2022年12月01日
【22年度受賞者スピーチ】特別賞 沖縄タイムス社 「ちむわさわさ」もある 東京支社報道部長・照屋剛志さん
沖縄タイムスなどが行った世論調査によると、沖縄県民の86%が日本に復帰して良かった回答しました。日本に復帰したおかげでインフラが整備されたり、所得が向上したり、安全のなり暮らし向きが良くなったことが反映しているという分析もあります。
考えてみたら、復帰前の方が悪いに決まっています。米軍に支配されていたのですから。婦女暴行や、殺人やひき逃げがあったりしても、それを裁く軍法会議では米軍は無罪になったり、住民が選んだ那覇市長が事実上追放されたりも。
そもそも人権さえ蹂躙されている状態で、沖縄の先人たちは、日本への復帰をすごく求めてきて、やっと果たした。そうした復帰については非常に大事にとらえて報道していきたい。
でも、沖縄の場合、アメリカに支配されたととらえがちだが、つまり軍隊に支配された27年間でした。その軍隊はまだ残っています。
50年前の日本復帰式典は5月15日に那覇市で開かれたが、その隣では反対集会も開かれました。賛否分かれた復帰を迎え今に至る。軍隊は残ったまま復帰50年を迎えました。たしかに暮らし向きはよくなった。高速道路もできたし、モノレールもできた。僕、個人も日本に復帰してよかったな、と思います。でも暮らし向きがよくなったのは沖縄だけではないですよね。日本全国みんなが発展してきました。
なのになぜ沖縄だけが復帰のたびに「日本に復帰してよかったですか」と聞かれなければいけないのでしょう。
世論調査では、もう一方の回答があり、沖縄県民の89%が本土との格差を感じると答えています。基地の問題も、離島県で輸送コストがかかり、なかなか所得が上がらない現状もある。本土との格差を抱えながら、「良かった」と答えている沖縄県民の気持ちも、皆さんに知っていただきたい。
日本復帰というのは、「ちむどんどん」だけではない。「ちむわさわさ」も「わじわじ」も「なだそーそー」もしました。そういう思いををふくめて、沖縄の日本復帰のをとらえてほしいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月30日
【22年度JCJ賞受賞スピーチ】特別賞 琉球新報社 「民意の矮小化」に抗う 編集局長・島洋子さん
戦後77年の報道で、JCJから特別賞を頂くのは大変光栄で身の引き締まる思いです。
来年、琉球新報は創刊130年ですが、戦時中沖縄3紙の新聞統合で「琉球新報」の題字は途絶え、戦後「うるま新報」として再出発。サンフランシスコ条約の1951年「琉球新報」に戻りました。
住民の4人に1人が亡くなった沖縄戦の間、新聞は戦意を煽り、大本営発表を垂れ流しました。私たちの報道の基盤は、このことへの深い反省です。
沖縄は日本独立後も27年間、憲法が適用されないままだったし、復帰50年も米軍に由来する事件・事故などで苦しんでいます。私たちはその不条理に抗い、権力に対峙してきたと自負しています。時に権力から攻撃されるのはその結果です。
2015年自民党の勉強会で講師の作家が「沖縄の二紙は潰さなあかん」と発言。議員も「マスコミを黙らせるには広告収入をなくすのが一番。経団連へ働きかけよう」と呼応しました。
また97年、軍用地契約の代理署名を拒否した大田昌秀知事時代の衆院特別委員会での「沖縄の心は二紙にコントロールされている」との発言、「沖縄では先生も新聞も共産党に支配されている」と述べた2000年森喜朗自民党幹事長(当時)。政権と沖縄の民意が対立する場面での「民意の矮小化」です。この動きには徹底的に抵抗していかねばならないと思います。
琉球新報がよって立つところは二つ。一つは米軍施政以来、基本的人権さえ守られない沖縄の人達の苦しみを共有し、その改善を追い求める。もう一つは、戦争中大本営発表で戦意高揚に加担した反省を踏まえ「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を伝え続けていくことです。
今年、私たちは「いま 日本に問う」を表面、裏面に復帰の日の新聞を復刻し、読者に届けました。
復帰の日を「お祝いムード」にせず、50年前の苦悩が今も続く沖縄の「現実」と「気持ち」を「紙の力」で伝える試みです。
きょうの琉球新報紙面は1ページを使い「JCJ賞受賞特集」としました。改めて私たちの立脚点を再確認させてくれたJCJ賞に感謝します。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月29日
【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】リニアの現場から 工事の足元 見つめ直す 信濃毎日新聞社 島田誠さん
