2019年03月05日

《スポーツコラム》楕円球が生むW杯の絶妙な空気=大野晃

 ラグビーのワールドカップ(W杯)開幕まで半年に迫った。全国12会場では施設整備が完成を迎え、9回目で初めてアジアの日本で開催される4年に1度の世界一決定戦への意気込みを示している。過去8回の大会を現地で目の当たりにしてきたがスポーツの原点を見つめ直す好機である。
 
 ラグビーの魅力は、気まぐれに転がる楕円球を集団で制御して前へ運ぶことにある。阻むものとの不測の激突を結束して乗り越え、かわし、つなぐ。鍛えられた体と知恵と技術、そして精神力で結束を持続する。総合的人間力の競い合いだ。安全を求めてルール改変が進められたが、対戦者同士の協力とフェアプレーがなければケガが続出する危険な競技でもある。 
 競技者はもちろん観戦者もその全体を楽しむ。
 最高峰のプレーが集中するW杯には人間の営みに熱中する空気がある。 
 観戦者たちが自然に溶け込んでゲームの余韻に浸るのも特徴だった。国代表の勝利を喜び大騒ぎするが、排他的でないのは熱中したことの満足感があったからだろう。
 
 過去の大会では、南アフリカ・マンデラ政権の政治利用やテレビ放映権をめぐる商業主義的利用が目立つようになり、興行化が進んだが、競技者と観戦者が醸し出すW杯の空気に大きな変化はなかった。日本代表候補たちが夢の舞台へ懸命な努力を続けているのは、W杯の空気に浸りたいからに違いない。 
 会場の自治体などは外国人観光客の誘致期待が先行しているようだがW杯の空気が、人と人との根源的なつながりを再認識させそうだ。  
 大会興行の負担対策や巨大化した施設の大会後の有効利用策など難問山積だが、W杯の空気と人のつながりを重視した対応が求められる。
 興行が終わったら遺産処分では、W杯の空気は引き継がれない。
 マスメディアには日本の躍進を追うばかりでなくW杯の空気を伝える努力が不可欠だ。(スポーツジャーナリスト)
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2019年03月02日

《沖縄リポート》「辺野古利権」が自然を破壊 =浦島悦子 


 2月9日の沖縄地元2紙は1面トップで、辺野古新基地建設のための埋め立て工事で、政府は大浦湾側の超軟弱地盤改良工事に、浅瀬も含め約7万7千本の砂杭を打つ予定だと報道した。これまで報道されていた4万本、6万本をさらに上回る規模に県民は絶句した。軟弱地盤の最深部は水深90mにも及び、専門家によると作業できる船は日本にはないという。

 埋め立て工事の先行きは全く目途が立たないことがますます明白になった。にもかかわらず、政府は、現在、土砂投入している工区の隣接工区に土砂投入を3月25日に開始すると発表した。さらに、埋め立て土砂の陸揚げをスピードアップするために新たな護岸の建設にも着手した。
沖縄の民意も県の指導も一切無視し、違法・不法の限りを尽くしてここまで強行するのはなぜなのか、不思議でならない。安倍晋三政権がいくら米国に忠実だとしても、自然条件が許さないから工事は無理だと伝えれば面子を潰さずにすむ。血税を湯水のように使う(「4万本」の段階で2兆5500億円と沖縄県は試算)この計画を、「国の威信」を保ったままやめることのできる絶好のチャンスだと思うのだが…。

 考えられるのはこの巨大工事にまつわる利権だ。沖縄防衛局のHPで辺野古側浅瀬埋め立て工事の落札状況を見ると、安藤・間、大成建設、五洋建設、大林組、東洋建設等々国内大手ゼネコンの名前がずらりと並ぶ。工事が途中で頓挫しようが、その間に儲ければいいということか。沖縄に残るのは破壊された自然だけ。

 2月24日に行われる県民投票は、そんな未来にさせないための行動でもある。市長が実施を拒否した5市の市民らの「投票権を奪うな!」という声が市政を揺るがすほどに高まり、「『辺野古』県民投票の会」の元山仁士郎代表の「全県実施」を求めるハンガーストライキが大きな反響を呼び、公明党も自民党も支持者の声を無視できなくなった。「賛成・反対」の2択に「どちらでもない」を加えた3択という変則的な形ではあれ、全県実地にこぎつけたのはひとえに市民活動の成果だ。その過程は苦難に満ちていたが、民主主義の実践でもあった。それを投票に活かし、圧倒的「反対」の民意を示したい。

 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年2月25日号
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2019年02月25日

【編集長EYE】 東欧の陸上イージスの経費は米国が負担=橋詰雅博

 米国務省は1月末に安倍晋三政権が購入を決めている陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」2基などの売却を承認し、米議会に通知した。売却額は21億5千万j(約2350億円)。当初は一基約800億円と算出されていたが、米国による価格つり上げで大幅にアップ。しかも30年間の維持・運用経費などを含めると合計6千億円にも跳ね上がる。

 安倍政権が爆買い≠オた陸上イージスは、強力なレーダー波の発生による電磁波問題がかねてから指摘されている。イージス艦のレーダー作動時では、乗員の甲板活動が禁じられるほどシステムが発する電磁波は強力だ。日本での配備予定地である秋田市と山口県萩市阿武町の地元でも、電磁波が健康や医療機器、防災無線、テレビ放送などに悪影響を与える恐れがあると配備反対運動は広がっている。阿武町在住の女性グループは有事の際、標的になる可能性があるので身の安全が心配だと計画撤回を求めている。

 地元住民の反対の声に押されて菅義偉官房長官はレーダーの電磁波影響調査の実施を明言。現在、防衛省は秋田と山口の両県で陸上自衛隊の対空レーダー装置を使った電磁波の影響調査を行っており、結果を4月以降に地元で説明する。しかし、そのレーダーは実際に陸上イージスに搭載される米ロッキード・マーチン社製ではない。代替品≠使った影響調査であるから結果に疑問が生じる。

 陸上イージスは2016年にルーマニアに配備され、ポーランドへの配備も近い。米国を狙うイランの弾道ミサイルを撃ち落とすためだから米国がコストを負担。日本の2基も米軍ハワイとグアムの両基地を狙う北朝鮮ミサイルに対処するためだが、コストは日本が負担する。住民を軽視した上に多額の血税を使い米国を守るというわけだ。今月末に2回目の米朝首脳会談がある。米朝関係は好転している。陸上イージスは無用の長物になるかも。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年2月25日号
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2019年02月13日

