2024年11月29日
【24年度JCJ賞受賞スピーチ】『東京電力の変節』東電と最高裁判事の癒着暴く=橋詰雅博
最高裁判事は、権力側で保守的な人が多いが、それなりの正義感や公平さを持ち見識ある人というイメージが強いと思います。しかし、昨年9月に出したこの本でそれを打ち砕きました。この本を読んでいただいた原発被災者には『なーんだこんな人(最高裁判事)たちだった』という声が広がっています。
最高裁第2小法廷判事は福島原発事故の4民事訴訟(仙台、千葉など)の裁判で「国に責任がある」としました。2年前の6月17日でした。
判事4人のうち「国に責任がある」と反対意見を出した一人だけ。国の責任を拒否した3人のうち菅野博之裁判長は退官し、岡村和美と草野耕一の両判事は第二小法廷に残っています。
草野判事は西村あさひ法律事務所出身です。裁判官就任前は事務所の共同経営者で、事務所顧問の元最高裁判事は東京電力からの依頼で意見書を最高裁に出している。しかも事務所の弁護士は東電社外重役を務めている。
岡村判事の出身は東電株主代表訴訟の東電側代理人を務めている長島・大野・常松法律事務所です。退官した菅野氏顧問として迎い入れています。両事務所は東電とつながりが深いのです。
民事訴訟での最高裁の役割は法律審という高裁の事実認定が憲法かどうかの審理で、独自の事実認定はできません。ところが最高裁第二法廷の6・17判決は高裁の事実認定の一切を否定し、独自の事実をもってきた。民事訴訟法に違反する判決です。
弁護士ら10人は、8月1日に国会の裁判官訴追委員会に岡村、草野両判事の罷免を請求した。最高裁の公平・公正を疑う人も確実に増えました。今年6月17日、人間の鎖で最高裁を囲む抗議行動に原発被災者を含む950人が集まりました。
最高裁第一小法廷判事5人が審理する愛知と岐阜の原発事故自主避難者の人権侵害訴訟も、判事の宮川美津子氏が東電を弁護するTMI総合法律事務所出身です。弁護団は、反発し、彼女の忌避申し立てを行いました。
最高裁判事と巨大法律事務所の関係をこれからも地道に取材していきます。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年11月28日
【24年度JCJ賞受賞者スピーチ】78年目の和解 サンダカン死の行進・遺族の軌跡 国境超え事実積み上げ SBC信越放送 湯本和寛さん=古川英一
SBC信越放送
「サンダカン死の行進」とは大平洋戦争末期の1945年、マレーシアのボルネオ島で日本軍が島の東部のサンダカンから西部へ部隊を異動するためジャングルを行軍、日本軍兵士1〜2万人のうち半数が飢えなどで亡くなりました。そして一緒に連れて行った日本軍捕虜収容所の英豪の捕虜2434人は、脱走した6人を除き全員が亡くなりました。
私がこの事実を知ったのは、戦死した大伯父の戦友が書いた手記を手に取ったのがきっかけです。その後、東京に出張した際に国会図書館で資料などを調べ、2015年から取材を始めました。生き残った兵士の息子で死の行進について調査を続け、本を出したオーストラリア人の男性ディックさん。また戦犯として処刑された日本軍司令官のお孫さんも取材しました。2020年には日豪などの遺族が和解の旅を計画しましたが、コロナ禍でかないませんでした。そしてその間にお二人は亡くなってしまったのです。
亡くなったディックさんは著書の最後で日本人との和解を強く望んでいて、それを何とか実現したいと思いました。このため私たち、日英豪や日本兵に殺害された現地の人の遺族などはオンラインで30回にわたりミーティングを開いて意見を交わしました。
そしてようやく去年、ボルネオでの和解の旅が実現したのです。現場で具体的に話を聞きくとイメージと違う発見があります。一緒に回ることで世界観が変わっていくのです。国籍のことはついて回るのですか、国籍を超えて一緒に事実を積みあげていくこと、普段は離れていても直接会って話し合っていくなかで、戦争はいけないというところにみんなが収れんしていきました。
ボルネオの遺族のシンシアさんが、自宅に石碑を作りました。そこには、それぞれの国の遺族の名前が刻まれていたのです。こうしたことを実際に見聞きすることで戦争の教訓を引き継いでいく。これからもこうした教訓を忘れないようにして、しっかりと取材を続けていきたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
