2025年02月20日

【出版界の動き】2月:書店の活性化に向けた多様な取り組み=出版部会

◆アマゾン日本売上高は約4.1兆
 2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)

◆読売・講談社共同提言
 読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
 すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
 この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。

◆扶桑社が早期退職募集!
 フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
 フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
 いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。

◆「狐弾亭」立川市に開業
 トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
 23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
 店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。

◆「大阪ほんま本大賞」の成果
 地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
 ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
 選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
 それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。

◆月刊誌「母の友」最終号
 福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
 他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
 最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。

◆「パレスチナ」書名本押収
 イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
 1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
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2025年02月13日

【Bookガイド】2月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

  ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
 軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
 著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
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◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
 4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
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◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
 異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
 著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
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◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
 本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
 著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
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◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
 1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
 著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
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◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
 人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
 著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
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2025年02月05日

【出版トピックス】フリー編集者 本屋を4月にオープン!=出版部会

◆出版物販売額1兆5716億
 2024年の出版物(紙+電子)販売額は1兆5,716億円(前年比1.5%減)となった。紙の出版物の販売金額は1兆56億円(同5.2%減)。内訳は書籍5,937億円(同4.2%減)、雑誌4,119億円(同6.8%減)。
 電子出版は5,660億円(同5.8%増)、内訳は電子コミック5,122億円(6.0%増)、電子書籍452 億円(同 2.7%増)、電子雑誌86億円(同6.2%増)。電子コミックは、コロナ禍前の19年から5年間で倍増となった。

◆文春砲記事の一部修正
 文春オンラインに掲載された「週刊文春」編集部のコメントによると、訂正されたのは、昨年12月26日発売号の記事で、「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていたが、その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の‟延長”と認識していた」ということが判明したとしている。
 「週刊文春」編集部は次のようにコメントしている。
<これまで報じたように、事件直前A氏はX子さんを中居氏宅でのバーベキューに連れて行くなどしています。またX子さんも小誌の取材に対して、『(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません』と証言しています。以上の経緯からA氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています>

◆二足のわらじ履く
 岩下結(フリー編集者)さんが、19年間も勤めた出版社を昨年秋に退職し、今年4月に京王線南平駅前(東京都日野市)に本屋+カフェ「よりまし堂」を開業する。
 その開業に向けた奮闘ぶりを「マガジン9」に、<編集者だけど本屋になってみた日記>というタイトルで、連載している。https://maga9.jp/250115-3/ をクリックして読んでみてほしい。第1回目のさわりを下記に紹介する。
<本の書き手、出版社、書店、取次、読者――みんなが今の構造に限界を感じ、別のあり方を求めているのではないか。一冊一冊がきちんと評価され、大切に読まれる環境はどうしたらつくれるのか……。「編集者でありながら本屋もやる」という二足のわらじを履くことになった身として、この仮説を実証実験するようなつもりで、この連載で本屋開業のプロセスをご報告していきたいと思います。出版や書店に関わる人だけでなく、本が好きな人、自分の地元にも面白い本屋があったらいいなと思う人、みなさんの参考になれば幸いです。>
 開業資金をクラウドフアンディングで集めているが、なんと開始から1カ月で目標金額の150万円を達成。さらにネクストゴール200万円を目指す。
 協力を申し出る方は、https://readyfor.jp/projects/yorimashi へアクセスを。

◆ICタグで本の在庫管理
 講談社、集英社、小学館、丸紅が出資するパブテックスは、書店の在庫をICタグで管理するサービスを始めた。棚に専用のリーダーをかざせば店内の本の在庫が把握でき、棚卸し作業が大幅に短縮できる。今年中に書店100店への導入を目指し、将来は書籍流通の効率化も見込む。
 出版社が費用を負担し、本にシールやしおり型の無線自動識別(RFID)タグを取り付け、情報を一括管理するICタグの実証実験を行ったところ、参加店舗では3万冊以上の棚卸しが2人で20分のうちに終わった。ICタグの活用により、店舗ごとの売り上げを通して出荷数量の調節、返品減が見込める。防犯ゲートと合わせて使えば、万引き対策にもなる。

◆雑誌販売3月以降に終了
 ローソンは3月以降、国内の一部店舗で雑誌の店頭販売を終了する。ローソンへの雑誌配送を担う日販が、配送業務から撤退するのに伴う措置。対象となる店舗は現在書籍を扱っている、およそ1万3000店のうち約2割にあたる3000店規模となる。
 新たな雑誌の購入手段として、ローソンは店内の専用端末「Loppi」を使い、雑誌や書籍を取り寄せるサービスを客に案内したいとしている。コンビニでの雑誌の販売額は減少し続け、ファミリーマートも3月以降、数千店で雑誌の販売を終了する。

◆ノミネート作品決まる
 今年で18回目を迎える「マンガ大賞」の1次選考に、97人の選考員が参加し、そこで挙げられた計238タイトルからノミネート作品10点が選ばれた。2024年内に刊行された単行本(最大巻数8巻まで)が選考対象となっている。最終結果は3月27日に発表される。なお「マンガ大賞2024」では、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』が大賞に輝いた。
ノミネート作品(作品名50音順・刊行出版社)
 ・売野機子『ありす、宇宙までも』(小学館)
 ・和山やま『女の園の星』(祥伝社)
 ・田村隆平『COSMOS』(小学館)
 ・こだまはつみ『この世は戦う価値がある』(小学館)
 ・六つ花えいこ、白川蟻ん、秋鹿ユギリ『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから(※ただし好感度はゼロ)』( アース・スタ ー エンターテイメント)
 ・泉光『図書館の大魔術師』(講談社)
 ・まるよのかもめ『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』(白泉社)
 ・城戸志保『どくだみの花咲くころ』(講談社)
 ・クワハリ、出内テツオ『ふつうの軽音部』(集英社)
 ・鍋倉夫『路傍のフジイ』(小学館)
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2025年02月02日

【出版ネッツ】著作者人格権尊重の要望書を文化庁、総務省、公取委に提出=橋詰雅博

 フリーランスの編集者、ライター、デザイナー、漫画家、イラストレーター、校正者などが加入するユニオン出版ネットワーク(通称出版ネッツ)は、世田谷区史編さんに係る争議解決の内容・著作者人格権尊重を広く周知する取り組みの一環として、1月17日、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対して「世田谷区史編さんに係る争議解決のご報告と著作者人格権尊重についての要望」を提出した。

・全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重すること

・行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶこと

 1月21日、文化庁からは、「自治体に対して通知などを出すことはできないが、フリーランスに対しては、著作権に関する契約についての研修などを行い、フリーランスが不利益を被らないように周知をしていく」との返事が、公正取引委員会からは、「フリーランス法の迅速かつ適切な執行及び同法の周知広報に努めます」との回答があった。
 総務省自治行政局の回答は、「自治体行政については、各省庁が連携して取り組んでいるので、著作権関係のことは文化庁に連絡してほしい」というもの。「どのような問題が起こっているのか、自治行政局の内部でも要望書を共有してほしい」と伝えた。

【各要望書ファイル URL】
・文化庁への報告&要望(20250117).pdf

https://drive.google.com/file/d/1tml4ovSClrV9wkz2E_NIiH1h8nPHyVPq/view?usp=drive_link

・公取委への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1QVQ35nKd5Mh_QAJKnH-ZloBooDRDN0D6/view?usp=drive_link

・総務省自治行政局への報告&要望(20250117).pdf

https://drive.google.com/file/d/16nPdORyZxc9DMCv8FJOpbvk4PZgbtHAQ/view?usp=drive_link
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2025年01月22日

【出版界の動き】いかに出版活動をアクティブ化するか、真に問われる2025年=出版部会

◆24年紙の出版物・総売上1兆円確保か
 日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
 日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
 注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。

◆24年度の電子出版市場
 出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。

◆マンガの海外輸出2240億円
 マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
 また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。

◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
 『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
 工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
 2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
 3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
 これら3つの工夫が効果を発揮しているという。

◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
 今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
 『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
 『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。

◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
 紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
 そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

◆読書バリアフリーへの対応
 2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
 4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
 しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
 図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
 公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
 これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
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2025年01月21日

【記者会見】「著作者人格権不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りめぐる争議解決 1月27日(月)11時から12時 文部科学記者会 JCJ賛同団体=橋詰雅博