リニア中央新幹線は東京と名古屋を約40分、東京と大阪は60分余りで結ぶ計画です。中間駅の設置が計画されている長野県の飯田市は大都市圏との交通が非常に不便で、高速バスで東京まで4時間余り、名古屋まで2時間余りかかります。2007年にJR東海が首都圏と中京圏の営業運転を目指す方針を発表した時は、行政も経済界もこぞって計画推進に賛同し、駅の誘致の声が上がりました。
6年前に長野県内で工事が始まると様々な影響が見えてきました。トンネル工事では県内だけで東京ドーム8個分ほどの土砂が出ますが、山間の静かな村を1日数百台の運搬用ダンプカーが通るようになりました。一方、コロナ禍でテレワークも当たり前となり、人々の暮らしも価値観も変わった。このタイミングで、リニア新幹線の工事を巡り足元で何が起きているかを見つめ直そうと連載をスタートしました。
最初に申し合わせたのは、地域、土地に根差して暮らしている人の声を徹底して聞こうということです。取材では500人くらいに話を聞きました。地域特産の干し柿を作る場所がなくなる、建て替えた自宅が駅の候補地になったといった影の部分を、人の体温を伴って感じることができました。
もう1つ着目したのは、リニア計画は(総工費約7兆円のうち)3兆円を政府が貸し出す国策事業で、建設や営業の主体はJR東海の民営事業である点です。国策、民営の両面の性格が都合よく使い分けられていないか、と。象徴的なのが残土の話です。ある処分候補地が、実は土石流の危険があると県が判定していたことが取材で分かりました。問題は、そんな危険性を県もJR東海も地元に説明してこなかったこと。県議会では34カ所の候補地のうち19カ所で土砂災害の恐れがあることが明らかになります。
連載ではその後、相次ぐ労災や、新幹線を上回る大量の電力消費の問題なども取り上げています。建設の遅れは水資源への影響を懸念する静岡県のせいだと一般的に受け止められていますが、長野県でも未解決の問題が沢山あります。工事の遅れは計画自体が抱える問題点の多さの表れではないか。そうしたことを多くの人に知ってもらいたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月28日
【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】消えた「四島返還」安倍「2島返還」を検証 北海道新聞社 渡辺玲男さん
北方領土問題は北海道新聞にとって大きなテーマです。賞をいただいた本を書いたのは現在、モスクワ支局長の記者と会場に来ている小林記者、私の3人ですが、50人以上の記者の情報の積み重ねで完成しました。この7年8カ月間にかかわってきた取材班一同喜んでいます。
安倍政権は18年11月のシンガポール会談で、北方領土4島返還から2島返還に転換する非常に大きな歴史的カードを切りました。
安倍政権が歴代で、対ロ外交に最も政治エネルギーを注いだ政権だったことは間違いありません。その中で感じたのは、安倍政権の対ロ外交の内容が自民党、政権与党内でも意外と知られていなかったことです。それは安倍政権が「基本的な方針は変わっていない」と言い続けたこともありますが、党内では「あれは転換ではなく2島先行だ」「4島は諦めてない。先にまず2島交渉をやっているのだ」という誤解もかなり広まっていました。
これは伝える側にも問題があったと思っています。首脳会談などのタイミングだと盛り上がって報道するが、それが終わると関心が薄れてしまう。7年8カ月に何回も波があり、同じことが繰り返されてきました。
2年前の9月、突然の退陣で「日露平和条約については断腸の思いだ」と言った安倍さんは自分が実際に2島に転換したことは全く説明しません。これではどういう対ロ交渉が行われてきたかを残さないと同じ事が繰り返される。安倍外交をきっちり評価したうえで対ロシア関係を考えていくべきだと考えました。
まず、取材班が積み重ねてきた約1万7000件の取材メモを全部チェックし直す作業から始め、書いてきた記事と記事の間のストーリーが見えていないところ、見過ごしていた事実や大きな流れを追加取材し、実際に極秘提案があった事実や首脳間での実際にあったやり取りもつかみました。
本を出すにあたっては、北方領土問題が国と国の外交交渉だけでなく、4島に隣接する根室や漁業者の身近な生活に影響していることを知っていただきたいと思い北海道新聞電子版に公開しました。
昨年12月、インタビューに応じた安倍さんは「2島転換は間違ってなかった。プーチン大統領との間で解決するしかない」と主張しましたが、2カ月後のウクライナ侵攻で難しくなり、安倍さんも亡くなりました。
今、永田町は「ロシアとの対話は不要」との空気です。だからこそ私たちは北海道から引き続き報道を続けます。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月26日
