2024年02月02日

【オピニオン】政治資金の闇あらわ 「裏金づくり」政権揺るがす「政治とカネ」に切り込め=丸山重威

  23年暮れ、政界を揺るがす「政治資金パーティ」裏金疑惑は当初、カネの流れを記帳しない杜撰な会計処理による「記載漏れ」の政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)と思われていたが、「パーティ」を隠れ蓑にカネ集めをし、権力をカネで支配する「裏金つくりの宴」だったことが明らかとなり、当初の「安倍派の政治資金パーティ」問題から、自民党の各派閥にまたがる「政治とカネ」の大問題となって国民の信を失い支持率低下にあえぐ岸田政権を直撃。「政治とカネ」に加え、自民党内に「選挙のカオ」を巡る政局まで生じる事態となった。一方、本来なら疑惑「解明の主役」であるべきメディアは、検察にその座を奪われ後追い取材に終始。政界とは別の大きな課題を抱え込むこととなった。
                     □
 問題を告発したのは、政治資金問題を追及し続ける神戸学院大・上脇博之教授。赤旗日曜版22年11月6日号が報じたことから調べを進めた。

告発に特捜動く 
 11月2日、共同通信などが「自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティ収入を2018〜21年分政治資金収支報告書に過少記載している、と政治資金規正法違反(不記載・虚偽記入)で、東京地検特捜部に告発状が出されていた」と報道。
 問題がクローズアップされ、過小申告額は、清和政策研究会(安倍派)が約1900万円、志帥会(二階派)約950万円、平成研究会(茂木派)約600万円、志公会(麻生派)約400万円、宏池会(岸田派)が約200万円。総額は4000万円などと報じられた。
 地検が動いてその後、安倍派の不記載額は「1億円超」から「5億円」へと膨れ上がった。

裏金のカラクリ
派閥の政治資金パーティは、大量のパーティ券を政治家に割り当て、ノルマを超えた代金を派閥が政治家にキックバックする。そのカネを政治家が自分の政治資金団体に入れ、報告書に記載すれば問題はない。だが、派閥が「政治資金団体の報告には載せるな」と指示していたことで、特捜部は「組織ぐるみの裏金つくり」と見たようだ。
 安倍派は、安倍晋三氏の下、塩谷立会長、下村博文元文科相、世耕弘成参院幹事長、萩生田光一政調会長らが実権を握り、会計の事務総長を松野博一官房長官、西村康稔経済産業相、高木毅国対委員長(22年から)らが務めてきた。

4閣僚を解任
 地検特捜の捜査が報道される中で、安倍派の閣僚4人、副大臣、政務官合わせて15人や自民党役員(萩生田、世耕、高木氏)も辞任を余儀なくされる状況になった。
結局、閣僚と副大臣は交代、若手の政務官については、大半が留任する形になり、12月14日、4閣僚が辞任、後任の官房長官に林芳正前外相、経産大臣に齋藤健前法相、総務大臣に松本剛明前総務相、農水大臣に坂本哲志元地方創生相が就任、副大臣5人と政務官1人も交代した。

メディアの役割は
 今回問題にされているのは、自民党の派閥による、党と同じ形の資金集めパーティでの裏金作りだが、政党には巨額の政党助成金が支出され、馳・石川県知事の口から明かされた内閣機密費もすべて国民の税金だ。
 カネで政治が歪められている事実は、この一件でいまや隠しようもなくなっている。
 今回の報道を「自主取材」と言っても結局、内実は検察のリークと示唆に引きずられ、政界の「観測」に乗った性格が強いとの印象は避けられない。
 捜査の行方は予断を許さないが、「報告書」やそれ以外の客観的事実の分析から核心をあぶり出すことが中心にならなければならないとすれば、検察が動くまで報じなかった多くのメディアは、またも赤旗に敗け、上脇教授に負けたことになる。
 問題の核心は、当然、政党助成金をどうするか、企業・団体献金をどうするか、内閣機密費をどうするかにある。
 メディアの課題は山積しているが、「政治とカネ」の問題は見過ごしてはならない問題だ。
メデイア本来の役割である権力監視の力を見せてほしいものだ。

                退陣もあり得る政局に

 疑惑の影響か岸田内閣の支持率は、時事通信調査(12月8日〜11日)で17・1%、不支持58・2%、毎日新聞(18〜19日)では、16%、不支持79%、とうとう10%台に転落した。「パー券裏金疑惑」が発展した結果だ。果たして、これで政権は持つのか? 検察の捜査にもよるが、政局は新年早々の岸田退陣もあり得る情勢になっている。
 一日も長く政権の座に居たいという岸田首相にとって、自民党総裁としての再選を確実にするためにも、いつ解散・総選挙が打てるかは大きな課題だった。ところが、ここで勃発した政治資金パーティ問題は、「清和会」にとどまらず、官房長官と3閣僚、副大臣5人、政務官6人にも直接関わる問題とわかり、支持率も低下、政権の存亡にも関わる事態になった。

党のカオ交代も?
 岸田政権は、安倍政権の安保法制に続く「安保3文書」で、敵基地攻撃を可能にし、防衛費の増額、NATOへの接近、中国包囲網―と米国の意向に沿った政策を次々と打ち出した。まさに安保政策の転換で、「安倍政治」を完成させた。
 これまでも、自民党は適当に「顔」を変え「目先」を変えながら、一貫して、対米追随・軍事強化・憲法無視の路線を続けてきたが、24年11月の米大統領選も控え、「首相交代期」に来た、との見方もある。年明け早々からの政局からも目が離せない。 
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号 


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2023年12月17日

【オピニオン】安倍派の裏金づくり・大阪万博「カネとカジノ」=守屋龍一

裏金づくり10億
 「しんぶん赤旗」日曜版(2022年11月6日号)のスクープがきっかけで、上脇博之・神戸学院大学教授が、自民党の政治資金パーティーの不記載問題を刑事告訴し、問題が表面化して1年がたつ。今や東京地検特捜部は、臨時国会が閉会したのを機に、安倍派議員への聴取を本格化させ、他の4派閥にも捜査のメスを入れる事態となった。
 あらためて自民党の最大派閥「清和政策研究会」(安倍派99人)の政治資金パーティーによる裏金づくりを知るにつけ、開いた口がふさがらない。時効にかからない5年間だけでも裏金の総額は5億円、いや10億円余とも言われ、所属議員の大半にキックバックされていたという。
 個々の議員が得た裏金は5千万円〜数万円の差があるとはいえ、その規模の大きさ、組織性・故意性の悪質さから見ても、政治資金規正法違反での立件は当然である。

ウミが噴きだす
 安倍政権10年の膿″が一気に噴きだしたというほかはない。アベノミクス推進、日銀と共同してのマイナス金利政策、国有地払い下げや設置認可を巡る「森友・加計学園」問題、公文書改ざん、「桜を見る会」への参加者・費用負担への疑惑、統一教会との癒着などなど、自民党内派閥の<一強多弱>に驕り、勝手放題に「政治とカネ」を使いまわしていたと言わざるを得ない。
 安倍派というが、正式には「清和政策研究会」という。由来は中国における諸葛恢の統治を<政清人和>、すなわち「清廉な政治は人民を穏やかにする」と称賛した故事から名づけたといわれる。
 だが実態はどうか。「清廉」どころか、カネに汚いだけでなく、保守タカ派の集まりで改憲を叫び、杉田水脈議員を筆頭にジェンダー平等に背を向け、国民を怒らせている。
 それなのに岸田政権は発足時から安倍派にしっぽを振り、安倍首相の銃撃事件による死という事態に「国葬」で対応し、さらに後継の安倍派幹部を、政権内の重要ポストに充てて優遇するという始末。やっと安倍派の閣僚4人・副大臣5人を交代させ、政務官6人は自主判断に任せるとした。
 とはいえ政権を、どう構成するのか、青写真すら描けていない。今や岸田政権の支持率は23%、レームダック状態に陥っている。しかも足もとの岸田派にも、数千万円のパーティー収入不記載の疑いが浮上している。

狡猾「3重取り」
 政治にはカネがかかると、よく言う。この「政治とカネ」問題をクリアーにするため政党交付金の導入を含む政治資金規正法が、小選挙区制と抱き合わせで1994年に制定された。まず導入された政党交付金の実態を見てみると、国民の税金総額315億円余を9政党に交付している。日本共産党は、この制度に反対し交付金を受け取っていない。
 自民党は159億1千万円の政党交付金を受け取っているうえに、企業・団体からの政治献金24億5千万円(2022年分)を手にし、さらに各派閥が政治資金パーティーを随時開催し、億とか何千万の単位でカネを集めている。まさに「3重取り」しているのだ。
 次に問題なのは、政治家個人への寄付は禁止されたが、政党への寄付は認め、「年間5万円超の寄付者および20万円を超える政治資金パーティー券の購入者は、政治資金収支報告書に氏名・金額などの明細を記載する」と規定したため、5万・20万の寄付をこえないよう分割するなど、明細隠しのカラクリ操作がはびこったのだ。
 さらに「政党本部からの寄付」は、受け取った議員は、その使途や明細について報告する義務がない。
 まさに政治資金規正法がザル法になっていた。共産党が「企業・団体献金(パーティー券購入も含む)の全面禁止法案」を提出しているが、政党助成金制度も廃止し、抜本的に改正するのが急務だ。

維新、ボロ儲け
 大阪・関西万博の開催に猛進する日本維新の会。かつてそこの代表を務め、いま私人と称する橋下徹氏が、テレビ番組で「政治とカネ」の問題に触れ、「企業・団体から一切お金をもらっていない野党はないんです」と、「デマ」を飛ばし、翌日アナウンサーが謝罪する事態となった。
 日本共産党は政党交付金を受け取らず、企業・団体献金を禁じ、政治資金パーティーも開いていないのは常識だ。それすら知らないというのでは、お里(さと)が知れる。
 それどころか日本維新の会・幹部の国会議員が開く政治資金パーティーは1回で1000万円のボロ儲けだという。リテラのWEB記事(11/30)を参照し要約すると、以下のようになっている。
<藤田文武幹事長は2022年11月23日に「藤田文武を応援する会」を開催。この日だけで1518万円の収入、会場費・食事代などの支出510万9825円、利益は1007万8215円(利益率66.3%)である。
 続いて遠藤敬・国対委員長も、2022年12月12日に「議員活動10周年記念パーティー」を開催。1227万9615円の収入、支出263万8640円、964万975円の利益(利益率78.5%)。
 さらに、使途の報告義務がないのをいいことに政策活動費が、日本維新の会・馬場伸幸代表に、2016年から2021年の5年間に約2億4300万円が支出されている。
 2022年11月に公開された2021年分の収支報告書では、「政策活動費」として馬場代表に5600万円、2022年分では藤田文武幹事長に5057万5889万円を支出している。その使途は不明なまま>

