辺野古新基地建設の是非を問う沖縄県民投票をめぐって県内世論が揺れている。経済界を含む「オール沖縄会議」の顔でもあった金秀グループ、かりゆしグループが、県民投票実施に向けた理解を得られないとして相次いで脱会したことは、多くの県民に動揺を与えた。
県内の学者・学生でつくる「『辺野古』県民投票の会」が投票条例制定に向けた署名運動を5月から始めると発表(請求代表者の中には金秀グループの呉屋守将会長も)したが、かりゆしグループや県議会会派の中で唯一、県民投票に前向きな「会派おきなわ」は、知事発議の県民投票を求めており、推進派の中でも足並みがそろっているわけではない。
他方、辺野古のたたかいの現場では県民投票に否定的な声が圧倒的だ。名護市長選の敗北以降、座り込み行動への参加者は明らかに減っており、辺野古崎浅瀬への最初の土砂投入に向けた護岸工事が日々進む中で、最大の課題は現場に少しでも多くの人を集めることと知事の埋め立て承認撤回だ。4月7日に座り込み現場で開かれた県民集会(この日は久しぶりに500人以上が参加、ダンプの搬入はなかった)で、安次富浩・ヘリ基地反対協代表は「県民投票をやっている時間はない!」と断言した。
先の名護市長選で、政府の権力と金力によって投票行動がいかにゆがめられたかを見てきた私は、県民投票を楽観視できない。また、結果がどうあれ、政府は都合の良い民意しか「民意」と認めないだろう。
この間、明らかになった大浦湾の(マヨネーズに例えられる)軟弱な海底地盤、活断層の存在などにより「工事は必ず途中で頓挫する」と土木技師の北上田毅さんは断言しつつも、不可逆的な自然破壊を食い止めるためには、少しでも早く工事を止めること、11月の知事選がきわめて重要だと訴える。知事選に向けては金秀・かりゆしグループも、翁長雄志知事再選に全力をあげることで一致しているが、翁長知事の健康状態も心配だ。
そんな沖縄から「本土」を見ていると何とももどかしい。溜りに溜まった膿が次々に出てきているのに、国民の怒りが政権を倒すほどに盛り上がらないのはなぜ?沖縄を苦しめる安倍政権を一刻も早く倒してほしい…!
(浦島悦子)
2018年05月14日
2018年05月01日
《編集長EYE》 日本は「ギャンブル依存症大国」へまっしぐら=橋詰雅博
安倍晋三首相は日本でのカジノ解禁に前のめりだ。カジノを「経済成長戦略」と言い放ち、2016年末にカジノ解禁推進法を成立させた。そして与党の公明党を抱き抱き込んでカジノ実施法案を4月末に国会に提出し、強行成立を目論む。同法案のポイントは日本人及び国内在住外国人を対象とした入場料は6000円、日本人の入場回数は週3回、月10回まで、設置は最大3カ所だ。
パチンコ店があちこちにある日本は、ギャンブル依存症の割合は成人の3・6%と推定されている。欧米諸国の1%台に比べて突出して高い。そこにカジノが出現したら、入場回数制限などの規制があっても、ギャンブル依存症がさらに増えると懸念されるのは当然だ。
カジノで思い出すのは大王製紙前会長の井川意高さん。マカオやシンガポールのカジノで丁半バクチと同じようなルールのトランプゲーム・バカラの虜になった彼は、なんと106億8000円もスッてしまった。借金を返済するため子会社から金を借り入れ、特別背任容疑で11年11月に東京地検特捜部に逮捕される。最高裁で懲役4年の実刑判決が確定し、16年12月に仮出所。昨年10月に刑期が満了した。著書「熔ける」(幻冬舎文庫)によると、数百万円から20億円まで勝つなど〈億単位の勝利を収めた成功体験は忘れがい快哉をもたらした〉ことが破滅まで突き進んだ原因と書いている。
先月取材した鶴見大学名誉教授でカジノ誘致反対横浜連絡会共同代表の後藤仁敏さん(歯学博士=解剖学)は「バクチでの勝利の味は頭から消えない」と前置きした上で、理由をこう述べた。
「バクチで勝つと脳から快楽物質≠ェどんどんと出ます。世の中で自分ほど幸せな人間はいないという陶酔感にひたる。負けた記憶は消えるが、陶酔感はいつまでも残る。だからバクチにのめり込んで、ギャンブル依存症に陥る」
カジノ解禁で日本はギャンブル依存症大国≠ヨまっしぐらだ。
橋詰雅博(JCJ事務局長兼機関紙編集長)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年4月25日号
パチンコ店があちこちにある日本は、ギャンブル依存症の割合は成人の3・6%と推定されている。欧米諸国の1%台に比べて突出して高い。そこにカジノが出現したら、入場回数制限などの規制があっても、ギャンブル依存症がさらに増えると懸念されるのは当然だ。
カジノで思い出すのは大王製紙前会長の井川意高さん。マカオやシンガポールのカジノで丁半バクチと同じようなルールのトランプゲーム・バカラの虜になった彼は、なんと106億8000円もスッてしまった。借金を返済するため子会社から金を借り入れ、特別背任容疑で11年11月に東京地検特捜部に逮捕される。最高裁で懲役4年の実刑判決が確定し、16年12月に仮出所。昨年10月に刑期が満了した。著書「熔ける」(幻冬舎文庫)によると、数百万円から20億円まで勝つなど〈億単位の勝利を収めた成功体験は忘れがい快哉をもたらした〉ことが破滅まで突き進んだ原因と書いている。
先月取材した鶴見大学名誉教授でカジノ誘致反対横浜連絡会共同代表の後藤仁敏さん(歯学博士=解剖学)は「バクチでの勝利の味は頭から消えない」と前置きした上で、理由をこう述べた。
「バクチで勝つと脳から快楽物質≠ェどんどんと出ます。世の中で自分ほど幸せな人間はいないという陶酔感にひたる。負けた記憶は消えるが、陶酔感はいつまでも残る。だからバクチにのめり込んで、ギャンブル依存症に陥る」
カジノ解禁で日本はギャンブル依存症大国≠ヨまっしぐらだ。
橋詰雅博(JCJ事務局長兼機関紙編集長)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年4月25日号
2018年04月20日
〈沖縄リポート〉名護新市長、答弁を職員にまる投げ=浦島悦子
2月8日に就任した名護市の渡具知武豊新市長は早速13日に上京し、公約実現のために「財政面をはじめ政府からのご支援を賜るよう特別のご高配」をお願いする「要請書」を菅義偉官房長官に手渡した。要請は、学校給食費の無料化から下水道整備に至るまで十数項目にわたる。自助努力で築き上げてきた稲嶺市政から180度の方向転換だが、その極めつけが「国から優秀な人材を複数名確保(総務省、経済産業省、国土交通省等)」の要請だ。
3月5日から定例の名護市3月議会が始まった。渡具知市長が冒頭の所信表明演説で何を語るのか、「官邸の名護出張所」にしないために「監視」しようと傍聴席を埋めた市民らは、それを聞いてあっけに取られた。基地問題については「県と国の裁判の行方を見守る」という以外、施政方針のほとんどが稲嶺進前市長のコピーだったからだ。選挙で公約した(そして、それで多くの票を集めた)はずの学校給食費や子ども医療費、保育料の無料化については一言も触れていない。
12日から始まった一般質問では、稲嶺市政を支えてきた野党議員たちの鋭い質問に市長は答えきれず、丸投げされた各部長らが四苦八苦する姿が目立った。
3月13日、沖縄県が政府による辺野古・大浦湾の岩礁破砕の差し止めを求めた訴訟で、那覇地裁は実質審理に入らず県の訴えを却下した。「三権一体」と言われる現状では予想内の判決だが、「行方を見守る」としていた渡具知市長がいつ「容認」を打ち出すのか、政府は待っているのだろう。しかし彼自身、議会答弁では「(市長選の結果は)基地を容認したものではない」と言わざるをえなかった。
辺野古の現場では1日に300台以上のダンプや生コン車がゲートに入り、加えて海上輸送による石材搬入も加速している。政府は工程を無視して浅場の護岸工事を先行させ、いちばん埋め立てやすい工区を5月中に囲い込み、6月には埋立土砂を投入すると発表した。
土砂投入すれば県民はあきらめるとの目論見だろう。その前に翁長知事が埋立承認撤回に踏み切ってほしい。私たちはそれを全力で支える。――それが、辺野古の現場で頑張っている県民の切実な声だ。
JCJ月刊機関紙月刊「ジャーナリスト」2018年3月25日号
3月5日から定例の名護市3月議会が始まった。渡具知市長が冒頭の所信表明演説で何を語るのか、「官邸の名護出張所」にしないために「監視」しようと傍聴席を埋めた市民らは、それを聞いてあっけに取られた。基地問題については「県と国の裁判の行方を見守る」という以外、施政方針のほとんどが稲嶺進前市長のコピーだったからだ。選挙で公約した(そして、それで多くの票を集めた)はずの学校給食費や子ども医療費、保育料の無料化については一言も触れていない。
12日から始まった一般質問では、稲嶺市政を支えてきた野党議員たちの鋭い質問に市長は答えきれず、丸投げされた各部長らが四苦八苦する姿が目立った。
3月13日、沖縄県が政府による辺野古・大浦湾の岩礁破砕の差し止めを求めた訴訟で、那覇地裁は実質審理に入らず県の訴えを却下した。「三権一体」と言われる現状では予想内の判決だが、「行方を見守る」としていた渡具知市長がいつ「容認」を打ち出すのか、政府は待っているのだろう。しかし彼自身、議会答弁では「(市長選の結果は)基地を容認したものではない」と言わざるをえなかった。
辺野古の現場では1日に300台以上のダンプや生コン車がゲートに入り、加えて海上輸送による石材搬入も加速している。政府は工程を無視して浅場の護岸工事を先行させ、いちばん埋め立てやすい工区を5月中に囲い込み、6月には埋立土砂を投入すると発表した。
土砂投入すれば県民はあきらめるとの目論見だろう。その前に翁長知事が埋立承認撤回に踏み切ってほしい。私たちはそれを全力で支える。――それが、辺野古の現場で頑張っている県民の切実な声だ。
JCJ月刊機関紙月刊「ジャーナリスト」2018年3月25日号
2018年04月02日
カジノ誘致 横浜市「白紙」に転換 ドン≠ェ反対の急先鋒 市民団体共同代表に聞く=橋詰雅博
2016年12月に成立のカジノ解禁推進法に続き安倍晋三内閣は、カジノ実施法案を4月にも国会に提出する構え。日本人と国内在住外国人を対象とした入場料は2000円とか入場回数を1週間のうち3回まで、設置を5カ所に拡大などの案が提示されている。
しかし、ギャンブル依存症への対策が心もとないなど批判の声は相変わらず強い。各種世論調査でもカジノ反対が圧倒的に多い。それでも安倍内閣はカジノ実現への強行突破を狙う。菅義偉官房長官(神奈川2区選出)のおひざ元の横浜市も誘致に名乗りを上げている。4年前に結成のカジノ誘致反対横浜連絡会共同代表の後藤仁敏さん(鶴見大学名誉教授・歯学博士=71)にいまの状況などを聞いた。
