2019年09月07日

【支部リポート】 北九州 抗議行動やまぬ香港 暴力警察の蛮行を目撃=杉山正隆

 「逃亡犯条例」の改正案を契機に起きた香港政府に対する市民による抗議活動は、6月9日の大規模デモから2カ月が経った。8月10日、現地に取材に入った。目抜き通りネイザンロードでは、10日夜9時過ぎ、黒服を着た市民らに、デート帰りと思われるカップル、高齢の男女らと警察隊がにらみ合いを続けていた。突然、20歳代の女性ら数人を警察官が警棒で数十回、激しく殴りつけ押さえつけて手錠を掛けた。

 数千人の市民らは「釈放しろ、警察は恥を知れ」と大合唱。もみ合いの後、警察車両数台と加勢の警察官100人ほどが人波を押しのけて到着。激しいヤジを浴びながら「容疑者」が警察車両に乗せられ尖沙咀警察署に連行された。その後、抗議の声が止まず、警察官らは催涙ガスを発射。市民らは逃げ惑い、脱げた靴や買い物袋などが現場に散乱した。

 翌11日の午後6時半。世界的に有名な雑居ビルの「重慶大廈」(チョンキン・マンション)前のネイザンロードに黒服の男女らがゴミ箱数個を置いた。これをきっかけに、通行が妨げられ、大混乱に陥った。集まった市民は数千人に上り「自由な香港」を訴えたのに対し、警察官らは警告したものの催涙ガスを発射。20歳前後と思われる男女4人が後ろ手に縛られ道路に数十分間座らされ、警察署に連行された。通すよう抗議する日本人に「黙れ、香港から出て行け」と警棒を突き出し怒鳴る警察官も。引き上げる警察官に「こんなに手荒なことをされた。ひどいじゃないか」と腕の傷跡を見せながら詰め寄るお年寄りの姿も見られた。

市民の間で警察への怒りの声が広がっている。催涙ガス弾やゴム弾を市民に発射し、警棒で歯が折れても若者を殴る、地下鉄構内など閉ざされた空間での催涙ガスの発射など行き過ぎた対応に「暴力警察」のイメージが浸透している。

 香港国際空港には9日以降、1万人近い市民が集まり、到着旅客らに「迷惑を掛けてごめんなさい。でも、香港の現状を知って下さい。支援して下さい」などと訴えた。裁判所は中止を命令、中国政府は「テロ」と断じた。

 香港がこれからどうなるのか。これからも注目したいと考えている。

杉山正隆

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
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2019年09月03日

【リレー時評】図書館の民間委託 弊害多し 新政策を=守屋龍一

 今夏の猛暑続きは世界規模。中国ではエアコンの効いた場所へ、避暑めあてに移動する「納涼族」が急増したという。書店内もイス持参の子ども連れがいっぱい。書棚の本を持ち出し読みふける映像に衝撃を受けた。
 日本だって地域の図書館は、「納涼族」格好の場所だ。お盆のさなか、住まいの近くにある図書館を訪れると、26℃に調整してある館内は高齢者ばかり。中には居眠りしている老人もいる。
 図書館の利用がこれでいいのか。5月末、岩波ホールで観た映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を想起しながら、考えさせられた。

 6月24日、活字文化議員連盟・公共図書館プロジェクトが、〈公共図書館の将来─「新しい公共」の実現をめざす〉(答申)を発表した。子細に読むと頷ける点が多く、5つの提言についても示唆に富む内容が豊富である。
 まず小泉内閣が進めた規制緩和や民間委託、郵政民営化につながる政策の是非が問われ、公共図書館の運営についても、民間委託の指定管理者制度そのものにメスを入れる、これが緊急テーマに浮上したと指摘する。

 民間委託した図書館の貸出点数の推移を調査したところ、ほぼ2〜3年で貸出率が下がり、5年以上では20〜30%以上も減少し、住民の図書館離れが始まるという。
 さらに民間業者の目先の利益が優先し、長期に図書館の発展を目指す姿勢がない。地域に密着した図書館サービスの提供に向けて、必要不可欠な専門知識のある人材が育成・蓄積されない。
 まずやるべきは図書館職員の劣悪な労働条件の改善だと提言。司書の6割が非正規で働き、賃金は経験を積んだ30代後半でも月13万円。専門職としての能力に応じた十分な賃金を支払い、雇い止め≠見直し、司書が継続して安心して働ける労働環境づくりが必要だと説く。

 いま日本全国にある公共図書館は3300館。そのうち民間業者に指定管理者委託をしているのは640館を超える。なかでも図書館流通センター(TRC)の占有は激しく、333館(全体の65・5%)になる。
 昨年11月、神奈川県海老名市の公共図書館の管理運営を、市は図書館流通センターと「TSUTAYA図書館」(CCC)による合弁事業とし、今後5年間、毎年3・2億円の委託契約を更新。年間の税金投入は市が直営時の2倍となり、市民から批判の声が挙がる。
 公共図書館に納める図書も、いまや図書館流通センターが独占し、〈町の本屋さん〉は、公共図書館という安定した書籍の販売先を失ってしまった。
 図書納入にあたっては地域書店からの直接購入を優先し、装備作業は無償サービスではなく、福祉施設に業務委託して効用促進を図るなど、新たな地域循環型の経済効果を生み出す図書館政策の確立が必要である、と提言する。即実行を願う。

守屋龍一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
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2019年08月28日

【沖縄リポート】 ストップ 海中不発弾の爆破処理=浦島悦子

 ジュゴンの死体漂着から4カ月を経た7月17日、解剖が実施され、同29日、実施主体である環境省(沖縄事務所)・沖縄県・今帰仁村の三者は解剖結果を報道発表した。

それによると、沖縄近海に生息するオグロオトメエイの尾棘刺入に起因する死亡の可能性が最も高いという。多数の鋸歯状の突起を有する長さ約23センチの尾棘が腸管を突き破って腸内を移動し、腸の内容物が腹部全体に充満していたというから、その痛み・苦しみは想像を絶する。死体漂着4日前に水中録音されたジュゴンの頻繁な鳴音は、断末魔の叫びだったのだろう。

沖縄美ら島財団、鳥羽水族館、国立科学博物館の獣医師6名が携わったという解剖結果におそらく間違いはないと思われるが、しかし、これで「幕引き」させてはならない。

亡くなったジュゴンの生息域は辺野古への土砂運搬船の航路と重なっており、直接の接触がなかったとしても運搬船の頻繁な航行が海生生物の生態を攪乱し、通常ありえない事故が起こった可能性は充分ある。今回の事故を遠因も含め究明すること、基地建設の進行に伴って行方不明になった2頭のジュゴンを含め、それ以外にも少なくないジュゴンの目撃情報をもとに琉球諸島全域調査を行うことを環境省や沖縄県に強く求めたい。