2025年1月7日、世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議が解決しました。締結した「確認書」において、世田谷区は、著作者人格権の尊重を確約。区は、公式サイトの「区史編さん」のページに、著作権に係る契約の参考モデルとして「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する確認書」を掲載。出版ネッツは東京都労働委員会に対して不当労働行為救済の申し立てを取り下げました。
つきましては、会見を行いますので、ぜひ取材をお願いいたします。

■日時:2025年1月27日(月)11:00〜12:00
■場所:文部科学記者会
■発表:ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
    世田谷区史のあり方について考える区民の会

【開催趣旨】
東京都世田谷区では区制90年を記念して、2016年から自治体史を編さんしています。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。原稿の無断改変ができるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは2023年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。

 1年半にわたる都労委での調査が終了し、審問に入る直前の2024年9月、世田谷区と出版ネッツの和解交渉が始まりました。そして、12月23日合意が成立、本年1月7日に「確認書」を交わしました。主な合意内容(骨子)は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重の確約、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、です。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(@)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B)は遺憾表明(A)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます

著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めます。
1月17日出版ネッツは、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対し、上記の旨の要望書を送りました。今後も、著作者人格権の尊重について、広く社会に訴えていきます。

【報告内容】
1 本件の経緯、解決の背景と意義
2 当事者から本件解決に際しての訴え
3 区民の会のとりくみと見解

【出席者】
谷口雄太(本件当事者)
杉村和美、広浜綾子(出版ネッツ)
稲葉康生、上杉みすず(区民の会)

*これまでの報道記事
・世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い(2023年2月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASR2X2PCCR2WOXIE02K.html

・世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは(2023年3月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235203

・“区史の編さんに著作者人格権を” 住民団体が世田谷区に要望(2024年2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240227/k10014372311000.html

・区民グループ会見「契約書見直しを」 世田谷区史編さん問題(2024年2月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311864


※記者会見参加ご希望のフリーランス記者は、1月22日までに、下記担当者までお知らせください。

【連絡先】
ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
担当:杉村和美(080-6600-7457 sugimura09@gmail.com)
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2025年01月20日

【お知らせ】区史編さんめぐり世田谷区と大学教員が和解 著作者人格権不行使を撤回 支援団体としてJCJ賛同=橋詰雅博

 筆者はこの問題をJCJ機関紙23年5月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/499650713.html)と24年3月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)で取り上げた。加えてDaliy JCJ24年2月24日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502453881.html)
、同年3月25日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)に記事を公開した。区が契約書で求めた著作者人格権不行使にただ一人反対し、編さん委員を外された青山学院大学の谷口雄太准教授=写真=は、入会したユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)とともに不当労働行為だとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。2年弱の争議を経て双方は和解合意、1月7日「確認書」を取り交わした。谷口准教授と出版ネッツの支援団体としてJCJも賛同。以下は出版ネッツの解決声明。
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著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
 2024年12月23日、世田谷区と谷口雄太さん以青山学院大学准教授 及び出版ネッツ は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの区史編さんのページに、著作権に係る契約の参考モデルとして(「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する認書」)を掲載。(https://www.city.setagaya.lg.jp/02005/5132.html#p1) 。組合は、東京都労働委員会(以下都労委) に対して不当労働行為救済の申し立てを取りげ、争議は解決に至りました。

 合意の骨子は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、C都労委取りげ、D誠実対応――の5点です。

■委員委嘱打ち切りとその後の経過
 世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
 ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権 )を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
 そこで出版ネッツは同月、世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「区自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。

■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
 TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
 今回の合意では著作者人格権の尊重が明記された点(@) に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B )は遺憾表明、(A) と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
 著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
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2025年01月13日

【Bookガイド】1月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆丹羽典生『ガラパゴスを歩いた男─朝枝利男の太平洋探検記』教育評論社 1/8刊 2400円
「ガラパゴスを歩いた男」.jpg 著者が訪れた博物館の収蔵庫には、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影されたガラパゴス諸島の写真が、たくさん収められていた。それだけでなく彼の日記、水彩画も保管されていた。それを基に「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する。
 著者は国立民族学博物館グローバル現象研究部教授、専門は社会人類学、オセアニア地域研究。編著に『記憶と歴史の人類学』がある。
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◆樋口英明『原発と司法─国の責任を認めない最高裁判決の罪』岩波ブックレット 1/9刊 630円
「原発と司法」.jpg 多くの日本人は、「原発問題は難しい」「原発は安全に作られている」と思っていませんか。元裁判官の著者も、かつてはそう思いこんでいたが、原発裁判を担当するようになって、認識が変わったという。決して原発問題は難しいものでもなく、また安全でもない、この事実に気づいたという。本書では刷り込まされてきた「先入観」を氷解させ、原発を巡る問題の本質に迫る。全国の主な脱原発訴訟・国賠訴訟一覧表付。
 著者は1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1983年裁判官任官、大阪高裁、名古屋地裁、名古屋家裁部総括判事などを歴任。2017年定年退官。
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◆山田昌弘『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』東洋経済新報社 1/15刊 1500円
「希望格差社会」.jpg 「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増している。格差は広がるだけでなく、固定化し、経済的に行き詰まりをみせているにもかかわらず、様々な意識調査では、格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している。なぜか。「バーチャル世界」で満足を得る方法を見いだしているからだ。リアルな世界で格差が広がる中、格差を埋め、人々に幸せを供給するプラットホームとして機能している事象を解剖する。                     
 著者は中央大学文学部教授。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本』(岩波新書)、『新型格差社会』(朝日新書)など。
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◆清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった─定年後の「一身二生」奮闘記』 岩波新書 1/20刊 960円
「バルセロナで豆腐屋になった」.jpg 元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿─ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る─人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈る。
 著者は1947年生まれ。神戸大学経営学部卒。1971年、朝日新聞社入社。東京社会部で警視庁,宮内庁などを担当。出版局へ異動し『週刊朝日』副編集長、『論座』編集長。テレビ朝日「ニュースステーション」でコメンテーター。2007年、論説委員を最後に定年退職。
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◆高野秀行『酒を主食とする人々─エチオピアの科学的秘境を旅する』本の雑誌社1/20刊 1800円
「酒を主食とする人々」.jpg 本当にそんなことがありえるのか? 世界の辺境を旅する高野秀行も驚く。朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒ばかり飲んで暮らす、仰天ワールド! 幻の酒飲み民族は実在した! すごい。すごすぎる。エチオピアのデラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい! 実際に共に生活し行動する中で、観察・体験した驚くべき民族と社会のリアルな姿をレポートする。
 著者はノンフィクション作家。1966年生まれ。著書に『謎の独立国家ソマリランド』『イラク水滸伝』など。
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◆静岡新聞社編『青春を生きて─歩生(あゆみ)が夢見た卒業』静岡新聞社 1/23刊 1200円
「青春を生きて」.jpg 骨のがん「骨肉腫」によって、18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生と家族が、医者や友人と共に歩んだ闘病の記録。中学・高校時代の苦痛と生きることへの願い、そして卒業を夢見て学校に通い続けた彼女の姿は、同級生や周囲の大人の心を突き動かした。病身の生徒の「学びの保障」についても考察する。歩生さんの日記や家族の手記も収める。
 AYA世代(15歳から30歳代)で、がんと診断された若者たちの教育問題をテーマにした、同名の静岡新聞短期連載(2024年1月1日〜2024年3月27日付朝刊)を加筆・修正して書籍化した。静岡新聞社のブックレット創刊号。ぜひ読んでほしい。
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2024年12月17日

【出版界の動き】出版社「秀和システム」の動きとソニーがKADOKAWA買収=出版部会

◆11月期出版物売上げ前年比101.5%
 週刊誌が前年超えとなり、「ジャンプ GIGA 2024 AUTUMN」が売上げを牽引。書籍は実用書・ビジネス書・専門書・学参が前年超え。実用書では『梅津瑞樹セカンド写真集 飛べ、現へ』(主婦と生活社)、『前田拳太郎 Personal Photo Book 藍色』(KADOKAWA)などの写真集が好調。コミックは「ONE PIECE 110」が売上を伸ばしたものの、前年には及ばない結果となった。

◆新文芸誌『GOAT』完売で重版
 小学館から11月27日発売の『GOAT』が大好評で、「売れない」といわれる文芸誌としては異例の大重版を決定し、累計3万部になる。本文に色上質紙を使用するため時間を要し、2刷りは12月27日頃より店頭に並ぶという。大ヒットの要因は、小説ファンだけでなく小説を読まない人たちから注目されたことにある。
 12月6日発売の小学館文庫には、『GOAT』の表紙にいる“ゴートくん”の特製しおりを作成し封入する。ゴートくんが手に持っているハートを、ページに挟んで活用してほしい!と意気込む。

