2018年09月27日

《ワールドウォッチ》アフリカが米中覇権争いの草刈り場=伊藤力司

 去る9月3、4の両日、北京の人民大会堂に53か国のアフリカ首脳を集めて第7回「中国アフリカ協力フォーラム」が開かれた。習近平中国国家主席は開会スピーチで、中国がアフリカ向けに600憶ドル(6兆6千億円)の資金援助を行うと発表して喝さいを浴びた。
 このフォーラムは江沢民時代の2000年に発足、以後3年ごとに北京とアフリカで交互に開かれ、猛スピードで経済大国化した中国のアフリカ進出に大きな役割を果たしてきた。今回は台湾と国交のある旧スワジランドを除く、アフリカ全53か国の首脳が出席した。
 言うまでもなく、国連加盟国193カ国中54か国を占めるアフリカは、地域としては最大グループであり、「アフリカの年」と言われた1960年にブラック・アフリカ諸国が独立して一大グループとなった。

 1960年と言えば日本では安保闘争の年。日米安保に反対する日本の労学市民による巨大な安保反対闘争で日米新安保改約は批准されたものの岸首内閣は退陣。後継の池田内閣の高度経済成長戦略に国民は騙され、日本の対米従属関係は今も続いている。
 そうした1960年、アフリカでは旧宗主国のくびきを外れた国々が様々な困難の中で新しい国造りに励む一方、国連など国際社会の場で反植民地主義の新興グループとして発言力を高めた。米国などもアフリカ勢を無視することはできなくなった。

 米ソ冷戦時代が続く中で、アフリカ諸国は米ソ両陣営から強い働きかけを受けながら、基本的に非同盟路線を貫いた。結果として、そのことが冷戦後21世紀の世界でアフリカ勢がひときわ注目される存在となるに至った要因であろう。
 毛沢東も習近平も「中国は覇権を求めない」と宣言している。しかしアメリカに次ぐ世界第2の経済大国になった中国は、アジアからアフリカ・ヨーロッパに「一帯一路」の通商路を開くことを宣言。そのために南アジアから中東・アフリカに膨大な投資を進めている。
 第2次大戦後世界の覇権を握ってきたアメリカだが、実はその覇権を放棄したいトランプ大統領と事実上アメリカの覇権に挑戦しつつある習近平主席の草刈り場になっているのが、今日のアフリカである。
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2018年09月15日

《おすすめ本》ジョン・ミッチェル著 阿部小涼訳『追跡 日米地位協定と基地公害 「太平洋のゴミ捨て場」と呼ばれて』─いま現実に沖縄では野放し! 米軍・化学兵器汚染の実態 =島袋夏子(「琉球朝日放送」報道制作部)

 沖縄の返還軍用地が抱える土壌汚染問題を調べていると、「わからないことは惨めだ」と実感する。辺野古や高江を始め、米軍絡みの事件、事故に振り回される沖縄。長く埋もれていた軍用地汚染を表に引きずり出したのは、無名の外国人ジャーナリストだった。本書の著者、ジョン・ミッチェルだ。
 ミッチェルは2012年、沖縄に駐留していた退役米軍人たちが、米国政府を相手に、枯れ葉剤被害を訴えている事実をスクープした。それはフェンス一枚隔てた所で暮らす人々の命と健康も脅かされているという告発だった。

 本書は、米国情報自由法(FOIA)を駆使して入手した1万2千ページもの公文書に基づいている。米軍占領下、演習場近くの中学校で異臭がし、生徒たちが体調不良を訴えた。また本島北部では、牛が突然死した。
 しかし当時は原因が判明せずうやむやに。そんな県民の記憶の片隅に残る奇妙な事件が、実は米軍の化学兵器などに由来していた事実を、本書は指摘する。だが重大なのは、危険が過去のことではない、いま現実にあるということだ。
 日米地位協定4条で、日本は米国に対して、返還軍用地の原状回復義務を免除している。島は今も米軍が汚したい放題の土地なのだ。

 ミッチェルは今、沖縄県民から最も信頼されるジャーナリストの一人となった。彼が突き付けるのは、日米両政府に都合よく使われ、切捨てられる沖縄だ。しかし県民は知っている。本当に惨めで怖いのは、知らないことである。本書を手に取る人たちには、考えてほしい。沖縄に誰が何を押し付けているのかを。
(岩波書店1900円)
「日米地位協定と基地公害」.jpg
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2018年08月28日

《リアル北朝鮮》 「拉致中毒」と日本を非難 過去の謝罪や賠償など要求=文聖姫

 日本人男性が北朝鮮で拘束されたとのニュースが伝えられたのは11日未明だ。男性は滋賀県出身の30代で職業は映像クリエーターだとされる。欧州系の旅行会社が組んだツアーで北朝鮮に入国したらしい。西海岸の南浦(ナムポ)を訪れていて拘束された模様だ。スパイ容疑をかけられた可能性もあると複数のマスコミが伝えている。

 菅義偉官房長官は15日、閣議後の記者会見で「事柄の性質上、答えることは控えたい。いずれにせよ日本としては、拉致問題を含む北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的解決に向けて主体的に取り組んでいかなければならないとの立場は変わっていない」と述べた。NHKの報道によると、政府は情報の確認を急ぐとともに、早期の解放を求めている模様だ。だが、いまのところ北朝鮮側からの発表は何もない。

 米朝、南北、中朝の各首脳会談が実現し、朝鮮半島を取り巻く情勢が大きく転換するなか、「蚊帳の外」に置かれた感のある日本は、日朝首脳会談を模索するが、進展はない。そんななかで起きた日本人拘束。日朝関係はさらに不透明さを増している。

 そうした中、北朝鮮のマスコミは14日と15日、立て続けに日本を非難する論評を出した。特に労働新聞15日付は、「すでにすべてが解決済みの拉致問題について騒いでいる」と指摘。「拉致中毒」「拉致内閣」などの言葉を使って、拉致問題解決に向けた日朝会談を模索する日本政府をけん制している。論評は、日本がすべきは、過去の謝罪と賠償、そして過ちを二度と繰り返さないことを約束し実践に移すことだとも主張している。

 時期を同じくして14日には、日本軍慰安婦問題や強制連行問題を追及する団体が調査報告書を発表し、戦前日本軍「慰安所」があったとする日本人女性の証言を入手し、北部の羅先(ラソン)市先鋒(ソンボン)地区で調査を実施したと明らかにした。

文聖姫(ジャーナリスト・博士[東大])

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年8月25日号
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2018年08月15日

《ワールドウォッチ》米覇権の放棄目指すトランプ=伊藤力司

 1年半前の就任以来トランプ米大統領の対外政策展開は世界を驚かせ、反発を呼んできた。同大統領は就任早々、TPP(環太平洋連携協定)や地球温暖化防止のパリ協定から米国を離脱させ、今年5月には安保理常任理事国ら6カ国が苦心の末に結んだイランとの核合意から米国を一方的に離脱させた。
 
 これらの行いの目的は何か?それは第2次大戦後アメリカが担ってきた世界的覇権を放棄することではあるまいか。東西冷戦時代に米覇権の及ぶ範囲は自由世界だけだったが、1991年のソ連崩壊以後その範囲は全世界に及んだ。以来27年、世界一の軍事大国であり世界一の経済大国であるアメリカも、世界的覇権の維持にくたびれてきたようだ。
 
 今世紀初頭の8年間を担ったブッシュ政権がアフガン戦争とイラク戦争を始めたのは、彼らなりに覇権を護るためだったろうが、結果的にはアメリカの覇権を大きく傷つけた。
 
 アメリカの覇権は「自由」と「民主主義」を表看板にしてきたが、アフガン戦争とイラク戦争、それにシリア内戦介入がもたらした膨大な殺戮と破壊は「自由」と「民主主義」の美名を大きく傷つけた。
 
 トランプ大統領としては、化けの皮がはがれてきた「アメリカの覇権」より、彼の篤い支持層である白人労働者たちの「俺たちにまともな職と賃金を」という訴えを重視する。こうしたトランプ流反覇権政策に反対しているのが民主党と共和党の旧主流派である。
 
 NYタイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビなどリベラル系メディアは総じて大統領に批判的だ。CIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)、司法省など旧来の権力機関もそうだ。アメリカ権力の中枢と言われる軍産複合体やウォール街の金融資本も反対だ。
 
 だからトランプ流の脱覇権政策もジグザグ・コースをたどらざるを得ない。この間、世界的覇権をひそかに狙っているのが中国だ。毛沢東主席はかつて「中国は覇権を求めない」と宣言、現在の習近平主席も同じセリフを発している。しかし世界第2の経済大国であり、年々2桁の国防予算増額を続けている中国は、遠からずアメリカを追い越す。とすれば、やがては中国が世界の覇権を握る日が来るかもしれないのだ。

posted by JCJ at 14:32 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年08月09日

≪おすすめ本≫ 本間龍・南部義典『広告が憲法を殺す日 国民投票とプロパガンダCM』─自民党と電通の密接な関係が、「改憲」への起爆材となる危険!=坂本陸郎(JCJ広告支部)

 改憲を目指す「国民投票法」の欠陥が、対談によって暴かれる。南部氏は、かつて民主党の議員秘書として国民投票法の作成に深く関わってきた。本間氏はプロパガンダ広告に詳しい。

 「国民投票法」をめぐる二人の対話が興味深い。当時、民主党は「闊達な言論空間」の創成を主張した。できあがったのが「投票日前14日以後のCM」のみを禁止するという国民投票法だった。
 それも「私は賛成(反対)します」などのCMは規制外にする抜け道を残していた。これでは公平どころか政党助成金で潤う自民党の宣伝が、他を圧してテレビ画面を埋め尽くすことにもなりかねない。

 多くのヨーロッパ諸国では、国民投票の際のCMは禁止している。本間氏も国民投票発議後のCM禁止を提案している。
 本著のメインテーマは自民党と電通との密接な関係である。自民党の広告を一手に扱う電通にとって、国民投票はまたとない儲け口であり、その広告宣伝費は膨大な企業収益となる。
 一手受注となれば、あらゆる媒体で「電通専用枠」がものを言う。とりわけ地方局に対する電通の支配力は圧倒的である。自民党がスポンサーとなれば、メデイア各社ではいっそう営業優先となり政権批判の報道は手控えられるだろう。

 今国会では国民投票法の上程が見送られたとはいえ、9条改憲は自民党結党以来の党是である。2000年に向けて、燃やす並々ならぬ執念は軽視できない。本著は数々の事例を挙げて警鐘を鳴らす。広告に依存するメデイアの経営が、ジャーナリズムに与える影響に注目したい。
(集英社新書720円)
「広告が憲法を殺す日」.png
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2018年08月03日

≪リレー時評≫ NHKが12月から4K、8K放送の開始、さらに巨大化の怖れ=隅井孝雄

 今年12月1日から、新しい衛星テレビ放送、スーパーハイビジョン(4K・8K)が始まる。6月1日「新放送開始まであと半年」というセレモニーイベントが開かれた。
 4Kは現在のハイビジョン放送の4倍、8Kは16倍の鮮明度になる。先頭で推進しているのはNHKだ。2年前から全国の放送会館に巨大スクリーンを設置、上映してきた。上田良一会長は「超一流のコンテンツを用意している、2020年の東京オリンピックには世界に先駆けたい」と言っている。

販売中の4K、8K受像機では放送は受信できない?
 大型電機店には、4K、8Kをうたう受像機がずらりと並ぶが、専用チューナーをつなげないと放送は受信できないことが問題となっていた。
ようやく6月に東芝が4K内蔵テレビを発売したが価格は55インチで20万円前後する。各メーカーのチューナーや内蔵型の発売は秋ごろになるという。BSアンテナ受信者は対応アンテナに切り替える必要もある。新テレビを見ようとすればかなりの支出になる。
 一般市民の認知度は低い。12月放送開始を知っている12.2%、専用チューナーが必要だと知っている34.4%、購入したい17.1%に止まる(5/31放送高度化推進協調査)。

受信料の流用は許されるか?
 NHKはスーパーハイビジョンの開発、番組制作に2014年以降4年間で309億円つぎ込んできた。2018(平成30年度)の関連予算は320億円、東京オリンピックの2020年までにさらに317億円をつぎ込む(日経6/1)。開局日には南極から4K、イタリアから8Kで生中継をするほか、ウイーンフィル新春コンサート8Kなど、大型の紀行、文化、音楽番組を計画している。
 NHKは放送法で「あまねく受信できるように努める」義務がある。4K,8Kに多額の受信料をつぎ込んでいいのかどうか問題だ。
民放キー局はあまり熱が入っていない。「画面がきれいだからと言って、スポンサーがお金を出してくれるわけではないし」とはある民放幹部のつぶやきだ。
 なお、WOWOW(有料)、スカパー、映画チャンネル(有料)、QVC(ショッピング)、なども新放送4Kの割り当てを受けて、2020年から4K放送を始めると予定している。

