2022年08月20日

【オピニオン】記者守らぬ朝日に疑問 映画「標的」全国上映会=山田寿彦

 元日本軍慰安婦が名乗り出た記事を巡り、「捏造記者」と激しいバッシングを浴びた元朝日新聞記者、植村隆さんの闘いを記録したドキュメンタリー映画『標的』(西嶋真司監督、99分)が全国各地で上映されている。朝日新聞社は検証紙面で「捏造」を否定しただけで、植村さんの闘いを支援する姿勢を全く示さなかった。映画に、それを問う視点が欠けていることが惜しまれる。

 戦後、朝日は社史に汚点を残した記事捏造を2回犯している。伊藤律架空会見記(1950年)とサンゴ記事捏造事件(1989年)で、朝記者の名は今や忘れ去られている。だが、植村バッシングでは執筆した記者個人が「捏造」の事実がないのに執拗に「標的」とされ、勤務先(北星学園大学)や家族までもが「標的」とされた。矢面に立つべき朝日新聞「社」は最後まで後ろに隠れ続けた。
 映画に、植村さんの名誉棄損訴訟の被告の一人でジャーナリストの櫻井よしこ氏の記者会見シーンがある。「植村さんに取材しなかったのはなぜか」と問われた櫻井氏はこう答えている。
 「朝日新聞に取材を申し入れたら、木で鼻をくくった回答しかなかった。だから植村さんへの取材はしなかった」
 新聞社は朝日に限らず、自身が取材対象になると、「紙面がすべて」という常套句で説明責任を回避する体質がある。朝日は検証紙面で「女子挺身隊」と「従軍慰安婦」の混同を訂正、植村さんの記事を「事実のねじ曲げない」と結論付けた。説明はしないという朝日の姿勢に驚きはない。しかし、自社の記事が「捏造」と誹謗された責任を記者個人に負わせ続けた朝日新聞「社」の卑劣さは歴史に刻まれるべきだろう。
 バッシングの理不尽が知られ、反応した新聞・テレビは名誉棄損訴訟に転じて以降は冷淡になっていく。
北海道での『標的』連続上映会に先立つ6月7日、道政記者クラブ(加盟29社)で事前レクチャーがあった。道政記者クラブ(加盟29社)であった。だが取材に現れたのは朝日の記者1人だけだった。
 朝日は告知記事に続き、「(慰安婦と告白した女性が)強制的に連行されたという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載」だったとして「その部分は誤りとして訂正した」と、植村さんが訂正が必要な「誤報」を書いたとも読める注釈≠わざわざ付けた。
 経過の詳細を忘れたか知らない読者が、これをどう受け止めただろうか。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号 
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年06月11日

【オピニオン】夢洲カジノできれば 大阪が壊れる カギは「国際競争力」 公的負担は青天井 汚染・沈下対策も不備=桜田照雄さん寄稿

                              
桜田 画像 2017年秋.jpg
  
 安倍・菅政権下でなりふりかまわず喧伝されたカジノを柱とする統合型リゾート(IR)誘致計画は、大本命と目された横浜市の撤退に続き和歌山も断念。公式に誘致を表明しているのは維新が力を入れている大阪府・市の夢洲と長崎県の2地域だけとなった。政府方針の「最大3カ所」に収まる形になったが、世界で猛威をふるうコロナ禍でIR環境も一変した。コロナ以前に夢見た計画と経済効果が見込める保証はなく問題は山積だ。JCJ関西支部の要請で桜田照雄・阪南大学教授に寄稿いただいた。

 大阪府市では、オリックスとMGMリゾーツとの合弁会社である大阪IR社との間で、「基本協定」が2月15日に締結され、事業計画となる「区域整備計画」が公表され、4月26日、国への認定申請が行われました。
 「区域整備計画」は、「国際競争力の高い魅力あるIR施設でなければ、区域整備計画の認定を行わない」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)ので、「国際競争力」がカギです。