【若い目が見た沖縄】 平和集会に参加 中2のリポート 戦争できる国止めなければ=北村めぐみ・長妻萌

 平和や社会問題について学び交流する「高校生平和ゼミナール」主催の全国高校生平和集会が昨年12月22〜24日、沖縄で開かれ、広島から私が引率して中2と小6の姉妹が参加した。
 各地から小中高生58人が参加。南部戦跡を見学、辺野古ゲート前や米軍ヘリが墜落した沖縄国際大で学習した。グループ討議で、沖縄・広島以外の生徒から「米軍基地容認論」や「米軍基地本土引き取り論」が出たのにはショックを受けたが、これが日本社会の縮図に思えた。姉の長妻萌さんのリポートを紹介する。

北村めぐみ(広島支部)

 私がこの集会に参加したのは、広島は被爆地で学校でも平和について学ぶけど、沖縄戦については学んだことがないので、この機会に知ってみたいと思ったからです。

 一日目は、轟の壕とひめゆり平和祈念資料館と白梅之塔を見学した後、沖縄戦体験者の中山キクさんの話を聞きました。轟の壕に入り灯りを全て消すととても暗く、ここで過ごすのは大変だったと思いました。ひめゆり資料館では沖縄戦体験者の証言を読み、戦争は本当に悲惨なものだったと知りました。中山さんの話から、当時の様子がリアルに伝わってきてよく知ることができました。

 二日目は、辺野古ゲート前に行き、前市長の稲嶺進さんと島袋文子さんの話を聞きました。その後2004年に米軍のヘリコプターが墜落した沖縄国際大学で当時の話を聞き、屋上から普天間基地を見て、前泊博盛教授の話を聞いた後、教室で「基地問題について考える」というテーマでグループ討議をしました。

 島袋さんは、沖縄戦で家族を守るために苦労された時のことを思い出して話すのは辛いはずなのに、次世代の私たちの事を考えてくれていることにとても感動しました。島袋さんたちが、基地を造るのをやめさせようと毎日座り込みをしていてとても努力をされていることを知りました。

 沖縄戦について詳しく知ることができ、あらためて戦争の悲惨さを知りました。今の日本は戦争のできる国にしようとしているので私たちの世代が戦争を体験した人たちの気持ちも踏まえて、戦争をしようとする人達を止めていかなければならないと思いました。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年02月12日

【支部リポート】 広島 講演会を主催・共催・協力 白井聡、相澤冬樹、本間龍の各氏話す=難波健治

 広島支部は、昨年秋から年末にかけて、広島市内で3つの講演会[o1] を主催、共催、協力し、一つのアピールを出した。

 毎年9月2日前後に催す恒例の「不戦のつどい」。本年度は、京都精華大学講師の白井聡さんに「平成の終わりと『戦後の国体』の終焉」と題して講演してもらった。若者たちの間でも広く読まれている『国体論 菊と星条旗』の著者が被爆地広島で何を語るのか、と市民の関心も高く、会場は141人の聴衆で埋まった。

 11月19日には、政府から独立したNHKをめざす広島の会(略称・NHKを考える広島の会)設立4周年のつどいを、広島マスコミ九条の会とともに共催。NHKを8月末に退職し大阪日日新聞に移籍した相澤冬樹氏を呼んで「森友事件の本質と移籍の思い」を語ってもらった。その後の相澤氏の活躍はご存知の通りだが、当時はまだ「関西圏の外に出て講演するのはこれが初めて」と言い、抑制のきいた話し方でNHK大阪での報道の実態を明らかにした。狭い会場からあふれるほどの105人が参加した。

 そして12月2日。JCJ広島のメンバーの多くが世話人として参加し、事務局長も務めている市民団体・ヒロシマ総がかり行動が主催する、「国民投票法」を学習する講演会があった。地元の山田延廣弁護士が法の仕組みと問題点を解説、広告代理店・博報堂に18年間勤務したジャーナリストの本間龍さんが「電通の広報戦略を暴く」というテーマで話した。市民約150人が集まった。

 そして12月13日には「市民の願いにこたえる広島市長を誕生させよう」とのアピールを、広島マスコミ九条の会、NHKを考える広島の会との3者連名で出した。11月に広島に里帰りしたカナダ在住の被爆者サーロー節子さんが「核兵器廃絶のために具体的な行動を起こそう」「広島からもっと発信を」と訴えたことに反応した動きでもある。いまこの呼びかけは4月の市長選挙を前に、市民の間にさまざまな動きを呼び起こしつつある。

難波健治

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年02月05日

【全国交流集会東京報告会】 災害大国なのに手薄い「公助」 防衛費の増強で置き去り=古川英一

 「戦闘機を100機も購入するという、へんな時代に。バランスが悪すぎるのでは」―来年度の防衛費について、去年12月のJCJ全国交流集会の東京報告会で出た声だ。
 全国交流集会についてはすでに本紙でも報告(11月25日号)したが、去年10月に2泊3日で熊本地震・九州北部豪雨の被災地を回り、被災者や医療、メディア関係者から話を聞いた。その体験を一過性にせず、参加者が追体験し、共有し合うため2カ月後に東京で報告会が開かれた。

復興とはほど遠い
 交流集会を企画した北九州支部のジャーナリスト兼歯科医師の杉山正隆さんが今回、問題提起したのは安倍政権下での「自助・共助・公助」論に、どのような対抗軸を示していけるか、であった。それを災害という本来ならば国が一番責任をもって支援しなければならない場において検証していこうというのが、交流集会で被災地を回った狙いでもあった。
 報告会では杉山さんが被災地を回った3日間を映像と共に振り返った後、参加者が各自感想や意見を出し合った。それによって安倍政権のもとで進行する「自助・共助・公助」による政治のひずみが改めて浮き彫りになった。というのも、私たちが訪れた被災地は、熊本地震からは2年半、九州北部豪雨からは1年3カ月余りが経っていたのに「復興」とはほど遠く感じられたからだ。杉山さんは「災害の被害が過疎地で大きくなる傾向があり、その場合、地域の力だけでは財政面などから立ち直りは難しい」と指摘した。  
 意見交換では医療関係の参加者からジャーナリズムの側にとって、気づきとなる意見が多く出された。北九州市の看護師の女性は「出身地が台風に見舞われるので、災害には太刀打ちできないという実感で、それを埋めるのが国の支援ではないか」と述べた
 保険医を束ねる全国保険医団体連合会の男性は、九州北部豪雨の時に医療活動にあたった医師が、被災者の投薬代を自己負担したことを聞き、支援が現場の人たちの倫理観に支えられていることに驚いたとして「人の生死が関わる場所では薄氷を踏むような状態であることを感じた。自助・共助・公助というとするりと聞き流してしまうが、災害時の国の支援の薄さを感じた」と憤りをこめて語った。

