2025年02月14日

【月刊マスコミ評・放送】NHK地元放送局の長期密着取材の成果=諸川麻衣

 昨年秋以降、NHKのドキュメンタリーの健闘が光る。11月30日の『ETV特集 誰のための医療か〜群大病院・模索の10年〜』は、2014年に医療事故が発覚して大問題となった群馬大学附属病院のその後を見つめた。腹腔鏡手術で8人、開腹手術でも10人の患者が死亡した事態を受け、事故調査委員会は徹底した医療安全の改革を提言した。以後10年、病院は、重大事例について科を超えた合同カンファレンスで検討する、カルテ情報を患者と共有するなど、前例のない改革を進めてきた。さらに、患者自らが医療スタッフと共に自分の治療に参加する「患者参加型医療」にも着手した。死亡患者の遺族、改革に当たってきた医師たち、心臓の持病ゆえに妊娠中絶を勧められながら、「患者参加型医療」で出産を果たした母などを取材、病院改革の試行錯誤を描いた。

 12月7日の『NHKスペシャル “国境の島” 密着500日 防衛の最前線はいま』は、台湾からわずか111kmに位置し、「国防の最前線」と位置付けられる与那国島が舞台。防衛の“南西シフト”の第1弾として陸上自衛隊の駐屯地が置かれて以降、ミサイル部隊の追加配備や駐屯地の拡張などが次々と打ち出された。町も島民も、島の振興のためにと自衛隊との共存を選んだが、伝統行事が隊員頼みになったなどの事態も生まれている。さらに、有事の際の佐賀県への“全島避難”も検討され始めた。土木業を営む町民、「自衛隊依存」に批判的な元保守系町議、将来の観光振興を視野に、国策を利用して港湾などの基盤整備を進めたいと考える町長に密着、“国境の島”の変貌を町の側から見つめた。

 今年1月4日の『NHKスペシャル “冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜』は、「軍事転用可能な機器を不正輸出した」とされた大川原化工機の冤罪事件を追った第3弾。取材班は新たに、警視庁公安部内の会議の音声記録を入手。そこには、強引な法令解釈で事件化に固執する幹部らと、それに懸命に抗う部下たちの対立が記録されていた。番組取材チームが培ってきた信頼が、内部告発を次々と引き出しているのだろう。

 注目したいのは、群馬大、与那国島、どちらも地元局の長期密着取材の成果だという点だ。全国に放送局を持つNHKならではの強みを生かしたこのような手堅いドキュメンタリー枠の拡充こそ、テレビが人々の信頼を取り戻す王道では、と初夢を描いた。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
   
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2025年02月11日

【月刊マスコミ評・新聞】予算案の真摯な審議のため監視を=山田 明

 2025年元日の全国紙社説タイトルは、朝日「不確実さ増す時代に政治を凝視し強い社会築く」、毎日「戦後80年混迷する世界と日本「人道第一」の秩序構築を」、読売「平和と民主主義を立て直す時協調の理念掲げ日本が先頭に」、日経「変革に挑み次世代に希望つなごう」。各紙の主張と特徴が社説に表れている。産経は論説委員長が年のはじめにで、「日本は数年内に、戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある」と危機感を煽る。地方紙社説には沖縄2紙など示唆に富むものが多い。

 戦後80年の今年は、国内外とも波乱が予想される。トランプ米大統領は就任前から、世界に波紋を投げかけるが、日本の経済社会も揺るがすであろう。日米軍事一体化のもと、とりわけ日米安保のあり方が問われる。今年も参院選など選挙の年だ。
 昨年秋の衆院選で与党は過半数を割った。「少数与党」下の政治の歯車が、少しずつかみ合い出したように見える(朝日1月4日社説)。政府与党はこれまでのように、内輪で予算案や政策を固めて、国会審議で押し通すような一方的な運営は通用できなくなった。 

 だが、昨年末の今年度補正予算案は、わずか4日間の審議で一部修正のうえ、与党と日本維新の会、国民民主党の賛成で衆院を通過した。コロナ禍以降に繰り返される「規模ありき」の予算である。補正予算で注目されるのが、防衛費が過去最大となる8268億円計上されていることだ。能登地域の復旧・復興費の3倍近い規模である。

 防衛費は新年度予算案でも8.7兆円も計上され、予算面からも「軍事大国」化が急速に進んでいる。少数与党下で審議される当初予算案は、補正予算のように与党と国民民主などの一部野党が野合することが危惧される。予算案が政策論議をもとに真摯に審議されるよう、メディァの監視を期待したい。
 夢洲万博まで100日を切ったが、機運醸成どころか、国民の関心はむしろ低下気味だ。前売券の販売は見込みの半分程度だ。このままだと運営費の赤字は避けられない。災害リスクも懸念されている。メディアも「お祭り」騒ぎを煽るのでなく、万博の現実をシビアに伝えてほしい。 
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
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2024年12月28日

【月刊マスコミ評・出版】偽情報とディープフェイク、国民生活の困窮=荒屋敷 宏

 文春ムック『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』は、アメリカ大統領選挙の結果が出る前に印刷したため、トランプ氏かハリス氏か、誰が当選してもいいように編集されている。
 『世界』1月号(岩波書店)の特集「そしてアメリカは去った」で、酒井啓子、三牧聖子、川島真の3氏による座談会「戦争を止められるか―『国際秩序』の果てから」は、現在の国際情勢を手際よく整理している。戦争を止めることは、ジャーナリズムにとっても、最大の目標であろう。
 「現在、世界的に政権与党に逆風が吹いており、それはアメリカも例外ではありません」(三牧氏)、「中東諸国は、ガザ紛争に関しても冷静に見ています」(酒井氏)、「中国は先進国と非先進国という対立軸で世界を見て、中国自身がグルーバルサウスの中心にあると認識しています」との指摘に学びつつも、国際秩序を動かす力に言及しない点が気になった。

 アメリカ大統領選挙の分析については、『地平』1月号(地平社)の緊急特集「アメリカ選挙と民主主義」が参考になる。内田聖子氏の「偽情報とディープフェイク―もう一つの大統領選」は、SNSなどのネット上の言論空間について「『ネット選挙』『SNS戦略』として矮小化してはならない、政治の質をも変えていく大規模のプロジェクトであり、日本でも起こりうる」と警鐘を鳴らしている。なるほど、兵庫県知事選挙などを想起したくなる。
 内田氏は、今回のトランプ勝利が他国の市民社会に大きな影響を与えていることを強調したうえで、米国における白人男性至上主義の根深さを指摘する。白人男性至上主義を増殖させ、拡散する媒介を果たしたのがSNS上の言説や偽情報、ディープフェイクだったというわけだ。
 重要な論点だが、SNSだけでトランプ氏の勝利に結びついたかというと、疑問が残る。