NHKの巨大化に歯止めがかからない
 NHKだけが4Kにプラスして8Kも放送する。インターネット放送も解禁されれば、合計すると7チャンネルにまで巨大化する。
 安倍内閣はインターネットと地上波テレビ、衛星テレビの「融合」という名目でテレビ放送の規制撤廃を計画中。4K, 8Kもその一環だ。
 新しい技術を取り入れ、チャンネルが増えるのはいいが、番組の質の向上がすすむのかどうか、公平な放送ジャーナリズムが保たれるのか。十分な討論なしに新放送がスタートすることに危惧を覚える。

posted by JCJ at 10:08 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月27日

《国際情勢》 核兵器禁止条約 日本は批准を 被爆者が生きているうちに=沢田 正

 核兵器廃絶への扉を開いた核兵器禁止条約が国連で122カ国の賛成で採択されてから今月7日で1年になった。条約は50カ国が批准した90日後に発行する。米英仏が露骨に反対を表明、採択に賛成した国に署名・批准しないよう圧力をかけていると報道されているが、18日までに、59カ国が署名、オーストリア、コスタリカ、キューバ、メキシコ、パラオ、パレスチナ、タイ、ベネズエラ、ベトナムなど11カ国・地域が批准した。

来年末条約発効も

 核禁止条約への貢献でノーベル平和賞を受けた国際NGO・核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の川崎哲国際運営委員は5月の講演で、署名国への聞き取り調査でさらに約40カ国が来年前半までに批准できると回答しているとして来年末に条約発効の見通しを明らかにしている。
 ストックホルム国際平和研究所が6月発表した今年1月時点の世界の核弾頭総数は9カ国で計1万4465発(昨年比470減)。冷戦ピーク時の約7万発から大幅に減ったものの、人類を何回も滅亡させるに足る数だ。
 この間の減少は世界の核弾頭の9割超を保有する米ソ・米ロ間の戦略核兵器削減条約(START)に基づくものだが、米ロ関係がウクライナ問題などで鋭く対立し、「冷戦終了後最悪の状態」といわれる中で、2021年に期限を迎える現行の新STARTの延長や新条約交渉の動きはなく、核軍縮の見通しは暗い。

 トランプ政権は2月2日、新たな核戦略指針である「核態勢の見直し(NPR)」を公表した。「使える核」をめざし、爆発力を抑えた核兵器の小型化や新たな核巡航ミサイルの開発とともに、核の先制不使用政策を否定、通常兵器による攻撃に対しても核の使用などを打ち出し、核軍拡方針を鮮明にした。
 これに対しプーチン・ロシア大統領は「核兵器使用の敷居を低くする」と新NPRを批判、対抗して新たな巡航ミサイルなどの開発を公表、世界は米ロの核軍拡の危機に直面している。
 「唯一の戦争被爆国」を称する日本政府は、核保有国と一体となって禁止条約に反対、採択に加わらず、この1年、署名も批准もしないと国内外で表明してきた。さらに、NPRに対しては、世界に先駆けて河野太郎外相が「高く評価する」と歓迎を表明、トランプ政権の核軍拡を後押しする姿勢を示している。

 朝日新聞によると、この1年で全国の地方議会の約2割にあたる322議会が政府に禁止条約への署名・批准を求める意見書を採択している。
 被爆地広島では、禁止条約の交渉会議段階から、オールヒロシマで条約の実現を後押ししようと、反核団体、被爆者団体、市民団体などが「核兵器禁止条約のためのヒロシマ緊急共同行動実行委員会」を結成、27団体が参加して、原爆ドーム前集会や今年1月、広島を訪れたベアトリス・フィンICAN事務局長との意見交換会など6回の共同行動を積み上げ、その模様を写真や動画で世界に発信してきた。今月20日にはICANのティム・ライト条約コーディネーターとの意見交換会を開き、条約の発効への道筋を探る。

目標署名140万

 また一昨年4月から始まった核兵器廃絶を求めるヒバクシャ国際署名では今年3月19日、二つの県被団協や生協、広島県、広島市など77団体と個人が参加して広島県推進連絡会を結成、県民の半数の140万筆を目標に取り組んでいる。
 こうした中で、1964年に原水禁系と原水協系に分裂して以来、同じ名称で活動してきた二つの広島県被団協に統合の動きが出ている。原水協系の被団協が6月の定期総会で統合方針を決定、もう一つの被団協も前向 きに検討の方向とされる。
 まもなく8月6日と9日がやってくる。
 安倍晋三首相はオバマ米大統領広島訪問の際、原爆死没者慰霊碑の前で「核兵器のない世界を必ず実現する」と誓い、その後の平和祈念式典でも「核兵器のない世界へ向けて努力を積み重ねる」と誓った。今年も同じだろう。安倍政権の下では禁止条約の署名、批准が望めないことは明らかだ。
 被爆者の平均年齢は今年3月末で82歳を超え、被爆者がいる時代の終わりが近づいている。被爆者が生きているうちに被爆国政府が禁止条約に署名・批准するように被爆地ヒロシマから核兵器廃絶を求める大きなうねりを巻き起こしていきたい。
沢田 正(JCJ広島支部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年7月25日号
posted by JCJ at 11:28 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月26日

《政治情勢》 南スーダンPKO撤退真相 「リスク取り除き、長期政権にらむ」 布施祐仁講演=安住邦男

 JCJ出版部会は7月13日に都内のYMCAアジア青少年センターで講演会を開いた。ジャーナリストで平和新聞編集長の布施祐仁さんによる「自衛隊が戦争に征(ゆ)くとき」と題した講演要旨は次の通り。
   
 2016年7月に南スーダンの首都ジュバで政府軍と反政府勢力の大規模な戦闘が勃発し、内戦が再燃しました。しかし日本政府は、「散発的な『発砲事案』で、武力紛争が発生したとは考えていない」と説明して活動継続の方針を表明しました。
 さらに、「「POKO5原則は維持されている」「ジュバは平穏」として、10月には派遣期間を延長することを閣議決定しました。そして11月には安保法制に基づく新任務(「駆けつけ警護」と「宿営地の共同防衛」)の付与まで閣議決定されました。
 日本政府の説明に疑問を抱いた私は、南スーダン派遣部隊の日報を開示請求しました。しかし新任務付与直後の12月初め、「日報はすでに廃棄しており、存在しない」と不開示を決定しました。ところが約2カ月後の2017年2月になって、防衛省はそれまで「「存在しない」と言っていた日報を突如公表しました。

