2020年06月30日

【月刊マスコミ評・放送】 コロナが現場に未来を連れてきた=三原治

 経済を始め、新型コロナウイルス禍によって、働き方も日常生活も社会の前提が大きく変わった。そして、放送界は今、かつてない試練に見舞われている。
 テレビの新作ドラマは、ほぼ全滅。6月後半に入って、やっとリスタート。バラエティは、少人数が距離を取っての対応となった。生放送の情報・報道番組は、リモート画面だらけで、もはやネット会議である。
 2005年のライブドア対フジテレビの買収騒ぎが懐かしい。なぜ、あの当時、「放送と通信の融合」というキーワードに目くじらをたてていたのか。今では、ネットの力を借りないで放送なんて成立しない。ということは、日本は、10年以上、ネット時代に乗り遅れたということか。
 その乗り遅れを「コロナという外圧」が、一気に時代を進めてくれた。時計の針は未来へ早回り。激震が走ったのは、4月12日。テレビ朝日の「報道ステーション」のメインキャスターを務める富川悠太アナウンサーが新型コロナウイルスに感染した。チーフプロデューサーや複数の番組スタッフの感染者が出たため、スタッフ全員が自宅待機の措置となり、急遽、集められた他番組のスタッフで制作にあたった。
 他局の報道番組や情報番組も軒並み感染対策のため、ZOOMやSkypeなどのテレビ会議ソフトを使ったリモート出演や、別室からの中継など工夫を凝らした番組制作と変わってきた。富川アナウンサーは6月4日、「報道ステーション」のキャスターに約2カ月ぶりに復帰した。この出来事は、放送界に大きな教訓を残した。
 リモートでの報道番組を観ていて気付いたことがある。大きなスタジオに組んだ豪華なセットはいらない。1985年以降、テレビ朝日「ニュースステーション」が変革してきたニュースショーは必要か。巨大な制作費は無駄だ。ニュース番組は、もっとシンプルに内容重視でいいのではないだろうか。勿論、批判すべきテーマは、さらに重点的にやってほしい。特に久米宏氏のような権力に歯向かうタイプのキャスターは、無くなってほしくはない。
 ウィズコロナ、ポストコロナの時代は、災禍を乗り越えて、社会全体が変革を起こしていく契機となるだろう。思考、概念、価値観などが枠組みごと移り変わる社会や経済情勢のパラダイムシフトが起こるに違いない。その時、放送界も変わっているだろう。新たな発想と挑戦が求められる放送界。そんな未来のヒントをコロナは連れてきてくれた。  
三原 治
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号


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2020年06月08日

【月刊マスコミ評・出版】 接触よりも感染機会削減を=荒屋敷 宏

 「惨事便乗型資本主義」を問う好機なのかもしれない。医療や福祉を切り縮めてきた社会の弱点を、新型コロナウイルスの感染拡大が鋭く突いているからだ。とはいえ、改憲や検察官の定年延長にうつつをぬかす安倍政権のもとで、出版メディアは、雑誌の発行に苦闘している。
 ツイッターで盛んに発信している英インペリアル・カレッジ・ロンドン免疫学准教授の小野昌弘さん、京都大学ウイルス・再生医科学研究所准教授の宮沢孝幸さんを登場させた「Voice」6月号の売れ行きがよい。
 同誌で小野さんは、「『夢遊病国家』から脱却せよ」、宮沢さんは、「経済活動は「『一/一〇〇予防』で守れる」と題する論考を寄せている。
 小野さんは、「検査が少ないと批判される英国でさえ、一日で二万人近くを検査しており、検査結果に基づいた統計をデータ活用している。一方日本は十分な検査体制もとれないまま、すでに中盤戦に突入している。この現状はじつに危うい」と指摘している。日本の姿勢については「英国人ならば『夢遊病者のように歩きこむ』というであろう」と辛辣に批判した。
 一方、宮沢さんは、「問題なのは、人類にとって新型コロナウイルスは新種であるため、人口の六〇%がこのウイルスに対する免疫を獲得しないと終息しないことが予想されている点だ」とする。いわゆる「集団免疫」の立場である。宮沢さんは、個人がウイルス感染の原理原則を理解し、接触機会よりも感染機会を削減する努力に期待を寄せている。
 個人の努力でコロナ禍を乗り切れるほど現状は甘くはない。重要な提言をしているのは、「世界」6月号である。同誌で「生存のためのコロナ対策ネットワーク」は、コロナ危機が「生存権を否定し大企業と富裕層のための経済成長を追求する日本社会の構造と、無関係ではない。それどころか、密接にかかわっている」と分析している。そのうえで、「すべての人の生存保障を実現することなく感染拡大の防止は不可能である」との基本認識に立つ「生存する権利を保障するための31の緊急提案」を発表している。
 「現代思想」5月号の緊急特集「感染/パンデミック」は、読み応えがあった。塚原東吾さんの「コロナから発される問い」は、科学史の立場から感染症との闘いや共存の歴史の論点を整理し、「歴史の深い部分からの再検証」を要求している。すべてを疑い、問い続けることは、本来、ジャーナリストの役割でもあるだろう。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

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2020年06月06日

【月刊マスコミ評・新聞】 政治と経済のひずみが露わに=山田明

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言が、全国で延長された。先が見えない自粛・休業のもとで、閉塞感が日本社会を覆う。普段見えにくい社会の病理、政治経済のひずみが、露わになっている。
  毎日5月5日社説は長期化に向き合う支援として、政府や自治体にきめ細かな対応を求める。朝日社説も長丁場想定し戦略描け、休業要請等によって収入の大幅減や雇用不安に直面する人への支援とともに、医療体制の充実は引き続き最重要課題だと指摘する。
 「遅すぎ、少なすぎる」と批判が絶えない安倍政権のコロナ対策。その一方で、東京や大阪など地方自治体の取り組みに注目が集まる。大阪府は自粛解除の3基準、「大阪モデル」を発表した。大阪日日新聞6日によれば、府専門家会議座長は「経済と医療の兼ね合いで作った指標」、知事は「政治判断」と述べ、記事には 「経済立て直しに焦り」の見出し。
 大阪ではメディアに連日登場する吉村知事が脚光を浴び、全国的にも維新の支持率が急上昇している。安倍政権の施策を批判して、「大阪モデル」を打ち出し、それをテレビなどが異常なほど持ち上げる。関西メディアの責任は大きい。国政の場を含めて、維新の動向を注視する必要がある。
 コロナ危機は社会的弱者の暮らしを直撃する。それと次代を担う子どもや若者への長期にわたる影響が懸念される。とりわけ4月に入学した生徒や学生たちの状況が気にかかる。こんな中で「9月入学」が検討されている。前川喜平・元文部科学事務次官は「今ではない 早期の学校再開へ力注げ」(朝日10日)と強調する。
 教育だけでない。コロナ禍の混乱に乗じて、緊急事態条項など憲法改悪の動きも見られる。国会では、検察庁法改正案審議が与党と維新により強行された。内閣の判断で、検察庁幹部の定年延長を可能にするためであり、火事場泥棒の最たるものだ。数多くの弁護士が反対をアピールし、ツイッタ―での抗議署名は数百万に達している。
 新聞はコロナばかりだが、毎日5日の3本の特集が心に残った。2面全体を使った「廣島からヒロシマへ被爆75年」、「ヤングケアラ―反響特集」、それに「沖縄の光と影伝える」地域特集である。
 コロナ禍の新聞報道を注視していきたい。    
 山田明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

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2020年05月12日

広がるファクトチェックの取り組み 国連も声明 FIJが国際プロジェクト=鈴木賀津彦

        ファクトチェック説明図 (002).PNG
 新型コロナウイルス感染症に関連するニュースが連日報道され、世の中に不安感が広がる中で、横行するデマやフェイク(虚偽)ニュースに警鐘を鳴らし、ファクトチェック(真偽検証)に取り組む各国の団体が、国境を越えた協力をして成果を上げている。国連のグテレス事務総長が4月14日、パンデミック(世界的な大流行)をめぐり、「誤情報の危険なまん延」に警鐘を鳴らす声明を発表するなど、ファクトチェックの国際連携はますます重要性を増している。
台湾と連携して成果
 国内のファクトチェックを推進・普及するためのプラットフォーム団体「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」(理事長・瀬川至熨¢蜍ウ授)が、コロナ関連の国内外のファクトチェック記事を紹介する特設サイトを開設したのは今年2月。3月には「国際協力プロジェクト」をスタートさせ、海外のファクトチェック団体への日本に関する調査の協力・支援をする一方、国内団体には、海外情報の翻訳を含めて国内外の調査の支援を行っている。
 台湾で河野太郎防衛相のツイッター投稿を模した画像が拡散されているのを、台湾ファクトチェックセンターが見つけ、FIJに調査を要請。協力した取材の結果、画像は虚偽と判明し、同センターが3月13日に記事にした。日本でもウェブメディアの「インファクト」(立岩陽一郎編集長)が「河野防衛相を装った虚偽ツイートが台湾で拡散」の見出しで詳報、連携した報道ができた。
 ツイッターは「台湾からの五十万のマスク」が日本に着き感謝の意を述べた内容だったが、マスク不足なのに政府が裏で日本に送っているように見せて、政権を批判するために虚偽情報を流したとみられる。
 FIJの特設サイトは「ウイルスの特徴、予防、治療法」「感染者の状況」「当局の対応、その他政治的な言説」「その他様々な言説・うわさ」に分けて、「国内編」と「海外編」に分け検証記事を掲載している。海外編は、各国のファクトチェック団体や海外メディアの記事を日本語の記事にして載せている。近く日本に関する特設サイトも設ける予定だ。
国連も事務総長声明
 根拠のない治療法や噂を含めた偽情報などが世界中を駆け巡り、世界保健機関(WHO)は早くから「インフォデミック(Infodemic、情報の伝の意味、information epidemicを短くした言葉)」への警戒を呼びかけている。国連のグテレス事務総長は14日の声明で、「新型コロナウイルスのパンデミックと世界が闘う中、新たなまん延が発生した。誤情報の危険なまん延だ」(AFP記事から)と述べた。
 グテレス氏は、「健康に関する有害な助言や、いんちきな解決策が増殖している」「放送電波はうそで満ちている」「見当違いの陰謀論がインターネットに影響を及ぼしている」と指摘する一方で、記者や情報の正確性・妥当性を検証する人々を称賛している。そして「団結して世の中のうそやくだらない言動を拒否しよう」「より健康的で、平等、公正な、立ち直りの速い世界をつくろう」と訴えたのだ。
だまされないために
 熊本県では、副知事がSNSで受けたデマ情報をコロナ対策関係者に拡散するという問題を起こし、謝罪会見する事態になったが、同様の危機は誰にでも起こる状況だ。インフォデミックといかに向き合うか、ファクトチェックの取り組みを広げたい。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号



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2020年05月07日

【月刊マスコミ評・放送】かんぽ問題で混迷続くNHK=諸川麻衣

 昨年秋の報道で世間を驚かせた、かんぽ不正を取り上げた2018年4月放送のNHK『クロ―ズアップ現代+』への郵政三社の反発と、それを受けた、経営委による会長への厳重注意処分問題。3月来新たな事実が報道され、問題の深刻さが改めて際立ってきた。
 2018年10月、番組に強い不満を持つ日本郵政の鈴木上級副社長(当時)が経営委に「NHKにおけるガバナンス体制を改めて検証し、必要な措置を講」じるよう求める書面を送った。これを受けて10月23日、経営委員会の「会合」が開かれたが、そこではガバナンス問題だけでなく番組の内容も議論の対象となったというのだ。
 これは「委員は、この法律又はこの法律に基づく命令に別段の定めがある場合を除き、個別の放送番組の編集その他の協会の業務を執行することができない」などと定めた放送法第32条に反する。
 しかも経営委は、この会合の議事録を公開せず、今回報道されてからようやく「議事経過」なるものを公表した。
 さらにその後の報道や国会質疑で、当時の上田会長が件の会合で、「個別番組に関係した形のガバナンスになると対応が非常に難しい」「(経緯が公になれば)NHKは存亡の危機に立たされることになりかねない」と強く反発していたことも明らかになった。
 ところがこの重大な発言は、公表された「議事経過」には載せられていない。
 しかもこの会合の冒頭、経営委員3人からなる監査委員会は、「基本はすべてちゃんと話が会長に上がり、会長指示があってNHKとして動いていた」「協会の対応に組織の危機管理上の瑕疵があったとは認められない」と報告していた。経営委員と監査委員の見解が逆だったのである。
 議事録の公開・非公開を決める経営委員会議事運営規則は、2007年制定当時の経営委員会の決定で非公開とされていた。
 このことが201432国会で問題となり、当時の総務委員会の理事会に提出されたものの、今もって経営委のサイトには掲載されていない。
 これらはいずれも「法律違反」「ガバナンス不全」は経営委の方であることを物語っている。上田会長の当時の行動にも弱点があったと思われるが、前田現会長は定例記者会見で「経営委として番組のことを何も知らないで対応できるのか」と述べ、放送法32条への無理解と自律意識のなさを示した。
 上田前会長の証言による事実のさらなる究明、経営委の刷新は待ったなしである。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号
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2020年05月04日

【月刊マスコミ評・新聞】 コロナ禍の差別や偏見に警鐘を=徳山喜雄

 感染拡大が続く、見えない新型コロナウイルスの脅威は、社会に溶け込んだ差別や偏見をあぶりだすことにもなった。
 例えば、近畿などの感染者増加地域を往来する長距離トラック運転手2世帯の子ども計3人に対し、愛媛県内の市立小学校の校長が登校しないように求めていた。
 3人の体調に問題はなかったが、いずれも4月8日の 入学式と始業式を欠席した。市教委は対応の誤りを認め、陳謝した。毎日が10日朝刊で伝えた。
 読売11日朝刊は医療従事者への差別に着目。筑波大の高橋晶准教授に話を聞き、「感染リスクの最前線に身を挺して立ち、緊張を強いられている。中傷や差別は最もつらいことで、悲しみや落胆を生み、抑うつ状態まで招きかねない。
 国民の支援にあたる人たちをねぎらい、支えなければ、長期にわたるウイルスへの対応を乗り切るのは難しい」と警鐘を鳴らした。
 子どもを対象に備蓄マスクを配ることにしたさいたま市は、同市大宮区にある埼玉朝鮮初中級学校の幼稚部(園児41人)を配布対象から外した。幼稚部の関係者らが市に抗議すると、担当者が「(マスクが)転売されるかもしれない」との趣旨の発言をしたという。
 抗議が相次ぎ、最終的には朝鮮学校にも配布されたが、ジャーナリストの安田浩一氏は「マスク騒動≠ヘ終わっていない」と訴える。「〈マスクが欲しければ国に帰れ〉〈浅ましい。厚かましい〉〈日本人と同じ権利と保護があると思っているのか〉/いま、怒声交じりの電話や罵詈雑言を連ねたメールが同園を襲っている」と東京3月27日夕刊に投稿した。
 命にもかかわるコロナ渦のなか、同じ地域に住む幼稚園児を国籍や人種で差別する発想は、役人の四角四面の政策運営といったものではなく、社会に沈殿した差別や偏見が浮かび上がったように映る。
 見えない脅威からの不安を感じると、誰もが過度に落ち込んだり、他人を攻撃したりすることがある。この間、アルベール・カミュの『ペスト』が新聞報道でよく引用された。登場人物の「かかっていない連中まで心は感染している」との言葉は、言い得て妙だ。
 ただ、全体的に記事量は多くない。コロナ禍による差別や偏見を、対策とともに繰り返し報じてほしい。  
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号


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2020年04月10日

【メディア気象台】 3月初旬=編集部

◇徳島新聞、4月から夕刊休刊  
 徳島新聞社は2日付朝刊に社告を掲載し、4月1日から夕刊を休刊すると発表した。地域のイベントや人物などを紹介する情報紙を創刊し、第二、第四木曜日に朝刊と共に無料で配達する。朝刊の購読料は現行3093円から3400円に値上げする。社告では、購読料を26年間据え置いてきたが、原材料や輸送費、販売店の人件費などのコストが上昇していると説明している。(「東京」3月3日付ほか)
◇音楽家ユニオン、経済的な支援を要望  
 日本音楽家ユニオンは2日、新型コロナウイルス問題での公演キャンセルについて、公演自粛を要請した政府に経済的支援を要望する声明を発表した。声明は、出演者へのキャンセル料が支払われない事例もあり、主催者と出演者との適切な話し合いで支払われるべきだとしている。(「しんぶん赤旗」3月5日付)
◇KBS京都労組、新型コロナで特別有給休暇を新設
 KBS京都放送労働組合は4日、新型コロナウイルス問題で特別有給休暇を新設することで会社と合意した。小学生6年以下の子どもを持つ組合員が休校で休まざるを得ない場合、その期間中、特別有給休暇を日数の定めなく取得できるもの。正社員だけでなく、アルバイトも、再雇用者、無期雇用転換者にも適用される。(「しんぶん赤旗」3月6日付)
◇首相の再会見要望、マスコミ労組声明 
 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は5日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2月29日に開かれた安倍晋三首相の記者会見が説明責任を果たしていないとして、首相と内閣記者会に所属する報道機関に対し、オープンで十分な時間を確保した首相の再会見を求める声明を発表した。声明では「多大な痛みが生じる政策決定の根拠や効果、デメリットを抑える対策を市民にわかりやすく説明し、納得を得る必要がある」と指摘。雑誌やネット、フリーの記者から質問を受けるよう要望した。(「東京」3月6日付)
◇マスコミ企業、男性優位如実〜MIC調査 
 新聞労連などでつくる日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は6日、新聞、テレビ、出版業界における女性管理職比率の調査結果を公表した。新聞は平均6.4%、テレビは6.5%で、政府が掲げる「3割」には依然として遠い状況にあることがわかった。MICがメディアにおける女性管理職比率の調査を行なったのは初めて。(「神奈川」3月7日付ほか)
◇政治広告の自主規制、フェイスブックが拡大
 米フェイスブックは5日、欧米などで始めている政治広告に対する自主規制を3月中旬から日本など32の国・地域に広げると発表した。政治や選挙に関する広告を同社のSNS(交流サイト)で配信する際には、だれが広告料を支払ったかの表記を義務付ける。政治広告の透明性を高める狙いで、同様の自主規制を取り入れる国・地域は世界で約90になる。(「日経」3月7日付ほか)
◇総務相「放送法違反ではない」〜NHK経営委員長発言で
 2018年にかんぽ生命保険の不正販売を報じたNHK番組をめぐり、当時NHK経営委員長代行だった森下俊三委員長が番組に意見を述べたとの国会発言が、放送法で禁じた番組への介入ではないか、との指摘に対し、高市早苗総務相は6日の閣議の記者会見で、この問題に触れ、「経営委員が個別の番組の干渉を行っているのではないかと誤解されるような発言をすることは望ましいことではない」が「放送法に違反するものではない」との見解を示した。(「しんぶん赤旗」3月7日付)
編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

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2020年03月07日

【月刊マスコミ評・放送】 新社屋建設の次はヒトへの投資を=岩崎貞明

 ローカルテレビ局で、このところ盛んに新社屋の建設が続いている。
 地上波放送のデジタル化が完了したのは2012年3月だが、早いところでは2006年ごろには撮影機材やスタジオ設備などのデジタル化を進めていた局もあったから、そろそろ15年を経て、また機材の更新時期を迎える、という事情がある。
 また一方で、CM広告収入が今年度の下半期から目に見えて減少傾向となり、スポットCMのセールスが前年比90%を割り込む局・地域も出始めた。大規模な設備投資をするなら今のうちだ、という経営判断もあるだろう。
 かつて某ローカル局の社長経験者は「放送局の社長がやるべきもっとも重要な仕事は、機材の更新時期を見極めること。ほぼこれに尽きる」と語っていた。
 日本テレビ系の広島テレビ(広島市)は、繁華街の近くにあった本社から、JR広島駅新幹線口の前の再開発事業に参画して、ホールも備えた立派な新局舎に移転した。しかし広島駅の北側はまだまだ人通りの少ない地域で、この移転が吉と出るか凶と出るか。
 フジテレビ系の福島テレビ(福島市)は、以前の社屋の隣に、サイズを小さくした新社屋を建てた。一人当たりの専有面積も小さくなったということだが、「身の丈に合わせた局舎にした」ということだ。
 同じフジ系の沖縄テレビ(那覇市)は、バスターミナル近くに新社屋用の土地を確保していたが、空港の進入路にあたって高さ制限にひっかかり、新社屋の計画が白紙になったという笑えない話もある。
 TBS系では東北放送(仙台市)や南日本放送(鹿児島市)など老舗の局がいよいよ新社屋建設計画の最中で、長崎放送(長崎市)も駅前再開発に乗って新局舎に移転する予定だという。
 その長崎放送では、経営の先行き不透明感から、中高年層の大幅な賃金ダウンを含む新人事制度を労組に提案して、労使紛争の種となっている。昨年の年末一時金も超低額回答だったことから労組が無期限ストに突入し、社長が組合員との対話に臨んでようやく収拾した経緯もあった。
 カネのあるうちにハコモノ投資を、という経営の考え方もわかるが、放送局の最大の資産は番組制作などに携わる働き手にあるはずだ。人的資産の価値向上に向けて、この春闘では改めて「ヒトへの投資」に期待したい。
 岩崎貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号

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2020年03月05日

【月刊マスコミ評・新聞】 毎日も指摘 首相のおかしな答弁=山田明

 新型肺炎が国内外を揺るがしている。グローバル時代の感染症拡散は、中国が世界経済で大きな位置を占めていることを改めて示した。
 日本も製造業や観光業などで、中国依存が顕著だ。消費増税の影響とともに、新型肺炎拡大による景気悪化が懸念される。
 感染リスクとからめ、自民党の国会議員などから憲法を改正して「緊急事態条項」を新設すべきだという声が出ている。国民の不安を改憲の口実にするもので、不謹慎でふまじめとの声が上がる(東京2月4日)。
 国会では「桜を見る会」やIR汚職などで論戦が繰り広げられている。毎日9日社説「安倍首相の国会答弁だれが聞いてもおかしい」は、首相の繰り返す破綻した強弁が本来の国会論戦を妨げているのではないか、と指摘する。安倍首相にやましいことがなければ、調査して証拠を示せばいい。どう考えてもおかしい、首相の居直りと強弁に、マスコミ全体が問題にすべきだ。
 IR汚職が政界中枢にまで及びつつある中で、安倍政権は検察組織のトップ人事にまで介入する動きをみせた。
 朝日11日社説の検察と人権は、異例の人事膨らむ疑念と問題を投げかける。「いまや政権にモノを言えない空気が霞が関を覆い、公文書の隠蔽・改ざんなど深刻なモラルハザードを引き起こしている。ついに検察も。そんな受け止めが広がり、政治になびく風潮がさらに強まることを、憂う」。
 来月3月11日には、福島第一原発事故から10年目に入る。原発事故の周辺地域を見ると、「復興五輪」などと浮かれておれない。全国に避難している人たちに思いを寄せたい。原発賠償関西訴訟原告団は、「ふつうの暮らし 避難の権利 つかもう安心の未来」を求め、国や東電の責任を問い続けている。
 司法判断により再び運転停止に追い込まれた四国電力の伊方原発は、重大トラブルが連続している。1月25日には、3号機の核燃料プールの冷却装置が43分間にわたって停止した。あの過酷事故を思い起こさせた。
 東京2月1日「こちら特報部」は、電源喪失という重大事態でありながら、事故情報が県や地元の伊方町に伝えられただけで、住民にはすぐに知らされなかったと。今回も地元住民がおきざりにされた。
 私たちは決して3・11原発事故を忘れてはならない。
 山田明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号


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2020年02月25日

【編集長EYE】 特例法ある限り新聞社に希望ない=橋詰雅博

 米国の大手新聞が再編に突入している。全国紙USAトゥデーなどを発行する新聞大手ガネットは、日刊紙を含む450紙を傘下に持つ投資会社ニューメディア・インベストメント・グループによって昨年末に買収された。ガネットの社名は残るが、投資ファンドが600紙を束ねる全米トップの新聞社を誕生させた。
 74紙を抱えるトリビューン・パブリッシングも、ニューヨークのファンドが運営し、133紙を持つMNGエンタープライジズが求めた株式32%取得に応じた。合併は必至とみられている。再編を主導する投資ファンドは、合併で読者数が増えれば広告収入が上がると見込んでいる。
 7年前には米ワシントン・ポスト紙は、アマゾン・ドット・コムCEOのジェフ・ベゾスが買収した。ベゾスが紙媒体のデジタル化を推進した結果、100万を超す有料デジタル版読者を得て業績は回復した。
 質の高い報道と効率的な経営をどう両立させるかが課題だが、米大手新聞社は外部から資金を受け入れ経営不振を乗り切ろうと躍起だ。
 日本の新聞業界も部数激減に伴い業績は落ち込む一方である。19年の部数は3781万で、10年前と比べて1254万減った。売り上げも18年度1兆6600億円と04年度より7178億円失った。
 日本の新聞社も米国のように外部から資金を調達し経営を立て直すことができないのだろうか。
 1月下旬に都内で講演した「2025年のメディア」(文藝春秋)の著者の下山進さんは、こう解説した。
 「それを阻んでいるのは日刊新聞法です。1951年にできたこの特例法は、株式の譲渡を制限している。とはいっても事実上、株式の譲渡はダメというのが現実です。従って買収もされない。読売新聞グループ本社の山口寿一社長は日刊新聞法のおかげで報道の自由が守られていると主張するが、私は変化を阻んでいると思います」
 日本の新聞社はこのままではもたない。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号

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2020年02月19日

【メディア気象台】1月下旬から2月初旬=編集部

◇NHK、まとめサイトを提訴
京都アニメーションの放火殺人事件をめぐり、ネット上の情報をまとめたサイトが虚偽の情報・拡散したとして、NHKは24日、サイトの編集長を相手取り700万円と同サイトでの謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こした。問題のサイトは「LH MAGAZINE」。事件発生後まもなく、NHKのディレクターが容疑者の遺留品を回収しているかのように加工されたNHKニュース映像の画像を掲載し、「なんで警察が来る前に勝手に回収してんだよ」などの投稿を引用し拡散した。(「朝日」1月25日付ほか)
◇紙と電子合わせた出版、前年比増
出版科学研究所は24日、2019年の出版市場(紙と電子の合算)が前年比0.2%増の1兆5432億円だったと発表した。14年に紙と電子を合算した出版市場統計を開始して以来、初めて前年比プラス成長となった。(「毎日」1月25日付ほか)
◇「写真から黒人を削除」批判
スイス・ダボス会議で24日に閉幕した世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」に参加した若者の環境活動家5人の集合写真をめぐり、黒人女性でウガンダ出身のバネッサ・ナカテさん(23)だけトリミングして配信した米通信社APに「人種差別的」と批判が集まっている。APは英メディアに「あくまで構図の問題だった」と主張し、ナカテさんの後ろに建物が写り込んでいたため、締め切り時間が迫る中でトリミングしたと釈明している。(「東京」1月26日付ほか)
◇NHK受信料の追加値下げ要請〜総務相意見書
高市早苗総務相は5日、NHKに受信料の追加値下げなどを求める意見書をまとめた。受信料は2020年度までに、値下げや支払い免除対象拡大などで、18年度受信料収入の6%を還元することが決まっている。総務相意見書では、NHKの19年度末の繰越金見通しが1千億円に上ることなどから「6%相当の還元にとどまらず、受信料の在り方について不断に検討する必要がある」と指摘している。(「しんぶん赤旗」2月7日付ほか)
◇遺族意向で氏名非公表〜黒岩神奈川県知事
黒岩祐治神奈川県知事は6日、斜面崩落事故で亡くなった女子生徒の氏名が公表されていないことについて、「ご家族が公表を望まない気持ちが強いと聞いており、発表を差し控えている」と述べた。知事は個人的な考えと断った上で「情報は正しく出していくことが基本。本来はただちに(氏名を)発表すべきだ」と強調。一方で「国の統一的な公表基準がまだできていない」と理解を求めた。(「神奈川」2月7日付ほか)
◇ヘイト犯罪対策求め、NGOが政府に署名提出
在日コリアンの虐殺宣言に爆破予告と、川崎市の多文化交流施設「市ふれあい館」を標的にヘイトクライム(差別に基づく犯罪)が立て続けに起きている問題で、人種差別撤廃に取り組む非政府組織(NGO)「外国人人権法連絡会」は6日、さらなる差別と犯罪の抑止のため早急なヘイトクライム対策を求める署名を政府に提出した。同会の師岡康子弁護士は、相次ぐ脅迫は明白かつ危険なヘイトスピーチだと指摘。政府には人種差別撤廃条約とヘイトスピーチ解消法に基づき非難声明を出し、継続しているヘイトクライムを終了させる義務があると強調した。(「神奈川」2月7日付)
編集部

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2020年02月03日

【月刊マスコミ評・新聞】 障害者殺傷公判 匿名審理正しいか=徳山喜雄

 障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が殺害され、26人が負傷した事件の裁判員裁判が始まった。植松聖被告の「障害者は生きていても仕方がない」という言葉が改めて衝撃をもたらし、匿名審理を巡っても議論が巻き起こった。
 裁判では横浜地裁が被害者の名前を法廷で明らかにせず、「甲A」「乙B」といった記号で呼ぶことになった。しかし、19歳の娘を失った母親がこのことに違和感を覚え、名前を公表した。
 名前は美帆さん。毎日が1月8日朝刊の1面トップにし、社会面でも大きな受け記事を掲載、手厚く報じた。遺族提供の4枚の美帆さんの写真が目を引く。「美帆は一生懸命生きていました。その証を残したいと思います。美帆の名前を覚えていてほしいです。……娘は甲でも乙でもなく美帆です」とする手記(要旨)も読ませた。
 法廷の様子も通常の裁判とは違ってくる。84席ある傍聴席の3分の1が被害者遺族や負傷者の家族に割り当てられ、遮蔽板を置いて他の傍聴人からは見えないようにした。日経は「匿名審理 揺れる遺族」との連載記事で、匿名化について掘り下げた(1月7日朝刊)。
「最高裁によると、09〜18年で(刑事訴訟法が定める)秘匿制度の適用が認められた被害者は約3万8900人に上る。認められなかったケースは約560人にとどまる。法廷での『匿名』は珍しい光景ではなくなっている」とする一方で、「一人ひとりの命の重み、事件の悲惨さを具体的に知ってほしいとの願いから、実名での審理を望む犯罪被害者遺族もいる」と読み解いた。
 さらに日経連載は「匿名のままでは事件の風化につながる恐れがある」とし、読売も初公判を報じる記事(1月9日朝刊)のなかで「匿名化により社会の関心から遠ざかる」という声を伝えた。
産経(1月9日朝刊)は、「全国知的障害者施設家族会連合会」(神戸市)理事長の「社会にはいまだに障害者への根強い差別感情がある。今回、司法がこういう決定をしたことで、差別意識を助長することにならないか心配だ」とする談話を紹介した。匿名審理が「差別意識の助長に繋がる」との視点も見逃せない。
 被害者の実名をどう報じていくのか。さらなる議論が求められる。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号

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2020年01月27日

韓国メディアに広がるファクトチェック 17年大統領選がきっかけ ソウル大研究者と労組幹部が報告=橋詰雅博

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 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)と韓国の全国言論労働組合(言論労組)が14年ぶりに交流を復活させて、共同でファクトチェックができないかの検討を始めると本紙12月号で報じた。その言論労組首席副委員長のソン・ヒョンジュンさんと、国立ソウル大(SNU)ファクトチェックセンター所長のチョン・ウンリョンさんが日本のファクト・イニシアティブの招きで来日し、1月11日に早稲田大学で講演した。
ソンさんは公共放送のKBS、チョンさんは東亜日報、どちらも記者出身だ。日本の先を行く韓国メディアの活発なファクトチェックを二人が語った。
27メディアが加盟
 SNUファクトチェックセンターの概要をチョンさんは、こう説明した。現在、新聞やテレビ、ネットの27メディアが加盟する同センターの設立のきっかけは、現大統領の文在寅らが出馬した2017年の大統領選だった。国内世論の後押しもあって各候補者の発言や主張が正しいかそうでないかのチェックが必要ということで、政治的中立性を保てる大学内に発足した。この17年が韓国ファクトチェックの元年と位置づけられている。3月下旬から5月初旬にかけて各メディアが検証を行った約180件のうち、半数が誤りと判定された。同センターは各社から提供される検証記事を集約するプラットフォームの役割を果たしている。運営費は韓国を代表するポータルサイト「ネイバー(NAVER)」が提供。ネイバー上で流されたニュースの広告収入の30%をセンターが受け取っている。今年が3年契約の最終年で、契約更新の有無はまだ決まっていない。
JTBCが先駆け
ソンさんは韓国放送界を中心にファクトチェックの現状を報告した。
 放送や新聞などでファクトチェックが広がった大きな理由は、2つある。14年のセウォル号事件で事実と異なる報道により主要メディアの信頼が地に落ちたためメディア間で挽回の機運が高まったのが一つの理由。もう一つは中央日報系の新興テレビ局JTBCが14年から設けたファクトチェックコーナーが人気を呼んだことだ。こうしたことで、KBSやMBC、SBSなどの各局がファクトチェックコーナーを次々に設けた。朝鮮日報、韓国日報、中央日報、韓国経済といった新聞や連合ニュースなどの通信社、ノーカットニュースなどのネットメディアもファクトチェックに乗り出した。
 ソンさんの出身メディアKBSは、放送で流したニュース記事、ホームページに掲載した記事、ユーチューブに上げた動画をそれぞれファクトチェックしている。
 にもかかわらず国民のメディアへの信頼はまだ回復していない。デジタルニュースレポートによれば、国別ランキングでは17年は36カ国中36位、18年が37国中37位、19年は38国中38位と3年連続で最下位だ。ファクトチェックは政治的に利用されるリスクを伴うが、国民の信頼を得るには「ファクトチェックジャーナリズムは韓国メディアにとって最低限の仕事」と認識されている。
 メディアに対する評価のレベルが高くなっている国民と共にファクトチェックを軸とした「メディア改革」の世論形成とその拡大がこれからの課題だと指摘した。
 日韓による共同ファクトチェック作業については「議論がまだ深まっていない」そうだ。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号
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2020年01月09日

市民メディア全国交流集会inあだち SNS時代ローカルの「これから」を模索 ケーブルTV、ミニコミ紙、コミュニティFMなど参加=鈴木賀津彦

 多様な市民メディア活動に携わる全国各地の人たちが集まり交流する「あだちメディフェス2019(第17回市民メディア全国交流集会)」が11月23、24両日、東京・足立区の北千住で開催された。情報の発信者に誰もがなれる時代に、市民の発信力をさらに高めて、地域のコミュニティ活動などを活発にしていこうと、開催都市を変えながら毎年開いている。

今年は北千住でインターネット動画の番組を配信する「Cwave」のメンバーらが事務局になり企画・運営した。「動画メディアの進化」「市民が街の魅力を発見する、発信する、発想する」をテーマに、各地のケーブルテレビから、ミニコミ誌やコミュニティFM、インターネットの動画配信で地域情報の発信に取り組む団体や個人、さらにローカルメディアなどを研究課題にしている大学生らが参加し、議論を深めた。

ご当地アイドルも

街歩き企画「北千住リアル謎解きゲーム」なども併催、二日間で600人弱の参加者があった。会場も、銭湯が廃業し、長年使われていないビルの地下空間を劇場のように改装してアートスペースにした「BUoY(ブイ)」をメーンに、東京芸大千住キャンパスや東京芸術センターのスタジオなどで、地域の連携を生み出す効果もあった。

初日は、市民メディアをテーマにネット放送の特番を組んだ「12時間生放送」や、各地のローカルメディアの活動発表のほか、地域の「キーパーソン取材」に行く実践企画など盛りだくさん。懇親会での交流も、ご当地アイドルが出演するなどネット時代のメディア活動の盛り上がりを示すものとなった。

翌日は二つのセッション。まず、シティプロモーションを意識した「足立で生きる≠発想する」のワークショップでは、東海大学の河井孝仁教授の指導で、足立区をもっと生きがいのある町にするために、参加者が企画力や表現・発信力をどう高めるかを考えた。

最先端事例を紹介

「SNS時代のこれからのローカルメディア」のセッションは、著書に『ローカルメディアのつくりかた』などがある影山裕樹さんが、全国で取材した先端事例を紹介。元TBSキャスターで令和メディア研究所主宰の下村健一さんの進行で、各地でメディアづくりに取り組んでいる参加者らの発言を交え「これから」の在り方を議論した。

5Gなど送信速度が高まり、動画の発信などに注目が集まるネット時代だが、一方で地道な雑誌メディアが地域で大きな役割を果たし、活字メディアの未来も語られた。「市民が自主的、主体的に、各自にふさわしいメディアを活用して表現、発信している」取り組みが強調され、情報の単なる受け手ではなく発信者になることで、メディアリテラシーも高められることが示された集会となった。

鈴木賀津彦

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年12月25日号
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2020年01月08日

【月刊マスコミ評・新聞】田中真紀子氏の安倍評に納得=白垣詔男

「桜を見る会」の疑惑にフタをさせまいと野党が、異例とも言える、臨時国会の会期延長を求めたが与党側は安倍晋三首相に最後まで「一問一答」形式の審議をさせないままで強引に閉幕した。

12月10日付毎日新聞夕刊2面の「特集ワイド」に田中真紀子元外相が登場。「通算在職日数が憲政史上最長となった安倍首相をどう見ているか」との質問に田中さんは「はぐらかす、ごまかす、強弁する。たちの悪い人。勉強もしていない。権力の頂点に立つと、その人の特性が出ると言うけど、安倍さんは姑息な人だと思います」とズバリ斬っている。その「正確な安倍評」には納得できる。

さて、臨時国会の閉幕にあたって各紙社説がどう主張しているか―。

朝日(10日付)は「政権の専横を忘れまい」、毎日(10日付)「長期政権のひずみ一段と」、西日本(7日付)「疑惑の幕引きは許されない」との見出しで3紙とも「税金による公私混同」「招待者名簿を廃棄した公文書隠ぺい」を指摘している。

それに対して読売(8日付)は「政策論議の劣化を懸念する」との見出しで「首相側は地元後援会員らを多数招待していた。桜を見る会の趣旨に反しており、節度を欠いたとの批判は免れない」「野党5党は…事細かに問題点をあげつらった」と書き、安倍内閣の「公私混同」「公文書隠ぺい」には触れていない。産経(10日付)は「臨時国会閉幕、役割果たしたとは言えぬ」との見出しで「内閣府による招待者名簿破棄などがあり、首相や政府側の説明は十分ではなかった」と書いているが「税金の公私混同」は不問だった。

既に「ジャーナリズム」ではない読売、産経は、「安倍政権応援団」の色彩が強くなっている。「桜を見る会」を扱った社説は読売が11月14日付「桜を見る会中止 疑念の払拭へ政府は襟を正せ」と1回だけ。産経もこの間、11月24日の「桜を見る会 花見をやっている場合か」と題する1回だけだった。その社説では「(安倍)首相在任中の中止も決めるべきだろう」「選挙目当てに私物化したと批判されても仕方あるまい」と指摘している。しかし、後が続かなかった。

これに対して朝日、毎日、西日本は3〜4回、節目節目で、安倍政権が「疑惑解明」に積極的ではないことを指弾していた。

白垣詔男

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年12月25日号
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2020年01月07日

【月刊マスコミ評・放送】 NHKの独立性 揺れつつ越年=諸川麻衣 

「桜」で霞みがちだが、NHKのあり方がさまざまな点で大きく問われた一年だった。

「NHKから国民を守る党」の国政進出で注目され、支持する世論が多い「スクランブル放送化」=事実上の公共放送解体。NHKも総務省もスクランブル化は否定するが、衛星デジタル放送で導入されたCAS(限定受信システム)も、将来のネット配信に想定されるパスワードも、実態はスクランブル放送では?

 かんぽ不正を取り上げた『クロ―ズアップ現代+』の続編の中止、経営委による会長への厳重注意という放送法違反の番組への介入、さらにNHK幹部の郵政側への情けない「謝罪」。慰安婦番組の改変問題に匹敵する外圧への屈服だが、真相究明も責任追及もなされず…。

 「官邸に近い」とされる板野元理事の復活人事と、明治憲法を礼賛し、安倍応援団を自認する長谷川三千子経営委員の異例の三期目就任。

 要員と予算を食うばかりの「国策」の4K8K放送。自宅で視聴したことのある人はたった一.五%に過ぎない!

 放送法改正で道筋がついたはずの「ネット同時配信」に、二年ぶりに就任した高市総務相が「既存業務全体の見直しと受信料額の検討」を求めて「待った」をかけた問題。NHKの悲願であるネットからの受信料徴収は遠のいた。高市発言を「桜を見る会」報道と結びつけた今井尚哉総理秘書官兼補佐官の暴言も、NHKを政権に無害なメディアにしておきたいとの狙いを示すものだった。

 さらに秋以降、局内の報道・スポーツの部署で複数の急死者が出たとの情報がある(詳細は公表されていない)。仮に過労死なら、鳴り物入りの「働き方改革」の内実が鋭く問われることになる。

前田晃伸・次期会長は「政権との距離で大事なのは公平感、信頼される番組作りが大事」と述べているが、ここに挙げた諸課題はほぼそのまま来年に持ち越されそうである。そして数年後には世帯数が減少に転じ、今は好調な受信料収入にも黄信号が点る。「経営体として存続するためには、放送法の定める自主自立を投げ捨てて政権にすり寄っても構わない」と言わんばかりの幹部の一連の振舞いは、NHKの独立を財政面で保障するための受信料制度の根拠を、自ら掘り崩すことになる。

一方で今年は、予算などを盾に取った権力の放送支配を防ぐため、放送行政を独立行政委員会に移そうとの動きも改めて活性化してきた。来年は、「オリパラ」などよりこうした問題こそ注目の的かも知れない。

諸川麻衣

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年12月25日号
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2020年01月01日

【メディアウオッチ】市民と野党共闘で放送の独立を実現 新法性で報道の自由徹底 欧米では第三者委員会が権限=JCJ代表委員・隅井孝雄

市民と国会議員、放送関係者が「独立行政委員会で行う新たな放送法制の構築」を目指すキックオフ集会≠ェ3日、参議院議員会館で開かれた。集会では、市民連合呼びかけ人の山口二郎法政大学教授が「自由な報道は民主主義のインフラ」と強調。参加者全員が「独立行政委員会」実現へ全力で取り組むことを確認した。集会で発言した隅井孝雄JCJ代表委員に、新たな運動の意義などについて寄稿してもらった。

<strong>50年ぶりに感動</strong>

 7月の参議院議員選挙に先立ち、市民連合が4立憲野党1会派と取り決めた統一要求の第13項目として、「国民の知る権利を確保する観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築する」

と明記されているのを目にし、私は新たな感動すら覚えました。

 私自身が「放送改革試案」を発表、放送行政を政府から切り離すべきだと提案したのはほぼ50年前のことです。

<strong>田キャスター退任</strong>

当時、私は民放労連の放送対策担当の副委員長などを務めておりました。1960年代後半から70年代にかけて、放送メディアに対して政府から直接的な介入、干渉がさまざまありました。

 一つだけ、TBSの例を申し上げますと、日本最初のニュースキャスターだった田英夫さんが北爆下のハノイを取材「ハノイ、田英夫の証言」(67年10月)を制作しました。

 これに対し、福田赳夫、田中角栄ら政府自民党首脳は今道潤三社長らを呼びつけ「反米番組だ」などと直接叱責。その後、TBSへの圧力が一段と強まる中、田キャスターは68年3月、番組から消えました。

<strong>放送改革試案」</strong>

 民放労連では、日本でどうしたら放送を真に報道機関たらしめるか、真剣に議論を重ね、70年「放送改革試案」を作りました。

 その第1項目が「民主的な行政を確立するために、中央と地方に放送委員会を設け、電波・放送行政を郵政省(現総務省)から切り離す。委員は公選制とする」です。

 切り離すだけでは不十分と考えた私たちは、視聴者、国民の発言権を保障する制度を検討しました。現在のBPO(放送倫理、番組向上機構」がそれにあたります。

 さらに労働者、制作者の権利保障として、個々の放送企業内でも職場、職能組織代表の発言の場を設けるとともに、番組編成制作にかかわる首脳陣のリコール権、良心に反する業務の拒否権が必要などを盛り込みました。放送メディアの立体的運営を図ったといえる

でしょう。

<strong>EU報道憲章」</strong>

政府が放送の監督権限を握っているのは、日本の他、中国、北朝鮮、ロシア、ベトナムラオスなど、限定的です。それ以外の国はメディアの独立性を尊重し、第3者委員会が免許や管理権限を持っています。

 ここで、EU(ヨーロッパ連合)が2009年に制定した「EU報道憲章」を紹介します。その第1項目は「報道の自由は民主主義には欠かせない。報道の自由、政治的文化的多様性を守ることは政府の責務である」。第2項目は「すべてのメディアの独立性は守られる。

メディア、ジャーナリストを一切、刑罰、処罰の対象にしない。独立性を妨げる立法は制定してはならない」としています。

 NHK、民放はいずれもインターネットとの融合を図り、力を蓄えつつ新しい時代に入ろうとしています。今こそ放送を政府の監督下から切り離すべきです。

 私は、市民連合と野党共闘の力で、日本の放送が政府から独立した存在となることに、再度努力したいと思います。

<strong>JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年12月25日号</strong>

 

 


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2019年12月23日

【メディア気象台】 11月末から12月初旬=編集部

◇樹木希林さん関連本、ベストセラー席巻
俳優の樹木希林さんが昨年9月に亡くなった後、関連本の出版本が相次ぎ、今年の出版界を席巻した。出版取次大手の日販とトーハンは28日、2019年の年間ベストセラーを発表、両社とも1位は「一切なりゆき 樹木希林のことば」(文芸春秋)だった。また日販の3位には「樹木希林 120の遺言」(宝島社)が入り、トーハンでも5位になった。(「朝日」11月29日付)

◇ヘイト名誉毀損認定、罰金刑〜京都地裁
ヘイトスピーチをしたとして名誉棄損罪に問われた「在日特権を許さない市民の会」の元京都支部長の西村斉被告(51)に対し、京都地裁は29日、罰金50万円(求刑懲役1年6月)の判決を言い渡した。懲役刑ではなく罰金刑とした理由を「公益を守る目的で主張を述べる中、名誉毀損の表現行為に及んだもので、相応に考慮すべきだ」と説明した。ヘイトスピーチをめぐり侮辱罪ではなく、より量刑の重い名誉棄損罪が適用されたのは極めて異例。(「朝日」11月30日付ほか)

◇福島氏の名誉「記事が毀損」
社民党の福島瑞穂副党首が、静岡新聞のコラムで名誉を傷つけられたとして、筆者で政治評論家の屋山太郎氏に330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は29日、請求全額の支払いを命じた。問題となったのは、今年2月6日付で掲載された屋山氏のコラム。福島氏について「実の妹が北朝鮮に生存している」などと批判したが、同紙は3日後に記事を訂正し謝罪した。(「朝日」11月30日付ほか)

◇ネット同時配信、時間短縮を検討
テレビ番組を放送と同時にインターネットに流す「常時同時配信」を巡り、NHKが経費削減のため、配信時間を短くする方向で検討していることが分かった。従来の案では1日24時間の配信だったが、深夜などの時間帯は配信しない変更案が浮上している。(「東京」12月1日付ほか)

◇電通、違法残業で是正勧告
広告大手「電通」で、2018年に社員の違法残業などの労働基準法と労働安全衛生法違反があったとして、三田労働基準監督署が9月に是正勧告していることが、同社への取材で分かった。同社をめぐっては15年12月に新入社員高橋まつりさん=当時(24)=が過労自殺。法人として労基法違反罪で有期判決を受け、確定したにもかかわらず、適正な労務管理をしていなかった実態が指摘された。(「東京」12月6日付ほか)

◇映画の助成不交付、提訴へ
日本芸術文化振興会(河村潤子理事長、芸文振)が映画「宮本から君へ」の助成金を「公益性の観点」から不交付にした問題で、制作会社のスターサンズは7日までに、不交付決定は違憲かつ違法であるとして、芸文振に対して取り消しを求めて東京地裁に提訴する方針を固めた。芸文振は芸術文化活動の援助にかかわる文化庁所管の独立行政法人。「宮本から君へ」は真利子哲也監督の人間ドラマだ。原告となるスターサンズの河村光庸社長によると、3月に芸文振から1千万円の助成内定を得た。ところが、出演者の一人、ピエール瀧さんが麻薬取締法違反で執行猶予付き有罪判決を受けたことから、7月に「公益性の観点から適当ではない」との理由で、「不交付」を通知された。(「朝日」12月8日付)

編集部
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2019年12月06日

【メディアウオッチ】NHK違憲の大嘗祭費支出を容認 岩田記者フェイク交えて解説=河野慎二

奉祝報道を競う
 天皇の即位に伴うパレード「祝賀御列の儀」が10日、行われた。NHKと民放キー5社は特番を編成し、このパレードを完全生中継した。
新聞のテレビ欄を見ると「カメラ46台展開歴史に残る30分お届け」(NHK)、「新時代の幕開け祝う歴史的瞬間≠ノ歓喜」(日本テレビ)、「新時代祝う令和の調べノーカット生中継」(テレビ朝日)などと、各局が奉祝報道≠競い合う。
 NHKが銀座のブライダル会社にまでカメラを出し生中継した。皇后の衣裳が関心を呼び「ローブデコルテに問い合わせが殺到」とリポートするが、「そこまでやるの?」と呆れる。

国民主権どこへ
 憲法第4条が定める国事行為としての「即位の礼」は、このパレードで五つの儀式がすべて終わったが、メディアの報道に共通するのは、憲法の国民主権や政教分離原則に根差した報道が欠落していることだ。
 象徴的なケースは10月22日に行われた「即位礼正殿の儀」の報道である。高御座(たかみくら)に立つ天皇を仰ぎ見る形で安倍首相が万歳三唱の音頭を取り、参列者が唱和した。憲法の国民主権はどこへ行ったのか。テレビは映像を垂れ流すだけで、憲法上の疑義には触れない。

 今回の「祝賀御列の儀」特番で、NHKの番組構成に重大な疑問が残った。それは、大嘗祭に関わるコーナーである。
 大嘗祭は、即位した天皇が今年取れた新米を天照大神や神々に供え、自らも食べて国民の安寧を祈る宗教行事で、14日から15日に行われた。
 NHK社会部の岡本記者は、秋篠宮が昨年の会見で経費について「大嘗祭は宗教色が強いことを踏まえて、天皇の生活費にあたる内廷費から支出されるべきだ」との考えを示したと説明、「皇室の公的予算である宮廷費からの支出を決めている政府方針と異なる異例の意見表明になった」と指摘した。
 大嘗宮建設費などが27億円に上ることについて秋篠宮は「身の丈に合った形で行うのが本来の姿ではないかと述べた」と解説した。
 岡本記者の解説は至極真っ当なものだが、ここで安倍政権に極めて近い岩田明子記者が登場する。

公的資金支出当然視
 岩田記者は「大嘗祭は極めて重要な伝統的皇位継承儀式として、政府が手立てをするのは当然としている。このため、宮内庁が管理する宮廷費から支出することにした」と、まるで安倍晋三首相の代弁のような解説。
 大嘗祭への公費支出は政教分離を定めた憲法に反する。岩田記者は「各地で裁判が起こされているが、いずれも国が勝訴し、司法の場でも肯定されている」と解説し秋篠宮の提言を一蹴した。
 岩田記者の解説は事実に反している。大阪高裁は95年3月、賠償請求は退けたものの「政教分離規定に違反するのではないかとの疑義は一概に否定できない」との判決を出している。
 フェイク混じりの岩田解説を容認し、官邸忖度のパレード特番を編成した「公共放送」NHKの責任は重い。

河野慎二

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年11月25日号
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2019年12月03日

逮捕で安易に犯人視 報道が冤罪つくる恐れ 袴田事件もとに小石さん講義=須貝道雄

 「報道が冤罪をつくってしまう恐れがある」。11月24日に東京で開いたジャーナリスト講座で、講師のフリーライター・小石勝朗さん(元朝日新聞記者)は静岡県で起きた「袴田事件」を取り上げ、警察取材の難しさを話した。 

 着衣次々変わる
 講座では、53年前の事件発生時の新聞紙面を見せながら、報道のあり方を問いかけた。警察情報に依拠し、「疑わしい人物」を安易に犯人視する記事、見出しの問題だ。
 例えば毎日新聞1966年7月4日の夕刊。見出しに「清水の殺人放火、従業員『H』浮かぶ、血ぞめのシャツを発見」とある。直後の7月5日朝刊記事では「血ぞめのシャツ」は消え、「血ぞめのパジャマ」に変わる。「従業員『袴田』に逮捕状」の記事では見出しに「寝間着の血がキメ手」とあった。小石さんは「これらパジャマや寝間着は、裁判での袴田さん有罪に何もつながっていない」と語った。
 起訴段階で検察側は、袴田さんはパジャマ姿で犯行に及んだとした。しかし裁判の途中で着衣を変更してしまう。事件から1年2カ月後、会社の味噌樽から多数の血痕がついた衣類5点が「発見」される。この5点の衣類が犯行時の着衣で、血痕は血液型から、被害者の返り血と袴田さんの血だと検察側は主張した。

「不敵な」と表現
 5点の衣類は袴田さん死刑判決の根拠となった。しかし第2次再審請求で静岡地裁が実施したDNA鑑定により事態は動く。弁護側鑑定人から、衣類の血痕は被害者の返り血や袴田さんの血ではないとの結果が出て、再審開始決定につながった。
 いったん警察に逮捕されると、その人を犯人視する報道は雪崩のように広がる。袴田事件はその典型だった。
 「袴田を連行、本格取り調べ」では、写真にそえて「不敵なうす笑い」の見出しが。「袴田ついに自供」の記事では「葬儀の日も高笑い、ジキルとハイド≠フ袴田」の見出しだ。
 小石さんが「何でもありですね」と嘆いたのは静岡支局長のコラムの文章だった。「彼の特色といえば、情操が欠け、一片の良心も持ち合わせていないが、知能だけは正常に発達していることである」

予断与えないか
 一連の報道が裁判に強く影響したと小石さんは指摘した。一審の静岡地裁で死刑判決を起案した元裁判官の熊本典道さんはインタビューで、自分は袴田さんが無罪と思ったが、他の二人の裁判官は有罪の判断で死刑判決となったことを明かしている。その中で、新聞報道を読めば「真面目な人だったら引っかかりますよ」(小石勝朗著『袴田事件これでも死刑なのか』から)と語り、有罪判断に報道が関係したことを示唆している。
 「今は裁判員裁判の時代。報道が予断を与えていないか、気配りする必要がある」と小石さんは強調した。    

 須貝道雄

▼袴田事件 1966年に清水市(現在は静岡市清水区)で起きた味噌会社の専務一家4人殺害・放火事件。住み込み従業員で元プロボクサーの袴田巖さん(当時30歳)が逮捕された。1日平均12時間に及ぶ取り調べの末、袴田さんは逮捕から20日目に「自白」。裁判で無実を訴えたが1980年、最高裁で死刑が確定した。再審請求で静岡地裁は2014年、再審開始を決定し、袴田さんは47年7カ月ぶりに釈放された。しかし18年に東京高裁が地裁決定を取り消し、再審請求を棄却。現在は最高裁の判断待ちになっている。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年11月25日号
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