そしてもう一つ、ジュゴンの脅威となっているのが、不発弾の海中爆破処理だ。この8月1日にも中城村沖で実施されたが、沖縄戦の悪しき「置き土産」である不発弾は陸上だけでなく沿岸海域にも未だ多数残留しており、海で見つかったものは海上自衛隊が爆破処理するのが通例となっている。しかし、これによって沿岸域に住むジュゴンに直接影響するだけでなく、餌場である海草藻場を含め、沖縄の観光資源であるサンゴ礁生態系そのものを破壊してしまう。

水中にある不発弾はダイナマイトを仕掛けて誘爆しない限り爆発しないため、放置または海溝のような深い場所に移動して「水畜」するのが国際的な常識だという。この常識を行政や市民に広く知らせ、海中爆破処理をなくしていきたい。

ジュゴンの生存の脅威となる要素を一つひとつ取り除いていくことが、彼らを絶滅の危機に追い込んだ私たちの責任だと痛感している。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
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2019年08月27日

【編集長EYE】 米国への忖度で「ひろしま」幻の映画に=橋詰雅博

 幻の映画「ひろしま」を10日午後、都内で見た。奇しくも、その日の夜11時、NHKがETV特集「忘れられたひろしま=`8万8千人が演じたあの日=`」(映画はETVで17日深夜放映)を放送した。上映を主催した憲法を考える会が配布した資料と特集番組から「ひろしま」が製作された経緯はこうだ。

 映画の原作は「原爆の子〜ヒロシマの少年少女のうったえ」だ。自らも被ばくした教育学者・長田新が原爆の惨状を残したいと、子供たち105人の被ばく手記を編纂し、本は1951年に出版された。累計27万部売れ、原爆の恐怖と悲惨さを多くの国民に知らせるきっかけになった。手記を寄せた少年が映画化を発案し、日本教職員組合が製作に乗り出す。カンパを募り、総額4千万(現在の貨幣価値で2億5千万)の製作資金を集めた。監督は「きけ、わだつみの声」などの作品を手がけた関川秀雄、助監督に熊井啓、音楽が伊福部昭で、一年後にあの「ゴジラ」のテーマ曲をつくった。当時の人気女優・月丘夢路が主演し、8万8千の市民が出演。これは日本映画史上空前絶後のスケールだ。原爆が投下された直後の広島市を再現した映画は53年に完成した。

 ところが国内上映直前にアクシデントに見舞われる。試写を見た大手映画会社が反米的と配給を拒否。どこがそうなのか、例えば「日本人が新兵器の『モルモット実験にされた』」というセリフを挙げた。

 筆者はこうも感じた。上映時間104分のうち惨状シーンは30分も続き、強烈な印象を受け、見ているうちに原爆を投下した米国に怒りがこみあげてきた。

 映画は自主上映で公開され、55年ベルリン国際映画祭長編映画賞に輝いたが話題にならず、いつの間にか忘れ去られた。現在、原爆のむごさを後世に伝えるため映画関係者が上映会を各地で開いている。しかし、外交、経済、防衛などあらゆる面で日本は、米国への忖度を続けている。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年8月25日号
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2019年08月08日

【支部リポート】 北九州 最新治療と医療支援学ぶ 歯科医ら国際エイズ学会へ=杉山正隆・久保ゆかり

今も全世界で毎年約200万人が新たに感染するHIV/AIDS。4000万人近くが差別や偏見にも苦しむ病禍だ。最新治療や医療的支援のみならず、背景にあるLGBTIQなど性的弱者や薬物依存、性労働などに関する問題解決を話し合う第10回国際エイズ学会会議(IAS2019)が7月21日〜24日、メキシコシティで開かれる。

 会議には160カ国から1万人の医師や研究者らが参加。取材に当たるジャーナリストは千人近くになる見込みだ。HIV/AIDSは、有効とされるワクチンの開発には至っていないものの、発症を遅らせるなど生活の質を上げる治療法はほぼ確立しており、「慢性病」の様相を呈している。

 国連のグテーレス事務局長は「18年前に国連がHIV/AIDSに関する最初の特別総会を開いた頃、『エイズのない社会』など想像できなかった。現在は子どもの新規感染はほぼ半減、成人でも2割減っている」と強調し、30年までにエイズの流行を終焉させる目標を打ち出す。

 国連は、HIV陽性者の90%が検査を受け自らの感染を知り、そのうちの90%が抗HIV治療を受け、そのうちの90%が体内のHIVを検出限界以下にする「90―90―90」を2020年に達成したい、とする。が、実際には「75―79―81」(17年)にとどまっているのが現実だ。

 日本では17年の1年間で1389人が新たに感染。1600人に迫る勢いだった。13年より勢いが衰えたものの「高止まり」にある。累積報告数は約3万人だが、実数は数倍とされる。

 IAS2019では、ワクチンなど最新の研究成果や、35年間で3500万人が亡くなった中、「自然治癒した」とされる2例目の完治例の発表に注目が集まっている。あらためて問題となっているLGBTIQや薬剤依存者、性労働者など「弱い立場の人々」への支援策などが話し合われる見込みだ。

 北九州支部から歯科医師と看護師の資格を持つ2人が正式な取材登録を経て会議を取材する。日本ではほとんど報道されないこうした問題にも取り組んでいく。 

杉山正隆・久田ゆかり

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月07日

【リレー時評】 異常気象を無視したニッポンとG20=中村梧郎

7月はじめに九州を旅した。

地球温暖化による集中豪雨。鹿児島や宮崎では死者が出た。異常降雨は三〇年前の一・五倍ほどだという。国は「行政の限界。自分の命は自分で守って」とTVで呼びかけた。動けない高齢者もいるのに国は救わないよ、との開き直りである。

地球環境問題が主題であったはずのG20は一体何の意味があったのか。日本は気候変動防止に背を向けていることが、会議を通じて逆にあぶりだされてしまった。

パリ協定はCO2排出ゼロの目標で合意した。

EUは2050年までに80〜95%を削減する。しかし、日本の削減目標は30年に26%。主要国の中でも最低である。加えて最大のCO2排出源である石炭火力発電を「基幹電源」と位置づけ、25基を新設する。電力企業や銀行はインドネシアなどへの輸出に奔走。原発を拒否したベトナムにも石炭火力を売り込む。日本はパリ協定からの離脱を決めたトランプ政権同様、協定を骨抜きにしたいようだ。

