2022年02月25日
【映画の鏡】AI時代の教育のあり方を問う『夢みる学校』ミライの公教育がここにある=鈴木賀津彦
「きのくに子どもの村学園」は30年前から「体験学習」を実践している先進的な学校だ。堀真一郎学園長が1992年に小学校を和歌山県で開校して以来、福井、福岡、山梨の各県でも小中学校が開設され広がりをみせている。
宿題がない、テストがない、「先生」がいない同学園で学ぶ子供の姿を、医食同源・食養生をテーマにしたドキュメンタリー『いただきます みそをつくるこどもたち』で知られるオオタヴィン監督がとらえた。「南アルプス子どもの村小学校を訪ね、昼休みの職員室をのぞいて驚愕しました。職員室は子供たちの歓声でいっぱいでした」「キラキラいきいきした子供の表情。その『映像の力』だけで、教育を問うことができる」と語る。
「私立学校だからできることでは」という反論を予想してか、オオタ監督は、通知表や時間割のない「総合学習」を60年間続けている長野県伊那市立伊奈小学校や、校則を減らし定期テスト廃止の世田谷区立桜丘中学校も取材し、公立学校でもできることを明示する。
教育改革が叫ばれる今、脳科学者の茂木健一郎氏が登場し科学的に説明する。教科の壁を超えて体験学習をすることは「AI時代にふさわしい能力が発揮できるような脳のOSがつくられる」と。2月4日からシネスイッチ銀座などで公開。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
2022年01月29日
【映画の鏡】市民のための役所とは 『ボストン市庁舎』トランプ政策と対極の現場を描写=鈴木賀津彦
『ニューヨーク公共図書館』でも知られる米国ドキュメンタリー界の巨匠フレデリック・ワイズマン監督の最新作。91歳の彼の集大成とも、最高傑作とも評されている。舞台は彼の生まれたマサセッチュー州のボストン市。警察、消防、保健衛生、高齢者支援、出生、結婚、死亡記録など、数百種類ものサービスを提供する市役所の仕事ぶりが映し出され、その舞台裏に迫る。
注目は、市長を先頭に職員が各所に出向き、市民とあらゆる問題で対話していることだ。マーティン・ウォルシュ市長の市民に寄り添う姿勢に好感、見終わって調べたら、今年3月からバイデン政権の労働長官に就任しているというので妙に納得した。
「アメリカがたどってきた多様性の歴史を典型的に示すような人口構成をもつ米国屈指の大都市で、人々の暮らしに必要なさまざまなサービスを提供している市役所の活動を見せている。(略)トランプが体現するものの対極にある」とワイズマン監督は語る。
全ての住民の声を聴き、多様な人種を認め合った「まちの姿」。映画館を出るとニュースは偶然、外国人の投票を可能にする武蔵野市の住民投票条例案に反対する政治家たちの騒ぎぶりを伝えていた。なるほど、本作が示した公共の在り方を、身近な日本の課題として捉える必要がありそうだ。全国公開中。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号
2021年12月24日
【映画の鏡】真の復興問う浪江の現実 『ひとと原発〜失われたふるさと』町民の切なる想い伝える=鈴木賀津彦
浪江町に通い避難者たちの生活を追い続けた映画監督の板倉真琴さんが、企画から撮影・編集まで一人で取り組んだドキュメンタリーだ。
「悔しい…、原発事故でふるさとを失った浪江町民の多くの方が口にする言葉です。震災から10年が過ぎた今も約95%の住民はふるさとへ戻っていません。帰りたいけど帰れない…、浪江の方たちのお話に耳を傾けるとマスコミ等が伝える復興の姿とはほど遠い現実が見えてきます。ひとにとって、真の復興とは…。この映画は14名の浪江町民の切なる想いがつくった作品」と説明する板倉さん。