誘客競争には勝ち抜けない
 オリックスの責任者が「日本人客だけでも採算がとれる」と大阪市会の参考人質疑で回答したように、6400台のゲームマシンを24時間365日フル稼働させて5000億円近い粗利益を生み出す計画では、韓国やカンボジア、フィリピン、マカオとの誘客競争に勝ち抜くことはできないでしょう。「国際競争力の高い魅力ある」施設からは、ほど遠い施設になりそうです。
 また「国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設と収益面での原動力となるカジノ施設とが一体的に運営され、これまでにないような国際的な会議ビジネス等を展開し、新たなビジネスの起爆剤となり、また、世界に向けて日本の魅力を発信する、まさに総合的なリゾート施設であり、観光や地域振興、雇用創出といった大きな効果が見込まれるもの」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)でなければ、首相答弁との整合性がとれません。
 もっとも、カジノと「一体的に運営」され、「家族で楽しめるエンターテイメント施設」というコンセプトは、容易に実現できそうにはありません。世界の国のどこにも、そのような施設は生まれていませんし、エンターテイメントのコンテンツはある特定のターゲットに狙いを絞ったものがほとんどで、世代を超えて楽しめるコンテンツは存在していません。

法の想定とは矛盾する計画
 このように、計画が具体化されればされるほど、カジノ実施法の想定内容と現実の計画との矛盾があらわになっています。よほどの詭弁を弄しなければ、カジノ実施法の定めをクリアーすることは困難になってきています。

汚染物質含みの土砂で造成
 夢洲のある大阪湾は「洪積層地盤が沈下する世界でも稀な地盤」(故赤井浩一京大名誉教授)です。この地盤・地質問題がカジノ誘致の最大の障害として立ち現れています。
 夢洲の護岸設計は高層建築物を想定していません。したがって、護岸の強化工事が必要になります。万博会場にも使われる夢洲1区は1000万トンを超える焼却灰−ダイオキシンの巣と表現される−を素材に造成されました。カジノ・万博用地とされる夢洲2区・3区は、建設残土と浚渫土砂から造成されています。浚渫土砂の主たる供給源は、大阪市内河川に垂れ流されてきた汚染物質にまみれた川底土砂なのです。

有害汚水の処理施設なし
 行政は、浚渫土砂は海防法(海洋汚染等および海上災害の防止に関する法律,1971年)にしたがって処理してきたといいます。しかしながら、海防法は「浚渫土砂を造成へ有効利用を図る場合、浚渫土砂は造成のための『材料』であり、海防法の廃棄物の定義『人が不要とした物をいう』に該当せず(環境大臣の)許可申請の対象とはならない」と定めています。
 つまり、1987年の埋立開始から、土壌汚染対策法にもとづく環境基準が設定される2006年まで、法の網の目が及ばない環境規制だったのです。また、有害物質を含んだ土壌と雨水による汚染水を処理する施設すら、夢洲2区・3区にはありません。

事業者判断で撤退可能とは
 カジノ事業者が事業を断念する条件の一つに、地盤沈下対策があります。基本協定書には、「設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれに限らない)が生じていないこと、又は、生じるおそれがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者は、……(中略)……適切な措置を講じること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な対策の費用の負担も含むものとする」とあります。
 稀な地盤・規制の不備・沈下対策。万全の対策をとらないかぎり夢洲カジノは実現しません。実現すれば、その後の開発にお墨付きが与えられます。とはいえ、対策費は青天井となるでしょう。最後に、事業の実施が困難だと事業者が判断すれば撤退できる。基本協定書はそう語っています。国はこんな杜撰な計画を認めてはなりません。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年05月28日

【オピニオン】露「ウクライナ侵攻」に便乗 改憲、核武装の世論づくり 迫られる「平和」守る覚悟=丸山重威

 ロシアのウクライナ侵攻に便乗して、日本の右翼・軍拡勢力が、改憲と核武装を主張する世論づくりに躍起だ。安倍元首相の「核共有論」や、国家基本問題研究所(櫻井よし子理事長)の「9条で国は守れるのか」の「意見広告」はその代表だ。

 核「威嚇」利用し
 核武装の検討主張


 プーチン露大統領は2月24日、「ウクライナの現政権に虐待された人々を保護し、同国を脱ナチス化するために、軍事作戦の実行を決めた」と発表したが、併せて「現代のロシアは、世界でも最も強力な核保有国の一つ」「ロシアへの直接の攻撃は侵略者の壊滅と悲惨な結果につながる」と、核兵器で威嚇した。
 国際的にも批判が高まった「核威嚇」発言だが最初に「便乗」したのが安倍晋三元首相。27日午前のフジテレビで、米国の核兵器を自国領土内に配備・運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)を日本でも議論すべきだ」と述べた。 「日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核三原則があるが、世界はどのように安全が守られているか、議論していくことをタブー視してはならない」とも。早速産経新聞3月1日付主張が「国民守る議論を封じるな」と追随、「文芸春秋」5月号は、安倍氏のほか、E・トッド氏の論文「日本は核武装を」を掲載。特集を組んだ。

 「国を守れない」と
 憲法九条でを攻撃


 もうひとつ、目立つのが、「9条では国を守れない」という「憲法9条攻撃論」。3月13日の自民党大会で岸田文雄首相は、ウクライナ侵略をあげ、「防衛力の強化と党是の改憲の実行に取り組む」「そのための力を得る闘いが参院選」と主張した。自民党は「憲法改正推進本部」を「実現本部」に変更、全国で集会を開いて国民世論を喚起する方針だ。
ロシアの侵略を「だから軍隊を持って対抗しないといけない」とみるか「軍事力の強化は軍事対決・挑発を激化させる。非武装・不戦の九条の意議はますます大きい」とみるか―。九条の会は2月25日「ウクライナ侵略とそれを口実にした9条破壊、改憲は許さない」と声明した。

 九条の会「声明」
 不戦の意義広める


 自民党は、この春、憲法審査会の毎週開催を主張し。実際にこれが進んだ。衆院憲法審査会の新藤義孝自民党幹事は、4月10日、フジテレビで、「憲法9条の最大の問題は国防規定がないことだ」と主張。「この議論は憲法審査会でぜひやりたい。安全保障に対する議論はこれから…」と述べ、動き出した。
 世界が武力で対立する中で、日本が不戦・非武装を貫き、平和と安全を守るか。ウクライナ問題は、その「覚悟」を日本人自身に迫っている。
  丸山重威
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
  
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年04月15日

【オピニオン】北京冬季五輪 近代五輪の限界露呈 内向き報道見直しを=徳山喜雄

                          
北京五輪.jpg

 政治的な思惑がむきだしとなった北京冬季五輪が閉幕した(2月4〜20日)。新疆ウイグル自治区の少数民族への人権抑圧など問題を抱える開催で、米国や英国、カナダなどは政府当局者を派遣しない外交ボイコットに踏み切った。開会式では習近平国家主席と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長がともに姿をみせ、ロシアのプーチン大統領をはじめカザフスタンのトカエフ大統領、サウジアラビアのムハンマド皇太子ら強権国家の首脳らが並んだ。
 1980年モスクワ五輪はソ連のアフガニスタン侵攻で西側諸国がボイコットし、次の84年ロサンゼルス五輪は報復措置として東側諸国がボイコットした。今回、プーチン大統領は五輪後まもなく、ウクライナへの侵攻をはじめ、核兵器の使用さえちらつかせた。冷戦時代さながらの光景がみられるとともに、近代五輪の限界が露呈した。
一方、日本メディアは自国選手の活躍ばかりに焦点をあて、外国勢の動きをほとんど伝えていない。こうした内向きの五輪報道では、スポーツの素晴らしさや楽しさが十分に伝えられていないという印象を強くもった。