一方フランスは2021年、イギリスは25年までに石炭火力をゼロとする計画だ。豪雨災害が頻発しても日本は「脱石炭」を決して言わない。

G20の次の課題であったプラごみ問題。日本はここでもトリックを使う。「プラスチックは燃やせば良い」これを「サーマル・リサイクル」という…と。焼却はCO2を生み、塩ビはダイオキシンを出す。各家庭がプラを分別しても焼却炉では混焼されたりする。産廃炉を含めて2千基以上の炉が夜昼なくプラを燃やす。これを「リサイクルだ」と称するのは世界では否定されている。

その上で途上国への輸出問題がある。ベトナムのニャチャン港に山積みされた日本のプラごみとドラム缶群を見た。プラは熔かされて質の悪い樹脂となり、残りは野焼きされた。廃棄物の移動を禁ずるバーゼル条約違反だが「有価物」の名目だった。いま排出国への返還が始まっている。

地球の海には800万dのプラごみが漂う。それは砕けてマイクロ・プラスチックと化す。魚類はPCB等を吸着したプラを食べ生体濃縮を進める。危険はブーメランのように人体に還流する。

やれストローだレジ袋だと、国もメディアも消費者の使い捨てを標的にするが、これはプラ生産量3位の日本の、ほんの一部に過ぎない。20年前のドイツ。すでにレジ袋もプラ容器も無いのに驚かされた。倫理観ではない。プラ生産企業に回収責任を持たせたため市場に出なくなったのだ。

昨夏スウェーデンの女高生グレタが始めた温暖化阻止行動は今や125カ国に拡がった。今月、世界7千の大学は「気候危機」を共同で宣言した。

世界から取り残される災害大国・日本。国家が温暖化を顧みず「自分の命は自分で守れ」と言いだすようでは困るのだ。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月06日

安倍政権「生活破壊」 学者の会ら緊急アピール 暴走政治を阻止=古川英一

 6月下旬の夕方、東京神田の学士会館に、平和主義・立憲主義・民主主義を基本的な価値とする、学者や市民90人余りが集まった。集会は安保法制に反対するために4年前に設立された学者の会が、暴走する安倍政権への危機感から開いた。憲法や経済学などを研究する学者が次々に発言した。

愛敬浩二・名古屋大学教授は安倍自民党の憲法9条の改正案について「安倍首相は自衛隊を明記するだけで現状は変わらないと説明するが、その現状こそが問題だ。安全保障関連法ができて日本は戦争ができる国へと変わってしまった。9条を改正すれば米軍のグローバルな軍事展開に基地を貸すことを明確にすることになる」と述べ、安保法制を廃止し、ここまで変えられた国の在り方をそれ以前に戻すことを訴えた。

▽間宮陽介京都大学名誉教授は今の日本社会の「破壊」されている状況を列挙した。まず安倍政権が、立憲主義、憲法、そして教育や労働までをも暴走して破壊していること。さらにアベノミクスの失敗により経済が破壊されていること・・本来、経済の目的は国民一人ひとりの生活を向上していくものなのに、アベノミクスは経済成長のために一部の富裕層を優遇するものだと指摘。

大沢真理・東京大学名誉教授は、安倍政権の社会保障に対する考え方は「70歳まで働け、病気になるな、お上に頼るな」と、社会保障の強化どころかむしろ背を向けていると厳しく批判した。

 最後のアピールでは、「自らの蒙を開く研鑽の場としての大学は、未来を切り開くための『自由の砦』たりうるはずです」としたうえで、安倍政権の暴走をくいとめるために主権者としての行動を起こし、議会を動かしていこうと呼びかけた。

集会の中ではメディアの責任の重さを訴える声が上がった。市民が連帯していく仲立ちとなること、ジャーナリストとして私たちがやるべきことはこれからも続くのだ。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月05日

【支部リポート】 神奈川 薄氷を踏む景気あやうい 狙い外れたアベノミクス 神奈川新聞・田崎記者が話す=保坂義久

神奈川支部は7月6日、横浜市の神奈川婦人会館で例会を開いた。神奈川新聞経済部記者・田崎基さんが「アベノミクスの嘘」を話した。

 田崎さんは異次元緩和といわれる金融政策、10兆円規模の公共投資など機動的な財政政策、規制緩和などで民間投資を促す成長戦略によって経済成長させるアベノミクスのシナリオを説明した。

 そのシナリオは、政府が国債を発行し、国債を買った金融機関が日銀に売却。日銀は紙幣を印刷してそのカネを銀行に支払う。大量の円が出回り円安になることで輸出系企業の利益があがり、それが給与や設備投資に回る。また、金利が下がってカネが市場に回り、需要が喚起されることで物価が上昇するはずだった。

 しかし、企業の利益は増加したものの実質賃金は上がらず、消費支出指数は低下した。

 肝心の需要が伸びなかった理由について田崎さんは、日本に有望な成長分野がない、企業が思いのほか利益を賃金に還元しなかった―この2点をあげた。

企業が増えた利益を賃金に回さずに済んだのは、経営方針に沿い非正規雇用を拡大させて、コストのかかる正規雇用の社員を減らしたからだと分析する。

また、せっかくの成長分野である再生エネルギーや蓄電池への投資を企業がためらったのは原発維持政策が原因ではないかと話す。

 田崎さんは所得階級別の世帯数割合を過去と比較したグラフでアベノミクスの結果を示した。生活が苦しい層が増えて、中間所得層が減っていることが一目瞭然だ。

にもかかわらず安倍政権を支持する若者が増えているのは、増大し続ける貧困層の現実を伝えきれていないからだと田崎さんは自戒を込めていう。

アベノミクスに批判的な学者などは、国債への信認が失われ暴落する危険性を指摘するが、そもそも景気は大きく冷え込んでいる。

 田崎さんは全ての地方銀行で貸倒引当金の積み増しが進んでいることをあげた。地銀は「今の景気は薄氷の上を歩くように危うい」と見て先手打っている証拠だという。

保坂義久

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年08月03日

植村東京訴訟 地裁も不当判決 被告の謝罪も賠償も棄却=編集部

 元従軍慰安婦の証言を伝えた1991年の記事で、執拗な「捏造記者」攻撃の標的にされた元朝日新聞記者植村隆氏の名誉棄損訴訟で東京地裁(原克也裁判長)は6月26日、名誉が棄損されたことを認めながら植村氏への謝罪と損害賠償請求を棄却。西岡力被告らを免責する「不当判決」を下した。植村氏は7月9日、「原判決には事実認定と法解釈に誤りがある」として控訴。植村氏の名誉回復の闘いは札幌訴訟(櫻井よしこ被告ら)に続き、高裁に舞台を移して続く。