津波被害で動けない人たちを救助しようとした朝、原発事故での避難命令は救助に向かう消防団にも。助けられたはずの請戸地区の大勢の命が失われた「請戸の悲劇」のほか、一人ひとりに起きたことを振り返りながら、避難者たちが今の生活の中から語った想いをつないでいく。
板倉さんといえば、富司純子、寺島しのぶが共演して話題になった映画「待合室」の監督。東北の小さな駅の待合室に人知れず置かれた「命のノート」に励ましの返事を書き続ける女性の実話を描いたエンターメント作品だが、作品の位置づけは違っても、監督の視線に不思議な共通性を感じた。
DVDを2000円(送料別)で販売、非営利なら購入したDVDで上映会を実施して、より多くの人に見てもえるよう工夫している。問い合わせは板倉さん=電090(1261)0426。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
2021年10月23日
【映画の鏡】『屋根の上に吹く風は』─冒険に満ちた自由な教育 主体的・対話的で深い学びとは=鈴木賀津彦
コロナ禍の今、オンライン教育で四苦八苦している都会の学校教育と対比しながら見ると、とてもタイムリーな映画だと感じた。
鳥取県智頭町の山あいの里山にある新田サドベリースクールという「学び舎」の素顔を、1年以上にわたり追ったドキュメンタリー。子どもたちが屋根の上に助け合いながら登り、怖がりながらも飛び降りにチャレンジするシーンから始まるのが象徴的だ。
スクールの説明書には「先生・カリキュラム・テスト・評価のない学校。子ども達の好奇心に沿った遊びや体験から学んでいく学校です。何をして遊ぶか、何を学ぶか、すべて自分で決める自由があります」とある。それで学校なの?と言われるかもしれないが、ご指摘の通り学校としては認められず、いわゆるフリースクールである。
少々型破りにも見えるが、子どもの主体的な学びを重視して、ルールづくりからサポートの大人のスタッフを選挙で決めることまで、子供の意思を尊重する徹底ぶりはみごとだ。「なんでもやってみたらいいんよ」「みんなで話し合ってみたら」。大人が指示を出さないように悩みながら子どもと対話する様子は、従来の「教えるプロ」としての教師像を打ち破ってくれる。
大人の対応に、実は子どもたちも悩む。自由って何だろう? 指示されないので何もしなければ、ただ退屈な時間だけがすぎていく。「案外、自由って難しい?」
この子どもと大人の葛藤、これって新しい学習指導要領が強調する「主体的、対話的で深い学び」の実践だよね、と気付かされる。指導要領の解説映像にしてほしい作品だ。浅田さかえ監督。2021年10月 ポレポレ東中野ほか全国順次公開予定
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号
2021年09月25日
【映画の鏡】国策作品から戦争の真実を追う『いまは むかし―父・ジャワ・幻のフィルム』=鈴木賀津彦
長之助は「文化戦線」の一員としてインドネシアに派遣され、「隣組」「東亜のよい子供」「防衛義勇軍」などのニュース映画を精力的に製作した。敗戦後にフィルムはオランダに接収され、約130本の作品が良好な状態で保管されていることが分かり、真一はオランダ視聴覚研究所を訪ねる旅に。保管フィルムの説明を学芸員がする場面では、歴史資料の保存の重要性を理解でき、アーカイブに対する日本の認識の低さを痛感させられる。
戦後の長之助は、全国各地の映画館で上映された約20分の「ニュース特報‼極東軍事裁判」を製作、ラストシーンには憲法9条の朗読を入れ、平和への思いを込めている。その後、多数の記録映画を手掛け、「編集の神様」と呼ばれた長之助だが、真一は「語られなかった声に、耳を澄ませてみたい」と、昨年からのコロナ禍の中で「昔の物語を今へと掘り起こして」編集作業を進めた。「家族の物語」であり、30年がかりの作品だという。
9月4日〜24日、新宿K’s cinemaで公開。連日ゲストを招いたトークの他、11日〜17日は長之助の代表作と関連作品を特集上映する。「世紀の判決」「森と人の対話」「カラコルム」「新しい製鉄所」など。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
2021年01月23日
【映画の鏡】『あこがれの空の下』 教育の原点を示す 教科書のない小学校の1年生=鈴木賀津彦
ユニークな教育で知られているが、映像がここまで密着して学校のリアルを捉えてくれたことで、これからの教育の「モデル」を示していると強く感じた。
「教科書のない小学校の一年」というサブタイトルのように、教材は日々の子どもたちの学びに合わせ、教員の手作り。教員らが職員室で議論を重ね、理解度を考慮した授業の進行を工夫する。「研究授業」では、お互いの教え方を丁寧に見て批判し合う。なるほど、教員同士が対話的でなければ、子どもたちも対話的な学校生活は過ごせないだろうことにも気付かせてくれる。
大切にするのは、子どもたちから発せられる「はてな=?」。間違えてもいい、恥ずかしがらずに言える疑問から、子ども同士で考えをぶつけ合い、教え合う対話の日常の学校生活が印象的だ。
卒業生の作曲家三枝成彰さんがコメントを寄せている。「父が学校に申し入れた条件はただひとつ。『毎朝ピアノの練習をさせるので、1時間めの出席は免除していただきたい』。それを学校は受け入れてくれた。この話を人にすると驚かれるが、和光はそういう学校なのだ。つまらない型にはまった、当たり前の勉強なんかしなくていい。好きなことを見つけて、とことん突きつめればいい―」と。
文科省が「主体的、対話的、深い学び」を掲げ教育改革がスタートした今年。そのモデルがここにある。渋谷・ユーロスペースで1月8日まで上映。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年12月25日号
2020年09月17日
【映画の鏡】制作の決意は揺るがず 『島を守る』 新聞社が提携「命の尊さと平和」発信=鈴木賀津彦
戦後75年の今年3月、沖縄県内で映画「島守の塔」(五十嵐匠監督)の撮影がスタートした。この知事島田叡(あきら・神戸市出身)と県警察部長荒井退造(宇都宮市出身)という本土から赴任した二人の内務官僚の苦悩や葛藤を通じ沖縄戦を描き、命や平和の尊さを伝える作品。だが、コロナ禍で中断、撮影は来年以降に延期を余儀なくされた。当初は、年内に関係地域での先行上映、来年夏の公開予定だった。
撮影も上映も未定という残念な事態にもかかわらず、製作陣の強い決意を感じたのは、7月に映画の公式サイトを立ち上げ、8月には広く「サポーター」の募集を始めたことだ。製作委員会のメンバーに注目してほしい。下野新聞、神戸新聞、琉球新報、沖縄タイムスの4地方紙が中心となり、毎日新聞やサンテレビ、とちぎテレビなどが加わった構成。
「主な登場人物の出身地(沖縄、兵庫、栃木)の地方新聞社が連携を図り、単にこの映画製作の支援・協力をするだけでなく、3県のトライアングルによる『平和交流事業』の基盤を構築し、3県のみならず全国のメディアに呼びかけ、大きな平和事業に発展させていきます」としている。
映画づくりの新しい形としての地方紙連携に期待したい。
鈴木賀津彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号
2020年05月09日
【映画の鏡】 映画館閉鎖相次ぐ中 公開待つ名匠や若手監督の意欲作=今井潤
「私たちが生まれた島」
2019年に沖縄で行われた辺野古新基地建設の賛否を問う県民投票で沖縄の人たちがNOを突きつけたことは記憶に新しい。
この映画は県民投票の原動力となった元山仁士郎さんや3児の母の奮闘などを追い、分断を乗りこえ、沖縄に新たな希望をもたらすことを伝えている。戦後から脈々と受け継いできた大人たちから、その想いを自分たちの感性で継承しようとする若者たちの記録である。(公開は9月4日に延期 アップリンク渋谷)
「バナナパラダイス」
大陸から台湾へ渡り、数奇な運命をたどる男の半生を描く。日本人の知らない戦後台湾史をユーモアあふれる展開で見せる作品である。(9月に延期新宿K‘sシネマ)
「その手に触れるまで」
監督のダルデンヌ兄弟はベルギーの世界的名匠として知られる。13歳の少年が尊敬するイスラム指導者に感化され、過激な思想にのめりこみ、ある日学校の先生をイスラムの敵として抹殺しようとする。少年の気持ちを変えることはできるのだろうか(5月22日ヒューマントラスト有樂町、新宿武蔵野館)
「なぜ君は総理大臣になれないのか」
衆議院議員小川淳也(49)は2005年初当選。2009年に政権交代を果たすと、保守・リベラル双方の論客から見所ある若手政治家として期待される。しかし、その後政治の流れに翻弄されていく。17年間小川を見続けたドキュメンタリー(6月下旬ポレポレ東中野)
今井潤
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号
2020年04月16日
【映画の鏡】 一人っ子政策の悲劇 『在りし日の歌』 中国人夫妻の激動の30年=今井潤
1986年、国有企業の工場で働くヤオジュンとリーエン夫妻は同じ工場の同僚である夫婦と同じ宿舎で暮らしていた。二組の夫婦には同じ年の同じ月に生まれたシンとハオという息子がいた。
二人の息子たちは兄弟のように育った。ある日リーエンは第二子を妊娠するが、一人っ子政策に反するため、夫婦だけの秘密にしていた。しかし強制的に病院に連れていかされリーエンは堕胎させられ、手術後の事故で、二度と妊娠できない身体となった。
1994年のある日、シンがハオに連れられて行った川で幼い命を落としてしまう。
一人息子を失ったヤオジュン夫妻は住みなれた故郷を捨て、南方の漁港で修理工場を開き、養子をもらい、死んだ息子と同じ名を付けた。しかしその息子は高校生になると、身替りの人生を嫌い、反逆して家出してしまう。
やがて時は流れ、改革開放後一人っ子政策が進む1980年代、目覚ましい経済発展をとげた1990年代、そして2010年代、大きく変貌する社会の片隅で、懸命に生きる市井の人々を優しく描く3時間の大作である。
(4月3日より角川シネマ有楽町、渋谷ル・シネマほか全国順次公開)
今井 潤
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号
2020年02月06日
【映画の鏡】 カンヌで韓国初の最高賞パルムドール『パラサイト 半地下の家族』 貧者と金持ちの衝突で起きた亀裂=今井潤
半地下の家は暮らしにくい。窓を開ければ路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が弱い。家族全員、ただ普通の暮らしがしたいと思っている。
そんな時、有名大学生の息子の友人が訪ねてきて、「僕の代わりに家庭教師をしないか」と留学中の代役を頼む。息子が向かったのは高台の大豪邸、IT企業の社長の自宅だった。若く美しい妻が娘の部屋に案内する。
偽造した大学在学証明書を警戒することもなく、母と娘の心をつかんでいく。「もう一人紹介したい家庭教師がいるんです」と妹を紹介、末っ子の教師となり、恐るべき速さで手なずけていく。
こうして、父は自家用車のドライバーに、母は家政婦としてこの大豪邸で働くことになり、物語は波瀾万丈の展開となる。
父を演ずるソン-ガンホは「殺人の記憶」、「グエルム漢江の怪物」に出演、最近の話題作「タクシ―運転手〜約束は海を越えて〜」の韓国の人気スターだ。
昨年カンヌで韓国初のパルムドールを受賞したこの作品は血なまぐさい、荒唐無稽な結末へ向かうが、筆者は現代社会を表すための監督の表現とみている。
ポン・ジュノ監督は「今日の資本主義社会には、目に見えない階級やカーストがあります。本作はますます二極化のすすむ社会の中で、二つの階級がぶつかり合う時に生ずる、避けられない亀裂を描いているのです」と述べている。
(公開は1月10日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか)
今井 潤
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年1月25日号
2019年10月29日
【映画の鏡】『ゆうやけ子どもクラブ!』 =今井潤
『ゆうやけ子どもクラブ!』
長回しカメラで成長を活写

この作品は2011年冤罪として無罪になった布川事件を扱った「ショージとタカオ」の井手洋子監督の最新作だ。
40年前の1978年、東京小平市にできた「ゆうやけ子どもクラブ」は障害のある子どもの放課後を支援する施設で、全国でも草分け的な存在である。
知的障害、発達障害、自閉症など小学生から高校生までの子どもたちが遊びや生活を通して成長していく姿をカメ?は丁寧にとらえていく。
積み木に夢中になって子どもたちの輪に入ることができないヒカリくん。音に敏感すぎるカンちゃんはずっと給湯室にこもっている。
小学5年のガクくんは散歩の途中指導員におんぶを要求した。ガクくんの年齢の子どもなら、普通はおんぶはしないだろうが、指導員は彼の要求を受け入れていた。夏の暑いさかりで、カメラはついていくのが精一杯。おんぶされたガクくんは単に甘えているのでなく、セミの声を聞き、風を感じていたのだ。長時間のおんぶを厭わない指導員、どれだけエネルギーがあるのか。
今全国に障害のある子どもの放課後活動の場は1・3千カ所、利用者は20万人にのぼる。2012年に「放課後デイサービス」という事業所が爆発的に増え、活動の質が問題になっている。
井手監督は「最初は子どもが自由すぎて困った。しかし子どもと一緒に飛んでいくんだといわれ、カメラマンに長回しを頼んだ。ドキュメンタリーを編集するときは発見があるんだが、今回は子どもの成長を感じた」と述べている。
上映は 東京:ポレポレ東中野 11月16日土〜3週間 毎日12時〜上映 横浜:ジャック&ベティ 11月30日土〜2週間 名古屋:シネマスコーレ 11月30日土〜2週間 毎日10時半〜上映 他全国順次上映
2017年10月26日
【映画の鏡】ホロコーストを家族の目から「ブルーム・オブ・イエスタディ」親衛隊と被害者、男女の孫の邂逅 = 今井 潤

そこへ、フランスからインターンのザジを迎える。彼女は迎えの車がベンツと知ると怒り、ユダヤ人の祖母がベンツのガストラックでナチスに殺されたとトトに食ってかかる。
「アウシュヴィッツ会議」のスポンサー探しのためにトトとザジはホロコーストの生還者である女優のルビンシュタインに会うことを命じられるが、ここでもトトが女優を怒らせてしまう。彼女は会議のスポンサーを降りてスピーチもやめると言いだし「被害者の苦しみより人生の成功話をしたいわ」というのに腹をたてて、「あの悲劇がわかっていない」と暴言を吐いてしまったのだ。
思わぬ展開から、二人はかつてナチスに支配されたラトビアのリガへ向かう。このリガのギムナジウム(学校)でトトとナジの祖父母は同級生だったことがわかったのだ。映画は殺された者と殺した者との和解が成り立つのかを問う。
監督のクリス・クラウスはホロコーストについて沢山語られてきたが、誰もそれを自分の家族のこととして考えていない。戦争における犯罪の再検証はもういい。それよりも今を生きる我々がどう前向きに生きるか、それが映画の果たすべき社会的役割でもあるのだと語っている。(9月30日より渋谷ル・シネマで公開)
2016年05月10日
米アカデミー作品賞・脚本賞を受賞『スポットライト 世紀のスクープ』――伏魔殿にいどみ、ネタ元に食い下がる記者たちに感動=諌山 修
時代は2001年夏、舞台は「ボストン・グローブ」紙。定期購読者の半数以上がカトリック信者という土地柄だが、この地区の教会の神父が以前から児童への性的虐待を繰り返していたというスキャンダルをキャッチする。
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巨匠オルミ監督が父に捧げた物語『緑はよみがえる』――戦争とは休むことなく大地をさまよう醜い獣だ=今井 潤
(→続きを読む)
2013年03月11日
【映画の鏡】イラン革命直後の米大使館襲撃事件裏話、脱走し匿われた大使館員をいかに救うか、アカデミー作品賞受賞の緊迫劇−『アルゴ』=木寺清美
今回の「映画の鏡」は、作年10月に公開された『アルゴ』を取り上げる。本作
は、去る2月25日発表の、米アカデ
ミー賞の作品賞に輝いた作品で、事情があって紹介漏れになっていたのだが、娯
楽性と歴史性を兼ね備えた、優れた
作品なので、受賞を機に紹介する。現在、全国の100を超える劇場で、アンコー
ル上映中で、DVDの発売と貸し出し
も、3月13日にスタートする。
大使館は過激派占拠、脱走職員は私邸に
1979年1月、イランでは、ホメイニ師による、イスラム原理主義革命が成功
し、米英に支持され、欧米寄りの政策を
とってきたパーレビ王朝は崩壊した。パーレビ前国王は、表向き癌の治療という
ことでアメリカに亡命し、アメリカ
もそれを受け入れた。「前国王を捕らえて裁判を」というイラン国民の要求が実
現されなかったため、イラン国内で
はアメリカへの不満が充満し、その意を体したイスラム過激派が、その年の11
月、テヘランのアメリカ大使館を襲い
、大使館員ら52人を人質にして、立てこもるという、世界を震撼させた事件が起
きた。事件の解決には、長い外交交
渉の末に、米軍が実力行使して、大使館を取り戻す一方で、多くの犠牲者が出る
という,悲劇的結末になるが、その
一方で、6人の大使館員らが密かに脱出し、カナダ大使の私邸に匿われるという
事態が起きた。事態がバレれば、6人
は立ちどころに、イラン側に捕まって、処刑されることが必定な上、イラン政
府、国民、過激派を刺激し、人質占拠
事件への影響も大きくなる。その上、米との同盟国であるとはいえ、第三者であ
るカナダ大使は、早期に6人を厄介払
いしてしまいたいというのが本音で、6人をどうするかが、急を告げていた。
続きを読む
2013年02月28日
【映画の鏡】死んでたまるか!再審決定を取り消されてうめく奥西死刑囚「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」日本の裁判を強く批判する抗議の作品=今井潤
名張毒ぶどう酒事件とは
1961年三重県名張市葛生という住民100人の小さな村で起きた事件。村の
懇親会でぶどう酒を飲んだ女性15人が倒れ、5人が死んだ。重要参考 人とし
て連行された奥西勝が三角関係を清算するために、ぶどう酒に農薬を入れたと自
供、しかしその後自白は強要されたものとして無罪を主張。 1964年津地方
裁判所は自白は信ぴょう性がなく、物的証拠も乏しいとして、無罪を言い渡す。
しかし検察側が控訴、1969年名古屋高等裁判所で 無罪判決を破棄、死刑判
決が言い渡された。戦後の裁判で初の無罪から極刑への逆転判決、そして
1972年最高裁で死刑が確定した。その後、弁護団 が結成され、再審請求が
行われるが、ことごとく棄却。2005年名古屋高裁でようやく再審が決定され
たものの。検察の異議申し立てにより、ふたた び棄却。事件から40年以上を
経て、事件の関係者や奥西の母はこの世を去り、現在86歳の奥西は今も強く再
審請求を求めているが、その行方は見え ず、弁護団の鈴木泉弁護士は「奥西さ
んに死刑宣告をした50人以上もの裁判官の責任を問いたい」と語る。
続きを読む
2013年02月04日
【映画の鏡】「ひまわり」 沖縄は忘れない あの日の空を=今井 潤
ストーリー
2004年8月13日、激しい爆音とともに米軍のヘリが沖縄国際大学へ墜落し
た。事故現場を見た山城良太は、4
5年前の石川市の空を思いだしていた。良太は宮森小学校6年生で仲良しの子ら
と元気に遊びまわっていた。良太の
クラスに宮城広子が転校してきた。良太の心は華やいだ。青い空の下で沖縄の
人々は一生懸命に生きていた。195
9年6月30日、突然、米軍のジェット戦闘機が炎上しながら民家と小学校へ激
突した。悲鳴を上げながら逃げまど
う子供たち、良太は広子を助けようとしたがすでに息絶えていた。それから53
年目の2012年、年老いた良太は
妻を失い、娘の家で暮らしていた。孫である大学生の琉一はゼミ仲間とともに宮
森小ジェット戦闘機墜落事件のレポ
ート活動を始めるが、宮森事件の傷跡は今も深く遺族の心を苦しめている。琉一
たちは、基地と平和を考えるピース
フルコンサートの開催を決意する。さまざまな困難に直面しながらも、コンサー
トは良太の参加をも得て成功裏に終
わる。逆境を跳ね返して咲く「ひまわり」の美しさへ思いをはせながら、琉一た
ちは平和への決意を新たにする。
続きを読む
2012年12月23日
【映画の鏡】テロと差別に反対したA・カミュ アルジェリア戦争に悩んだ 未完の遺作の映画化「最初の人間」=木寺清美
アルジェの文盲の入植者家庭で誕生
このイタリアの名匠ジャンニ・アメリオ監督による、仏=伊=アルジェリアの
合作映画は、ノーベル文学賞の受賞者で、サルトルとともに、20世紀実存主義
文学の巨星と評価されている、フランスのアルベール・カミュの、最後の小説
「最初の人間」の映画化である。
カミュは、フランスの植民地だったアルジェリアのアルジェで、1913年に生ま
れた。父親は、2歳のときに、第一次世界大戦に参加して戦死し、母、叔父(母
の弟)、祖母に育てられたが、そもそも一家は、フランスからの入植者で、全員
が文盲という貧しい環境で、まともな教育はほどこされず、幼少のころから、
働かされ続けた。そんなカミュを、才能ある人物と見込んで、奨学金制度を紹介
し、上級学校へ進めるよう助力したのは、小学校のルイ=ジェルマン先生で、
この映画でも、少年時代のカミュが描かれる部分で、少年カミュに、人間の尊厳
についての、立派な創作詩を発表させるベルナール先生として登場する。著名
な作家となって、アルジェに戻ってきた作家コルムリ(=カミュ)と、老いたベ
ルナール先生(=ルイ=ジェルマン 先生)が再会して、感謝と賞賛の互いの気
持を交歓し合うシ−ンは感動的である。
こう書けばわかるように、この映画の原作小説は、まさにカミュの自伝的な小
説であり、47歳の若さで交通事故死したカミュの、その事故現場から 発見され
た、未完の遺作なのである。
続きを読む
2012年12月07日
【映画の鏡】幼児持つ母、若夫婦の異常な日常描く 原発事故をフィクションで『おだやかな日常』=木寺清美
今年の日本映画、原発糾す作品多数
今年の日本映画は、東日本大震災と、福島原発の事故から、一年以上が経って、それらと、それらの関連を題材にした映画、特に何らかの角度から、それらを 記録した映画が、多数作られ公開された。それらは、概ね日々のテレビ報道などでは、扱われないものが多く、役場ごと全住民が、埼玉県に移住し た、福島県双葉町の一年の記録『フタバから遠く離れて』のように、大傑作と呼ぶにふさわしい記録映画も誕生した。今年の日本映画のベストテン は、半分は、こうした震災・原発関連の記録映画で占めるのではないかと、私などは思いたい方である。
続きを読む
2012年12月02日
【映画の鏡】冷厳だが非人間的な法と検察を問題視 再び法に挑戦した周防監督『終(つい)の信託』=木寺清美
深い友人関係内での命の信託は不許可?
『Shall we ダンス?』や『それでもボクはやっていない』などで知られる、周防正行監督の新作である。周防監督は、『それでも〜』で、痴漢行為と言うものが、一度疑われると、なかなか無実を証明できないとう司法の不備を描き、司法批判を試みたが、今回は、患者と医師の強い信頼の絆がある中での、善意に試みられた安楽死が、殺人罪になるという問題を、真正面からリアリズムで描き、再び司法の不備に挑戦した。描かれるのは、日頃から、人生や命について語り合う、深い友人関係になっていた、主治医の女医(草刈民代)と、重度の喘息患者(役所広司)との友情関係であるが、自らの担当患者と言うよりは、理解しあう友人でもある患者が、意識が回復しない脳死状態になったとき、延命治療はしないと言う約束に従って、酸素パイプを引き抜くことも、友情の一つとして許されるのではないかと、問題提起している。つまりこの映画は、終末医療のあり方を、法律でがんじがらめにした上に、一律の物理的条件以外は認めないという司法の判断を、批判しようとしている。そしてそのことに執着する、検事検察の非人間性をも暴いていて、終盤に展開される取調べシーンの、すさまじい迫力は見ごたえがあり、冷たい検事役の、大沢たかおの演技も秀逸である。
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メディア気象台(2)
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事件(23)
新型コロナ禍(17)
焦点(144)
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21年度JCJ賞受賞者スピーチ(4)
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22年度JCJ賞スピーチ(0)
22年度JCJ賞受賞者スピーチ(7)
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23年度JCJ賞受賞者スピーチ(6)
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24年度JCJ賞受賞者スピーチ(5)
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映像(コメント&ニュース)(108)
メディアウォッチ(759)
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(06/16)【オピニオン】米国依存 脱却のチャンス トランプ関税 ドル支配に影=志田義寧
(06/15)【月刊マスコミ評・放送】非難に屈しなかったクルド取材番組=諸川麻衣
(06/14)【フォトアングル番外編】「新しい戦前にさせない」シンポで各界著名人らが発言=5月27日、東京・文京区民センター=伊東良平撮影
(06/13)【おすすめ本】 永野 慎一郎『秘密資料で読み解く 激動の韓国政治史』―韓国民が自らの闘いを通して 民主主義を勝ち取った軌跡=鈴木 耕(編集者)
(06/12)【JCJ声明】グレタ・トゥーンベリさんたちの拘束についてイスラエルに強く抗議する=JCJ事務局
(06/11)【オンライン講演会】韓国新大統領の「政治力」を読み解く 対日政策は変わるのか 講師:五味洋治氏(ジャーナリスト)6月28日(土)14時から16時
(06/10)【横浜市再開発】「旧庁舎、不当な安値」本人訴訟の原告招き例会=神奈川支部
(06/09)【沖縄リポート】沖縄の「復帰」とは何だったのか=与那覇恵子(沖縄・琉球弧の声を届ける会共同代表)
(06/08)【時事マンガ】原爆投下招いた責任忘れるな=画・八方美人
(06/07)【憲法大集会】3万8千人高らかに=古川 英一
(06/06)【映画の鏡】横浜市民の底力にスポット『The Spirit of Yokohama』市長選の年「街づくり」の在り方示す=鈴木賀津彦
(06/05)【フォトアングル】14回目「九条美術展」に141点出品=5月9日、東京都美術館、伊東良平撮影
(06/04)【支部リポート】北九州 窓口負担の軽減を 医療関係者ら街頭署名=杉山正隆
(06/03)【お知らせ】戦争止めよう! 知り、つながり、止める! 市民交流集会
(06/02)【月刊マスコミ評・新聞】国際協調の道義説くのが日本の役割=六光寺 弦
(06/01)【リレー時評】下からの民主主義を目指す国=吉原 功(JCJ代表委員)
(05/31)【おすすめ本】伊藤和子『ビジネスと人権』─「不処罰の文化」に埋没した日本企業の人権意識=栩木 誠(元日経新聞編集委員)
(05/30)【横浜市メディア威圧2】多様な言論こそ必要 イチャモン断固はね返せ=藤森 研(JCJ代表委員)
(05/29)【横浜市メディア威圧1】新聞社・通信社に圧力文書 「報道の萎縮が目的」市民、撤回求め抗議行動=井浦 徹