 『前衛』1月号の萩原伸次郎氏「ドナルド・トランプ前大統領は、なぜ返り咲きに成功したのか?−画餅に帰したバイデン・ハリス政権の経済政策」は、ハリス氏敗北の最大の要因が急激なインフレによる国民生活の困窮にあるとの説を論証しようとしている。
 国際秩序や選挙の結果の背景にあるのは、それぞれの国の国民生活、市民社会であり、世論である。資本主義社会の行き詰まりという論点を打ち出している論者もいるのだから、出版界は、除外しないで俎上にのせてほしいものだ。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
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2024年12月27日

【月刊マスコミ評・新聞】社説は「生活者の視点」忘れていないか=白垣 詔男

 総選挙後の臨時国会が11月28日に召集され翌29日、石破茂首相が所信表明演説を行った。その内容について30日の朝刊社説は、例外なく「演説の評価」を取り上げた。
 「問われる『熟議』の実行」(朝日)、「熟議で開く未来が見えぬ」(毎日)、「目指す国家像が判然としない」(読売)、「国民に見える法案審議に」(西日本)、「対中認識が甘すぎないか」(産経)の見出しで、少数与党の政権に対して審議方法への注文に重点を置きながら内容を吟味した。産経のように「対中国問題」を中心に書いた内容もあったが、少数与党の石破政権に対して、これまでと違う国会審議を望むといった趣旨が目についた。

 ところで、「石破演説」には「貧困問題」や「マイナ保険証による困惑」といった、国民が生活する上での「心配や不安をどう解消するのか」の視点が全くと言っていいほどなかった。
演説では「国民の皆さまの暮らしが豊かになったと感じていただくためには、現在や将来の賃金・所得が増えていくことが必要です。…『国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策』を策定しました」と言っていたが、「豊かにな」る前に、増え続ける「子ども食堂」が象徴するように「貧困世帯」が多くなっている現実を、どう認識しているのか。

 また、12月2日から運用が始まった「マイナ保険証」については、病院通いが常態化している中高年齢層を中心に大きな不安が広がっている。しかし、演説にはその点には触れていなかった。日常生活で不安を抱えさせる「改革」を強引に始めた政府の責任について、政府は何らかの弁明なり説明が必要だったのに不問にした。

 以上の2点について、各紙社説もまた、素通りしている。石破演説の中身を吟味するだけならば「石破作文に対する感想文」と言われても仕方がないのではないか。「社説」は、読者の生活に根差した視点で、石破演説を吟味して、論評をしなければ、「新聞の役目を果たした」とは言い難い。

 新聞が「ジャーナリズム」の一角を占めているのは、政府のすべてをチェックしなければならないのはもちろんだが、その先にある「読者の生活」を見据えて説得力のある社説を求めるのは、ない物ねだりなのだろうか。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
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2024年12月02日

【月刊マスコミ評・放送】出色のTBS『報道特集』=岩崎 貞明

 与党が過半数割れという歴史的な衆議院選挙になったのに、投票率は極めて低調。テレビの選挙報道も、盛り上がりに欠けたことは否めない。

 与党敗北の大きな要因は、やはり「しんぶん赤旗」のスクープ「裏金非公認に2000万円」だろう。自民党の二枚舌に有権者の怒りが爆発した格好だ。このニュース、新聞や民放各社はほぼすぐに後追い報道をしたが、なぜかNHKは『ニュース7』でも『ニュースウオッチ9』でも一切触れず、それなのに10月24日の『ニュースウオッチ9』は、各党党首の選挙戦を報じる中で、自民党の石破茂総裁が「(2000万円は)政党支部に出したもので非公認候補に出しているのではない」と街頭演説で弁明していたことだけを報じるという“掟破り”に出た。27日の開票特番では各局ともこの2000万円の問題を自民党議員らに生中継で質問したりしていたのだから、それだけ重大なニュースをちゃんと扱わないで報道機関としての看板を掲げられるのか、と首をひねりたくなる。

 民放の開票特番は、自民党系議員の「裏金ランキング」を見せたフジテレビや、議員に「裏金」マークを付けた日本テレビやテレビ朝日と、ちょっと悪ノリが目についた。テレビ東京は恒例の「池上無双」が出演せず。TBSは開票速報と日本シリーズ第二戦中継の合体特番で、ときには左右に並べた二画面放送だったが、これは選挙速報を見たい視聴者にもプロ野球ファンにも不満の残ったのではないだろうか。

 しかし、そのTBSでは、11月2日放送の『報道特集』が出色だった。低投票率の要因の一つにメディアの報道もあったことを検証した企画だ。
 20年前の「小泉郵政選挙」当時と今回とで、選挙公示日翌日の報道時間数を調査会社のデータに基づいて比較すると、ほぼ半分程度に減少していたという。これまでの間に自民党側からテレビ側にさまざまな圧力があったこと、その背景として政府が放送免許を直接掌握している問題があることなどを、砂川浩慶・立教大教授が解説。選挙期間中のテレビ報道が乏しいことは大学生らも指摘していた。ネット活用が奏功して議席を増やしたとされる国民民主党の玉城雄一郎代表はインタビューで、テレビの選挙報道が短時間なためキャッチフレーズ型の政治となる弊害を語っていた。

 こうしたテレビの自己検証で、問題点のありかははっきりした。それではこれを乗り越えるために一体どうするのか、来年の参院選報道が改めて問われることになる。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月01日

【月刊マスコミ評・新聞】検察を新聞は監視してきたか=六光寺弦

 検察が危機的状況だ。組織として壊れている。
 強盗殺人罪で死刑が確定していた袴田巌さんの再審無罪が確定するタイミングで、検察トップの畝本直美検事総長が10月8日に公表した談話は、そのことを如実に示した。再審手続きが長期化したことには「申し訳なく思う」と記したが、中心は無罪判断への批判。「それでも犯人は袴田さん」と後ろ指を差すに等しい内容だ。

 再審開始に至る中で検察側の主張は退けられていたのに、「敗者復活戦」と言わんばかりに有罪主張を維持したことも正当化。刑事司法の根本にある「無罪推定」や「疑わしきは被告人の利益に」の原則を、検事総長が否定したようなものだ。
 畝本検事総長は前職の東京高検検事長長当時には、自民党派閥パーティー券裏金事件の捜査を指揮。東京地検特捜部は、組織的な裏金作りの経緯や、不正な会計処理への政治家の関与を解明することなく、極めて甘いとしか言いようのない処分で捜査を終わらせた。
 自民党議員が多数を占める国会で「政治とカネ」の是正は望めないからこそ、民意も徹底捜査を期待したのに、検察はいとも簡単に裏切った。
 さかのぼれば、森友学園への国有地払い下げや、安倍晋三元首相側の「桜を見る会」の会計処理など、政治絡みの疑惑では検察は腰が引けた姿勢が際立っていた。

