2020年08月01日

【フォトアングル】 オスプレイの木更津駐屯地配備に反対の声あげる=酒井憲太郎

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「日本のどこにもオスプレイはいらない!」の大きな横幕が左右に2枚並んだJR津田沼駅北口。マイクを手に訴えるのは「幕張メッセでの武器見本市に反対する会」と「安保関連法に反対するママの会@ちば」と「どこの空にもオスプレイはいらない@フナバシ」と支援の皆さん。行き交う人々に手作りの看板「武器見本市もオスプレイもいらない」をかざして、オスプレイの木更津駐屯地配備に反対の強い意思表示をした。=4日、千葉・習志野市津田沼、酒井憲太郎撮影
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号

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2020年07月20日

JCJ第2回オンライン講演「どうなる?朝鮮半島情勢」27日(日)14時から

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 7月26日(日)14時から日本ジャーナリスト会議(JCJ)による第2回オンライン講演を開きます。今回は「どうなる?朝鮮半島情勢」がテーマ。講師は南北問題に詳しい東京新聞・五味洋治論説委員です。五味さんは月刊『文藝春秋』8月号で「金与正毒舌プリンセス=w冷たい仮面』の裏」と題した原稿を書いています。この与正の正体や、兄の金正恩の健康状態、経済のひっ迫状況、日韓と日朝の関係など多面的に話をされます。参加費500円。ぜひ皆さん、視聴してください。
                  
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2020年07月02日

著名人・若者を動かした「怒り」 「 #検察庁法改正案に抗議します」=望月衣塑子

             ◆望月衣塑子記者.jpg    
 検察庁法改正案が審議入りしていた5月、ツイッター上では「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検索目印)付きツイートが広がり、大きなうねりとなった。賭けマージャン問題もあいまって政府は改正法成立を断念した。
 総数は9百万件を超えたが、数の多さよりも注目されたのは、普段はあまり政治的な発言をしない著名人や若者たちが次々と賛同したことだ。彼らを突き動かしたのは、思想信条や損得ではない、「怒り」の感情だったのではないか。
「罪が無くても」
 5月8日、東京都内の30代の女性会社員「笛美」さんのツイートが始まりだった。この日、検察庁法改正案を含む「国家公務員法等の一部を改正する法律案」が衆議院で審議入りした。
 おさらいすると、政府は長年の法解釈を変更し、1月に黒川弘務・東京高検検事長(当時)の定年延長を閣議決定した。将来、黒川氏を検事総長にすえ、検察捜査への関与を強めようとする官邸の狙いは明らかで、法改正は定年延長を正当化し、検察の独立や公正性をおびやかすものと受け止められていた。実際、笛美さんはツイートの理由を「政府が気に入らない人は、罪がなくても裁かれるということが起きる予感」がしたから、と答えている。
注目度トップに 
 ハッシュタグのついたツイートは急速に広がる。女優の小泉今日子さんや大竹しのぶさん、ミュージシャン「いきものがかり」の水野良樹さん、演出家の宮本亜門さんら著名人も次々に賛同し、ツイッターの注目度を示すトレンドで国内トップにもなった。
 当然、ツイート数=「抗議した人数」ではない。ただ、東京大大学院の鳥海不二夫准教授(計算社会科学)の分析によると、同じ内容を自動で投稿したり、拡散目的で新たにアカウントが作られたりした形跡もなかった。「ネットでの炎上などの案件として比較的多い」と指摘している。
耳を傾ける役割
 日本人の多くは周囲との不要な対立を避ける。政治的な意見を口に出すことはまれだ。特に著名人はファンやスポンサーから敬遠されるリスクが増すだけで、メリットはない。実際、今回も賛同した著名人に「政治に口を出すな」「がっかり」「歌だけ歌っていればいい」という反応も出た。
 それでも今回のツイッターデモに多くの賛同者が続いたのは、検察庁OBたちが意見書で示したような「検察の政治的中立性を損なう」ことへの抗議だけでなく、新型コロナウイルス対策を急ぐべき緊急時に、全く無関係の法案通過を図った「火事場泥棒政権」への猛烈な怒りだろう。
 政権は「普通の人」が政治に意見することを恐れる。20年前の衆院選で森喜朗首相(当時)が発した「無党派層が寝ててくれたらいい」と失言(本音)と通底する。今回のツイッターデモは、普段は政治に無口な層が動いた。不公正や不平等、不正義への怒りは、個人の立場や信条、利害を超えて共鳴し伝わっていく。この音に耳を傾け、報じるのがジャーナリズムの本質だろう。
望月衣塑子(東京新聞記者)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

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2020年06月25日

【リアル北朝鮮】 南北「収拾つかない」 ホットラインを完全遮断=文聖姫

  前回の本欄で、金正恩朝鮮労働党委員長の妹、金与正氏の後継者説が浮上していると書いた。その与正氏が「対南(韓国)事業」を統括する党第1副部長であることが、最近明らかになった。
 しかし、南北関係は文在寅政権始まって以来の緊張状態に陥っている。5月31日に韓国在住の脱北者らが北朝鮮に向けて、金委員長を非難するビラを散布したことがきっかけだ。これに金与正氏が6月4日、自ら怒りの談話を発表したのだ。その内容たるや凄まじい。問題は、ビラをまいた脱北者だけでなく、それを黙認していることを理由に韓国政府を非難したことだった。
 5日には、朝鮮労働党で統一問題を担当する統一戦線部報道官が談話を発表し、「対南事業」を担当する与正氏が、自身の談話で指摘した内容を実行するための検討事業に着手するよう指示したことなどを明らかにした。与正氏は談話のなかで、開城工業地区の完全撤去、南北共同連絡事務所の閉鎖、南北軍事合意の破棄などの「対抗手段」をちらつかせていた。
 与正氏の談話に呼応する形で平壌では6日、若者らによる抗議集会が開かれた。7、8日には平壌市や地方でデモが相次いだ。各界人士らの談話が党機関紙の「労働新聞」に掲載されるなど、全国民が激怒していることをアピールした。北朝鮮は9日、首脳同士の直通連絡線を含むホットラインを遮断した。北朝鮮の怒りの矛先は、完全に韓国政府に向かったといえる。
 韓国大統領府は11日、一部民間団体(脱北者団体)による北朝鮮に向けたビラや物品の散布は、南北交流協力法、公有水面法、航空安全法などに違反するものだとして、今後は取締りを強化し、違反する場合には厳重に対応するとの政府の立場を発表した。
 だが、北朝鮮側はチャン・グムチョル統一戦線部長名の談話で、韓国政府への信頼は粉々になったとして、「北南関係はすでに収拾がつかない所まで来た」と指摘した。
文聖姫(ジャーナリスト・博士)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号


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2020年06月24日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】 安倍政権がコロナ報道で検閲=@海外メディアにも及ぶ 

