2024年06月26日

【メディアウオッチ】メディア現場の変化映す 24報道実務家フォーラム報告=山中賢司

 「記者・編集者のスキルと知識を高める」とうたう「報道実務家フォーラム2024」が東京・早稲田大学国際会議場で4月27〜29日の日程で催されることを知り、覗いてきた。

 フォーラムの主催は同名のNPO法人。2010年に始まり、参加者の所属社の枠を越えた学びと交流の場となっているという。今回は57とセッション数も過去最高。登壇の講師・報告者も延べ91人で、取材最前線でのスクープ術や調査報道、情報公開制度やオープンデータ活用等のケース研究に加え、ジェンダー問題への視点やデジタルスキル、情報産業内での新たな競争動向を反映した議題も並び、オンライン参加を含む総勢750名が3日間、活発な議論を交わした。

 今日、一口に報道実務家≠ニ言っても、かつての職務・職域のテンプレートやロールモデルは希薄化し報道実務家の生息域も変化の只中にある。

 背景には旧来のマスメディア経営を長年支えてきた購読料を支払うユーザーや広告主、コンテンツ提供者がネットを介して直接結びつく地殻変動があり、それは情報分野に限らず経済活動全域で起きた。

 57セッションのうち20近くはそうした動向への対応がテーマだった。

 例えば経済・ビジネス情報に特化したオンラインサービスで有料会員を増やしてきたソーシャルメディア「NewsPicks」は『女性ユーザーを増やすには?「男子校メディア」からの脱却』のタイトルでジェンダー平等の観点を重視してきた取り組みを紹介した。

 編集・制作現場のみならず、インタビュアーやニュース解説を担う各分野の専門家群の女性比率を同時に高めて実践してきたジェンダーバランスの改善を紹介。ライフステージとキャリア構築の相克に直面する女性ユーザーの共感を得ていく上で、その体制づくりは必須であると提起した。

韓国の女性記者

フォーラム開催

 昨年10月、ソウルで開催された「韓日女性記者フォーラム」の主催は韓国女性記者協会。日本にはない女性報道実務者の

 団体は1961年に発足。韓国メディアに在籍する約1700人の会員を集め、現在は海外派遣を含む各種研修のほか、各社の管理職や役員の女性比率を公表、報道機関で働く女性の地位向上をめざしていると言う。

 カカオトークで日常連絡を取り合い、女性の人事情報もたちどころに共有。社会変革に前向きな財界からの支援も厚いと言う。 日本からは報道各社の韓国駐在特派員に加え、新聞やテレビ局で働く女性記者たち5人が、日本記者クラブ(JNPC)の呼び掛けで訪韓して参加。日本で働く女性記者の現状と課題が報告され、本音の交流が進んだと言う。

 日本と韓国は(世界経済フォーラム2023の世界146か国のランキングで日本は125位、韓国は105位)共にジェンダー平等後進国として課題を共有する関係にあり、女性記者を取り巻く環境も似る。

 韓国女性記者協会は日本の女性記者たちに、自閉しない視点で連帯を呼び掛けたことになる。

ジェンダーの
劣等生が連帯

 報道実務家フォーラムでは『ジェンダー劣等生同士 日本×韓国女性記者の対話で見えたコト』と銘打ち、韓日女性記者フォーラムの様子と、参加を通じて見えてきた諸点が報告された。

 韓国は日本の比ではない出生率の漸減の中にあるとの報告にも驚いた。最新データでは0・72にまでになっているという。
 少子化はいずれ生産年齢人口減をもたらすから、先に紹介した韓国財界が社会変革のトリガーとして女性記者の役割拡大を支援する構図も諒解される。
 労使間バランスも労働サイドに有利な方向に動かざるを得ない時代の必然が作用しているのだろう。

 フォーラムの柱の一つに「アジア的な文化が関連の報道に及ぼす影」のテーマが充てられ、日韓二国間に留まらない視座が示されていたことも注目される。
 アジアに残る家父長制的遺制やものの考え方が、女性のキャリア形成や社会参加を妨げてきたと指摘されてきたが、最終日のレセプションでは『ガラスの天井を破るぞ!』と乾杯の唱和が鳴り響き、そこでも韓国同業女性たちの熱量に圧倒された、と。
 その空気と雰囲気を持ち帰っての今回のトークセッション、会場からは、父権的メディア職場の実用的改善法は‥などの質問も出て、その回答に笑いとどよめきが何度も起こるなど、報道実務現場で進む相変化が発散されていた。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号

posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月14日

【月刊マスコミ評・放送】スクープ連発のNHK番組群=諸川麻衣

 NHKのドキュメンタリー番組が昨年来、独自に入手・発掘した資料を駆使してスクープを連発している。昨年4月の『ETV特集 誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜』は、元最高裁判事・團藤重光が遺したノートを読み込み、大阪国際空港公害訴訟で住民側の「夜間の飛行停止」要求を認めた二審の大阪高裁判決を最高裁が覆した背景に、裁判官の独立の原則に反する元最高裁長官・村上朝一の「介入」があったことを明らかにした。

 昨年秋の『NHKスペシャル』『ETV特集』の『“冤罪”の深層』は、大川原化工機の社長らを外国為替及び外国貿易法違反容疑で逮捕・起訴しながら検察が起訴を取消した異例の事件を複数回取り上げた。取材班は、「事件は捏造」との告発状を送ってきた匿名の警察関係者に接触、さらに当初は起訴に慎重だった経産省が警察・公安部の立件方針を追認していったことを示す内部資料も入手して、冤罪の経緯を白日の下にさらした。これは、ETV特集のディレクターと報道番組、社会部との連携の成果だったという。

 今年3月の『ETV特集 膨張と忘却〜理の人が見た原子力政策〜』は、長年国の原子力政策に関わった研究者・吉岡斉が残した数万点の未公開資料「吉岡文書」(九州大学保管)を読み込み、核燃料サイクルや原発に関する国の審議会での論議が吉岡にとって「熟議」とは程遠い無責任なもので、その結果核燃料サイクルへの固執が続き「万一」を想定した原発の安全策も後回しにされたことを示した。制作者が独自に入手した内部文書や関係者の証言などからは、審議会の結論以前に自民党内で既に方針が決められていたという事実も明らかになった。

 そして極めつけが、戦後史に特筆される謎の事件に挑んだ3月末の『NHKスペシャル 未解決事件 File.10 下山事件』。制作チームは、他殺説に立って最後まで捜査を続けた布施博検事が保管していた膨大な捜査資料を入手、さらに、東京神奈川CIC(米陸軍対敵諜報部隊)の日系二世工作員アーサー・フジナミが最晩年に娘に口述した、総裁暗殺に触れる記録にもたどり着いた。そこからは、アメリカが要求する国鉄の10万人解雇に抵抗姿勢を見せた下山をアメリカが殺害した構図が、そして日米支配層が「反共」で連携するという今日まで続く両国関係の源流が浮かび上がる。4年がかりの調査・解析で、制作者自らが「シリーズ史上最も真相に肉薄」と自負し、第61回ギャラクシー賞を受ける力作が生まれたのである。粘り強い取材力、情報提供者との信頼関係、緻密な分析、そして「不都合な真実」を暴こうという真っ当な志など、一連の番組から学ぶべきものは多い。    
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年06月02日

【月刊マスコミ評・新聞】読売新聞を信じるのは無理だ=六光寺 弦

 読売新聞大阪本社で目を疑う不祥事が起きた。小林製薬製品の健康被害を巡る記事で、社会部の主任が談話を捏造していた。いったんは紙面に訂正を載せたが、捏造に触れていなかった。同社は主任を諭旨退職とする関係者の懲戒処分や、編集局長や社会部長の更迭を紙面や公式サイトで公表した。だが、詳しい社内調査の結果は明らかにしていない。信頼を回復できるか疑問だ。

 読売新聞によると、主任は、原稿が小林製薬への憤りという自分のイメージと違っていた、と説明。取材した岡山支局の記者は「社会部が求めるトーンに合わせたいと思った」と、修正や削除を求めなかった。記者は休職1カ月と記者職から外す職種転換となった。経験が浅い若手ではない。主任は48歳、記者は53歳のベテランだ。
 社会の情報流通を新聞やテレビが一手に握っていた頃なら、そうした誘惑もあったかもしれない。今は違う。だれもがSNSで情報を発信できる。おかしなことをすれば、すぐに炎上し、組織が危機に陥る。
 当初の訂正で、編集局が「確認が不十分でした」の釈明で済むと本当に考えていたのだとしたら、組織全体の危機意識の希薄さにも驚く。
 読売新聞東京本社では3年前、32歳の社会部記者(当時)が、取材で得た情報を他媒体の複数の記者に漏らしたとして、懲戒解雇になっている。深刻な不祥事が続く背景に、組織体質に根差す固有の要因があることを疑うべきだ。

 大阪本社は2021年、大阪府と包括連携協定を結んだ。読売新聞グループ本社は東京・築地の大規模開発の事業主体に、大手不動産会社とともに名前を連ねる。確かに経営は盤石で、近年は「唯一の全国紙」を誇示してもいる。
 だが、権力監視の役割は期待できないし、都心の大規模再開発の是非をめぐって、独立の立場から報道することも不可能だ。何より、ライバルの存在を認めない傲慢さが「読売の報道が社会にとって“事実”のすべてだ」との全能感を組織内に生じさせないか。

 折しも「読売新聞を、信じてもいいですか」の創刊150年キャンペーンを年明けから展開中。社内調査結果も明らかにせずに「信じろ」と言っても無理だ。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年5月25日号
  
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年05月17日

【月刊マスコミ評・新聞】大軍拡へ平和国家を揺るがす動き続く= 山田 明

  自民党派閥の裏金事件は、疑惑解明が進まず、国民の怒りは高まるばかりだ。裏金づくりは、党ぐるみの組織的犯罪だが、岸田首相は「党内処分」で幕引きを図るが、自民党の混乱は激しさを増している。
 岸田政権は3月26日、次期戦闘機の日本から第三国への輸出解禁を閣議決定した。朝日27日社説は「専守防衛を空洞化させた安保3文書に続く、国民的議論なき安保政策の大転換にほかならない」と批判する。同日の毎日社説も「平和国家の姿が問われる」と。読売社説が、この問題を報じていないのは、なぜなのか。

 このほかにも大軍拡、平和国家を揺るがす動きが続く。事故の究明なき欠陥機オスプレイの飛行再開、防衛省の防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の軍拡増税推進、米軍との一体化を進める自衛体統合司令部創設、そして経済安保情報保護法案などだ。沖縄のさらなる基地強化、うるまに陸上自衛隊訓練場計画には、県民の怒りが頂点に達し、島ぐるみで反発のうねりが広がる(東京3月27日)。
 日銀は11年にわたる「異次元緩和」見直しを決めた。アベノミクスを修正するものだ。株価上昇の一方で、円安による物価高騰が国民生活を圧迫。小林製薬の紅こうじ健康被害も、アベノミクス成長戦略による規制緩和の「負の遺産」でないか(毎日3月31日)。

 日本維新の会は、軍拡や憲法改正の「旗振り役」だが、昨年夏頃から失速気味だ。きっかけは維新が主導してきた大阪・関西万博。開幕まで1年を切ったのに準備は遅れ、能登半島地震以降、国民の批判がさらに高まる。建築界のノーベル賞と言われるプリツカ―賞を受賞した建築家の山本理顕氏は、「地元・横浜のカジノ計画に反対して対案をつくり、大阪・関西万博も現在の計画に疑問を呈する」(朝日3月10日)。  

 山本氏が「IRのための万博」というように、大阪湾の人工島・夢洲の万博会場隣でIRカジノ工事が始まっている。夢洲でのインフラ整備は、万博だけでなく、IRカジノのためでもある。
 維新は大阪の「成長戦略」として、万博とカジノを推進してきた。軟弱地盤の夢洲で、底なしの財政負担が危惧されており、維新の政治責任が厳しく問われている。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
 

      
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年04月09日

【月刊マスコミ評・放送】NHK夜ドラ「つくたべ」にハマる=岩崎 貞明

  NHKの夜ドラ『作りたい女と食べたい女』シーズン2が2月末に終了した。原作マンガも読み、一昨年のシーズン1から入れ込んで視聴していた筆者としてはシーズン2への期待が大きかったが、結果としては予想以上の好番組だったと思う。

 料理が好きだが小食な野本さん(比嘉愛未)と、たくさん食べたい春日さん(西野恵未)の二人がたまたま出会い、仲良くなる話だが、グルメ番組かと思いきや、さまざまな社会的課題がドラマに盛り込まれている。女性が男性のために料理する、または女性はたくさん食べない、といった無意識の偏見や圧力にモヤモヤする感じを覚えるのがシーズン1だったが、シーズン2では、お互いの恋愛感情を自覚した二人が家探しをして、同性婚が認められていないことによる社会的な差別に直面するようすも描かれる。他人といっしょに食事することができない「会食恐怖症」の南雲さん(藤吉夏鈴)と、野本さんとSNSで知り合った矢子さん(ともさかりえ)も、ほぼ原作どおりのキャラクターとして登場する。
 演じている俳優陣がマンガのイメージにぴったりで、とくに春日さん役の西野恵未は、本業がミュージシャンでドラマ初出演だそうだが、朴訥で誠実そうな人柄が、まさに原作のキャラクターそのものの印象だった。

 原作にはないドラマオリジナルの存在は、野本さんの職場の同僚・佐山さん(森田望智)。ドラマでは彼女が野本さんの理解者の立場で、視聴者の気持ちを代弁するような役回りを演じていて好感が持てた。同性愛者ではない佐山さんが、同性婚が認められていない日本の現状に憤りを吐露するシーンなど、まさに「アライ(LGBTの支援者)」の重要性を社会に訴えている場面だったと思う。

 折しも、日本テレビ系のドラマ『セクシー田中さん』をめぐって、マンガ原作者とドラマ制作側との間で生じた問題で原作者が自死してしまうという、何ともやりきれない事件が起きたばかりで、原作と脚色の関係について考えさせられる事態となっている。この『つくたべ』は、そもそも扱っている題材が「性の多様性」のように極めてデリケートなテーマであることから、そのあたりは原作者や監修者などと制作陣が綿密にコミュニケーションを取っているようすがうかがえる。
 ゆざきさかおみ氏による原作マンガはまだ連載が続いている。ここはぜひ、ドラマの方も「シーズン3」の放送を期待したいところだ。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号

  
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月30日

【月刊マスコミ評・新聞】「証人喚問が必要」声を大に=白垣詔男

 自民党の「裏金問題」を追求する衆議院政治倫理審査会(政倫審)が2月29、3月1日に行われた。しかし、出席した岸田文雄首相ら6人の答弁は予算委員会質疑などで、これまで明らかになった内容以上のものは出てこなかった。
 これを受けて、新聞各紙は3月1、2日付の朝刊社説で「6人の答弁は不十分」などと書いたが、毎日、朝日、西日本が「参考人招致や証人喚問が必要だ」と主張したのに比べ、読売、産経はそれらに言及しなかった。やはり、現政権への姿勢の強弱が如実に表れているとみるべきではないだろうか。

 今回の政倫審に関して、2日続けて社説を書いているのは毎日、読売、産経。毎日は「岸田首相と政倫審 何のために出て来たのか」(1日)の見出しで岸田首相に「安倍派や二階派の幹部らに、裏金事件の経緯や使途を、国会ですべて明らかにするよう指示することだ。…さもなければ、政治不信は増幅するばかりだ」と力説した上に2日付では「政倫審に安倍派幹部 やはり証人喚問が必要だ」と見出しで踏み込んだ。説得力がある。

 読売は、「開いただけでは解明にならぬ」(1日付)、「国会の混乱 言論の府の権威を貶めるな」(2日付)、産経「首相 全容解明にもっと努力を」(1日付)、「安倍派の不記載 この説明では納得いかぬ」(2日付)と首相と他の5議員の答弁に対する「不満」に絞って書いているだけで、その打開をどうしたらいいのかには触れていない。

 朝日の「政倫審社説」は2日付だけで「政倫審 予算案強行の踏み台か」の見出しとともに、首相の出席を、「実態解明の先頭に立つという決意などではなく、予算案の採決を強行する『踏み台』として政倫審の開催を急いだというのが実際だろう」と推測。さらに「森喜朗元首相を国会に呼び、説明を求めるしかない」「二階俊博元幹事長や、安倍派『5人衆』で残る萩生田光一前政調会長ら、当事者は大勢残っている。参考人招致や証人喚問も含め、説明責任を果たさせねばならない」と強調する。
 西日本は「裏金の全容がつまびらかにならないと、的確な再発防止策は打ち出せない。国会は参考人招致や証人喚問を検討すべきだ」と強い姿勢を見せている。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月02日

【月刊マスコミ評・新聞】検察権力を監視できているか=六光寺 弦

 パーティー券裏金事件でまたも問われる「政治とカネ」。岸田文雄首相率いる自民党では、派閥解散すら足並みがそろわない。1月〜2月上旬にメディア各社が実施した世論調査では、自民党に信頼回復は期待できないとの回答が、軒並み7割から8割超に上った。

 民意の不信感は、検察の捜査にも向けられている。
 安倍派のパーティー券収入の裏金化が「派閥ぐるみ」なのは明らかだった。東京地検は派閥事務所を捜索し、幹部の国会議員も聴取した。だが、政治資金規正法違反で訴追したのは事務方の会計責任者だけ。共謀の証拠が得られないことを理由に、派閥幹部の責任は「不問」とされた。
 地検がこの捜査結果を発表した1月19日の直後に朝日新聞が実施した世論調査では、「納得できない」の回答が80%に上った。2週間後の2月初旬の共同通信の調査でも「納得できない」は83%に達した。
 捜査を尽くしたのか、検察はろくに説明していない。「法の不備」を言い訳に、与党議員には手心を加えるのか、との疑念が生じるのは当然だ。

 気になるのは、東京地検の足元で捜査を追ってきた全国紙に、民意と温度差があることだ。
 処分発表の翌1月20日付で全国紙5紙は関連の社説を掲載した。批判の中心が自民党なのはともかく、捜査については「全員を不問に付すのは不公平感が拭えない」(読売)、「多くの国民が結果に納得できないのは当然だ」(日経)との記述が目につく程度だ。
 朝日は、還流側の立件を3千万円で線引きしたことには疑問を呈したが、毎日、産経は捜査への疑問の言及は見当たらない。 検察もメディアが監視すべき公権力なのに、その監視機能を果たしていると言えるだろうか。

 躊躇なく検察を批判したのは、いくつかの地方紙だ。信濃毎日新聞は「捜査は尽くされたのか」との見出しとともに、疑問を具体的に挙げた。京都新聞は「少なくとも裏金工作を管轄する立場にあった(安倍派の)7議員は起訴し、司法の裁きに委ねるべきではないか」と指摘している。
 全国紙は東京で日常的に、検察中枢に密着して取材している。発想が検察と同化、一体化してしまっているのだとしたら危うい。検察の驕りを増長させかねない。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年03月01日

【月刊マスコミ評・出版】「裏金」問題に対応する資格は?=荒屋敷 宏

 自民党の派閥の政治資金パーティーの「裏金」問題は、政界の深部を激震させている。「しんぶん赤旗」日曜版の報道が突破口となり、カネ集めに狂奔する自民党の醜態が白日の下にさらされているのだ。

 『週刊文春』2月15日号は、「二階俊博に直撃 長男が疑惑団体の会計責任者 『消えた50億円』」の問題に切り込んだ。二階氏は自身の秘書と二階派の会計責任者が既に立件されている。自民党幹事長の在任期間が歴代最長の5年に及んだ二階氏は使途不明の政策活動費50億円を受け取っていた。50億円はどこに消えたのか。選挙対策として地方議員などに渡されるというが、実態の解明は進んでいない。幹事長在任中に二階氏は派閥の議員を36人から46人まで増やしたというから、カネで権勢を拡大したわけだ。

 「裏金」問題に幕引きを図ろうとする姿勢が目立つ岸田文雄首相も火だるまになっている。『週刊ポスト』2月2日号は「爆弾スクープ」と題して「岸田文雄首相の『違法パーティー』収入は322万円! 22年6月の『総理就任を祝う会』で多額の会費を集めながら報告せず――」との記事を掲載した。「この総理に裏金問題に対応する資格はあるのか」と問うている。岸田首相のパーティー収入は約1100万円以上で、自民党広島第一選挙区支部への寄付約322万円、差額の約778万円はどこに消えたのか。
 同誌2月9・16日合併号でも「徹底追及」と題して、岸田首相の名ばかりの会計責任者を直撃取材した記事を掲載している。自民党の脱税疑惑をさらに追及してほしいところだ。

 自民党の裏金問題報道をかき消そうとするかのように公安筋から出てきたのが長年の指名手配犯の逮捕、死亡という報道だった。死人に口なし。このニュースから得られるものは驚くほど少ない。
 『週刊ポスト』2月23日号の「元公安トップが証言『桐島聡をなぜ逃がしたか』」(竹中明洋氏)は、三菱重工ビル爆破事件など1970年代の連続企業爆破事件で東アジア反日武装戦線のメンバーで長らく指名手配を受けていた桐島聡を名乗る男性の騒ぎに一石を投じている。メディアの過剰な報道は何だったのか。元公安調査庁長官の緒方重威氏は、同誌に「彼は組織の幹部メンバーではありませんでした。実はあの三菱重工ビル爆破事件にも桐島は関与していません」と証言している。一連の報道に首をかしげるばかりである。 
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月13日

【月刊マスコミ評・放送】NHK ネット業務に不安要因=諸川 麻衣

 昨年10月、総務省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」の「公共放送ワーキンググループ(WG)」が、NHKのインターネット活用業務を従来の任意業務から必須業務化する方向性を示した。この取りまとめを受けて放送法が改正されればNHKは、テレビ受像機を持たずパソコンやスマートフォンで放送を視聴する利用者からも、必要な手続きを経た上で受信料を徴収可能になる。

 テレビを持たない世帯が増える中、放送のネット配信は、WGでも論じられた通り、時代の必然、世界的趨勢と言える。しかし、NHKのネット業務の近未来には幾つかの不安要因がある。一つは、NHKの業務拡大は民業圧迫だとしてネットの必須業務化に強硬に反対してきた新聞協会に「配慮」する形で、「ネット業務は放送と同等の効用をもたらすものに限定」と縛りをかけてしまったことだ。これまでNHKは任意業務として文字ニュースの「NEWS WEB」や番組関連サイトなどネットでの多様なサービスを展開し、評価を得てきた。しかし文字ニュースは事実上廃止される方向が固まった。予算の制約を考えると、今後は他のサイトの中にも廃止・縮小されるものが予想される。

 第二に、放送のネット同時配信がとりあえずは地上波放送に限られ、衛星波の同時配信は見送られたこと。前田前会長時代に衛星波のネット配信の準備の予算を計上するという「勇み足」をしてしまったのと逆に、「配信のための権利料負担が大きい」との理由で見送ってしまったのだ。これでは、法改正後も配信内容は現行の「NHK+(プラス)」とほとんど変わらないことになろう。

 NHKが視聴者の要求に応えて経営を維持しようとするのであれば、衛星波のネット配信や独自のネット・サービスなどは早晩欠かせないが、現状ではむしろそれに逆行しつつある。そうした中で少し注目されるのは、能登半島地震後、旧BS103の波を使って総合テレビの地震関連の情報などを放送し始めたことだ。これはあくまで総合波の同時放送に過ぎないが、独自の災害情報を盛り込み、それをネットでも配信することも不可能ではない。そのようなサービスを拡充して社会的に支持されなければ、ネットの必須業務化は公共の利益にもNHKの存続にもつながらない看板倒れに終わりかねない。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
   
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年02月11日

【月刊マスコミ評・新聞】災害多発時代に発想の転換を=山田明

 年初から能登半島で巨大地震が発生し、甚大な被害をもたらした。災害列島日本で、災害多発時代を実感させる。震源に近い志賀原発にも危険が迫った。巨大地震災害の全容はいまだ不明だが、厳冬の地で災害関連死が危惧される。官民一体の迅速な支援が求められる。
 巨大地震の翌日には、羽田空港滑走路で衝突炎上事故が起こった。原因の徹底究明が必要だ。羽田空港の混雑は世界3位で、超過密のなかの大事故である。この事故からも学ぶことは多い。

 今年の元日社説は毎日「二つの戦争と世界」、日経「分断回避に対話の努力を続けよう」のように、戦争と平和に焦点が当たる。日本の現実はどうか。政治を揺さぶるのが、自民党派閥の政治資金パーティをめぐる裏金疑惑である。安倍派だけでなく、自民党全体の「構造汚職」と言える。岸田首相の年頭記者会見からは、「政治とカネ」の問題に正面から取り組む覚悟に見えなかった(毎日5日)。

 岸田政権は超低支持率ながら、大軍拡と強権政治を進めている。昨年末、沖縄県知事の権限を奪う前例のない代執行を強行。「苦難の歴史を歩み、過重な基地負担を押し付けられてきた沖縄で、この国の民主主義が揺らいでいる」(朝日12月29日)。一方、読売は「沖縄県知事は司法の判断に背いて、手続きを拒んでいる以上、国が前例のない法的手段に踏み切るのはやむを得ない」(12月27日)と主張。読売は日本学術会議についても「これ以上、結論の先延ばしを図ろうとするなら、国のリ―ダ―シップで改革を実行すべきだ」(同23日)と。強権政治にお墨付きを与える読売論調を注視。

 「第2自民党」を公言している日本維新の会にも注意が必要だ。災害に便乗して、緊急事態条項など改憲の旗振り役として危険な役割を演じている。維新が推進してきた大阪万博についても批判が高まる。万博より震災対応を優先せよ、万博中止・延期の声がいちだんと高まるが、維新はあくまで推進の立場だ。
 軟弱地盤の夢洲で開催予定の万博は、底なしの負担増と災害リスクが懸念される。何より万博への関心は低調のままだ。気候危機下の災害多発時代にあって、今こそ発想の転換が求められている。 
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
    
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月08日

【月刊マスコミ評・出版】KADOKAWAの反トランス本刊行中止=荒屋敷 宏

 KADOKAWAが2024年1月24日発売予定だったアビゲイル・シュライアー著『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』を今年12月5日になって突如、刊行中止としたため、論争が起きている。368ページ、本体価格2300円との近刊情報も告知されていた。

 2020年6月にアメリカで出版された原書の題は「不可逆的ダメージ:私たちの娘を惑わすトランスジェンダーの狂乱」である。確かに、原書や翻訳本の題名だけでもトランスジェンダー差別撤廃を求める人々を激怒させるものだ。出版関係者(出版社勤務・書店勤務・著者等)有志一同(代表・小林えみ氏)から意見書がKADOKAWAに提出され、「アビゲイル・シュライアーが扇動的なヘイターであり、本書の内容も刊行国のアメリカですでに問題視されており、トランスジェンダー当事者の安全・人権を脅かしかねない本書の刊行を、同じ出版界の者として事態を憂慮しています」として対策を求めていた。

 KADOKAWAのホームページには学芸ノンフィクション編集部のお詫びとお知らせが掲載された。「刊行の告知直後から、多くの方々より本書の内容および刊行の是非について様々なご意見を賜りました。本書は、ジェンダーに関する欧米での事象等を通じて国内読者で議論を深めていくきっかけになればと刊行を予定しておりましたが、タイトルやキャッチコピーの内容により結果的に当事者の方を傷つけることとなり、誠に申し訳ございません」

 KADOKAWAが本書の刊行準備で右翼文化人に応援を求めていた。「2週間程前に、KADOKAWAの担当者から手紙と本の原稿を頂きました」とアンドリー・ナザレンコ氏がSNSで告白した。『月刊WiLL』『月刊Hanada』の常連執筆者の間に翻訳本のコピーが出回っていたと聞いて、あきれるほかない。
 産経新聞に頻繁に登場する国際政治学者の島田洋一氏は今年7月に出した著書『腹黒い世界の常識』(飛鳥新社)の第6章「差別とLGBT」でアビゲイル・シュライアー氏の著書を参照しつつトランスジェンダー差別を助長する議論を展開している。右翼出版社が右翼本を出しても誰も文句を言わない。

 今回は、表面的に見ればKADOKAWAの刊行自粛であるが、問題の根は深い。表現の規制は危険である。かと言って、人権侵害や差別を助長する本を野放しにしてよいのか。KADOKAWAまでヘイト本の出版社になるとすれば、日本社会にとって好ましくないことは確かである。
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月07日

【月刊マスコミ評・新聞】慰安婦問題で韓国に筋違いの抗議=白垣詔男

 ソウル高裁は11月23日、旧日本軍「慰安婦」被害者と遺族計16人によって提訴されていた第2次損害賠償請求訴訟で、一審の棄却判決を取り消し、1人当たり約2億ウォン(約2300万円)を賠償するよう日本政府に命じる判決を出した。
 これに対して、新聞では25日の読売だけが「元慰安婦訴訟 国際法を無視した不当判決だ」と題する朝刊社説を載せた。他紙に、この件の社説はなかった。読売社説は「主権国家は他国の裁判権に服さないという『主権免除』の原則に反する判断である。断じて容認できない」と主張する。

 日本政府は、判決が出た直後、駐日韓国大使を通じて、韓国に抗議した。日韓両政府が2015年に合意した「最終的かつ不可逆的な解決」に反するという根拠だ。また、翌26日には、釜山で日韓外相会談があり、この判決に対して上川陽子外相が韓国・朴振(パクチン)外相に「極めて遺憾である」と抗議、韓国政府が「適切な措置」を講じるようよう求めた。
 以上2件の「動き」に対して、これはおかしいと思う。
 まず、読売社説の主張に違和感を覚える。社説では途中で「重大な人権侵害には主権免除が適用されないとの説に沿ったのだろうが」と述べているが、それを「列強が覇を競い合った時代の日本の植民地支配と、国際法違反であるロシアに侵略を同列視すること自体、論外だ」と判決理由を引用して述べている。しかし、「主権免除の原則に反する」と主張するのは、どうだろう。

 毎週「水曜抗議行動」などで、日本政府に元慰安婦に対する誠実な対応を求めている「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」は27日声明を出し、その中で「『主権免除』に対する国際法体系は個人の人権及び裁判請求権の保護を重視し、制限的免除へと変更、発展している」と韓国の今回の判決を支持している。
 また、上川外相が韓国政府に抗議した点については、尊重しなければならない民主主義国家の「三権分立」の大原則を無視した筋違いな発言だ。日韓外相会談の記事を読んですぐ、日本の司法は日本政府に忖度している判決が大多数の現状から判断すると、日本政府は自ら「三権分立」を無視していることを韓国に表明した、恥ずかしいことだと感じた。 
          JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年12月25日号                              
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年12月08日

【月刊マスコミ評・新聞】 性加害、沈黙の愚を繰り返すな=六光寺 弦

  旧ジャニーズ事務所元社長の性加害に、マスメディアは当事者性を免れ得ない。沈黙を続け、被害の拡大に加担した。テレビ各局は、曲がりなりにも自己検証した結果を放送している。しかし新聞は鈍い。11月上旬の時点で、組織だった検証の例は見当たらない。
 在京紙や通信社も、芸能分野の取材で、ジャニーズ事務所と日常的にやり取りがあった。出版物や主催イベントにも、所属タレントは登場していたはずだ。

 朝日新聞は9月9日付の社説で「経緯の検証をしないままジャニーズに関わり続けることは、朝日新聞を含め、もはや許されない」と書いた。同紙はこれまで、関連記事の中でゼネラルエディターのコメントや、当時の担当記者の述懐を載せたりはしたが、検証にはほど遠く、第三者の目を通してもいない。
 朝日新聞出版の週刊誌AERAは、表紙にしばしばジャニーズ事務所のタレントを起用していた。10月30日号に「検証」と銘打ち「本誌はなぜ沈黙してしまったのか」の見出しの記事を掲載。わずか2ページで、現編集長個人の反省文としか読めない。

 東京新聞は10月3日付の朝刊に、編集局次長の署名で「ジャニーズ性加害 本紙はどう報じたか」の見出しを付けた記事を掲載したが、第三者のチェックはない。
 読売新聞に至っては、8月31日付の社説で事務所の第三者委員会の報告書について「テレビ局などが出演者を確保できなくなると恐れ、問題を報じなかったことも性加害が続く一因となったと指摘した」と引用。まるで他人ごとだ。
 各紙ともなぜ検証に及び腰なのか。「問われるべきはテレビだ」と考えているのなら見当違いだ。テレビほど深い関係はなかったからこそ、利害に縛られず、忖度を振り切り、元社長の性加害に切り込むべきだった。

 新聞通信各社には外部識者に委員を委嘱した第三者委員会がある。編集責任者の編集権の下で徹底した検証を行い、第三者委員会に提出し、紙面で報じる―。今からでもできることだ。

 新聞は沈黙の愚を繰り返してはならない。編集責任者に労働組合は検証を迫るべきだ。「真実の報道」を掲げるJCJも。マスメディアにかかわる者には皆、逃れられない当事者性がある。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号

posted by JCJ at 00:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月05日

【月刊マスコミ評・新聞】大阪万博 準備遅れと大幅経費増=山田 明

 今年の9月は記録的高温だった。「地球沸騰の時代」と言われ、温暖化対策は待ったなしだ。そんな中で,わが国では旧態依然の大規模開発が実施・計画されている。沖縄の辺野古新基地、リニア中央新幹線、明治神宮外苑再開発、大阪湾の夢洲開発など。夢洲開発の厳しい現実に焦点をあてよう。

 大阪湾の人工島・夢洲は、廃棄物・土砂で埋め立てられ軟弱地盤だが、開発の嵐で今にも沈みそうだ。ここで2025年万博が予定されているが、開催まで1年半後というのに、準備が大幅に遅れている。その象徴が海外パビリオン建設の遅れだ。建設が始まった国はまだない。広い会場予定地は閑散としている。岸田首相は8月末、「万博の準備は極めて厳しい状況だ」と指摘し、政府主導で推進する意向を表明したが、果たして間に合うのか。

 問題は開催準備の遅れだけでない。万博会場の建設費、運営費の上振れも大問題だ。建設費は18年の誘致決定時1250億円、20年に会場デザイン変更などで1850億円、さらに2度目の計画修正で2350億円になるという。東京五輪と同じような展開だ。朝日10月1日社説も「万博の経費増 国民にツケを回すのか」「万博開催の是非が問われている深刻な事態」と警鐘を鳴らす。

 大阪府と事業者は9月28日、IRカジノ実施協定を締結。夢洲の万博会場隣に、2030年にIRカジノを開業する計画だ。事業者の要求により、3年後まで違約金なしで撤退できる「解除権」を認め、夢洲の地盤沈下対策などで、事業者は最終決定を先延ばし。こんな曖昧な実施協定を認めた国の責任が問われる。地元では底なしの財政負担、不当な格安賃貸料について、大阪市を相手にした住民訴訟に注目が集まる。ギャンブル後遺症に対する府民の不安は根強く、「カジノはあかん」の声がやまない。

 読売10月7日社説は、「大阪カジノ整備 万博準備への悪影響は必至だ」と問う。万博の開催準備が遅れているのに、その隣で大型工事を始めるのは、さすがに無謀であると。万博開催の本気度も疑われる。
 万博・カジノという夢洲開発は、当初から維新が主導してきた。ここにきて責任逃れをしているが、維新と維新が牛耳る大阪府・市の責任きわめて大きい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
       
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月01日

【月刊マスコミ評・出版】ジャニーズという名の資本主義=荒屋敷 宏

 「読書の秋」である。今年は、これまでに『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(ナンシー・フレイザー著、江口泰子訳、ちくま新書)や『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(大西広著、講談社+α新書)、『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』(デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ共著、光文社)、『資本主義の次に来る世界』(ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子訳)など、大きな視角から現代を問う本が次々と出版されている。豊作といってよいかもしれない。

 『週刊エコノミスト』は、10月3日号から100周年企画と銘打って、経済学者・都留重人氏(2006年逝去)が2003年に発表した論文「ゼロ成長でも生活豊かな社会−21世紀資本主義の行方」を3回にわたり再掲載している。
 都留氏は、@世界人口の動態A資源や環境の制約条件B科学技術の進歩の三つを21世紀の資本主義の規定要因と考えた。かつては資本にとり「外部」であった科学が資本に包摂されて「内部化」される過程が進み、科学=産業革命の時代が到来した。
 都留氏によると、働く人たち一般が社会的存在であることを通して技術革新の媒介役を果たしているという。それをマルクスが「社会的個体の発展」と呼んだという。熟練工の技術がデータ化され、機械に置き換えられ、機械の監視と統御が拡大している動向は日々、目撃するところである。

 ジャニーズ会見で特定記者を指名しない「NGリスト」の存在がNHKのスクープで明らかになった。企業の「組織防衛が働いている」「日本の企業の抱える『ガバナンスの未成熟』」「売り上げ至上主義」(『AERA』10月6日号)と指摘されるなど、ジャニーズ問題は日本型資本主義そのものである。

 テレビ局のジャニーズ担当者に編成や制作の権力が集まり、事務所の意向を社内に伝えて優遇され、役員にまで登用される「ジャニ担」の構造にも日本のメディアの弱点が集約されている。「結局、日本のメディアには調査報道をする力もなく、視聴率や売り上げが上がれば、不正や内部統制の抜け穴など気にしないという経営幹部が多数いた結果、『沈黙』は起きたのだろう」(『週刊エコノミスト』10月17日号で稲井英一郎氏)との意見には一部を保留した上で賛成したくなる。
 調査報道の役割は、重みを増しており、働く人たちはメディアの活躍を願っている。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月15日

【月刊マスコミ評・放送】まだある 知られざる戦争の悲劇=諸川麻衣

 アジア太平洋戦争を扱ったこの夏のテレビ番組の中から、印象的だったものを幾つか振り返ってみたい。NHKが6月10、17日に放送した『ETV特集 ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む』(2回)は、ミッドウェー海戦の日米双方の全戦没者を特定するというかつてない作業で1986年の菊池寛賞を受賞した作家・澤地久枝さんの最近の活動に密着、改めて日米双方の犠牲者と遺族の心中に迫った。「遺族の願いは戦争を繰り返さないこと。そこに敵も味方もない」という92歳の澤地さんの訴えが、「新たな戦前」とさえ言われる今の時期に切実に響いた。

 NHKの『BS1スペシャル “玉砕”の島 語られなかった真実』(8月9日)は、日本の民間人1万3千人以上が命を落としたサイパンとテニアンの戦いを取り上げた。グループ現代の太田直子ディレクターは、遺族の慰霊の旅に30年近く同行取材、膨大な証言を得てきた。捕虜にならないための集団自決、日本兵に強いられて幼な子の命を奪った肉親など、沖縄戦の悲劇が既に両島で起きていたことに慄然とさせられた。また、先住民に犠牲が出た事実も描かれ、「自分たちのせいであなた方に苦難を強いた」との元日本人移民の謝罪の言葉が心に残った。

 8月12、13日の『NHKスペシャル 新・ドキュメント太平洋戦争 1943 国家総力戦の真実』(2回)は、日記などの個人的記録から戦時の兵士・市民の心を探るシリーズの3年目。山本五十六連合艦隊司令長官の撃墜死とアッツ島玉砕が国民に与えた衝撃の大きさ、銃後・戦地を問わず全国民が総力戦に巻き込まれ、悲壮感を高めてゆくさま、予科練の募集、学徒出陣の決定など十代の若者たちが兵士にされてゆく過程をよく伝えた。

 テレビ朝日の8月5日の『テレメンタリー2023 彷徨い続ける同胞』は、フィリピンで日本人の子として生まれながら、戦中戦後の混乱の中で無国籍となってしまった人々の姿を紹介した。「無国籍」2世は最新の調査で493人いるが、出自を立証する資料がないため、日本国籍取得が困難となっている。日本兵の遺骨収集や空襲被害者の救済問題もそうだが、日本政府の戦後処理にどれほど抜け穴があったのかを鋭く問うた。併せて、あの戦争の被害に関してまだまだ私たちの知らないことがたくさん残されていることも痛感した。さまざまなテーマでの、事実の丹念な発掘に今後も期待したい。 
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号 
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月29日

【月刊ンマスコミ評・新聞】「歴史修正主義」の原点を感じる=白垣詔男

 関東大震災から100年の9月1日、新聞各紙の社説は、この問題を取り上げた。今年は、震災問題に加え、森達也監督の映画「福田村事件」が話題を呼んでいる。
 朝日は「朝鮮人に関するデマを載せる新聞もあった。社会主義者らが殺傷される事件もあった」「映画『福田村事件』の森達也監督は、状況によって『普通の人、善良な人が悪を犯す。誰でもその要素がある』と話している」と書いた。自戒も含めた文章だろうと解釈したい。
 さらに朝日は、物理学者で随筆家の寺田寅彦の著作「天災と国防」の一文にある「災害に対する警告に対して『当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、そうした忠言に耳をかす暇(いとま)がなかったように見える』と書いている」と国民はデマを信じる余裕がなかったと伝えている。

  同じような「自戒」はネットが発達した現在のほうがデマの拡散は容易になっているとして毎日「不確かな情報に踊らされることがあってはならない」、西日本「その情報が正しいかどうか。…日頃から、少しでも見極める力を養っておくことが大事だ」と自らも襟を正している。
 しかし、当時、警察官僚だった正力松太郎が「デマ拡散」に関係したとされている読売と、産経は、「朝鮮人虐殺の負の歴史」には全く触れていない。ネット全盛の現代、デマによる大衆行動への警告もない。2社の社説を読む限り、「歴史修正主義」の原点を感じる。
 また、松野官房長官が8月31日と9月1日の記者会見で「関東大震災時の朝鮮人ら虐殺」について、「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」と他人事のような発言を繰り返したことについて、厳しく批判する新聞は見当たらなかった。この発言を報じなかった新聞もあった。

  松野発言に関して共同通信は1日付で韓国、北朝鮮の反応を送信。韓国では、「最大野党『共に民主党』国会議員らがソウルで記者会見をし『日本政府の責任逃れと韓国政府の無関心』を批判した」と報じた。また「北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が、朝鮮人虐殺を非難する長文の記事を掲載し『受難の過去を決して忘れず、千年の宿敵である日本と決着をつけるしかない』と呼びかけた」と伝えた。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月29日

【月刊マスコミ評・出版】維新批判の文春砲はどこまで続く=荒屋敷 宏

『週刊文春』の孤軍奮闘が目立つ。木原誠二内閣官房副長官の疑惑追及は独走状態で、今度は日本維新の会批判キャンペーンを始めた。岸田内閣の支持率低迷を受けて内閣改造のニュース報道が出始めた。
 文春砲≠ヘ8月10日号で「維新を暴く! 改革政党≠フウソと暗部」の大特集を放ち、8月17日・24日合併号では「維新 馬場代表 社会福祉法人 疑惑の乗っ取りを告発」と連打した。維新の馬場伸幸代表は、気に食わない人物に対して選挙の公認をしないことで有名だという。一方、維新公認で多数の不祥事議員≠ェ出ている。パワハラ、セクハラで立憲民主党から離党に追い込まれた山本剛正衆院議員を維新が公認した例など、枚挙にいとまがない。

 身を切る改革≠竍政治資金の透明性≠掲げるが、維新は政党助成金を受け取った上に、インサイダー事件で逮捕された旧村上ファンドの村上世彰氏から、年間上限2千万円を上回る個人献金を受けていた。叩けばホコリが出る状態だ。神戸学院大の上脇博之教授は、維新議員が月100万円支給される文書通信交通滞在費(現・調査研究広報滞在費)を政党支部に横流しし、選挙を含む私的活動などに充て、公金の私物化をしていると批判している。

 日本維新の会は、不透明な政治資金で身を肥やし、ハラスメント根絶とは裏腹に被害者の声を軽視し、維新代表が社会福祉法人の理事長になるなど、疑問が多すぎる。維新批判の文春砲はどこまで続くだろうか。

 「安倍政治の決算」を特集した8月号が売り切れ続出で増刷した総合誌『世界』は、9月号も興味深い。特集とは別に、防衛大学校教授の等松春夫氏「なぜ自衛隊に『商業右翼』が浸透したか 軍人と文民の教養の共有」と、ライターの木野龍逸氏「汚染水海洋放出は必要なのか」に注目した。
 等松論文は、「危機に瀕する防衛大学校の教育」という話題の論考を発表した経緯の説明である。人文・社会科学系の教養に欠ける幹部自衛官は陰謀論や商業右翼の言説を見抜けないという。『月刊WiLL』や『月刊Hanada』など極右誌への防衛省の現役・元自衛官の登場は常態化しており、見抜けないどころか、意図的ではなかろうか。
 木野論文は、岸田政権が強引に推進する東京電力福島第一原発の汚染水放出計画について、コスト節約のための放出という疑念が消えないと指摘する。反対する漁連に「丁寧に説明」(岸田首相)して解決する問題ではない。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月28日

【月刊マスコミ評・新聞】「被爆国の新聞」の自覚はあるか=六光寺 弦

広島市に原爆が投下されて78年の8月6日。松井一実市長はことしの平和宣言で、核抑止論の破綻を直視するよう各国の指導者に求め、脱却を訴えた。湯崎英彦・広島県知事も、核抑止論を強く批判した。主要7カ国首脳会議(G7サミット)の核軍縮文書「広島ビジョン」が、米英仏の核保有を正当化したことへの異議申し立てだ。
核抑止は、保有国首脳が理性を保っていなければ成り立たない。ロシアのプーチン大統領が核を威嚇に使ったことで、その前提は崩れている。

地元紙の中国新聞は6日付朝刊の社説で、核抑止は幻想であると明確に指摘した。同時に、若い世代ほど核保有を容認する空気が広がっているとの危惧を示し、被爆者の体験の掘り起こしと伝承が必要だと強調した。

 全国紙5紙も6日付で社説を掲載したが、趣はかなり異なる。朝日新聞は「核抑止」に「ほころびが著しい」との形容詞を付け、毎日新聞は広島ビジョンについて「被爆者から反発の声が上がったのは当然だ」と書いた。ともに核廃絶を訴えてはいるが、核抑止へのスタンスや、主張の主体性にあいまいさが残る。

 むしろ歯切れがいいのは、核抑止論を肯定する新聞の社説だ。日経新聞は「米国の『核の傘』に頼らざるを得ない現実」と消極的な評価だが、産経は「(政府には)国民を守る核抑止と国民保護の態勢を整える使命がある」と積極評価。松井市長の「抑止の破綻」の表明に触れながら「理想を唱えるだけでは平和を守れない」と論点をずらした。読売は社説で、ロシアが核の使用を踏みとどまっているのは核抑止が機能しているから、との認識を示した。驚くのは、式典の模様を伝える7日付朝刊の1面記事で、松井市長が核抑止の破綻を明言したことに触れていないことだ。ニュースのポイントを、社論と相いれないからと意図的に報じないのであれば、もはや報道とは呼べない。

 G7サミットで「被爆地広島」が世界に広く発信された。世界を俯瞰する視野で見れば、日本の新聞は等しく「被爆国の新聞」のはずだ。だが、全国紙各紙にその自覚はあるのか。核廃絶に向けた被爆者、被爆地の思いや覚悟に対して、ぬぐいがたく「他人ごと感」が漂う。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年08月25日

【メディア時評】日本のメディア4団体が「生成AIに関する共同声明」を発表=萩山 拓

自由利用の弊害
 8月17日、雑誌協会、書籍出版協会、新聞協会、写真著作権協会が連名で声明を出し、生成AIがもたらす負の影響について触れて、 「著作権法が目的とする文化の発展を阻害する恐れがある」と警鐘を鳴らした。
 いまチャットGPTなどは、現存するインターネット上の大量の記事や画像データを使い、文章や画像をつくりだし、既存の生成AIの訓練だけでなく新たな生成AIの開発に注力している。それができるのは、現在の著作権法で謳う<「著作権者の利益を不当に害する場合」を除き、著作権者の許諾を得ずに利用できる>を活用しているからだといわれている。
 だが、「著作権者の利益を不当に害する場合」の解釈があいまいで、著作権者の利益が還元されないまま、大量のコンテンツが生成されている。

AI利用と著作権保護
 声明では、@海賊版などの違法コンテンツをAIが学習してしまう、A元の作品に類似した著作権侵害コンテンツが生成・拡散される、BAI利用者自身が意図せず権利侵害という違法行為を行う可能性がある、C学習利用の価値が著作権者に還元されないまま大量のコンテンツが生成されることで、創作機会が失われ、経済的にも著作活動が困難になる―などの懸念を挙げ、著作権保護策が改めて検討されるべきだと主張している。
 海外でも、生成AIにどう対応するか、メディアの動きが始まっている。米国ニューヨーク・タイムズ紙は8月3日、利用規約を改定し、自社の記事や写真をAIの訓練のために無断で利用することを禁止すると明記した。また、米国AP通信は7月、チャットGPTを運営するオープンAIと記事提供や技術活用に関する協定を結んでいる。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする