2025年5月13日、政府提出の日本学術会議法案が、自民党、公明党、日本維新の会などの賛成多数により衆議院で可決され、参議院に送られた。
日本出版者協議会(出版協)は表現・出版の自由を擁護する出版者の団体として、学問・学術研究の自由が損なわれるおそれが大きいこの法案に、改めて反対を表明する。
法案について、日本学術会議は4月15日に声明「次世代につなぐ日本学術会議の継続と発展に向けて〜政府による日本学術会議法案の国会提出にあたって」を発表し、以下のように指摘し、法案の修正を含め、十分に慎重な審議を求めている。
現行の日本学術会議法は、第二次世界大戦の反省に立ち、前文で、「科学が文化国家の基礎」「わが国の平和的復興への貢献」の基本理念を掲げるが、今回の法案では前文はなくなり、基本理念も踏襲されていない。
政府任命の監事による監査、中期的な活動計画や年度計画の策定とそれらに対する内閣府に置かれる評価委員会の関与、選定助言委員会の設置を含む会員の選任の仕組み等について、活動面での政府からの独立、会員選考における自主性・独立性が充足されておらず、むしろ独立性の阻害が意図されているのではないかといった懸念がある。
われわれも、この懸念を共有するが、衆議院では十分な審議はなされず、原案通り可決された。
そもそも今回の法案に至る日本学術会議の組織改編論議は、2020年の菅義偉首相による会員候補者6人の任命拒否から本格化した。この任命拒否は、憲法が保障する学問や表現の自由を侵害する重大な権力濫用行為であると、任命拒否の理由の説明と全員の任命を求める声が多く挙がったが、政府はその後も説明責任すら果たしていない。
そのような経緯を経て政府から提出された法案に、日本学術会議が自主性・独立性について懸念を抱くのは当然である。
出版協は、日本学術会議が今後もその設立目的である「科学が文化国家の基礎であるという確信に立って、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命とする」を堅持し活動することを支持すると共に、政府提出の日本学術会議法案に反対し、参議院で十分な審議がなされることを強く訴えるものである。
以上
2025年5月23日
一般社団法人 日本出版者協議会(会長 水野 久)
東京都文京区本郷3-31-1 盛和ビル40B
2025年05月27日
2025年05月24日
【出版トピックス】5月─無人書店普及の波広がる=出版部会
◆KADOKAWA、サイバー攻撃で減益
25年3月期の連結決算の概要は、売上高2779億1500万円(前年比7.7%増)、経常利益177億4200万円(同12.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は、サイバー攻撃の調査・復旧作業やニコニコのクリエイター補償などの費用24億円を特別損失として計上したため、73億9200万円(同35.1%減)の増収減益決算となった。
中でも影響が大きかったのは、国内出版事業とWebサービス部門。出版事業はサイバー攻撃を受けた際、被害拡大を防ぐため関連サーバをシャットダウンしたことで製造・物流システムが停止。約2カ月にわたり本の生産や出荷に影響が出た。
同じくサイバー攻撃の影響を大きく受けたWebサービスは減収。ニコニコ関連事業はサービス停止で6〜8月の売上を逸失した。
その一方、アニメと実写を含む映像事業やゲーム事業は過去最高の売上高と営業利益をはじきだしている。
◆講談社─新幹線で大型広告展開
外国を旅行している際に観光客がぶつかる悩みとしては、「言語」に次いで「文化・風習」やマナーがあると言われる。そこで講談社は、東海道新幹線のJR東京駅・品川駅・名古屋駅・京都駅・新大阪駅の構内に、同社刊行のコミック17作品のキャラクターを活用した広告「MANGA MANNERS」(漫画マナーズ)を、4月24日から6月30日まで展開。
訪日する外国人客に対して、日常生活やレストラン、公共交通機関などにかかわる17のマナーを英語で紹介し、海外でも有名な同社のコミック作品をカットに添えることで、楽しく理解できるようにしている。
◆トーハン、Nebraskaと無人書店協業
トーハンはNebraskaと連携し、無人営業化ソリューション「デジテールストア(旧称MUJIN書店)」を、ジュンク堂書店 プレスセンター店に導入した。都心のオフィスビル内書店としては初のハイブリッド営業が始まった。
従来の11時から20時までの9時間営業から、朝9時から夜22時までの13時間営業へと移行した。うち、朝2時間と夜3時間の計5時間が無人営業となる。これにより、通勤前や退勤後に来店する顧客のニーズに対応し、売上拡大を狙う。さらに土曜も無人で営業、週の稼働日数が増加。
店舗は日本プレスセンタービルの1階に位置し、メディア関係者や周辺の公務員、ビジネスパーソンの利用が多い。新たな営業形態の導入により、日々の多様なライフスタイルに応じた柔軟な買い物体験が提供される。
◆TSUTAYA カンボジアに進出
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と双日の合弁会社であるTSUTAYA BOOKS malaysiaは、カンボジアでデベロッパー事業などを展開するアーバン・リビング・ソリューションズとフランチャイズ契約を結び、同国における初出店となる「TSUTAYA BOOKSTORE イオンモール プノンペン」をオープンした。
首都プノンペンの中心部に位置する商業施設「イオンモール プノンペン」の2階に出店。ニューファミリーをメインターゲットに、466坪の売場で児童書や学習参考書、日本の英訳コミック、様々な分野の書籍を7万冊取り揃える。CCCによると、同国最大級の在庫数と広さの書店という。
◆子供の不読率さらに上昇
東京都教育委員会が、24年度「子供読書活動推進に関する調査」の結果を発表。同年9月、都内公立学校の小学1・3・5年生、中学2年生、高校2年生を対象に調査。「1か月間、まったく本を読んでいない」不読者の割合が、22年度の前回調査から全学年で上昇。
小学1年生は7.6%(前回比3.1%増)、3年生は7.4%(2.8%増)、5年生は7.4%(2.3%増)。中学2年生は11.6%(1.3%増)、高校2年生は36.3%(2.9%増)。
「1カ月で1冊以上読了した」子供は小中高全体で63.4%、冊数は平均11.6冊。児童・生徒間で読書量の差が生じている。
◆フリーランスも労災対象に
フリーランスを労働災害の保護対象として加える改正労働安全衛生法が5月8日の衆院本会議で可決・成立した。仕事の発注者に業務で起きた死亡やけがなどを労働基準監督署に報告するよう義務づける。高齢労働者の労災対策も強化する。精神障害などを予防するためのストレスチェックを、すべての企業に義務づける。改正法の主な部分は26年4月から施行される。
改正法は労働者を雇用せず事業を行う個人事業主を保護の対象とする。建設業の一人親方なども対象となる。フリーランス側も危険な業務を請け負う際は業務に対応した特別教育を受けることが義務となる。
ストレスチェックはこれまで従業員数50人未満の企業は努力義務だった。高齢労働者の労災防止へ必要な措置を講じることを企業の努力義務とする。職場の段差を減らすなど働く環境の改善などを求める。フリーランスを巡っては24年11月に労災保険に特別加入できる制度も始まっている。
◆トランプ、米議会図書館長解任
5月6日、トランプ大統領が同国の図書館トップであるアフリカ系女性のカーラ・ヘイデン議会図書館長を解任。トランプ氏の解任理由は、彼女は多様性・公平性・包摂性(DEI)を推進する「懸念すべき」プログラムを実施し、「児童向けとしては不適切な書籍を議会図書館に設置した」という内容である。
民主党下院トップのハキーム・ジェフリーズ院内総務は、ヘイデン氏の解任を「恥ずべき行為であり、書籍の禁書化、米国の歴史のホワイトウォッシュ、そして時計の針を逆戻りさせようとする(トランプ氏による)継続的な取り組みの新たな一手だ」と批判。
「議会図書館は米国民の図書館だ。米国の生活様式に対するこの前例のない攻撃に対する責任は、遅かれ早かれ問われるだろう」と続けた。
25年3月期の連結決算の概要は、売上高2779億1500万円(前年比7.7%増)、経常利益177億4200万円(同12.3%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は、サイバー攻撃の調査・復旧作業やニコニコのクリエイター補償などの費用24億円を特別損失として計上したため、73億9200万円(同35.1%減)の増収減益決算となった。
中でも影響が大きかったのは、国内出版事業とWebサービス部門。出版事業はサイバー攻撃を受けた際、被害拡大を防ぐため関連サーバをシャットダウンしたことで製造・物流システムが停止。約2カ月にわたり本の生産や出荷に影響が出た。
同じくサイバー攻撃の影響を大きく受けたWebサービスは減収。ニコニコ関連事業はサービス停止で6〜8月の売上を逸失した。
その一方、アニメと実写を含む映像事業やゲーム事業は過去最高の売上高と営業利益をはじきだしている。
◆講談社─新幹線で大型広告展開
外国を旅行している際に観光客がぶつかる悩みとしては、「言語」に次いで「文化・風習」やマナーがあると言われる。そこで講談社は、東海道新幹線のJR東京駅・品川駅・名古屋駅・京都駅・新大阪駅の構内に、同社刊行のコミック17作品のキャラクターを活用した広告「MANGA MANNERS」(漫画マナーズ)を、4月24日から6月30日まで展開。
訪日する外国人客に対して、日常生活やレストラン、公共交通機関などにかかわる17のマナーを英語で紹介し、海外でも有名な同社のコミック作品をカットに添えることで、楽しく理解できるようにしている。
◆トーハン、Nebraskaと無人書店協業
トーハンはNebraskaと連携し、無人営業化ソリューション「デジテールストア(旧称MUJIN書店)」を、ジュンク堂書店 プレスセンター店に導入した。都心のオフィスビル内書店としては初のハイブリッド営業が始まった。
従来の11時から20時までの9時間営業から、朝9時から夜22時までの13時間営業へと移行した。うち、朝2時間と夜3時間の計5時間が無人営業となる。これにより、通勤前や退勤後に来店する顧客のニーズに対応し、売上拡大を狙う。さらに土曜も無人で営業、週の稼働日数が増加。
店舗は日本プレスセンタービルの1階に位置し、メディア関係者や周辺の公務員、ビジネスパーソンの利用が多い。新たな営業形態の導入により、日々の多様なライフスタイルに応じた柔軟な買い物体験が提供される。
◆TSUTAYA カンボジアに進出
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と双日の合弁会社であるTSUTAYA BOOKS malaysiaは、カンボジアでデベロッパー事業などを展開するアーバン・リビング・ソリューションズとフランチャイズ契約を結び、同国における初出店となる「TSUTAYA BOOKSTORE イオンモール プノンペン」をオープンした。
首都プノンペンの中心部に位置する商業施設「イオンモール プノンペン」の2階に出店。ニューファミリーをメインターゲットに、466坪の売場で児童書や学習参考書、日本の英訳コミック、様々な分野の書籍を7万冊取り揃える。CCCによると、同国最大級の在庫数と広さの書店という。
◆子供の不読率さらに上昇
東京都教育委員会が、24年度「子供読書活動推進に関する調査」の結果を発表。同年9月、都内公立学校の小学1・3・5年生、中学2年生、高校2年生を対象に調査。「1か月間、まったく本を読んでいない」不読者の割合が、22年度の前回調査から全学年で上昇。
小学1年生は7.6%(前回比3.1%増)、3年生は7.4%(2.8%増)、5年生は7.4%(2.3%増)。中学2年生は11.6%(1.3%増)、高校2年生は36.3%(2.9%増)。
「1カ月で1冊以上読了した」子供は小中高全体で63.4%、冊数は平均11.6冊。児童・生徒間で読書量の差が生じている。
◆フリーランスも労災対象に
フリーランスを労働災害の保護対象として加える改正労働安全衛生法が5月8日の衆院本会議で可決・成立した。仕事の発注者に業務で起きた死亡やけがなどを労働基準監督署に報告するよう義務づける。高齢労働者の労災対策も強化する。精神障害などを予防するためのストレスチェックを、すべての企業に義務づける。改正法の主な部分は26年4月から施行される。
改正法は労働者を雇用せず事業を行う個人事業主を保護の対象とする。建設業の一人親方なども対象となる。フリーランス側も危険な業務を請け負う際は業務に対応した特別教育を受けることが義務となる。
ストレスチェックはこれまで従業員数50人未満の企業は努力義務だった。高齢労働者の労災防止へ必要な措置を講じることを企業の努力義務とする。職場の段差を減らすなど働く環境の改善などを求める。フリーランスを巡っては24年11月に労災保険に特別加入できる制度も始まっている。
◆トランプ、米議会図書館長解任
5月6日、トランプ大統領が同国の図書館トップであるアフリカ系女性のカーラ・ヘイデン議会図書館長を解任。トランプ氏の解任理由は、彼女は多様性・公平性・包摂性(DEI)を推進する「懸念すべき」プログラムを実施し、「児童向けとしては不適切な書籍を議会図書館に設置した」という内容である。
民主党下院トップのハキーム・ジェフリーズ院内総務は、ヘイデン氏の解任を「恥ずべき行為であり、書籍の禁書化、米国の歴史のホワイトウォッシュ、そして時計の針を逆戻りさせようとする(トランプ氏による)継続的な取り組みの新たな一手だ」と批判。
「議会図書館は米国民の図書館だ。米国の生活様式に対するこの前例のない攻撃に対する責任は、遅かれ早かれ問われるだろう」と続けた。
2025年05月17日
【Bookガイド】5月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆黒田基樹『羽柴秀吉とその一族─秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書 5/7刊 1840円
「羽柴秀吉とその一族」.jpg 羽柴(豊臣)秀吉といえば歴史上の著名な人物。しかし父母や兄弟、親類の実態は、いまだ謎に包まれたまま。秀吉の父親はどのような職に就いていたのか。弟・秀長の妻子はどのような人物なのか。「秀吉政権」を把握するうえで不可欠な一族・親族の情報を徹底検証。通説が大きく書き改められるいま、秀吉の親族研究の到達点を示す。
著者は駿河台大学教授。著書に『戦国大名 政策・統治・戦争』(平凡社新書)、『百姓から見た戦国大名』(ちくま新書)など。
◆後藤秀典『ルポ 司法崩壊』地平社 5/12刊 1800円
国策に従順な「法の番人」最高裁の<罪と罰>を検証する。国も東京電力も原発事故の責任は問わず。政府に忖度する最高裁を始め、司法全体の劣化が進む。司法の独立が内側から崩れていく現状を報告。
著者は1964年生まれ、ジャーナリスト。著書に『東京電力の変節――最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(旬報社刊、貧困ジャーナリズム大賞、JCJ賞受賞)。
◆福間莞爾『貶められた司令塔 ─危機に立つ巨大組織農協(JA) 求められる新基軸』社会評論社 5/13刊 2300円
日本の農業は米の高騰・備蓄米の放出など、極めて脆弱な生産体制が露呈している。農協が組織発展に都合のよい信用・共済事業の拡大に重きを置き、生産を軽視してきたツケが回ってきた結果だ。今こそ農協本来の農業振興に全力を挙げるべきである。とくに生産段階にまで踏み込んだ農業経営への取り組みが迫られている。
著者は農業・農協問題評論家。全国農協中央会常務理事や「新世紀JA研究会」常任幹事を歴任。
◆渡邉大輔『ジブリの戦後−国民的スタジオの軌跡と想像力』中央公論新社 5/22刊 2100円
ジブリスタジオが6月に40周年を迎える。宮崎駿・高畑勲両監督、鈴木敏夫や宮崎吾朗などのキーパーソンの活動を追いながら、1980年代に誕生した「ジブリ」運動体のリアルな姿を生き生きと描く。ジブリは「戦後日本」における「大きな物語の完成と解体」を体現してきた。
著者は1982年生まれ。跡見学園女子大学准教授。専門は日本映画史・映像文化論・メディア論。著書に『新映画論』(ゲンロン)、『謎解きはどこにある』(南雲堂)がある。
◆安田菜津紀『遺骨と祈り』産業編集センター 5/22刊 1600円
パレスチナ訪問の2018年2月以来、この6年間に福島、沖縄をはじめ、不条理を強いられながら生きる人々の姿を追ってきた。生の人間と接し自らの行動と思考の変遷を記録しつつ、遺骨収集に取り組む2人の男性の言動を通して、歪んだ現代日本の社会構造を浮き彫りにする。「未来の人の明日をつくる」ためには何が必要なのかを提示。現地に赴き、自らの実体験から言葉を紡ぎ出した気鋭のジャーナリストの問題提起の書。
著者は上智大学卒、フォトジャーナリスト。著書に『国籍と遺書』(ヘウレーカ)。現在、TBSテレビ「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演。
◆伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か─脳の構造としくみから全体像を理解する』講談社ブルーバックス 5/22刊 1100円
なぜ「脳の機能低下」は起こるのか。それがどう病気につながるのか。記憶力が衰え、自分が誰かがわからなくなる「アルツハイマー型」。存在しない人や動物が、ありありと見える「レビー小体型」。歩行障害や言語障害が突然生じる「血管性」や、「記憶障害が目立たない」認知症も存在する。経験豊富な認知症サポート医が多様で複雑な病状を詳しく解説し、正確に理解するための必読書。
著者は1949年生まれ、認知症サポート医。現在、札幌市認知症医療推進協議会会長。著書に『脳からみた認知症』(講談社ブルーバックス)がある。
◆芝崎祐典『ベルリン・フィル─栄光と苦闘の150年史』中公新書 5/22刊 1050円
巨匠フルトヴェングラーや帝王カラヤンが歴代指揮者に名を連ね、世界最高峰のオーケストラと称されるベルリン・フィルハーモニー。1882年に創設され、ナチ政権下で地位を確立。敗戦後はソ連・アメリカに「利用」されつつも、幅広い柔軟な音楽性を築き、数々の名演を生んできた。なぜ世界中の人々を魅了し、権力中枢をも惹きつけたのか。150年の「裏面」ドイツ史に耳をすまし、社会にとって音楽とは何かを問う。
著者は1970年生まれ、東京大学文学部卒業。筑波大学准教授などを歴任。単著に『権力と音楽』(吉田書店)、共著に『政治と音楽』(晃洋書房)など。
◆茶畑保夫『独立警察監視機関』新日本出版社 5/29刊 2300円
市民を守るはずの警察が、なんと市民の人権を侵害し違法捜査を続ける。責任はとらず、被害者が深刻なダメージを負っても知らんぷり。本書は、警察による人権侵害の実例や冤罪を生みだす構造、海外の監視機関の実例をまじえ、独立警察監視機関を設ける必要性を訴えた貴重な一冊。
著者は元京都府参与。「福崎事件」を契機に、「独立警察監視機関」の研究に携わる。日本科学者会議会員。著書に『独立警察監視機関と公職選挙法』(2020年)。
◆黒田基樹『羽柴秀吉とその一族─秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書 5/7刊 1840円
「羽柴秀吉とその一族」.jpg 羽柴(豊臣)秀吉といえば歴史上の著名な人物。しかし父母や兄弟、親類の実態は、いまだ謎に包まれたまま。秀吉の父親はどのような職に就いていたのか。弟・秀長の妻子はどのような人物なのか。「秀吉政権」を把握するうえで不可欠な一族・親族の情報を徹底検証。通説が大きく書き改められるいま、秀吉の親族研究の到達点を示す。
著者は駿河台大学教授。著書に『戦国大名 政策・統治・戦争』(平凡社新書)、『百姓から見た戦国大名』(ちくま新書)など。
◆後藤秀典『ルポ 司法崩壊』地平社 5/12刊 1800円
国策に従順な「法の番人」最高裁の<罪と罰>を検証する。国も東京電力も原発事故の責任は問わず。政府に忖度する最高裁を始め、司法全体の劣化が進む。司法の独立が内側から崩れていく現状を報告。
著者は1964年生まれ、ジャーナリスト。著書に『東京電力の変節――最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(旬報社刊、貧困ジャーナリズム大賞、JCJ賞受賞)。
◆福間莞爾『貶められた司令塔 ─危機に立つ巨大組織農協(JA) 求められる新基軸』社会評論社 5/13刊 2300円
日本の農業は米の高騰・備蓄米の放出など、極めて脆弱な生産体制が露呈している。農協が組織発展に都合のよい信用・共済事業の拡大に重きを置き、生産を軽視してきたツケが回ってきた結果だ。今こそ農協本来の農業振興に全力を挙げるべきである。とくに生産段階にまで踏み込んだ農業経営への取り組みが迫られている。
著者は農業・農協問題評論家。全国農協中央会常務理事や「新世紀JA研究会」常任幹事を歴任。
◆渡邉大輔『ジブリの戦後−国民的スタジオの軌跡と想像力』中央公論新社 5/22刊 2100円
ジブリスタジオが6月に40周年を迎える。宮崎駿・高畑勲両監督、鈴木敏夫や宮崎吾朗などのキーパーソンの活動を追いながら、1980年代に誕生した「ジブリ」運動体のリアルな姿を生き生きと描く。ジブリは「戦後日本」における「大きな物語の完成と解体」を体現してきた。
著者は1982年生まれ。跡見学園女子大学准教授。専門は日本映画史・映像文化論・メディア論。著書に『新映画論』(ゲンロン)、『謎解きはどこにある』(南雲堂)がある。
◆安田菜津紀『遺骨と祈り』産業編集センター 5/22刊 1600円
パレスチナ訪問の2018年2月以来、この6年間に福島、沖縄をはじめ、不条理を強いられながら生きる人々の姿を追ってきた。生の人間と接し自らの行動と思考の変遷を記録しつつ、遺骨収集に取り組む2人の男性の言動を通して、歪んだ現代日本の社会構造を浮き彫りにする。「未来の人の明日をつくる」ためには何が必要なのかを提示。現地に赴き、自らの実体験から言葉を紡ぎ出した気鋭のジャーナリストの問題提起の書。
著者は上智大学卒、フォトジャーナリスト。著書に『国籍と遺書』(ヘウレーカ)。現在、TBSテレビ「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演。
◆伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か─脳の構造としくみから全体像を理解する』講談社ブルーバックス 5/22刊 1100円
なぜ「脳の機能低下」は起こるのか。それがどう病気につながるのか。記憶力が衰え、自分が誰かがわからなくなる「アルツハイマー型」。存在しない人や動物が、ありありと見える「レビー小体型」。歩行障害や言語障害が突然生じる「血管性」や、「記憶障害が目立たない」認知症も存在する。経験豊富な認知症サポート医が多様で複雑な病状を詳しく解説し、正確に理解するための必読書。
著者は1949年生まれ、認知症サポート医。現在、札幌市認知症医療推進協議会会長。著書に『脳からみた認知症』(講談社ブルーバックス)がある。
◆芝崎祐典『ベルリン・フィル─栄光と苦闘の150年史』中公新書 5/22刊 1050円
巨匠フルトヴェングラーや帝王カラヤンが歴代指揮者に名を連ね、世界最高峰のオーケストラと称されるベルリン・フィルハーモニー。1882年に創設され、ナチ政権下で地位を確立。敗戦後はソ連・アメリカに「利用」されつつも、幅広い柔軟な音楽性を築き、数々の名演を生んできた。なぜ世界中の人々を魅了し、権力中枢をも惹きつけたのか。150年の「裏面」ドイツ史に耳をすまし、社会にとって音楽とは何かを問う。
著者は1970年生まれ、東京大学文学部卒業。筑波大学准教授などを歴任。単著に『権力と音楽』(吉田書店)、共著に『政治と音楽』(晃洋書房)など。
◆茶畑保夫『独立警察監視機関』新日本出版社 5/29刊 2300円
市民を守るはずの警察が、なんと市民の人権を侵害し違法捜査を続ける。責任はとらず、被害者が深刻なダメージを負っても知らんぷり。本書は、警察による人権侵害の実例や冤罪を生みだす構造、海外の監視機関の実例をまじえ、独立警察監視機関を設ける必要性を訴えた貴重な一冊。
著者は元京都府参与。「福崎事件」を契機に、「独立警察監視機関」の研究に携わる。日本科学者会議会員。著書に『独立警察監視機関と公職選挙法』(2020年)。
2025年05月03日
【お知らせ】2025年 出版技術講座 受講生募集 主催:出版労連=出版部会
本づくりの基礎をみんなで学ぶ、毎回好評の連続講座。新人・若手の学びにも、経験者の学びにもおすすめ。オンライン受講(Zoom参加)も可能、ぜひ申し込みを。
■ 5月14日(水)〜6月25日(水)
■ 各回 18時30分〜20時40分
第1回 5月14日(水)「企画の立て方」浅井啓介氏(TAC出版) 白戸直人氏(中央公論新社)
第2回 5月21日(水)「著作権」浜野純夫氏(著作権情報センター)
第3回 5月28日(水)「本の制作」前田耕作氏(出版社製作部)
第4回 6月11日(水)「デザイン・レイアウト」藤本隆氏(ベネッセコーポレーション)
第5回 6月18日(水)「校正」松恭則氏(集英社)
第6回 6月25日(水)「本の売り方・情報発信」相澤穂理氏(Gakken)
★通し受講者限定のオンラインガイダンス:5月12日(月)18時30分〜(1時間程度)
■ 通し受講(会場+オンライン)と単発受講(オンラインのみ)の2種類。
■ 受講料
通し講座(全6回):出版労連組合員および過去の受講生=18,000円(それ以外=24,000円)
単発受講(1回あたり):出版労連組合員および過去の受講生=3,000円(それ以外=4,000円)
■ 申込締切
通し受講:5月14日(水)正午(オンラインガイダンス参加の場合は5月12日(月)正午)
単発受講:各講座当日正午まで
■ 募集人数 会場の定員 30人、全体で 80人(先着順、定員になり次第締切)
■ 主催 出版技術講座運営委員会(出版労連内)
■ 問い合わせ:s-kouza@syuppan.net 電話 03-3816-2911
■ 5月14日(水)〜6月25日(水)
■ 各回 18時30分〜20時40分
第1回 5月14日(水)「企画の立て方」浅井啓介氏(TAC出版) 白戸直人氏(中央公論新社)
第2回 5月21日(水)「著作権」浜野純夫氏(著作権情報センター)
第3回 5月28日(水)「本の制作」前田耕作氏(出版社製作部)
第4回 6月11日(水)「デザイン・レイアウト」藤本隆氏(ベネッセコーポレーション)
第5回 6月18日(水)「校正」松恭則氏(集英社)
第6回 6月25日(水)「本の売り方・情報発信」相澤穂理氏(Gakken)
★通し受講者限定のオンラインガイダンス:5月12日(月)18時30分〜(1時間程度)
■ 通し受講(会場+オンライン)と単発受講(オンラインのみ)の2種類。
■ 受講料
通し講座(全6回):出版労連組合員および過去の受講生=18,000円(それ以外=24,000円)
単発受講(1回あたり):出版労連組合員および過去の受講生=3,000円(それ以外=4,000円)
■ 申込締切
通し受講:5月14日(水)正午(オンラインガイダンス参加の場合は5月12日(月)正午)
単発受講:各講座当日正午まで
■ 募集人数 会場の定員 30人、全体で 80人(先着順、定員になり次第締切)
■ 主催 出版技術講座運営委員会(出版労連内)
■ 問い合わせ:s-kouza@syuppan.net 電話 03-3816-2911
2025年04月22日
【出版トピックス】4月─障害者への偏見と差別を防ぐには=出版部会
◆出版社倒産1.8倍
2024年度に発生した出版社の倒産は31件、前年度(17件)の約1.8倍となった。15年度以来9年ぶりに30件を上回り、20年度以降20件を下回る低水準が続いていたが、ここにきて増加し始めている。
ペーパレス化や電子書籍の普及、ネット専業メディアの台頭の影響を受け、雑誌の休刊・廃刊が相次ぐなど出版業界の事業環境は悪化の一途を辿っており、小規模事業者を中心に破綻が相次いだ。
紙やインクの価格が高騰し、製造コストが上昇。需要減のなか、わずかな利益で事業を続けている出版社が増えている。実際に出版社23年度の業績をみると、36.2%が「赤字」となり、減益を含めた「業績悪化」は6割を超えた。
◆休刊雑誌は89点
出版科学研究所が発表した24年の休刊雑誌は、ウェブに移行した「GINGER」(幻冬舎)などのファッション誌、さらに「月刊コミックバンチ」(新潮社)などのコミック誌に加え、「OHM」(オーム社)などの老舗専門誌が目立った。総計89点。今年に入っても「鉄道ジャーナル」が4/21発売の6月号で休刊、「じゃらん」(リクルート)が3月号で休刊と続く。
24年の創刊・復刊雑誌は27点。そのうち17点がアシェット・コレクションズ・ジャパンとデアゴスティーニ・ジャパンが刊行する週刊・隔週刊分冊百科が中心。昨年の雑誌総銘柄数は、前年比48点減の2341点。
◆メディアドゥ増収増益
メディアドゥは、25年2月期の連結決算を発表。売上高1019億1400万円(前年比8.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益13億6300万円(前年は3億1900万円の損失)で増収増益。
新5カ年中期経営計画では、事業概念を「MORE CONTENT FOR MORE PEOPLE!(ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人へ)」と英語化、海外へのコンテンツ提供を強化。
◆「magma books」開業
虎ノ門ヒルズ グラスロック(東京・港区)内に丸善ジュンク堂書店が「magma books」を開業。グラスロックは、地上4階、地下3階立ての施設で計7店舗から成る。
「magma books」は2階85坪、3階185坪で営業。書籍在庫数8万冊。「知的興奮と創造性を提供する」というコンセプトでの新業態書店。2階は「知の森」と称し「本と出会う」ための空間。過去・現在・未来のエリアに分かれ、各テーマに沿った本が並ぶ。
3階は一般書、雑誌、コミック、児童書などオールジャンルをそろえる書籍売り場。「ビジネスとコンピュータ」ジャンルに力を入れる。
そして、書籍売り場に隣接する「magma lounge」は有料コワーキングスペース。ニューロミュージックやOLED照明を採用した空間で、読書や作業に没入できるよう設計。集中できる空間で、新たな知や創造性に結びつけてもらうという。
◆本屋大賞・阿部暁子『カフネ』
一次投票には全国の488書店より書店員652人、二次投票では336書店・書店員441人もが投票。二次投票ではノミネート10作品をすべて読んだ上で、ベスト3を推薦理由とともに投票。その結果、阿部暁子『カフネ』(講談社)が受賞。