国に粘り強く発信
 また、阪神淡路大震災以後、全国各地の被災地の支援を続けている兵庫保険医協会の男性は「行政は復興と言いながら被災者に向き合っていないと感じた。それが取り組みの原点で、一人ひとりの暮らしを取り戻すことを政府に向き合わせなければ」と述べた。
 さらに「防衛費の増強の一方で被災地の問題がある。それを権力に対して粘り強く発信していかなければならない。そして記録し続けること、記録しなければ忘却するし、記録することも抵抗ではないか」と呼びかた。
 そういえば、この報告会も、被災地を巡った交流会をまさに記録するものではないか。そして災害の多い日本で、災害対策や被災地の支援に時の政権がどのように向き合っているのかが、政権を測るリトマス試験紙≠ナはないだろうか。そのリトマス試験紙の色を絶えず確かめていくことが、私たちジャーナリズムに課せられているのである。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年01月31日

【シンポジウム】 戦場取材と自己責任論 シリア拘束 安田純平さん語る=編集部

 髭をたくわえ、黒いシャツを着た痩身の男性が、ごく自然体でむしろ飄々とした感じで壇上に上がった。安田純平さん。拘束されていたシリアで3年4カ月ぶりに解放され、去年の10月に帰国したフリージャーナリストだ。      

安田さんを招いて、戦場取材の意義と「自己責任」論について考えるシンポジウムが、去年12月に、東京で開かれた。司会を務めた月刊「創」編集長の篠田博之さんは「ジャーナリストが戦場に行く意義が伝われば、極めて日本的な、自己責任論など出てこないのではないか」と議論の口火を切った。

拘束者いまだ不明

安田さんはまず、なぜ戦場に行くのかについて「対テロ戦争では『テロリスト』と人間を記号にあてはめる。権力やメディアにテロリストと呼ばれた時点で人権がゼロになってしまう。しかしそう呼ばれた人たちは生身の人間であり、それぞれの人生があることを現場で見ておきたかった」と淡々とした口調で語った。また、単独でシリアへ入ったことへの批判や自己責任論に対しては「今になっても誰に拘束されたのか、自分でも分かっていない。批判されるのはかまわないが、事実関係をきちんと知ったうえでしてほしい。ジャーナリズムは事実を明らかにするもの、事実に基づくことの重要性が共有できなければ話ができない」と、この時の口調は強く感じられた。

シンポでは戦地での取材にあたってきたフリーやメディアに属するジャーナリストたちも登場し、各人こう指摘した。

TVキャスターの金平茂紀さんは「政府に従わないなら叩いても当然、今の政権を支持する人たちが声高に叫ぶ、同調圧力をかけてはじき出していこうという風潮だ」と、自己責任論の声が大きくなる背景を分析した。中東ジャーナリストの川上泰徳さんは「なぜ中東に行くのか、戦争が続いているからだ。戦争がどういうものか、想像するのではなく行って、調べて、伝えるのがジャーナリスト。しかし自己責任論が広がると、メディアは委縮してしまう」と指摘した。なぜ危険を冒してまで戦場へ行くのか?この問いにアジアプレスの野中章弘さんは「戦争は我々の世界で起きている最も不条理なことで、そこにジャーナリストが取材する価値がある」と答えた。

先行きはまだ未定

 シンポの中で浮かび上がってきたのは、今の日本で広がっている、外の世界に目を向けない排外主義だ。そこには中東で起きていることがいつ日本で起きるかわからない、という想像力の欠如がある。さらに、若い人たちの多くが、中東だけでなく沖縄や福島で起きていることが全部、自分の外部にあることとして、ジャーナリストと若い人たちとの間で対話が成立しない状況にあるという指摘もあった。

こうした排外主義にどう向き合うのか?一つの問題提起が、次の問題を連鎖的に引き寄せるという、会場の参加者にとっても宿題を与えられた形だ。

それは私たちの想像を絶するような体験をした安田さんが、私たちに気づかせてくれた問いでもあるのだろう。「これからどうするのですか?」―会場からの問いに安田さんは、「これからどこへ行くのか、事前には言えませんし、まだ決めていません」と穏やかな表情で答えていた。

(編集部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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【映画の鏡】 穏やかな家庭で銃撃事件 『ナポリの隣人』  駆けつける父親と娘の葛藤=今井 潤

高齢化社会は世界共通で、映画も「ガンジスに還る」(インド)、「ボケますから、よろしく」(日本)と老人問題を扱った作品が増えている。

この作品もナポリのアパートにひとり住む老弁護士のロレンツオが主人公だ。今は引退し、妻は数年前に亡くなり、法廷通訳をしているシングルマザーの娘とクラブ経営の息子がいるが、関係は良くない。娘は父の女性関係を許せずに来ている。

 そんなある日、アパートの隣にミケーラと夫のファビオと二人の子供が越してきて、バルコニーでつながっているので、隣人の付き合いが始まる。食事に招かれたロレンツオは、まるで本物のお爺ちゃんのように二人の子供と遊び、ミケーラとファビオと楽しく食事をし、おだやかな時間を過ごす。束の間の疑似家族のようだ。

 しかし、事件は起きる。ある雨の夜、ファビオがミケーラと二人の子供を撃ち、最後に自分も自殺したのだった。ロレンツオは重体で病院へ運ばれたミケーラのもとに駆け付ける。ミケーラの父親のふりをして、病棟に入り込んだことがわかり、息子はあきれて帰るが、娘は父親を見つめていた。ミケーラのそばで語り続けるロレンツオだったが、通報されてしまう。ロレンツオと実の娘はわかりあえることが出来るのか?

 映画の中盤で、ロレンツオとファビオがそれぞれナポリの古い石壁と石畳の路地を歩くシーンがカットバックされるが、二人の孤独が象徴化されていて胸に響いてくる。21世紀のネオリアリズムという印象が強く漂っている。

(公開は2月9日(土)から神田・岩波ホール)

今井 潤

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年01月30日

【市民活動】 高松市「12・8の集い」戦争体験を胸にしまわず話す=刎田鉱造

JCJ香川支部も参加する8・15戦争体験を語りつぐ集い実行委員会が主催した「12・8って何の日?」を、今年も12月8日に高松市で開きました。市の平和資料館がある「たかまつミライエ 」6階でDVD「戦場のタイムテーブル・真珠湾攻撃」、1941年12月8日のドキュメントフィルムを見た後、参加者がグループをつくって話し合いました。

 話し合いは今様のワールドカフェ式です。30人あまりがほぼ5人程度のグループに分かれて、それぞれ自分の戦争に関わる体験や見聞を出し合いました。15分話すごとに別のグループに移動しながら2時間近く費やしました。

 1945年8月までの戦争そのものを語れる人はもう少数です。それでも「私は軍国少女だった」と学校であったこと、教わったことを丁寧に思い出して語る人、「統制と配給で商売がなりたたなくなる。そこへ働き手の父親が召集されて、一家は引っ越し連続で……」など初め口にする物語や、「戦時中、飛行場をつくるときには朝鮮人が働いていて、近くに掘っ建て小屋たててひどい扱いだった」「戦後でも散髪屋さんが『朝鮮人お断り』と書いた紙をはっていた」――そんな話が次々と聞こえました。

 これまでの私たちの取り組みでは、講師の話を聞いて感想、意見を交換することがほとんどで、高松空襲といった特別の日の出来事以外に自分たちの身に起きたこと、見聞きしたことを語ることはほとんどしてきませんでした。それだけに今年の「12・8の集い」は新鮮でした。語るべき何事かを胸にしまって置いてはいけないことを改めて感じました。

刎田鉱造(香川支部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年01月27日

【編集長EYE】 あの「ハズキルーペ」永田町で話題に=橋詰雅博

 政党支持率1%台に沈む野党第2党の国民民主党(代表・玉木雄一郎衆院議員)は、第1党の立憲民主党との違いを強調し、支持率浮上に懸命だ。国民投票法改正案を真っ先に公表したのもそのためである。@政党によるテレビCMの禁止A投票運動を行う団体の資金の上限は5億円B国政選挙との重複回避―がその骨子。  

 憲法問題で野党との話し合いが暗礁に乗り上げていた自民党と公明党はこの改正案に乗り気だった。

 「改憲作業を急ぎたい安倍官邸が『改正案をまるのみして、国民民主党を取り込め』と自民党の下村博文憲法改正推進本部長にハッパをかけたのです。しかし、11月の『改憲論議しない野党は職場放棄』の下村発言で野党が反発し、官邸の思惑は頓挫した。だが、改正案の取り込みを官邸はあきらめたわけでない」(国会事情通)

 また、改憲をめぐり永田町では奇妙なウワサが流れている。ウワサの主はメガネ型拡大鏡「ハズキルーペ」の製造販売会社の会長兼CEOの松村謙三氏(60)だ。松村氏は4歳年上の安倍晋三首相と同じく成蹊大出身。今までさまざまな会社を買収して築いた「松村グループ」の総帥で、経済同友会会員だ。安倍友≠ゥは、はっきりしないが……。

 ハズキルーペの何がそんなに心配なのか。国民投票法改正に絡む都内の集会に参加していた広告業界に詳しい著述家の本間龍氏は、こう指摘した。

 「ハズキルーペがメインスポンサーになっているのは43番組。急速に増えていて、情報番組系が70%占めている。発議後の国民投票運動がスタートしたら、ハズキルーペのスポンサー番組のCMの中身が変化するのではないと危惧されている。改憲を打ち出した意見CMなどが流れる可能性がある。スポンサーだからと言って、簡単にCMの中身が変えられるのかという意見もあるが、CM審査を行う考査セクションをパスすれば問題ありません」

 ウワサで終わることを願うのみだ。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号
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2019年01月25日

【JCJ沖縄】 2月9日集会 「遅すぎた聖断」上映 各賞合同祝賀会も=編集部 

 2017年2月に結成されたJCJ沖縄は、2月9日(土)に那覇市で集会を開く。結成当時@年1回は講演会やシンポジウムなどを開催A同時に県内メディアが受賞した各賞合同祝賀会を開く―という活動方針案が提示された。今回、それを実現する。

 JCJ沖縄事務局長の米倉外昭さん(琉球新報)によると、集会の中身は3つに分かれる。まず1988年にRBC琉球放送が制作した「遅すぎた聖断〜検証・沖縄戦への道〜」(写真=JCJ賞受賞)をRBCホールで15時から40分間上映する。今年4月に天皇の代替わりが行われることが上映のきっかけになった。番組は、昭和天皇の「聖断」が1945年8月13日ではなく、もっと早くに実施されていたならば、壮絶な沖縄戦の開始もなく、15万人という犠牲者を出すことはなかっただろうと昭和天皇の戦争指導と戦争責任を問う内容だ。

これは近衛文麿元首相が45年2月14日に昭和天皇に早期の「終戦」を進言したが、これに対して「もう一度戦果をあげてからではないと」と昭和天皇が一蹴したエピソードが根拠になっている。上映後、当時番組を制作した人につくったいきさつなどを報告してもらう。

 次に同じ会場で16時から各賞合同報告会が行われる。昨年4月から現在まで受賞した県内のメディアの代表やジャーナリストがあいさつする。17時に終了予定。メディアやJCJの各関係者に声をかけて参加を誘う。入場無料だが、事前に申し込みが必要だ。

 そして18時から県庁前の「花兆萬亀」で合同祝賀会を開催。会費3000円。

 参加する橋詰雅博事務局長らがJCJを紹介したリーフレットやJCJ賞カンパ要請チラシ、月刊機関紙「ジャーナリスト」、東海大と共同制作した冊子「JOURNALISTs」などを会場で配布する。

