終戦80年、しかも排外主義の政治勢力が伸長というこの夏、戦争を扱った番組から特に印象的なものを振り返る。
広島テレビ『テニアン 玉砕と原爆の島』は、広島・長崎への発進基地となったテニアン島で、米軍の攻撃下で日本人移民が集団自決した悲劇や、かつての滑走路が訓練場として再整備されている実態を伝えた。NHK『BSスペシャル 原爆裁判〜被爆者と弁護士たちの闘い〜』は、1963年の東京地裁の「原爆投下は国際法違反」という判決を、提起した岡本尚一弁護士や原告の被爆者5人の側から見つめ、後の国際司法裁判所の勧告的意見や核兵器禁止条約への影響も伝えた。
同『ETV特集 ヒロシマからの手紙 “原爆”を綴ったアメリカ人たち』は、トルーマン大統領が、日本への追加攻撃を求める議員への手紙に多くの命を奪った後悔を綴り、原爆開発に従事した物理学者アルヴァレズも息子への手紙に罪悪感を綴ったことなど、核兵器を生み出した側の後悔や葛藤を紹介、それが「核兵器は二度と使用してはならない」とする“核のタブー”を形成していったのではないかと指摘した。
同『ETV特集 昭和天皇 終戦への道〜外相手帳が語る国際情報戦〜』は、最近全文開示された、終戦時の外相・東郷茂徳の手帳から、1945年6月から終戦への歩みをたどった。スイスを舞台とした米情報機関と日本と間の和平工作は近年注目されているが、それが天皇の終戦への決断を促したことが一級の史料で裏付けられた。同『BSスペシャル 軍神と記者 特攻 封じられた本心』は、敷島隊の隊長として出撃し、死後「軍神」と崇められた関行男大尉が、出撃直前に海軍報道班員・小野田政に「死にたくはない。死ななければならないなら…それは最愛の妻のためだ」と語っていた事実を明らかにした。検閲によって関の本心を伝えられなかった小野田の後悔から、報道が戦意高揚に果たした役割を批判的に見つめた。
BS−TBS『報道1930スペシャル 日本人と“軍隊”〜いま見つめる戦後80年の自画像』は、日独の戦後の「再軍備」の差に着目した。ドイツでは、軍は民主主義国家を守るもの、軍人は制服を着た市民とされるが、自衛隊は教本に軍人勅諭を載せ、靖国神社での慰霊にこだわる幹部もいる。民主主義国家での軍事力のあり方を、元統合幕僚長を含む論者たちが論じた。個々の意見には賛否があろうが、意欲的な問題提起であった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
2025年10月15日
2025年09月22日
【NHKと放送のこれから公開講座】兵庫県知事選のデマから 「報道特集」大キャンペーン TBSの゙琴袖氏講演=河野 慎二
JCJも協賛する「NHKと放送のこれから」の連続公開講座(第3回)「TBS『報道特集』で何が起きているのか」が7月20日立教大学で開かれ、番組の゙琴袖(チョウ・クンス)前編集長が講演した。
゙氏は講座の冒頭「今、SNSというネットメディアが政治をどう変えようとしているか。もっと言えば、民主主義をどう破壊しようとしているのかを知って帰ってほしい」と参加者によびかけた。
「報道特集」は昨年11月の兵庫県知事選について「公益通報制度」との関わりで取材を進め「当選した斎藤知事側と、自らの当選は目指さないもう一人の立候補者との間に、選挙運動の協力があったのではないかという調査報道を2回に分けて放送した」(゙氏)。
「報道特集」は昨年11月30日の放送で、NHK党の立花孝志氏の関与を伝えているが、今年1月、立花氏のデマ情報の標的になった兵庫県議の自殺が「12回にわたるキャンペーンのきっかけになった」(゙氏)。
゙氏は、その問題意識について「これは兵庫だけの問題ではない。民主主義の根幹に関わる問題と考えたからだ」と語る。
兵庫県知事選では、立花氏自身が発信した動画だけで、再生回数は1500万回に急増、斎藤知事の公式チャンネルの12倍に達していた。
取材が進み、放送回数を重ねるに連れ、番組ど氏に対する攻撃が増えた。「殺害予告のメールが届いた時は、警察に被害届を出した」。
ネット上で各種のサービスを仲介する「クラウドワークス」という企業がある。立花氏の街頭演説を撮影する仕事も仲介する。
番組は、立花演説を撮影したワーカーのA氏を取材した。A氏は選挙期間中のユーチューブの使用権を与えられ、立花氏の演説動画を配信し続けたという。
動画には、自殺に追い込まれた竹内県議に関するデマを流布する場面も付記されている。
都内に一人で暮らす大学生。番組の取材に「クラウドワークスはお金を稼ぐための手段」と言い切り「送られてきた動画を1分程度の切り抜き動画に編集して納品した」と答える。「今のメディアを良く思っていないので、メディア批判を強調する動画を返した」「SNSには同じようなコンテンツが無数にある。真実(かどうか)と言うより、コンテンツをたくさん見ると、真実に思えるようになる」とも。
゙氏は、メディアに広がる「中立信仰」蔓延の問題にも言及した。放送法4条に「政治的公平」の規定はあるが、「中立」はない。゙氏は「戦時中に放送が戦争礼賛報道を行ったことへの反省から、今の放送は出発した。放送は権力の監視、チェックの役割を忘れてはならない」と強調した。
゙氏はさらに「マスメディアは第4の権力と言われるが、それはメディアが弱者の立場を正しく伝えることを委譲されているからだ」が、「弱者側に立つ報道は弱体化されており、今後激減する」と警告。今後の対応については「同じ危機感を持つ人たちと連帯し、発信していく以外に方法は無い。そのために、私は今日ここに来て発信しています」と述べた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
゙氏は講座の冒頭「今、SNSというネットメディアが政治をどう変えようとしているか。もっと言えば、民主主義をどう破壊しようとしているのかを知って帰ってほしい」と参加者によびかけた。
「報道特集」は昨年11月の兵庫県知事選について「公益通報制度」との関わりで取材を進め「当選した斎藤知事側と、自らの当選は目指さないもう一人の立候補者との間に、選挙運動の協力があったのではないかという調査報道を2回に分けて放送した」(゙氏)。
「報道特集」は昨年11月30日の放送で、NHK党の立花孝志氏の関与を伝えているが、今年1月、立花氏のデマ情報の標的になった兵庫県議の自殺が「12回にわたるキャンペーンのきっかけになった」(゙氏)。
゙氏は、その問題意識について「これは兵庫だけの問題ではない。民主主義の根幹に関わる問題と考えたからだ」と語る。
兵庫県知事選では、立花氏自身が発信した動画だけで、再生回数は1500万回に急増、斎藤知事の公式チャンネルの12倍に達していた。
取材が進み、放送回数を重ねるに連れ、番組ど氏に対する攻撃が増えた。「殺害予告のメールが届いた時は、警察に被害届を出した」。
ネット上で各種のサービスを仲介する「クラウドワークス」という企業がある。立花氏の街頭演説を撮影する仕事も仲介する。
番組は、立花演説を撮影したワーカーのA氏を取材した。A氏は選挙期間中のユーチューブの使用権を与えられ、立花氏の演説動画を配信し続けたという。
動画には、自殺に追い込まれた竹内県議に関するデマを流布する場面も付記されている。
都内に一人で暮らす大学生。番組の取材に「クラウドワークスはお金を稼ぐための手段」と言い切り「送られてきた動画を1分程度の切り抜き動画に編集して納品した」と答える。「今のメディアを良く思っていないので、メディア批判を強調する動画を返した」「SNSには同じようなコンテンツが無数にある。真実(かどうか)と言うより、コンテンツをたくさん見ると、真実に思えるようになる」とも。
゙氏は、メディアに広がる「中立信仰」蔓延の問題にも言及した。放送法4条に「政治的公平」の規定はあるが、「中立」はない。゙氏は「戦時中に放送が戦争礼賛報道を行ったことへの反省から、今の放送は出発した。放送は権力の監視、チェックの役割を忘れてはならない」と強調した。
゙氏はさらに「マスメディアは第4の権力と言われるが、それはメディアが弱者の立場を正しく伝えることを委譲されているからだ」が、「弱者側に立つ報道は弱体化されており、今後激減する」と警告。今後の対応については「同じ危機感を持つ人たちと連帯し、発信していく以外に方法は無い。そのために、私は今日ここに来て発信しています」と述べた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
2025年08月12日
【テレ朝株主総会】市民提案を拒否 「ネットワーク」の質問に拍手も=岩崎 貞明
テレビ朝日ホールディングスの定時株主総会は東京・六本木のEXシアターで6月27日(金)午前10時から開かれた。フジ・メディア・ホールディングスの株主総会が4時間超にわたったのに比べ、こちらは80分程度と、大きな揉め事もなく淡々としたものだった。
今年も、市民グループ「テレビ輝け!市民ネットワーク」が株主提案や関連質問を事前に提出。総会は早河洋・テレビ朝日ホールディングス代表取締役会長の議事進行で、会社側からの報告などに続いて、前川喜平・市民ネットワーク共同代表が株主提案について説明した。提案の冒頭、前川氏は早河氏の民放連会長就任に祝意を述べつつ、権力の長期化・固定化が腐敗を招くとして「会長人事も新陳代謝が不可欠」と釘を刺していた。
株主提案は5項目で、放送への公権力介入に対する公表義務、広告と番組の混同の防止、番組審議会委員の任期の制限といった昨年と同一の提案に加え、今年は女性役員比率の向上、積極的な選挙報道を求める提案を行った。いずれも定款変更を求める議案で、会社側(取締役会)はすべてに反対の意を表明している。
質問では、フジテレビ問題で民放各社もそれぞれ社内調査を行った、女性アナウンサーを同席させる“不適切な”会食の実態調査に関するものがあった。テレビ朝日側の回答は「趣旨のわからない会食に参加した、場を盛り上げるように指示された、会食相手から連絡先を聞かれた、という報告はあったが、不適切な言動はなかった」という。「不適切」の範囲が不明な気もしたが、会社側の説明は「当事者が深刻に受け止めた事例はなかった」というものだった。
古賀茂明氏の著書で指摘された、『報道ステーション』に対して官邸から圧力がかけられて人事異動が行われたという疑惑に対しても、会社は昨年同様その事実を否定した。市民ネットワークの梓澤和幸弁護士が会場から食い下がって質問したが、会社側は「古賀氏の著書の記載は事実ではない」と答えるにとどまった。それでも、市民ネットワークの質問には会場から拍手も送られた。
会場から批判の声が上がったのは、議案採決の時だった。早河議長の進行は「会社提案に賛成の拍手、株主提案には反対の拍手」のみを求めるものだった。「株主提案に賛成の拍手も求めるべきだ」との声が会場から上がったが、早河議長は一切黙殺して採決を強行し、総会を終了させた。
総会後の記者会見で、市民ネットワークの田中優子共同代表は「私たちの提案に対して、できない理由を見つけて反対している」と批判。前川氏は「繰り返し提案することで抑止力になっている」と、来年も提案を続けることを表明した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
今年も、市民グループ「テレビ輝け!市民ネットワーク」が株主提案や関連質問を事前に提出。総会は早河洋・テレビ朝日ホールディングス代表取締役会長の議事進行で、会社側からの報告などに続いて、前川喜平・市民ネットワーク共同代表が株主提案について説明した。提案の冒頭、前川氏は早河氏の民放連会長就任に祝意を述べつつ、権力の長期化・固定化が腐敗を招くとして「会長人事も新陳代謝が不可欠」と釘を刺していた。
株主提案は5項目で、放送への公権力介入に対する公表義務、広告と番組の混同の防止、番組審議会委員の任期の制限といった昨年と同一の提案に加え、今年は女性役員比率の向上、積極的な選挙報道を求める提案を行った。いずれも定款変更を求める議案で、会社側(取締役会)はすべてに反対の意を表明している。