本書は一回り年の離れた二人の女性が「家事代行」を通して人々の心を救い、やがて互いにかけがえのない存在になっていく過程を描いた物語。タイトルにもある「カフネ」とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪を撫でる仕草。頭を撫でて眠りにつかせる穏やかな動作」のこと。
なお同賞2位は早見和真『アルプス席の母』(小学館)、3位は野アまど『小説』(講談社)。
翻訳小説部門1位にはR・ヤロス『フォ−ス・ウィング 第四騎竜団の戦姫』(早川書房)、発掘部門「超発掘本!」にはクラフト・エヴィング商會『ないもの、あります』(筑摩書房)が選ばれた。
◆神田裕子 新刊巡る問題
一般社団法人・日本自閉症協会は、4月18日、市川宏伸・会長名で神田裕子の『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)について、下記のような見解を表明した。全文を紹介しておきたい。
<4月22日発売の新刊「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」(三笠書房)は障害に対する誤解を生み、差別や偏見、分断を助長するものと判断します。このような本を、90年を超える歴史がある三笠書房が発刊されることは誠に残念です。
現在、この本は表紙と帯、および目次をネット上で見ることができますが、それでも差別や偏見を助長すると判断する理由は以下の通りです。
1. ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の発達障害を一方的に「困った人」として扱っていることは誤解を生みます。
2. 障害名を人のタイプに結び付けているために障害に対する誤解を生むとともに、表現されている特徴を有する人を障害者とする偏見をも生みます。
3. ASDの特徴として「異臭を放ってもおかまいなし」やADHDを「同僚の手柄を平気で横取り」など特異な事例をことさら強調しているため偏見につながります。
4. 結果としてASDやADHDの特性を有する人の尊厳を傷つけます。
大事なことは作者の差別意識の有無ではなく、本が当事者や職場、社会にどう影響するかです。
作者や出版社はそのことをよく考えていただきたい。
精神疾患などデリケートなテーマを扱う際に出版社は監修をいれたり、対象の人たちの受け止めを確かめるなど慎重な姿勢が求められます。
かかる書籍が、自閉スペクトラム症を含む障害のある人たちの人権を侵害するおそれがあることを懸念し、出版社が適切な対応をされることを期待します。
私たちは職場において、ASDやADHDの特性を有する人もそうではない人も分け隔てなく良好な関係ができるよう引き続き努力するものです。
以上>
※なお本書の装画を担当した芦野公平氏が16日、自身のnoteで謝罪した。理由はイラストで人物を「ナマケモノ」「サル」といった動物にたとえて表現したことが、「表象が示す危うさ」を感じつつも制作を進め、結果として「差別を助長する」などの点につき謝罪。
2024年度に発生した出版社の倒産は31件、前年度(17件)の約1.8倍となった。15年度以来9年ぶりに30件を上回り、20年度以降20件を下回る低水準が続いていたが、ここにきて増加し始めている。
ペーパレス化や電子書籍の普及、ネット専業メディアの台頭の影響を受け、雑誌の休刊・廃刊が相次ぐなど出版業界の事業環境は悪化の一途を辿っており、小規模事業者を中心に破綻が相次いだ。
紙やインクの価格が高騰し、製造コストが上昇。需要減のなか、わずかな利益で事業を続けている出版社が増えている。実際に出版社23年度の業績をみると、36.2%が「赤字」となり、減益を含めた「業績悪化」は6割を超えた。
◆休刊雑誌は89点
出版科学研究所が発表した24年の休刊雑誌は、ウェブに移行した「GINGER」(幻冬舎)などのファッション誌、さらに「月刊コミックバンチ」(新潮社)などのコミック誌に加え、「OHM」(オーム社)などの老舗専門誌が目立った。総計89点。今年に入っても「鉄道ジャーナル」が4/21発売の6月号で休刊、「じゃらん」(リクルート)が3月号で休刊と続く。
24年の創刊・復刊雑誌は27点。そのうち17点がアシェット・コレクションズ・ジャパンとデアゴスティーニ・ジャパンが刊行する週刊・隔週刊分冊百科が中心。昨年の雑誌総銘柄数は、前年比48点減の2341点。
◆メディアドゥ増収増益
メディアドゥは、25年2月期の連結決算を発表。売上高1019億1400万円(前年比8.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益13億6300万円(前年は3億1900万円の損失)で増収増益。
新5カ年中期経営計画では、事業概念を「MORE CONTENT FOR MORE PEOPLE!(ひとつでも多くのコンテンツをひとりでも多くの人へ)」と英語化、海外へのコンテンツ提供を強化。
◆「magma books」開業
虎ノ門ヒルズ グラスロック(東京・港区)内に丸善ジュンク堂書店が「magma books」を開業。グラスロックは、地上4階、地下3階立ての施設で計7店舗から成る。
「magma books」は2階85坪、3階185坪で営業。書籍在庫数8万冊。「知的興奮と創造性を提供する」というコンセプトでの新業態書店。2階は「知の森」と称し「本と出会う」ための空間。過去・現在・未来のエリアに分かれ、各テーマに沿った本が並ぶ。
3階は一般書、雑誌、コミック、児童書などオールジャンルをそろえる書籍売り場。「ビジネスとコンピュータ」ジャンルに力を入れる。
そして、書籍売り場に隣接する「magma lounge」は有料コワーキングスペース。ニューロミュージックやOLED照明を採用した空間で、読書や作業に没入できるよう設計。集中できる空間で、新たな知や創造性に結びつけてもらうという。
◆本屋大賞・阿部暁子『カフネ』
一次投票には全国の488書店より書店員652人、二次投票では336書店・書店員441人もが投票。二次投票ではノミネート10作品をすべて読んだ上で、ベスト3を推薦理由とともに投票。その結果、阿部暁子『カフネ』(講談社)が受賞。
本書は一回り年の離れた二人の女性が「家事代行」を通して人々の心を救い、やがて互いにかけがえのない存在になっていく過程を描いた物語。タイトルにもある「カフネ」とは、ポルトガル語で「愛しい人の髪を撫でる仕草。頭を撫でて眠りにつかせる穏やかな動作」のこと。
なお同賞2位は早見和真『アルプス席の母』(小学館)、3位は野アまど『小説』(講談社)。
翻訳小説部門1位にはR・ヤロス『フォ−ス・ウィング 第四騎竜団の戦姫』(早川書房)、発掘部門「超発掘本!」にはクラフト・エヴィング商會『ないもの、あります』(筑摩書房)が選ばれた。
◆神田裕子 新刊巡る問題
一般社団法人・日本自閉症協会は、4月18日、市川宏伸・会長名で神田裕子の『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』(三笠書房)について、下記のような見解を表明した。全文を紹介しておきたい。
<4月22日発売の新刊「職場の『困った人』をうまく動かす心理術」(三笠書房)は障害に対する誤解を生み、差別や偏見、分断を助長するものと判断します。このような本を、90年を超える歴史がある三笠書房が発刊されることは誠に残念です。
現在、この本は表紙と帯、および目次をネット上で見ることができますが、それでも差別や偏見を助長すると判断する理由は以下の通りです。
1. ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如多動症)の発達障害を一方的に「困った人」として扱っていることは誤解を生みます。
2. 障害名を人のタイプに結び付けているために障害に対する誤解を生むとともに、表現されている特徴を有する人を障害者とする偏見をも生みます。
3. ASDの特徴として「異臭を放ってもおかまいなし」やADHDを「同僚の手柄を平気で横取り」など特異な事例をことさら強調しているため偏見につながります。
4. 結果としてASDやADHDの特性を有する人の尊厳を傷つけます。
大事なことは作者の差別意識の有無ではなく、本が当事者や職場、社会にどう影響するかです。
作者や出版社はそのことをよく考えていただきたい。
精神疾患などデリケートなテーマを扱う際に出版社は監修をいれたり、対象の人たちの受け止めを確かめるなど慎重な姿勢が求められます。
かかる書籍が、自閉スペクトラム症を含む障害のある人たちの人権を侵害するおそれがあることを懸念し、出版社が適切な対応をされることを期待します。
私たちは職場において、ASDやADHDの特性を有する人もそうではない人も分け隔てなく良好な関係ができるよう引き続き努力するものです。
以上>
※なお本書の装画を担当した芦野公平氏が16日、自身のnoteで謝罪した。理由はイラストで人物を「ナマケモノ」「サル」といった動物にたとえて表現したことが、「表象が示す危うさ」を感じつつも制作を進め、結果として「差別を助長する」などの点につき謝罪。
2025年04月18日
【お知らせ】昨年JCJ賞受賞、後藤秀典氏が著書刊行『ルポ司法崩壊』出版記念シンポジウム 5月10日(土)14時から 日本教育会館第二会議室=橋詰雅博
国も東京電力も原発事故の責任なし? 国策に忠実に従い、政府に忖度する「法の番人」最高裁のもと、司法全体の劣化が進む。司法の独立が内側から崩れていく現状を報告。月刊誌『地平』の好評連載を書籍化。
著者の後藤秀典氏の挨拶文です
「4月下旬に、拙著『ルポ司法崩壊』が地平社から出版されることとなりました。この本は、月刊『地平』の創刊号から7回に渡り連載された記事に大幅に加筆したものです。原発関連訴訟を始め、辺野古新基地建設反対訴訟、建設アスベスト訴訟、「いのちのとりで」裁判(生活保護切下げ取消訴訟)など、国策とたたかう訴訟の現状を取り上げた内容です。
出版を記念して、シンポジウムを開催することとなりました。メインは、国策とたたかう最前線にいらっしゃる当事者、弁護士、元裁判官、学者によるリレートークです。これほご多くの方々が一堂に会し、お話しする機会は、きわめてまれなことだと思います。
ひとりでも多くの皆さまにお話を聞いていただければ幸いです。お忙しいこととは存じますが、ぜひ、ご参加ください」
2025年5月10日 13:30会場 14;00開演
日本教育会館第二会議室(アクセスhttps://www.jec.or.jp/access.html)
<発言予定>
岡本早苗 だまっちゃおれん!愛知・岐阜 原告団長
武藤類子 福島原発事故告訴団団長
今野秀則 津島訴訟原告団団長
伊東達也 いわき市民訴訟原告団団長
村田弘 かながわ訴訟原告団長・原発被害者訴訟原告団全国連絡会代表委員
小野寺利孝 福島原発被害弁護団・津島原発訴訟弁護団各共同代表
河合弘之 原発弁護団全国連絡会共同代表
海渡雄一 原発弁護団全国連絡会共同代表
田巻紘子 だまっちゃおれん!愛知・岐阜 弁護団事務局長
白井劍 津島訴訟弁護団事務局長
米倉勉 福島原発被害弁護団幹事長
南雲芳夫 生業訴訟弁護団幹事長
宮腰直子 裁判官弾劾訴追請求団
水口洋介 首都圏建設アスベスト訴訟弁護団共同代表
加藤裕 辺野古沖縄県訴訟沖縄県代理人
尾藤廣喜 いのちのとりで裁判全国アクション共同代表
小久保哲郎 いのちのとりで裁判全国アクション事務局長
竹内浩史 元・津地裁裁判長
大塚正之 元・東京高裁判事・津島原発訴訟弁護団各共同代表
樋口英明 元・福井地裁裁判長
関礼子 ノーモア原発公害市民連絡会代表世話人・立教大学教授
長島光一 帝京大学准教授
熊谷伸一郎 地平社代表
後藤秀典 著者
参加費無料
参加申し込みは x.gd/Jr8ml
問い合わせ先
後藤秀典
TEL:090-2665-4946
E-mail:rinodehi3012@gmail.com
地平社
TEL:03-6260-5480(代)
FAX:03-6260-5482
E-mail:info@chiheisha.co.jp
2025年03月26日
【出版トピックス】オーディオブックへの強い期待=出版部会
◆2月出版物売上げ前年比92.7%
2月期の売上げは、雑誌では「文藝春秋 3月号」や「小学一年生 4月号」、プロ野球の選手名鑑などが健闘したものの、すべてのジャンルで前年を下回った。
書籍も前年を下回るが、総記・ビジネス書・学参は1月期に引き続き前年超えとなった。ビジネス書では『改訂版 本当の自由を手に入れる お金の大学』が、学参では英検・TOEICの関連書が好調。コミックは、「転生したらスライムだった件 28」「ワールドトリガー 28」など人気作品が売上を伸ばしたが、前年には及ばない結果となった。
◆オーディオブック点数2千突破
小学館が制作・配信するオーディオブックの点数が、累計2000点を突破。2018年にオーディオブック事業を開始し、22年には「小学館 音声Project」を立ち上げて本格参入。文芸・新書・ライトノベル・児童書など幅広いジャンルを展開している。
「本屋大賞2025」の候補となった3点もオーディオブック化。早見和真『アルプス席の母』はすでに配信し、一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』と朝井リョウ『生殖記』は現在制作中。話題作も網羅していく。
オーディオブックの普及は、視覚・読字障害者への救済に役立つだけでなく、普通の人々にとっても、すきま時間を学習や娯楽に充てられるので、ニーズは急増している。今やオーディオブックの市場規模は260億円(2024年度)に達する。
◆護憲の「マガジン9」創刊20周年
「マガジン9」の前身の「マガジン9条」がネット上に誕生したのが、2005年3月1日。憲法9条や護憲の啓蒙運動を主旨とするウェブマガジン「マガジン9条」発足。
発起人は石坂啓(漫画家)、上原公子(前国立市長)、小山内美江子(脚本家)、姜尚中(東京大学教授)、きむらゆういち(絵本作家)、小室等(ミュージシャン)、斎藤駿(カタログハウス相談役)、佐高信(評論家)、椎名誠(作家)、毛利子来(小児科医)、森永卓郎(経済アナリスト)、吉岡忍(ノンフィクション作家)、渡辺一枝(作家)。
「護憲の旗」だけはきちんと掲げようと、「マガジン9条」と名づけた。世の中の流れに歯向かう小さな抵抗の拠点として、言わずにはいられないことを言う場。このプラットフォームを潰したくないの思いで続けてきた。5月31日、「マガジン9」の「創刊20周年記念イベント」を開催する予定(詳細は追って告知)。
◆「情プラ法」第三者削除要請が問題
総務省は、SNS上での誹謗中傷への対応を迅速化する「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)を一部改正し、4月1日に施行すると閣議決定。月間平均アクティブユーザー数が1000万を超える事業者は、ガイドラインに沿って具体的な投稿の削除基準を「できる限り具体的に」決めて公表し、削除要請を受けた日から「7日以内」に対応を決める。しかし第三者からの削除要請も受け付けるという内容が問題となっている。
◆東野圭吾『少年とクスノキ』刊行
実業之日本社から東野圭吾『少年とクスノキ』(本体1800円)が5月1日、刊行される。昨年5月に刊行し、20万部のベストセラーとなった、前作『クスノキの女神』の作中に登場していた少年の願いを、東野氏が新たな1つの物語として仕上げた。絵は画家としても活動する、よしだるみ氏が担当。この初の子ども向け絵本について、今年、作家生活40周年を迎える東野氏は「主人公はあなたかもしれません。楽しんでいただけたら幸いです」とのコメントを寄せている。
2月期の売上げは、雑誌では「文藝春秋 3月号」や「小学一年生 4月号」、プロ野球の選手名鑑などが健闘したものの、すべてのジャンルで前年を下回った。
書籍も前年を下回るが、総記・ビジネス書・学参は1月期に引き続き前年超えとなった。ビジネス書では『改訂版 本当の自由を手に入れる お金の大学』が、学参では英検・TOEICの関連書が好調。コミックは、「転生したらスライムだった件 28」「ワールドトリガー 28」など人気作品が売上を伸ばしたが、前年には及ばない結果となった。
◆オーディオブック点数2千突破
小学館が制作・配信するオーディオブックの点数が、累計2000点を突破。2018年にオーディオブック事業を開始し、22年には「小学館 音声Project」を立ち上げて本格参入。文芸・新書・ライトノベル・児童書など幅広いジャンルを展開している。
「本屋大賞2025」の候補となった3点もオーディオブック化。早見和真『アルプス席の母』はすでに配信し、一穂ミチ『恋とか愛とかやさしさなら』と朝井リョウ『生殖記』は現在制作中。話題作も網羅していく。
オーディオブックの普及は、視覚・読字障害者への救済に役立つだけでなく、普通の人々にとっても、すきま時間を学習や娯楽に充てられるので、ニーズは急増している。今やオーディオブックの市場規模は260億円(2024年度)に達する。
◆護憲の「マガジン9」創刊20周年
「マガジン9」の前身の「マガジン9条」がネット上に誕生したのが、2005年3月1日。憲法9条や護憲の啓蒙運動を主旨とするウェブマガジン「マガジン9条」発足。
発起人は石坂啓(漫画家)、上原公子(前国立市長)、小山内美江子(脚本家)、姜尚中(東京大学教授)、きむらゆういち(絵本作家)、小室等(ミュージシャン)、斎藤駿(カタログハウス相談役)、佐高信(評論家)、椎名誠(作家)、毛利子来(小児科医)、森永卓郎(経済アナリスト)、吉岡忍(ノンフィクション作家)、渡辺一枝(作家)。
「護憲の旗」だけはきちんと掲げようと、「マガジン9条」と名づけた。世の中の流れに歯向かう小さな抵抗の拠点として、言わずにはいられないことを言う場。このプラットフォームを潰したくないの思いで続けてきた。5月31日、「マガジン9」の「創刊20周年記念イベント」を開催する予定(詳細は追って告知)。
◆「情プラ法」第三者削除要請が問題
総務省は、SNS上での誹謗中傷への対応を迅速化する「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)を一部改正し、4月1日に施行すると閣議決定。月間平均アクティブユーザー数が1000万を超える事業者は、ガイドラインに沿って具体的な投稿の削除基準を「できる限り具体的に」決めて公表し、削除要請を受けた日から「7日以内」に対応を決める。しかし第三者からの削除要請も受け付けるという内容が問題となっている。
◆東野圭吾『少年とクスノキ』刊行
実業之日本社から東野圭吾『少年とクスノキ』(本体1800円)が5月1日、刊行される。昨年5月に刊行し、20万部のベストセラーとなった、前作『クスノキの女神』の作中に登場していた少年の願いを、東野氏が新たな1つの物語として仕上げた。絵は画家としても活動する、よしだるみ氏が担当。この初の子ども向け絵本について、今年、作家生活40周年を迎える東野氏は「主人公はあなたかもしれません。楽しんでいただけたら幸いです」とのコメントを寄せている。
2025年03月17日
【お知らせ】世田谷区史編さん争議解決報告集会(リアル・オンライン参加併用)4月5日(土)14時半から16時半 エデュカス東京地階会議室=出版部会
本年1月7日、世田谷区史編さんをめぐる争議が解決しました。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
今回の解決では、和解文書に「著作者人格権の尊重」が明記された点に最大の意義があります。全国の自治体史にかかわる人々、歴史研究者はもとより、フリーランス・クリエーターの権利にも大きな影響を与える内容です。この闘いの意義について、皆様と共有したいと思います。
下記の要領で解決報告集会を開きますので、お誘いあわせの上、ご参加ください。(オンライン+リアル:どちらもお申し込みが必要です)
■日時:4月5日(土)14時開場
■場所:全国教育文化会館エデュカス東京地階会議室(千代田区二番町12-1/地学会館の隣) 最寄り駅は、JR市ヶ谷駅、地下鉄麹町駅
■参加費:1000円(リアル、オンライン参加とも)
■共催:出版ネッツ、世田谷区史のあり方について考える区民の会
■お申し込み
・オンライン参加 https://nets-setagaya.peatix.com/view
・リアル参加 https://forms.gle/qNRy3FxRdTipmoRp8
※申し込み締め切り:3月28日(金)18時
※リアル参加では、二次会の申し込みも受け付けます(参加費は別途当日徴収)
争議の経過についてはブログ御所巻に掲載 https://setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com/
今回の解決では、和解文書に「著作者人格権の尊重」が明記された点に最大の意義があります。全国の自治体史にかかわる人々、歴史研究者はもとより、フリーランス・クリエーターの権利にも大きな影響を与える内容です。この闘いの意義について、皆様と共有したいと思います。
下記の要領で解決報告集会を開きますので、お誘いあわせの上、ご参加ください。(オンライン+リアル:どちらもお申し込みが必要です)
■日時:4月5日(土)14時開場
■場所:全国教育文化会館エデュカス東京地階会議室(千代田区二番町12-1/地学会館の隣) 最寄り駅は、JR市ヶ谷駅、地下鉄麹町駅
■参加費:1000円(リアル、オンライン参加とも)
■共催:出版ネッツ、世田谷区史のあり方について考える区民の会
■お申し込み
・オンライン参加 https://nets-setagaya.peatix.com/view
・リアル参加 https://forms.gle/qNRy3FxRdTipmoRp8
※申し込み締め切り:3月28日(金)18時
※リアル参加では、二次会の申し込みも受け付けます(参加費は別途当日徴収)
争議の経過についてはブログ御所巻に掲載 https://setagayakushi-chosakuken.hatenablog.com/
2025年03月14日
【Bookガイド】3月の“推し本”=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆鈴木エイト『統一教会との格闘、22年』角川新書 3/10刊 1040円
なぜ22年間、一人で追い続けられたのか。2002年、街頭で偽装勧誘活動を偶然、目撃したのをきっかけに、統一教会とかかわるようになった著者。さまざまな嫌がらせ、脅迫、圧力を受けながらも、世間に衝撃を与えた組織の実態を追究し、メディアや多くの人々に訴えてきた貴重な記録である。
著者は1968年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。著書『自民党の統一教会汚染』(小学館)でJCJ大賞を受賞。
◆藍原寛子『フクシマ、能登、そしてこれから─震災後を生きる13人の物語』婦人之友社 3/11刊 1500円
災害大国で生きる全ての人へ届けたい。東日本大震災から14年、能登半島地震から1年。それぞれが語る被災体験の貴重な内容は、命と生活を守るための「痛みを伴う教訓」である。内外の被災地を歩く福島在住の国際ジャーナリストが贈る待望のルポ。著者は福島県生まれ。福島民友新聞記者を経てJapan Perspective Newsを設立。阪神・淡路大震災、東日本大震災で支援、取材活動を重ね、能登半島地震では直後から被災地に通い、被災者の様子を伝えた。日本外国特派員協会の2024年報道の自由賞受賞。
◆椎名 誠『哀愁の町に何が降るというのだ。』本の雑誌社 3/12刊 1800円
装いも新たに『哀愁の町』のメンバーが登場! 新設の荒くれ高校での沢野ひとしとの出会いから、同級生たちとの椿事の数々、瀕死の重傷を負った交通事故での入院、年上人妻との初体験、克美荘での共同生活、そして新生活への旅立ちまで、44 年後の目線で、これまで書けなかったエピソードを中心に、昭和の若者の日々を描き直した傑作。哀感と追憶、入り混じるヒューマンな筆致が心を揺さぶる。
著者は1944年、東京生れ。「本の雑誌」編集長を経て、旅と食の写真エッセイと著書多数。
◆河崎秋子『父が牛飼いになった理由』集英社新書 3/17刊 1000円
『ともぐい』で直木賞を受賞した著者は、10年にわたって自然や動物と対峙する作品を書き続けきた。実家は父・崇が「脱サラ」し開業した<河ア牧場>。なぜ、父は牧場経営を始めたのか。その謎を辿るため戦国時代からの家系図を遡る。金沢で武士だった先祖、満洲で薬剤師をしていた祖父、満洲から大阪、そして北海道へと移り住んだ父、そして牧場経営の苦労を背負った祖母と母……。
400年以上に及ぶファミリーヒストリーが、20世紀の日本と戦後の北海道の酪農史へと繋がっていくノンフィクション。
◆笹田昌宏『鉄道「幻」巡礼』イカロス出版 3/18刊 2000円
ヒグマに怯えながら北海道の山中で捉えた未開業のコンクリート橋梁、都会の真ん中で切れ切れの姿となった貨物高架橋、戦時中に蒸気機関車を隠すために掘られた機関車避難壕、一般客は乗れなかった「幻」の寝台客車の特別潜入回想、そして一度は完成しながら解体されて姿を消した九州の連続高架橋…。日本全国に散在する「幻」の鉄道、そのリアルな姿を実踏に基づいて解き明かす。
著者は1971年、大阪府生まれ。医師。作家。第10回旅のノンフィクション大賞受賞。著書に『廃駅。』『日本の保存車100 感動編』など。
◆後藤正治『文品−藤沢周平への旅』中央公論新社 3/24刊 2300円
あの「静謐な物語と文体が体内の深い部分に触れてくる感触である。空洞をふさいでくれる…折もあった。癒されていたのかもしれない」と、著者は言う。歳月が持つ哀しみ、自分なりの小さな矜持、人生への情熱、権力の抗しがたい美味と虚しさ。時代小説を舞台に、静謐な文体で人の世の「普遍」を描き続けた作家・藤沢周平。ノンフィクションの名手が、その人と作品の魅力に迫る。
著者は1946年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。『遠いリング』で講談社ノンフィクション賞、他に『奇蹟の画家』など。
◆小林美穂子+小松田健一『桐生市事件─生活保護が歪められた街で』地平社 3/28刊 1800円
生活保護を受給する人数が10年で半減の桐生市。そこで何が起きていたのか。保護費を毎日1000円だけ手渡し、残りは金庫にしまうなど、信じがたい運用が発覚した。桐生市の生活保護行政の暗部を暴く。助けを求める市民を威圧し、支給を徹底的に削る姿勢が、次第に明らかになっていく。支援と取材の現場から迫ったルポルタージュ。
著者の女性は、群馬県出身、生活困窮者の居場所「カフェ潮の路」主宰。共著者は東京新聞前橋支局長を経て出版部在籍。24年6月に「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」受賞。
◆鈴木エイト『統一教会との格闘、22年』角川新書 3/10刊 1040円
なぜ22年間、一人で追い続けられたのか。2002年、街頭で偽装勧誘活動を偶然、目撃したのをきっかけに、統一教会とかかわるようになった著者。さまざまな嫌がらせ、脅迫、圧力を受けながらも、世間に衝撃を与えた組織の実態を追究し、メディアや多くの人々に訴えてきた貴重な記録である。
著者は1968年、滋賀県生まれ。ジャーナリスト。著書『自民党の統一教会汚染』(小学館)でJCJ大賞を受賞。
◆藍原寛子『フクシマ、能登、そしてこれから─震災後を生きる13人の物語』婦人之友社 3/11刊 1500円
災害大国で生きる全ての人へ届けたい。東日本大震災から14年、能登半島地震から1年。それぞれが語る被災体験の貴重な内容は、命と生活を守るための「痛みを伴う教訓」である。内外の被災地を歩く福島在住の国際ジャーナリストが贈る待望のルポ。著者は福島県生まれ。福島民友新聞記者を経てJapan Perspective Newsを設立。阪神・淡路大震災、東日本大震災で支援、取材活動を重ね、能登半島地震では直後から被災地に通い、被災者の様子を伝えた。日本外国特派員協会の2024年報道の自由賞受賞。
◆椎名 誠『哀愁の町に何が降るというのだ。』本の雑誌社 3/12刊 1800円
装いも新たに『哀愁の町』のメンバーが登場! 新設の荒くれ高校での沢野ひとしとの出会いから、同級生たちとの椿事の数々、瀕死の重傷を負った交通事故での入院、年上人妻との初体験、克美荘での共同生活、そして新生活への旅立ちまで、44 年後の目線で、これまで書けなかったエピソードを中心に、昭和の若者の日々を描き直した傑作。哀感と追憶、入り混じるヒューマンな筆致が心を揺さぶる。
著者は1944年、東京生れ。「本の雑誌」編集長を経て、旅と食の写真エッセイと著書多数。
◆河崎秋子『父が牛飼いになった理由』集英社新書 3/17刊 1000円
『ともぐい』で直木賞を受賞した著者は、10年にわたって自然や動物と対峙する作品を書き続けきた。実家は父・崇が「脱サラ」し開業した<河ア牧場>。なぜ、父は牧場経営を始めたのか。その謎を辿るため戦国時代からの家系図を遡る。金沢で武士だった先祖、満洲で薬剤師をしていた祖父、満洲から大阪、そして北海道へと移り住んだ父、そして牧場経営の苦労を背負った祖母と母……。
400年以上に及ぶファミリーヒストリーが、20世紀の日本と戦後の北海道の酪農史へと繋がっていくノンフィクション。
◆笹田昌宏『鉄道「幻」巡礼』イカロス出版 3/18刊 2000円
ヒグマに怯えながら北海道の山中で捉えた未開業のコンクリート橋梁、都会の真ん中で切れ切れの姿となった貨物高架橋、戦時中に蒸気機関車を隠すために掘られた機関車避難壕、一般客は乗れなかった「幻」の寝台客車の特別潜入回想、そして一度は完成しながら解体されて姿を消した九州の連続高架橋…。日本全国に散在する「幻」の鉄道、そのリアルな姿を実踏に基づいて解き明かす。
著者は1971年、大阪府生まれ。医師。作家。第10回旅のノンフィクション大賞受賞。著書に『廃駅。』『日本の保存車100 感動編』など。
◆後藤正治『文品−藤沢周平への旅』中央公論新社 3/24刊 2300円
あの「静謐な物語と文体が体内の深い部分に触れてくる感触である。空洞をふさいでくれる…折もあった。癒されていたのかもしれない」と、著者は言う。歳月が持つ哀しみ、自分なりの小さな矜持、人生への情熱、権力の抗しがたい美味と虚しさ。時代小説を舞台に、静謐な文体で人の世の「普遍」を描き続けた作家・藤沢周平。ノンフィクションの名手が、その人と作品の魅力に迫る。
著者は1946年、京都市生まれ。ノンフィクション作家。『遠いリング』で講談社ノンフィクション賞、他に『奇蹟の画家』など。
◆小林美穂子+小松田健一『桐生市事件─生活保護が歪められた街で』地平社 3/28刊 1800円
生活保護を受給する人数が10年で半減の桐生市。そこで何が起きていたのか。保護費を毎日1000円だけ手渡し、残りは金庫にしまうなど、信じがたい運用が発覚した。桐生市の生活保護行政の暗部を暴く。助けを求める市民を威圧し、支給を徹底的に削る姿勢が、次第に明らかになっていく。支援と取材の現場から迫ったルポルタージュ。
著者の女性は、群馬県出身、生活困窮者の居場所「カフェ潮の路」主宰。共著者は東京新聞前橋支局長を経て出版部在籍。24年6月に「地域・民衆ジャーナリズム賞2024」受賞。
2025年03月01日
【出版トピックス】コミック市場好調、フリーランス春闘宣言=出版部会
◆24年コミック市場7043億
出版科学研究所の発表によると、標記の金額は電子コミックが牽引し、1・5%増と7年連続のプラス成長となった。内訳は、紙のコミックス1472億円(同8.6%減)、紙のコミック誌が449億円(同9.7%減)、この2部門を合わせた推定販売金額が1921億円(同8.8%減)となる。3年連続の大幅マイナス。
一方、電子コミックは5122億円(同6.0%増)で、コミック市場での占有率は72.7%となる。コロナ禍前の19年からは、ほぼ倍増している。電子書店の積極的な広告出稿やキャンペーンが功を奏しているといわれる。映像化作品だけでなく、独占先行配信・ストアオリジナル作品などが牽引している。
なお、同研究所による紙のコミック推定販売金額は取次ルートのみであり、近年増加している出版社と書店の直接取引や出版社による直接販売は含まれていない。また、電子コミックの市場推計は定額読み放題を含む「読者が支払った金額の推計」で、広告収入や電子図書館向けは含まれない。
◆遠隔複写サービス開始
料金は、資料の種類や複写方法別に規定した「複写物の作成に要する費用」と、図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)ホームページで公開されている「図書館等公衆送信補償金規程」に規定された「著作権者に支払う補償金に相当する額」を合算したもの。
SARLIBは1月22日、図書館等公衆送信サービスを実施する「特定図書館」の登録受付を開始。2月13日現在、国立国会図書館や大学図書館など約10館が登録されている。
費用の見積もりが画面上に表示され、本体価格3200円の本を15ページPDFダウンロードで複写してもらうと、推定金額が2700〜3509円と出るそうです。郵送受取の額も同時に表示され、その場で郵送に切り替えることも可能。
◆講談社は減収減益
売上高1710億3800万円(前年比0.6%減)。営業利益108億円(同24.6%減)、経常利益143億円(同16.3%減)、当期純利益93億7000万円(同17.9%減)。9年ぶりに減収減益に。
マンガで累計4000万部の「ブルーロック」や「WIND BREAKER」など、映像化作品が好調だったものの、マンガ「東京卍リベンジャーズ」の好調が続いた前期に比べれば売上高が減ったほか、紙など原材料費や輸送費の負担に加え、グローバル戦略を見据えた海外への投資がかさんだ。
役員人事では、金丸徳雄、古川公平、白石光行の3氏が退任。金丸氏は最高顧問、古川氏と白石氏が顧問に就いた。新任はなし。機構改編については、役員直轄業務改革部を社長室に移管した。
◆新聞発行部数減少続く
新聞のABC部数(2024年12月度)が明らかになった。各社とも部数減に歯止めがかからない。この1年間で朝日新聞は約20万部、読売新聞は約37万部も減らした。中央紙のABC部数は次の通り。
朝日新聞:3,309,247(-200,134)
毎日新聞:1,349,731(-245,738)
読売新聞:5,697,385(-365,748)
日経新聞:1,338,314(-70,833)
産経新聞: 822,272(-63,548)
なおABC部数には、「押し紙」(販促用の部数)が含まれているので、新聞販売店が実際に配達している部数とは異なる。新聞社によって「押し紙」の割合は異なるが、おおよそ販売店に搬入される新聞の3割ほどが「押し紙」といわれるである。従って実際の配達部数は、ABC部数よりも遥かに少ないと推測される。
◆10%増額要求へ
コンテンツ産業を支える創作活動の従事者からすべてのみなさんへ
紙と電子とを問わず、文字、ビジュアル情報に日々接する読者、ユーザーのみなさん、そしてそれを創り出す仕事に勤しんでいるみなさん、表現の現場で働くみなさん、業界のみなさん、経営者のみなさん、すべてのみなさんに訴えます。
私たち出版ネッツは、成果物の正当な対価がフリーランスにも還元される春闘をと、22年以来、フリーランスの春闘宣言を発し、前世紀からずっと据え置かれたままの報酬の、10%アップに取り組んでいます。
この業界に働く、私たちのようなフリーランスの編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、校正者だけでなく、著名な作家、文筆家、ジャーナリスト、脚本家など、技術を伴う創作活動の従事者、文字情報作成従事者、クリエーターの多くが、紙とデジタルとを問わず、実に低廉な報酬、前世紀から据え置かれた報酬で仕事をしています。3日間かかる仕事が2万円、またはそれ以下では、生活していけません。
出版社、コンテンツ・プロバイダー、取次、書店だけが産業ではありません。産業の要請によって輩出され、業界をかたち作っているフリーランスは、コンテンツ産業そのものでもあります。このクリエイティブワークが、替えのきく仕事として軽んじられる業界のままでは、次世代への継承もままなりません。仕事をして生活するという、労働者としての当たり前の循環が危機に瀕しています。創造の源泉である報酬の充実は、どうしても必要です。
「安い日本」という呪縛から抜け出せていない経済に、毎年数%ずつ上昇する物価高騰が追い打ちをかけ、一昨年から始まったインボイス制度が混乱をもたらしています。インボイス制度によって、大半のフリーランスは減収となり、膨大な事務負担に直面しています。誰も得をしない、誰も幸せにしない制度です。
昨年11月、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。462万人と言われるフリーランスを、取引適正化で保護しようというものですが、生身の働き手である私たちは、さらに労働法制による保護を求めるものです。
出版産業がコンテンツ・ビジネスへと変容を遂げていく産業状況にあっても、文字情報、ビジュアル情報は、商品であると同時に、文化的で普遍的な価値を持つものです。一方で、何年も何十年もフリーランスの報酬が据え置かれ、クリエイティブワークをコストと見立て、安さにのみ価値を見出すような、働き手を尊ばない産業は必ず衰退します。
この春闘=春季生活闘争の期間を通じて、多くの企業が賃金アップを実施します。急速な人口減、粘着する人手不足、人材流出の危機感から、政府、財界までもが賃上げに取り組む今、フリーランスを含めたすべての働く者の報酬アップは社会的課題と言えるのではないでしょうか。
創造の成果を世に問い、知的生産に向き合う、すべてのみなさんに改めて訴えます。フリーランスの報酬を、10%増額してください。雇用労働者だけでなく、フリーランスにも生活給を保障してください。
フリーランサーは、この宣言を仕事先に示して報酬アップを交渉して下さい。69年目を迎える春闘の果実が、フリーランスにも届く春となることを、すべてのみなさんに訴えます。
出版科学研究所の発表によると、標記の金額は電子コミックが牽引し、1・5%増と7年連続のプラス成長となった。内訳は、紙のコミックス1472億円(同8.6%減)、紙のコミック誌が449億円(同9.7%減)、この2部門を合わせた推定販売金額が1921億円(同8.8%減)となる。3年連続の大幅マイナス。
一方、電子コミックは5122億円(同6.0%増)で、コミック市場での占有率は72.7%となる。コロナ禍前の19年からは、ほぼ倍増している。電子書店の積極的な広告出稿やキャンペーンが功を奏しているといわれる。映像化作品だけでなく、独占先行配信・ストアオリジナル作品などが牽引している。
なお、同研究所による紙のコミック推定販売金額は取次ルートのみであり、近年増加している出版社と書店の直接取引や出版社による直接販売は含まれていない。また、電子コミックの市場推計は定額読み放題を含む「読者が支払った金額の推計」で、広告収入や電子図書館向けは含まれない。
◆遠隔複写サービス開始
料金は、資料の種類や複写方法別に規定した「複写物の作成に要する費用」と、図書館等公衆送信補償金管理協会(SARLIB)ホームページで公開されている「図書館等公衆送信補償金規程」に規定された「著作権者に支払う補償金に相当する額」を合算したもの。
SARLIBは1月22日、図書館等公衆送信サービスを実施する「特定図書館」の登録受付を開始。2月13日現在、国立国会図書館や大学図書館など約10館が登録されている。
費用の見積もりが画面上に表示され、本体価格3200円の本を15ページPDFダウンロードで複写してもらうと、推定金額が2700〜3509円と出るそうです。郵送受取の額も同時に表示され、その場で郵送に切り替えることも可能。
◆講談社は減収減益
売上高1710億3800万円(前年比0.6%減)。営業利益108億円(同24.6%減)、経常利益143億円(同16.3%減)、当期純利益93億7000万円(同17.9%減)。9年ぶりに減収減益に。
マンガで累計4000万部の「ブルーロック」や「WIND BREAKER」など、映像化作品が好調だったものの、マンガ「東京卍リベンジャーズ」の好調が続いた前期に比べれば売上高が減ったほか、紙など原材料費や輸送費の負担に加え、グローバル戦略を見据えた海外への投資がかさんだ。
役員人事では、金丸徳雄、古川公平、白石光行の3氏が退任。金丸氏は最高顧問、古川氏と白石氏が顧問に就いた。新任はなし。機構改編については、役員直轄業務改革部を社長室に移管した。
◆新聞発行部数減少続く
新聞のABC部数(2024年12月度)が明らかになった。各社とも部数減に歯止めがかからない。この1年間で朝日新聞は約20万部、読売新聞は約37万部も減らした。中央紙のABC部数は次の通り。
朝日新聞:3,309,247(-200,134)
毎日新聞:1,349,731(-245,738)
読売新聞:5,697,385(-365,748)
日経新聞:1,338,314(-70,833)
産経新聞: 822,272(-63,548)
なおABC部数には、「押し紙」(販促用の部数)が含まれているので、新聞販売店が実際に配達している部数とは異なる。新聞社によって「押し紙」の割合は異なるが、おおよそ販売店に搬入される新聞の3割ほどが「押し紙」といわれるである。従って実際の配達部数は、ABC部数よりも遥かに少ないと推測される。
◆10%増額要求へ
コンテンツ産業を支える創作活動の従事者からすべてのみなさんへ
紙と電子とを問わず、文字、ビジュアル情報に日々接する読者、ユーザーのみなさん、そしてそれを創り出す仕事に勤しんでいるみなさん、表現の現場で働くみなさん、業界のみなさん、経営者のみなさん、すべてのみなさんに訴えます。
私たち出版ネッツは、成果物の正当な対価がフリーランスにも還元される春闘をと、22年以来、フリーランスの春闘宣言を発し、前世紀からずっと据え置かれたままの報酬の、10%アップに取り組んでいます。
この業界に働く、私たちのようなフリーランスの編集者、ライター、カメラマン、デザイナー、イラストレーター、校正者だけでなく、著名な作家、文筆家、ジャーナリスト、脚本家など、技術を伴う創作活動の従事者、文字情報作成従事者、クリエーターの多くが、紙とデジタルとを問わず、実に低廉な報酬、前世紀から据え置かれた報酬で仕事をしています。3日間かかる仕事が2万円、またはそれ以下では、生活していけません。
出版社、コンテンツ・プロバイダー、取次、書店だけが産業ではありません。産業の要請によって輩出され、業界をかたち作っているフリーランスは、コンテンツ産業そのものでもあります。このクリエイティブワークが、替えのきく仕事として軽んじられる業界のままでは、次世代への継承もままなりません。仕事をして生活するという、労働者としての当たり前の循環が危機に瀕しています。創造の源泉である報酬の充実は、どうしても必要です。
「安い日本」という呪縛から抜け出せていない経済に、毎年数%ずつ上昇する物価高騰が追い打ちをかけ、一昨年から始まったインボイス制度が混乱をもたらしています。インボイス制度によって、大半のフリーランスは減収となり、膨大な事務負担に直面しています。誰も得をしない、誰も幸せにしない制度です。
昨年11月、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が施行されました。462万人と言われるフリーランスを、取引適正化で保護しようというものですが、生身の働き手である私たちは、さらに労働法制による保護を求めるものです。
出版産業がコンテンツ・ビジネスへと変容を遂げていく産業状況にあっても、文字情報、ビジュアル情報は、商品であると同時に、文化的で普遍的な価値を持つものです。一方で、何年も何十年もフリーランスの報酬が据え置かれ、クリエイティブワークをコストと見立て、安さにのみ価値を見出すような、働き手を尊ばない産業は必ず衰退します。
この春闘=春季生活闘争の期間を通じて、多くの企業が賃金アップを実施します。急速な人口減、粘着する人手不足、人材流出の危機感から、政府、財界までもが賃上げに取り組む今、フリーランスを含めたすべての働く者の報酬アップは社会的課題と言えるのではないでしょうか。
創造の成果を世に問い、知的生産に向き合う、すべてのみなさんに改めて訴えます。フリーランスの報酬を、10%増額してください。雇用労働者だけでなく、フリーランスにも生活給を保障してください。
フリーランサーは、この宣言を仕事先に示して報酬アップを交渉して下さい。69年目を迎える春闘の果実が、フリーランスにも届く春となることを、すべてのみなさんに訴えます。
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
2025年02月20日
【出版界の動き】2月:書店の活性化に向けた多様な取り組み=出版部会
◆アマゾン日本売上高は約4.1兆
2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)
◆読売・講談社共同提言
読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。
◆扶桑社が早期退職募集!
フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。
◆「狐弾亭」立川市に開業
トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。
◆「大阪ほんま本大賞」の成果
地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。
◆月刊誌「母の友」最終号
福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。
◆「パレスチナ」書名本押収
イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)
◆読売・講談社共同提言
読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。
◆扶桑社が早期退職募集!
フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。
◆「狐弾亭」立川市に開業
トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。
◆「大阪ほんま本大賞」の成果
地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。
◆月刊誌「母の友」最終号
福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。
◆「パレスチナ」書名本押収
イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
2025年02月13日
【Bookガイド】2月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
2025年02月05日
【出版トピックス】フリー編集者 本屋を4月にオープン!=出版部会
◆出版物販売額1兆5716億
2024年の出版物(紙+電子)販売額は1兆5,716億円(前年比1.5%減)となった。紙の出版物の販売金額は1兆56億円(同5.2%減)。内訳は書籍5,937億円(同4.2%減)、雑誌4,119億円(同6.8%減)。
電子出版は5,660億円(同5.8%増)、内訳は電子コミック5,122億円(6.0%増)、電子書籍452 億円(同 2.7%増)、電子雑誌86億円(同6.2%増)。電子コミックは、コロナ禍前の19年から5年間で倍増となった。
◆文春砲記事の一部修正
文春オンラインに掲載された「週刊文春」編集部のコメントによると、訂正されたのは、昨年12月26日発売号の記事で、「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていたが、その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の‟延長”と認識していた」ということが判明したとしている。
「週刊文春」編集部は次のようにコメントしている。
<これまで報じたように、事件直前A氏はX子さんを中居氏宅でのバーベキューに連れて行くなどしています。またX子さんも小誌の取材に対して、『(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません』と証言しています。以上の経緯からA氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています>
◆二足のわらじ履く
岩下結(フリー編集者)さんが、19年間も勤めた出版社を昨年秋に退職し、今年4月に京王線南平駅前(東京都日野市)に本屋+カフェ「よりまし堂」を開業する。
その開業に向けた奮闘ぶりを「マガジン9」に、<編集者だけど本屋になってみた日記>というタイトルで、連載している。https://maga9.jp/250115-3/ をクリックして読んでみてほしい。第1回目のさわりを下記に紹介する。
<本の書き手、出版社、書店、取次、読者――みんなが今の構造に限界を感じ、別のあり方を求めているのではないか。一冊一冊がきちんと評価され、大切に読まれる環境はどうしたらつくれるのか……。「編集者でありながら本屋もやる」という二足のわらじを履くことになった身として、この仮説を実証実験するようなつもりで、この連載で本屋開業のプロセスをご報告していきたいと思います。出版や書店に関わる人だけでなく、本が好きな人、自分の地元にも面白い本屋があったらいいなと思う人、みなさんの参考になれば幸いです。>
開業資金をクラウドフアンディングで集めているが、なんと開始から1カ月で目標金額の150万円を達成。さらにネクストゴール200万円を目指す。
協力を申し出る方は、https://readyfor.jp/projects/yorimashi へアクセスを。
◆ICタグで本の在庫管理
講談社、集英社、小学館、丸紅が出資するパブテックスは、書店の在庫をICタグで管理するサービスを始めた。棚に専用のリーダーをかざせば店内の本の在庫が把握でき、棚卸し作業が大幅に短縮できる。今年中に書店100店への導入を目指し、将来は書籍流通の効率化も見込む。
出版社が費用を負担し、本にシールやしおり型の無線自動識別(RFID)タグを取り付け、情報を一括管理するICタグの実証実験を行ったところ、参加店舗では3万冊以上の棚卸しが2人で20分のうちに終わった。ICタグの活用により、店舗ごとの売り上げを通して出荷数量の調節、返品減が見込める。防犯ゲートと合わせて使えば、万引き対策にもなる。
◆雑誌販売3月以降に終了
ローソンは3月以降、国内の一部店舗で雑誌の店頭販売を終了する。ローソンへの雑誌配送を担う日販が、配送業務から撤退するのに伴う措置。対象となる店舗は現在書籍を扱っている、およそ1万3000店のうち約2割にあたる3000店規模となる。
新たな雑誌の購入手段として、ローソンは店内の専用端末「Loppi」を使い、雑誌や書籍を取り寄せるサービスを客に案内したいとしている。コンビニでの雑誌の販売額は減少し続け、ファミリーマートも3月以降、数千店で雑誌の販売を終了する。
◆ノミネート作品決まる
今年で18回目を迎える「マンガ大賞」の1次選考に、97人の選考員が参加し、そこで挙げられた計238タイトルからノミネート作品10点が選ばれた。2024年内に刊行された単行本(最大巻数8巻まで)が選考対象となっている。最終結果は3月27日に発表される。なお「マンガ大賞2024」では、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』が大賞に輝いた。
ノミネート作品(作品名50音順・刊行出版社)
・売野機子『ありす、宇宙までも』(小学館)
・和山やま『女の園の星』(祥伝社)
・田村隆平『COSMOS』(小学館)
・こだまはつみ『この世は戦う価値がある』(小学館)
・六つ花えいこ、白川蟻ん、秋鹿ユギリ『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから(※ただし好感度はゼロ)』( アース・スタ ー エンターテイメント)
・泉光『図書館の大魔術師』(講談社)
・まるよのかもめ『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』(白泉社)
・城戸志保『どくだみの花咲くころ』(講談社)
・クワハリ、出内テツオ『ふつうの軽音部』(集英社)
・鍋倉夫『路傍のフジイ』(小学館)
2024年の出版物(紙+電子)販売額は1兆5,716億円(前年比1.5%減)となった。紙の出版物の販売金額は1兆56億円(同5.2%減)。内訳は書籍5,937億円(同4.2%減)、雑誌4,119億円(同6.8%減)。
電子出版は5,660億円(同5.8%増)、内訳は電子コミック5,122億円(6.0%増)、電子書籍452 億円(同 2.7%増)、電子雑誌86億円(同6.2%増)。電子コミックは、コロナ禍前の19年から5年間で倍増となった。
◆文春砲記事の一部修正
文春オンラインに掲載された「週刊文春」編集部のコメントによると、訂正されたのは、昨年12月26日発売号の記事で、「X子さんはフジ編成幹部A氏に誘われた」としていたが、その後の取材により「X子さんは中居氏に誘われた」「A氏がセッティングしている会の‟延長”と認識していた」ということが判明したとしている。
「週刊文春」編集部は次のようにコメントしている。
<これまで報じたように、事件直前A氏はX子さんを中居氏宅でのバーベキューに連れて行くなどしています。またX子さんも小誌の取材に対して、『(事件は)Aさんがセッティングしている会の“延長”だったことは間違いありません』と証言しています。以上の経緯からA氏が件のトラブルに関与した事実は変わらないと考えています>
◆二足のわらじ履く
岩下結(フリー編集者)さんが、19年間も勤めた出版社を昨年秋に退職し、今年4月に京王線南平駅前(東京都日野市)に本屋+カフェ「よりまし堂」を開業する。
その開業に向けた奮闘ぶりを「マガジン9」に、<編集者だけど本屋になってみた日記>というタイトルで、連載している。https://maga9.jp/250115-3/ をクリックして読んでみてほしい。第1回目のさわりを下記に紹介する。
<本の書き手、出版社、書店、取次、読者――みんなが今の構造に限界を感じ、別のあり方を求めているのではないか。一冊一冊がきちんと評価され、大切に読まれる環境はどうしたらつくれるのか……。「編集者でありながら本屋もやる」という二足のわらじを履くことになった身として、この仮説を実証実験するようなつもりで、この連載で本屋開業のプロセスをご報告していきたいと思います。出版や書店に関わる人だけでなく、本が好きな人、自分の地元にも面白い本屋があったらいいなと思う人、みなさんの参考になれば幸いです。>
開業資金をクラウドフアンディングで集めているが、なんと開始から1カ月で目標金額の150万円を達成。さらにネクストゴール200万円を目指す。
協力を申し出る方は、https://readyfor.jp/projects/yorimashi へアクセスを。
◆ICタグで本の在庫管理
講談社、集英社、小学館、丸紅が出資するパブテックスは、書店の在庫をICタグで管理するサービスを始めた。棚に専用のリーダーをかざせば店内の本の在庫が把握でき、棚卸し作業が大幅に短縮できる。今年中に書店100店への導入を目指し、将来は書籍流通の効率化も見込む。
出版社が費用を負担し、本にシールやしおり型の無線自動識別(RFID)タグを取り付け、情報を一括管理するICタグの実証実験を行ったところ、参加店舗では3万冊以上の棚卸しが2人で20分のうちに終わった。ICタグの活用により、店舗ごとの売り上げを通して出荷数量の調節、返品減が見込める。防犯ゲートと合わせて使えば、万引き対策にもなる。
◆雑誌販売3月以降に終了
ローソンは3月以降、国内の一部店舗で雑誌の店頭販売を終了する。ローソンへの雑誌配送を担う日販が、配送業務から撤退するのに伴う措置。対象となる店舗は現在書籍を扱っている、およそ1万3000店のうち約2割にあたる3000店規模となる。
新たな雑誌の購入手段として、ローソンは店内の専用端末「Loppi」を使い、雑誌や書籍を取り寄せるサービスを客に案内したいとしている。コンビニでの雑誌の販売額は減少し続け、ファミリーマートも3月以降、数千店で雑誌の販売を終了する。
◆ノミネート作品決まる
今年で18回目を迎える「マンガ大賞」の1次選考に、97人の選考員が参加し、そこで挙げられた計238タイトルからノミネート作品10点が選ばれた。2024年内に刊行された単行本(最大巻数8巻まで)が選考対象となっている。最終結果は3月27日に発表される。なお「マンガ大賞2024」では、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』が大賞に輝いた。
ノミネート作品(作品名50音順・刊行出版社)
・売野機子『ありす、宇宙までも』(小学館)
・和山やま『女の園の星』(祥伝社)
・田村隆平『COSMOS』(小学館)
・こだまはつみ『この世は戦う価値がある』(小学館)
・六つ花えいこ、白川蟻ん、秋鹿ユギリ『死に戻りの魔法学校生活を、元恋人とプロローグから(※ただし好感度はゼロ)』( アース・スタ ー エンターテイメント)
・泉光『図書館の大魔術師』(講談社)
・まるよのかもめ『ドカ食いダイスキ! もちづきさん』(白泉社)
・城戸志保『どくだみの花咲くころ』(講談社)
・クワハリ、出内テツオ『ふつうの軽音部』(集英社)
・鍋倉夫『路傍のフジイ』(小学館)
2025年02月02日
【出版ネッツ】著作者人格権尊重の要望書を文化庁、総務省、公取委に提出=橋詰雅博
フリーランスの編集者、ライター、デザイナー、漫画家、イラストレーター、校正者などが加入するユニオン出版ネットワーク(通称出版ネッツ)は、世田谷区史編さんに係る争議解決の内容・著作者人格権尊重を広く周知する取り組みの一環として、1月17日、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対して「世田谷区史編さんに係る争議解決のご報告と著作者人格権尊重についての要望」を提出した。
・全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重すること
・行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶこと
1月21日、文化庁からは、「自治体に対して通知などを出すことはできないが、フリーランスに対しては、著作権に関する契約についての研修などを行い、フリーランスが不利益を被らないように周知をしていく」との返事が、公正取引委員会からは、「フリーランス法の迅速かつ適切な執行及び同法の周知広報に努めます」との回答があった。
総務省自治行政局の回答は、「自治体行政については、各省庁が連携して取り組んでいるので、著作権関係のことは文化庁に連絡してほしい」というもの。「どのような問題が起こっているのか、自治行政局の内部でも要望書を共有してほしい」と伝えた。
【各要望書ファイル URL】
・文化庁への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1tml4ovSClrV9wkz2E_NIiH1h8nPHyVPq/view?usp=drive_link
・公取委への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1QVQ35nKd5Mh_QAJKnH-ZloBooDRDN0D6/view?usp=drive_link
・総務省自治行政局への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/16nPdORyZxc9DMCv8FJOpbvk4PZgbtHAQ/view?usp=drive_link
・全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重すること
・行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶこと
1月21日、文化庁からは、「自治体に対して通知などを出すことはできないが、フリーランスに対しては、著作権に関する契約についての研修などを行い、フリーランスが不利益を被らないように周知をしていく」との返事が、公正取引委員会からは、「フリーランス法の迅速かつ適切な執行及び同法の周知広報に努めます」との回答があった。
総務省自治行政局の回答は、「自治体行政については、各省庁が連携して取り組んでいるので、著作権関係のことは文化庁に連絡してほしい」というもの。「どのような問題が起こっているのか、自治行政局の内部でも要望書を共有してほしい」と伝えた。
【各要望書ファイル URL】
・文化庁への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1tml4ovSClrV9wkz2E_NIiH1h8nPHyVPq/view?usp=drive_link
・公取委への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/1QVQ35nKd5Mh_QAJKnH-ZloBooDRDN0D6/view?usp=drive_link
・総務省自治行政局への報告&要望(20250117).pdf
https://drive.google.com/file/d/16nPdORyZxc9DMCv8FJOpbvk4PZgbtHAQ/view?usp=drive_link
2025年01月22日
【出版界の動き】いかに出版活動をアクティブ化するか、真に問われる2025年=出版部会
◆24年紙の出版物・総売上1兆円確保か
日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。
◆24年度の電子出版市場
出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。
◆マンガの海外輸出2240億円
マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。
◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
これら3つの工夫が効果を発揮しているという。
◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。
◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
◆読書バリアフリーへの対応
2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。
◆24年度の電子出版市場
出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。
◆マンガの海外輸出2240億円
マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。
◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
これら3つの工夫が効果を発揮しているという。
◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。
◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
◆読書バリアフリーへの対応
2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
2025年01月21日
【記者会見】「著作者人格権不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りめぐる争議解決 1月27日(月)11時から12時 文部科学記者会 JCJ賛同団体=橋詰雅博
2025年1月7日、世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・区史編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議が解決しました。締結した「確認書」において、世田谷区は、著作者人格権の尊重を確約。区は、公式サイトの「区史編さん」のページに、著作権に係る契約の参考モデルとして「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する確認書」を掲載。出版ネッツは東京都労働委員会に対して不当労働行為救済の申し立てを取り下げました。
つきましては、会見を行いますので、ぜひ取材をお願いいたします。
■日時:2025年1月27日(月)11:00〜12:00
■場所:文部科学記者会
■発表:ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
世田谷区史のあり方について考える区民の会
【開催趣旨】
東京都世田谷区では区制90年を記念して、2016年から自治体史を編さんしています。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。原稿の無断改変ができるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは2023年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。
1年半にわたる都労委での調査が終了し、審問に入る直前の2024年9月、世田谷区と出版ネッツの和解交渉が始まりました。そして、12月23日合意が成立、本年1月7日に「確認書」を交わしました。主な合意内容(骨子)は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重の確約、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、です。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(@)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B)は遺憾表明(A)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めます。
1月17日出版ネッツは、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対し、上記の旨の要望書を送りました。今後も、著作者人格権の尊重について、広く社会に訴えていきます。
【報告内容】
1 本件の経緯、解決の背景と意義
2 当事者から本件解決に際しての訴え
3 区民の会のとりくみと見解
【出席者】
谷口雄太(本件当事者)
杉村和美、広浜綾子(出版ネッツ)
稲葉康生、上杉みすず(区民の会)
*これまでの報道記事
・世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い(2023年2月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASR2X2PCCR2WOXIE02K.html