◆船井倒産と「秀和システム」
 10月24日に倒産した船井電機の負債総額は470億円。実質的な負債は800億円に上るとも言われている。同社の迷走は、2017年に創業者の船井哲良氏が亡くなり、2021年5月に船井電機を出版社「秀和システム」が買収。この出版社は1974年に設立され、ITエンジニア向けの専門書を中心に、幅広いジャンルの書籍を発行している。
 船井電機を買収した秀和システムの社長・上田智一氏は、新たに持株会社の船井電機・ホールディングスをつくり、“新事業”として、なんと脱毛サロンのミュゼプラチナムを買収する。その原資は船井電機の本社不動産などを担保にした借金によるといわれ、分かっているだけでも50億円が流出した。
 船井電機HDの事業報告書を見ると、3年間で純資産が300億円も減少、急速に財務が悪化していた。破産を選んだのはこれ以上の被害を防ぐためとみられている。仮差し押さえの前に脱毛サロンのミュゼプラチナムは売却され、上田氏は9月に退任。会長には原田義昭元環境相が就任し、船井電機の復活を目指すという。

◆ソニーがKADOKAWA買収へ
 現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%保有している。KADOKAWAの株総額は、現在の時価で約6000億円。ソニーがKADOKAWAの完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界では最大規模のM&Aとなるだろう。
 すでに両社は2021年、ソニーのアニメやゲームの世界的な展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた、長期的な関係強化を目的にして資本提携がなされている。それ以降、提携の度合いは加速し、関係は深まっていた。
 とはいえ近年、KADOKAWAが力を入れる教育事業(N高・ZEN大学など)や「ニコニコ動画」はどうするのか。ソニーはKADOKAWA買収に当たって、これらの事業も継承し経営戦略に入れているのか。不透明であるのは間違いない。
 さらにここにきて、韓国IT大手のカカオが、KADOKAWAの株を買い増し、24年4月には実質的な筆頭株主(11.37%)となっている。その成果として、つい最近KADOKAWAがカカオピッコマと業務提携し、画期的電子マンガマガジン「MANGAバル」を共同で立上げ、国内最大級のIP創出装置に発展させ、無料で読める連載作品の最新話を毎日更新するという。
 今やカカオのKADOKAWA株占有率は、ドワンゴの創業者である川上量生氏(5.00%)や、22年まで会長を務めていた角川歴彦氏(23年3月まで2.06%)も大きく上回っている。ソニーはKADOKAWAの筆頭株主であるカカオを、どのように攻略するのか。これらの株主の動きが激しくなるにつれ、KADOKAWA株の安定性や信用度がふらつく危険も浮上している。
 割安な日本企業の株を、海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けているし、エンタメ企業に対しても買収、資本参加が相当数行われているのは確実だ。

◆今村翔吾さん「書店復活」挑戦続く
 全国で書店が減っていく中、直木賞作家・今村翔吾さんが昨年12月3日、JR佐賀駅にオープンした「佐賀之書店」が、この3日で1年を迎えた。同駅内では2020年に書店が閉店したが、全国の書店減少に危機感を抱く今村さんが新たな形で復活させた。
 開店1年を記念したイベントが11月24日に開かれた。佐賀駅の飲食街に設けられた会場のトークショー第1部で、今村さんは愛野史香さんと対談。愛野さんは嬉野市在住で桜田光のペンネームで書いた『真令和復元図』が今年の角川春樹小説賞を受賞した。第2部では2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんと対談。軽妙な掛け合いに、何度も笑いが起きた。
 今年4月27日、東京・神保町に今村さんがオープンした書店「ほんまる」も好評だ。本を売りたい人に書棚を貸し出す「シェア型」の店で、1階と地下1階に364棚を備える。「本好きのサポートにより、書店の減少に歯止めをかけたい」と願いを込める。
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2024年12月14日

【Bookガイド】12月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

川崎興太『福島の原風景と現風景―原子力災害からの復興の実相』 新泉社 12/9刊 3000円
「福島の原風景と…」.jpg 福島復興の光と影。時間の経過とともに福島原発事故はローカルな問題となり、忘却の忘却が進む。まるで事故はなかったかになりつつある。都市計画、コミュニティデザイン、社会学などの観点から、福島の復興に関する多彩な原風景と現風景を提示し、福島の問題を当事者として経験する手がかりを提供する。著者は福島大学教授、専門は福島の復興。
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小林真樹『深遠なるインド料理の世界』 産業編集センター 12/13刊 1800円
「深淵なるインド料理の世界」.jpg 甘いバターチキン、デカすぎるナン、流行りのビリヤニ。インド料理のルーツを求めて、インド亜大陸を東奔西走。元バックパッカーの著者が足繁くインドに通い、ディープなインド料理を求めて、隅々まで食べ歩いた、インドへの深い愛と溢れ出す知識を詰め込んだ食エッセイ。インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。
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瀬川至朗編著『「忖度」なきジャーナリズムを考える』早稲田大学出版部 12/13刊 1800円
「忖度なきジャーナリズム…」.jpg 統一教会と政界の癒着、裁判所の事件記録廃棄問題、PFAS汚染、精神科病院の「死亡退院」、南米アマゾンの「水俣病」、新型コロナワクチンの健康被害、性加害問題などなど。権力や権威に屈することなく問題の本質を追い、他のメディアが報じなくてもニュースを伝え、固定化した社会に諦観せず小さな声に光を当てるジャーナリストたちの軌跡をたどる。早稲田大学・人気講座「ジャーナリズムの現在」に登場した9人の講義録。
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高世仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか─ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 』旬報社 12/16刊 1700円
「ウクライナはなぜ…」.jpg 「ここは私の国です―自由を失うわけにはいきません。私たちは政府も大統領もあてにしていません」─ロシアの軍事侵攻が始まって2年半以上、ウクライナの人々は兵士、民間人ともに現在も粘り強い抵抗を続けている。ボランティアとして、独自に兵士や激戦地の住民へ支援を行う者も少なくない。報道・ドキュメンタリー番組を数多く制作し現在はフリーの著者が、ウクライナを現地取材し戦う彼らの姿を伝える。
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江渕 崇『ボーイング 強欲の代償─連続墜落事故の闇を追う』新潮社 12/18刊 2200円
[ボーイングの…」.jpg 最新鋭旅客機はなぜ墜落したのか? アメリカ型資本主義が招いた悲劇に迫る。2018年にインドネシア、2019年にエチオピア、ボーイングの旅客機737MAXが立て続けに墜落。事故後、墜落原因となった新技術の欠陥が判明する。なぜアメリカを代表する企業は道を誤ったのか? 株主資本主義の矛盾をあぶり出し、日本経済の行く末を問うノンフィクション! 著者は朝日新聞記者。国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当。
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朝日人文社会部編『ルポ 子どもへの性暴力』 朝日新聞出版 12/20刊 2000円
「ルポ子どもへの性暴力」.jpg 子どもが性暴力に遭う"場面"は身近に潜む。家庭、学校、サークルなどで頻発する実態に迫る。朝日新聞連載「子どもへの性暴力」は、大きな反響を呼んだ。その迫真のルポを書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは何か。誰も思い描けない、想像しえない現実の恐ろしさに身がすくむ。
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斎藤文彦『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』岩波新書 12/24刊 960円
力道山.jpg 空手チョップを武器に外国人レスラーと激闘を繰り広げ、戦後日本を熱狂させた力道山。大相撲から、アメリカで大人気を博していたプロレスへ転じ、テレビの誕生・発展とともに国民的ヒーローとなった。神話に包まれたその実像とは。そして時代は彼に何を仮託したのか。1963年12月15日、力道山が刺されて39歳で死去するまでの軌跡を、長年にわたる取材の蓄積と膨大な資料を駆使して描き出す。著者は1962年生まれ、早稲田大学や筑波大学の大学院でスポーツ科学を学び、現在プロレスライター。
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永田浩三『原爆と俳句』大月書店 12/25刊 2800円
「原爆と俳句」.jpg 原爆を俳句で記録した人たちの軌跡をたどり、そこに込めた想いをすくいあげる。人類にとって、最も悲惨な原爆という重いテーマに対して、俳句がどのように向き合ってきたのか。原爆投下直後のヒロシマやナガサキで詠まれた俳句を通して、俳句で原爆を記録し、今も火種を絶やさずつなぐ人たちに、長年の取材を通して光をあてる。著者は武蔵大学教授(メディア社会学)。元NHKプロデューサー。
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2024年11月21日

【出版界の動き】トランプの権力拡大、「トリプルレッド」が招く不安=出版部会

<トランプ勝利>で影響力が低下する米国大手メディアの苦悩
 今回の大統領選挙で、トランプが「トリプルレッド」を手にした背景には、戦いの場を新たなメディアの戦場に移したからだとも言われている。ポッドキャスト(Podcast)やゲーム配信、サブスタック(Substacks)やティックトック(TikTok)などでのニュース配信や討論も含め、活用メディアが多様化し、新たな情報環境を作り出している。
 選挙報道などでは、これまで主流だった新聞やテレビなどの大手メディアが、試練に立たされている。米国の成人の14%がティックトックから定期的にニュースを入手。18〜29歳の若年層に限れば、2023年には32%(2020年9%)へと跳ね上がっている。
 こうした新メディアの多くは選挙期間中に、視聴者に向けて自信に満ちた解説をし、候補者への支持をバックアップするなど、従来にない役割りを果たした。その一方、一部の主流メディアは、どの候補者を支持するか、社説や論調をどうするか、内部での混乱や対立や苦悩が顕在化し、改めてジャーナリズムの誠実性や経営陣と現場の自主性をめぐる論争が巻き起っている。

驚くべきトランプ政権の閣僚人事─イーロン・マスク氏の狙い
 来年1月から発足する第2次トランプ政権の閣僚人事が、次々に公表されている。わかっただけでも、その驚くべき経歴のメンバーが登用されている。まさにトランプ独裁・お気に入りの私的人事そのものだ。
 典型がイーロン・マスク氏。「政府効率化省」トップに就く。大統領選では自らが所有するX(旧ツイッター)で約2億人のフォロワーに向け、連日トランプ氏への支持を訴え、巨額の政治献金までしている。彼は米電気自動車大手テスラ、米宇宙企業スペースXなどを経営する世界有数の起業家。
 おそらく彼は自社の業績・利潤の拡大に向け、政府と一体となって、辣腕を振るうだろう。ブラジルや英国、カナダなど世界からXへの批判や規制・停止の動きが強まっているだけに、まずは「効率化」をタテに米国内のXからの撤退・批判封じの画策に手をつけるだろう。
 そのためにはヘイトニュースの意識的な拡散、メディアの再編、さらには「言論・表現・出版の自由」にまで介入する危険は大いにある。米国だけではない、世界に波及しかねない。楽観は決して許されない。

10月期の書店・店頭売上げ96.0%(前年10月比)
 10月期は、雑誌部門で週刊誌が前年超えとなり、特にゲーム実況者のキヨが表紙を飾る週刊誌「anan (アンアン)」(マガジンハウス・2024 年10月9日号)が、<ときめきカルチャー2024>と題した特集が好評で、雑誌全体の売上げを牽引し、前年10月比98.5%となった。雑誌の落ち込みを防ぐ結果となった。
 書籍は前年10月比97.2%、総記・ビジネス書が前年超えし、ビジネス書では安藤広大『パーフェクトな意思決定』(ダイヤモンド社 9/25刊)などが好調。コミックは、芥見下々「呪術廻戦28」(ジャンプコミックス)など、人気作品の新刊が売上げを伸ばしたが、前年には及ばない結果となった。

地元の図書館でも本が買える?「販売窓口」設置へ 
 全国的に書店が減少し、店舗がない自治体もある中、図書館で本を販売する実証実験が来年から始まる。図書館の利便性を向上させ、地域の人が本に親しむ機会を増やすことが狙い。実証実験は、各地で図書館サービスを手がける図書館流通センター(TRC)と出版取次大手の日本出版販売(日販)が、複数の図書館で行う。
 図書館の貸出窓口とは別に、購入用の窓口を設ける。販売用の書籍を用意したり、図書館で読んで気に入った本を注文できたりする仕組みを整え、インターネット通販を利用しにくい児童生徒や高齢者が手軽に本を購入できるようにする。

小学館から文芸誌「GOAT」(月刊)が創刊・11/27発売
 電子書籍・デジタル化の時代に、あえて紙の文芸誌「GOAT」を刊行! 紙を愛してやまない《ヤギ》にちなんで誌名をGOATとし、<Greatest Of All Time(=史上最高の)>文芸誌を目指す。ジャンルや国境を越えて素晴らしい執筆陣が結集。
 小説、詩、短歌、エッセイ、哲学……など充実したコンテンツに加え、第1号の特集「愛」をテーマに、作家の小池真理子さんと俳優の東出昌大さんの対談も。さらに「愛と再生」をテーマに気鋭の詩人・作家6名が詩を書くスペシャル企画に、最果タヒさんの参加も決定。用紙は米のもみ殻を再利用して作ったサステナブルな紙を使用している。

朝日出版社の買収を巡る不可解な動きと労組結成
 東京・九段下にある朝日出版社で、不可解な買収騒動が起きている。これまで大学向けの教科書や書籍を刊行し実績を上げてきた。その創業者の会長・原雅久氏が昨年4月に死亡。遺族(2名)が創業者100%保有の株を相続。今年の5月、合同会社戸田事務所が買収の意向を示し、現社長に遺族からの株式譲渡と買収金額などを提示。
 だが当時の取締役会は全員一致で、この買収の不透明さや低い金額などを理由に、株式譲渡に反対。従業員も反対の意思を会社側に伝え、労働組合を結成し出版労連に加盟した。ところが9月に入って取締役6名全員の解任。労働組合も新たな経営役員に団交を再三申し入れているがナシのつぶて。
 しかもいつの間にか「朝日出版社HD」という会社が、朝日出版社と同じ住所で新規に設立登記されていたのだ。今後の動きがどうなるか、予断を許さない緊迫した状況が続く。
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2024年11月12日

【出版トピックス】続く不祥事と「騒動」そして医学出版の顕彰=出版部会

◆KADOKAWAと子会社 下請け業者ヘ「買いたたき」か 公取委が勧告へ
 公正取引委員会は、東証プライム上場の出版社「KADOKAWA」とその子会社「KADOKAWA LifeDesign」に対し、下請け業者へ「買いたたき」をしたとして、再発防止を求める勧告を出す。
 両社は2023年1月、子会社が発行する生活雑誌「レタスクラブ」(月刊)の記事作成や写真撮影に際し、業務を委託する20以上の下請け業者、すなわち雑誌の制作に関わるライターやカメラマンなどに対し、2024年4月号に掲載する分から原稿料や撮影料を引き下げる通告を行った。
 下請け業者の多くはフリーランスで、取引条件の変更に関して事前の協議はなく、契約の打ち切りで仕事を失う心配から受け入れざるを得なくなっていた。引き下げ率は最大で50〜60%に達したという。本来受け取れるはずの報酬総額は600万円を超えるとみられる。
 公正取引委員会は、下請法による勧告案を提出し、会社側がどう対応をするか見極め、最終的な処分を決めるとしている。
 フリーランスをめぐっては働く人を保護するため、この11月1日、業務を委託した企業などに対して、報酬の減額の禁止やハラスメント対策を義務づける「フリーランス取引適正化法」が施行され、公正取引委員会は対応を強化している。これを見越して、早めに「買いたたき」をしていたとしたら、その責任は重い。
 「KADOKAWA」はホームページで、「公正取引委員会による調査を受けていることは事実であり、真摯に対応しております。今後、開示すべき事項が生じた場合は速やかにお知らせしてまいります」とするコメントを出した。

◆東洋経済新報社の社長“電撃退任”を巡る騒動
 東洋経済新報社は10月30日、田北浩章社長の“電撃退任”を発表。社長に就いて僅か2年。12月23日の定時株主総会で退任(会長に就任予定)し、新しく山田徹也取締役が社長に昇格する。同社は1895年に創立し、石橋湛山が主幹を務めたことでも知られ、「週刊東洋経済」「会社四季報」などを発行する老舗の出版社。そこで何が起きていたのか。
 さっそく「週刊文春」が急転直下の人事が決定した詳細と社員向けの第1回説明会での紛糾や混乱ぶりを報じた。続いて「週刊新潮」も追いかけて記事にしている。
 東洋経済の取締役は5人。10月30日の取締役会で3人が社長退任を支持。まさに2年で社長を引きずり下ろすクーデターといわれる事態となった。2日後の11月1日の正午から行われた社員説明会でも、再度6日の説明会でも社員の納得は得られていないとの疑問がくすぶっている。
 東洋経済新報社のホームページでは、「一部週刊誌での弊社取締役選任議案の報道について」と題し、「選任議案の内容についてさまざまな観点から議論を行い、取締役会議長である田北の議事進行のもと、取締役の山田徹也を次の代表取締役社長とする選任議案を議決しております」と説明し、「クーデター」という表現には強い違和感を持っていると表明している。

◆日本医学ジャーナリスト協会賞に出版2作品が選出
 医療分野の優れた報道・出版を表彰する2024年度の「日本医学ジャーナリスト協会賞」が決まった。同賞は、医療の報道に携わる記者や学識者らで作るNPO法人日本医学ジャーナリスト協会が、2012年に創設した日本で唯一の顕彰である。
「水俣病と医学の責任」大賞に「<移植見送り問題>を巡る一連の報道」(読売新聞東京本社臓器受け入れ断念取対象材班)を選定。出版分野からは優秀賞として、高岡滋『水俣病と医学の責任―隠されてきたメチル水銀中毒症の真実』(大月書店)、鈴木雅人+松村和彦『認知症700万人時代―ともに生きる社会へ』(かもがわ出版)が選ばれた。
 『水俣病と医学の責任』の著者・高岡滋さんは36年間、水俣病を臨床の第一線で診療し続けて来た医者。水俣病がメチル水銀中毒によるものであり、脳の神経細胞を溶解していくことが水俣病の病態に影響している事実を明らかにした。
 また研究者が行政に組み込まれ、研究を放棄していく経緯を克明に記述している。水俣病に対する「歴代の不作為」を、綿密に証拠を集め医学的に立証している。
          
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 『認知症700万人時代』は、京都新聞に連載された記事を加筆して書籍化した。<認知症は病ではない>とのテーマを掲げ、認知症の妻の介護や自らの認知症の症状に向き合うリアルな姿を追う。ヘルパーや看護師、人と家族の声や経験から、誰もが安心して暮らせる社会への道筋を探る。
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2024年10月26日

【出版イベント】第50回出版研究集会:トークイベント─「ひろがる出版」の現在地

 <デジタル化、コンテンツビジネス化が進む現在地から出版産業のゆくえを展望する>
トークセッション:植村八潮さん(専修大学教授)+橋場一郎さん(株式会社KADOKAWA 執行役 Chief Digital Officer)

 コロナ禍を経て、出版産業の二極化がますます顕著になっている。大手出版社がコンテンツビジネスを機動力に、空前の利益をあげる一方で、紙の書籍を柱にする多くの小・零細出版社は厳しい経営状況に置かれ、廃業する書店も後を絶たない。
 デジタル化は、情報アクセシビリティを高め、ニュースプラットフォームやマンガアプリなど、多角的な媒体の利用で読者が文字情報にふれる機会を拡大している。また、大手を中心とするコンテンツビジネスは海外市場も視野に入れて展開されている。
 「ひろがる出版」の現在地を、光と影の両面からとらえ、出版産業のゆくえを展望する。

日時:10月30日(水) 18:30〜20:30
場所:出版労連会議室(オンライン併用)東京都文京区本郷4-37-18
 地下鉄「本郷3丁目」下車 東大赤門に向かって、初めの交差点を渡り交番裏の道を左折し、ふたき旅館の手前・いろは本郷ビル2階
参加費:1000円
問い合わせ:出版労連・第50回出版研究集会事務局
 電話:03-3816-2911 メール:50syukken@syuppan.net
※なおPeatixにてのオンライン申し込みは、https://50syukken.peatix.com へ。
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2024年10月23日

【出版界の動き】「TikTok」がリアル本の出版・販売に乗り出す=出版部会

◆トーハン「HONYAL」サービスを開始
 このほどトーハンは、小型書店の開業をサポートする少額取次サービス「HONYAL(ホンヤル)」を開始し受付を始めた。本の流通フローを簡略化し、少額の取引先とも持続的に取引が可能となる。書籍販売への新規参入を促進し、無書店自治体を失くす流れを作る。
 取扱いは書籍の注文品のみ、返品は仕入額の15%まで、配送は週1回。想定月商は30万〜100万円で、連帯保証人や信認金は原則不要。初期在庫費用も分割払いの相談を受ける。
 トーハンの一般的な取引書店と同じで、3000社以上の国内出版社からの商品調達が可能になる。トーハン桶川センター(埼玉・桶川市)で注文に対応し、70万点500万冊から随時ピッキング、非在庫品は出版社に発注する。トーハンの全国配送網を活用し、全国エリアに対応。一般的な書店と同程度のマージン率になるという。

◆メディアドゥ中間決算、増収増益で推移
 メディアドゥの2024年3月〜8月までの累計売上高は510億5700万円(前年同期比10.0%増)、経常利益は10億3400万円(同10.3%増)。
 2月に獲得した新規商流が業績に寄与したほか、既存商流の売上成長により電子書籍流通事業の売上高が好調に推移。またIP・ソリューション事業の利益改善が進んだ戦略投資事業において営業赤字が縮小したことで、増収増益となった。
 ジャンル別成長率は、売上の8割強を占めるコミック(前年同期比13.7%増)が、大手書店を中心としたキャンペーン展開の拡大により、メディアドゥの成長をけん引した。書籍(前年同期比8.4%増)も3月以降、書店のキャンペーン実施や好調な作品の影響により前年比で安定的に成長した。

◆ノーベル文学賞に韓国人作家のハン・ガンさん、アジア出身女性で初の受賞
 彼女は『菜食主義者』で2016年にイギリスの文学賞「ブッカー国際賞」を受賞。日本では、韓国文学を中心に手掛けてきた出版社「クオン」が同作のほか『少年が来る』『そっと静かに』『引き出しに夕方をしまっておいた』を刊行。
 河出書房新社が『すべての、白いものたちの』、晶文社が『ギリシャ語の時間』、白水社が『別れを告げない』の邦訳版を出版している。注文が殺到しているが、現在すべて品切れ中で、重版の準備に入っている。

◆長くなる本のタイトル。ネット文化の波及で「埋もれない」工夫
 本の書名が長くなっている。2023年までの直近5年間に刊行された本の上位30冊は、タイトルが平均10.3字となり、1960年代と比べ2倍近くになる。ひらがなや熟語を使った簡潔な書名の文芸書から、本文の文章とみまがうような説明調の実用書・ビジネス書の長いタイトル本へと、売れ筋が変化している。
 とりわけ大量のウェブ情報が交錯し、ネット文化が浸透する中で、埋没を避けるには本のタイトルも、訴求力のある分かりやすい説明調の書名がベストセラーを占めるようになった。人生・お金など生き方に関する言葉も増加している。たとえば最近刊では、下記の1書は典型である。
 横道誠『なぜスナフキンは旅をし、ミイは他人を気にせず、ムーミン一家は水辺を好むのか』集英社 9/26刊

◆「TikTok」がリアル本の出版に乗り出す
 世界で10億人のユーザーがいる中国発祥の多国籍企業「TikTok」は、「#BookTok」の運営を通して、世界中から多くの動画閲覧者を集めている。米国ではそこからベストセラーも生まれている。その影響力は無視できない。
 「TikTok」の関連事業として発足した、デジタル本の出版社「8th Note Press」は、「Zando」という出版社と提携して、リアル書籍の販売を拡大していく計画だという。扱うジャンルはロマンス、ロマンチック、ヤングアダルト小説が中心。毎年10〜15冊の本をリリースする予定。
 すでにエージェント経由で契約をしている著者もいるらしく、契約では「TikTok」のインフルエンサーを使って、プロモーションを行うという。日本ではスターツ出版が「TikTok」を活用した出版の事例もあり、新しい印刷版レーベルが立ち上がるかもしれない。

◆いま子どもに人気のスターツ出版<野いちごジュニア文庫>
 若者の間で人気を集めているのが、スターツ出版(本社:東京都中央区)が刊行する<野いちごジュニア文庫>。5年間で売上高を3倍に伸ばした。もともとは2007年に立ち上げた「野いちご」という小説投稿サイトに始まる。
 会員登録をすれば誰でも無料で小説を読んだり書いたりすることができ、投稿された作品で人気の高いものは、本として刊行されるので注目が集まった。しかも子ども自身が買いたくなる本の出版を基本に運営されている。テーマの多くは「恋愛」だ。電子出版よりも紙媒体の方が人気は高い。装丁が可愛くコレクション目的で本棚に並べたくなる、そんな気持ちをかきたてるのも人気のひとつ。

◆出版労連が『早わかり教科書制度 教科書Q&A 』(改訂新版)発行
 すべての子どもたちが使う「教科書」。だが「検定」「採択」については、複雑でわかりにくい制度がたくさん。「教科書」の制度・問題点について、旧版を大幅増補改訂し、新たにデジタル教科書やQRコンテンツについても扱う。A5判28ページ。頒価:1部200円、送料:ゆうパック実費。
※申込先:出版労連 FAX03(3816)2980/メールsumi@syuppan.net
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2024年10月07日

【Bookガイド】10月に刊行の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)。

◆川端美季『風呂と愛国─「清潔な国民」はいかに生まれたか』 NHK出版新書 10/10刊 980円
 私たち日本人が「毎日風呂に入り、お湯に浸かるのは当たり前」という意識や習慣は、いったいどこからきたのか。「日本人は風呂好き」のルーツを、江戸時代の入浴習慣や「清潔な国民」を育てるため衛生指導、さらには国民道徳としての身体・精神の「潔白性」強調など、入浴を通して見えてくる「衛生と統治」のカラクリを、立命館大学准教授(専攻・公衆衛生史)の著者が日本の近代史を通して考察するユニークな新書。
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◆日向咲嗣『「黒塗り公文書」の闇を暴く』朝日新書 10/11刊 900円
 モリカケ、桜を見る会など、解明のための資料請求に、政府は「黒塗り公文書」を平気で出してきた。その悪習がいまや地方自治の現場でも行われるようになった。公文書が黒塗りで情報開示される事態が多発している。市民が開示を求めた情報を、どうして行政は黒塗りにするのか、なぜ許されるのか?黒塗りで隠された官民連携の実態に迫る! 著者は数々の地方自治体に情報開示請求を行い、公文書の闇に迫る活動を続けるジャーナリスト。
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◆原武史『象徴天皇の実像─「昭和天皇拝謁記」を読む』岩波新書 10/21刊 960円
 昭和天皇と側近たちとの詳細なやり取りを記録した「昭和天皇拝謁(はいえつ)記」。政局や社会情勢、戦争について饒舌に語る昭和天皇の等身大の姿が浮かび上がる。歴史上はじめて象徴天皇となった人物の言動は、どんな内容だったのか。私たちにとって「象徴」とは何なのか。日本政治思想史を専攻する著者が、新聞記者の現役時に昭和天皇の最晩年を取材、その後も昭和天皇について研究を重ね、その成果の上に論考する。
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◆鈴木俊幸 『蔦屋重三郎』平凡社新書 10/21刊 1000円
 来年のNHK大河ドラマ「べらぼう」の主人公─蔦屋重三郎とはどんな人物か。江戸吉原の人気ガイドブック『吉原細見』を独占出版し、続いて狂歌と浮世絵を合体させた豪華な狂歌絵本の刊行、山東京伝らによる戯作を出版、歌麿や写楽などを見出し、大成功をおさめた。この名プロヂューサー「蔦重」がもたらした文化的な影響を軸として、蔦屋重三郎という人物を浮き彫りにする書き下ろし。著者は中央大学文学部教授で近世文学・書籍文化史を専攻。
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◆ニュースサイトハンター編『追跡・鹿児島県警 闇を暴け!』南方新社 10/25刊 1800円
 今年6月、鹿児島県警は2件の内部告発を機に、県警本部長の隠蔽疑惑、内部告発者の逮捕、報道機関への強制捜査など、底なしの闇が暴かれた。本書の編者・ニュースサイトハンターは、福岡市を拠点に政治・行政に特化した記事を配信している。そこへ鹿児島県警は家宅捜索に入り、公益通報を単なる情報漏洩にすり替えようとした。この事態の詳細と鹿児島県警の闇を、徹底的に調べ告発する本書は、ジャーナリストはもちろん一般市民の必読書。
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2024年09月28日

【出版界の動き】読書離れを防ぐ多様な取り組みが進む=出版部会

◆1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!
 文化庁が17日に発表した2023年度「国語に関する世論調査」の1項目、<読書に関する調査>(雑誌や漫画を除き電子書籍を含む)で、1カ月に本を1冊も読まない人が62.6%!―そんな結果が明らかとなった。
 同様の調査は2008年度から5年ごとだが、過去の調査で「ゼロ冊」が5割を超えたことはなく、前回の2018年度は47.3%だった。コロナ禍前の前回までは面接調査だったため、今回は郵送調査なので単純比較はできないが、憂慮すべき事態であるのは間違いない。
 本を読む人は、どのように本を選ぶかを尋ねると、書店に行って手に取りながら選ぶ人は57.9%(前回66.7%)と減っている。その一方、インターネット情報により選ぶ人は33.4%(前回27.9%)と増えている。
 読書量は69.1%が「減っている」(前回67.3%)と回答し、その理由はスマホやゲーム機など「情報機器で時間が取られる」と答えた人が43.6%(前回36.5%)で最多となった。これまでの調査では「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」回答が多数だったが、今回は38.9%(同49.4%)に減っている。

◆「朝の読書大賞」が発表される
 文字・活字文化振興法の理念にもとづき、読書推進に貢献し、顕著な業績をあげた学校を顕彰するため毎年表彰している。今年の受賞・学校は以下の通り。
 ●大江学園 福知山市立大江小学校・大江中学校(京都)、
 ●学校法人開成学園 大宮開成中学校(埼玉)
 ●愛知県立豊橋高等学校
「朝の読書運動」は、主に学校在学中から読書を大切にしようと、授業の始まる前の10分から15分ほど読書の時間を設け、読む習慣づくりに貢献してきた。1970年代から始まり、1988年の船橋学園女子高校(現:東葉高等学校)の実践を機に、日本全国に広まった。
 特に出版社・高文研(当時の代表・梅田正己)が、同校編『朝の読書が奇跡を生んだ』(同社1993年刊)などで協力し、1996年には「朝の読書」運動が第44回菊池寛賞を受賞した。

◆「無書店」自治体27.9%、1書店以下は47.7%
 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、今年8月末時点で15道県24市が「書店ゼロ」となり、北海道芦別市や千葉県白井市、熊本県合志市など市名を公表した。また全国の書店数は前回調査(24年3月時点)より145軒減って7828軒に減少した。
 その一方で、大型書店がターミナル駅周辺などに大規模な出店を図り、近郊の青年・児童・主婦層を視野に、新たな読者拡大に傾注している。その際、紙媒体の本もさることながら、電子出版物・教育玩具などに売り場面積を拡充し、新規販路の開拓を試みている。

◆丸善ジュンク堂書店、所沢市に97店舗目出店へ
 9月24日、「ジュンク堂書店エミテラス所沢店」が、埼玉・所沢市の商業施設「エミテラス所沢」(西武線「所沢駅」西口)の3階に新規出店した。97店舗目。売場面積304坪。240坪の本売場では、ファミリー層に向けて児童書や学参書を充実させて約20万冊を揃え、知育玩具を体験できるエリアも設ける。
 店内には所沢市在住の漫画家・安彦良和氏のコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の複製原画を展示するなど、「所沢」という地域を意識した企画を随時展開する。

◆JR貨物の不正が招く出版流通への影響
 JR貨物が車輪と車軸のデータ改ざん不正の発表から2週間が経過する。その影響で輸送力は1割減のまま、物流への影響は続いている。国土交通省は全国の鉄道事業者に、車輪・車軸の緊急点検を指示し、影響は広がりかねない。本や雑誌の新刊を心待ちにする読者にも影響が出ている。
 札幌市北区の大型書店「コーチャンフォー新川通り店」は、本州からの貨物輸送が滞ったため、発売予定日に雑誌や書籍が並べられなかったという。「物流2024年問題」で長距離ドライバーが不足している現状に、JR貨物の車両点検不正が追い打ちをかけた形で、事態を深刻させている。
 とりわけ出版流通にとっては、JR貨物の正確性・迅速性・軽料金などに依存している割合が極めて大きいので、両国駅に集約される JR貨物の、一刻も早い正常化が望まれている。

◆講談社の海外向けマンガサービス「K MANGA」を国内でも 
 2023年5月、海外向けに公開された英語版のマンガ配信サービス「K MANGA」を、国内の読者からの強い要望を受け、日本国内でも公開することになった。「K MANGA」は、同社のウェブマンガサービス「マガポケ」の海外版で、「ブルーロック」「MFゴースト」などの人気作約500タイトルが配信されている。オンライン英会話サービス「DMM英会話」とコラボしたキャンペーンも実施する。
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2024年09月22日