万博に批判殺到
 日本維新の会が必死になる大阪・関西万博は、2025年に人工島「夢洲(ゆめしま)」で開催される。だが遅々として進まない。無駄遣いと批判される「大屋根リング」に350億円もかけ、会場建設費だけでも最大2350億円、当初予算より約1.9倍になる。半年間のイベントのために、国民の税金で賄う国費まで使って運営に1360億円以上も投入する。
 夢洲へのアクセス用・鉄道建設や上下水道整備などを加えれば、万博関連事業費は8900億円。夢洲の地盤補強工事やカジノ事業も含めた全体費用は、なんと1兆2千億円にのぼる。
 万博が終わればパビリオンも大屋根もすべて撤去。一方、2030年に夢洲に開設されるカジノは未来永劫、営業を続ける。大阪・関西万博のレガシーはカジノ! そこに何百億円、何千億円もの税金が使われる。国民の納得など得られるはずがない。
 何よりも日本維新の会は、「カネとカジノ」が絡む、この無駄遣いを止めるのがさき。
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2023年11月18日

【オピニオン】平和を創り出すために─3つのメディアからの考察=大場幸夫

まず「平和の敵」掴む
 今、岸田政権が強引に進めている戦争への動きに対して、私たちは平和の方向をより闡明(せんめい)に創り出さなければなりません。そのためには、進められている戦争政策を見つめ、それに抗う手立てを考え、みんなと論議し、ともに前に歩み出さなければなりません。時間も限られています。
 この間、平和を考えるヒントになる三つのメディア媒体による作品を、見つけましたので紹介します。作品の一つは、「しんぶん 赤旗日曜版」です。見出しはこうです。
 <核攻撃被害も想定  全国300自衛隊基地「強靱化」 防衛省が計画 /岸田政権の「敵基地攻撃」の危険>(しんぶん赤旗日曜版 2023年2月26日号)
 これは赤旗日曜版による防衛省の内部文書のスクープです。ご存知のように、岸田政権は23年度の予算案を1月23日に提出し、大軍拡や原発回帰等の重大問題を国民と国会に対して何らの説明もないままに通しましたが、その提出1カ月前、22年12月と23年2月 にゼネコン40数社、建設コンサルタント50数社の担当者を集め、この計画についての意見交換会を行っているのです。
 この事は、その後成立した「軍事産業支援法」なども見れば、岸田政権がどこを向いているのかを明確に現しています。また、内部文書には「各種脅威に対する施設の強靱化」を図る自衛隊基地が、北海道から沖縄まで300挙げてあります。沖縄はそのうち16カ所です。
 全国どこでも核戦場となることを想定していて、いま沖縄南西諸島で進められている基地強化の「諸工事」が、なんと日本全国で進められていることが分かります。

NPT問題の議論必要 
 作品の二つは、太田昌克・兼原信克・高見澤將林・番匠幸一郎『核兵器について、本音で話そう』(新潮新書 2022年3月20日刊)です。これは 21年9月に行われた座談会の記録です。 参加者は、共同通信編集委員、元国家安全保障局次長、元軍縮会議日本政府代表部大使、元陸上自衛隊西部方面総監の肩書きを持った人たちで、現政権の核政策を主導してきたメンバーに、ジャーナリスト1人を加えた形です。
 核問題についての座談会の主要な目的は、「核兵器や核抑止について、座学や抽象論を排し、我々を取り巻く具体的な現実に即して話し合うこと」として、本書の章立ては、「核をめぐる現状」、「台湾にアメリカの核の傘を提供すべきか」、「北朝鮮の核」、「ロシアの核」、「サイバーと宇宙」、「日本の核抑止戦略」、「核廃絶と不拡散」とあり、ほぼ主要なテーマが網羅されています。
 各々の論点についての批判は頁の都合上ここでは避けますが、この座談会をかなりざっくり表現しますと、核抑止論の立場からの核廃絶論への批判と非難が大半で、それに抗する「具体的積極的政策提起」 が少し光ると言ってよい内容です。私には、ああそうか、空疎な言葉で飾った基本隠蔽ばかりの政府の核政策には、このような考えが反映していたのかと、「敵」の正体が分かる気がしていますが、核廃絶論からの「本音」が不足しています。
 そしてこの政府の核政策を具体的に跳ね返すには、かなりの力業が必要だと思いました。核廃絶論を訴える場合、もっと具体的政策を論議し提示しない限り、スローガンを叫んでいるだけになって、相手の胸に届かず、味方も増えません。
 私は反核運動や核兵器禁止条約の世界的拡大推進運動に賛成する立場から、様々な集団を一堂に集めて、この本にある章ごとの分科会を提起し、この中で紹介されている具体的積極的政策を、さらに膨らまし広げる論議ができないか、と思いました。
 核軍縮、核不拡散、原子力の平和利用という3本柱に付け加えて、NPT問題(核拡散防止条約)についても分科会の一つに加えるべきでしょう。太田昌克・共同通信核取材班『「核の今」が分かる本』( 講談社+α新書 2011年7月20日刊)で、太田氏が指摘しているように、この問題も私たちは「人類は核のパワーと共存していけるのか」という現代社会がどうしても避けて通れない重大な問いに答えようとすることですから。 (→続きを読む)
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2023年10月09日

【オピニオン】政権忖度 放送法違反 NHKどうなった=編集部

 昨年12月、前田前会長(当時)以下役員は、稟議で、2024年度からNHKプラスで衛星放送番組を本格配信する設備整備事業を承認した。だが「インターネット活用実施計画」は地上放送番組配信が前提。前田会長ら役員の「承認事業」は放送法違反の行為だった。
 稲葉・現会長は5月16日、経営委員会でこの問題を報告。メディアの報道が始まる約2週間ほど前のことだった。
 だが稲葉会長はこの日、前田前会長のかかわりや責任について触れることなく、「再発防止策」のまとめ経営委員会に打診したが、森下経営委員超に拒否され激論になった。

 経営委員会の本来の業務執行は「役員の職務の執行を監督する」ことだが、森下経営委員長は「経営委は平成19年の改正放送法で、個別の放送番組の編集、その他の協会の業務を執行することができない」と突っぱねた。森下委員長言えば、「かんぽ不正報道」で放送法に反し、個別番組に介入したが、前田前会長らの責任追及になると今度は逃げ腰。その資質が問われる。
 7月11日、稲葉会長は経営委員会で放送法違反の責任を問われた前田前会長は退職金10%減額など関係者の処分を報告した。
 職員の不祥事の管理責任を問われた海老沢勝二、橋元元一元会長が退職金100%カットされたのに比しても軽い処分だが、経営委員からは「厳しすぎる」「特別慰労金を出し、そこから減額しては」など、前会長擁護論が相次いだ。
 
 問題発覚から2か月後の7月25日、稲葉会長は経営委員会に再発防止策を報告したが、内容はごく一般的で、今度は経営委員から「具体的な改善策を改めて示して」「経営の意思決定プロセスのより具体的なルールを設定すべきで」などの要望が相次いだ。今回の問題で、稲葉会長は内部監査結果の公表を拒んでおり、意思決定のプロセスや関係者の責任の所在が不明のままで多くの疑問が残った。
 ここで思い出されるのは、元NHK経営委員長代行で企業のガバナンスに詳しい上村達男氏が「NHKの会長はすべてを一存で決められる専制君主のような存在になりがち」「一歩間違えると独裁もあり得てしまう構造になっている」と指摘していることだ。
 前田前会長はじめ関係者の責任追及とともに、NHKのガバナンスのしくみにもメスを入れる必要がありそうだ。
                           ◇
 NHKの放送した番組についても問題が起きている。5月15日放送の「ニュースウオッチ9」は「ワクチン死」を「コロナ死」と誤認させるような報道をし、BPOが6月9日、放送倫理違反の疑いがあるとして審議入りを決めた。
 7月25日の経営委員会では、問題が起きた経緯について、ニュース取材担当者が、ワクチン接種後死亡者の遺族も、コロナ禍で家族を 亡くした遺族であることに変わりはないという認識で取材・制作を進め、不適切な伝え方につながったと説明された。
 しかし、NHK関係者からは、報道局には政府に忖度し、ワクチン被害をタブー視する風潮やワクチンのネガティブ情報を出さない暗黙の了解があるとも聞く。
 問題は現場の取材力の劣化だけでなく、編集責任者の姿勢も影響していないか。第三者機関による踏み込んだ詳しい検証に期待したい。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号
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2023年09月20日

【オピニオン】「戦う覚悟」誰のため 戦争前提の麻生発言糺せ=編集部

  麻生太郎自民党副総裁は8月8日、台北市内で講演し「台湾海峡の平和と安定には、強い抑止力が必要で、そのため日米や台湾には『戦う覚悟』が求められている」と強調した。与党の「ナンバー2」の有力政治家が公然と「台湾有事」を語り、「戦う覚悟」を主張した前例はさすがにない。またも「(改憲は)ナチスにならえ」の類の「暴言」「失言」か、と思ったら、メディアは「個人の発言ではなく政府内部を含め調整をした結果だ」(自民党・鈴木馨祐政調副会長)と報じた。

抗議に逃げ腰
 もしそれが事実なら絶対に放置、容認できない状況だが、松野博一官房長官は「コメントを差し控える」と、逃げの一手。一方で台湾の蔡総統は「多くのアドバイスと激励を受けた」とし、中国外務省は「日本の政治家が勝手なことを言い台湾海峡情勢の緊張を騒ぎ立て対立を煽った」「1つの中国の原則と、中日政治4文書に違反する」とし、日本に厳正な申し入れをしたという。
 国内では、立憲民主党の岡田克也幹事長が「軽率な発言」とし、共産党の小池書記局長も「そもそも台湾防衛に防衛力をというのは、専守防衛に反する。日本に必要なのは戦う覚悟ではなく、憲法9条に基づき戦争を起こさせない覚悟だ」と述べた。

 台湾訪問では昨年8月、米国のナンシー・ペロシ下院議長の訪台が物議を醸したが、一方で米中関係は、オバマ政権以来、いわゆる「関与」から「抑止」政策に転換し、「新たな冷戦」とも言われながらも、台湾問題では注意深い対応が続けてきた。
 だが日本では逆に中国挑発の動きが目立ち、昨年12月、萩生田光一政調会長や世耕弘成参院幹事長など自民党幹部が相次いで訪台した。

  だが、国際的には日本も米国も、国交正常化実現の際「台湾は中国の一部である」との中国側主張を確認している。特に米国は台湾との商業、文化などの交流のため、米国は「台湾関係法」を制定したが、台湾への米国の武器供与では、中国側の異議で供与削減を声明したこともあるなど、米中双方に全面戦争の意志はない。国際法でも「1つの中国」の下での「中台衝突」は「内戦」。米国にも「干渉」できる余地はない。
 
権力監視はどこに
 問題はこの事態に麻生発言を批判する新聞論調が、戦没者追悼式の岸田首相の式辞と併せて「戦わぬ覚悟示してこそ」と書いた16日付東京新聞の社説以外ほとんど見当たらないことだ。
9月18日は、柳条湖事件(満州事変)から92年。関東軍の「謀略」を報じなかった新聞が一斉に軍を支持し「暴支膺懲」へと転換した悔恨の記念日だ。
 8月11日付朝日新聞はこの事件が「爆破の真相探らず追認」と、当時の奉天通信局長薄々気付きながら真相を探らなかったことが朝日の方針転換の伏線だったことを改めて書いた。
 既に2007年の連載企画で報じられ、書籍化もされているが、奉天通信局長は武内文彬記者。「満州事変が起きなかったら日本はつぶれている」と語ったという。 
 メディアは「新たな戦前」に組み込まれ、もはや麻生発言批判すらできない状態に陥ったのだろうか。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号

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2023年09月17日

【オピニオン】核抑止論を否定した 被ばく78年 2つの平和宣言 広島は揺れ動いた=難波健治(広島支部)

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    8月6日、広島平和記念式典

この夏、被爆地・広島は揺れた。そして、一つの確かな手応えを得た。市民が動けば、被爆地の政治を動かすことができるという体験である。「被爆者の思いを無視して核兵器禁止条約の枠組みに入ることを拒み続ける人物は、被爆国の首相として居続けることはできない」――そんな確信を市民に抱かせるほどの「熱い」体験であった。
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          黙とうする市民たち
 「核抑止論にこれほど焦点が当たった原爆の日はかつてなかったのではないか」。これは、平和記念式典翌日の7日付、地元紙・中国新聞社説の書き出しである。
 背景には、5月に広島で開いたG7サミットが初めて打ち出した核軍縮文書「広島ビジョン」があった。岸田文雄首相を含むG7首脳たちによるこの声明は、「核兵器は存在する限りにおいて防衛目的の役割を果たす」と明記し、核抑止を正当化した。核廃絶への具体的な道筋は何も示さなかった。
 文書が公表されたのはサミット初日の5月19日夜。首脳たちはこの日、原爆資料館を見学し、被爆者の証言に耳を傾け、慰霊碑に花輪を手向けた。しかし核兵器を保有し、核に依存する当事国としての責任感は文書から何も伝わらない。核兵器禁止条約の意義は無視され、核兵器「廃絶」の文字もない。

 広島は、サミットの議長を務めた岸田首相の地元であり、選挙区でもある。
 被爆者団体は動いた。市民も動いた。市役所を訪れて要請文を渡し、街頭でも訴えた。「松井一実・広島市長は8月6日の平和宣言で、『広島ビジョン』の核抑止肯定を否定せよ」「国と自治体は、考えが違って当然だ」と。そこには、「『広島ビジョン』が被爆地広島の考えだと世界の人々に受け止めたら、今後、広島の核兵器廃絶の訴えは説得力を失うだろう」という、強い危機感があった。

 そして8月6日、2023年広島の平和宣言が発せられた。松井市長は、「核抑止論は破綻している」と明言した。「世界中の指導者は、このことを直視し、私たちを厳しい現実から理想へと導くための具体的な取り組みを早急に始める必要がある」と呼びかけた。
 付言しておきたい。式典のあいさつで毎年のように核抑止論を否定してきた広島県の湯崎英彦知事はどう語ったか。
「核抑止論者に問いたい。核抑止が破綻した場合、全人類の命に責任を負えるのですか」と問いかけ、ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては「ウクライナが核兵器を放棄したから侵略を受けているのではありません。ロシアが核兵器を持っているから侵略を止められないのです」としたうえで、この構図は「予想されてきたことではないですか」と核抑止論の矛盾を突いたのだ。

                 核なき世界へ行動を
 さて、岸田首相である。式典でのあいさつや被爆者団体の要望を聞く場で核抑止論についての明確な説明はなかった。
 8日の記者会見で松野博一官房長官は「米国が核を含むあらゆる種類の能力を用いて、日米安全保障条約上の義務を果たすことに全幅の信頼を置いている」と述べた。ミサイル発射などを繰り返す北朝鮮などを念頭に「核抑止力を含む米国の拡大抑止が不可欠」との考えも示した。そのうえで「核兵器のない世界に向けて現実的で実践的な取り組みを継続、強化していく」と語ったのである。

 この夏、私たちは学んだ。核抑止論に立つ政治家たちが口にする「核のない世界」は、私たちが願う「核兵器廃絶」とは違うこと、むしろ「核兵器を存続させるための核軍縮」だということを。

 核抑止論を否定した今年の広島平和宣言について中国新聞は7日付2面で次のような指摘をした。
 松井市長が読み上げた宣言は、「広島ビジョン」をそのまま引用した。その原文である外務省の和訳は、英語の本文に照らすと趣旨が捻じ曲がっている。「国の安全保障を損なう恐れがある限り、(核兵器)廃絶はできない」というのが「ビジョン」本来の意味。その点で今年の平和宣言は、核抑止論を否定とともに、この「条件付きの核兵器廃絶も明確に否定する必要がある」と書いた。

 私たちは事柄の本質を正確に把握したうえで行動しなければならない。
 いま広島では、日米が共に手を携えて戦うための世論づくりと思わせるような事態が続いている。
 広島市教委作成の平和教材「ひろしま平和ノート」が改訂で、この春から『はだしのゲン』(中沢啓治・作)が削除された教材が現場で使われ始めた。同時に第五福竜丸事件も教材から消え、さらに、原爆を投下した米国を「赦(ゆる)し」たうえで「未来志向」で日米の「和解」と「提携」を勧める著者による「父の被爆証言」が大々的に掲載された。
 サミット閉幕後、発表された広島市の平和記念公園と米国ハワイ州にある「パールハーバー国立記念公園」の「姉妹公園協定」も、議会への説明もなく、寝耳に水のような出来事だった。
 太平洋戦争開戦の端緒を開いた真珠湾攻撃と、「戦争終結のためだった」と米側が説明する原爆投下地との姉妹協定は、原爆投下は「因果応報」で「正しかった」と理解されかねない。
 「締結はいったん保留し、全市的な議論を」という市民の申し入れは無視され、調印は1週間後に行われた。

 このようにこの夏、広島は揺れ続けた。市民は声を上げ、メディアも「この広島ビジョンは受け入れがたい」と間髪入れずに主張した。この動きに押される形で平和宣言は、異例の強い調子で核抑止論を否定した。
 しかし、「ウクライナの次は台湾有事」という主張に呼応する大軍拡路線が政府から提起され、市民に対する教育宣伝工作のような試みが、軌を一にして表面化している。
 この夏の確かな手ごたえを踏まえ、「戦争のために、ペンを、カメラを、マイクをとらない」取り組みを、私たちジャ―ナリストも周到に準備しなければならない。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号

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2023年09月04日

【オピニオン】JCJ発足の意義 報道・出版の一大ネットワーク 立命館大学 根津朝彦教授が講演=永山 済(北海道支部)

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 戦後ジャーナリズム史を研究する、根津朝彦・立命館大教授=写真=による「日本ジャーナリスト会議(JCJ)が目指したものー戦後ジャーナリストの職能連帯の試み」と題した講演会が7月22日、北海道大学で開かれた。

 戦後の文化運動など近現代日本思想史研究が専門の水溜真由美・北海道大大学院文学研究院教授が企画し、開催。JCJ北海道支部会員やメディア関係者らを含め、学内外の約20人が参加した。
 根津教授は最初に、アカデミズムの分野ではこれまで、占領期以後の戦後ジャーナリズム史についての研究が乏しかったと指摘、JCJについての先行研究も、内部関係者の記録以外にないのが実態だと述べた。

 JCJは「真実の報道を通じて世界の平和を守る」「言論・出版の自由を守る」など6項目を掲げ1955年2月、発足。JCJ誕生について根津教授は「JCJは当時のジャーナリズム人脈の結節点であり、戦後ジャーナリズムを研究する上で重要」との評価を示した。
 講演では創設から70年代前半までを取り上げた。特に、創設期について初代議長に「世界」編集長の吉野源三郎が就任したことの意味を詳述。レッドパージなど占領政策の影が強く残る中で、吉野の幅広い人脈と人望、加えて当時「世界」が持っていたブランド力ともいうべき社会的権威も背景にして「報道・出版界の一大ネットワークが形成された」と分析した。ささらに60年からの小林雄一議長時代を経て72年まで、時々の政治状況を映しながら変化してきた組織や運動の実態を紹介した。70年代以降の活動は今後の研究課題と話し、引き続き取り組んでいくことを表明した。

 現在のJCJについて、根津教授は「『OG・OB』団体で、JCJ賞を選考する顕彰団体的なものに変化してきた」との見方を示す一方、職能団体として長期的な実践を保持してきたことは重要であり、JCJ賞はすぐれた報道アーカイブ機能ーと評価。「新聞が斜陽産業などと言われるが、ジャーナリズムがついえてはならない。職能団体だからできることを」とも述べた。

 ジャーナリズムの貧困などと盛んにいわれる現状について、「報道の現場の問題だけでなく、研究者側からの貢献が少ない」との見方を示した。「メディア史」の研究が近年盛んになっている一方で、伝える“中身”である「ジャーナリズム史」としての「言論・思想に関わる分野の研究が、ややおろそかになっている」と、アカデミズム側の課題も挙げていた。
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根津教授の専門は戦後日本ジャーナリズム史。著書に「小林金三と「満州国」建国大学ー『北海道新聞』論説人を支えた東アジアの視座」(『言説・表象の磁場 シリーズ戦争と社会4』)(岩波書店)、「戦後『中央公論』と「風流夢譚」事件」(日本経済評論社)など。担当するゼミからは、毎年10人ほどがマスコミに就職しているという。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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2023年09月01日

【オピニオン】震災時 朝鮮人虐殺から百年 植民地支配と民族差別 メディアの責任も重い=加藤直樹(ノンフィクション作家)

                         
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100年前。1923年9月1日に東京・神奈川一帯を最大震度7の大地震が襲った。昼前という時間と強風のために火災が拡大し、東京市の44%、横浜市の80%が焼失した。死者・行方不明者は10万5千人。
 そうしたなか、奇怪な流言が広まる。「朝鮮人が放火している」「朝鮮人が井戸に毒を入れている」。それを信じた人々が朝鮮人を探し回り、暴力を加え始める。1日夜に始まった虐殺は各地に広がり、至るところで朝鮮人が殺された。犠牲者数は分からないが、数千人単位に上るだろう。

