2017年10月26日

【映画の鏡】ホロコーストを家族の目から「ブルーム・オブ・イエスタディ」親衛隊と被害者、男女の孫の邂逅 = 今井 潤

 7面 main.png  ホロコースト研究所に勤めるトトはナチスの親衛隊だった祖父を告発した著書が世間から評価された。そして2年かかって企画している「アウシュヴィッツ会議」の開催準備に取りくんでいるが、すぐに感情的になる性格から、新たに責任者になったバルタザールに殴りかかり、問題を起こした。
 そこへ、フランスからインターンのザジを迎える。彼女は迎えの車がベンツと知ると怒り、ユダヤ人の祖母がベンツのガストラックでナチスに殺されたとトトに食ってかかる。
 「アウシュヴィッツ会議」のスポンサー探しのためにトトとザジはホロコーストの生還者である女優のルビンシュタインに会うことを命じられるが、ここでもトトが女優を怒らせてしまう。彼女は会議のスポンサーを降りてスピーチもやめると言いだし「被害者の苦しみより人生の成功話をしたいわ」というのに腹をたてて、「あの悲劇がわかっていない」と暴言を吐いてしまったのだ。
 思わぬ展開から、二人はかつてナチスに支配されたラトビアのリガへ向かう。このリガのギムナジウム(学校)でトトとナジの祖父母は同級生だったことがわかったのだ。映画は殺された者と殺した者との和解が成り立つのかを問う。
 監督のクリス・クラウスはホロコーストについて沢山語られてきたが、誰もそれを自分の家族のこととして考えていない。戦争における犯罪の再検証はもういい。それよりも今を生きる我々がどう前向きに生きるか、それが映画の果たすべき社会的役割でもあるのだと語っている。(9月30日より渋谷ル・シネマで公開) 
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2016年05月10日

米アカデミー作品賞・脚本賞を受賞『スポットライト 世紀のスクープ』――伏魔殿にいどみ、ネタ元に食い下がる記者たちに感動=諌山 修

 何といっても今年のアカデミー賞の作品賞と脚本賞をダブル受賞したばかりの、ピカピカの新作である。しかもピュリッツアー賞をとった新聞社のスクープ報道がテーマとくれば本紙が取り上げないわけにはいくまい。
 時代は2001年夏、舞台は「ボストン・グローブ」紙。定期購読者の半数以上がカトリック信者という土地柄だが、この地区の教会の神父が以前から児童への性的虐待を繰り返していたというスキャンダルをキャッチする。

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巨匠オルミ監督が父に捧げた物語『緑はよみがえる』――戦争とは休むことなく大地をさまよう醜い獣だ=今井 潤

 イタリアのエルマンノ・オルミ監督(80)がカンヌでパルムドールを受賞した『木靴の樹』が38年ぶりに日本で再公開されている。  この作品は19世紀の北イタリアの貧しい4軒の農家の話で、地主から農具や生活の品を借りて暮らしていた一家の少年の木靴が割れてしまい、父親が川辺のポプラの樹を伐り、新しい靴を作った。しかしその樹も地主のもので、一家は村を去らねばならなかった。貧しいが慎しみ深い農民の生活は現代人に強いインパクトを与えずにはおかない。社会の不条理への静かな告発になっている。

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2013年03月11日

【映画の鏡】イラン革命直後の米大使館襲撃事件裏話、脱走し匿われた大使館員をいかに救うか、アカデミー作品賞受賞の緊迫劇−『アルゴ』=木寺清美

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 今回の「映画の鏡」は、作年10月に公開された『アルゴ』を取り上げる。本作 は、去る2月25日発表の、米アカデ ミー賞の作品賞に輝いた作品で、事情があって紹介漏れになっていたのだが、娯 楽性と歴史性を兼ね備えた、優れた 作品なので、受賞を機に紹介する。現在、全国の100を超える劇場で、アンコー ル上映中で、DVDの発売と貸し出し も、3月13日にスタートする。

大使館は過激派占拠、脱走職員は私邸に

 1979年1月、イランでは、ホメイニ師による、イスラム原理主義革命が成功 し、米英に支持され、欧米寄りの政策を とってきたパーレビ王朝は崩壊した。パーレビ前国王は、表向き癌の治療という ことでアメリカに亡命し、アメリカ もそれを受け入れた。「前国王を捕らえて裁判を」というイラン国民の要求が実 現されなかったため、イラン国内で はアメリカへの不満が充満し、その意を体したイスラム過激派が、その年の11 月、テヘランのアメリカ大使館を襲い 、大使館員ら52人を人質にして、立てこもるという、世界を震撼させた事件が起 きた。事件の解決には、長い外交交 渉の末に、米軍が実力行使して、大使館を取り戻す一方で、多くの犠牲者が出る という,悲劇的結末になるが、その 一方で、6人の大使館員らが密かに脱出し、カナダ大使の私邸に匿われるという 事態が起きた。事態がバレれば、6人 は立ちどころに、イラン側に捕まって、処刑されることが必定な上、イラン政 府、国民、過激派を刺激し、人質占拠 事件への影響も大きくなる。その上、米との同盟国であるとはいえ、第三者であ るカナダ大使は、早期に6人を厄介払 いしてしまいたいというのが本音で、6人をどうするかが、急を告げていた。


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2013年02月28日

【映画の鏡】死んでたまるか!再審決定を取り消されてうめく奥西死刑囚「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」日本の裁判を強く批判する抗議の作品=今井潤

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名張毒ぶどう酒事件とは

1961年三重県名張市葛生という住民100人の小さな村で起きた事件。村の 懇親会でぶどう酒を飲んだ女性15人が倒れ、5人が死んだ。重要参考 人とし て連行された奥西勝が三角関係を清算するために、ぶどう酒に農薬を入れたと自 供、しかしその後自白は強要されたものとして無罪を主張。 1964年津地方 裁判所は自白は信ぴょう性がなく、物的証拠も乏しいとして、無罪を言い渡す。 しかし検察側が控訴、1969年名古屋高等裁判所で 無罪判決を破棄、死刑判 決が言い渡された。戦後の裁判で初の無罪から極刑への逆転判決、そして 1972年最高裁で死刑が確定した。その後、弁護団 が結成され、再審請求が 行われるが、ことごとく棄却。2005年名古屋高裁でようやく再審が決定され たものの。検察の異議申し立てにより、ふたた び棄却。事件から40年以上を 経て、事件の関係者や奥西の母はこの世を去り、現在86歳の奥西は今も強く再 審請求を求めているが、その行方は見え ず、弁護団の鈴木泉弁護士は「奥西さ んに死刑宣告をした50人以上もの裁判官の責任を問いたい」と語る。


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2013年02月04日

【映画の鏡】「ひまわり」 沖縄は忘れない あの日の空を=今井 潤

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ストーリー

2004年8月13日、激しい爆音とともに米軍のヘリが沖縄国際大学へ墜落し た。事故現場を見た山城良太は、4 5年前の石川市の空を思いだしていた。良太は宮森小学校6年生で仲良しの子ら と元気に遊びまわっていた。良太の クラスに宮城広子が転校してきた。良太の心は華やいだ。青い空の下で沖縄の 人々は一生懸命に生きていた。195 9年6月30日、突然、米軍のジェット戦闘機が炎上しながら民家と小学校へ激 突した。悲鳴を上げながら逃げまど う子供たち、良太は広子を助けようとしたがすでに息絶えていた。それから53 年目の2012年、年老いた良太は 妻を失い、娘の家で暮らしていた。孫である大学生の琉一はゼミ仲間とともに宮 森小ジェット戦闘機墜落事件のレポ ート活動を始めるが、宮森事件の傷跡は今も深く遺族の心を苦しめている。琉一 たちは、基地と平和を考えるピース フルコンサートの開催を決意する。さまざまな困難に直面しながらも、コンサー トは良太の参加をも得て成功裏に終 わる。逆境を跳ね返して咲く「ひまわり」の美しさへ思いをはせながら、琉一た ちは平和への決意を新たにする。