名誉毀損認めるが

 判決は、西岡被告の植村氏への「捏造」との表現が事実の適示だと認め、植村氏の名誉が毀損されたことを認めた。つまり西岡被告と文芸春秋の表現と記事が「名誉棄損に該当する」と、植村氏が「捏造記者」でないことを認めているのである。

 だが原克也裁判長は西岡被告らを「免責」した。法廷で代読された判決理由要旨によれば「各表現は、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われた」「各事実について、その重要な部分が真実または真実と信ずる相当の理由…の証明がある。かつ、意見ないし論評の域を逸脱したものでもない」という。

 だが本当にそうか?判決は西岡被告が植村氏を「捏造記者」とした@金学順さんが妓生に身売りされた経歴を知りながら記事に書かなかったA義母の裁判を有利にするため、意図的に事実と異なる記事を書いたB「金さんが女子挺身隊として日本軍に強制連行された」と、意図的に事実と異なる記事を書いた、の3点について判断を下した。

 判決は@、Aの西岡被告の「真実性」を否定した。だが「推論として一定の合理性がある」と、真実相当性を持ち出して免責した。さらに最大の問題はBで、いきなり「真実性」を認めたことだ。つまり原裁判長は何の根拠もなく「植村には(金さんが)騙されて慰安婦にされたとの認識があったのに、意図的に強制連行と書いた」と認定し、西岡被告を免責したのだ。

判例の基準逸脱

これについて弁護団は「声明」で、「植村氏が嘘と知りながらあえて書いたか否か、本人に全く取材せず『捏造』と表現した(西岡被告)を免責しており、従来の判例基準から大きく逸脱したもの」と、厳しく批判。「また、金学順氏自ら『私は挺身隊だった』と述べており、騙されて中国に行ったが、最終的には日本軍に強制連行され慰安婦にされたと述べていた。騙されて慰安婦にされたことと強制連行の被害者であることは矛盾するものではない」と指摘した。また、裁判後の記者会見で弁護団の一人は「裁判所の認定は真実をねじ曲げ植村氏だけでなく「慰安婦」制度の被害者の尊厳をも踏みにじった」と、強い怒りを表明した。

10月10日 札幌結審

一方、札幌訴訟控訴審は7月2日、札幌高裁で第2回目の口頭弁論が行われた。裁判長が人事異動で交代し、新裁判長の冨田一彦・部総括判事(前神戸地裁部総括判事)の下、審理更新手続きと提出証拠の確認の後、植村氏が再度、意見陳述。「証拠をきちんと検討し、公正な判決を出していただきたい」と改めて訴えた。また、弁護団は一審の問題点を指摘した計3通の意見書・陳述書をもとに一審判決の取り消しを求める準備書面の要旨を説明。さらに弁論終結を求める櫻井側弁護団に対して弁論続行を求め、@東京、札幌両地裁判決に共通する問題点への主張書面A梁順任さん陳述書の補充書面提出を表明。

冨田裁判長の裁定で、次回口頭弁論を10月10日午後2時半から開き、その日に結審との日程が決まった。

歪んだ歴史観正せ

植村訴訟の札幌、東京両地裁は、ともに植村氏への「捏造記者」攻撃は名誉毀損だが、謝罪、賠償を免責するとの「不当」判決を下した。だが裁判では真の「捏造者」が櫻井、西岡両被告だったことが暴かれた。「問われているのはこの国のデモクラシーの根幹。だから怒りは静かです」。判決後、植村氏はこう述べた。両地裁の判決は「従軍慰安婦」を「公娼制度の下で戦地において売春に従事していた女性」と記述した。そこにあるのは「慰安婦」制度が被害者がいる強制売春だということを無視した「歪んだ歴史観」そのものだ。闘いはまだ続く。

編集部

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年07月30日

【編集長EYE】 武村元官房長官 会見の心構えを語る

 新聞労連は6月下旬に東京都内でシンポジウム「官邸会見の役割を考える」を開いた。

 このシンポには菅義偉官房長官と東京新聞社会部・望月衣塑子記者との官邸バトル≠ェ背景にある。これの波紋は大きかった。官房報道室長が内閣記者会に望月排除≠ほのめかすような申し入れをした。これに対して新聞労連などマスコミ労組は報道の自由を制限し、国民の知る権利を阻むと官邸前で抗議行動を展開。シンポはこの問題を広く知ってもらうため企画された。

 現在、菅長官との会見は平日の午前11時と午後2時の2回実施されている。金曜日の午後は記者会に非加盟だが、特定の雑誌記者やフリージャーナリストが出ている。

 シンポに出席した細川護熙内閣(93年8月から94年4月)で官房長官を務めた武村正義さんは「私の頃は2回の会見に加えて記者懇談会を午後3時と夕方に行った。1日に4回記者とお付き合いした」と振り返った。

 続けてこう言った。

 「官房長官は政府の広報官です。情報を隠さない∞捏造しない∞身構えない≠モットーに会見に臨んだ。従って知らないことは『知らない』と答え、答えられないことは『答えられない』と言った。質問の制限や拒否は官房長官の姿勢としてよくないと思っていた」

 加計学園疑惑で「総理のご意向」と書かれた政府の内部文書を菅官房長官は「怪文書」と打ち消したが、これについても語った。

 「あるものを隠すという発想は取らなかった。クロをシロと言いくるめるウソを繰り返すと政府は信頼を失う。そういうことはしませんでした」

 同じくシンポに出席の毎日新聞政治記者30年・与良正男さんによると、官邸側はこちらの都合の悪い話を報じない新聞・テレビがあると自信を深めている。状況を打ち破る糸口はあるのか。

 「(望月記者のような)気概のある人が多く出てくれば、政治は変わると思う」(与良さん)

 そうなればいいのだが……。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年7月25日号
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2019年07月07日

【支部リポート】 香川 出撃の空から遺書を投げた学徒 西日本放送「海は知っている」=刎田鉱造

5月12日に例会を持った。RNC・西日本放送が4月28日に放送した番組「海は知っている」〜詫間海軍航空隊〜をみる。昭和18年6月に水上機の実機訓練基地として設置された詫間海軍航空基地(香川県三豊郡詫間町)で20年4月から5月にかけて特攻戦死者57人を数える歴史を掘り起こした番組だ。地元出身の2人の大学生が特攻に出撃させられる。家族の思い、出撃の空から実家近くに遺書を投げ落としていった学徒兵の姿などを丁寧に描いて感動を呼ぶ。