 とどめは元大阪地検検事正による部下への性的暴行だ。10月25日の初公判では事後、口止めを図っていたことが明らかになった。被害者は会見し、検察組織内でセカンドレイプにさらされたことも証言した。
 問われるべきは第一に検察自身だが、強大な権限を持っているからこそ独立の立場が重んじられる組織。そこに新聞が検察を監視する意義があるが、役割を果たしているだろうか。
 袴田さんの無実を否定する内容の検事総長の談話を、新聞各紙は一斉に「謝罪」と報じた。
 裏金事件では、各紙は捜査の動きを追うことばかりに熱心だった。端緒が「しんぶん赤旗」の調査だったことに触れた新聞もほとんどなく、報道には検察礼賛の色彩すら感じられた。
 検察の極限までの腐敗は、新聞が監視と批判を怠ってきたことの裏返しではないか。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
       
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2024年11月05日

【月刊マスコミ評・新聞】相次ぐ豹変、手のひら返し= 山田 明

 マスコミを動員した自民党総裁決選投票を経て、石破茂氏が総裁に就任した。最初から波乱含みである。
石破氏は総裁就任後に、10月27日投開票の日程で衆院選を実施すると表明。読売10月1日社説は「異例ずくめの船出である。首相就任前に衆院解散・総選挙の断行を表明するのは前代未聞」と。毎日5日社説も「まだ解散の権限を持たないにもかかわらず、就任前に衆院選の日程を表明したことは、憲政の常道に反する」と批判する。石破氏は総裁選では、国民が判断する材料を提供するのは新しい首相の責任などと述べていた。

 石破首相は所信表明演説で「ルールを守る」と述べたが、政治不信を招いた裏金問題の解明に及び腰。「安倍派を中心とした反発に追い込まれ」(朝日4日)、衆院選で裏金議員を原則公認を決めたが、世論反発で一部非公認に軌道修正。
 総裁選の最中に明らかになった旧統一教会と自民党との組織的な関係についても、演説は素通り。総裁選で健康保険証廃止について「併用も選択肢として当然だ」と述べていたが、「従来の日程通りに進めていきたい」と。相次ぐ豹変、手のひら返しに、国民の批判が高まるばかりだ。

 総選挙では裏金問題はもちろんだが、安倍政権から続く軍拡、改憲策動、経済財政運営のあり方などが問われる。とりわけ岸田政権が進めてきた軍拡、防衛費激増は、今後の日本の行方を左右する。物価高に苦しむ国民生活にも大きな影響をもたらす。大軍拡は石破首相の持論であり要注意だ。

 野党の動向も問題だ。立憲民主党代表に就任した野田佳彦氏は、保守層の取り込み、日本維新の会や国民民主党への接近を図るが、与党と差別化できるのか。なかでも落ち目の維新との「住み分け」などの主張は、論外だ。わが国が歴史の岐路に立つ中、野党のあり方自体が鋭く問われている。

 大阪・関西万博についても触れておく。開幕予定まで半年を切ったが、いまだ盛り上がりに欠け、入場券販売も低迷を続ける。会場の大阪湾の人工島・夢洲は災害リスクが大きく、安全で安心できる万博なのかが地元で話題になる。万博、夢洲IRカジノについても、メディアの姿勢を厳しくチェックしたい。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
      
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2024年11月04日

【月刊マスコミ評・出版】お膳立てされた政治ショー=荒屋敷 宏

  自民党の「裏金」疑惑への国民の批判は強く、テレビ番組の街頭インタビューでも厳しい声が多い。しかし、有権者に判断材料を提供する報道や出版物が多いとは言えない。
 「週刊新潮」10月17日号は、「『安倍派潰し』では消えない『闇』 特捜部が狙う自民党都連裏金疑惑=vの特集記事を放った。石破茂首相は、裏金議員の公認問題で、自民党が独自に行った情勢調査の数字を見て、一部非公認へと判断を変えた事情を伝えている。
 東京地検特捜部が水面下で自民党東京都連を捜査中という。「しんぶん赤旗」日曜版の報道をもとに、神戸学院大学の上脇博之教授が年始に東京地検特捜部に告発していた案件だ。

 石破首相が予算委員会の審議を経た上で解散の考えを覆し、早期解散・総選挙に打って出た背景には、「特捜部の捜査が選挙中は止まると見越したうえで、新たな疑惑が噴き出す前に早期解散に踏み切った可能性は否定できない」と書いている。
 時間的な制約で、総合誌が解散・総選挙に対応できないのは仕方がない。とはいえ、『世界』(岩波書店)11月号に宮原ジェフリー氏(選挙ライター)の「それでも解散総選挙はやってくる」を掲載したのは、編集者の先見の明であろう。
 「より多くのひとが政治参加することを願って」、「選挙ライター」を名乗り、《選挙のおもしろさ》を発信してきたという宮原氏は、「『お膳立てされた政治ショー』に流されず、それが覆い隠そうとしているものを見つめるための態度を考える機会としたい」という。

 疑惑を過去のものとしたい思惑が透けて見える自民党総裁選や沖縄・辺野古新基地建設をめぐる石破自民党総裁の過去の行動と発言にメスを入れつつ、宮原氏は、「そんなものだよな、と受け入れて選挙を迎えるのと(中略)理不尽な状況を意識した上で選挙に臨むのとでは、投票行動だけでなく、その後の政治の動きへの関心の向け方が変わってくるはずだ」と説く。
 目の前の短期的な視点に踊らされがちな一部メディアの弱点を突き、長期的な視点の重要性を強調した好評論といえる。疑惑を覆い隠そうとする政治家たちの意図を見抜き、総選挙で国民が審判を下せる材料を提供するのがジャーナリズムの役割であろう。短期決戦を選んだ自民党は、真のジャーナリズムを恐れ、国民の考える自由と時間を奪ったのだ。
             JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年10月25日号
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2024年10月09日

【月刊マスコミ評・放送】今夏も充実 NHKの戦争関連番組=諸川 麻衣

 この夏の戦争関連番組で特に注目したものを振り返りたい。まずNHKスペシャルから3作。 
『新・ドキュメント太平洋戦争1944 絶望の空の下で』は、市民の犠牲が急増したこの年を、サイパン島で両親を米軍の銃撃で喪いながらも奇跡的に生き延びた少女の手記や、武蔵野の中島飛行機の工場への爆撃で亡くなった少女の遺した日誌などから描いた。

『“最後の一人を殺すまで”〜サイパン戦 発掘・米軍録音記録〜』は、米軍が録音したサイパン戦の米兵の肉声を発掘、初めて日本の民間人と対峙した戦場で、投降を呼びかけても応じない日本人住民に米軍が猜疑心を募らせ、住民保護から殺戮へと転換してゆく過程を克明に描いた。
『“一億特攻”への道〜隊員4000人 生と死の記録〜』は、15年間特攻を取材し続けてきた大島隆之ディレクターが、隊員約四千人のデータ、隊員の選別基準を記す極秘資料などから、「一億特攻」が叫ばれる過程を明らかにした。軍とメディアのプロパガンダによって「特攻をしている間は負けない」という国民的熱狂が作り出され、戦争への批判が抑え込まれた構造が分かった。