――林文子横浜市長(71)は2014年初頭にカジノ誘致推進を表明したが、方針は変わっていないのか。
林市長のあの表明にはビックリ仰天しました。だが、3選を目指した昨年7月の市長選では、2人の対抗馬がカジノ誘致反対を訴えたので、彼女は「白紙」に転換。今まで通りカジノ誘致推進を主張したら当選が危ういと思い方針を変えた。なにしろ横浜市民の多くはカジノ反対ですからね。林市長は当選後も「白紙」の姿勢を変えていません。菅官房長官の圧力もあるだろうから、カジノ誘致推進に戻る可能性はありますよ。
――カジノの有力候補地はどこですか。
市が再開発を目指す山下ふ頭が最有力地。しかし、港湾運送業者でつくる横浜港運協会の藤木幸夫会長(87)は「山下ふ頭にカジノはつくらせない」と宣言した。「横浜市に土地を売るな」と港湾業者にハッパをかけている。赤旗インタビュー(今年1月25日付)でも「山下ふ頭はばくち場ではありません」とキッパリ答えています。14日には同協会主催で「ギャンブル依存症を考える」をテーマにした公開勉強会も開いた。藤木会長は横浜エフエム放送社長や横浜スタジアム会長も務めるいわば横浜のドン=Bそのような人が相当な覚悟でカジノに反対しているので、山下ふ頭へのカジノ誘致は困難な状況です。横浜みなとみらい21(MM21)地区も候補地ですが、藤木会長は真面目に働いた人が報われる社会をつくるという考え方。従って根っからカジノに反対だと思います。
――政府の実施法案をどう見ますか
入場者がギャンブル依存症やすってんてんになるのを防ぐため賭ける金額に制限を設けるのが一番重要だが、実施法案にはありません。そもそも併設されるホテルや国際会議場、イベント会場などの運営費の80%は、カジノの収益で賄われる。当然、収益アップが必要ですから、入場料はモデルとしたシンガポールより6000円も安く設定し、金額の制限はせず、ATMが設置され金融機関の出先もあってお金が容易に引き出せる。カジノ不要を唱える静岡大の鳥畑与一教授は「毒性の強いカジノ」と指摘しています。私もそう思います。
――反対運動をどう展開しますか。
連絡会結成以降、不定期ながら市役所前でカジノ誘致に反対するスタンディング宣伝≠行っている。20日にも実施。累計約3万人の誘致反対署名を市役所に提出しています。スタンディング宣伝や署名活動は今後も続けます。林市長がカジノ誘致撤回を表明するまで粘り強く活動します。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年3月25日号
しかし、ギャンブル依存症への対策が心もとないなど批判の声は相変わらず強い。各種世論調査でもカジノ反対が圧倒的に多い。それでも安倍内閣はカジノ実現への強行突破を狙う。菅義偉官房長官(神奈川2区選出)のおひざ元の横浜市も誘致に名乗りを上げている。4年前に結成のカジノ誘致反対横浜連絡会共同代表の後藤仁敏さん(鶴見大学名誉教授・歯学博士=71)にいまの状況などを聞いた。
――林文子横浜市長(71)は2014年初頭にカジノ誘致推進を表明したが、方針は変わっていないのか。
林市長のあの表明にはビックリ仰天しました。だが、3選を目指した昨年7月の市長選では、2人の対抗馬がカジノ誘致反対を訴えたので、彼女は「白紙」に転換。今まで通りカジノ誘致推進を主張したら当選が危ういと思い方針を変えた。なにしろ横浜市民の多くはカジノ反対ですからね。林市長は当選後も「白紙」の姿勢を変えていません。菅官房長官の圧力もあるだろうから、カジノ誘致推進に戻る可能性はありますよ。
――カジノの有力候補地はどこですか。
市が再開発を目指す山下ふ頭が最有力地。しかし、港湾運送業者でつくる横浜港運協会の藤木幸夫会長(87)は「山下ふ頭にカジノはつくらせない」と宣言した。「横浜市に土地を売るな」と港湾業者にハッパをかけている。赤旗インタビュー(今年1月25日付)でも「山下ふ頭はばくち場ではありません」とキッパリ答えています。14日には同協会主催で「ギャンブル依存症を考える」をテーマにした公開勉強会も開いた。藤木会長は横浜エフエム放送社長や横浜スタジアム会長も務めるいわば横浜のドン=Bそのような人が相当な覚悟でカジノに反対しているので、山下ふ頭へのカジノ誘致は困難な状況です。横浜みなとみらい21(MM21)地区も候補地ですが、藤木会長は真面目に働いた人が報われる社会をつくるという考え方。従って根っからカジノに反対だと思います。
――政府の実施法案をどう見ますか
入場者がギャンブル依存症やすってんてんになるのを防ぐため賭ける金額に制限を設けるのが一番重要だが、実施法案にはありません。そもそも併設されるホテルや国際会議場、イベント会場などの運営費の80%は、カジノの収益で賄われる。当然、収益アップが必要ですから、入場料はモデルとしたシンガポールより6000円も安く設定し、金額の制限はせず、ATMが設置され金融機関の出先もあってお金が容易に引き出せる。カジノ不要を唱える静岡大の鳥畑与一教授は「毒性の強いカジノ」と指摘しています。私もそう思います。
――反対運動をどう展開しますか。
連絡会結成以降、不定期ながら市役所前でカジノ誘致に反対するスタンディング宣伝≠行っている。20日にも実施。累計約3万人の誘致反対署名を市役所に提出しています。スタンディング宣伝や署名活動は今後も続けます。林市長がカジノ誘致撤回を表明するまで粘り強く活動します。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年3月25日号
2018年03月27日
《編集長EYE》 電通が憲法改正国民投票を支配する=橋詰雅博
2017年に新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネットなどで費やした日本の総広告費は約6兆3900億円で、6年連続プラス。業界最大手の電通は国内売上高が1兆5600億円、海外も含む連結ベースの総売上高は約5兆2000億円だ。電通の総売上高は日本の総広告費の8割ほどに当たる。まさに巨大企業で、単体では世界一の広告代理店。
だが一方では新入女性社員を過労自殺に追い込んだことで社会から糾弾され、16年末にブラック企業大賞≠ニして名指しされた。社員を酷使することで、ナンバーワンの地位を維持してきたゆがんだ構図が露呈した。
そんな電通がここにきて注目されている。年内にも実施という憲法改正国民投票を巡り、電通が長年、広報戦略を担う自民党の改憲広告≠仕切るからだ。業界第二位の博報堂で18年間営業をしてきた著述家・本間龍さんは「電通が国民投票を支配する」と断言している。
2月末に都内で講演した本間さんはこう指摘した。
「国民投票運動ではテレビCMの影響力が大きい。インターネットとは違い、テレビCMは『ながら視聴』されるので、繰り返し行われると、視聴者への『刷りこみ効果』は絶大です。特に視聴率が高い夕方から夜11時台に流れるスポットCM(局が定めた時間帯に15秒間流れる)が勝負のカギになる。この時間帯にいかに大量にCMを流すかだ。これを実現するには巨額なお金が必要。また、このCMワクを事前に抑えなければならない。
改憲勢力の中心である自民党の資金力は護憲勢力のそれを圧倒している。政権党の自民を支える電通は、テレビCMでのシェアは35%とダントツ。加えて戦略立案もCM制作もCMワク購入も1社だけですべてやれる。従って自民党などの改憲勢力が国民投票で勝つ可能性は高い」
国民投票では有料テレビCMは投票日前2週間だけ禁止。規制を強化しないと自民党・電通の思うつぼだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年3月25日号
だが一方では新入女性社員を過労自殺に追い込んだことで社会から糾弾され、16年末にブラック企業大賞≠ニして名指しされた。社員を酷使することで、ナンバーワンの地位を維持してきたゆがんだ構図が露呈した。
そんな電通がここにきて注目されている。年内にも実施という憲法改正国民投票を巡り、電通が長年、広報戦略を担う自民党の改憲広告≠仕切るからだ。業界第二位の博報堂で18年間営業をしてきた著述家・本間龍さんは「電通が国民投票を支配する」と断言している。
2月末に都内で講演した本間さんはこう指摘した。
「国民投票運動ではテレビCMの影響力が大きい。インターネットとは違い、テレビCMは『ながら視聴』されるので、繰り返し行われると、視聴者への『刷りこみ効果』は絶大です。特に視聴率が高い夕方から夜11時台に流れるスポットCM(局が定めた時間帯に15秒間流れる)が勝負のカギになる。この時間帯にいかに大量にCMを流すかだ。これを実現するには巨額なお金が必要。また、このCMワクを事前に抑えなければならない。
改憲勢力の中心である自民党の資金力は護憲勢力のそれを圧倒している。政権党の自民を支える電通は、テレビCMでのシェアは35%とダントツ。加えて戦略立案もCM制作もCMワク購入も1社だけですべてやれる。従って自民党などの改憲勢力が国民投票で勝つ可能性は高い」
国民投票では有料テレビCMは投票日前2週間だけ禁止。規制を強化しないと自民党・電通の思うつぼだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年3月25日号
2018年03月03日
「私は断固、闘い続ける」 17年働き突然雇い止め 派遣労働者・渡辺照子さんに聞く=橋詰雅博
派遣・契約社員やパート、アルバイトなどといった非正規労働者にとって今年は大きな転換点になる。2013年4月1日施行された改正労働契約法により同じ職場で仕事して通算5年を超えると、有期雇用から無期雇用に切り替えることができるのだ。この5年ルール≠ノ該当する無期雇用の人が4月1日以降、出現する。対象者は約400万人とみられ、雇用の安定が守られる。一方、簡単にクビを切れなくなるので、5年ルールを前に雇い止めに走る企業が多い。16年8カ月同じ職場で事務の仕事をしてきた派遣労働者の渡辺照子さん(58)も昨年10月に雇い止め通告され、昨年末失職した。渡辺さんに改正労働契約法の問題点などを聞いた。 ☆ ☆
――今の心境と、どういう風に生活していますか。
ダメージは大きい
約17年間、同じ職場で働いてきました。仕事がなくなってしまったので、心身のバランスが崩れてしまった。同居する88歳の母親の面倒を見ていて、介護疲れもあってうつ状態。茫然自失ですね。失職は人生にとってダメージが大きいと言われていますが、まさにその通りです。