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 週刊ポストの最近の報道(6/5,6/12)によると、政府の内閣広報室の数人の人の係官が、テレビの報道番組、コロナ報道などをモニターし、問題発言を書き起こして政府に報告しているという。
チェックし訂正求める
 そういえば「羽鳥慎一モーニングショー」(テレ朝月〜金8:00) で安倍首相のコロナ対策後手に回っていること、医療機関へのマスクを重点的に配備すべきだとの発言を、厚生労働省が番組出演者を名指ししてツイッターで攻撃した(3/4)ことがある。
 内閣広報室のメディアチェックは、明らかな憲法21条違反の検閲と言わざるを得ない。
 週刊ポストが入手した情報公開資料によると、2月初旬から3月上旬までの40日ほどで、A4判1000枚近くに及んでいるという。特に目立つのはテレ朝の朝ワイドに出演している玉川徹キャスターやゲストの岡田晴恵白鷗大教授、更には「ダイヤモンドプリンセス号」に乗り込んで、政府の対応を批判した、岩田健太郎神戸大教授の発言などだ。報道番組やワイドショーが中心だが、情報番組の「アッコにおまかせ」(TBS、日曜11:45)での和田アツ子とIKKOとのやり取りも含まれていた。
海外メディア安倍批判
 諸外国の多くは安倍政権のコロナ政策に批判的だ。「日本はPCRの検査の少ない。日本のやり方は症状の軽い感染者を特定し、追跡することを困難にしている」(英紙ガーディアン5/4)と指摘した。
 4/23に外務省が海外メディア向けに開いた記者会見では、「もっと多くの市中感染があるのではないか」などの質問が1時間にわたって続いた。また韓国の「ハンギョレ新聞」(4/30)も「日本政府は韓国の防疫の成功を無視し、軽んじている」と批判した。(朝日新聞5/8の記事より)。
 安部首相の感染対策としてマスク2枚配布の発表(4/1)は、国内の批判に加え、海外メディアからも「アベノマスクはエイプリルフールか」(Fox News4/1)など嘲笑、揶揄が乱れ飛んだ。
 今国会で成立の予算の中に、“批判をチェックし、正しい情報流すために”との予算24億円を外務省が組んだ。主要20か国のなどのSNSをAI(人工知能)も活用して海外メディアの報道チェック、“正しい情報を発信する”という。
 厚生労働省も国内海外に向けて「ネガティブ情報の払しょく」、「正しい情報の発信」を行う予算35億円が組まれた。
 外務省、厚生労働省、内閣広報室、内閣官房インフルエンザ等特別対策室は一体となって国内、海外の政府批判阻止の動きを強めているのが現状だ。
 NHKは指定公共機関
 「改正新型インフルエンザ対策特別措置法」では日銀、赤十字などと並んでNHKが指定公共機関とされた。従来から政権寄りのNHKは、政府のコロナ対策への協力にアクセルがかかっている。国境なき記者団(本部パリ4/8)、日本ジャーナリスト会議(4/11)、などが独立した報道を阻害するとして反対声明を出し、NHKを指定から外すよう要求している。
政府の要請放送
 160の国地域へテレビ国際放送(NHKワールド)や、ラジオ国際放送(短波)、インターネットニュースサイト(Japan On Line、17ヵ国多言語)など、NHKの海外向けの情報発信では、在留日本人の生命、身体にかかわる事項、国の重要政策などで政府の要請があれば、それを受け入れることになっている。4月1日に総務省が発表した2020に年の要請放送の項目には「新型コロナウイルス感染症に関する国内の最新状況に特に留意すること」が付け加えられた。
 このままではNHKは政府広報機関に陥ることになる。
 NHKを指定公共機関から外すよう求めるとともに政府の要請報道に応じないようNHKに求める必要がある。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2020年06月10日

【リアル北朝鮮】 劇的演出で噂払しょく 浮上する金与正後継者説=金聖姫

 今回の「金正恩重体説」騒ぎを見て、34年前の出来事を思い出した。「金日成死亡説」である。1986年11月、金日成主席が死亡したというニュースが世界中を駆け巡ったが、彼が訪朝したモンゴルのバトムンフ人民革命党書記を空港に出迎えたことで打ち消された。
 金主席死亡説が飛び交う間も北朝鮮は沈黙を守っていたが、これ以上ない劇的な演出で噂を払しょくして見せた。中国やロシア(当時はソ連)の指導者でもない、モンゴルの指導者を金主席が空港まで出迎えるのは異例だった。北朝鮮が噂を意識したのは間違いなかった。
 4月12日以降、動静が途絶えていた金正恩朝鮮労働党委員長は、5月1日、平壌の西北にある平安南道・順川の肥料工場竣工式に出席し、健在をアピールした。
 金委員長に関しては、15日の故金日成主席の生誕記念日に遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿に参拝したことが報じられず、にわかに動静が注目された。20日には韓国のインターネットサイト「デイリーNK」が「12日に心血管系の手術を受けて療養中」と報道。翌21日には米CNNが「重体説」を報じたことで、「金正恩重体説」が世界を駆け巡った。だが、34年前と同様、金委員長が公の場に姿を現すことで北朝鮮は噂に「答えた」。
 そもそも、外部で騒いでいただけで、北朝鮮では特異な変化は見られなかった。韓国政府も否定していた。北朝鮮は外部が騒いでいるからといって、いちいち反応する国ではない。1日に肥料工場竣工式に姿を現したのも、日程を粛々とこなしたと言えなくもない。もちろん、世間の噂は十分に意識していただろうが。
 今回の「重体説」でにわかに浮上しているのが、妹の金与正氏(朝鮮労働党第1副部長)後継者説だ。1日の竣工式では、金委員長の二人目横に座るなど、権威が高まっていることをうかがわせる。4月11日の党中央委員会政治局会議では、政治局委員に返り咲いた。今後の動きが注目される。
 文聖姫(ジャーナリスト・博士)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

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2020年05月27日

フリー記者が見た安倍首相会見の現実 質問までなんと7年余 首相の「言いっぱなし」を許す 官邸とクラブのなれあい儀式=畠山理仁

 第二次安倍政権下で、たった一度の質問機会を得るまでに、7年3カ月以上もかかった。
 信じられないかもしれないが本当だ。これはフリーランス記者である私が4月17日に体験した「安倍首相記者会見の現実」である。
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 私が首相官邸で開かれる首相会見に初めて参加したのは、2010年3月26日のことだ。従来は内閣記者会(記者クラブ)のメンバーに参加者が限られていた首相会見が、民主党の鳩山由紀夫首相時代に一部のフリーランス記者にも開放された。それをきっかけに私も参加し始めたのだ。
 民主党政権時代は、私を含むフリーランスやネットメディアの記者にも質問の機会があった。しかし、2012年12月26日に第二次安倍政権が発足すると、フリーランスの記者はまったく当てられなくなった。その期間は7年以上。完全な異常事態である。
 そこに風穴を開ける事件が今年2月29日に起きた。この日、安倍首相が会見をわずか36分で打ち切って立ち去ろうとすると、フリーランスの江川紹子氏が「まだ聞きたいことがあります」と声を上げたのだ。
 この様子はNHKの中継で流れた。しかし、首相は江川氏の声を無視して私邸に帰ってしまった。
 江川氏がこの顛末をSNSで報告すると、安倍首相に対する世間からの批判は一気に高まった。
 ここで潮目が変わり、その後に開かれた6回の首相会見では、毎回必ずフリーランスの記者が指名されるようになった。
厳し過ぎる参加条件
 首相会見の実態は、記者であっても知る者は少ない。そこで、まずは素朴な疑問に答えたい。
「セキュリティチェックはあるのか?」
→ある。アポイントはもちろん、身分証明書の提示や金属探知機の通過が必要だ。現在は新型コロナウイルス対策のため体温も測られる。「密を避ける」という理由で、会見場所も換気の良い2階ホールに移された。従来の会見室には約120席あった記者席が29席まで減らされた。そのうち19席は内閣記者会の常任幹事社の指定席。残りの10席を記者クラブ以外の記者が抽選で争っている。
「参加したらお金をもらえるの?」
→一切もらえない。こちらから払うこともない。
「誰でも参加できるの?」
→できない。
 正直に言う。記者クラブ以外の記者にとって、首相会見に参加するハードルは高すぎる。
 まず、フリーランスの場合は条件をクリアして、「事前登録者リスト」に名を連ねる必要がある。
 第一の条件は、日本新聞協会や日本雑誌協会などの加盟社が発行する媒体に「署名記事等を提供し、十分な活動実績・実態を有する者」。
 第二の条件は、前述した団体加盟社からの「推薦状(証明書)」だ。
 さらに、「直近3ヶ月以内に各月1つ以上の記事等」を毎回提出する。記事内容も「総理や官邸の動向を報道するもの」に限られている。
 いま、フリーランスで「事前登録者リスト」に載っている者は10人ほどしかいない。全員が民主党政権時に登録した記者たちで、自民党政権下では一人も新しい登録者がいない。ハードルが高すぎるため、申請しても官邸側に断られるのだ。
追加質問できない
 そもそも、首相会見には「台本」がある。冒頭20分ほどは首相が演台横のプロンプターに映し出された演説原稿を読む。それが終わるとプロンプターが下がり、記者との質疑応答に移る。
 フリーランスは質問の事前通告をしていないが、内閣記者会からの質問は官邸側が把握している。
 しかも、演台中央にはモニターが埋め込まれており、首相の手元には想定問答のファイルもある。
 質問者は長谷川榮一内閣広報官が指名する。質問は「一問一答」だから、首相が曖昧に逃げても追加質問ができない。結果的に首相の「言いっぱなし」を許すことになる。
 つまり、会見の主催者たる内閣記者会は、権力側に主導権を握られたまま、「台本通りの儀式」に付き合わされているのだ。
 これで本当に会見と呼べるのか。内閣記者会の奮起に期待したい。
畠山理仁(フリーランスライター)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