【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】核のゴミ 民主主義 機能しない国 北海道放送報道部デスク 山ア裕侍さん
JCJ賞は2年前にも「ヤジと民主主義」で受賞させていただきました。今回の番組にもサブタイトルに民主主義とつけました。地方で 起きている問題が、この国の問題に凝縮されていて、そこをずっと見て取材していくと、この国の民主主義が機能していない課題というのがすごくわかります。
この問題の発端は2年前の8月の北海道新聞のスクープでした。「寿都町が核のごみの最終処分場の調査を検討」と。もうびっくりしてですね、それから取材を始めました。毎日、記者たちが札幌から車で3時間、180キロを通いました。核のゴミと未来というキャンペーン報道を続け、今年の5月末までに416回、ニュースや特集を出しています。それらをまとめたものが今回受賞した番組になります。
人口2700人の小さな町に全国からメディアが来て説明会のあと、住民を囲んで賛成か反対かと。我々がさらに住民の分断を招いてしまった部分があるのではないか。説明会が終われば住民にはまた日常が続くわけです。メディアが煽っている部分もあると反省しながらキャンペーン報道を続けてきました。
町長は、批判の報道が強くなるとメディアを賛成・反対で選別するようになりました。しかし町長の手を挙げざるを得ない思いも正確に伝える、賛成派の言い分も伝えるようにしています。一方、反対する住民は、札幌の大きな労働団体などからの協力を断り、私たちの町のことは私たちでやると、いろいろな意見を出し合いながら、地域に暮らしながら反対していくというのは、こういうことなのだろうなと感じました。
やはり核のごみというのは日本全体の問題ですが、地元メディアですら、核を取るか過疎を取るか寿都町、というタイトルで放送するのです。違うだろうと、押しつけられたのは地元であるけれども押しつける構造自体に問題がある。報道を通じてみんなの問題という風に感じてもらうためにはどうしたらいいのかということを考えて番組にしました。
核のごみの交付金に頼らない町づくり、もう一歩先を見据えて住民たちが活動を始めています。それができれば課題解決の先進地になるのではと思い、これからも取材を続けていきたいと思います。
2022年11月24日
【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞 映画『教育と愛国』教育に政治介入の津波が=監督・斉加尚代さん
日本は今、教育と学問が政治介入によって大きな危機を迎えています。5年前に放送したテレビドキュメンタリー『教育と愛国』に追加取材し、映画にしたのは、その危機感からです。公教育が戦前の状態に近づいているのではないか。映画は、教育現場から見えた小さな変化を珠数つなぎにして完成させた。見終わって「衝撃だった」という人が少なくありません。「大日本帝国の亡霊を見た思い。政治ホラーだ」と語る人もいました。
戦後教育の転換点を振り返ったとき、なんといっても2006年の教育基本法の改定を挙げることになります。第1次安倍政権下でした。ナショナリズムを培養する愛国心条項がここに盛り込まれ、「既存の歴史教科書は自虐だ。自虐史観だ」といったスローガンを掲げる「新しい歴史教科書をつくる会」系の採択運動も加速していきます。
映画に登場する森友学園の理事長の籠池泰典さんが「自分は2006年の教育基本法の改正で安倍さんを信奉するようになった。2012年の教育再生民間タウンミーティングに参加して維新や自民党の政治家たちが応援してくれるようになった」と胸を張っていました。その籠池さんが映画を見て電話をくれました。「見ましたよ!いい映画でしたね」と褒めてくれました。「今の教科書は安倍史観に染まっていて問題です。基本的人権が後退しています」とおっしゃって、「ご自身の愛国教育はどこいっちゃったの」と思いました。
今年2月、ロシアが侵略戦争を起こしました。ロシアは今、事実をねじ曲げて愛国教育を行っているだろうと思います。世界が分断に直面しているのは、教育によるもの、教育が影響するものと言えます。教育と政治が一定の距離を保つこと、その普遍的な価値というのは共通の価値です。政治介入によって、教育の自由が奪われる、その行為は社会そのものから自由を奪いかねないと思います。子どもが主体的に学ぶ大切な学習権を 大人の責任で守らなければいけない、と思っています。
先ほどの講演で上西充子さんが「政治の津波は止めることができる」とおっしゃいました。今教育現場に津波がひたひたと押し寄せています。この津波を止めなければいけない
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月22日
【22年度JCJ賞受賞者スピーチ】『ルポ・収容所列島』人権無視の実態に衝撃 東洋経済新報社 風間直樹さん