 跡地は現在、化学会社や香川高専詫間校の敷地になっており、いまの若者たちの戦争してはいけないという声、語り継いでいくことの大切さの訴えで締めくくっている。

 出撃機はフロート付きの水上偵察機でとても体当たり攻撃に適した機体ではない。最後には機体がなくなって練習機までかり出したという。そういう機体で敵地に向かった若者たちの思いは実家の寺に残した長い遺書、本堂の端から端までの巻紙に毛筆でしたためたものににじみ出している。

 映像でコメントをしている証言者の大半は80代以上だ。もういましか実体験者の話を聞く機会はない。県内の戦争遺跡、体験を記録したものをライブラリー化する。足りないものを掘り起こすことを課題にして、力を注ぎたい。

刎田鉱造

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号
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2019年07月05日

【沖縄リポート】 ジュゴンの死因を明らかに=浦島悦子

 去る3月18日、今帰仁村運天漁港に死体となって漂着し、現在、今帰仁漁港冷凍冷蔵施設に保管されている雌のジュゴン(個体B)の解剖が近く行われるという情報を受けて、私たち「北限のジュゴン調査チーム・ザン」と今帰仁村民有志は、死因究明がきちんと行われるよう「解剖の責任主体・解剖行程・費用の内訳の開示、結果の公開」などを求める要請書を6月3日、環境省・沖縄県・今帰仁村に送付した。

翌4日付『琉球新報』は、解剖について5月27日の今帰仁村議会臨時会で関係予算18万5千円が可決されたと報道したが、金額があまりに低いことに疑問を持った私たちは、議会議事録を調べてみて驚いた。それによると、採択されたのは「ジュゴン標本化事業」の補正予算であり、その内訳は「標本化に向けての監修アドバイザー」としての県外大学准教授の報償費2万円と旅費10万7千円、ジュゴンを保管している施設の賃貸料及びジュゴンの移動費のクレーン車の使用料5万7千円となっている。つまり、今帰仁村の予算は解剖後の標本化のためのものであり、「死因究明のための解剖」の予算ではないことが判明したのだ。

 同じく4日の報道によると、個体B漂着の4日前、沖縄防衛局は周辺海域(辺野古埋め立て土砂運搬船も航行する海域)に設置した水中録音装置にジュゴンの異様な鳴音を「通常を大きく上回る頻度で確認」していたが、3日に開いた環境監視等委員会で、ジュゴンの死に新基地工事の作業船の影響はないと報告した。

 しかし、防衛局が公開した資料を見ると、民間船のAIS(船舶自動識別装置)は生データが表示されているが、土砂運搬船の航路は生データではなく防衛局が作図したものであり、「影響はない」ことを裏付けるものではない。海上抗議行動メンバーによると、土砂運搬船は、抗議行動に察知されないよう、最近はGPSの電源を切って運行しているという。

 死因をうやむやにしたまま解体・標本化されてしまうのではないかと危機感を持った私たちは10日、前記3者宛てに「拙速な解剖を行わない」よう求める緊急要請を行った。しかし、2回の要請にも環境省はなしの礫。真相を闇に葬らせてはならない! 

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号
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2019年07月04日

【若い目が見た沖縄】 借金苦 ブータン留学生 業者「月25万」と騙す=竹内章浩

JCJは30歳以下の若者を沖縄に派遣し、自由なテーマで取材してもらう「沖縄特派員」を今春、始めた。前号に続き、北海道支部の公募で選ばれた北広島市の通訳、竹内章浩さん(写真)の報告を紹介する。

    ◇

「沖縄の人々は温かく、気候にも恵まれていた。東京では毎日電車に揺られ、勤務時間は6時間なのに、通勤時間を入れると計11時間。東京での生活は『真の』日本というものを味わっている気がします」

2月、沖縄で会ったブータンからの留学生アイリーン(仮名)は今、東京で「沖縄にとどまるべきだった」と後悔していた。2017年、ブータン政府が始めた「学び・稼ぐプログラム」。700人超が来日し、全国の日本語学校などに送り込まれた。アイリーンと友人二人は沖縄行きを指示された。

「日本へ行き、日本語を勉強すれば大学、大学院に進めるし、正規雇用先を見つけ月25万円稼ぐことも容易である」。3人は、来日前のオリエンテーションでこう聞かされたという。アイリーンはブータンの大学を卒業したが、国内なら初任給は7万円前後だ。

留学プログラムはブータン政府のお墨付きだが、業者が介在し、日本へのビザ申請や、日本語学校の学費などとして、約150万円を徴収する。3人はブータンの銀行から借りて、業者に払った。日本の知識がほとんど無く、高い給与ですぐ返済できるという言葉を鵜呑みにした。那覇の別の男性学生も、来日して1年が経つが、返済は借金の5%にも満たないと話した。

バイト先は、コンビニの店員、コンビニ向けの弁当製造工場、ホテルでの清掃、日本語ができる場合は居酒屋だ。バイトを2、3か所掛け持ちし、生活費と学費を稼ぐのがやっとで、肝心の日本語の勉強に費やす時間はほとんど無い。正規雇用や進学の道はますます遠のく。

「今は我々のビザも切れてしまった。業者はとりあえず我々の学生ビザを延長するために、東京の私立大学に入学するのが唯一の解決策と言っている。だれも彼らの言うことに従いたくはない。でも、おそらく彼らの言う通りだ」。その入学先が、行方不明学生で問題となっているあの東京福祉大学だった。

ある日本語学校元職員は、学生の囲い込みに問題がある、と言う。出稼ぎ目的の学生をかき集め、日本語学校から系列の専門学校、大学などに進学させ、稼ぐ。

沖縄でブータン留学生を取材したのは、北海道でも、あるブータン留学生から「約束と違う。だまされた」と聞いていたからだ。沖縄、東京、北海道――。各地で現在進行形のこれらの問題は、それほど世論の関心を呼んでいない。日本がグローバル化の流れに乗っていくのなら、日本に来てよかったと思われるような環境作りが急務だ。 

竹内章浩

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号
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2019年07月02日

【事件】 過酷な生い立ち、救えぬ社会 ジャーナリスト講座・山寺記者 祖父母殺した少年を取材=須貝道雄

JCJは夏のジャーナリスト講座を6月5日、毎日新聞くらし・医療部の山寺香記者を講師に迎えて東京で開いた。テーマは「少年はなぜ?闇の日々に迫る」。

     ◇

埼玉県川口市で2014年3月、17歳の少年が祖父母を刺殺する事件が起きた。警察は孫を逮捕し「金目当ての犯行」と発表した。不良少年による単純な事件。さいたま支局に赴任し、県庁担当だった山寺記者そう考え、最初は気にしなかった。警察・司法担当となり、裁判を傍聴して「衝撃を受けた」。弁護側が語る少年の生い立ちにだった。