「サンダカン死の行進」とは大平洋戦争末期の1945年、マレーシアのボルネオ島で日本軍が島の東部のサンダカンから西部へ部隊を異動するためジャングルを行軍、日本軍兵士1〜2万人のうち半数が飢えなどで亡くなりました。そして一緒に連れて行った日本軍捕虜収容所の英豪の捕虜2434人は、脱走した6人を除き全員が亡くなりました。
私がこの事実を知ったのは、戦死した大伯父の戦友が書いた手記を手に取ったのがきっかけです。その後、東京に出張した際に国会図書館で資料などを調べ、2015年から取材を始めました。生き残った兵士の息子で死の行進について調査を続け、本を出したオーストラリア人の男性ディックさん。また戦犯として処刑された日本軍司令官のお孫さんも取材しました。2020年には日豪などの遺族が和解の旅を計画しましたが、コロナ禍でかないませんでした。そしてその間にお二人は亡くなってしまったのです。
亡くなったディックさんは著書の最後で日本人との和解を強く望んでいて、それを何とか実現したいと思いました。このため私たち、日英豪や日本兵に殺害された現地の人の遺族などはオンラインで30回にわたりミーティングを開いて意見を交わしました。
そしてようやく去年、ボルネオでの和解の旅が実現したのです。現場で具体的に話を聞きくとイメージと違う発見があります。一緒に回ることで世界観が変わっていくのです。国籍のことはついて回るのですか、国籍を超えて一緒に事実を積みあげていくこと、普段は離れていても直接会って話し合っていくなかで、戦争はいけないというところにみんなが収れんしていきました。
ボルネオの遺族のシンシアさんが、自宅に石碑を作りました。そこには、それぞれの国の遺族の名前が刻まれていたのです。こうしたことを実際に見聞きすることで戦争の教訓を引き継いでいく。これからもこうした教訓を忘れないようにして、しっかりと取材を続けていきたいと思います。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年11月27日
【24年度JCJ賞受賞者スピーチ】冤罪≠フ深層を追う連作 被害者取材が闇を暴く NHKディレクター・石原 大史さん= 廣瀬 功
NHKディレクター の石原大史(ひろし)で す。大川原化工機事件は 約2年半の取材で都合4 本を放送しました。最初 は2年前、11
月の「クローズアップ 現代」です。
この事件では普通の 日常を過ごしてきた市民 が突然犯罪者に仕立て上 げられ、逮捕、拘留され る過程で1人が命を失っ てしまった結果、検察が 起訴を取り消す異例の判 断で事件がなかったこと にされます。冤罪に巻き 込まれた人たちの物語を 克明に記録したいという のが私の最初の関心で、 「警察の闇」を暴くこと ではありませんでした。
私が大川原化工機を初 めて訪ねたのは起訴取り 消しから1年少し経って からでしたが、皆さんが マスコミに不信感を持っ ています。マスコミは、 「生物兵器製造に転用可 能な機械を中国に輸出し たとんでもない事件だ」 と、逮捕、起訴に至る過 程で事件を大きく報じる 一方、当初から犯罪性を 否認した会社の主張は取 り上げませんでした。そ の結果、(会社は)銀行、 企業取引停止、世間に白 い目で見られるなど社員 の皆さんは大変な目にあ いました。
「お前らは冤罪の片棒 を担いだんだろう」と、 話を伺う社員の皆さんか ら言われるほど、マスコ ミ自身が大きく深く関わ ってしまった事件である ことをまず感じました。
「クローズアップ現 代」を放送できたのは、 「これだけの事件をきち んと記録することは大切 だ」と何度も申し上げ、 会社の方々と何度もお会 いしてコミュニケーショ ンをとり続けた結果です。
そこから約1年をかけ てNHKスペシャル、E TV特集、さらに1年を 経てNHKスペシャルを 立て続けに作る過程では 最初取材できていなかっ た警察や関係者の証言、 内部資料などを多数入手 し、どんどん出しました。
その後の取材の進捗 は番組の通りですが、警 視庁の内部、警察庁、検 察、経産省、東京都と事 件の関係者は増え続け、 秘匿されていた情報の流 出が広がり続けています。