失格泣き崩れる
ジャンプの高梨


 北京は夏季と冬季の五輪を開催する初めての都市となり、これを推進した習主席が開会式で称えられるなど、長期政権に向けての徹底的な五輪の政治利用が浮き彫りとなった。聖火リレーの最終走者にはウイグル族の女性選手が起用され、ここでも政治色の濃い演出が際立った。
 昨夏の東京五輪のように、難易度の高い技に挑戦し失敗した選手を称え、ライバル選手らが抱き合うという感動的なシーンもみられた。しかし、競技のルールや判定をめぐって異例ともいえるトラブルも相次いだ。
 たとえば、スキージャンプで高梨沙羅ら4カ国5人の女子選手がジャンプ後に、スーツサイズの規定違反の判定を受け、失格になった。高梨の場合、スーツの両太ももの部分が規定より2センチ大きいとされたが、2日前の競技でも同じスーツを着ており、問題になっていない。
両手で顔を覆って泣き崩れる高梨の姿がテレビに映しだされたが、見てられなかった。日本メディアは事実関係を伝えるだけで、判定の問題点を強く主張することがなかった。報道のありようを再考してほしい。
 IOCの振る舞いは相変わらず不可解だ。バッハ会長は、張高麗前副首相から性的関係を強要された後に不倫関係にあったと告白した元テニス選手の彭帥さんと会食し、競技をともに観戦した。彭さんは昨年11月、SNSに前副首相との関係を記載したが、直後に削除され一時消息不明になり、物議をかもした。
 彭さんは冬季五輪の選手ではない。ここでなぜバッハ会長がでてくるのか。中国当局による彭さんへの行動制限や脅迫などの疑惑を払拭することにひと役買っているようにしかみえなかった。

ワリエワの悲劇
選手を使い捨て


 ドーピング問題はあとをたたない。国威発揚のための道具として使い、有能な選手を使い捨てていく光景が北京五輪でもみられた。フィギュアスケート女子の15歳のカミラ・ワリエワ(ロシアオリンピック委員会)は、悲劇的な結末を迎えることになった。
 ワリエワは団体で金メダルになったが、五輪前の大会で採取した検体から禁止薬物が検出され、IOCなどは暫定的な資格停止処分とした。しかし、16歳未満の選手が「要保護者」にあたるとの世界反ドーピング機関の規定があり、スポーツ仲裁裁判所は引き続き出場を認める裁定をした。
 これによってワリエワは女子フリーに参加。ここで非情ともいえる寒々とした光景を見た。精神的に追い詰められたワリエワは転倒を繰り返し4位に。こんな失意の選手に対し、著名な女性コーチは慰めるのではなく「なぜ、攻めの滑りをしなかったの。あきらめたの?」などと叱責する声がテレビ中継のマイクにひろわれた。
 ワリエワは赤い手袋をはめた手で顔をおおい泣き崩れていた。ジャンプの高梨が理不尽な判定に泣きつづける姿とも重なった。とりわけロシアにおいて、アスリートを使い捨ての消費財としか扱っていないことが、はっきりと見てとれた。記者会見したバッハ会長は「背筋が凍るような印象をもった」と述べている。
 国家主義による国威発揚のためのアスリートの歯車化と、商業主義による選手の商品化。宿痾ともいえる病に冒された近代五輪は、どこに向かうのだろうか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月25日

【オピニオン】名護市民が私たちに突き付けてきたもの 基地問題 決定権なき決定者 明星大学教授・熊本博之さん寄稿

                               
熊本先生.jpg
     
 辺野古新基地建設に反対する立場から立候補した岸本洋平氏を大差で破り、現職の渡具知武豊氏が二選を決めた1月の名護市長選挙。人口6万4千人ほどの地方自治体の首長選挙に多くの注目が集まったのは、もちろん、米軍普天間飛行場の移設先である辺野古があるからだ。選挙の結果は多くの新聞で一面を飾り、さまざまな論評が掲載された。かくいう私も、20年続けてきた辺野古集落でのフィールドワークに基づき、辺野古住民の立場から見た普天間基地移設問題について書いた『交差する辺野古』を勁草書房から上梓していたことから、いくつかの新聞社から取材を受け、記事を寄稿した。
 これほどまでに注目を集めたにも拘わらず、普天間基地移設問題は、実は名護市長選挙の争点ではなかった。争点になり得なかった、といったほうが正確だろう。それは政府に協調的な立場である渡具知氏が争点から外したというだけの理由ではない。そもそも名護市民は、普天間代替施設という名の新たな米軍基地を、辺野古の海を埋め立てて建設することの是非について、決定権を持っていないからだ。にも拘らず、名護市民は選挙の度に、建設への賛否を問われている。私はこの名護市民が置かれた状況を「決定権なき決定者」と呼んでいる。