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2020年05月23日

 コロナ利用し改憲? 緊急事態で自民提案=丸山重威

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 新型コロナウイルス感染で、安倍首相は4月8日、東京、埼玉、神奈川、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県に「非常事態宣言」を発令、16日これを全都道府県に拡大した。国民の行動や営業規制を伴う宣言だが、首相はこれを改憲に結びつけようと躍起。惨事を利用して、社会の仕組みや制度を変える「ショックドクトリン」が露骨に動き出している。
国会で堂々と改憲論
  安倍首相は7日の衆院議院運営委員会で「新型コロナウイルス感染症への対応も踏まえつつ、国会の憲法審査会の場で、与野党の枠を超えた活発な議論が展開されることを期待したい」と述べ、憲法審査会での改憲論議を要求した。首相は「緊急時に国家や国民がどんな役割を果たし、国難を乗り越えていくべきかを憲法にどう位置づけるかは極めて重大な課題」とし、自民党が提案している改憲4項目のうちの「緊急事態条項」を上げ、改めて意欲を見せた。
定足数や選挙で提起
 一方、自民党は憲法審査会の新藤義孝・自民党筆頭幹事が、3月19日と4月3日、山花郁夫・野党筆頭幹事(立憲民主党)らに幹事懇談会や審査会を開くよう求めた。
 新藤氏の提案は「緊急事態における国会機能の確保」をテーマに審査会で議論しようというもので、@国会議員に感染者が広がった場合、定足数を満たす方策や国会機能を確保する方策はあるかA例えば現在の衆院議員の任期は来年10月21日までだが、感染症が収束せず選挙ができず、議員不在になった場合、どう対処するか―を上げた。 当然野党は拒否。だが自民党改憲推進本部は、党関係の会議がほとんど中止されている中で4月10日、会合を開き約50人が集まった。
口火切る「維新」
 もう一つ見逃せないのは日本維新の会の動き。コロナを利用した改憲論の口火を切ったのが維新の馬場伸幸幹事長で、1月28日の衆院予算委で「コロナウイルスの感染拡大は非常に良いお手本になる」「緊急事態条項について国民の理解を深めていく努力が必要だ」と安倍首相に質問。首相は「今後想定される巨大地震や津波等に迅速に対処する観点から憲法に緊急事態をどう位置付けられるかは大いに議論すべきもの」と答えた。
 7日の安倍発言も維新の遠藤敬議員が「国が国民生活を規制するに当たっては、ある程度の強制力を担保するため緊急事態条項が必要だ」との質問への答弁で、維新は事実上「安倍改憲答弁引き出し役」になっている。
コロナ・ファッショ
  改正する必要がなかった「新型インフルエンザ特別措置法」を安倍政権があえて改正したのは、「緊急事態」をクローズアップするためだった、とも言われる中で、「緊急事態宣言」をする機会ができたいま、「コロナ感染防止」→「行動や営業など私権の制限」→「非常事態宣言」の道筋には警戒が必要だ。ナチスの独裁は「国会の停止・首相への全権委任」に始まり、日本の戦前・戦中のスローガンは「ほしがりません勝つまでは…」。これを繰り返すわけにはいかない。
丸山重威
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号

 
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2020年04月25日

【リアル北朝鮮】 金委員長らマスクせず コロナ対策万全誇示=文聖姫

 4月15日、韓国では4年に一度の国会議員選挙が行われ、与党(共に民主党と比例政党・共に市民党)が過半数を超える大幅な議席を獲得して圧勝した。新型コロナウイルスへの文在寅政権の取り組みが評価されたことが大きい。
 前日の朝、北朝鮮は東部の江原道・文川付近から日本海に向けて、数発の飛翔体を発射した。韓国軍合同参謀本部によると、巡航ミサイルとみられる。巡航ミサイルなら、発射が確認されるのは2017年6月以来(「朝日新聞」20年4月15日付)だ。
 韓国の総選挙を意識したのかもしれない。15日は金正恩氏の祖父、故金日成主席の生誕日でもあるので、それも関連しているかもしれない。
 北朝鮮の国会にあたる最高人民会議が12日、平壌の万寿台議事堂で開かれた。当初は10日に予定されていたが、2日間延期された。延期の理由は定かではないが、代議員ではない金正恩氏は欠席した。
 主な議題は、昨年の事業報告と今年の課題、昨年と今年の国家予算審議である。再資源化法、遠隔教育法、除隊軍官生活条件保障法の三つの法律も採択された。いくつかの人事も発表された。
 北朝鮮でも新型コロナウイルス対応に国家を挙げて取り組んでいる。最高人民会議の前日に開かれた朝鮮労働党中央委員会政治局会議の第一議題は、新型コロナウイルスから国民の生命と安全を守るための対策を立てることだった。
 こちらの会議には金正恩氏も参加した。会議の報告では、最初の段階から超特別クラスの非常防疫措置を稼働させるなどして安定的な防疫態勢を維持している点、ウイルスの流入を遮断するための対策を引き続き厳格に実施する点などが指摘された(朝鮮中央通信12日報道)。
 そのおかげか、北朝鮮では「一人の感染者も発生していない」(会議報告)という。それを誇示するかのように、写真で見る限り、最高人民会議の参加者は誰一人マスクをしていなかった。
文聖姫(ジャーナリスト・博士)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号

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2020年04月13日

「コロナショック」利用も視野? 改憲前面に自民党運動方針=編集部

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 自民党は3月17日、コロナウイルスの流行で延期した党大会に代わる両院議員総会を開き、2020年運動方針を採択した。憲法について「国会発議に向けた環境を整えるべく力を尽くす」と明記。安倍晋三首相は「憲法改正を含めて運動方針に則り、一致結束して全力を尽くしたい」とあいさつした。
 新型コロナウイルス感染拡大に対して政府、与党一体となった取り組みを要請したが、すでにこの「ショック」を利用した改憲戦略が出てきていることを見逃すわけにはいかない。
伊吹発言が発端
 伊吹文明元衆院議長は1月30日、二階派の会合で「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と語り、2月1日には下村博文選対本部長も「改憲論議のきっかけに」と提起した。
 また1月28日の衆院予算委では、日本維新の会の馬場伸幸幹事長が「このようなことがあったから緊急事態条項を新設しなければならない、と言う議論を活発にすれば国民の理解も深まるのではないか」と質問、安倍首相は「緊急事態条項を含め…与野党の枠を超えた活発な議論を期待する」と答えている。
女性や青年狙え
 運動方針では、その冒頭に「新たな時代にふさわしい憲法へ」と題して改憲を掲げ、総合的な改憲運動を提起している。
 具体的には、憲法改正推進本部が「遊説・組織委員会」を設置して全国で「憲法改正研修会」を「精力的に」開催するほか、組織運動本部が女性の視点からのパンフや若い世代に向けた漫画入り冊子を作成。青年組織の「全国一斉街頭行動」などを「積極的に」展開、「友好団体」にも説明の機会を設けるなど「世論喚起に励む」とする。
 さらに「広報本部」は「憲法改正の主役はあなたです」というポスターの全国展開、インターネット動画の活用を通じて国民的な機運の盛り上げに努めるという。
ネット配信強化
 運動方針で自民党は、昨年の参院選について「わが党は憲法改正について『議論を前に進めるべきか、否か』その選択の選挙であることを国民に訴えた。結果、『議論を前に進めよ』との国民の強い支持を得た」と主張。「早期に衆参の憲法審査会の場における各党各会派の枠を超えた議論は、実施されるべきである」との論理を展開、改憲論議の推進を狙っている。
 もちろん参院選の結果から「『憲法論議を進めよ』が民意だ」などという結論は出てこない。
 このほか、自民党運動方針は、「党勢の拡大は道半ば」と各選挙の必勝に向けた党員拡大と組織力の強化をうたい、「友好団体」の結びつきの強化、「友好的な労組」との政策懇談、政策アピールを進めることや、少人数での車座「ふるさと対話集会」、日本の近現代史を学ぶ「まなびと夜間塾」、「地方政治大学校」との連携を強める。
 そして、講座のネット配信のほかホームページをリニューアルし、スマートフォンで見易さ、使いやすさを高め、閲覧者に合わせた「見える化」を図るという。
 特にSNSや動画放送局「カフェ・スタ」で一層面白い発信をする、など、ネット社会での広報強化をうたっている。
編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

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2020年04月11日

望月記者大いに語る 小森陽一対談チャンネル 読者と社の支援で圧力はね返す 権力とメディアの闘いに=河野慎二

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 東京新聞の望月衣塑子記者をゲストに迎えてFmAが収録した「小森陽一対談チャンネル」が2日、ユーチューブを通じて全国に発信された。
 望月記者は「桜を見る会」問題で「昨年11月以降、菅義偉官房長官が番記者から突っ込まれ、追い込まれている」「今は少し空気が変わってきている」と指摘した。
 しかし、望月記者が菅会見に出席した2017年6月当時は、番記者の追及は弱く「しがらみのない自分が純粋に感じていることを聞いてみようと考えた。20分間で23の質問をした時もある」。
尋常ではなかった
 安倍官邸の圧力は尋常ではなかった。「安倍首相秘書官の今井尚哉氏が望月は何とかならんのかと発言したと聞いた」。
 一方で、望月会見の動画がネットでアップされると「自分が聴きたいことを、普通に聞く記者がようやく出て来た」などのアクセスが相次ぎ、東京新聞には「望月記者を官邸に行かせないことは、止めてほしい」などの電話やメールが殺到した。
 望月記者が、強まる官邸の圧力を跳ね返し得たのは、読者の声と社のバックアップ態勢だ。
 編集局長は政治部長や社会部長に「自分たちを支えている読者の声は、『もっときっちり、疑問や疑惑を追及しろ』という声だ。望月が聞きたいと言う限り、望月を止めさせるのではなく、背中を押してやろう」と指示をしてくれた。
連帯の構図できる
 だが、官邸の質問妨害は常軌を逸したものとなる。「私の1分半の質問に、官邸の報道室長が7回も『質問は簡潔に!』とさえぎって来た」。挙句の果てに「望月質問には事実誤認がある」として内閣広報官が東京新聞に抗議文を送り付けた。
 東京は1ページ全面で反論記事を特集、全国の地方紙も共同通信配信の記事で東京新聞支援の論陣を張った。
 望月記者は「官邸が強くなる中で、記者クラブが弱い立場に追い込まれている。それを変えて行かないといけない」と強調。「官邸の抗議文書は自ら墓穴を掘ってしまった。
 あからさまな圧力にメディアはどうするのかがみんなの共通課題になり、東京新聞対官邸の問題ではなく、権力対メディアの問題になった。その中で、重要な連帯の構図がメディアの中で出来て行った」と振り返った。
心を揺さぶられた
 望月記者は、レイプ被害にあったジャーナリスト・伊藤詩織さんについて「詩織さんの告発に私は大きく心を揺さぶられた」と語った。
 伊藤さんは昨年末、民事訴訟で、性暴力被害者や支援者の後ろ盾になる勝訴判決を勝ち取った。望月記者は「詩織さんを見て、自分はただ記事を書いていればいいのか。もっと突っ込んで行かなければいけないんじゃないか。一人ひとりが感じている不誠実や不正義に鬱屈するのではなく、きっちり声を上げて抵抗しないといけないんだという思いにさせられた」と述べた。
 望月記者は昨秋、大学入試に英語民間試験導入を図ろうとした安倍政権の政策を「受験生や保護者、教師の力で、土壇場で政策変更に追い込んだ」ことを高く評価した。
 その上で「みんなが声を上げ、繋がることで、政治は私たち一人ひとりの手の中にあることを再認識できた。政治や社会がより良い方向に向かって行けるような一翼を、メディアや記者が担えれば、と思っている」と対談を締めくくった。
河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