【出版トピックス】出版社の倒産・廃業が増加、「月刊コロコロコミック」好調=出版部会

◆過去最大─6割が「業績悪化」
 帝国データバンクが「出版業界」の動向について調査・分析を行い、2024年1月から8月末までの状況を公表した。その特徴として、@人気雑誌も「休刊ラッシュ」の苦境 出版社の3割超が「赤字」 A過去20年で最大、出版不況で低迷脱せず 倒産・廃業も増加傾向続く─とまとめている。その詳細な報告を紹介する。
 全国で書店の減少に歯止めがかからないなか、雑誌や書籍の出版社でも厳しい経営環境が鮮明となっている。2023年度における出版社の業績は「赤字」が36.2%を占め、過去20年で最大となったほか、減益を含めた「業績悪化」の出版社は6割を超えた。出版不況の中で、多くの出版社が苦境に立たされている。
 2024年は有名雑誌の休刊・廃刊が相次いだ。月刊芸能誌『ポポロ』をはじめ、女性ファッション誌『JELLY』やアニメ声優誌『声優アニメディア』などが休刊を発表。日本の伝統文化や芸能関係の話題を世界に紹介する国内唯一の英文月刊誌『Eye-Ai』を発刊していたリバーフィールド社は、今年4月に破産となった。
 購読者の高齢化に加え、若者層では電子書籍の普及やネット専業メディアが台頭し、紙の雑誌・書籍の売り上げは1996年をピークに減少が続いている。

 また「再販制度」で出版物の約4割が売れ残りとして返品されるなど、出版社では在庫負担が重い。加えて物価高の影響で紙代やインク代など印刷コスト、さらには物流コストも上昇が著しく、ますます収益が悪化する悪循環に陥っている。
 2024年1−8月に発生した出版社の倒産(負債1000万円以上、法的整理)と廃業も、4年ぶりに前年から増加した2023年(65件)と同等のペースで発生し、2024年通年では過去5年間で最多となる可能性がある。
 そのため大手書店は返本を減らす取り組みを進めている。出版社関係では特色あるテーマの発掘や編集スタイルの工夫で、部数を伸ばす雑誌や書籍に成功しているケースもある。しかしヒット本や雑誌の発刊は容易でなく、出版コストの増加で経営体力が疲弊した中小出版社では雑誌の休廃刊、さらに倒産や廃業といった淘汰が進むとみられる。
https://www.tab.co.jp/report/watching/press/p240903.html

◆「月刊コロコロコミック」が大健闘する理由
 雑誌休刊が続き、漫画誌も苦戦が広がるなか、「月刊コロコロコミック」(小学館)が大健闘している。その理由は何か。漫画やアニメの情報を常にウォッチし続けるフリーライターの元城健さんが分析している。その秘密は「少年たちを虜にさせるブレない編集方針が奏功しているのではないか」と指摘している。詳細を以下に紹介する。
 世界的なファンの広がりを受け、日本の漫画やアニメなどのコンテンツ市場は好調である。その一方で、雑誌の発行部数は減少が続く。なかでも、最近になって往年のベテラン漫画家も衝撃を受けているのが、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の発行部数の落ち込みである。
 日本雑誌協会が8月7日に公表した2024年4月〜6月の3ヶ月ごとの平均印刷部数によれば、「週刊少年ジャンプ」の発行部数は109万3333部となっている。これは最盛期の653万部の、約6分の1という数字だ。国内向けの雑誌はどこも苦境である。「週刊少年マガジン」(講談社)は32万3250部、「週刊少年サンデー」(小学館)は13万8750部でしかない。
 その一方で、小学生の男子を対象にした「月刊コロコロコミック」は32万3467部である。このご時世ではかなり堅調な数字といえ、しかもわずかながら「週刊少年マガジン」を上回っているのだ。これは、少子化が進んでいる昨今において、驚くべき数字と言っていいだろう。

 いったいなぜ、「コロコロコミック」が受けているのか。大手出版社の漫画編集者は同誌の「ブレない誌面作り」を評価し、こう語る。
「『コロコロコミック』は一貫して、小学生の男子向けの雑誌を丁寧に作っている。小学生の男子が求めるものをとことん盛り込んだ漫画が多いんですよ。具体的に言えば、下ネタを使ったギャグがその筆頭です。大人が眉を顰め、お母さんに怒られそうな下品なギャグ。これこそが、小学生男子が普遍的に求めるものなんですよ」
 この編集者は、ひと昔前であれば「コロコロコミック」を卒業して「週刊少年ジャンプ」を読んだであろう小学生男子が、今はそのまま「コロコロコミック」にとどまり、読み続けているケースも少なくないのではないかと分析する。その理由に、「週刊少年ジャンプ」に掲載される漫画の内容、特に絵柄を挙げている。
「ここ20年くらいで、『週刊少年ジャンプ』に載る漫画は明らかにきれいで、画力の高い漫画家の作品が多くなった。その一方で、下ネタを扱い、荒い絵柄の漫画が消えていきました。現在、『ジャンプ』は女性読者も多いと聞きます。絵がきれいになると女性には受けますし、メディアミックスもしやすく、外国人に人気の高い漫画は生まれるでしょう。しかし、肝心の“少年”たちの支持がどこまで広がっているのかが気になります」

 ギャグ漫画は海外で受けにくいといわれる。ましてや下品なギャグとなると、アニメ化などのメディアミックスも難しいだろう。しかし、そういった漫画やネタこそが、小学生男子が普遍的に求めているものなのではないか。そして、子どもたちの漫画の入口として重要な存在だったはずである。一貫してそういったニーズに応え続け、もはや孤高の存在になりつつある「コロコロコミック」が少子化のなかでも堅調な要因は、そこにあるのかもしれない。
https://realsound.jp/book/2024/09/post-1780259.html Real Sound リアルサウンド ブック2024年9月14日)
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2024年08月14日

【出版トピック】サイバー攻撃を受けたKADOKAWAの復旧と被害状況=出版部会

本の出荷は8月中旬から
 KADOKAWAグループは、「サイバー攻撃による被害の復旧作業が順調に進み、KADOKAWAオフィシャルサイトを閲覧できるようになりました」と、この9日に報告した。また「ご利用いただいております皆様には多大なご迷惑、ご心配をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪している。
 ただし全て復旧したわけではなく、今後は新刊書籍の書影画像や、映画・アニメの最新情報、書籍の売り上げランキング情報などについて、順次復旧していくという。なお本の出荷については、8月中旬には平常通りに戻るという見通しを明らかにしている。
 これまでKADOKAWAの出版事業は、出版製造・物流システムを停止せざるを得なくなっていた。それは6月上旬、ドワンゴのファイルサーバに仕掛けられたサイバー攻撃により、その被害が全社的な範囲に及ぶのを防ぐため、関連サーバをシャットダウンしたことによる。

25万4241人の個人情報が漏洩
 あわせてKADOKAWAグループに仕掛けられた6月上旬のサイバー攻撃による被害について、このほど漏えいした情報の詳細に関し、社外のセキュリティ企業よる調査結果を発表した。
 攻撃の標的は、ニコニコを中心としたサービス群。「フィッシングなどの攻撃により、従業員のアカウント情報が窃取され、社内ネットワークに侵入されたことで、ランサムウエアの実行と個人情報の漏えいにつながった」とみている。従業員のアカウント情報が窃取された経路や手法は「現時点では不明」としている。
 流失した個人情報は氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレス、口座情報などが含まれている。ただし顧客のクレジットカード情報は社内で保有していないため、情報漏洩は起こらない仕組みになっているという。
 対象者のうち社外関係は、ドワンゴおよび関連会社と取引きする一部のクリエイターや個人事業主、N中等部、N・S高等学校の在校生、卒業生、保護者、出願者、資料請求者の一部などになる。社内では、ドワンゴの全従業員と一部の関連会社、角川ドワンゴ学園の一部従業員などである。
 社外・社内を含めて、個人情報が漏洩した対象者は25万4241人と発表した。

悪質な情報拡散1000件に法的措置を取る
 KADOKAWAグループは、今回のサイバー攻撃により、攻撃グループが得た情報を基にした内容を、SNSなどを通して第三者に拡散する事例が相次ぎ、これらの悪質な拡散例を1000件近く特定した。証拠保全の上、削除済みの書き込みも含めて刑事告訴・刑事告発などの法的措置に向けて作業を進めているという。
 悪質な例の内訳は、ドワンゴに関するものが896件(Xが160件、5ちゃんねるが522件、まとめサイトが29件、Discordやその他が185件)、角川ドワンゴ学園に関するものが67件(Xが11件、5ちゃんねるが45件、まとめサイトが1件、その他が10件)と報告している。今後の法的措置への取り組みとその行方が注目される。
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2024年07月30日