写真左から風間直樹、井艸恵美、辻麻梨子の3氏
週刊東洋経済は経済メディの中で、社会性のある幅広いテーマを取り上げてきました。医療に関する問題では2000年代初頭に、全国各地の大学当局から若い医師が離れていく医療崩壊を報じました。同時に経済にとらわれない週刊誌の問題意識と、多いときは月間3億ページビュー(PV)を記録したウェブメディア『東洋経済オンライン』の拡散力を一体的に制作する狙いで19年1月に調査報道部が立ち上がりました。この報道部が取材した薬漬けが広がる児童養護施設や生活保護者が住む劣悪な無料定額宿泊施設の実態、『ルポ・収容所列島』もオンラインで記事を連載しました。
精神医療取材のきっかけは、編集局に届いた精神科病院に入院中の女性からの手紙でした。その内容は主治医の指示で親、兄弟、子どもと面会禁止、電話もできません。手紙のやり取りだけが許されていました。そんな閉鎖された状態に衝撃を受けました。主治医が変わり退院に向けた動きがある中で彼女に接触しました。閉鎖病棟の面会で2、3時間話しても、意思の疎通ができる普通の人が4年近くも強制入院させられていたことがショックでした。
彼女が入院させられた肝は精神科特有の「医療保護入院」制度が背景にあります。家族一人の同意と、精神科医の診断というゆるい要件で身体拘束が可能なことに驚きました。
「精神科移送業」の存在も書きました。民間会社の見知らぬ男たちが突然、自宅に乗り込んできて、強制的に人を精神科病院に連れて行くのです。診察の際、強引に連れてこられ正常とは言えない精神状態ですので本人が反発すると攻撃性や多弁、多動があるとして統合失調症の疑いと診断される事例が多々ありました。財産や子どもの親権目当てに悪用するケースが多かった。
こうした問題に対して、行政機関のフォローがあるものだろうと思っていたのですが、全くないのです。つまり家族、病院、行政のトライアングル状態の中に当事者が閉じ込められています。本来、患者側に立つべき行政機関が逆に、地域社会で問題を抱えている方を厄介払いしてくれる大変便利な施設として、精神科病院を利用している状況が見えてきました。
朝日新聞の大熊一夫記者が潜入取材して書いた『ルポ・精神病棟』は1970年の新聞連載でした。その後、50年間、時は止まっています。精神医療がまったく変わらない実態を提起したいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
週刊東洋経済は経済メディの中で、社会性のある幅広いテーマを取り上げてきました。医療に関する問題では2000年代初頭に、全国各地の大学当局から若い医師が離れていく医療崩壊を報じました。同時に経済にとらわれない週刊誌の問題意識と、多いときは月間3億ページビュー(PV)を記録したウェブメディア『東洋経済オンライン』の拡散力を一体的に制作する狙いで19年1月に調査報道部が立ち上がりました。この報道部が取材した薬漬けが広がる児童養護施設や生活保護者が住む劣悪な無料定額宿泊施設の実態、『ルポ・収容所列島』もオンラインで記事を連載しました。
精神医療取材のきっかけは、編集局に届いた精神科病院に入院中の女性からの手紙でした。その内容は主治医の指示で親、兄弟、子どもと面会禁止、電話もできません。手紙のやり取りだけが許されていました。そんな閉鎖された状態に衝撃を受けました。主治医が変わり退院に向けた動きがある中で彼女に接触しました。閉鎖病棟の面会で2、3時間話しても、意思の疎通ができる普通の人が4年近くも強制入院させられていたことがショックでした。
彼女が入院させられた肝は精神科特有の「医療保護入院」制度が背景にあります。家族一人の同意と、精神科医の診断というゆるい要件で身体拘束が可能なことに驚きました。
「精神科移送業」の存在も書きました。民間会社の見知らぬ男たちが突然、自宅に乗り込んできて、強制的に人を精神科病院に連れて行くのです。診察の際、強引に連れてこられ正常とは言えない精神状態ですので本人が反発すると攻撃性や多弁、多動があるとして統合失調症の疑いと診断される事例が多々ありました。財産や子どもの親権目当てに悪用するケースが多かった。
こうした問題に対して、行政機関のフォローがあるものだろうと思っていたのですが、全くないのです。つまり家族、病院、行政のトライアングル状態の中に当事者が閉じ込められています。本来、患者側に立つべき行政機関が逆に、地域社会で問題を抱えている方を厄介払いしてくれる大変便利な施設として、精神科病院を利用している状況が見えてきました。
朝日新聞の大熊一夫記者が潜入取材して書いた『ルポ・精神病棟』は1970年の新聞連載でした。その後、50年間、時は止まっています。精神医療がまったく変わらない実態を提起したいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号