・世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは(2023年3月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235203
・“区史の編さんに著作者人格権を” 住民団体が世田谷区に要望(2024年2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240227/k10014372311000.html
・区民グループ会見「契約書見直しを」 世田谷区史編さん問題(2024年2月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311864
※記者会見参加ご希望のフリーランス記者は、1月22日までに、下記担当者までお知らせください。
【連絡先】
ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
担当:杉村和美(080-6600-7457 sugimura09@gmail.com)
つきましては、会見を行いますので、ぜひ取材をお願いいたします。
■日時:2025年1月27日(月)11:00〜12:00
■場所:文部科学記者会
■発表:ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
世田谷区史のあり方について考える区民の会
【開催趣旨】
東京都世田谷区では区制90年を記念して、2016年から自治体史を編さんしています。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口雄太さん(青山学院大学准教授)は2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は「著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾」を迫りました。原稿の無断改変ができるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは2023年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。
1年半にわたる都労委での調査が終了し、審問に入る直前の2024年9月、世田谷区と出版ネッツの和解交渉が始まりました。そして、12月23日合意が成立、本年1月7日に「確認書」を交わしました。主な合意内容(骨子)は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重の確約、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、です。
今回の合意では「著作者人格権の尊重」が明記された点(@)に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B)は遺憾表明(A)と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めます。
1月17日出版ネッツは、文化庁、公正取引委員会、総務省自治行政局に対し、上記の旨の要望書を送りました。今後も、著作者人格権の尊重について、広く社会に訴えていきます。
【報告内容】
1 本件の経緯、解決の背景と意義
2 当事者から本件解決に際しての訴え
3 区民の会のとりくみと見解
【出席者】
谷口雄太(本件当事者)
杉村和美、広浜綾子(出版ネッツ)
稲葉康生、上杉みすず(区民の会)
*これまでの報道記事
・世田谷区史の著作権は誰に? 執筆者と区、トラブル防止承諾書で争い(2023年2月28日)
https://www.asahi.com/articles/ASR2X2PCCR2WOXIE02K.html
・世田谷区史の著作権は誰のモノ? 区と執筆者が対立している理由とは(2023年3月8日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/235203
・“区史の編さんに著作者人格権を” 住民団体が世田谷区に要望(2024年2月27日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240227/k10014372311000.html
・区民グループ会見「契約書見直しを」 世田谷区史編さん問題(2024年2月28日)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/311864
※記者会見参加ご希望のフリーランス記者は、1月22日までに、下記担当者までお知らせください。
【連絡先】
ユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)
担当:杉村和美(080-6600-7457 sugimura09@gmail.com)
2025年01月20日
【お知らせ】区史編さんめぐり世田谷区と大学教員が和解 著作者人格権不行使を撤回 支援団体としてJCJ賛同=橋詰雅博
筆者はこの問題をJCJ機関紙23年5月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/499650713.html)と24年3月25日号(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)で取り上げた。加えてDaliy JCJ24年2月24日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502453881.html)
、同年3月25日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)に記事を公開した。区が契約書で求めた著作者人格権不行使にただ一人反対し、編さん委員を外された青山学院大学の谷口雄太准教授=写真=は、入会したユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)とともに不当労働行為だとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。2年弱の争議を経て双方は和解合意、1月7日「確認書」を取り交わした。谷口准教授と出版ネッツの支援団体としてJCJも賛同。以下は出版ネッツの解決声明。
著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
2024年12月23日、世田谷区と谷口雄太さん以青山学院大学准教授 及び出版ネッツ は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの区史編さんのページに、著作権に係る契約の参考モデルとして(「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する認書」)を掲載。(https://www.city.setagaya.lg.jp/02005/5132.html#p1) 。組合は、東京都労働委員会(以下都労委) に対して不当労働行為救済の申し立てを取りげ、争議は解決に至りました。
合意の骨子は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、C都労委取りげ、D誠実対応――の5点です。
■委員委嘱打ち切りとその後の経過
世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権 )を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは同月、世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「区自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。
■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
今回の合意では著作者人格権の尊重が明記された点(@) に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B )は遺憾表明、(A) と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
、同年3月25日(http://jcj-daily.seesaa.net/article/502767106.html)に記事を公開した。区が契約書で求めた著作者人格権不行使にただ一人反対し、編さん委員を外された青山学院大学の谷口雄太准教授=写真=は、入会したユニオン出版ネットワーク(略称:出版ネッツ)とともに不当労働行為だとして東京都労働委員会に救済を申し立てた。2年弱の争議を経て双方は和解合意、1月7日「確認書」を取り交わした。谷口准教授と出版ネッツの支援団体としてJCJも賛同。以下は出版ネッツの解決声明。
著作者人格権の尊重を確約
世田谷区史編さんにおける「著作者人格権の不行使」問題・編さん委員委嘱打ち切りをめぐる争議解決にあたっての声明
2024年12月23日、世田谷区と谷口雄太さん以青山学院大学准教授 及び出版ネッツ は、標記の争議について和解解決の合意に達し、2025年1月7日、「確認書」を取り交わしました。同日、区は公式サイトの区史編さんのページに、著作権に係る契約の参考モデルとして(「区史編さん委員の著作者人格権と学術目的の利用に関する認書」)を掲載。(https://www.city.setagaya.lg.jp/02005/5132.html#p1) 。組合は、東京都労働委員会(以下都労委) に対して不当労働行為救済の申し立てを取りげ、争議は解決に至りました。
合意の骨子は、@区史編さん事業等における著作者人格権尊重、区公式サイトへの前記掲載、A区による遺憾表明、B区は、谷口さんに2024年12月23日付で、中世史編さん委員の委嘱を申し出て、谷口さんはこれを受諾し、同日付で辞退、C都労委取りげ、D誠実対応――の5点です。
■委員委嘱打ち切りとその後の経過
世田谷区では区政90周年を記念し、自治体史を編纂中です。日本中世史の研究者で、中世世田谷・吉良氏研究の第一人者である谷口さんは2016年、保坂区長から区史編さん委員を委嘱され、2017年から調査・研究を始めました。
ところが執筆開始間際の2023年2月10日、区は著作権譲渡および著作者人格権不行使への承諾を迫りました。著作者人格権には無断で改変されない権利(同一性保持権 )を含みます。無断改変できるようになることを危惧した谷口さんと出版ネッツは話し合いを求め、区は一度だけ応じたものの話し合いを打ち切り、3月末、谷口さんは委嘱を切られました。
そこで出版ネッツは同月、世田谷区史編さんにおける『著作者人格権の不行使』問題についての声明を発出。多くの歴史学会、歴史や著作権法の研究者、マスコミ関係者、フリーランスのクリエーターなどからの賛同署名が寄せられました。さらに、文化庁に「区自治体史編さんに係る著作権取扱いについての要望」を送り、4月、都労委に救済を申し立てました。2024年1月には「世田谷区史のあり方について考える区民の会」が発足。区史編さんに係る契約の見直し等を要望し、区長との話し合いを求めてきました。組合は区民の会と連携し、区議会でも、会派を超えて質疑が重ねられました。
■解決の背景とご支援への感謝、全国自治体等への要望
TVドラマ「セクシー田中さん」原作者の漫画家が自死され、原作のドラマ化にあたって著作者人格権の扱いが背景にあったのではないかといわれた事件や、著作権の扱いも含めフリーランスの権利がフリーランス法で法律になったこと、関東大震災への政府見解や群馬の森追悼碑撤去をめぐり歴史修正への危惧が広がったことも、解決の社会的背景となりました。
今回の合意では著作者人格権の尊重が明記された点(@) に最大の意義があります。区が谷口さんに編さん委員の委嘱を申し出たこと(B )は遺憾表明、(A) と共に、原状回復と谷口さんの名誉回復の意味を持ちます。解決にご尽力いただいた多くの方々に心より感謝します。
著作者人格権は、著作者、とりわけ歴史研究者にとって尊厳や研究者生命にかかわる権利です。この解決を機に私たちは、全国の自治体に対し、自治体史誌等の編さんに際して著作者人格権と学問の自由を尊重することを求めます。さらに、行政機関と民間企業とを問わず、フリーランス等に仕事を依頼する際には、著作権法やフリーランス法に則った契約を結ぶことを求めたいと思います。
2025年1月14日
ユニオン出版ネットワーク(出版ネッツ)
2025年01月13日
【Bookガイド】1月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆丹羽典生『ガラパゴスを歩いた男─朝枝利男の太平洋探検記』教育評論社 1/8刊 2400円
「ガラパゴスを歩いた男」.jpg 著者が訪れた博物館の収蔵庫には、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影されたガラパゴス諸島の写真が、たくさん収められていた。それだけでなく彼の日記、水彩画も保管されていた。それを基に「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する。
著者は国立民族学博物館グローバル現象研究部教授、専門は社会人類学、オセアニア地域研究。編著に『記憶と歴史の人類学』がある。
◆樋口英明『原発と司法─国の責任を認めない最高裁判決の罪』岩波ブックレット 1/9刊 630円
「原発と司法」.jpg 多くの日本人は、「原発問題は難しい」「原発は安全に作られている」と思っていませんか。元裁判官の著者も、かつてはそう思いこんでいたが、原発裁判を担当するようになって、認識が変わったという。決して原発問題は難しいものでもなく、また安全でもない、この事実に気づいたという。本書では刷り込まされてきた「先入観」を氷解させ、原発を巡る問題の本質に迫る。全国の主な脱原発訴訟・国賠訴訟一覧表付。
著者は1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1983年裁判官任官、大阪高裁、名古屋地裁、名古屋家裁部総括判事などを歴任。2017年定年退官。
◆山田昌弘『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』東洋経済新報社 1/15刊 1500円
「希望格差社会」.jpg 「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増している。格差は広がるだけでなく、固定化し、経済的に行き詰まりをみせているにもかかわらず、様々な意識調査では、格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している。なぜか。「バーチャル世界」で満足を得る方法を見いだしているからだ。リアルな世界で格差が広がる中、格差を埋め、人々に幸せを供給するプラットホームとして機能している事象を解剖する。
著者は中央大学文学部教授。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本』(岩波新書)、『新型格差社会』(朝日新書)など。
◆清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった─定年後の「一身二生」奮闘記』 岩波新書 1/20刊 960円
「バルセロナで豆腐屋になった」.jpg 元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿─ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る─人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈る。
著者は1947年生まれ。神戸大学経営学部卒。1971年、朝日新聞社入社。東京社会部で警視庁,宮内庁などを担当。出版局へ異動し『週刊朝日』副編集長、『論座』編集長。テレビ朝日「ニュースステーション」でコメンテーター。2007年、論説委員を最後に定年退職。
◆高野秀行『酒を主食とする人々─エチオピアの科学的秘境を旅する』本の雑誌社1/20刊 1800円
「酒を主食とする人々」.jpg 本当にそんなことがありえるのか? 世界の辺境を旅する高野秀行も驚く。朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒ばかり飲んで暮らす、仰天ワールド! 幻の酒飲み民族は実在した! すごい。すごすぎる。エチオピアのデラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい! 実際に共に生活し行動する中で、観察・体験した驚くべき民族と社会のリアルな姿をレポートする。
著者はノンフィクション作家。1966年生まれ。著書に『謎の独立国家ソマリランド』『イラク水滸伝』など。
◆静岡新聞社編『青春を生きて─歩生(あゆみ)が夢見た卒業』静岡新聞社 1/23刊 1200円
「青春を生きて」.jpg 骨のがん「骨肉腫」によって、18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生と家族が、医者や友人と共に歩んだ闘病の記録。中学・高校時代の苦痛と生きることへの願い、そして卒業を夢見て学校に通い続けた彼女の姿は、同級生や周囲の大人の心を突き動かした。病身の生徒の「学びの保障」についても考察する。歩生さんの日記や家族の手記も収める。
AYA世代(15歳から30歳代)で、がんと診断された若者たちの教育問題をテーマにした、同名の静岡新聞短期連載(2024年1月1日〜2024年3月27日付朝刊)を加筆・修正して書籍化した。静岡新聞社のブックレット創刊号。ぜひ読んでほしい。
◆丹羽典生『ガラパゴスを歩いた男─朝枝利男の太平洋探検記』教育評論社 1/8刊 2400円
「ガラパゴスを歩いた男」.jpg 著者が訪れた博物館の収蔵庫には、朝枝利男という見知らぬ人物によって撮影されたガラパゴス諸島の写真が、たくさん収められていた。それだけでなく彼の日記、水彩画も保管されていた。それを基に「ガラパゴス探検の日本人のパイオニア」でありながら、ほぼ無名の人物である朝枝利男の生涯とガラパゴス諸島への探検などを軸に、彼の残した膨大な写真・スケッチを交えながら紹介する。
著者は国立民族学博物館グローバル現象研究部教授、専門は社会人類学、オセアニア地域研究。編著に『記憶と歴史の人類学』がある。
◆樋口英明『原発と司法─国の責任を認めない最高裁判決の罪』岩波ブックレット 1/9刊 630円
「原発と司法」.jpg 多くの日本人は、「原発問題は難しい」「原発は安全に作られている」と思っていませんか。元裁判官の著者も、かつてはそう思いこんでいたが、原発裁判を担当するようになって、認識が変わったという。決して原発問題は難しいものでもなく、また安全でもない、この事実に気づいたという。本書では刷り込まされてきた「先入観」を氷解させ、原発を巡る問題の本質に迫る。全国の主な脱原発訴訟・国賠訴訟一覧表付。
著者は1952年三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1983年裁判官任官、大阪高裁、名古屋地裁、名古屋家裁部総括判事などを歴任。2017年定年退官。
◆山田昌弘『希望格差社会、それから─幸福に衰退する国の20年』東洋経済新報社 1/15刊 1500円
「希望格差社会」.jpg 「バーチャル世界」で格差を埋める人々が急増している。格差は広がるだけでなく、固定化し、経済的に行き詰まりをみせているにもかかわらず、様々な意識調査では、格差拡大の被害を最も受けているはずの若者の幸福度が上昇している。なぜか。「バーチャル世界」で満足を得る方法を見いだしているからだ。リアルな世界で格差が広がる中、格差を埋め、人々に幸せを供給するプラットホームとして機能している事象を解剖する。
著者は中央大学文学部教授。著書に『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)、『少子社会日本』(岩波新書)、『新型格差社会』(朝日新書)など。
◆清水建宇『バルセロナで豆腐屋になった─定年後の「一身二生」奮闘記』 岩波新書 1/20刊 960円
「バルセロナで豆腐屋になった」.jpg 元朝日新聞の記者が定年後、バルセロナで豆腐店を開業した。修行の日々、異国での苦労、新しい出会いと交流、ヨーロッパから見えた日本の姿─ジャーナリストならではの洞察力で、「蛮勇」のカミさんと二人三脚の日々を綴った小気味よいエッセイ。一身にして二生を経る─人生後半の新たな挑戦をめざす全てのひとに贈る。
著者は1947年生まれ。神戸大学経営学部卒。1971年、朝日新聞社入社。東京社会部で警視庁,宮内庁などを担当。出版局へ異動し『週刊朝日』副編集長、『論座』編集長。テレビ朝日「ニュースステーション」でコメンテーター。2007年、論説委員を最後に定年退職。
◆高野秀行『酒を主食とする人々─エチオピアの科学的秘境を旅する』本の雑誌社1/20刊 1800円
「酒を主食とする人々」.jpg 本当にそんなことがありえるのか? 世界の辺境を旅する高野秀行も驚く。朝昼晩、毎日、一生、大人も子供も胎児も酒ばかり飲んで暮らす、仰天ワールド! 幻の酒飲み民族は実在した! すごい。すごすぎる。エチオピアのデラシャ人は科学の常識を遥かに超えたところに生きている。朝から晩まで酒しか飲んでいないのに体調はすこぶるいい! 実際に共に生活し行動する中で、観察・体験した驚くべき民族と社会のリアルな姿をレポートする。
著者はノンフィクション作家。1966年生まれ。著書に『謎の独立国家ソマリランド』『イラク水滸伝』など。
◆静岡新聞社編『青春を生きて─歩生(あゆみ)が夢見た卒業』静岡新聞社 1/23刊 1200円
「青春を生きて」.jpg 骨のがん「骨肉腫」によって、18歳の若さで亡くなった磐田市の女子高校生と家族が、医者や友人と共に歩んだ闘病の記録。中学・高校時代の苦痛と生きることへの願い、そして卒業を夢見て学校に通い続けた彼女の姿は、同級生や周囲の大人の心を突き動かした。病身の生徒の「学びの保障」についても考察する。歩生さんの日記や家族の手記も収める。
AYA世代(15歳から30歳代)で、がんと診断された若者たちの教育問題をテーマにした、同名の静岡新聞短期連載(2024年1月1日〜2024年3月27日付朝刊)を加筆・修正して書籍化した。静岡新聞社のブックレット創刊号。ぜひ読んでほしい。
2024年12月17日
【出版界の動き】出版社「秀和システム」の動きとソニーがKADOKAWA買収=出版部会
◆11月期出版物売上げ前年比101.5%
週刊誌が前年超えとなり、「ジャンプ GIGA 2024 AUTUMN」が売上げを牽引。書籍は実用書・ビジネス書・専門書・学参が前年超え。実用書では『梅津瑞樹セカンド写真集 飛べ、現へ』(主婦と生活社)、『前田拳太郎 Personal Photo Book 藍色』(KADOKAWA)などの写真集が好調。コミックは「ONE PIECE 110」が売上を伸ばしたものの、前年には及ばない結果となった。
◆新文芸誌『GOAT』完売で重版
小学館から11月27日発売の『GOAT』が大好評で、「売れない」といわれる文芸誌としては異例の大重版を決定し、累計3万部になる。本文に色上質紙を使用するため時間を要し、2刷りは12月27日頃より店頭に並ぶという。大ヒットの要因は、小説ファンだけでなく小説を読まない人たちから注目されたことにある。
12月6日発売の小学館文庫には、『GOAT』の表紙にいる“ゴートくん”の特製しおりを作成し封入する。ゴートくんが手に持っているハートを、ページに挟んで活用してほしい!と意気込む。
◆船井倒産と「秀和システム」
10月24日に倒産した船井電機の負債総額は470億円。実質的な負債は800億円に上るとも言われている。同社の迷走は、2017年に創業者の船井哲良氏が亡くなり、2021年5月に船井電機を出版社「秀和システム」が買収。この出版社は1974年に設立され、ITエンジニア向けの専門書を中心に、幅広いジャンルの書籍を発行している。
船井電機を買収した秀和システムの社長・上田智一氏は、新たに持株会社の船井電機・ホールディングスをつくり、“新事業”として、なんと脱毛サロンのミュゼプラチナムを買収する。その原資は船井電機の本社不動産などを担保にした借金によるといわれ、分かっているだけでも50億円が流出した。
船井電機HDの事業報告書を見ると、3年間で純資産が300億円も減少、急速に財務が悪化していた。破産を選んだのはこれ以上の被害を防ぐためとみられている。仮差し押さえの前に脱毛サロンのミュゼプラチナムは売却され、上田氏は9月に退任。会長には原田義昭元環境相が就任し、船井電機の復活を目指すという。
◆ソニーがKADOKAWA買収へ
現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%保有している。KADOKAWAの株総額は、現在の時価で約6000億円。ソニーがKADOKAWAの完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界では最大規模のM&Aとなるだろう。
すでに両社は2021年、ソニーのアニメやゲームの世界的な展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた、長期的な関係強化を目的にして資本提携がなされている。それ以降、提携の度合いは加速し、関係は深まっていた。
とはいえ近年、KADOKAWAが力を入れる教育事業(N高・ZEN大学など)や「ニコニコ動画」はどうするのか。ソニーはKADOKAWA買収に当たって、これらの事業も継承し経営戦略に入れているのか。不透明であるのは間違いない。
さらにここにきて、韓国IT大手のカカオが、KADOKAWAの株を買い増し、24年4月には実質的な筆頭株主(11.37%)となっている。その成果として、つい最近KADOKAWAがカカオピッコマと業務提携し、画期的電子マンガマガジン「MANGAバル」を共同で立上げ、国内最大級のIP創出装置に発展させ、無料で読める連載作品の最新話を毎日更新するという。
今やカカオのKADOKAWA株占有率は、ドワンゴの創業者である川上量生氏(5.00%)や、22年まで会長を務めていた角川歴彦氏(23年3月まで2.06%)も大きく上回っている。ソニーはKADOKAWAの筆頭株主であるカカオを、どのように攻略するのか。これらの株主の動きが激しくなるにつれ、KADOKAWA株の安定性や信用度がふらつく危険も浮上している。
割安な日本企業の株を、海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けているし、エンタメ企業に対しても買収、資本参加が相当数行われているのは確実だ。
◆今村翔吾さん「書店復活」挑戦続く
全国で書店が減っていく中、直木賞作家・今村翔吾さんが昨年12月3日、JR佐賀駅にオープンした「佐賀之書店」が、この3日で1年を迎えた。同駅内では2020年に書店が閉店したが、全国の書店減少に危機感を抱く今村さんが新たな形で復活させた。
開店1年を記念したイベントが11月24日に開かれた。佐賀駅の飲食街に設けられた会場のトークショー第1部で、今村さんは愛野史香さんと対談。愛野さんは嬉野市在住で桜田光のペンネームで書いた『真令和復元図』が今年の角川春樹小説賞を受賞した。第2部では2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんと対談。軽妙な掛け合いに、何度も笑いが起きた。
今年4月27日、東京・神保町に今村さんがオープンした書店「ほんまる」も好評だ。本を売りたい人に書棚を貸し出す「シェア型」の店で、1階と地下1階に364棚を備える。「本好きのサポートにより、書店の減少に歯止めをかけたい」と願いを込める。
週刊誌が前年超えとなり、「ジャンプ GIGA 2024 AUTUMN」が売上げを牽引。書籍は実用書・ビジネス書・専門書・学参が前年超え。実用書では『梅津瑞樹セカンド写真集 飛べ、現へ』(主婦と生活社)、『前田拳太郎 Personal Photo Book 藍色』(KADOKAWA)などの写真集が好調。コミックは「ONE PIECE 110」が売上を伸ばしたものの、前年には及ばない結果となった。
◆新文芸誌『GOAT』完売で重版
小学館から11月27日発売の『GOAT』が大好評で、「売れない」といわれる文芸誌としては異例の大重版を決定し、累計3万部になる。本文に色上質紙を使用するため時間を要し、2刷りは12月27日頃より店頭に並ぶという。大ヒットの要因は、小説ファンだけでなく小説を読まない人たちから注目されたことにある。
12月6日発売の小学館文庫には、『GOAT』の表紙にいる“ゴートくん”の特製しおりを作成し封入する。ゴートくんが手に持っているハートを、ページに挟んで活用してほしい!と意気込む。
◆船井倒産と「秀和システム」
10月24日に倒産した船井電機の負債総額は470億円。実質的な負債は800億円に上るとも言われている。同社の迷走は、2017年に創業者の船井哲良氏が亡くなり、2021年5月に船井電機を出版社「秀和システム」が買収。この出版社は1974年に設立され、ITエンジニア向けの専門書を中心に、幅広いジャンルの書籍を発行している。
船井電機を買収した秀和システムの社長・上田智一氏は、新たに持株会社の船井電機・ホールディングスをつくり、“新事業”として、なんと脱毛サロンのミュゼプラチナムを買収する。その原資は船井電機の本社不動産などを担保にした借金によるといわれ、分かっているだけでも50億円が流出した。
船井電機HDの事業報告書を見ると、3年間で純資産が300億円も減少、急速に財務が悪化していた。破産を選んだのはこれ以上の被害を防ぐためとみられている。仮差し押さえの前に脱毛サロンのミュゼプラチナムは売却され、上田氏は9月に退任。会長には原田義昭元環境相が就任し、船井電機の復活を目指すという。
◆ソニーがKADOKAWA買収へ
現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%保有している。KADOKAWAの株総額は、現在の時価で約6000億円。ソニーがKADOKAWAの完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界では最大規模のM&Aとなるだろう。
すでに両社は2021年、ソニーのアニメやゲームの世界的な展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた、長期的な関係強化を目的にして資本提携がなされている。それ以降、提携の度合いは加速し、関係は深まっていた。
とはいえ近年、KADOKAWAが力を入れる教育事業(N高・ZEN大学など)や「ニコニコ動画」はどうするのか。ソニーはKADOKAWA買収に当たって、これらの事業も継承し経営戦略に入れているのか。不透明であるのは間違いない。
さらにここにきて、韓国IT大手のカカオが、KADOKAWAの株を買い増し、24年4月には実質的な筆頭株主(11.37%)となっている。その成果として、つい最近KADOKAWAがカカオピッコマと業務提携し、画期的電子マンガマガジン「MANGAバル」を共同で立上げ、国内最大級のIP創出装置に発展させ、無料で読める連載作品の最新話を毎日更新するという。
今やカカオのKADOKAWA株占有率は、ドワンゴの創業者である川上量生氏(5.00%)や、22年まで会長を務めていた角川歴彦氏(23年3月まで2.06%)も大きく上回っている。ソニーはKADOKAWAの筆頭株主であるカカオを、どのように攻略するのか。これらの株主の動きが激しくなるにつれ、KADOKAWA株の安定性や信用度がふらつく危険も浮上している。
割安な日本企業の株を、海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けているし、エンタメ企業に対しても買収、資本参加が相当数行われているのは確実だ。
◆今村翔吾さん「書店復活」挑戦続く
全国で書店が減っていく中、直木賞作家・今村翔吾さんが昨年12月3日、JR佐賀駅にオープンした「佐賀之書店」が、この3日で1年を迎えた。同駅内では2020年に書店が閉店したが、全国の書店減少に危機感を抱く今村さんが新たな形で復活させた。
開店1年を記念したイベントが11月24日に開かれた。佐賀駅の飲食街に設けられた会場のトークショー第1部で、今村さんは愛野史香さんと対談。愛野さんは嬉野市在住で桜田光のペンネームで書いた『真令和復元図』が今年の角川春樹小説賞を受賞した。第2部では2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんと対談。軽妙な掛け合いに、何度も笑いが起きた。
今年4月27日、東京・神保町に今村さんがオープンした書店「ほんまる」も好評だ。本を売りたい人に書棚を貸し出す「シェア型」の店で、1階と地下1階に364棚を備える。「本好きのサポートにより、書店の減少に歯止めをかけたい」と願いを込める。
2024年12月14日
【Bookガイド】12月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆川崎興太『福島の原風景と現風景―原子力災害からの復興の実相』 新泉社 12/9刊 3000円
「福島の原風景と…」.jpg 福島復興の光と影。時間の経過とともに福島原発事故はローカルな問題となり、忘却の忘却が進む。まるで事故はなかったかになりつつある。都市計画、コミュニティデザイン、社会学などの観点から、福島の復興に関する多彩な原風景と現風景を提示し、福島の問題を当事者として経験する手がかりを提供する。著者は福島大学教授、専門は福島の復興。
◆小林真樹『深遠なるインド料理の世界』 産業編集センター 12/13刊 1800円
「深淵なるインド料理の世界」.jpg 甘いバターチキン、デカすぎるナン、流行りのビリヤニ。インド料理のルーツを求めて、インド亜大陸を東奔西走。元バックパッカーの著者が足繁くインドに通い、ディープなインド料理を求めて、隅々まで食べ歩いた、インドへの深い愛と溢れ出す知識を詰め込んだ食エッセイ。インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。
◆瀬川至朗編著『「忖度」なきジャーナリズムを考える』早稲田大学出版部 12/13刊 1800円
「忖度なきジャーナリズム…」.jpg 統一教会と政界の癒着、裁判所の事件記録廃棄問題、PFAS汚染、精神科病院の「死亡退院」、南米アマゾンの「水俣病」、新型コロナワクチンの健康被害、性加害問題などなど。権力や権威に屈することなく問題の本質を追い、他のメディアが報じなくてもニュースを伝え、固定化した社会に諦観せず小さな声に光を当てるジャーナリストたちの軌跡をたどる。早稲田大学・人気講座「ジャーナリズムの現在」に登場した9人の講義録。
◆高世仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか─ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 』旬報社 12/16刊 1700円
「ウクライナはなぜ…」.jpg 「ここは私の国です―自由を失うわけにはいきません。私たちは政府も大統領もあてにしていません」─ロシアの軍事侵攻が始まって2年半以上、ウクライナの人々は兵士、民間人ともに現在も粘り強い抵抗を続けている。ボランティアとして、独自に兵士や激戦地の住民へ支援を行う者も少なくない。報道・ドキュメンタリー番組を数多く制作し現在はフリーの著者が、ウクライナを現地取材し戦う彼らの姿を伝える。
◆江渕 崇『ボーイング 強欲の代償─連続墜落事故の闇を追う』新潮社 12/18刊 2200円
[ボーイングの…」.jpg 最新鋭旅客機はなぜ墜落したのか? アメリカ型資本主義が招いた悲劇に迫る。2018年にインドネシア、2019年にエチオピア、ボーイングの旅客機737MAXが立て続けに墜落。事故後、墜落原因となった新技術の欠陥が判明する。なぜアメリカを代表する企業は道を誤ったのか? 株主資本主義の矛盾をあぶり出し、日本経済の行く末を問うノンフィクション! 著者は朝日新聞記者。国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当。
◆朝日人文社会部編『ルポ 子どもへの性暴力』 朝日新聞出版 12/20刊 2000円
「ルポ子どもへの性暴力」.jpg 子どもが性暴力に遭う"場面"は身近に潜む。家庭、学校、サークルなどで頻発する実態に迫る。朝日新聞連載「子どもへの性暴力」は、大きな反響を呼んだ。その迫真のルポを書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは何か。誰も思い描けない、想像しえない現実の恐ろしさに身がすくむ。
◆斎藤文彦『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』岩波新書 12/24刊 960円
力道山.jpg 空手チョップを武器に外国人レスラーと激闘を繰り広げ、戦後日本を熱狂させた力道山。大相撲から、アメリカで大人気を博していたプロレスへ転じ、テレビの誕生・発展とともに国民的ヒーローとなった。神話に包まれたその実像とは。そして時代は彼に何を仮託したのか。1963年12月15日、力道山が刺されて39歳で死去するまでの軌跡を、長年にわたる取材の蓄積と膨大な資料を駆使して描き出す。著者は1962年生まれ、早稲田大学や筑波大学の大学院でスポーツ科学を学び、現在プロレスライター。
◆永田浩三『原爆と俳句』大月書店 12/25刊 2800円
「原爆と俳句」.jpg 原爆を俳句で記録した人たちの軌跡をたどり、そこに込めた想いをすくいあげる。人類にとって、最も悲惨な原爆という重いテーマに対して、俳句がどのように向き合ってきたのか。原爆投下直後のヒロシマやナガサキで詠まれた俳句を通して、俳句で原爆を記録し、今も火種を絶やさずつなぐ人たちに、長年の取材を通して光をあてる。著者は武蔵大学教授(メディア社会学)。元NHKプロデューサー。
◆川崎興太『福島の原風景と現風景―原子力災害からの復興の実相』 新泉社 12/9刊 3000円
「福島の原風景と…」.jpg 福島復興の光と影。時間の経過とともに福島原発事故はローカルな問題となり、忘却の忘却が進む。まるで事故はなかったかになりつつある。都市計画、コミュニティデザイン、社会学などの観点から、福島の復興に関する多彩な原風景と現風景を提示し、福島の問題を当事者として経験する手がかりを提供する。著者は福島大学教授、専門は福島の復興。
◆小林真樹『深遠なるインド料理の世界』 産業編集センター 12/13刊 1800円
「深淵なるインド料理の世界」.jpg 甘いバターチキン、デカすぎるナン、流行りのビリヤニ。インド料理のルーツを求めて、インド亜大陸を東奔西走。元バックパッカーの著者が足繁くインドに通い、ディープなインド料理を求めて、隅々まで食べ歩いた、インドへの深い愛と溢れ出す知識を詰め込んだ食エッセイ。インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。
◆瀬川至朗編著『「忖度」なきジャーナリズムを考える』早稲田大学出版部 12/13刊 1800円
「忖度なきジャーナリズム…」.jpg 統一教会と政界の癒着、裁判所の事件記録廃棄問題、PFAS汚染、精神科病院の「死亡退院」、南米アマゾンの「水俣病」、新型コロナワクチンの健康被害、性加害問題などなど。権力や権威に屈することなく問題の本質を追い、他のメディアが報じなくてもニュースを伝え、固定化した社会に諦観せず小さな声に光を当てるジャーナリストたちの軌跡をたどる。早稲田大学・人気講座「ジャーナリズムの現在」に登場した9人の講義録。
◆高世仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか─ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 』旬報社 12/16刊 1700円
「ウクライナはなぜ…」.jpg 「ここは私の国です―自由を失うわけにはいきません。私たちは政府も大統領もあてにしていません」─ロシアの軍事侵攻が始まって2年半以上、ウクライナの人々は兵士、民間人ともに現在も粘り強い抵抗を続けている。ボランティアとして、独自に兵士や激戦地の住民へ支援を行う者も少なくない。報道・ドキュメンタリー番組を数多く制作し現在はフリーの著者が、ウクライナを現地取材し戦う彼らの姿を伝える。
◆江渕 崇『ボーイング 強欲の代償─連続墜落事故の闇を追う』新潮社 12/18刊 2200円
[ボーイングの…」.jpg 最新鋭旅客機はなぜ墜落したのか? アメリカ型資本主義が招いた悲劇に迫る。2018年にインドネシア、2019年にエチオピア、ボーイングの旅客機737MAXが立て続けに墜落。事故後、墜落原因となった新技術の欠陥が判明する。なぜアメリカを代表する企業は道を誤ったのか? 株主資本主義の矛盾をあぶり出し、日本経済の行く末を問うノンフィクション! 著者は朝日新聞記者。国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当。
◆朝日人文社会部編『ルポ 子どもへの性暴力』 朝日新聞出版 12/20刊 2000円
「ルポ子どもへの性暴力」.jpg 子どもが性暴力に遭う"場面"は身近に潜む。家庭、学校、サークルなどで頻発する実態に迫る。朝日新聞連載「子どもへの性暴力」は、大きな反響を呼んだ。その迫真のルポを書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは何か。誰も思い描けない、想像しえない現実の恐ろしさに身がすくむ。
◆斎藤文彦『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』岩波新書 12/24刊 960円
力道山.jpg 空手チョップを武器に外国人レスラーと激闘を繰り広げ、戦後日本を熱狂させた力道山。大相撲から、アメリカで大人気を博していたプロレスへ転じ、テレビの誕生・発展とともに国民的ヒーローとなった。神話に包まれたその実像とは。そして時代は彼に何を仮託したのか。1963年12月15日、力道山が刺されて39歳で死去するまでの軌跡を、長年にわたる取材の蓄積と膨大な資料を駆使して描き出す。著者は1962年生まれ、早稲田大学や筑波大学の大学院でスポーツ科学を学び、現在プロレスライター。
◆永田浩三『原爆と俳句』大月書店 12/25刊 2800円
「原爆と俳句」.jpg 原爆を俳句で記録した人たちの軌跡をたどり、そこに込めた想いをすくいあげる。人類にとって、最も悲惨な原爆という重いテーマに対して、俳句がどのように向き合ってきたのか。原爆投下直後のヒロシマやナガサキで詠まれた俳句を通して、俳句で原爆を記録し、今も火種を絶やさずつなぐ人たちに、長年の取材を通して光をあてる。著者は武蔵大学教授(メディア社会学)。元NHKプロデューサー。