2022年04月07日

【月刊マスコミ評・新聞】「報道のタブー」をつくるな=白垣詔男

 長引く「コロナ禍」で、新聞などの報道用語にタブーが生まれているのではないか。
 代表的な単語は「ワクチン後遺症」。政府が声高に「コロナ禍を防ぐにはワクチンを早めに打てば安心」と叫び、マスコミがそれを伝え、国民の大多数も「ワクチンさえ打てばコロナ禍を防げる」といった考え方が浸透している。マスコミも、「3回目のワクチンはいつ打てるのか」「早くワクチンを打てないか」とワクチン接種を大前提に報道しているせいだろう。最近では、「5〜11歳にもワクチン接種を」と初めは半強制的だった政府の姿勢が、世論を気にして「努力目標」にトーンダウン。「ワクチン後遺症」を恐れているのでは。
 「ワクチン後遺症」については、接種後、主に心臓疾患などで亡くなる人が出ているのを政府は実数を公表せず、「ワクチン接種が直接の死因とは言えない」と、「真相」を隠しているのではないか。「ワクチン後遺症」を認めれば、これまでの政府方針に逆行すると「誤謬のない政府」を守ろうとしているように思えてならない。誰のための政治なのか、「国民の安全・安心」は真実をさらけ出すことからしか始まらない。
 もう一つの単語は「イベルメクチン」。ノーベル賞を受賞した大村智さんが開発、「コロナ禍」の予防、治療薬として北里大学を中心に、その効果を喧伝しているが、日本では「コロナ禍の予防・治療薬」として政府は認めていない。
 「ワクチン後遺症」と「イベルメクチン」について大阪府尼崎市のN医師がブログで毎日のように「真相」を訴えておられるが、N医師がテレビに招かれてその2つについて説明した部分は放送ではカットされたという。N医師は、自らが監修した「ワクチン後遺症」という映画を2月下旬、衆議院会館で上映した。事前に全国会議員に「上映会の通知」を出した。参加したのは議員や秘書60人だったが自民党からは誰も来なかったという。こうした情報は新聞では報じていない。
 「コロナ禍」は、これだけ国民に恐れられているのに、政府は「ワクチン接種」を推奨するのみ。それも、米国からのワクチン輸入時期が遅れがちでワクチン接種の当事者・自治体は振り回されている。これを「政府無策」と言わずに何と言うのだろうか。
 白垣詔男
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号

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2022年04月05日

【メディアウオッチ】ロシア、ウクライナ侵攻 核使用・世界大戦の危機も 便乗する安倍・維新発言 戦争を止めるが報道の使命・核心=徳山喜雄

                                
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 ロシアがウクライナに侵攻し、全面戦争に発展した。いまのところ、米国、EU諸国ともに自制しているが、核戦争や第3次世界大戦の危機も語られだした。極東における中国や北朝鮮の動きも目が離せない。
 戦時下における昔ながらの強度の報道規制がおこなわれ、史上初の原発への攻撃もあった。2001年のイスラム過激派による米国同時多発テロにも匹敵する衝撃が世界に走った。日本では「核共有(シェアリング)」について議論されることになった。しかし、ジャーナリズムの核心は、戦争をさせないこと、戦争が始まれば止めさせることではないか。報道の真価が問われる事態である。

極端な言論統制

 ロシア軍は2月24日、首都キエフをふくむ複数の都市で軍事施設などをミサイル攻撃し、地上部隊が国境を越えて北、東、南の3方面から侵攻。激しい戦闘による民間人の被害も拡大し、多数の難民がでている。
 振り返れば、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO(北大西洋条約機構)への加入を主張、ロシアの柔らかい脇腹に匕首(あいくち)を突きつけた。キューバ危機の再来のようなもので、これがロシアのプーチン大統領の逆鱗に触れたのか、核兵器の使用さえちらつかせての侵攻になった。
 ロシアで軍に関する「フェイクニュース(偽情報)」の流布や「信用を失墜させる」行為を禁止する法律が3月4日に成立。ウクライナでの軍事行動を「侵攻」「戦争」と呼ぶことも禁じられ、記者らに対して最高で禁錮15年の刑罰が科せられることになった。ロシアで活動する外国人記者にも適用され、英BBC放送や米CNNテレビなど欧米メディアはロシア国内での活動停止に追い込まれた。
 ロシアはBBCや米海外向け放送ボイス・オブ・アメリカ、ドイツの公共放送など欧米メディアのウェブサイドを遮断。日本メディアのモスクワからの報道もほぼ見られなくなった。ロシア国民が利用していたフェイスブックやツイッターにも遮断などの規制が加えられている。
 報道にロシアの公式発表のみを引用するようにも命じており、極端な言論統制をしたソ連時代に戻ったかのようで、日本が戦前に軍への翼賛報道を強いたことも想起させる。これが21世紀の出来事であろうか。

初の原発攻撃

 ロシア軍は3月4日、南東部にある欧州最大級のザポロジエ原発を攻撃し、占拠した。火災が発生した同原発には6基の原子炉があり、爆発などが起これば、被害規模はチェルノブイリ原発事故の10倍以上になる可能性がある。核物質を扱う研究施設にも戦火はおよんだ。ウクライナ国内には稼働中の原発がほかに3カ所ある。
 前代未聞の正規軍による原発砲撃は核攻撃にも匹敵し、新たな戦争のかたちを見せつけた。第2次世界大戦後の欧州で最大の危機といっていいであろう。原発を有する日本の自治体からも懸念の声があがっており、これは見過ごせない。
 被爆国であり、東京電力福島第1原発の爆発事故を経験した日本の対応が迫られている。

核シェアリング

 プーチン大統領の核による恫喝を受けて、安倍晋三元首相はフジテレビ番組(2月27日)で、日米間の「核シェアリング」について議論すべきと述べた。NATO加盟国のうち、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、トルコが米国の核兵器を自国の基地に配備する核シェアリングをしており、発射も管理も両国の合意によってなされる。この5カ国に戦闘機に搭載可能な核爆弾が約100発あるとされる。
 米国の核兵器を国内に配備し日米で運用する安倍氏の発言に対し、岸田文雄首相は「非核三原則を堅持するわが国の立場から考えて認められない」(2月28日参院予算委員会)と否定した。一方、日本維新の会の松井一郎代表は「おかしい。超党派で議論し、国民に判断してもらえればいい」(3月2日)と訴えた。
 与野党に見直し論が広がっているが、日本国内に核兵器を配備した場合、先制攻撃のターゲットになる。核シェアリングについての報道は、とりわけ慎重にならなければならない。
 「戦争をさせない。始まれば止める」というジャーナリズムのありようがいま、強く問われている。    
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
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2022年03月26日

【メディアウオッチ】『メディア無法地帯』化する大阪 読売もMBSも維新の広報機関 かつては反権力の牙城 関西ジャーナリズムどこへ=徳山喜雄

 大阪が、おかしい。ここでいう〈おかしい〉というのは、「おもろい」ではなく「へんだ」という意味だ。メディアをめぐる問題が、たてつづけに噴出している。
 昨年暮れ、読売新聞大阪本社が大阪府と「包括連携協定」を結んだ。発行部数が国内最大の読売が、行政と協力関係を結ぶというのは、ただごとではない。権力監視という報道の大きな役割を脇に置き、「広報紙」に成り下がったということか。

