2019年01月09日

【映画の鏡】 ホロコースト逃れた88歳 『家へ帰ろう』 仕立てたスーツを届ける旅=今井 潤

アルゼンチンに住むユダヤ人の仕立て屋アブラハム88歳は自分を施設に入れようとする家族から逃れ、スペイン、フランスを経てポーランドへ向かうための旅に出る。アブラハムの旅の目的は自分が仕立てたスーツを友人に届けることだ。

 友人はホロコーストから逃れたアブラハムを父親とけんかをしてまで匿った命の恩人だ。最終目的地のウッチは第2次大戦中にナチスによってユダヤ人30万人、ポーランド人1万人以上が犠牲になったところだ。

過酷なホロコースト体験からポーランドとドイツという言葉を口にしないアブラハムはゆく先々で人々をてこずらせる。マドリッドのホテルの女主人、パリからドイツを通らずポーランドへ列車で訪れることが出来ないかと四苦八苦するアブラハムを助けるドイツ人

の文化人類学者など、旅の途中で出会う人たちはアブラハムの力になろうと手助けするシーンが続く。

 そしてたどり着いたウッチの街は70年前と同じたたずまいをしていた。アブラハムは親友と再会できるのか、奇跡は起きるのか。

 ブエノスアイレス出身のソラレス監督は自身の祖父の家では「ポーランド」という言葉がタブーであったことから発想を得て、この感動作を完成させた。

 主人公のアブラハムの着ているジャケットの色もエンジやグリーンの立縞で、いつも違うアスコットタイを首に巻いているのは何ともおしゃれで、衣装担当者のセンスが光っている。

(公開は12月15日土曜日から神田岩波ホール)

今井 潤



JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2019年01月05日

【支部リポート】 北海道 20代男女を沖縄に派遣 辺野古・高江を3月までに取材=岩井義昭

JCJ本部が2018年度からスタートさせた企画「若い目が見た沖縄」。これは本部が経費を一部負担し、沖縄に若い人を派遣するもの。支部では9月3日の運営委員会で、メディアに募集記事の掲載を要請しようと決めた。資料の配布した中で、北海道新聞が紙面に扱ってくれたこともあって、10月末までに4人の応募があった。

 うれしいことに全員が20歳代だ。男性の社会人1人、女性1人を含む大学生3人である。

 11月19日の運営委員会で竹内章浩氏(社会人)、小村 優氏(大学4年)の2人を選び、派遣することを決めた。志望の理由がいずれもしっかりした内容だったので、1人を追加した。財源があれば全員を派遣したいほどだ。

 2人の特派員は2019年3月までに辺野古・高江を含む取材をして、JCJ機関紙「ジャーナリスト」に記事を掲載することになっている。内容は基地問題に限らないが、「市民特派員」らしい視点を期待している。

 今期、支部は4月29日の望月衣塑子氏、9月28日の野田正彰氏らの講演を主催した。望月氏の講演には250人、野田氏の講演には58人が参加している。会場で「ジャーナリスト」のバックナンバーを配布し、会員勧誘と購読の訴えをしたのだが会員や読者は増えなかった。このままでは組織の拡大に結びつかない。単なる興行の繰り返しに終わりかねない危惧を抱いた。

 望月衣塑子氏のときは、会場の定員を50人以上うわまわる事態を生じた。前年の前川喜平氏のときも定員の2倍の参加者が集まってしまい、さんざん懲りたはずだったが、またもやの失敗≠ナある。

 実は翌日、別の主催者による望月氏の講演が某私大の会場を借りて行われるはずだった。ところが正体不明の連中が、この私大に脅迫まがいの圧力をかけてきたのである。パターンは植村 隆氏を排除せよと恫喝された北星大学の場合とまったく同じでないか。

 前日、支部が主催した望月氏の会場は公的な会場であったので彼らも手が出せなかったに過ぎない。後日の教訓にするつもりである。

岩井善昭

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2019年01月03日

【沖縄リポート】 カミソリの刃がつく有刺鉄線を張る=浦島悦子

 大浦湾は荒れていた。磯に打ち付ける高い波しぶきが見える。12月7日、辺野古埋め立て土砂を積んだ運搬船4隻と陸揚げ用台船1隻が大浦湾に到着。仮桟橋として使われているK9護岸から週明けにも陸揚げされるはずだったが、船は護岸に近づけない。海神≠燗{っているようだ。

 辺野古埋め立ての是非を問う県民投票(2月24日実施)を前に、何としても年内に土砂を投入したい安倍晋三政権は、行政不服審査法を悪用して埋め立て承認撤回を効力停止・工事再開したものの、埋め立て土砂搬出港(本部港塩川地区)が台風で破損し行き詰まった。そこで隣接する名護市安和の民間企業・琉球セメント屋部工場の桟橋の使用を密かに準備し、12月3日朝、土砂搬出を開始した。県民の抗議行動を想定して、事前に剃刀のような刃が付いた有刺鉄線を張り巡らす用意周到さだった。琉球セメントは沖縄県内唯一のセメントメーカーで、かつては宇部興産の子会社だった。

 沖縄県は赤土流出防止条例違反などで搬出停止を求め、同日午後、作業は一時止まったが、政府は搬出方法を変えて5日夕方、作業を再開。運搬船は辺野古へ向かった。

 あらゆる違法・脱法、アクロバット的な「奇策」を弄して民主主義と地方自治を押しつぶそうとするこの政権は、異様としか言いようがない。

 そしてそれは辺野古にとどまらない。作業再開の一報を、私は、与那国・石垣・宮古・伊江島・高江・辺野古の県内6市民団体が上京し、合同で行った「軍事拡大に反対する」防衛省交渉の席で聞いた。各島々でも同様のやり方で米軍・自衛隊基地の建設や強化が進み、住民自治や暮らしが脅かされている。

 防衛省は係長以下の対応で、私たちの要請や質問にまともに答えられず、「沖縄をバカにするな!」と声が飛んだ。しかしそれでも、今回、島々が海を越えて共同の行動を起こした意義は大きい。米日軍事一体化の中、分断支配・個別撃破されるのではなく、住民同士が手をつなぎ、一体となって軍事拡大を止めていきたい。

 14日土砂投入を宣言した政府が「バケツ1杯でも」土砂を入れ、既成事実を作るべく、強行したとしても、そんなことで県民があきらめると思ったら大きな間違いだ。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月30日

【出版部会リポート】 武力増大の自衛隊と米軍一体化が加速 東京新聞・半田論説委員が語る=田悟恒雄

 11月30日、水道橋・YMCAアジア青少年センターに東京新聞・半田滋論説委員を講師に迎え、出版部会11月例会が開かれた。

 半田さんと言えば、4半世紀余にわたる防衛省(庁)取材経験を持つ業界きっての防衛問題通。その豊富な情報量と鋭い分析力には定評がある。この日の演題は「軍事列島・日本の全容─おそるべき自衛隊と米軍の一体化」。第2次安倍政権発足以来6年間、「普通の国の軍隊」をめざし邁進してきた自衛隊の変貌ぶりが語られた。

 特定秘密保護法(13年)、安保関連法(15年)、共謀罪法(17年)と次々「壊憲」の地ならしを強行、日本国憲法の外堀を埋め尽くした。その致命的な転換点となったのが、14年7月1日の閣議決定だった─。強引な「憲法解釈」で、歴代内閣が否定してきた「集団的自衛権行使」を容認。しかも時の内閣の一存でこれを決められる、と。

 16年3月、安保関連法が施行されると、間髪を入れず「実績づくり」に着手─。

 南スーダンPKOでは、他国の武力行使との一体化を進め、駆け付け警護や宿営地の共同防衛を新たな任務に加えた。これを正当化するため、現地部隊の日報に「戦闘」とあった事案を「衝突」と言い換えたばかりか、日報そのものまで隠蔽してしまったのは記憶に新しい。また、北朝鮮対策を口実とした米艦艇防護、米航空機防護、米艦艇への洋上補給も頻繁に行われているが、それらは「特定秘密」とされ、国民に知らされるのは、実に1年以上も後になってからのことだった。

 さらに見逃せないのが、自衛隊法の改正だ。95条の2で「合衆国軍隊等の防護のための武器の使用」が定められ、現場自衛官の判断で武器使用が可能になった。「シビリアンコントロール」は、すっかり骨抜きにされてしまった。

 そもそも日本の基本政策は、@専守防衛A軍事大国にならないB非核3原則C文民統制の確保にあるとされてきたが、もはやいずれも「風前の灯火」─。

 18年度予算案には「敵基地攻撃」可能な巡航ミサイルや島嶼防衛用高速滑空弾が登場。護衛艦「いずも」の空母化(近く改定の「防衛計画の大綱」では、姑息にもこれを「多用途運用護衛艦」と呼び換える)まで浮上。米国製兵器の爆買い≠ヘ止まるところを知らない。欠陥機といわれるオスプレイ、F35ステルス戦闘機(なんと100機!)、それにイージスアショアも。こうして安倍晋三政権下で増え続ける米国製武器の調達金額は、19年度には7000億円に上るという。それも見積もりに過ぎず、今後さらに増えるのは必至。

 安倍首相は、改憲の手始めに「自衛隊を憲法に明記する」ことを狙っている。

 「違憲との批判が強い安全保障関連法を改定された憲法によって合憲とし、次の段階では自衛隊を『軍隊』つまり制限のないフルスペックの集団的自衛権の行使と多国籍軍への参加に踏み切る」─その魂胆を半田さんはそう見抜いている。

 都合の悪い現実に対しては見え透いたウソと強弁を押し通し、ほとぼり冷める頃合いを見計らって一気に本望を遂げる─「モリカケから改憲までアベ政治おなじみのパターン」である。

田悟恒雄

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月26日

【編集長EYE】 「水道戦争」を衝くギリシャ映画=橋詰雅博

 ドキュメンタリー映画「最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争」の日本語版完成記念上映会が12月初旬に都内であった。ギリシャ人が監督したこの映画は、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、イタリア、アイルランドなど6カ国13都市で4年間取材し、水道事業の民営化に至った経過や、それに失敗して再公営化で立て直した過程などを明らかにしている。

 日本でも水道事業の民営化論が高まっていたこともあって、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)や全水道労組などが中心となりプロジェクトチームをつくり、8月ごろから日本語制作をスタートさせた。作業にかかる費用100万円はクラウドファンディングで調達した。

 PARCの内田聖子共同代表は「8月に早くも100万円を突破し、11月に214万円にも達しました。予想外にお金が集まり、支援していただいた方に感謝しています」と語った。

 さて映画の中身だが、およそ2つに分けられる。 

 財政再建計画の一環として水道事業の民営化を欧州連合(EU)から強要させるギリシャ、ポルトガル、アイルランドが展開する反対運動がその一つ。例えばOECD(経済協力開発機構)加盟国で唯一、水道料金は一般税を通じて徴収していたアイルランドでは、新料金設定に抵抗した市民は2014年11月に首都ダブリンで20万人反対デモを実施した。 

 もう一つはパリ市やベルリン市で起きた水道料金の急速なアップや運営に関する情報の非開示問題などから再公営化を果たした活動(1面参照)だ。25年間の民営にストップをかけて、10年に再公営化したパリ市は、世界の水道事業の再公営化の流れをつくる大きなきっかけになった。

 一方、日本は改正水道法が成立し、民営化に走り出した。欧州だけでなく米国でも再公営化が急増しているというに。映画は民営化に前のめりの浜松市など11カ所で上映が決まっている。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月17日

【全国交流集会】 「人災」「忘災」「自助?」 JCJ全国交流集会 50人参加=古川英一

 秋の澄み渡った青空、九州・南阿蘇村の阿蘇大橋の前に立った。高さ80メートル、下を見ると吸い込まれてしまいそうだ。対岸まで200b余り。そこにあるべき橋は崩落、車で通りかかった大学生が巻き起こまれて亡くなった場所だ。熊本地震から2年半。双方の橋の根元は今も切れ落ちたままだ。

地域つながり一変

 10月19日から2泊3日の日程で開かれたJCJ全国交流集会の参加者は、熊本地震の被災地、そして去年7月の九州北部豪雨の被災地を訪れた。大地震と豪雨、突然襲う災害は、そこに長く暮らしてきた人々、そして地域のつながりをも一変させてしまう。

自然災害の発生を食い止めるのは難しいが、むしろその後の地域の復旧・復興がきちんと行われなければ、その災害が「天災」から「人災」になってしまうのではないか。そうした問題意識から、今の安倍政権の「自助・共助・公助論」の元での復旧・復興対策を考えていくことが、この集会の大きなテーマだ。