(編集部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年1月25日号

 
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2019年01月09日

【映画の鏡】 ホロコースト逃れた88歳 『家へ帰ろう』 仕立てたスーツを届ける旅=今井 潤

アルゼンチンに住むユダヤ人の仕立て屋アブラハム88歳は自分を施設に入れようとする家族から逃れ、スペイン、フランスを経てポーランドへ向かうための旅に出る。アブラハムの旅の目的は自分が仕立てたスーツを友人に届けることだ。

 友人はホロコーストから逃れたアブラハムを父親とけんかをしてまで匿った命の恩人だ。最終目的地のウッチは第2次大戦中にナチスによってユダヤ人30万人、ポーランド人1万人以上が犠牲になったところだ。

過酷なホロコースト体験からポーランドとドイツという言葉を口にしないアブラハムはゆく先々で人々をてこずらせる。マドリッドのホテルの女主人、パリからドイツを通らずポーランドへ列車で訪れることが出来ないかと四苦八苦するアブラハムを助けるドイツ人

の文化人類学者など、旅の途中で出会う人たちはアブラハムの力になろうと手助けするシーンが続く。

 そしてたどり着いたウッチの街は70年前と同じたたずまいをしていた。アブラハムは親友と再会できるのか、奇跡は起きるのか。

 ブエノスアイレス出身のソラレス監督は自身の祖父の家では「ポーランド」という言葉がタブーであったことから発想を得て、この感動作を完成させた。

 主人公のアブラハムの着ているジャケットの色もエンジやグリーンの立縞で、いつも違うアスコットタイを首に巻いているのは何ともおしゃれで、衣装担当者のセンスが光っている。

(公開は12月15日土曜日から神田岩波ホール)

今井 潤



JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2019年01月05日

【支部リポート】 北海道 20代男女を沖縄に派遣 辺野古・高江を3月までに取材=岩井義昭

JCJ本部が2018年度からスタートさせた企画「若い目が見た沖縄」。これは本部が経費を一部負担し、沖縄に若い人を派遣するもの。支部では9月3日の運営委員会で、メディアに募集記事の掲載を要請しようと決めた。資料の配布した中で、北海道新聞が紙面に扱ってくれたこともあって、10月末までに4人の応募があった。

 うれしいことに全員が20歳代だ。男性の社会人1人、女性1人を含む大学生3人である。

 11月19日の運営委員会で竹内章浩氏(社会人)、小村 優氏(大学4年)の2人を選び、派遣することを決めた。志望の理由がいずれもしっかりした内容だったので、1人を追加した。財源があれば全員を派遣したいほどだ。

 2人の特派員は2019年3月までに辺野古・高江を含む取材をして、JCJ機関紙「ジャーナリスト」に記事を掲載することになっている。内容は基地問題に限らないが、「市民特派員」らしい視点を期待している。

 今期、支部は4月29日の望月衣塑子氏、9月28日の野田正彰氏らの講演を主催した。望月氏の講演には250人、野田氏の講演には58人が参加している。会場で「ジャーナリスト」のバックナンバーを配布し、会員勧誘と購読の訴えをしたのだが会員や読者は増えなかった。このままでは組織の拡大に結びつかない。単なる興行の繰り返しに終わりかねない危惧を抱いた。

 望月衣塑子氏のときは、会場の定員を50人以上うわまわる事態を生じた。前年の前川喜平氏のときも定員の2倍の参加者が集まってしまい、さんざん懲りたはずだったが、またもやの失敗≠ナある。

 実は翌日、別の主催者による望月氏の講演が某私大の会場を借りて行われるはずだった。ところが正体不明の連中が、この私大に脅迫まがいの圧力をかけてきたのである。パターンは植村 隆氏を排除せよと恫喝された北星大学の場合とまったく同じでないか。

 前日、支部が主催した望月氏の会場は公的な会場であったので彼らも手が出せなかったに過ぎない。後日の教訓にするつもりである。

岩井善昭

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2019年01月03日

【沖縄リポート】 カミソリの刃がつく有刺鉄線を張る=浦島悦子

 大浦湾は荒れていた。磯に打ち付ける高い波しぶきが見える。12月7日、辺野古埋め立て土砂を積んだ運搬船4隻と陸揚げ用台船1隻が大浦湾に到着。仮桟橋として使われているK9護岸から週明けにも陸揚げされるはずだったが、船は護岸に近づけない。海神≠燗{っているようだ。

 辺野古埋め立ての是非を問う県民投票(2月24日実施)を前に、何としても年内に土砂を投入したい安倍晋三政権は、行政不服審査法を悪用して埋め立て承認撤回を効力停止・工事再開したものの、埋め立て土砂搬出港(本部港塩川地区)が台風で破損し行き詰まった。そこで隣接する名護市安和の民間企業・琉球セメント屋部工場の桟橋の使用を密かに準備し、12月3日朝、土砂搬出を開始した。県民の抗議行動を想定して、事前に剃刀のような刃が付いた有刺鉄線を張り巡らす用意周到さだった。琉球セメントは沖縄県内唯一のセメントメーカーで、かつては宇部興産の子会社だった。

 沖縄県は赤土流出防止条例違反などで搬出停止を求め、同日午後、作業は一時止まったが、政府は搬出方法を変えて5日夕方、作業を再開。運搬船は辺野古へ向かった。

 あらゆる違法・脱法、アクロバット的な「奇策」を弄して民主主義と地方自治を押しつぶそうとするこの政権は、異様としか言いようがない。

 そしてそれは辺野古にとどまらない。作業再開の一報を、私は、与那国・石垣・宮古・伊江島・高江・辺野古の県内6市民団体が上京し、合同で行った「軍事拡大に反対する」防衛省交渉の席で聞いた。各島々でも同様のやり方で米軍・自衛隊基地の建設や強化が進み、住民自治や暮らしが脅かされている。

 防衛省は係長以下の対応で、私たちの要請や質問にまともに答えられず、「沖縄をバカにするな!」と声が飛んだ。しかしそれでも、今回、島々が海を越えて共同の行動を起こした意義は大きい。米日軍事一体化の中、分断支配・個別撃破されるのではなく、住民同士が手をつなぎ、一体となって軍事拡大を止めていきたい。

 14日土砂投入を宣言した政府が「バケツ1杯でも」土砂を入れ、既成事実を作るべく、強行したとしても、そんなことで県民があきらめると思ったら大きな間違いだ。

浦島悦子

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月30日

【出版部会リポート】 武力増大の自衛隊と米軍一体化が加速 東京新聞・半田論説委員が語る=田悟恒雄

 11月30日、水道橋・YMCAアジア青少年センターに東京新聞・半田滋論説委員を講師に迎え、出版部会11月例会が開かれた。

 半田さんと言えば、4半世紀余にわたる防衛省(庁)取材経験を持つ業界きっての防衛問題通。その豊富な情報量と鋭い分析力には定評がある。この日の演題は「軍事列島・日本の全容─おそるべき自衛隊と米軍の一体化」。第2次安倍政権発足以来6年間、「普通の国の軍隊」をめざし邁進してきた自衛隊の変貌ぶりが語られた。

 特定秘密保護法(13年)、安保関連法(15年)、共謀罪法(17年)と次々「壊憲」の地ならしを強行、日本国憲法の外堀を埋め尽くした。その致命的な転換点となったのが、14年7月1日の閣議決定だった─。強引な「憲法解釈」で、歴代内閣が否定してきた「集団的自衛権行使」を容認。しかも時の内閣の一存でこれを決められる、と。

 16年3月、安保関連法が施行されると、間髪を入れず「実績づくり」に着手─。

 南スーダンPKOでは、他国の武力行使との一体化を進め、駆け付け警護や宿営地の共同防衛を新たな任務に加えた。これを正当化するため、現地部隊の日報に「戦闘」とあった事案を「衝突」と言い換えたばかりか、日報そのものまで隠蔽してしまったのは記憶に新しい。また、北朝鮮対策を口実とした米艦艇防護、米航空機防護、米艦艇への洋上補給も頻繁に行われているが、それらは「特定秘密」とされ、国民に知らされるのは、実に1年以上も後になってからのことだった。

 さらに見逃せないのが、自衛隊法の改正だ。95条の2で「合衆国軍隊等の防護のための武器の使用」が定められ、現場自衛官の判断で武器使用が可能になった。「シビリアンコントロール」は、すっかり骨抜きにされてしまった。

 そもそも日本の基本政策は、@専守防衛A軍事大国にならないB非核3原則C文民統制の確保にあるとされてきたが、もはやいずれも「風前の灯火」─。

 18年度予算案には「敵基地攻撃」可能な巡航ミサイルや島嶼防衛用高速滑空弾が登場。護衛艦「いずも」の空母化(近く改定の「防衛計画の大綱」では、姑息にもこれを「多用途運用護衛艦」と呼び換える)まで浮上。米国製兵器の爆買い≠ヘ止まるところを知らない。欠陥機といわれるオスプレイ、F35ステルス戦闘機(なんと100機!)、それにイージスアショアも。こうして安倍晋三政権下で増え続ける米国製武器の調達金額は、19年度には7000億円に上るという。それも見積もりに過ぎず、今後さらに増えるのは必至。

 安倍首相は、改憲の手始めに「自衛隊を憲法に明記する」ことを狙っている。

 「違憲との批判が強い安全保障関連法を改定された憲法によって合憲とし、次の段階では自衛隊を『軍隊』つまり制限のないフルスペックの集団的自衛権の行使と多国籍軍への参加に踏み切る」─その魂胆を半田さんはそう見抜いている。

 都合の悪い現実に対しては見え透いたウソと強弁を押し通し、ほとぼり冷める頃合いを見計らって一気に本望を遂げる─「モリカケから改憲までアベ政治おなじみのパターン」である。

田悟恒雄

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月26日

【編集長EYE】 「水道戦争」を衝くギリシャ映画=橋詰雅博

 ドキュメンタリー映画「最後の一滴まで―ヨーロッパの隠された水戦争」の日本語版完成記念上映会が12月初旬に都内であった。ギリシャ人が監督したこの映画は、フランス、ドイツ、ギリシャ、ポルトガル、イタリア、アイルランドなど6カ国13都市で4年間取材し、水道事業の民営化に至った経過や、それに失敗して再公営化で立て直した過程などを明らかにしている。

 日本でも水道事業の民営化論が高まっていたこともあって、NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)や全水道労組などが中心となりプロジェクトチームをつくり、8月ごろから日本語制作をスタートさせた。作業にかかる費用100万円はクラウドファンディングで調達した。

 PARCの内田聖子共同代表は「8月に早くも100万円を突破し、11月に214万円にも達しました。予想外にお金が集まり、支援していただいた方に感謝しています」と語った。

 さて映画の中身だが、およそ2つに分けられる。 

 財政再建計画の一環として水道事業の民営化を欧州連合(EU)から強要させるギリシャ、ポルトガル、アイルランドが展開する反対運動がその一つ。例えばOECD(経済協力開発機構)加盟国で唯一、水道料金は一般税を通じて徴収していたアイルランドでは、新料金設定に抵抗した市民は2014年11月に首都ダブリンで20万人反対デモを実施した。 

 もう一つはパリ市やベルリン市で起きた水道料金の急速なアップや運営に関する情報の非開示問題などから再公営化を果たした活動(1面参照)だ。25年間の民営にストップをかけて、10年に再公営化したパリ市は、世界の水道事業の再公営化の流れをつくる大きなきっかけになった。

 一方、日本は改正水道法が成立し、民営化に走り出した。欧州だけでなく米国でも再公営化が急増しているというに。映画は民営化に前のめりの浜松市など11カ所で上映が決まっている。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
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2018年12月17日

【全国交流集会】 「人災」「忘災」「自助?」 JCJ全国交流集会 50人参加=古川英一

 秋の澄み渡った青空、九州・南阿蘇村の阿蘇大橋の前に立った。高さ80メートル、下を見ると吸い込まれてしまいそうだ。対岸まで200b余り。そこにあるべき橋は崩落、車で通りかかった大学生が巻き起こまれて亡くなった場所だ。熊本地震から2年半。双方の橋の根元は今も切れ落ちたままだ。

地域つながり一変

 10月19日から2泊3日の日程で開かれたJCJ全国交流集会の参加者は、熊本地震の被災地、そして去年7月の九州北部豪雨の被災地を訪れた。大地震と豪雨、突然襲う災害は、そこに長く暮らしてきた人々、そして地域のつながりをも一変させてしまう。

自然災害の発生を食い止めるのは難しいが、むしろその後の地域の復旧・復興がきちんと行われなければ、その災害が「天災」から「人災」になってしまうのではないか。そうした問題意識から、今の安倍政権の「自助・共助・公助論」の元での復旧・復興対策を考えていくことが、この集会の大きなテーマだ。

参加したのはジャーナリズム関係者と、医師や医療関係者など約50人、日頃あまり接点のない人たちが、まさに膝を突き合わせたのもJCJとしては初めての試みだ。

大きな被害を受けた現場や当時地域医療の拠点となった病院、さらに地域の声となったケーブルテレビ局などを訪ね、そこで私たちは様々な声を聞いた。

病院経営が厳しい

益城町では、復旧から復興へと局面が変わる中で、県道の拡幅や区画工事が進められることになり、住み慣れた場所に戻るに戻れない状況があることを、地元の人が訴えた。

南阿蘇村の阿蘇立野病院の上村晋一院長は、被災後の病院の運営の厳しさと村の人口流出など震災復興が表面的には進んでいるように見えるが、見えない部分の爪痕が大いとし、災害大国日本≠フあり方を考えるべきではないかと提起した。

「母国語が使えず、知り合いもいない中での孤立感、ひと声かけてくれる人がいればよかったのに」―そう語ったのは、熊本に家族4人で引っ越した直後に被災したスリランカ女性、ディヌーシャさんだ。そのうえで「外国人だから弱者なのではなく自分たちもできることがある。一緒に支援する立場にも立ちたい」と。その口調は力強かった。

多くの人が被災地や被災者にボランティアとして関わるようになったのは阪神大震災の時からと言われる。まさにその阪神の地から熊本や東日本大震災などの被災地に足を運び続けている医療関係者がいる。

情報発信の継続を

その一人、兵庫県保険医協会の広川恵一医師は、阪神大震災の被災者の復興住宅の強制撤去をめぐる裁判が今も続いている例をあげ、こうした問題が取り上げられず、忘れ去られてしまう「忘災」災害という視点を、私たちに示した。

それならば、個々の災害を一過性にせず、一人一人が刻み、社会が記憶し関わり続けるためにも「情報」を掘り出し発信し続けることは、まさにジャーナリズムのやるべき責務ではないか。広川医師の眼差しはそう語っているようだ。

今回の集会で感じたのは、出会った人々の発した「声・言葉」の持つ重さだ。その言葉はまさに人と人とを結びつけ、社会を変えていける大きな可能性を持っている。業種の違いを越えて語り合うことのできたこの場で、私たちは確かに、こうした言葉を受けとめたのだ。

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月07日

【全国交流集会】 免震・地上ヘリポート威力発揮 災害にそなえる阿蘇医療センター=杉山正隆

 全国交流集会2日目の10月20日、阿蘇医療センターを視察した。病院は熊本地震で震度6弱などの強い揺れに襲われたが、目立った被害はなく、DMAT(災害医療派遣チーム)など医療支援の拠点としての機能を果たした。強力な免震装置が有効に働き、その他にも誰でも利用できるWi-Fi(無線LAN)環境の整備など先進的な災害対策に取り組んできた成果が発揮された。ヘリポートも一般的な「屋上」にではなく、あえて地上に設置することで、万一、建物に被害が出ても地上であればヘリが着陸する可能性が高まると想定したことも功を奏した。

患者らは気づかず

阿蘇医療センターの甲斐豊院長の説明によると、建物を支える柱は1階直下へ伸び、それぞれの柱の下に設置された免震装置が受け止める。72基の免新装置の上に病院全体が乗る形で、地面からは浮いている。免震装置は、外観がゴムの筒状で強く押せばへこむ程度の硬度。その内部は鉄鋼版とゴム層が何重にも重なり、鉛の芯が中心部にあり、一基あたり400〜500トンを支えることができる。

地震による衝撃を建物に直接伝えず、ゆるやかな揺れに変える。地震がおさまったあとは、ゴムの持っている復元力で、建物を元の位置に戻す。配管や地下へ続く階段も地面からは浮かせて病院建物側に固定されている。地震時は建物と共にゆれることで破損を防ぐ。

こうした機能が発揮されたことから、熊本地震が起こった夜の時間、スタッフはゆったりしたゆれを感じたが、患者らは気づかず眠っていたという。熊本地震時の揺れ方の記録が残されており、本来の病院の定位置から北に50センチ弱、南北に最大触れ幅87センチ、病院が動いていた。

情報過疎も免れる

もう1つの特徴が「地上ヘリポート」だ。病院などでは「屋上ヘリポート」が一般的だが、阿蘇医療センターではあえて地上の駐車場横に設置。建物に多少の損傷があった場合にエレベーターが使えず、屋上から階下に患者や器材などを下ろせない事態を避けることができた。さらに、地震前に無料のWi-Fi(無線LAN)を設置していたことで、情報や連絡を常時取れていたため「情報過疎」を免れることが出来た。

甲斐院長は「こうした設備や工夫が上手く噛み合い、周囲は被災したが医療センターは全ての機能が生きており、病院の機能や災害支援チームの受け入れなどに支障が出ることがなかった」と話した。取材ツアー参加者からは「災害に備える1つのモデルケース。詳しく知りたい」と質問が相次いだ。

杉山正隆

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月06日

【映画の鏡】『区議選に出たい』─帰化した中国人が、歌舞伎町で民主主義を訴える=今井 潤

 中国から日本にやってきて、新宿歌舞伎町で外国人観光客を相手に飲食店や風俗店の案内をつとめてきた李小牧(りこまき)さん(58)は新宿区議選挙に出ることを決意した。そして2015年2月日本国籍を取得して、旧民主党・海江田万理衆院議員の推薦を受けた。
 この李さんの選挙活動を2年間取り続けたのは同じ中国人の邢菲(ケイヒ)監督。ノーコメント、実音のみのドキュメンタリー作品だ。

 李さんは歌舞伎町の従業員や外国人はなぜ差別を受けているのか、日本の若者はなぜ自分の選挙権を大事にしないのか、真剣に選挙の意味や日本の社会問題を考えていた。
 実際に街頭で訴えると、「中国人が何を?」「中国へ帰れ!」など冷ややかな声をかけられ、演説を聞くこともない。おばさんからは「中国人は声が大きく、自分たちの主張だけを言うので嫌いだ」といわれる始末。同じ旧民主党の候補者と街宣場所での対立もあり、思うような選挙活動もできない。それでも旧民主党の公認をもらい、ポスターにシールを貼ることができた。

 投票日には1000票を超える得票を得たが、当選はできなかった。李さんは「自分は中国人でも日本人でもある。私が当選したら、日本は民主主義だということがわかる」と笑顔で話し、しぶとく日本で政治家を目指す。邢菲監督は中国専門の番組制作会社テムジンで中国に関するテレビ番組や日本の震災関連のドキュメンタリーなど20本以上制作し、2013年に退社し、イギリスへ留学、本作が初監督作品。
(公開は12月1日(土)から東京ポレポレ東中野)

今井 潤

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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2018年12月05日

【ベトナム発】枯葉剤被害者「救済マラソン」大会 ホーチミン市で高橋尚子さん支援=中村梧郎

 熱帯ベトナムは暖かい。1月だというのにホーチミンの人々は軽やかな半そで姿だ

あのドクちゃんも
「ドクちゃん、走るの早過ぎない?」
 Qちゃんが、松葉杖で懸命に走るドクちゃんに声をかけた。Qちゃんとは言わずもがな、シドニーオリンピックの女子マラソン金メダリスト高橋尚子さん。ドクちゃんは「ベトちゃんドクちゃん」で有名になった結合体双生児の弟のほう。分離手術後二人とも元気に育ったが、ベトさんは2009年に他界、ドクさんは結婚して2人の子供の父となっている。
 今年1月14日にホーチミン市で開催された枯葉剤被害者救済「オレンジ・マラソン」。趣旨に共鳴したQちゃんとドクさんは先頭に立って走った。
「僕よりもっと大変な被害者がいっぱいいる。その人たちの助けになるのなら」と、ドクさんは言った。だが松葉杖を握って200bほど走った彼は、座り込んでしまう。6回も受けた尿道の手術部分がうずく。「痛くてだめだ」と珍しく弱音を吐いた。
 オレンジ・マラソンとは、2つの意味を隠し持つ。ひとつは、オレンジなど果物豊かなベトナムの意味。もうひとつはオレンジ剤(枯葉剤)を表す。

日本から20数人
 パルス・アクティブ社が主催する7000人のホーチミン市民マラソンに合流してオレンジ・マラソンの参加者は走った。コースはフルとハーフ、10`、5`から選べる。日本からのランナーは20数人。ベトナムの障害者たちも一緒に走った(歩いた)。救済資金は参加費に含まれている。だから大勢になれば救済金は増える。マラソンしながら、知らぬ間に被害者を支えることになる、というのがこのイべントのユニークさだ。
 気温20度、曇り空。
 当日は絶好のマラソン日和だった。日の出後の気温上昇を警戒して、フルマラソンは朝4時半の暗いうちにスタートした。障害者たちが参加したのは8時出発の5`ラン。10数人がオレンジ色のシャツと帽子をつけて市民にアピールした。
 車椅子での参加者や手を引かれて走るブラインド・ランナーにQちゃんは声をかけた。沿道の人々の拍手と声援が途切れることなく続いた。
 日本の市民組織「オレンジ・マラソンの会(会長・古田元夫・日越大学学長)」が提起したチャリティー・マラソンの企画に呼応して、ホーチミンには市民組織O・T=オレンジ・イニシアティブ=が結成された。代表はトン・ヌ・ティ・ニン女史。ベトナム戦争終結のパリ会談にも関わった元EU駐在ベトナム大使である。O・Iに対しては、参加者から100万円の義捐金が贈られた。
 男女の人気歌手のアトラクションも会場をどよめかせた。障害児全員の首に銀メダルがかけられた。子どもらはナマの体験に大喜びだった。

NHKなどが放映
 枯葉剤の犠牲者を支援することに注目したNHKは1月26日の「おはよう日本」で10分の番組を流した。TBSは高橋尚子に密着、3月のNEWS23で放映した。ベトナムのテレビ各局も速報。トイチェ紙はスポーツ面トップで「金メダルの尚子、障害者と走る」と報じた。リラン・バクレー監督のドキュメンタリー映画班も現地撮影を開始、この夏にはパート・1が完成した。今は続編制作のカンパを募っている。
 2019年1月、今度の正月にもオレンジ・マラソンは開催される。参加締め切りは12月7日だ。(問い合わせは電話03-3357-3377富士国際旅行社・オレンジ・マラソンの会)
 ランナーが走り抜けるコースは、戦争中は椰子の木に覆われていた湿地帯。米軍を脅かす解放戦線軍の縄張りだった。今は高層マンションが並ぶ住宅地に変貌している。
 50年前のサイゴン(現ホーチミン市)は大混乱だった。1968年、解放戦線の「テト攻勢」が始まった。解放側は都市を襲撃、サイゴンのアメリカ大使館はわずか9人の兵士に占拠されてしまう。その衝撃でジョンソンは大統領選を断念、米軍のベトナムからの撤退につながった。

障害児後をたたず
 当時は枯葉作戦が激しかった時期でもある。森に潜む解放軍を殲滅するために全森林を砂漠化せよ、と米軍は考えた。しかも、枯葉剤にはダイオキシンが含まれていた。ベトナムの被災者は480万人、ダイオキシン総量は500キログラムに達した。
 アメリカは汚染されたベトナム帰還兵に対しては充分な治療と補償を行なった。しかしベトナムへの補償は拒否している。
 今や完全復興したべトナム。ホーチミン市にはシャネルやグッチの有名ブランド店が並ぶ。バブルとされる急成長が戦争の傷跡を隠すのだろうか。一方で世代を次いで生まれてくる障害児。毎年のマラソンが支援の一助になるようにと、主催者らは夢を膨らませている。

中村梧郎(フォトジャーナリスト)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号
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