止まらない計画

 なぜ決定権がないのか。それは政府が、「国防は国家の専管事項」という論理のもと、地方自治体の国防政策への関与を事実上拒絶しているからだ。そのことを名護市民は、辺野古移設が争点になった1998年の市長選挙からの24年間で、嫌というほど思い知らされた。受け入れを容認する市長が誕生したときだけ選挙結果が尊重され、反対する市長が誕生しても建設計画は止まらない。今回の選挙期間中も、土砂を積んだトラックが辺野古に向かう姿を何度も見かけた。どちらが勝っても建設は進めるという政府のメッセージだったのだろう。
 それでも名護市民は、投票に際して、普天間基地移設問題について考えざるを得なかった。なぜなら、渡具知氏が一期目の実績として掲げ、その継続を公約に挙げていた子ども医療費、学校給食費、保育費の無償化の財源は、市長が辺野古新基地の建設を容認していることに基づいて交付される米軍再編交付金だったからだ。そのため名護市民は、建設を止めることを諦めて交付金を受け取るか、止められる可能性は低くても建設を認めず、交付金も受け取らないかのどちらかを選ぶしかなかったのだ。
 そして名護市民は渡具知市政の継続を選んだ。そこからわかるのは、自分たちの生活が安定する可能性の高い選択をした市民のほうが多かったということだけだ。もちろんその決定は新基地建設を前に進めることになる。だが「止める」という選択肢がない中で出した名護市民の決定は、新基地建設を認めたということにはなるまい。決定権がないのだから、決定することもできないはずだ。

騒音は容認せず

 ではこの結果を、条件つきで受け入れを容認している辺野古区民はどう受け止めただろうか。渡具知氏の当選が確実になったあと、私は、渡具知氏を支持する区民が集まっている辺野古の公民館に向かった。渡具知支持の理由は、辺野古区の要望を聞き、政府に伝えてくれる市長だからだ。だが、公民館は静かなものだった。当選確実の瞬間も、それほど盛り上がってはいなかったという。
 辺野古の区長はその理由を「大事なのはこれからだから」と語ってくれた。辺野古の住民にとって大事なのは、安全に、安心して暮らせる環境を維持することだ。もちろんそのためには新基地の建設がなされないことが一番いいのだが、その可能性は低い。だから、建設されたあとの未来を見据えた上で、騒音の抑止などの施策の実施を、市長を通して政府に要求していく必要がある。区長が言うように、「辺野古は騒音まで容認しているわけではない」のである。

「勝者」なき選挙
 
 茂木自民党幹事長は、選挙結果を受けて「大きな勝利だ」と語ったというが、名護市民のなかに勝者は1人もいない。降りかかってくる負担を拒絶する選択肢を有権者が持たない選挙の勝者は、負担を押しつける者でしかないからだ。その意味では、名護市民、そして沖縄県民が「辺野古移設反対」の民意を何度示しても、それを顧みることなく建設を進める政府を支えてきた本土の私たちも、政府の勝利に加担していることになる。
 だから、東京を中心とするマスメディアが、沖縄での選挙に関する報道でやるべきことは、選挙結果から沖縄の人たちの意識を探ることではない。選挙によって沖縄が本土に突きつけているものを正しく受け取り、本土がやるべきことを示すことなのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
                             
名護市長選.jpg

posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月09日

【オピニオン】検査免除で致命的な感染拡大 「日米地位協定の穴」=前泊博盛

 米軍人・軍属らの日本入国時の入国管理、検疫、防疫態勢の不備が、新型コロナ「オミクロン株」感染拡大の中で国民の怒りをかっている。岸田内閣の「鎖国的」水際対策が、「日米地位協定の穴」からオミクロン株が日本に持ち込まれたからである。
 日米地位協定第九条(軍隊構成員等の出入国)で「合衆国の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用を除外される」とされている。外務省機密文書『日米地位協定の考え方』は「安保条約・地位協定の趣旨からして当然の規定(略)外国軍隊の駐留を認める限り当然のこと」と説明し、軍人、軍属、その家族は外国人の登録・管理などに関する日本法令の適用を「すべて免除される」と強調している。この「九条の穴」からオミクロン株は日本に一気に入り込んできた。
  世界最大級の感染大国アメリカでは、一日で百万人を超えるオミクロン株のパンデミックが昨年秋から始まっていた。しかし、米軍は日本など海外赴任や移動時の入国前PCR検査や抗原定性検査を、ワクチンを2回接種した米兵らには昨年9月から免除していた。出入国管理を米軍任せにしてきた日本にとって、検査免除による米兵らの出入国措置は、致命的なものとなった。