激しい戦闘の実態

 自衛隊宿営地のすぐ横の「トルコビル」で、激しい戦闘がありました。7月10日には「ウエストゲート付近で激しい戦闘があり」「「戦車砲を射撃してトルコビル西端に命中」しました。大臣報告文書には「10日以降、日本宿営地南西約50b付近で激しい銃撃戦が発生し、流れ弾が宿営地にも飛来した模様」との記述があります。ただし日報ではこの部分は黒塗りされています。「市内での突発的戦闘への巻き込まれに注意が必要」との記述もあります。
 さらにNHKの取材でも明らかになったように、宿営地の上空を銃弾・砲弾が飛び交い、宿営地内にも20発以上が着弾しています。避難民を保護したウガンダ軍宿営地の隊長室が直撃を受けて兵士二人が負傷しました。隣のバングラデシュ軍が反撃して、一時「交戦状態」になっています。日本隊の隊長は隊員に武器携帯と射撃許可を出し、ある隊員は「南スーダン人を殺してしまう可能性も出てくる」と述べ、自分の手帳に「遺言」を書いた隊員もいたとのことです。
 「南スーダン政府の受け入れ同意があるので、自衛隊が武力紛争に巻き込まれることはありえない」という日本政府のロジックは完全に破綻しています。だから日報は隠蔽されたのです。
 「憲法9条の問題になる言葉は使うべきではないので、「衝突」と言う言葉を使っている」という稲田大臣の科白は、この間の事情を最もよく示しているといえましょう。

 保存期間10年に

 現地情勢を隠蔽・改ざんしないと成り立たない海外派遣を25年間続けてきましたが、もうごまかしは限界です。
 この事案を機に、防衛省は海外派遣部隊の日報の保存期間を1年未満から10年に変更し、期間満了後も国立公文書館に移管することを決めました。「存在しない」と説明してきたイラク派遣の日報も435日分見つかりました。公表された日報には、自衛隊が駐留していたサマワでも戦闘が発生したことが記されています。自衛隊も占領軍とみなされ、武装勢力の攻撃対象になっていたのです。迫撃砲・ロケット報による攻撃は計13回に及んでいます。
 南スーダンからの撤収の本当の理由は、「何かあったら政権に大きなダメージになる」「長期政権を見据え、リスクを取り除きたかった」というのが本音でしょう。

 安住邦男

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年7月25日号
posted by JCJ at 12:40 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年07月25日

《国内政治》 2度目の幕引き許さない 森友・加計疑惑 徹底解明へ全力=三浦誠

 二つの学校法人をめぐる疑惑が国政の焦点になっている。安倍晋三首相夫妻の関与が問われる森友加計疑惑だ。発端は昨年2月に森友学園への国有地格安売却を「朝日」が報じたことだ。以降、両学園にまつわる疑惑が、1年半以上にわたって次々と発覚するという異例の事態になっている。
 森友加計疑惑で、「しんぶん赤旗」と日本共産党国会議員団は、独自に内部資料を入手するなどし、追及を続けてきた。
 森友疑惑では、昨年3月1日の参院予算委員会で小池晃書記局長が、自民党の鴻池祥肇参院議員事務所の報告書を入手し、追及した。籠池泰典被告=詐欺罪で起訴=からの依頼で鴻池事務所が財務省近畿財務局に口利きしたことを指摘。同じようなことをした議員がほかにもいないか安倍首相に調査を迫った。

官邸が検察に介入 

 共産党国会議員団はその後も、籠池被告と財務省との交渉を録音した音声データを手に入れ、国会で追及した。最近では、あいついで省庁の内部文書を暴露。財務省の佐川宣寿前理財局長らの刑事処分について「官邸も早くということで、法務省に何度も巻きを入れている」と記されていることをあげ、「法務省を通じて検察に官邸が介入しようとしていたのではないか」と正した。
 赤旗は早い段階で籠池被告に取材した。とくに安倍首相夫妻をはじめ学園と政治家の接点≠ニして注目したのが「教育勅語」だ。安倍首相の妻昭恵氏は、幼稚園を訪問し、「教育勅語などに感動」とフェイスブックに何度も記していた。籠池被告から入手した小学校の募集案内に掲載されていた政治家を調べると共通項は「教育勅語」の礼賛だった。根底に戦前回帰の右翼的思想が流れていたのである。
 加計疑惑では、昨年3月13日付で「52年ぶりの獣医学部 国家戦略特区で無理やり」と新聞としてはいち早く疑惑を報じた。

「動かぬ証拠」指摘

「総理のご意向」と記した文部科学省の内部文書が報じられた直後には、愛媛県今治市での獣医学部新設を前提に文科省が作成したスケジュール表など複数の内部文書を、政府関係者から赤旗が入手。小池氏が参院決算委でスケジュール表を取り上げ、「今治市ありき、加計学園ありきで国家戦略特区諮問会議の決定が行われた動かぬ証拠」と指摘した。
 なぜ日本共産党が独自に内部資料を入手できるのか-―。
 強調したいのは、赤旗と国会議員団がそれぞれ独自に情報を得ようと努力していることである。関係者にあたり、説得し、証言や資料を得る。その基本はジャーナリズムにおける調査報道と同様だ。決して「タレこみ」待ちではない。

 そして相手が協力してくれる根底には、日本共産党が金権腐敗と無縁の政党だからでもある。企業・団体献金は癒着の根源であるとして全面禁止を主張してきた。政党助成金にも頼らず、党費、個人献金、赤旗の収益で党を運営している。金権腐敗とたたかってきた清潔な党だからこそ、相手も信頼してくれるといえる。
 安倍政権は通常国会が終わる7月22日をもって、疑惑の幕引きを狙っている。昨年は通常国会を早々にとじ、1度目の幕引きをした。終了直後の記者会見で「何か指摘があれば、政府としてはその都度、真摯に説明責任を果たす」「丁寧に説明」と述べたが、その後、丁寧に説明することも、説明責任を果たすこともしないままだ。いま国会、ジャーナリズムには、2度目の幕引きを許さず、真相の徹底解明に力を尽くすことが求められている。
三浦 誠(しんぶん赤旗社会部部長代理)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年7月25日号
posted by JCJ at 13:05 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月14日