質問では、フジテレビ問題で民放各社もそれぞれ社内調査を行った、女性アナウンサーを同席させる“不適切な”会食の実態調査に関するものがあった。テレビ朝日側の回答は「趣旨のわからない会食に参加した、場を盛り上げるように指示された、会食相手から連絡先を聞かれた、という報告はあったが、不適切な言動はなかった」という。「不適切」の範囲が不明な気もしたが、会社側の説明は「当事者が深刻に受け止めた事例はなかった」というものだった。
古賀茂明氏の著書で指摘された、『報道ステーション』に対して官邸から圧力がかけられて人事異動が行われたという疑惑に対しても、会社は昨年同様その事実を否定した。市民ネットワークの梓澤和幸弁護士が会場から食い下がって質問したが、会社側は「古賀氏の著書の記載は事実ではない」と答えるにとどまった。それでも、市民ネットワークの質問には会場から拍手も送られた。
会場から批判の声が上がったのは、議案採決の時だった。早河議長の進行は「会社提案に賛成の拍手、株主提案には反対の拍手」のみを求めるものだった。「株主提案に賛成の拍手も求めるべきだ」との声が会場から上がったが、早河議長は一切黙殺して採決を強行し、総会を終了させた。
総会後の記者会見で、市民ネットワークの田中優子共同代表は「私たちの提案に対して、できない理由を見つけて反対している」と批判。前川氏は「繰り返し提案することで抑止力になっている」と、来年も提案を続けることを表明した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
2025年07月20日
【連続公開講座】フジから見えた テレビの未来=河野慎二
「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」は5月25日、連続公開講座「フジテレビ問題からテレビの未来を考える」を第1回目として開催した。
業界の3大病巣
田淵俊彦・桜美林大学教授(テレビ東京出身)は講演で、「フジは23年5月の事件発生時から、性暴力、性被害の事実を知っていたが、日枝(元社長の支配)体制下で現場が経営にモノが言えない弊害が出て、1年半も事実を隠蔽した」と批判。
「テレビ業界には@隠ぺい主義A横並び体質B忖度の3大病巣がある」と指摘した上で「今回の問題をテレビがフジだけの『他人ごと』と捉えていると第2第3の『フジ問題』が発生が危惧される」と警鐘を鳴らした。
「権力勾配」が阻害
続いて講演した大島新・東京工芸大学芸術学部教授は、元フジテレビ社員。「フジのキャッチコピー『楽しくなければテレビじゃない』は、1995年1月の阪神淡路大震災、3月の地下鉄サリン事件で時代に合わなくなり、フジはバブルを象徴するテレビ局になった」と指摘した。
フジは97年、お台場新社屋に移転。「大手企業」のイメージを強めたが、2022年には100人が早期退職するという異常事態が起きた。
こうした中、タレント依存と他局のマネが強まり、視聴率は4年連続4位と低迷。チャレンジングな作品がなくなり、フジは20年、タレントの中居正広に依存した、何の工夫もないトーク番組を始めた。大島氏はこれを「フジの貧すれば鈍する時代だ」と指摘。中居と女性アナの問題で「フジは中居を選択した。ありえないことだ」と批判した。
大島氏は入社4年後の98年にフジを退社。周囲は不思議がったが、フジの『上を向いて歩こう』の時代、『上』とは日枝さんだった」語った。
映画監督でもある大島氏は、さらに番組制作現場のテレビ局と制作会社の間には「ピラミッド構造の上下関係がある」と指摘。それを「テレ局の権力勾配」と呼び、テレビの優れた政策能力を阻害する。一日も早くなくすべきだ」と提言した。
若い人を活かせ
村井明日香・昭和女子大学准教授は、フジテレビ問題表面化で学生には「テレビ局は男性優位の社会」「職場環境に恐怖心が多数」などの反応が多かったと報告。「その反面、『女性も番組作りの分野で力を発揮できる』との声もある」。「面白いコンテンツを作りたいという若い人たちが沢山いるが、(テレビ局ではなく)制作会社に集まっている」とも指摘し、「テレビ局が情報発信機能を取り戻すには、若い人材をもっと積極的に採用し、番組に活かすべきだ」と提言した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
業界の3大病巣
田淵俊彦・桜美林大学教授(テレビ東京出身)は講演で、「フジは23年5月の事件発生時から、性暴力、性被害の事実を知っていたが、日枝(元社長の支配)体制下で現場が経営にモノが言えない弊害が出て、1年半も事実を隠蔽した」と批判。
「テレビ業界には@隠ぺい主義A横並び体質B忖度の3大病巣がある」と指摘した上で「今回の問題をテレビがフジだけの『他人ごと』と捉えていると第2第3の『フジ問題』が発生が危惧される」と警鐘を鳴らした。
「権力勾配」が阻害
続いて講演した大島新・東京工芸大学芸術学部教授は、元フジテレビ社員。「フジのキャッチコピー『楽しくなければテレビじゃない』は、1995年1月の阪神淡路大震災、3月の地下鉄サリン事件で時代に合わなくなり、フジはバブルを象徴するテレビ局になった」と指摘した。
フジは97年、お台場新社屋に移転。「大手企業」のイメージを強めたが、2022年には100人が早期退職するという異常事態が起きた。
こうした中、タレント依存と他局のマネが強まり、視聴率は4年連続4位と低迷。チャレンジングな作品がなくなり、フジは20年、タレントの中居正広に依存した、何の工夫もないトーク番組を始めた。大島氏はこれを「フジの貧すれば鈍する時代だ」と指摘。中居と女性アナの問題で「フジは中居を選択した。ありえないことだ」と批判した。
大島氏は入社4年後の98年にフジを退社。周囲は不思議がったが、フジの『上を向いて歩こう』の時代、『上』とは日枝さんだった」語った。
映画監督でもある大島氏は、さらに番組制作現場のテレビ局と制作会社の間には「ピラミッド構造の上下関係がある」と指摘。それを「テレ局の権力勾配」と呼び、テレビの優れた政策能力を阻害する。一日も早くなくすべきだ」と提言した。
若い人を活かせ
村井明日香・昭和女子大学准教授は、フジテレビ問題表面化で学生には「テレビ局は男性優位の社会」「職場環境に恐怖心が多数」などの反応が多かったと報告。「その反面、『女性も番組作りの分野で力を発揮できる』との声もある」。「面白いコンテンツを作りたいという若い人たちが沢山いるが、(テレビ局ではなく)制作会社に集まっている」とも指摘し、「テレビ局が情報発信機能を取り戻すには、若い人材をもっと積極的に採用し、番組に活かすべきだ」と提言した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
2025年07月17日
【放送フォーラム】「死の行進」制作体験聴く=小滝一志(放送を語る会)
「放送フォーラム」(JCJも協賛)が5月24日、「戦後80年の節目に戦争をどのように伝えていくか」をテーマに開かれた。昨年度JCJ賞を受賞したSBC信越放送「78年目の和解―サンダカン死の行進・遺族の軌跡」を制作した湯本和寛記者を迎え、その制作体験を聴いた。
番組は、太平洋戦争末期、ボルネオ島北部で起きた「サンダカン死の行進」の犠牲者遺族が和解を模索し、日本軍兵士、英・豪軍捕虜、現地ボルネオの人々や華僑らが、立場の違いを超えてともに慰霊祭を営むまでを描いた50分のドキュメンタリーだ。
番組制作は、ボルネオでマラリア死した湯本記者の大伯父(祖父の兄)戦友が、戦後50年経た1995年、大おじの戦友が訪ねてきて「サンダカン死の行進」を知ったことがきっかけだった。
湯本記者は、その後の取材で「死の行進」に引き回された英・豪軍捕虜2400人中、たった6人の生き残りの一人の子息ディックさんが「真実を追い求め」て多方面を調査。500ページに及ぶ記録をまとめ、その末尾で遺言として「和解」を求めていたことを知る。
ディックさんは2016年亡くなったが、その思いは周囲の人々に引き継がれて身を結び、2023年に「和解の慰霊祭」開催が実現した。
番組の結びはこの慰霊祭。参加者のラストコメントが印象に残る。「一人一人の人間が、戦争という狂気によって自分が人間であることを忘れてしまう。私は自分自身が人間であることを確認したかった。そして相手も人間であることを」。
湯本記者も講演をこう締めくくった。「戦後80年を経たが、戦争の影響はまだまだある。その事実を、今につながる問題として伝えていくことがジャーナリストに求められている。和解の取り組みが、今の社会の分断を乗り越えるきっかけになればと思う」
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
番組は、太平洋戦争末期、ボルネオ島北部で起きた「サンダカン死の行進」の犠牲者遺族が和解を模索し、日本軍兵士、英・豪軍捕虜、現地ボルネオの人々や華僑らが、立場の違いを超えてともに慰霊祭を営むまでを描いた50分のドキュメンタリーだ。
番組制作は、ボルネオでマラリア死した湯本記者の大伯父(祖父の兄)戦友が、戦後50年経た1995年、大おじの戦友が訪ねてきて「サンダカン死の行進」を知ったことがきっかけだった。
湯本記者は、その後の取材で「死の行進」に引き回された英・豪軍捕虜2400人中、たった6人の生き残りの一人の子息ディックさんが「真実を追い求め」て多方面を調査。500ページに及ぶ記録をまとめ、その末尾で遺言として「和解」を求めていたことを知る。
ディックさんは2016年亡くなったが、その思いは周囲の人々に引き継がれて身を結び、2023年に「和解の慰霊祭」開催が実現した。
番組の結びはこの慰霊祭。参加者のラストコメントが印象に残る。「一人一人の人間が、戦争という狂気によって自分が人間であることを忘れてしまう。私は自分自身が人間であることを確認したかった。そして相手も人間であることを」。
湯本記者も講演をこう締めくくった。「戦後80年を経たが、戦争の影響はまだまだある。その事実を、今につながる問題として伝えていくことがジャーナリストに求められている。和解の取り組みが、今の社会の分断を乗り越えるきっかけになればと思う」
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
2025年07月08日
【連続シンポ「NHK と放送メディアのこれから」3回目】TBS「報道特集」で何が起きているのか 7月20日(日)午後2時から5時 立教大学池袋キャンパス 11 号館3階 A304 教室=JCJ共催
「報道特集」は調査検証を旨とし、45年の歴史を持つ TBSテレビの看板報道番組。兵庫県知事選挙、なかでも立花孝志氏の様々な問題については他局を圧倒し、シリーズ企画は 14 回を数える。今年3月の千葉県知事選挙では、知事選候補者でもあった立花氏について、投開票日の前日にもかかわらず放送したことで注目を集めた。しかし、現在にいたるまで SNS 上でのスタッフやスポンサーに対する誹謗中傷はすさまじいものがある。そこで第3回は、6月まで5年間にわたり「報道特集」編集長であっだ琴袖さんをお招きし、日々の格闘について語っていただくとともに、私たち大学関係者・市民が何を考えていくべきかを論じる。
講演者: ゙琴袖氏TBS「報道特集」前編集長
パネリスト:砂川浩慶氏兼司会・立教大学社会学部長・メディア社会学科教授 永田浩三氏武蔵大学名誉教授・元 NHK「ETV2001」編集長
資料代 500 円
〈プロフィール〉
゙琴袖●TBS「報道特集」前編集長。1995 年 TBS 入社。夕方のニュース番組・ニューヨーク支局・「報道特集」ディレクターを経て、2010 年 7 月から 5 年間「報道特集」編集長。「年金記録が消えた」「東京五輪費用問題」「統一教会と政治」など調査報道を多数手がけた。
永田浩三●武蔵大学名誉教授。NHK でドキュメンタリー・教養番組を制作。著書に『ヒロシマを伝える』『ベン・シャーンを追いかけて』『原爆と俳句』『NHK と政治権力』など。映画『命かじり』『闇に消されてなるものか』の監督。高木仁三郎市民科学基金理事。
砂川浩慶●1963 年沖縄・宮古島出身。1986 年早稲田大学卒業とともに日本民間放送連盟(民放連)に入り、放送行政、著作権、機関紙記者、地上デジタル放送など担当。2006 年メディア社会学科開設とともに、立教大学に移り、社会学部助教授、16 年教授、23 年から社会学部長。著書に『安部官邸とテレビ』(集英社新書)など。
〈主催〉立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ/市民とともに歩み自立した NHK 会長を求める会
(問い合わせ先)小滝一志 090-8056-4161 /長井暁 090-4050-5019
〈共催〉日本ジャーナリスト会議(JCJ)/ NHK とメディアの今を考える会/放送を語る会
/市民社会フォーラム/あけび書房
講演者: ゙琴袖氏TBS「報道特集」前編集長
パネリスト:砂川浩慶氏兼司会・立教大学社会学部長・メディア社会学科教授 永田浩三氏武蔵大学名誉教授・元 NHK「ETV2001」編集長
資料代 500 円
〈プロフィール〉
゙琴袖●TBS「報道特集」前編集長。1995 年 TBS 入社。夕方のニュース番組・ニューヨーク支局・「報道特集」ディレクターを経て、2010 年 7 月から 5 年間「報道特集」編集長。「年金記録が消えた」「東京五輪費用問題」「統一教会と政治」など調査報道を多数手がけた。
永田浩三●武蔵大学名誉教授。NHK でドキュメンタリー・教養番組を制作。著書に『ヒロシマを伝える』『ベン・シャーンを追いかけて』『原爆と俳句』『NHK と政治権力』など。映画『命かじり』『闇に消されてなるものか』の監督。高木仁三郎市民科学基金理事。
砂川浩慶●1963 年沖縄・宮古島出身。1986 年早稲田大学卒業とともに日本民間放送連盟(民放連)に入り、放送行政、著作権、機関紙記者、地上デジタル放送など担当。2006 年メディア社会学科開設とともに、立教大学に移り、社会学部助教授、16 年教授、23 年から社会学部長。著書に『安部官邸とテレビ』(集英社新書)など。
〈主催〉立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ/市民とともに歩み自立した NHK 会長を求める会
(問い合わせ先)小滝一志 090-8056-4161 /長井暁 090-4050-5019
〈共催〉日本ジャーナリスト会議(JCJ)/ NHK とメディアの今を考える会/放送を語る会
/市民社会フォーラム/あけび書房
2025年05月13日
【放送100年】考える会がシンポ開催 NHK文書開示請求 勝利和解 これからの放送は=河野 慎二
日本でラジオ放送が始まって100年目を迎え、放送記念日の式典が行われた3月22日、「NHKメディアの今を考える会」は立教大学砂川ゼミの協力を得て「これからの放送をどうするのか〜NHK文書開示請求訴訟の成果と課題〜」と題する集会を開催した。
この「NHK文書開示請求訴訟」とは、2018年10月に起きた森下経営委員長(当時)による放送法違反の番組干渉と議事録隠し事件のことで、昨年12月原告完全勝利和解で終結。NHKはホームページに、当時不公表としていた議事録を掲載、公表した。
自主と自立
損なわれた
シンポでは、NHK元プロデューサーの長井暁氏が議事録不公表に至った経営委員会の審議経過を詳しく振り返り「本来は番組の自由を守るべき経営委員会が外部勢力と結託し、NHKの放送の自主自立と番組編集の自由が損なわれた」と厳しく批判した。
続いてNHK「クローズアップ現代」の編集長を最長の10年担当した永田浩三氏(元武蔵大教授)が登壇し「番組の企画会議では政治部を通して、政治介入する動きもあったが、それを容認することは恥かしいことなんだとするカルチャーがあった」と指摘。「オープン・ジャーナリズムは当たり前のこと。世の中で起きている問題を市民と共に考える。今回の『クロ現+』事件の意味も市民と一緒に考える必要がある」と強調し、「本日は放送開始百年ですが、こうした報告、議論の場を設けてくれたことに感謝する」と述べた。
電波行政
国民視点で
シンポでは、今後のテレビのあり方にも議論が発展。「テレビ輝け!市民ネットワーク」の杉浦ひとみ弁護士が「テレビは見易いし、よく見るが、どのチャンネルも同じような番組をやっている。どうしてこんなことにことになったのか。宝の持ち腐れになってはいけない」と注文をつけた。
砂川浩慶教授は「G7各国の電波行政については、直接行政が司っているのは日本だけで、各国は韓国、台湾を含め、全ての国で行政府から独立した委員会が運営している。国民にとって、透明性、公明性の観点から必要とするとの考え(に基づく)ものだ」と説明した。
NHKで番組編集の自由が損なわれたETV2001番組改変事件に関する長井、永田両氏の報告は、事件の再発を防ぎ、憲法21条が定める言論・表現の自由を放送の現場で保障するために「放送・通信独立委員会」の一日も早い実現が喫緊の課題であることを示す。
次回テーマ
フジテレビ
同会では次回集会について 「フジテレビ問題から、テレビ放送の未来を考える」(仮題)として、5月25日開催を目指し、準備に入っている。
報告者は田淵俊彦(桜美林大学芸術文化群教授)。「問題はなぜ起きた」「不祥事対応の誤り」などの提起を受け、大島新、村井明日香、砂川の3氏とパネルディスカッションで問題の深層に迫っていく。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
この「NHK文書開示請求訴訟」とは、2018年10月に起きた森下経営委員長(当時)による放送法違反の番組干渉と議事録隠し事件のことで、昨年12月原告完全勝利和解で終結。NHKはホームページに、当時不公表としていた議事録を掲載、公表した。
自主と自立
損なわれた
シンポでは、NHK元プロデューサーの長井暁氏が議事録不公表に至った経営委員会の審議経過を詳しく振り返り「本来は番組の自由を守るべき経営委員会が外部勢力と結託し、NHKの放送の自主自立と番組編集の自由が損なわれた」と厳しく批判した。
続いてNHK「クローズアップ現代」の編集長を最長の10年担当した永田浩三氏(元武蔵大教授)が登壇し「番組の企画会議では政治部を通して、政治介入する動きもあったが、それを容認することは恥かしいことなんだとするカルチャーがあった」と指摘。「オープン・ジャーナリズムは当たり前のこと。世の中で起きている問題を市民と共に考える。今回の『クロ現+』事件の意味も市民と一緒に考える必要がある」と強調し、「本日は放送開始百年ですが、こうした報告、議論の場を設けてくれたことに感謝する」と述べた。
電波行政
国民視点で
シンポでは、今後のテレビのあり方にも議論が発展。「テレビ輝け!市民ネットワーク」の杉浦ひとみ弁護士が「テレビは見易いし、よく見るが、どのチャンネルも同じような番組をやっている。どうしてこんなことにことになったのか。宝の持ち腐れになってはいけない」と注文をつけた。
砂川浩慶教授は「G7各国の電波行政については、直接行政が司っているのは日本だけで、各国は韓国、台湾を含め、全ての国で行政府から独立した委員会が運営している。国民にとって、透明性、公明性の観点から必要とするとの考え(に基づく)ものだ」と説明した。
NHKで番組編集の自由が損なわれたETV2001番組改変事件に関する長井、永田両氏の報告は、事件の再発を防ぎ、憲法21条が定める言論・表現の自由を放送の現場で保障するために「放送・通信独立委員会」の一日も早い実現が喫緊の課題であることを示す。
次回テーマ
フジテレビ
同会では次回集会について 「フジテレビ問題から、テレビ放送の未来を考える」(仮題)として、5月25日開催を目指し、準備に入っている。
報告者は田淵俊彦(桜美林大学芸術文化群教授)。「問題はなぜ起きた」「不祥事対応の誤り」などの提起を受け、大島新、村井明日香、砂川の3氏とパネルディスカッションで問題の深層に迫っていく。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
2025年05月04日
【放送フォーラム】戦後80年の節目に 戦争をどのように伝えていくのか 5月24日(土)13時30分 渋谷勤労福祉会館第一洋室 JCJ協賛=主催:放送を語る会
■開催趣旨
戦後、戦争の悲惨を知り平和を誓った日本の歩みは80年経ったいま、どのようなものになっているのでしょうか。米中の対立、ウクライナやガザで続く戦争。こうした国際情勢のなか日本は平和を訴えるのではなく、 むしろ有事を煽り、軍拡への道を突き進んでいます。 そのような状況にあってテレビメディアは戦争をどのように伝え、 どのようなメッセージを訴えるのか。
今回の放送フォーラムでは、去年、日本ジャーナリスト会議・JCJ賞や日本民間放送連盟賞・ テレビグランプリなど多くの賞を受賞したSBC信越放送のドキュメンタリー番組「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」の制作者と共に、戦争をどのように伝えていくのかについて考えていきます。
■プログラム
・第 1 部 番組研究 14:00~15:00
SBCスペシャル「78年目の和解〜サンダカン死の行進・遺族の軌跡〜」
モニター報告&視聴者の合評(自由参加・入場無料)
(休憩 15:00~15:15)
・第2部 講演 15:15~16:45
講師プロフィール:湯本和寛氏(SBC 信越放送 情報センター)
1978 年長野県生まれ。代表作に SBC スペシャル『まぼろしのひかり〜原発と故郷の山〜』、『消えた 村のしんぶん〜滋野村青年団と特高警察〜』、SBCスペシャル「78 年目の和解〜サンダカン死の行進・遺族の軌跡〜」。太平洋戦争の末期、現在のマレーシア、ボルネオ島で「サンダカン死の行進」と呼ばれる悲劇が起きた。日本軍の無謀な命令により、道なきジャングル横断を強制された英豪軍の捕虜 2400 人余が飢えや病気、銃殺で死亡。生き残ったのは、脱走した6人だけだった。悲劇から 78 年、 オーストラリア兵捕虜の息子の呼びかけで、 長野県の元日本軍兵士の遺族やスパイ容疑で処刑された地元住民の孫ら関係者が戦跡をめぐり、二度とこのようなことが起きないよう「和解」を誓い合った。
■参加の方法
第2部のみ資料代 800円 、学生500円
<同時配信> インターネットでも視聴できます。下記 URL からお申込みください
https://peatix.com/event/4393799/ (参加費 800 円)
https://x.com/jcj_online/status/1917781158022336594(X(旧twitter)での参加者募集告知)
■協 賛
日本ジャーナリスト会議(JCJ)、メディア総合研究所
■連絡先
今井 潤 090‑4678-7132 、小滝一志 090‑8056-4161
戦後、戦争の悲惨を知り平和を誓った日本の歩みは80年経ったいま、どのようなものになっているのでしょうか。米中の対立、ウクライナやガザで続く戦争。こうした国際情勢のなか日本は平和を訴えるのではなく、 むしろ有事を煽り、軍拡への道を突き進んでいます。 そのような状況にあってテレビメディアは戦争をどのように伝え、 どのようなメッセージを訴えるのか。
今回の放送フォーラムでは、去年、日本ジャーナリスト会議・JCJ賞や日本民間放送連盟賞・ テレビグランプリなど多くの賞を受賞したSBC信越放送のドキュメンタリー番組「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」の制作者と共に、戦争をどのように伝えていくのかについて考えていきます。
■プログラム
・第 1 部 番組研究 14:00~15:00
SBCスペシャル「78年目の和解〜サンダカン死の行進・遺族の軌跡〜」
モニター報告&視聴者の合評(自由参加・入場無料)
(休憩 15:00~15:15)
・第2部 講演 15:15~16:45
講師プロフィール:湯本和寛氏(SBC 信越放送 情報センター)
1978 年長野県生まれ。代表作に SBC スペシャル『まぼろしのひかり〜原発と故郷の山〜』、『消えた 村のしんぶん〜滋野村青年団と特高警察〜』、SBCスペシャル「78 年目の和解〜サンダカン死の行進・遺族の軌跡〜」。太平洋戦争の末期、現在のマレーシア、ボルネオ島で「サンダカン死の行進」と呼ばれる悲劇が起きた。日本軍の無謀な命令により、道なきジャングル横断を強制された英豪軍の捕虜 2400 人余が飢えや病気、銃殺で死亡。生き残ったのは、脱走した6人だけだった。悲劇から 78 年、 オーストラリア兵捕虜の息子の呼びかけで、 長野県の元日本軍兵士の遺族やスパイ容疑で処刑された地元住民の孫ら関係者が戦跡をめぐり、二度とこのようなことが起きないよう「和解」を誓い合った。
■参加の方法
第2部のみ資料代 800円 、学生500円
<同時配信> インターネットでも視聴できます。下記 URL からお申込みください
https://peatix.com/event/4393799/ (参加費 800 円)
https://x.com/jcj_online/status/1917781158022336594(X(旧twitter)での参加者募集告知)
■協 賛
日本ジャーナリスト会議(JCJ)、メディア総合研究所
■連絡先
今井 潤 090‑4678-7132 、小滝一志 090‑8056-4161
2025年03月22日
【放送開始100年】報道の質とあり方で岐路=砂川 浩慶(立教大学教授・社会学部長)
この3月、日本の放送は開始100年を迎える。この間を20年ごと、5つの区分で考えてみた。
第1期(1925年〜45年)
・社団法人 日本放送協会のラジオのみ。国家が「無線電信及無線電話ハ政府之ヲ管掌ス」(旧無線電信法)と放送内容まで合法的に関与できた時代。それが大本営発表につながる。放送が国民を戦争に駆り立てた時代。
第2期(1946年〜65年)
・電波3法の施行(1950年)、電波監理委員会の廃止(1952年)・民放の誕生 NHK・民放併存体制の誕生・テレビの誕生(1953年)・皇太子ご成婚(1959年)・臨放調(臨時放送法制調査会)答申(1962〜1964年)NHKK・民放連とも独立行政委員会に賛成・東京オリンピック(1964年)・テレビ東京開局(1964年)⇒民放テレビ5系列化へ
第3期(1966年〜85年)
・テレビ広告が新聞広告を抜く(1975年)⇒テレビ全盛時代へ・民放テレビへの政権からの圧力で放送中止相次ぐ・1980年代「楽しくなければテレビじゃない」フジテレビの時代・ニューメディア時代・1987年NHKBS開始
第4期(1986年〜2005年)
・地上テレビ127社完成 テレビ朝日平成新局・テレビ広告費最大値2兆793億円(2000年。同年の新聞広告費1兆2474億円)・1993年CS放送開始/椿事件・2000年BSデジタル放送開始・2005年「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中平蔵総務大臣)・2003年東名阪地上デジタル
第5期(2006年〜25年)
・2006年全ての県庁所在地で地上デジタルスタート完了(2011年アナログ終了、2012年被災3県も終了)・2012年から2020年 第二次安倍政権 ⇒テレビへの攻撃・分断・2015年Tverスタート・2019年インターネット広告費がテレビ広告を抜く・2021年インターネット広告費がマス4媒体広告費を抜く
そして、100年目の今年早々フジテレビ騒動が起こった。日枝久氏が編成局長になったのが80年。以来、前述の第4期・第5期と40年を超える長老支配、そして女性軽視のメディアの“男社会”の弊害が赤裸々に2度の「記者会見」で明らかになった。
一般視聴者・購買者を背景とした広告主の引き上げは、「信なくば立たず」は政治のみならずメディア界にも当てはまることを如実に示した。
この4月からフジテレビの系列局に入社が決まっている、私のゼミ生(女性)から「こんな状態で系列局に入社して良いのか迷っている」との相談を受けた。
「この時期だからこそ、今までの男社会を変えようとするはず。入ってみてどう変わるか見てみたら。ピンチはチャンス」とアドバイスした。
メディアはどう変わるのか。フジテレビに限らない。この記事をお読みになっている方でも、今ならセクハラ、パワハラで大問題になる「不適切にもほどがある」経験をお持ちの方が数多いことを私は確信を持って言える。
大学だってかつては「ゼミ合宿で女子学生は浴衣着用マスト」と公言していた教員が民放テレビのコメンテーターをしていたが、それを是正してきた歴史を持つ。私の学部の3つの学科は、学科長が全て女性であり、良い意味で私は毎日勉強になることばかり教えてもらっている。男社会の弊害は「オールドボーイズ」には理解できないのだ。
100年を迎えた放送は、都知事選、総選挙、兵庫知事選といった選挙報道に続き、今回のフジテレビの問題で、メディアのあり方そのものまで問われるに至った。
アップデートを求められているのは放送だけでなく、メディアに関わる者全てだ。「どう自分ごととして考え、現実を変えていけるのか」が今改めて問われている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
第1期(1925年〜45年)
・社団法人 日本放送協会のラジオのみ。国家が「無線電信及無線電話ハ政府之ヲ管掌ス」(旧無線電信法)と放送内容まで合法的に関与できた時代。それが大本営発表につながる。放送が国民を戦争に駆り立てた時代。
第2期(1946年〜65年)
・電波3法の施行(1950年)、電波監理委員会の廃止(1952年)・民放の誕生 NHK・民放併存体制の誕生・テレビの誕生(1953年)・皇太子ご成婚(1959年)・臨放調(臨時放送法制調査会)答申(1962〜1964年)NHKK・民放連とも独立行政委員会に賛成・東京オリンピック(1964年)・テレビ東京開局(1964年)⇒民放テレビ5系列化へ
第3期(1966年〜85年)
・テレビ広告が新聞広告を抜く(1975年)⇒テレビ全盛時代へ・民放テレビへの政権からの圧力で放送中止相次ぐ・1980年代「楽しくなければテレビじゃない」フジテレビの時代・ニューメディア時代・1987年NHKBS開始
第4期(1986年〜2005年)
・地上テレビ127社完成 テレビ朝日平成新局・テレビ広告費最大値2兆793億円(2000年。同年の新聞広告費1兆2474億円)・1993年CS放送開始/椿事件・2000年BSデジタル放送開始・2005年「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中平蔵総務大臣)・2003年東名阪地上デジタル
第5期(2006年〜25年)
・2006年全ての県庁所在地で地上デジタルスタート完了(2011年アナログ終了、2012年被災3県も終了)・2012年から2020年 第二次安倍政権 ⇒テレビへの攻撃・分断・2015年Tverスタート・2019年インターネット広告費がテレビ広告を抜く・2021年インターネット広告費がマス4媒体広告費を抜く
そして、100年目の今年早々フジテレビ騒動が起こった。日枝久氏が編成局長になったのが80年。以来、前述の第4期・第5期と40年を超える長老支配、そして女性軽視のメディアの“男社会”の弊害が赤裸々に2度の「記者会見」で明らかになった。
一般視聴者・購買者を背景とした広告主の引き上げは、「信なくば立たず」は政治のみならずメディア界にも当てはまることを如実に示した。
この4月からフジテレビの系列局に入社が決まっている、私のゼミ生(女性)から「こんな状態で系列局に入社して良いのか迷っている」との相談を受けた。
「この時期だからこそ、今までの男社会を変えようとするはず。入ってみてどう変わるか見てみたら。ピンチはチャンス」とアドバイスした。
メディアはどう変わるのか。フジテレビに限らない。この記事をお読みになっている方でも、今ならセクハラ、パワハラで大問題になる「不適切にもほどがある」経験をお持ちの方が数多いことを私は確信を持って言える。
大学だってかつては「ゼミ合宿で女子学生は浴衣着用マスト」と公言していた教員が民放テレビのコメンテーターをしていたが、それを是正してきた歴史を持つ。私の学部の3つの学科は、学科長が全て女性であり、良い意味で私は毎日勉強になることばかり教えてもらっている。男社会の弊害は「オールドボーイズ」には理解できないのだ。
100年を迎えた放送は、都知事選、総選挙、兵庫知事選といった選挙報道に続き、今回のフジテレビの問題で、メディアのあり方そのものまで問われるに至った。
アップデートを求められているのは放送だけでなく、メディアに関わる者全てだ。「どう自分ごととして考え、現実を変えていけるのか」が今改めて問われている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号
2025年01月05日
【放送フォーラム】「戦争と平和」テーマに 5年ぶりに開催=古川 英一
放送番組の作り手と、受け手の双方向で意見交換する場を目指す「放送を語る会」が11月末「敗戦から79年今改めて戦争と平和を考える」をテーマに、コロナ禍をはさみ5年ぶりの開催した。
講師はNHKエデュケーショナルでプロデューサーを務める塩田純さん=写真=。この夏放送されたETV特集「無差別爆撃を問う」を取り上げ、具体的に検討した。
長年、日本とアジアの近現代史をテーマにNHKスペシャルやETV特集などの作品を制作してきた塩田さんは、裁判の再検証を進めている神奈川県弁護士会の動きを追いながら、当時の裁判の論点を示し、日本の弁護団が「名古屋空襲や台湾空襲など米軍の無差別爆撃が戦時国際法に違反するのではないか」と指摘していたことを明らかにした。そのうえで視聴者に、国際社会が今も止められないでいる無差別爆撃について考えてもらいたいと、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃など具体例を挙げ訴えた。
日中戦争やアジアとの戦後補償、日韓問題、昭和天皇と戦争、憲法9条など多岐にわたる番組を制作してきた塩田さんの番組作りの姿勢は「一次資料と証言で事実を明らかにしていく」こと。「日本のジャーナリズムは戦争の被害は多く語るが、日本の加害の歴史については弱い。それを突破していきたい」と話した。
塩田さんは「ジャーナリズムは過去から何を学び取ったのかを伝えていかなければならない」。「一方で戦争体験を語れる証言者が高齢で相次いで亡くなっていく。証言を記録するというやり方はもうできない。ジャーナリズムはそのための何らかの方法論を考えていかなければならない」と最後に提起した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
講師はNHKエデュケーショナルでプロデューサーを務める塩田純さん=写真=。この夏放送されたETV特集「無差別爆撃を問う」を取り上げ、具体的に検討した。
長年、日本とアジアの近現代史をテーマにNHKスペシャルやETV特集などの作品を制作してきた塩田さんは、裁判の再検証を進めている神奈川県弁護士会の動きを追いながら、当時の裁判の論点を示し、日本の弁護団が「名古屋空襲や台湾空襲など米軍の無差別爆撃が戦時国際法に違反するのではないか」と指摘していたことを明らかにした。そのうえで視聴者に、国際社会が今も止められないでいる無差別爆撃について考えてもらいたいと、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃など具体例を挙げ訴えた。
日中戦争やアジアとの戦後補償、日韓問題、昭和天皇と戦争、憲法9条など多岐にわたる番組を制作してきた塩田さんの番組作りの姿勢は「一次資料と証言で事実を明らかにしていく」こと。「日本のジャーナリズムは戦争の被害は多く語るが、日本の加害の歴史については弱い。それを突破していきたい」と話した。
塩田さんは「ジャーナリズムは過去から何を学び取ったのかを伝えていかなければならない」。「一方で戦争体験を語れる証言者が高齢で相次いで亡くなっていく。証言を記録するというやり方はもうできない。ジャーナリズムはそのための何らかの方法論を考えていかなければならない」と最後に提起した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
2024年08月06日
【放送】「市民ネット4議案否決」テレビ朝日HDの株主総会 市民株主運動デビュー報告=杉浦ひとみ(テレビ輝け市民ネットワーク)
「テレビ耀け!市民ネットワーク」は6月27日、テレビ朝日HDの株主総会で株主提案議決権を行使し4議案を提示した。
会社が株主に送る総会案内には、会社からの議題3つ、株主提案(いずれも当ネット)が4議題が掲載されたが、「会社は反対」とのコメントが株主提案議題のそれぞれに付されていた。
総会は早河洋氏(会長)が議長となり進行。
報告案件に続く決議事項として、会社議案3件の説明に続き、与えられた提案株主からの説明時間は6分。「提案は全て会社応援のため」と簡潔に説明した田中優子共同代表は「会社が全てに反対の意を示したことは大変残念である」と結んだ。
議案説明と予め寄せられていた質問にへの会社回答に続く採決前の報告事項・決議事項への出席株主からの質問では、最初に一般株主の男性が当会提案の@前川喜平氏の社外取締役について質問。「会社の拒否は不満」としながら中身は、かつて読売が報じた「出会い系バー通い」への揶揄。「名誉棄損にあたる」との指摘に、会場から拍手が沸いた。
また当会提案のA第三者委員会設置と調査、公表を定款に定めることについて、会場から「どのような根拠に基づきこのような提案に至ったのか」との質問があり、阪口徳雄当会事務局が「政治圧力」と「同社番組審査会」を巡る経過を指摘、「市民として真偽検証を求めた」提案趣旨を説明。テレ朝側は篠塚社長が「調査はしたが圧力はなかった」と回答をした。
当会の提案への説明を求める質問はさらに続き、最後の質問も「番組審議会の任期の是正」に関するもの。
当ネットからは、同社の番組審議会委員を20年務め、そのうち10年は委員長に在任する見城徹氏が社長の幻冬舎の書籍を、数十分の時間を割き書籍を何度も映した事実の説明。「大下容子ワイドスクランブル、羽鳥モーニングショーという番組内で広告と思われる放送がなされたとのことだが、番組を見ていないので説明を求める」との会場からの質問に答えた。
テレビ朝日側は「視聴者にとって有益な情報だと番組側が考え企画・制作された。これは広告ではない。昨年度は情報番組では、28社の出版物を60回放送している」というものだった。
会場では当ネットの提案議題について、具体的な話に及ぶにつれて、拍手が徐々に大きくなっていき、今回初めてチャレンジした株主提案権の行使について確かな手ごたえを感じることができた。
テレビ輝け市民ネットワークは昨年発足、テレビに報道機関の役割をもっと果たしてほしいと、市民が株主となって応援する活動だ。注目と支援をお願いする。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
会社が株主に送る総会案内には、会社からの議題3つ、株主提案(いずれも当ネット)が4議題が掲載されたが、「会社は反対」とのコメントが株主提案議題のそれぞれに付されていた。
総会は早河洋氏(会長)が議長となり進行。
報告案件に続く決議事項として、会社議案3件の説明に続き、与えられた提案株主からの説明時間は6分。「提案は全て会社応援のため」と簡潔に説明した田中優子共同代表は「会社が全てに反対の意を示したことは大変残念である」と結んだ。
議案説明と予め寄せられていた質問にへの会社回答に続く採決前の報告事項・決議事項への出席株主からの質問では、最初に一般株主の男性が当会提案の@前川喜平氏の社外取締役について質問。「会社の拒否は不満」としながら中身は、かつて読売が報じた「出会い系バー通い」への揶揄。「名誉棄損にあたる」との指摘に、会場から拍手が沸いた。
また当会提案のA第三者委員会設置と調査、公表を定款に定めることについて、会場から「どのような根拠に基づきこのような提案に至ったのか」との質問があり、阪口徳雄当会事務局が「政治圧力」と「同社番組審査会」を巡る経過を指摘、「市民として真偽検証を求めた」提案趣旨を説明。テレ朝側は篠塚社長が「調査はしたが圧力はなかった」と回答をした。
当会の提案への説明を求める質問はさらに続き、最後の質問も「番組審議会の任期の是正」に関するもの。
当ネットからは、同社の番組審議会委員を20年務め、そのうち10年は委員長に在任する見城徹氏が社長の幻冬舎の書籍を、数十分の時間を割き書籍を何度も映した事実の説明。「大下容子ワイドスクランブル、羽鳥モーニングショーという番組内で広告と思われる放送がなされたとのことだが、番組を見ていないので説明を求める」との会場からの質問に答えた。
テレビ朝日側は「視聴者にとって有益な情報だと番組側が考え企画・制作された。これは広告ではない。昨年度は情報番組では、28社の出版物を60回放送している」というものだった。
会場では当ネットの提案議題について、具体的な話に及ぶにつれて、拍手が徐々に大きくなっていき、今回初めてチャレンジした株主提案権の行使について確かな手ごたえを感じることができた。
テレビ輝け市民ネットワークは昨年発足、テレビに報道機関の役割をもっと果たしてほしいと、市民が株主となって応援する活動だ。注目と支援をお願いする。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年7月25日号
2023年12月24日
【月刊マスコミ評・放送】ほとんど改善ない民放の女性比率=岩崎貞明
民放労連がこのほど「民放テレビ・ラジオ局女性割合調査報告」を公表した。これは、民放労連女性協議会が五年前から毎年取り組んでいる調査で、全国のテレビ局・ラジオ局の役員(取締役・監査役。顧問・執行役員は含まない)の女性比率を明らかにしたものだ。こうしたデータを自社のウェブサイトで公表している局もあるが、公表していない局については女性協が加盟単組などを通じて独自に集計した。詳細は民放労連のサイトをご覧いただきたい。
公表された2022年度データでは、在京テレビ局は2017年度に7社中5社(⽇本テレビ、テレビ朝⽇、テレビ東京、フジテレビ、NHK)で女性役員ゼロだったものが、今回初めて全局に一人は⼥性役員がいる状態になった。しかし、全国のテレビ局の63・8%、ラジオ局の72・4%で⼥性役員がいまだにゼロ。女性登用について民放業界は、わずかな改善しかみられていないことがわかった。ちなみに、事業者団体である民放連の各委員会の委員長は放送局のトップクラスが務めているが、こちらも現状では女性ゼロだった。
また、全国に放送するコンテンツを制作する影響の大きさから、在京キイ局の制作部門の女性比率も算出している。概ね以下の通りだった(抜粋)。
・在京キイ局の平均女性割合は、社員25・4%に対して、役員8・3%、局長16・8%、管理職18・1%。
・コンテンツ制作・編成部門の社員20・3%に対して、コンテンツ制作・編成部門の局長(相当)8・0%(27ポスト中、女性2名)。
・スポーツ部門の平均が13・5%と特に低い。
さらに、⼥性活躍推進法改正に基づき、昨年7⽉から常時雇⽤労働者 301⼈以上の事業主を対象に、男⼥間賃⾦格差の開⽰が義務付けられている。これについても放送局を調査したところ、男性を100とした男⼥間賃⾦格差は、在京キイテレビ局で平均81・0、在阪テレビ局で平均76・1だった。年収が高い管理職以上の女性比率が低いことなどが反映しているとみられる。
これらの調査結果を踏まえて、女性協は次のように提言している。
「各社、⽇本のジェンダーギャップ指数125位の低さについて報道していますが、⾃社の⾜元を⾒直すべきなのではないでしょうか。⺠放各社や⺠放連が、現状を直視して⾃主的に数値的⽬標を掲げ、⽬標達成のための具体的な計画を⽴て、実⾏しないことには、意思決定層に⼥性を増やすことはできません」
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
公表された2022年度データでは、在京テレビ局は2017年度に7社中5社(⽇本テレビ、テレビ朝⽇、テレビ東京、フジテレビ、NHK)で女性役員ゼロだったものが、今回初めて全局に一人は⼥性役員がいる状態になった。しかし、全国のテレビ局の63・8%、ラジオ局の72・4%で⼥性役員がいまだにゼロ。女性登用について民放業界は、わずかな改善しかみられていないことがわかった。ちなみに、事業者団体である民放連の各委員会の委員長は放送局のトップクラスが務めているが、こちらも現状では女性ゼロだった。
また、全国に放送するコンテンツを制作する影響の大きさから、在京キイ局の制作部門の女性比率も算出している。概ね以下の通りだった(抜粋)。
・在京キイ局の平均女性割合は、社員25・4%に対して、役員8・3%、局長16・8%、管理職18・1%。
・コンテンツ制作・編成部門の社員20・3%に対して、コンテンツ制作・編成部門の局長(相当)8・0%(27ポスト中、女性2名)。
・スポーツ部門の平均が13・5%と特に低い。
さらに、⼥性活躍推進法改正に基づき、昨年7⽉から常時雇⽤労働者 301⼈以上の事業主を対象に、男⼥間賃⾦格差の開⽰が義務付けられている。これについても放送局を調査したところ、男性を100とした男⼥間賃⾦格差は、在京キイテレビ局で平均81・0、在阪テレビ局で平均76・1だった。年収が高い管理職以上の女性比率が低いことなどが反映しているとみられる。
これらの調査結果を踏まえて、女性協は次のように提言している。
「各社、⽇本のジェンダーギャップ指数125位の低さについて報道していますが、⾃社の⾜元を⾒直すべきなのではないでしょうか。⺠放各社や⺠放連が、現状を直視して⾃主的に数値的⽬標を掲げ、⽬標達成のための具体的な計画を⽴て、実⾏しないことには、意思決定層に⼥性を増やすことはできません」
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
2023年08月13日
【放送法】「政治的公平」解釈変更とジャーナリズムの課題=立憲民主党・小西洋之参院議員寄稿
私は総務省の心ある官僚から提供を受けた内部文書を3月2日に公表し、安倍政権下の放送法の番組準則「政治的公平」の解釈改変の追及が行われた。実は、高市大臣の「捏造」発言の影で、3月17日の外交防衛委員会での総務省答弁によって「極端な場合は、その一つの番組だけで政治的公平を判断できる」との違法な2015年解釈は、「常にそれを含む放送局の放送番組全体のバランスを見て判断をする」と従前の解釈へと全面撤回されているのだが、それに関するテレビ報道は皆無である。本稿では政治の側から見た本件を巡る放送ジャーナリズムの課題について記したい。
文書公表後の報道
消極姿勢のテレビ