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2020年04月04日

【新型コロナ ショック・ドクトリン1】 世界に広がる「非常事態宣言」 日本で進む同調圧力と自粛への働き 独裁・統制を目論む改正特措法=丸山重威

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 中国で始まった新型コロナウイルス感染は世界に拡大、WHO(世界保健機構)は3月11日「感染はパンデミック状態」と認定。日本も13日「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正が成立。首相が国民の権利を制限する「緊急事態」を宣言できる態勢が整った。
  戦争、災害などを利用し、どさくさに紛れ、しかも独裁的に、安倍流「社会改革」を進めようとするのは、まさに「惨事便乗型資本主義」(ショック・ドクトリン)の実践。世界でも私権を制限し、社会統制を強める傾向が広がっているが、日本で目立つのは、「緊急事態」以前に、「要請」だけで「同調圧力」や「自粛」が働き、進んでいることだ。こんな日本社会に危険はないのだろうか。
腹心2人と協議
  当初、対策が後手後手に回って批判された安倍首相は2月末から突然「やっている感」を演出。イベント自粛要請(26日)、小中高校の休校要請(27日)、インフルエンザ特措法の改正方針(3月4日)、中国、韓国からの入国制限(5日)など矢継ぎ早に動き出した。
 問題なのは、「集会などの自粛呼びかけ」、「学校休校」、「入国規制」など、次々と出された施策が全て、官邸の今井尚哉首相補佐官(経産省出身)と北村滋国家安全保障局長(警察庁出身)の腹心2人との協議による「独断」で発表されたもので文部科学相も当日まで知らされなかった(読売新聞3月15日付)という。 
 インフルエンザ特措法の改正も「改正の必要はない。コロナウイルスに適用できる」という主張を押しての改正だった。
行動や放送規制
 改正特措法によれば、「緊急事態」が「宣言」されると、住民への外出自粛要請、学校、劇場、映画館など人が集まる施設の使用停止要請、指示、音楽スポーツイベントなどの開催制限の要請、指示、鉄道、運送会社などへの医薬品、職位品などの運送要請、指示―などが強制的に行える。
 また、指定公共機関としてNHKに指示することも可能とする規定があり、宮下一郎副内閣相がこれを認めたが、西村康稔担当相が打ち消した。
 安倍首相は15日「緊急事態を宣言する状況ではない」と述べたが、それもそのはず、矢継ぎ早の「要望」は、ほとんど規制の先取り。19日には3月20日(祝)〜22日(日)の3連休には「大阪―兵庫間の人的交流を自粛してほしい」と要請、両知事が自粛を要請した。
 18日付読売新聞によれば、それぞれ状況は違うが、非常事態や緊急事態が宣言されたのは、17日までに米国、イタリアなど少なくとも27の国・地域。米国では13日、トランプ大統領が国家非常事態を宣言したが、欧州では12カ国、中南米でも7カ国。米国とEUの入域が規制され、外出や飲食店の営業禁止、国民に対する移動の制限や国境閉鎖などが急速で、イタリア、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーなどでも、屋内退避が命令され、移動が制限された。
欧州には歯止め
 同時に欧州の多くの国には、この政府の措置について、裁判所に訴えて国民の人権を守ろうとする「歯止め」があることも重要。かつてのような専制政治を呼び込むことがないように、民主主義の中で、社会的安全と社会の統一を守ろうと苦労しているようだ。
 コロナウイルスの流行は、人や物の流通を阻害し経済活動を落ち込ませた。ニューヨーク株式のダウ平均株価は、18日には約3年2カ月ぶりに2万ドルを割り、東京株式も18日には3年4カ月ぶりに1万7000円を割りこんだ。
 今回のコロナウイルスの流行は、ペストの時代と違って、スピードも速く、広がりも大きい。急速な情報伝達が引き起こす効果も問題も多い。これを「独裁」ではなく民主主義的にどう克服していくかは、人類にとって歴史的課題だ。
丸山重威
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

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2020年04月02日

「すっぴんの北朝鮮」文聖姫さん講演 列車止まれば宴会 にわか売店 非合法市場に抗議し存続 庶民生活に見るたくましさ=須貝道雄

■講演する文聖姫さん(20年2月29日).jpg
 本紙に「リアル北朝鮮」を連載しているジャーナリストの文聖姫さん(写真)が2月29日、さいたま市で「すっぴんの北朝鮮」と題して講演した。「週刊金曜日読者の会・浦和」の主催で、現地で撮影したマツタケや菓子のチョコパイなどの写真を披露し、どこか愉快な庶民の姿を語った。
 市場でドルOK
 学生だった1984年に初訪朝して以来、2012年までに文さんの訪朝回数は15回に及ぶ。朝鮮総連の機関紙『朝鮮新報』の記者時代に平壌特派員を2回務めたほか、退職後に入った東大大学院でも現地調査で4回訪朝した。
 講演で取り上げたのは、政権が必要悪として容認する市場の存在だ。合法的な「地域市場」を2008年に平壌で初めて見た話をした。
 地域市場は学校の体育館を三つ並べたほどの大きさで、買い物客であふれていた。買い物をしていると「幹部の奥様」に間違えられたのか、文さんに店の女性たちが寄ってきて、「うちの方が安いよ」と引っ張り合いになった。
 30代の女性が文さんの後をついてきて、買い物袋(レジ袋)はいらないかと売りつける。スケトウダラの干物は国産が販売禁止になっていたが、「国産が欲しい」と頼むと、店の人は中国産の下から、こっそり国産を差し出した。支払いは外貨のドルでOKだった。
 ほかに非合法のキルゴリ(路上)市場が平壌や地方都市の裏通りにある。道端に洗面器やトランクを置き、飲み物やガム、たばこなどを売る。彼らは警察官が取り締まりに来ると、一目散に逃げる。その姿がバッタに似ていることからメトゥギ(バッタ)市場と呼ばれた。
ダニは逃げない
 ところが2012年ごろから、これらにチンドゥギ(ダニ)市場の名称がついた。警察官がやってきても、買い物客が「見逃してやって」と抗議し、店も逃げずに商売を続けるようになったからだ。
 はいつくばるイメージからダニの名がついた。北朝鮮ではダニはたくましさを象徴する言葉。「この話には笑い転げた。ユーモアのセンスが磨かれている」と文さんは当時を振り返った。
 取材で板門店から平壌に帰る途中、未明に列車がある駅で止まったことがあった。何時間たっても動かない。すると線路上に、にわか市場が立った。洗面用に水を売る子供が現れ、その日の夜遅くには列車の下で乗客の宴会が始まった。
 この間に、乗客の若者から文さんはマツタケを4本買った。乗務員に頼み、マツタケのスープを作ってもらったという。名古屋から東京までくらいの距離を結局、2泊して着いた。「それを何とかやり過ごす人々のたくましさを感じた」と語る。
伊料理は苦手か
 案内人らと一緒に平壌市内のイタリア料理店で食事をしたこともある。ピザは意外とおいしかった。イタリアワインは高いので北朝鮮製の焼酎を飲んだ。案内人らは味が合わないのか、パスタ、ピザにはほとんど手を付けず、最初から朝鮮料理を頼んで食べていたという。
 訪朝のたびに通い、「私の心の故郷」と紹介したのがテドンガン(大同江)ビールの工場とビアホールだ。英国製設備の工場でできる生ビールは「本当においしい」と。
 英週刊誌『エコノミスト』が2012年、ビールは韓国よりも北朝鮮がうまいと報じて、お墨付きを与えたエピソードがある。韓国でもテドンガンビールにはあこがれが強く、似た名前の「テガンビール」が登場したらしい。
 ビールに絡み、アカデミー賞を受賞した韓国映画『パラサイト』の一場面を文さんは話題にした。ピザ箱作りの内職をする貧しい家族がビールを飲むシーンだ。出てくるのは2017年発売の発泡酒「フィライト」。350ミリ缶が880ウォン(約80円)で普通のビールの半値近い。「貧しさの象徴として小道具に使っている」と解説。ビール談義は盛り上がった。     
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