【出版トピックス】2024年上半期:紙の出版物売り上げ前年同期比5.0%減!電子出版は6.1%増!=出版部会

◆3期連続の売り上げ減
 出版科学研究所の発表によれば、2024年上半期(1〜6月期)の出版市場(紙+電子)は1.5%減の7902億円となった。紙の出版物(書籍・雑誌)の推定販売金額は5205億円(前年同期比5.0%減)、3期連続の減少となった。書籍は3179億円(同3.2減)、雑誌は2025億円(同7.8%減)。とりわけ週刊誌の落ち込みは激しく317億円(同11.5%減)。
 電子出版物は2697億円で6.1%増となった。電子コミック2419億円(同6.5%増)、電子書籍(文字ものなど)234億円(同2.2%増)、電子雑誌44億円(同4.8%増)。電子コミックは縦スクロール化により堅実な伸びを示している。

◆電子出版需要衰えず
 電子出版物の市場規模を概観してみると、昨(2023)年度・1年間の売り上げは6449億円(前年比7.0%増)となっている。その内訳は電子コミックが5647億円(同8.6%増)、電子書籍・文字ものなど(文芸書・実用書など)が593億円(同1.3%減)、電子雑誌が209億円(同7.5%減)。
 しかし、コロナ席捲による電子出版への急激な需要が喚起された、2年半前の2ケタ台の伸びは確保できず、2年連続で一ケタ台の増加率となっている。加えて昨年5月に新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、人々の余暇の過ごし方が多様化するなか、コロナ禍以降の特需は完全になくなったとみてよい。
 とはいえ電子出版物、なかでも電子コミックの需要は衰えず、2028年度には伸び率24%増の8000億円まで成長するといわれている。
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2024年07月23日

【出版界の動き】本の需要喚起のためのユニークな取り組みと挑戦=出版部会

第171回・芥川賞と直木賞が決まる。受賞作の短い紹介
<芥川賞>
朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』(新潮社)
 同じ身体なのに半身は姉、もう半身は妹、その驚きに満ちた人生を描く。周りからは一人に見えるが、でも私のすぐ隣にいるのは別のわたし。隣のあなたは誰なのか? 姉妹は考える、そして今これを考えているのは誰なのか。著者はこれまで勤めてきた医師としての経験と驚異の想像力を駆使して、人が生きることの普遍を描く、世界が初めて出会う物語。
松永K三蔵『バリ山行』(講談社 2024/7/29発売予定)
 内装リフォーム会社から転職して2年。会社の付き合いを極力避けてきた男は、同僚に誘われ六甲山登山に参加。その後も親睦を図る気楽な山歩きをしていたが、あるベテラン社員から誘われ、危険で難易度の高い登山へ同道する。だが山に対する認識の違いが露わになる。圧倒的生の実感を求め、山と人生を重ねて瞑走する純文山岳小説。
<直木賞>
一穂ミチ『ツミデミック』(光文社)
 夜の街で客引きバイトに就く主人公。女がバイト中に話しかけてきた。彼女は中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と女の話に戸惑う「違う羽の鳥」。調理師の職を失い家に籠もりがちのある日、小一の息子が旧一万円札を手に帰ってきた。近隣の老人からもらったという「特別縁故者」。渦中の人間模様を描き心震える全6話を収載。
 なお著者の一穂さんは覆面作家として活動していたため、マスクを着用して会見に臨んだ。また光文社は生島治郎『追いつめる』以来、57年ぶりに直木賞作家を輩出した。

辻村深月『傲慢と善良』(朝日新聞出版)がトータル100万部を突破
 2019年3月、辻村さんの作家生活15周年を記念する作品として刊行。内容は婚活≠テーマとした恋愛ミステリ。単行本6万部(10刷)、文庫版85万部(22刷)、電子版9万部。文庫版は22年9月に発売し、1年間で文庫ジャンルの1位になるなど、ベストセラーランキングを席巻した。
 今秋9月27日には、藤ヶ谷太輔さんと奈緒さんのダブル主演による実写映画が公開される。「web TRIPPER」では、鶴谷香央理氏によるコミカライズが連載中。9月にコミック版の第1巻も発売が予定されている。

「読書バリアフリー法」に基づく地方計画の策定は26% 
 視覚障害者らの読書環境の改善を図る「読書バリアフリー法」に基づく計画は、都道府県・指定都市・中核市の計129の自治体には、策定の努力義務がある。しかし策定されている自治体は33、検討中は54、策定予定なしは42に及んだ。策定率は約26%(2月1日現在)だった。
 電子書籍の普及や公立図書館の体制整備などが課題だが、そうした取り組みの計画作りが進んでいないことが分かった。この6月27日には読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明が発出され、読書バリアフリーの取り組みポイントとして、以下のことを挙げている。
@ 電子書籍をリフローの形式で、一般向けに制作して販売する。
A 機械式音声読み上げに対応できるようにする。
B 専門の読上げソフトで読ませるため、また点字で読ませるため、テキストデータを提供できるようにする。

日販が有人・無人のハイブリッド型店舗を今秋オープン
 日販は「あゆみ BOOKS 東京・杉並店」をリニューアルし、溜池に設置した「ほんたす」機能を加え、「ほんたす」2号店として今秋オープンする。ここには有人・無人のハイブリッド型営業をかなえる省人化ソリューションを初導入し、書店スタッフの負担軽減と営業時間の延長を図る。
 まず有人レジカウンターを廃止し、セルフレジを導入する。書店スタッフは店舗内でさらに丁寧な接客や売り場づくりを行う。さらに営業時間を4時間延長し、早朝の8時から10時と深夜22時から24時の4時間を、LINE会員証で入店を管理する無人営業時間とし早朝や深夜の営業を可能にする。

ポプラ社と横浜市教委が提携して小中学校に読み放題型の電子図書館を試行導入
 ポプラ社は7月3日、子どもの読書機会の充実を目的に、横浜市教育委員会と連携協定を締結した。ポプラ社が小中学校向けに提供する読み放題型電子図書館「Yomokka!」が、7月から横浜市の小中学校のうち、「過大規模校(学級数31以上)」に指定される9校に試行導入された。

小学館 新会社「THRUSTER(スラスター)」設立 最新テクノロジーでコンテンツ開発
 小学館は7月16日、XR技術を使ったビジネスを開発する新会社として「株式会社THRUSTER(スラスター)」を設立したと発表した。THRUSTERは「株式会社LATEGRA(ラテグラ)」から事業譲渡を受けた制作チームが業務を行う。
 今後はグループ会社の一員として、小学館が持つ膨大なコンテンツをDIGITAL・VR・AR・AI等のテクノロジーと掛け合わせた、新たなコンテンツやサービスの開発を加速させ、海外にも進出する。

世界に広がる日本の出版物 ミリオンセラー生み出す動画SNSの拡散力
 マンガをはじめ、日本の出版コンテンツに対する海外での需要が急伸している。特に米国では勢いが止まらない。今や日本の小説への需要も拡大。動画配信や動画SNSによってそのブームは世界に拡大している。電子書籍の取次や翻訳サービス、縦スクロール化などのサービスが効を奏し、多くの作品を海外に販売できる体制が急ピッチで進む。
 紀伊國屋書店は米国、台湾を含む東南アジア、オセアニア、中東に42店舗を展開。このうち市場が大きい米国で21店舗を運営する。特に動画配信サイトでアニメを見て、新たに作品のファンになったファミリー層が購入するようになり、売上が伸びているという。さらに太宰治の『人間失格』がアニメ化され、原作への関心が広がりベストセラーになっている。

新聞協会、検索連動型AIは「著作権侵害」あたり記事の利用承諾を要請
 日本新聞協会は17日、米国大手IT各社が展開する「検索連動型生成AIサービス」は、著作権侵害の可能性が高いとして、記事の利用承諾を要請する声明を発表した。情報源として新聞記事を無断利用し、かつ記事に類似した回答例を表示するケースが多く、利用者も参照サイトのニュースを閲覧せず、報道機関に不利益が生じる弊害も指摘した。
 また記事利用の許諾を得ないまま「検索連動型AI」を提供すれば、独禁法に抵触する可能性にも言及した。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする