2023年11月05日

【月刊マスコミ評・新聞】大阪万博 準備遅れと大幅経費増=山田 明

 今年の9月は記録的高温だった。「地球沸騰の時代」と言われ、温暖化対策は待ったなしだ。そんな中で,わが国では旧態依然の大規模開発が実施・計画されている。沖縄の辺野古新基地、リニア中央新幹線、明治神宮外苑再開発、大阪湾の夢洲開発など。夢洲開発の厳しい現実に焦点をあてよう。

 大阪湾の人工島・夢洲は、廃棄物・土砂で埋め立てられ軟弱地盤だが、開発の嵐で今にも沈みそうだ。ここで2025年万博が予定されているが、開催まで1年半後というのに、準備が大幅に遅れている。その象徴が海外パビリオン建設の遅れだ。建設が始まった国はまだない。広い会場予定地は閑散としている。岸田首相は8月末、「万博の準備は極めて厳しい状況だ」と指摘し、政府主導で推進する意向を表明したが、果たして間に合うのか。

 問題は開催準備の遅れだけでない。万博会場の建設費、運営費の上振れも大問題だ。建設費は18年の誘致決定時1250億円、20年に会場デザイン変更などで1850億円、さらに2度目の計画修正で2350億円になるという。東京五輪と同じような展開だ。朝日10月1日社説も「万博の経費増 国民にツケを回すのか」「万博開催の是非が問われている深刻な事態」と警鐘を鳴らす。

 大阪府と事業者は9月28日、IRカジノ実施協定を締結。夢洲の万博会場隣に、2030年にIRカジノを開業する計画だ。事業者の要求により、3年後まで違約金なしで撤退できる「解除権」を認め、夢洲の地盤沈下対策などで、事業者は最終決定を先延ばし。こんな曖昧な実施協定を認めた国の責任が問われる。地元では底なしの財政負担、不当な格安賃貸料について、大阪市を相手にした住民訴訟に注目が集まる。ギャンブル後遺症に対する府民の不安は根強く、「カジノはあかん」の声がやまない。

 読売10月7日社説は、「大阪カジノ整備 万博準備への悪影響は必至だ」と問う。万博の開催準備が遅れているのに、その隣で大型工事を始めるのは、さすがに無謀であると。万博開催の本気度も疑われる。
 万博・カジノという夢洲開発は、当初から維新が主導してきた。ここにきて責任逃れをしているが、維新と維新が牛耳る大阪府・市の責任きわめて大きい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
       
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2023年11月01日

【月刊マスコミ評・出版】ジャニーズという名の資本主義=荒屋敷 宏

 「読書の秋」である。今年は、これまでに『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』(ナンシー・フレイザー著、江口泰子訳、ちくま新書)や『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』(大西広著、講談社+α新書)、『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』(デヴィッド・グレーバー、デヴィッド・ウェングロウ共著、光文社)、『資本主義の次に来る世界』(ジェイソン・ヒッケル著、野中香方子訳)など、大きな視角から現代を問う本が次々と出版されている。豊作といってよいかもしれない。

 『週刊エコノミスト』は、10月3日号から100周年企画と銘打って、経済学者・都留重人氏(2006年逝去)が2003年に発表した論文「ゼロ成長でも生活豊かな社会−21世紀資本主義の行方」を3回にわたり再掲載している。
 都留氏は、@世界人口の動態A資源や環境の制約条件B科学技術の進歩の三つを21世紀の資本主義の規定要因と考えた。かつては資本にとり「外部」であった科学が資本に包摂されて「内部化」される過程が進み、科学=産業革命の時代が到来した。
 都留氏によると、働く人たち一般が社会的存在であることを通して技術革新の媒介役を果たしているという。それをマルクスが「社会的個体の発展」と呼んだという。熟練工の技術がデータ化され、機械に置き換えられ、機械の監視と統御が拡大している動向は日々、目撃するところである。

 ジャニーズ会見で特定記者を指名しない「NGリスト」の存在がNHKのスクープで明らかになった。企業の「組織防衛が働いている」「日本の企業の抱える『ガバナンスの未成熟』」「売り上げ至上主義」(『AERA』10月6日号)と指摘されるなど、ジャニーズ問題は日本型資本主義そのものである。

 テレビ局のジャニーズ担当者に編成や制作の権力が集まり、事務所の意向を社内に伝えて優遇され、役員にまで登用される「ジャニ担」の構造にも日本のメディアの弱点が集約されている。「結局、日本のメディアには調査報道をする力もなく、視聴率や売り上げが上がれば、不正や内部統制の抜け穴など気にしないという経営幹部が多数いた結果、『沈黙』は起きたのだろう」(『週刊エコノミスト』10月17日号で稲井英一郎氏)との意見には一部を保留した上で賛成したくなる。
 調査報道の役割は、重みを増しており、働く人たちはメディアの活躍を願っている。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年10月25日号
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2023年10月15日

【月刊マスコミ評・放送】まだある 知られざる戦争の悲劇=諸川麻衣

 アジア太平洋戦争を扱ったこの夏のテレビ番組の中から、印象的だったものを幾つか振り返ってみたい。NHKが6月10、17日に放送した『ETV特集 ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む』(2回)は、ミッドウェー海戦の日米双方の全戦没者を特定するというかつてない作業で1986年の菊池寛賞を受賞した作家・澤地久枝さんの最近の活動に密着、改めて日米双方の犠牲者と遺族の心中に迫った。「遺族の願いは戦争を繰り返さないこと。そこに敵も味方もない」という92歳の澤地さんの訴えが、「新たな戦前」とさえ言われる今の時期に切実に響いた。

 NHKの『BS1スペシャル “玉砕”の島 語られなかった真実』(8月9日)は、日本の民間人1万3千人以上が命を落としたサイパンとテニアンの戦いを取り上げた。グループ現代の太田直子ディレクターは、遺族の慰霊の旅に30年近く同行取材、膨大な証言を得てきた。捕虜にならないための集団自決、日本兵に強いられて幼な子の命を奪った肉親など、沖縄戦の悲劇が既に両島で起きていたことに慄然とさせられた。また、先住民に犠牲が出た事実も描かれ、「自分たちのせいであなた方に苦難を強いた」との元日本人移民の謝罪の言葉が心に残った。

