る中で、吉野の幅広い人脈と人望、加えて当時「世界」が持っていたブランド力ともいうべき社会的権威も背景にして「報道・出版界の一大ネットワークが形成された」と分析した。ささらに60年からの小林雄一議長時代を経て72年まで、時々の政治状況を映しながら変化してきた組織や運動の実態を紹介した。70年代以降の活動は今後の研究課題と話し、引き続き取り組んでいくことを表明した。

 現在のJCJについて、根津教授は「『OG・OB』団体で、JCJ賞を選考する顕彰団体的なものに変化してきた」との見方を示す一方、職能団体として長期的な実践を保持してきたことは重要であり、JCJ賞はすぐれた報道アーカイブ機能ーと評価。「新聞が斜陽産業などと言われるが、ジャーナリズムがついえてはならない。職能団体だからできることを」とも述べた。

 ジャーナリズムの貧困などと盛んにいわれる現状について、「報道の現場の問題だけでなく、研究者側からの貢献が少ない」との見方を示した。「メディア史」の研究が近年盛んになっている一方で、伝える“中身”である「ジャーナリズム史」としての「言論・思想に関わる分野の研究が、ややおろそかになっている」と、アカデミズム側の課題も挙げていた。
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根津教授の専門は戦後日本ジャーナリズム史。著書に「小林金三と「満州国」建国大学ー『北海道新聞』論説人を支えた東アジアの視座」(『言説・表象の磁場 シリーズ戦争と社会4』)(岩波書店)、「戦後『中央公論』と「風流夢譚」事件」(日本経済評論社)など。担当するゼミからは、毎年10人ほどがマスコミに就職しているという。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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