 戦時中日本軍は、都市空襲の際に捕えた米機の搭乗員を、国際法違反の無差別爆撃を行った戦争犯罪人として軍律会議で裁き、処刑した。敗戦後横浜で開かれたBC級戦犯裁判では、米兵を裁いた日本の法務官たちが逆に捕虜殺害の罪で裁かれた。『ETV特集 無差別爆撃を問う〜弁護士たちのBC級横浜裁判〜』は、神奈川県弁護士会による裁判記録の再検証に密着、名古屋空襲、台湾空襲、広島・長崎の3例を通して、今なお続く無差別爆撃と、それを違法化する国際法とのせめぎあいを浮き彫りにした。

 NHK・BSで目を惹いたのが、『英雄たちの選択 昭和の選択』2本。『戦争なき世界へ〜国際司法の長・安達峰一郎の葛藤〜』は、国際連盟の下で創設された常設国際司法裁判所で1931年に初のアジア人所長となった安達峰一郎を取り上げ、満州事変の扱いを巡る安達の葛藤を紹介した。『敗戦国日本の決断〜マッカーサー「直接軍政」の危機〜』は、降伏文書調印直後、進駐軍が「直接軍政」「軍票の使用」などを布告しようとし、これを知った岡崎勝男、鈴木九萬ら外務官僚が土壇場で進駐軍幹部に中止を働きかけたという知られざる史実を取り上げた。間接統治体制が決まった過程から、今に至る戦後日本の「原形」を改めて考えさせられた。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年09月29日

【月刊マスコミ評・新聞】慰霊碑破壊を声高に叫ぶ右派団体=白垣 詔男

 1923年の関東大震災時に虐殺された朝鮮人問題について、非常に強く印象に残る記事を読んだ。
 9月4日、毎日新聞(西部版)夕刊2面「特集ワイド」の吉井理記記者の報告だ。「関東大震災の朝鮮人虐殺『否定派』が今年も集会/一線越えた『慰霊碑破壊』予告/『なかったこと』に101年前と変わらず」という見出しが示すように、朝鮮人虐殺犠牲者の慰霊碑(1973年建立)がある東京・両国の都立横網町公園で行われた追悼式典の同時刻に、2017年から、追悼式典そばで「そよ風」という団体が中心となって始めた「真実の慰霊祭」なる集会を取材、検証した内容。

 吉井記者は「忘れたい失敗はだれにでもある。でもホントに忘れたらどうなるか。近年、関東大震災があった9月1日に、差別に基づくデマで日本人が多くの朝鮮人を虐殺した大失敗について、『なかったこと』にしたい人たちの奇妙な運動が続いている」と前文に書いているように、この「奇妙な運動」を確かな視点で掘り下げる。ただ、「そよ風」の集会は部外者には目に触れないように白い幕で「目隠し」をして取材も拒否したという。

 記事の中で私が一番衝撃を受けたのは、「そよ風」集会の中心人物の一人で、作家・三島由紀夫が作った「盾の会」元会員が、「6000人虐殺というウソの慰霊碑、これを我々は必ず撤去します。破壊します!」と「破壊予告」をした大声を聞いたというくだり。
 また、吉井記者は「思えば『そよ風』が集会を始めた2017年は、歴代都知事が続けてきた朝鮮人追悼式典への追悼文の送付を、小池百合子都知事が取りやめた年でもある」と書く。さらに、ジャーナリスト安田浩一さんの発言「最大の問題は、差別と偏見を真っ先に止めるべき行政や政治家が、こうした風潮を助長しているとしか受け取れないことです。…小さな差別は積み重なって大きな差別を伴い、『殺しても構わない』という社会を招く」を紹介する。

 「関東大震災時の朝鮮人虐殺」については朝日新聞が8月30日付社説「朝鮮人虐殺 史実の黙殺は許されぬ」、毎日が9月6日付社説「朝鮮人虐殺の歴史 向き合わぬ政治の不誠実」の見出しで、行政の歴史に向き合わない修正主義を声高に批判している。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年9月25日号
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2024年09月04日

【月刊マスコミ評・出版】「終わらない戦争」と「現場の生の声」=荒屋敷 宏

 8月ジャーナリズムと嘲笑されても、戦争の惨禍を記録し、記憶し続ける本は書かれるべきだし、率先して読むべきであろう。
 『世界』9月号(岩波書店)の特集「癒えない傷、終わらない戦争」は、「社会の荒廃と人間の破壊」である「戦争がもたらす長期的な影響」を直視するよう呼びかけている。
 同誌の中村江里氏(上智大学准教授)「戦争のトラウマを可視化する」は、隠されてきた日本軍兵士の心的外傷後ストレス障害(PTSD)の研究を紹介している。中村氏が指摘するように、「かつての戦争を正当化する『英雄の物語』や『被害者の物語』に安易に回収されないようにするためにも、被害国の側の語るトラウマと向き合い、対話を重ねていく」ことが重要だ。

 ジャーナリストの布施祐仁氏「自衛隊と戦場ストレス」(同誌)にも注目した。イスラエル軍の予備役兵のエリラン・ミズラヒ氏はパレスチナ・ガザ地区の任務に就くように緊急召集令状を受け取った直後、妻と4人の子どもを残して自殺したという。ミズラヒ氏は昨年10月も緊急召集され、遺体の収容作業に従事し、軍事作戦にも工兵として戦闘に加わったそうだ。彼はPTSDと診断されたのに、再召集されたのだ。

 布施氏は、10人を超えたというイスラエル軍兵士の自殺について、日本の自衛隊にとっても無縁ではないという。陸上自衛隊のイラク派遣の約2年間で22発のロケット弾や迫撃砲弾が宿営地を狙って撃ち込まれた体験や東日本大震災の災害派遣時の遺体回収など、自衛隊員が過酷な体験を強いられてきたことがわかる。躊躇なく人を殺す訓練などの結果、精神を病んでいくアメリカ軍兵士の体験を紹介しつつ、戦争が人間を破壊していく悲惨を強調している。

 一方で、戦争を食い止める叡智を集めるどころか、『Voice』9月号(PHP研究所)は特集「戦後79年目の宿題」で、憲法改正や安全保障、日米地位協定などを挙げ、いわゆる戦後政治の総決算を思い出させる、戦争への道を提唱している。
 それでいいのか? 土井敏邦氏『ガザからの報告 現地で何が起きているのか』(岩波ブックレット)は、虐殺されているガザの人々の「現場の生の声」が報道されていないことに警鐘を鳴らしている。土井氏の指摘に学び、戦争を食い止める叡智は、「現場の生の声」に隠されていると考えたい。ジャーナリストの仕事の重要性もそこにある。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
 