 8月12、13日の『NHKスペシャル 新・ドキュメント太平洋戦争 1943 国家総力戦の真実』(2回)は、日記などの個人的記録から戦時の兵士・市民の心を探るシリーズの3年目。山本五十六連合艦隊司令長官の撃墜死とアッツ島玉砕が国民に与えた衝撃の大きさ、銃後・戦地を問わず全国民が総力戦に巻き込まれ、悲壮感を高めてゆくさま、予科練の募集、学徒出陣の決定など十代の若者たちが兵士にされてゆく過程をよく伝えた。

 テレビ朝日の8月5日の『テレメンタリー2023 彷徨い続ける同胞』は、フィリピンで日本人の子として生まれながら、戦中戦後の混乱の中で無国籍となってしまった人々の姿を紹介した。「無国籍」2世は最新の調査で493人いるが、出自を立証する資料がないため、日本国籍取得が困難となっている。日本兵の遺骨収集や空襲被害者の救済問題もそうだが、日本政府の戦後処理にどれほど抜け穴があったのかを鋭く問うた。併せて、あの戦争の被害に関してまだまだ私たちの知らないことがたくさん残されていることも痛感した。さまざまなテーマでの、事実の丹念な発掘に今後も期待したい。 
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号 
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2023年09月29日

【月刊ンマスコミ評・新聞】「歴史修正主義」の原点を感じる=白垣詔男

 関東大震災から100年の9月1日、新聞各紙の社説は、この問題を取り上げた。今年は、震災問題に加え、森達也監督の映画「福田村事件」が話題を呼んでいる。
 朝日は「朝鮮人に関するデマを載せる新聞もあった。社会主義者らが殺傷される事件もあった」「映画『福田村事件』の森達也監督は、状況によって『普通の人、善良な人が悪を犯す。誰でもその要素がある』と話している」と書いた。自戒も含めた文章だろうと解釈したい。
 さらに朝日は、物理学者で随筆家の寺田寅彦の著作「天災と国防」の一文にある「災害に対する警告に対して『当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、そうした忠言に耳をかす暇(いとま)がなかったように見える』と書いている」と国民はデマを信じる余裕がなかったと伝えている。

  同じような「自戒」はネットが発達した現在のほうがデマの拡散は容易になっているとして毎日「不確かな情報に踊らされることがあってはならない」、西日本「その情報が正しいかどうか。…日頃から、少しでも見極める力を養っておくことが大事だ」と自らも襟を正している。
 しかし、当時、警察官僚だった正力松太郎が「デマ拡散」に関係したとされている読売と、産経は、「朝鮮人虐殺の負の歴史」には全く触れていない。ネット全盛の現代、デマによる大衆行動への警告もない。2社の社説を読む限り、「歴史修正主義」の原点を感じる。
 また、松野官房長官が8月31日と9月1日の記者会見で「関東大震災時の朝鮮人ら虐殺」について、「政府内において事実関係を把握する記録は見当たらない」と他人事のような発言を繰り返したことについて、厳しく批判する新聞は見当たらなかった。この発言を報じなかった新聞もあった。

  松野発言に関して共同通信は1日付で韓国、北朝鮮の反応を送信。韓国では、「最大野党『共に民主党』国会議員らがソウルで記者会見をし『日本政府の責任逃れと韓国政府の無関心』を批判した」と報じた。また「北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞が、朝鮮人虐殺を非難する長文の記事を掲載し『受難の過去を決して忘れず、千年の宿敵である日本と決着をつけるしかない』と呼びかけた」と伝えた。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年9月25日号

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2023年08月29日

【月刊マスコミ評・出版】維新批判の文春砲はどこまで続く=荒屋敷 宏

『週刊文春』の孤軍奮闘が目立つ。木原誠二内閣官房副長官の疑惑追及は独走状態で、今度は日本維新の会批判キャンペーンを始めた。岸田内閣の支持率低迷を受けて内閣改造のニュース報道が出始めた。
 文春砲≠ヘ8月10日号で「維新を暴く! 改革政党≠フウソと暗部」の大特集を放ち、8月17日・24日合併号では「維新 馬場代表 社会福祉法人 疑惑の乗っ取りを告発」と連打した。維新の馬場伸幸代表は、気に食わない人物に対して選挙の公認をしないことで有名だという。一方、維新公認で多数の不祥事議員≠ェ出ている。パワハラ、セクハラで立憲民主党から離党に追い込まれた山本剛正衆院議員を維新が公認した例など、枚挙にいとまがない。

 身を切る改革≠竍政治資金の透明性≠掲げるが、維新は政党助成金を受け取った上に、インサイダー事件で逮捕された旧村上ファンドの村上世彰氏から、年間上限2千万円を上回る個人献金を受けていた。叩けばホコリが出る状態だ。神戸学院大の上脇博之教授は、維新議員が月100万円支給される文書通信交通滞在費(現・調査研究広報滞在費)を政党支部に横流しし、選挙を含む私的活動などに充て、公金の私物化をしていると批判している。

 日本維新の会は、不透明な政治資金で身を肥やし、ハラスメント根絶とは裏腹に被害者の声を軽視し、維新代表が社会福祉法人の理事長になるなど、疑問が多すぎる。維新批判の文春砲はどこまで続くだろうか。

 「安倍政治の決算」を特集した8月号が売り切れ続出で増刷した総合誌『世界』は、9月号も興味深い。特集とは別に、防衛大学校教授の等松春夫氏「なぜ自衛隊に『商業右翼』が浸透したか 軍人と文民の教養の共有」と、ライターの木野龍逸氏「汚染水海洋放出は必要なのか」に注目した。
 等松論文は、「危機に瀕する防衛大学校の教育」という話題の論考を発表した経緯の説明である。人文・社会科学系の教養に欠ける幹部自衛官は陰謀論や商業右翼の言説を見抜けないという。『月刊WiLL』や『月刊Hanada』など極右誌への防衛省の現役・元自衛官の登場は常態化しており、見抜けないどころか、意図的ではなかろうか。
 木野論文は、岸田政権が強引に推進する東京電力福島第一原発の汚染水放出計画について、コスト節約のための放出という疑念が消えないと指摘する。反対する漁連に「丁寧に説明」(岸田首相)して解決する問題ではない。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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2023年08月28日

【月刊マスコミ評・新聞】「被爆国の新聞」の自覚はあるか=六光寺 弦

広島市に原爆が投下されて78年の8月6日。松井一実市長はことしの平和宣言で、核抑止論の破綻を直視するよう各国の指導者に求め、脱却を訴えた。湯崎英彦・広島県知事も、核抑止論を強く批判した。主要7カ国首脳会議(G7サミット)の核軍縮文書「広島ビジョン」が、米英仏の核保有を正当化したことへの異議申し立てだ。
核抑止は、保有国首脳が理性を保っていなければ成り立たない。ロシアのプーチン大統領が核を威嚇に使ったことで、その前提は崩れている。

地元紙の中国新聞は6日付朝刊の社説で、核抑止は幻想であると明確に指摘した。同時に、若い世代ほど核保有を容認する空気が広がっているとの危惧を示し、被爆者の体験の掘り起こしと伝承が必要だと強調した。

 全国紙5紙も6日付で社説を掲載したが、趣はかなり異なる。朝日新聞は「核抑止」に「ほころびが著しい」との形容詞を付け、毎日新聞は広島ビジョンについて「被爆者から反発の声が上がったのは当然だ」と書いた。ともに核廃絶を訴えてはいるが、核抑止へのスタンスや、主張の主体性にあいまいさが残る。

 むしろ歯切れがいいのは、核抑止論を肯定する新聞の社説だ。日経新聞は「米国の『核の傘』に頼らざるを得ない現実」と消極的な評価だが、産経は「(政府には)国民を守る核抑止と国民保護の態勢を整える使命がある」と積極評価。松井市長の「抑止の破綻」の表明に触れながら「理想を唱えるだけでは平和を守れない」と論点をずらした。読売は社説で、ロシアが核の使用を踏みとどまっているのは核抑止が機能しているから、との認識を示した。驚くのは、式典の模様を伝える7日付朝刊の1面記事で、松井市長が核抑止の破綻を明言したことに触れていないことだ。ニュースのポイントを、社論と相いれないからと意図的に報じないのであれば、もはや報道とは呼べない。

 G7サミットで「被爆地広島」が世界に広く発信された。世界を俯瞰する視野で見れば、日本の新聞は等しく「被爆国の新聞」のはずだ。だが、全国紙各紙にその自覚はあるのか。核廃絶に向けた被爆者、被爆地の思いや覚悟に対して、ぬぐいがたく「他人ごと感」が漂う。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年8月25日号
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2023年08月25日

【メディア時評】日本のメディア4団体が「生成AIに関する共同声明」を発表=萩山 拓

自由利用の弊害
 8月17日、雑誌協会、書籍出版協会、新聞協会、写真著作権協会が連名で声明を出し、生成AIがもたらす負の影響について触れて、 「著作権法が目的とする文化の発展を阻害する恐れがある」と警鐘を鳴らした。
 いまチャットGPTなどは、現存するインターネット上の大量の記事や画像データを使い、文章や画像をつくりだし、既存の生成AIの訓練だけでなく新たな生成AIの開発に注力している。それができるのは、現在の著作権法で謳う<「著作権者の利益を不当に害する場合」を除き、著作権者の許諾を得ずに利用できる>を活用しているからだといわれている。
 だが、「著作権者の利益を不当に害する場合」の解釈があいまいで、著作権者の利益が還元されないまま、大量のコンテンツが生成されている。

AI利用と著作権保護
 声明では、@海賊版などの違法コンテンツをAIが学習してしまう、A元の作品に類似した著作権侵害コンテンツが生成・拡散される、BAI利用者自身が意図せず権利侵害という違法行為を行う可能性がある、C学習利用の価値が著作権者に還元されないまま大量のコンテンツが生成されることで、創作機会が失われ、経済的にも著作活動が困難になる―などの懸念を挙げ、著作権保護策が改めて検討されるべきだと主張している。
 海外でも、生成AIにどう対応するか、メディアの動きが始まっている。米国ニューヨーク・タイムズ紙は8月3日、利用規約を改定し、自社の記事や写真をAIの訓練のために無断で利用することを禁止すると明記した。また、米国AP通信は7月、チャットGPTを運営するオープンAIと記事提供や技術活用に関する協定を結んでいる。
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2023年08月08日

【月刊マスコミ評・放送】死んだ安倍氏の残したものは「罪」ばかり=三原治

  安倍晋三元首相が選挙活動中に凶弾に倒れた事件から1年。安倍政治は何を残したのか。
ほとんどのニュース番組が、追悼を意識しながら、テレビ報道を委縮させた張本人に対して、今なお忖度した内容がほとんどだ。その中でも、9日のTBS「サンデーモーニング」では、番組冒頭と「風をよむ」で「安倍元総理 死去から1年」を特集した。まずは、旧統一教会と政治の問題にふれ、パネリストの寺島実郎氏が、この団体の本質である反日性を訴え「不思議なのは、安倍元首相のように愛国だとかナショナリズムを語る人たちが、反日を教義とする団体と手を組んでおり、日本人の財産が海外に毎年、数百億円送られている」と斬り込んだ。

 寺島氏は「風をよむ」でも安倍元首相の外交と経済について「ロシアのクリミア併合という2014年が重要で、日本だけが先進国のなかでプーチンを黙認した。それがプーチンを増長させた。アベノミクスではデフレからの脱却を目指して金融をじゃぶじゃぶにしてデフレ脱却しようという政策を日銀まで動かした。その結果が円安で日本の通貨の国際価値が半分になってしまった。
 弁護士の三輪記子氏は、「政権批判が個人に対する悪口みたいに、誹謗中傷のようにとらえられてきた10年。去年、民主主義の危機というのを銃撃事件で感じたが、実は民主主義の危機はもっと前から存在していた。最近の入管法改正にしても、いくら反対しても、声をあげても届かない。無力感を感じる。これを議論しても無駄じゃないかなと思わされてしまう閉塞感がある」と強権的とも言われた安倍政権の問題点を指摘した。

 TBSの松原耕二氏は、「安倍さんは強大な権力を持ったことで異論を封じるような面があった。亡くなったあと別の意味でモノが言えなくなっている。安倍政治の功罪の罪の部分をきちんと見つめることなしに志を継ごうじゃないかというのは物凄く危うい」と、「罪」を強調した。
 その「罪」を羅列すると、特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪を次々と制定。森友学園疑惑では、赤木俊夫氏が自殺。加計学園疑惑で「国家戦略特区」の制度を悪用し、570億円の国費を投入。「桜を見る会」で自身の選挙活動に国費を濫用。伊藤詩織さんがアベ友の山口敬之氏から性的暴行を受け、それを隠ぺい。メディアへの言論弾圧、格差社会を助長と彼の罪状は限りがない。   
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
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2023年08月06日

【月刊マスコミ評・新聞】マイナ保険証で落ち込む内閣支持率=山田明

 6月21日、通常国会が閉会した。これからの日本を左右する防衛費財源確保法や原発推進法が成立した。岸田政権が進める「大転換」、軍拡・原発回帰の具体化だ。改正出入国管理法とLGBT理解増進法も、骨抜きされて成立。22日の朝日社説は、「世論の賛否が分かれるテーマで、より幅広い合意形成を探る努力はみられず、政権をチェックする立法府の責務が果たされたとは、到底言えない」と指摘する。
 与党の拙速な国会運営だけでなく、日本維新の会と国民民主党の対応には、野党の本分にもとる点があったと批判。「与党の補完勢力とみられても仕方あるまい」と。両党は岸田内閣不信任案にも反対した。

 維新は野党第一党を狙うが、改憲や軍拡(核共有)などでは、自民の煽動役を果たしている。ロイター通信が6月29日電で、維新の馬場代表を「ポピュリスト」と紹介。維新という政党の本質について、国内メディアもシビアに伝えるべきではないか。
 岸田政権の支持率は急激に落ち込んでいる。毎日6月19日によると、支持率は33%で、1ヶ月で12ポイント下落。岸田首相長男の「忘年会問題」もあるが、マイナンバートラブルが影響しているようだ。
 とりわけ現行の保険証が来秋に廃止されることが混乱に拍車をかけている。読売6月7日社説も「マイナ保険証の見直しは、今からでも遅くはない。トラブルの原因を解明し、再発防止に努めるのが先決だ。当初の予定通り、選択制に戻すのも一案だろう」と指摘。医療機関の混乱を回避し、国民皆保険制度を維持させるためにも、現行保険証の廃止はやめるべきだ。

 6月23日の沖縄慰霊の日。玉城デニ―知事の「平和宣言」に注目した。岸田政権のもとで、とりわけ南西諸島への自衛隊基地強化が急速に進んでいる。沖縄が再び戦場になるのではと、不安の声が高まっている。平和宣言では、「沖縄県が築いてきたネットワークを最大限に活用した独自の地域外交を展開し、同地域における平和構築に努めてまいります」と述べた。平和を求める地域外交が、「新しい戦前」にならないためにも欠かせない。
 沖縄に自衛隊配備、もっと伝えてという朝日「声」を本土メディアに伝えたい。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号    
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2023年07月08日

【月刊マスコミ評・新聞】なぜ本人が釈明しないのか=白垣詔男

 岸田文雄首相は首相秘書官の長男・祥太郎を6月1日付で更迭した。5月25日に首相は長男を「厳重注意」して、事態を鎮静化しようとしたが、G7広島サミットで上向きだった支持率が下がり始めると、一転、「更迭」を決めた。
 これらの経緯は、週刊文春が報じてから動き出したもので、当初は首相の動きが鈍く、これまた、いつも批判されている「決断の遅い岸田首相」丸出しの経過をたどった。
 この間、翔太郎はマスコミの前に一切姿を見せず、「後始末の経過説明」はすべて父親の首相が当然のように果たした。

 33歳にもなっている大人が、自分の後始末をすべて親任せというか、子供が親から庇護を受けているように、翔太郎は姿を見せず、本人からの弁明や謝罪は聞かれずじまい。
 子供にこんな甘い岸田家だから、1月の首相外遊の際、随行した翔太郎が公用車でロンドン見物をしたのも今回の異常な行動も、翔太郎は許されると思ったのか。そこには権力を持てば何をやっても許されるというおごりが感じられる。
 この問題を全国紙は朝日を除いて社説で取り上げた。5月30日に毎日「公私混同のけじめは当然」と先鞭を付けると翌31日には「地位の私物化を猛省せよ」(西日本)、「重責を担う自覚を欠いていた」(読売)、「子供じみた行動 情けない」(産経)と、いずれも翔太郎の行動を非難している。

 この中で、産経だけが「報道陣を前に自らの言葉で謝罪すべきである」と翔太郎本人に向けて謝罪を要求した以外は、どこの新聞はじめ他のマスコミには、こうした「本人に向けた主張」は見られなかった。翔太郎が姿を見せないで父親の首相が弁明すれば、それでいいと考えたのだろうか。
 大半の論説担当はじめ政治担当記者の問題意識も「子供に甘い父親」が当たり前と思っているのか。それとも、こうした「不祥事」で当事者は姿を見せなくてもいいと考えているのか、どう考えても腑に落ちない。

 首相になった当初は「私は聞く耳を持つ」と胸を張っていた岸田だったが、こうした世間の常識さえもわきまえていない今回の翔太郎に対する父親としての一件は、「国民の声を聞く」というのが単なる念仏だったのではないかと疑いを深める。(敬称略)
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2023年06月28日

【月刊マスコミ評・出版】 自民党と公明党 ケンカの底流=荒屋敷 宏

自民党と公明党の選挙協力が解消 されると次の総選挙はどうなるか? 次期衆院選の小選挙区10増10減をめぐり、公明党が東京で自公選挙協力を解消したことが政界に激震を引き起こしている。
 『週刊ポスト』6月18日号は、内部資料スクープ入手と銘打って、「『創価学会票』消滅で落選危機の自民議員20人」との記事を掲載した。

 同誌が入手したのは、自民党選挙対策本部が分析した「第49回衆議院議員総選挙結果調」の表題がある164ページの資料だ。全国289選挙区で公明党依存度≠ェ最も高かったのは、東京都八王子市を主な選挙区とする東京24区だった。東京24区選出の萩生田光一自民党政調会長は、同党の東京都連会長で、4万3736票も公明党に依存しており、次期は「接戦」となる確率が高いという。八王子市は、創価大学や創価学会東京牧口記念会館、東京富士美術館など学会の施設が多い。激戦の沖縄3区、島尻安伊子衆院議員も3万9091票を公明党に依存しており、次期は「落選危機」という。

 『サンデー毎日』6月18日号では、鈴木哲夫氏が「自民党とケンカした公明党の深謀 震源地は東京より大阪」と指摘している。東京で自民と公明がもめるのは「いつものこと」らしい。舞台裏は、公明が大阪で日本維新の会に敗れる可能性があるため、東京で議席を一つ確保したいというのが今回のケンカの発端だという。公明党にとって、総選挙の前哨戦で敗れたかたちとなったから、面白かろうはずがない。
  党利党略に明け暮れる公明党の党勢の衰えには、長期にわたって賃金が上がらず、経済成長をしない中、決して裕福とは言えない創価学会員にも消費税増税や社会保険料値上げ、憲法9条破壊の軍備拡大を押しつけてきたツケが回ってきたというべきかもしれない。
 同じ『サンデー毎日』誌に掲載された「『国民負担率』48% 稼ぎの半分がブンどられる増税ビンボーから脱出する家計再建の秘策」の記事を公明党支持者はどんな思いで読むだろうか?

 国民の所得に占める税金や社会保障の割合である「国民負担率」は、47・5%(2022年度)になる見込みだと財務省が発表した。「10万円稼いでも手元に残るのは5万2000円。どんなに一生懸命働いても、半分近くは徴収されてしまう」(森永卓郎氏)というから、もはや、江戸時代の年貢だ。
これで岸田政権を支持しろという方が難しい。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
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2023年06月08日

【月刊マスコミ評・放送】ETV特集 誰のための司法か=諸川麻衣

  4月15日にNHKで放送された『ETV特集 誰のための司法か〜團藤重光 最高裁・事件ノート〜』は、注目すべきスクープ番組であった。
 題材は、航空機騒音に苦しむ住民が1969年に公害問題で初めて国の責任を問うた「大阪国際空港公害訴訟」。二審の大阪高裁は1975年に夜間の飛行差し止めを認めたが、最高裁は1981年、住民敗訴の逆転判決を下した。その際、当初最高裁の第一小法廷が担当していた審理が突然大法廷に移され、長年その経緯が謎とされてきた。

 番組は、第一小法廷の判事の一人だった團藤重光の個人ノートを読み解き、小法廷は高裁判決維持=飛行差し止め容認の結論を固めていたこと、しかし村上朝一・元最高裁長官が第一小法廷の裁判長に大法廷回付を「勧めて」きたという衝撃的な事実を明らかにした。村上氏は、裁判官出身ながら法務省の要職を歴任、事実上法務省の代理人だったという。元長官の介入は、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される」と定めた憲法七六条三項に違反する疑いのある行為であった。

 東大教授出身で刑法学の第一人者だった團藤は、最高裁判事となってからも人権重視の立場から多くの反対意見・少数意見を表明した。その團藤がノートに「この種の介入はけしからぬことだ」と記したことは、事の重大さを端的に物語る。
 さらに、大法廷回付後も、一部の裁判官の退任を理由に審理やり直しが3年も続けられ、その間に飛行差し止めを認めない立場の裁判官が増やされた。人事を通して政権の意向が最高裁に持ち込まれたとすれば、近年の常套手段にも通じる。
 番組は、この最高裁判決後、司法が被害者救済に消極的になる流れが固まったとの証言で、79〜81年に最高裁で起きた「不正常事態」が今日にまで影響を及ぼしていることも示した。

 團藤が遺した資料10万点近くを所蔵する龍谷大学の矯正・保護総合センターは、「團藤文庫研究プロジェクト」の一環としてNHKと共同研究を行った。今回のスクープはその見事な成果だ。
 番組は踏み込まなかったが、放送後に前川喜平氏らが指摘したように、国サイドからの異常な介入の背景に在日米軍基地の存在があったであろうことは想像に難くない。憲法が謳う三権分立は空文なのか、日本の真の主権はどこが握っているのか、日米関係の面からの真相解明も強く俟たれる。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
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2023年06月03日

【月刊マスコミ評・新聞】民意は性急な改憲を求めていない=六光寺 弦

岸田文雄政権が敵基地攻撃能力の保有を始めとする軍拡路線を進める中で迎えた今年の憲法記念日。全国紙の5月3日付朝刊では、岸田首相の単独インタビューを1面トップに据えた産経新聞の紙面が目を引いた。「改憲へ国民投票 早期に」の見出し。改憲に前のめりの姿勢を隠さない。
 産経は社説で、憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」の部分を「完全な誤り、偽り」と決めつけ、戦力不保持を定めた9条2項の削除を求めた。例年にも増して9条改変の主張に鼻息が荒い。

 同じく改憲を社是とする読売新聞の1面トップ「憲法改正『賛成』61%」は、憲法を巡る自社の郵送世論調査の結果。改憲に賛成の意見が、2年連続で60%台の高い水準だという。社説では「時代や安全保障環境の変化を踏まえ、最高法規のあり方を建設的に論じ合い、必要な部分については改めなければならない」と主張。9条については「改正の議論は低調だ」と不満をにじませている。

 朝日新聞は、敵基地攻撃能力の保有と9条との整合性が議論されていない様子のリポートを、毎日新聞は、岸田首相の本音を探る読み物をそれぞれ1面トップに掲載。社説でも、民主主義の形骸化の危惧や、軍拡に歯止めが必要なことなどをそれぞれ論じた。
紙面の比較では、総じて改憲論が勢いづいているように感じられる。だが、民意は冷静だ。
読売のほか、朝日、共同通信も憲法を巡る郵送世論調査を実施している。改憲の機運が高まっているかを尋ねた共同通信の調査では、「どちらかと言えば」を含めて「高まっていない」との回答が70%に上った。民意が性急な改憲を求めていないことは明白だ。
 
9条についても、1項と2項に分けて改正の必要性を尋ねた読売調査では、戦争放棄の1項は「改正の必要がない」が75%に上った。戦力不保持の2項は「改正の必要がある」は51%止まり。9条全体について尋ねた朝日調査では「変えない方がよい」が55%を占めた。

 ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射、中国の軍備拡張に社会の不安が増しているのは確かだろう。しかし、危機をあおる論調があっても、民意が早急に改憲を求めているわけではないし、9条を変えることにも慎重だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
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2023年05月14日

【月間マスコミ評・出版】週刊誌は、終わりなのか=荒屋敷 宏

5月末をもって休刊する『週刊朝日』のカウントダウンが始まっている。「2022年12月の平均発行部数は7、4125部」(朝日新聞出版の社告)というから、まだまだ売り上げが期待できる週刊誌である。

 「朝日歌壇に詠まれた『週刊朝日』休刊」など、休刊まであと8号の同誌4月14日特大号には、送別会のような企画記事が掲載されている。「この国が軍拡に舵を切る最中『週刊朝日』休刊決まる」(静岡県・白井善夫さん)の短歌が目を引く。
 休刊に際した特大スクープを期待したのは野暮だった。同誌同号の「日本の安全保障を支える以外な『会社』」に付された囲み記事「予算増で熱気にわく防衛展示会 中小企業も事業機会に照準」は、千葉・幕張メッセで開かれた防衛産業の国際展示会「DSEI JAPAN」(3月15日〜17日)をたんたんとリポートしている。

 岸田政権が大軍拡を打ち出したこともあり、「3日間で2019年に開催された前回約1万人の2倍超となる約2万2千人が来場」「65カ国から250社以上が出展した」という。中小企業のビジネスチャンスの角度からの記事で、この種の軍需産業イベントが市民から「武器見本市」「人殺しの道具の商談」として批判されていることに一言も触れていない。
 一方で、吉田敏浩氏による『サンデー毎日』4月16日号の連載記事「昭和史からの警鐘C―松本清張と半藤一利が残したメッセージ」がタイムリーだ。「台湾有事 悪夢のシナリオを暴く!」と題して、「戦場となって大被害を受けるのは日本で、アメリカ本土まで戦場となる可能性は低い。中国も核戦争につながるアメリカ本土攻撃は控えるはずだ。結局、日本が犠牲を強いられる。悪夢の戦争シナリオである」と指摘している。

日米安保条約を通じて日本がアメリカの軍事戦略に組み込まれ、戦争に巻き込まれる危険があるというのが、この間の日本の安全保障問題の核心である。吉田氏の連載は第1回「軍事膨張の果てには悲劇しかない」が昨年7月3日号、第2回「松本清張と半藤一利が警戒した自衛隊クーデター計画 : 『三矢研究』と自民党改憲案の危険な関係」が昨年9月11日号、「第3回「反撃能力とは『戦争のできる国』のこと」が今年1月29日号の掲載だから、正真正銘の「不定期連載」である。
 吉田氏の不定期連載を読むかぎり、週刊誌の役割は、捨てたものではない。むしろ、奮起を求めたい。 
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4 月25日号
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2023年04月29日

【月刊マスコミ評・放送】安倍政権「負の遺産」が明るみに=岩崎貞明

 安倍政権の「負の遺産」がまた一つ明るみに出た。立憲民主党の小西洋之参院議員が放送法の政治的公平性について、安倍政権下で首相官邸側と総務省側でやりとりした内容を示す政府の内部文書とされる資料を公表した。政府は当初、文書の信憑性に疑問を投げかけたが、3月7日に松本剛明総務相が同省の行政文書であることを確認。2014年から15年にかけ、当時の礒崎陽輔首相補佐官らが、番組の政治的公平性をめぐる放送法の解釈について、総務省側に解釈の変更を執拗に求めた過程が詳しく記されている。

 2014年と言えば、当時の安倍晋三首相が11月18日夜に生出演したTBS系『NEWS23』で、アベノミクスの効果に疑問を示す街頭インタビューをめぐり、「選んでいる」「おかしいじゃないですか」などと反発。それから間もなく、当時の萩生田光一自民党広報局長名で、NHKや在京民放テレビ5局の報道局長・編成局長あてに、選挙報道の「公平中立」を求めて番組出演者の選定やインタビューの編集まで、番組制作の手法にまで詳細に立ち入って注意を促す文書が示されていた。

 今回明らかになった文書は、やはり2014年11月、礒崎補佐官がTBS『サンデーモーニング』を名指しして「コメンテーター全員が同じ主張の番組は偏っているのではないか」と、総務省側に対策を求めたことからやりとりが始まっている。文書では、難色を示す総務省幹部に対して礒崎氏が「局長ごときが言う話ではない」「この件は俺と総理が2人で決める話」「俺の顔をつぶすようなことになれば、ただじゃあ済まないぞ。首が飛ぶぞ」などと、恫喝発言を繰り返している。総務省出身の山田真貴子首相秘書官は「今回の話は変なヤクザに絡まれたって話ではないか」「どこのメディアも萎縮するだろう。言論弾圧ではないか」と懸念を表していたが、結果的には強引に辻褄を合わせるようにして、官邸の横車が通ってしまう形となったのだった。

 総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は自身の発言部分について「ねつ造」と全面否定、国会論戦は文書の真贋論争に終始している感があるが、問題の本質は政権による放送メディア弾圧の実態である。そもそも、番組の政治的公平性を政府が判断できるとする考え方そのものが、表現の自由を保障した憲法・放送法に抵触するのではないか。ここはやはり、世界の常識である放送の独立行政機関化を改めて議論すべきだ。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
  
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2023年04月11日

【月刊マスコミ評・新聞】自民党大会に見る論調の大きな差=白垣詔男

 これほど同じ日に、自民党に対する新聞論調の姿勢に大きな差が見られるのも、珍しいだろう。2月26日に開かれた自民党大会についての翌27日の朝刊社説だ(毎日だけは28日)。見出しだけを見てもその差が分かる。
 朝日「教団問題もう忘れたか」、毎日「自民地方議員と教団 党の実態調査が不可欠だ」とジャーナリズムの基本である「権力の監視」をきちんと踏まえており、自民党には強く「異論」を唱えている。なるほど、安倍晋三元首相が亡くなってから噴出した、旧統一教会が自民党候補の選挙を支援していた問題、それに続く自民党の自浄作業不足≠ノついて、党大会で何の議論もなかったのはおかしいし、それを指摘するのは、まさに正論だろう。
 ところが、読売は「政治の安定へ足元見つめ直せ」、産経「保守の矜持で改革進めよ」と、自民党「応援団」を強く前面に打ち出し、自民党に、具体的に耳の痛いことは言わない姿勢がはっきりしている。

 読売は「岸田内閣が、防衛力の強化や原子力発電の積極的な活用などを決断してきたことは評価できる」と手放しでほめる。産経は、防衛力強化に「党を挙げて取り組んでもらいたい」と主張。その他、「憲法改正」「皇位の男系(父系)継承」を訴える。
 しかし、読売、産経とも、自民党批判は全くない。両紙は、ジャーナリズムを放棄している姿勢に終始しているうえ、こう如実に「自民党にすり寄る姿勢」を見せられると、もう、新聞の役目までも放棄していると確信する次第だ。

 一方、朝日、毎日が指摘しているように、自民党大会で演説した岸田文雄首相は、旧統一教会との関係に触れないままだった。自民党各級議員と旧統一教会との関係を語らないというのは、自民党は、自らの「汚点」は、時がたてば国民は忘れると考えているのかとも思いたくなる。
さらに、統一地方選で、旧統一教会問題について忘れたように触れないで、反省なしで選挙運動を展開する候補者ばかりになるのではないかと予想されるところだ。
 国民、有権者がなめられていると言っても過言ではなかろう。こうした自民党には猛省してもらわなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号

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2023年03月13日

【月刊マスコミ評・出版】「安保三文書」は対中国の「戦争国家」づくり=荒屋敷 宏

 岸田文雄首相は昨年12月16日、「専守防衛」から「敵基地攻撃」の自衛隊への大転換を閣議決定したのに続けて、2023年1月13日に訪米し、バイデン米大統領との「共同声明」で、対米公約にしてしまった。臨時国会の閉会を狙った暴挙だった。

 軍事ジャーナリストの前田哲男氏は、『世界』3月号(岩波書店)で、「岸田政権は〈臨戦化安保〉の実体化に踏み切った」と分析し、日米安保条約を「対中国軍事同盟」へと一変させ、「とりわけ中国に向ける敵意がつよい」と警鐘を鳴らしている。
 「安保三文書」とは、@「国家安全保障戦略について」A「国家防衛戦略について」(旧防衛計画の大綱)B「防衛力整備計画について」(旧中期防衛力整備計画)を指す。わざわざ米国の戦略文書と同じ名称にしたのである。

 文書@が「反撃能力」を定義し、軍事費GDP2%を明記、文書Aが「防衛目標」の設定と方法、手段を明記、文書Bが10年後の体制を念頭に5年間の経費総額、装備品の数量などを記載している。2023〜2027年度の5年間で軍事費総額43兆円という途方もない税金を投入して大軍拡をめざすというものだ。憲法の平和理念や第9条に違反し、国民への「丁寧な説明」が完全に欠落している。
 一方、『正論』3月号(産経新聞社)は安保戦略総点検の特集を組み、慶應義塾大学教授の森聡氏が「リスク高まる世界に向き合う日本 『国家安保戦略読解』(前半)」を論じている。「第二次安倍政権期」の「安全保障政策を刷新する取り組みが、踏襲され進化する形で新戦略が策定されたことが示唆されている」という。森氏は、「国家安全保障戦略」が中国を「脅威」と性格付けていないというが、中国を「我が国と国際社会の深刻な懸念事項」「これまでにない最大の戦略的挑戦」としているのが「国家安全保障戦略」なのである。

 『VOICE(ボイス)』3月号(PHP)も「国防の責任」という特集を組み、大軍拡をあおる。兼原信克元国家安全保障局次長によると、秋葉剛男国家安全保障局長が官僚とともに書き下ろし、岸田首相の裁可を得たのが「安保三文書」であるという。この経過から推測できるのは、2014年の特定秘密保護法の施行とともに発足した国家安全保障局の役割である。同局が米国と秘密裡に進めてきた戦争計画の一端が「安保三文書」といえるだろう。アメリカの戦争に巻き込まれる秘密の計画が隠されている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
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2023年03月06日

【月刊マスコミ評・新聞】社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えよ=六光寺 弦

 民主主義社会では世論が政治の流れを変えることがある。新聞が世論調査で何を問い、どう報じるかは極めて重要だ。
 新聞各紙は1月の世論調査で、岸田文雄政権が閣議決定した安保3文書の改定をそろって取り上げた。今後5年間の軍事費を従来の計画の1.5倍、43兆円に増やすことについて、財源を増税で賄うことへの賛否を問う質問が目立った。結果はいずれも反対が圧倒。朝日新聞調査では反対71%、賛成24%、読売新聞の調査も反対63%、賛成28%といった具合だ。

 ただし、財源は二次的なこと。こんな軍拡=軍事費増を認めていいのか、その賛否を直接問うた調査は多くはなく、目にした範囲では朝日、読売、産経新聞=FNN合同の3件だった。
朝日の調査結果は賛成44%、反対49%。読売もほぼ同じで賛成43%、反対49%。これに対して産経・FNN合同調査では賛成50.7%、反対42.8%と、賛成が反対を上回った。
産経は1月24日付1面準トップ記事に、「防衛費増額、賛成50.7%」の見出しを立てた。軍拡推進を社是とする産経としては、「過半数が軍拡支持」は最大限に強調したかったのだろう。
 だが昨年10月の調査では、「防衛費の増額」への賛成は62.5%に上っていた。軍拡への支持は昨年秋より減っているのだ。産経の記事はそのことには触れない。

読売の調査でも、昨年12月には軍事費の大幅増に賛成は51%、反対42%だった。その前月、11月の調査では、「日本が防衛力を強化すること」への賛成は68%に達していた。賛否は逆転だが、読売も報道ではそのことを明記しない。読売も社論は軍拡支持だ。
 ウクライナ情勢、北朝鮮のミサイル発射、中国脅威論の喧伝といった中で、岸田政権の軍拡路線は当初、世論の6割から7割近くの支持を得た。しかし世論は変わってきている。主な要因が増税への拒否感だとしても、国民の生活の犠牲の上にしか軍拡は成り立たないことや、敵基地攻撃能力を保有することの危うさなどへの理解が進めば、さらに世論は変わる。

 新聞は恣意的な報道を慎み、社論にこだわらず、民意を謙虚に伝えるべきだ。さもないと、戦争遂行に加担した愚を繰り返すことになりかねない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
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2023年02月04日

【月刊マスコミ評・放送】地域情報番組がグットデザイン賞に=諸川 麻衣

 NHK北海道が夕方の『ほっとニュース北海道』内で毎週木曜に放送している番組『ローカルフレンズ滞在記』が昨年8月、NHKの地方局として初めて「2022年度グッドデザイン・ベスト100」に選ばれた。

  同番組は、NHKのディレクターが道内のある地域に1カ月滞在し、番組に応募してきた地元住民(=ローカルフレンズ)に知り合いを紹介してもらいつつ、その土地の魅力や暮らしを発信する企画。『滞在記』と並行して、地域の人が自らの言葉で地域情報を伝える『ローカルフレンズニュース』というコンテンツもある。2021年4月以来、これまでの滞在地は15カ所を超える。

  受賞の際の「経緯とその成果」によると、発案者は道内出身でネットメディアなどを運営する佐野和哉氏で、この提案から旅番組を試作したところ好評だったため不定期の番組化が決定。その際、地域の案内役=ローカルフレンズをNHKが選ぶのではなく「公募」制にしたところ、ライター、僧侶、ネイチャーガイド、地域おこし協力隊、ゲストハウスやカフェの店主、主婦、サラリーマンなど多種多様な人が応募、「既存のニュースや番組とは一線を画すディープな情報発信につながった」という。さらに、番組を契機に、町づくりの提案イベントや食と音楽を発信するフェスなど、数多くの地域活動が生まれたそうだ。

 審査委員の評価は、「ニュース性の高いトピックを短期間で取材・編集・発信していたこれまでのマスメディアのあり方を問い直し、その地に暮らす方が主体的に番組作りに携わり、観光ではなく日常の風景を丁寧に切り取る番組を協働しながら制作するという意義深いプログラム。マスメディアとしての情報発信・編集・制作力と、ある意味ニッチな地域の情報を掬い上げていく地域住民の力が統合され、地域そのものの活動をエンパワーしていく好例。マスメディアの新たな役割・地域との関わり方も大変示唆的である。」というもの。
 
 プロジェクトが昨年道民三千人にアンケート調査したところ、番組を見た人の50%が「地域により関心を持った」「地域活動を新たに始めた」と回答、特に20代男性の3割が「地域活動を新たに始めた」と答えたという。
 読売新聞と大阪府の包括協定などとは対照的な、公共放送が地域「住民」の協働の触媒となる試み、互いに耳を傾け、手を携えることで民主主義を日々涵養してゆく取り組みとして、大いに注目したい。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号  
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2023年02月03日

【月刊マスコミ評・新聞】原発推進 学術会議の独立性を侵す動き=山田明

 正月元旦の各紙社説に注目する。ウクライナ戦争が続くなか、テーマは戦争と平和、民主主義が多い。朝日は「戦争を止める英知いまこそ」と訴える。長文の読売社説は、政府が「反撃能力」の保有など、防衛政策の大転換となる安保政策を決定したのは当然だと論じる。
 本紙が昨年12月号で報じたように、岸田政権の大軍拡にお墨付きを与えた首相の諮問機関「有識者会議」メンバーに、読売新聞グループの現役社長が名を連ねていた。日経も現役役員がメンバーだ。元旦の読売社説は、有識者会議報告書と同じトーンだ。ここでもメディアの姿勢が鋭く問われる。

 毎日1月4日社説は「抑止力」偏重の危うさとして、防衛力の強化ばかりでは、相手の警戒感を高め、際限なき軍拡競争に陥る「安全保障のジレンマ」が待ち受ける。国民生活を守る総合力をいかに高めるかが問われると指摘する。
 なにより外交面での粘り強い働きかけが大切だ。日米首脳会談で大軍拡を約束するが、国会での徹底した議論と検証こそ求められる。メディアは戦争をあおるような論調は厳に慎むべきだ。
 岸田政権は支持率低迷が続くが、防衛だけでなく、原発政策でもエネルギー問題に便乗し、拙速な政策大転換を強引に進めている。国民の声を聞かず、原発推進勢力の意向に沿うものだ。「事故の惨禍から学んだ教訓を思い起こし、将来への責任を果たす道を真剣に考えるときである」(朝日12月23日社説)。

 もう一つ指摘したいのが、日本学術会議の独立性を侵す動きである。政府は任命拒否問題を棚上げして、会員選考に第三者を関与させるなどの組織改革方針を公表した。大軍拡とも関連する動きだ。読売12月31日社説は政府方針に追随して「国費を投じている事実は重い」と、政府が会員の選考手続きに関与することは何ら問題ないと指摘する。戦前の暗い歴史からも、学問の次に来るのはメディアへの介入ではないか。
 今春には統一地方選が行われる。旧統一教会と政治、とりわけ自民党との癒着、岸田政権による熟議なき政策大転換にも審判が下されるであろう。
 大阪では夢洲へのIRカジノ誘致の是非が争点になりそうだ。長らく続く「維新政治」に対し、住民がどのような判断を示すか注目したい。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
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