 小学5年から学校に行かず、親から虐待を受けながら野宿生活を続けた。乳飲み子の妹の世話に懸命だった。少年は母親から「金を持って来い」と迫られ、事件を起こした。

「彼の窮状を社会は救えなかった。この子は裁判が終わったら刑務所に入り、問題は闇から闇へと葬られてしまう」。焦りを感じた山寺記者は次々と記事を書いた。拘置所で少年と面会し、手紙のやりとりをして著書『誰もボクを見ていない』(ポプラ社)を出した。

少年が小学4年の時に母親は離婚し、ホストクラブ通いで知り合った男性と一緒になった。少年を連れながら埼玉、西伊豆、横浜、埼玉と各地を転々とする。埼玉ではラブホテルに泊まる生活を2年余り続けた。男性が日雇いの仕事で金を稼いだ。朝にチェックアウトし、午後8時にチェックインする毎日。昼間はゲームセンターやパチンコ店で母親と少年は過ごした。金がなくなるとホテルの敷地内にテントを張って生活した。この時期に妹が生まれたという。

母親は少年に親戚から金を無心してくるよう何度も求めた。ある親戚から4年間で150回、合計400万―500万円巻き上げたことが裁判で明らかになった。母親は競走馬を育てるゲームに夢中で、ビジネスホテルに泊まり、大きな風呂に入ることが好きでたまらず、金を使い続けた。

少年の証言によれば、男性が失踪し、金に窮した夜に母親から殺人の話が出る。「ばあちゃんたち殺したら、お金が手に入るよね」と。そして事件へと進んだ。山寺記者は生い立ちを取材する過程で、少年の近くにいた人々がみな同情的に彼を見つめていたことを知る。ラブホテルの管理人らは、赤ちゃんをだっこしながら悲しそうな顔をしていた少年を鮮明に覚えていた。しかし、具体的な支援には結びつかなかった。行政も含めて「あと一歩が足りなかった」と振り返る。

山寺記者は大学・大学院で臨床心理学を専攻し、子どもを元気にするカウンセリングの仕事を志していた。病院などの専門機関に入る前に、社会全体を見てみたいと、報道の世界をめざした。「子どものことを書きたいと思っていたところ、今回の事件にたまたま出合った」と話した。  

須貝道雄

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号
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2019年06月27日

【編集長EYE】 「38度線」大自然と人との共存計画進行=橋詰雅博

 北緯38度線は朝鮮半島を南北に分断する停戦ラインだ。このラインから南北2`bずつ帯状のエリアは非武装地帯(DMZ=248`b)と呼ばれる緩衝地帯になっている。1953年の停戦後に軍事活動は許されなかったが、300万個ともいわれる地雷が埋められている。このため65年もの長きにわたり人が立ち入れることがなかった。皮肉にも今ではツキノワグマなど101種の絶滅危惧種を含む5057種の生き物がすむ豊かな大地に生まれ変わっている。

 戦争によって生み出されたこの豊かな生態系を守り、後世に手渡そうというプロジェクトがあることはあまり知られていない。そのプロジェクトは「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト) 」で、2014年からスタートしている。立ち上げたのは53年にソウルで生まれた崔在銀さんだ。76年に来日し、東京で華道を学び、草月流と出会う。3代目の家元であり、映画監督の勅使河原宏のアシスタントを務め映画制作など日本で活動した。崔さんは多くの野生動物が生息するDMZの自然と人間との共存をめざし、世界の美術家や建築家などにアイデアを求めてきた。

 それを可視化した展示会「自然の王国」が東京・品川区の原美術館で開かれている。

 同美術館担当者は目玉作品をこう説明する。

 「空中庭園の設置を日本の建築家・坂茂さんが提案しています。DMZに東西南北合わせ全長20`bに及ぶ巨大な計画です。竹のパサージュ(小道)≠設け人の自然への介入を防ぎ、地雷から人を守ります。2分の1サイズの模型を提示しています。韓国のチョウミンスクさんは発見されたトンネルを活用し、植物の種子や本、フィルムを保存する貯蔵庫のアイデアを公開しています」

 崔さん自身はDMZで使われていた鉄条網を溶かした鉄板を出展した。憎しみは雪のように溶けるという意味を込めている。7月28日まで。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号
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2019年06月10日

【支部リポート】 神奈川 菅官房長官会見の映像流れる 横浜駅パブリックビューイング=保坂義久

神奈川支部では4月13日に首相官邸記者会見での質問制限をテーマに例会を開いた。同じ日の午前10時から午後5時まで横浜駅西口前では、その関連パブリックビューイング(PV)が行われた。これを企画したのは武井由起子弁護士ら5人。

支部例会の講師の南彰新聞労連委員長は、例会の前と後にこの催しに参加し、菅義偉官房長官会見の実態について語った。

横浜駅西口前は各党が選挙で第一声をあげる通行量の多い場所。PVでは52インチのディスプレイを使い、菅官房長官の記者会見の映像を流した。合間にはスピーチタイムが設けられた。

 発言者は南さんのほかに元自衛隊レンジャーの井筒高雄さん、森友・加計疑惑を追及する元NHK記者の相澤冬樹さん、憲法学者の石川裕一郎さんなど多彩なメンバー。武井さんが活動する中で出会った人たちだ。武井さんは相澤さんとは週刊金曜日の主催のイベントで面識を得たという。

 海老名駅前自由通路でのマネキンフラッシュモブ禁止の不当性を訴えて勝訴した朝倉優子さんなど神奈川の市民も発言し、言論・表現の自由を訴えた。神奈川では街頭で訴える市民活動が活発で、沖縄の基地問題でのPVに携わっているメンバーの協力を得た。

 東京新聞の望月衣塑子記者に対する質問封じに対抗し、菅官房長官の選挙区である横浜で開いた今回の企画について、武井さんは「頑張っている記者を応援することが大事だ」と語る。

 これまで事実がどう取材され伝えられるのか受け手には見えにくかったが、望月記者の活動で可視化された。官邸側の望月記者への嫌がらせに対しても、記者たちがこれまで取りがちだった第三者的な立場ではなく、当事者として向き合うようになった。MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)主催の3月14日の官邸前行動は、その意味で画期的だったと武井さんは評価する。

神奈川支部例会も140人を超す参加者があった。安倍政権による報道恫喝に市民の関心の高まっている証拠だろう。 

保坂義久

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年5月25日号
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2019年06月07日

【植村裁判】 東京訴訟 6月29日に判決 札幌控訴審は全面対決=編集部

 歴史修正主義勢力の「捏造」攻撃に対する元朝日新聞記者植村隆さんの名誉回復の闘いは4月25日、札幌訴訟(被告櫻井よしこ、新潮社など)控訴審が高裁で開廷。東京訴訟(被告西岡力、文芸春秋社)は5月10日、結審後の再開、中断など原克也裁判長の訴訟指揮で続いた異例の事態を経て口頭弁論が再開され再結審。6月26日午前11時半と一審判決日が決まった。

強引に再結審

東京訴訟は午後3時開廷。冒頭、植村弁護団は原裁判長が結審後の今年2月、被告側に新証拠を追加提出させた行為について、裁判所の釈明権行使義務の存在を指摘。新証拠「朝日新聞社第三者委員会報告書全文」の「裁判所が重要と考えた部分を明らかにし、植村側に反論、立証の機会を保証するのが適正だ」と求めた。だが、裁判長は応じず「弁論を終結する」と、一方的に再結審を宣言した。

またこの日の傍聴券交付も、裁判長(裁判体)が「席が余っても時間で切り券を配るな」と、指示していたことも職員の証言で明らかになった。

予断許さない

 新証拠「朝日新聞社第三者委員会報告書全文」は、朝日新聞ホームページ上の「慰安婦報道検証第三者委員会」に公開されており現在も確認できるので詳しくは触れない。だが、札幌訴訟一審判決は、植村さんへの櫻井よしこ被告の名誉毀損の事実、櫻井被告の主張の杜撰さ(彼女のほうが「捏造」者にふさわしい)を認定しながらなお、「朝日新聞の慰安婦報道に問題がある」を逃げ道に「真実」相当性を認め、櫻井被告の植村バッシングを免罪した。そして櫻井被告は「勝った私が正しい」とばかりに居直り続けている。東京訴訟の西岡力被告はそのネタ元の「捏造」者で、植村バッシングの「膿の親」だ。原裁判長らが「新証拠」歴史修正主義へのどんな「忖度」論理を組み立てるのか。6月26日の判決は予断を許さない。

 一方、札幌高裁での控訴審(本多知成裁判長)は4月25日に開廷し、植村さんの名誉回復への第二ラウンドがスタートした。開廷に先立ち植村裁判を支える市民の会が呼びかけた「公正な判決を求める署名」1万3090筆も高裁事務局に提出された。

 午後2時半に始まった第一回口頭弁論で植村さんは、櫻井被告が「捏造」とした植村記事の同時期、櫻井被告本人が「(金学順さんが)強制的に旧日本軍に徴用された」と書いていた事実と、2014年の「社会の怒りを掻き立て、暴力的言辞を惹起しているものがあるとすればそれは朝日や植村氏の姿勢ではないでしょうか」との言説を指摘。一審判決の不当を強く主張した。また弁護団も、「一審判決は櫻井被告が植村さんや当事者への取材なしに、資料引用や事実理解の誤りを繰り返したことを看過した。『真実相当性』の判断も、最高裁判例や法理論からかけ離れている」と明解に指摘した。

第二回控訴審は7月2日午後2時半に開かれる。

編集部
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2019年06月06日

【沖縄リポート】 「軍事植民地」現実かわらず=浦島悦子

 一人の人間が年老いて息子に仕事を譲っただけで、なぜ「時代が変わる」のか…? 強烈な違和感の中で、「改元フィーバー」の10連休が過ぎた。「天皇制」によってさんざん痛めつけられてきたはずの沖縄のメディアでさえ「平成天皇賛美」の片棒を担ぎ、わずかに「沖縄タイムス」が文化欄で目取真俊氏らの批判的な論稿を載せたくらいだった。

 もちろん、沖縄の現実は何一つ変わってもいない(日本だって同じだろうけれど)。「令和」とは「ヤマト(大和)の命令に従え、ってことだろ?」という声が聞こえるように、沖縄に対する安倍晋三政権(日本政府)の圧政はますます強まる予感さえする。それをうまく慰撫するのが天皇(制)なのだろう。

10連休2日目の4月28日は、米軍属に惨殺された当時20歳の女性の3周忌であり、67年前に沖縄が米国に売り渡された「屈辱の日」でもあった。私は友人とともに恩納村に向かい、女性の遺体遺棄現場に地域住民が設けた献花台に手を合わせた。「二度と娘のような被害を生まないで」という両親の悲願とは裏腹に、つい2週間前(4月13日)またしても、在沖米海兵隊所属の海軍兵に北谷町の女性が殺害される事件が起こったばかりだ。米兵の勤務時間外行動を制限するリバティー制度を、米軍は「兵隊に快適な時間を過ごしてほしい」という理由で大幅緩和した直後だった。軍事植民地♂ォ縄の現実を変えられないことを、霊前に詫びるしかなかった。

4月21日に行われた(玉城デニー氏の知事選出馬に伴う)衆議院沖縄3区補欠選挙で、安倍政権の全面的バックアップを受けた辺野古新基地容認の元沖縄北方担当大臣・島尻安伊子氏を、デニー知事の後継で新基地反対の新人・屋良朝博氏が見事破って当選。沖縄の民意はさらに明白になったにもかかわらず、翌日から変わらず、海と陸での新基地建設埋め立て工事が、何事もなかったかのように続けられている。

5月15日、沖縄は47年目の「日本復帰」の日を迎えた。「アメリカ世」から「ヤマト世」への「世変わり」は、植民地の宗主国を替えたにすぎなかった。今日も辺野古ゲート前に「沖縄を(沖縄に)返せ!」の歌が響く。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年5月25日号
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2019年06月05日

『未和 NHK記者はなぜ過労死したのか』 著者・尾崎孝史氏にインタビュー 選挙報道で月209時間残業=橋詰雅博

NHKはなぜこの事件≠4年間も伏せていたのだろうか―5月8日に岩波書店から出版された「未和 NHK記者はなぜ過労死したのか」の著者・尾崎孝史さん(53)の取材動機だった。尾崎さんは、外部スタッフとしてNHKで27年間、番組制作に携わっている。亡くなった未和さんのご両親と出会い「娘が31年間生きてきた証を残したい」という要望を受けた。彼女の死に至るまでの経過をまとめた尾崎さんに話を聞いた。

    ☆

――佐戸未和さんの過労死を公表したNHK「ニュースウオッチ9」(2017年10月4日)の翌日、各新聞も報道しましたが、どう受けとめましたか。

 朝日新聞の朝刊を見てビックリしました。2013年7月にNHKの女性記者が亡くなり、翌年の5月渋谷労基署が労災認定したと書いてあったからです。私はNHKで長年仕事をしており、職員が亡くなるようなことがあると、あまり時間をおかずに伝わってくるのが普通でした。ご両親の「未和の死が葬り去られる」という新聞のコメントに説得力を感じました。そこで、ご両親あてに「可能なら焼香させていただきたい」と書いた手紙を、代理人の事務所に持参し、ご両親に渡してくれるようお願いしました。焼香を機に本の出版の話が進みました。

109人取材

――どんな資料もとに書いたのですか。

 NHKから遺品として届いた取材ファイルや放送を録画したDVD、未和さんがスケジュールを書き込んでいたNHK手帳、3冊の取材ノート、携帯電話・パソコンでやり取りされたメールなどです。また、遺族、友人、NHK関係者など109人にインタビューをしました。1年半に及ぶ取材で合計約300時間になりました。

――彼女が過労死した背景は?

NHKでは災害と選挙が報道の2本柱とされています。特に国政選挙の報道は、与党・自民党議員に不利にならないようバランスをとることが不文律となっています。国会でNHK予算案をスムーズに承認してもらう必要があるからかもしれません。投開票日は民放よりいち早く当確を出すのがNHKの使命です。当確を出した後、別の候補者が当選したら、ミスした記者は降格人事を受けます。あの13年は6月の都議選に続き7月に参院選がありました。都庁詰め記者の彼女は殺人的なスケジュールでした。発病前1カ月間の時間外労働時間数は209時間にも達していました。

横浜局へ異動となる未和さんは送別会が終わった後、帰宅しました。7月24日午前3時ごろです。遠方から駆けつけた婚約者が遺体を発見したのは25日夜9時すぎです。

真相知りたい

――未和さんは助かる可能性があったと示唆していますが。

 彼女のNHK手帳の7月24日欄に〈14:30〜15局長 15:00〜15:30次長〉と書き込まれています。異動の挨拶のため2人の都庁幹部との面談があったと推測できます。当日、佐戸記者が来ないので都庁職員がNHK都庁クラブに連絡を入れた可能性があります。それを受けた人が不審に思い、彼女のマンションを訪ねたら助かっていたかもしれない。ご両親も私も真相を知りたいと願っています。

――NHKが事件を伏せていたのはなぜですか。

 14年5月に未和さんが労災認定されました。NHKの担当者から「記者会見をしますか」と尋ねられた担当弁護士は「予定はない」と答えました。すると担当者は「会見をしないですね」と深く確認するかのようだったと弁護士は言っています。この情報がNHK上層部に伝わり、ご両親は公表を望んでいないという空気が定着したのかもしれません。日放労も何か事を起こすという姿勢は見られませんでした。NHKは「代理人から公表を望んでいないと聞いていた」と言っていますが、弁護士は否定しています。ご両親は記者会見を開き、事実誤認があるとしたうえで「両親が公表を望んでいないという事実はありません」と抗議しています。

――その後も外部スタッフが倒れ国会で取り上げられましたが、働き方は改善されたのでしょうか。

 深夜や休日の勤務が一部届出制になるなど改善されたところはあります。一方、外部スタッフやプロダクションは視野の外です。勤務管理と称して記者に携帯端末が配布され、上司に居場所が監視されるような不安もあるそうです。忖度のない自由な取材や放送が実現して、はじめて未和さんの死に報いることになるのではないでしょうか。

聞き手 橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年5月25日号
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2019年05月31日

【若い目が見た沖縄】 米兵との「共存」に苦しむ女性 北海道支部・小村優さん報告

JCJは、30歳以下の若者を沖縄に派遣し、自由なテーマで取材してもらう「沖縄特派員」を今春、始めた。北海道支部の公募で選ばれた札幌の大学4年小村優さん(4月から赤旗記者)と北広島市の通訳、竹内章浩さんの報告を2回に分けてお届けする。
            ☆
新聞で沖縄と言えば基地問題だ。しかし、厚労省や沖縄県によると、沖縄の離婚率は2・59%と14年連続全国1位。全世帯に対する母子世帯出現率は5.46%で全国平均の2倍だ。ジェンダーの視点からは「強くなければ生きていけない」沖縄の女の問題が胸を衝く。

地元紙で驚いたのはお悔やみ欄だ。喪主だけでなく家族全員の氏名や、独立したとみられる子や孫、その配偶者、ひ孫、県外や海外の親類、友人代表まで載る。「長男嫁」「孫婿」などの続柄もつく。新聞社に「プライベートをさらし過ぎでは」と尋ねると「親しいのに名前を出さない方が失礼になる」との答えが返ってきた。故人と面識がなくても知人の親戚ならお参りする。おくやみ欄は、地域コミュニティの強さ、それを構成する「家」を重視する沖縄社会を象徴しているようだ。

その「家」で、位牌の継承には@父系の長男が引き継ぐA女性が引き継いではいけない、などの「決まり」がある(波平エリ子著「トートーメーの民俗学講座」)。家父長制の典型で、女性は、家とコミュニティを守る「土台」として、ひたすら働くことを求められる。火事、育児、仕立て屋の内職をこなしてきた那覇市内の親泊嘉子さん(84)は、家庭で男性のサポートは「期待薄」で「女の人は働いて、子供を産んで育てて。とにかく働き者でないとだめ」と話す。長男秀尚さん(56)も「基本、男は働かないからー」。

喜納育江琉球大学教授は「沖縄の女は強い、強くなければ沖縄の女ではないという前近代的な価値観が沖縄の女性を苦しめている」と見る。過重な家事労働やDX等から「家」を去る女性は少なくない。それが、離婚率などの高さに現れている。

しかし、待ち受けているのは貧困だ。非正規雇用率は全国で最も高い43,1%(2017年)で、その6割が女性。一人当たりの県民所得(15年)も216万6000円で最下位だ。観光中心の産業構造で、より高い収入を求めて水商売、風俗などで働く女性も多い。若年出産の多さはその反映でもある。

家やコミュニティから守られなくなった女性は、米軍基地と向き合うことになる。人を殺傷する訓練と実戦を続けている兵士との「共存」は沖縄の女性を否応なしに苦しめる。

「家の恥じ」をおそれ、表面化しない米兵による性暴力被害は少なくないといわれる。「日本の安全保障」と、二重の重荷を沖縄の女性たちは負わされている。

自分が無知と無関心という名の加害者であることを、思い知らされた特派員取材だった。

小村優

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年5月25日号
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