中国で始まった新型コロナウイルス感染は世界に拡大、WHO(世界保健機構)は3月11日「感染はパンデミック状態」と認定。日本も13日「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正が成立。首相が国民の権利を制限する「緊急事態」を宣言できる態勢が整った。
戦争、災害などを利用し、どさくさに紛れ、しかも独裁的に、安倍流「社会改革」を進めようとするのは、まさに「惨事便乗型資本主義」(ショック・ドクトリン)の実践。世界でも私権を制限し、社会統制を強める傾向が広がっているが、日本で目立つのは、「緊急事態」以前に、「要請」だけで「同調圧力」や「自粛」が働き、進んでいることだ。こんな日本社会に危険はないのだろうか。
腹心2人と協議
当初、対策が後手後手に回って批判された安倍首相は2月末から突然「やっている感」を演出。イベント自粛要請(26日)、小中高校の休校要請(27日)、インフルエンザ特措法の改正方針(3月4日)、中国、韓国からの入国制限(5日)など矢継ぎ早に動き出した。
問題なのは、「集会などの自粛呼びかけ」、「学校休校」、「入国規制」など、次々と出された施策が全て、官邸の今井尚哉首相補佐官(経産省出身)と北村滋国家安全保障局長(警察庁出身)の腹心2人との協議による「独断」で発表されたもので文部科学相も当日まで知らされなかった(読売新聞3月15日付)という。
インフルエンザ特措法の改正も「改正の必要はない。コロナウイルスに適用できる」という主張を押しての改正だった。
行動や放送規制
改正特措法によれば、「緊急事態」が「宣言」されると、住民への外出自粛要請、学校、劇場、映画館など人が集まる施設の使用停止要請、指示、音楽スポーツイベントなどの開催制限の要請、指示、鉄道、運送会社などへの医薬品、職位品などの運送要請、指示―などが強制的に行える。
また、指定公共機関としてNHKに指示することも可能とする規定があり、宮下一郎副内閣相がこれを認めたが、西村康稔担当相が打ち消した。
安倍首相は15日「緊急事態を宣言する状況ではない」と述べたが、それもそのはず、矢継ぎ早の「要望」は、ほとんど規制の先取り。19日には3月20日(祝)〜22日(日)の3連休には「大阪―兵庫間の人的交流を自粛してほしい」と要請、両知事が自粛を要請した。
18日付読売新聞によれば、それぞれ状況は違うが、非常事態や緊急事態が宣言されたのは、17日までに米国、イタリアなど少なくとも27の国・地域。米国では13日、トランプ大統領が国家非常事態を宣言したが、欧州では12カ国、中南米でも7カ国。米国とEUの入域が規制され、外出や飲食店の営業禁止、国民に対する移動の制限や国境閉鎖などが急速で、イタリア、ドイツ、フランス、スペイン、ベルギーなどでも、屋内退避が命令され、移動が制限された。
欧州には歯止め
同時に欧州の多くの国には、この政府の措置について、裁判所に訴えて国民の人権を守ろうとする「歯止め」があることも重要。かつてのような専制政治を呼び込むことがないように、民主主義の中で、社会的安全と社会の統一を守ろうと苦労しているようだ。
コロナウイルスの流行は、人や物の流通を阻害し経済活動を落ち込ませた。ニューヨーク株式のダウ平均株価は、18日には約3年2カ月ぶりに2万ドルを割り、東京株式も18日には3年4カ月ぶりに1万7000円を割りこんだ。
今回のコロナウイルスの流行は、ペストの時代と違って、スピードも速く、広がりも大きい。急速な情報伝達が引き起こす効果も問題も多い。これを「独裁」ではなく民主主義的にどう克服していくかは、人類にとって歴史的課題だ。
丸山重威
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号