公共財産であるテレビ電波によって放送局の公的使命を果たす責務を負う民放、NHKにあっては、自らの「番組編集のあり方」、すなわち放送局としての存在意義そのものが懸かった問題として、政府与党に忖度等することなく本件を徹底的に取材し、報道する必要があった。すなわち、内部文書を基に関係者に取材を重ね、あるいは、専門家による2015年解釈などの分析評価を得ながら、事件の真実、番組制作現場への影響、政治介入と放送の自由の課題などを報道する責任があったはずである。
特に、私が公表した文書は、解釈改変の約半年間の全ての経緯について政治家と官僚の発言録等とその際に使用された資料などがフルセットで備えられた「超一級の行政文書」であり、こうした取材・報道を十分に可能とするものであった。しかし、今日に至るまでまとまった調査報道は一部を除いて行われていない。本来であればNHKスペシャルで放送して当然のはずである。
なお、文書を公表し予算委質疑が始まっても各局の取り上げ方は及び腰であり、結局3月7日に総務省がその存在を認めてからようやく内容のある報道が始まった。また、最後まで私に対する映像取材は全くなかった。かつて、日本学術会議会員の任命拒否、黒川検事長の定年延長の違憲・違法を立証する法制定時の内閣法制局審査資料(国立公文書館保管)を公表した際などとは明らかに違う対応であった。
違法解釈全面撤回
しかし放送は皆無
そして、総務省の志ある官僚らとの議論により3月17日に違法解釈の全面撤回を実現できたにも関わらず、この事実を放送したテレビ局は本日に至るまで皆無である。この解釈撤回は、朝日新聞と東京新聞が社説報道し(東京新聞は他紙面でも報道)、当然テレビ各局は知っているはずである。国民から負託された放送の番組編集の自由に関する政府解釈が国会質疑で180度変わったことを報道しないで、国民がそのテレビ局の番組編集の自主自律を信頼することができるのだろうか。NHKにおいては受信料を国民に求める資格放棄との自覚があるのだろうか。
報道記者の育成訓練
独立第三者委が必須
依然として続いているテレビ局経営トップと総理との会食などを見ると、良心ある記者の社内での苦労が拝察されるが、第二次安倍政権以降のあらゆる違憲・違法を追及してきた政治の現場からは、テレビ局の報道記者に法令解釈を含む法制度や行政組織などについて意義ある取材・報道を行うためのスキルを体得する訓練の機会がないことが致命的ではないかと考える。こういう文書にこういうことが書いてあっただけではなく、その法的意味や政治・行政的な意味を読み取る力がなければ現在の違憲・違法の専断政治で国民の自由と民主主義を守る報道、さらには、自らの言論の自由を守る報道は困難である。
例えば、私の「衆院憲法審の毎週開催はサルがやること」といった(オフレコで即時撤回した)発言を報道しても、「衆院の国会議員の任期延長改憲」が参院緊急集会(憲法54条)の矮小化という憲法規範と立憲主義に反する空前の暴論であるという当該発言の真意、そして、オフレコ会見で説明していたように、今国会で私が参院憲法審で敢えて緊急集会を議題とし、憲法論的にも政治的にも当該改憲を不可能にした事実については、テレビ報道はゼロである。また、発言当時には、集団的自衛権行使容認を巡るフジテレビの偏向報道のBPOへの申し立てという手法についての元放送政策課課長補佐の知見からの指摘を「放送局への威圧」などと(担当記者の唖然とする無理解や意図的な切り取り報道などによって)朝日新聞に攻撃もされた。
専門的スキルを体得しなければジャーナリズムの使命の全うは困難である。諸外国並みの放送免許等を監理する独立第三者委員会の設置の法改正とともに、志ある記者の皆さんとそうした機会を共有したいと考えている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
2023年07月21日
【オンライン勉強会】放送を語る会 「政治的公平」の判断に政治介入の不当 独立規制機関設置こそ必要だ=府川朝次
「放送を語る会」では5月31日、メディア総合研究所事務局長の岩崎貞明氏を講師に招いて、「放送法解釈変更と政治権力〜総務省文書が明らかにしたもの」とのテーマでオンライン勉強会を開いた。2023年3月2日、立憲民主党参議院議員の小西洋之氏が国会記者会見で明らかにした総務省文書『「政治的公平」に関する放送法の解釈について』をテキストに、放送法に示された「政治的公平」について改めて考え直そうとする企画だった。
従来、政府は「放送の政治的公平」について、「不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてバランスのとれたものであること」とし、「その判断にあたっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断すること」という見解を堅持してきた。しかも放送法では、そうした権利は「放送事業者の自律の保障を基本とする」ことにあった。
ところが、2014年から2015年にかけて、当時安倍晋三首相の総理補佐官を務めていた礒崎陽輔氏が個別番組の政治的公平性を問題にし、「極端な例」という但し書きをつけて単独の番組でも政治的公平を問題視できるよう、解釈を変更すべきだと総務省に執拗に迫っていたのだ。この過程で礒崎氏は、「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」「この件はおれと総理が二人で決める話」などと高圧的な態度をとり続けていた。小西氏が明らかにしたのは、その一連のやり取りを生々しく記した78ページに及ぶ文書だった。
講師の岩崎氏は今回公開された文書について、人事権を掌握した官邸の権限が絶大であることを如実に示した内容であると感想を述べ、結果的には官邸の意に沿う形で、2016年2月12日の「一つの番組だけでも極端な内容の場合は『政治的公平』とは認められない」とする政府の「政治的公平に関する統一見解」に結びついていったと指摘した。この発表に先立つ2月8日と9日、当時の総務大臣高市早苗氏は「放送法違反を政府が認定した場合、電波法に基づく運用停止規定を適用する」と衝撃の発言をし、メディア側の強い反発を買っていた。
こうした動きについて岩崎氏は「メディアが判断すべき政治的公平が、政府に利用されてしまっている」と批判し、「政府は個別にせよ番組全体にせよ放送の公平性については一切口をはさむことはできない」ことを強調した。そして、政府の介入を防ぐ意味からも、世界の常識となっている放送の独立規制機関の設置の必要性を説いた。
「放送を語る会」にとって初めての試みであるオンラインによる勉強会には、弘前や大阪、神戸などもふくめ39名が参加。感想として「放送における政治的公平性」の意味がよく分かったなど好意的な意見が数多く寄せられた。「語る会」はこれまでに視聴者と放送に携わる者が直接対話できる場として「放送フォーラム」を活動の中心の一つに据えてきた。その数は60回に及んでいるが、2020年以降コロナの影響で途絶えたままになっていた。会員からの要望もあり、「フォーラム」復活の糸口にしようと実施したのが今回の勉強会だったが、以前のような対面での「フォーラム」開催も視野に、今回の経験をどう発展させていくか、「語る会」の取り組みは新たな段階に入ってきている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
従来、政府は「放送の政治的公平」について、「不偏不党の立場から特定の政治的見解に偏ることなく、放送番組全体としてバランスのとれたものであること」とし、「その判断にあたっては、一つの番組ではなく、放送事業者の番組全体を見て判断すること」という見解を堅持してきた。しかも放送法では、そうした権利は「放送事業者の自律の保障を基本とする」ことにあった。
ところが、2014年から2015年にかけて、当時安倍晋三首相の総理補佐官を務めていた礒崎陽輔氏が個別番組の政治的公平性を問題にし、「極端な例」という但し書きをつけて単独の番組でも政治的公平を問題視できるよう、解釈を変更すべきだと総務省に執拗に迫っていたのだ。この過程で礒崎氏は、「けしからん番組は取り締まるスタンスを示す必要がある」「この件はおれと総理が二人で決める話」などと高圧的な態度をとり続けていた。小西氏が明らかにしたのは、その一連のやり取りを生々しく記した78ページに及ぶ文書だった。
講師の岩崎氏は今回公開された文書について、人事権を掌握した官邸の権限が絶大であることを如実に示した内容であると感想を述べ、結果的には官邸の意に沿う形で、2016年2月12日の「一つの番組だけでも極端な内容の場合は『政治的公平』とは認められない」とする政府の「政治的公平に関する統一見解」に結びついていったと指摘した。この発表に先立つ2月8日と9日、当時の総務大臣高市早苗氏は「放送法違反を政府が認定した場合、電波法に基づく運用停止規定を適用する」と衝撃の発言をし、メディア側の強い反発を買っていた。
こうした動きについて岩崎氏は「メディアが判断すべき政治的公平が、政府に利用されてしまっている」と批判し、「政府は個別にせよ番組全体にせよ放送の公平性については一切口をはさむことはできない」ことを強調した。そして、政府の介入を防ぐ意味からも、世界の常識となっている放送の独立規制機関の設置の必要性を説いた。
「放送を語る会」にとって初めての試みであるオンラインによる勉強会には、弘前や大阪、神戸などもふくめ39名が参加。感想として「放送における政治的公平性」の意味がよく分かったなど好意的な意見が数多く寄せられた。「語る会」はこれまでに視聴者と放送に携わる者が直接対話できる場として「放送フォーラム」を活動の中心の一つに据えてきた。その数は60回に及んでいるが、2020年以降コロナの影響で途絶えたままになっていた。会員からの要望もあり、「フォーラム」復活の糸口にしようと実施したのが今回の勉強会だったが、以前のような対面での「フォーラム」開催も視野に、今回の経験をどう発展させていくか、「語る会」の取り組みは新たな段階に入ってきている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
2023年06月16日
【シンポ】 NHKとメディアの今を考える会 第7回シンポジウム「メディアに口出す政府を許すな〜総務省「行政文書」問題から何を学ぶか〜」25日午後2時から4時(JCJが共催)
6月25日 (日) 14:00〜16:00 zoomによるオンライン(申込者には後日録画配信あり)
3月2日、小西洋之参議院議員が公表した総務省「行政文書」によって、安倍政権時代、官邸(安倍元首相の側近・礒崎陽介総理補佐官)が総務省に圧力をかけ執拗に放送法の「政治的公平」の解釈変更を迫った内幕が詳細に明らかになりました。これはあからさまな権力による放送メディアへの介入です。その後の国会論戦の末、小西議員の厳しい追及により総務省は、「政治的公平」の解釈変更を事実上撤回するに至りました。
シンポでは、以下論点を議論。
●小西議員が公表した総務省「行政文書」の核心は何か
●国会の論戦で明らかになったこと
●「放送法解釈変更」が放送メディアの報道内容や制作現場に与えた影響
●「権力のメディア介入」を繰り返させないために、独立行政委員会制度導入の可能性を含め今後の放送行政はどうあるべきか
■パネリスト:小西洋之氏(参議院議員・立憲民主党)
:砂川浩慶氏(立教大学教授・社会学部長)
■オンライン参加費:500円 Peatix(https://peatix.com/event/3613160)からお申し込み下さい。
※今企画はJCJ会員も有料での参加となります。
■主催:NHKとメディアの今を考える会(http://sjak-800.cocolog-nifty.com/blog/)
立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ
■共催:NHKとメディアを語ろう・福島
:日本ジャーナリスト会議
:日本ジャーナリスト会議・東海
:放送を語る会
:メディアを考える市民の会ぎふ
(問い合わせ先)小滝一志:kkotaki@h4.dion.ne.jp
2023年05月13日
【放送法】官邸の圧力 白日に 総務省文書 磯崎補佐官ら暗躍=編集部
安倍政権下の2014年から15年にかけて、当時(安倍内閣)の礒崎陽輔首相補佐官が放送法の解釈を変えさせようと総務省に圧力をかけていた状況が、総務省の内部文書で明らかになった。
3月2日、小西洋之参院議員(立憲民主党)が記者会見して、これを明らかにした総務省文書を発表した。総務省もこの文書を「行政文書」と認め、7日ホームページで公開した。
文書によると磯崎氏は「1つの番組でも明らかにおかしいものがある」「コメンテーターが『あすは自民党に投票しましょう』と言ってもいいのか」と働きかけ、「この件は局長ごときが言う話ではない。俺と総理と2人で決める。俺の顔を潰すようなことになれば、ただではすまない。首が飛ぶ」などと発言、「補足説明」を出させた。
解釈変更を迫る
放送法は「不偏不党・真実と自律の保障」を決め「表現の自由」を確保すること(第1条)を決め、誰からも「干渉」「規律」されてはならず(第3条)、編集では「公序良俗」とともに「政治的公平」と「事実を曲げない」「対立している問題ではできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」(第4条)よう決めている。この「政治的公平」は個々の番組の中での公平性を求めているのではなく、ある放送全体のバランスを求めていると解釈されている。
磯崎氏の「解釈変更圧力」は、これを個々の番組にも及ぼさせようとするもので、磯崎氏の発言に符合するように放送への「圧力事件」が続いた。
続出した「圧力」
磯崎氏の総務省への要請はちょうど、14年12月の総選挙直前から。
当時の安倍首相は11月18日、TBSの「NEWS23」で街頭インタビューの映像に政権批判が多いとして「全然声が反映されていない」と反発。20日には自民党が在京テレビ各社に「報道の政治的公平を求める」とする文書を出すなど、放送への圧力を強めていた。その「背景」が明らかにされた形でもある。
こうした中で、15年5月、安倍内閣の高市早苗総務相(当時)は参院総務委員会で、「政府のこれまでの説明を補足する」と断りつつ、「1つの番組だけでも、極端な場合には政治的に公平性を確保していると認められないことがある」と発言、16年2月の衆院予算委でも「行政が何度要請しても全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとはいえない」と答弁。「電波停止発言」として問題になった。
18年3月には政府の規制改革推進会議が放送法4条の廃止を盛り込んだ「放送事業改革原案」を作成。反対で立ち消えになっている。
自由へ闘い続く
安倍内閣の官邸が、各社の番組をモニターし、さまざまな形で圧力をかけてきたことは比較的よく知られている。この文書当時大きな話題になったのは、「サンデーモーニング」への攻撃は、TBSの株主総会などでも行われていたが、16年3月には、テレビ朝日の「報道ステーション」古舘伊知郎キャスター、NHKの「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが降板するなどの「事件」もあり、「放送の自由」をめぐる闘いは今なお続いている。
高市経済担当相「捏造」と強弁するが
総務省が「行政文書」と認めた「放送法の解釈変更圧力」について、高市早苗・経済安保担当相は3月3日の予算委員会で、問題の総務省文書について、「ねつ造」と決めつけた。
「仮にこれがねつ造でなければ議員を辞職すると言うことでよろしいですね」と追及する小西洋之議員に「結構ですよ」と応じた。
その後、総務省が「行政文書」と認めてホームページで公開すると「私について書かれた4枚については捏造。相手様が証明しなければ」などと弁明していたが、10日には「当時総務大臣だった私としては、一部正確性が確認されていない文書が保存されていたと言うことは責任を感じます」と陳謝した。
大臣と議員の辞職については、「内容が不正確」で逃げ切れるかどうかわからないが、野党側はいまなお高市氏の再回答と磯崎氏らの参考人招致を求めている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
3月2日、小西洋之参院議員(立憲民主党)が記者会見して、これを明らかにした総務省文書を発表した。総務省もこの文書を「行政文書」と認め、7日ホームページで公開した。
文書によると磯崎氏は「1つの番組でも明らかにおかしいものがある」「コメンテーターが『あすは自民党に投票しましょう』と言ってもいいのか」と働きかけ、「この件は局長ごときが言う話ではない。俺と総理と2人で決める。俺の顔を潰すようなことになれば、ただではすまない。首が飛ぶ」などと発言、「補足説明」を出させた。
解釈変更を迫る
放送法は「不偏不党・真実と自律の保障」を決め「表現の自由」を確保すること(第1条)を決め、誰からも「干渉」「規律」されてはならず(第3条)、編集では「公序良俗」とともに「政治的公平」と「事実を曲げない」「対立している問題ではできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」(第4条)よう決めている。この「政治的公平」は個々の番組の中での公平性を求めているのではなく、ある放送全体のバランスを求めていると解釈されている。
磯崎氏の「解釈変更圧力」は、これを個々の番組にも及ぼさせようとするもので、磯崎氏の発言に符合するように放送への「圧力事件」が続いた。
続出した「圧力」
磯崎氏の総務省への要請はちょうど、14年12月の総選挙直前から。
当時の安倍首相は11月18日、TBSの「NEWS23」で街頭インタビューの映像に政権批判が多いとして「全然声が反映されていない」と反発。20日には自民党が在京テレビ各社に「報道の政治的公平を求める」とする文書を出すなど、放送への圧力を強めていた。その「背景」が明らかにされた形でもある。
こうした中で、15年5月、安倍内閣の高市早苗総務相(当時)は参院総務委員会で、「政府のこれまでの説明を補足する」と断りつつ、「1つの番組だけでも、極端な場合には政治的に公平性を確保していると認められないことがある」と発言、16年2月の衆院予算委でも「行政が何度要請しても全く改善しない放送局に何の対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性が全くないとはいえない」と答弁。「電波停止発言」として問題になった。
18年3月には政府の規制改革推進会議が放送法4条の廃止を盛り込んだ「放送事業改革原案」を作成。反対で立ち消えになっている。
自由へ闘い続く
安倍内閣の官邸が、各社の番組をモニターし、さまざまな形で圧力をかけてきたことは比較的よく知られている。この文書当時大きな話題になったのは、「サンデーモーニング」への攻撃は、TBSの株主総会などでも行われていたが、16年3月には、テレビ朝日の「報道ステーション」古舘伊知郎キャスター、NHKの「クローズアップ現代」の国谷裕子キャスターが降板するなどの「事件」もあり、「放送の自由」をめぐる闘いは今なお続いている。
高市経済担当相「捏造」と強弁するが
総務省が「行政文書」と認めた「放送法の解釈変更圧力」について、高市早苗・経済安保担当相は3月3日の予算委員会で、問題の総務省文書について、「ねつ造」と決めつけた。
「仮にこれがねつ造でなければ議員を辞職すると言うことでよろしいですね」と追及する小西洋之議員に「結構ですよ」と応じた。
その後、総務省が「行政文書」と認めてホームページで公開すると「私について書かれた4枚については捏造。相手様が証明しなければ」などと弁明していたが、10日には「当時総務大臣だった私としては、一部正確性が確認されていない文書が保存されていたと言うことは責任を感じます」と陳謝した。
大臣と議員の辞職については、「内容が不正確」で逃げ切れるかどうかわからないが、野党側はいまなお高市氏の再回答と磯崎氏らの参考人招致を求めている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
2021年05月08日
【放送】総務官僚接待とメディアの責任 通信・放送への政治介入を許すな=隅井孝雄
衛星放送事業会社東北新社、日本電信電話株式会社(NTT)による総務省幹部の接待が、次々に明るみに出ている。総務省の通信放送分野は菅義偉首相の拠点とみられ、また首相の長男菅正剛氏が接待の席の多くに姿を見せている。首相自身の関与も含め、大きな政治問題となっている。
週刊文春/文春オンラインの特ダネで詳細が明らかになった。新聞放送などの後追い取材は基幹メディアとしての責任が問われる事態だ。
役人の無軌道
東北新社では2016年以降4年間に39回、13人の総務官僚らが接待された。またNTTでは2018年から20年にかけての間、10件の接待が確認されている。接待を受けた総務官僚の中には首相側近、谷脇康彦総務審議官(当時)の名もあり、また同じく首相側近の山田真貴子内閣広報官(当時)も高額接待を受けていた。
谷脇氏や巻口英司国際戦略局長らはNTTからも4回にわたって15万円の高額接待を受けた、また武田良太総務相がNTT沢田純社長と会食(2020.11.11)している。
11人の総務省官僚が懲戒処分された(うち3人は更迭)。菅首相側近、山田氏は3月1日、谷脇氏康彦氏は3月16日辞任に至った。
総務官僚たちの無軌道ぶりは目を覆うばかりだ。
すべて申請通りに
東北新社は外国映画の日本語吹き替え業として1961年に設立された。初代社長の植村伴次郎氏(故人)は、テレビの初期に米国テレビ映画「ハイウエー・パトロール」、「ララミー牧場」、「奥様は魔女」など日本語版制作の豊富な経験を持つ。その後映画専門の「スターチャンネル」をきっかけに、1989年以降、衛星放送業界に参入した。
総務省官僚の度重なる会食について、当初総務省は業務の話はなかったとしていたが、文春が報じた音声記録で衛星関連の会話が確認された。
東北新社は衛星で多くの問題を抱えていた。「囲碁将棋チャンネル」のCS認可(18年4月)、「ザ・シネマ4K」の認可(18年12月)、「スターチャンネル」の免許更新(20年12月)など、すべて申請通り認可された。
総務省の「衛星放送の未来像」研究会(2018年~2020年)では、新4K/8K衛星について議論されたが、利用料低減など衛星業界に有利な報告書が出た。東北新社は衛星協会の会長社だ。ここでも総務省への働きかけがあった。
追及の過程で、明らかになった外資規制違反時に認可された「ザ・シネマ4K」は5月1日をもって放送休止となる。
NTTの谷脇氏らへの接待は2018年6月から2020年12月にかけてだった。菅官房長官(当時)が「携帯電話料金を4割程度下げる余地がある」と発言(2018年9月)、総裁選出馬会見(2020年9月)で「更なる携帯値下げ」を表明した時期だった。
NTTは2020年11月、ドコモを子会社化した。これにより、菅政権の携帯値下げ要請下、NTTドコモが携帯業界で断然優位に立った。
まるで独裁国家
総務省は2001年の中央官庁再編時に、自治省、郵政省、総務庁を統合して設置された。戦前の内務省に似た機能を持つ巨大組織だ。
総務省は解体し、運輸、郵便、通信、放送などの分野は政府から切り離し、行政委員会に任せるべきだ。特に不祥事多発の通信放送の独立は急務だ。
国が直接通信、放送の監督権限を握っているのは、中国、北朝鮮、ロシアなどの社会主義独裁国家だ。通信、放送は第三者行政委員会に委ねるのが世界の常識、アメリカ連邦通信委(FCC)、イギリス放送通信委(Ofcom)、韓国放送通信委(KCC)などである。
日本にもあった!
日本でも実は「放送委員会」が存在していた。「(戦時中)輿論を表現する重要な機関(筆者注、日本放送協会)の管理運営に関し日本国民は発言権を有さず今日に至った」との占領軍からの批判が出された。1945年年(昭和20年)12月のハンナーメモである。再組織を促された日本放送協会は1946年 (昭和21年)1 月、放送委員会を発足させた。
委員は17人、科学技術、農業、実業、芸術、学界、婦人、労働、新聞出版、青年の9分野を代表する人物で構成された。委員中には大村英之助(映画人)、加藤シヅエ(社会党議員)、宮本百合子(作家)、荒畑寒村(労働運動家)、岩波茂雄(岩波書店主)など名がみられる。放送委員会は同年3月、戦後初のNHK会長に高野岩三郎(大原社研所長)を選出した。放送委員会はその後放送協会労組の調停役になった以外目立った動きがなく、 1949年(昭和24年)5月、解散した。日本政府はGHQの要請に渋々ながら従い、電波と放送を管理監督する電波監理委員会を政府から独立した行政委員会として1950年(昭和25年)6月発足させた。
しかし1952年(昭和27年)、日本の主権が回復されると、その年の7月電波監理委員会は廃止され、郵政省(のち総務省に移管)が直轄することになった。
野党が共通政策
1996年(平成8年)橋本竜太郎政権下の行政改革会議で、通信放送委員会を設置する案が出されたが、郵政省の反対で実現しなかった。また、2009年に民主党が与党となり、通信・放送委員会を設置する方針を決めたが、これも郵政省の反対で法案提出には至らなかった。
最近では2016年(平成28年)と2019年(令和1年)の参議院選挙の際に、市民連合と5野党との間で交わされた「共通政策」の項目に「国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から外し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること」との一項が設けられている。
菅政権はデジタル庁を構想しているが、これは総務省と両輪で通信、メディア、IT、インターネットなどを掌握し、市民の情報を管理する危険なたくらみだ。
汚職まみれの総務省の即刻解散と通信放送第三者委員会の設立が急務だ。
隅井孝雄(JCJ代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号
2018年09月02日
【メディアの動き】民放連:CM規制のルールづくりを 公平・公正な国民投票の実現へ 本間龍氏に聞く=河野慎二
安倍晋三首相は12日、秋の臨時国会に自民党の改憲案を提出する考えを表明した。改憲が発議されると国民投票運動でのテレビCMが大きな問題になる。資金力のある陣営が大量のCMを流し、投票の公平が保てなくなる恐れがある。この問題にどう取り組むべきか。博報堂出身の著述家で、この問題に詳しい本間龍氏に聞いた。
――衆議院の憲法審査会が先月、国民投票運動のテレビCM規制について民放連の意見を聞いた。民放連は慎重な姿勢を示したとされるが。
民放連内でもの意見は、二分されているようだ。何らかの自主規制策を打ち出すべきだとの意見と、「CM規制はとんでもない。自分たちは注文を受けて流していればいい」との意見に割れている。
民放連と話し合い
――民放連は自主規制ルールを作れるのか。
民放連が自主規制案をつくり、国会がそれを追認するのが、一番手っ取り早い。民放連への働きかけを強めようと、超党派の議員連盟が今月末に発足する。座長は自民党の船田元(はじめ)衆院議員が就任する予定だ。議連の最初の仕事は民放連との懇談。その際、議連としての案を持って行く。CMの回数などを決めているイギリス方式がいい国民投票法の改正については、議連としても提出する方向で考える。民放連を動かすことと法改正の両輪で動いて行く。
――民放連は、CM規制は「表現の自由」制約につながると懸念するが。
テレビCMの規制は放映の回数だけで、内容は規制しない。イギリスでは国民投票に使える予算を国が賛成と反対の両派に渡している。その上限は決まっている。テレビCM規制と表現の自由は両立する。
ただ、国民投票法成立11年後の今日、ネットの力が急増している。ネットは規制の対象外。仮にポータルサイトは規制しても、個人の発信規制は「表現の自由」にリンクしてくる。
護憲勢力は不利に
――米国では、トランプ勝利の一因に、ビッグデータの活用が上げられているが。
日本では、電通がビッグデータを社内に保有している。「ビッグデータ解析プラットフォーム」という機材、組織を持っているから、当然国民投票に使うだろう。投票の公平性は失われ、護憲派は不利な戦いを強いられる。
ネットの問題については、早急に研究会などを作って対応する必要がある。
安倍常人ではない
――現状のまま、国民投票を実施すると、大変な事態になる。
それは目に見えている。世界一の広告代理店、電通がバックについて、準備版万端怠りなくやる。護憲派は何もやっていないから、赤子の手をひねるようなものだ。
じゃあ、安倍首相が3選されて、年内か年始に国民投票までに持って行けるか、現実的にはかなり難しいと思う。憲法審査会は、与野党合意の上で進めるというのが大前提で、国民投票を実施するまでに、国会の手順としては15回ぐらいの採決が必要とされる。
否決されたら、各会派が持ち帰り、やり直す。そう見てくると、年内、年初の発議、来年の天皇退位までの国民投票は不可能に近い。
ただ、安倍首相は常人では計り知れないところがある。国民投票が自己目的化している面がある。普通の考えの持ち主なら、国民投票は出来ませんが、安倍首相は違う。
――国民投票が否決されたら、内閣総辞職ものですね。
そうです。大差で否決されたら、内閣はブッ飛んで、政権交代が起こるかもしれない。政権を失うかもしれないという覚悟で突っ込んでくるから、そこをしっかり見据えた対応が必要だ。
世論を盛り上げる
――ただ、国民がどう考えるかです。強行突破的なやり方は国民の批判を招くのでは。
大量の改憲CMをバンバン流しても、強面の態度が国民にどう映るか。強権を発動し、偉そうなことを言うことに、民意は極めて敏感だから、いくら電通がついていても、浮動票が改憲派に大量に流れることはないのではないか。
超党派議連発足を契機に、議連と民放連との話し合いなどをはじめ、国民投票の問題点の報道をメディアに働きかけ、世論を盛り上げて行きたい。
聞き手 河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年8月25日号
――衆議院の憲法審査会が先月、国民投票運動のテレビCM規制について民放連の意見を聞いた。民放連は慎重な姿勢を示したとされるが。
民放連内でもの意見は、二分されているようだ。何らかの自主規制策を打ち出すべきだとの意見と、「CM規制はとんでもない。自分たちは注文を受けて流していればいい」との意見に割れている。
民放連と話し合い
――民放連は自主規制ルールを作れるのか。
民放連が自主規制案をつくり、国会がそれを追認するのが、一番手っ取り早い。民放連への働きかけを強めようと、超党派の議員連盟が今月末に発足する。座長は自民党の船田元(はじめ)衆院議員が就任する予定だ。議連の最初の仕事は民放連との懇談。その際、議連としての案を持って行く。CMの回数などを決めているイギリス方式がいい国民投票法の改正については、議連としても提出する方向で考える。民放連を動かすことと法改正の両輪で動いて行く。
――民放連は、CM規制は「表現の自由」制約につながると懸念するが。
テレビCMの規制は放映の回数だけで、内容は規制しない。イギリスでは国民投票に使える予算を国が賛成と反対の両派に渡している。その上限は決まっている。テレビCM規制と表現の自由は両立する。
ただ、国民投票法成立11年後の今日、ネットの力が急増している。ネットは規制の対象外。仮にポータルサイトは規制しても、個人の発信規制は「表現の自由」にリンクしてくる。
護憲勢力は不利に
――米国では、トランプ勝利の一因に、ビッグデータの活用が上げられているが。
日本では、電通がビッグデータを社内に保有している。「ビッグデータ解析プラットフォーム」という機材、組織を持っているから、当然国民投票に使うだろう。投票の公平性は失われ、護憲派は不利な戦いを強いられる。
ネットの問題については、早急に研究会などを作って対応する必要がある。
安倍常人ではない
――現状のまま、国民投票を実施すると、大変な事態になる。
それは目に見えている。世界一の広告代理店、電通がバックについて、準備版万端怠りなくやる。護憲派は何もやっていないから、赤子の手をひねるようなものだ。
じゃあ、安倍首相が3選されて、年内か年始に国民投票までに持って行けるか、現実的にはかなり難しいと思う。憲法審査会は、与野党合意の上で進めるというのが大前提で、国民投票を実施するまでに、国会の手順としては15回ぐらいの採決が必要とされる。
否決されたら、各会派が持ち帰り、やり直す。そう見てくると、年内、年初の発議、来年の天皇退位までの国民投票は不可能に近い。
ただ、安倍首相は常人では計り知れないところがある。国民投票が自己目的化している面がある。普通の考えの持ち主なら、国民投票は出来ませんが、安倍首相は違う。
――国民投票が否決されたら、内閣総辞職ものですね。
そうです。大差で否決されたら、内閣はブッ飛んで、政権交代が起こるかもしれない。政権を失うかもしれないという覚悟で突っ込んでくるから、そこをしっかり見据えた対応が必要だ。
世論を盛り上げる
――ただ、国民がどう考えるかです。強行突破的なやり方は国民の批判を招くのでは。
大量の改憲CMをバンバン流しても、強面の態度が国民にどう映るか。強権を発動し、偉そうなことを言うことに、民意は極めて敏感だから、いくら電通がついていても、浮動票が改憲派に大量に流れることはないのではないか。
超党派議連発足を契機に、議連と民放連との話し合いなどをはじめ、国民投票の問題点の報道をメディアに働きかけ、世論を盛り上げて行きたい。
聞き手 河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年8月25日号
2016年11月04日
沖縄県紙「権力監視が基本動作」―JCJ賞「なぜペンをとるのか―沖縄の新聞記者たち」見る会=JCJ放送部会
今年度のJCJ賞を受賞した毎日放送の「映像15 なぜペンをとるのか〜沖縄の新聞記者たち」を見る会が9月21日、東京中央区の月島区民館で開かれた。
番組は、民意を蹂躙する安倍政権の沖縄政策の実態と治外法権同然の米軍の行動を報道する琉球新報の記者たちを取材したドキュメンタリー。恫喝によるメディア支配を企む安倍政権のもとで、ジャーナリズムとは何かを問いかける秀作だ。
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2014年03月24日
NHK会長と経営委員2氏の罷免要求 署名は1万3000筆を突破=石井長世
籾井勝人NHK会長が、1月25日の就任会見で述べた問題発言で世論の厳しい批判を浴びた後も、会長職に居座っていることに憤慨し、罷免を 要求する運動が全国各地で繰り広げられている。
籾井氏はこの問題発言を個人的な見解として、一応取り消したが、慰安婦問題や国際放送など5項目について発言した真意は、今も変わらないと 居直り、辞任を拒否している。
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籾井氏はこの問題発言を個人的な見解として、一応取り消したが、慰安婦問題や国際放送など5項目について発言した真意は、今も変わらないと 居直り、辞任を拒否している。
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