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2012年12月23日

【映画の鏡】テロと差別に反対したA・カミュ アルジェリア戦争に悩んだ 未完の遺作の映画化「最初の人間」=木寺清美

アルジェの文盲の入植者家庭で誕生
 このイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督による、仏=伊=アルジェリアの 合作映画は、ノーベル文学賞の受賞者で、サルトルとともに、20世紀実存主義 文学の巨星と評価されている、フランスのアルベール・カミュの、最後の小説 「最初の人間」の映画化である。  カミュは、フランスの植民地だったアルジェリアのアルジェで、1913年に生ま れた。父親は、2歳のときに、第一次世界大戦に参加して戦死し、母、叔父(母 の弟)、祖母に育てられたが、そもそも一家は、フランスからの入植者で、全員 が文盲という貧しい環境で、まともな教育はほどこされず、幼少のころから、 働かされ続けた。そんなカミュを、才能ある人物と見込んで、奨学金制度を紹介 し、上級学校へ進めるよう助力したのは、小学校のルイ=ジェルマン先生で、 この映画でも、少年時代のカミュが描かれる部分で、少年カミュに、人間の尊厳 についての、立派な創作詩を発表させるベルナール先生として登場する。著名 な作家となって、アルジェに戻ってきた作家コルムリ(=カミュ)と、老いたベ ルナール先生(=ルイ=ジェルマン 先生)が再会して、感謝と賞賛の互いの気 持を交歓し合うシ−ンは感動的である。
 こう書けばわかるように、この映画の原作小説は、まさにカミュの自伝的な小 説であり、47歳の若さで交通事故死したカミュの、その事故現場から 発見され た、未完の遺作なのである。


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2012年12月07日

【映画の鏡】幼児持つ母、若夫婦の異常な日常描く 原発事故をフィクションで『おだやかな日常』=木寺清美

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今年の日本映画、原発糾す作品多数

 今年の日本映画は、東日本大震災と、福島原発の事故から、一年以上が経って、それらと、それらの関連を題材にした映画、特に何らかの角度から、それらを 記録した映画が、多数作られ公開された。それらは、概ね日々のテレビ報道などでは、扱われないものが多く、役場ごと全住民が、埼玉県に移住し た、福島県双葉町の一年の記録『フタバから遠く離れて』のように、大傑作と呼ぶにふさわしい記録映画も誕生した。今年の日本映画のベストテン は、半分は、こうした震災・原発関連の記録映画で占めるのではないかと、私などは思いたい方である。


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2012年12月02日

【映画の鏡】冷厳だが非人間的な法と検察を問題視 再び法に挑戦した周防監督『終(つい)の信託』=木寺清美

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深い友人関係内での命の信託は不許可?
  『Shall we ダンス?』や『それでもボクはやっていない』などで知られる、周防正行監督の新作である。周防監督は、『それでも〜』で、痴漢行為と言うものが、一度疑われると、なかなか無実を証明できないとう司法の不備を描き、司法批判を試みたが、今回は、患者と医師の強い信頼の絆がある中での、善意に試みられた安楽死が、殺人罪になるという問題を、真正面からリアリズムで描き、再び司法の不備に挑戦した。描かれるのは、日頃から、人生や命について語り合う、深い友人関係になっていた、主治医の女医(草刈民代)と、重度の喘息患者(役所広司)との友情関係であるが、自らの担当患者と言うよりは、理解しあう友人でもある患者が、意識が回復しない脳死状態になったとき、延命治療はしないと言う約束に従って、酸素パイプを引き抜くことも、友情の一つとして許されるのではないかと、問題提起している。つまりこの映画は、終末医療のあり方を、法律でがんじがらめにした上に、一律の物理的条件以外は認めないという司法の判断を、批判しようとしている。そしてそのことに執着する、検事検察の非人間性をも暴いていて、終盤に展開される取調べシーンの、すさまじい迫力は見ごたえがあり、冷たい検事役の、大沢たかおの演技も秀逸である。


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