政治的公平を
完全に無視


 リベラルな番組作りで知られた大阪の毎日放送(MBS)が元日の2時間番組で、日本維新の会元代表の橋下徹氏と大阪市長の松井一郎代表、大阪府知事の吉村洋文副代表の3人を出演させ、お笑いタレントの司会で縦横に語らせた。だが、「政治的中立」の観点から問題視され、虫明洋一社長が社内調査を命じた。さらに、昨年12月に放送されたNHK大阪放送局制作のBS番組「河瀬直美が見つめた東京五輪」では、事実と異なる字幕が付けられ、物議をかもした。
 昨年末から今年初めにかけて、大阪を舞台に大きな問題が3回連続で起こり、関西は「メディア無法地帯」化しているという印象を全国に与えた。

イベント収入増
改憲へ弾みも


 読売と大阪府がパートナーとなる連携協定は、教育・人材育成、情報発信、安全・安心など8分野で連携を進め、地域活性化と府民サービスを図りたいという。大阪府は企業や大学などと包括連携協定を結んでいるが、報道機関と協定を結ぶのは初めてだ。
 その狙いはどこにあるのだろうか。読売は行政機関である大阪府と協定したのではなく、その実は政治勢力である日本維新の会と契りを結んだという見方が根強い。経済的には2025年大阪万博に関連する広告・イベント収入の増大が見込まれ、政治的には読売と維新が掲げる共通目標の憲法改正への弾みをつけることにもなる。
 一挙両得の巧みな企てであるが、民主主義への重大な挑戦とも受け止められる。
 放送に目を転じれば、毎日放送の変節には目を覆うばかりだ。くだんの番組は関西ローカルで、吉本興業所属のタレント東野幸治とブラックマヨネーズのボケ役の吉田敬が番組進行を務めた。
 問題となっている国会議員の文書通信交通滞在費などの話とともに、将来の総理大臣について一方的に吉村府知事を推すなど、放送の政治的公平性を考えるとありえない展開になった。
 3人の独断場は2時間のうち約40分間におよんだ。朝日新聞(1月27日朝刊)によると、放送後、視聴者から多数の苦情が寄せられ、MBSメディアホールディングスの梅本史郎社長が「維新3人をそろえるのはない。将来の総理は吉村さん、とかの展開はあり得ない」と発言。外部識者らからなる番組審議会でも「維新系の人しか出ていない」などとの意見が相次いだという。MBSは3月をメドに調査報告書を公表する予定だ。
 関西とりわけ大阪は、国会議員をはじめ自治体首長らが維新系で占められ、「維新王国」になっている。一定の政治勢力におもねるメディアの姿勢は、政党の広報機関の役割を果たすことになり、歪んだ世論形成をすることになりかねない。
 
単純ミスでない
NHK字幕問題


 NHKの字幕問題は根が深い。NHKは、東京五輪公式記録映画の総監督を務める河瀬直美氏の制作チームを追うなかで、スタッフの映画監督の島田角栄氏を取材。同氏が撮影した人物の映像に「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」との字幕を付けた。だが、これは島田氏に無断で付けられたもので、虚偽の内容だった。
 制作したNHK大阪放送局は「担当者の思い込み」と説明、前田晃伸会長も謝罪し、単なる制作上のミスとして終わらせようとしている。かつて、大阪放送局では2014年に放送した番組「クローズアップ現代 追跡出家詐欺=`狙われる宗教法人〜」で、詐欺にかかわるブローカーと紹介した男性が架空の人物だった。同様の過ちが繰り返されている。
 菅義偉政権(当時)が昨夏、コロナ禍をおして東京五輪を強行開催した。東京五輪に反対するデモ参加者が買収されていたとする放送は、単純ミスとして片づけるのには重大すぎる問題ではないか。公共放送と政治がかかわる底知れない闇が見え隠れする。
 三つのケースをみたが、いずれも「報道と権力の距離」とメディアの倫理が問われている。
大阪は朝日新聞や毎日新聞の発祥の地でもある。大阪読売は戦後、連載「戦争」などをものにした「黒田軍団」が勇名をはせた。黒田清氏が存命なら、今の大阪メディアの体たらくをどう思うだろう。反権力の牙城として興隆した関西ジャーナリズムは、何処にいったのか。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
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2022年03月03日

【月刊マスコミ評・出版】「歴史戦」「経済安保」の強引さと偏見=荒屋敷 宏

 「歴史戦」という言葉は、歴史認識の対立を意味するらしいが、歴史と戦争を結びつける手前勝手な筋の悪い言葉である。ツイッターや電子版の「出版物」で「歴史戦」に批判のノロシが上がっている。
 例えば、雑誌記者・編集者の植松青児氏がネット上の「論座」(旧WEBRONZA、朝日新聞社)2月7日付で発表した「佐渡金山の世界遺産推薦問題に『歴史戦』とやらの余地はない 朝鮮人労働者への『差別』『強制』の事実は地元の町史にも書かれている」という長いタイトルの記事は、事実にもとづき安倍元首相らの主張を的確に批判している。
 歴史学者も黙っていない。昨年10月から刊行が始まった『岩波講座 世界歴史 1 世界史とは何か』で長野県蘇南高校校長の小川幸司氏が「歴史認識対立が世界に跋扈する現代において大切なのは、事実と論理に立脚した思考である以上に、他者への対話姿勢を失わないことであろう」と今日の事態を予測していたかのように指摘している。安倍元首相や高市自民党政調会長に対話姿勢がないのは論外だが、歴史認識の対立を解きほぐすには、事実と論理にもとづく報道や対話を堅持するほかない。『月刊Will』3月号の作家・百田尚樹氏の対談「日本の歴史は世界の奇蹟だ」を読むと、意外にも彼はマスメディアや歴史学者からの批判をかなり気にしている。

 『世界』3月号の青木理氏による「町工場VS公安警察 ルポ 大川原化工機事件」は、読み応えがあった。中国に化学機械を輸出した大川原化工機の社長ら3人が2020年3月11日、警視庁公安部に逮捕された事件である。青木氏によると、経産省にも協力的な大川原化工機の3人を東京地検が起訴したものの、東京地裁での初公判のわずか4日前に起訴を取り消す異例の幕引きとなったという。330日以上も勾留された被告のうち1人は拘置所で体調を崩し、胃がんが判明したのに検察の抵抗にあって入院が遅れ、刑事被告人のまま死去した。元被告と遺族は国家賠償請求を起こしている。
 青木氏は、事件の背景には米中の覇権争い、「経済安保」、日韓関係の悪化、「一強」政権と警察官僚の蜜月、公安警察の外事部門のアピールなどがあるという。強引で偏見に満ちた公安警察のような安倍・菅政権下の事件であることは確かだ。青木氏のルポは「歴史戦」や「経済安保」を仕掛ける岸田政権の危険性も浮き彫りにしている。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年2月25日号
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2022年02月22日

大阪・病院放火事件 実名報道どうあるべきか=徳山喜雄 

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 大阪市の繁華街・北新地の雑居ビルに入る心療内科「西梅田こころとからだのクリニック」(西澤弘太郎院長)が放火され、患者や医師ら25人が死亡した。患者であった谷本盛雄容疑者(61)が昨年12月、ガソリンを撒いて火をつけた。容疑者が事件から約2週間後に死亡したため、動機解明が難しくなっている。
 近年、事件・事故などで犠牲者がでた場合、匿名にするケースが増えている。しかし、今回の場合、大阪府警は犠牲者の身元が確認でき次第、すみやかに発表し、容疑者についても実名を公表、その対応が目を引いた。在京紙(12月19日朝刊、事件発生は17日)をみると、各紙が判明した犠牲者の名前と容疑者を実名報道した(東京は容疑者を匿名、中日は実名)。容疑者の顔写真は独自に入手し、掲載した。
 プライバシーと公益性が衝突する場面である。朝日新聞(19日朝刊)は「事件・事故報道では、一人ひとりの方の命が奪われた事実の重さを伝えることが報道機関の責務と考え、原則、実名で報じています」との「おことわり」を掲載。産経新聞(20日朝刊)は容疑者について「男は重体のため逮捕されていませんが、負傷しなければ逮捕されているケースであることから、容疑者呼称とします」と報じた。
 容疑者は重篤患者として入院しており、直接話が聞けない大阪府警は、名前を積極的に公表することで情報を得たかったと思われる。また、事件に計画性があり、容疑者が善悪の判断がつかない状態でなかったと考えられる点もあろう。
 