 
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2024年08月28日

【月刊マスコミ評・新聞】「大本営発表」報道を再来させるな=六光寺 弦

 意図的な虚偽ではなくても、伝え方次第で物事の印象は変わる。新聞が公権力の作為を見抜く力を失い、発表通りに報じるだけでは、かつての「大本営発表」報道を再来させかねない。自衛隊の不祥事のことだ。

 防衛省は7月12日、大量処分を発表した。翌13日付の東京発行の新聞各紙はおおむね1面トップの扱い。主見出しは「防衛省218人処分」(朝日、毎日、東京)、「防衛省 幹部ら218人処分」(読売)など、そろって処分の規模を強調した。しかし、「218人」は本当に最大のニュースバリューなのか。
 対象の不祥事は@特定秘密の違法な取り扱いA潜水手当の不正受給B隊内施設での不正飲食C内局幹部のパワハラ−の4種。@は組織運営上の構造的な要因があり、属人的な不正、不適切行為である。他の3種と質が異なる。処分者も113人と過半を占める
 特定秘密保護法は安倍晋三政権下の2013年12月、世論の賛否が二分される中で採決が強行され成立した。自衛隊が米軍と一体で行動するために不可欠とされた。ところが、当の自衛隊でルールを守れない運用が続いていることが露呈した。法の廃止を含めた抜本的な議論が社会に必要であり、それがこのニュースの本質のはずだ。

 軍拡を進める岸田文雄政権も防衛省も当然、そんな事態は防ぎたい。特定秘密から何とか目をそらせたいと考えた末の、異質な他の不祥事との抱き合わせの発表ではなかったか。
 例えば隊内施設での不正飲食は、ネットで検索しただけでも、過去の事例の報道がいくつも見つかる。すべて現地部隊の発表だ。なぜ今回だけ防衛省の発表なのか。
 潜水手当の不正受給では、警務隊が4人を逮捕しながら大臣には報告していなかったことが、大量処分の発表後に発覚。8月になって防衛次官らを追加で処分した。抱き合わせで発表する事例を探すのに大慌てだったとすれば、このお粗末ぶりもよく分かる。

 新聞各紙では、特定秘密保護法に焦点を当てた長文の記事もあった。だが、ネットのニュースアプリやSNSでは読めない。新聞を読まない層には「自衛隊はたるんでいる」との、ぼんやりとした受け止めにしかならなかったおそれがある。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号

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2024年08月25日

【出版・新聞トピックス】恐るべき事態 自由社・育鵬社・令和書籍の歴史教科書は危ない=出版部会

◆記述のいい加減さや偏向を批判
 今年は4年に一度の、中学校教科書の検定・採択の年。いま日本の歴史教科書がどうなっているのか、恐るべき事態が進行しているのをご存じだろうか。特に歴史や公民の科目に、とんでもない教科書が登場し、文部科学省の検定まで通ってしまっているのだ。
 どの教科書にどんな記述があるのか、その何が問題なのか、自由社、育鵬社、令和書籍の「危ない歴史教科書」を取り上げ、その内容について、中学校社会科教員の平井美津子さんが解説している。 
 その主な内容は、@「検定意見の数が減った」理由 A危険な自由社、育鵬社、令和書籍の歴史教科書とは? B近隣諸国への偏見を助長する教科書 C明治天皇を礼賛する記述 D戦争を美化し民衆の苦しみは触れず E「慰安婦」の存在を否定する─などの問題点を、3つの歴史教科書の具体的事例から指摘し、その記述のいい加減さや偏向を鋭く批判している。
 詳細は「マガジン9」のWEBページ https://maga9.jp/240807-1/ をクリックして、お読みください。

◆「めちゃコミック」米投資会社が買収
 総合化学メーカーの帝人は、国内最大級の電子コミック配信サービス「めちゃコミック」を運営する子会社インフォコムを、米国の投資会社ブラックストーンに、この10月、約2750億円で売却する。インフォコムの買収を巡っては、入札段階でソニーグループや米投資会社のKKRが関心を示していたが、このほど決着した。
 帝人の社内IT部門を母体にして生まれた子会社インフォコムは、帝人の業績に貢献してきたが、繊維など本体の主力事業との相乗効果は乏しい。そのため帝人は停滞する業績を立て直すべく事業再編を急いでおり、売却で得る資金を他の成長分野や株主還元に振り向ける考えだ。
 2006年に始まった「めちゃコミック」はスマートフォンなどで漫画を楽しめ、月間利用者数は2800万人。特に女性向け作品に強みを持ち、読者層は30〜40代の女性が中心という。今後の運営が注目される。

◆「pf事業者の責務強調を」新聞協会要望
 総務省の有識者会議がまとめた「インターネット上に広がる偽情報への対策案」に対し、この20日、日本新聞協会は「プラットフォーム(pf)事業者の責務をより強く打ち出すべきだ」とする意見書を提出した。
 健全な言論や情報流通に対する懸念が高まっているのは、偽情報に対しての「事業者の自主的な対応が不十分なためだ」と強調し、真摯な対応を求めた。
 総務省は20日まで対策案への意見を募集していた。総務省がまとめた対策案には、新聞などに期待される役割としてファクトチェックの推進を挙げたが、新聞協会はこの点に関し「ファクトチェックの定義について合意形成がなされたとは言えない」と指摘し、あいまいなまま「ファクトチェックの推進に責務を負うような表現に違和感を覚える」とも強調している。
 報道機関の役割は正確で公正な情報の発信であるから、これまでも「不確かな情報が社会に重大な影響を与えかねない際は、積極的に真偽検証に取り組んでいる」と、改めて説明した。
 今後の議論については「報道機関への法的規制につながるようなことがあれば、国民の知る権利が毀損されかねない」と主張し、慎重な検討を要請した。今後、各界からの意見をくみ上げ、有識者会議が正式な提言を決める。

◆大手新聞の発行部数が軒並み減
 2024年6月度の新聞発行部数が明らかになった。中央紙各紙のABC部数は、次のとおりである(カッコ内は対前年同月比)。
 読売新聞:585万6,320(減48万369)
 朝日新聞:339万1,003(減29万5,413)
 毎日新聞:149万9,571(減18万5,983)
 日経新聞:137万5,414(減19万2,767)
 産経新聞: 84万9,791(減10万9,818)
 朝日新聞は約340万部に減少し、1年以内に300万部の大台を割り込む可能性が出てきた。読売新聞は約586万部で、年間で約48万部を減らした。
 なお新聞販売店が実際に購読者に配達している部数は、ABC部数よりもはるかに少ない。
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2024年08月16日

【メディアウオッチ】隠蔽された米兵暴行事件 スクープの裏側は=古川 英一

                        
2面スクープ/琉球朝日放送・スクープ放送日 (1).jpg

 6月25日、1つのニュースが沖縄中を駆け巡った。昨年12月に米兵が16歳未満の少女を連れ去り、性的暴行をしたとして今年3月に起訴されていたのだ。しかも沖縄県警はこの事件を一切発表せず、政府・外務省、防衛省も、事実を把握しながら米軍関連事件は沖縄県に報告する取り決めを無視し、県に報告しなかった。

 その事実を地元民放局・琉球朝日放送(QAB)が昼前のローカルニュースで最初に暴いた=写真=。
 地元の新聞、放送各局も事実確認を急ぎ、相次いでこれを報じた。このスクープで、初めて事件を知った県は政府などへの対応に追われた。
 ニュースは東京へと広がり、当初、外務省や防衛省は「被害者の『プライバシー保護』のための対応だった」と弁解を繰り返した。しかし「なぜ沖縄県に伝えなかったのか」。沖縄県民の政府や在日米軍への不信感や怒りの声は高まった。しかもその後、米兵による暴行事件がこれまでに合わせて5件にのぼることが明らかになった。

 事件発生からスクープまでの間には、岸田首相の訪米や沖縄県議選などがあった。政治的影響を懸念した政府による隠ぺいの疑いは一層強まり、政府は「今後このようなことがないよう沖縄県への情報提供を行う」と表明するに至った。
 このスクープはどうやって生まれたのか。琉球朝日放送によると、警察・司法担当の記者が週明けの6月24日、裁判所で裁判の公判日程を確認したところ、期日簿に前週の金曜日には記載されていなかった米兵の性暴行事件の初公判の日付が記載されていた。記者はすぐ、地検に確認に走り、翌25日午前中に地検から起訴状を入手。起訴状をもとに原稿を書き、プライバシーに配慮しどこまで出すのかをデスクと慎重にやりとりしながら、最終的に昼前のニュースで報じた。

 他の民放やNHK、新聞社のネットニュースも昼ニュースの時間帯にはこの事件に触れておらず、琉球朝日放送の単独スクープだった。
 政府が隠そうとする事実・不都合な真実を明らかにしていくことは、権力をチェックしていくジャーナリズムの使命だ。

 今回の琉球朝日放送のスクープは、裁判期日、公判日程を確認するという警察・司法記者の日常的で地道な取材活動の結果でもある。琉球朝日放送で当日昼デスクを担当した金城正洋さんは「前日の23日は沖縄慰霊の日で、沖縄のマスコミ人は炎天下でへとへとでした。それでもQABの記者が持ち場のルーティーンをこなした結果です。慰霊の日に岸田総理が来た翌日ですから、那覇地検、那覇地裁も政府も、どこを向いているのでしょうか」と憤った。
 事件の初公判は7月12日に開かれた。3月に起訴された事件が、6月24日になるまで期日簿に記載されないのも普通は考えにくい。裁判所・司法の対応についても追及・検証が必要ではないだろうか。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号  

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2024年08月09日

【月刊マスコミ評・新聞】能登半島地震 復興遅れの検証必要=山田 明

 自民党の裏金問題が、最大の焦点となった通常国会が閉会したが、これほど国民を愚弄した国会も珍しい。ザル法の改正政治資金規正法について、自民党議員からは「政治にはカネがかかる」と開き直ったような言い訳が出る始末。岸田首相も党首討論で「政治にはコストがかかる」と発言。朝日6月22日社説は「信を失う国民感覚とのずれ」と深まる政治の危機に警鐘を鳴らす。

 国民を愚弄する自民党とも手を組んだ小池氏が、都知事選で3選を果たした。都民が小池都政をなぜ支持したのか、巧みなネット戦略で大量得票した石丸氏、掲示板が不足するほどの大量候補など、都知事選は多くの課題を残した。

 今国会で目立ったのが、日本維新の会の迷走ぶりだ。「身を切る改革」を旗印に勢力を伸ばしてきた維新だが、最近では存在感に陰りが見え、政権とのスタンスを巡って内部で温度差も生じている(毎日6月27日)。馬場代表と吉村共同代表の対立、党分裂すら報じられている。大阪維新の会とともに、国政での維新の動向にも注目したい。

 能登半島地震から半年余りが過ぎたが、復興の遅れは深刻である。今なおライフラインの復旧や被災家屋の解体撤去が進まず、先が見通せないことへの不安、置きざり状況への怒りが広がっている。
 なぜ、ここまで復興が遅れているのか。人口減少時代の過疎地域に特有な問題と片づけられない。国や自治体の災害対策のあり方をハードとソフトの両面から検証する必要がある。今国会で成立した地方自治法改正は、自治体に対する国の「指示権」を拡大するものであり、地方分権に逆行し、自治体の災害対策・復興にも悪影響を及ぼすことになる。

 鹿児島県警は、福岡に拠点をおくインターネットの記者宅を家宅捜索した。内部情報を漏らしたとして県警本部長が地方公務員法違反容疑で逮捕された事件の関連だった。「警察にとって不都合な報道の情報源を探るための強制捜査だったのではないか。そうだとすれば、報道の自由が脅かされる事態だ」(毎日6月23日)。メディアへの強制捜査は、権力に不都合な事実を報じる「取材の秘匿」を脅かす。メディアの取材の根本を揺るがす異常な事態だ。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
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2024年08月01日

【月刊マスコミ評・放送】テレ朝HD株主総会に行ってみた=岩崎 貞明

 6月27日、株式会社テレビ朝日ホールディングス(HD)の株主総会が開催された。今回は市民団体「テレビ輝け!市民ネットワーク」が@政治的な圧力により公正報道が難しい場合には第三者委員会設置・調査・公表する旨定款に定めることA社内の放送番組審議会で是正困難な報道につき第三者委員会調査を定款に定めること⓷放送番組審議会の委員の任期の是正(長期に及ぶ就任者があることに鑑み)C社外取締役として前川喜平氏を推薦する――の四項目を株主提案していた。

 2015年1月、『報道ステーション』で当時コメンテーターを務めていた古賀茂明氏の発言をめぐって政権幹部から介入と受け取れるメッセージが送られたこと、それを受けてテレビ朝日が古賀氏と担当プロデューサーを同年3月末で番組から降板させたことなどが疑われている。また、同局の放送番組審議会は長年にわたって幻冬舎社長の見城徹氏が委員長を務めており、幻冬舎が出版した書籍の広告と紛らわしい番組企画が情報番組で放送されたことなどが、株主提案の理由だ。

 午前10時に開会した株主総会は、早河洋・代表取締役会長が議長を務め、事業報告や会社提案の議案の説明などを行った。市民ネットワークの株主提案は第4号〜第7号の議案として提案されていたが、テレ朝HDの取締役会は株主提案すべてに「反対」の意見を表明していた。株主提案には田中優子・元法政大学学長が市民ネットワークの共同代表として説明に立ち、「これはテレビを応援するための提案です」などと述べていた。

 株主との質疑応答で、最初に質問に立った一般株主の男性が、前川喜平さんに対して誹謗中傷の発言を行った。会社に対して、前川さんを取締役に選任しない理由を問う質問だったが、前川さんが新宿・歌舞伎町の出会い系バーに通っていたことなど虚実を交えて揶揄する内容で、市民ネットワークの事務局を務める梓澤和幸弁護士が、前川さんの名誉棄損となる発言を漫然と放置した早河議長の議事進行責任を問い質したが、早河議長は「株主には発言の権利がある」などと退けた。しかし会場の一般株主からは、市民ネットワークの発言に拍手を送る人も少なくなかった。
 議案採決で、会社提案の議案はすべて可決、株主提案の議案は総会ではすべて否決という結果だった。市民ネットワークは来年も株主提案にチャレンジするという。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
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2024年06月28日

【月刊マスコミ評・新聞】「性善説」はジャーナリズムに向かぬ=白垣詔男

 政治資金規正法改正案が6月6日の衆議院本会議で自公与党と日本維新の会などの賛成多数で可決、参議院に送られた。新聞各紙は、衆院委の可決を受けて6日付で社説「生煮えのまま通すのか」を掲載した朝日を除き、7日社説で一斉に社説を展開した。
 毎日は「不透明なカネの温存策だ」の見出しで、政策活動費について「公開のあり方などの制度設計」のあいまいさに加え、10年後に公開する点も「不正が発覚しても、時効が成立している可能性が高い」と指弾する。

 西日本はさらに踏み込んで「会期延長し抜本修正せよ」の見出しで「全ての国会議員に関係する重要な問題にもかかわらず、幅広い賛同を得ることができなかったのは、実効性のある改革に背を向けた自民の責任だ」と「怒り」を書いている。
 以上の2紙の「厳しさ」は、国民の幅広い意見を代弁しているうえに自民の「裏金対応の遅さと不明朗さ」を考えれば当然だろう。「権力を監視するのを第一義とするジャーナリズム」としては、もっと厳しい表現で自民を指弾してもおかしくない。

 ところが、既に「ジャーナリズム」の中には入らなくなって久しい読売は「規正法成立へ カネに頼らぬ政治への転機に」の見出しで、自民を始め、どの政党にも耳の痛い指摘はない。まさに「性善説の読売」とでも言いたそうな論調だ。「党から議員に支給されている政策活動費についても、一定の公開に踏み込んだ」と評価したうえで、その中身を「『組織活動』『選挙関係』など大くくりながら、毎年の収支報告書に記載することを義務とした」と、そのあいまいさに目をつぶる。
 
 自民の対応の遅さや、国民があきれている「政策活動費の10年後の領収書公開」について、全く触れていない。読売論説委員会の社説担当委員は、そうした「大きな疑問」というか「疑惑の温床」とも言える問題について、何も考えなかったのだろうか。考えても書けない社の姿勢を忠実に守っているとしか思えない。「世界最大の部数」や「生き残るのは読売だけ」といった自慢したい点≠、幾ら声高に叫んでも、権力に媚びるような論調では、かつて清武英利、佐高信両氏が書いた「メディアの破壊者読売新聞」(2012年、七つ森書館)の書名を思い出してしまう。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
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2024年06月27日

【月刊マスコミ評・出版】リベラル論壇誌創刊と日米同盟の転換=荒屋敷 宏

 今月の出版界の話題は、何と言っても、ジャーナリズム・評論・書評を三本柱に据える雑誌『地平』創刊号(2024年7月号)の登場であろう。ガブリエル・ガルシア=マルケスの『百年の孤独』が新潮文庫版で出ることも評判にはなっているが、『地平』編集人・発行人の熊谷伸一郎氏の勇気の前に霞む。
 地平社は、『地平』の前に、内田聖子著『デジタル・デモクラシー』、南彰著『絶望からの新聞論』、東海林智著『ルポ 低賃金』、長井暁著『NHKは誰のものか』、島薗進・井原聰・海渡雄一・坂本雅子・天笠啓祐著『経済安保が社会を壊す』、三宅芳夫著『世界史の中の戦後思想』の6点を同時刊行し、さらにアーティフ・アブー・サイフ著、中野真紀子訳『ガザ日記――ジェノサイドの記録』を加える念の入れようである。

 「リベラル論壇誌創刊 勝算は?」との『地平』の熊谷編集長を取材した毎日新聞6月3日付東京夕刊2面の特集ワイド、千葉紀和記者の記事が詳しい。1946年創刊の雑誌『世界』(岩波書店)が95年に公称12万部で、現在は4万部だから、新たな雑誌創刊の困難さがわかる。

 『地平』の編集スタッフは4人。そのうち1人は、TBS「ニュース23」元ディレクターの工藤剛史氏だと「毎日」記事が紹介している。大手出版社を辞めたとされる他の3人も腕利きの編集者であろう。それは創刊号の内容に表現されている。筆者が興味深く読んだのは、酒井隆史氏「過激な中道≠ノ抗して」、吉田千亜氏「言葉と原発(上)」、尾崎孝史氏「ウクライナ通信 ドンバスの風に吹かれて 第1回 ウクライナ報道の現在地」、小林美穂子氏「桐生市事件」、樫田秀樹氏「会社をどう罰するか 第1回 ネクスコ中日本 笹子トンネル天井板崩落事故」だった。編集長の人脈の広さを示すが、論壇の動向紹介や地に足の着いたルポなどは大変読み応えがある。

 もう一つ注目したいのは、週刊誌『サンデー毎日』6月16日・23日合併号「倉重篤郎のニュース最前線」の「寺島実郎渾身の『日本再生構想』 日米同盟のパラダイム転換へ」である。『21世紀未来圏―日本再生の構想』(岩波書店)の著者、寺島氏へのインタビュー記事だ。寺島氏は敗戦後80年を経過しても外国軍隊を受け容れている日本の異常さに着目し、米軍基地・施設の段階的縮小を提言している。この視点は現今の論壇の弱点を突いたものだろう。米国追随型出版の自己点検が必要な時だ。 
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
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2024年06月26日

【メディアウオッチ】メディア現場の変化映す 24報道実務家フォーラム報告=山中賢司

 「記者・編集者のスキルと知識を高める」とうたう「報道実務家フォーラム2024」が東京・早稲田大学国際会議場で4月27〜29日の日程で催されることを知り、覗いてきた。

 フォーラムの主催は同名のNPO法人。2010年に始まり、参加者の所属社の枠を越えた学びと交流の場となっているという。今回は57とセッション数も過去最高。登壇の講師・報告者も延べ91人で、取材最前線でのスクープ術や調査報道、情報公開制度やオープンデータ活用等のケース研究に加え、ジェンダー問題への視点やデジタルスキル、情報産業内での新たな競争動向を反映した議題も並び、オンライン参加を含む総勢750名が3日間、活発な議論を交わした。

 今日、一口に報道実務家≠ニ言っても、かつての職務・職域のテンプレートやロールモデルは希薄化し報道実務家の生息域も変化の只中にある。

 背景には旧来のマスメディア経営を長年支えてきた購読料を支払うユーザーや広告主、コンテンツ提供者がネットを介して直接結びつく地殻変動があり、それは情報分野に限らず経済活動全域で起きた。

 57セッションのうち20近くはそうした動向への対応がテーマだった。

 例えば経済・ビジネス情報に特化したオンラインサービスで有料会員を増やしてきたソーシャルメディア「NewsPicks」は『女性ユーザーを増やすには?「男子校メディア」からの脱却』のタイトルでジェンダー平等の観点を重視してきた取り組みを紹介した。

 編集・制作現場のみならず、インタビュアーやニュース解説を担う各分野の専門家群の女性比率を同時に高めて実践してきたジェンダーバランスの改善を紹介。ライフステージとキャリア構築の相克に直面する女性ユーザーの共感を得ていく上で、その体制づくりは必須であると提起した。

韓国の女性記者
フォーラム開催

 昨年10月、ソウルで開催された「韓日女性記者フォーラム」の主催は韓国女性記者協会。日本にはない女性報道実務者の

 団体は1961年に発足。韓国メディアに在籍する約1700人の会員を集め、現在は海外派遣を含む各種研修のほか、各社の管理職や役員の女性比率を公表、報道機関で働く女性の地位向上をめざしていると言う。

 カカオトークで日常連絡を取り合い、女性の人事情報もたちどころに共有。社会変革に前向きな財界からの支援も厚いと言う。 日本からは報道各社の韓国駐在特派員に加え、新聞やテレビ局で働く女性記者たち5人が、日本記者クラブ(JNPC)の呼び掛けで訪韓して参加。日本で働く女性記者の現状と課題が報告され、本音の交流が進んだと言う。

 日本と韓国は(世界経済フォーラム2023の世界146か国のランキングで日本は125位、韓国は105位)共にジェンダー平等後進国として課題を共有する関係にあり、女性記者を取り巻く環境も似る。

 韓国女性記者協会は日本の女性記者たちに、自閉しない視点で連帯を呼び掛けたことになる。

ジェンダーの
劣等生が連帯

 報道実務家フォーラムでは『ジェンダー劣等生同士 日本×韓国女性記者の対話で見えたコト』と銘打ち、韓日女性記者フォーラムの様子と、参加を通じて見えてきた諸点が報告された。

 韓国は日本の比ではない出生率の漸減の中にあるとの報告にも驚いた。最新データでは0・72にまでになっているという。
 少子化はいずれ生産年齢人口減をもたらすから、先に紹介した韓国財界が社会変革のトリガーとして女性記者の役割拡大を支援する構図も諒解される。
 労使間バランスも労働サイドに有利な方向に動かざるを得ない時代の必然が作用しているのだろう。

 フォーラムの柱の一つに「アジア的な文化が関連の報道に及ぼす影」のテーマが充てられ、日韓二国間に留まらない視座が示されていたことも注目される。
 アジアに残る家父長制的遺制やものの考え方が、女性のキャリア形成や社会参加を妨げてきたと指摘されてきたが、最終日のレセプションでは『ガラスの天井を破るぞ!』と乾杯の唱和が鳴り響き、そこでも韓国同業女性たちの熱量に圧倒された、と。
 その空気と雰囲気を持ち帰っての今回のトークセッション、会場からは、父権的メディア職場の実用的改善法は‥などの質問も出て、その回答に笑いとどよめきが何度も起こるなど、報道実務現場で進む相変化が発散されていた。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号

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2024年06月14日

【月刊マスコミ評・放送】スクープ連発のNHK番組群=諸川麻衣

 NHKのドキュメンタリー番組が昨年来、独自に入手・発掘した資料を駆使してスクープを連発している。昨年4月の『ETV特集 誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜』は、元最高裁判事・團藤重光が遺したノートを読み込み、大阪国際空港公害訴訟で住民側の「夜間の飛行停止」要求を認めた二審の大阪高裁判決を最高裁が覆した背景に、裁判官の独立の原則に反する元最高裁長官・村上朝一の「介入」があったことを明らかにした。

 昨年秋の『NHKスペシャル』『ETV特集』の『“冤罪”の深層』は、大川原化工機の社長らを外国為替及び外国貿易法違反容疑で逮捕・起訴しながら検察が起訴を取消した異例の事件を複数回取り上げた。取材班は、「事件は捏造」との告発状を送ってきた匿名の警察関係者に接触、さらに当初は起訴に慎重だった経産省が警察・公安部の立件方針を追認していったことを示す内部資料も入手して、冤罪の経緯を白日の下にさらした。これは、ETV特集のディレクターと報道番組、社会部との連携の成果だったという。

 今年3月の『ETV特集 膨張と忘却〜理の人が見た原子力政策〜』は、長年国の原子力政策に関わった研究者・吉岡斉が残した数万点の未公開資料「吉岡文書」(九州大学保管)を読み込み、核燃料サイクルや原発に関する国の審議会での論議が吉岡にとって「熟議」とは程遠い無責任なもので、その結果核燃料サイクルへの固執が続き「万一」を想定した原発の安全策も後回しにされたことを示した。制作者が独自に入手した内部文書や関係者の証言などからは、審議会の結論以前に自民党内で既に方針が決められていたという事実も明らかになった。

 そして極めつけが、戦後史に特筆される謎の事件に挑んだ3月末の『NHKスペシャル 未解決事件 File.10 下山事件』。制作チームは、他殺説に立って最後まで捜査を続けた布施博検事が保管していた膨大な捜査資料を入手、さらに、東京神奈川CIC(米陸軍対敵諜報部隊)の日系二世工作員アーサー・フジナミが最晩年に娘に口述した、総裁暗殺に触れる記録にもたどり着いた。そこからは、アメリカが要求する国鉄の10万人解雇に抵抗姿勢を見せた下山をアメリカが殺害した構図が、そして日米支配層が「反共」で連携するという今日まで続く両国関係の源流が浮かび上がる。4年がかりの調査・解析で、制作者自らが「シリーズ史上最も真相に肉薄」と自負し、第61回ギャラクシー賞を受ける力作が生まれたのである。粘り強い取材力、情報提供者との信頼関係、緻密な分析、そして「不都合な真実」を暴こうという真っ当な志など、一連の番組から学ぶべきものは多い。    
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