無職ですが、雇い止めの当事者として体験を話してほしいなどの講演依頼が労働組合から、雇用問題をテーマにした原稿依頼もあります。でも講演料も原稿料も食べていける額ではありません。蓄えを取り崩して生活しています。ただ、住んでいる新宿の家は両親の持ち家ですので、家賃がないのが助かります。家賃があったらとても生活できません。
――派遣元(「パーソナルテンプスタッフ」)と派遣先(「地球科学総合研究所」)に対しどういう行動をとっていますか。
22日に社前抗議
昨年11月に労組「派遣ユニオン」に個人加盟しました。専従で労働争議の経験が豊富な関根(秀一郎)書記長のアドバイスを受け、派遣元と団体交渉を2回行い、派遣先にも団体交渉を2回申し入れた。派遣先が団体交渉を拒否したので、事前に通告した通り22日に社前で関根書記長らと抗議行動をしました。法的手段に踏み出すかどうは企業側の対応しだいです。派遣ユニオンをバックアップする女性弁護士と相談はしています。
――改正労働契約法をどう見ていますか。
私の場合、3カ月ごとに雇用契約を更新していました。雇い止めにならないか内心、ビクビクしながら働いていた。13年4月の施行後、5年間クビがつながれば、晴れて無期雇用に転換でき、雇用の不安からやっと逃れられると思った。そうしたらこういうひどい目にあわされた。
そもそも無期雇用とっても、直ちに正社員になれるわけではない。待遇も同じになるとは限らない。改正法は正社員と非正規労働者の待遇格差を埋めるものではない。しかも無期雇用に転換するには労組を通じて実現可能です。私のような派遣労働者が派遣ユニオンに入ったことが企業側に知れたら雇い止めは必至。だから知っていてもユニオンに入れなかった。私は無期雇用後にユニオンに入り、団体交渉で待遇改善を要求して行こうと計画していた。計画倒れになってしまった。
罰則規定を設ける
改正法ではあの手この手で無期雇用に転換させない企業への罰則規定を設けるべきです。また、契約のない期間が6カ月以上ある場合、それより前は通算期間に含まれない(クーリング期間)とする抜け穴があります。無期逃れを許さないよう法律でしばりをかけてほしい。
――企業側の仕打ちをどう思いますか。
仕事の過程でハラスメントを受け、サービス残業を強要され、ハードワークのため過労で職場に倒れるなど不当な目にあってきた。「次の契約更新はしない」という一言で派遣先から切られ、「ハイ、そうですか」と受け入れることはとうていできない。企業側は、派遣労働者は使い捨てでいい、まるでモノ扱いしている。絶対に許せない。私は闘い続けます。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年2月25日号
――今の心境と、どういう風に生活していますか。
ダメージは大きい
約17年間、同じ職場で働いてきました。仕事がなくなってしまったので、心身のバランスが崩れてしまった。同居する88歳の母親の面倒を見ていて、介護疲れもあってうつ状態。茫然自失ですね。失職は人生にとってダメージが大きいと言われていますが、まさにその通りです。
無職ですが、雇い止めの当事者として体験を話してほしいなどの講演依頼が労働組合から、雇用問題をテーマにした原稿依頼もあります。でも講演料も原稿料も食べていける額ではありません。蓄えを取り崩して生活しています。ただ、住んでいる新宿の家は両親の持ち家ですので、家賃がないのが助かります。家賃があったらとても生活できません。
――派遣元(「パーソナルテンプスタッフ」)と派遣先(「地球科学総合研究所」)に対しどういう行動をとっていますか。
22日に社前抗議
昨年11月に労組「派遣ユニオン」に個人加盟しました。専従で労働争議の経験が豊富な関根(秀一郎)書記長のアドバイスを受け、派遣元と団体交渉を2回行い、派遣先にも団体交渉を2回申し入れた。派遣先が団体交渉を拒否したので、事前に通告した通り22日に社前で関根書記長らと抗議行動をしました。法的手段に踏み出すかどうは企業側の対応しだいです。派遣ユニオンをバックアップする女性弁護士と相談はしています。
――改正労働契約法をどう見ていますか。
私の場合、3カ月ごとに雇用契約を更新していました。雇い止めにならないか内心、ビクビクしながら働いていた。13年4月の施行後、5年間クビがつながれば、晴れて無期雇用に転換でき、雇用の不安からやっと逃れられると思った。そうしたらこういうひどい目にあわされた。
そもそも無期雇用とっても、直ちに正社員になれるわけではない。待遇も同じになるとは限らない。改正法は正社員と非正規労働者の待遇格差を埋めるものではない。しかも無期雇用に転換するには労組を通じて実現可能です。私のような派遣労働者が派遣ユニオンに入ったことが企業側に知れたら雇い止めは必至。だから知っていてもユニオンに入れなかった。私は無期雇用後にユニオンに入り、団体交渉で待遇改善を要求して行こうと計画していた。計画倒れになってしまった。
罰則規定を設ける
改正法ではあの手この手で無期雇用に転換させない企業への罰則規定を設けるべきです。また、契約のない期間が6カ月以上ある場合、それより前は通算期間に含まれない(クーリング期間)とする抜け穴があります。無期逃れを許さないよう法律でしばりをかけてほしい。
――企業側の仕打ちをどう思いますか。
仕事の過程でハラスメントを受け、サービス残業を強要され、ハードワークのため過労で職場に倒れるなど不当な目にあってきた。「次の契約更新はしない」という一言で派遣先から切られ、「ハイ、そうですか」と受け入れることはとうていできない。企業側は、派遣労働者は使い捨てでいい、まるでモノ扱いしている。絶対に許せない。私は闘い続けます。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年2月25日号
2018年03月01日
〈沖縄リポート〉権力むき出しの市長選=浦島悦子
あまりにも異様な選挙だった。それは、期日前投票数(21.622)が当日投票数(15.522)を6000票以上も上回った前代未聞の事態にも如実に表れている。「国策」である辺野古新基地建設を阻む稲嶺進市長を何としても潰すという国家権力の意思と、その恐ろしさをひしひしと感じさせられた選挙だった。
安倍自公政権のやり方は巧妙を極めた。選挙前に、市民・県民の大多数が反対する新基地建設に向けた工事を加速することによって「あきらめ感」を誘い、外堀を埋めた。「どうせ造られるのだから、もう苦しむのはやめて楽になろうよ」と甘くささやいた。
自公推薦の渡具知武豊候補は新基地建設問題に一切触れない「争点隠し」を徹底。公開討論会などの要請もすべて断り、政策論争を避ける一方、稲嶺市政の8年間の実績を打ち消すように 「失われた8年」「停滞」「閉塞感」などのネガティブキャンペーンを繰り広げた。
自民党幹部や現職大臣が次々と応援のため名護入りしたが、彼らは表には出ず企業回りに徹し、ふんだんなカネを使って水面下でさまざまな工作を行った。菅官房長官は「うちのような小さな会社にまで?」と経営者が驚くほど徹底的に市内各企業に電話を入れた。公明党は広い名護市域の隅々にまで全国動員した運動員を送り込み、甘言、強要、誘導などあらゆる手段を駆使して、人々を期日前投票所へ運んだ。唯一、表の役割を担った小泉進次郎氏は告示以降2回も名護入りし、街頭演説会に集まった若者たちをそのまま期日前投票所へ誘導した。
警察は、稲嶺陣営を公職選挙法の厳格な適用によって締め付ける一方、渡具知陣営の違反は野放しにした。
その結果、約3500票差で渡具知氏が当選したが、20年以上「国策」に翻弄され、苦しみ続けた名護市民は、今回の選挙でさらに分断され、傷つけられた。渡具知新市長は「勝者」ではなく、翻弄された一人にすぎない。これは選挙に名を借りた国家犯罪だ。味を占めた安倍政権は、11月の沖縄県知事選でも同じ手口を使ってくるだろう。
今後の各種選挙や国民投票も見据えて、名護市長選とは何だったのか徹底検証が必要だ。その教訓を踏まえ、本来の選挙のあり方を取り戻さなければ、民主主義の明日はない。
安倍自公政権のやり方は巧妙を極めた。選挙前に、市民・県民の大多数が反対する新基地建設に向けた工事を加速することによって「あきらめ感」を誘い、外堀を埋めた。「どうせ造られるのだから、もう苦しむのはやめて楽になろうよ」と甘くささやいた。
自公推薦の渡具知武豊候補は新基地建設問題に一切触れない「争点隠し」を徹底。公開討論会などの要請もすべて断り、政策論争を避ける一方、稲嶺市政の8年間の実績を打ち消すように 「失われた8年」「停滞」「閉塞感」などのネガティブキャンペーンを繰り広げた。
自民党幹部や現職大臣が次々と応援のため名護入りしたが、彼らは表には出ず企業回りに徹し、ふんだんなカネを使って水面下でさまざまな工作を行った。菅官房長官は「うちのような小さな会社にまで?」と経営者が驚くほど徹底的に市内各企業に電話を入れた。公明党は広い名護市域の隅々にまで全国動員した運動員を送り込み、甘言、強要、誘導などあらゆる手段を駆使して、人々を期日前投票所へ運んだ。唯一、表の役割を担った小泉進次郎氏は告示以降2回も名護入りし、街頭演説会に集まった若者たちをそのまま期日前投票所へ誘導した。
警察は、稲嶺陣営を公職選挙法の厳格な適用によって締め付ける一方、渡具知陣営の違反は野放しにした。
その結果、約3500票差で渡具知氏が当選したが、20年以上「国策」に翻弄され、苦しみ続けた名護市民は、今回の選挙でさらに分断され、傷つけられた。渡具知新市長は「勝者」ではなく、翻弄された一人にすぎない。これは選挙に名を借りた国家犯罪だ。味を占めた安倍政権は、11月の沖縄県知事選でも同じ手口を使ってくるだろう。
今後の各種選挙や国民投票も見据えて、名護市長選とは何だったのか徹底検証が必要だ。その教訓を踏まえ、本来の選挙のあり方を取り戻さなければ、民主主義の明日はない。
2018年02月25日
《編集長EYE》 ICAN、金融機関にアプローチ=橋詰雅博
国連での核兵器禁止条約の採択に貢献したことで、昨年、ノーベル平和賞を受賞したICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)。その事務局長のベアトリス・フィンさん(スウェーデン出身)は1月来日し、広島、長崎、東京で講演した。
フィン事務局長は「格兵器を持つことが力の象徴ではなく、恥の象徴だと認識させて、核兵器を持つ国に悪の烙印を押すことができれば、核保有国ももっと理にかなった考え方をするようになる」と訴えた。
核保有国は「恥だ」という認識を世界に定着させるためICANは、さまざまな活動を展開する。1月初旬に本紙のインタビューを受けた(1月25日号に既報)ICAN国際運営委員の川崎哲さんは、その活動を4つに分ける。第一は核禁止条約の署名・批准を世界的に促進するため広島と長崎の被爆者による証言活動とメッセージ発信だ。第二が核武装国の「核の傘」の下にある日本のような協力国の核政策見直しを求める積極的なロビー活動。第三は将来の核武装国の核禁止条約参加を視野に入れて、核武装廃棄や検証措置をさらに精緻する議論を行う。第四が民間の金融機関などへの働きかけだ。核禁止条約が発効されれば、核兵器は国際法上、非人道兵器として認定される。そのような兵器の製造に関わる企業に融資することは社会的な責任を欠いたものと見なされる。対人地雷もクラスター爆弾も禁止条約発効(地雷は99年3月、爆弾は2010年8月)で、企業への融資が引き上げられて兵器の生産や貿易が大幅に縮小した。
川崎さんはこう語った。
「三菱UFJファイナンシャルグループは、『非人道兵器』のクラスター爆弾を製造する企業に対して今後、その資金使途にかかわらず、融資しない方針を昨年12月に発表した。例えば三菱UFJに核兵器の製造では、どう考えているのか≠ニいったアプローチは重要です」
企業が相手ならば方針の転換は期待できそうだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年2月25日号
フィン事務局長は「格兵器を持つことが力の象徴ではなく、恥の象徴だと認識させて、核兵器を持つ国に悪の烙印を押すことができれば、核保有国ももっと理にかなった考え方をするようになる」と訴えた。
核保有国は「恥だ」という認識を世界に定着させるためICANは、さまざまな活動を展開する。1月初旬に本紙のインタビューを受けた(1月25日号に既報)ICAN国際運営委員の川崎哲さんは、その活動を4つに分ける。第一は核禁止条約の署名・批准を世界的に促進するため広島と長崎の被爆者による証言活動とメッセージ発信だ。第二が核武装国の「核の傘」の下にある日本のような協力国の核政策見直しを求める積極的なロビー活動。第三は将来の核武装国の核禁止条約参加を視野に入れて、核武装廃棄や検証措置をさらに精緻する議論を行う。第四が民間の金融機関などへの働きかけだ。核禁止条約が発効されれば、核兵器は国際法上、非人道兵器として認定される。そのような兵器の製造に関わる企業に融資することは社会的な責任を欠いたものと見なされる。対人地雷もクラスター爆弾も禁止条約発効(地雷は99年3月、爆弾は2010年8月)で、企業への融資が引き上げられて兵器の生産や貿易が大幅に縮小した。
川崎さんはこう語った。
「三菱UFJファイナンシャルグループは、『非人道兵器』のクラスター爆弾を製造する企業に対して今後、その資金使途にかかわらず、融資しない方針を昨年12月に発表した。例えば三菱UFJに核兵器の製造では、どう考えているのか≠ニいったアプローチは重要です」
企業が相手ならば方針の転換は期待できそうだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年2月25日号
2018年02月08日
リニア事件 JR東海は共犯者 「三位一体」で国民だます 関島保雄弁護士に聞く=橋詰雅博
リニア中央新幹線の沿線住民738人が16年5月に品川―名古屋間の工事認可取り消しを国に求めた行政訴訟は、東京地裁で8回の口頭弁論が行われている。原告弁護団共同代表の関島保雄弁護士(70)に、リニア談合事件をどう見ているのかなどを聞いた。
――談合事件への感想は。
大手ゼネコン4社が工事受注前に談合を当然やっていると思っていました。リニア新幹線はJR東海が全額自己資金で建設すると07年に表明。だから国も国会も国民も民間事業だから口を挟めないという流れできました。
「民間事業」口実に
――しかし、リニア新幹線は公益事業を対象とした全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づいて建設されています。
全幹法の場合、用地買収や建設残土の処分などで自治体を協力させることができて、環境アセスメント前に提出する工事計画などはアバウトです。環境アセスはおおざっぱなものにならざるを得ません。全幹法の適用はJR東海にとってメリットは大きいのです。それでいて民間事業を口実にJR東海はいろいろな問題から逃げています。背後に政治的な動きがあったとしか思えません。
――そのうえ安倍晋三首相は16年6月に財政投融資による支援を打ち出しました。
総事業費約9兆円のうち3兆円を財投で賄っています。しかも超低金利で、30年間返済据え置きです。
これを実現するため安倍政権は独立行政法人「鉄道・運輸施設整備支援機構」の法改正を行い、財投資金よってリニア新幹線の工事を発注できるようにしました。全幹法を適用、さらに財投という名の税金が投入されたリニア新幹線は、今や国家的プロジェクト。国が様変わりさせておきながら民間事業のイメージを維持し、国民をだましています。
9兆円の利権隠す
9兆円という大きな利権を隠すため国、JR東海、大手ゼネコンが三位一体となってリニア新幹線建設を進めてきています。談合によって工事費がはね上がったのだから発注元のJR東海は本来ならば被害者だが、共犯者と言っても過言ではありません。JR東海の葛西敬之・取締役名誉会長は安倍首相の財界応援団の有力メンバー。ここでも首相に近い民間人が有利になるよう政策がねじ曲げられていると思います。
――裁判への影響はありますか。
ストレートに影響するとは言えないでしょう。しかし、この事件は、談合のような違法行為がさまざまな場面で起きているにもかかわらず強引に建設が進められている実態を裏付けるいい材料になります。原告側の主張に説得力の厚みが増します。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
――談合事件への感想は。
大手ゼネコン4社が工事受注前に談合を当然やっていると思っていました。リニア新幹線はJR東海が全額自己資金で建設すると07年に表明。だから国も国会も国民も民間事業だから口を挟めないという流れできました。
「民間事業」口実に
――しかし、リニア新幹線は公益事業を対象とした全国新幹線鉄道整備法(全幹法)に基づいて建設されています。
全幹法の場合、用地買収や建設残土の処分などで自治体を協力させることができて、環境アセスメント前に提出する工事計画などはアバウトです。環境アセスはおおざっぱなものにならざるを得ません。全幹法の適用はJR東海にとってメリットは大きいのです。それでいて民間事業を口実にJR東海はいろいろな問題から逃げています。背後に政治的な動きがあったとしか思えません。
――そのうえ安倍晋三首相は16年6月に財政投融資による支援を打ち出しました。
総事業費約9兆円のうち3兆円を財投で賄っています。しかも超低金利で、30年間返済据え置きです。
これを実現するため安倍政権は独立行政法人「鉄道・運輸施設整備支援機構」の法改正を行い、財投資金よってリニア新幹線の工事を発注できるようにしました。全幹法を適用、さらに財投という名の税金が投入されたリニア新幹線は、今や国家的プロジェクト。国が様変わりさせておきながら民間事業のイメージを維持し、国民をだましています。
9兆円の利権隠す
9兆円という大きな利権を隠すため国、JR東海、大手ゼネコンが三位一体となってリニア新幹線建設を進めてきています。談合によって工事費がはね上がったのだから発注元のJR東海は本来ならば被害者だが、共犯者と言っても過言ではありません。JR東海の葛西敬之・取締役名誉会長は安倍首相の財界応援団の有力メンバー。ここでも首相に近い民間人が有利になるよう政策がねじ曲げられていると思います。
――裁判への影響はありますか。
ストレートに影響するとは言えないでしょう。しかし、この事件は、談合のような違法行為がさまざまな場面で起きているにもかかわらず強引に建設が進められている実態を裏付けるいい材料になります。原告側の主張に説得力の厚みが増します。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
ICANのノーベル賞受賞と被爆者運動への目─第五福竜丸展示館を訪ねて=木下壽國(ライター)
国連での核兵器禁止条約の採択に尽力した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が昨年、ノーベル平和賞を受賞した。メディアはこぞって、このニュースを大きく取り上げた。
メディアが受賞に沸き立つ中、私は何十年ぶりかで東京都江東区の夢の島にある第五福竜丸展示館を訪れた。核兵器問題についてささやかながらも自分自身でなにかを感じてみたいと思ったからだ。訪ねたのは平日で、閉館時間に近かったこともあり、展示を見ている人は少なかった。
館内では特別展<この船を描こう>というイベントをやっていて、小中学生の描いた第五福竜丸の絵がたくさん展示されていた。それを見た私はちょっとした感動を覚えた。船の姿をそのまま描いているのだろうと半ば見下していたのだが、なかなかどうして。想像力が豊かなのだ。
中学2年生による「朝日を告げる福竜丸」などは、海をドーッ、ドーッと流れる川のように表現し、ちょっとした迫力を与える。そのほかの作品もそれぞれの想像力の中に船を自由に遊ばせていた。
第五福竜丸の船体に沿って左回りに歩みを進めていくと、水爆ブラボー実験で汚染された太平洋の海域を赤丸などで表示するパネルがあった。一瞥して、改めて汚染地域の広さとひどさに驚いた。
(→続きを読む)
メディアが受賞に沸き立つ中、私は何十年ぶりかで東京都江東区の夢の島にある第五福竜丸展示館を訪れた。核兵器問題についてささやかながらも自分自身でなにかを感じてみたいと思ったからだ。訪ねたのは平日で、閉館時間に近かったこともあり、展示を見ている人は少なかった。
館内では特別展<この船を描こう>というイベントをやっていて、小中学生の描いた第五福竜丸の絵がたくさん展示されていた。それを見た私はちょっとした感動を覚えた。船の姿をそのまま描いているのだろうと半ば見下していたのだが、なかなかどうして。想像力が豊かなのだ。
中学2年生による「朝日を告げる福竜丸」などは、海をドーッ、ドーッと流れる川のように表現し、ちょっとした迫力を与える。そのほかの作品もそれぞれの想像力の中に船を自由に遊ばせていた。
第五福竜丸の船体に沿って左回りに歩みを進めていくと、水爆ブラボー実験で汚染された太平洋の海域を赤丸などで表示するパネルがあった。一瞥して、改めて汚染地域の広さとひどさに驚いた。
(→続きを読む)
2018年02月02日
核禁止条約反対「ムダな抵抗」 ノーベル平和賞のICAN国際運営委・川崎哲さんへのインタビュー=橋詰雅博
国連での核兵器禁止条約の採択に尽力した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」へのノーベル平和賞は昨年、世界に深い感銘を与えた。しかし、唯一の戦争被爆国である日本政府は条約を黙殺=B日本の多くの国民はもとより世界の人々も安倍晋三首相の冷たい態度に落胆、失望した。安倍首相はICANに対してそっぽを向くが、どこまでも「核兵器なき世界」を追求するICAN国際運営委員でNGOピースボート共同代表の川崎哲さん(49)が本紙のインタビューに応じた。条約発効の見通し、将来日本の参加はあり得るのかなどに答えた。
☆ ☆
――核兵器禁止条約に署名した国は56カ国で、批准は3カ国(ガイアナ、バチカン、タイ)ですが、どう思いますか。
まず核兵器禁止条約は反核運動として理想に近いもので、核兵器廃絶への道筋ができた。
メキシコ批准済み
条約の批准に関してメキシコは昨年12月に議会で批准している。ただ、国連への文書提出が遅れている。正確に言えば批准国は4カ国。しかし、条約発効に必要な50カ国には遠く及ばす、国連で122カ国が条約に賛成したにもかかわらず署名は56カ国にとどまっている。
――署名・批准が進まない理由は何ですか。
2つ挙げられる。一つはどこの国も政治課題を抱えていて、そちらを優先しているので署名・批准には時間がかかる。単純な理由です。もう一つは米国など核武装国(9)が「役に立たない条約だ」とネガティブキャンペーンを打って、「署名・批准するな」と言っているからだ。2つの理由でいまのような状態になっている。私は前者の理由が大きいと思う。
昨年末、早期に禁止条約の署名・批准を求める国連決議に120カ国以上が賛成している。署名・批准へ各国の世論が盛り上がれば、批准国は増えるはず。決して核武装国の圧力に屈服してはいません。条約の署名・批准案を国会で審議する順位をより高めるため世論喚起が必要です。
――それにはどうすればいいですか。
ICANの今年の課題だが、ピースボートの場合、いままでやってきた広島・長崎の被ばく者の方を海外にお連れして核兵器廃絶を訴えてもらう取り組みを継続させて発展させることです。生き残った被ばく者の話は、地元メディアが大きく報じるし、高いレベルの政治家にも被ばく者は会える。気運を高めれば、必ず批准は実現できる。
協力国を揺さぶる
――格武装国と、米国の核の傘に依存する日本のような核武装協力国(約30)をどう攻略≠キるのか。
核兵器武装国の条約への参加は当面、望み薄。条約を速く発効させれば、武装国も無視できなくなる。これに力点を置く。このため格武装協力国を揺さぶる。私が見るところ、これらの国は一枚岩ではない。核兵器を受け入れる積極派とお付き合い程度の消極派に分かれる。
北朝鮮の核・ミサイル開発に向きあう日本と韓国、ロシアの核兵器に脅威を抱くバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やドイツ、オランダ、ベルギー、トルコ、ポーランドなどの積極派を落すにはやはり時間を要する。このため消極派にターゲットを絞る。NATO(北大西洋条約機構、29カ国で構成)に加盟するノルウェーは議会で政府に条約加盟への可能性を検討するよう求める決議が可決される。同じくNATO加盟のアイスランドは自国の軍隊がなく、NATO駐留軍もいない。格兵器を受け入れる気持ちはさらさらない。米国の核兵器を配備して積極派と見られるイタリアでも、議会は、禁止条約に参加できるかどうか政府に求める動議を可決している。
また、欧州では自治州の力が強い。条約賛成の自治州が中央政府にプレッシャーをかけると効果は大きい。消極派の国々や自治州などを落すのがICANの次の戦略だ。
条約は防衛に貢献
――日本が条約に署名・批准する可能性は。
どんな総理大臣でも毎年8月に被爆地で核兵器廃絶を求める演説を行う。それなのに核兵器禁止条約に参加していない。先だって民放で核問題の特集番組を放送していたが、その実態を知らされた若いタレントは「えー」と驚いていた。多くの国民もこのタレントと同じで、それをよく知りません。日本は被爆国でありながら禁止条約に参加しないという二重性≠フ側面を持っている。このことを常識化させて、国民的な議論を巻き起こす。「条約にコミットしないのは被爆国として理解しがたい、おかしい」という声が大きくなると、日本政府の政策が転換する可能性がある。
122カ国の賛成を得た禁止条約はいずれ発効する。格武装国と格武装協力国はムダな抵抗を止めるべきだ。条約は、核武装廃棄や国際的査察を義務付けるなども盛り込んでいる。自国防衛のためにも条約を役立てることをめざして知恵を絞ることが日本には重要です。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
☆ ☆
――核兵器禁止条約に署名した国は56カ国で、批准は3カ国(ガイアナ、バチカン、タイ)ですが、どう思いますか。
まず核兵器禁止条約は反核運動として理想に近いもので、核兵器廃絶への道筋ができた。
メキシコ批准済み
条約の批准に関してメキシコは昨年12月に議会で批准している。ただ、国連への文書提出が遅れている。正確に言えば批准国は4カ国。しかし、条約発効に必要な50カ国には遠く及ばす、国連で122カ国が条約に賛成したにもかかわらず署名は56カ国にとどまっている。
――署名・批准が進まない理由は何ですか。
2つ挙げられる。一つはどこの国も政治課題を抱えていて、そちらを優先しているので署名・批准には時間がかかる。単純な理由です。もう一つは米国など核武装国(9)が「役に立たない条約だ」とネガティブキャンペーンを打って、「署名・批准するな」と言っているからだ。2つの理由でいまのような状態になっている。私は前者の理由が大きいと思う。
昨年末、早期に禁止条約の署名・批准を求める国連決議に120カ国以上が賛成している。署名・批准へ各国の世論が盛り上がれば、批准国は増えるはず。決して核武装国の圧力に屈服してはいません。条約の署名・批准案を国会で審議する順位をより高めるため世論喚起が必要です。
――それにはどうすればいいですか。
ICANの今年の課題だが、ピースボートの場合、いままでやってきた広島・長崎の被ばく者の方を海外にお連れして核兵器廃絶を訴えてもらう取り組みを継続させて発展させることです。生き残った被ばく者の話は、地元メディアが大きく報じるし、高いレベルの政治家にも被ばく者は会える。気運を高めれば、必ず批准は実現できる。
協力国を揺さぶる
――格武装国と、米国の核の傘に依存する日本のような核武装協力国(約30)をどう攻略≠キるのか。
核兵器武装国の条約への参加は当面、望み薄。条約を速く発効させれば、武装国も無視できなくなる。これに力点を置く。このため格武装協力国を揺さぶる。私が見るところ、これらの国は一枚岩ではない。核兵器を受け入れる積極派とお付き合い程度の消極派に分かれる。
北朝鮮の核・ミサイル開発に向きあう日本と韓国、ロシアの核兵器に脅威を抱くバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やドイツ、オランダ、ベルギー、トルコ、ポーランドなどの積極派を落すにはやはり時間を要する。このため消極派にターゲットを絞る。NATO(北大西洋条約機構、29カ国で構成)に加盟するノルウェーは議会で政府に条約加盟への可能性を検討するよう求める決議が可決される。同じくNATO加盟のアイスランドは自国の軍隊がなく、NATO駐留軍もいない。格兵器を受け入れる気持ちはさらさらない。米国の核兵器を配備して積極派と見られるイタリアでも、議会は、禁止条約に参加できるかどうか政府に求める動議を可決している。
また、欧州では自治州の力が強い。条約賛成の自治州が中央政府にプレッシャーをかけると効果は大きい。消極派の国々や自治州などを落すのがICANの次の戦略だ。
条約は防衛に貢献
――日本が条約に署名・批准する可能性は。
どんな総理大臣でも毎年8月に被爆地で核兵器廃絶を求める演説を行う。それなのに核兵器禁止条約に参加していない。先だって民放で核問題の特集番組を放送していたが、その実態を知らされた若いタレントは「えー」と驚いていた。多くの国民もこのタレントと同じで、それをよく知りません。日本は被爆国でありながら禁止条約に参加しないという二重性≠フ側面を持っている。このことを常識化させて、国民的な議論を巻き起こす。「条約にコミットしないのは被爆国として理解しがたい、おかしい」という声が大きくなると、日本政府の政策が転換する可能性がある。
122カ国の賛成を得た禁止条約はいずれ発効する。格武装国と格武装協力国はムダな抵抗を止めるべきだ。条約は、核武装廃棄や国際的査察を義務付けるなども盛り込んでいる。自国防衛のためにも条約を役立てることをめざして知恵を絞ることが日本には重要です。
聞き手 橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
2018年01月28日
リニア談合事件 税金3兆投入の仕掛け人は?JR東海への破格優遇に捜査のメスを=樫田秀樹
リニア巨額談合事件について、2015年度JCJ賞を受賞した「悪夢の超特急<潟jア中央新幹線」(旬報社)の著者でジャーナリストの樫田秀樹さんに寄稿してもらった。
☆ ☆
昨年末からリニア中央新幹線の建設を巡る談合事件が報道されている。
東京地検特捜部はスーパーゼネコン4社(大林組、大成建設、清水建設、鹿島)の談合解明に努めているが、私が注視するのは、地検が果たして「リニア計画への3兆円の財政投融資(以下、財投)」の絵を誰が描いたかまで究明するかだ。
15年11月、私は某準ゼネコンのベテラン社員から「弊社はリニア計画に参画しない」との話を聞いた。理由は単純明快。リニア工事ではペイしないからだ。
07年、JR東海は「リニアの建設費9兆円を自己負担する」と公表し関係者を驚かせた。このうち、第一期工事となる品川―名古屋間で5兆5000億円だ。
銀行から融資無理
ここで私は2つの疑問を抱いた。
@5・5兆円のうち東海道新幹線の収益を当てても、3兆円足りない。どう工面するのか。
A5・5兆円を工面できても、果たしてそれで竣工できるのか。
以下、拙著「リニア新幹線が不可能な7つの理由」(岩波書店)にも書いたが、若干の加筆をして説明したい。
JR東海の15年度末の純資産額は2兆円強だった。つまり3兆円を借りる担保がないため、銀行融資は難しいと予測されていた。
仮に5・5兆円を工面できても、準ゼネコン社員が「参画しない」と表明したのは、「近年の新幹線は、当初予算の倍以上もかけて竣工している」からだ。従来の新幹線は、国と自治体とが建設費を出し合い、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、機構)」が建設し、竣工後にJR各社が機構に毎年「線路使用料」を払い運用されている。だが、リニア計画での当初の資金源はJR東海の自己資金だけ。だから、準ゼネコン社員は、「難工事で工費がかさんでも、JR東海は当初の契約金額以上は払わない」と予測した。
国の金を引っ張る
そして言葉を続けた。
「だからゼネコンはうまいこと国から金を引っ張ろうとしているはず」
その動きがあったのかは判らない。だがその7か月後の16年6月、安倍首相は突如「リニア計画に財投を3兆円投入」と発表した。
財投は、国債発行で集めた資金を財務省が35ある政府系特殊法人(財投機関と呼ぶ)に融資することで大規模事業を実現する制度だ。
今回の財投投入で不可思議なのは、財投機関ではあるが、金融機関ではない機構に、16年11月、法改正までしてJR東海に融資できる機能をもたせたことだ。財投機関には「日本政策投資銀行」というれっきとした金融機関がある。
なぜここからの融資ではなかったのか。同銀行OBは「当行は民間銀行との協調融資と要担保が原則。担保のないJR東海への融資は無理」と語った。
債務不履行もある
実際、法改正直後から、機構は5回に分け3兆円をJR東海に融資したが、「無担保」に加え「30年据置き」という破格の条件だった。誰がこの絵を描いたのか。
財投投入の方針は安倍首相の表明の何カ月も前から政府内部で話し合われていたはずで、16年から、リニアの工事契約が一気に増えたのは偶然なのだろうか。
そして、私は懸念する。工期が伸びれば工費もかさむが、そのときにまた兆単位の財投を発動するのか。旧国鉄の28兆円の借金のうち約16兆円は財投での借金だ(その反省から現在の建設方式になった)。これを今国税で償還しているのは周知のとおりだが、もしJR東海が債務不履行に陥った場合、国税で償還するのだろうか。
注視しなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
☆ ☆
昨年末からリニア中央新幹線の建設を巡る談合事件が報道されている。
東京地検特捜部はスーパーゼネコン4社(大林組、大成建設、清水建設、鹿島)の談合解明に努めているが、私が注視するのは、地検が果たして「リニア計画への3兆円の財政投融資(以下、財投)」の絵を誰が描いたかまで究明するかだ。
15年11月、私は某準ゼネコンのベテラン社員から「弊社はリニア計画に参画しない」との話を聞いた。理由は単純明快。リニア工事ではペイしないからだ。
07年、JR東海は「リニアの建設費9兆円を自己負担する」と公表し関係者を驚かせた。このうち、第一期工事となる品川―名古屋間で5兆5000億円だ。
銀行から融資無理
ここで私は2つの疑問を抱いた。
@5・5兆円のうち東海道新幹線の収益を当てても、3兆円足りない。どう工面するのか。
A5・5兆円を工面できても、果たしてそれで竣工できるのか。
以下、拙著「リニア新幹線が不可能な7つの理由」(岩波書店)にも書いたが、若干の加筆をして説明したい。
JR東海の15年度末の純資産額は2兆円強だった。つまり3兆円を借りる担保がないため、銀行融資は難しいと予測されていた。
仮に5・5兆円を工面できても、準ゼネコン社員が「参画しない」と表明したのは、「近年の新幹線は、当初予算の倍以上もかけて竣工している」からだ。従来の新幹線は、国と自治体とが建設費を出し合い、独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下、機構)」が建設し、竣工後にJR各社が機構に毎年「線路使用料」を払い運用されている。だが、リニア計画での当初の資金源はJR東海の自己資金だけ。だから、準ゼネコン社員は、「難工事で工費がかさんでも、JR東海は当初の契約金額以上は払わない」と予測した。
国の金を引っ張る
そして言葉を続けた。
「だからゼネコンはうまいこと国から金を引っ張ろうとしているはず」
その動きがあったのかは判らない。だがその7か月後の16年6月、安倍首相は突如「リニア計画に財投を3兆円投入」と発表した。
財投は、国債発行で集めた資金を財務省が35ある政府系特殊法人(財投機関と呼ぶ)に融資することで大規模事業を実現する制度だ。
今回の財投投入で不可思議なのは、財投機関ではあるが、金融機関ではない機構に、16年11月、法改正までしてJR東海に融資できる機能をもたせたことだ。財投機関には「日本政策投資銀行」というれっきとした金融機関がある。
なぜここからの融資ではなかったのか。同銀行OBは「当行は民間銀行との協調融資と要担保が原則。担保のないJR東海への融資は無理」と語った。
債務不履行もある
実際、法改正直後から、機構は5回に分け3兆円をJR東海に融資したが、「無担保」に加え「30年据置き」という破格の条件だった。誰がこの絵を描いたのか。
財投投入の方針は安倍首相の表明の何カ月も前から政府内部で話し合われていたはずで、16年から、リニアの工事契約が一気に増えたのは偶然なのだろうか。
そして、私は懸念する。工期が伸びれば工費もかさむが、そのときにまた兆単位の財投を発動するのか。旧国鉄の28兆円の借金のうち約16兆円は財投での借金だ(その反省から現在の建設方式になった)。これを今国税で償還しているのは周知のとおりだが、もしJR東海が債務不履行に陥った場合、国税で償還するのだろうか。
注視しなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
2018年01月25日
《編集長EYE》 異様な「デベロッパーファースト」=橋詰雅博
都民が東京都を相手取り、2020年東京五輪・パラリンピック選手村用地として都有地を不動産会社11社にたたき売りしたのは違法だとする住民訴訟の第2回口頭弁論が2月27日(火)、15時から東京地裁419号法廷で開かれる。周辺価格の10分の1でつまり9割値引きで売却されたことから8億円値引きされて国有地が売られた森友疑惑になぞらえて「都政版森友疑惑」裁判とも呼ばれている(本紙17年10月25日号で既報)。
昨年11月17日の第1回口頭弁論では、小池百合子都知事らに差額分約1209億円の請求を求めた原告33人を代表して中野幸則さん(66)が意見陳述した。陳述の中で中野さんは「本件は都が官民癒着、官製談合のもとで、市街地でない土地を市街地再開発事業と称して、『大地主』・『監督官庁』・『施行者』を演じた一人三役の『一人芝居』であり、デベロッパーファーストとも言うべき異常なものです」と訴えた。そして「(都有地の)売却はやめて定期借地権に変更して、数十年後には土地をとり戻すべきではないか」と主張した。
実は被告弁護団団長の外立憲治弁護士は、中野さんらの陳述を阻む行為に出ていた。原告が読むことを認めないよう求める上申書を提出したのだが、清水千恵子裁判長はこれを却下したのだ。その腹いせなのか、外立弁護士は、中野さんと原告代理人の各陳述が終わった後、事前提出していない陳述書を読み上げ「(原告の主張は)言いがかり」と反論。このいきなりの陳述に対して原告代理人が抗議する一幕があった。
原告弁護団は「(上申書提出や通告なし陳述を行った)被告は、ムキになっている。焦りと危機感のあらわれ」と相手の胸中を推し量った。
訴訟を広く知ってもらうため2月17日(土)には「都有地投げ売りシンポジウム」を13時半から16時半まで専修大神田校舎で開く。「都政版森友疑惑」裁判にもっと都民は関心を。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
昨年11月17日の第1回口頭弁論では、小池百合子都知事らに差額分約1209億円の請求を求めた原告33人を代表して中野幸則さん(66)が意見陳述した。陳述の中で中野さんは「本件は都が官民癒着、官製談合のもとで、市街地でない土地を市街地再開発事業と称して、『大地主』・『監督官庁』・『施行者』を演じた一人三役の『一人芝居』であり、デベロッパーファーストとも言うべき異常なものです」と訴えた。そして「(都有地の)売却はやめて定期借地権に変更して、数十年後には土地をとり戻すべきではないか」と主張した。
実は被告弁護団団長の外立憲治弁護士は、中野さんらの陳述を阻む行為に出ていた。原告が読むことを認めないよう求める上申書を提出したのだが、清水千恵子裁判長はこれを却下したのだ。その腹いせなのか、外立弁護士は、中野さんと原告代理人の各陳述が終わった後、事前提出していない陳述書を読み上げ「(原告の主張は)言いがかり」と反論。このいきなりの陳述に対して原告代理人が抗議する一幕があった。
原告弁護団は「(上申書提出や通告なし陳述を行った)被告は、ムキになっている。焦りと危機感のあらわれ」と相手の胸中を推し量った。
訴訟を広く知ってもらうため2月17日(土)には「都有地投げ売りシンポジウム」を13時半から16時半まで専修大神田校舎で開く。「都政版森友疑惑」裁判にもっと都民は関心を。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年1月25日号
2018年01月08日
《沖縄リポート》奇跡に近い20年に及ぶ辺野古闘争 日米両政府への怒りが噴出=浦島悦子
1997年12月21日、名護市民が住民投票で「辺野古新基地NO」の市民意思を示してから丸二十年になる。日本政府の権力と金力を総動員した市民投票潰しを跳ね返し、地域住民・市民が心血を注いで勝ち取った勝利はわずか3日後、政府の圧力に屈した当時の比嘉鉄也市長によって覆され、以来、私たちは日米の国家権力との対峙を強いられてきた。
その間に基地建設計画の中身は何度も変わり、沖縄県知事も名護市長もそれぞれ4人目を数える。彼我の圧倒的な力の差を考えれば、20年もの長い間たたかい続けてこられたことは奇跡に近い。地域住民の地を這うようなたたかいが名護全体へ、そして沖縄から全国・世界へと広がってきたからこそ、「着工」されたとはいえ工事は計画通りには進んでおらず、辺野古・大浦湾の海はまだ、私たちの目の前に美しく輝いている。
しかし今、私たちは、この海を守り切れるかどうかの瀬戸際にある。埋め立て工事を加速させる護岸用石材の海上輸送が明日にも始まるかもしれないのだ。国頭村奥港はその後使われていないものの、辺野古への海上輸送船の給水や乗組員の休憩のための中城湾港使用を沖縄県が許可した(12月7日)こと、県が有効な手立てを打てないまま本部町が11日、本部港塩川地区の港湾使用許可を出したことは、辺野古ゲート前で体を張って石材搬入に抵抗している市民を落胆させた。
名護市安部海岸へのオスプレイ墜落・大破からちょうど1年目の12月13日、普天間基地に隣接する普天間第二小学校の体育授業中の校庭に、飛行中の米軍CH53ヘリの窓が落下するという信じがたい事故が起こった。6日前にも、同じ宜野湾市の保育園の屋根に同型機の部品が落下したばかりだ。同日行われた「安部のおばぁ達の会」主催の「オスプレイNO!」勉強会では、「海も空も奪い」「この島を勝手放題に使う」米軍と、それを野放しにしている日本政府への怒りが噴出した。
2004年8月の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落・炎上事故のあと、「普天間基地の危険性を除去する」ためと称して、辺野古新基地建設に向けた作業が強行・加速されたのを思い出す。今回も同様の口実に使われることを許してはならない。
浦島悦子
その間に基地建設計画の中身は何度も変わり、沖縄県知事も名護市長もそれぞれ4人目を数える。彼我の圧倒的な力の差を考えれば、20年もの長い間たたかい続けてこられたことは奇跡に近い。地域住民の地を這うようなたたかいが名護全体へ、そして沖縄から全国・世界へと広がってきたからこそ、「着工」されたとはいえ工事は計画通りには進んでおらず、辺野古・大浦湾の海はまだ、私たちの目の前に美しく輝いている。
しかし今、私たちは、この海を守り切れるかどうかの瀬戸際にある。埋め立て工事を加速させる護岸用石材の海上輸送が明日にも始まるかもしれないのだ。国頭村奥港はその後使われていないものの、辺野古への海上輸送船の給水や乗組員の休憩のための中城湾港使用を沖縄県が許可した(12月7日)こと、県が有効な手立てを打てないまま本部町が11日、本部港塩川地区の港湾使用許可を出したことは、辺野古ゲート前で体を張って石材搬入に抵抗している市民を落胆させた。
名護市安部海岸へのオスプレイ墜落・大破からちょうど1年目の12月13日、普天間基地に隣接する普天間第二小学校の体育授業中の校庭に、飛行中の米軍CH53ヘリの窓が落下するという信じがたい事故が起こった。6日前にも、同じ宜野湾市の保育園の屋根に同型機の部品が落下したばかりだ。同日行われた「安部のおばぁ達の会」主催の「オスプレイNO!」勉強会では、「海も空も奪い」「この島を勝手放題に使う」米軍と、それを野放しにしている日本政府への怒りが噴出した。
2004年8月の沖縄国際大学への米軍ヘリ墜落・炎上事故のあと、「普天間基地の危険性を除去する」ためと称して、辺野古新基地建設に向けた作業が強行・加速されたのを思い出す。今回も同様の口実に使われることを許してはならない。
浦島悦子
2018年01月02日
JCJに多額遺贈 元出版部会の阿部丈夫さんは、「静」と「動」の人だった=池田隆(出版部会世話人)
出版部会会員だった阿部丈夫さんは「静」と「動」の人でした。1953年4月に日本出版販売(日販)に公募1期生として入社し、7年間ほどは「自称」文学(演劇)青年として活動、青春を謳歌。動の人生に入った転機は、60年「安保闘争」だった。労組執行委員としてデモ行進に参加、壮大さに触発、感動、その後23年間組合役員として活動した。私と阿部さんとの出会いは67年の青年部結成でした。69年から8年間書記長として民主的労使関係の確立に向け千代田区労働組合協議会(千代田区労協)、75年には日本出版労働組合連合会(出版労連)に参加し、その先頭に立って実現した。背景には常に民主的出版物の普及に貢献したいという信念でした。
退職後は、23年間の運動を記録した組合機関紙や資料を、過ぎた事として廃棄するのは忍び難いと7年間にわたって住まいがあった草加市であったことから「想過思今」として編集、かつての仲間に送付。その集大成は全3巻私家版「日販労働運動史」として刊行された。「出版流通九条の会」の結成にも尽力された。
阿部さんは81歳で昨年4月に亡くなられたが、相思相愛、同志でもあった夫人の明子さんが今年4月に亡くなられ、生前お二人の遺志で何らかの費用に活用してほしいということでJCJに遺贈された。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
退職後は、23年間の運動を記録した組合機関紙や資料を、過ぎた事として廃棄するのは忍び難いと7年間にわたって住まいがあった草加市であったことから「想過思今」として編集、かつての仲間に送付。その集大成は全3巻私家版「日販労働運動史」として刊行された。「出版流通九条の会」の結成にも尽力された。
阿部さんは81歳で昨年4月に亡くなられたが、相思相愛、同志でもあった夫人の明子さんが今年4月に亡くなられ、生前お二人の遺志で何らかの費用に活用してほしいということでJCJに遺贈された。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
2017年12月26日
戦争の危機迫る 自衛隊員の心境は=橋詰雅博
安倍晋三政権は安保法成立など戦争する国に向かい着々と手を打っている。戦争の最前線に立つことになる自衛官は今、何を思っているのか。東京・練馬区の陸上自衛隊駐屯地を中心に部隊の行動の監視と自衛官への接触を行う練馬平和委員会の坂本茂事務局長(64)に今の自衛官の心境を聞いた。
――安倍政権が戦争する国づくりを進めていることに自衛官はどう感じているのか。
昨年10月16日に中央観閲式予行訓練が陸上自衛隊朝霞駐屯地訓練場で行われた際、一般向け入場券で駐屯地内に入った。警務隊などが尾行していましたが、「安保法をどう思うか」「8月、家族向けに配布された安保法解説書の感想は」などの質問を自衛官にぶつけた。「安保法は違憲」「入隊する際に署名捺印する『服務の宣誓書』には日本国憲法及び法令を遵守と書かれており、これと矛盾する」「解説書は美辞麗句だらけでインチキ」などと答えた。
20人が答える
また、PKO(国連平和維持活動)の新任務である駆け付け警護の訓練を経験した自衛官(1曹)は「海外に派遣されたら死ぬかもしれない」ともらした。3年に1回実施される中央観閲式は自衛隊のひのき舞台。予行演習とはいえ、本来は一般の人とのおしゃべりは厳禁です。にもかかわらず直撃インタビューに20人もの自衛官が答えたのは、命が危ういという不安の現れだと思います。
――九条改憲について何か言っていますか。
九条改憲には口を閉ざしているが、自衛隊のイラク派遣(2003年12月から09年2月)でこんなエピソードがあります。イラクに6カ月間派遣されて帰国した幹部自衛官は、私に「九条があったから生きて帰れた」と話してくれました。憲法改正についてどうなのかと尋ねると「政治問題には答えられない」と言いました。
ドタキャン増加
――志願者の大幅減により自衛官募集も相当減っているそうですが……。
13年から一般曹候補生(正社員に当たる)募集は毎年2割ペースで激減している。1年を通して募集している非正規雇用に当たる自衛官候補生(陸自2年、海自・空自3年の任期制)も同じペース。
最近目立つのが試験当日のドタキャンです。母親や祖父などから『紛争地への海外派遣もあり得る。命は一つ。受験は止めなさい』と忠告されて止めるという。ある自衛官募集担当者は「上官から縁故募集も命令されている。わが子は自衛隊以外の仕事に踏み出したので、内心ホッとしている」と話した。若者の自衛隊離れは加速しています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
――安倍政権が戦争する国づくりを進めていることに自衛官はどう感じているのか。
昨年10月16日に中央観閲式予行訓練が陸上自衛隊朝霞駐屯地訓練場で行われた際、一般向け入場券で駐屯地内に入った。警務隊などが尾行していましたが、「安保法をどう思うか」「8月、家族向けに配布された安保法解説書の感想は」などの質問を自衛官にぶつけた。「安保法は違憲」「入隊する際に署名捺印する『服務の宣誓書』には日本国憲法及び法令を遵守と書かれており、これと矛盾する」「解説書は美辞麗句だらけでインチキ」などと答えた。
20人が答える
また、PKO(国連平和維持活動)の新任務である駆け付け警護の訓練を経験した自衛官(1曹)は「海外に派遣されたら死ぬかもしれない」ともらした。3年に1回実施される中央観閲式は自衛隊のひのき舞台。予行演習とはいえ、本来は一般の人とのおしゃべりは厳禁です。にもかかわらず直撃インタビューに20人もの自衛官が答えたのは、命が危ういという不安の現れだと思います。
――九条改憲について何か言っていますか。
九条改憲には口を閉ざしているが、自衛隊のイラク派遣(2003年12月から09年2月)でこんなエピソードがあります。イラクに6カ月間派遣されて帰国した幹部自衛官は、私に「九条があったから生きて帰れた」と話してくれました。憲法改正についてどうなのかと尋ねると「政治問題には答えられない」と言いました。
ドタキャン増加
――志願者の大幅減により自衛官募集も相当減っているそうですが……。
13年から一般曹候補生(正社員に当たる)募集は毎年2割ペースで激減している。1年を通して募集している非正規雇用に当たる自衛官候補生(陸自2年、海自・空自3年の任期制)も同じペース。
最近目立つのが試験当日のドタキャンです。母親や祖父などから『紛争地への海外派遣もあり得る。命は一つ。受験は止めなさい』と忠告されて止めるという。ある自衛官募集担当者は「上官から縁故募集も命令されている。わが子は自衛隊以外の仕事に踏み出したので、内心ホッとしている」と話した。若者の自衛隊離れは加速しています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
《おすすめ本》 『亡国の武器輸出』 池内了+青井美帆+杉原浩司編=橋詰雅博
2014年4月、安倍晋三内閣は「防衛装備移転三原則」を閣議決定。武器輸出三原則が撤廃されて武器の輸出が全面解禁になった。「平和国家」から武器輸出を国家の「成長戦略」として政策が転換されたことで、大物防衛利権フィクサーが再び蠢動している。
秋山直紀氏だ。秋山氏は防衛利権に絡んだ事件で約1億円の脱税容疑によって11年10月に懲役3年執行猶予5年の有罪判決が確定した人物。彼の復活を印象付けたのは16年5月都内のホテルでの現職の国会議員と防衛官僚による講演会の仕掛け人として名前が挙がったのだ。自ら理事を務める国際平和戦略研究所の代表理事、久間章生元防衛相を呼びかけ人として講演会開催を企画した。ただ、講演会は、直前に中止になった。本書執筆陣の一人であるジャーナリストの田中稔氏は、その理由を有罪になった人物が関係する会合で国会議員らが講演するのはまずいと防衛省などが判断したと指摘する。
本書は武器輸出の問題点を15人が多面的に摘出した好著。
(合同出版1650円)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
秋山直紀氏だ。秋山氏は防衛利権に絡んだ事件で約1億円の脱税容疑によって11年10月に懲役3年執行猶予5年の有罪判決が確定した人物。彼の復活を印象付けたのは16年5月都内のホテルでの現職の国会議員と防衛官僚による講演会の仕掛け人として名前が挙がったのだ。自ら理事を務める国際平和戦略研究所の代表理事、久間章生元防衛相を呼びかけ人として講演会開催を企画した。ただ、講演会は、直前に中止になった。本書執筆陣の一人であるジャーナリストの田中稔氏は、その理由を有罪になった人物が関係する会合で国会議員らが講演するのはまずいと防衛省などが判断したと指摘する。
本書は武器輸出の問題点を15人が多面的に摘出した好著。
(合同出版1650円)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
《編集長EYE》 タックスヘイブン3つの問題点=橋詰雅博
巨大企業や富裕層、特権層が納税を逃れ秘密裏に資産を増やすために利用するタックスヘイブン(租税回避地)。その正体が明るみに出た昨年の「パナマ文書」に続く第2弾「パラダイス文書」が11月に報道されて世界に再び衝撃を与えた。
これを受けてEU(欧州連合)の議会組織で開会中だった欧州議会では、タックスヘイブンへの批判が集中した。ベルギーのランバーツ議員は「租税回避は民主主義を掘り崩す行為だ」と強調。モスコヴィシ税制担当委員も「もしこれが合法だと言うのなら、法の方を変えなければならない」とまで言及した。
12月3日の民間税制調査会(座長・三木義一青山学院大学学長)でパラダイス文書などについて講演した北海道大学法学研究科博士課程の津田久美子さんは、こう述べた。
「タックスヘイブンの主な問題点は三つあります。不平等の温床、マネ―ロンダリングなど犯罪の助長、過剰なマネー取引による金融危機発生に加担です。独自の対抗策としてEUではマネロンを防ぐ案の検討や多国籍企業への課税強化、タックスヘイブンブラックリストの作成、パナマ文書に対する調査機関の設置などを挙げています」
特に過剰に生み出されるグローバル・マネーを制御する試みとしてEU金融取引税(FTT)の導入に向けてフランスやドイツを中心とした10国が取り組んでいる点に注目が集まる。
「当初は11カ国でしたが、経済の効率性が阻害されるとFTTに反対する金融業界などのロビー活動によりエストニアが離脱し、活動が停滞しました。とりわけ株式や債券などで運用する年金基金がFTT導入で損害を受ける可能性が大きな問題になりました。この数年は総論賛成、各論反対で税制の詳細を詰めるプロセスが頓挫していました。しかし、最近はEUの新財源として再び脚光を集めつつあります」(津田さん)
日米は反対だが、EUのFTT導入への挑戦は注視すべきだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
これを受けてEU(欧州連合)の議会組織で開会中だった欧州議会では、タックスヘイブンへの批判が集中した。ベルギーのランバーツ議員は「租税回避は民主主義を掘り崩す行為だ」と強調。モスコヴィシ税制担当委員も「もしこれが合法だと言うのなら、法の方を変えなければならない」とまで言及した。
12月3日の民間税制調査会(座長・三木義一青山学院大学学長)でパラダイス文書などについて講演した北海道大学法学研究科博士課程の津田久美子さんは、こう述べた。
「タックスヘイブンの主な問題点は三つあります。不平等の温床、マネ―ロンダリングなど犯罪の助長、過剰なマネー取引による金融危機発生に加担です。独自の対抗策としてEUではマネロンを防ぐ案の検討や多国籍企業への課税強化、タックスヘイブンブラックリストの作成、パナマ文書に対する調査機関の設置などを挙げています」
特に過剰に生み出されるグローバル・マネーを制御する試みとしてEU金融取引税(FTT)の導入に向けてフランスやドイツを中心とした10国が取り組んでいる点に注目が集まる。
「当初は11カ国でしたが、経済の効率性が阻害されるとFTTに反対する金融業界などのロビー活動によりエストニアが離脱し、活動が停滞しました。とりわけ株式や債券などで運用する年金基金がFTT導入で損害を受ける可能性が大きな問題になりました。この数年は総論賛成、各論反対で税制の詳細を詰めるプロセスが頓挫していました。しかし、最近はEUの新財源として再び脚光を集めつつあります」(津田さん)
日米は反対だが、EUのFTT導入への挑戦は注視すべきだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年12月25日号
2017年12月25日
《支部リポート》前川講演―第3会場まで用意=徃住嘉文(北海道支部)

「理想のない現実主義はない」「心の中はアナーキスト。振舞いは公務員だが、いかなる権威にも縛られない」。次々と繰り出される言葉に皆、うなずいている。
しかも、表情が柔らかい。笑顔だ。10月28日、札幌市エルプラザでJCJ北海道支部と「さっぽろ自由学校『遊』」が開いた元文科省事務次官前川喜平さんの講演会。事前の問い合わせが殺到したため、定員350人の会場のほかに、第3会場まで用意し中継を手配した。それでも合計780人であふれ、中継不調などでご迷惑をおかけした。
これほど関心を呼んだのは、権力を監視すべきマスコミすら「忖度」「自粛」「服従」する安倍晋三政権下で、勇気、正義への渇望が広がっているからではないか。本紙「ジャーナリスト」のインタビューは衝撃的だったが、講演でも前川さんの率直な物言いは変わらない。「私は下村博文文科相のもとで教材『私たちの道徳』を作った責任がある。『自由の価をきちんと書く』よう注文したが、結局『自由には責任が伴う』などと書かれた。『国を愛そう』など集団主義的な価値が強調された」「憲法は教育を受ける権利を保障している。学ばなければ、憲法で享受すべき人権、国の原則は守れない。権力の暴走を許してしまうのは、無知蒙昧な国民。えらい人に従う、プロパガンダに流される国民をつくったのではないかと反省している」
会場からは「管理的な仕事が増え、子供たちとともに考える時間がない、満足な教育ができない」(現役の教員)「選挙権を得たが主権者教育が足りない」(高校生)などの意見も出た。前川さんは、現実が厳しいことは認めつつ、自分のできる範囲で少しでも変えていこう、と面従腹背の勧めを説いていた。
私事で恐縮だが、前川さんと、安倍首相、志位和夫共産党委員長、私は学齢が同じ。「同期」として、日本を戦中に戻す安倍首相の復古主義を改めさせる責任がある。言論、運動両面の戦いは、今後も続く。
2017年12月20日
《スポーツコラム》「レガシー消える東京五輪」=大野晃
1500億円近くをかけて建設中の2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場である新国立競技場が、五輪後は国際的な陸上競技会ができない球技専用の競技場に変わり、様々なイベント会場にすると政府が決めた。しかも、運営権を国立代々木競技場や秩父宮ラグビー場とセットで民間に売り出すことを検討しているという。
政府や都、組織委員会により東京五輪の会場はレガシー(遺産)として生かすと声高に喧伝されてきたが、箱モノを作って五輪が終われば民間に売り渡すということか。 何がレガシーなのか皆目わからない。
開発優先で問題の多かった1964年の東京五輪開催だったが、開催後は、国民スポーツ発展のために五輪会場が後利用され、70年代には全国で地方自治体がスポーツ施設を建設するなど国民のスポーツ熱を盛り上げる条件整備が進んだ。
半世紀を過ぎて、2度目の夏季五輪開催では会場の国民的な後利用はレガシーに言葉を変えてかえりみられず、政府が商品化するという。
国民全体が手軽に利用できるスポーツ施設として生かす検討を忘れた五輪開催である。露骨な商売五輪と言うしかない。
国際平和も友好も口先だけで、五輪は見るもので客を集める巨大商業イベントと公言するに等しい。この際、一緒に儲けませんかと国民を煽っているようだ。
スポーツ基本法を持つ国民にスポーツの恩恵をもたらさない五輪開催で巨額な税金を費消しては負の遺産ばかりになる。
メダル獲得で国威を示すのが五輪開催の意義とでも言わんばかりのスポーツマスメディアの姿勢が、世界に恥じる政府と日本スポーツをけん引してはいまいか。国民のスポーツする条件は限られる一方で、五輪開催が、さらに悪化させそうだ。
誰もがスポーツを楽しめるように、収益第一のスポーツ政策を転換することが五輪開催の重要な課題のはずだ。(スポーツジャーナリスト)
政府や都、組織委員会により東京五輪の会場はレガシー(遺産)として生かすと声高に喧伝されてきたが、箱モノを作って五輪が終われば民間に売り渡すということか。 何がレガシーなのか皆目わからない。
開発優先で問題の多かった1964年の東京五輪開催だったが、開催後は、国民スポーツ発展のために五輪会場が後利用され、70年代には全国で地方自治体がスポーツ施設を建設するなど国民のスポーツ熱を盛り上げる条件整備が進んだ。
半世紀を過ぎて、2度目の夏季五輪開催では会場の国民的な後利用はレガシーに言葉を変えてかえりみられず、政府が商品化するという。
国民全体が手軽に利用できるスポーツ施設として生かす検討を忘れた五輪開催である。露骨な商売五輪と言うしかない。
国際平和も友好も口先だけで、五輪は見るもので客を集める巨大商業イベントと公言するに等しい。この際、一緒に儲けませんかと国民を煽っているようだ。
スポーツ基本法を持つ国民にスポーツの恩恵をもたらさない五輪開催で巨額な税金を費消しては負の遺産ばかりになる。
メダル獲得で国威を示すのが五輪開催の意義とでも言わんばかりのスポーツマスメディアの姿勢が、世界に恥じる政府と日本スポーツをけん引してはいまいか。国民のスポーツする条件は限られる一方で、五輪開催が、さらに悪化させそうだ。
誰もがスポーツを楽しめるように、収益第一のスポーツ政策を転換することが五輪開催の重要な課題のはずだ。(スポーツジャーナリスト)