我々の番組はこの事 件のある程度の事実を明 らかにし、その一部は地 裁も会社側の損害賠償請 求訴訟の判決で認めまし た。しかし国や東京都は 控訴しています。まだま だ新事実が表に出ると考 えられ、引き続き取材を 続けます。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年11月24日
【24年度JCJ賞受賞者スピーチ】『南京事件と新聞報道』資料の山に分け入って ジャーナリスト・上丸 洋一さん=須貝 道雄
1987年5月3日に朝日新聞阪神支局襲撃事件があり、1人の記者が死亡し、もう1人の記者も重傷を負いました。「赤報隊」と名乗るものから犯行声明が出て、「反日朝日は50年前にかえれ」と書かれていました。1987年の50年前は1937年、つまり日中戦争が始まった年、南京大虐殺があった年です。
その1937年当時、朝日新聞をはじめとする新聞各紙はどんな報道をしていたのか。それを調べるために私は1年数か月にわたって国会図書館に通い、広島、和歌山、奈良などの県立図書館に足を運んで新聞を読み続けました。生の資料の山の中に分け入って、誰も読んでいないベタ記事に目をとめるという、宝の山にいるようなわワクワク感を伴う作業でもありました。
その結果分かったのは、当時の新聞の戦場報道は、日本軍は強い、日本軍は正しいということだけを書き、それ以外のことはほとんど書かなかったことです。戦場の悲惨とかむごたらしさ、中国民衆の苦痛、日本軍の恥ずべき行為の数々は全くといっていいほど書かれませんでした。
では記者たちは何も書かなかったかといえば、それもまた少し違います。当時の新聞には1人の兵士が中国軍兵士を30人斬りした、40人斬りしたという記事がたくさん載っています。日本軍兵士の手柄をたたえる記事ですが、これは集団虐殺を示唆もしくは暗示しています。殺される直前の捕虜の表情を書いた記事はかなりの数あり、斬首の方法を書いた記事まであります。
今回の本『南京事件と新聞報道』を私は事実をして語らしむことを旨として書き上げました。歴史修正主義に対する批判にはあえて深入りしていません。プロ野球の阪神ファンは勝っても負けても「今日はこのくらいにしといたるわ」と言います。私も歴史修正主義者たちに対して「今回はこれぐらいにしといたるわ」という思いがあります。つまり南京大虐殺否定論を徹底的、根本的に否定する本をもう1冊できたら書きたい。次の本を見とけと彼らに言いたいです。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
2024年11月23日
【24年度JCJ賞受賞者スピーチ】大賞 「裏金は政治犯罪」自民に激震 政治を歪める企業献金 しんぶん赤旗日曜版・山本 豊彦さん=廣瀬 功
赤旗日曜版編集部・編集長の山本豊彦です。記者、新聞を配達・集金してくださる皆さんや読者の方ともども大賞受賞を喜んでいます。
この場に立ち、私は嬉しいと同時に非常に緊張しています。受賞者の皆さんのスピーチに励まされる一方、今後も恥ずかしくない仕事をやっていかなくてはという思い、私たちが取材で気づかなかったことの学びの場だからです。
4年前「桜を見る会」で大賞受賞のあと、朝日新聞の『ジャーナリズム』誌に藤森(JCJ代表委員)さんの「政党機関紙が活躍する時代」と銘打った論文が載りました。本当にこの場は、私たちにとって大事な場。「これ一回では終われない」。と思いました。
裏金問題の贈賞理由コメントは本当に的確で、しかも核心を突くものでした。指摘された「それが大政治犯罪であることを明らかにした」にはハッとしました。「あっ我々はこういうことをやってきたんだ」と、改めて知らされました。
岸田政権が裏金問題で倒れ、誕生した石破政権は就任会見で、裏金問題を「単に一部議員の話」と他人事で語り、「新しい事実が判明すれば調査が必要だがそういう状況にない」と述べました。
「それなら再調査の必要を示そう」と私たちは、日曜版で「石破派も裏金があった」と報じ、朝日新聞は一面で記事を後追い。今日の講演者上脇さんも直ちに告発してくださいました。裏金問題は一部議員の問題ではない。自民党の組織的犯罪、大政治犯罪であるということが大事な点だと思っています。
