2021年02月13日

【月刊マスコミ評・新聞】 年頭紙面はコロナより中国の脅威=徳山喜雄

  元旦の各紙の1面トップをみるのが、年頭の楽しみだ。通常は特ダネ・独自ダネか、大型連載があてられる。在京6紙をみれば、朝日、読売が特ダネ、東京が独自ダネ、毎日、産経、日経が連載を据えた。きれいに分かれたかたちだ。
 朝日は、自民党衆院議員だった吉川貴盛・元農林水産相が鶏卵業者から500万円を受領した疑いがある事件で、大臣在任前後にさらに1300万円を受け取っていたとした。鶏卵生産・販売大手の前代表が東京地検特捜部の任意聴取で供述、特捜部は収賄容疑で立件する方向という、本筋の特ダネだ。
 読売は、海外から優秀な研究者を集める中国のプロジェクトについて「中国『千人計画』に日本人」という主見出しを取り、少なくとも44人の日本人が関与していることが、独自取材で分かったとした。1社面に受け記事を掲載、「人材流失を防ぐための対策が求められている」と訴えた。
 東京は、作家・加賀乙彦さんの父親が戦前の東京などの街や人々を8_・16_フィルムで記録した映像を入手。現存する宝塚歌劇団のもっとも古いカラー映像や空襲前の新宿駅前を撮ったものなどをデジタル化したという自社ものだ。やや弱い内容だが、東京ローカル紙として「戦前の東京」を蘇らせたという映像の紹介は、これもありかと思った。
 毎日は連載記事であるものの、中国で製造された新型コロナウイルスの「闇」ワクチンが日本国内に持ち込まれ、大手企業の経営者ら富裕層が接種しているというショッキングな内容だ。産経も中国に関係するもので、中国型の権威主義が南太平洋で猛威をふるっているとした。日経は、温暖化ガスの排出を実質ゼロにする日本のカーボンゼロ宣言をテーマに、連載をスタートさせた。
 読売と毎日、産経の3紙が、中国がらみの記事をトップに。コロナ禍よりも中国の脅威が新年早々から伝わってきた。
 社説はどの新聞もコロナ禍に言及。毎日は「民主政治は間違える。けれども、自分たちで修正できるのも民主政治のメリットだ。手間はかかっても、その難しさを乗り越えていく1年としたい」。日経は「……世界のあちこちで分断やきしみが目立った。……『再起動』の年にしたい」と、前向きに訴えた。 
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年1月25日号
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2021年02月05日

【月刊マスコミ評・出版】 政治のうそをあばくということ=荒屋敷 宏

 ベトナム戦争に関する米国防総省の機密文書を入手し、報道したニール・シーハン記者が1月7日、米ワシントンの自宅で死去した。合掌。シーハン記者が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露したのは1971年のことだった。他紙も追随し、当時、米司法長官が「ニューヨーク・タイムズ」に次回以降の掲載中止命令を出す騒ぎとなった。が、米連邦最高裁は継続掲載を認めた。
 掲載を支持したスチュワート判事は、「自由に取材し報道できるメディアなしには、啓発された国民など存在しえない」と意見を述べた。あれから50年が経過した。
 日本の出版界に目を転じると、「週刊現代」が1月9日・16日合併号で久しぶりに政治ネタ、「ガースーはもうおしまい 2021年 日本の大問題――次の総理は誰か」を掲載した。産経新聞を除く大手紙・通信社の政治部記者がアンケートに、菅総裁で総選挙は「勝てない」「現有議席からは減らす」と答え、次の総裁に「岸田文雄か河野太郎」などと予想している。菅政権の支持率低下をふまえた企画だろう。日本の政治状況を狭く捉える旧態依然に鼻白む思いだ。
 「週刊文春」1月14日号は、西浦博・京都大学大学院教授に取材して、いまや人災化した新型コロナウイルス対策の東京での無策ぶりを指摘している。批判の矛先は小池百合子東京都知事と菅首相だが、同誌の首相退陣のXデーを予想する記事は、迫力に欠けている。
 「世界」2月号が泉澤章弁護士の「首相の犯罪に裁きを 桜を見る会疑惑」、環境ジャーナリストの青木泰氏の「政治の私物化を断つ 森友問題――政権が隠蔽する真実を暴く」を特集している。新年の出版界で、政府のウソを暴くシーハン記者の遺志を受け継ぐ報道姿勢を堅持しているのは、総合誌では「世界」だけとは、情けない。
 1年前に出版された柴山哲也著『いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史』(ミネルヴァ書房)からは、啓発されることが多い。柴山氏はベトナム戦争報道をめぐって、こう書いている。「新聞の役割は、政権や政府が国民に対してついていた『嘘』の事実を暴くことだ」と。
 ジャーナリズムが立法、行政、司法に並ぶ民主主義の監視・チェック機構としての「第四の権力」と巷間で呼ばれることがなくなって久しい。報道機関が政府にとりこまれ、政府のウソを見て見ぬ振りをすることは、最悪の事態を招く。そのことは、歴史が証明しているのではないか。温故知新。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年1月25日号

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2021年01月22日

【日韓学生フォーラム】 もっと骨身を削らねば ソウルと東京を結ぶ 「韓国ニュース打破」チェ・スンホさん講演=古川英一

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 「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」の6回目が、ソウルと東京・早稲田の会場をオンラインで結んで11月末に開かれた。コロナ禍のもとでの新たな試みには、両国から合わせて30人の学生が参加した。韓国の独立系ネットメディア・ニュース打破のディレクター、チェ・スンホさんをソウルの会場に招き、講演と議論を通して両国のメディア事情を考えようというシンポジウムだ。

 チェさんは、李明博政権時代の政府のメディアへの介入でMBCテレビを解雇され、ニュース打破に移り、日本でも公開された映画「自白」「共犯者たち」の監督を務めた。MBCに社長として返り咲いた後、再びニュース打破に戻りディレクターとして今も現場でニュースを追い続けている、まさに根っからのジャーナリストだ。
 チェさんの講演は、プロンプターの画面を通じて同時通訳で1時間半に及んだ。この中でチェさんは、テレビ局時代にドキュメンタリー番組の制作に長年携わった際に、最も大切にしたこととして@真実を追い求めること、その際、取材者は自分の方向性によって、ファクトを取捨選択し歪曲することを最も警戒しなければならないA批判の対象となる人々の意見や立場を把握して、それを番組に反映すること、の2点を挙げた。
 
 チェさんはまた、学生の質問に答える形で「自分にとって都合のよいニュースしか見ないようになれば社会は分断される。こうした中で、人々に判断の材料を示して、包容するジャーナリズムを目指すことが必要だ」と訴え、「ジャーナリストはもっと骨身を削らなければ市民の信頼に応えられないという厳しい現実がある」と穏やかだが決然とした口調で学生たちに語りかけた。

 シンポジウムでは、日韓の学生が発表を行った。新聞やテレビに代わってネットから情報を得る人が増えているのは共通した認識だ。日本の学生は、ネットメディアの新しい動きなどを映像リポートで伝えた。リポート作りを通して学生たちは、メディアの違いが問題なのではなく、ジャーナリストが、きちんと事実を伝えることが必要なことに気づく。
 その気づきを刻みつけて、来年の春、学生たちは記者への一歩を踏み出す。
古川英一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年12月25日号

 

 

 
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2021年01月18日

【月刊マスコミ評・放送】 Eテレ売却論 NHKに圧力?=諸川麻衣

  今年NHKでは、次期中期経営計画での衛星やラジオ第二の波の整理・統合、受信料制度の見直し、受信料収入に対するネット関連予算の比率の見直しなど、制度の幾つかが論議の的となった。
  波の削減については既に本紙七五一号で取り上げられたが、年の瀬に新たな論点=「Eテレ売却論」が出来した。主張しているのは、菅政権の内閣官房参与に起用された、元財務官僚の高橋洋一・嘉悦大学教授。高橋氏は、Eテレは視聴率が低いので、テレビとして放送するよりはネットで配信し、電波は売却して携帯などの通信に使えばよい、そうすればNHKの波を減らせて受信料も半分程度に下げられる、と言う。
 この主張が公になると、「最も公共放送らしいEテレ売却なんて馬鹿げてる」(堀潤氏)、「Eテレは、色んな年齢や状況の人々に文化へのアクセスを提供する大切なインフラ。視聴率だけでは評価などできません」(ロバート・キャンベル氏)、「今のNHKの報道には山ほど批判があるが、教育テレビをなくすと言われれば、NHKを守れという運動を始めるしかない」(山口二郎氏)といった批判の声が上がった。
 さらにツイッターにも視聴者から、「わざわざ受信料払ってるのは本当にEテレのため」「子育て世代を敵に回すのは、やめてください」といった声が多々寄せられ、「#Eテレのために受信料払ってる」というハッシュタグがトレンド二位に入った。前田NHK会長も「教育テレビはNHKらしさの一つの象徴だと思う。それを資産売却すればいいという話には全くならない」と述べている。
 これに対し高橋氏は、「Eテレの売却とは、Eテレの周波数帯の売却であり、Eテレの番組制作コンテンツの売却ではない」「Eテレの番組をインターネットで提供でき…インターネットを活用した『GIGAスクール』と整合的になる」と反論している。自説への批判は、「波の売却=コンテンツ消滅」と誤解しているというのだ。
 しかし、批判の多くは、二つをきちんと区別している。ツイッター上の「スマホやPCにアクセスが難しい子どもでも“2”押すだけで観れるんだよ」という声は、テレビとネットの特性の違い、前者の存在意義を分かりやすく示している。
 そもそも高橋氏はなぜEテレだけを売却候補に挙げたのだろう?まじめな福祉・教養番組やドキュメンタリーで社会をしっかり見つめているEテレが目障りなのか?今後、Eテレ売却論が政権のNHKへの圧力のカードにならないか、注視したい。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年12月25日号
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2021年01月15日

【月刊マスコミ評・新聞】 菅政権はどこを向いているのか=白垣詔男 

 菅義偉首相が誕生して3カ月。「日本学術会議」から「自著改ざん」「新型コロナ」「元2農相の汚職疑惑」「桜を見る会前夜祭」と立て続けに「問題」が噴出した。特に、コロナ禍の中で感染拡大させる恐れが強い「GO TO トラベル」を中止しないのは、菅首相が、「国民の命より金」を重視しているからだろう。
 問題が山積しているにもかかわらず臨時国会延長せず閉幕したのは、菅首相が国会論議を嫌っている証と言える。内閣支持率が2カ月余で20%以上下落するのも当然だ。
 この間、菅首相は記者会見を2回しかしておらず、国会論議どころか記者を通じて国民に自らの考え方の説明を極力したくない姿勢も明らかになった。臨時国会が事実上閉幕した12月4日の菅首相記者会見を受けて、各全国紙は5日の社説で、「菅批判」を展開した。
 見出しは朝日「国民を向いているのか」、毎日「立法府軽視も継承された」、読売「危機の克服へ明確な方針示せ」と、国会での首相答弁、国会閉幕に当たっての記者会見の中身をとらえて、いずれも首相を批判している。
 中身を読むと朝日は「自らが推し進める政策の狙いを丁寧に説明し、国民の理解を得ようという姿勢も、政治の信頼回復に向け、安倍前政権の『負の遺産』を清算しようという決意もうかがえなかった」、毎日「国会での首相や閣僚の答弁は、広く国民に対する説明である。それを忘れているのではないか」、読売はコロナ禍について「『GO TO トラベル』の見直しも躊躇すべきではない。…国民の危機への対処方針を十分に発信してきたとは言えない」と、菅首相の「言葉足らずというより国民への言葉のなさ」を鋭く指摘している。
 さて、12月に入って一番強く響いた記事は5日付毎日朝刊「オピニオン」欄、伊藤智永専門記者の「GoToコロナ五輪の怪」だった。「GoToキャンペーンを政府はどうして続けるのか」と問題を提起、練達の国際ジャーナリストが「これは俺の勘だけどな」と断って言った次の発言を紹介している。
「来年夏、コロナが流行していても東京オリンピックはやる。その予行演習が国民総動員で行われているんじゃないか。…日本は感染拡大中でも、旅行も飲食もやってきましたと世界にPRして訪日客を呼び込む気だろう」
 白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年12月25日号

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2020年12月19日

【月刊マスコミ評・出版】 第二の森友事件となるのか 首相の疑惑=荒屋敷 宏

 「週刊新潮」が飛ばしている。11月5日号で「第二の森友事件」!「菅総理」タニマチが公有地でぼろ儲け、12日号で警察も動いていた!と続報を放ち、19日号では「利権の島」に血税120億円が消えた!防衛省「馬毛島」買収に暗躍した「加藤勝信官房長官」との特集記事を掲載している。
 「第二の森友事件」というのは、横浜市保土ヶ谷区にある神奈川県警の職員宿舎の跡地が一般競争入札にかけられずに、約4億5700万円の鑑定価格が約3億8800万円へ約7000万円もの値引きで売却された疑惑だ。「保育所や学生寮の設置」を理由に民間業者に随意契約で売却され、転売されて、老人ホーム、低層マンション、ドラッグストアが立ち並ぶ一画になった。この民間業者が菅義偉首相を応援する人物だった。加藤勝信官房長官の疑惑は、訴訟が進んでおり、経過を見守りたい。
 戦前、女性は政治から排除され、歴史学者が何人も弾圧されたが、戦後もその歴史は過去になっていない。菅首相によって日本学術会議の新会員への任命を拒否された人文・社会科学系6人のうち、1人は日本近代史研究者の女性、加藤陽子氏であった。加藤氏は、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』などの著者で、内閣府公文書管理委員会委員や「国立公文書館の機能・施設の在り方等に関する調査検討会議」の委員を歴任している。
 「世界」12月号(岩波書店)で上野千鶴子氏や保阪正康氏は、加藤氏について「非常に穏健な方です。前天皇の信任が厚く、何度も進講に招かれています」(上野氏)、「非常に実証主義的で、右とか左という立ち位置の人ではありません」(保阪氏)と述べている。「公」の覚えめでたい女性の歴史学者を菅首相は排除したわけである。
 日本学術会議の事件が法廷にもちこまれた時、証人になれるのは、前川喜平元文部科学次官であろう。前川氏は、同じ「世界」12月号で、「菅義偉首相は官房長官時代、杉田和博官房副長官の補佐を得て、人事権を駆使することにより官僚組織を支配した」と、自らの経験をもとに証言している。2016年の文化審議会文化功労者選考分科会の委員2人を「任命拒否」した例があるという。文部科学大臣がいったん了解した案が、安倍政権を批判する言動を理由に、警察官僚の杉田官房副長官らによって覆されたのである。
 疑惑まみれの首相が人事権を振りかざし、警察官僚が暗躍する社会は、正常ではない。
 荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年11月25日号

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2020年11月09日

【月刊マスコミ評・放送】 NHKラジオ総合は人身御供か=三原 治

 民間放送からすれば、NHKの肥大化は批判の対象である。私も個人的には、大き過ぎるNHKは反対だ。民放のような番組を制作する傾向が一番気にくわない。公共放送としての番組作りに徹して、NHKにしかできない放送を大事にして欲しい。
 8月に出された来年度から3年間の次期経営計画案を知って怒りを覚えた。拡大した業務のそぎ落としで、3年間に630億円削減するのはいい。ターゲットとなったチャンネルの再編が問題だ。
 4つの衛星放送のうち、「BS1」「BSプレミアム」「BS4K」の3つを段階的に1つにする。こちらは百歩譲って、まだ許せる。憤慨したのは、ラジオのAMの第1と第2を統合すること。総務省からの「業務のスリム化・受信料の見直し・ガバナンスの強化」に応えるなら衛星放送だけで充分だろう。AM放送を1波にして、どれだけ経費削減になるのか。
 AMラジオは、災害時の重要な情報インフラだ。語学講座もNHKならではの特色である。このAMラジオの第1と第2を一波に統合する方針には、断固として反対したい。
 AMラジオの存在意義は、災害発生時にその優位性が明らかだ。NHKラジオは、防災情報の伝達手段として大きな役割を果たしてきた。音声のみのラジオは、テレビよりも簡単に番組の放送予定や内容を変更できるため、災害の状況に応じて情報を発信できる。ラジオ放送の設備の被災を想定して2波を確保しておくことは重要である。
 近年の災害では、避難所でスマートフォンを利用する際の電源確保が課題になっている。ネットで情報を探せるスマートフォンは有用だが、充電しなければ長時間使用はできない。省電力のラジオは乾電池だけでも何日間も連続で聴取できる。
 さらに第2での語学放送は多くの人に支持され、英会話を学ぶ大勢の聴取者が英語や外国語をマスターしてきた。語学放送は、テキスト代だけで済むのでコストパフォーマンスも高い。統合で、語学放送が減らされたら、日本の語学教育にもマイナスである。他にも、NHKラジオアーカイブスや視覚障害ナビラジオ、社会福祉セミナーなど、公共放送だからできる番組も貴重だ。
 肥大化への批判に対しての人身御供にされる「NHKラジオ統合」。音楽配信なども参入し、ネット経由の音声メディアは多様化しているが、ラジオはライフラインの重要なひとつである。すべての人に「安全・安心」と「正確、良質で多様なコンテンツ」を届けるのが、公共メディア・NHKのめざすべき道ではないだろうか。 
三原 治
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号

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2020年11月06日

【月刊マスコミ評・新聞】 学術会議めぐる報道のスタンス=徳山喜雄

 日本学術会議が新会員として推薦した候補者105人のうち、6人を菅義偉首相が任命しなかった問題で、波紋が広がりつづけている。
 学術会議人事への政治介入は、学問の自由を保障する憲法に違反する行為との声があがる。しかし、在京各紙はこの問題について複数回の社説を書いているものの、足並みがそろっているわけではない。社説に各紙のスタンスが鮮明だ。
 朝日は「法の趣旨をねじ曲げ、人事権を恣意的に行使することによって、独立・中立性が求められる組織を自由に操ろうとする」(10月3日)、毎日は「過去の発言に基づいて意に沿わない学者を人事で排除する意図があったとすれば、憲法23条が保障する『学問の自由』を侵害しかねない。首相は今回の措置を撤回すべきだ」(同)とし、両紙ともに厳しく批判した。
  一方、産経は「学問の自由の侵害には当たらない。……任命権は菅義偉首相にあるのだから当然だ」としたうえで、「学術会議は、活動内容などを抜本的に改革すべきである」(同)と、任命拒否を擁護した。
 読売は即座に反応せずに3日遅れで社説を掲載。「政府が十分に説明していないのは問題だ」としつつも、「6人は自由な学問や研究の機会を奪われたわけではなく、野党の指摘は的外れだろう。……会員の専攻過程や、会議の運営が不透明だという指摘は多い」(10月6日)とし、学術会議の改善を求めた。
 菅政権になったが、リベラル系と保守系メディアの二極化した論調は相変わらずのようだ。安倍晋三政権時代のメディアの構図がそのまま引き継がれるということか。
 菅首相は「総合的、俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」といいつつも、学術会議から提出された105人の推薦者名簿を「見ていない」とする。目にしたのは99人のリストだけというなら、「総合的、俯瞰的」という言葉と矛盾しないか。
 除外されたのは、特定秘密保護法や安全保障関連法など安倍政権の政策に異を唱えた学者である。問題の核心はなぜ6人の任命拒否をしたのか、だれが、いつ、どんな理由で決めたのかということだ。首相には国民への丁寧な説明責任がある。
 どのような立場であろうが、ここはすべての報道機関が追及すべきところだ。    
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年10月25日号


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2020年10月27日

【メディアウオッチ】安倍政治に敗北したメディア 分断社会に深い亀裂 権力監視 十分に機能せず=徳山喜雄

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2800日におよぶ安倍晋三内閣が退陣、「菅雪崩」現象によって新首相に菅義偉氏が選出された。菅氏は第2次安倍政権以降、一貫して官房長官を務め、「安倍政治の継承と前進」を掲げている。その安倍政治とは、どのようなものだったのか。
端的にいえば、敵と味方を峻別する分断対決型の政治手法をとり、数々の重要法案を「数の力」で強行採決していった。問答無用といわんばかりに異論を排する手法は、政治だけでなくメディアや国民をも分断し、社会に深い亀裂を生むこととなった。
 この背景には、政権側の切り崩しによってジャーナリズムの要諦である権力監視が十分に機能しなかったことがあり、分断対決型の安倍政治にメディアが敗北するという事態になった。
 メディア選別
新政権の発足にあたり、安倍政治の功罪を明らかにし、何を引き継ぎ、何を改めるのか、見極める必要があろう。内政や外交政策はもちろんのことだが、その政治姿勢や国民への向き合い方が厳しく問われている。
 長期政権による奢りと緩みのなか、財務省による公文書改竄にまで発展した森友学園への国有地売却問題や、加計学園の獣医学部新設、首相主催の「桜を見る会」の疑惑について、国民が納得いく説明がいまもってなされていない。知人を優遇するもので、「国政の私物化」と批判されている。
 調査報道などで疑惑が追及されたが、いずれも詰め切れていない。ここには、首相に近いメディアとそうでないメディアを選別する巧みな首相官邸の戦術があり、一致団結できない昨今の分断状況が横たわる。「ほかに、もっとやることがあるだろう」と突き放す一部メディアの論調は、その典型であろう。
 近い報道機関を優遇するメディア選別は、権力監視というジャーナリズムの核心を切り崩していった。権力によるメディアの敗北はいまにはじまったことではないという見方もある。しかし、注目したいのは、「安倍一強」による弊害が政策や国民生活にまで多岐におよんだにもかかわらず、ジャーナリズムの役割が機能しなかったということだ。これは、歴代内閣が権力を抑制的に使ってきた戦後政治において、例をみないのではないか。
 在京6紙をみれば、保守系の「読売、産経、日経新聞」とリベラル系の「朝日、毎日、東京新聞」にくっきりと二極化し、お互いに聞く耳をもたない不毛といえる言論状況になっていった。
単独会見の妙
 手掛かりとして安倍政治が進めた、憲法を改正したともいえる安全保障政策や、エネルギー・原子力政策、歴史問題の対応などを見ながら、「安倍政治とメディア」について考えたい。
 国の根幹ともいえる安保政策は、特定秘密保護法の強行採決にはじまり、憲法9条の解釈改憲が国会審議ではなく閣議で決定。集団的自衛権の一部行使を認める安保関連法が成立し、日本は戦争ができる国にかたちを変えた。この原動力となった のが、首相と近いメディアとの「連携」であったとみられる。
第2次安倍政権は、首相会見を内閣記者会が主催する共同記者会見だけでなく、単独記者会見方式を取り入れた。これによって官邸は、首相の狙いを大きくアピールできるよう時期を見計らいながら単独会見の相手と日取りを調整することになった。その一例としては、2017年、安倍首相は読売新聞と単独会見し憲法改正について縦横に語り、憲法記念日の5月3日に改憲を前提とした特大記事を掲載。「権力と報道の距離」の問題が問われた。
当初は新聞、放送ともに会見の機会が均等に回されていたが、やがて偏るようになった。権力側にとって都合のよい情報が気脈を通じたメディアに流され、それを他のメディアが追いかけることで、安倍政治の独断的なシナリオに沿う流れができていった。
NHKをはじめとする放送においても、安倍政権のメディア選別は常套手段となり、情報と引きかえに取り込まれることとなった。
二元論的な世界
東日本大震災が2011年3月に発生。東京電力福島第一原発が津波の影響で爆発事故を起こし、最悪の場合「東日本壊滅」という事態にまで発展した。
 多くの住民が避難生活を余儀なくされ、甚大な被害がでたにもかかわらず、安倍政権は原発の再稼働を進めた。保守系メディアが原発推進、リベラル系が原発反対の立場を取り、激しく対立した。しかし同時に、保守、リベラルを問わずに「安全神話」を作りあげたメディアへの不信感が、国民に根強くあったことも忘れてはならない。
東京五輪招致が決まったIOC総会では、安倍氏が放射能について「アンダー・コントロール」と発言。これに対して東電関係者は否定的な見方を示している。「アンダー・コントロール」という言葉から、「安全神話」がよみがえってくるようでもあった。
 さらに、愛国か反省かを迫る歴史認識における対立が、社会に決定的な分裂状態を招くことになる。戦後70年の首相談話などをめぐって「歴史修正主義」的な動きがあり、保守系メディアがそれに呼応するということがあった。
 多様な意見があることは健全なことだ。それを否定しているのではない。ただ、安倍政権下での政治、社会状況は、改憲や原発の存廃、歴史認識など国論を二分するテーマで、保守とリベラルが鋭く対立、議論が二項対立化し双方ともに言いっ放しで終わっているケースが随所にみられた。
 このため深い議論や、第三の可能性を探るといった成熟した言論が成立しなくなり、二者択一の極論しかない二元論的な世界に社会が覆われることとなった。お互いに耳を傾けたうえで、切磋琢磨していく。これが民主主義社会のあるべき姿ではないか。
懐柔された報道
 菅首相による新内閣が発足した。安倍政治を「前に進めたい」といい、負の側面には目を向けようとしない。たとえば森友問題について、菅氏は財務省の処分や検察の捜査終結で「すでに結論がでている」と取り合わない。
官房長官時代の朝夕2回の記者会見での質問に対し、「そのような指摘はあたらない」「コメントは控えたい」など、そっけない受け答えをする場面がしばしばみられた。メディア対応は安倍氏以上に高圧的で乱暴という見方もある。
どう対応すべきなのか。現在の言論状況を打破する道として、@権力との適正な距離を保つA二極化、分断の解消につとめるB首相や官房長官らへの「質問力」をアップするC読者、視聴者への説明責任を果たすD女性や外国人が活躍できるよう組織の多様性をはかる、という点を挙げたい。
 首相や官房長官への多くの質問にみられるように、メディアは分断対決型の安倍政治を追及するどころか、懐柔された。巻き返さなければならない。   
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年9月25日号


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2020年10月26日

【メディアウオッチ】 テレビ朝日労組が民放連脱退 社の意向 強く反映か 菅政権の攻勢に腰砕け=編集部

 テレビ朝日労働組合が7月25日、民放労連(日本民間放送労働組合連合会)から脱退した。テレビキー局労組の労連脱退は初めてのこと。民放労連加盟組合員は約7000人。テレ朝労組700人余が抜ける影響は小さく
ない。
 脱退の理由について同労組は@政治方針等の対立A会費の問題を挙げているが、真の理由は民放労連が加盟しているMIC(日本マスコミ文化情報労組会議)の文書にあるという。
 大量の派遣切り
 テレビ朝日は昨年暮れ、看板番組の「報道ステーション」を支えてきたベテランの派遣ディレクターらスタッフ10数人に対し体制の刷新≠ネどを理由に「3月末で契約を打ち切る」と一方的に通告した。
 報道によると、スタッフはテレビ朝日労組を通して派遣切り撤回を社側に求めたが、撤回要求に応じなかったため、MICに駆け込んだ。
 相談を受けたMICは2月、国会で院内集会を開き、テレビ朝日に派遣スタッフ契約終了の撤回を求める集会宣言を採択し、スポンサー企業にも送付した。
身分の不安定な派遣労働者を守るためには、当然の行動だが、これが早河洋会長ら経営陣の怒りを買い、労連脱退につながったというのだ。
 テレビ朝日労組の労連脱退には、驚きと疑問を禁じ得ない。
菅のメディア支配
 16日に発足した菅義偉新内閣は、安倍政権の「負の遺産」の一つである「メディア支配」を継承する。菅首相は、これまで以上に強面の権力主義的な手法でメディアへの介入、干渉を強めるに違いない。
 そんな時、同労組の民放労連脱退は、テレビ朝日の番組制作者が菅新政権の攻勢に事実上丸腰≠ナ立ち向かうことを余儀なくさせる。
 歯に衣着せぬコメントで視聴者の信頼を高めている「羽鳥慎一モーニングショー」や「報道ステーション」への影響が出はしないか。
権力の「共犯者」
 労働組合が弱体化すれば、職場で自由にモノが言えなくなり、放送の自由は危機に瀕する。
 新聞労連と研究者がまとめ、新聞協会加盟の新聞・通信・放送129社に送った「ジャーナリズム信頼回復のための六つの提言」には、賛同人として多くの現役の若い記者、女性記者らが実名で署名している。
 メディアは、権力との「共犯者」になってはならない。テレビ朝日労働組合の組合員と番組制作者は、労連脱退がもたらす影響などについて、改めて議論してほしい。
 編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年9月25日号

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2020年10月19日

【月刊マスコミ評・出版】 戦争阻止こそジャーナリズムの本道=荒屋敷 宏

 菅義偉首相の疑惑が早くも浮上している。「週刊文春」9月24日号「徹底取材 新総理で誰が笑うのか 菅義偉『親密企業』がGoToイート受注」。または「週刊新潮」同の「菅総理」の裏街道―「河井案里」に1億5000万円投下の首謀者=\などなど。
 「『助言したらパッと採用』経済ブレーンは竹中平蔵」と、菅首相と竹中平蔵パソナグループ会長との親密ぶりに迫った「文春砲」が鋭い。同誌で某政治部デスクは「菅氏が『絶対にやる』と力を込めているのが、省庁の縦割りを打破するためのデジタル庁の新設。…竹中氏がロイター通信の取材で『デジタル庁みたいなものを期限付きで作ればいい』と語っているのです」と指摘している。
 菅首相と竹中会長との関係は、2005年の小泉政権時代、竹中総務相(当時)に菅氏が副大臣として仕えた時期にまでさかのぼるという。安倍政権がGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の資産運用で、国債から株式主体の運用に舵を切った背景には、竹中会長から菅官房長官(当時)への助言があったという。
 この暗部を最近まで口外しなかった政治部デスクの役割とは何なのだろうか。確かに、菅首相誕生で明るみに出す意義は強まった。スクープ記者には、ネタを温める作法がある。しかし、株価下落による年金損失に心を痛める国民からすれば、政策立案過程の隠ぺいにマスコミが加担したように見えてしまう。報道各社が新宿御苑で「桜を見る会」を取材しながら、当初は、「しんぶん赤旗」日曜版編集部以外に疑問を持たなかった構図と似通ったものを感じてしまう。
 戦争阻止は、ジャーナリストとしての最高の役割であるはずだ。見過ごせないのは、日本政府が相手国の領土内の施設(敵基地)を攻撃する能力、いわゆる「敵基地攻撃能力」保有の検討へ動きだしたことだ。菅首相は16日の組閣後、安倍談話を踏まえて、岸信夫防衛相に「敵基地攻撃能力」など安全保障政策の方針を年末までに策定するよう指示した。
 「世界」10月号(岩波書店)の特集「攻撃する自衛隊」は、重要な論点を提出している。半田滋氏は、自衛隊が現時点で「敵基地攻撃能力」を保有し、「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」を受けて、防衛省が長射程のミサイル導入を始めたことを指摘している。政治部デスクの机の中で記者のメモが温められているうちに、戦争に突入していたという悪夢を現実化しないように警鐘を乱打すべき時だ。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年9月25日号
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2020年10月16日

【月刊マスコミ評・新聞】 安倍政治の「総括」なき新内閣=白垣詔男

 9月16日、「菅義偉新首相」が誕生した。一部で「アベノママ内閣」と言われる。実質的に首相が決まる9月14日の自民党総裁選は党大会を開かず両院議員総会で決めた。「石破氏有利な党大会は開きたくない」という安倍首相の感情論を最優先にして全国自民党員の投票の権利をないがしろにしたものだ。
 17日の朝刊各紙社説は「新内閣に望む」一色。その中で好対照だったのが西日本「まずコロナ対策に万全を」と「カネより命」に重点を置いていたのに対し読売は「経済復活へ困難な課題に挑め」と「命よりカネ」を力説していた。朝日は「安倍政治の焼き直しはご免だ」、毎日「まず強引な手法の転換を」と、いずれも「アベノママ内閣」の否定を求めた。
 社説としては自民党総裁が決まった翌15日のほうが各社の姿勢がはっきりしており読み応えがあった。
 朝日「総括なき圧勝の危うさ」、西日本「『総括なき継承』の危うさ」、毎日「継承ありきの異様な圧勝」と新総裁に対して「危うさ」「異様さ」を指摘、疑問を投げかけた。もちろん、「安倍首相の負の遺産、モリ、カケ、桜」など解明しなければならない諸問題にも言及する。
 対して「政府広報紙」の読売は「社会に安心感を取り戻したい」と、新型コロナウイルス問題に対する安倍前首相を「後手に回った」と指摘はするが、「負の遺産」は不問。「安倍首相信奉者」産経は「危機に立つ首相の自覚を 派閥にとらわれぬ人事を貫け」の見出しで、中朝脅威論を強調。両紙とも総裁が変わっても、政権に耳の痛いことは素通り。
 産経は「安倍氏をねぎらいたい」の小見出しで「憲政史上最長の在任で、身を削るようにして国の舵(かじ)取りを担った楼をねぎらいたい」と、政治的成果がほとんどなく「長いだけがレガシー(遺産)」安倍氏を最大級に持ち上げているのはいかがなものか。
 菅発言で非常に危険な内容を含んでいるのが13日のテレビ番組で「政策の方向性に反対する幹部は移動してもらう」だ。14日の毎日夕刊「近事片々」に「菅氏。政府方針に反対の官僚は異動させると強調。忖度しろよ、とでも」。菅氏が「安倍の負の遺産をそのまま継承する」と声高に叫んだものと指摘した。安倍氏以上の独裁政権になる恐れがある。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年9月25日号
 
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2020年09月22日

ジャーナリスト・外岡秀俊さん寄稿 いま、ジャーナリズムに問われるもの 役所の伝声管≠ナなく、庶民の共感呼ぶ報道を=外岡秀俊

                w1面右 外岡さん写真.jpg
 敗戦75年の節目、全国戦没者追悼式の安倍首相式辞から「歴史の教訓」に学ぶ姿勢が消えた。歴代首相のアジア諸国への謝罪、加害責任言及も、第2次安倍政権で途絶えた。「2度と戦争のためにペンをカメラをとらない」がJCJの出発点だ。いま、ジャーナリズムに問われるものは何か。元朝日新聞東京編集局長でジャーナリストの外岡秀俊さん(写真)に寄稿をお願いした。
                ◆
 あの戦争が終わって、75年目の暑い夏が過ぎようとしている。敗戦の年に生まれた人が後期高齢者となる。それほど長い「戦後」を私たちは生きてきた。 
私たちはいつも「敗戦」を起点に歳月を数えてきた。戦争を生きた人々の遠ざかる影を追い、記憶に留めようとしてきた。だがいずれ、その後ろ姿が消える日が来る。私たちはどのように、惨禍と悔悟、痛恨をのちの世代に伝えたらよいのだろう。
メディアの本性
 「敗戦」を折り返しとして、昭和を前期と後期に分けてみよう。明治維新から敗戦まで77年間は、戦争に次ぐ戦争の時代だった。そして敗戦後の昭和後期から平成、令和まで、ともかくも日本国憲法のもとで、この国は武力で諸国に介入しない節義を守った。あと2年で「戦後」は、近代日本の「戦争の時代」と等しくなる。排外派から「自虐」と呼ばれ、米国には「グズ」と呼ばれようが、私たちがかろうじて志操を守ったのは、この国で生きる人々が、あの戦争で逝った、巻き込んだ数百万の失われた命の痛苦を噛みしめてきたからだ。
 だが、あの戦争を支え、鼓舞・煽動すらしたメディアの本性は、その後どこまで変わったのか。「大本営発表」は軍部の自作自演ではない。メディアがそれを伝えたからこそ、人々は信じ込んだ。その過ちの重さと愚かさを、私たちはどこまで剔抉したのだろう。
伝えるべき情報
 昨年末に始まったコロナ禍は、世界を巻き込み、私たちは今なお、「自粛」と「社会的距離」を強いられている。「自粛」が内面化されれば容易に「萎縮」になり、「社会的距離」は、「連帯」や「共生」を挫くことになりかねない。メディアが政権の発表を垂れ流すだけなら、この目には見えない、強制を伴わない「心の戒厳令」は、仮にコロナ禍が終息しても「新常態」になる恐れがある。
ジャーナリズムが伝えるべき情報は、大きく分けて四つあると思う。
 @刻々と変わる情勢において、「いま直面している問題は何か」を、そのつど定義する情報A「いま、何をなすべきか」という選択肢を市民や自治体に示し、行動や判断の参考にしてもらう情報B政府の施策の成り立ちと効果の有無を批判的に検証する情報C専門家同士に議論の場を提供し、現時点での論点を整理し、問題の在りかを解明するための情報。
 この四つは、それぞれ言論機関の@アジェンダ設定機能A行動・判断指針の提示機能B検証・調査報道機能C言論フォーラム形成機能、という役割を示している。
 コロナ禍報道は今のところ、起きた事象の後追いをするのが手いっぱいで、こうした言論機関本来の機能は十分に果たしていないのではないか。そう感じない訳にはいかない。
センサーの役割
 具体的に指摘しよう。今の政権与党は、事態が行き詰まると、その難局に全力で対処するよりも、その困難を奇貨として、本来望んでいた政策へと誘導する傾向がある。
 たとえばコロナ禍に乗じて「緊急事態条項」を導入する改憲機運を盛り上げようとしたり、「イージス・アショア」の配備失敗を機に、あろうことか「敵基地攻撃力」の保有を検討し始めたりすることに、それは顕著だ。
 そればかりではない。
 昨年の消費増税に当たってポイント還元を導入し、あるいはマイナンバーカードの普及を図ったりするなど、官邸を「輔弼」する人々にも、その傾向は強い。いったん緩急あれば、何が何でも省庁の施策を貫くというこの傾向は、コロナ禍においても、医療態勢支援の前に「アベノマスク」に巨費を投じたり、感染拡大の兆しがあるにもかかわらず「Go To トラベル」を前倒し実施したりといった、ちぐはぐな対応を招いた。「国民の命と安全を守る」ことが最優先とするなら、考えられない発想だ。
 こうした姿勢を、「ショック・ドクトリン」とまでは言うまい。しかし、庶民が直面する厳しい現実を察知するセンサーが働かず、「慣性」のように、省庁の従来施策を追い求めて摩擦を起こすという点で、それは政治の機能不全だといえる。そして言うまでもなく、その「センサー」の役割を果たすべきなのは、ジャーナリズムであり、メディアなのだ。
「不信」の要因は
 私は、コロナ禍でメディアが果たすべき役割は、役所の伝声管になるのではなく、庶民の嘆きや苦しみを察知して政権に現状を知らせ、そうした声に寄り添うことで、人々の共感を呼ぶよう努力することだと思う。
 近年、SNSの急速な台頭で、新聞やテレビといった既成メディの影響力は低下し、「メディア不信」も広がりつつある。コロナ禍による広告の減少は、産業としての基盤をも揺るがしかねない。
打開策はあるのだろうか。
 私は、「メディア不信」の背景には二つの要因があると思う。
一つは、メディアの側が、読者や視聴者に対する説明責任を十全に尽くしていないことだ。たとえば、コロナ禍で、現場では十分な取材ができていないことを、受け手は敏感に察知する。メディアが、取材手法やその限界など「手の内」をさらせば、受け手はきっと理解してくれる。もう一つは、各社の報道姿勢が、ある種の型の価値観に縛られ、既成メディアが、すでに「フィルター・バブル」状態になっていることだ。各社の報道姿勢を越えて、ジャーナリストが連携し、何が問題で、何を大事にすべきか、その共通項を探ることが、急務だと思う。
「大本営」検証を
 新聞労連は今年3月8日の国際女性デーに向けて、会社の枠を超えて有志がメーリング・リストなどで議論を深め、その前後に、各社が独自の記事や特集を組んで緩やかに連携する試みに挑んだ。
 その試みをヒントに、「メディア不信」に抗するために、具体的な提案をしたい。
 私は、毎夏の終戦記念日前後に、メディアで働く人が「大本営発表」について検証し、自らの今の報道姿勢が、同じ轍にはまっていないかどうかを、読者や視聴者に説明することを提案したい。
 各社が右に倣う必要はない。メディアは、個々のジャーナリストの集合体に過ぎない。志のある人が、自ら所属する組織に働きかけ、自分のできる範囲で最善を尽くす。それがひとつの潮流となれば、きっと「メディア不信」を押し返す力になると思う。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号



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2020年09月09日

【月刊マスコミ評・新聞】 いままた大阪市廃止の住民投票?=山田 明

  広島、長崎は被爆から75年を迎えた。戦争と平和に思いを寄せる8月だが、今年は新型コロナによる感染症が列島に暗い影を落とす。
 5月下旬の緊急事態宣言解除後に、感染者はいったん減少したが、7月に入り再拡大してきた。第一波以上の感染規模であり、医療崩壊も懸念される事態だ。医療関係者から、PCR検査拡大を求める声が上がるが、政府の対応は鈍い。毎日7月29日コロナ特集は、「思惑交錯PCR滞る 遅れた国内検査数拡大」と真相に迫る。
 危機的な状況が続き、野党は国会開会を強く要求する。朝日8月1日社説も、「安倍首相は速やかに臨時国会を開き、率先して国民への説明責任を果たすべきだ」と述べる。だが、政府与党は応じようとせず、「安倍首相隠し」に走る始末だ。
 政府は感染急拡大の中で、「GOTO トラベル」を推進するなど、コロナ感染再拡大に対し、ちぐはぐな対応が際立つ。東京・大阪・愛知など大都市だけでなく、地方でも感染が急増している。沖縄の危機的状況は「GOTOトラベル」による感染拡大の可能性が高い。政治の責任が厳しく問われる。
 安倍政権のコロナ対応に批判が集まるなか、自治体の動向に関心が集まる。なかでも大阪府の吉村洋文知事を、メディアが持ち上げてきた。最近では「イソジン発言」の勇み足に、話題が集中することになる。
 大阪府の独自基準「大阪モデル」で非常事態を示す赤信号が、感染者急増でも点灯しない状況が続いている。経済重視にかじを切り、基準を緩和したことによるが、大阪市廃止の是非を問う住民投票実施との関わりも指摘されている。大阪維新の会代表の松井一郎大阪市長は「大阪モデルが赤信号にならない限り住民投票だ」と公言している。
 大阪市を廃止して、特別区を設置する構想は、5年前の住民投票で否決された。その後の選挙で維新が議席の伸ばす中で、再び住民投票が現実味を帯びてきた。ただし、コロナ危機のもとで、
住民投票よりも、コロナ対策を求める市民の声が高まっている。
 歴史ある政令指定都市、大阪市廃止の是非を問う住民投票である。関連法律は住民に分かりやすい説明を求めている。毎日7月25日社説も「判断材料が十分ではない」と指摘する。
 コロナだけでなく、住民投票に焦りは禁物だ。  
山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号

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2020年09月08日

【月刊マスコミ評・放送】 コロナの現状を伝えるNHK番組=諸川麻衣

  今回は、新型コロナの現状を伝えたNHKの番組を幾つか取り上げる。
 『BS1スペシャル 封鎖都市・武漢〜76日間 市民の記録〜』(5・8)。76日間封鎖された中国・武漢で「武漢封城日記」を通して近隣住民、清掃員などの生の声を伝えたソーシャルワーカー、患者の悲痛な声を配信してきた北京のネットラジオ番組『故事FM』などを取材、官製メディアが伝えない実態を明るみに出した。
 『ETV特集 パンデミックが変える世界〜台湾・新型コロナ封じ込め成功への17年〜』(6・20)。新型コロナ発生直後、台湾は発生源の近くにありながら迅速な水際対策やIT技術の活用で封じ込めに成功した。その背景には17年前のSARSの時の失敗とその後の大改革があった。疫学者から副総統となった陳建仁など関係者へのインタビューで、台湾の歩みとその教訓を伝えた。
 『BS1スペシャル レバノンからのSOS 〜コロナ禍追いつめられるシリア難民〜』(7・12)。レバノン国内に逃れた120万以上のシリア難民は経済的に困窮し、売春や臓器売買が広がっていた。3月、新型コロナの感染拡大でレバノン政府は非常事態を宣言、難民は感染の危険が増す中、さらなる困窮や差別・襲撃にさらされた。コロナ禍が弱者、とりわけ女性に特に深刻な打撃を与えることを迫真的に描いたルポで、取材者と出演者の心の絆なくしてはここまでの取材はできなかったろう。同様の問題、日本は無縁と言えるだろうか…。
 『NHKスペシャル 新型ウイルス“生と死”の記録〜医療最前線・密着3か月〜』(7・19)。治療法が未確立な中での試行錯誤、大規模な院内感染の発生、無念にも救えなかった命…神奈川県の二病院に密着して現場の苦闘を描いた。一般の救急や診療を停止したため地域医療が危機に瀕した実態も伝わってきた。  
  最後に参考に挙げたいのが『証言記録 感染症から巨大避難所を守れ』(6・14)。大震災直後、三千人を収容した福島県郡山市の大規模避難所で、不衛生な環境からノロウイルス感染症が発生した。県職員・支援ボランティア・医療関係者が尽力の末、最終的には避難者が避難所運営に参加して衛生状態を自ら改善する仕組みを築いたことで感染拡大を防げたという。
 台湾の例と併せ、市民の主体性、対策の科学的な合理性、行政・政府と市民との信頼関係など、社会の「民主主義」の度合いこそがコロナ対策の成否を決めると痛感した。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号

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2020年08月06日

【月刊マスコミ評・新聞】 朝鮮戦争70年 日本人の「参戦」=徳山喜雄

 朝鮮戦争が70年前の1950年6月25日に勃発した。日本は連合国軍総司令部(GHQ)の占領下で、戦後の混乱を抜け切れていなかったが、朝鮮特需で活況に湧くこととなった。
 一方、GHQの要請で多くの日本人が戦争に動員された。旧日本海軍の掃海部隊1200人は朝鮮海域で活動し、日本の民間船が兵隊や武器弾薬を輸送した。しかし、平和憲法ができてまもない日本の「戦争協力」は長く秘匿されることになり、このことはあまり知られていない。
 この夏、いくつかの新聞が埋もれた事実を掘り起こした。たとえば、毎日新聞(6月22日朝刊)は米国立公文書館所蔵の米軍作成の極秘文書を入手し、少なくとも日本の民間人男性60人を米軍が帯同し、うち18人が戦闘に加わっていたことを突き止めた。なかでも20歳未満の少年が18人おり、うち4人が戦闘に参加していた。
 文書には帯同した60人の尋問記録もあり、広島出身の少年(当時13歳)は「原爆で両親を亡くした」と証言。殺害を証言した12歳の少年も「両親は戦争で死んだ」と明かしている。さらに尋問記録のよると、米軍が「渡航したことは口外しない」と言わせ、署名させていたという。
 朝日新聞(6月24日夕刊)は朝鮮戦争で戦死した日本人の遺族にインタビューし、その経緯を明らかにした。東京都町田市の集合住宅で平塚照正さん(84)は、70年前に戦死したとされる兄、重治さん(当時29歳)の思い出を語った。
 太平洋戦争の激戦地ニューギニア戦線で生き残った兄は戦後、知人からの誘いで米軍基地で働きはじめ、朝鮮戦争の戦場に身を置くこととなった。戦争勃発後しばらくして家族のもとに死亡の知らせが届いた。
 家族の問い合わせに対し、GHQから「ネオ平塚は国連軍兵士に変装し、日本や占領軍の正式な許可がないまま朝鮮半島に密航した」「50年9月4日ごろ、韓国での軍事作戦中に死亡した人物が、平塚だと数人の米兵によって明らかになった」との回答があったという。
 ここで留意したいのは、憲法9条の解釈改憲によって集団的自衛権が認められた現在の日本において、朝鮮戦争への「参戦」は決して過去のもでないということだ。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号


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2020年07月30日

【月刊マスコミ評・出版】 安倍+「電通」支配から抜け出せ=荒屋敷 宏

 コロナ禍の陰に隠されていた問題を週刊誌が取り上げ始めた。
 「週刊文春」7月23日号、相澤冬樹さんの寄稿「森友自殺職員妻に安倍昭恵夫人が『人を信じられない』 赤木雅子さんのLINEに返信が!」に注目した。
 公文書の改ざんを命じられ、自殺した赤木俊夫さんの妻、雅子さんは、森友学園8億円値引き問題のきっかけを作った安倍首相の夫人と連絡を取りたいと願っていたという。相澤氏から首相夫人の携帯電話番号を教えてもらい、雅子さんが首相夫人にLINEを送ると、「色々なことが重なり人を信じられなくなるのは悲しいことですがご理解ください」「いつかお線香あげに伺わせてください」と返事があったという。
 ところが、「本当のことを話して」と書くと、首相夫人から返事は来なくなったそうだ。赤木雅子さんの「法廷発言全文」にある「真面目に働いていた職場で何があったのか、何をさせられたのか私は知りたいと思います」との言葉は、日本の労働環境の現状を撃つ言葉となっている。
 高橋まつりさん=2015年当時24歳=を過労自殺に追い込み、「持続化給付金」委託「中抜き」で世間から糾弾されている巨大広告企業の電通を批判する記事が少ない。そう感じていたところ、「サンデー毎日」7月26日号の連載「令和風景論」第5回で田中康夫さんが「『電通』化する日本 巨大広告代理店はなぜ迷走したか」を書いている。
 小説「なんとなく、クリスタル」で作家デビューし、いわゆる「電通文学」の申し子のような田中さんが、友人関係にある山本敏博電通グループ社長に物申しているところが痛快だ。田中さんは、電通が海外でM&A(合併・買収)を繰り返し、国内約130社、海外約900社で構成(今年1月1日現在)され、57%の収益を海外に依拠することを指摘している。そのうえで、日本の産業構造、労働環境の縮図となっている電通が「結果責任」とは無縁の事業を展開し、経産省の「令和ビジネスモデル」の錬金術に加担していることを批判している。「結果責任」に向き合わない安倍首相を連想させる論旨である。
 田中さんが鋭いのは、メディアの側も過労死に直面する労働環境にあることを見抜いている点だ。いわく「睡眠3時間で3日連続没頭するCMやドラマの撮影・編集、新聞や雑誌の降版・校了、プレゼン準備や広告物デザイン等々、日付変更線超えは日常茶飯事」と。電通を批判できるメディアになる必要がある。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号

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2020年07月22日

「抱きつき取材」見直しを――新聞労連らが6つの改善提言をメディア幹部に送付=藤森研 

  今年5月に発覚した黒川弘務・東京高検検事長と記者たちの賭けマージャン問題は、黒川氏の辞任と検察庁法改正案の廃案で落着した。政権の検察支配の企ては、ひとまず頓挫した。
  賭けマージャン問題は、他方、メディアにも大きな一石を投じた。コロナ緊急事態下、渦中の黒川氏と産経や朝日の記者らが賭けマージャンに興じていたことがあからさまになり、権力者と記者のずぶずぶの関係が白日の下にさらされた。特ダネほしさに取材源に見境なく近づくこうした手法を、元同僚は「抱きつき取材」と喝破した。それは往々にして癒着に陥り、ヨイショ記事に帰結する。
 濃淡はあれ、日本のメディアは取材相手と個人的に親しくなって情報を得ることに精力を注いできた。夜討ち朝駆け、ひそかな会食……。賭けマージャンもその延長上にある。取材相手に「食い込む」ことに長けた記者は、社内で重宝がられ、高い評価を得てきた。
 しかし、そうした取材手法が他方で、「権力監視」というジャーナリズム本来の責務を見失わせ、権力に甘い報道姿勢を招いてしまっていることを多くの市民が見抜いている。改革が必要な時代だ。
 メディア関係者たちからも、自省の動きが出始めた。南彰・新聞労連委員長や林香里・東大大学院教授らが、今回の問題を機に「ジャーナリズム信頼回復のための提言」をまとめ、7月10日、全国の新聞・通信・放送129社の編集局長、報道局長に送った。
 提言は、賭けマージャン問題について「水面下の情報を得ようとするあまり、権力と同質化し、ジャーナリズムの健全な権力監視機能を後退させ、民主主義の基盤を揺るがしていないか」と問題提起。改善のため、以下の6点を提言した。
@ 報道機関は権力と一線を画し、記者会見などの場で責任ある発言を求め、公文書の保存・公開の徹底化を図るよう要請する
A 各報道機関は、取材・編集手法に関する報道倫理のガイドラインを制定し、公開する
B 当局取材に集中している現状の人員配置を見直す
C 権力者を安易に匿名化する一方、立場の弱い市民らには実名を求めるような二重基準は認められないことに十分留意する
D 現在の取材慣行は、長時間労働の常態化につながり、女性ら多様な立場の人の活躍を妨げてきたことを反省し、改める
E 倫理研修を強化し、読者や外部識者との意見交換の場を増やす
 旧来型取材に対する、かなり根源的な問題提起だ。こうした動きが取材手法の改善にどの程度結びつくかを、見守っていきたい。

藤森研(JCJ代表委員・朝日新聞記者OB)
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2020年07月11日

【月刊マスコミ評・新聞】 拉致問題 取材しているのか=白垣詔男

 襟元で泣いてサビてる青リボン―6月9日付毎日1面「仲畑流万能川柳」の1句だ。
 横田滋さんが6月5日に亡くなり(享年87)、6日付朝刊のほとんど全紙が1面で報じ、9日の「万能川柳」に早くも、投稿が載った。
 新聞朝刊社説では7日に朝日、毎日、産経が取り上げ、読売も9日付で追い掛けた。全社説に共通していた主張は「日本政府には問題の解決へ向けた有効な方策を急ぐように強く求める」(朝日)と安倍政権の無策に対する不満を総体的に訴えている。
 なかでも「安倍首相の広報紙」とみられている産経が「安倍首相」の名前を出して「解決」への尻を叩いているのが印象的だ。「政府広報紙」が定着している読売も「政府は様々なルートを通じ、北朝鮮に首脳会談を働きかける必要がある」と具体的な提案をしている。
 ところで、「拉致問題」解決への日朝間の現状はどうなっているのか。全紙、触れていない。取材していないことを白状しているようなものではないか。
 北朝鮮との交渉は一義的には外務省で、それを後押ししているのが首相官邸とみるのが妥当だろう。しかし、その動きは全く見えない。かつて田中均外務審議官が身を挺して北朝鮮との交渉に当たったことは歴史的に知られている。しかし、その田中審議官に対するその後の政権の非情な対応は、「拉致問題」解決が大きく後退した原因になったことは報道に接する限りで国民は知った。
 現在、外務省には第2、第3の「田中均」氏はいないのか。それとも、マスコミが取材していないのか。新聞を読んでいるが、「拉致問題」報道がないのはどうした訳だろうか。取材していないのではないかと疑われても仕方がない。
 安倍首相はじめ左胸に「青リボン」バッジを付けている国会議員らは多く見かけるが、彼らはバッジを付けているだけで何の行動もしていないのだろう。何のための「青リボン」バッジか。正に「泣いてサビてる」ものを付けるだけでいいのか。
 新聞はじめマスコミは「拉致問題」解決に向けて「現状」を取材して政府の動きを報告してこそ、打開できる糸口になるのではないか。何もしなければ安倍政権と同じ「ポーズだけ」と言われても仕方がない。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号
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2020年07月09日

「権力と報道の距離」考えよ 理想と現実の間で闘うのが記者 「黒川賭けマージャン」にみる=徳山喜雄

                 文春記事(黒川マージャン).jpg
  黒川弘務・前東京高検検事長は賭けマージャンで辞職し、法務省の内規に基づく「訓告」という軽い処分を受けた。振り返れば、黒川氏は内閣による脱法的な法解釈変更で定年延長していた。
 内閣法制局長官、日銀総裁、NHK会長など、安倍晋三政権は独立性がきわめて重んじられる要所の人事を恣意的に行なってきた経緯がある。黒川氏の定年延長も検察ナンバー1の検事総長への布石といわれ、「官邸の守護神」と揶揄された。
 検事長が、コロナ禍による緊急事態下に賭けマージャンに興じるのは言語道断だ。黒川氏のお相手を常習的にした産経新聞の社会部記者2人と朝日新聞の元司法担当記者は、どうなのか。
 両紙とも「極めて不適切な行為」とし、産経は記者2人を取材部門からはずし、朝日は元記者を役職からはずしたうえで停職1カ月とした。
報道倫理の問題
  おわび記事(いずれも5月22日朝刊)をみると、産経は「取材対象に肉薄することは記者の重要な活動」として自社記者をかばい、朝日は「取材活動ではない、個人的な行動」とし、元記者に責任を押しつけたとも取れる記事を書いた。
 しかし、ここで語るべきは、「権力と報道の距離」の問題ではないか。両紙ともこれについてはほとんど触れていない。権力と距離を保つことは、報道倫理の最重要事項のひとつである。
 では、産経は取材対象に肉薄し、特ダネや独自ダネを書いたのか、ということだ。だが、ここのところ検察がらみで目立つ記事はでていない。
  黒川氏が検事長時代に指揮をとった総合型リゾート(IR)の汚職報道は、自民党議員の逮捕者もでたが、読売新聞がリードした。産経新聞関係者によると、「マージャンを繰り返している割には、記事がでてこない」との不満が社内にあったという。黒川氏は記者を操る鵜匠だったのか。
 「権力と報道の距離」を改めて考えたい。読売はこの年末年始、IR汚職報道で確かに精彩を放った。一方で、権力との距離の近さもしばしば指摘されてきた。第2次安倍政権発足後のきわめつけは、憲法施行70周年にあたる2017年、安倍首相に単独インタビューし憲法改正について縦横に語らせ、憲法記念日の5月3日に特大記事を載せた。
 改憲という国家の根幹をなす重要テーマは、オープンな場で記者会見し多様な質問を受けるのが、まっとうな対応だろう。
 その後、野党議員が衆院予算委で安倍首相に改憲発言の真意をただすと、「自民党総裁としての考えは読売新聞に相当詳しく書いてある。ぜひ熟読してほしい」と答えた。国会で説明を求められ、「新聞を読んでくれ」とは、前代未聞の答弁である。安倍首相(権力)と読売新聞(報道)の距離が厳しく問われる場面であった。
 気脈を通じた報道機関、あるいは記者からの取材を受ければ、批判的な質問を受けずにすむ。新聞だけでなく放送においても、安倍政権の「メディア選別」は常套手段で、お家芸ともいえる。
公共放送の役割
 公共放送であるNHKと政権の距離も気がかりだ。たとえば、安倍首相と近い関係にある政治部の女性記者が主要ニュースの解説を担当し、その内容はジャーナリズムの要諦ともいえる「権力監視」をしているとは思えない。
 この記者をテレビで見るにつけ、戦前に『放浪記』で人気作家になり、ペン部隊として中国戦線に従軍した林芙美子を想起する。
 林は1938年夏、日本軍が展開した漢口攻略戦に同行、占領翌日に漢口に一番乗りした。行動をともにした朝日新聞記者は「ペン部隊の『殊勲甲』 芙美子さん決死漢口入り」との記事を書いて賞賛。帰国した林は、東京、大阪の各地で従軍報告講演会に登壇、戦争熱をあおった。
 戦中と現在とは違う。だが、「権力と報道の距離」の問題はいつの時代にもある。最前線の記者の苦労はわかる。「きれい事ではすまされない」という声も聞こえる。
  しかし、理想と現実の狭間で闘うことも、記者の役割ではないか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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