京アニ事件
 
 2019年に京都市の京都アニメーションが放火され、勤務する36人が死亡した。当時、京都府警は犠牲者の身元が分かり次第、実名発表する方針だったが、「そっとしてほしい」などという遺族の声を受けて、京アニ側が公表を控えるよう京都府警に文書で要請、発表が見送られた。全員の実名が発表されたのは事件発生から40日後のことだった。
 京都府警によると、犠牲者の半数以上の遺族が実名発表を拒否したという。しかし、それでも公表に踏み切った理由を、西山亮二捜査一課長(当時)は「公益性があるため、公表した方がいいと判断した」「匿名にするといろんな憶測が広がり、間違ったプロフィルも流れる。それで亡くなった方やご遺族の名誉が傷つけられる」と語った。
 朝日新聞の大阪社会部長は「亡くなった方々に多くの人々が思いをはせ、身をもって事件を受け止められるように報道する」「失われた命の重みと尊さは『Aさん』という匿名ではなく、実名だからこそ現実感を持って伝えられる」(19年9月10日朝刊)と説明した。
 ただ、警察が犠牲者を実名発表すると、遺族らに取材が殺到、大混乱になり関係者を傷つけるということがあった。実名報道に抵抗感を抱く人たちがいることも事実だ。

英断に注目

 一方、2016年に相模原市の重度障害者施設「津久井やまゆり園」で、入所者19人が刺殺された事件では、神奈川県警は遺族の意向などで実名発表していない。報道機関が独自に遺族に接触し、了承を得て一部実名報道にした。これには、障害者や障害者をもつ家族を差別するという偏狭で陰湿といえる社会的背景がある。
 クリニック放火事件、京アニ放火事件、障害者施設刺殺事件をみた。今回のクリニック放火事件の場合、犠牲者の多くや容疑者も精神科に通うという病歴がある。この事件をきっかけに、偏見や差別につながらないかという懸念もあった。一方、匿名にすることによって、逆に偏見を生むことになるという見方もある。
 こうした点でも大阪府警の「英断」に注目したい。府警元幹部は「事案が事案だけに、実名発表は大阪府警だけの判断ではなく、警察庁ともすり合わせているだろう」という。個人情報保護法の制定以降、匿名発表が増えるようになったが、この流れに変化が起きてきたのだろうか。
 実名発表を求める報道機関にとっては、歓迎すべきことだ。だが、この原則論とは別に、犠牲者家族や社会が、真に納得できる実名報道をめざしてほしい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号

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2022年02月18日

【月刊マスコミ評・新聞】民主主義の危機と資本主義の今後=徳山喜雄

  新たな年を展望する在京紙の年頭紙面を読み、民主主義の危機がつづき、資本主義のありようが厳しく問われていることが、強く伝わってきた。
 朝日新聞の元旦社説は、膨大な個人情報をもつ「GAFA」と総称される巨大IT企業の存在が、表現の自由やひいては民主主義と衝突する危うさに言及。データの大海のなか、憲法の核心と考えられる13条の「個人の尊重」をどう守っていくのかと問題提起した。日本国憲法の施行75年を迎える今年、個人情報をめぐっては、憲法に書かなくても対応できる考えもあるとした。
 一方、産経新聞は1面に論説委員長による署名記事を載せ、世界は米国を中心とした「民主主義国家」と中ロを軸とした「強権国家」が相対する新冷戦時代に突入したと指摘。両陣営の発火点となるのはウクライナと台湾で、「台湾有事」が「ごく近い将来に起きる可能性は、かなりある」とし、有事対応の邪魔をしかねない現行法や「『おめだてい』憲法は、もう要らない」と明言した。
 民主主義を守るために、憲法を維持するのか、改正する必要があるのか、問われることになろう。
 日経新聞の元旦社説は、新型コロナウイルス禍はこれまで世界が内包していた問題をあぶりだし、経済の根幹の資本主義そのものを揺るがしていると分析。「かつて資本主義の失敗は極端な思想や戦争を招いた。大恐慌後に全体主義や共産主義が伸長し第2次世界大戦、その後の東西冷戦につながった」と警鐘を鳴らし、「資本主義を磨き鍛え直す」契機になる年にしたいと訴えた。
 毎日新聞の1月3日掲載の社説も、「資本主義のあり方を見直すことが欠かせない」と主張し、経済学者の宇沢弘文氏の経済思想などを紹介。「新自由主義は多くの弊害を生んだ」とし、分配重視の「新しい資本主義」を唱える岸田文雄首相に対し、経済界代表だけでなく「地域に密着した活動をしている人の声にも耳を傾けるべきだ。/多様な意見を反映させてこそ、人と暮らしを支える新たな日本経済の姿を描くことができる」とした。
 「多様な意見の反映」というのは当たり前のことだ。だが、「安倍・菅政治」は聞く耳を持たず、異論を排したため、国民の分断が深まった。新聞は粘り強く、考える材料を提供したい。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
 
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2022年02月08日

【寄稿】独立独歩の気概 今こそ「経済安保」で進む大軍拡 問われるジャーナリズム 堕落に抗い一から出直せ=斎藤貴男

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 2022年はどのような年になるのか。新聞・テレビなどの報道のあり方と、岸田政権が進める政策について、ジャーナリストの斎藤貴男さんに率直な思いを寄稿してもらった。
    ◇
 昨年暮れの12月27日、読売新聞大阪本社が大阪府と「包括連携協定」を結んだ。教育・人材育成、情報発信、安全・安心などの8分野で連携・協同を進め、地域活性化と府民サービスの向上を図りたい、と発表されている。
 思わず天を仰いだ。権力のチェック機能たるべきジャーナリズムの魂が、こうも簡単に売り飛ばされるとは。

広告催事狙いか
他紙も続く予感

 狙いは2025年大阪万博関連の広告・イベント収入の極大化、さらには先の衆院選で第二自民党の地位を確立し、関西では体制そのものになった日本維新の会との一体化か。もともと政権との蜜月関係を売り≠ノしてきた読売だけの話で済むならまだしも、他のマスメディア企業が後に続きかねない予感が悲しい。
 実際、当日の記者会見で、大阪府の吉村洋文知事も示唆していた。批判の真似事さえしないライバル紙、テレビ報道番組の音なしの構えが不気味に過ぎる。
 いや、カマトトぶりっ子はもう止そう。同様のことは昨年の「TOKYO 2020」でもあった。読売、朝日、毎日、日経、産経の全国紙5紙と北海道新聞が公式スポンサーとなって報道機関ならぬ五輪商売、および新型コロナ禍での大会に反対する世論を無視した強行開催すなわち民主主義破壊の当事者となった。IOCに莫大な放送権料を支払ったNHKと民放各局は言わずもがな。現在に至るもまともな検証報道ひとつ為されていない惨状も周知の通りだ。
 大阪府と読売の包括提携とやらは、この流れの延長線上にある。消費税批判を封印した新聞が、一方では軽減税率の適用を受けている特別扱いも想起されたい。ジャーナリズムの堕落は、来るところまで来ている。

監視社会の構築
軍事同盟への道

 2022年の日本社会は、「新しい資本主義」というキーワードで紐解くことができるのではないか。岸田文雄首相が自民党総裁選で語った「新自由主義の転換」が、いつの間にか言い改められた感がある。ともあれ彼の政権の目玉とされ、「分配」の重視を掲げる理念はリアリティに欠ける嫌いが目立ち、「アベノミクスとどう違うのか」と揶揄されがちだ。
 だが、そればかりでもないと、私は考えている。謳い文句とは裏腹に、あらゆる経済・社会政策を「経済安保」に収斂させていくことこそが、「新しい資本主義」の真意であるに違いない、と。
  経済安保の定義は多様かつ複雑だが、ある専門家の表現を借りれば、「経済を使った戦争」のことだ。はたして米中対立の激化につれて昂進しつつあるのも、とどのつまりは対中国包囲網の強化であり、新たな冷戦構造の創出に他ならない。
 内閣府に設置された有識者会議の委員の人選といい、早々に打ち出された提言といい、「新しい資本主義」は、国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」を多分に意識しているふうでもある。が、そのSDGsにしたところで、日本政府の「アクションプラン」に落とし込まれた途端、「働きがいも経済成長も」の項目が「society 5・0」を目指すデジタル成長戦略へ、「平和と公正」が「自由で開かれたインド太平洋の推進」へと変質してしまう。監視社会の構築や、日米軍事同盟と同じスローガンの、どこがSDGsであるものか。
 経済安保は「戦争」の一形態なので、必然的に大規模な軍拡を伴う。現在はGDP比で0・96%の防衛費を2%に引き上げると自民党が公約したのも先の衆院選。昨年末には、台湾有事の緊迫度が高まれば米軍が中台紛争への介入を視野に入れ、南西諸島を攻撃拠点にするという戦争準備計画まで明るみに出た。
 集団的自衛権の行使を認める安全保障法制(公称は平和安全法制)がある以上、自衛隊の参戦も不可避だ。住民が戦闘に巻き込まれるのは必定。11月の自衛隊統合演習に米海兵隊が参加し、沖縄を戦場に模していた所以である。
 憲法9条はすでに形骸化しつつある。それでも戦争を放棄し、国の交戦権を認めぬと定めた最高法規の意義は計り知れないが、その命脈もいつまで保たれることか。目下の状況と体制の下で改正≠ウれたが最後、「平和」の意味と私たちの生活は、根底から覆される可能性なしとしない。

系列放送の売却
収入増へ検討を

 以上はあくまで私見だ。とはいえ、台湾有事の兆しがあれば南西諸島が米軍の攻撃拠点にされるという、共同通信による年末のスクープが、ほとんど後追いもされていない現状は異様である。
 ジャーナリズムとは何のためにあるのか。人々を権力に都合よく操り、動員する道具でしかないのか。このままでは確実に信用を失い、本来の存在意義(レーゾン・デートル=ルビ)を奪われていく。
 私はかねて、主に新聞ジャーナリズムについて、再生に向けた6つの試案を提唱してきた。@権力へのオネダリ(軽減税率適用)取り下げA「沖縄面」と「福島面」の新設B発表モノ専門の通信社設立による本体の調査報道シフトC名誉棄損保険の開発D特定秘密保護法違反第1号の記者に賞金1億円と、懲役期間中の家族の生活保障、および出所後の大手新聞社社長ポストの確約、という形の「価値観宣言」がそれである(拙著『国民のしつけ方』など参照)。
 最近はさらにE系列放送局の売却も検討されてよいと考え始めた。必要十分な取材費を確保すると同時に、もはや権力の走狗以外の何者でもなくなった情報系番組を切り離す一石二鳥。
 決して極論ではないつもりだが、経営レベルの共感は得にくかろう。といって今や猖獗(しょうけつ)を極めるネットメディアに活路を見出そうにも、こちらは既存メディアにも増して経済的利益至上主義との親和性が高いときている。
 わずかに残された道は、ジャーナリストを自称する者一人ひとりの矜持(きょうじ)だ。組織人かフリーランスかの立場はどうでもいい。要は独立独歩の気概であり、支配の道具にだけは成り下がるまいとする鋼鉄の意志である。
 精神論と嗤わば笑え。時代に翻弄され、飼い馴らされた挙げ句、ジャーナリズムには最低限の矜持さえ失われつつある。
 これでは話にならない。背水の陣で、一から出直す必要がある時なのだ。
自戒を込めて――。
 斎藤貴男(ジャーナリト)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号



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2022年02月02日

【JCJ声明】読売大阪本社と大阪府の「包括連携協定」について 万博・カジノ推進へ、新聞が広報機関になる恐れ

  読売新聞大阪本社が昨年12月27日、大阪府とパートナーとなる「包括連携協定」を結んだ。
「府民サービスの向上、府域の成長・発展を図る」ことを目的とし、教育・人材育成、情報発信、安全・安心、子ども・福祉、地域活性化、産業振興・雇用、健康、環境など8分野で連携を進めるという。大阪府はこれまでに50を超える企業や大学などと包括連携協定を結んでいるが、報道機関との協定締結は初めてだ。
  言うまでもなく、ジャーナリズムの役割は権力の暴走をチェックすること。そのためには公権力と対峙し、十分な距離感を保つことが求められる。報道機関が、それも国内最大発行部数を誇る読売新聞が行政と協力関係を結ぶことは異常な事態だ。ジャーナリズムの役割を放棄した自殺行為に他ならない。
 ましてや、大阪では10年以上にわたって「大阪維新の会」による府政・市政が続いている。吉村洋文知事は大阪維新の会代表であり、松井一郎市長は国政政党「日本維新の会」の代表だ。取材する側が自らの立ち位置を見誤れば、維新にとって都合のいい広報機関になってしまう。
 協定締結後の記者会見で、読売新聞大阪本社の柴田岳社長は「大阪府としては読売新聞に取材、報道、情報に関して特別扱いは一切ない。読売新聞も取材報道の制限は一切受けない」と強調した。だが、連携事項の一つ、「情報発信」の取り組みについて「生活情報紙『読売ファミリー』や『わいず倶楽部』などの読売新聞が展開する媒体や各種SNSなどを活用して、大阪府の情報発信に協力する」と記載されている。
 さらに、「地域活性化」の取り組みには「2025年大阪・関西万博の開催に向けた協力」も盛り込まれている。維新の府政・市政は、万博の会場となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)に、カジノを中核とする統合型リゾート(IR)の誘致を目指している。松井市長は「夢洲にカジノをつくるときには税金は使わない」と言った舌の根も乾かぬうちに「汚染土壌が出てきたので790億円を払う」と言い出した。万博を隠れ蓑にした夢洲へのインフラ整備費用は今後も膨れ上がっていくことだろう。
 柴田社長は「万博に関しても問題点はきちんと指摘し、是々非々の報道姿勢を貫いていくつもりだ」と述べたが、「万博開催に向けた協力」を約束した読売新聞が万博やカジノ反対派の主張を果たして取り上げるだろうか、大いに疑問だ。
  今後、読売新聞に続くメディアが出ないとも限らない。すでに在阪テレビ局は連日のように吉村知事を出演させ、吉本芸人らが無批判に持ち上げる「維新礼賛」報道が続いている。
「誰が泣いているのか、泣いている人に寄り添え」。大阪読売の社会部長だった黒田清さんの言葉だ。市民の信頼を失ったメディアは衰退する。ぜひとも、ジャーナリズムの原点に立ち返ってもらいたい。

 2022年1月31日
日本ジャーナリスト会議(JCJ)
JCJ関西支部
                         
                                     
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2022年01月08日

【月刊マスコミ評・出版】「遺族」として戦争を見る視点=荒屋敷 宏

 『週刊東洋経済』12月11日号の「稼ぐ集英社と消える書店 出版界であらわになる格差」の記事に注目した。書店や取次の苦境をよそに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのコミックスが大ヒットする集英社、『進撃の巨人』を抱える講談社、ライトノベルに強いKADOKAWAが業績好調だという。
 出版社や取次、書店にとって、書籍で33%、雑誌で40%という返品率は、悩ましいかぎりだろう。総合商社の丸紅と講談社、集英社、小学館の4社が出版流通の新会社設立に向けて協議を始めた。AI(人工知能)を使って配本・発行の「適正化」や在庫管理の改革に取り組むのも時代の要請なのかもしれない。
 街の書店が減少し、日販やトーハンなど「取次2強外し」と、出版業界、波高し≠セが、本当に問われているのは、出版物の量よりも企画や内容の質を高めることではないだろうか?
 『ニューズウィーク日本版』12月14日号の「桜井翔と『戦争』 戦没した家族の記憶」は、最近の週刊誌では意外性があり、意義のある企画と内容だと感じた。アイドルでありテレビのニュースキャスターでもある桜井翔氏は、海軍士官として戦没した大伯父、桜井次男氏の「遺族」として戦争の取材を続けているという。
 桜井翔氏の祖父は、戦後、上毛新聞社の記者をしていた桜井三男氏で、戦死した次兄のことを本にまとめていた。しかし、祖父は家族に戦争のことをほとんど話しておらず、ただ一つだけ「人間扱いじゃなかった」と祖母や叔母に語っていたという。
 旧帝大を出て、商工省に入省した後に海軍経理学校に入校し、海軍主計中尉となった大伯父の謎に迫る櫻井翔氏本人の記事は、読み応えがある。2年間の「短期現役主計科士官」(短現)を務めれば、元の職場に戻れるはずのところ、兵役が延長され、桜井氏の大伯父はベトナム東岸沖で、26歳の若さで戦死してしまったのである。この記事の後編は12月21日号に掲載されるが、本にまとめてほしいところだ。
 『週刊金曜日』12月3日号の特集「筑紫哲也とその時代」も興味深い記事だった。金平茂紀氏の新著『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』(講談社)をめぐり金平氏と望月衣塑子氏が対談している。権力に対する監視役を果たすこと、少数派であることを恐れないこと、多様な意見や立場をなるべく登場させて、この社会に自由の気風を保つこと。ジャーナリズムとして当たり前の作法を復活しなければならない。 
荒屋敷 宏
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2022年01月04日

【月刊マスコミ評・新聞】防衛費増 補正予算計上は姑息=白垣詔男

 今年度補正予算案などを審議する臨時国会が12月6日から開かれた。会期は2週間と短かった。これでは、過去最大の約36兆円、なかでも7738億円を計上した防衛費についての審議時間は足りなかった。
 この補正予算案は11月26日に閣議決定された。その際、各紙は「防衛費も最大 初の年6兆円超」(27日付毎日朝刊)などと一般記事で報じた。しかし、あまり目立った記事にはなっておらず、読者に問題意識を起こさせる効果はあまりなかった。
 社説では、中日・東京が29日朝刊で「防衛費補正予算 膨張に歯止めかけねば」との見出しで「審議が限られる補正予算案に計上する手法自体が適切とは、とても言えない」と、政府の姑息さを訴えた。
  同じ29日、共同通信配信の「資料版論説」を転載したと思われるいくつかの県紙の社説が政府の手法に「補正で増額する手法は『抜け道』とも言える」と指弾した。
  朝日は11月30日社説で取り上げた。見出しは「補正予算案 財政規律を無視するな」と財政規律に焦点を当てた。その中で「当初予算で財政規律を守っているかのごとく装うため、あふれる事業を補正に回す手法…ルール無視の姿勢はコロナ禍を機に一段と加速」と書き「その代表例が…防衛費だ。昨年度の3次補正の倍で、哨戒機や迎撃ミサイルの新規取得などに充てる。…主要装備品まで堂々と補正でまかなうのは、財政法の趣旨に反する」と政府を強く批判した。しかし、他紙には「防衛費の補正予算」についての社説は見当たらない。

  自民党の中には日本の防衛費をGDP(国内総生産)の2%を確保すべきだという意見がある。米国から同盟国に対しての「要望」を受けて、にわかに起こってきたが、日本の国是としてきた「専守防衛」を逸脱して「敵基地攻撃論」を声高に叫んでいる岸田文雄首相も、米国に押されたものか、安倍・菅政権を踏襲したものと考えるのが自然だろう。
 予算に限らず、「モリ、カケ、サクラ」問題など安倍・菅政権の運営には随所で「姑息さ」が付きまとっていたことを忘れるわけにはいかない。これ以上、「姑息さ」を許さないためには世論を喚起する必要がある。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号
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2021年12月15日

大手メディアは情報ブロックやめよ 政治報道の浮沈にかかわる  神保哲也氏のオンライン講演会=河野慎二

 JCJのオンライン講演会が総選挙投票前日の10月30日に開かれ、ビデオジャーナリストの神保哲生氏と砂川浩慶立教大学教授が「メディアの地殻変動―政治・選挙報道変わるときー」をテーマに論じ合った。
 冒頭、神保氏は、投票率がOECD加盟諸国の中でも異常に低いことについて「主権者が主権行使に資する情報を正確に提供するというメディア最大の責務を、メディア自身が果たしていないからだ」と批判した。
 実際、今回の投票率は小選挙区選で55・93%と戦後3番目の低水準に終わり、テレビの報道も質量ともに低調で、神保氏の指摘が的中した。
 神保氏は「公職選挙法の縛りがあって、公示後は報道が制約される。自由な選挙報道ができるよう公選法改正をすべきだ」と問題提起した。
 脱炭素社会の問題について神保氏は「デンマークは80%が再エネ、ノルウエーでは来年からガソリン車が無くなるなど、ヨーロッパでは再エネが進んでいる。日本はトヨタが強く『EV車にはならない』と平気でメディアに流す」と指摘し、追及が弱いメディアを批判。
 政治とメディアの関係については「日本では政治、経済、行政などの情報については、既存メディアが99・99%のシェア握っている。
 報道の原材料と言うべき大元の情報を手にするのは既存メディアで、私はドアの外で待っている。情報は記者クラブに独占され、大元で栓が閉められ、フィルターがかけられる。そのヤバさを認識してほしい」と強調した。
 メディアは、政府から多くの特権的な地位を得ている。神保氏は「官邸官僚は、メディアの特権享受をテコに、さじ加減をしながら、操作できる。内閣記者会の記者に出させている質問書のテニオハにまで介入する」と、メディアの劣化を厳しく指摘した。
 砂川教授に「メディアの地殻変動」について問われた神保氏は、メディア間の相互批判能力を高めるため、新聞と民放のクロスオーナーシップ(資本提携)の見直しを提唱。さらに「(ネットメディアなど)新しいメディアが登場しているのだから、情報をブロックすることを早くやめてほしい。情報が本当に行き渡るかどうか。ここに、日本の政治報道の浮沈がかかっている。ぜひ、声を大にして言いたい」と訴えた。
河野慎二
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年11月15日

【月刊マスコミ評・新聞】封印された1枚の写真が伝える水俣=徳山喜雄

 米国の報道写真家ユージン・スミス(1918―78年)が、1971年に熊本県の不知火海に面する水俣市で撮影した一枚の写真がある。「公害の原点」とされる水俣病を世界に告発したもので、胎児性水俣病患者の15歳の少女と浴槽に入る母を写した「入浴する智子と母」だ。
 ほの暗い浴室の湯が輝き、湯船に浮かぶように浸かる上村智子さん。抱きかかえ、見つめる母の良子さんの眼差しは慈愛にあふれていた。母親が食べた魚の水銀を胎内で吸い取って、母やその後に生まれてきた子どもを救った智子さんのことを、良子さんは「ほんに智子はわが家の宝子(たからご)ですたい」という。
 智子さんは撮影から6年後に21歳で亡くなる。死後も水俣病を象徴する一枚として脚光を浴び続けたが、両親は「亡き智子をゆっくり休ませてあげたい」と考えるようになった。著作権者のアイリーン・美緒子・スミスさんはその意向を受け、98年に「母子像の新たな展示や出版をおこなわない」と決めた。
 それから20年以上にわたり、古い雑誌や写真集などでしか見ることができなかった。しかし、映画「MINAMATA」の公開を機に、アイリーンさんが遺族と話し合い掲載の承諾を得た。
 私は封印が解かれたことを、読売新聞(9月16日朝刊)の文化面記事で知った。アイリーンさんは写真集『MINAMATA』の日本語版を復刻。「写真家には、被写体とその写真を見る人に対しての二つの責任がある」とのユージンの言葉を振り返った。水俣病の関係者や読者は、よみがえった「母子像」をどのように見るのだろうか。
 朝日新聞(10月3日朝刊)は1面トップ、2面、社会面と3個面にわたり異例の大きさでユージンの写真や水俣病の歴史を伝えた。ただ、智子さんの入浴写真には触れていない。残念だったが、アイリーンさんに再度話を聞き、読売から遅れること1カ月の16日朝刊で写真の封印・解除についてフォローした。
 毎日新聞(同)は、文化面に経済思想家の斎藤幸平さんの寄稿を掲載。水俣病を題材にした映画が封切られたとし、現在進行形の水俣病問題に焦点をあてた。「毒を飲まされ、苦しみ息絶えていく中にあっても、国家ぐるみに放っておかれた」と訴えた。
 徳山喜雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号
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2021年11月06日

【月刊マスコミ評・出版】生活史の現実が肩透かしを食らわせる=荒屋敷 宏

 社会学者で作家の岸政彦氏が編集した『東京の生活史』(筑摩書房)という2段組みで1200ページ超の聞き書きの本が売れている。一般公募した150人の聞き手が150人の語り手の生活史を聞き出したところがユニークだ。
 例えば、「大使館の払い下げの物ってさ、厚木基地の中に倉庫があって、そんなかに入れてあるんだよ。で、銃持ってる連中だから。中は治外法権だから」と、くだけた口調の長い題で、興味深い話が収録されている。
 東京で一生懸命暮らしている人の人生を聞きたいという素朴な好奇心から、聞き手を募集したら500人近く集まったという。普通の人々への聞き書きはジャーナリズムの手法として古くからある。歴史学では口承史・口述史、オーラルヒストリーのジャンルとして成立している。この本のどこが新しいのか。
 岸氏は、『文學界』11月号(文藝春秋)で「デイリーポータルZ」編集長の林雄司氏と対談した「聞いたそのままが面白い―いまなぜ生活史か」で舞台裏を語っている。「聞きたいことをあんまりこっちが決めていると、その範囲でしか話が出て来ないですよね」「『今まで誰にも言ってなかったんだけど、実は』みたいな話は別に聞かなくてもいいから、と言いました」(岸氏)という。
 ジャーナリストは、聞きたいことを相手から聞き出し、誰にも言ってなかったことを知ろうとする。とすれば、『東京の生活史』の手法はその逆を行く。中学生の時からスタッズ・ターケルの『仕事!』や『よい戦争』を愛読していた岸氏にとって、今回のプロジェクトは「人の語りを文字化するときの新しいやり方を発明している」と思ったそうだ。
 『文藝春秋』11月号は、財務省の矢野康治事務次官に「このままでは国家財政は破綻する」を書かせた。矢野次官には16年前、『決断!待ったなしの日本財政危機―平成の子どもたちの未来のために』との著書がある。緊縮財政論は矢野氏の長年の持論で新味はない。むしろ、総選挙直前に与野党のバラマキ批判をして、増税をけしかけて、物議をかもしてやれという同誌編集部の作為が見え隠れする。
 先の『文學界』の対談で林氏は「現実の方が肩透かしを食らわせてきますよね」と語っている。予想を超える事実の面白さこそジャーナリズムの真骨頂であろう。不作為に広く円を描くような取材に立ち返り、コロナ禍の日本の現実を素朴に見つめる編集に取り組む必要があるのではないか。 
荒屋敷 宏
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年10月25日号 
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2021年10月02日

【月刊マスコミ評・新聞】発信力より誠実さ 西日本新聞の卓見=白垣詔男

 菅義偉首相が8月3日に突然の退任表明、翌4日の新聞各紙には、社説、解説、分析、雑報など「大事件報道」が満載だった。その後の新聞はじめマスコミが「コロナ禍」よりも「自民党総裁選」を熱心に報道していることは、政府・自民党と同じくマスコミにも「コロナが大災害」という認識が足りなかったことを物語っているのではないか。
 さて、菅首相は3日のぶら下がり会見で「私自身、新型コロナ対策に専念したい。そういう思いの中で総裁選には出馬しない」旨の一方的発言をして、記者の質問を無視して立ち去った。官房長官時代からの変わらない独善的な姿勢だった。そこには、自らの心情を国民に語ろうという誠実さは全く見えなかった。しかも、その後の行動をみると「コロナ対策に専念」しているとは思えない。行動に「嘘」がある。これも不誠実だ。
 5日の西日本新聞朝刊2面の日曜日コラム「時代ななめ読み」で筆者の永田健特別論説委員が「コロナ禍での政局混乱は不幸だが『国民に届く言葉を持たない首相が、結果として退場を強いられた』という事実は大切な教訓となる。言葉を軽んじた政治家がどうなるか、自民党も野党も肝に銘じるべきだ。/ただ、それなら大事なのは『発信力』だ、とは考えないでほしい。…必要なのはただ一つ。誠実さなのだ。語り手が誠実なら、その言葉は必ず相手に届く。まずは記者会見や国会論戦で、ごまかさず真正面から質問に答えるだけでいい」とコトの本質を訴えている。

 この指摘は安倍晋三前首相にも大いに当てはまる。「桜を見る会疑惑」について国会で118回も「嘘答弁」をして、それを認めて弁解はしたが深く反省した様子が見られない。「安倍政権を継承した」菅首相も、国民には「嘘答弁」でごまかせると考えていた節があったと思う。
 菅首相の総裁選不出馬を表明した後のぶらさがり会見の発言についても永田特別論説委員は「この発言を私の『身もふたもない翻訳機』にかけたところ『あまりに不人気で、出馬しても勝てそうにないので出ません』という訳が出た。国民の受け止め方も同じだろう」と書く。こうした本音の記事が今の新聞には、ほとんど出てこないのは寂しい限りだ。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号
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2021年10月01日

【月刊マスコミ評・放送】今日的な問題意識の戦争特集番組=諸川麻衣

 五輪最優先のNHKは八月六日、原爆に関する新作特番を放送しなかったが、その後の特集番組は、テーマの多彩さ、丹念な取材、問題意識の今日性など、非常に充実していた(以下、日付はすべて八月)。
 新資料の活用 ―七日のETV特集『日本の原爆開発〜未公開書簡が明かす仁科芳雄の軌跡〜』は、仁科の書簡から原子力エネルギー利用計画が核爆弾開発に変化していった経緯を描き、科学と軍事の関係を問うた。一四日のBS1スペシャル『ヒトラーに傾倒した男〜A級戦犯・大島浩の告白〜』は、大島の生前のインタビュー録音から、日独伊三国同盟に至る「ドイツ追随」の歩みをたどった。
 今日的な問題意識―一四日のNHKスペシャル『銃後の女たち〜戦争にのめり込んだ“普通の人々”』は、大日本国防婦人会を素材に、社会貢献を望んだ女性たちが戦争に飲み込まれた怖さを描いた。近年のジェンダー論を反映した企画だった。
 市井の証言者への聞き取り ―九日のBS1スペシャル『マルレ 〜“特攻艇”隊員たちの戦争〜』は、特攻艇の元隊員の証言や隊員が個人でまとめた戦史から、彼らの凄まじい体験を伝えた。一四日のETV特集『ひまわりの子どもたち〜長崎・戦争孤児の記憶〜』は、長崎の戦争孤児収容施設での孤児たちの生活と、差別と偏見にさらされた就職後の人生に光を当てた。二八日のETV特集『“玉砕”の島を生きて〜テニアン島 日本人移民の記録〜』は、一九四四年夏の米軍侵攻の際の集団自決の証言。担当ディレクターは生存者を二十年以上取材、母や姉が幼子を手にかけた壮絶な体験など、集団自決の実相を明らかにした。

 見過ごされてきたテーマ―二一日のETV特集『戦火のホトトギス』は、俳句雑誌「ホトトギス」への戦地からの投句に着目。胸に迫る兵士たちの句を紹介しただけでなく、俳号などを手がかりに作者を突き止め、縁者に取材した。膨大な投句を読みこんだ制作者の努力に脱帽。二二日のBS1スペシャル『感染症に斃れた日本軍兵士』は、前編でマラリア、デング熱などへの日米双方の対策を比較。後編では、蘭印のバンドンで一九四四年、労務者四百人近くが日本によるワクチン接種後に破傷風の症状で亡くなった大量死事件から、日本軍の人体実験という歴史の闇に光を当てた。
どの番組も、証言者や史料にしっかり向き合い、当時と現在とに通底する問題を照射する点で、ジャーナリズム性に溢れていた。
 諸川麻衣
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号
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2021年09月18日

【メディア時評】「9・11から20年」報道にみる大いなる欠落=梅田正己(歴史研究者)

 9・11の惨劇から20周年を迎え、テレビではツインタワーが崩れ落ち、灰白色の噴煙が空をおおう光景が繰り返し放映された。
 日本人24名を含め、約3千人が犠牲となった。遺族の悲しみは20年たつとも消えることはない。その悲哀もメディアで伝えられた。
 また「テロとの戦い」を呼号して米国の戦争史上最長の戦争に突入し、2兆ドルの戦費を投じ、2400人の米兵の命を失いながら、米国が事実上敗退せざるを得なかった事情についてもいろいろと論じられた。しかし、当然論じられるべくして論じられなかった重要な問題が一つある、と私は思う。それは何か?
あのような史上空前の大量破壊・殺戮行為が、どうして引き起こされたのか、という問題である。およそ人間社会で惹起する事態には、必ず理由がある。どんな事象にも、原因があり、プロセスがあって結果が生じるのである。
 ところが9・11については、その「結果」についてはさまざまに報じられ、論じられたが、あのような恐るべき事態がいかなる「原因」によって引き起こされたのか、については殆んど論じられなかったのではないか。
あれほどの事件である。当然、重大な原因と長期にわたるプロセスがあったはずだ。
 
 発端は「湾岸戦争」

 原因の発端は、1990年8月2日、イラクのサダム・フセインが突如、小国クウェートに侵攻して併合を宣言したことから始まった「湾岸危機」にあると私は考える。
 この報を受け直ちに行動を開始したのが、父ブッシュ米大統領だった。空母をアラビア海に向かわせるとともに、チェイニー国防長官をサウジアラビアに派遣、同国にイラク攻撃のための軍事基地の設置を要請(3日がかりの交渉で説き伏せる)、あわせて国連安保理でのイラク制裁の決議を呼びかける。
 米国の強力な工作によって、安保理は8月には限定的だった武力行使容認を、11月には限定なしで決議する。この間、ペルシャ湾岸には米、英軍をはじめ各国の軍が集結する。多国籍軍と呼んだ。
 明けて91年1月、「湾岸危機」は「湾岸戦争」へと転換する。以後6週間、ハイテク兵器とともに連日、数百の戦闘爆撃機がイラク上空へ飛び、空爆を続けた。
 こうして抵抗力を奪われたイラクに、2月、地上部隊が陸続と侵攻、フセインはわずか3日で降伏、以後、最大の産油地帯であるアラブの地に米軍部隊が基地を設けて駐留、世界の産業の血液≠ナある石油が米国の覇権下に置かれることになる。(→続きを読む)
(→続きを読む)
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2021年08月31日

【月刊マスコミ評・出版】日米安保70年特集『世界』に拍手=荒屋敷 宏

 重症以外は自宅療養≠ニの菅義偉首相の新方針が、国民を安心・安全にさせるどころか、恐怖のどん底に陥れている。新型コロナウイルスのデルタ変異株の感染力は、すさまじい。『サンデー毎日』8月15日・22日合併号の「東京9月 医療崩壊へのカウントダウン」(鈴木隆祐氏)は、米紙ワシントン・ポストの情報として、水ぼうそうと同じぐらい、普通の風邪より素早く感染する、と伝えている。東京の感染者数、菅首相の発言は、医療崩壊が起きていることを雄弁に物語っている。
 「桜を見る会」前夜祭をめぐり公職選挙法違反容疑などで告発され、不起訴処分となっていた安倍晋三前首相に対して、東京第1検察審査会が「不起訴不当」と議決した(7月30日)。その安倍前首相は自宅謹慎かと思いきや、『正論』9月号の鼎談で、「強固な日米同盟が絶対的に必要です」と吠えている。同誌には新型コロナの「コ」の字もなく、「軍事力増強」の主張であふれかえっている。76年前に終結した侵略戦争と、戦争犯罪への反省も皆無である。
 日本列島を米軍の最前線拠点へ改造しようとする菅首相、安倍前首相らの政策に対抗しているのが『世界』9月号の特集「最前線列島―日米安保70年」だ。
 軍事ジャーナリストの前田哲男氏は、パンデミックのもとで進む日本の〈戦争への接近〉に警鐘を鳴らしている。「安保法制(戦争法)」(2015年)以降、今年4月の「菅・バイデン会談」の「台湾海峡」への言及に至る経過を整理している。「日米同盟=日米安保条約こそが真の〈国体〉」という構造から脱却し、過去の国際条約に学び、協調的安全保障への転換を、と前田氏は呼びかけている。
 同誌でジャーナリストの吉田敏浩氏の「米軍横田基地」は、日本の主権を侵害する同基地の現状を示すリポートとして詳細を極めている。憲法史研究者の古関彰一氏の論文「戦後日本の主権と領土 日米安保70年の現在」は、日本の主権意識の希薄さをあぶりだしている。古関氏は、「米国とだけは強固で、近隣国とは話もしない、あるいは『できない』弱体な安全保障などあり得ない。/しかも、日米安保体制下の日米同盟を強固にすればするほど、日本は近隣国との対立を深くすることになる」と直言している。元海上自衛隊幹部で軍事ライターの文谷数重氏の「尖閣はどうなっているか」、ジャーナリストの島本慈子氏のルポ「いま宮古島で何が起きているか」も説得力があった。  
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
 
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2021年08月21日

【メディアウオッチ】広がる「取材は迷惑論」世界報道自由デーで澤氏 情報公開阻む壁=須貝道雄 

国境なき記者団のアルビアーニさん.jpg

 第5回世界報道の自由デー・フォーラムが6月27日、オンラインで開催された。テーマは「アジアの報道の自由とジャーナリズム」。法政大学図書館司書課程の主催でJCJも共催した。

 コロナ禍で制限
 最初に、国境なき記者団東アジア支局長のセドリック・アルビアーニさん(写真上)が世界の状況について報告。報道の自由度ランキングで180か国・地域を調べたところ、70%の人たちが環境が「悪くなった」と回答したという。「独裁的な政権の国では、コロナ問題を報道の自由を抑え込む絶好の機会ととらえ、情報を制限する動きが多くみられる」と指摘した。
 日本でもコロナを利用し報道制限をする動きがある。政府の記者会見で「開催回数と参加人数が 減らされている」と強調。「希望する記者が全員入れる大部屋を政府が用意することは可能だ」と批判し た。
 危険を冒して戦場取材をした安田純平さんと常岡浩介さんに対し、外務省がパスポートの発行を拒否している問題にも触れ、
「彼らは情報のヒーローだと思う。もっと応援すべきで罰を与えるべきではない」と語った。
 続いて元共同通信記者でジャーナリストの澤康臣さん(専修大学教授=写真下)が報道の自由に関し、日本が抱える問題点について報告した。
 冒頭に取り上げたのは、メディアの取材を「迷惑行為」と指弾し、情報公開を阻む理由にする風潮だ。たとえば6月に国が公開した赤木ファイル。森友学園問題にからむ公文書改ざん事件の経緯がファイルには書かれている。ところが400か所が黒塗りだった。改ざんを指示した財務省の係長らの名前をわからなくしていた。

 減点法の発想に
その理由を国側は「取材等が殺到することにより、当該職員はもとより、その家族の私生活の平穏が脅かされるおそれがある」と文書で説明した。
 取材は迷惑行為とする国の言い分に対し、澤さんは「文書改ざんにかかわった公務員の名前は、皆に明らかにすべき公共情報である。個人が特定できなければ事実の検証ができない」と反論。こうした「取材=迷惑行為」論が日本の報道の自由に対する圧力の典型だと訴えた。
 その関連で1980年代以降「何を報じるか」よりも、「報道被害を出さない」方向にメディア倫理の議論の軸足が移ったと澤さんは分析。より内容ある報道をする加点法の考え方は弱く、相手に迷惑をかけていないか気にする「減点法のジャーナリズム」が現場に影響を与えていると話した。それが悪用される危険性も高いと警鐘を鳴らした。
  須貝道雄
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号
専修大学教授の澤康臣さん.jpg
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2021年08月05日

【月刊マスコミ評・新聞】熱海の土砂流 朝日は実名報じずの説明を=徳山喜雄

災害時に安否不明者の名前をすみやかに公表することは、捜索を進めるうえで重要なことだ。しかし、個人情報保護法の曲解もあり、自治体が公表をしぶるケースが多発してきた。
 静岡県熱海市で7月3日朝に発生した土石流によって、多くの不明者がでた。県と市は、生存率が急激に下がるとされる「発生から72時間」が迫る5日夜、安否不明者64人の名簿を公表した。
 その後、本人や家族らからの連絡があり、6日午後7時までに44人の所在が確認された。一方、これとは別に安否不明者が2人いることも分かった。これによって、約1700人態勢で不明者の発見を急いだ県警や消防、自衛隊は、無事の人を探すという無駄な捜索をすることがなくなった。
もっと早く発表してほしかったという思いもあるが、非公表という「愚」をおかさずに公表に踏み切った県と市の判断を多としたい。
 ただ、報道をみると、たいへん残念なことがあった。在京6紙(6日朝刊最終版を参照)のなかで朝日新聞だけが公表された安否不明者の名前を掲載していなかった。経済紙の日経新聞も社会面に名前を載せている。

 熱海は著名な別荘地で、首都圏在住者らが巻き込まれたり、無事でいるにもかかわらず名簿に掲載されたりする可能性がある。部数の多い東京の最終版に名簿を入れることは報道機関としてとうぜんの役割だ。
 たとえば、2015年9月の関東・東北豪雨の際に、茨城県と常総市が連絡の取れない住民15人の名前を非公表にしたため、無意味な捜索がつづけられた。18年7月の西日本豪雨では、岡山県が不明者51人の名前を公表し、初日に半数以上の生存が確かめられた。広島と愛媛の両県は当初、「個人情報保護」などを理由に名前を公表しなかったが、岡山の発表後に公表に転じた。
新聞などのメディアは、災害時の実名公表を繰りかえし訴えてきた。ならば、自治体が名簿を公表したら、それを報道するのが基本であろう。朝日のように報じないなら、「実名公表」を求める理屈がたたないし、災害報道の土台が揺らぐことにもなりかねない。
 なぜ、在京紙で朝日新聞だけが安否不明者の名簿を掲載しなかったのか、その理由を説明してほしいものだ。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号

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2021年07月14日

【月刊マスコミ評・出版】「ワクチン敗戦」日本のオトコ政治=″r屋敷 宏

 東京・大手町の自衛隊東京大規模接種センターに閑古鳥が鳴いている。一方で、筆者の職場に近い病院のワクチン接種には行列ができていた。菅政権のワクチン接種作戦は、チグハグである。
 『文芸春秋』7月号の船橋洋一氏「『ワクチン暗黒国家』日本の不作為」は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でワクチン接種が最下位の日本の「ワクチン敗戦」を皮肉っている。なぜ、日本独自にワクチンの開発ができないのか?
 日本のワクチン国産生産体制整備のための資金投入は米国の十分の一以下だという。WHO(世界保健機関)では、ワクチンを買いあさり、他の国はどうでもいいと言わんばかりの日本の評判は悪いという。日本の製薬企業には海外メーカーとの共同開発・生産設備すらないという。ウイルスの遺伝情報を使うmRNA(メッセンジャーRNA)を見過ごし、ワクチン承認体制が迅速ではなく、ワクチン接種体制も滞っている、訴訟リスクを管理できていない等々。自民党、公明党は、安全保障の根本を間違えているのだ。
 もっとも注目したのは、『世界』7月号の「さらば、オトコ政治」である。日本のジェンダーギャップ(男女格差)指数が2021年も120位であることを受けての企画のようだ。編集部は「いくら女性の社会進出が進んでも、そのあり方をオトコ政治が決めているかぎり、ここはいつまでも『ヘル・ジャパン』だ」だという。
 同誌で「怒りは社会改革のマグマである」という山下泰子氏の論文「女性の権利を国際基準に 女性差別撤廃条約から考える」が問題の所在を明確にしている。「日本の裁判所で、女性差別撤廃条約を裁判規範として不平等な扱いを訴えた者が救済された事例は皆無である」という。山下氏らは、女性差別撤廃条約の日本に対する効力発生から36年目にあたる2021年7月25日を「女性の権利デー」と名付け、同条約を日本社会に浸透させることを目指すとしている。
 『月刊Hanada』7月号に登場した安倍晋三前首相は、新型コロナ対応への遅れについて「緊急事態条項が憲法に規定されていないことをもってしても、危機への意識がとても薄かった」と日本国憲法を攻撃し、「新型コロナウイルス対策の特別措置法などの改正案は、そもそもは民主党政権時に作られた新型インフルエンザ等対策特別措置法です」と旧民主党に責任をなすりつけている。確かに、自民党の「オトコ政治」は愚劣に違いない。 
荒屋敷 宏
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号
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