私たちは政治資金パーティーが企業団体献金の大きな抜け穴になっているという問題意識をずっと持ち、長年、追ってきました。それは企業団体献金が政治をカネで歪める、民主主義にとって非常に重大な問題だと思っているからです。
「取材チームは何人ぐらい」とメディアによく聞かれます。実は、会場に来ている山田健介デスクと笹川神由(かみゆ)記者の2人です。
ノンフィクション作家の清武英利さんは編集部を覗きに来られ、「少数精鋭は、精鋭を少数集めることではなく少数だから精鋭になっていくという言葉を思い出した」「特ダネを生むのは経験や学歴、記者動員力ではなく記者個人の問題意識と、あれ、変だぞという違和感」との談話を寄せてくださいました。
法政大学の前学長で名誉教授の田中優子さんは「ひどいニュースが多い中で、ジャーナリストの調査と市民の告発の連携が政治家の不正を追い詰めたことは希望が持てる。私たち市民はいっそうジャーナリストと連携していかなければならない」と、東京新聞に書かれています。
本当にこれを読んで嬉しく思いました。私たちがこれから目指す方向も、やはり市民の皆さんと連携していくことだと思っております。今後も市民の皆さんと連携し、権力監視を続けていくことをお約束し、受賞のあいさつとしたいと思います。ありがとうございました。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
この場に立ち、私は嬉しいと同時に非常に緊張しています。受賞者の皆さんのスピーチに励まされる一方、今後も恥ずかしくない仕事をやっていかなくてはという思い、私たちが取材で気づかなかったことの学びの場だからです。
4年前「桜を見る会」で大賞受賞のあと、朝日新聞の『ジャーナリズム』誌に藤森(JCJ代表委員)さんの「政党機関紙が活躍する時代」と銘打った論文が載りました。本当にこの場は、私たちにとって大事な場。「これ一回では終われない」。と思いました。
裏金問題の贈賞理由コメントは本当に的確で、しかも核心を突くものでした。指摘された「それが大政治犯罪であることを明らかにした」にはハッとしました。「あっ我々はこういうことをやってきたんだ」と、改めて知らされました。
岸田政権が裏金問題で倒れ、誕生した石破政権は就任会見で、裏金問題を「単に一部議員の話」と他人事で語り、「新しい事実が判明すれば調査が必要だがそういう状況にない」と述べました。
「それなら再調査の必要を示そう」と私たちは、日曜版で「石破派も裏金があった」と報じ、朝日新聞は一面で記事を後追い。今日の講演者上脇さんも直ちに告発してくださいました。裏金問題は一部議員の問題ではない。自民党の組織的犯罪、大政治犯罪であるということが大事な点だと思っています。
私たちは政治資金パーティーが企業団体献金の大きな抜け穴になっているという問題意識をずっと持ち、長年、追ってきました。それは企業団体献金が政治をカネで歪める、民主主義にとって非常に重大な問題だと思っているからです。
「取材チームは何人ぐらい」とメディアによく聞かれます。実は、会場に来ている山田健介デスクと笹川神由(かみゆ)記者の2人です。
ノンフィクション作家の清武英利さんは編集部を覗きに来られ、「少数精鋭は、精鋭を少数集めることではなく少数だから精鋭になっていくという言葉を思い出した」「特ダネを生むのは経験や学歴、記者動員力ではなく記者個人の問題意識と、あれ、変だぞという違和感」との談話を寄せてくださいました。
法政大学の前学長で名誉教授の田中優子さんは「ひどいニュースが多い中で、ジャーナリストの調査と市民の告発の連携が政治家の不正を追い詰めたことは希望が持てる。私たち市民はいっそうジャーナリストと連携していかなければならない」と、東京新聞に書かれています。
本当にこれを読んで嬉しく思いました。私たちがこれから目指す方向も、やはり市民の皆さんと連携していくことだと思っております。今後も市民の皆さんと連携し、権力監視を続けていくことをお約束し、受賞のあいさつとしたいと思います。ありがとうございました。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号