無頓着な政府
 オミクロン株が世界的なパンデミックとなる中、岸田内閣は昨年秋、海外からの入国制限による「鎖国的」水際対策による感染防止を打ち出した。だが、米軍は昨年9月の段階で「ワクチン2回接種者への直前検査なしでの米兵らの日本入国措置への変更」を本政府に伝えていたにも関わらず、対策は講じられず、鎖国的水際対策の防御壁に空いた「地位協定の穴」には無頓着だった。このためオミクロン株による感染拡大は年明けから沖縄、広島、山口など在日米軍基地を抱える地域で一気に広がった。
 感染拡大の中で、岸田内閣は「米軍基地由来もオミクロン株国内感染拡大の要因である可能性は否定できない」と認めた。しかし、岸田内閣は「そのこと(検査なし米兵の日本移動)を聞かされたのは(感染拡大が始まったあとの)昨年12月24日のことだ」と釈明した。釈明に「9月通告」を再主張する米軍に対し、岸田内閣は「米軍との齟齬がある」と釈明を重ねている。
 日本政府が在日米軍基地内での感染拡大に対し、基地外への外出規制などを米軍に求めたのは年明けから。オミクロン株感染でも国内最悪となった沖縄県の玉城デニー知事は「昨年12月20日には日本政府に米軍基地からの感染防止の徹底を求めたが、無視された」と怒りをあらわにしている。

改定求める声
  地位協定の穴から入り込んだ新型コロナの対応に四苦八苦する政府の対応に「日米地位協定の改定」を求める声が、政権与党内からもようやく出始めている。
 自民党は議員連盟「日米地位協定の改定を実現し、日米の真のパートナーシップを確立する会」を立ちあげ、2004年には独自の地位協定改 定案を策定し、国務省と国防総省に要請した。議連の当時の幹事長は後に外相や防衛相を務めた河野太郎氏、副会長はのちの防衛相となった岩屋毅氏だった。だが、米側に一蹴され、お蔵入りとなった。自民議連の改定案には米軍の訓練は提供施設区域内の実施を原則とし、国内の港湾空港を使用する際は国内法令に従うとしたほか、「人及び動植物の検疫に関しては日本の国内法を適用する」という条文も盛り込まれていた。検疫の見直しが実現していれば、今回の事態は回避できた可能性もある。自民党も米軍への検疫に対する国内法適用の必要性を認識しながら、対米交渉力の欠如から問題が放置されてしまった。そしていま、そのツケが、オミクロン株の感染拡大という形で国民にふりかかかっている。
 「日米地位協定の穴」から漏れる感染症問題を、今後、どう解決するか。いざという時に日本を守ると信じられている日米安保が、国民の命を脅かすことがないように、今回の米軍基地由来の感染拡大問題を機に、地位協定問題が国民的論議となることを期待したい。
 前泊博盛(沖縄国際大学・大学院教授)
posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年03月08日

【オピニオン】新宿駅上空を低空で8回 安全高度無視の米軍ヘリ 毎日新聞・大場記者に聞く=須貝道雄

                              
毎日新聞社会部、大場弘行記者.jpg
 
 日米地位協定で米軍は様々に優遇されている。毎日新聞は2020年2月から、特権を問う――日米地位協定60年」と題し実情を検証する報道を展開。今年1月に新聞労連ジャーナリズム大賞を受賞した。印象深いのは、人口密集地の東京で低空飛行する米軍ヘリを追った取材だ。撮影・報道した大場弘行記者=写真=に話を聞いた。

ビル間を抜ける
――何をきっかけに米軍ヘリの低空飛行を追いかけようと思ったのか。
 「米軍ヘリが都心で低空飛行しているとの噂は前からあったが、新聞などではコラムのような記事しか出ていなかった。『特権を問う』シリーズで、本格的に米軍ヘリの飛行実態を映像で撮ろうということになった」
「私は前から公文書問題を取材してきた。戦後から現在まで、日米合同委員会などの交渉記録は70年分くらい、たくさんあるのに、外務省の倉庫に眠っていて、公表されない。ならば米軍の幹部をウオッチすれば、何らかの情報を得られるだろうと、東京・六本木の米軍へリポートに降り立つ幹部を見張り、手がかりをつかもうと考えた。ただすぐに成果は出ない。米軍ヘリの飛行動向も同時に追おうと、写真映像報道センターの加藤隆寛記者らに声をかけて取り組んだ」

――日米地位協定に基づく特例法で、米軍は日本の航空法の適用を受けない。結果として航空法81条で定めた最低安全高度を無視する米軍ヘリが相次ぐ。その姿をどのようにとらえたのか。
「米軍ヘリの観察は高層ビル(高さ200b台)が立ち並ぶ新宿などに拠点を設けて実行した。人口密集地では、ヘリから半径600b以内にある最も高い建物の先端から、300b以上高く飛ばなければならない。これが航空法で定めた最低安全高度だ。米軍ヘリはどのくらいの高さで飛んでいるか、ビルの高さと比べて推定することにした」
「新宿上空を低空飛行する米軍ヘリを最初に見つけたのは20年7月9日午後1時過ぎ。陸軍のブラックホーク2機が上野方面から来て、東京都庁第1本庁舎(高さ243b)とNTTドコモ代々木ビル(270b)の間をすり抜けた。ビルより低い高度で飛ぶ姿を撮影した。二つのビルの間は1100b。この間を抜けたことは明らかに最低安全高度に違反している」

徒労の日も多く
――どのくらいの期間、ヘリを観察したのか。
「この7月9日を皮切りに半年続けた。毎日というわけではなく、うち90日間、都庁の展望台や他の高層ビルから空を眺めた。1日3〜5時間立っていた。六本木の米軍ヘリポートの動きも見続けた」
「ヘリは東京の横田基地、神奈川のキャンプ座間から飛んでくることが多いので、西の空に目を凝らした。西日がきつかった。低空飛行を実際に目にしたのは90日間のうち約20日間・延べ24回。他の日は徒労に終わり、つらいこともあった」
「これは記事でいけるぞと確信したのは20年8月18日だ。六本木の米軍ヘリポートから午前11時前に、迷彩服姿の若い兵士6人を乗せて、ブラックホークが飛び立った。基地のある神奈川方面に向かわず、渋谷駅周辺から新宿へ来て、7月9日と同じく都庁とNTTドコモ代々木ビルの間を抜けた。新宿駅、東京ドーム、上野公園、浅草の上空を通り、東京スカイツリーを過ぎたところでUターンし、同じコースをたどって新宿に戻って来た。遊覧飛行のように見えた。目的はなぞだ。専門家らの話では市街戦を想定した訓練とする見方もある」
「私たちはブラックホークが新宿駅の真上を低空通過する様子を8回確認した。新宿駅は1日の乗降客数が世界最多の350万人。一つ間違えれば大惨事になりかねない」

――問題はどこに。
「日米地位協定は16条で、米軍に対し日本法令の尊重義務を求めている。だが米国側に日本政府はほとんどものを言えないのが実情。米軍任せにしている」  
聞き手・須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号



posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月28日

【オピニオン】いじめ凍死 背景への視点欠く報道続く 発達障害、精神医療に触れず 集会の趣旨を歪曲=℃R田寿彦

211129.jpg

 北海道旭川市で昨年3月、中学2年生(当時)の廣瀬爽(さ)彩(あや)さんが凍死体で見つかった「いじめ凍死事件」を考える市民集会(本紙12月号で既報)を報道各社の多くがニュースとして取り上げた。各社の報道を検証すると、事件の背景として集会が指摘した発達障害診断と精神医療の問題に触れた報道は一つもなかった。事件をとらえる重要な視点がマスコミの無能によって覆い隠される状況が続いている。山田寿彦北海道支部

  集会は精神科医の野田正彰氏を講師に旭川で11月28日、札幌で29日=写真=、釧路でも30日に開かれた。ほぼ同内容の講演で、北海道新聞(道新)は3回の集会をすべて写真付きで記事にした。
 旭川集会の道新の見出しは「社会良くなる努力を」。講演から抜き出した部分は「私たちの社会が良くなる努力をすることが彼女への手向けとなる」「なぜこのような問題が起きたのか問われなければいけない」。
 札幌集会の見出しは「地域の子どもに関心を」。講演の内容は「地域社会を含め、周囲の大人は子どもたちが楽しく学校生活を送れているか関心を持つ義務がある」。
 釧路集会の見出しは「社会のひずみ追究を」。野田氏の言葉として「彼女にとってどういう社会であってほしかったか、私なりに考えて世に訴えていきたい。そして、日本の社会を変える一歩にしたい」と伝えた。
 テレビ各局は旭川集会を報道した。NHKは「子どもをいじめからどう守る 中学生死亡の旭川市で市民集会」の見出しで、野田氏の講演を「今の社会の仕組みでは、子どもたちが自分らしい生き方をするのは難しい。爽彩さんが亡くなった背景はどのようなものか、子どもの立場になって考えることが必要だ」とのみ紹介した。

 他の民放も「講演した精神科医は全国にいじめ問題が広がる中、悩みを抱える生徒の声に大人が耳を傾ける必要があると訴えました」(HTB=テレビ朝日系列)、「(野田氏は)廣瀬さんが亡くなった背景に何があるかを考え、悩みを抱える子どもたちを社会が守っていくことが必要だなどと訴えました」(UHB=フジテレビ系列)といった内容にとどまった。
 筆者は旭川と札幌の集会で司会進行を担当。旭川では、この事件は「いじめを認定しなかった学校の問題」にとどまらず、発達障害診断と精神医療の問題を考えることを避けて通れないと強調した。
 札幌集会では旭川集会の各社報道を強く批判し、「従来のステレオタイプな視点でこの事件は説明できない」と改めて趣旨を説明した。しかし、道新のその後2回の報道内容は変わらなかった。
 野田氏は「社会を良くする努力をすることが彼女への手向けとなるとか、なぜ起きたかが問われなければならないなどと私が言ってもいないことが記事になっている。これは偽造だ」と憤る。

 事件の焦点は「いじめの有無」にあると繰り返し報道されている。集会はそれとは異なる視点を提起した。集会にニュースバリューを認めながら、報道がここまで的を外すのは意図的なのか、記者の筆力の問題なのか。札幌集会を記事にした道新の記者に直接聞いた。
 記者は「他意はない」としながらも、「旭川、札幌、釧路の記事は別々の記者がそれぞれの判断で書いている。ここを書いた、書かなかった、の判断については答えられない。正式な取材ならば会社の広報を通してほしい」と答えた。「発達障害や精神医療の言葉をデスクに削られたのか」との質問にも「答えられない」。署名記事の主体性はどこにあるのだろうか。

 旭川集会の記事を書いた記者にも直接質問したが、「持ち帰らせてほしい」と言ったまま、なしのつぶてだった。そこで道新の広報担当者に以下の質問メールを送った。
 「発達障害や精神医療の問題を書かなかった理由をお答えください。社の判断として削ったのであれば、その理由もお聞かせください。集会の趣旨の核心部分を伝えないのは趣旨の歪曲ではないかと思うが、ご見解をお聞かせください」
 道新からの回答は「いずれも弊紙が読者に伝えるべき内容を吟味して記事化したものです」。これだけだった。
 爽彩さんが発達障害ラベリングと服薬に小学校時代から苦しみ、自殺未遂直後に精神科病院で酷い医療措置を受け、その後も抗精神病薬を死に至るまで服薬させられていたことは、母親が公表した手記などから明らかになっている。
 旭川・札幌集会実行委員の一人で帯広市の元小学校教員、吉田淳一さん(65)は「集会参加者のアンケートは『発達障害や精神医療の問題が背景にあることに気付かされた』という内容のものがほとんどだった。記者がなぜ理解できないのか。明らかに避けているとしか思えない」と疑問を呈した。
 昨年11月9日にNHK『クローズアップ現代+』、同27日のTBS『報道特集』が事件を詳しく報道したが、学校や市教委の隠ぺい体質など、ありきたりの批判をしただけで、深く掘り下げる内容には程遠かった。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
posted by JCJ at 01:00 | オピニオン | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする