岸田文雄首相は昨年12月16日、「専守防衛」から「敵基地攻撃」の自衛隊への大転換を閣議決定したのに続けて、2023年1月13日に訪米し、バイデン米大統領との「共同声明」で、対米公約にしてしまった。臨時国会の閉会を狙った暴挙だった。
軍事ジャーナリストの前田哲男氏は、『世界』3月号(岩波書店)で、「岸田政権は〈臨戦化安保〉の実体化に踏み切った」と分析し、日米安保条約を「対中国軍事同盟」へと一変させ、「とりわけ中国に向ける敵意がつよい」と警鐘を鳴らしている。
「安保三文書」とは、@「国家安全保障戦略について」A「国家防衛戦略について」(旧防衛計画の大綱)B「防衛力整備計画について」(旧中期防衛力整備計画)を指す。わざわざ米国の戦略文書と同じ名称にしたのである。
文書@が「反撃能力」を定義し、軍事費GDP2%を明記、文書Aが「防衛目標」の設定と方法、手段を明記、文書Bが10年後の体制を念頭に5年間の経費総額、装備品の数量などを記載している。2023〜2027年度の5年間で軍事費総額43兆円という途方もない税金を投入して大軍拡をめざすというものだ。憲法の平和理念や第9条に違反し、国民への「丁寧な説明」が完全に欠落している。
一方、『正論』3月号(産経新聞社)は安保戦略総点検の特集を組み、慶應義塾大学教授の森聡氏が「リスク高まる世界に向き合う日本 『国家安保戦略読解』(前半)」を論じている。「第二次安倍政権期」の「安全保障政策を刷新する取り組みが、踏襲され進化する形で新戦略が策定されたことが示唆されている」という。森氏は、「国家安全保障戦略」が中国を「脅威」と性格付けていないというが、中国を「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」「これまでにない最大の戦略的挑戦」としているのが「国家安全保障戦略」なのである。
『VOICE(ボイス)』3月号(PHP)も「国防の責任」という特集を組み、大軍拡をあおる。兼原信克元国家安全保障局次長によると、秋葉剛男国家安全保障局長が官僚とともに書き下ろし、岸田首相の裁可を得たのが「安保三文書」であるという。この経過から推測できるのは、2014年の特定秘密保護法の施行とともに発足した国家安全保障局の役割である。同局が米国と秘密裡に進めてきた戦争計画の一端が「安保三文書」といえるだろう。アメリカの戦争に巻き込まれる秘密の計画が隠されている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
2023年03月13日
2023年03月06日
【月刊マスコミ評・新聞】社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えよ=六光寺 弦
民主主義社会では世論が政治の流れを変えることがある。新聞が世論調査で何を問い、どう報じるかは極めて重要だ。
新聞各紙は1月の世論調査で、岸田文雄政権が閣議決定した安保3文書の改定をそろって取り上げた。今後5年間の軍事費を従来の計画の1.5倍、43兆円に増やすことについて、財源を増税で賄うことへの賛否を問う質問が目立った。結果はいずれも反対が圧倒。朝日新聞調査では反対71%、賛成24%、読売新聞の調査も反対63%、賛成28%といった具合だ。
ただし、財源は二次的なこと。こんな軍拡=軍事費増を認めていいのか、その賛否を直接問うた調査は多くはなく、目にした範囲では朝日、読売、産経新聞=FNN合同の3件だった。
朝日の調査結果は賛成44%、反対49%。読売もほぼ同じで賛成43%、反対49%。これに対して産経・FNN合同調査では賛成50.7%、反対42.8%と、賛成が反対を上回った。
産経は1月24日付1面準トップ記事に、「防衛費増額、賛成50.7%」の見出しを立てた。軍拡推進を社是とする産経としては、「過半数が軍拡支持」は最大限に強調したかったのだろう。
だが昨年10月の調査では、「防衛費の増額」への賛成は62.5%に上っていた。軍拡への支持は昨年秋より減っているのだ。産経の記事はそのことには触れない。
読売の調査でも、昨年12月には軍事費の大幅増に賛成は51%、反対42%だった。その前月、11月の調査では、「日本が防衛力を強化すること」への賛成は68%に達していた。賛否は逆転だが、読売も報道ではそのことを明記しない。読売も社論は軍拡支持だ。
ウクライナ情勢、北朝鮮のミサイル発射、中国脅威論の喧伝といった中で、岸田政権の軍拡路線は当初、世論の6割から7割近くの支持を得た。しかし世論は変わってきている。主な要因が増税への拒否感だとしても、国民の生活の犠牲の上にしか軍拡は成り立たないことや、敵基地攻撃能力を保有することの危うさなどへの理解が進めば、さらに世論は変わる。
新聞は恣意的な報道を慎み、社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えるべきだ。さもないと、戦争遂行に加担した愚を繰り返すことになりかねない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
新聞各紙は1月の世論調査で、岸田文雄政権が閣議決定した安保3文書の改定をそろって取り上げた。今後5年間の軍事費を従来の計画の1.5倍、43兆円に増やすことについて、財源を増税で賄うことへの賛否を問う質問が目立った。結果はいずれも反対が圧倒。朝日新聞調査では反対71%、賛成24%、読売新聞の調査も反対63%、賛成28%といった具合だ。
ただし、財源は二次的なこと。こんな軍拡=軍事費増を認めていいのか、その賛否を直接問うた調査は多くはなく、目にした範囲では朝日、読売、産経新聞=FNN合同の3件だった。
朝日の調査結果は賛成44%、反対49%。読売もほぼ同じで賛成43%、反対49%。これに対して産経・FNN合同調査では賛成50.7%、反対42.8%と、賛成が反対を上回った。
産経は1月24日付1面準トップ記事に、「防衛費増額、賛成50.7%」の見出しを立てた。軍拡推進を社是とする産経としては、「過半数が軍拡支持」は最大限に強調したかったのだろう。
だが昨年10月の調査では、「防衛費の増額」への賛成は62.5%に上っていた。軍拡への支持は昨年秋より減っているのだ。産経の記事はそのことには触れない。
読売の調査でも、昨年12月には軍事費の大幅増に賛成は51%、反対42%だった。その前月、11月の調査では、「日本が防衛力を強化すること」への賛成は68%に達していた。賛否は逆転だが、読売も報道ではそのことを明記しない。読売も社論は軍拡支持だ。
ウクライナ情勢、北朝鮮のミサイル発射、中国脅威論の喧伝といった中で、岸田政権の軍拡路線は当初、世論の6割から7割近くの支持を得た。しかし世論は変わってきている。主な要因が増税への拒否感だとしても、国民の生活の犠牲の上にしか軍拡は成り立たないことや、敵基地攻撃能力を保有することの危うさなどへの理解が進めば、さらに世論は変わる。
新聞は恣意的な報道を慎み、社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えるべきだ。さもないと、戦争遂行に加担した愚を繰り返すことになりかねない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
2023年02月04日
【月刊マスコミ評・放送】地域情報番組がグットデザイン賞に=諸川 麻衣
NHK北海道が夕方の『ほっとニュース北海道』内で毎週木曜に放送している番組『ローカルフレンズ滞在記』が昨年8月、NHKの地方局として初めて「2022年度グッドデザイン・ベスト100」に選ばれた。
同番組は、NHKのディレクターが道内のある地域に1カ月滞在し、番組に応募してきた地元住民(=ローカルフレンズ)に知り合いを紹介してもらいつつ、その土地の魅力や暮らしを発信する企画。『滞在記』と並行して、地域の人が自らの言葉で地域情報を伝える『ローカルフレンズニュース』というコンテンツもある。2021年4月以来、これまでの滞在地は15カ所を超える。
受賞の際の「経緯とその成果」によると、発案者は道内出身でネットメディアなどを運営する佐野和哉氏で、この提案から旅番組を試作したところ好評だったため不定期の番組化が決定。その際、地域の案内役=ローカルフレンズをNHKが選ぶのではなく「公募」制にしたところ、ライター、僧侶、ネイチャーガイド、地域おこし協力隊、ゲストハウスやカフェの店主、主婦、サラリーマンなど多種多様な人が応募、「既存のニュースや番組とは一線を画すディープな情報発信につながった」という。さらに、番組を契機に、町づくりの提案イベントや食と音楽を発信するフェスなど、数多くの地域活動が生まれたそうだ。
審査委員の評価は、「ニュース性の高いトピックを短期間で取材・編集・発信していたこれまでのマスメディアのあり方を問い直し、その地に暮らす方が主体的に番組作りに携わり、観光ではなく日常の風景を丁寧に切り取る番組を協働しながら制作するという意義深いプログラム。マスメディアとしての情報発信・編集・制作力と、ある意味ニッチな地域の情報を掬い上げていく地域住民の力が統合され、地域そのものの活動をエンパワーしていく好例。マスメディアの新たな役割・地域との関わり方も大変示唆的である。」というもの。
プロジェクトが昨年道民三千人にアンケート調査したところ、番組を見た人の50%が「地域により関心を持った」「地域活動を新たに始めた」と回答、特に20代男性の3割が「地域活動を新たに始めた」と答えたという。
読売新聞と大阪府の包括協定などとは対照的な、公共放送が地域「住民」の協働の触媒となる試み、互いに耳を傾け、手を携えることで民主主義を日々涵養してゆく取り組みとして、大いに注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
同番組は、NHKのディレクターが道内のある地域に1カ月滞在し、番組に応募してきた地元住民(=ローカルフレンズ)に知り合いを紹介してもらいつつ、その土地の魅力や暮らしを発信する企画。『滞在記』と並行して、地域の人が自らの言葉で地域情報を伝える『ローカルフレンズニュース』というコンテンツもある。2021年4月以来、これまでの滞在地は15カ所を超える。
受賞の際の「経緯とその成果」によると、発案者は道内出身でネットメディアなどを運営する佐野和哉氏で、この提案から旅番組を試作したところ好評だったため不定期の番組化が決定。その際、地域の案内役=ローカルフレンズをNHKが選ぶのではなく「公募」制にしたところ、ライター、僧侶、ネイチャーガイド、地域おこし協力隊、ゲストハウスやカフェの店主、主婦、サラリーマンなど多種多様な人が応募、「既存のニュースや番組とは一線を画すディープな情報発信につながった」という。さらに、番組を契機に、町づくりの提案イベントや食と音楽を発信するフェスなど、数多くの地域活動が生まれたそうだ。
審査委員の評価は、「ニュース性の高いトピックを短期間で取材・編集・発信していたこれまでのマスメディアのあり方を問い直し、その地に暮らす方が主体的に番組作りに携わり、観光ではなく日常の風景を丁寧に切り取る番組を協働しながら制作するという意義深いプログラム。マスメディアとしての情報発信・編集・制作力と、ある意味ニッチな地域の情報を掬い上げていく地域住民の力が統合され、地域そのものの活動をエンパワーしていく好例。マスメディアの新たな役割・地域との関わり方も大変示唆的である。」というもの。
プロジェクトが昨年道民三千人にアンケート調査したところ、番組を見た人の50%が「地域により関心を持った」「地域活動を新たに始めた」と回答、特に20代男性の3割が「地域活動を新たに始めた」と答えたという。
読売新聞と大阪府の包括協定などとは対照的な、公共放送が地域「住民」の協働の触媒となる試み、互いに耳を傾け、手を携えることで民主主義を日々涵養してゆく取り組みとして、大いに注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
2023年02月03日
【月刊マスコミ評・新聞】原発推進 学術会議の独立性を侵す動き=山田明
正月元旦の各紙社説に注目する。ウクライナ戦争が続くなか、テーマは戦争と平和、民主主義が多い。朝日は「戦争を止める英知いまこそ」と訴える。長文の読売社説は、政府が「反撃能力」の保有など、防衛政策の大転換となる安保政策を決定したのは当然だと論じる。
本紙が昨年12月号で報じたように、岸田政権の大軍拡にお墨付きを与えた首相の諮問機関「有識者会議」メンバーに、読売新聞グループの現役社長が名を連ねていた。日経も現役役員がメンバーだ。元旦の読売社説は、有識者会議報告書と同じトーンだ。ここでもメディアの姿勢が鋭く問われる。
毎日1月4日社説は「抑止力」偏重の危うさとして、防衛力の強化ばかりでは、相手の警戒感を高め、際限なき軍拡競争に陥る「安全保障のジレンマ」が待ち受ける。国民生活を守る総合力をいかに高めるかが問われると指摘する。
なにより外交面での粘り強い働きかけが大切だ。日米首脳会談で大軍拡を約束するが、国会での徹底した議論と検証こそ求められる。メディアは戦争をあおるような論調は厳に慎むべきだ。
岸田政権は支持率低迷が続くが、防衛だけでなく、原発政策でもエネルギー問題に便乗し、拙速な政策大転換を強引に進めている。国民の声を聞かず、原発推進勢力の意向に沿うものだ。「事故の惨禍から学んだ教訓を思い起こし、将来への責任を果たす道を真剣に考えるときである」(朝日12月23日社説)。
もう一つ指摘したいのが、日本学術会議の独立性を侵す動きである。政府は任命拒否問題を棚上げして、会員選考に第三者を関与させるなどの組織改革方針を公表した。大軍拡とも関連する動きだ。読売12月31日社説は政府方針に追随して「国費を投じている事実は重い」と、政府が会員の選考手続きに関与することは何ら問題ないと指摘する。戦前の暗い歴史からも、学問の次に来るのはメディアへの介入ではないか。
今春には統一地方選が行われる。旧統一教会と政治、とりわけ自民党との癒着、岸田政権による熟議なき政策大転換にも審判が下されるであろう。
大阪では夢洲へのIRカジノ誘致の是非が争点になりそうだ。長らく続く「維新政治」に対し、住民がどのような判断を示すか注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
本紙が昨年12月号で報じたように、岸田政権の大軍拡にお墨付きを与えた首相の諮問機関「有識者会議」メンバーに、読売新聞グループの現役社長が名を連ねていた。日経も現役役員がメンバーだ。元旦の読売社説は、有識者会議報告書と同じトーンだ。ここでもメディアの姿勢が鋭く問われる。
毎日1月4日社説は「抑止力」偏重の危うさとして、防衛力の強化ばかりでは、相手の警戒感を高め、際限なき軍拡競争に陥る「安全保障のジレンマ」が待ち受ける。国民生活を守る総合力をいかに高めるかが問われると指摘する。
なにより外交面での粘り強い働きかけが大切だ。日米首脳会談で大軍拡を約束するが、国会での徹底した議論と検証こそ求められる。メディアは戦争をあおるような論調は厳に慎むべきだ。
岸田政権は支持率低迷が続くが、防衛だけでなく、原発政策でもエネルギー問題に便乗し、拙速な政策大転換を強引に進めている。国民の声を聞かず、原発推進勢力の意向に沿うものだ。「事故の惨禍から学んだ教訓を思い起こし、将来への責任を果たす道を真剣に考えるときである」(朝日12月23日社説)。
もう一つ指摘したいのが、日本学術会議の独立性を侵す動きである。政府は任命拒否問題を棚上げして、会員選考に第三者を関与させるなどの組織改革方針を公表した。大軍拡とも関連する動きだ。読売12月31日社説は政府方針に追随して「国費を投じている事実は重い」と、政府が会員の選考手続きに関与することは何ら問題ないと指摘する。戦前の暗い歴史からも、学問の次に来るのはメディアへの介入ではないか。
今春には統一地方選が行われる。旧統一教会と政治、とりわけ自民党との癒着、岸田政権による熟議なき政策大転換にも審判が下されるであろう。
大阪では夢洲へのIRカジノ誘致の是非が争点になりそうだ。長らく続く「維新政治」に対し、住民がどのような判断を示すか注目したい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
2023年01月06日
【月刊マスコミ評・出版】 統一教会新法を骨抜きにしたのは誰か=荒屋敷 宏
『週刊文春』と『週刊新潮』が創価学会を批判するキャンペーンを始めた。『週刊文春』の見出しを追うと、「統一教会新法を骨抜きにした創価学会のカネと権力 二世たちの告発」(12月1日号)「創価学会が恐れるオウム以来の危機」(同8日号)「「池田大作は3年間近影なし 創価学会の『罪と罰』」(同15日号)。
先んじていたのは『週刊新潮』で、同誌11月24日号で「『長井秀和』が明かす『創価学会』と『政治』『献金』『二世』」を掲載したところ、創価学会側が新潮社とお笑い芸人の長井氏に抗議書(学会代理人・新麹町法律事務所)を送付する騒ぎになった。学会は『週刊文春』にも抗議書を持参し、謝罪と訂正記事の掲載を求めている。
創価学会は、ホームページの基本情報によると、会員は827万世帯、海外会員280万人、聖教新聞の部数は公称550万部とされる。統一教会問題で浮上した高額献金や二世問題は、創価学会と通底すると指摘されてきたが、週刊誌が今頃になって取り上げ始めたのは、なぜか。この問題に関心を持つ読者の市場規模もあるが、それだけではない。
一つは、元創価学会員が声を上げ始めたことだろう。長井氏に続いて、元創価学会本部職員・ライターの正木伸城氏は『週刊新潮』12月1日号の手記で、36歳で創価学会本部を辞めた理由として「公明党を心から応援できなくなったことも一因である」「自分に嘘をつくことに私は耐えられなかった」と書いている。「学会は公称827万世帯という会員数を誇るが、その勢力は衰え続けている」とも。
二つには、統一教会の被害者を救済するはずの新法を骨抜きにしたのが創価学会ではないかとの疑惑があるからだ。新法には、マインドコントロール下での高額寄付の禁止や寄付金の上限規制が盛り込まれなかった。信者からの寄付金を収益の柱とする創価学会が、公明党国会議員を使って新法の骨抜きに奔走した様子を『週刊文春』が伝えている。
週刊誌が創価学会を追及する理由は、「数多の宗教団体とは異なり、政権与党・公明党の支持母体であるからに他ならない」(『週刊文春』12月8日号)とも書いている。
もし、そうであるならば、もっと早くから追及する記事を連打すべきだったのではないか。岸田政権への公明党の影響力の低下にあわせて、記事を出したり、引っ込めたりすることは、ジャーナリズムの道から外れていると言わなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
先んじていたのは『週刊新潮』で、同誌11月24日号で「『長井秀和』が明かす『創価学会』と『政治』『献金』『二世』」を掲載したところ、創価学会側が新潮社とお笑い芸人の長井氏に抗議書(学会代理人・新麹町法律事務所)を送付する騒ぎになった。学会は『週刊文春』にも抗議書を持参し、謝罪と訂正記事の掲載を求めている。
創価学会は、ホームページの基本情報によると、会員は827万世帯、海外会員280万人、聖教新聞の部数は公称550万部とされる。統一教会問題で浮上した高額献金や二世問題は、創価学会と通底すると指摘されてきたが、週刊誌が今頃になって取り上げ始めたのは、なぜか。この問題に関心を持つ読者の市場規模もあるが、それだけではない。
一つは、元創価学会員が声を上げ始めたことだろう。長井氏に続いて、元創価学会本部職員・ライターの正木伸城氏は『週刊新潮』12月1日号の手記で、36歳で創価学会本部を辞めた理由として「公明党を心から応援できなくなったことも一因である」「自分に嘘をつくことに私は耐えられなかった」と書いている。「学会は公称827万世帯という会員数を誇るが、その勢力は衰え続けている」とも。
二つには、統一教会の被害者を救済するはずの新法を骨抜きにしたのが創価学会ではないかとの疑惑があるからだ。新法には、マインドコントロール下での高額寄付の禁止や寄付金の上限規制が盛り込まれなかった。信者からの寄付金を収益の柱とする創価学会が、公明党国会議員を使って新法の骨抜きに奔走した様子を『週刊文春』が伝えている。
週刊誌が創価学会を追及する理由は、「数多の宗教団体とは異なり、政権与党・公明党の支持母体であるからに他ならない」(『週刊文春』12月8日号)とも書いている。
もし、そうであるならば、もっと早くから追及する記事を連打すべきだったのではないか。岸田政権への公明党の影響力の低下にあわせて、記事を出したり、引っ込めたりすることは、ジャーナリズムの道から外れていると言わなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2023年01月05日
【月刊マスコミ評・新聞】平和憲法の理念、もっと強調を=白垣詔男
アフガニスタンで困窮した国民を救うため井戸を掘り灌漑設備を造った福岡市出身の医師、中村哲さん(享年72)が凶弾に襲われ、亡くなって3年たった。アフガニスタンの多くの国民の命を守った大きな功績はいくら賞賛してもしすぎることはない。ただ、中村さんの言動の中で一番印象深かったのは、アフガニスタンで活動を始めてしばらくたったころ、作業車に描いていた「日の丸の旗」を消したことだ。それまでは、日本には、戦争を放棄した憲法があるので「平和の国」だと思われ、中村さんはどこに行っても「戦争をしない平和の国から来た」と笑顔で迎えてくれた。しかし、小泉純一郎政権がイラク戦争や湾岸戦争に自衛隊を派遣すると、「日の丸の信用」がなくなり、中村さんは「日の丸が攻撃対象になる」と作業車から「国旗」を外した。
中村さんはその後、国会で「自衛隊の海外派遣は百害あって一利なし」と証言したが、自民党議員から非難されたことも忘れ難い。
岸田文雄政権は11月29日に防衛、財務両省に、「防衛費を、2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やすよう」伝えたのを踏まえて12月5日には岸田首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と会談して「中期防衛力整備計画(中期防)」で示す2023〜27年度の5年間の防衛費の総額を43兆円規模とするように指示した。
この間、新聞は11月30日の社説で、首相の「防衛費2%指示」について「規模ありきだ」(朝日)、「やはり『数字ありき』だった」(毎日)と批判。朝日は12月2日付でも「『敵基地攻撃』合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ」、毎日も12月3日付で「専守防衛の形骸化を招く」と、政府の防衛政策にさらに批判を強めた。
しかし、憲法についての言及は、毎日が11月30日付で最後のほうに「憲法に基づき、軍事大国とはならず、専守防衛を堅持することが日本の基本方針だ」と触れ、朝日は12月2日付で「戦後、平和国家として再出発した日本の支柱となったのが、平和主義を掲げる憲法であり、それに基づく専守防衛の方針だ」と書いている。
いずれも最後の部分で触れているが、もっと声高に「平和憲法の理念」を訴える主張が肝要ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
中村さんはその後、国会で「自衛隊の海外派遣は百害あって一利なし」と証言したが、自民党議員から非難されたことも忘れ難い。
岸田文雄政権は11月29日に防衛、財務両省に、「防衛費を、2027年度に国内総生産(GDP)比で2%まで増やすよう」伝えたのを踏まえて12月5日には岸田首相が浜田靖一防衛相、鈴木俊一財務相と会談して「中期防衛力整備計画(中期防)」で示す2023〜27年度の5年間の防衛費の総額を43兆円規模とするように指示した。
この間、新聞は11月30日の社説で、首相の「防衛費2%指示」について「規模ありきだ」(朝日)、「やはり『数字ありき』だった」(毎日)と批判。朝日は12月2日付でも「『敵基地攻撃』合意へ 専守防衛の空洞化は許せぬ」、毎日も12月3日付で「専守防衛の形骸化を招く」と、政府の防衛政策にさらに批判を強めた。
しかし、憲法についての言及は、毎日が11月30日付で最後のほうに「憲法に基づき、軍事大国とはならず、専守防衛を堅持することが日本の基本方針だ」と触れ、朝日は12月2日付で「戦後、平和国家として再出発した日本の支柱となったのが、平和主義を掲げる憲法であり、それに基づく専守防衛の方針だ」と書いている。
いずれも最後の部分で触れているが、もっと声高に「平和憲法の理念」を訴える主張が肝要ではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2022年12月09日
【月刊マスコミ評・放送】スタジオ美術の職場環境改善を=岩崎 貞明
放送の仕事の一つに「スタジオ美術」がある。舞台・演劇などの世界と同様、なくてはならない「大道具・小道具」の仕事である。番組収録に先立ってスタジオにセットを建て込み、収録が終わればそれを解体する。セットや小道具類は工場や倉庫からトレーラーなどでスタジオに運び込む。
テレビ番組で言えば、「本番」の始まりから終わりまで、華やかな舞台の裏方を支える、地味ながら重要な現場仕事だ。ドラマやバラエティのみならず、ワイドショーやニュース番組でも凝ったスタジオセットがすでに通例になっているし、最近ではインターネットの配信番組でも美術の仕事が欠かせない。
そんなスタジオ美術の作業は、肉体労働の大工仕事だから、というばかりでなく、いま過酷な状況に置かれている。ある意味で末端の「下請け仕事」だから、すべてのしわ寄せが覆いかぶさってくるのだ。
限られた制作予算なのに、番組のディレクターやデザイナーからは手の込んだセットを要求される。美術会社の「営業」と呼ばれる担当者は、予算とデザインを何とかすり合わせるために奔走する。その交渉に時間を取られると、納品までの製作時間が削られる。番組収録の日程に間に合わせるために終電後までの作業になっても、帰りのタクシー代が出ないケースもあるという。
最近は、局側からの発注そのものがギリギリで突貫工事でないと収録に間に合わない「急発注・短納期」の問題が深刻化していて、現場で長時間労働が改善されない要因となっている。本来、急ぎの仕事であれば割増料金を上乗せして支払われてしかるべきだが、現実は作業途中で変更や手直しの要請が局側から出されても、追加の支払いなどがないケースが通例だということだ。
また、現場で働く女性が急激に増加しているのに、女性用更衣室がないか、あっても狭くて使いにくいという問題もある。一度使った美術セットを再利用することを考えても、そのための保管倉庫が整備されていないこともあり、スペース確保が課題となっている。いずれも放送局の責任で対応すべき問題だろう。
映画・演劇関係の労組の集まりである「映演共闘」「舞台美術労協」と民放労連は、共同で在京キイ局や民放連事務局に下請け単価の改善や勤務間インターバルの確保などを毎年要請している。放送局側は受け止めてはくれるものの、改善はなかなか進まない。誰のおかげで番組が出せるのか、今一度考えてほしい。
岩崎 貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
テレビ番組で言えば、「本番」の始まりから終わりまで、華やかな舞台の裏方を支える、地味ながら重要な現場仕事だ。ドラマやバラエティのみならず、ワイドショーやニュース番組でも凝ったスタジオセットがすでに通例になっているし、最近ではインターネットの配信番組でも美術の仕事が欠かせない。
そんなスタジオ美術の作業は、肉体労働の大工仕事だから、というばかりでなく、いま過酷な状況に置かれている。ある意味で末端の「下請け仕事」だから、すべてのしわ寄せが覆いかぶさってくるのだ。
限られた制作予算なのに、番組のディレクターやデザイナーからは手の込んだセットを要求される。美術会社の「営業」と呼ばれる担当者は、予算とデザインを何とかすり合わせるために奔走する。その交渉に時間を取られると、納品までの製作時間が削られる。番組収録の日程に間に合わせるために終電後までの作業になっても、帰りのタクシー代が出ないケースもあるという。
最近は、局側からの発注そのものがギリギリで突貫工事でないと収録に間に合わない「急発注・短納期」の問題が深刻化していて、現場で長時間労働が改善されない要因となっている。本来、急ぎの仕事であれば割増料金を上乗せして支払われてしかるべきだが、現実は作業途中で変更や手直しの要請が局側から出されても、追加の支払いなどがないケースが通例だということだ。
また、現場で働く女性が急激に増加しているのに、女性用更衣室がないか、あっても狭くて使いにくいという問題もある。一度使った美術セットを再利用することを考えても、そのための保管倉庫が整備されていないこともあり、スペース確保が課題となっている。いずれも放送局の責任で対応すべき問題だろう。
映画・演劇関係の労組の集まりである「映演共闘」「舞台美術労協」と民放労連は、共同で在京キイ局や民放連事務局に下請け単価の改善や勤務間インターバルの確保などを毎年要請している。放送局側は受け止めてはくれるものの、改善はなかなか進まない。誰のおかげで番組が出せるのか、今一度考えてほしい。
岩崎 貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年12月07日
【月刊マスコミ評・新聞】沖縄の選挙 報道をていねいに=六光寺 弦
沖縄の過重な基地負担は日本復帰から50年たっても変わらない。負担を強いている日本政府は、選挙を通じて合法的に成り立っている。だから沖縄の基地負担は国民全体の選択であり、だれもが当事者だ。基地を巡り沖縄で起きていること、沖縄の民意は、日本本土でも広く知られなければならない。本土メディアの責任は大きい。
10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。
他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
六光寺弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
10月23日の那覇市長選で、自民、公明両党推薦の前副市長の知念覚氏が、玉城デニー知事らの「オール沖縄」が支持する元県議で、故翁長雄志元知事の次男の雄治氏を破り初当選した。米軍普天間飛行場の辺野古移設に、雄治氏が反対を訴えたのに対し、知念氏は「国と県の係争を見守る」との立場だった。辺野古移設は双方の主張がかみ合う争点ではなかった。
これで、ことしの県内7市長選でオール沖縄は全敗。懸念されるのは、辺野古に触れなかった自公系候補の立場を「辺野古移設容認」「黙認」などとねじ曲げ「沖縄の民意は辺野古移設を受け入れている」などと主張する言説が流れることだ。
那覇市長選の結果を、東京発行の新聞各紙のうち1面で報じたのは、辺野古移設推進が社論の産経のみ。総合面の関連記事では「米軍基地問題などをめぐる県と市のスタンスにずれが生じ(中略)玉城デニー知事の県政運営に影響を及ぼすのは必至だ」と踏み込んだ。もはや知事は辺野古移設反対を維持できない、と言いたげだ。
他紙は総合面に本記のみ。読売は全文20行、日経は雑報扱いの11行だった。毎日は35行余と幾分長めだが、見出しは「那覇市長に自公系/知念氏、反辺野古派破る」。見出しだけ見た人に、知念氏は辺野古移設推進、容認だと受け取られかねない。
翌日の紙面では朝日が、選挙を振り返り、オール沖縄の今後の展望を探る詳細なリポートを掲載した。民意が辺野古移設容認に変わったことを意味しないことがようやく伝わる。しかし、他紙にそのような報道は見当たらない。
那覇市長選は、引退する現職市長がオール沖縄離脱を表明して知念氏支援に就くなど、複雑で分かりにくい構図があった。それも過重な基地負担のゆえだ。
複雑で分かりにくいからこそ、詳しく、ていねいに報じる必要がある。
六光寺弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年11月11日
【月刊マスコミ評・新聞】岸田政権 原発回帰を鮮明に= 山田明
憲法違反の安倍元首相「国葬」が国民の批判が渦巻くなかで強行された。自衛隊が目立ち、「アベ政治」を賛美する弔辞が国葬を象徴する。国葬後も「評価せず」が59%。岸田内閣の支持率低下が続き、不支持が初めて半数に達した(朝日10月3日)。
これは国葬強行だけでなく、旧統一教会と自民党との関係が影響している。とりわけ安倍元首相と安倍派の議員らは、教会による選挙支援を含め深刻なものがある。岸田首相の対応にも批判が集まる。政治の信頼を取り戻すためにも、国会での真相究明が待たれる。
円安が続き、物価高に拍車がかかる。実質賃金が低下する中での値上げラッシュで、低所得層ほど生活が苦しくなる。止まらない円安は、アベノミクス離れができないためだ。岸田首相の経済政策に期待できないが7割にのぼる。一方で、政府は防衛費の相当の増額を検討する。北朝鮮による弾道ミサイル日本上空通過が防衛強化の「追い風」との声も漏れてくる。
岸田首相は8月下旬、原発の新増設や建て替えについて検討を進める考えを示した。運転期間の延長も検討する方針だ。原発回帰は岸田政権の既定路線だが(毎日9月6日)、ウクライナ戦争で露わになった原発リスクをどう考えているのか。
日経は9月26日、エネルギー・環境緊急提言を公表し「原発、国主導で再構築を」と述べる。緊急提言は気候危機・再エネだけでなく、政府の原発回帰に呼応した動きでないか。8月18日社説「原発新増設へ明確な方針打ち出せ」で、岸田発言につながる主張をしている。経団連も原発再稼働を評価している。福島原発事故から11年半経つが、原発をめぐる動きから目が離せない。
地域からも問題に迫りたい。IRカジノ計画案が大阪と長崎から申請され、国交省で審査されている。大阪ではIRカジノの是非を問う住民投票を求める直接請求署名が20万筆近く集まったが、大阪府議会で維新などにより否決された。その後も、国が計画を認可しないことを求める大行動が東京で行われた。国会での追及も期待したい。
大阪では、「夢洲IRカジノ誘致差止め訴訟」にも注目が集まる。国ととともに、地方自治体の行政のあり方が鋭く問われている。
山田明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
これは国葬強行だけでなく、旧統一教会と自民党との関係が影響している。とりわけ安倍元首相と安倍派の議員らは、教会による選挙支援を含め深刻なものがある。岸田首相の対応にも批判が集まる。政治の信頼を取り戻すためにも、国会での真相究明が待たれる。
円安が続き、物価高に拍車がかかる。実質賃金が低下する中での値上げラッシュで、低所得層ほど生活が苦しくなる。止まらない円安は、アベノミクス離れができないためだ。岸田首相の経済政策に期待できないが7割にのぼる。一方で、政府は防衛費の相当の増額を検討する。北朝鮮による弾道ミサイル日本上空通過が防衛強化の「追い風」との声も漏れてくる。
岸田首相は8月下旬、原発の新増設や建て替えについて検討を進める考えを示した。運転期間の延長も検討する方針だ。原発回帰は岸田政権の既定路線だが(毎日9月6日)、ウクライナ戦争で露わになった原発リスクをどう考えているのか。
日経は9月26日、エネルギー・環境緊急提言を公表し「原発、国主導で再構築を」と述べる。緊急提言は気候危機・再エネだけでなく、政府の原発回帰に呼応した動きでないか。8月18日社説「原発新増設へ明確な方針打ち出せ」で、岸田発言につながる主張をしている。経団連も原発再稼働を評価している。福島原発事故から11年半経つが、原発をめぐる動きから目が離せない。
地域からも問題に迫りたい。IRカジノ計画案が大阪と長崎から申請され、国交省で審査されている。大阪ではIRカジノの是非を問う住民投票を求める直接請求署名が20万筆近く集まったが、大阪府議会で維新などにより否決された。その後も、国が計画を認可しないことを求める大行動が東京で行われた。国会での追及も期待したい。
大阪では、「夢洲IRカジノ誘致差止め訴訟」にも注目が集まる。国ととともに、地方自治体の行政のあり方が鋭く問われている。
山田明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年11月09日
【月刊マスコミ評・出版】右派メディアのアベ礼賛祭り=荒屋敷 宏
統一教会をめぐる『週刊東洋経済』10月8日号と月刊『マスコミ市民』10月号の勇気ある編集に敬意を表したい。「宗教 カネと政治」で37ページにわたり特集を組んだ『週刊東洋経済』の読みどころは、統一教会と関係の深い企業一覧だろう。鮮魚・飲料・置き薬・自動車学校・病院・学習塾…と超多角化経営だ。
外国語教室を営む統一教会関連企業は伊藤忠商事、三菱商事、日本生命保険、電通、三菱UFJ銀行、JR東日本の研修実績があると宣伝している。文化庁が宗教法人と交わした「裏約束」、「LGBTたたき」で一致する統一教会と神社本庁などスクープ満載である。
特集「統一教会と自民党」で事の真相に迫る『マスコミ市民』の島薗進、有田芳生、前川喜平、山口広の各氏へのインタビューは、読み応えがある。島薗氏は、日本からカネを収奪する統一教会を右派メディアが批判できない弱点を突き、月刊『Hanada』や月刊『WiLL』などの雑誌について「困惑していると思います」と指摘している。
右派雑誌の代表ともいえる『Hanada』『WiLL』『正論』は事件後、故安倍晋三元首相を礼賛する特集を掲載し続けている。『Hanada』11月号には「国葬」で開き直る岸田文雄首相と小川榮太郎氏の対談をはじめ、「国葬」反対派は“極左暴力集団”との虚偽を意図的に流した有本香氏、反安倍の国民を「アベガー教」のカルトだと攻撃する藤原かずえ氏、『WiLL』11月号にはアベガーの俗論を徹底粉砕としつつ「旧統一教会の実態は、私は専門家ではないし、わかりません」と腰の引けた阿比留瑠比氏など、確かに、統一教会への困惑を隠せない様子だ。
なかでも『正論』11月号では、岩田清文元陸上幕僚長と島田和久元総理秘書官・前防衛事務次官が対談し、かつて最高指揮官だった安倍氏を追悼している。防衛省・自衛隊にとっての安倍氏の役割を絶賛し、自衛隊を憲法に書き込む「憲法改正」が心残りだったのではないかと偲んでいる。一方で、かつて吉田茂元首相が自衛隊を「日陰者」と呼んだことへの不満を表明している。そのうえで、安倍氏は、吉田氏の「軽武装経済重視」を改めようとしたのだと結論づけている。戦後、「国葬」となった2人の元首相に対する元防衛省関係者の、この態度の違いは何か。「国葬」賛成雑誌の軍国主義礼賛の本音も透けて見えてくるのである。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
外国語教室を営む統一教会関連企業は伊藤忠商事、三菱商事、日本生命保険、電通、三菱UFJ銀行、JR東日本の研修実績があると宣伝している。文化庁が宗教法人と交わした「裏約束」、「LGBTたたき」で一致する統一教会と神社本庁などスクープ満載である。
特集「統一教会と自民党」で事の真相に迫る『マスコミ市民』の島薗進、有田芳生、前川喜平、山口広の各氏へのインタビューは、読み応えがある。島薗氏は、日本からカネを収奪する統一教会を右派メディアが批判できない弱点を突き、月刊『Hanada』や月刊『WiLL』などの雑誌について「困惑していると思います」と指摘している。
右派雑誌の代表ともいえる『Hanada』『WiLL』『正論』は事件後、故安倍晋三元首相を礼賛する特集を掲載し続けている。『Hanada』11月号には「国葬」で開き直る岸田文雄首相と小川榮太郎氏の対談をはじめ、「国葬」反対派は“極左暴力集団”との虚偽を意図的に流した有本香氏、反安倍の国民を「アベガー教」のカルトだと攻撃する藤原かずえ氏、『WiLL』11月号にはアベガーの俗論を徹底粉砕としつつ「旧統一教会の実態は、私は専門家ではないし、わかりません」と腰の引けた阿比留瑠比氏など、確かに、統一教会への困惑を隠せない様子だ。
なかでも『正論』11月号では、岩田清文元陸上幕僚長と島田和久元総理秘書官・前防衛事務次官が対談し、かつて最高指揮官だった安倍氏を追悼している。防衛省・自衛隊にとっての安倍氏の役割を絶賛し、自衛隊を憲法に書き込む「憲法改正」が心残りだったのではないかと偲んでいる。一方で、かつて吉田茂元首相が自衛隊を「日陰者」と呼んだことへの不満を表明している。そのうえで、安倍氏は、吉田氏の「軽武装経済重視」を改めようとしたのだと結論づけている。戦後、「国葬」となった2人の元首相に対する元防衛省関係者の、この態度の違いは何か。「国葬」賛成雑誌の軍国主義礼賛の本音も透けて見えてくるのである。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年10月11日
【月刊マスコミ評・放送】まだまだ発掘できる戦争の真実=諸川麻衣
この夏の戦争関連番組では、埋もれてきた資料を発掘して歴史の新たな一面を明らかにしたNHKの3作が注目された。
8月8日の『NHKスペシャル そして、学徒は戦場へ』は、学徒出陣の裏面史。学徒は明治以来、「国家の存亡のために欠くことができない存在」とされ、徴兵を猶予されていた。なぜその“特権”が奪われたのか、当時の国や大学の関係者、学徒など約100人への取材から、当初徴兵に反対していた大学側が、軍や世論に押され、遂に屈してゆく過程をまざまざと描いた。
8月15日の『NHKスペシャル ビルマ撤退戦 絶望の戦場〜大東亜共栄圏の最期』は、5年前の『戦慄の記録・インパール』の続編で、インパール作戦が破綻した後、敗戦までのビルマ情勢の変転を描いた。1945年初頭、日本軍はラングーンに向かう英軍とイラワジ川で交戦、大敗した。番組によれば、この無謀な戦いに固執した田中新一参謀長について英第14軍のウィリアム・スリム司令官は、「日本軍指導者には道徳的勇気が欠如しており、自らの失敗を認められない」と書き残していたという。日本の敗北が必至となると、当初独立を求めて日本軍と連携していた若手軍人アウンサンらも日本への反発を強め、遂に日本軍に対して蜂起した。こうしたビルマでの動きから「大東亜戦争」の虚構を暴く力作であった。
8月20日『BS1スペシャル 戦禍のなかの僧侶たち〜浄土真宗本願寺派と戦争〜』は、仏教の戦争協力を取り上げた。浄土真宗本願寺派は2020年、宗派の1万の寺を対象に調査を行った。3800寺から回答があり、従軍僧の日誌や写真などの資料も寄せられた。その調査結果に基づく本番組は、教団が日中戦争を好機としてアジアに進出、布教を進めたこと、また太平洋戦争中も金属回収、学童疎開、戦時動員に協力していたことなどを描いた。それだけでなく、この戦争協力を負の教訓とし、過ちを繰り返すまいと行動する今の僧侶たちの姿も紹介した。
いずれも、これまであまり取り上げられることのなかったテーマや時期を対象とし、生存者の証言や公文書、当事者の日記などの資料に基づいて、事象の背景や関係者の葛藤を生き生きと描き出した。戦争体験者の多くが90歳以上になる中で今後、日記など未発掘の資料の価値は一層高まってゆくだろう。それを活用すればまだまだ知られざる事実を明るみに出すことができるという手ごたえを感じた。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
8月8日の『NHKスペシャル そして、学徒は戦場へ』は、学徒出陣の裏面史。学徒は明治以来、「国家の存亡のために欠くことができない存在」とされ、徴兵を猶予されていた。なぜその“特権”が奪われたのか、当時の国や大学の関係者、学徒など約100人への取材から、当初徴兵に反対していた大学側が、軍や世論に押され、遂に屈してゆく過程をまざまざと描いた。
8月15日の『NHKスペシャル ビルマ撤退戦 絶望の戦場〜大東亜共栄圏の最期』は、5年前の『戦慄の記録・インパール』の続編で、インパール作戦が破綻した後、敗戦までのビルマ情勢の変転を描いた。1945年初頭、日本軍はラングーンに向かう英軍とイラワジ川で交戦、大敗した。番組によれば、この無謀な戦いに固執した田中新一参謀長について英第14軍のウィリアム・スリム司令官は、「日本軍指導者には道徳的勇気が欠如しており、自らの失敗を認められない」と書き残していたという。日本の敗北が必至となると、当初独立を求めて日本軍と連携していた若手軍人アウンサンらも日本への反発を強め、遂に日本軍に対して蜂起した。こうしたビルマでの動きから「大東亜戦争」の虚構を暴く力作であった。
8月20日『BS1スペシャル 戦禍のなかの僧侶たち〜浄土真宗本願寺派と戦争〜』は、仏教の戦争協力を取り上げた。浄土真宗本願寺派は2020年、宗派の1万の寺を対象に調査を行った。3800寺から回答があり、従軍僧の日誌や写真などの資料も寄せられた。その調査結果に基づく本番組は、教団が日中戦争を好機としてアジアに進出、布教を進めたこと、また太平洋戦争中も金属回収、学童疎開、戦時動員に協力していたことなどを描いた。それだけでなく、この戦争協力を負の教訓とし、過ちを繰り返すまいと行動する今の僧侶たちの姿も紹介した。
いずれも、これまであまり取り上げられることのなかったテーマや時期を対象とし、生存者の証言や公文書、当事者の日記などの資料に基づいて、事象の背景や関係者の葛藤を生き生きと描き出した。戦争体験者の多くが90歳以上になる中で今後、日記など未発掘の資料の価値は一層高まってゆくだろう。それを活用すればまだまだ知られざる事実を明るみに出すことができるという手ごたえを感じた。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
2022年10月03日
【月刊マスコミ評・新聞】政府言い分に疑問を挟まなぬ不快感=白垣詔男
岸田文雄首相が出席して9月8日、国会閉会中審査があった。しかし、岸田の答弁には、国民を納得させるものはほとんどなかった。
翌9日の朝刊全国紙は社説で、岸田の国会説明と国葬問題を取り上げた。「疑念の核心に答えていない」(毎日)、「首相の説明 納得に遠く」(朝日)と見出しを見てもこの2紙は「このままでは国葬反対」の姿勢が見て取れた。しかし、「政府広報」と言われる読売は「追悼の場を静かに迎えたい」、同じく産経「安倍氏を堂々と送りたい」と、岸田答弁への疑問はほとんどないかのような論調だった。産経に至っては「国葬の是非と旧統一教会の問題を結びつけるべきではない。それはテロ肯定につながる」と意味不明の文章がある。「反社会的集団」である旧統一教会の宣伝役を積極的に買って出て、国民の多くの家庭や家族を崩壊させた「先兵」でもあった安倍を国葬にするおかしさについて考えられないのではないか。
また、「国葬」に否定的な毎日、朝日にしても、政府が数日前に遅ればせながら国葬費用の概算を発表した「おかしさ」については疑問を言わない。
当初、政府が「国葬費用は2・5億円」と発表して、それ以外は国葬後に発表すると官房長官の松野博一が、木で鼻をくくるような言い方で断言していた。しかし、岸田内閣の支持率が、「旧統一教会問題」が大きく報じられてから急降下したことに慌てたのか、松野は前言を翻して、「総額16・6億円」と発表した。岸田内閣の支持率が下がらなければ、「国葬費用総額」については、事後に発表する姿勢を変えなかったと考えるのは自然だろう。
このところの新聞は、その背景にある「なぜ」を書かない。今回の岸田の国会発言も、そのまま報じ、それ自体の「意味のなさ」「説明不足」は指摘するが、それ以上の「なぜ」まで切り込まない。
「コロナ禍」についても政府は、さまざまな「規制緩和」「全体検査数の変更」を次々打ち出し、それ自体マスコミは報じるが「なぜ今そうなるか」まで突っ込まない。政府の政策変更におとなしく従う日本国民も「なぜ」を問う姿勢が弱い。これまた、新聞はじめマスコミが、そういう国民を作り上げているのではと不快感が募るばかりだ。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
翌9日の朝刊全国紙は社説で、岸田の国会説明と国葬問題を取り上げた。「疑念の核心に答えていない」(毎日)、「首相の説明 納得に遠く」(朝日)と見出しを見てもこの2紙は「このままでは国葬反対」の姿勢が見て取れた。しかし、「政府広報」と言われる読売は「追悼の場を静かに迎えたい」、同じく産経「安倍氏を堂々と送りたい」と、岸田答弁への疑問はほとんどないかのような論調だった。産経に至っては「国葬の是非と旧統一教会の問題を結びつけるべきではない。それはテロ肯定につながる」と意味不明の文章がある。「反社会的集団」である旧統一教会の宣伝役を積極的に買って出て、国民の多くの家庭や家族を崩壊させた「先兵」でもあった安倍を国葬にするおかしさについて考えられないのではないか。
また、「国葬」に否定的な毎日、朝日にしても、政府が数日前に遅ればせながら国葬費用の概算を発表した「おかしさ」については疑問を言わない。
当初、政府が「国葬費用は2・5億円」と発表して、それ以外は国葬後に発表すると官房長官の松野博一が、木で鼻をくくるような言い方で断言していた。しかし、岸田内閣の支持率が、「旧統一教会問題」が大きく報じられてから急降下したことに慌てたのか、松野は前言を翻して、「総額16・6億円」と発表した。岸田内閣の支持率が下がらなければ、「国葬費用総額」については、事後に発表する姿勢を変えなかったと考えるのは自然だろう。
このところの新聞は、その背景にある「なぜ」を書かない。今回の岸田の国会発言も、そのまま報じ、それ自体の「意味のなさ」「説明不足」は指摘するが、それ以上の「なぜ」まで切り込まない。
「コロナ禍」についても政府は、さまざまな「規制緩和」「全体検査数の変更」を次々打ち出し、それ自体マスコミは報じるが「なぜ今そうなるか」まで突っ込まない。政府の政策変更におとなしく従う日本国民も「なぜ」を問う姿勢が弱い。これまた、新聞はじめマスコミが、そういう国民を作り上げているのではと不快感が募るばかりだ。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
2022年09月10日
【月刊マスコミ評・出版】安倍元首相銃撃事件と「政治の力」=荒屋敷 宏
安倍晋三元首相銃撃事件の容疑者の犯行動機についてメディアの多数は当初、「特定の宗教団体に恨みがある」と警察発表そのままだった。霊感商法の犯罪で敗訴を重ねた「旧統一教会」は、2015年に「世界平和統一家庭連合」と名前を変えたが、今も反共産主義の国際勝共連合と一体の組織である。
『創』9月号(篠田博之編集長)は、「安倍元首相銃撃事件の背景、そして国家と社会」と題し、金平茂紀、吉岡忍、有田芳生各氏の座談会記事を掲載した。この事件について「一般的な類型化をしたくない」(金平氏)との決意が目を引いた。
有田氏は「実は1995年のオウム事件の後、捜査当局が『次は統一教会だ』と言っていたのを、警察庁や警視庁の幹部から聞いていました。でも10年経っても何にもないないから『何だったんですか』と聞いたら、『政治の力だ』と言われたんです」と改めて証言している。「政治の力」発言は、テレビ朝日の放送以後、タブー視されたが、有田氏は日刊ゲンダイデジタルに書き、8月11日放送の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)でも同様の発言をした。警察幹部の言う「政治の力」とは一体何だったのか。
『文芸春秋』9月号(新谷学編集長)の特集「安倍元首相暗殺と統一教会」で森健氏と同誌取材班のレポートは、「勝共連合会長が語った安倍家三代と統一教会」など、事実を豊富に伝える。トランプ前米大統領のビデオメッセージ出演をちらつかせて、安倍元首相の出演にこぎつける様子など、米国追随の自民党政治家を利用する統一教会の詐術が見えてくる。「コリア民族主義」の団体が、なぜ靖国派の政治家とつながるのか。日本の無思想、無節操の象徴か。やはり、謎だらけである。
『世界』9月号(熊谷伸一郎編集長)も特集「元首相銃撃殺害 何が問われているか」を組んだ。フォトジャーナリストの藤田庄市氏の「宗教カルト 破壊される家庭と漂流する2世たち」は読み応えがあった。教団トップの代わりに安倍元首相が殺害された事件だときちんと押さえた上で、統一教会の「違法な伝道強化活動による酷使できる信者および財の獲得」に迫っている。宗教法人とはいえないこの反社会的集団が存在するかぎり、カルトの犠牲者は増え続け、再び同様な事件が起きることを示唆している。しかし、統一教会の反共産主義にメスを入れる論者がいないのも、この国のマスメディアの現実なのである。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
『創』9月号(篠田博之編集長)は、「安倍元首相銃撃事件の背景、そして国家と社会」と題し、金平茂紀、吉岡忍、有田芳生各氏の座談会記事を掲載した。この事件について「一般的な類型化をしたくない」(金平氏)との決意が目を引いた。
有田氏は「実は1995年のオウム事件の後、捜査当局が『次は統一教会だ』と言っていたのを、警察庁や警視庁の幹部から聞いていました。でも10年経っても何にもないないから『何だったんですか』と聞いたら、『政治の力だ』と言われたんです」と改めて証言している。「政治の力」発言は、テレビ朝日の放送以後、タブー視されたが、有田氏は日刊ゲンダイデジタルに書き、8月11日放送の「ミヤネ屋」(読売テレビ制作)でも同様の発言をした。警察幹部の言う「政治の力」とは一体何だったのか。
『文芸春秋』9月号(新谷学編集長)の特集「安倍元首相暗殺と統一教会」で森健氏と同誌取材班のレポートは、「勝共連合会長が語った安倍家三代と統一教会」など、事実を豊富に伝える。トランプ前米大統領のビデオメッセージ出演をちらつかせて、安倍元首相の出演にこぎつける様子など、米国追随の自民党政治家を利用する統一教会の詐術が見えてくる。「コリア民族主義」の団体が、なぜ靖国派の政治家とつながるのか。日本の無思想、無節操の象徴か。やはり、謎だらけである。
『世界』9月号(熊谷伸一郎編集長)も特集「元首相銃撃殺害 何が問われているか」を組んだ。フォトジャーナリストの藤田庄市氏の「宗教カルト 破壊される家庭と漂流する2世たち」は読み応えがあった。教団トップの代わりに安倍元首相が殺害された事件だときちんと押さえた上で、統一教会の「違法な伝道強化活動による酷使できる信者および財の獲得」に迫っている。宗教法人とはいえないこの反社会的集団が存在するかぎり、カルトの犠牲者は増え続け、再び同様な事件が起きることを示唆している。しかし、統一教会の反共産主義にメスを入れる論者がいないのも、この国のマスメディアの現実なのである。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年09月09日
【月刊マスコミ評・新聞】「国葬」に感度鈍かった朝日、毎日=六光寺 弦
安倍晋三元首相の国葬は問題だらけだ。業績は国を挙げての顕彰に到底値しない。それ以前に、国葬は法的根拠を欠き、弔意を事実上強制するなど、違憲、違法の疑いが極めて強い。だが全国紙、中でも朝日、毎日両紙は鈍かった。
国葬実施を岸田文雄首相が表明したのは、安倍元首相の死から6日後の7月14日。産経は当日朝刊社説で国葬にするよう主張していた。てっきり他紙は批判するだろうと思ったら違った。
16日付で毎日、読売が社説で取り上げたが、あっさりと「容認」。安倍政治支持の読売はともかく、毎日の論調には首をかしげた。「世論を見極めながら決めるべきではなかったか」と言いながら、違法・違憲性に踏み込まない。「国民が弔意を示す場を設ける必要はある」「多くの国民の理解を得られる形にすることが望ましい」と、物分かりの良さが目立った。
朝日に至っては、社説で取り上げたのは首相会見から1週間近くもたった20日付。疑義を示しながらも、「反対」は言わず「撤回」を主張するわけでもない。
腰が引けていたのは社説だけではない。朝日、毎日両紙は7月16、17両日の週末、定例の世論調査をそれぞれ実施したが、「国葬」に関連した質問はなかった。
賛否を正面から問う世論調査は、7月末の共同通信、日経新聞の両調査を待つしかなかった。結果は共同調査では「反対」が過半数。日経調査も「反対」が「賛成」を上回った。8月上旬のJNN調査も同じ結果だった。朝日、毎日両紙が質問を盛り込んでいれば、自民党の茂木敏充幹事長が「国民から『国葬はいかがなものか』との指摘があるとは認識していない」と言い放つこともなかっただろう。
踏ん張りを見せていたのは地方紙だった。
16日付社説で琉球新報は「憲法が保障する内心の自由に抵触する国葬には反対する」と明記。信濃毎日新聞、京都新聞、沖縄タイムスも、「納得がいかない」「再考を求める」などの表現で、反対の意思を示した。北海道新聞は「国会で妥当性を議論すべきだ」と指摘。その後も、疑義を示す地方紙各紙の社説が続いた。
朝日、毎日ともその後、国会審議を求める社説を掲載したが、当初の鈍さは目を覆うばかり。何を忖度したのだろうか。
六光寺 弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
国葬実施を岸田文雄首相が表明したのは、安倍元首相の死から6日後の7月14日。産経は当日朝刊社説で国葬にするよう主張していた。てっきり他紙は批判するだろうと思ったら違った。
16日付で毎日、読売が社説で取り上げたが、あっさりと「容認」。安倍政治支持の読売はともかく、毎日の論調には首をかしげた。「世論を見極めながら決めるべきではなかったか」と言いながら、違法・違憲性に踏み込まない。「国民が弔意を示す場を設ける必要はある」「多くの国民の理解を得られる形にすることが望ましい」と、物分かりの良さが目立った。
朝日に至っては、社説で取り上げたのは首相会見から1週間近くもたった20日付。疑義を示しながらも、「反対」は言わず「撤回」を主張するわけでもない。
腰が引けていたのは社説だけではない。朝日、毎日両紙は7月16、17両日の週末、定例の世論調査をそれぞれ実施したが、「国葬」に関連した質問はなかった。
賛否を正面から問う世論調査は、7月末の共同通信、日経新聞の両調査を待つしかなかった。結果は共同調査では「反対」が過半数。日経調査も「反対」が「賛成」を上回った。8月上旬のJNN調査も同じ結果だった。朝日、毎日両紙が質問を盛り込んでいれば、自民党の茂木敏充幹事長が「国民から『国葬はいかがなものか』との指摘があるとは認識していない」と言い放つこともなかっただろう。
踏ん張りを見せていたのは地方紙だった。
16日付社説で琉球新報は「憲法が保障する内心の自由に抵触する国葬には反対する」と明記。信濃毎日新聞、京都新聞、沖縄タイムスも、「納得がいかない」「再考を求める」などの表現で、反対の意思を示した。北海道新聞は「国会で妥当性を議論すべきだ」と指摘。その後も、疑義を示す地方紙各紙の社説が続いた。
朝日、毎日ともその後、国会審議を求める社説を掲載したが、当初の鈍さは目を覆うばかり。何を忖度したのだろうか。
六光寺 弦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年08月16日
【月刊マスコミ評・新聞】暴力は自由な社会に対する挑戦=山田 明
参院選投開票2日前、衝撃的な事件が起きた。安倍晋三元首相が奈良市で街頭演説中に銃撃され、亡くなった。卑劣極まるテロである。事件の背景や警備体制など、徹底した捜査・検証を求めたい。気になるのは、事件後「安倍政治」を一方的に礼賛する報道が目立つことだ。選挙への影響も懸念される。
その中で北海道新聞9日社説「言論封殺する卑劣なテロ」に注目した。安倍氏「自身の保守的・復古的な政治信条を押し通そうとした結果、国民の間の分断が深まった側面は否めない。森友・加計問題、桜を見る会など数々の疑惑も最後まで説明責任を果たさなかった。しかし、そうした「安倍政治」への批判や異議は、あくまでも健全な言論を通じてなされるべきだ。暴力で口を封じようとする行為は自由な社会に対する重大な挑戦である。」
息苦しさが漂う中で、参院選が終わった。選挙結果は、自民が改選議席の単独過半数を占め大勝した。非改選議席と合わせ、自民・公明で参院でも過半数を維持した。立憲は議席を減らし、維新は衆院選に続き伸長した。昨年の衆院選後の「野党分断」により、自民は1人区で圧勝した。野党は「共闘」しないことには、与党の厚い壁を崩すことなどできない。今回の選挙結果をシビアに検証、評価すべきだ。
自公と維新・国民の改憲勢力は参院でも3分の2の議席を確保した。憲法9条などの改憲、ウクライナ戦争に便乗した軍拡・「核共有」など、日本の平和を脅かす動きから目が離せない。
今年は1972年5月の沖縄の本土復帰から50年になる。琉球新報6月27日朝刊は、沖縄で開催されたシンポジウムの宮本憲一氏講演を詳しく伝えている。
沖縄戦を繰り返すなという主張が沖縄から出ているように、ウクライナ戦争は沖縄の危機を呼び起こす問題だ。今のまま日米軍事ブロック化を強化すれば、沖縄が再び戦場になることは避けがたい。沖縄戦を二度と起こさないという思いは日本人全体の決意でないといけないと、警鐘を鳴らす。
とかく好戦的なムードに流され、軍事同盟や軍拡に走りがちになるが、「外交を含めた総合的な戦略を構築することこそ、政治が果たすべき役割である」(朝日6月24日社説)。政治とともにメディアも真価が問われている。
山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
その中で北海道新聞9日社説「言論封殺する卑劣なテロ」に注目した。安倍氏「自身の保守的・復古的な政治信条を押し通そうとした結果、国民の間の分断が深まった側面は否めない。森友・加計問題、桜を見る会など数々の疑惑も最後まで説明責任を果たさなかった。しかし、そうした「安倍政治」への批判や異議は、あくまでも健全な言論を通じてなされるべきだ。暴力で口を封じようとする行為は自由な社会に対する重大な挑戦である。」
息苦しさが漂う中で、参院選が終わった。選挙結果は、自民が改選議席の単独過半数を占め大勝した。非改選議席と合わせ、自民・公明で参院でも過半数を維持した。立憲は議席を減らし、維新は衆院選に続き伸長した。昨年の衆院選後の「野党分断」により、自民は1人区で圧勝した。野党は「共闘」しないことには、与党の厚い壁を崩すことなどできない。今回の選挙結果をシビアに検証、評価すべきだ。
自公と維新・国民の改憲勢力は参院でも3分の2の議席を確保した。憲法9条などの改憲、ウクライナ戦争に便乗した軍拡・「核共有」など、日本の平和を脅かす動きから目が離せない。
今年は1972年5月の沖縄の本土復帰から50年になる。琉球新報6月27日朝刊は、沖縄で開催されたシンポジウムの宮本憲一氏講演を詳しく伝えている。
沖縄戦を繰り返すなという主張が沖縄から出ているように、ウクライナ戦争は沖縄の危機を呼び起こす問題だ。今のまま日米軍事ブロック化を強化すれば、沖縄が再び戦場になることは避けがたい。沖縄戦を二度と起こさないという思いは日本人全体の決意でないといけないと、警鐘を鳴らす。
とかく好戦的なムードに流され、軍事同盟や軍拡に走りがちになるが、「外交を含めた総合的な戦略を構築することこそ、政治が果たすべき役割である」(朝日6月24日社説)。政治とともにメディアも真価が問われている。
山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
2022年08月15日
【月刊マスコミ評・放送】低調な選挙戦とテレビの責任=岩崎貞明
本紙が発行される頃には参議院選挙の結果もすでに判明していることだろうが、今回はスタート前から「史上最も低調な選挙戦」と言われるほど、盛り上がりの感じられない選挙だった。野党共闘が不十分な形になってしまったことはもちろん大きな要因だと思われるが、マスメディア、とくにテレビの報道が精彩を欠いていたことも、その責任の一端を担っていたのではないか。
たとえば、選挙が公示された6月22日の、各局の夜のニュース番組を見比べてみる。NHK『ニュースウオッチ9』はさすがに参院選スタートをトップ項目に置き、有権者が最も重視する政策課題として1番目に経済対策、2番目に外交・安全保障をあげていることなどを紹介していたが、民放は、日本テレビ『NEWS ZERO』は「さいたま市で立てこもり男を逮捕」「23歳女性、別荘で監禁され死亡」「上司から“侮辱賞状”で自殺」「諸物価の値上げ」と来て、ようやく「参院選公示」となる。TBS『NEWS23』も「トー横のハウル逮捕」「さいたま市の立てこもり男逮捕」と事件ものが来て、特集「ラッパーAwichと沖縄」(これはなかなか好企画だったが)を挟んで「コロナ給付金10億円詐欺逮捕」の後、参院選関連の項目となっていた。テレビ朝日『報道ステーション』は「アフガニスタンで大地震」「世界各地で物価高反対デモ」の後、三番目に参院選だった。
いわゆる「改憲勢力」が三分の二以上の議席を占め、いつでも改憲を発議できるようになってしまうという重要な事態に直面しているのに、この体たらく。自民党議員からは「政治のことを考えなくていいのは良い国」「野党から来た話は聞かない」など、徹底的に批判すべき暴言も続発していたのに、テレビ報道は全体的に大人しかった。
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は5年前、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」を公表、「放送局には選挙に関する報道と評論の自由がある」「選挙に関する報道と論評に求められているのは量的公平ではない」と明確に指摘している。また今回は「#選挙特番は投票日の前に放送を」とのネット署名も呼びかけられ、5万筆以上の署名が在京テレビ各局に提出された。
テレビの選挙報道に、まだ期待を寄せようという声がある。今回、テレビ東京は投票日前日に特番を編成したが、他局は今後、この声にどう応えるのか。
岩崎貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
たとえば、選挙が公示された6月22日の、各局の夜のニュース番組を見比べてみる。NHK『ニュースウオッチ9』はさすがに参院選スタートをトップ項目に置き、有権者が最も重視する政策課題として1番目に経済対策、2番目に外交・安全保障をあげていることなどを紹介していたが、民放は、日本テレビ『NEWS ZERO』は「さいたま市で立てこもり男を逮捕」「23歳女性、別荘で監禁され死亡」「上司から“侮辱賞状”で自殺」「諸物価の値上げ」と来て、ようやく「参院選公示」となる。TBS『NEWS23』も「トー横のハウル逮捕」「さいたま市の立てこもり男逮捕」と事件ものが来て、特集「ラッパーAwichと沖縄」(これはなかなか好企画だったが)を挟んで「コロナ給付金10億円詐欺逮捕」の後、参院選関連の項目となっていた。テレビ朝日『報道ステーション』は「アフガニスタンで大地震」「世界各地で物価高反対デモ」の後、三番目に参院選だった。
いわゆる「改憲勢力」が三分の二以上の議席を占め、いつでも改憲を発議できるようになってしまうという重要な事態に直面しているのに、この体たらく。自民党議員からは「政治のことを考えなくていいのは良い国」「野党から来た話は聞かない」など、徹底的に批判すべき暴言も続発していたのに、テレビ報道は全体的に大人しかった。
放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は5年前、「2016年の選挙をめぐるテレビ放送についての意見」を公表、「放送局には選挙に関する報道と評論の自由がある」「選挙に関する報道と論評に求められているのは量的公平ではない」と明確に指摘している。また今回は「#選挙特番は投票日の前に放送を」とのネット署名も呼びかけられ、5万筆以上の署名が在京テレビ各局に提出された。
テレビの選挙報道に、まだ期待を寄せようという声がある。今回、テレビ東京は投票日前日に特番を編成したが、他局は今後、この声にどう応えるのか。
岩崎貞明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
2022年07月09日
【月刊マスコミ評・新聞】「何も言わない首相」の支持率=白垣詔男
岸田文雄首相は、「自分の考え」を表明することがないままで通常国会を終えた。しかし、「何もしない首相」の支持率は上がる一方だ。国民が政治に期待しない意思の表明だと思えば、支持率の上昇はうなずけるが、悲しい。参議院選挙の投票率向上も、これでは、ほとんど期待できないのではないか。これまた悲しくなるだろう。
さて、岸田の国会答弁、テレビに映る姿は、いつも下向いて、官僚がしたためた文章を読んでいる。岸田よりひどいのが官房長官・松野博一で、顔を上げるのは記者の質問に答え終わる数秒前に限られる。ウクライナ大統領、ゼレンスキーとは好対照だ。大統領が下向いて話す映像は、まずない。これが政治家の本来の姿というか訴える言葉を持っている人間の正常な姿だと思う。
「何も答えない」岸田の答弁について、5月27日の補正予算衆院通過を受けて28日の毎日朝刊に「首相『ゼロ回答』に終始」の見出しで岸田の「ゼロ回答」の具体的な発言を6通り票にしてあった。
与党・自民党の小野寺五典の質問「反撃能力の保持を政府として前向きに考えてもらいたい」に対し岸田は「国民の命を守るために何が必要か現実的、具体的に考えなければならない」と答弁。立憲民主党・長妻昭の質問「コロナにかかりながら、医療ケアを受けられず自宅で亡くなった人の実態調査を指示してほしい」に対し岸田は「政府として重く受け止め責任を感じる。ただ、数の把握は実際そう簡単ではないと聞いている」と答えた。共産党・宮本徹の質問「物価高騰を踏まえ、今年は最低賃金の思い切った引き上げを」に対し岸田は「(時給)1000円以上を目指し努力している。努力を続けたい」。
岸田の答弁は、慎重というのではない、何も答えていない現実が明らかだ。岸田の発言の裏には、安倍晋三の影が色濃い。安倍に事前に相談なく「自説」を披露したら、自らの自民党総裁(首相)再選はないと肝に銘じているかのように見える。
それでも、岸田の国会答弁の実態を知らないのか、国民の支持率はじりじり上がっている。日本の多くの国民は、首相は何もしないほうがいいと思っているのだろうか。マスコミは、その真相を掘り下げてほしい。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
さて、岸田の国会答弁、テレビに映る姿は、いつも下向いて、官僚がしたためた文章を読んでいる。岸田よりひどいのが官房長官・松野博一で、顔を上げるのは記者の質問に答え終わる数秒前に限られる。ウクライナ大統領、ゼレンスキーとは好対照だ。大統領が下向いて話す映像は、まずない。これが政治家の本来の姿というか訴える言葉を持っている人間の正常な姿だと思う。
「何も答えない」岸田の答弁について、5月27日の補正予算衆院通過を受けて28日の毎日朝刊に「首相『ゼロ回答』に終始」の見出しで岸田の「ゼロ回答」の具体的な発言を6通り票にしてあった。
与党・自民党の小野寺五典の質問「反撃能力の保持を政府として前向きに考えてもらいたい」に対し岸田は「国民の命を守るために何が必要か現実的、具体的に考えなければならない」と答弁。立憲民主党・長妻昭の質問「コロナにかかりながら、医療ケアを受けられず自宅で亡くなった人の実態調査を指示してほしい」に対し岸田は「政府として重く受け止め責任を感じる。ただ、数の把握は実際そう簡単ではないと聞いている」と答えた。共産党・宮本徹の質問「物価高騰を踏まえ、今年は最低賃金の思い切った引き上げを」に対し岸田は「(時給)1000円以上を目指し努力している。努力を続けたい」。
岸田の答弁は、慎重というのではない、何も答えていない現実が明らかだ。岸田の発言の裏には、安倍晋三の影が色濃い。安倍に事前に相談なく「自説」を披露したら、自らの自民党総裁(首相)再選はないと肝に銘じているかのように見える。
それでも、岸田の国会答弁の実態を知らないのか、国民の支持率はじりじり上がっている。日本の多くの国民は、首相は何もしないほうがいいと思っているのだろうか。マスコミは、その真相を掘り下げてほしい。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
2022年07月08日
【月刊マスコミ評・出版】国際法を支える草の根の連帯=荒屋敷 宏
出版社のPR誌には、時折、重要な論考が掲載されることがあるから、油断できない。『みすず』5月、6月号に連載された最上敏樹氏の「ウクライナに耳を澄ます 最後の征服戦争」(上・下)は、国連安保理常任理事国であるロシアのウクライナ侵略を受けて、蛮行を許した国際法および国際機構システムの脆弱さを見直して、新しい国際法、国際機構を構想する必要があるのではないか、と問いかけている。
今回のロシアによる国連憲章・国際法の侵害には、ただの武力行使や侵略でもなく、第2次世界大戦後初の「征服戦争」の様相がある、と最上氏は指摘する。ロシアが、東部ドンバス地域の懸案解決ではなく、ウクライナ国家の独立と主権を奪おうとし、武力紛争時の弱者保護を一顧だにしない点があるからだ。核超大国が無法者国家になる脅威にも注意を促している。
そのうえで、最上氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領による国連安保理に対するオンライン演説(4月5日)に「根源的な問題点」が言い尽くされているという。「一つは、もしロシアの侵略から加盟国を守れないのなら、安保理ひいては国連には存在意義がないし、解体すべきではないかという点である。もう一つは、事態がそこまで立ち至るなら、それは国際法の終焉を意味しているのではないか、という点である」と。侵略の禁止と国際人道法の尊重について草の根の連帯を育てていくほかないと最上氏は結論づけている。
一方、『世界』7月号に掲載された松井芳郎氏の「多国間主義の危機 ウクライナ侵略と国際社会の進路」と題する論文は、「世論は究極的には、最も信頼できる国際法の執行者」という立場から、ロシアを平和の国際世論で包囲し、日本国憲法前文がうたう多国間主義の立場で行動する重要性を強調している。松井氏によると、多国間主義とは国の個別的利益の追求ではなく、国際社会の一般的利益の追求であるという。
「多国間主義を通じて国際関係を変革し国際社会の一般的利益を追求することを可能とするためには、各国の国内における民主的な意思決定が不可欠」との松井氏の指摘は重要だ。ロシアのウクライナ侵略を契機として軍備を増強し軍事同盟を強化する単独行動主義への傾斜が欧米の一部や日本で強まっている。こうした状況の下で一部のマスメディアが「軍事対軍事」「力対力」の論理をあおりたて、「民主的な意思決定」を阻害することは犯罪的ですらある。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
今回のロシアによる国連憲章・国際法の侵害には、ただの武力行使や侵略でもなく、第2次世界大戦後初の「征服戦争」の様相がある、と最上氏は指摘する。ロシアが、東部ドンバス地域の懸案解決ではなく、ウクライナ国家の独立と主権を奪おうとし、武力紛争時の弱者保護を一顧だにしない点があるからだ。核超大国が無法者国家になる脅威にも注意を促している。
そのうえで、最上氏は、ウクライナのゼレンスキー大統領による国連安保理に対するオンライン演説(4月5日)に「根源的な問題点」が言い尽くされているという。「一つは、もしロシアの侵略から加盟国を守れないのなら、安保理ひいては国連には存在意義がないし、解体すべきではないかという点である。もう一つは、事態がそこまで立ち至るなら、それは国際法の終焉を意味しているのではないか、という点である」と。侵略の禁止と国際人道法の尊重について草の根の連帯を育てていくほかないと最上氏は結論づけている。
一方、『世界』7月号に掲載された松井芳郎氏の「多国間主義の危機 ウクライナ侵略と国際社会の進路」と題する論文は、「世論は究極的には、最も信頼できる国際法の執行者」という立場から、ロシアを平和の国際世論で包囲し、日本国憲法前文がうたう多国間主義の立場で行動する重要性を強調している。松井氏によると、多国間主義とは国の個別的利益の追求ではなく、国際社会の一般的利益の追求であるという。
「多国間主義を通じて国際関係を変革し国際社会の一般的利益を追求することを可能とするためには、各国の国内における民主的な意思決定が不可欠」との松井氏の指摘は重要だ。ロシアのウクライナ侵略を契機として軍備を増強し軍事同盟を強化する単独行動主義への傾斜が欧米の一部や日本で強まっている。こうした状況の下で一部のマスメディアが「軍事対軍事」「力対力」の論理をあおりたて、「民主的な意思決定」を阻害することは犯罪的ですらある。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
2022年06月15日
【月刊マスコミ評・放送】ウクライナ危機の歴史的背景浮き彫り=諸川麻衣
ロシアのウクライナ侵略に関しては、TBSの金平茂紀キャスターがウクライナ入りして果敢に現地の情勢を伝えてきたが、NHKでは今回の危機の歴史的背景と世界にとっての意味を論じた番組が注目される。
3月19日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 2014 対立の原点』は、2014年5月放送の『歴史と民族から考えるウクライナ』を、前後に解説を付して改めて放送したもの。ウクライナでは2014年2月に親ロシア派と目されたヤヌコーヴィチ大統領が市民のデモで失脚(いわゆるマイダン革命)、これに対し3月にはロシアがクリミア半島を併合、ウクライナ南東部のドンバス地方でも親ロシア派が実権を握って分離の動きを強めていた。
番組では識者が対立の背景を、歴史、政治、宗教、経済など多角的に論じ、ソ連成立後のウクライナの苦難、反ソの民族主義運動も、写真と動画で伝えた。歴史家の山内昌之氏はこの時はウクライナの内戦の可能性を指摘したが、今回の侵攻はむしろウクライナを対ロシア愛国主義で結束させてしまったようだ。NHKの石川一洋解説委員は今回、この8年で東部でもウクライナ民族意識が強まり、現状はロシア帝国崩壊の「最後のうめき」だと述べる。
4月3日の『NHKスペシャル ウクライナとロシア 決別の深層』は、マイダン革命以降8年間の対立激化の過程と、侵攻勃発後の両国市民の動向を伝えた。プーチンがウクライナの親欧米路線に抱いた危機感、彼の「論文」に現れた汎ロシア主義などから、行動の動機が明らかにされた。
一方で、アメリカに留学していたウクライナ人が恋人と共に帰国し、闘いの最前線に支援物資を送る様子や、親ロシア感情が強かった東部で「今回は目が覚めましたよ。この戦争で身をもって感じたのです。ロシアの“兄弟愛”をね」と語る住民など、直接取材が困難な状況下での動画送信で、市民の肉声を伝えた。
4月2日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く』は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ、ジャック・アタリ、イアン・ブレマーへのインタビューだが、ここでもこの戦争は世界史の新局面ではなく、冷戦の断末魔・最後の出来事だとの指摘がなされた。
できれば今後、いわゆる「西側」民主主義国だけでなく、国連憲章順守で一致した約140か国の主張も是非番組で伝えてほしい。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
3月19日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 2014 対立の原点』は、2014年5月放送の『歴史と民族から考えるウクライナ』を、前後に解説を付して改めて放送したもの。ウクライナでは2014年2月に親ロシア派と目されたヤヌコーヴィチ大統領が市民のデモで失脚(いわゆるマイダン革命)、これに対し3月にはロシアがクリミア半島を併合、ウクライナ南東部のドンバス地方でも親ロシア派が実権を握って分離の動きを強めていた。
番組では識者が対立の背景を、歴史、政治、宗教、経済など多角的に論じ、ソ連成立後のウクライナの苦難、反ソの民族主義運動も、写真と動画で伝えた。歴史家の山内昌之氏はこの時はウクライナの内戦の可能性を指摘したが、今回の侵攻はむしろウクライナを対ロシア愛国主義で結束させてしまったようだ。NHKの石川一洋解説委員は今回、この8年で東部でもウクライナ民族意識が強まり、現状はロシア帝国崩壊の「最後のうめき」だと述べる。
4月3日の『NHKスペシャル ウクライナとロシア 決別の深層』は、マイダン革命以降8年間の対立激化の過程と、侵攻勃発後の両国市民の動向を伝えた。プーチンがウクライナの親欧米路線に抱いた危機感、彼の「論文」に現れた汎ロシア主義などから、行動の動機が明らかにされた。
一方で、アメリカに留学していたウクライナ人が恋人と共に帰国し、闘いの最前線に支援物資を送る様子や、親ロシア感情が強かった東部で「今回は目が覚めましたよ。この戦争で身をもって感じたのです。ロシアの“兄弟愛”をね」と語る住民など、直接取材が困難な状況下での動画送信で、市民の肉声を伝えた。
4月2日の『ETV特集 ウクライナ侵攻が変える世界 私たちは何を目撃しているのか 海外の知性に聞く』は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ、ジャック・アタリ、イアン・ブレマーへのインタビューだが、ここでもこの戦争は世界史の新局面ではなく、冷戦の断末魔・最後の出来事だとの指摘がなされた。
できれば今後、いわゆる「西側」民主主義国だけでなく、国連憲章順守で一致した約140か国の主張も是非番組で伝えてほしい。
諸川麻衣
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
2022年06月13日
【月刊メディア評・新聞】大阪カジノ底なしの公費負担に懸念=山田 明
ロシアのウクライナ侵略は、世界秩序を揺るがしている。軍事「ブロック化」が進み、第2次大戦に至る歴史が繰り返されるかのようだ。今こそ、平和主義と外交の真価が問われる時だ。
わが国ではウクライナ戦争に乗じて軍拡や核共有、改憲の動きが勢いを増している。過熱気味の戦争報道の影響もあり、懸念されるのが世論だ。「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」と考えている有権者が増えていることが、共同調査で明らかになった(朝日5月8日)。
憲法9条に基づく日本の防衛の基本方針である「専守防衛」が揺らぎつつある。参院選の結果によっては、9条をはじめとした改憲策動が加速する恐れが強い。自民・公明の与党だけでなく、維新と国民から目が離せない。参院選は日本の針路を左右することになり、マスコミの姿勢も問われる。
沖縄は本土復帰から50年になる。沖縄県は「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を発表した。復帰にあたり「基地のない平和の島」を求めたが、米軍基地の7割が現在も沖縄に集中する。防衛の「南西シフト」(毎日2日)、沖縄と琉球弧の軍事要塞化が急速に進む。建議書は「悲惨な沖縄戦を経験した県民の平和を希求する思いとは全く相容れるものではありません」と懸念を示す。ノ―モア沖縄戦を、本土の護憲運動と連帯させていきたい。
足もとの地域の動きにも触れておく。大阪府・大阪市と長崎県は4月末、カジノを含む統合型リゾート(IR)整備計画の認定を国に申請した。コロナ禍のIRカジノ誘致に対し、地元からも反対の声があがる。
朝日「このまま走る気なのか」、毎日「突き進んでは禍根を残す」、読売「収益に頼る地域振興は適切か」と、3紙は社説で疑問を投げかける。IRと言っても収益の8割はカジノによる。カジノへの批判は根強く、法が求める住民の合意形成には程遠い。読売社説はコロナ禍でカジノをめぐる状況が一変しており、政府や自治体は今一度、考え直すべきだと主張する。
大阪では人工島・夢洲の万博会場隣接地に、IRカジノが計画されている。万博の理念に反し、液状化や地盤沈下により、底なしの公費負担が懸念される。このまま突き進むと地元負担がさらに膨張し、将来に禍根を残すだけだ。
山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
わが国ではウクライナ戦争に乗じて軍拡や核共有、改憲の動きが勢いを増している。過熱気味の戦争報道の影響もあり、懸念されるのが世論だ。「日本の防衛力はもっと強化すべきだ」と考えている有権者が増えていることが、共同調査で明らかになった(朝日5月8日)。
憲法9条に基づく日本の防衛の基本方針である「専守防衛」が揺らぎつつある。参院選の結果によっては、9条をはじめとした改憲策動が加速する恐れが強い。自民・公明の与党だけでなく、維新と国民から目が離せない。参院選は日本の針路を左右することになり、マスコミの姿勢も問われる。
沖縄は本土復帰から50年になる。沖縄県は「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を発表した。復帰にあたり「基地のない平和の島」を求めたが、米軍基地の7割が現在も沖縄に集中する。防衛の「南西シフト」(毎日2日)、沖縄と琉球弧の軍事要塞化が急速に進む。建議書は「悲惨な沖縄戦を経験した県民の平和を希求する思いとは全く相容れるものではありません」と懸念を示す。ノ―モア沖縄戦を、本土の護憲運動と連帯させていきたい。
足もとの地域の動きにも触れておく。大阪府・大阪市と長崎県は4月末、カジノを含む統合型リゾート(IR)整備計画の認定を国に申請した。コロナ禍のIRカジノ誘致に対し、地元からも反対の声があがる。
朝日「このまま走る気なのか」、毎日「突き進んでは禍根を残す」、読売「収益に頼る地域振興は適切か」と、3紙は社説で疑問を投げかける。IRと言っても収益の8割はカジノによる。カジノへの批判は根強く、法が求める住民の合意形成には程遠い。読売社説はコロナ禍でカジノをめぐる状況が一変しており、政府や自治体は今一度、考え直すべきだと主張する。
大阪では人工島・夢洲の万博会場隣接地に、IRカジノが計画されている。万博の理念に反し、液状化や地盤沈下により、底なしの公費負担が懸念される。このまま突き進むと地元負担がさらに膨張し、将来に禍根を残すだけだ。
山田 明
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号