警察が拡散

 この事件を、混乱の中で平常心を失った人々の犯した過ちと捉えるのでは、その本質は掴めない。ポイントは三つある。
 第一に、その原動力となったのが「民族差別」だということだ。思いがけぬ都市火災の拡大に「放火かも」と考えたとしても、それが「朝鮮人の仕業だ」と飛躍するのはなぜか。殺せるのはなぜか。そこには植民地支配に由来する朝鮮人蔑視と、日本に抵抗する朝鮮人を恐れ、怪物として見る視線があった。
 第二に、流言を庶民以上に信じ、拡散したのは警察だった。日ごろ朝鮮人を監視し、自らも震災で大きな被害を受け民衆へのコントロールを失う不安にとらわれた彼らこそが流言を拡散した。制服警官が人々に朝鮮人への警戒と武装を呼びかける姿を、多くの人が目撃している。そのことが事態を深刻化させた。

軍隊も加担

 軍隊もまた、朝鮮人暴動の流言を信じた。そして朝鮮や満州、シベリアの対ゲリラ戦で捕虜や村人を虐殺したように、東京の真ん中で多くの朝鮮人を虐殺した。
 第三に、政府は事態のわい小化、隠ぺいを図った。刑事事件としての立件や責任追及を最小限にしか行わなかった。犠牲者の名前はおろか人数さえ分からないのは、時の政府がその解明を拒否したからだ。植民地支配が揺らぐことを恐れたのである。
 民族差別が流言と虐殺を生み、警察の誤った対応がそれを深刻化させ、軍も虐殺を行い、最終的に政府がその全てをわい小化し、うやむやにした。背景にあるのは植民地支配という現実だった。これが、1923年の朝鮮人虐殺のポイントである。
 だがもう一つ、メディアの責任も指摘したい。震災直後、やはり潰滅的な被害を受けた新聞各紙は、避難民から聞き取った流言を裏も取らずに書き散らした。震災から1週間、「鮮人三百人船橋上陸」「発電所を襲ふ鮮人団」といったデマ記事が溢れかえったのだ。

3・11で流言

 そして100年後。今も民族差別があり、それによるヘイトクライムがある。また災害のたびに民族差別に基づく流言が現れる。それは簡単に暴力に直結する。東日本大震災の際には、「外国人強盗団」の流言を信じた東京の右翼が武装して石巻に乗り込んだ。
 朝鮮人虐殺の史実から受け取るべき教訓は、災害前の民族差別が問題であるということと、災害時の行政の振る舞いが事態の深刻さを左右するということだ。
 そしてメディアには、民族差別と流言、そして行政の対応に対して監視し、注意を喚起する役割があるだろう。
 だが100年前のメディアはそうできなかった。新聞記者の育成に努めた山根真治郎は「誤報を重ねて悔いを千歳に遺した」と回想している(『誤報とその責任』1938年)。
まずは、そろそろ、100年前の「誤報」について新聞ジャーナリズムの中から検証の動きが出てほしいと思っている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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2023年05月21日

【オピニオン】権力の放送介入は国を滅ぼす メディアは本来の役割果たせ=砂川浩慶(立教大学社会学部長・教授)

  3月15日、朝日新聞夕刊の素粒子は「問題の核心は放送番組への政治介入。だが他にも、見過ごせぬ話や気になる動きが。◎大臣にこう答弁させよ。コントロールできる議員に質問させる。文案も作る、首相補佐官。国権の最高機関の実態。◎発覚以来NHKや多くの民放の姿勢に淡泊さを感じるのは何故。見えないブレーキが働いたなら権力は既に目的を達成。WBCに興ずるうちに。」と伝えた。

 3月2日の立憲民主党・小西洋之参議院議員が公開した放送法関連文書。昨年の参院選挙前に自身の出身母体である総務省の官僚から持ち込まれたとするが、なぜ今まで表に出さなかったのかは定かでない。総務省が「行政文書」と認め、報道発表したのは3月7日。取扱厳重注意の印が押された「『政治的公平』に関する放送法の解釈について(礒崎補佐官関連)」と題した文書はA4判78ページに及ぶ。
 2014年11月26日、礒崎陽輔総理補佐官の「・放送法に規定する『政治的公平』について局長からレクしてほしい。・コメンテーター全員が同じ主張の番組(TBS サンデーモーニング)は偏っているのではないかという問題意識を補佐官はお持ちで、『政治的公平』の解釈や運用、違反事例を説明してほしい」から始る。
 翌年5月12日の参議院・総務委員会での藤川政人・自民党議員からの「政治的公平」に関する質問に対し、礒崎補佐官と調整したものに基づて、高市大臣が答弁までの経緯が詳細に記載されている。

 一読して感じるのは、安倍政権中枢が特定の放送局を名指しで批判の対象とし、行政解釈をねじ曲げようと無理強いし、その対応に汲々とする総務省官僚の姿だ。絵に描いたような国家権力の介入の証拠文書だ(総務省報道資料で公開)。
 しかし、今回の文書を改めて読み返し、政治の力によって放送局の個別の番組に圧力をかける政治家の時代錯誤ぶりを実感する。2022年度の
「報道の自由度ランキング」はG7最悪の71位。ジェンダーギャップ指数2022もG7最低の116位だ。多様性を認めない国、日本の姿だ。多様性を認めない国がG7議長国となる悲喜劇を感じる。

 放送法は憲法21条・表現の自由をベースに制定されており、それは戦前の国家の情報統制が戦争を招き、国を灰燼に期したことの反省にる。それを今の時代に堂々と主張する政権がいることに唖然とする。
 磯崎補佐官や高市大臣という“安倍取り巻き”は北朝鮮や中国、ロシアのような国家による情報統制を望んでいるとしか、思えない。

 政治権力が情報を統制すれば、国民に有益な情報が遮断され、国家は滅びる、という問題の本質をメディアはもっと伝えるべきだ。しかし、新聞もテレビも分断され、全体として十分な報道がなされていない。当事者ともいえるTBSは頑張っており(私自身、「ニュース23」「サンデーモーニング」「報道特集」などにVTR出演した)、朝日・毎日は一定程度伝えたが、NHKの初動は首都圏ニュースのみ、フジテレビや日本テレビは高市大臣の辞任問題に矮小化している。これでは視聴者・国民に本質が伝わらない。

 今回の問題をみるまでもなく「権力は腐る」。国際周波数割り当てにより、国民の共有財産である電波を一私企業・組織が独占できるのは、国民の側に立ち、国家権力をチェックするからだ。それを行わないメディアに存在価値はない。そして、それを認めない国に未来はない。



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2023年03月23日

【オピニオン】日韓学生フォーラム 米軍、韓国で勝手放題 危機感受けとめ平和報道を=古川英一

                   
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「日米で煽っている『台湾有事』には沖縄を犠牲にするという発想があるのではないか」琉球新報の新垣毅報道本部長の危機感に満ちた講演で、沖縄での「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」が始まった。
 このフォーラムは日韓のジャーナリスト志望の学生たちが平和や歴史問題について共に学ぼうと、
6年前に記者などの有志が企画してスタート、JCJの会員も実行委員に加わっている。7回目の今回は1月末から4泊5日の日程で、日韓から30人あまりが参加した。韓国からは学生だけでなく「韓国記者協会」のキム・ドンフン会長も訪れた。 

期間中、沖縄の「今」と「過去」の現場として、普天間飛行場のある宜野湾市や辺野古、糸満市での遺骨収集や、沖縄戦で民間人が集団自決した読谷村のチビチリガマなどを見学し、地元で活動を続けている人や沖縄の2紙の記者などから話を聞いた。
キム会長は、2004年に米軍のヘリが墜落した沖縄国際大学で、米軍は事故直後から現場への日本側の立ち入りを一切認めなかったことなどを聞くと、「沖縄のように韓国でも米軍の事故や、元米軍基地の土壌汚染があっても、米軍の責任が問われることはなかった」と強い口調で学生たちに語った。

県民の反対を尻目に埋め立ての進む辺野古では、抗議の座り込みが続いている。そのリーダーともいえる山城博治さんが日韓の学生たちのために駆けつけてくれた。山城さんは敵基地攻撃能力を日本が持つことに対して「政府は米国と一緒に沖縄で戦争をしようとしている。勝てると思うのなら東京からミサイルを撃てばいい」と怒りを込めて語り、「記者の卵のみなさんは、この地域の平和を願う報道をしてほしい」と訴えた。
 またチビチリガマを案内してくれた知花昌一さんが戦争遺跡はきれいにするのではなく、そのまま残していくべきとしたうえで「若者は絶望してはいけない。絶望したら戦争になる。闘う人がいたら絶望にならない」と学生たちを励ました。
 沖縄の人たちの日本の軍拡政策へのヒリヒリするような危機感を、学生たちはしっかりと受けとめ、これからジャーナリストとしての一歩を踏み出す。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
   
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2023年01月27日

【オピニオン】憂慮すべき子どものスポーツ離れ=大野晃

  正月は、高校生の全国大会が集中した。新型コロナウイルス感染症の拡大防止策が緩和され、3年ぶりに正常化した大会が多かったが、ラグビーのように、部や部員不足で都道府県代表戦が行われず、不戦勝で全国大会出場権を得たケースが2県で報告された。複数校の合同チームに大勝しての出場権獲得もあった。
  少子化の深刻化に加え、コロナ禍で部活動が思うようにできず、部や部員減少が急速に進んだようだ。特徴的なのは、公立校での減少が極端に進んでいながら、私立の有力校には100人を超す部員が集中し、地域や学校の格差が顕著に拡大したことだ。

 野球やサッカーと、その他の競技の競技間格差も激しい。競技に挑戦する高校生の特殊専門化が、かつてないほどの広がりを見せ、先細りが懸念される。コロナ禍で競技に親しむ条件が極度に制限されて、気楽に、競技に取り組めなくなったことが大きな要因だろう。
 それだけ、子どもたちのスポーツ離れが進んでいる。全国高校体育連盟が、高校総体への合同チームの参加を認めるなど合同チームを容認する競技が増えたが、小手先の対策でしかない。 
 
 文科省は、教員の負担軽減のため、中学部活動の地域への移行を方針として示したが、地域の受け皿が少なく、頓挫した。1970年代に国民スポーツ振興を目指して各地の公共スポーツ施設つくりを推進した文科省が、1980年代に方針転換して、地域スポーツの主力を民間企業に任せ、商業主義的な国民スポーツ施策を後押しして、地域でのスポーツ組織つくりを放棄したため、自主的な地域スポーツが大きく制限された。

 文科省の先導で、自主的な地域スポーツを育てる環境条件が極端に劣悪化したことを忘れてはなるまい。これに沿って、地方自治体によるスポーツ振興の後退が一般化し、地方公共施設は、民間企業の運営となるとともに、高額を求められる民間企業のジムや教室が、地域スポーツの拠点化した。
  しかし、全国的に、少子化や長引く不景気が、文科省が頼りとすり民間企業の撤退や減少に拍車をかけている。 中学部活動の地域移行は、いわば、文科省が公共的な地域スポーツ振興を捨ておいて、苦し紛れに、地域に任せるというのだから、失政の責任を子どもたちに押しつけるようなものだ。
 子どもたちのスポーツ参加の極端な減少は、将来の国民のスポーツ離れを促進する危険性がある。 働く世代のスポーツ参加は、相変わらず散歩か軽い体操程度だ。 職場でのスポーツ機会は、皆無に近くなった。
 マスメディアは、商業主義的に、トップ競技者の競い合いだけに目を向けて、「スポーツの力」なるものを煽ることに専念しているが、トップ競技者を育てる基盤の危うさには沈黙を決め込んでいる。

 商業主義の暴走で、色あせたオリンピックの再生すら課題にはしていない。文科省、スポーツ庁、そして何にでも沈黙する日本オリンピック委員会、日本スポーツ協会、さらに商業主義的利益しか眼中にない地方自治体の沈黙。
 そして、公共スポーツ組織への批判を回避して、商業主義的利益にまい進するマスメディアの逃避。 これでは、日本スポーツは減退するばかりだろう。
 日本人から、スポーツに親しむ豊かな生活を奪う動きに違いない
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2023年01月25日

【オピニオン】統一教会追及、監視を メディアは改めて奮起を=河野慎二

  統一教会の被害者救済をうたった「被害者救済」新法が12月10日、会期末の国会で成立した。
与野党間では、マインドコントロール下での献金の禁止を主張する野党と、勧誘側に「当事者の自由意思を抑圧しないようにする」ことを「配慮義務」にとどめる政府の主張が対立、配慮義務の規定に「十分に」と文言を追加することで与野党が妥協した。
 だが、全国霊感商法対策弁護士連絡会は「配慮義務では『配慮した』との言い逃れが可能。『十分に』と修正しても効果は乏しいのでは」と危惧する。それは、今回の法律が、寄付(献金)の規制であり、統一教会問題の本質である、正体を隠した伝道によって引き起こされたさまざまな人権侵害などの被害を防げないからだ。

 16日法務省が公表した政府から日本司法支援センター(法テラス)に移管した霊感商法など宗教問題の窓口に寄せられた被害相談は、運用開始の11月14日から月末までの半月で428件の相談があり、統一教会関係は約4割の172件。「金銭トラブル」が最も多く6割を占めた。それ以外では「心の悩み」が14%、「親族関係」が11%と続き、養子縁組に関する相談もあったという。

 統一教会問題で政府は関係省庁連絡会議を設け、9月5日に合同電話相談窓口を開設。同月28日までに2251件の相談が殺到。22日時点の1952件について9月末に公表した分析資料によれば統一教会がらみの被害相談は1317件で、その7割が「金銭トラブル」。相談者の寄付(献金)の支出期間でもっとも多かったのは20年以上の37%。2〜5年の7%とあわせ5年以内は25%に達し、「1年以内」との回答も18%を占めた。
 「祝福結婚や先祖解怨といった名目で10年にわたり10万程度〜数百万円の献金を多数繰り返したが取り戻せるか」「家族がこれまで1億円を超えて献金し借金で自己破産した」などの訴えは、統一教会が、メディアの統一教会追及が低迷したのをいいことに「悪行」を重ねてきた事実を物語る。

 シンポ「統一教会の実像に迫る」(本紙11月号で既報)で藤森研氏が「統一教会の悪行は、まだ全然解明されていない。組織を持っているところは、韓国に取材に行って調べることが出来る。もっと調査報道をやらないと、社会的責任を果たせない」と指摘し、大手メディアに奮起を促した。
 その「空白の30年」に統一教会は国政、地方政治にも浸透。鈴木エイト氏は「(教団との)関係を断つ」と表明している自民党への監視報道の継続を求め、金平茂紀氏は「国会は機能せず、統一教会の本質的な問題がおざなりに扱われていると警鐘を鳴らした。メディアには反省と改めて奮起が問われている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号

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2023年01月20日

【オピニオン】有識者会議に読売、現役幹部と日経顧問 問われるメディアの姿勢 専守防衛➡軍事国家に大転換=編集部

 防衛費GNP2%、「敵基地攻撃能力」整備、軍需産業育成…、立て続きにニュースが流れ、軍事増額・強化路線が本格始動している。

メディア取り込み

 この「流れ」のスタートとなった首相の諮問機関「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の顔ぶれは、マスコミ3、金融2、技術系学者2、それに右翼の論客、元駐米大使という構成だ。初めから「防衛力増強」を目指し、メディアを巻き込み、世論操作を狙っていたことが露骨に見て取れる。
 メディアから参加したのは、朝日新聞の元主筆で「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の代表・船橋洋一氏のほか読売新聞グループ本社代表取締役社長・山口寿一氏、日本経済新聞顧問で日本経済研究センター代表理事・会長の喜多恒雄氏。船橋氏は退職してからも発言している言論人だが、他の二人は現役の役員だ。
 政府の審議会や諮問機関に専門の新聞記者がその知識や識見を買われ参加することには、古くからの議論がある。
 「専門性を発揮して政府に働きかけるのも責任だ」などと言われる一方で、審議会などへの参加は、その結論がいかにも社会的に公正で妥当だ、だと見せかけるための道具にしかされていない、という意見が根強くあるからだ。

内実に問題あり

 政府機関については「国語審議会でも参加すべきではない」という主張もある。まして国論を2分3分する防衛問題では一層問題だ。しかもこの有識者会議の議論については発言要旨は発表されたが個人名は伏せられている。
 そもそもこの「会議」は、防衛力を単に軍備でみるだけでなく、総合的な経済・社会体制の中に位置づけ、「総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方」を検討するとうたっている。しかし、その内実は防衛力についての憲法上の位置や、外交による紛争解決の準備についての議論等は一切抜きの会合でしかない。

言いっぱなし会議

 はじめから憲法論抜き、財政論抜き、外交論も抜き,という組織で、その成り立ちも実は何の「権威づけ」もないままという代物だ。
 有識者会議は9月30日、10月20日、11月9日の3回討議、11月21日には報告書がまとめられた。 報告書は、日本周辺が「厳しい安全保障環境」にある、ということを口実に、@相手国のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有A軍事力強化の財源として「国民負担」の必要性B5年以内に防衛力を抜本的に強化する―との方向性を打ち出した。さらに、米国の核戦力を含めた「拡大抑止」や、自衛隊基地の共同使用など日米の「共同対処能力」の強化をうたっている。
  今回の提言では、このために縦割りをなくはした総合的の防衛体制の強化が必要だとして、@研究開発A港湾などの公共インフラBサイバー安全保障―について、連携強化を主張している。


問題をそらす

 この状況にメディアの社説は、読売、産経などを除いた各紙が「倍増ありき再考求める」(東京30日)、「規模ありき理解得られぬ」(神戸2日)「専守防衛の空洞化は許せぬ」(朝日2日)、「専守防衛の形骸化憂う」(東京3日)、「専守防衛の形骸化を招く」(毎日3日)など、岸田政権が唐突に打ち出してきた軍拡推進政策に対して、一応は批判的な主張を展開した。
  しかしそのメディアも政府・自民党側が「増税か」「国債か」と財源問題に焦点をそらし、軍拡そのものの目的や危険性について棚上げしようとしている状況に対しては、見て見ぬふりで無抵抗だ。
 軍需産業育成から、サイバー攻撃まで網羅するという公然化した「軍事国家づくり」は専守防衛はおろか、戦後の日本が積み重ねてきた憲法に基づく非戦「平和主義」を根底から打ち捨てることに他ならない。日本のジャーナリズムはこれでいのだろうか。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
 
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2023年01月17日

【オピニオン】院内緊急集会 マイナンバーカード 取得の義務化は違法 健康保険証と一体化に反対 医療情報の漏洩心配=小石勝朗(ライター)

 河野太郎デジタル相が10月に突然打ち出した「24年秋の健康保険証廃止」に反対する動きが活発になっている。政府は国民のほぼ全員が持つ保険証をマイナンバーカードと一体化し、カードを半強制的に取得させようと目論む。強引な進め方への批判とともに、医療情報の取り扱いへの危機感が募る。
 「そもそもカードの取得を強制することは法律違反」「法治国家としてあり得ない暴挙だ」
 11月17日と21日に国会議員会館で開かれた反対集会には怒りの声が渦巻いた。開業医らが加入する全国保険医団体連合会や日本弁護士連合会(日弁連)などが主催した。

 マイナンバー法は「申請に基づきカードを発行する」と定める。「強制」や「義務」ではないと政府も国会で明言してきた。健康保険料を払っている人が保険診療を受けるのは当然の権利。任意であるカードを取得していないという理由だけで受診に不利益が生じれば、人命にもかかわる重大な人権侵害だ。
 6月に閣議決定された骨太方針も、保険証を廃止する場合でも「申請があれば保険証は交付される」と明記している。
 さすがに岸田文雄首相も河野発言のわずか11日後に、カードを持たない人が保険診療を受けられるよう「新たな制度を用意する」と国会で答弁した。集会では「新制度をつくるくらいなら今の保険証を存続させれば良いだけの話で予算の無駄遣いだ」と非難された。
 「政府はマイナンバーカードを取らせようと脅しをかけている」との見立てにも共感が集まった。カード取得などへの最大2万円分のポイント付与に1兆8千億円もの予算を組んだのに、取得率は5割強。来年3月までに全国民所持との目標達成は不可能だからだ。

 その意味でマスコミが河野発言を「事実上のカード取得義務化」と報じたのは政府の思うつぼだった。義務化は違法で法改定のハードルも相当高いと分かっているからこそ、政府は「カードを取らないと保険診療が受けられなくなる」というムードを広げようとしているのだから。

 保険証を発行する保険者は集会で、マイナンバーカードには健保の連絡先が記されていないので届け出・申請に漏れや遅れが起きることを不安視した。子どもが修学旅行に保険証としてカードを持参するようになれば紛失が心配される、といった問題点も指摘した。
 保険証廃止に先立ち、医療機関と薬局に対してマイナンバーカードを保険証として使う「オンライン資格確認」のための設備設置が来年4月に義務化される。だが、すでに導入した診療所では患者の利用がほとんどない、との報告もあった。

 むしろ懸念されるのは医療情報の漏洩だ。院内の電子カルテとつながる新システムは診療時間中、外部と回線で接続するので、サイバー攻撃に遭う危険が高まるのだ。機器管理の負担も重く、廃業を考えている高齢の開業医もいるそうだ。
 実は6月の骨太方針には「全国医療情報プラットホームの創設」が盛り込まれている。電子カルテ、電子処方箋などの医療情報を収集して一元管理し、民間もデータを利活用できるようにする構想だ。その基盤にされるのが今回の保険資格確認システムである。危うい企みが仕込まれている。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
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2022年12月24日

【オピニオン】軍拡の大前提=「脅威」は本当に存在するのか―いまメディアが真っ先に問うべきことは── 梅田正己(歴史研究者・JCJ会員)

日本の防衛費をGDP2%へ一挙倍増すべきだという安倍元首相の遺言≠ェいつの間にか既成事実化されて、いまや自民党内では増税を含む財源問題が中心議題となっている。マスメディアの報道や論調も、防衛力の強化を前提としたものとなっている。たとえば安保政策を大転換した閣議決定翌日の12月17日の朝日新聞の社説はこう書き出されていた。
「日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実で、着実な防衛力の整備が必要なことは理解できる。」
 この認識は今回の政府の「国家安全保障戦略」の大前提となる情勢認識と共通している。同「戦略」にもこう書かれていた。「我が国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。」
 しかし、本当にそうなのだろうか。いまこの国は、安保政策を大転換し、防衛費を一挙に倍増し、防衛力を飛躍的に増強しなければならないような危機的状況に直面しているのだろうか。事実にそくして状況を観察・点検し、この国がはたして「戦後最大の軍事的危機」に直面しているのかどうか、政府の主張を検証してみる必要がある。政府の「国家安全保障戦略」で具体的に示されている「脅威」とは、次の3つである。

1)中国の動向――「我が国と国際社会の深刻な懸念事項で、これまでにない最大の戦略的な挑戦」
2)北朝鮮の動向――「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」
3)ロシアの動向――「ウクライナ侵略によって国際秩序の根幹を揺るがし、中国との戦略的な連携と相まって、安全保障上の強い懸念」

 こうした脅威・懸念への対抗措置として、政府は敵基地攻撃能力をふくむ戦後最大の防衛戦略の大転換、軍備の大増強を実行するというのである。しかし本当にこうした脅威が実在するのだろうか。

◆ロシアは本当に「脅威」なのか
 まずウクライナ侵攻によって、戦争の悲惨さを私たちに伝え、震撼させたプーチンのロシアから考えてみよう。ロシアが実際に日本にも侵攻してくるような脅威となる存在なのか――。
 現代世界においては、どんな国であっても、何の理由もなしに他国に侵攻するということはあり得ない。
 今回のウクライナ侵攻も、基本的にはプーチンの大スラブ主義(大ロシア主義)の野望が生み出したものであり、ロシア語を話す人々がロシアと国境を接するウクライナ東南部に住んでいることを口実として実行された。またロシアによる過去の侵略行為も、フィンランドをはじめバルト3国、ポーランドなどすべて国境線を踏み破って行われた。
 それに対し、日本は海によってロシアと隔てられている。またロシアが日本と敵対する理由も事情もない。過去の冷戦時代には、宗谷海峡を渡ってソ連が攻めてくるという話が喧伝され、そのため自衛隊は持てる戦車の半数を北海道に配備したが、やがて冷戦が終わり、軍事的な見地からもそんな作戦行動はあり得ないことが暴露され、日米合作のフィクションだったとして抹消された。
 いかにプーチンといえども、ロシアが日本に侵攻する理由も口実もないのである。「ロシアによる軍事侵攻の脅威」は現実にはまったく成りたたない。 

◆北朝鮮は本当に「脅威」なのか
 次に北朝鮮による「脅威」についてはどうか。その根拠とされるのは、北朝鮮による相次ぐミサイル発射である。とくに日本列島を飛び越す長射程のミサイルが、四半世紀前のテポドン以来、日本に対する脅威として喧伝されてきた。たとえば10月4日朝、日本列島を越え、太平洋はるか沖の東方海上に落下したミサイルは、「Jアラート」によりテレビ放送を1時間近く中断させて国民を不安がらせた。
 しかし、「火星17号」と推測されるそのミサイルは、人工衛星よりもなお高い宇宙空間を平均マッハ4の速さで飛び去ったのであり、「Jアラート」などとはおよそ次元を異にする飛行物体だった。ではなぜ、北朝鮮はミサイル発射実験に固執するのか。理由は、米大陸に到達するICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させたいからである。
 北朝鮮は、米国とはいまなお潜在的交戦状態にある。なぜなら70年前に金日成と米軍の司令官とが調印したのは休戦条約であって、平和条約ではないからである。潜在的交戦状態にあるからこそ、米国は韓国に広大な空軍と陸軍の基地を配置し、毎年、北朝鮮の目の前で、北側海岸への上陸作戦を含む韓国軍との合同演習を威嚇的に実施している。
 北朝鮮は米国との敵対関係を解消し、国際的な経済制裁を解除させて、経済復興にとりくみたい。そのためには、何としても米国と直接交渉をする必要がある。
 そこで2006年の米中ロ韓日との6カ国会議の場でも必死に米国と交渉したし、トランプ前大統領とも3度にわたって会談した。しかし、いずれも寸前のところで米国は身をかわし、交渉は不発に終わっている。

 かくなる上は、米国を、身をかわせなくなる状況にまで追い込むしか方法はない。すなわち、核弾頭を装備したICBMを振りかざすことによって、米国にたいし休戦条約にかわる平和条約の締結を迫るしかない。これがいわば、北朝鮮に残された、彼らが考える最後の生き残り策なのである。したがって、ミサイル発射実験も核実験も、相手国はただ一つ、米国なのである。日本などは眼中にない。
 北朝鮮が日本に対して求めているのは、35年間にわたる植民地支配に対する謙虚な反省と代償であり、かつて日本政府が韓国に対して行なったのと同種の経済協力なのである。
 そしてそのことは、2002年の「日朝平壌宣言」で金正日と小泉純一郎、当時の両国首脳が約束し合っている。日朝国交回復ができれば、それは実現に向かう。その日本に対して、北朝鮮がミサイルを撃ち込んでくることなどあろうわけがない。それは人が自家に火を放つようなものだからである。
 それなのに、自公政権は北朝鮮の現状を「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と決めつけ、大軍拡に向かって突進のスタートを切ろうとしている。「Jアラート」によって国民の危機感をあおったのと同様、これもフェイクである。

◆中国は本当に「脅威」なのか
 最後は、「中国の脅威」である。政府の国家安全保障戦略はそれを「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と規定した。近年、中国はたしかに軍事力の強化を急ぎ、南シナ海を力ずくで内海化しようとしている。台湾に対しては8月のペロシ米下院議長の訪台を牽制するためミサイルを連続発射し、その一つが与那国島のEEZの端に着弾した。
 しかし習近平国家主席が実際に台湾に軍事侵攻するなんてことがあるだろうか。もしそれを敢行すれば、いまのロシアがそうであるように、中国は世界中から批判・非難にさらされるに決まっているのに。今日、中国が日本を抜いて米国に次ぐ経済大国となったのは、改革開放政策により国際経済のグラウンドに躍り出て世界の工場≠ニなったことによる。
 バイデン大統領はこの10月に発表した国家安全保障戦略で、中国を「唯一の競争相手」としながらも、両国は「相互依存関係にあり、米国を含む諸外国との共有の利益を享受している」と述べた。実際、米中の昨年の貿易額は輸出入とも前年の3割前後も伸び、過去最高を記録している。
 台湾の国民世論は民進党、国民党ともに圧倒的に現状維持を望んでいる。また台湾はいまや半導体の供給では世界をダントツでリードする先進国だ。その台湾を軍事力で暴力的にねじ伏せられるわけはない。
 経済関係の重要性は、日中間でも同じである。07年以降、日本にとって中国は最大の貿易国であり、日本の対中依存度は高い。中国国内に拠点を置く日系企業は3万を数え、そこには10万人の日本人が生活している。
 さる11月17日、バンコクで岸田首相は習近平氏と初めて対面で会談したが、その席で習氏はこう語った。
「アジアと世界の重要な国家として、われわれには多くの共同利益がある。中日関係の重要性は変わらないだろう。新時代の要請に沿った中日関係を構築していきたい。」(朝日、11.18付)
 経済面に重点を置けば、この発言は額面どおりに受け取ってよいだろう。日中間に、尖閣諸島をめぐる問題はたしかに存在する。しかしこうした問題こそ、外交力によって解決すべきではないか。21世紀の今日、無人島の岩礁をめぐってGNP2位と3位の大国同士が軍事力で争うなんて愚か極まりない対応である。

 ところが、この正気の沙汰とは思えない対応を、日本政府は目下、実行に移そうとしている。奄美大島から沖縄本島、宮古島、石垣島、そして与那国島までの南西諸島に、防衛省はミサイル基地、弾薬庫、沿岸監視基地を配備した。沖縄本島にはすでに空自部隊を増強した上に、陸自の第15旅団を実質2倍の「師団」に格上げして増強しようとしている。
 自衛隊は、佐世保に駐屯する「日本版海兵隊」の水陸機動団を中心に、時に米軍とも共同で上陸演習を何度も行なってきた。敵軍に占領された島嶼を、奪回するための上陸演習である。その敵国軍とは、地理を見ても中国軍以外には考えられない。
 「鉄の暴風」によって地形が変わるほどに破壊され、県民の4人に1人が命を奪われた沖縄戦を、戦争体験者がまだ多数生存しているのに、この国の政府は沖縄を戦場に再び戦うための予行演習を続けているのである。
 沖縄戦の歴史的事実を知る人たちは、そのおぞましい光景を、息をのんで見つめている。

◆コモンセンス(常識)で判断しよう
 以上、市民的なコモンセンス(常識)を判断基準として、日本が直面しているとされる「脅威」の実態を検証してきた。私は軍事や国際政治の専門家ではない一ジャーナリスト(書籍編集者)にすぎないが、考えてみればあまりに非常識なことが多すぎる。
 たとえば今回の軍拡の柱とされている「敵基地攻撃能力」である。政府はこれを「反撃能力」とあいまいに一般化しているが、長射程ミサイル(トマホークは1500キロ先まで狙える)を使って相手国を攻撃することに変わりはない。
 では、いつ、どんなときにミサイルを発射するのか。相手国が日本に対する攻撃に「着手」したときだという。しかし、その「着手」の瞬間をどうやってキャッチするのか。それは誰にもわかりません、とおっしゃる。そんなあいまいさを残したまま、トマホーク500発(?)を購入するというのである。
 それでもまあ「着手」の瞬間をキャッチできたと仮定しよう。ではその「反撃」によって、相手国の戦意を打ち砕き、停戦に持ち込めるだろうか。もちろんそれはあり得ない。仮にその「敵基地」を粉砕できたとしても、相手国の「基地」は当然何か所にもわたって配置されている。日本国の「反撃」は逆に「先制攻撃」だとされ、相手国の戦意を誘発して激しい攻撃を招くことになるだろう。
 では、相手国から先に攻撃されたときはどうか。「反撃能力」を持つ自衛隊は、その「能力」を発揮することになる。つまり、相手国の基地をはじめ都市や発電所などのインフラにミサイルを撃ち込むことになる。いま現在、プーチンのロシア軍がウクライナに対して行なっているように!

 いずれにしろ、「敵基地攻撃能力」(反撃能力)の行使は、日本を相手国との全面戦争に引き込むことにほかならない。その危険をあえて冒すために、岸田内閣は大軍拡に踏み込もうとしているのである。いや、「敵基地攻撃能力」は実際にそれを実行するために持つのではない、もしも攻撃してきたら痛い目にあうぞと威嚇して、相手国の攻撃を「抑止」するために軍備を強化するのだ、という意見もある。「核抑止論」にも共通する「軍拡抑止論」である。
 しかし攻撃力(軍事力)というものは、あくまで相対的なものである。一方が軍備を強化すれば、対抗する側もそれに負けまいと軍備を増強する。かつて日本の敗戦で終わった第二次世界大戦の前段がそうだったし、現在の米国と中国との関係がそうである。
 つまり軍拡には終わりがない。5年間で43兆円の軍事費を注ぎ込んだところで、それで安心ということにはならない。時がたてば、次は60兆円、80兆円ということになる。「軍拡抑止論」のジレンマである。

 先日(12月17、18日)行なわれた朝日新聞の全国世論調査では、敵基地攻撃能力の保有について、男性は「賛成」が66%で「反対」が29%、女性は「賛成」「反対」がともに47%だったという。年代別にみると、18〜29歳の若い層が最も高く、70歳以上が最も低かったという。
 「敵基地攻撃能力」なるもののいい加減さとあいまいさ、そこに内在する致命的な危険性については先に見た。にもかかわらず、これほど高い賛成率だったというのは、その実体がよく知られていないことを示しているとしか思われない。ということは、マスメディアが、その実体を深く解明し、伝えていないからに違いない。つまり、マスメディアの社会的役割の放棄である。
 国民世論は、正しい知識とまともな情勢認識によって形成されなければならない。そのための「知る権利」に奉仕するのがマスメディアの役目である。いま私は、マスメディアに、何をおいても近隣諸国「脅威論」のデマゴギーを検証してほしいと思う。(2022年12月20日、記)
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2022年08月20日

【オピニオン】記者守らぬ朝日に疑問 映画「標的」全国上映会=山田寿彦

 元日本軍慰安婦が名乗り出た記事を巡り、「捏造記者」と激しいバッシングを浴びた元朝日新聞記者、植村隆さんの闘いを記録したドキュメンタリー映画『標的』(西嶋真司監督、99分)が全国各地で上映されている。朝日新聞社は検証紙面で「捏造」を否定しただけで、植村さんの闘いを支援する姿勢を全く示さなかった。映画に、それを問う視点が欠けていることが惜しまれる。

 戦後、朝日は社史に汚点を残した記事捏造を2回犯している。伊藤律架空会見記(1950年)とサンゴ記事捏造事件(1989年)で、朝記者の名は今や忘れ去られている。だが、植村バッシングでは執筆した記者個人が「捏造」の事実がないのに執拗に「標的」とされ、勤務先(北星学園大学)や家族までもが「標的」とされた。矢面に立つべき朝日新聞「社」は最後まで後ろに隠れ続けた。
 映画に、植村さんの名誉棄損訴訟の被告の一人でジャーナリストの櫻井よしこ氏の記者会見シーンがある。「植村さんに取材しなかったのはなぜか」と問われた櫻井氏はこう答えている。
 「朝日新聞に取材を申し入れたら、木で鼻をくくった回答しかなかった。だから植村さんへの取材はしなかった」
 新聞社は朝日に限らず、自身が取材対象になると、「紙面がすべて」という常套句で説明責任を回避する体質がある。朝日は検証紙面で「女子挺身隊」と「従軍慰安婦」の混同を訂正、植村さんの記事を「事実のねじ曲げない」と結論付けた。説明はしないという朝日の姿勢に驚きはない。しかし、自社の記事が「捏造」と誹謗された責任を記者個人に負わせ続けた朝日新聞「社」の卑劣さは歴史に刻まれるべきだろう。
 バッシングの理不尽が知られ、反応した新聞・テレビは名誉棄損訴訟に転じて以降は冷淡になっていく。
北海道での『標的』連続上映会に先立つ6月7日、道政記者クラブ(加盟29社)で事前レクチャーがあった。道政記者クラブ(加盟29社)であった。だが取材に現れたのは朝日の記者1人だけだった。
 朝日は告知記事に続き、「(慰安婦と告白した女性が)強制的に連行されたという印象を与えるもので、安易かつ不用意な記載」だったとして「その部分は誤りとして訂正した」と、植村さんが訂正が必要な「誤報」を書いたとも読める注釈≠わざわざ付けた。
 経過の詳細を忘れたか知らない読者が、これをどう受け止めただろうか。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号 
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2022年06月11日

【オピニオン】夢洲カジノできれば 大阪が壊れる カギは「国際競争力」 公的負担は青天井 汚染・沈下対策も不備=桜田照雄さん寄稿

                              
桜田 画像 2017年秋.jpg
  
 安倍・菅政権下でなりふりかまわず喧伝されたカジノを柱とする統合型リゾート(IR)誘致計画は、大本命と目された横浜市の撤退に続き和歌山も断念。公式に誘致を表明しているのは維新が力を入れている大阪府・市の夢洲と長崎県の2地域だけとなった。政府方針の「最大3カ所」に収まる形になったが、世界で猛威をふるうコロナ禍でIR環境も一変した。コロナ以前に夢見た計画と経済効果が見込める保証はなく問題は山積だ。JCJ関西支部の要請で桜田照雄・阪南大学教授に寄稿いただいた。

 大阪府市では、オリックスとMGMリゾーツとの合弁会社である大阪IR社との間で、「基本協定」が2月15日に締結され、事業計画となる「区域整備計画」が公表され、4月26日、国への認定申請が行われました。
 「区域整備計画」は、「国際競争力の高い魅力あるIR施設でなければ、区域整備計画の認定を行わない」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)ので、「国際競争力」がカギです。

誘客競争には勝ち抜けない
 オリックスの責任者が「日本人客だけでも採算がとれる」と大阪市会の参考人質疑で回答したように、6400台のゲームマシンを24時間365日フル稼働させて5000億円近い粗利益を生み出す計画では、韓国やカンボジア、フィリピン、マカオとの誘客競争に勝ち抜くことはできないでしょう。「国際競争力の高い魅力ある」施設からは、ほど遠い施設になりそうです。
 また「国際会議場や家族で楽しめるエンターテインメント施設と収益面での原動力となるカジノ施設とが一体的に運営され、これまでにないような国際的な会議ビジネス等を展開し、新たなビジネスの起爆剤となり、また、世界に向けて日本の魅力を発信する、まさに総合的なリゾート施設であり、観光や地域振興、雇用創出といった大きな効果が見込まれるもの」(2018年7月6日参議院本会議安倍首相答弁)でなければ、首相答弁との整合性がとれません。
 もっとも、カジノと「一体的に運営」され、「家族で楽しめるエンターテイメント施設」というコンセプトは、容易に実現できそうにはありません。世界の国のどこにも、そのような施設は生まれていませんし、エンターテイメントのコンテンツはある特定のターゲットに狙いを絞ったものがほとんどで、世代を超えて楽しめるコンテンツは存在していません。

法の想定とは矛盾する計画
 このように、計画が具体化されればされるほど、カジノ実施法の想定内容と現実の計画との矛盾があらわになっています。よほどの詭弁を弄しなければ、カジノ実施法の定めをクリアーすることは困難になってきています。

汚染物質含みの土砂で造成
 夢洲のある大阪湾は「洪積層地盤が沈下する世界でも稀な地盤」(故赤井浩一京大名誉教授)です。この地盤・地質問題がカジノ誘致の最大の障害として立ち現れています。
 夢洲の護岸設計は高層建築物を想定していません。したがって、護岸の強化工事が必要になります。万博会場にも使われる夢洲1区は1000万トンを超える焼却灰−ダイオキシンの巣と表現される−を素材に造成されました。カジノ・万博用地とされる夢洲2区・3区は、建設残土と浚渫土砂から造成されています。浚渫土砂の主たる供給源は、大阪市内河川に垂れ流されてきた汚染物質にまみれた川底土砂なのです。

有害汚水の処理施設なし
 行政は、浚渫土砂は海防法(海洋汚染等および海上災害の防止に関する法律,1971年)にしたがって処理してきたといいます。しかしながら、海防法は「浚渫土砂を造成へ有効利用を図る場合、浚渫土砂は造成のための『材料』であり、海防法の廃棄物の定義『人が不要とした物をいう』に該当せず(環境大臣の)許可申請の対象とはならない」と定めています。
 つまり、1987年の埋立開始から、土壌汚染対策法にもとづく環境基準が設定される2006年まで、法の網の目が及ばない環境規制だったのです。また、有害物質を含んだ土壌と雨水による汚染水を処理する施設すら、夢洲2区・3区にはありません。

事業者判断で撤退可能とは
 カジノ事業者が事業を断念する条件の一つに、地盤沈下対策があります。基本協定書には、「設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれに限らない)が生じていないこと、又は、生じるおそれがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者は、……(中略)……適切な措置を講じること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な対策の費用の負担も含むものとする」とあります。
 稀な地盤・規制の不備・沈下対策。万全の対策をとらないかぎり夢洲カジノは実現しません。実現すれば、その後の開発にお墨付きが与えられます。とはいえ、対策費は青天井となるでしょう。最後に、事業の実施が困難だと事業者が判断すれば撤退できる。基本協定書はそう語っています。国はこんな杜撰な計画を認めてはなりません。
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2022年05月28日

【オピニオン】露「ウクライナ侵攻」に便乗 改憲、核武装の世論づくり 迫られる「平和」守る覚悟=丸山重威

 ロシアのウクライナ侵攻に便乗して、日本の右翼・軍拡勢力が、改憲と核武装を主張する世論づくりに躍起だ。安倍元首相の「核共有論」や、国家基本問題研究所(櫻井よし子理事長)の「9条で国は守れるのか」の「意見広告」はその代表だ。

 核「威嚇」利用し
 核武装の検討主張


 プーチン露大統領は2月24日、「ウクライナの現政権に虐待された人々を保護し、同国を脱ナチス化するために、軍事作戦の実行を決めた」と発表したが、併せて「現代のロシアは、世界でも最も強力な核保有国の一つ」「ロシアへの直接の攻撃は侵略者の壊滅と悲惨な結果につながる」と、核兵器で威嚇した。
 国際的にも批判が高まった「核威嚇」発言だが最初に「便乗」したのが安倍晋三元首相。27日午前のフジテレビで、米国の核兵器を自国領土内に配備・運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)を日本でも議論すべきだ」と述べた。 「日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核三原則があるが、世界はどのように安全が守られているか、議論していくことをタブー視してはならない」とも。早速産経新聞3月1日付主張が「国民守る議論を封じるな」と追随、「文芸春秋」5月号は、安倍氏のほか、E・トッド氏の論文「日本は核武装を」を掲載。特集を組んだ。

 「国を守れない」と
 憲法九条でを攻撃


 もうひとつ、目立つのが、「9条では国を守れない」という「憲法9条攻撃論」。3月13日の自民党大会で岸田文雄首相は、ウクライナ侵略をあげ、「防衛力の強化と党是の改憲の実行に取り組む」「そのための力を得る闘いが参院選」と主張した。自民党は「憲法改正推進本部」を「実現本部」に変更、全国で集会を開いて国民世論を喚起する方針だ。
ロシアの侵略を「だから軍隊を持って対抗しないといけない」とみるか「軍事力の強化は軍事対決・挑発を激化させる。非武装・不戦の九条の意議はますます大きい」とみるか―。九条の会は2月25日「ウクライナ侵略とそれを口実にした9条破壊、改憲は許さない」と声明した。

 九条の会「声明」
 不戦の意義広める


 自民党は、この春、憲法審査会の毎週開催を主張し。実際にこれが進んだ。衆院憲法審査会の新藤義孝自民党幹事は、4月10日、フジテレビで、「憲法9条の最大の問題は国防規定がないことだ」と主張。「この議論は憲法審査会でぜひやりたい。安全保障に対する議論はこれから…」と述べ、動き出した。
 世界が武力で対立する中で、日本が不戦・非武装を貫き、平和と安全を守るか。ウクライナ問題は、その「覚悟」を日本人自身に迫っている。
  丸山重威
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
  
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2022年04月15日

【オピニオン】北京冬季五輪 近代五輪の限界露呈 内向き報道見直しを=徳山喜雄

                          
北京五輪.jpg

 政治的な思惑がむきだしとなった北京冬季五輪が閉幕した(2月4〜20日)。新疆ウイグル自治区の少数民族への人権抑圧など問題を抱える開催で、米国や英国、カナダなどは政府当局者を派遣しない外交ボイコットに踏み切った。開会式では習近平国家主席と国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長がともに姿をみせ、ロシアのプーチン大統領をはじめカザフスタンのトカエフ大統領、サウジアラビアのムハンマド皇太子ら強権国家の首脳らが並んだ。
 1980年モスクワ五輪はソ連のアフガニスタン侵攻で西側諸国がボイコットし、次の84年ロサンゼルス五輪は報復措置として東側諸国がボイコットした。今回、プーチン大統領は五輪後まもなく、ウクライナへの侵攻をはじめ、核兵器の使用さえちらつかせた。冷戦時代さながらの光景がみられるとともに、近代五輪の限界が露呈した。
一方、日本メディアは自国選手の活躍ばかりに焦点をあて、外国勢の動きをほとんど伝えていない。こうした内向きの五輪報道では、スポーツの素晴らしさや楽しさが十分に伝えられていないという印象を強くもった。

失格泣き崩れる
ジャンプの高梨


 北京は夏季と冬季の五輪を開催する初めての都市となり、これを推進した習主席が開会式で称えられるなど、長期政権に向けての徹底的な五輪の政治利用が浮き彫りとなった。聖火リレーの最終走者にはウイグル族の女性選手が起用され、ここでも政治色の濃い演出が際立った。
 昨夏の東京五輪のように、難易度の高い技に挑戦し失敗した選手を称え、ライバル選手らが抱き合うという感動的なシーンもみられた。しかし、競技のルールや判定をめぐって異例ともいえるトラブルも相次いだ。
 たとえば、スキージャンプで高梨沙羅ら4カ国5人の女子選手がジャンプ後に、スーツサイズの規定違反の判定を受け、失格になった。高梨の場合、スーツの両太ももの部分が規定より2センチ大きいとされたが、2日前の競技でも同じスーツを着ており、問題になっていない。
両手で顔を覆って泣き崩れる高梨の姿がテレビに映しだされたが、見てられなかった。日本メディアは事実関係を伝えるだけで、判定の問題点を強く主張することがなかった。報道のありようを再考してほしい。
 IOCの振る舞いは相変わらず不可解だ。バッハ会長は、張高麗前副首相から性的関係を強要された後に不倫関係にあったと告白した元テニス選手の彭帥さんと会食し、競技をともに観戦した。彭さんは昨年11月、SNSに前副首相との関係を記載したが、直後に削除され一時消息不明になり、物議をかもした。
 彭さんは冬季五輪の選手ではない。ここでなぜバッハ会長がでてくるのか。中国当局による彭さんへの行動制限や脅迫などの疑惑を払拭することにひと役買っているようにしかみえなかった。

ワリエワの悲劇
選手を使い捨て


 ドーピング問題はあとをたたない。国威発揚のための道具として使い、有能な選手を使い捨てていく光景が北京五輪でもみられた。フィギュアスケート女子の15歳のカミラ・ワリエワ(ロシアオリンピック委員会)は、悲劇的な結末を迎えることになった。
 ワリエワは団体で金メダルになったが、五輪前の大会で採取した検体から禁止薬物が検出され、IOCなどは暫定的な資格停止処分とした。しかし、16歳未満の選手が「要保護者」にあたるとの世界反ドーピング機関の規定があり、スポーツ仲裁裁判所は引き続き出場を認める裁定をした。
 これによってワリエワは女子フリーに参加。ここで非情ともいえる寒々とした光景を見た。精神的に追い詰められたワリエワは転倒を繰り返し4位に。こんな失意の選手に対し、著名な女性コーチは慰めるのではなく「なぜ、攻めの滑りをしなかったの。あきらめたの?」などと叱責する声がテレビ中継のマイクにひろわれた。
 ワリエワは赤い手袋をはめた手で顔をおおい泣き崩れていた。ジャンプの高梨が理不尽な判定に泣きつづける姿とも重なった。とりわけロシアにおいて、アスリートを使い捨ての消費財としか扱っていないことが、はっきりと見てとれた。記者会見したバッハ会長は「背筋が凍るような印象をもった」と述べている。
 国家主義による国威発揚のためのアスリートの歯車化と、商業主義による選手の商品化。宿痾ともいえる病に冒された近代五輪は、どこに向かうのだろうか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号

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2022年03月25日

【オピニオン】名護市民が私たちに突き付けてきたもの 基地問題 決定権なき決定者 明星大学教授・熊本博之さん寄稿

                               
熊本先生.jpg
     
 辺野古新基地建設に反対する立場から立候補した岸本洋平氏を大差で破り、現職の渡具知武豊氏が二選を決めた1月の名護市長選挙。人口6万4千人ほどの地方自治体の首長選挙に多くの注目が集まったのは、もちろん、米軍普天間飛行場の移設先である辺野古があるからだ。選挙の結果は多くの新聞で一面を飾り、さまざまな論評が掲載された。かくいう私も、20年続けてきた辺野古集落でのフィールドワークに基づき、辺野古住民の立場から見た普天間基地移設問題について書いた『交差する辺野古』を勁草書房から上梓していたことから、いくつかの新聞社から取材を受け、記事を寄稿した。
 これほどまでに注目を集めたにも拘わらず、普天間基地移設問題は、実は名護市長選挙の争点ではなかった。争点になり得なかった、といったほうが正確だろう。それは政府に協調的な立場である渡具知氏が争点から外したというだけの理由ではない。そもそも名護市民は、普天間代替施設という名の新たな米軍基地を、辺野古の海を埋め立てて建設することの是非について、決定権を持っていないからだ。にも拘らず、名護市民は選挙の度に、建設への賛否を問われている。私はこの名護市民が置かれた状況を「決定権なき決定者」と呼んでいる。

止まらない計画

 なぜ決定権がないのか。それは政府が、「国防は国家の専管事項」という論理のもと、地方自治体の国防政策への関与を事実上拒絶しているからだ。そのことを名護市民は、辺野古移設が争点になった1998年の市長選挙からの24年間で、嫌というほど思い知らされた。受け入れを容認する市長が誕生したときだけ選挙結果が尊重され、反対する市長が誕生しても建設計画は止まらない。今回の選挙期間中も、土砂を積んだトラックが辺野古に向かう姿を何度も見かけた。どちらが勝っても建設は進めるという政府のメッセージだったのだろう。
 それでも名護市民は、投票に際して、普天間基地移設問題について考えざるを得なかった。なぜなら、渡具知氏が一期目の実績として掲げ、その継続を公約に挙げていた子ども医療費、学校給食費、保育費の無償化の財源は、市長が辺野古新基地の建設を容認していることに基づいて交付される米軍再編交付金だったからだ。そのため名護市民は、建設を止めることを諦めて交付金を受け取るか、止められる可能性は低くても建設を認めず、交付金も受け取らないかのどちらかを選ぶしかなかったのだ。
 そして名護市民は渡具知市政の継続を選んだ。そこからわかるのは、自分たちの生活が安定する可能性の高い選択をした市民のほうが多かったということだけだ。もちろんその決定は新基地建設を前に進めることになる。だが「止める」という選択肢がない中で出した名護市民の決定は、新基地建設を認めたということにはなるまい。決定権がないのだから、決定することもできないはずだ。

騒音は容認せず

 ではこの結果を、条件つきで受け入れを容認している辺野古区民はどう受け止めただろうか。渡具知氏の当選が確実になったあと、私は、渡具知氏を支持する区民が集まっている辺野古の公民館に向かった。渡具知支持の理由は、辺野古区の要望を聞き、政府に伝えてくれる市長だからだ。だが、公民館は静かなものだった。当選確実の瞬間も、それほど盛り上がってはいなかったという。
 辺野古の区長はその理由を「大事なのはこれからだから」と語ってくれた。辺野古の住民にとって大事なのは、安全に、安心して暮らせる環境を維持することだ。もちろんそのためには新基地の建設がなされないことが一番いいのだが、その可能性は低い。だから、建設されたあとの未来を見据えた上で、騒音の抑止などの施策の実施を、市長を通して政府に要求していく必要がある。区長が言うように、「辺野古は騒音まで容認しているわけではない」のである。

「勝者」なき選挙
 
 茂木自民党幹事長は、選挙結果を受けて「大きな勝利だ」と語ったというが、名護市民のなかに勝者は1人もいない。降りかかってくる負担を拒絶する選択肢を有権者が持たない選挙の勝者は、負担を押しつける者でしかないからだ。その意味では、名護市民、そして沖縄県民が「辺野古移設反対」の民意を何度示しても、それを顧みることなく建設を進める政府を支えてきた本土の私たちも、政府の勝利に加担していることになる。
 だから、東京を中心とするマスメディアが、沖縄での選挙に関する報道でやるべきことは、選挙結果から沖縄の人たちの意識を探ることではない。選挙によって沖縄が本土に突きつけているものを正しく受け取り、本土がやるべきことを示すことなのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
                             
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