《ワールドウォッチ》利己的な動機で親イスラエル政策 =伊藤力司


 トランプ米大統領は、国内での不人気を挽回するために反イラン・親イスラエル政策を打ち出し、中東危機を深めている。同大統領は5月8日、イラン核合意(JCPOA))から一方的に離脱したのに続いて同14日、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。いずれも米国内の反イラン・親イスラエルの世論に迎合したものである。

 アメリカでは今年11月に中間選挙が行われ、米下院議員435人全員、米上院100人中33人が改選される。現在の下院はトランプ与党の共和党が多数派を占めているが、最近の各州の趨勢は民主党が優勢を占めつつある。このままで行けば中間選挙で共和党が敗れ、下院で民主党が多数派を占めることになりかねない。アメリカ憲法によると、下院が大統領弾劾を過半数で議決すれば有効となる。しかし下院で弾劾されても上院で弾劾されなければ、クビはつながる。上院では弾劾には3分の2多数の議決が必要だ。クリントン元大統領は下院では弾劾されたが、上院で

 3分の2多数の弾劾議決を免れ命拾いをした。クビはつながっても大統領の権威はがた落ちだ。

 これまでのところ、共和党の地盤とされてきた中西部など各州で共和党の旗色が悪く、トランプ氏としては何としてもこの流れを止めなければならない。そのためにはアメリカ世論に圧倒的な影響力を持つ「イスラエル・マフィア」の力を借りるのが手っ取り早い。

 親イスラエル派の中でも特別な組織がある。全米人口3億2000万人の25・3%を占めるといわれる「キリスト教福音派」だ。トランプ大統領の有力な支持基盤であり、彼は米大使館のエルサレム移転を2016年の大統領選挙の公約に掲げていた。11月の中間選挙を前に、大使館移転の公約を実行して「福音派」の支持基盤を固めておこうとした訳だ。

 GPOAとは、2015年に米露中英仏独の6か国がイランと結んだ協定で、イランの核兵器開発を抑止する一方、イランの石油輸出など対外経済活動の自由化を認めたもの。この協定でイランからの石油が世界市場に流通し、燃料価格が世界的に低下した。しかし米国がGPOAを離脱した途端、イラン産原油の先細りを恐れたニューヨークの原油先物市場では、バレル当たり65ドルだったものが71ドル台に跳ね上がった。バンカメの予測では1年後に原油価格は100ドルを超えるかもしれないという。
posted by JCJ at 10:29 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年03月09日

≪おすすめ本≫二宮厚美『終活期の安倍政権 ポスト・アベ政治へのプレリュード 』 ─アベノミクスの異常性を解明し、どん詰まり政策へ終止符を打つ道=栩木誠

 とっくに賞味期限切れとなりながら、シールを次々と付け替え、国民を幻惑し続ける「アベノミクスの3本の矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)」。その破たんは、多くの経済学者やエコノミストが厳しく指摘している。
 「安倍政権」がすでに「終活期」に入っている実態を理論的に証したのが本書である。2016年秋の総選挙後に第2ラウンドに突入した「終活期の安倍政権」の性格と構造を鋭く抉り、国民的攻防戦の構図を巧みな比喩を駆使して解き明かしている。

 著者は、安倍政権の異常(アブノーマル)を「アベノーマル」と喝破する。安倍政権の、まさにアブノーマル=異常性に迫ると共に、アベノミクスがどのような対策を講じてきたか、また今後いかなる対応策で逃げ切ろうとしているかを解明する。
 浜矩子・同志社大学教授が名づけた「どアホノミクス」など、アベノミクスの形容詞は数多い。著者もまた、安倍政権の政策は、不況の原因とデフレという結果の因果関係を取り違える「アベコべミクス」だと指摘する。

 初めから賞味期限切れであったアベノミクスを、いくらお色直し、再化粧したとしても、出口のない絶望の迷路と悪循環から脱することはできないのははっきりしている。
 本書は、再任が必至とされる黒田東彦総裁率いる日本銀行やアベノミクスの意味不明な「業界用語」の誇大包装を紐解き、金融政策と経済問題の本質、終活期の「アベ政治」の矛盾を明解に分析している。ポスト・アベ政治への「プレリュード(前奏曲)」を奏でる1冊。
(新日本出版社2300円)
「終活期の安倍政権」.jpg
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2018年03月07日

《ワールドウォッチ》危険な核戦略に乗り出すトランプ政権=伊藤力司

 トランプ米政権は2月2日、アメリカの「核態勢の見直し」(NPR Nuclear Posture Review)を発表した。爆発力を抑えた小型核弾頭の開発や非核兵器に対する反撃にも核兵器の使用を排除しないなど、核兵器への依存拡大を鮮明にした。「核なき世界」を目指したオバマ前政権が8年前にまとめたNPRからの大きな方針転換である。
 今回のNPRは、ロシアや中国の核戦力増強や北朝鮮やイランの核開発など「アメリカは過去のいかなる時期より多様で高度な核の脅威に直面している」として、予測不能の脅威に対抗するために米国の保有する核兵器の近代化や新たな核戦力の開発を宣言している。
 例えば、ロシアが局地戦に用いる戦術核に対抗して、爆発力が低くて「使いやすい小型の核兵器」を開発するという。米国がこれを使用した場合、敵国はそれが小型核か破滅的な被害を及ぼす戦略核か判断に迷い、反撃すれば全面的な核戦争に拡大するだろう。
 さらに新NPRは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に用いる小型核や海洋発射型の核巡航ミサイル(SLCM)を開発する方針を表明。爆発力を抑えた小型核は「一般市民を巻き添えにする恐れが減る」と、核兵器使用のハードルを下げる危険を伴う。
 この新方針は、昨年国連加盟国の圧倒的多数で採択された「核兵器の使用と威嚇」を否定した核兵器禁止条約に真っ向から挑戦するものであり、米国が加盟している核兵器不拡散条約(NPT)の核軍縮についての誠実な交渉の誓約にも明らかに違反している。
 ところが河野太郎外相は、直ちにNPRを「高く評価する」との談話を発表した。これは広島と長崎の被爆以来、日本国民が被爆者を先頭に一貫して追求してきた核兵器廃絶を目指す努力を否定するだけでなく、毎年8月に開かれてきた広島、長崎における平和祈念式典や一昨年6月のオバマ前大統領の広島訪問時における安倍晋三首相自身の発言をも矛盾する発言である。われわれ唯一の戦争被爆国の国民として、トランプ政権の新核戦略とこれに恥ずかしげもなく追随する安倍内閣と河野外相に、強く抗議し続けなければならない。
posted by JCJ at 11:24 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月28日

