2022年12月07日

【月刊マスコミ評・新聞】沖縄の選挙 報道をていねいに=六光寺 弦

  沖縄の過重な基地負担は日本復帰から50年たっても変わらない。負担を強いている日本政府は、選挙を通じて合法的に成り立っている。だから沖縄の基地負担は国民全体の選択であり、だれもが当事者だ。基地を巡り沖縄で起きていること、沖縄の民意は、日本本土でも広く知られなければならない。本土メディアの責任は大きい。
 10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
 那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。

 他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
 翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
 那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
 複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
 六光寺弦
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
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2022年11月11日

【月刊マスコミ評・新聞】岸田政権 原発回帰を鮮明に= 山田明

 憲法違反の安倍元首相「国葬」が国民の批判が渦巻くなかで強行された。自衛隊が目立ち、「アベ政治」を賛美する弔辞が国葬を象徴する。国葬後も「評価せず」が59%。岸田内閣の支持率低下が続き、不支持が初めて半数に達した(朝日10月3日)。
  これは国葬強行だけでなく、旧統一教会と自民党との関係が影響している。とりわけ安倍元首相と安倍派の議員らは、教会による選挙支援を含め深刻なものがある。岸田首相の対応にも批判が集まる。政治の信頼を取り戻すためにも、国会での真相究明が待たれる。
 円安が続き、物価高に拍車がかかる。実質賃金が低下する中での値上げラッシュで、低所得層ほど生活が苦しくなる。止まらない円安は、アベノミクス離れができないためだ。岸田首相の経済政策に期待できないが7割にのぼる。一方で、政府は防衛費の相当の増額を検討する。北朝鮮による弾道ミサイル日本上空通過が防衛強化の「追い風」との声も漏れてくる。
  岸田首相は8月下旬、原発の新増設や建て替えについて検討を進める考えを示した。運転期間の延長も検討する方針だ。原発回帰は岸田政権の既定路線だが(毎日9月6日)、ウクライナ戦争で露わになった原発リスクをどう考えているのか。
 日経は9月26日、エネルギー・環境緊急提言を公表し「原発、国主導で再構築を」と述べる。緊急提言は気候危機・再エネだけでなく、政府の原発回帰に呼応した動きでないか。8月18日社説「原発新増設へ明確な方針打ち出せ」で、岸田発言につながる主張をしている。経団連も原発再稼働を評価している。福島原発事故から11年半経つが、原発をめぐる動きから目が離せない。
  地域からも問題に迫りたい。IRカジノ計画案が大阪と長崎から申請され、国交省で審査されている。大阪ではIRカジノの是非を問う住民投票を求める直接請求署名が20万筆近く集まったが、大阪府議会で維新などにより否決された。その後も、国が計画を認可しないことを求める大行動が東京で行われた。国会での追及も期待したい。
  大阪では、「夢洲IRカジノ誘致差止め訴訟」にも注目が集まる。国ととともに、地方自治体の行政のあり方が鋭く問われている。   
  山田明
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
 




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2022年11月09日

【月刊マスコミ評・出版】右派メディアのアベ礼賛祭り=荒屋敷 宏

  統一教会をめぐる『週刊東洋経済』10月8日号と月刊『マスコミ市民』10月号の勇気ある編集に敬意を表したい。「宗教 カネと政治」で37ページにわたり特集を組んだ『週刊東洋経済』の読みどころは、統一教会と関係の深い企業一覧だろう。鮮魚・飲料・置き薬・自動車学校・病院・学習塾…と超多角化経営だ。
 外国語教室を営む統一教会関連企業は伊藤忠商事、三菱商事、日本生命保険、電通、三菱UFJ銀行、JR東日本の研修実績があると宣伝している。文化庁が宗教法人と交わした「裏約束」、「LGBTたたき」で一致する統一教会と神社本庁などスクープ満載である。
 特集「統一教会と自民党」で事の真相に迫る『マスコミ市民』の島薗進、有田芳生、前川喜平、山口広の各氏へのインタビューは、読み応えがある。島薗氏は、日本からカネを収奪する統一教会を右派メディアが批判できない弱点を突き、月刊『Hanada』や月刊『WiLL』などの雑誌について「困惑していると思います」と指摘している。
 右派雑誌の代表ともいえる『Hanada』『WiLL』『正論』は事件後、故安倍晋三元首相を礼賛する特集を掲載し続けている。『Hanada』11月号には「国葬」で開き直る岸田文雄首相と小川榮太郎氏の対談をはじめ、「国葬」反対派は“極左暴力集団”との虚偽を意図的に流した有本香氏、反安倍の国民を「アベガー教」のカルトだと攻撃する藤原かずえ氏、『WiLL』11月号にはアベガーの俗論を徹底粉砕としつつ「旧統一教会の実態は、私は専門家ではないし、わかりません」と腰の引けた阿比留瑠比氏など、確かに、統一教会への困惑を隠せない様子だ。
 なかでも『正論』11月号では、岩田清文元陸上幕僚長と島田和久元総理秘書官・前防衛事務次官が対談し、かつて最高指揮官だった安倍氏を追悼している。防衛省・自衛隊にとっての安倍氏の役割を絶賛し、自衛隊を憲法に書き込む「憲法改正」が心残りだったのではないかと偲んでいる。一方で、かつて吉田茂元首相が自衛隊を「日陰者」と呼んだことへの不満を表明している。そのうえで、安倍氏は、吉田氏の「軽武装経済重視」を改めようとしたのだと結論づけている。戦後、「国葬」となった2人の元首相に対する元防衛省関係者の、この態度の違いは何か。「国葬」賛成雑誌の軍国主義礼賛の本音も透けて見えてくるのである。 
 荒屋敷 宏
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号

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2022年10月11日

【月刊マスコミ評・放送】まだまだ発掘できる戦争の真実=諸川麻衣

 この夏の戦争関連番組では、埋もれてきた資料を発掘して歴史の新たな一面を明らかにしたNHKの3作が注目された。
 8月8日の『NHKスペシャル そして、学徒は戦場へ』は、学徒出陣の裏面史。学徒は明治以来、「国家の存亡のために欠くことができない存在」とされ、徴兵を猶予されていた。なぜその“特権”が奪われたのか、当時の国や大学の関係者、学徒など約100人への取材から、当初徴兵に反対していた大学側が、軍や世論に押され、遂に屈してゆく過程をまざまざと描いた。
 8月15日の『NHKスペシャル ビルマ撤退戦 絶望の戦場〜大東亜共栄圏の最期』は、5年前の『戦慄の記録・インパール』の続編で、インパール作戦が破綻した後、敗戦までのビルマ情勢の変転を描いた。1945年初頭、日本軍はラングーンに向かう英軍とイラワジ川で交戦、大敗した。番組によれば、この無謀な戦いに固執した田中新一参謀長について英第14軍のウィリアム・スリム司令官は、「日本軍指導者には道徳的勇気が欠如しており、自らの失敗を認められない」と書き残していたという。日本の敗北が必至となると、当初独立を求めて日本軍と連携していた若手軍人アウンサンらも日本への反発を強め、遂に日本軍に対して蜂起した。こうしたビルマでの動きから「大東亜戦争」の虚構を暴く力作であった。

 8月20日『BS1スペシャル 戦禍のなかの僧侶たち〜浄土真宗本願寺派と戦争〜』は、仏教の戦争協力を取り上げた。浄土真宗本願寺派は2020年、宗派の1万の寺を対象に調査を行った。3800寺から回答があり、従軍僧の日誌や写真などの資料も寄せられた。その調査結果に基づく本番組は、教団が日中戦争を好機としてアジアに進出、布教を進めたこと、また太平洋戦争中も金属回収、学童疎開、戦時動員に協力していたことなどを描いた。それだけでなく、この戦争協力を負の教訓とし、過ちを繰り返すまいと行動する今の僧侶たちの姿も紹介した。
 いずれも、これまであまり取り上げられることのなかったテーマや時期を対象とし、生存者の証言や公文書、当事者の日記などの資料に基づいて、事象の背景や関係者の葛藤を生き生きと描き出した。戦争体験者の多くが90歳以上になる中で今後、日記など未発掘の資料の価値は一層高まってゆくだろう。それを活用すればまだまだ知られざる事実を明るみに出すことができるという手ごたえを感じた。
 諸川麻衣    
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
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2022年10月03日

【月刊マスコミ評・新聞】政府言い分に疑問を挟まなぬ不快感=白垣詔男

  岸田文雄首相が出席して9月8日、国会閉会中審査があった。しかし、岸田の答弁には、国民を納得させるものはほとんどなかった。
 翌9日の朝刊全国紙は社説で、岸田の国会説明と国葬問題を取り上げた。「疑念の核心に答えていない」(毎日)、「首相の説明 納得に遠く」(朝日)と見出しを見てもこの2紙は「このままでは国葬反対」の姿勢が見て取れた。しかし、「政府広報」と言われる読売は「追悼の場を静かに迎えたい」、同じく産経「安倍氏を堂々と送りたい」と、岸田答弁への疑問はほとんどないかのような論調だった。産経に至っては「国葬の是非と旧統一教会の問題を結びつけるべきではない。それはテロ肯定につながる」と意味不明の文章がある。「反社会的集団」である旧統一教会の宣伝役を積極的に買って出て、国民の多くの家庭や家族を崩壊させた「先兵」でもあった安倍を国葬にするおかしさについて考えられないのではないか。
 また、「国葬」に否定的な毎日、朝日にしても、政府が数日前に遅ればせながら国葬費用の概算を発表した「おかしさ」については疑問を言わない。
 当初、政府が「国葬費用は2・5億円」と発表して、それ以外は国葬後に発表すると官房長官の松野博一が、木で鼻をくくるような言い方で断言していた。しかし、岸田内閣の支持率が、「旧統一教会問題」が大きく報じられてから急降下したことに慌てたのか、松野は前言を翻して、「総額16・6億円」と発表した。岸田内閣の支持率が下がらなければ、「国葬費用総額」については、事後に発表する姿勢を変えなかったと考えるのは自然だろう。
 このところの新聞は、その背景にある「なぜ」を書かない。今回の岸田の国会発言も、そのまま報じ、それ自体の「意味のなさ」「説明不足」は指摘するが、それ以上の「なぜ」まで切り込まない。
 「コロナ禍」についても政府は、さまざまな「規制緩和」「全体検査数の変更」を次々打ち出し、それ自体マスコミは報じるが「なぜ今そうなるか」まで突っ込まない。政府の政策変更におとなしく従う日本国民も「なぜ」を問う姿勢が弱い。これまた、新聞はじめマスコミが、そういう国民を作り上げているのではと不快感が募るばかりだ。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
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2022年09月10日

【月刊マスコミ評・出版】安倍元首相銃撃事件と「政治の力」=荒屋敷 宏

 安倍晋三元首相銃撃事件の容疑者の犯行動機についてメディアの多数は当初、「特定の宗教団体に恨みがある」と警察発表そのままだった。霊感商法の犯罪で敗訴を重ねた「旧統一教会」は、2015年に「世界平和統一家庭連合」と名前を変えたが、今も反共産主義の国際勝共連合と一体の組織である。
 『創』9月号(篠田博之編集長)は、「安倍元首相銃撃事件の背景、そして国家と社会」と題し、金平茂紀、吉岡忍、有田芳生各氏の座談会記事を掲載した。この事件について「一般的な類型化をしたくない」(金平氏)との決意が目を引いた。
 有田氏は「実は1995年のオウム事件の後、捜査当局が『次は統一教会だ』と言っていたのを、警察庁や警視庁の幹部から聞いていました。でも10年経っても何にもないないから『何だったんですか』と聞いたら、『政治の力だ』と言われたんです」と改めて証言している。「政治の力」発言は、テレビ朝日の放送以後、タブー視されたが、有田氏は日刊ゲンダイデジタルに書き、8月11日放送の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)でも同様の発言をした。警察幹部の言う「政治の力」とは一体何だったのか。
 『文芸春秋』9月号(新谷学編集長)の特集「安倍元首相暗殺と統一教会」で森健氏と同誌取材班のレポートは、「勝共連合会長が語った安倍家三代と統一教会」など、事実を豊富に伝える。トランプ前米大統領のビデオメッセージ出演をちらつかせて、安倍元首相の出演にこぎつける様子など、米国追随の自民党政治家を利用する統一教会の詐術が見えてくる。「コリア民族主義」の団体が、なぜ靖国派の政治家とつながるのか。日本の無思想、無節操の象徴か。やはり、謎だらけである。
 『世界』9月号(熊谷伸一郎編集長)も特集「元首相銃撃殺害 何が問われているか」を組んだ。フォトジャーナリストの藤田庄市氏の「宗教カルト 破壊される家庭と漂流する2世たち」は読み応えがあった。教団トップの代わりに安倍元首相が殺害された事件だときちんと押さえた上で、統一教会の「違法な伝道強化活動による酷使できる信者および財の獲得」に迫っている。宗教法人とはいえないこの反社会的集団が存在するかぎり、カルトの犠牲者は増え続け、再び同様な事件が起きることを示唆している。しかし、統一教会の反共産主義にメスを入れる論者がいないのも、この国のマスメディアの現実なのである。 
 荒屋敷 宏
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
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2022年09月09日

【月刊マスコミ評・新聞】「国葬」に感度鈍かった朝日、毎日=六光寺 弦

安倍晋三元首相の国葬は問題だらけだ。業績は国を挙げての顕彰に到底値しない。それ以前に、国葬は法的根拠を欠き、弔意を事実上強制するなど、違憲、違法の疑いが極めて強い。だが全国紙、中でも朝日、毎日両紙は鈍かった。
国葬実施を岸田文雄首相が表明したのは、安倍元首相の死から6日後の7月14日。産経は当日朝刊社説で国葬にするよう主張していた。てっきり他紙は批判するだろうと思ったら違った。
 16日付で毎日、読売が社説で取り上げたが、あっさりと「容認」。安倍政治支持の読売はともかく、毎日の論調には首をかしげた。「世論を見極めながら決めるべきではなかったか」と言いながら、違法・違憲性に踏み込まない。「国民が弔意を示す場を設ける必要はある」「多くの国民の理解を得られる形にすることが望ましい」と、物分かりの良さが目立った。
 朝日に至っては、社説で取り上げたのは首相会見から1週間近くもたった20日付。疑義を示しながらも、「反対」は言わず「撤回」を主張するわけでもない。
 腰が引けていたのは社説だけではない。朝日、毎日両紙は7月16、17両日の週末、定例の世論調査をそれぞれ実施したが、「国葬」に関連した質問はなかった。
 賛否を正面から問う世論調査は、7月末の共同通信、日経新聞の両調査を待つしかなかった。結果は共同調査では「反対」が過半数。日経調査も「反対」が「賛成」を上回った。8月上旬のJNN調査も同じ結果だった。朝日、毎日両紙が質問を盛り込んでいれば、自民党の茂木敏充幹事長が「国民から『国葬はいかがなものか』との指摘があるとは認識していない」と言い放つこともなかっただろう。
 踏ん張りを見せていたのは地方紙だった。
16日付社説で琉球新報は「憲法が保障する内心の自由に抵触する国葬には反対する」と明記。信濃毎日新聞、京都新聞、沖縄タイムスも、「納得がいかない」「再考を求める」などの表現で、反対の意思を示した。北海道新聞は「国会で妥当性を議論すべきだ」と指摘。その後も、疑義を示す地方紙各紙の社説が続いた。
 朝日、毎日ともその後、国会審議を求める社説を掲載したが、当初の鈍さは目を覆うばかり。何を忖度したのだろうか。
 六光寺 弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
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2022年08月16日

【月刊マスコミ評・新聞】暴力は自由な社会に対する挑戦=山田 明

  参院選投開票2日前、衝撃的な事件が起きた。安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され、亡くなった。卑劣極まるテロである。事件の背景や警備体制など、徹底した捜査・検証を求めたい。気になるのは、事件後「安倍政治」を一方的に礼賛する報道が目立つことだ。選挙への影響も懸念される。

 その中で北海道新聞9日社説「言論封殺する卑劣なテロ」に注目した。安倍氏「自身の保守的・復古的な政治信条を押し通そうとした結果、国民の間の分断が深まった側面は否めない。森友・加計問題、桜を見る会など数々の疑惑も最後まで説明責任を果たさなかった。しかし、そうした「安倍政治」への批判や異議は、あくまでも健全な言論を通じてなされるべきだ。暴力で口を封じようとする行為は自由な社会に対する重大な挑戦である。」
  息苦しさが漂う中で、参院選が終わった。選挙結果は、自民が改選議席の単独過半数を占め大勝した。非改選議席と合わせ、自民・公明で参院でも過半数を維持した。立憲は議席を減らし、維新は衆院選に続き伸長した。昨年の衆院選後の「野党分断」により、自民は1人区で圧勝した。野党は「共闘」しないことには、与党の厚い壁を崩すことなどできない。今回の選挙結果をシビアに検証、評価すべきだ。

  自公と維新・国民の改憲勢力は参院でも3分の2の議席を確保した。憲法9条などの改憲、ウクライナ戦争に便乗した軍拡・「核共有」など、日本の平和を脅かす動きから目が離せない。
 今年は1972年5月の沖縄の本土復帰から50年になる。琉球新報6月27日朝刊は、沖縄で開催されたシンポジウムの宮本憲一氏講演を詳しく伝えている。
  沖縄戦を繰り返すなという主張が沖縄から出ているように、ウクライナ戦争は沖縄の危機を呼び起こす問題だ。今のまま日米軍事ブロック化を強化すれば、沖縄が再び戦場になることは避けがたい。沖縄戦を二度と起こさないという思いは日本人全体の決意でないといけないと、警鐘を鳴らす。
 とかく好戦的なムードに流され、軍事同盟や軍拡に走りがちになるが、「外交を含めた総合的な戦略を構築することこそ、政治が果たすべき役割である」(朝日6月24日社説)。政治とともにメディアも真価が問われている。
 山田 明 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
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2022年08月15日

【月刊マスコミ評・放送】低調な選挙戦とテレビの責任=岩崎貞明

  本紙が発行される頃には参議院選挙の結果もすでに判明していることだろうが、今回はスタート前から「史上最も低調な選挙戦」と言われるほど、盛り上がりの感じられない選挙だった。野党共闘が不十分な形になってしまったことはもちろん大きな要因だと思われるが、マスメディア、とくにテレビの報道が精彩を欠いていたことも、その責任の一端を担っていたのではないか。

 たとえば、選挙が公示された6月22日の、各局の夜のニュース番組を見比べてみる。NHK『ニュースウオッチ9』はさすがに参院選スタートをトップ項目に置き、有権者が最も重視する政策課題として1番目に経済対策、2番目に外交・安全保障をあげていることなどを紹介していたが、民放は、日本テレビ『NEWS ZERO』は「さいたま市で立てこもり男を逮捕」「23歳女性、別荘で監禁され死亡」「上司から“侮辱賞状”で自殺」「諸物価の値上げ」と来て、ようやく「参院選公示」となる。TBS『NEWS23』も「トー横のハウル逮捕」「さいたま市の立てこもり男逮捕」と事件ものが来て、特集「ラッパーAwichと沖縄」(これはなかなか好企画だったが)を挟んで「コロナ給付金10億円詐欺逮捕」の後、参院選関連の項目となっていた。テレビ朝日『報道ステーション』は「アフガニスタンで大地震」「世界各地で物価高反対デモ」の後、三番目に参院選だった。
  いわゆる「改憲勢力」が三分の二以上の議席を占め、いつでも改憲を発議できるようになってしまうという重要な事態に直面しているのに、この体たらく。自民党議員からは「政治のことを考えなくていいのは良い国」「野党から来た話は聞かない」など、徹底的に批判すべき暴言も続発していたのに、テレビ報道は全体的に大人しかった。

 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は5年前、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」を公表、「放送局には選挙に関する報道と評論の自由がある」「選挙に関する報道と論評に求められているのは量的公平ではない」と明確に指摘している。また今回は「#選挙特番は投票日の前に放送を」とのネット署名も呼びかけられ、5万筆以上の署名が在京テレビ各局に提出された。
 テレビの選挙報道に、まだ期待を寄せようという声がある。今回、テレビ東京は投票日前日に特番を編成したが、他局は今後、この声にどう応えるのか。
 岩崎貞明
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号 
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2022年07月09日

【月刊マスコミ評・新聞】「何も言わない首相」の支持率=白垣詔男

 岸田文雄首相は、「自分の考え」を表明することがないままで通常国会を終えた。しかし、「何もしない首相」の支持率は上がる一方だ。国民が政治に期待しない意思の表明だと思えば、支持率の上昇はうなずけるが、悲しい。参議院選挙の投票率向上も、これでは、ほとんど期待できないのではないか。これまた悲しくなるだろう。
 さて、岸田の国会答弁、テレビに映る姿は、いつも下向いて、官僚がしたためた文章を読んでいる。岸田よりひどいのが官房長官・松野博一で、顔を上げるのは記者の質問に答え終わる数秒前に限られる。ウクライナ大統領、ゼレンスキーとは好対照だ。大統領が下向いて話す映像は、まずない。これが政治家の本来の姿というか訴える言葉を持っている人間の正常な姿だと思う。
 「何も答えない」岸田の答弁について、5月27日の補正予算衆院通過を受けて28日の毎日朝刊に「首相『ゼロ回答』に終始」の見出しで岸田の「ゼロ回答」の具体的な発言を6通り票にしてあった。
 与党・自民党の小野寺五典の質問「反撃能力の保持を政府として前向きに考えてもらいたい」に対し岸田は「国民の命を守るために何が必要か現実的、具体的に考えなければならない」と答弁。立憲民主党・長妻昭の質問「コロナにかかりながら、医療ケアを受けられず自宅で亡くなった人の実態調査を指示してほしい」に対し岸田は「政府として重く受け止め責任を感じる。ただ、数の把握は実際そう簡単ではないと聞いている」と答えた。共産党・宮本徹の質問「物価高騰を踏まえ、今年は最低賃金の思い切った引き上げを」に対し岸田は「(時給)1000円以上を目指し努力している。努力を続けたい」。
 岸田の答弁は、慎重というのではない、何も答えていない現実が明らかだ。岸田の発言の裏には、安倍晋三の影が色濃い。安倍に事前に相談なく「自説」を披露したら、自らの自民党総裁(首相)再選はないと肝に銘じているかのように見える。
 それでも、岸田の国会答弁の実態を知らないのか、国民の支持率はじりじり上がっている。日本の多くの国民は、首相は何もしないほうがいいと思っているのだろうか。マスコミは、その真相を掘り下げてほしい。
 白垣詔男
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2022年07月08日

【月刊マスコミ評・出版】国際法を支える草の根の連帯=荒屋敷 宏

  出版社のPR誌には、時折、重要な論考が掲載されることがあるから、油断できない。『みすず』5月、6月号に連載された最上敏樹氏の「ウクライナに耳を澄ます 最後の征服戦争」(上・下)は、国連安保理常任理事国であるロシアのウクライナ侵略を受けて、蛮行を許した国際法および国際機構システムの脆弱さを見直して、新しい国際法、国際機構を構想する必要があるのではないか、と問いかけている。
 今回のロシアによる国連憲章・国際法の侵害には、ただの武力行使や侵略でもなく、第2次世界大戦後初の「征服戦争」の様相がある、と最上氏は指摘する。ロシアが、東部ドンバス地域の懸案解決ではなく、ウクライナ国家の独立と主権を奪おうとし、武力紛争時の弱者保護を一顧だにしない点があるからだ。核超大国が無法者国家になる脅威にも注意を促している。
 そのうえで、最上氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領による国連安保理に対するオンライン演説(4月5日)に「根源的な問題点」が言い尽くされているという。「一つは、もしロシアの侵略から加盟国を守れないのなら、安保理ひいては国連には存在意義がないし、解体すべきではないかという点である。もう一つは、事態がそこまで立ち至るなら、それは国際法の終焉を意味しているのではないか、という点である」と。侵略の禁止と国際人道法の尊重について草の根の連帯を育てていくほかないと最上氏は結論づけている。
 一方、『世界』7月号に掲載された松井芳郎氏の「多国間主義の危機 ウクライナ侵略と国際社会の進路」と題する論文は、「世論は究極的には、最も信頼できる国際法の執行者」という立場から、ロシアを平和の国際世論で包囲し、日本国憲法前文がうたう多国間主義の立場で行動する重要性を強調している。松井氏によると、多国間主義とは国の個別的利益の追求ではなく、国際社会の一般的利益の追求であるという。
「多国間主義を通じて国際関係を変革し国際社会の一般的利益を追求することを可能とするためには、各国の国内における民主的な意思決定が不可欠」との松井氏の指摘は重要だ。ロシアのウクライナ侵略を契機として軍備を増強し軍事同盟を強化する単独行動主義への傾斜が欧米の一部や日本で強まっている。こうした状況の下で一部のマスメディアが「軍事対軍事」「力対力」の論理をあおりたて、「民主的な意思決定」を阻害することは犯罪的ですらある。 
 荒屋敷 宏
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
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2022年06月15日

【月刊マスコミ評・放送】ウクライナ危機の歴史的背景浮き彫り=諸川麻衣

 ロシアのウクライナ侵略に関しては、TBSの金平茂紀キャスターがウクライナ入りして果敢に現地の情勢を伝えてきたが、NHKでは今回の危機の歴史的背景と世界にとっての意味を論じた番組が注目される。
 3月19日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 2014 対立の原点』は、2014年5月放送の『歴史と民族から考えるウクライナ』を、前後に解説を付して改めて放送したもの。ウクライナでは2014年2月に親ロシア派と目されたヤヌコーヴィチ大統領が市民のデモで失脚(いわゆるマイダン革命)、これに対し3月にはロシアがクリミア半島を併合、ウクライナ南東部のドンバス地方でも親ロシア派が実権を握って分離の動きを強めていた。
 番組では識者が対立の背景を、歴史、政治、宗教、経済など多角的に論じ、ソ連成立後のウクライナの苦難、反ソの民族主義運動も、写真と動画で伝えた。歴史家の山内昌之氏はこの時はウクライナの内戦の可能性を指摘したが、今回の侵攻はむしろウクライナを対ロシア愛国主義で結束させてしまったようだ。NHKの石川一洋解説委員は今回、この8年で東部でもウクライナ民族意識が強まり、現状はロシア帝国崩壊の「最後のうめき」だと述べる。

 4月3日の『NHKスペシャル ウクライナとロシア 決別の深層』は、マイダン革命以降8年間の対立激化の過程と、侵攻勃発後の両国市民の動向を伝えた。プーチンがウクライナの親欧米路線に抱いた危機感、彼の「論文」に現れた汎ロシア主義などから、行動の動機が明らかにされた。
 一方で、アメリカに留学していたウクライナ人が恋人と共に帰国し、闘いの最前線に支援物資を送る様子や、親ロシア感情が強かった東部で「今回は目が覚めましたよ。この戦争で身をもって感じたのです。ロシアの“兄弟愛”をね」と語る住民など、直接取材が困難な状況下での動画送信で、市民の肉声を伝えた。
 4月2日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く』は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ、ジャック・アタリ、イアン・ブレマーへのインタビューだが、ここでもこの戦争は世界史の新局面ではなく、冷戦の断末魔・最後の出来事だとの指摘がなされた。
 できれば今後、いわゆる「西側」民主主義国だけでなく、国連憲章順守で一致した約140か国の主張も是非番組で伝えてほしい。
 諸川麻衣
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
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2022年06月13日

【月刊メディア評・新聞】大阪カジノ底なしの公費負担に懸念=山田 明

 ロシアのウクライナ侵略は、世界秩序を揺るがしている。軍事「ブロック化」が進み、第2次大戦に至る歴史が繰り返されるかのようだ。今こそ、平和主義と外交の真価が問われる時だ。
 わが国ではウクライナ戦争に乗じて軍拡や核共有、改憲の動きが勢いを増している。過熱気味の戦争報道の影響もあり、懸念されるのが世論だ。「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」と考えている有権者が増えていることが、共同調査で明らかになった(朝日5月8日)。
 憲法9条に基づく日本の防衛の基本方針である「専守防衛」が揺らぎつつある。参院選の結果によっては、9条をはじめとした改憲策動が加速する恐れが強い。自民・公明の与党だけでなく、維新と国民から目が離せない。参院選は日本の針路を左右することになり、マスコミの姿勢も問われる。
 沖縄は本土復帰から50年になる。沖縄県は「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を発表した。復帰にあたり「基地のない平和の島」を求めたが、米軍基地の7割が現在も沖縄に集中する。防衛の「南西シフト」(毎日2日)、沖縄と琉球弧の軍事要塞化が急速に進む。建議書は「悲惨な沖縄戦を経験した県民の平和を希求する思いとは全く相容れるものではありません」と懸念を示す。ノ―モア沖縄戦を、本土の護憲運動と連帯させていきたい。
 足もとの地域の動きにも触れておく。大阪府・大阪市と長崎県は4月末、カジノを含む統合型リゾート(IR)整備計画の認定を国に申請した。コロナ禍のIRカジノ誘致に対し、地元からも反対の声があがる。  

朝日「このまま走る気なのか」、毎日「突き進んでは禍根を残す」、読売「収益に頼る地域振興は適切か」と、3紙は社説で疑問を投げかける。IRと言っても収益の8割はカジノによる。カジノへの批判は根強く、法が求める住民の合意形成には程遠い。読売社説はコロナ禍でカジノをめぐる状況が一変しており、政府や自治体は今一度、考え直すべきだと主張する。
大阪では人工島・夢洲の万博会場隣接地に、IRカジノが計画されている。万博の理念に反し、液状化や地盤沈下により、底なしの公費負担が懸念される。このまま突き進むと地元負担がさらに膨張し、将来に禍根を残すだけだ。
 山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
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2022年05月24日

【月刊マスコミ評・出版】国連と国際法をもっと重視すべき=荒屋敷 宏

 核兵器を保有するロシア軍がウクライナの首都キーウなどへの侵略戦争を開始した2022年2月24日を境にして、ニュース報道や世界情勢の見方がガラリと変化した。一部の「識者」はアメリカの外交専門家の意見を重視して冷戦の再来だと論じ、国連を軽視する意見を流布している。安倍元首相を中心とする極右集団は憲法9条をさかんに攻撃して日本における核兵器「共有」や「敵基地攻撃」を言い募っている。
 ロシア国営テレビのデマ宣伝、ロシア政府による反戦運動の弾圧、報道の規制・弾圧などの映像に接すると、鏡を見るかのように、自民党・公明党政権に不都合なニュースをやり過ごす日本の大手ジャーナリズムの危うさも映し出していることに気づく。
 例えば、日本のメディアには国際法学者がほとんど登場しない。辛うじて、『前衛』5月号に国際法学者の松井芳郎氏が「ウクライナ危機と国際法の到達点」と題するインタビューに答えているのは貴重である。松井氏によると、ロシアの「特別軍事作戦」なるものは国連憲章2条4項の武力行使禁止原則違反であり、不干渉原則違反、政治的独立の侵害、紛争の平和解決義務違反などに問われることを説明している。ロシアの蛮行は、岸田首相が挙げる国際人道法違反だけではないのである。
 国連は無力か?という質問について松井氏によると、国連の緊急特別総会の決議は法的拘束力がないとはいえ、法的な効果が生まれるという。日本が「敵基地攻撃」論を実行に移せばロシアと同じ立場になる危険性があり、「核共有」論についても核拡散防止条約(NPT)第2条の非核兵器国の義務に違反することもさりげなく指摘している。
 もう一つ、日本の雑誌では、ロシアの知識人がどのように考えているかの紹介が少ない。南ドイツ新聞や英ガーディアン紙などに掲載されたロシア人作家のウラジーミル・ソローキン氏(ドイツ在住)のエッセー「プーチン 過去からのモンスター」(松下隆志訳)が『文藝』2022年夏季号(河出書房新社)に緊急掲載された。プーチンを持ち上げる人々の姿も活写しながらイワン雷帝時代に築かれ、今なおロシア政治の基礎になっている「権力ピラミッド」を批判し、プーチン主義は破滅の運命にあると宣告している。「悪いのは誰か? 私たち、ロシア人だ」との言葉が痛々しい。 
 荒屋敷 宏
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
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2022年05月13日

【月刊マスコミ評・新聞】平手打ち騒動をどう考えるか=徳山義雄

 華やかなアカデミー賞授賞式で、前代未聞の騒ぎがあった。俳優のウィル・スミスさんが賞の発表役を務めていたコメディアンのクリス・ロックさんに、壇上でビンタを浴びせた。脱毛症のスミスさんの妻について、ロックさんが「(主人公の女性が髪をそるシーンがある)G・I・ジェーンの続編を楽しみにしている」と、軽率な言葉を発した直後に起こった。
 テレビ中継されており、たちどころに世界を駆けめぐった。身体的な特徴を揶揄することは認められないし、一方でそれに対する暴力も許されない。スミスさんは映画「ドリームプラン」で主演男優賞を受賞。スピーチで「自分のことなら我慢できたが、そうではなかった」という趣旨の発言をし、「アカデミーや賞の候補者全員に謝りたい」と涙を流しながら語った。
 「いかなる形の暴力も認められない」(主催者のツイッター)というのが大前提だろうが、日本では平手打ちをしたスミスさんに対し、SNSなどで、「よくやった」と賛同したり、同情的だったりする意見も目立つ。
  映画やテレビ番組、漫才などで、身体的特徴を「笑い」の材料にしてきた歴史がある。最近では東京五輪の開閉会式の演出を担っていたCMディレクターが、タレントの渡辺直美さんを「豚」に見立てる提案をしたことで辞任している。決して過去の話ではなく、身体的特徴を皮肉って笑いを取る「文化」が現在まで引き継がれている。
 在京紙をみわたすと、事実のみを伝える報道が目についたが、独自の切り口の記事もあった。たとえば、平手打ちから忠臣蔵を連想したとする朝日新聞「天声人語」(3月31日朝刊)は、「赤穂浪士は英雄的に描かれているが、それにずっと違和感があった」とし、「内匠頭には暴力を用いない方法で世に訴えてほしかった。腕力に訴えたスミスさんも同じである」と述べている。
 東京新聞(4月1日朝刊)は、「平手打ち 米世論二分」と題し、「スミスさんに対し低所得層ほど高い許容度を示す調査結果も出るなど、経済や教育格差も浮き彫りとなっている」とニューヨークの特派員電で伝えた。
 暴力や腕力に対するとらえ方は、ケースによっても異なり、さらに多様なコラムや論考を考える材料として読みたい。
 徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号



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2022年04月23日

【月刊マスコミ評・放送】 ローカル再編は放送文化の損失に=岩崎貞明

 総務省で、放送業界の地図を丸ごと塗り替えるような議論が進められている。
 同省の「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が2月にまとめた論点整理案によると、インターネットによる動画配信の普及などで放送を取り巻く環境の激変を受け、放送局の複数支配を規制する「マスメディア集中排除原則」を緩和して、複数の県で系列局が同じローカル番組を流したり、1社で各地の局を兼営したりすることを認める方針が打ち出されている。さらに、関東・近畿など以外では原則として県単位の放送エリアを見直して、地域ブロックや隣接県で同じ放送を可能にすることも案に盛り込まれている。
 こうした改革案は目新しい話ではなく、かねてから一部の民放キイ局などが要望してきたものだ。実際、上限規制はあるが複数の放送局を子会社に抱えることを可能にした「認定放送持株会社」制度も実施されているし、放送の多元性・多様性・地域性を保障する「マスメディア集中排除原則」も骨抜きの一途をたどっている。今回の議論もその延長線上にあるものだろう。
 しかし、ネット隆盛とマスメディア退潮の傾向に拍車がかかって、放送局の統合・再編が現実味を帯びてきた。ローカル局の経営悪化が予想される中、各局・各系列とも、生き残り策をひねり出そうとしているところだ。今日の放送界の地図は、政府が「一県四波化政策」を推進してきた結果だから、行政にも責任の一端があることは確かで、制度的な枠組みを見直す機運になってきたのも致し方ないのかもしれない。
 だが、系列局の統合・再編などによってローカル番組が放送されなくなったら、その地域の視聴者にとっては不利益変更以外の何物でもない。結局、放送というメディアサービスがますます視聴者から見放されるだけだろう。その弊害はキイ局にも必ず及ぶことになる。
 先月出版された、元朝日新聞論説委員・隈元信一氏の著書『探訪 ローカル番組の創り手たち』を読むと、全国各地のローカルテレビ局・ラジオ局・コミュニティFM局に、地域の人々や過去の歴史に誠実に向きあって良質な番組を作り続けている制作者があちこちに存在していることがわかる。ローカル局の整理統合で、もしも彼ら・彼女らの活躍の場が失われることになれば、それこそ日本の放送文化は取り返しのつかない損失を被ることになるだろう。
  岩崎貞明
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
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2022年04月18日

【メディウオッチ】取材の自由と「知る権利」を守るための共同アピール〜北海道新聞記者の逮捕・不起訴処分を受けて〜日本新聞労働組合連合(新聞労連)北海道新聞労働組合 日本ジャーナリスト会議(J C J)日本マスコミ文化情報労組会議(M I C)出版労連

  旭川医科大学で昨年6月22日、取材中の北海道新聞社旭川報道部の記者が建造物侵入容疑で現行犯逮捕(常人逮捕)された問題で、旭川区検は3月31日、逮捕された記者と取材を指揮していたキャップについて、いずれも不起訴処分としました。日本新聞労働組合連合、日本マスコミ文化情報労組会議(M I C)、メディア総合研究所、日本ジャーナリスト会議(J C J)、出版労連は、一連の経過と処分を受けて共同でアピールします。
 大学職員が取材記者を常人逮捕した行為、並びに警察が記者をすぐに釈放せず48時間にわたり拘束した行為は、いずれも過剰な対応だったと考えます。建造物侵入罪を理由に憲法が保障する報道の自由を侵害する行為であり、ひいては広く市民の基本的人権を脅かすことにつながりかねないと危惧します。

 逮捕された記者は、学長選考会議が開かれている公共の教育施設である大学構内に、取材目的で立ち入りました。キャップは、その選考会議を取材させるために、記者に構内立ち入りを命じました。この日の会議は、ハラスメントなど問題を引き起こした大学学長の解任の是非が議題でした。公共建造物である大学構内の建物での会議取材は、新聞記者として当然の業務です。メディアの側も大学による入構禁止の是非を争うこともなく、記者を立ち入らせたことは反省すべき点ですが、大学側による取材記者の常人逮捕は過剰な反応です。目立った実害が出ていない中で身柄拘束をして警察を呼んだ大学が、その行為の必要性や経緯について、市民に向けて十分に説明していません。学問の自由を制度的に保障する「大学の自治」の原則から解明が必要です。

 警察の対応も適切ではありませんでした。大学職員から引き渡された後、記者は身分を明かしました。記者が建物に立ち入った理由が取材であったことはその時点で分かったはずであり、48時間にわたり身柄を拘束する必要はなかったと考えます。このような警察の対応は、メディアを威嚇するものであり、記者の取材活動をいたずらに制限することにつながる危険性があります。
 それを踏まえると、検察の不起訴処分は当然の判断と言えます。取材目的で建物に立ち入った行為について、建造物侵入罪を規定した刑法130条が違法性阻却事由として掲げる「正当な理由」に当たると検察がみなした可能性が考えられます。今回の事案は、憲法21条が掲げる「表現の自由」に基づく「報道の自由」、そしてその精神に照らして「十分尊重に値する」とされてきた「取材の自由」を根拠に活動するメディアの活動を、大学と警察が力づくで抑えようとした不当な行為だったと考えます。

 建造物侵入罪の乱用により、メディアの取材が制限されたことで争った事例は過去にもあります。これらはメディアだけの立場、利益から問題視しているわけではありません。取材制限が続けば、結局は市民生活に大きな影響を及ぼすものと考えているからです。公権力など権力を持つ側は都合の悪い事柄については情報を秘匿しようとする傾向があり、取材など情報にアクセスすることに対する規制に対しては、メディアはもちろん、全ての市民が慎重に対応することが欠かせません。

 メディアを排除する動きは、普段当たり前に享受している「知る権利」の制限につながる可能性も踏まえて、メディア関係者の範囲を超えて幅広い議論が必要でしょう。取材の目的は、民主的な議論を進めるために必要な情報を多くの人に知らせることです。そうして集めた情報があってこそ、市民が権利を行使するための取捨選択の判断が可能となります。メディアは市民による権力監視のためのツールです。取材・報道においてマスメディアが特権を振りかざしていると批判されていますが、「知る権利」は過去、政治体制や社会が抑圧的で封建的だった時代に先達が勝ち取ってきた市民の権利であり、メディアの権利ではありません。「知る権利」に限らず、制限や規制を伴う事態が起きた際は、市民全体の人権に関係することとして、根拠を明確にさせるとともに、常に注意深く考えていくことが必要です。
 メディアの側にも丁寧な議論を重ねながら、日々の取材・報道の在り方を考えることが求められていることは言うまでもありませんが、「知る権利」の代行者としての責任において、常に根拠に根ざした行動を取るべきであり、そのような姿勢で真実を追求していく責務があると考えます。
2022年4月13日

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2022年04月07日

【月刊マスコミ評・新聞】「報道のタブー」をつくるな=白垣詔男

 長引く「コロナ禍」で、新聞などの報道用語にタブーが生まれているのではないか。
 代表的な単語は「ワクチン後遺症」。政府が声高に「コロナ禍を防ぐにはワクチンを早めに打てば安心」と叫び、マスコミがそれを伝え、国民の大多数も「ワクチンさえ打てばコロナ禍を防げる」といった考え方が浸透している。マスコミも、「3回目のワクチンはいつ打てるのか」「早くワクチンを打てないか」とワクチン接種を大前提に報道しているせいだろう。最近では、「5〜11歳にもワクチン接種を」と初めは半強制的だった政府の姿勢が、世論を気にして「努力目標」にトーンダウン。「ワクチン後遺症」を恐れているのでは。
 「ワクチン後遺症」については、接種後、主に心臓疾患などで亡くなる人が出ているのを政府は実数を公表せず、「ワクチン接種が直接の死因とは言えない」と、「真相」を隠しているのではないか。「ワクチン後遺症」を認めれば、これまでの政府方針に逆行すると「誤謬のない政府」を守ろうとしているように思えてならない。誰のための政治なのか、「国民の安全・安心」は真実をさらけ出すことからしか始まらない。
 もう一つの単語は「イベルメクチン」。ノーベル賞を受賞した大村智さんが開発、「コロナ禍」の予防、治療薬として北里大学を中心に、その効果を喧伝しているが、日本では「コロナ禍の予防・治療薬」として政府は認めていない。
 「ワクチン後遺症」と「イベルメクチン」について大阪府尼崎市のN医師がブログで毎日のように「真相」を訴えておられるが、N医師がテレビに招かれてその2つについて説明した部分は放送ではカットされたという。N医師は、自らが監修した「ワクチン後遺症」という映画を2月下旬、衆議院会館で上映した。事前に全国会議員に「上映会の通知」を出した。参加したのは議員や秘書60人だったが自民党からは誰も来なかったという。こうした情報は新聞では報じていない。
 「コロナ禍」は、これだけ国民に恐れられているのに、政府は「ワクチン接種」を推奨するのみ。それも、米国からのワクチン輸入時期が遅れがちでワクチン接種の当事者・自治体は振り回されている。これを「政府無策」と言わずに何と言うのだろうか。
 白垣詔男
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号

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2022年04月05日

【メディアウオッチ】ロシア、ウクライナ侵攻 核使用・世界大戦の危機も 便乗する安倍・維新発言 戦争を止めるが報道の使命・核心=徳山喜雄

                                
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 ロシアがウクライナに侵攻し、全面戦争に発展した。いまのところ、米国、EU諸国ともに自制しているが、核戦争や第3次世界大戦の危機も語られだした。極東における中国や北朝鮮の動きも目が離せない。
 戦時下における昔ながらの強度の報道規制がおこなわれ、史上初の原発への攻撃もあった。2001年のイスラム過激派による米国同時多発テロにも匹敵する衝撃が世界に走った。日本では「核共有(シェアリング)」について議論されることになった。しかし、ジャーナリズムの核心は、戦争をさせないこと、戦争が始まれば止めさせることではないか。報道の真価が問われる事態である。

極端な言論統制

 ロシア軍は2月24日、首都キエフをふくむ複数の都市で軍事施設などをミサイル攻撃し、地上部隊が国境を越えて北、東、南の3方面から侵攻。激しい戦闘による民間人の被害も拡大し、多数の難民がでている。
 振り返れば、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO(北大西洋条約機構)への加入を主張、ロシアの柔らかい脇腹に匕首(あいくち)を突きつけた。キューバ危機の再来のようなもので、これがロシアのプーチン大統領の逆鱗に触れたのか、核兵器の使用さえちらつかせての侵攻になった。
 ロシアで軍に関する「フェイクニュース(偽情報)」の流布や「信用を失墜させる」行為を禁止する法律が3月4日に成立。ウクライナでの軍事行動を「侵攻」「戦争」と呼ぶことも禁じられ、記者らに対して最高で禁錮15年の刑罰が科せられることになった。ロシアで活動する外国人記者にも適用され、英BBC放送や米CNNテレビなど欧米メディアはロシア国内での活動停止に追い込まれた。
 ロシアはBBCや米海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ、ドイツの公共放送など欧米メディアのウェブサイドを遮断。日本メディアのモスクワからの報道もほぼ見られなくなった。ロシア国民が利用していたフェイスブックやツイッターにも遮断などの規制が加えられている。
 報道にロシアの公式発表のみを引用するようにも命じており、極端な言論統制をしたソ連時代に戻ったかのようで、日本が戦前に軍への翼賛報道を強いたことも想起させる。これが21世紀の出来事であろうか。

初の原発攻撃

 ロシア軍は3月4日、南東部にある欧州最大級のザポロジエ原発を攻撃し、占拠した。火災が発生した同原発には6基の原子炉があり、爆発などが起これば、被害規模はチェルノブイリ原発事故の10倍以上になる可能性がある。核物質を扱う研究施設にも戦火はおよんだ。ウクライナ国内には稼働中の原発がほかに3カ所ある。
 前代未聞の正規軍による原発砲撃は核攻撃にも匹敵し、新たな戦争のかたちを見せつけた。第2次世界大戦後の欧州で最大の危機といっていいであろう。原発を有する日本の自治体からも懸念の声があがっており、これは見過ごせない。
 被爆国であり、東京電力福島第1原発の爆発事故を経験した日本の対応が迫られている。

核シェアリング

 プーチン大統領の核による恫喝を受けて、安倍晋三元首相はフジテレビ番組(2月27日)で、日米間の「核シェアリング」について議論すべきと述べた。NATO加盟国のうち、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコが米国の核兵器を自国の基地に配備する核シェアリングをしており、発射も管理も両国の合意によってなされる。この5カ国に戦闘機に搭載可能な核爆弾が約100発あるとされる。
 米国の核兵器を国内に配備し日米で運用する安倍氏の発言に対し、岸田文雄首相は「非核三原則を堅持するわが国の立場から考えて認められない」(2月28日参院予算委員会)と否定した。一方、日本維新の会の松井一郎代表は「おかしい。超党派で議論し、国民に判断してもらえればいい」(3月2日)と訴えた。
 与野党に見直し論が広がっているが、日本国内に核兵器を配備した場合、先制攻撃のターゲットになる。核シェアリングについての報道は、とりわけ慎重にならなければならない。
 「戦争をさせない。始まれば止める」というジャーナリズムのありようがいま、強く問われている。    
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
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2022年03月26日

【メディアウオッチ】『メディア無法地帯』化する大阪 読売もMBSも維新の広報機関 かつては反権力の牙城 関西ジャーナリズムどこへ=徳山喜雄

 大阪が、おかしい。ここでいう〈おかしい〉というのは、「おもろい」ではなく「へんだ」という意味だ。メディアをめぐる問題が、たてつづけに噴出している。
 昨年暮れ、読売新聞大阪本社が大阪府と「包括連携協定」を結んだ。発行部数が国内最大の読売が、行政と協力関係を結ぶというのは、ただごとではない。権力監視という報道の大きな役割を脇に置き、「広報紙」に成り下がったということか。

政治的公平を
完全に無視


 リベラルな番組作りで知られた大阪の毎日放送(MBS)が元日の2時間番組で、日本維新の会元代表の橋下徹氏と大阪市長の松井一郎代表、大阪府知事の吉村洋文副代表の3人を出演させ、お笑いタレントの司会で縦横に語らせた。だが、「政治的中立」の観点から問題視され、虫明洋一社長が社内調査を命じた。さらに、昨年12月に放送されたNHK大阪放送局制作のBS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」では、事実と異なる字幕が付けられ、物議をかもした。
 昨年末から今年初めにかけて、大阪を舞台に大きな問題が3回連続で起こり、関西は「メディア無法地帯」化しているという印象を全国に与えた。

イベント収入増
改憲へ弾みも


 読売と大阪府がパートナーとなる連携協定は、教育・人材育成、情報発信、安全・安心など8分野で連携を進め、地域活性化と府民サービスを図りたいという。大阪府は企業や大学などと包括連携協定を結んでいるが、報道機関と協定を結ぶのは初めてだ。
 その狙いはどこにあるのだろうか。読売は行政機関である大阪府と協定したのではなく、その実は政治勢力である日本維新の会と契りを結んだという見方が根強い。経済的には2025年大阪万博に関連する広告・イベント収入の増大が見込まれ、政治的には読売と維新が掲げる共通目標の憲法改正への弾みをつけることにもなる。
 一挙両得の巧みな企てであるが、民主主義への重大な挑戦とも受け止められる。
 放送に目を転じれば、毎日放送の変節には目を覆うばかりだ。くだんの番組は関西ローカルで、吉本興業所属のタレント東野幸治とブラックマヨネーズのボケ役の吉田敬が番組進行を務めた。
 問題となっている国会議員の文書通信交通滞在費などの話とともに、将来の総理大臣について一方的に吉村府知事を推すなど、放送の政治的公平性を考えるとありえない展開になった。
 3人の独断場は2時間のうち約40分間におよんだ。朝日新聞(1月27日朝刊)によると、放送後、視聴者から多数の苦情が寄せられ、MBSメディアホールディングスの梅本史郎社長が「維新3人をそろえるのはない。将来の総理は吉村さん、とかの展開はあり得ない」と発言。外部識者らからなる番組審議会でも「維新系の人しか出ていない」などとの意見が相次いだという。MBSは3月をメドに調査報告書を公表する予定だ。
 関西とりわけ大阪は、国会議員をはじめ自治体首長らが維新系で占められ、「維新王国」になっている。一定の政治勢力におもねるメディアの姿勢は、政党の広報機関の役割を果たすことになり、歪んだ世論形成をすることになりかねない。
 
単純ミスでない
NHK字幕問題


 NHKの字幕問題は根が深い。NHKは、東京五輪公式記録映画の総監督を務める河瀬直美氏の制作チームを追うなかで、スタッフの映画監督の島田角栄氏を取材。同氏が撮影した人物の映像に「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」との字幕を付けた。だが、これは島田氏に無断で付けられたもので、虚偽の内容だった。
 制作したNHK大阪放送局は「担当者の思い込み」と説明、前田晃伸会長も謝罪し、単なる制作上のミスとして終わらせようとしている。かつて、大阪放送局では2014年に放送した番組「クローズアップ現代 追跡出家詐欺=`狙われる宗教法人〜」で、詐欺にかかわるブローカーと紹介した男性が架空の人物だった。同様の過ちが繰り返されている。
 菅義偉政権(当時)が昨夏、コロナ禍をおして東京五輪を強行開催した。東京五輪に反対するデモ参加者が買収されていたとする放送は、単純ミスとして片づけるのには重大すぎる問題ではないか。公共放送と政治がかかわる底知れない闇が見え隠れする。
 三つのケースをみたが、いずれも「報道と権力の距離」とメディアの倫理が問われている。
大阪は朝日新聞や毎日新聞の発祥の地でもある。大阪読売は戦後、連載「戦争」などをものにした「黒田軍団」が勇名をはせた。黒田清氏が存命なら、今の大阪メディアの体たらくをどう思うだろう。反権力の牙城として興隆した関西ジャーナリズムは、何処にいったのか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
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