参加したのはジャーナリズム関係者と、医師や医療関係者など約50人、日頃あまり接点のない人たちが、まさに膝を突き合わせたのもJCJとしては初めての試みだ。

大きな被害を受けた現場や当時地域医療の拠点となった病院、さらに地域の声となったケーブルテレビ局などを訪ね、そこで私たちは様々な声を聞いた。

病院経営が厳しい

益城町では、復旧から復興へと局面が変わる中で、県道の拡幅や区画工事が進められることになり、住み慣れた場所に戻るに戻れない状況があることを、地元の人が訴えた。

南阿蘇村の阿蘇立野病院の上村晋一院長は、被災後の病院の運営の厳しさと村の人口流出など震災復興が表面的には進んでいるように見えるが、見えない部分の爪痕が大いとし、災害大国日本≠フあり方を考えるべきではないかと提起した。

「母国語が使えず、知り合いもいない中での孤立感、ひと声かけてくれる人がいればよかったのに」―そう語ったのは、熊本に家族4人で引っ越した直後に被災したスリランカ女性、ディヌーシャさんだ。そのうえで「外国人だから弱者なのではなく自分たちもできることがある。一緒に支援する立場にも立ちたい」と。その口調は力強かった。

多くの人が被災地や被災者にボランティアとして関わるようになったのは阪神大震災の時からと言われる。まさにその阪神の地から熊本や東日本大震災などの被災地に足を運び続けている医療関係者がいる。

情報発信の継続を

その一人、兵庫県保険医協会の広川恵一医師は、阪神大震災の被災者の復興住宅の強制撤去をめぐる裁判が今も続いている例をあげ、こうした問題が取り上げられず、忘れ去られてしまう「忘災」災害という視点を、私たちに示した。

それならば、個々の災害を一過性にせず、一人一人が刻み、社会が記憶し関わり続けるためにも「情報」を掘り出し発信し続けることは、まさにジャーナリズムのやるべき責務ではないか。広川医師の眼差しはそう語っているようだ。

今回の集会で感じたのは、出会った人々の発した「声・言葉」の持つ重さだ。その言葉はまさに人と人とを結びつけ、社会を変えていける大きな可能性を持っている。業種の違いを越えて語り合うことのできたこの場で、私たちは確かに、こうした言葉を受けとめたのだ。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月07日

【全国交流集会】 免震・地上ヘリポート威力発揮 災害にそなえる阿蘇医療センター=杉山正隆

 全国交流集会2日目の10月20日、阿蘇医療センターを視察した。病院は熊本地震で震度6弱などの強い揺れに襲われたが、目立った被害はなく、DMAT(災害医療派遣チーム)など医療支援の拠点としての機能を果たした。強力な免震装置が有効に働き、その他にも誰でも利用できるWi-Fi(無線LAN)環境の整備など先進的な災害対策に取り組んできた成果が発揮された。ヘリポートも一般的な「屋上」にではなく、あえて地上に設置することで、万一、建物に被害が出ても地上であればヘリが着陸する可能性が高まると想定したことも功を奏した。

患者らは気づかず

阿蘇医療センターの甲斐豊院長の説明によると、建物を支える柱は1階直下へ伸び、それぞれの柱の下に設置された免震装置が受け止める。72基の免新装置の上に病院全体が乗る形で、地面からは浮いている。免震装置は、外観がゴムの筒状で強く押せばへこむ程度の硬度。その内部は鉄鋼版とゴム層が何重にも重なり、鉛の芯が中心部にあり、一基あたり400〜500トンを支えることができる。

地震による衝撃を建物に直接伝えず、ゆるやかな揺れに変える。地震がおさまったあとは、ゴムの持っている復元力で、建物を元の位置に戻す。配管や地下へ続く階段も地面からは浮かせて病院建物側に固定されている。地震時は建物と共にゆれることで破損を防ぐ。

こうした機能が発揮されたことから、熊本地震が起こった夜の時間、スタッフはゆったりしたゆれを感じたが、患者らは気づかず眠っていたという。熊本地震時の揺れ方の記録が残されており、本来の病院の定位置から北に50センチ弱、南北に最大触れ幅87センチ、病院が動いていた。

情報過疎も免れる

もう1つの特徴が「地上ヘリポート」だ。病院などでは「屋上ヘリポート」が一般的だが、阿蘇医療センターではあえて地上の駐車場横に設置。建物に多少の損傷があった場合にエレベーターが使えず、屋上から階下に患者や器材などを下ろせない事態を避けることができた。さらに、地震前に無料のWi-Fi(無線LAN)を設置していたことで、情報や連絡を常時取れていたため「情報過疎」を免れることが出来た。

甲斐院長は「こうした設備や工夫が上手く噛み合い、周囲は被災したが医療センターは全ての機能が生きており、病院の機能や災害支援チームの受け入れなどに支障が出ることがなかった」と話した。取材ツアー参加者からは「災害に備える1つのモデルケース。詳しく知りたい」と質問が相次いだ。

杉山正隆

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月06日

【映画の鏡】『区議選に出たい』─帰化した中国人が、歌舞伎町で民主主義を訴える=今井 潤

 中国から日本にやってきて、新宿歌舞伎町で外国人観光客を相手に飲食店や風俗店の案内をつとめてきた李小牧(りこまき)さん(58)は新宿区議選挙に出ることを決意した。そして2015年2月日本国籍を取得して、旧民主党・海江田万理衆院議員の推薦を受けた。
 この李さんの選挙活動を2年間取り続けたのは同じ中国人の邢菲(ケイヒ)監督。ノーコメント、実音のみのドキュメンタリー作品だ。

 李さんは歌舞伎町の従業員や外国人はなぜ差別を受けているのか、日本の若者はなぜ自分の選挙権を大事にしないのか、真剣に選挙の意味や日本の社会問題を考えていた。
 実際に街頭で訴えると、「中国人が何を?」「中国へ帰れ!」など冷ややかな声をかけられ、演説を聞くこともない。おばさんからは「中国人は声が大きく、自分たちの主張だけを言うので嫌いだ」といわれる始末。同じ旧民主党の候補者と街宣場所での対立もあり、思うような選挙活動もできない。それでも旧民主党の公認をもらい、ポスターにシールを貼ることができた。

 投票日には1000票を超える得票を得たが、当選はできなかった。李さんは「自分は中国人でも日本人でもある。私が当選したら、日本は民主主義だということがわかる」と笑顔で話し、しぶとく日本で政治家を目指す。邢菲監督は中国専門の番組制作会社テムジンで中国に関するテレビ番組や日本の震災関連のドキュメンタリーなど20本以上制作し、2013年に退社し、イギリスへ留学、本作が初監督作品。
(公開は12月1日(土)から東京ポレポレ東中野)

今井 潤

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月05日

【ベトナム発】枯葉剤被害者「救済マラソン」大会 ホーチミン市で高橋尚子さん支援=中村梧郎

 熱帯ベトナムは暖かい。1月だというのにホーチミンの人々は軽やかな半そで姿だ

あのドクちゃんも
「ドクちゃん、走るの早過ぎない?」
 Qちゃんが、松葉杖で懸命に走るドクちゃんに声をかけた。Qちゃんとは言わずもがな、シドニーオリンピックの女子マラソン金メダリスト高橋尚子さん。ドクちゃんは「ベトちゃんドクちゃん」で有名になった結合体双生児の弟のほう。分離手術後二人とも元気に育ったが、ベトさんは2009年に他界、ドクさんは結婚して2人の子供の父となっている。
 今年1月14日にホーチミン市で開催された枯葉剤被害者救済「オレンジ・マラソン」。趣旨に共鳴したQちゃんとドクさんは先頭に立って走った。
「僕よりもっと大変な被害者がいっぱいいる。その人たちの助けになるのなら」と、ドクさんは言った。だが松葉杖を握って200bほど走った彼は、座り込んでしまう。6回も受けた尿道の手術部分がうずく。「痛くてだめだ」と珍しく弱音を吐いた。
 オレンジ・マラソンとは、2つの意味を隠し持つ。ひとつは、オレンジなど果物豊かなベトナムの意味。もうひとつはオレンジ剤(枯葉剤)を表す。

日本から20数人
 パルス・アクティブ社が主催する7000人のホーチミン市民マラソンに合流してオレンジ・マラソンの参加者は走った。コースはフルとハーフ、10`、5`から選べる。日本からのランナーは20数人。ベトナムの障害者たちも一緒に走った(歩いた)。救済資金は参加費に含まれている。だから大勢になれば救済金は増える。マラソンしながら、知らぬ間に被害者を支えることになる、というのがこのイべントのユニークさだ。
 気温20度、曇り空。
 当日は絶好のマラソン日和だった。日の出後の気温上昇を警戒して、フルマラソンは朝4時半の暗いうちにスタートした。障害者たちが参加したのは8時出発の5`ラン。10数人がオレンジ色のシャツと帽子をつけて市民にアピールした。
 車椅子での参加者や手を引かれて走るブラインド・ランナーにQちゃんは声をかけた。沿道の人々の拍手と声援が途切れることなく続いた。
 日本の市民組織「オレンジ・マラソンの会(会長・古田元夫・日越大学学長)」が提起したチャリティー・マラソンの企画に呼応して、ホーチミンには市民組織O・T=オレンジ・イニシアティブ=が結成された。代表はトン・ヌ・ティ・ニン女史。ベトナム戦争終結のパリ会談にも関わった元EU駐在ベトナム大使である。O・Iに対しては、参加者から100万円の義捐金が贈られた。
 男女の人気歌手のアトラクションも会場をどよめかせた。障害児全員の首に銀メダルがかけられた。子どもらはナマの体験に大喜びだった。

NHKなどが放映
 枯葉剤の犠牲者を支援することに注目したNHKは1月26日の「おはよう日本」で10分の番組を流した。TBSは高橋尚子に密着、3月のNEWS23で放映した。ベトナムのテレビ各局も速報。トイチェ紙はスポーツ面トップで「金メダルの尚子、障害者と走る」と報じた。リラン・バクレー監督のドキュメンタリー映画班も現地撮影を開始、この夏にはパート・1が完成した。今は続編制作のカンパを募っている。
 2019年1月、今度の正月にもオレンジ・マラソンは開催される。参加締め切りは12月7日だ。(問い合わせは電話03-3357-3377富士国際旅行社・オレンジ・マラソンの会)
 ランナーが走り抜けるコースは、戦争中は椰子の木に覆われていた湿地帯。米軍を脅かす解放戦線軍の縄張りだった。今は高層マンションが並ぶ住宅地に変貌している。
 50年前のサイゴン(現ホーチミン市)は大混乱だった。1968年、解放戦線の「テト攻勢」が始まった。解放側は都市を襲撃、サイゴンのアメリカ大使館はわずか9人の兵士に占拠されてしまう。その衝撃でジョンソンは大統領選を断念、米軍のベトナムからの撤退につながった。

障害児後をたたず
 当時は枯葉作戦が激しかった時期でもある。森に潜む解放軍を殲滅するために全森林を砂漠化せよ、と米軍は考えた。しかも、枯葉剤にはダイオキシンが含まれていた。ベトナムの被災者は480万人、ダイオキシン総量は500キログラムに達した。
 アメリカは汚染されたベトナム帰還兵に対しては充分な治療と補償を行なった。しかしベトナムへの補償は拒否している。
 今や完全復興したべトナム。ホーチミン市にはシャネルやグッチの有名ブランド店が並ぶ。バブルとされる急成長が戦争の傷跡を隠すのだろうか。一方で世代を次いで生まれてくる障害児。毎年のマラソンが支援の一助になるようにと、主催者らは夢を膨らませている。

中村梧郎(フォトジャーナリスト)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月02日

【リアル北朝鮮】 元徴用工裁判に踏み込む 南と共に日本の過去を清算=文聖姫

 10月30日、韓国大法院(最高裁)は元徴用工への賠償を新日鉄住金に命じる判決を下した。同様の訴訟は、約80社を相手に14件が係争中で、賠償命令はさらに続くものと思われる。

 この問題に関して、北朝鮮でも最近、立て続けに論評を出している。例えば、朝鮮労働党機関紙・労働新聞11日付は、「歴史に刻まれた特大型の過去の罪は決して覆い隠すことはできず、消し去ることもできない」として、「日本帝国主義への恨みと憤りを抱えているわが民族は、日本の過去の罪に対する謝罪と補償を千百倍にして受け取るだろう」と指摘した。

 国営・朝鮮中央通信は13日の論評で、「日本は当然、朝鮮人民に与えた人的、精神的、物質的被害に対して徹底的に謝罪し、国家的賠償をしなければならない」「日本にとって過去の清算は、絶対に避けられないし、避けてもならない問題」「代を継いで罪の償いを必ずさせるのが朝鮮民族の意志だ」などと主張している。

 目を引くのは、「わが民族」「朝鮮民族」という言葉だ。南北が力を合わせて日本の過去の清算に取り組もうと呼びかけているようにも見える。

 今年、南北関係は劇的に改善した。北朝鮮は、金正恩朝鮮労働党委員長が元旦の新年の辞で示唆したとおり、平昌冬季オリンピック・パラリンピックに参加した。それが皮切りとなって南北首脳会談が実現し、4月、5月、9月とすでに3回開催されている。もはや定例化したと言ってもよい。首脳会談は年内にもう一度、それもソウルで開催される予定だ。北朝鮮の最高指導者がソウルを訪れるとすれば、歴史的なことだ。

 日本は北朝鮮と過去の清算を果たしていない。今年、南北、中朝、米朝関係は進展があったが、日朝だけは進展の動きがみられない。北朝鮮メディアや関係団体は、過去の清算の重要性を強調し続ける。南北が共闘して、日本から謝罪と補償を勝ち取るべきだと呼びかけている。

文聖姫(ジャーナリスト、博士)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号

 
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2018年11月27日

【編集長EYE】 疑惑の土地に誕生「ハルミフラッグ」=橋詰雅博

 11月1日付日本経済新聞の見開き全面広告(22と23両ページ、全国紙では日経だけに掲載)には目を奪われた。<HARUMI FLAG>(街の名称)がデカデカと書かれていた。その中身は2020年東京オリ・パラ選手村として活用後に建てる大規模マンションを販売という広告だった。前日に売り主の三井不動産レジデンスなど11社が発売すると発表しており、同日付日経の東京面で来年5月発売などと報じている。

 目を奪われた理由はこの都有地(約13・4f)を巡り都民33人が

11社に超格安で売却したのは違法であり、小池百合子知事らに損賠賠償1200億円を請求すべきだと都に求めた訴訟を東京地裁に提起しているからだ(本紙17年10月25号で既報)。銀座から約2・5`の超一等地の売却額は129億6000万円だった。日本不動産研究所の調査報告書に基づき選手村という要因を考慮に入れて弾き出した金額と、都は言い張る。周辺地価は1平方b当たり約100万円と算出されていて、問題の土地は総額1300億円というのが一般的な相場だ。だから「投げ売り」と原告側は被告の都を追及する。

 肝心の日本不動産研究所の調査報告書の多くの部分は黒塗りで開示されており、一体、適正な価格はどのくらいなのかが裁判の大きな争点になっている。

 10月26日の第4回口頭弁論では、原告代理人の大住広太弁護士は原告の一人である不動産鑑定士が行った評価額を陳述した。土地は5つの街区に分かれていて、街区によって1平方b当たり100万から134万円で、その総額は1611億1800万円と述べた。大住弁護士は「92%も減額し、都民の財産が1470億円失う」と指摘し、都は大幅減額の根拠を示すべきだと迫った。

 被告代理人は、原告でもある不動産鑑定士の評価額は中立性を欠き、身勝手な主張と反論した。都側は形勢不利だ。次回弁論は来年2月19日。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年11月07日

【沖縄リポート】 ウチナーの未来はウチナーンチュが決める

 まさに「痛快!」だった。翁長雄志前知事の急逝に伴う沖縄県知事選(9月30日)は、内外の大方の識者の予想を覆し、安倍政権(自公・維新)の全面的支援を受けた佐喜眞淳候補を、翁長知事の遺志を継ぐ玉城デニー候補が8万票以上の大差で破り、当選した。

 徹底した争点隠しと、カネと権力を総動員した物量作戦が功を奏した2月の名護市長選に味を占めた政権側は、その「名護方式」(彼らは「勝利の方程式」と呼んだ)を今回知事選にも適用。前回知事選では自主投票だった公明党、前回は下地幹郎氏が立候補して3万票を獲得した維新の票を合わせれば佐喜眞候補が勝てると踏んでいた。

彼らのやり方は名護市長選にも増してすさまじかった。菅官房長官、小泉進次郎氏を筆頭に自公の大物政治家が次々と沖縄入り。公明党は全国から7千とも8千とも言われる運動員を送り込んだ。期日前投票は日を追うごとにうなぎ上り。企業動員の際、自分の書いた投票用紙を写メで報告させているという話に耳を疑った。ネット上ではデニー候補に対する誹謗中傷・デマが90%以上を占めていた。加えて、投票日前日には超大型台風24号が沖縄を直撃するというオマケまで付いた。正直怖かった。

これらのすべてを見事に打ち破ったウチナーンチュを私は心の底から誇りに思う。動員されても心を売らなかった人々、創価学会の三色旗を掲げて公然とデニーさんを応援した学会員、「デニってる」などの造語や斬新なアイデアで選挙を盛り上げた若者たち、ネットのデマを「ファクトチェック」で精力的に検証した地元紙…。「ウチナーの未来はウチナーンチュが決める!」と立ち上がった県民一人ひとりの総合力がこの勝利を導いたのだ。

翁長前知事がしっかりと築いた礎の上に県民はいま、デニー新知事とともに、自立・共生・多様性の「新時代沖縄」へ向けて出発した。

と、ここまで書いたとき、政府が埋め立て承認撤回の効力停止を求めて国交省に審査請求を行ったというニュースが飛び込んできた。14日の豊見城市長選で、デニー知事が支援した山川仁氏が当選し、この追い風を21日投開票の那覇市長選へ、と意気込んでいた矢先だ。国の言うことを聞かない沖縄への報復としか思えない。民意はまたも踏みにじられた!

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年10月25日号
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2018年11月06日

【神奈川支部例会】 本土との認識の差を実感 東海大生 沖縄取材体験を報告=保坂義久

神奈川支部では10月6日、神奈川県民センターで例会「若者は沖縄の今をどう見たか」を開いた。

2017年9月、沖縄戦跡のチビチリガマが沖縄在住の少年たちに損壊された事件は、沖縄でさえ戦争体験が若い世代に伝えられていないとして大きな衝撃を与えた。

東海大学文化社会学部広報メディア学科の羽生浩一教授のゼミでは、同年12月に沖縄を訪れ、映像を「歴史記憶を継承する難しさ」というDVDにまとめた。

今回の例会ではこのDVDを視聴し、沖縄取材に行ったゼミのOBと現役学生の話を聞いた。

DVDでは、地元の平和ガイドが、チビチリガマの集団自決と、昨年の損壊事件について解説。平和学習の見学から帰ってきた地元中学生にもインタビューし、沖縄国際大学と琉球大学の学生にも話を聞いた。最近の沖縄ヘイトといえる言説について琉球新報の島洋子経済部長にも取材している。

現場の空気感じる

DVD視聴後、ゼミOBと学生が報告した。今年3月に卒業し、テレビ番組制作の現場で働く阿子島徹さんは、仕事で行う街頭インタビューと沖縄取材体験を比較し、こちらでは10人に質問して1人か2人が答えてくれればいい方だが、沖縄では誰でも答えてくれると本土との違いを語った。

DVDではナレーションを担当し、現在は新聞社系の広告代理店で仕事をしている杉田颯さんは、空襲の被害の大きかった八王子出身、祖母が身内の犠牲に触れたがらないと自分の体験と重ね合わせた。

現在大学4年の寺牛恒輝さんは「友人が左派ヘイトの根も葉もない発言をリツイートしているのを見るとうんざりするが、自分も学ばない前は同じようだった。異なる立場でも互いに耳を傾けるのが大事だと思う」という。

3年生の高橋夏帆さんは、子どもの貧困をテーマにし、子ども食堂を取材した。食堂に入りづらい状況があると報告した。

澤村成美さんは、性的マイノリティーをテーマに決め、パートナーシップ制度について行政などに取材した。実際に辺野古のゲート前では、座り込む人が運び出される状況に驚いたが、作業終了時には互いに「お疲れ様」と声を掛け合うなど、現場でなければわからない雰囲気も感じたという。

中島こなつさんはガマを個人テーマにして調べていた。損壊事件について周囲のほとんどの学生は知らないという。

各自の報告の後、司会の野呂法夫支部運営委員から「様々な集会が開かれるが若者の参加は少ない。どうしたらいいか」と問いかけられた。

若者たちからは、直接話せるよう大学に出向いてほしいとかSNSの活用などの意見が出た。

記者の仕事を語る

後半は沖縄の新聞社でインターンシップ参加した体験を、沖縄タイムスで働いた高橋夏帆さんと、琉球新報で体験した専修大学3年の天野公太さんが報告した。

高橋さんのインターンシップは8月6日から12日間。3日目に翁長知事が亡くなり、あわただしい新聞社内を体験した。

通夜の取材にも同行させてもらったという。どんな緊急事態にも事実確認を疎かにしない新聞の制作現場を体験できてよかったと、高橋さんは語る。

天野さんが身近な人に沖縄に行くと話すと、「プロ市民とかいるんでしょ」という反応が返ってきたという。天野さんはSNSが出現する前の沖縄のイメージはもっと違っていたと指摘した。

天野さんは本土と沖縄との認識の乖離に気づかされたという。東京では米軍は決められたルールを守って訓練していると思われているが、現地へ行って、米軍がルールをも持っていないことを知った。

最後に藤森研支部代表が、JCJ賞資金のカンパを呼びかけた。集会の参加者は51人。

保坂義久

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年10月25日号
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2018年10月30日

【編集長EYE】 教育充実にも国家主義思想入り込む=橋詰雅博

 自民党は、衆参両院の憲法審査会で党の4項目改憲条文案を説明する。4項目は9条に自衛隊を明記、緊急事態条項の創設、参院選挙区の合区解消に加えて教育の充実だ。この中で教育の充実の中身は一般にあまり知られていない。その条文案では、第26条の第1項(教育を受ける権利)と第2項(教育の義務)は現行のままだが、第3項を加えている。加憲された文章は次の通りだ。

<国は、教育が国民一人ひとりの人格の完成を目指し、その幸福の追求にかくことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的な理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない>

 9月初旬に都内で講演した前川喜平・元文部科学省事務次官(63)は、この第3項をこう批判した。

 「『教育は国の未来を切り拓く上で重要だから環境を整備する』としている部分が問題です。逆に言えば、国の未来を切り拓けそうもない人間は対象外と解釈できます。ここに安倍晋三首賞の国家優先思想が混じり込んでいます。今春から小学校で教科として取り入れられた道徳もその一環です。

 戦後は個人重視と国家主義がずっとせめぎ合ってきたが、第2次安倍内閣以降は、国家の力が強くなっている。全体主義と言い換えてもいい考えが台頭し、その勢いを増しています」

  前川さんは79年4月当時の文部省に入省し、2017年1月退官した。40年近く行政官を務めてきた。

 「長年の行政官生活で痛感したのは『こんな程度の政治家をなぜ国民は選ぶのか』でした。そんな有権者が日本におびただしくいます。やはり民主主義を勝ち取っていないことが淵源です」

 そして今の世の中をこれほどまでに悪くしているのは「忖度だ」と指弾した。

 本紙インタビューに応じた1年ほど前よりも、前川さんは舌鋒鋭く安倍首相を攻撃している。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年10月25日号
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2018年10月16日

【映画の鏡】 息子の戦死は誤報だった 『延命は踊る』 イスラエル家族が巻き込まれた悲劇=今井潤

冒頭で軍の役人が玄関で「ご子息が昨夜戦死されました」と告げると気を失って倒れる母。父は黙って平静を装うが、役人の対応にいら立ちを覚える。軍の関係者が葬儀の打ち合わせに来るが、父は「遺体はあるんだろうな」と怒りを抑えることが出来ない。

 再び玄関の呼び鈴が鳴る。「大変な間違いでした。亡くなったのは息子さんではなく、同姓同名の別人でした。息子さんは無事です」軍人たちに怒りを爆発させる父。それを必死にたしなめる母。

 イスラエル北部国境付近の軍の検問所。息子が勤務する検問所のシーンは、緊張感に欠けた気だるい雰囲気が漂う。ゆっくりと上がる遮断機。ラクダ一頭がのったりと通り過ぎる。ある兵士が仲間に疑問をもらす。「なぜ戦っているんだろう。何のために?」「戦ってますよ、心理戦を。知らない相手と」銃を持ちながら、マンボを踊る兵士。

 若い男女を乗せた車がやってくる。身分証を調べる兵士。女がドアーを開けた瞬間、何かが兵士の足元にころがり落ちる。「手りゅう弾だ」考える間もなく銃を撃つ息子。そこには空き缶がひとつ。車内から白煙と血が静かに流れ出てくる。

 大型レッカー車が現場に来て、車ごとすべてを土の中に葬りさる。上官はいう「われわれは紛れもなく、ここで戦争をしている。起きたことは仕方ない。この一件は最初からなかったことにする」

 息子は帰宅への道を車で走っている。ラクダを避けるため、左にハンドルを切った車はがけ下に転落していく。この静かなロングショットがエンドとなる。(公開は9月29日ヒューマントラスト有楽町他で)今井 潤

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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2018年10月15日

【香川支部リポート】 戦争体験を語り継ぐ集い 「死の商人」への対応も論議=刎田鉱造

JCJ香川支部が参加する実行委員会の取り組み今年で39回目を迎えた「8・15戦争体験を語りつぐ集い」を8月15日に高松市で開きました。

武器輸出反対ネットワーク(NAJAT)代表の杉原浩司さんを迎え「平和のために今、何ができるか」、「武器輸出大国ニッポン」でいいのかをテーマにした講演を軸にフロアからも熱心な論議が相次ぎました。

 講演で杉原さんは、2014年安倍晋三政権が閣議決定だけで武器輸出を解禁したもののすんなりと成約ができているわけではない実情を報告した。さらに軍学共同をめぐるせめぎ合いや歯止めないアメリカからの武器輸入など戦争依存症が進行する安倍政権の「先取り壊憲だ」と訴えました。

 軍学共同について、会場から「どこからお金がきてもテーマによっては軍事か民生かの境界はあいまいだ。やり方次第ではないか」という意見が出されました。「軍事研究をおいしくする側が盛んにいってくるのがその理屈だが、狙いははっきりしている」「お金の出所をチェックすることが大事だ」「本来、文部科学省からちゃんとした研究費を出させることが大事だ」と盛り上がりました。

 また、武器輸出をしようとする大企業に「どう対応するのか」も論議になりました。ハガキ一枚でも抗議の意志を伝える。消費者の声は企業にとって抑止力になる。大企業メーカーにもメーカーに融資する銀行にも消費者がアクションを起こすことが大事と話しが進みました。

 大量に武器をつくって、売って、戦争して儲ける―戦争中毒≠フアメリカは手強いと話が展開しました。こんな意見も出されました。「日本がもつ憲法9条、守ろうという運動だけでは内向きでないか」「日本が戦争しなければいいという話ではない。アメリカに対して戦争はやめろいうのが先だ」「それをやる政府をつくろう」「展望はあると思う」。そのために今やるべきことは……。「集い」は8・15にふさわしい話し合いの場となりました。

刎田鉱造

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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2018年10月14日

【若い目が見た沖縄】 派遣第1号・専修大生 高江で初めて知った抗議理由=天野公太

 JCJでは今年度から「若い目が見た沖縄」をテーマに各支部などから推薦された若者を沖縄に派遣する企画を始めました。派遣に当たってはJCJが経費の一部を負担します。派遣第1号が専修大学文学部人文・ジャーナリズム学科3年生の天野公太さん(20歳)。神奈川支部から選出されました。天野さんに寄稿してもらいました。

 沖縄へ行くと話すと、「プロ市民とか、いるんだろ」とバイトの先輩が言った。政府と沖縄が対立して以後、かなりの若者の沖縄のイメージがそんな風に変化してきたように感じる。沖縄をたたく人々がかなり存在する。他方に基地撤去を願い続ける沖縄の人々がいる。とにかく自分で、現状を知りたいと強く思った。

 8月8日に訪れた時、高江のヘリパッドはすでに造成され、使われていた。それなのに抗議活動を続けている理由を、住民の方たちに聞いた。まず、米軍のヘリコプターやオスプレイの連日の騒音を挙げた。ブルドーザーが通る時のような90デシベルの場合もあるという。また、昨年10月には、住民の牧草地に米軍ヘリが不時着・炎上している。いつ落ちてくるのかわからない恐怖。私にも分かる気がした。
 しかしそれだけではなかった。ヘリパッドを含む高江の一帯は、絶滅危惧TA類のノグチゲラなど、貴重な動物が生息している森だと私は初めて知った。ノグチゲラの巣の上で米軍機が毎日爆音を立てていることを、どれだけの人が知っているだろう。ヘリパッドの近くで抗議活動をしていた那覇市在住だと言う女性は、「ただ高江の貴重な自然を守りたい」と話した。高江に住む男性は「なぜ抗議をしているのか。理由を知ってもらいたい」と肩を震わせて語った。
 沖縄を批判する人は、沖縄の人の話を聞かずに批判してはいないかと、考えさせられた。 

 名護市辺野古。8月12日、キャンプシュワブ前では、新基地建設の土砂投入を止めようと、多くの人が集まって声を上げていた。数十人。新聞やテレビで見るよりは少ないと感じた。近づくと高齢の方々が目立ち、若者の姿はほとんどない。いわゆる「プロ市民」と呼ばれるような団体は見受けられなかった。抗議はゲート前で行われていた。座り込んで動かない人もいた。
 海岸へ回ってみる。目の前に広がる辺野古の海は、青々として、息をのむほどに美しい。しかしその海の一角は、すでにオレンジ色のブイで囲まれてしまっていた。

 8月15日、再び高江を訪れた時、住民の男性に、抗議活動に若者が少ない理由を聞いてみた。「表現の仕方が違うのでは」というのが、答えだった。沖縄の若者は基地問題に関心がないのではなく、SNSなど、違うやり方で抗議をしようと考えているのだろうか。

 那覇市・奥武山陸上競技場で8月11日に開かれた、辺野古土砂投入に反対する県民大会にも行った。台風が接近して雨が降りしきる中、7万人(主催者発表)が集まった。その3日前に急逝した翁長雄志知事の追悼ということもあったのかもしれないが、一つの場所にこれほど人が集まることに私は驚かされた。他の県でこんなに住民が集まることはあるだろうか。沖縄の人々の基地問題に対する意識の強さを感じる。ここでは、集まっている中にたくさんの若者がいた。

 本土と沖縄に意識の差は確かにある。しかし、私はまだ沖縄に寄り添うことができると思う。それは、高江や辺野古で会った人たちが、私のような若者に対しても、真剣に「本土に現状を伝えてほしい」と語ったからだ。
 バイトの先輩や友人にも「一度、沖縄に行ってほしい」と言いたい思いを、強く感じている。

天野公太(専修大3年生)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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2018年10月13日

【JCJ賞資金強化】 800万カンパ獲得、運動スタート 存続が危うい、1年間実施=大場幸夫

 JCJ賞資金強化大運動がスタートしました。8月18日にJCJ賞贈賞式の会場でカンパを訴えるリーフレットを参加者に配布し、運動は来年8月の贈賞式まで1年間、実施します。すでにリーフレットは読者の皆さんにも届いているはずです。
 改めて皆さんにこの運動へのご協力をお願いいたします。

 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、年間の優れたジャーナリズム活動を顕彰するため、1958年以来、JCJ賞を設け贈賞してきました。今年61回目を迎えました。
 新聞・放送・出版ジャンルのほか市民運動や地域活動の記録なども含み、個人・グループを問わず応募作を募り、推薦委員会が作品を絞り込んでJCJ賞選考委員会に推薦し、そこで選考・討議により受賞作品を決定してきました。いま国内外を問わず、「排外主義」や「フェイクニュース」が拡大され、情報開示どころか「真実」が隠蔽される憂慮すべき事態が進行しています。事実を追及し、真実を極め、権力の専制支配や横暴をチェックして広く市民に知らせるジャーナリズムの役割はますます重要になっています。
 こうした活動を担うジャーナリストや市民の奮闘を励ますJCJ賞は、これまで以上に期待されていると思います。私たちはこの責任を強く認識し、JCJ賞活動に多くの方々が参加してほしいと考えています。

 しかし、JCJ賞活動を支える資金は、2012年にカンパを訴え皆さまのご協力を得ましたが、それ以降も毎年の選考過程に80〜100万円の経費がかかり、この先10年維持できない状態になっています。JCJ賞の今後の活動を支えていただくために是非とも皆さんにご協力を求める次第です。

◆目標は800万円 、 個人1口2000円、 団体1口10000円、複数口のご協力を。
振込先:郵便振込は口座番号 00170-3-457209 日本ジャーナリスト会議JCJ賞資金
銀行は三井住友銀行神保町支店(001)普通預金 口座番号 2122916 日本ジャーナリスト会議JCJ賞資金

◆期間は18年8月から19年8月までの1年間。  

◆運動はJCJ賞資金強化実行委員会が進めます。 

大場幸夫

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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2018年10月12日

【沖縄リポート】 翁長氏 死してなお県民動かす=浦島悦子

 沖縄県知事選(9月30日)の前哨戦とも言われた名護市議選(9月9日投開票)は、熾烈な選挙戦を経て与野党同数(定数26)の結果となった。14人の立候補者全員の当選をめざした野党(稲嶺前市政を支えてきた議員及びその後継者)は1議席減らしたものの、2月の市長選敗北の逆風の中でよく健闘したと思う(野党側当選者のうち1人は、告示直前に「中立」に立場を変えるなど複雑な様相もあるが)。  
 
 とりわけ私の住む東海岸では、辺野古新基地反対運動の中から生まれた現職議員(3期)に対し、渡具知現市長派の新人が立候補(地域住民は「刺客」と呼んだ)。地域の企業(いずれも零細だが、過疎の地域では大きな存在だ)を総動員して選挙活動を展開した。当新人は、名護市長選の直前に官邸主導で作られた「住民団体」の代表だ。
 これまでと違う選挙の様相に危機感を持った住民・市民の奮闘で現職議員は当選し、新人は次点で落選。ほっと胸をなでおろした。辺野古新基地建設の地元である名護市東海岸のうち久辺3区(久志・豊原・辺野古)をすでに抑え込んだ安倍政権が、残る二見以北10区を抑え込み、「地元はみな基地に賛成している」というお墨付きを得ようとした、その目論見を跳ね返した意義は大きい。

 息つく間もなく9月13日には県知事選が告示された。混迷していた「オール沖縄」の知事候補者選定は、翁長知事の残した遺言により急転直下、玉城デニー氏に決定。死してなお県民を動かす翁長氏の力を示した。
 翁長知事の遺志に従い沖縄県は8月31日、辺野古埋め立て承認を撤回し、海・陸ともに基地建設工事は止まっている。告示日の出発式をルーツ(母親の出身地)である伊江島で行った玉城デニー候補は、名護市街地で第一声を上げた後、辺野古の座り込みゲート前で多くの市民・県民の歓呼の声に迎えられ、翁長知事の遺志を継いで辺野古新基地建設を断固阻止する決意を述べた。

 沖縄女性と米軍人の間に生まれ、翁長知事が「戦後沖縄の歴史を背負った政治家」と称した玉城氏と、日本政府の意を受けた自公・維新が推す佐喜眞淳候補との厳しい超短期決戦が始まった。「マキテーナイビランドー」という翁長氏の声が聞こえてくるようだ。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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2018年10月08日

【リアル北朝鮮】 中露との友好をアピール 非核化への決意 本物か=文聖姫

 9月9日、北朝鮮は建国70周年を迎えた。軍事パレードには大陸間弾道ミサイル(ICBM)の姿はなく、5年ぶりに行われたマスゲームの演出も融和ムード漂うものだった。6月の米朝首脳会談での合意にもかかわらず、非核化交渉が進まないことを意識してか、米政権を刺激することは避けたようだ。それは、軍事パレードを実況中継しなかったことにも表れていた。

 そうしたなか、金正恩朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領に書簡を送り、2度目の米朝首脳会談を要請していたことが明らかになった。米ホワイトハウスのサンダース報道官は10日、この事実を表明したうえで、米側がすでに調整に入っていると述べた。2回目の米朝首脳会談が遠からず開催されるかもしれない。

 一方で、金正恩委員長は、建国70周年に際して訪朝した中国の栗戦書・全国人民代表大会常務委員長、ロシアのマトヴィエンコ連邦評議会議長らと相次ぎ会談。中国とロシアが後ろ盾にあることをアピールした。どちらもナンバー3の大物。トップが直接来ることはなかったものの、中露ともに北朝鮮に配慮した形だ。軍事パレード終了後、金委員長は栗常務委員長とともにひな壇のバルコニーを歩きながら観衆に手を振り、マスゲームでは中国を意識した演出も見られるなど、北朝鮮は特に中国との良好な関係を大々的にアピールしたかったようだ。

 ところで、2度目の首脳会談では、パフォーマンスにとどまらず、実質的な進展が米朝双方に求められよう。北朝鮮の非核化への決意は本物なのか。

 金委員長は5日、訪朝した文在寅・韓国大統領の特使代表団と会見した際、次のように語ったと6日発の朝鮮中央通信は伝えた。

「朝鮮半島で武力衝突の危険と戦争の恐怖を完全に追い出し、この地を核兵器も核の脅威もない平和の拠り所にしようというのが我々の確固たる立場であり自身の意志だ」

文聖姫(ジャーナリスト・博士)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
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