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2020年03月30日

露骨な妨害やめぬ外務省 原爆展や慰安婦問題に介入=橋詰雅博

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 新型コロナウイルス感染の大流行で4月下旬にニューヨークで開かれる予定だった核に絡む重要な2つの世界的イベントに影響が出た。核軍縮の大きな方向性を決める5年1度の核不拡散条約(NPT)の再検討会議が延期になった。この国連本部でのNPT再検討会議に合わせたNY初の原水爆禁止世界大会は中止に追い込まれた。
変更求める
 世界大会の呼びかけ団体の一つである日本原水禁被爆者団体協議会(日本被団協)は被爆者らの派遣を中止。さらに国連本部ロビーで行う予定だった約50枚の写真パネルを展示する「原爆展」も、開催時期の変更を含めて協議を進める方針である。
 しかし、忘れてはならないのはこの展示会を巡る外務省による横ヤリ″s為だ。日本被団協に対して写真パネルの一部を展示しないよう要請し、言うことをきかないなら後援はできないとブラフをかけたのである。
 外務省が目の敵にしたのは、東日本大震災で起きた原発事故の原因や、平和な生活を壊された多くの避難者の困窮ぶり、原発敷地内にたまり続ける汚染水の現状などを紹介した福島のパネルだ。その理由について「原子力の平和的な利用はNPTの柱になっており、原発について扱うのはふさわしくない」と説明した。
 これに対して日本被団協は5年前の原発展でも原発事故を扱ったが、外務省は変更を求めず後援した。今回、除外要求するのは「表現の自由を絶ち切る許し難いものだ」と批判した。その上で国連とは合意済みだから外務省の後援がなくても内容を変えずに展示会を開く構えだった。
 7月に東京五輪を控え外務省が官邸に忖度したのは間違いない。
 外務省の忖度はほかにもある。オーストリアのウィーンで昨年9月に開かれた芸術展「ジャパン・アンリミテッド」で展示されていた安倍政権や福島原発を批判的に扱った作品を2人の自民党国会議員がネットで問題視した。すぐに外務省は日本との国交150年記念事業にふさわしくないと認定を撤回した。芸術展のオーストリア学芸員は、日本で検閲≠ェ強まっていると断じた。
設置を阻止
 また、慰安婦問題の打ち消しになりふり構わず動いている。2019年度「外交青書」の中の「慰安婦問題の取組」ではこう書いている。
〈韓国のほか、米国、カナダ、オーストラリア、中国、フィリピン、ドイツ、台湾等でも慰安婦像の設置等の動きがある。日本政府としては、引き続き、様々な関係者にアプローチし、日本の立場(例えば、「軍や官憲による強制連行」、「性奴隷」といった主張については、史実とは認識していないこと)について説明する取組を続けていく〉
 外務省はドイツやフィリピンで慰安婦を題材にした平和の少女像などのメモリアル設置を阻止している。最近ではウガンダで起きた慰安婦歴史館計画を中断させている。
 5年ほど前、JCJ主催で慰安婦問題について講演した米モンタナ州立大准教授の山口智美さんは、外務省の露骨な妨害をこう語っていた。
「米大手教育出版社のマグロウヒルの教科書に『慰安婦を強制連行した』などの記述が載りました。外務省担当者は執筆者のハワイ大准教授に面談し、訂正を求めました。右派勢力と外務省が手を組んで慰安婦問題の否定に躍起です」
 外務省は安倍政権を下支えする走狗≠ノ成り下がっている。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号
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2020年03月12日

自衛隊の中東派遣 新型肺炎の国内感染 危機の悪乗り 改憲ねらう=丸山重威

 「私の手で改憲を」と宣言した安倍晋三首相は「危機」にまともな対応をしないまま「改憲ムード」の醸成に利用する政治手法に本格的に乗り出したように見える。中東への自衛艦派遣や新型コロナウイルス国内感染への対応、数々の疑惑への検察人事はそれで、メディアの鋭い批判が求められる。
 2月2日、中東に派遣される海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が横須賀基地を出発した。国会にも諮らない閣議決定で、有志連合に「情報活動」で「貢献」するため「調査・研究」の名目での派遣。攻撃を受ければ海上警備行動の発動もあるとし、戦争に巻き込まれる危険な派遣だが、メディアの対応は割れている。
 つまり朝日は「政府はいったん立ち止まり派遣の是非から検討し直すべきだ」(1月10日)と主張したのに対し、読売は「緻密な計画で万全の体制を」「さまざまな状況を想定し訓練を重ねることが大切」(12月28日)とし、「襲撃」には「応戦」も想定した。河野太郎防衛相は1月17日「自衛隊が何らかの武力紛争に巻き込まれる危険があるとは考えていない」と述べたが、「何かあったら……」の不安は解消されていない。
救出イメージ先行
 「何かあったら…」以上に危機を煽って問題を拡大しているのが新型コロナウイルスの感染だ。
 ここで政府がいち早く打ち出したのが、特別機の派遣。首相は「帰国支援は考えていない」(1月24日)としていた外務省を押し切って26日特別機派遣を決めた。
 戦争法で強調した紛争地から母子を連れ帰る絵の実践だ。しかし、連れ帰ってからの検診、入院、隔離政策など、具体的な対策は全くないままで、検診も少数しかできず、宿泊ホテルは他人と同部屋、飛行機代を徴収しようとして問題になった。
 さらに横浜に帰ってきたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の対策はすべて後手後手に回り、3000人以上が長期間不自由な船室内に閉じ込められる結果になり、かえって被害を拡大。船内の感染者は13日までで218人に達した。
 この状況を「改憲」に利用したのは伊吹文明元衆院議長。30日二階派の会合で「緊急事態に個人の権利をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台」と発言、下村博文選対本部長も1日「改憲議論のきっかけに」とした。28日の衆院予算委では馬場伸幸維新幹事長の質問に安倍首相も「与野党の枠を越えた活発な議論を」と答弁した。
 野党は「人命に関わる問題の悪用だ」(枝野幸男立憲民主党代表)などと批判、沖縄タイムス(2日)東京新聞(8日)などが社説で批判したが、産経は「首相には非常大権がない」ことをあげて「憲法改正は待ったなし」などと論じた(1日)。
疑惑もみ消し人事
  国会でも,ほとんどまともに答えない安倍首相は、法律に違反して検察庁人事に介入。1月31日、2月7日定年退官の予定だった黒川弘務・東京高検検事長の定年延長を閣議決定した。
 稲田伸夫現検事総長の後任に黒川氏を起用するための人事とされ、現在捜査中のIR疑獄、「桜を見る会」の政治資金規正法事件、河井前法相夫妻の公選法違反など、追い込まれた安倍政権の事実上の「指揮権発動」宣言とも見られている。
 首相は年頭所感や年頭記者会見、NHK日曜討論など(既報)に続き20日の通常国会施政方針演説では「(改憲の)案を示すのは国会議員の責任ではないか。憲法審査会でその責任を果たしていこう」と演説。27日の衆院予算委でも「(日本防衛の)中核たる自衛隊をしっかり憲法に明記し、その正当性を確定することこそ安全保障、防衛の根幹」と述べ、異常な執念を見せている。
 丸山重威
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号

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2020年03月11日

3・11から9年 「山さ逃げよう」消えた証言 ジャーナリスト講座「大川小の悲劇」 なぜ川へ真相なお不明=須貝道雄

■加藤順子さん(20年2月13日).jpg
 東日本大震災から9年。あの時、宮城県石巻市立の大川小学校では校庭から逃げ遅れた児童74人(行方不明4人を含む)が津波の犠牲になった。2月13日に開いたジャーナリスト講座では「大川小の悲劇はなぜ起きたか」をテーマに、ライターでフォトグラファーの加藤順子(よりこ)=写真さんから話を聞いた。

川に向かい歩く
地震が起きたのは11年3月11日午後2時46分だった。大川小に津波が到達したのは同3時37分。この51分の間、校庭に避難した児童らはずっと並んだままだった。
移動を始めたのは津波が来る2分ほど前、目的地は「三角地帯」と呼ぶ新北上大橋のたもとにある堤防の一角だった。子どもたちは海水が遡上するだろう北上川に向かって歩いたのだ。
家族が作成した資料によれば、校庭から移動して先頭の子が約150b進んだところで、高さ8・6bに達した津波にのまれた。「当時の学校は防災に対する認識がいかに浅かったかがわかる」と加藤さんは語気を強めた。
 大川小のすぐ裏には山があり、ふだんからシイタケ栽培や写生の授業で児童らはよく入っていた。険しい道ではなく傾斜角度は9度。「普通の階段の半分くらいの傾斜だ」。なぜ走って40秒で行ける裏山に上らなかったのか。それが遺族の疑問だった。

聴取メモは廃棄
津波で亡くなったある6年生の男児は校庭で「山さ逃げよう」と訴えていたという。石巻市教委が生き残った児童(4人)からのヒアリング内容として、家族に口頭で説明した。
ところがその後、「山さ逃げよう」という発言は報告書に出てこない。どの記録にも残っていない。ヒアリング時のメモ、原資料は廃棄されたという。証言した児童たちは今、20歳近くになる。市教委の資料には自分たちの話が反映されていないという不満が当初からあり、市教委に不信感を抱いていると加藤さんは説明した。
大川小の事故については石巻市の調査のほか、文科省が乗り出して2012年に事故検証委員会が設置され、14年に報告書が出た。結局、なぜ山に逃げなかったかの真相は解明されなかった。教師でただ一人生き残った先生の証言がいまだ十分に聞きとれていない状況のままだ。
加藤さんは「報告書の内容は遺族が2年かけて調べた情報を超えていない」「委員会設置に尽力した前川喜平氏は官僚的な対応で、家族からの怒号が飛び交う中で、みなから納得を得たと思うと言って、報告を終わらせた姿は忘れられない」と手厳しく批判した。

揺れながら決意
高校時代に教科書に載っていた朝日新聞・深代惇郎(1929~75年)の天声人語を読み、ジャーナリズムに憧れたという加藤さん。大学在学中に阪神淡路大震災(95年)があった。東京の友人らは次々とボランティアに出かけた。水泳部で飛び込みをしていた加藤さんは練習のため、ボランティアをすることができず、残念だったと振り返る。
その後、気象予報士となり、TBSのお天気番組などに10年近くかかわったが、現場取材をしたくてライターを志望。11年3月11日は東京・大手町のビルで就職情報誌の記事を書いていた。急にゆらゆら揺れ出した机にしがしがみつきながら「これは大きな災害だ。絶対に取材に行くぞ」と考えた。大川小問題に直面し「ずっとウオッチすることが課された使命だと思った」という。
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号
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2020年03月08日

「思想信条の自由」侵害の恐れ マイナンバー 公務員保有調査=編集部

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 普及が進まないマイナンバーカードの取得率を上げようと、政府が公務員と家族の保有状況調査を繰り返している。カード取得は「法令上も任意が原則」で「取得強制」は明らかにおかしい。
 国家公務員向け調査では、用紙に交付申請をしない理由を問う欄もある。調査用紙を作ったのは内閣官房と財務省。政府は「あくまで取得の勧奨」だと言うが、本人だけでなく家族が取得しない理由まで、しかも何回も「報告」させるのは事実上「強制」そのものだ。今後の動きに注意が必要だ。
 国家公務員と家族に調査用紙が配布されたのは昨年10月と12月。地方公務員と家族には総務省が各自治体に依頼する形で昨年6月、10月、12月と3回の調査が行われた。3月には再び、国・地方公務員への調査をする予定だという。
 国家公務員向け調査用紙は「本人、家族全員にカードの一斉取得」を要請。保有、交付申請、申請の予定を尋ね、申請しない場合、理由の記入まで求めた。カードの非保有者に繰り返し調査用紙を配る例もあった。
 マイナンバー(個人番号)は早い話が国民総背番号制度だ。政府は同じことを2003年、「住基(住民基本台帳)カード」で目論んだが利用者が伸びず、2016年1月にマイナンバーに模様替えした。カード普及率は導入4年を経て15%にすぎない。政府の宣伝ほど国民に需要も利便もない。現に麻生財務相自身が「俺も正直言って、使ったことは一度もない」と語っている。
 政府は、19年度中に国・地方の全公務員がカードを取得。20年度にポイント付与制度で景気対策としてカード活用。健康保険証(20年春から開始)として21年3月から本格活用。22年度中にほとんどの国民がカード保有とプランを描く。
 だが、住基カード、マイナンバーカード導入検討時から懸念されている集積された個人情報の悪用による「監視・管理国家化」への歯止めは何一つ担保されていない。「思想信条の自由侵害の恐れ」すらある今回の公務員調査を見れば懸念はさらに強まる。全国で起きているマイナンバー違憲訴訟の行方と併せ、注視する必要がある。    
編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号

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2020年03月04日

日本デマゴーグ国家=@ジャーナリストの仕事は真実を伝えるのが仕事 西山元毎日記者が語る=古川英一

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 日韓学生フォーラムの初日、沖縄返還をめぐる密約をスクープした元毎日新聞の記者・西山太吉さんが講演をした。西山さんは、学生たちが見守る中、ゆっくりと席につくと、眼光鋭く、そしてかみ砕くような口調で「日本の情報公開は最も遅れている。その具体例として沖縄の問題がある」と語り出した。
 1969年から始まった沖縄返還交渉は、時の佐藤栄作首相が自分の任期内に実現しようと期限を区切った段階で、交渉としては米国に敗北、その結果、国民向けには「核抜き本土並み」としながらも実態は「有事核つき、自由使用」で1972年の沖縄返還を果たした。その経緯は国民に知らされることはなかったと西山さんは指摘する。
 さらに、その後のイラク戦争においても、実は米国の要請で航空自衛隊が、戦闘地域に多国籍軍の兵士を輸送していたことが判ったとして、沖縄返還の「核抜き本土並み」とイラク戦争の「日本が独自に」というのは国の2つのデマであると批判した。
 その上で、西山さんは「日本が民主主義国家、平和国家と言う印象があるが、そうではなく実際に起きていることをカモフラージュするデマゴークの技術を持った国家である。だからこそ、そうした実情を知って提示していくのが、本来のジャーナリストの仕事だ」と学生たちに
訴えかけた。
 西山さんは講演会のあとも福岡市内での交流会に参加し、学生たちの質問に応じていた。自身が記者として打ち込んだ沖縄返還の問題を、歴史的な眼で捉え、伝えていこうという、強い熱意、著書にサインを求めたところ、その字は90歳近いとは思えぬほど力強かった。
古川英一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号

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2020年03月03日

第5回日韓学生フォーラムin九州 25人筑豊・水俣を訪ねた 両国の歴史を知る大切さ学ぶ=古川英一

 「九州と朝鮮半島は近い、お互いの歴史を知ることが理解の一歩です。そしてジャーナリストの仕事は、歴史を記録していくことです」―日本と韓国のジャーアリストを目指す学生たちを前に、九州で映像ジャーナリストとして活動を続ける西嶋真司さんは力強く訴えた。
 今回で5回目、3年目になる日韓学生フォーラムは1月末から5日間、九州の筑豊・水俣を巡った。
 九州には炭鉱の人々、朝鮮半島から来て働いた人々、水俣病で苦しむ人々の姿を追い続けた上野英信、林えいだい、石牟礼道子といった「記録作家」がいた。その人たちの足跡も辿る企画だ。日韓合わせて25人の学生が参加した。

アリラン峠
 ぞろぞろと歩く若者たちの姿に犬を連れて散歩をしていた高齢の女性が「どちらへ行くのですか」と。「アリラン峠へ、ご存知ですか」と問い返すと、「いいえ」・・・地元の人ですらほとんど知らない、もちろん地図にさえないアリラン峠が、林えいだいによれば筑豊にあった。 
 その一つを西嶋さんの案内で訪ねた。舗装された道の横、人家のない細い道を5分ほど上っていくと、少し広い平地に出た。そこにはかって炭鉱で働いた朝鮮半島の人たちが寄り添うようにして暮らしていた家々があったという。いまは草生い茂る場所に、韓国の女子学生がマッコリを撒き、全員で静かに手を合わせた。

不知火の海
 真冬だというのに、水俣の海、不知火海は青く、そして穏やかだ。水俣病が大きな問題になった当時も、今のように海はきれいだったという。
 胎児性水俣病の患者として語り部の活動を続けている男性は「水俣病のように危険だとわかっていたのに放置していた国の責任は重い。3・11後の福島原発の問題も同じこと、だからこそ原発を止めていくことに精一杯努めていきたい」と語った。男性の視線は水俣から広がっていく。
 記者として水俣病を長年取材してきた熊本日日新聞の高峰武論説顧問は「水俣は訪れた人の想像力を試している。きれいな海を見て、ではそこで何を見たのか。自分たちが帰った場で、水俣を一つの座標軸として、スタートの場としてほしい」と、語りかけた。
 そしてジャーナリストとして、自立と自律の2つの「ジリツ」を持つこと。さらに物事を捉えるにあたり、楕円のように2つの中心を持つ「楕円の思想」が必要なことを将来のジャーナリストたちへアドバイスした。 

思いを語る
 フォーラムでは毎回最終日に、学生たちが一番印象に残ったことを、自分が撮った写真と合わせて発表し合う。連日連夜明け方まで語り合ってきた、それぞれの集大成の時間だ。
 今年の春、地方紙の記者になる女子学生は「自分の県の歴史をもっと勉強しなければ。フタをするだけでは差別はなくならない。そこに住む人たちの思いを汲み取れる記者になりたい」と決意を述べた。
 韓国から参加し、兵役につくため一足早く帰国した男子学生は「日本の記者が韓国の歴史を、韓国の記者が日本の歴史を学ぶことは大切だと思います。
 そして植民地時代の歴史は日韓が共有できる歴史、日本の地にある韓国人の歴史です。ジャーナリストとして伝えていくべきことだと思います」とメッセージを寄せた。
筑豊と水俣、日韓の学生たちの「旅」はここからまた始まったばかりだ。
古川英一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号
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2020年03月02日

【中・香・台の最新社会情勢】 中国「一国二制度」見直す? 香港の若者 独立見据え持久戦 政治の片寄り「危険」とブレーキきかす台湾人=和仁廉夫

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 「台湾・香港どうなる、中国どう出る」という論題について少し頭を抱えてしまった。
結論から言えば、従来から台湾が与野党とも「一国二制度」を拒絶してきたことに変わりはないし、膠着している香港情勢も、中国が人民解放軍を投入してまで自ら作った「一国二制度」を壊すことはあり得ない。

旧世代政党きえた
 台湾の場合、香港情勢が蔡英文総統再選の追い風になったのは事実だが、同日行われた立法委員選挙では与党民進党が議席を減らし、野党国民党が議席を伸ばした。私が注目したのは、宋楚瑜が率いる親民党が全ての議席を失ったことだ。4年前の立法委員選挙では李登輝を精神的領袖と仰ぐ台湾団結連盟が議席を失っており、統一・独立の旗幟が鮮明な旧世代の政党が相次いで姿を消したことになる。
 今世紀の台湾は、民進党の陳水扁、国民党の馬英九と、8年刻みで政権交代があった。半世紀以上にわたり中国と対峙してきた台湾人は、政権が統一・独立の何れに傾き過ぎても、危険を察知してブレーキを働かせる成熟を見せている。
 一方、香港情勢はもっと根が深い。
香港は1984年の「中英協定」で97年に英植民地から中国に返還された。すでに香港には人民解放軍が駐留し、中国全人代が定めた「香港基本法」のもと、社会主義中国における資本主義香港の「高度な自治」が行われている。
 今世紀初め、中国は「自由行」で中国人の香港渡航を緩和し、中国経済の発展に香港を組み込む政策に転じた。将来は珠江三角州だけで日本のGDPを抜くという「粤港澳大灣区」構想もある。鉄道や道路、橋梁が次々と完成し、中国富裕層の不動産買い占めで家賃は高騰。市街地は宝石店、薬局など中国人本位に塗り替えられ、香港庶民の生活空間を奪った。
 ウソごまかしのない普通選挙を目指した2014年「雨傘運動」の敗北後、香港の若者たちは次々と「本土派」グループを立ち上げた。「民主派」が中国と香港の民主化を要求し普通選挙を目標に置くのに対し、「本土派」は「一国二制度」からの離脱、中国との決別を主張する。その究極が、香港独立である。
 そもそも昨年6月9日の100万人デモや、翌週16日の200万人デモを主催した「民間人権陣線」は「民主派」の糾合組織だが、SNSで呼びかけられて香港各地に拡散した大小のデモは、実態は「本土派のものだ。両者は相乗りしており、今のところ団結している。

闘い絶対やめない
 「雨傘運動」以後、「本土派」は、16年の旺角暴動で大量の逮捕者を出したうえ、同年秋の立法会選挙で「民主派」との中間に位置する「民主自決派」も含めて6人の当選者を出しながら、就任宣誓で中国を侮辱したため次々と議席を剥奪された。香港独立を主張する「香港民族党」も結社禁止となった。香港の若者たちは治安維持法下の共産党のような、非合法下の境遇に追い込まれていたといってよい。
 昨年、逃亡犯条例問題で広範な反対世論が噴きだしたとき、「本土派」の若者たちは覆面で顔を覆い街頭に出てきた。彼らは個人が特定されにくいテレグラムなどのSNSで呼びかけ、各地で「網民デモ」を組織した。「本土派」の思いを行動に移したのが「勇武」である。  
 彼らは凶暴化した警察に対抗して、立法会包囲・突入、道路封鎖、鉄道駅破壊、中国ビジネスで利益をあげる銀行・ショッピングセンターなどを破壊した。これまでに7000人以上が逮捕され、16%余りが起訴された。
 若者たちは「一国二制度」の区切りとなる2047年を射程にしており、闘いを止めれば弾圧されるから、不退転の覚悟で持久戦を展開している。
 「雨傘運動」以後、市民警察から治安警察に変貌した警察と、「勇武」のイタチごっこで、香港社会はデモ支持の「黄色店舗」と政府支持の「青色店舗」に色分けされ、市民社会は分断された。
 憂慮すべき事態だが、「民主派」は今年秋の立法会選挙、2021年の行政長官選挙で「本土派」の支持を必要としており、彼らへの批判を自制している。
 だが、中国が直ちに香港政策の見直しに動くことはないだろう。もし香港・台湾政策の調整が行われるとすれば、香港・マカオの「一国二制度」が折り返し点を迎える2022〜2024年の時期ではないか。
和仁廉夫(ジャーナリスト、写真も)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号
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posted by JCJ at 13:59 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする