高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、大型補正予算を成立させ、新年度予算案を編成した。全国紙では財政運営に責任持て(朝日)、市場の信認を得る努力尽くせ(読売)、責任の視点欠く過去最大の予算案(日経)、「責任ある」はどこに行った(毎日)などと、予算案に問題を投げかけた。
わが国の財政は、国債発行を急膨張させ先進国有数の「軍拡国家」、「債務国家」の様相を強めている。高市政権の放漫財政により、長期金利が急上昇し、円安の為替相場で物価高に拍車がかかり、国民は生活難に苦しむ。マーケットからも金融不安の警告が発せられる。
当面する物価高対策、中長期的な財政政策の国会審議が求められるが、高市首相は唐突に、通常国会の早期に衆院解散を独断で決め政局は一気に流動化した。立憲民主と公明の衆院「新党結成」の動きも急浮上した。
今なぜ解散なのか。国民生活より党利党略、大義を欠いた権力の乱用、自己都合解散などと批判の声が上がる。一方、読売社説は衆院解散は首相の「専権事項」で、政策を軽視しているといった批判は当たらないと政権を擁護。高市政権の支持率は依然高いが、首相周辺の政治資金疑惑、自民党と旧統一教会との根深い癒着、さらに「台湾有事」発言以降の日中関係悪化など、課題は山積。国会での厳しい追及逃れのための衆院解散ではないのか。
高市政権は日本維新の会と閣外協力ながら「連立」を組んで成立した。連立合意書には、福祉を削り軍拡国家への政策が満載である。維新は与党となり、大阪でも地方自治を揺るがす動きが急浮上。任期途中で辞職して、解散後の衆院選に合わせて、大阪府市のダブル首長選を実施するという。国政レベルでも「副首都」構想が検討されているが、法案作成に先駆け大阪市廃止・特別区設置の「大阪都構想」への民意を問うという。3度目の住民投票に道を開くものだ。衆院選と同じく、これもやりたい放題の大義なきダブル選である。維新の地方議員の国民健康保険逃れが批判を浴びる中、「批判の矛先をかわそうとの魂胆も透ける」(朝日1月15日社説)。
国内外が揺れ動くなか、地に足をつけた報道を期待したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年1月25日号
2026年02月19日
2026年01月07日
【マスコミ評・出版】現場取材から「希望」が見える=荒屋敷 宏
『地平』1月号には@困窮ニッポン―物価高騰と排外主義、A軍拡からの脱出、Bソーシャリズム復活―連帯と自由のNYの特集3本が並ぶ。
@の東海林智氏(毎日新聞記者)の「排外主義と低賃金―労働者の連帯と分断」は、長年、労働と貧困・格差の現場を取材してきた記者の含蓄のある論考である。
参政党の街頭演説を聞いていた30代前半の男性の話を紹介している。「外国人にうまいことやられている感覚がある」と語る男性は参政党支持者ではなく、SNSがきっかけという。食事の配送の仕事を外国人に横取りされたと思い込み、今は隙間バイトと宅配で生計を立てているという。その男性が口にした「何かが変わる」という期待感が、参政党の街頭演説に足を運ぶ理由になっているらしいことに気づく。2009年のヘイトデモでも東海林氏は同じ出来事に出くわしたことを思い出す。
不安定雇用のもとで、10年以上前から生活を変える何かを求める心情が、マグマのようにたまっていたのではないかと考察している。低賃金で放置された非正規労働の現場の取材は重要だ。
『前衛』1月号に掲載された本吉真希氏(「しんぶん赤旗」日曜版記者)の「長生炭鉱遺骨収容―問われる歴史に向き合わない日本政府の態度」にも注目した。山口県宇部市の床波海岸にある長生炭鉱跡地は、1942年2月3日に大規模な水没事故(水非常)が発生し、朝鮮人136人、日本人47人の計183人が犠牲になった。
今年8月、民間のダイバーの協力により頭蓋骨や大腿骨などの遺骨が収容された。事故から83年も経過したが、日本政府は長生炭鉱の遺骨収容をしてこなかったのである。
水没事故の犠牲者は、アジア太平洋戦争における石炭増産の国策と人命軽視が原因だった。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」と韓国遺族会は、日本政府に遺骨の発掘と返還を求めたが、政府は「海底のため…発掘は困難」として戦争加害国の責任と誠意を示していない。戦前の日本政府が犯した朝鮮人の強制連行・強制労働の象徴としての長生炭鉱の歴史に、少なくない市民が向き合い、遺骨の収容と返還を願って募金をしているという。
「韓国の市民も長生炭鉱をいく度も訪れ、日本の市民との連帯を強めて」いる姿を本吉記者は現場取材で見てきたという。来年(2026年)2月には日本と世界からダイバー7人が長生炭鉱跡地で遺骨収集のために集まる。現場取材から希望が見える。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号
@の東海林智氏(毎日新聞記者)の「排外主義と低賃金―労働者の連帯と分断」は、長年、労働と貧困・格差の現場を取材してきた記者の含蓄のある論考である。
参政党の街頭演説を聞いていた30代前半の男性の話を紹介している。「外国人にうまいことやられている感覚がある」と語る男性は参政党支持者ではなく、SNSがきっかけという。食事の配送の仕事を外国人に横取りされたと思い込み、今は隙間バイトと宅配で生計を立てているという。その男性が口にした「何かが変わる」という期待感が、参政党の街頭演説に足を運ぶ理由になっているらしいことに気づく。2009年のヘイトデモでも東海林氏は同じ出来事に出くわしたことを思い出す。
不安定雇用のもとで、10年以上前から生活を変える何かを求める心情が、マグマのようにたまっていたのではないかと考察している。低賃金で放置された非正規労働の現場の取材は重要だ。
『前衛』1月号に掲載された本吉真希氏(「しんぶん赤旗」日曜版記者)の「長生炭鉱遺骨収容―問われる歴史に向き合わない日本政府の態度」にも注目した。山口県宇部市の床波海岸にある長生炭鉱跡地は、1942年2月3日に大規模な水没事故(水非常)が発生し、朝鮮人136人、日本人47人の計183人が犠牲になった。
今年8月、民間のダイバーの協力により頭蓋骨や大腿骨などの遺骨が収容された。事故から83年も経過したが、日本政府は長生炭鉱の遺骨収容をしてこなかったのである。
水没事故の犠牲者は、アジア太平洋戦争における石炭増産の国策と人命軽視が原因だった。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」と韓国遺族会は、日本政府に遺骨の発掘と返還を求めたが、政府は「海底のため…発掘は困難」として戦争加害国の責任と誠意を示していない。戦前の日本政府が犯した朝鮮人の強制連行・強制労働の象徴としての長生炭鉱の歴史に、少なくない市民が向き合い、遺骨の収容と返還を願って募金をしているという。
「韓国の市民も長生炭鉱をいく度も訪れ、日本の市民との連帯を強めて」いる姿を本吉記者は現場取材で見てきたという。来年(2026年)2月には日本と世界からダイバー7人が長生炭鉱跡地で遺骨収集のために集まる。現場取材から希望が見える。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号
2026年01月06日
【月刊マスコミ評・新聞】思わず目を疑った読売の社説=白垣詔男
高市早苗首相が11月26日、就任後初の国会党首討論に臨んだ。その中で、首相が衆院予算委で発言した「台湾有事について」ただしたのは立憲民主党の野田佳彦代表。日中関係の悪化を改善しなければという意思が感じられた。しかし、首相は自らの責任問題には触れず、予算委で質問した立憲民主党の岡田克也氏の質問内容が適切でなかったかのような自己弁護に終始した。
この党首討論について朝日、読売は翌27日朝刊社説に、毎日は28日朝刊社説で触れた。朝日は「誠実とは遠い首相答弁」の見出しで「自身に問題がなかったかのように開き直る。唐突に論点をずらし切り返す。都合の悪い質問は無視する―。一国の指導者としての責任の重さを同考えているのか」「(予算委で)まるで質問した方に原因があると言わんばかりだ」と痛烈に批判する。毎日も「責任転嫁では解決しない」の見出しで「(こじれた日中関係の)改善につながる道筋を示せなかった」「(予算委での)軽率な答弁で緊張を高めたことへの反省がうかがえない」と指摘した。
以上2紙はジャーナリズムからの言説で、国民の大多数が納得する内容だった。しかし、読売の社説は、目を疑う内容だった。「(予算委で岡田氏が首相に)答弁を執拗(しつよう)に迫った立民の責任を棚上げし、首相を責め立てる野田氏の姿勢は理解に苦しむ」「野田氏はまた、首相在任中の2012年に尖閣列島を国有化し、中国が猛反発したことに触れ、現状は『(当時の摩擦)より深刻ではないか』と述べた。…どちらが深刻か論じることに何の意味があるのか」と書く。
以前から「読売は自民党の広報紙か」と思っていたが、今回の社説を読んだとき、その感を確信するとともに、首相の言い分を分析するよりも、質問内容を問題視するとは。こうした「文章を書く論説委員の非常識さに、あぜんとした。
なお、首相が野田氏に、企業・団体献金の規制を「そんなことより定数の削減をやりましょうよ」と言ったことについて、朝日は社説で「『そんなこと』とは何事だろうか」と問題視していたが、他紙は、党首討論後に野田氏や斉藤鉄夫公明党代表が発言したことによって、翌28日の紙面から問題視。政治記者の感度に「?」が付く。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号
この党首討論について朝日、読売は翌27日朝刊社説に、毎日は28日朝刊社説で触れた。朝日は「誠実とは遠い首相答弁」の見出しで「自身に問題がなかったかのように開き直る。唐突に論点をずらし切り返す。都合の悪い質問は無視する―。一国の指導者としての責任の重さを同考えているのか」「(予算委で)まるで質問した方に原因があると言わんばかりだ」と痛烈に批判する。毎日も「責任転嫁では解決しない」の見出しで「(こじれた日中関係の)改善につながる道筋を示せなかった」「(予算委での)軽率な答弁で緊張を高めたことへの反省がうかがえない」と指摘した。
以上2紙はジャーナリズムからの言説で、国民の大多数が納得する内容だった。しかし、読売の社説は、目を疑う内容だった。「(予算委で岡田氏が首相に)答弁を執拗(しつよう)に迫った立民の責任を棚上げし、首相を責め立てる野田氏の姿勢は理解に苦しむ」「野田氏はまた、首相在任中の2012年に尖閣列島を国有化し、中国が猛反発したことに触れ、現状は『(当時の摩擦)より深刻ではないか』と述べた。…どちらが深刻か論じることに何の意味があるのか」と書く。
以前から「読売は自民党の広報紙か」と思っていたが、今回の社説を読んだとき、その感を確信するとともに、首相の言い分を分析するよりも、質問内容を問題視するとは。こうした「文章を書く論説委員の非常識さに、あぜんとした。
なお、首相が野田氏に、企業・団体献金の規制を「そんなことより定数の削減をやりましょうよ」と言ったことについて、朝日は社説で「『そんなこと』とは何事だろうか」と問題視していたが、他紙は、党首討論後に野田氏や斉藤鉄夫公明党代表が発言したことによって、翌28日の紙面から問題視。政治記者の感度に「?」が付く。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号
2025年12月13日
【月刊マスコミ評・放送】放送局の「ガバナンス」をめぐって=岩崎 貞明
読売新聞など各紙は10月23日、民間放送事業者のガバナンス(企業統治)のあり方を検討する総務省の有識者会議が「国の監督機能を強化する骨子案を示した」と報道した。不祥事で経営が悪化した事業者に対し、国が事案の報告を求める制度を新たに設ける、という。報道によると「業界の自主的な取り組みを尊重しつつ、行政として一定の関与ができる枠組みが必要と判断した」。
フジテレビではタレントによるアナウンサーへの性暴力事件の発覚を契機にCMの中止・出稿見送りが相次ぎ、経営が悪化して、いまだに回復しきれていない。有識者会議では「財務基盤の弱い地方局で同様の事案が起きれば、放送事業の継続が難しくなる恐れ」があることから、国の監督機能を強化するよう求める意見が出たようだ。
石破茂内閣当時の総務大臣は村上誠一郎氏で、自民党内ではリベラル派として知られた。フジテレビをめぐる一連の問題が発生した際にも、村上総務相は放送法の趣旨に則って「放送局の自律」を重視し、比較的慎重な対応を心がけていたように思われた。
村上総務相当時に発足したこの有識者会議ではあるが、これが高市早苗首相による自民・維新「連立」政権の下ではどうなるのか、目が離せない。何と言っても、総務相だった2016年、政治的公平性に問題ありと政府が認定した放送局を放送法違反として処分する「停波発言」で物議を醸した張本人が内閣総理大臣になったわけだ。「国の監督機能を強化」する方向性はやむを得ないのかもしれないが、放送内容への介入になればやはり「表現の自由」との軋轢が生じよう。
そもそも放送局の「ガバナンス」を強化するということは、局の経営が放送内容への関与を強めることになり、それは番組編集の自由への制約につながる。そこへさらに行政の関与がかぶさってくれば、制作現場への締め付けが一層厳しくなるのは必至だ。自由にモノが作れないからテレビを離れてネット配信に行きます、というクリエイターが一段と増加することになるかもしれない。
究極のところ、表現の自由との衝突が起きるのは放送の直接免許制がネックなのではないか。しかし有識者会議の議論を見る限り、先進諸国にならった独立行政機関による間接免許制の是非が論じられた形跡は見当たらない。まあ、高市政権下では無理な注文か。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号
フジテレビではタレントによるアナウンサーへの性暴力事件の発覚を契機にCMの中止・出稿見送りが相次ぎ、経営が悪化して、いまだに回復しきれていない。有識者会議では「財務基盤の弱い地方局で同様の事案が起きれば、放送事業の継続が難しくなる恐れ」があることから、国の監督機能を強化するよう求める意見が出たようだ。
石破茂内閣当時の総務大臣は村上誠一郎氏で、自民党内ではリベラル派として知られた。フジテレビをめぐる一連の問題が発生した際にも、村上総務相は放送法の趣旨に則って「放送局の自律」を重視し、比較的慎重な対応を心がけていたように思われた。
村上総務相当時に発足したこの有識者会議ではあるが、これが高市早苗首相による自民・維新「連立」政権の下ではどうなるのか、目が離せない。何と言っても、総務相だった2016年、政治的公平性に問題ありと政府が認定した放送局を放送法違反として処分する「停波発言」で物議を醸した張本人が内閣総理大臣になったわけだ。「国の監督機能を強化」する方向性はやむを得ないのかもしれないが、放送内容への介入になればやはり「表現の自由」との軋轢が生じよう。
そもそも放送局の「ガバナンス」を強化するということは、局の経営が放送内容への関与を強めることになり、それは番組編集の自由への制約につながる。そこへさらに行政の関与がかぶさってくれば、制作現場への締め付けが一層厳しくなるのは必至だ。自由にモノが作れないからテレビを離れてネット配信に行きます、というクリエイターが一段と増加することになるかもしれない。
究極のところ、表現の自由との衝突が起きるのは放送の直接免許制がネックなのではないか。しかし有識者会議の議論を見る限り、先進諸国にならった独立行政機関による間接免許制の是非が論じられた形跡は見当たらない。まあ、高市政権下では無理な注文か。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号
2025年12月09日
【月刊マスコミ評・新聞】首相に問うべきは自国の主権と人権=六光寺 弦
高市早苗首相は10月28日、トランプ米大統領との初の首脳会談で軍事力強化に取り組む決意を表明。「日米同盟の新たな黄金時代をともに作りたい」と述べた。
強調したのは安倍晋三元首相との近さ。「安倍氏に対する長きにわたる友情に感謝している」「大統領のダイナミックな外交について話を聞いていた」(読売新聞)と、大統領への賞賛も込めた。
「シンゾーの後継者」にトランプ大統領は満足しただろう。専用ヘリに同乗させて、米国の軍事力の象徴である原子力空母へ。そこでのやり取りは各紙とも詳しい。
「米軍兵らを前に演説していたトランプ氏は『この女性は勝者だ』と首相を壇上に招いた。首相の肩を抱き『日本の歴史上初の女性首相だ』と紹介。笑顔の首相は右拳を挙げて小躍りしながらぐるりと回り、拍手を浴びた」(朝日新聞)。
対米追随姿勢を、毎日新聞や東京新聞は社説で批判したが、問題はそれで済まない。トランプ大統領が移動に都心の米軍施設のヘリポートを使ったこと、高市首相もヘリに同乗したことには、日本の主権にかかわる重大な意味がある。
この施設は「米陸軍赤坂プレスセンター」。大統領は羽田空港から入国し、ヘリでこの場所に移動。車に乗り換え天皇との会見に向かった。米空母への移動にもこのヘリポートを使った。
地元の東京都港区は返還を求めているが米国は応じない。80年前の敗戦による軍事占領が続いている点で、沖縄の米軍基地と同じだ。日本の主権が及ばないそんな場所から、高市首相は大統領専用ヘリに同乗し米空母を訪ねた。
東京の空は沖縄の空につながっている。基地の過剰な負担の解消を求める沖縄の民意を分かっているのか―。首相に問うべきは、自国の主権と自国民の人権への意識のはずだ。
会談翌日、東京発行の新聞各紙の朝刊1面トップは、日米首脳会談でそろった。いくつもの紙面の見出しに「黄金時代」が踊っていることに驚いた。朝日新聞は「首相『日米 新黄金時代を』」、読売新聞も「日米同盟『黄金時代を』」が主見出し。産経、東京両紙も2本目の見出しに取った。
「黄金時代」は何を指すのか不明。勇ましいだけの空疎な言葉だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号
強調したのは安倍晋三元首相との近さ。「安倍氏に対する長きにわたる友情に感謝している」「大統領のダイナミックな外交について話を聞いていた」(読売新聞)と、大統領への賞賛も込めた。
「シンゾーの後継者」にトランプ大統領は満足しただろう。専用ヘリに同乗させて、米国の軍事力の象徴である原子力空母へ。そこでのやり取りは各紙とも詳しい。
「米軍兵らを前に演説していたトランプ氏は『この女性は勝者だ』と首相を壇上に招いた。首相の肩を抱き『日本の歴史上初の女性首相だ』と紹介。笑顔の首相は右拳を挙げて小躍りしながらぐるりと回り、拍手を浴びた」(朝日新聞)。
対米追随姿勢を、毎日新聞や東京新聞は社説で批判したが、問題はそれで済まない。トランプ大統領が移動に都心の米軍施設のヘリポートを使ったこと、高市首相もヘリに同乗したことには、日本の主権にかかわる重大な意味がある。
この施設は「米陸軍赤坂プレスセンター」。大統領は羽田空港から入国し、ヘリでこの場所に移動。車に乗り換え天皇との会見に向かった。米空母への移動にもこのヘリポートを使った。
地元の東京都港区は返還を求めているが米国は応じない。80年前の敗戦による軍事占領が続いている点で、沖縄の米軍基地と同じだ。日本の主権が及ばないそんな場所から、高市首相は大統領専用ヘリに同乗し米空母を訪ねた。
東京の空は沖縄の空につながっている。基地の過剰な負担の解消を求める沖縄の民意を分かっているのか―。首相に問うべきは、自国の主権と自国民の人権への意識のはずだ。
会談翌日、東京発行の新聞各紙の朝刊1面トップは、日米首脳会談でそろった。いくつもの紙面の見出しに「黄金時代」が踊っていることに驚いた。朝日新聞は「首相『日米 新黄金時代を』」、読売新聞も「日米同盟『黄金時代を』」が主見出し。産経、東京両紙も2本目の見出しに取った。
「黄金時代」は何を指すのか不明。勇ましいだけの空疎な言葉だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号
2025年12月01日
【月刊マスコミ評・新聞】公明離脱で政局、万博赤字で閉幕=山田 明
1年前と同じように、自民党の総裁選がマスコミを総動員して繰り広げられた。新しい総裁に高市早苗氏が選出されたが、「アベ政治」への回帰、さらなる右傾化、放漫財政が危惧される。公明が連立を離脱して政局は波乱含みに。
少数与党で、連立拡大に注目が集まる。高市氏は当初、国民民主に軸足を置いていたが、日本維新の会と連立協議を進める。維新は連立入りを見据えて「副首都構想」骨子案を公表。首都の法的規定もないのに「副首都」法案とは理解に苦しむが、首都機能のバックアップ体制構築などを掲げる。今回の法案には、大都市法による特別区設置を盛り込んだ。大阪市廃止、「大阪都」3度目の挑戦への布石ではないか。連立拡大の動きと「副首都」構想から目が離せない。
半年間にわたる大阪・関西万博へ。会場は大阪湾の人工島・夢洲で、開幕前からアクセスや公災害など危険が指摘されてきた。夢洲リスクが顕在化したが、なんとか閉幕にこぎつけた。開幕当初は低調な出足だったが、何でもありの集客優先戦略により、後半に盛り返してきた。万博運営費の黒字が喧伝されるが、巨額の会場建設費やインフラ整備など、万博収支全体は「大幅赤字」である。
夢洲万博は閉幕しても、終わりでない。海外パビリオン工事費の下請け業者への未払い問題は深刻化している。万博協会はもちろん、国や大阪府市の責任が問われる。閉幕後の解体工事も要注意だ。万博跡地開発が検討されているが、さらなる大阪市の財政負担、環境破壊が懸念される。
朝日新聞9月24日夕刊1面「リングの先にどんな未来が」掲載の写真は、今回の万博を象徴するものだ。酷暑のなか大勢の人が大屋根リングを歩いているが、その先には巨大クレーンが立ち並ぶ。万博会場に隣接した夢洲IRカジノの建設現場である。万博会場が軟弱地盤の埋立地・夢洲になったのは、維新がここにカジノ誘致をめざしたからだ。
万博とカジノを一体とした夢洲開発は、維新がツ―トップの大阪府市「成長戦略」として強行されてきた。夢洲カジノについては住民訴訟が大阪地裁で係争中である。マスコミもポスト万博の夢洲開発を注視してもらいたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年10月25日号
少数与党で、連立拡大に注目が集まる。高市氏は当初、国民民主に軸足を置いていたが、日本維新の会と連立協議を進める。維新は連立入りを見据えて「副首都構想」骨子案を公表。首都の法的規定もないのに「副首都」法案とは理解に苦しむが、首都機能のバックアップ体制構築などを掲げる。今回の法案には、大都市法による特別区設置を盛り込んだ。大阪市廃止、「大阪都」3度目の挑戦への布石ではないか。連立拡大の動きと「副首都」構想から目が離せない。
半年間にわたる大阪・関西万博へ。会場は大阪湾の人工島・夢洲で、開幕前からアクセスや公災害など危険が指摘されてきた。夢洲リスクが顕在化したが、なんとか閉幕にこぎつけた。開幕当初は低調な出足だったが、何でもありの集客優先戦略により、後半に盛り返してきた。万博運営費の黒字が喧伝されるが、巨額の会場建設費やインフラ整備など、万博収支全体は「大幅赤字」である。
夢洲万博は閉幕しても、終わりでない。海外パビリオン工事費の下請け業者への未払い問題は深刻化している。万博協会はもちろん、国や大阪府市の責任が問われる。閉幕後の解体工事も要注意だ。万博跡地開発が検討されているが、さらなる大阪市の財政負担、環境破壊が懸念される。
朝日新聞9月24日夕刊1面「リングの先にどんな未来が」掲載の写真は、今回の万博を象徴するものだ。酷暑のなか大勢の人が大屋根リングを歩いているが、その先には巨大クレーンが立ち並ぶ。万博会場に隣接した夢洲IRカジノの建設現場である。万博会場が軟弱地盤の埋立地・夢洲になったのは、維新がここにカジノ誘致をめざしたからだ。
万博とカジノを一体とした夢洲開発は、維新がツ―トップの大阪府市「成長戦略」として強行されてきた。夢洲カジノについては住民訴訟が大阪地裁で係争中である。マスコミもポスト万博の夢洲開発を注視してもらいたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年10月25日号
2025年10月03日
【月刊マスコミ評・新聞】各紙は「政権交代」一顧だにしない=白垣 詔男
石破茂首相が、9月7日、辞意を表明した。翌8日の朝刊各紙は、「大ニュース」として紙面を大展開した。しかし、そこには、当然のように、これからも少数与党の「自民党主導の政権」が前提で、各紙の社説でも「政権交代」はおろか、野党の動向については全く触れていなかった。
「国民不在の党内抗争」(朝日)、「けじめ遅れ混乱深めた」(毎日)、「自民再建へ正念場の総裁選に 連立拡大で政治の安定を図れ」(読売)、「政治停滞招いた責任は重い」(西日本)と、社説の見出しを見る限り、軸足は「自民」から1ミリも動かしていない。
読売に至っては「(通常国会で)政府・与党が野党の手柄争いに翻弄(ほんろう)された結果…政治は混乱した。/秋の臨時国会以降、そうした混乱を繰り返さないためには、連立の枠組みを拡大し、衆参で過半数を得ることが欠かせない」とまで踏み込む。「自民からの発想」以外、考えられないのだろう。自民が混迷を極めている状況を見せられても、読売は「自民支持」をあからさまに見せつける。
また、各紙とも、今回の参議院選で各党が掲げたスローガンを、どう実現するのかについては触れずじまいだ。与野党協議を進めて、国民に対する約束でもある「給付金支給」(自公)、「消費税などの減税」(各野党)を一刻も早く実現するのが、「国民本位の政治」、選挙で選ばれた議員の最初の仕事ではないか。
自民の迷走を横目で見ながら、しかし、自らの選挙スローガンの実現にも動かない野党各党について、何も言わないのは、「自民党の政局」以外、考えも及ばないからだろう。
そこに触れないのは、新聞各紙が、選挙スローガンは「叫ぶだけの空約束」と見ていることの証左ではないか。「選挙の際のスローガンと実の政治活動は別物」といった、建前的な考え方を、政治家と同様に新聞社もしていると言外に言っているようなものだ。
これでは、国民・有権者が選択した各党の選挙公約を、ないがしろにするもので、政治不信に拍車をかける。
政治は与党ばかりが進めるものではないのは、言うまでもない。しかし、8日の各社の社説を読む限り、野党をなおざりにしているとしか思えない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
「国民不在の党内抗争」(朝日)、「けじめ遅れ混乱深めた」(毎日)、「自民再建へ正念場の総裁選に 連立拡大で政治の安定を図れ」(読売)、「政治停滞招いた責任は重い」(西日本)と、社説の見出しを見る限り、軸足は「自民」から1ミリも動かしていない。
読売に至っては「(通常国会で)政府・与党が野党の手柄争いに翻弄(ほんろう)された結果…政治は混乱した。/秋の臨時国会以降、そうした混乱を繰り返さないためには、連立の枠組みを拡大し、衆参で過半数を得ることが欠かせない」とまで踏み込む。「自民からの発想」以外、考えられないのだろう。自民が混迷を極めている状況を見せられても、読売は「自民支持」をあからさまに見せつける。
また、各紙とも、今回の参議院選で各党が掲げたスローガンを、どう実現するのかについては触れずじまいだ。与野党協議を進めて、国民に対する約束でもある「給付金支給」(自公)、「消費税などの減税」(各野党)を一刻も早く実現するのが、「国民本位の政治」、選挙で選ばれた議員の最初の仕事ではないか。
自民の迷走を横目で見ながら、しかし、自らの選挙スローガンの実現にも動かない野党各党について、何も言わないのは、「自民党の政局」以外、考えも及ばないからだろう。
そこに触れないのは、新聞各紙が、選挙スローガンは「叫ぶだけの空約束」と見ていることの証左ではないか。「選挙の際のスローガンと実の政治活動は別物」といった、建前的な考え方を、政治家と同様に新聞社もしていると言外に言っているようなものだ。
これでは、国民・有権者が選択した各党の選挙公約を、ないがしろにするもので、政治不信に拍車をかける。
政治は与党ばかりが進めるものではないのは、言うまでもない。しかし、8日の各社の社説を読む限り、野党をなおざりにしているとしか思えない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
2025年09月04日
【月刊マスコミ評・出版】人権侵害コラムと不再戦の落差=荒屋敷 宏
高山正之氏が連載「変見自在」(『週刊新潮』7月31日号)で「創氏改名2・0」と題して徐浩予氏や東北大教授の明日香壽川氏を差別し、作家の深沢潮氏や俳優の水原希子氏に対して「日本名で日本人をあたかも内部告発するような言い方」「日本名を使うな」と恫喝して、外国にルーツを持つ人々を差別し、人権を侵害する文章を発表した。
新潮社からデビューした深沢潮氏は8月4日、都内で記者会見し、同社に謝罪を求めた。第一に新潮社がコラムの問題点を総括して差別と人権侵害について文書で謝罪すること、第二に当該コラムに反論し、批判をする最低8ページ分のスペースを提供することを要求した。新潮社は同社ホームページに「深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております。深くお詫び申し上げます」との「お詫び」を発表し、「今後は執筆の依頼をする時点および原稿を頂戴した時点で、必ず世論の変化や社会の要請について筆者に詳しくお伝えしていく所存」とした。
高山コラム批判は、投稿サイトのX(旧ツイッター)に詳しい。新潮社の「お詫び」は、深沢氏以外に謝罪せず、高山氏の名前を出さず、「人権デューデリジェンス」という用語で企業のリスク回避の努力目標を述べたにすぎない。コラムを執筆した高山氏は反省していない。かろうじて、当該コラムのロゴデザインを手がけた故・平野甲賀氏の遺族の抗議を受けて、8月14・21日夏季特大号からロゴが変更になっただけである。
『月刊Hanada』『月刊WiLL』など極右雑誌に等しいコラムを長年掲載し続けている『週刊新潮』は「世論の変化や社会の要請」を一体どう考えているのだろうか? 極右政党の国政選挙での躍進を踏まえているとでもいうのだろうか。
『地平』9月号の特集「東アジアの不再戦のために」が優れている。河野洋平氏へのインタビュー、加治宏基氏、岡本厚氏、文京洙氏らの論考には、中国や北朝鮮の最近の動向が事実にもとづく分析で示され、具体的な提案も示されている。新潮社と地平社の雑誌を比較するのもおこがましいが、かつて、朝鮮の人々に「創氏改名」と「日本語」を強制し、連行し、徴用し、徴兵した侵略戦争の歴史を踏まえているかどうかの違いもあるだろう。戦後80年の8月は、不再戦のジャーナリズムの決意を問いかけている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
新潮社からデビューした深沢潮氏は8月4日、都内で記者会見し、同社に謝罪を求めた。第一に新潮社がコラムの問題点を総括して差別と人権侵害について文書で謝罪すること、第二に当該コラムに反論し、批判をする最低8ページ分のスペースを提供することを要求した。新潮社は同社ホームページに「深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております。深くお詫び申し上げます」との「お詫び」を発表し、「今後は執筆の依頼をする時点および原稿を頂戴した時点で、必ず世論の変化や社会の要請について筆者に詳しくお伝えしていく所存」とした。
高山コラム批判は、投稿サイトのX(旧ツイッター)に詳しい。新潮社の「お詫び」は、深沢氏以外に謝罪せず、高山氏の名前を出さず、「人権デューデリジェンス」という用語で企業のリスク回避の努力目標を述べたにすぎない。コラムを執筆した高山氏は反省していない。かろうじて、当該コラムのロゴデザインを手がけた故・平野甲賀氏の遺族の抗議を受けて、8月14・21日夏季特大号からロゴが変更になっただけである。
『月刊Hanada』『月刊WiLL』など極右雑誌に等しいコラムを長年掲載し続けている『週刊新潮』は「世論の変化や社会の要請」を一体どう考えているのだろうか? 極右政党の国政選挙での躍進を踏まえているとでもいうのだろうか。
『地平』9月号の特集「東アジアの不再戦のために」が優れている。河野洋平氏へのインタビュー、加治宏基氏、岡本厚氏、文京洙氏らの論考には、中国や北朝鮮の最近の動向が事実にもとづく分析で示され、具体的な提案も示されている。新潮社と地平社の雑誌を比較するのもおこがましいが、かつて、朝鮮の人々に「創氏改名」と「日本語」を強制し、連行し、徴用し、徴兵した侵略戦争の歴史を踏まえているかどうかの違いもあるだろう。戦後80年の8月は、不再戦のジャーナリズムの決意を問いかけている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
2025年09月02日
【月刊マスコミ評・新聞】「選別と排除」足元から問い直せ=六光寺 弦
「日本人ファースト」を掲げて差別と分断をあおる参政党は、気に入らないメディアや記者を露骨に選別し排除する。
7月22日の記者会見で、神奈川新聞の石橋学記者を排除した。事前登録がないことを理由にしていたが、2日後には主張を変えた。石橋記者が街頭演説の妨害に加担したと決めつけ、会見の混乱を防ぐ必要があったとした。
石橋記者は8月1日の会見は出席できたが、参政党の神谷宗幣代表は前回の排除への謝罪を拒否。その主張に虚偽があることを石橋記者が問い始めたところで、党スタッフが「1人1問」を理由に質問を制止した。その後も神谷代表は石橋記者を一方的に批判し、反論は許さなかった。
参政党は、会見の場では党の指示に従うことを参加条件にしている。会見場で従わなければ退場させる。気に入らない記者の発言は容易に封じることができる。事実上の「選別と排除」だ。
石橋記者の排除は、沖縄タイムスや琉球新報がいち早く報じた。新聞労連やJCJは抗議の特別決議や声明を発している。「沈黙」は「承認」と受け取られる。石橋記者や神奈川新聞を孤立させないために、新聞界がこぞって声を挙げなければならない。だが新聞協会は8月に入っても「沈黙」を続けた。
「選別と排除」を巡っては新聞界で看過できないことが起きている。
東京地裁は6月30日、5年前の鹿児島県知事の就任記者会見を巡り、地元記者クラブがフリージャーナリストの寺澤有、三宅勝久両氏を排除したことを是認する判決を言い渡した。
寺澤氏らは記者クラブ側の記者たちに立ちふさがれ、会見場に入ることを“実力”で阻止された。記者クラブ幹事社だった共同通信社側に賠償を求め提訴していた。
東京地裁は、会見は記者クラブの主催だと認定。事前登録がないことを理由に寺澤氏らを排除したことに対して、目的は会見の円滑な運営と混乱の防止だと認めて、違法性はないとの判断を示した。
手続き論はともかく、実績豊富なジャーナリストが記者クラブによって記者会見から排除された事実に変わりはない。
「選別と排除」を許さない−。新聞界は足元から問い直すべきだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
7月22日の記者会見で、神奈川新聞の石橋学記者を排除した。事前登録がないことを理由にしていたが、2日後には主張を変えた。石橋記者が街頭演説の妨害に加担したと決めつけ、会見の混乱を防ぐ必要があったとした。
石橋記者は8月1日の会見は出席できたが、参政党の神谷宗幣代表は前回の排除への謝罪を拒否。その主張に虚偽があることを石橋記者が問い始めたところで、党スタッフが「1人1問」を理由に質問を制止した。その後も神谷代表は石橋記者を一方的に批判し、反論は許さなかった。
参政党は、会見の場では党の指示に従うことを参加条件にしている。会見場で従わなければ退場させる。気に入らない記者の発言は容易に封じることができる。事実上の「選別と排除」だ。
石橋記者の排除は、沖縄タイムスや琉球新報がいち早く報じた。新聞労連やJCJは抗議の特別決議や声明を発している。「沈黙」は「承認」と受け取られる。石橋記者や神奈川新聞を孤立させないために、新聞界がこぞって声を挙げなければならない。だが新聞協会は8月に入っても「沈黙」を続けた。
「選別と排除」を巡っては新聞界で看過できないことが起きている。
東京地裁は6月30日、5年前の鹿児島県知事の就任記者会見を巡り、地元記者クラブがフリージャーナリストの寺澤有、三宅勝久両氏を排除したことを是認する判決を言い渡した。
寺澤氏らは記者クラブ側の記者たちに立ちふさがれ、会見場に入ることを“実力”で阻止された。記者クラブ幹事社だった共同通信社側に賠償を求め提訴していた。
東京地裁は、会見は記者クラブの主催だと認定。事前登録がないことを理由に寺澤氏らを排除したことに対して、目的は会見の円滑な運営と混乱の防止だと認めて、違法性はないとの判断を示した。
手続き論はともかく、実績豊富なジャーナリストが記者クラブによって記者会見から排除された事実に変わりはない。
「選別と排除」を許さない−。新聞界は足元から問い直すべきだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
2025年08月17日
【月刊マスコミ評・新聞】「極右」参政党から目が離せぬ=山田 明
気候危機を実感させる連日の猛暑の下で、参院選が始まった。「日本は戦後80年の節目を迎え、世界はトランプ米政権による混迷の中にある。主権者たる国民が、これからの政治を選びとる重要な機会となる」(朝日7月3日社説)。
世界は強権的なトランプ関税と軍拡圧力に振り回されている。トランプ政権からの圧力により、NATOは2035年までに防衛費をGDP比5%に引き上げる目標に合意。米国はアジアの同盟国にも、NATOと同水準まで防衛費を引き上げるよう求めている。日本の防衛費をめぐる議論に影響するのは必至だ(毎日6月26日)。
さらなる軍拡予算、軍事研究を加速する動きも懸念される。日本学術会議を特殊法人に改組する法律が成立した。学術会議改組というより、解体するもので、学問の自由を脅かすものだ。戦前の政府による学問・思想弾圧を想起させる。
読売6月13日社説は、「長年にわたって軍事目的の研究に反対し、軍民共有(デュアルユース)の研究にもブレーキをかけてきた」と学術会議を批判し、「法人化を機に生まれ変われ」と主張。自公とともに法案に賛成した日本維新の会は、法案審議の過程で学術会議に根拠のない中傷を繰り返し、軍事研究への協力を強要した。維新は、自公と医療費年4兆円削減、11万床の病床削減を進めようとしている。
与党にすり寄り、軍拡・社会保障切り捨てを煽る維新や国民民主党、さらに支持率急伸の参政党から目が離せない。参政党はトランプまがいの「日本人ファースト」を叫ぶ。外国人を敵視する排外主義、女性蔑視、明治憲法復活のような復古的な憲法構想案なるものをまとめている。欧米の「極右」化の日本版で、危険きわまりない。メディアは参政党の主張を紹介するが、正面からの批判は手控えている。選挙報道を含め、メディアのあり方が鋭く問われている。
今回の参院選は、衆院のように自公が過半数割れするかが最大の焦点だ。既成政党離れが加速する中で、多党化する野党の勢力図にも注目が集まる。
今年は戦後80年。戦前回帰が強まる中で、自国が戦場になった「鉄の暴風」沖縄戦から学ぶことは多い。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
世界は強権的なトランプ関税と軍拡圧力に振り回されている。トランプ政権からの圧力により、NATOは2035年までに防衛費をGDP比5%に引き上げる目標に合意。米国はアジアの同盟国にも、NATOと同水準まで防衛費を引き上げるよう求めている。日本の防衛費をめぐる議論に影響するのは必至だ(毎日6月26日)。
さらなる軍拡予算、軍事研究を加速する動きも懸念される。日本学術会議を特殊法人に改組する法律が成立した。学術会議改組というより、解体するもので、学問の自由を脅かすものだ。戦前の政府による学問・思想弾圧を想起させる。
読売6月13日社説は、「長年にわたって軍事目的の研究に反対し、軍民共有(デュアルユース)の研究にもブレーキをかけてきた」と学術会議を批判し、「法人化を機に生まれ変われ」と主張。自公とともに法案に賛成した日本維新の会は、法案審議の過程で学術会議に根拠のない中傷を繰り返し、軍事研究への協力を強要した。維新は、自公と医療費年4兆円削減、11万床の病床削減を進めようとしている。
与党にすり寄り、軍拡・社会保障切り捨てを煽る維新や国民民主党、さらに支持率急伸の参政党から目が離せない。参政党はトランプまがいの「日本人ファースト」を叫ぶ。外国人を敵視する排外主義、女性蔑視、明治憲法復活のような復古的な憲法構想案なるものをまとめている。欧米の「極右」化の日本版で、危険きわまりない。メディアは参政党の主張を紹介するが、正面からの批判は手控えている。選挙報道を含め、メディアのあり方が鋭く問われている。
今回の参院選は、衆院のように自公が過半数割れするかが最大の焦点だ。既成政党離れが加速する中で、多党化する野党の勢力図にも注目が集まる。
今年は戦後80年。戦前回帰が強まる中で、自国が戦場になった「鉄の暴風」沖縄戦から学ぶことは多い。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
2025年08月07日
【月刊マスコミ評・放送】自己検証番組はどうあるべきか=岩崎 貞明
フジテレビが一連の問題を自己検証した番組が、7月6日に放送された。当初は第三者委員会の調査報告書が公表された直後にも放送されるのでは、との見通しもあったが、投資ファンドによる株主提案などの騒動が巻き起こる中で会社の体制固めが優先されたせいか、結局は株主総会終了後の7月にずれこんだものとみられる。日曜日の午前中、レギュラー番組を休止して、105分間CMなしの特番だった。
印象として、第三者委員会の報告を忠実にたどって、関係者への取材で証言を集めて、有識者のコメントをはさみながら構成したもので、大きな新事実の発掘もなく、物足りなさを覚えた視聴者も多かったに違いない。とくに、番組冒頭に清水賢治社長が出てきてお詫びの言葉から番組が始まったあたりは、『放送レポート』でのインタビューで報道局編集長が「そういう番組にはしたくない」と言っていた番組になってしまった感が拭えない。
自己検証番組の例として忘れられないのは、かつてテレビ朝日『ザ・スクープ』で「やらせ」の疑いが浮上した際に、それを検証した番組だ。
その「やらせ」疑惑とは、1993年に放送された、中国で死刑囚から臓器移植手術が行われているというテーマで、全編隠し撮り映像によるものだった。「やらせ」の内容は、時間を前後させて意図的に編集したことや、証言者がインタビューに応じなかったために通訳に刑務官の服を着せて覆面インタビューを撮影したことなどだった。94年に中国政府からテレビ朝日に対して内々に猛抗議があり、それをかぎつけた週刊誌が報じて一大スキャンダルになるという段階で、同番組のスタッフが自己検証番組の制作を訴え出た。
番組スタッフが考えた検証スタイルは、外部の第三者に関係者を取材してもらう、という手法だった。第三者として指名されたのは、元TBS報道局長で制作会社社長を務めていた吉永春子さん(故人)だった。『魔の731部隊』など優れたドキュメンタリー制作者として知られる吉永さんは、番組に企画を持ち込んで取材・制作した制作会社のスタッフや、テレビ朝日のプロデューサーなど関係者に徹底インタビュー。最後に吉永さんが番組のインタビューに答えるという形で、事実上の第三者的な検証を試みたのだ。結果、『ザ・スクープ』は番組打ち切りを免れて続行した。
外部の視点を入れる検証の重要性は、今日も変わらないのではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
印象として、第三者委員会の報告を忠実にたどって、関係者への取材で証言を集めて、有識者のコメントをはさみながら構成したもので、大きな新事実の発掘もなく、物足りなさを覚えた視聴者も多かったに違いない。とくに、番組冒頭に清水賢治社長が出てきてお詫びの言葉から番組が始まったあたりは、『放送レポート』でのインタビューで報道局編集長が「そういう番組にはしたくない」と言っていた番組になってしまった感が拭えない。
自己検証番組の例として忘れられないのは、かつてテレビ朝日『ザ・スクープ』で「やらせ」の疑いが浮上した際に、それを検証した番組だ。
その「やらせ」疑惑とは、1993年に放送された、中国で死刑囚から臓器移植手術が行われているというテーマで、全編隠し撮り映像によるものだった。「やらせ」の内容は、時間を前後させて意図的に編集したことや、証言者がインタビューに応じなかったために通訳に刑務官の服を着せて覆面インタビューを撮影したことなどだった。94年に中国政府からテレビ朝日に対して内々に猛抗議があり、それをかぎつけた週刊誌が報じて一大スキャンダルになるという段階で、同番組のスタッフが自己検証番組の制作を訴え出た。
番組スタッフが考えた検証スタイルは、外部の第三者に関係者を取材してもらう、という手法だった。第三者として指名されたのは、元TBS報道局長で制作会社社長を務めていた吉永春子さん(故人)だった。『魔の731部隊』など優れたドキュメンタリー制作者として知られる吉永さんは、番組に企画を持ち込んで取材・制作した制作会社のスタッフや、テレビ朝日のプロデューサーなど関係者に徹底インタビュー。最後に吉永さんが番組のインタビューに答えるという形で、事実上の第三者的な検証を試みたのだ。結果、『ザ・スクープ』は番組打ち切りを免れて続行した。
外部の視点を入れる検証の重要性は、今日も変わらないのではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
2025年07月02日
【月刊マスコミ評・出版】絶滅か、それとも、社会を動かすのか?=荒屋敷 宏
雑誌『プレジデント』7月4日号に経済学者の成田悠輔氏インタビュー「もうすぐ絶滅するという紙の雑誌について」が掲載されている。1997年に1兆5644億円あった雑誌市場の販売額は2022年に5000億円を割り、雑誌業界は「末期の炭鉱」「緩慢な自殺」だという。
成田氏は、「今世紀はすべての人間が発信者であり、あらゆる人間から受信する聴衆でもある、水平化し相互化した世界」であり、「偉い肩書のついたスーツの有識者がテレビや新聞で仰々しく語る見解より、SNSの匿名アカウントの暴論や陰謀論のほうが影響力」があり、「新聞や雑誌は化石おじさん的」と語る。
「情報の受信者を対等な知能を持った相手として扱ってコミュニケーションすることが必要です。受け手を恐れることが大事です」という成田氏は今でも毎年数十万円くらいを雑誌に使うという。「大好き」だからこそ「無策に沈んで海の藻屑と消えようとしている雑誌界の現状が大嫌い」なのだそうだ。成田氏にも雑誌復活のアイデアがなく、雑誌を石や金属に刻み、遺跡になれという極論を主張している。
一方、『地平』7月号のジャーナリスト・思想家の会田弘継氏「雑誌と政変 論壇誌が社会を動かす」が対照的な論陣を張っている。『地平』創刊1年を祝う論考だが、米国で今年1月、オンライン版の論壇誌「コモンプレイス」がスタートしたことに触れつつ、「政治再編プロセス」の中の日本でも新雑誌(論壇誌)がもっと現れてもいいはずだという。米国の論壇誌が政変に絡んできた歴史をひもときながら、オンライン版の論壇誌が米国で次々に出現している現状に日本も学べという。
興味深いのは『アステイオン』102号(6月2日発行)の武田徹氏「SNS時代のジャーナリズム」である。鶴見俊輔氏から「ジャーナリズムの思想」を、玉木明氏から「ジャーナリズムの科学」を学ぶ温故知新の論文である。SNSと動画配信サービス上でマスメディアを激しく敵視する言説が拡散されている状況の打開を図りたいという。詳しく紹介できないのが残念だが、武田氏は、マスコミは嘘ばかりと決めつけるネットユーザーに対して「マスコミは間違うこともあるが、間違いを正そうとするものでもある」ことを態度で示し続けてこそ、ジャーナリズムは信頼性を回復できるのではないか」という。
雑誌本来の役割に立ち返ることが求められているようだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
成田氏は、「今世紀はすべての人間が発信者であり、あらゆる人間から受信する聴衆でもある、水平化し相互化した世界」であり、「偉い肩書のついたスーツの有識者がテレビや新聞で仰々しく語る見解より、SNSの匿名アカウントの暴論や陰謀論のほうが影響力」があり、「新聞や雑誌は化石おじさん的」と語る。
「情報の受信者を対等な知能を持った相手として扱ってコミュニケーションすることが必要です。受け手を恐れることが大事です」という成田氏は今でも毎年数十万円くらいを雑誌に使うという。「大好き」だからこそ「無策に沈んで海の藻屑と消えようとしている雑誌界の現状が大嫌い」なのだそうだ。成田氏にも雑誌復活のアイデアがなく、雑誌を石や金属に刻み、遺跡になれという極論を主張している。
一方、『地平』7月号のジャーナリスト・思想家の会田弘継氏「雑誌と政変 論壇誌が社会を動かす」が対照的な論陣を張っている。『地平』創刊1年を祝う論考だが、米国で今年1月、オンライン版の論壇誌「コモンプレイス」がスタートしたことに触れつつ、「政治再編プロセス」の中の日本でも新雑誌(論壇誌)がもっと現れてもいいはずだという。米国の論壇誌が政変に絡んできた歴史をひもときながら、オンライン版の論壇誌が米国で次々に出現している現状に日本も学べという。
興味深いのは『アステイオン』102号(6月2日発行)の武田徹氏「SNS時代のジャーナリズム」である。鶴見俊輔氏から「ジャーナリズムの思想」を、玉木明氏から「ジャーナリズムの科学」を学ぶ温故知新の論文である。SNSと動画配信サービス上でマスメディアを激しく敵視する言説が拡散されている状況の打開を図りたいという。詳しく紹介できないのが残念だが、武田氏は、マスコミは嘘ばかりと決めつけるネットユーザーに対して「マスコミは間違うこともあるが、間違いを正そうとするものでもある」ことを態度で示し続けてこそ、ジャーナリズムは信頼性を回復できるのではないか」という。
雑誌本来の役割に立ち返ることが求められているようだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
2025年07月01日
【月刊マスコミ評・新聞】原発の事故責任を問わない司法とは?=白垣 詔男
東京電力福島第1原発事故で、元役員らの賠償責任を否定する判決を6月6日、東京高裁が出した。1審判決を取り消した。東電の株主約40人が旧経営陣ら5人に対し、23兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟で、原告側は逆転敗訴≠オた。株主の1人の女性遺族が判決後、記者会見で涙ながらに「悔しさ」を訴えていたのを見て、胸が痛んだ。
この判決について各紙は、朝刊社説で取り上げた。
読売、産経を除く朝刊各紙は「甘い判断、問わぬ理不尽」(7日・朝日)、「不問にできぬ事故責任」(10日・毎日)、「過酷事故の責任どこに」(12日・西日本)の見出しで司法判断を断罪≠オている。
「司法は取り返しのつかない被害を正面から受け止めているのか。疑問を禁じ得ない」(朝日)、「人々の暮らしや故郷を壊した社会的責任を不問にすることはできない」(毎日)、「すぐに原発の運転を止め、事故防止策を取らねばならないほど差し迫った事態でなければ、対策を先送りして事故が起きても責任は問われない―。国民感覚と懸け離れた司法判断と言わざるを得ない」(西日本)―国民の意識に沿った、もっともな主張だ。
これに対して読売は「賠償13兆円が一転してゼロに」(7日)の見出しで「原子力発電所の事故は仕方なかったでは済まない」と「自己主張」するだけで「司法批判」は何もなく、「巨大な地震と津波は、人知を超えていたという評価だろう」と人ごとのように書いている。産経は「原発事故の防止へ全力を」(10日)の見出し、「一転して旧経営陣の法的責任を認めなかった。妥当な判決である」。
最近の司法(それも上級審)は、原発など政府が推進する政策について、原告の主張を排除して、国の主張に沿った判断が目につく。「三権分立」が名ばかりの司法に成り下がってしまっていると感じることが多い。「国民感情」を全く考えないで、「四角四面の法解釈」をよりどころに、判決を出す審理が目につく。今回の司法判断が、その典型だろう。
裁判官は、法律とは不即不離と考えられる「国民感情」に寄り添わなければ、ぎすぎすした社会の風潮は改善しないのではないかとさえ考えてしまう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
この判決について各紙は、朝刊社説で取り上げた。
読売、産経を除く朝刊各紙は「甘い判断、問わぬ理不尽」(7日・朝日)、「不問にできぬ事故責任」(10日・毎日)、「過酷事故の責任どこに」(12日・西日本)の見出しで司法判断を断罪≠オている。
「司法は取り返しのつかない被害を正面から受け止めているのか。疑問を禁じ得ない」(朝日)、「人々の暮らしや故郷を壊した社会的責任を不問にすることはできない」(毎日)、「すぐに原発の運転を止め、事故防止策を取らねばならないほど差し迫った事態でなければ、対策を先送りして事故が起きても責任は問われない―。国民感覚と懸け離れた司法判断と言わざるを得ない」(西日本)―国民の意識に沿った、もっともな主張だ。
これに対して読売は「賠償13兆円が一転してゼロに」(7日)の見出しで「原子力発電所の事故は仕方なかったでは済まない」と「自己主張」するだけで「司法批判」は何もなく、「巨大な地震と津波は、人知を超えていたという評価だろう」と人ごとのように書いている。産経は「原発事故の防止へ全力を」(10日)の見出し、「一転して旧経営陣の法的責任を認めなかった。妥当な判決である」。
最近の司法(それも上級審)は、原発など政府が推進する政策について、原告の主張を排除して、国の主張に沿った判断が目につく。「三権分立」が名ばかりの司法に成り下がってしまっていると感じることが多い。「国民感情」を全く考えないで、「四角四面の法解釈」をよりどころに、判決を出す審理が目につく。今回の司法判断が、その典型だろう。
裁判官は、法律とは不即不離と考えられる「国民感情」に寄り添わなければ、ぎすぎすした社会の風潮は改善しないのではないかとさえ考えてしまう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
2025年06月15日
【月刊マスコミ評・放送】非難に屈しなかったクルド取材番組=諸川麻衣
4月5日にNHKが放送した『ETV特集 フェイクとリアル 川口 クルド人 真相』は、ヘイト言説を素材としながらジャーナリズムとSNSのあり方について深く考えさせる力作だった。
埼玉県川口市とその周辺に約2000人が住むクルド人をめぐっては、2年前からSNS上で「治安悪化」「テロリスト」「偽装難民」「追い出せ」等の攻撃的な投稿が急増している。その数は累計2500万を超え、ヘイト・デモや脅迫、全くの虚偽の情報発信など、現実の人権侵害にもつながっている。
NHKは専門家と協力して、投稿が盛り上がった話題を時系列で抽出、情報の真偽を検証した。そして、投稿急増のきっかけが23年4月の入管法「改正」問題だったこと、川崎市でヘイト宣伝が禁止された結果、そこで活動していた団体が川口を新たな活動場所にしたらしいこと、仮放免中の難民と在留資格を持つ人が混同されて非難されていること、「クルド人少女の万引」とされた動画が虚偽だったこと等を明らかにした。そして、真偽不明や虚偽の情報を発信する背景に、事実か否かよりも閲覧数が評価される「アテンション・エコノミー」(E・マスクのXの路線)、既成の組織ジャーナリズムへの不信から「自分こそ真のジャーナリスト」とする心理があることを指摘した。
番組は初回放送後、予定の再放送が見送られ、見逃し配信も中止された。NHKはその理由を明らかにしていないが、番組中でヘイト活動が放送された地元市議は「自分の動画をNHKが無断使用したので抗議し、再放送を中止させた」とSNSで豪語した。また産経新聞も、『産経ニュース』の画像が番組内で無断使用されたとネットで報じた(正当な引用の範囲内だったが)。さらに国会では、「NHKから国民を守る党」の浜田聡参院議員が、番組内容はクルド人寄りだと批判した。これに対しNHK側は「論争となっている問題は多角的に問題点を明らかにするように取り組んでいきたい」と答弁、記者会見でも「より取材を深めた上で、改めて伝えたい」と修正を示唆した。
番組は結局5月1日に再放送された。数か所で説明が補強されたものの、ほぼ元の内容での再放送だった。これはNHKとして「番組に問題なし」と判断したということだろう。もし不当な非難に屈して大幅改変していたら、SNSの差別的言説にジャーナリズムが敗北する破滅的な事件になっていたところだった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
埼玉県川口市とその周辺に約2000人が住むクルド人をめぐっては、2年前からSNS上で「治安悪化」「テロリスト」「偽装難民」「追い出せ」等の攻撃的な投稿が急増している。その数は累計2500万を超え、ヘイト・デモや脅迫、全くの虚偽の情報発信など、現実の人権侵害にもつながっている。
NHKは専門家と協力して、投稿が盛り上がった話題を時系列で抽出、情報の真偽を検証した。そして、投稿急増のきっかけが23年4月の入管法「改正」問題だったこと、川崎市でヘイト宣伝が禁止された結果、そこで活動していた団体が川口を新たな活動場所にしたらしいこと、仮放免中の難民と在留資格を持つ人が混同されて非難されていること、「クルド人少女の万引」とされた動画が虚偽だったこと等を明らかにした。そして、真偽不明や虚偽の情報を発信する背景に、事実か否かよりも閲覧数が評価される「アテンション・エコノミー」(E・マスクのXの路線)、既成の組織ジャーナリズムへの不信から「自分こそ真のジャーナリスト」とする心理があることを指摘した。
番組は初回放送後、予定の再放送が見送られ、見逃し配信も中止された。NHKはその理由を明らかにしていないが、番組中でヘイト活動が放送された地元市議は「自分の動画をNHKが無断使用したので抗議し、再放送を中止させた」とSNSで豪語した。また産経新聞も、『産経ニュース』の画像が番組内で無断使用されたとネットで報じた(正当な引用の範囲内だったが)。さらに国会では、「NHKから国民を守る党」の浜田聡参院議員が、番組内容はクルド人寄りだと批判した。これに対しNHK側は「論争となっている問題は多角的に問題点を明らかにするように取り組んでいきたい」と答弁、記者会見でも「より取材を深めた上で、改めて伝えたい」と修正を示唆した。
番組は結局5月1日に再放送された。数か所で説明が補強されたものの、ほぼ元の内容での再放送だった。これはNHKとして「番組に問題なし」と判断したということだろう。もし不当な非難に屈して大幅改変していたら、SNSの差別的言説にジャーナリズムが敗北する破滅的な事件になっていたところだった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
2025年06月02日
【月刊マスコミ評・新聞】国際協調の道義説くのが日本の役割=六光寺 弦
敗戦から80年の憲法記念日。新聞各紙の5月3日付社説では、国際協調を危うくしている米国とトランプ大統領への言及が目を引いた。
毎日新聞は、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃など「世界の混沌」にトランプ氏の復権が追い打ちをかけていると指摘した。
ロシアに有利な和平案の提示、自由貿易体制の土台をむしばむ高関税政策、移民規制強化を始め排外主義的な大統領令の連発など。「規範を踏みにじり、政治・経済の両面で『力による現状変更』をごり押ししようとする政治姿勢」はロシアなどと同じだという。
朝日新聞も「米国は自由と民主主義の牽引車を自他共に認めてきたはずだが、豹変に目を疑う」「多様性を目の敵にし、言論や学問の自由も意に介さず、全てはカネ勘定であるかのように振る舞って恥じる様子がない」と強い表現で批判した。
平和主義と国際協調主義を掲げる日本国憲法の意義は重みを増す。朝日は「普遍の原理を掲げた憲法を改めて選び取る時である」と訴えた。
読売新聞にはトランプ批判は見当たらない。敵基地攻撃能力を例に、防衛力強化に米国の協力が必要と指摘。「日本自身が平和を守るために努力し続けることは欠かせない」「そうした観点からも、憲法を見直すことは避けて通れまい」と社是の改憲を説く。
驚いたのは「『9条』の限界を直視せよ」との見出しの産経新聞だ。
トランプ大統領が日米安保条約について、日本は米国を守る必要がないと不満を述べたことを引き合いに「トランプ氏の方が世界の常識を踏まえている」と強調。憲法9条によって全面的な集団的自衛権の行使が禁じられていることを「非常識」と断じた。
日米安保体制を巡る認識の偏りをただすわけでもなく、自己の改憲主張を通すためなら、迎合もいとわないのか。
平和憲法を持つ日本の役割を明確にしたのはいくつかの地方紙だ。北海道新聞は「今度は日本が、自国第一の殻にこもる米国に国際協調の道義を説く番ではないだろうか」と問いかける。
中国新聞も「国際社会が積み上げた秩序やルールをないがしろにしないよう、トランプ氏に注文するのも同盟国の役割ではないか」と指摘した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
毎日新聞は、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃など「世界の混沌」にトランプ氏の復権が追い打ちをかけていると指摘した。
ロシアに有利な和平案の提示、自由貿易体制の土台をむしばむ高関税政策、移民規制強化を始め排外主義的な大統領令の連発など。「規範を踏みにじり、政治・経済の両面で『力による現状変更』をごり押ししようとする政治姿勢」はロシアなどと同じだという。
朝日新聞も「米国は自由と民主主義の牽引車を自他共に認めてきたはずだが、豹変に目を疑う」「多様性を目の敵にし、言論や学問の自由も意に介さず、全てはカネ勘定であるかのように振る舞って恥じる様子がない」と強い表現で批判した。
平和主義と国際協調主義を掲げる日本国憲法の意義は重みを増す。朝日は「普遍の原理を掲げた憲法を改めて選び取る時である」と訴えた。
読売新聞にはトランプ批判は見当たらない。敵基地攻撃能力を例に、防衛力強化に米国の協力が必要と指摘。「日本自身が平和を守るために努力し続けることは欠かせない」「そうした観点からも、憲法を見直すことは避けて通れまい」と社是の改憲を説く。
驚いたのは「『9条』の限界を直視せよ」との見出しの産経新聞だ。
トランプ大統領が日米安保条約について、日本は米国を守る必要がないと不満を述べたことを引き合いに「トランプ氏の方が世界の常識を踏まえている」と強調。憲法9条によって全面的な集団的自衛権の行使が禁じられていることを「非常識」と断じた。
日米安保体制を巡る認識の偏りをただすわけでもなく、自己の改憲主張を通すためなら、迎合もいとわないのか。
平和憲法を持つ日本の役割を明確にしたのはいくつかの地方紙だ。北海道新聞は「今度は日本が、自国第一の殻にこもる米国に国際協調の道義を説く番ではないだろうか」と問いかける。
中国新聞も「国際社会が積み上げた秩序やルールをないがしろにしないよう、トランプ氏に注文するのも同盟国の役割ではないか」と指摘した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年5月25日号
2025年05月05日
【月刊マスコミ評・出版】トランプ関税、被害妄想に陥る米国マジョリティ=荒屋敷 宏
「トランプ大恐慌」と激震が走る。『週刊文春』4月17日号は「総力取材 GDP5兆円が吹っ飛ぶ」と9ページの特集、『週刊新潮』4月17日号も「大特集11ページ 狂気のトランプ関税で日本はどうなる」の見出しが躍る。
その後、トランプ米大統領が貿易相手国ごとに設定した関税上乗せ分を中国以外、90日間停止すると発表(4月9日)し、肩透かし気味となった。文春によると、米国産に頼る小麦を原材料とするパスタ、うどん、パンに加えて、和牛や豚、鶏なども値上げの可能性があるという。
『週刊新潮』で米国現地の様子を伝えているのは、NY在住ジャーナリストの津山恵子氏だ。「ありとあらゆる商品が買いだめの対象」で、オンラインショップでも洋服を買い占める人が出始めているという。4月1日に実施された米ウィスコンシン州の最高裁判事の選挙ではイーロン・マスク氏がカネをばらまいたにもかかわらず、共和党候補が敗れたそうだ。
米国内の事情を日本のマスメディアは、ほとんど伝えない。文芸誌『群像』(講談社)に掲載された出口真紀子氏(文化心理学)の「マジョリティの脆弱性――マジョリティはなぜマイノリティの差別体験の声を封じるのか」が興味深い。
黒人の少年の学校生活を描いたジェリー・クラフト氏の半自伝的なベストセラー『New Kid』が2023年から24年にかけて米国の3州各1学区の公立学校の図書館で閲覧禁止もしくは閲覧禁止要求を受ける調査対象となった。人種やジェンダー、LGBTQに関する本をめぐり、白人が閲覧禁止を要求し、全米の学校で1万冊以上の書籍に閲覧禁止もしくは禁止要求が出て調査中であるという。
出口氏によると、米国のマジョリティは構造的な差別に無自覚で、自分たちを被害者と感じる心の脆弱性があるという。トランプ政権で今年2月、米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長が任期半ばで解任されたのも、ジョージ・フロイド氏殺害事件について黒人としてビデオメッセージを流したことが原因だと噂されているという。ほとんど被害妄想というほかない。
「アメリカを反面教師にして、日本人が差別に対して脆弱である現状を変えるべくこれまでと異なる視点の教育に取り組んでいかなくてはならない」と出口氏は警鐘を鳴らす。心が脆弱な権力者の被害者意識が頂点に達するトランプ関税の米国は、やはり落日が近いのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
その後、トランプ米大統領が貿易相手国ごとに設定した関税上乗せ分を中国以外、90日間停止すると発表(4月9日)し、肩透かし気味となった。文春によると、米国産に頼る小麦を原材料とするパスタ、うどん、パンに加えて、和牛や豚、鶏なども値上げの可能性があるという。
『週刊新潮』で米国現地の様子を伝えているのは、NY在住ジャーナリストの津山恵子氏だ。「ありとあらゆる商品が買いだめの対象」で、オンラインショップでも洋服を買い占める人が出始めているという。4月1日に実施された米ウィスコンシン州の最高裁判事の選挙ではイーロン・マスク氏がカネをばらまいたにもかかわらず、共和党候補が敗れたそうだ。
米国内の事情を日本のマスメディアは、ほとんど伝えない。文芸誌『群像』(講談社)に掲載された出口真紀子氏(文化心理学)の「マジョリティの脆弱性――マジョリティはなぜマイノリティの差別体験の声を封じるのか」が興味深い。
黒人の少年の学校生活を描いたジェリー・クラフト氏の半自伝的なベストセラー『New Kid』が2023年から24年にかけて米国の3州各1学区の公立学校の図書館で閲覧禁止もしくは閲覧禁止要求を受ける調査対象となった。人種やジェンダー、LGBTQに関する本をめぐり、白人が閲覧禁止を要求し、全米の学校で1万冊以上の書籍に閲覧禁止もしくは禁止要求が出て調査中であるという。
出口氏によると、米国のマジョリティは構造的な差別に無自覚で、自分たちを被害者と感じる心の脆弱性があるという。トランプ政権で今年2月、米軍制服組トップのブラウン統合参謀本部議長が任期半ばで解任されたのも、ジョージ・フロイド氏殺害事件について黒人としてビデオメッセージを流したことが原因だと噂されているという。ほとんど被害妄想というほかない。
「アメリカを反面教師にして、日本人が差別に対して脆弱である現状を変えるべくこれまでと異なる視点の教育に取り組んでいかなくてはならない」と出口氏は警鐘を鳴らす。心が脆弱な権力者の被害者意識が頂点に達するトランプ関税の米国は、やはり落日が近いのである。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
2025年04月01日
【月刊マスコミ評・放送】長年にわたるフジテレビ労組の奮闘=岩崎 貞明
フジテレビをめぐる騒動が続いている。週刊誌記者やテレビカメラなどを排除した「クローズド」記者会見を行ったことで、有力なスポンサー企業が次々とCMを取りやめる事態になり、フジテレビの放送はAC(公共広告機構)差し替えばかりが流れるような異様な画面となった。
この間、フジテレビの社内で会社の将来を不安視して、労働組合に加入する人が急増している。フジテレビの労組はこの間、会社に対して意見書や要求書を提出して交渉し、オープンな記者会見の実現や、組合員や社員に対する説明会を開催させるなど、精力的に活動している。
フジテレビは、日経連の専務理事などを務めた鹿内信隆氏が社長だった1960年代当時、徹底した組合敵視政策を取っていた。労組結成が在京キイ局の中ではいちばん遅かったのは、経営による締め付けが強かったのがその理由だろう。組合結成後、鹿内氏は管理職を集めた会議の席で「不当労働行為に死刑はない」などと言って組合を弾圧。番組制作現場の組合員を非現業職場に飛ばすなどの攻撃に加え、一時は番組制作部門を丸ごと外注化した。その結果、フジテレビ労組は少数組合に抑え込まれた。
フジサンケイグループの最高権力者とされる日枝久氏は当時、労組結成に中心的に関わり、そのために閑職に追いやられてきたが、1980年代に鹿内信隆氏から実権を引き継いだ実子の春雄氏が、まだ若手だった日枝氏を編成局長に抜擢。そこから「楽しくなければテレビじゃない」をキャッチフレーズにしたフジテレビは十年以上にわたる「視聴率三冠王」の黄金時代を迎えた。業績好調を背景に、組合要求を上回る回答で組合の団結を阻害したこともあった。その後、労組出身の日枝氏が経営権を握った時代も、組合が勢力を拡大することはなかった。
それでも、フジテレビ労組は民放労連加盟組合として組織を守り続けた。組合未加入者に向けて昼休みに給与明細の読み方を解説するミニ学習会を開催するなどして、労働組合の存在を印象づけた。組合加入資格を局次長まで広げる組合規約改正も行って門戸を広げた。最近ではオンラインで手軽に組合加入できるシステムも導入した。
CM取りやめの事態で550人を超える規模に組織拡大したのは、この機会を捉えて全社員向けに勧誘メールを送った労組の努力の賜物だ。このような労組の要求に会社がどう応えるのか、引き続き注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
この間、フジテレビの社内で会社の将来を不安視して、労働組合に加入する人が急増している。フジテレビの労組はこの間、会社に対して意見書や要求書を提出して交渉し、オープンな記者会見の実現や、組合員や社員に対する説明会を開催させるなど、精力的に活動している。
フジテレビは、日経連の専務理事などを務めた鹿内信隆氏が社長だった1960年代当時、徹底した組合敵視政策を取っていた。労組結成が在京キイ局の中ではいちばん遅かったのは、経営による締め付けが強かったのがその理由だろう。組合結成後、鹿内氏は管理職を集めた会議の席で「不当労働行為に死刑はない」などと言って組合を弾圧。番組制作現場の組合員を非現業職場に飛ばすなどの攻撃に加え、一時は番組制作部門を丸ごと外注化した。その結果、フジテレビ労組は少数組合に抑え込まれた。
フジサンケイグループの最高権力者とされる日枝久氏は当時、労組結成に中心的に関わり、そのために閑職に追いやられてきたが、1980年代に鹿内信隆氏から実権を引き継いだ実子の春雄氏が、まだ若手だった日枝氏を編成局長に抜擢。そこから「楽しくなければテレビじゃない」をキャッチフレーズにしたフジテレビは十年以上にわたる「視聴率三冠王」の黄金時代を迎えた。業績好調を背景に、組合要求を上回る回答で組合の団結を阻害したこともあった。その後、労組出身の日枝氏が経営権を握った時代も、組合が勢力を拡大することはなかった。
それでも、フジテレビ労組は民放労連加盟組合として組織を守り続けた。組合未加入者に向けて昼休みに給与明細の読み方を解説するミニ学習会を開催するなどして、労働組合の存在を印象づけた。組合加入資格を局次長まで広げる組合規約改正も行って門戸を広げた。最近ではオンラインで手軽に組合加入できるシステムも導入した。
CM取りやめの事態で550人を超える規模に組織拡大したのは、この機会を捉えて全社員向けに勧誘メールを送った労組の努力の賜物だ。このような労組の要求に会社がどう応えるのか、引き続き注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
2025年03月30日
【月刊マスコミ評・新聞】予算全体像の評価が分からない社説=白垣 詔男
政府の25年度予算案が3月4日、自民、公明、維新3党の賛成で衆議院を通過した。新聞各紙は5日(朝日、読売、産経)、6日(毎日、西日本)の両日、朝刊社説で「予算案通過」を論評した。しかし、「国会外での政党間の駆け引きが目に付き」(朝日)、その点に対する経過説明が主な内容で、どこの社説も、予算全体像の評価をしないで素通りしている。
予算案は、政府が国会に提出した日に各紙とも詳しい内容を載せているので、予算案が衆院を通過した日に、その中身を知らせなかったのか。もちろん、予算案の詳細について言及することは必要ないものの、全体像から指摘できる問題点や、改正すべきと判断できる点があれば、社説で訴える必要があるのではないか。
加えて、維新が要求して与党が譲歩した「高校無償化」については「公立離れや教育格差の拡大を招きかねないとの懸念がつきまとう」(毎日)、「公立離れの弊害、私立の授業料値上げを誘発する懸念が指摘されていた。高所得世帯が支援対象になることへの異論もある」(西日本)と書くが、いずれも新聞社として「高校無償化」に対する賛否は明らかにしていない。
また、合意に至らなかったものの国民民主が主張して与党の回答が「満額」とはならず、国民民主が予算案反対に回った「103万円の壁・所得制限撤廃」についての賛否も書いていない。
社説は、新聞社を代表して、各種事象に対して、どう考えどう対処したらいいのか、その事案の賛否を明らかにする欄ではないのか。そこをあいまいにしては、「社説欄は解説欄」と言われても仕方がない。
最近の「社説」は、この種の「解説」で終わるものが大半だ。あるニュースを取り上げて、それを論評するのではなく、経過を詳しく紹介するのはいいが、それをどう「切る」か。読者が社説を読む第一の目的は、そこにある。しかし、「経過と解説」で終わってしまう日が続くと読者の社説離れが起きる。従って「社説は読まれない」ことになってしまう。
新聞は「公平・公正」を掲げているからといって社説では、事案ごとに「どう判断するのか」を踏まえ、しかも「全体の評価」が分かる内容にしてほしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
予算案は、政府が国会に提出した日に各紙とも詳しい内容を載せているので、予算案が衆院を通過した日に、その中身を知らせなかったのか。もちろん、予算案の詳細について言及することは必要ないものの、全体像から指摘できる問題点や、改正すべきと判断できる点があれば、社説で訴える必要があるのではないか。
加えて、維新が要求して与党が譲歩した「高校無償化」については「公立離れや教育格差の拡大を招きかねないとの懸念がつきまとう」(毎日)、「公立離れの弊害、私立の授業料値上げを誘発する懸念が指摘されていた。高所得世帯が支援対象になることへの異論もある」(西日本)と書くが、いずれも新聞社として「高校無償化」に対する賛否は明らかにしていない。
また、合意に至らなかったものの国民民主が主張して与党の回答が「満額」とはならず、国民民主が予算案反対に回った「103万円の壁・所得制限撤廃」についての賛否も書いていない。
社説は、新聞社を代表して、各種事象に対して、どう考えどう対処したらいいのか、その事案の賛否を明らかにする欄ではないのか。そこをあいまいにしては、「社説欄は解説欄」と言われても仕方がない。
最近の「社説」は、この種の「解説」で終わるものが大半だ。あるニュースを取り上げて、それを論評するのではなく、経過を詳しく紹介するのはいいが、それをどう「切る」か。読者が社説を読む第一の目的は、そこにある。しかし、「経過と解説」で終わってしまう日が続くと読者の社説離れが起きる。従って「社説は読まれない」ことになってしまう。
新聞は「公平・公正」を掲げているからといって社説では、事案ごとに「どう判断するのか」を踏まえ、しかも「全体の評価」が分かる内容にしてほしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年3月25日号
2025年03月08日
【月間マスコミ評・出版】フジテレビと文春と女性の人権=荒屋敷 宏
昨年12月19日発売の『女性セブン』1月2・9日号が「中居正広 巨額解決金 乗り越えた女性深刻トラブル」を掲載した後、12月26日発売の『週刊文春』1月2・9日号は「中居正広9000万円SEXスキャンダルの全貌」との記事を出した。文春の記事は『女性セブン』の後追いだった。
フジテレビは、X子さんに対する編成幹部A氏の関与を一貫して否定している。報道機関であるにもかかわらず、1月17日の記者会見を一部メディアに制限し、生中継や映像撮影を拒否したことで批判を浴びた。
日付をまたいでの10時間半近い「やり直し会見」(1月27日〜㉘日)の後も、フジテレビへの批判は止まるところを知らず、文春が電子版で訂正記事を出したため、メディアの問題としても炎上することになってしまった。
文春が訂正したのは「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との箇所だ。その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の延長≠ニ認識していた」ことが判明したため、第二弾以降は取材成果を踏まえた内容を報じてきたと、文春は2月6日号の【編集長より】で弁明した。しかし問題の事実関係は、いまだに明らかになっていない。
そもそも問われているのは、性暴力に対する企業倫理や組織のあり方である。上司の誘いを断れば、仕事を奪われるのではないかという恐怖、地位や権力を利用した性暴力の問題は後を絶たない。フジテレビの大株主である米投資ファンドのダルトン・インベストメンツがいち早く声を上げ、日本の企業がCMから撤退するなどの流れになった。
1月23日号の『週刊文春』が報じたフジテレビ問題第三弾の記事中にある「女性アナ接待のDNA」という角度からの追及にも期待したい。日本の企業社会に巣くう女性の人権軽視という暗部を明らかにする機会にすべきであろう。問題が起きたことを知りながら、中居正広氏を番組MCに起用し続けたフジテレビ経営幹部の姿勢が厳しく問われている。
女性セブンは、フジテレビから文句を言われることなく続報を続けており、週刊文春のほかに、週刊新潮、週刊ポスト、サンデー毎日もこの問題の追及に参戦し、報道は過熱している。しかし、女性の人権問題として追及する姿勢が弱いのは、どうしたことだろうか。メディアの側も「重い十字架」を背負っているというべきであろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
フジテレビは、X子さんに対する編成幹部A氏の関与を一貫して否定している。報道機関であるにもかかわらず、1月17日の記者会見を一部メディアに制限し、生中継や映像撮影を拒否したことで批判を浴びた。
日付をまたいでの10時間半近い「やり直し会見」(1月27日〜㉘日)の後も、フジテレビへの批判は止まるところを知らず、文春が電子版で訂正記事を出したため、メディアの問題としても炎上することになってしまった。
文春が訂正したのは「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」との箇所だ。その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の延長≠ニ認識していた」ことが判明したため、第二弾以降は取材成果を踏まえた内容を報じてきたと、文春は2月6日号の【編集長より】で弁明した。しかし問題の事実関係は、いまだに明らかになっていない。
そもそも問われているのは、性暴力に対する企業倫理や組織のあり方である。上司の誘いを断れば、仕事を奪われるのではないかという恐怖、地位や権力を利用した性暴力の問題は後を絶たない。フジテレビの大株主である米投資ファンドのダルトン・インベストメンツがいち早く声を上げ、日本の企業がCMから撤退するなどの流れになった。
1月23日号の『週刊文春』が報じたフジテレビ問題第三弾の記事中にある「女性アナ接待のDNA」という角度からの追及にも期待したい。日本の企業社会に巣くう女性の人権軽視という暗部を明らかにする機会にすべきであろう。問題が起きたことを知りながら、中居正広氏を番組MCに起用し続けたフジテレビ経営幹部の姿勢が厳しく問われている。
女性セブンは、フジテレビから文句を言われることなく続報を続けており、週刊文春のほかに、週刊新潮、週刊ポスト、サンデー毎日もこの問題の追及に参戦し、報道は過熱している。しかし、女性の人権問題として追及する姿勢が弱いのは、どうしたことだろうか。メディアの側も「重い十字架」を背負っているというべきであろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年03月05日
【月刊マスコミ評・新聞】「沈黙の教訓」欠く新聞のフジ批判=六光寺 弦
元タレント中居正広の性加害問題を巡って、東京発行の新聞各紙はフジテレビ批判に終始している。確かにフジの対応は人権意識を欠いていた。だが新聞各紙に思い当たる節はないのか。
1月17日の閉鎖的な記者会見の直後から、企業のCM見送りの動きが加速。フジは23日になって、第三者委員会の設置と会見のやり直しを表明した。27日の再会見は、日付をまたいで10時間超に及んだ。
最初の会見を在京紙各紙は、1面ではなく社会面や総合面で控え目に扱った。社説も「疑問に答える徹底調査を」(毎日)など、比較的穏当なトーンが目立った。
フジが方針転換を明らかにした23日は、中居の芸能界引退表明もあった。二つの動きが重なり、各紙はフジ批判のトーンを強める。
27日はフジの取締役会で会長と社長の退任が決定。やり直し会見を経て翌28日付紙面は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙はそろって1面トップに据えた。社説では「メディア不信招いた責任重い」(読売)、「解体的出直しが必要だ」(東京)など、言葉を極めたフジ批判が並んだ。マスメディアとして教訓を共有する姿勢は、朝日が「自らを省みる機会にもしたい」と書いた程度だ。
フジ幹部が自らの人権意識の欠如を認めたように、性加害は人権の問題だ。ただし、そのことは「マスメディアの沈黙」が問われた旧ジャニーズ事務所元社長の性加害問題で指摘されていた。
フジが「沈黙」を巡る自己検証番組を放送したのは2023年10月。中居問題に対応していた時期と重なる。反省は口先だけだったと思われても仕方がない。
新聞も他人事ではない。ジャニーズ問題では同じように「沈黙」が問われた。しかし、編集幹部らの責任で内部調査を行い、外部識者も交えて教訓を導き、それらを紙面や自社サイトで公表したのは、わずかに朝日新聞社だけだ。
通信社も含めて他社は「沈黙」をどう総括し、どんな教訓を得たのか。教訓を組織にどう浸透させているのか。それらが何も見えないままだ。今からでも「沈黙」にさかのぼって自らの人権意識を検証し、結果を公表すべきだ。そうでなければ信頼は得られない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
1月17日の閉鎖的な記者会見の直後から、企業のCM見送りの動きが加速。フジは23日になって、第三者委員会の設置と会見のやり直しを表明した。27日の再会見は、日付をまたいで10時間超に及んだ。
最初の会見を在京紙各紙は、1面ではなく社会面や総合面で控え目に扱った。社説も「疑問に答える徹底調査を」(毎日)など、比較的穏当なトーンが目立った。
フジが方針転換を明らかにした23日は、中居の芸能界引退表明もあった。二つの動きが重なり、各紙はフジ批判のトーンを強める。
27日はフジの取締役会で会長と社長の退任が決定。やり直し会見を経て翌28日付紙面は、朝日、毎日、読売、産経、東京の5紙はそろって1面トップに据えた。社説では「メディア不信招いた責任重い」(読売)、「解体的出直しが必要だ」(東京)など、言葉を極めたフジ批判が並んだ。マスメディアとして教訓を共有する姿勢は、朝日が「自らを省みる機会にもしたい」と書いた程度だ。
フジ幹部が自らの人権意識の欠如を認めたように、性加害は人権の問題だ。ただし、そのことは「マスメディアの沈黙」が問われた旧ジャニーズ事務所元社長の性加害問題で指摘されていた。
フジが「沈黙」を巡る自己検証番組を放送したのは2023年10月。中居問題に対応していた時期と重なる。反省は口先だけだったと思われても仕方がない。
新聞も他人事ではない。ジャニーズ問題では同じように「沈黙」が問われた。しかし、編集幹部らの責任で内部調査を行い、外部識者も交えて教訓を導き、それらを紙面や自社サイトで公表したのは、わずかに朝日新聞社だけだ。
通信社も含めて他社は「沈黙」をどう総括し、どんな教訓を得たのか。教訓を組織にどう浸透させているのか。それらが何も見えないままだ。今からでも「沈黙」にさかのぼって自らの人権意識を検証し、結果を公表すべきだ。そうでなければ信頼は得られない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号