≪おすすめ本≫ DAYS JAPAN 1月増刊号「日本列島の全原発が危ない! 広瀬隆 白熱授業 」─いつ原発を襲う大地震が起きても不思議でない日本沿岸のプレート=藍原寛子(ジャーナリスト)

 次なる原発事故、核災害の予言の書。福島県沖から九州と日本列島を縦断する1千キロの巨大活断層「中央構造線」が地震激動期に入った。加えて津波、活火山、そしてテロの危険が迫る。原発や核燃料再処理工場の大惨事が日本のどこで起きても不思議でない時代。

 著者は10年前に岩手・宮城内陸地震が「日本に原発を建設・運転できる適地はないことを知らしめ」たと指摘。国の原発政策、事業者の問題を挙げ、破局を避けるには原発を再稼働せず停止・廃炉にした上、応急処置として高レベル廃棄物を含んだ使用済み核燃料の乾式貯蔵をと説く。
 何もしなければ、最悪のシナリオ―施設爆発で高レベル廃液が全量放出され、「日本とアジア全土が世界地図から消える」と、センセーショナルな宣告をする。

 これまで予測が当たってきた理由を尋ねると「内心の恐怖と、地球規模で問題を見ているからだ」と著者はいう。九州の群発地震、台湾大地震が続いた。昨年9月に中南米で連続した地震と海底マグマの噴出は、日本の地震に影響を与える地球内部のマントルの動きであり、日本沿岸のプレートは、いつ大地震が起きてもおかしくない状態だとみなしている。
 福島第一原発事故から7年。高度な科学技術が容易に凶器になり得る現代、人間は生き残りをかけて、どんな直感と叡智で行動するのか。福島原発事故の避難者の存在が無視され、次の核災害まで避難の妥当性を認めないとしたら遅すぎる。あとがきの「重罪弾劾」は圧巻。「広瀬節」は絶好調。
(デイズジャパン2150円)
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2018年02月25日

≪リレー時評≫再び「住民投票」にひた走る維新の会=清水正文

 2015年5月、維新の会は「大阪都」構想の是非を問う住民投票を32億円もの市税を投じ、5億円ともいわれる宣伝費をかけて行ったが、大阪市民から「ノー」の意思が示され、法的にも明瞭な決着をみた。
 ところが、松井大阪府知事、吉村大阪市長は「副首都構想」と装いを変え、「総合区」も議論するからと公明党を抱き込んで、昨年大阪府・市に「特別区設置協議会=法定協議会」を設置し、今年の秋に再び「住民投票」を行おうとしている。

 しかし、新たな「特別区」案なるものは、否決された「5区案」を「4区または6区案」にするというだけで、本質的には何の違いも打ち出せていない。前回の「二重行政の解消」や「財政効果額」の大義や道理は消え、万博誘致を利用した「IR」(カジノ)などを進める以外に「都構想」のメリットを示すことができず、矛盾が広がっている。
 「法定協議会」では、「現行法では都区調整財源に地方交付税は使えない」「財政シミュレーションを出さないのは、メリットがないからではないのか」などの異論や疑問が維新以外の政党から出されている。

 昨年9月の堺市長選挙では、4年前に続き「大阪都構想」反対を掲げる竹山市長が「堺は一つ、堺のことは堺で決める」と主張し、「堺市つぶし」を狙う維新の候補に勝利した。世論調査でも、大阪市民の「都構想」反対は1年間で5ポイント増えて47%に、賛成は10ポイント減って37%(「読売」)となっている。
 「総合区」とは大阪市を存続させたうえで、行政区の権限を強化するために、単独あるいはいくつかの区を合わせて設置しようとするもので、地方自治法に基づき市議会で決定すれば「住民投票」など不要であり、変更・解消も市議会の権限になっている。

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2018年02月01日

≪リレー時評≫ 沖縄の私たちは、この国の姿を問い続ける=金城正洋(「JCJ沖縄」代表世話人)

 昨年2月の「JCJ沖縄」立ち上げから、やがて1年。年末に「リレー時評」の依頼があった。さっそく正月3日に、この稿を起こす。沖縄では年の初めに手掛けることを初興し(ハチウクシ)と言う。縁起ものですのでどうかよろしく。
 と書いたところで新年早々縁起でもないことが起きた。6日、伊計島の民家の数十メートル先に米軍ヘリが緊急不時着。8日には読谷村のリゾートホテル近くに別の米軍ヘリが緊急不時着した。

 米軍機の事故は枚挙にいとまがない。一昨年暮れ名護市の東海岸にオスプレイが墜落大破。オーストラリア沖で墜落した普天間基地所属のオスプレイは、その後も岩国基地や大分、奄美、石垣などの民間空港に緊急着陸。衆議院選公示翌日には高江の民間地で大型ヘリが墜落炎上している。
 去年暮れには普天間基地周辺の保育園にヘリの部品が落下。さらに近くの小学校校庭で体育の授業をしていた児童たちの十数メートル先に重さ約8キロの米軍ヘリの窓が落下し、衝撃で飛んだ小石で児童が軽傷を負った。

 それだけではない。米軍関係者による殺人事件や飲酒運転死亡事故も起きた。米軍も日本政府も沖縄を戦争の訓練場としか見ていない。1945年から憲法の蚊帳の外に放置され、時計の針が止まったままだと言っても過言ではあるまい。
 昨年1月、東京地方放送局の番組「ニュース女子」に端を発する「沖縄ヘイト」が表面化。BPOが問題視して審議入り。「重大な放送倫理違反があった」と異例の決定を下した。
 だが沖縄ヘイトは止まらない。「部品落下は作り話」と誹謗中傷が後を絶たない。米軍が非を認め謝罪したにもだ。正体を隠し暗闇から弓を放つこの国の人々。沖縄だからどんなに叩いても許されると言うのか。無知無理解無関心なのか、憎悪に満ちた確信犯なのか、「嫌沖縄」の底が抜けてしまったようだ。
 辺野古の海と陸では基地建設に抗議する人々に対して国家権力が暴力的に排除し、逮捕行為にまで及んでいる。

 沖縄は11月の知事選を頂点とした統一地方選の年。2月4日は辺野古新基地建設を争点とした名護市長選だ。基地建設に反対する現職対自公維新が推す基地容認派の新人の争い。自民は党と政府挙げてなだれ込む。「辺野古反対は堅持する」という公明は基地容認候補を担ぐ矛盾を露呈。実質基地押し付け役に回る。
 昨年2月のJCJ機関紙に米大統領と対峙する「ロイター」編集主幹の言葉があった。「われわれは最善を尽くして記者たちを擁護し、ニュース活動を続ける」「報道の現状を悲観してはならない」。その通りだ。

 私たちは悲観しない。沖縄の歴史に立てば、権力に踏みつけられた者の視点で民衆の声をすくい上げる努力を怠りはしない。沖縄の現実を発信し、沖縄から見えるこの国の姿を問い続けていく。

posted by JCJ at 10:51 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年01月05日

≪おすすめ本3冊≫ まず伊藤詩織『Black Box』─性暴力被害に屈せず闘い続ける強い矜持=伊藤和子(弁護士/「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長)

 昨年6月、デイビッド・ケイ国連特別報告者は日本の表現の自由に関する調査報告書を国連に提出、報道の自由を確保するよう勧告した。
 彼は「日本のメディアは政府からの圧力を跳ね返す力が弱い」とし、記者クラブ制度など報道機関と政権の癒着に疑問を呈し、ジャーナリストの横の連帯、調査報道の環境醸成を訴えた。この提起は主要メディア内では、必ずしも掘り下げられなかったが、現状を打ち破る新しい動きが起きた。

 東京新聞の望月衣塑子記者による政権追及である。著書『新聞記者』 (角川新書)には、記者を志した軌跡、官邸会見で追及する心の葛藤や熱い想いが綴られている。
 多くの記者が政権幹部に踏み込んだ追及をしなくなる中、あえて質問を重ねる勇気を支えるのは権力監視というジャーナリストとしての強い使命感だ。「前川さんや詩織さんがたった一人でも戦おうとし、社会的に抹殺されるかもしれないリスクと背中合わせで疑惑を追及している。2人の勇気をだまって見ているだけでいいのか」と問う。

 その詩織さんは、首相に近い元テレビ記者による性的暴行被害を告訴、逮捕状執行が直前で見送られ不起訴に。検察審査会でも「不起訴相当」。それでも諦めず記者会見で被害を実名告発し、伊藤詩織『Black Box』 (文藝春秋)を出版した。
 屈せずに闘い続ける動機は「自分の中で真実に向き合えないのであれば、私にこの仕事をする資格はないだろう」というジャーナリストの強い矜持にある。性暴力被害者に泣き寝入りを強いる日本の社会的法的システムを、実体験から克明に問題提起した価値ある一冊だ。

 最後に横田増生『ユニクロ潜入一年』 (文藝春秋)を挙げたい。企業内部の過酷労働の実態を追及するため、自ら働き、潜入調査するという究極の調査報道姿勢に心から敬意を表したい。圧巻のルポだ。彼らに孤独な戦いをさせてはならない。社会が、そしてジャーナリストの横の連帯がこれを支え、真実に迫り権力を監視する報道が強まることを期待する。
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2017年12月30日

≪おすすめ本≫ 新垣毅『沖縄のアイデンティティー』 沖縄メディアで奮闘する記者の情熱と使命感=米倉外昭(「琉球新報」文化部記者)

 「新聞記者をしながら本を書く」ということがどれほど大変なことか、私には、正直なところ実感できていない。今年、2人の畏友がそれを実行した。
 沖縄タイムスの阿部岳『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)が8月に発刊された。そして11月、琉球新報の新垣毅『沖縄のアイデンティティー』(高文研)である。

 阿部は北部支社報道部長として基地問題の最前線を担当。副題は「現場記者が見た『高江165日』の真実」である。全国から機動隊を動員してヘリパッド(オスプレイ発着場)の建設工事が強行された「戒厳令下」の現場を、軍事基地に反対する住民の立場に身を置いてリアルに描写。「政府の暴走を本土の無関心が可能にしている」と指摘する。
 名護市安部海岸のオスプレイ墜落など、大事件が相次ぎ、忙殺されている阿部が本を出したと知った時は驚いた。あとがきに、半年間、休日を全て執筆にあてたとある。日本全国に伝えなければという強い情熱と使命感ゆえであろう。
 ネトウヨの攻撃にもさらされている沖縄メディアには、多くの「本土」出身記者がいる。東京生まれの阿部は「沖縄に対する本土という多数派、加害者の側にいる者として」「責任の果たし方は、これからもずっと問われていくだろう」と記し、本土出身という「十字架」を背負って現場に身を置くことの決意を示した。

 一方、新垣は「沖縄人」としてアイデンティティーを正面から問うた。東京支社報道部長の新垣は、沖縄と「本土」がぶつかり合う第一線である東京で多忙な日々を送る。そんな中で、20年前の修士論文を基に、その後の取材や変化を踏まえて加筆・修正したという。
 記号論、言説(ディスコース)理論、ポストコロニアリズムなどの用語は、ややとっつきにくいが、「うちなーんちゅとは何者か」と自問自答しながら、格闘してきた成果を結実させた。これも情熱あふれる一冊である。
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2017年12月23日

《沖縄リポート》県民の批判を受け入れた翁長知事 港の使用を止められるかに注目=浦島悦子

 11月初め、『沖縄タイムス』『琉球新報』両地元紙が、辺野古新基地建設に向けた埋め立て用石材の海上輸送にかかわる岸壁使用を沖縄県が許可していた(6月申請、9月許可)ことを報道、県民に衝撃と動揺が走った。
 辺野古ゲート前での県民の粘り強い座り込みや海上抗議行動によって基地建設作業が大幅に遅れていることに焦った安倍政権は、ダンプトラックによる石材の陸上輸送に加え海上輸送を行う方針を打ち出した。海上輸送では、台船1隻でダンプ2百台分以上が運べる。来年2月の名護市長選を前に作業を加速させ、名護市民・県民のあきらめを誘う狙いもあるだろう。
 そんな中で、「あらゆる手段で新基地を阻止する」と言ってきた翁長県政が、基地建設を加速することが明らかな港の使用許可を出したことに、座り込みの現場でも批判が相次いだ。13日には、県の許可を得た国頭村奥港で、奥区民や区長に何の説明もないまま、機動隊を大量動員して台船への石材積み込みが始まり、抗議する区民や村民ら約百人を機動隊が排除して強行、翌日、約50台分の石材を大浦湾に搬入した。翌日、沖縄県は奥区を訪れ、「申請に法的不備がなければ許可せざるを得なかった」と説明したが、区民らは納得しなかった。
 基地建設に反対する市民や市民団体の間で使用許可の撤回を求める声が高まったのを受けて15日、「基地の県内移設に反対する県民会議」(山城博治共同代表)は県庁で謝花知事公室長と面談、知事の「言行不一致」を厳しく批判し、使用許可の撤回を要請した。
 同日夕方、記者会見した翁長知事が、ダンプの粉じんや騒音などの環境問題を「新たな事態」として使用許可の撤回を検討していると報道され、それははじめからわかっていたことではないかと思いつつも、私はいささか安堵した。何よりも、このまま県や県知事への不信感が強まれば、市民・県民との結束が崩れていく心配があった。県民の批判を受け止めた知事の姿勢を評価したい。
 政府は奥港に続いて本部港塩川地区を海上輸送に使う方針だ。口頭で使用許可を出した本部町に対し県は指導に入ったが、使用を止められるかどうか、県民は固唾を呑んで見つめている。
posted by JCJ at 00:02 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年12月11日

《ワールドウォッチ》アメリカ社会の分断=伊藤力司

 トランプ米大統領の支持率は37%と、戦後歴代大統領の最低を記録した。不支持率は59%で最高だった(10月29日〜11月1日実施のワシントン・ポスト紙とABCテレビの世論調査)。
 就任以来10カ月、メキシコ国境への“長城”建設、オバマケア(医療保険法)改廃など重要公約は実現できず、イスラム国からの移民禁止は国内外の反対で立ち往生。
 米国では同じ共和党の前任者、ブッシュ元大統領父子がトランプ大統領を酷評したことが話題になっている。「彼はほら吹きだ」と父が言えば、息子は「彼は大統領でいることの意味が分かっていない」と返したという(CNNニュース)。
 こうした悪評はニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストやCNN、ABC、NBCなどの有力メディアを通じて全米に流れて大統領不支持率を上げているのだが、37%の固いトランプ支持層はこれらの有力メディアを一切視聴しない。
 彼らが見るのは保守系のフォックスTVであり、読むのはブライトバート・ニュースなどの右翼メディアだけだ。また大統領は反トランプのメディアは「フェイク(にせ)ニュースばかりだ」と、耳を貸さない。
 こうしてアメリカ社会は分断された。人種差別を禁じた公民権法が成立して半世紀を過ぎたというのに、KKK団など人種差別団体が公然とデモを行い、これに反対する反差別派と衝突する事件が相次いで起きている。
 トランプ支持派は南部諸州や「ラスト・ベルト(錆びた地方)」つまり中西部の旧工業地帯に住む白人たちだ。20世紀のアメリカを支えた工場は高い人件費を嫌ってメキシコや中国に移転し、中西部は白人失業者の溢れる地域となった。
 かれらはトランプ大統領の「アメリカ第一主義」が雇用を再建してくれるものと信じて歓迎している。
 こうしたトランプ支持者たちは、大西洋岸や太平洋岸の“開けた都会州”の民主党支持者を軽蔑、自分たちこそ「本来のアメリカ人だ」と信じている。
 彼らは中南米系、アジア系、中東系移民と黒人がアメリカの多数派となることを恐れている。移民系は概して多産であり21世紀後半には白人が少数派になることは必至だが。

posted by JCJ at 15:31 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年11月30日

<リレー時評> 出版界考現─二つの挑戦とヘイト本=守屋龍一

 今から62年前、吉野源三郎さんは55歳で、私たち日本ジャーナリスト会議の初代議長に就いた。
 彼は、若かりし38歳の1937年8月、新潮社より『君たちはどう生きるか』を刊行している。盧溝橋事件が勃発する1カ月前だ。以降8年、日本は戦争へと突っ走る。
 中学生の「コペル君」が、学校での仲間外れ・いじめなどに直面しながら、自己中心の世界観から抜け出し、広い視野で人間として生きる指針を得ていく物語だ。

 この名著が80年ぶりに、初めてマンガ化された。マガジンハウスから8月24日に刊行。発売2カ月で43万部、11月末の今や60万部を超えたという。
 吉野さんの思いが、マンガ化により、今の時代状況や社会の息苦しさの中で生きる、若い人たちやその親たちに訴えかけ、共鳴し合うのだろう。

 長江貴士『書店員X』(中公新書ラクレ)も示唆に富む。昨年、盛岡市を中心に10店舗ほど展開する「さわや書店」が仕掛けた「文庫X」なる謎の本が日本中を席巻。
 表紙をオリジナルの手書きカバーで覆い、タイトルと著者名を隠すという常識破りの試みが、全国650を超す書店に広がり、30万部突破のヒットとなった。
 この企画を進めた著者は、「書店員の私が、ぜひ読んでほしい本を、いかにして手に取ってもらうか、その一念で挑戦した」という。奇想天外な「文庫X」の正体は、清水潔『殺人犯はそこにいる』(新潮文庫)であった。
 冤罪告発に執念を燃やす著者の迫力、これに呼応する書店員が編み出したコラボレーションの、実り多い成果だ。

 2017年出版界の売り上げは1兆4千億円がやっと。1996年のピーク時2兆6563億円に比べ、20年間で半減。書店数も半減の1万店を割る。書店ゼロの自治体・行政区は420、全体の2割に及ぶ。
 こうした出版界の現実を、少しでも切り拓こうとする、ユニークな挑戦の2例である。

 だが売れれば、なんでもいいのか。ケント・ギルバート『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社+α新書)など、ヘイト本が大手を振って店頭を飾る。担当編集者は、業界誌のインタビューに「欧米人の書いた反中国・反韓国本だから、日本人に受け入れられた」と、人種・民族差別など一顧だにせず答える。
 「出版は文化ではなくビジネスである、と開き直るようでは、もはや〈牛に対して琴を弾ず〉なのか。全ての出版人に問いたい」(リテラ・宮島みつや)と痛烈な言が飛ぶ。

 ジュンク堂難波店店長の福嶋聡さんは、自著の『書店と民主主義』(人文書院)で、「NOヘイト!」「自由と民主主義のための必読書50冊」フェアへのクレーム攻撃や中止問題などについて考察しつつ、「政治的〈中立〉を装って、売れれば全て良しとし、本を作り売る者の責任・見識・矜持まで放棄するのは許されない」と、強調している。

posted by JCJ at 11:00 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする