2024年07月13日
【JCJ北海道支部】北海道内民放3局 ドキュメンタリー相次ぎ映画化 情熱と覚悟 課題 担当3氏が語る=渡辺 多美江
JCJ北海道支部は5月26日、トークイベント「ドキュメンタリーが面白い!/テレビ局はなぜ映画を作るのか/道内民放3局の制作者が語る」を札幌で開催。登壇した山ア裕侍さん(HBC報道部デスク・「ヤジと民主主義 劇場拡大版」監督)、吉岡史幸さん(UHB取締役・「新根室プロレス物語」プロデューサー)、沼田博光さん(HTB報道部デスク・「奇跡の子 夢野に舞う」監督)の3氏が、昨年から今年にかけ映画化されたドキュメンタリー番組の取材や制作意図、現場の課題などを本音で語り、参加者約90人の共感を呼んだ。
「首相批判」排除
おかしくないか
山アさんは、2019年、札幌で街頭演説した安倍晋首相(当時)にヤジを飛ばした市民が、警察官に強制排除された問題に迫った。
「地声で『安倍やめろ』と10数秒言っただけで排除。『プラカードが風にあおられて危ない』と移動させられた市民もいたが、安倍首相応援のプラカードは排除されなかった。これはおかしい」と感じたことが、番組とその後の映画化を含めての出発点となった。
「TBSドキュメンタリー映画祭出品が上映の機運を呼び、『劇場拡大版』のKADOKAWA配給に」と話した。
「思い実現を」
プロデュース
吉岡さんは「根室の人たちの思いを実現させたかった」と、初代リーダーを病で失った根室のアマチュアプロレス団体の「奮闘ドラマ」をプロデュースした。「映画の起点は長く映像を撮り、編集を続けたカメラマンと編集マン。それが番組につながった」と振り返った。当初検討された俳優を使っての映画化は、紆余曲折の末、ドキュメンタリーになったという。
農家の声今こそ
7年追い続けた
沼田さんは空知の長沼町で「タンチョウを呼び寄せマチおこしをしよう」とする14人の農家を、自力で7年間追った。農家は1981年の「五六水害」被害者。その治水対策だった千歳川放水路計画は、自然保護論争の末に中止された。
「14人は『自然保護団体は大嫌い』だった長沼の普通のお父さん」。「僕は当時、農家の人たちの声を取材していなかった。それを今、映画にしたいと思った」と、一人で制作に手を挙げた理由を語った。
映画化に意義も
現状には危機感
映画化の意義を、山アさんは「採算ラインはともかく社のブランド力は上がり、お金に代えられない価値がある」。吉岡さんも「テレビは視聴率競争が厳しいが、映画で良質なものを作るという原点に帰れた」と評価。沼田さんは「お客さんの感想を直接聞ける映画は製作者を鍛える。この経験を後輩に伝えたい」と意気込みを語った。
一方、ドキュメンタリーの現状には「放送枠は毎週あるが、作りたいとアピールする記者が少なくなった。記者がデジタル情報の用意のために忙しい」(山アさん)。「合間仕事だったデジタル作業がいまや本業を圧迫し、記者もデスクも忙しい。長い視点で取材する仕事ができなくなっている」(沼田さん)。「国の石炭政策などのひずみが起きた北海道では、かつて良いドキュメンタリーが多く作られたが、近年は『夕方ワイド戦争』で、情報番組にニュースも組み込まれ、制作が難しくなってきた」(吉岡さん)と、3氏は揃って危機感を口にした。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
2024年05月16日
【裁判】名和前総長の敗訴確定 北大 解任手続きは闇=山田寿彦
ありもしない「パワハラの公益通報」を材料に北大の顧問弁護士から辞職を迫られた脅迫≠ノ始まり、名和氏の弁明も聞かずに調査報告書が一方的にまとめられた不可解な解任劇。名和氏を辞めさせる謀議に関与した疑いのある元副学長らの証人申請を裁判長は却下した。「控訴審では審理不尽と判断され、地裁に差し戻される可能性がある」との見立てから弁護団は控訴に意欲を示していたが、名和氏から控訴断念の意向が伝えられた。
判決は、被告北大の総長選考会議が文部科学大臣に対して行った解任申し出の手続きに瑕疵は認められず、非違行為の事実認定と評価は正当とした上で、「解任申し出に裁量権の逸脱・濫用は認められない」と結論付けた。
裁判では解任手続きの違法性と非違行為の事実認定と評価が主要な争点となった。証人尋問では北大側の申請証人15人が非違行為について証言。名和氏は自身の尋問で逐一反論したが、判決は北大側証人の証言を全面的に採用した。手続きの違法性をめぐる審理には事実上踏み込まなかった。
名和氏の弁護団は判決について、「証拠に基づかない不合理、非常識な事実認定が顕著なずさんな判決。法人化後の大学の自治の内容、総長解任手続きの適正(弁明権の保障)、総長解任シナリオの作成者は誰かなどが問われた重要事件だったが、裁判所には問題意識、追求姿勢が見られなかった」と厳しく批判した。
名和氏は「大学の自治の内容や解任手続きの過ちを追及することなく、北大の主張を丸ごと追認する不当な判決だ。控訴も考えたが、解任がなくとも私の任期は終わっており、一研究者・教育者に立ち戻り、裁判については区切りをつけることにした」とのコメントを発表した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年4月25日号
2024年04月23日
【JCJ北海道支部トークイベント】「ドキュメンタリーが面白い! テレビ局はなぜ映画を作るのか 道内民放3局の制作者が語る」5月26日(日)午後5時30分から8時 札幌市
道内民放3局が制作したドキュメンタリー映画が、昨年から今年にかけて相次いで公開されました。HBC北海道放送の「ヤジと民主主義」、UHB北海道文化放送の「新根室プロレス物語」、HTB北海道テレビ放送の「奇跡の子 夢野に舞う」。いずれもテレビドキュメンタリーとして放送した作品を映画化し、高い評価と人気を得ました。日ごろライバル関係にある3作品の制作者が、放送局の垣根を越えてドキュメンタリーの面白さや映画化の難しさ、その意義と可能性などを語り合います。最初に3作品の予告編を上映します。
〈開催要項〉
■開催日時 :2024年5月26日(日)午後5時30分〜8時(終了予定)※オンラインでの中継はありません
■登壇者:
・「ヤジと民主主義 劇場拡大版」監督------山ア裕侍さん
HBC報道部デスク。主な作品に「命をつなぐ〜臓器移植法施行から10年・救急医療の現場から〜」「赤ひげよ、さらば」「クマと民主主義」「ネアンデルタール人は核の夢を見るか」「性別は誰が決めるか〜『心の生』をみつめて〜」「閉じ込められた女性たち〜孤立出産とグレーゾーン〜」など。民間放送連盟賞、ギャラクシー賞、文化庁芸術祭賞、放送文化基金賞、文化庁芸術選奨など受賞。
・「新根室プロレス物語」プロデューサー------吉岡史幸さん
UHB取締役・株式会社オーテック社長。主な作品に「平成開拓民」「誰が命を救うのか〜揺れる医師法17条」「浅草レッサーパンダ事件の深層」「石炭奇想曲」「ニュースの現場」「バッケンレコードを越えて」「聴覚障害偽装事件」「17歳の先生」など。民間放送連盟賞、ギャラクシー賞、放送文化基金賞、地方の時代映像祭、FNSドキュメンタリー大賞など受賞。
・「奇跡の子 夢野に舞う」監督------沼田博光さん
HTB報道部デスク。主な作品に「カムイの鳥の軌跡」「聞こえない声〜アイヌ遺骨問題 もう一つの150年」「アイヌの誇り胸に〜受け継がれしエカシの言葉〜」「たづ鳴きの里」など。科学放送高柳賞最優秀賞、科学技術映像祭内閣総理大臣賞、ギャラクシー賞、NYフェスティバルド・キュメンタリー部門優秀賞、独ワールドメディアフェスティバル・ドキュメンタリー部門銀賞など受賞。
2023年12月19日
【北海道】映画『ヤジと民主主義』奪われた権利 取り戻そう つづく過剰警備 無関心か危機感もつか 山ア祐侍(映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』監督・HBC報道部デスク)
僕たちの権利が失われつつあるのを地方で暮らしていると感じる。安心な暮らし、交通手段、美しい自然、働く場所、地域社会の絆。深刻なのは、失っているのが自分たちの権利だと気が付かない人が少なくないことだ。映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』は、奪われた権利を取り戻そうと闘う人たちの物語である。
2019年7月、札幌で参議院選挙の応援演説をしていた安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばした男女が警察に強制的に排除された。政権批判を封じ、表現の自由を奪ったとして市民らが抗議し、排除された男女2人が北海道警察を所管する北海道を相手に裁判に訴えた。2020年4月に放送したドキュメンタリー番組は第63回 JCJ賞を受賞した。
映画は、画期的な地裁判決、その後の安倍元首相銃撃事件や岸田首相襲撃事件をめぐる警備の状況、そして不可解な高裁判決まで追加取材し、100分間にまとめた。
内容に一番厚みを持たせたのは、当事者たちの「排除前」と「排除後」の物語だ。とりわけ当時大学生だった桃井希生さんは小さい頃から吃音に悩み、一時は生きる意味さえ失っていた。「排除後」は札幌地域労組に就職し、年配の男性が圧倒的に多い労働組合のなかで20代の女性という稀な存在となった。ベトナム人従業員の雇い止めを撤回させたり、ストライキを行い路線バス会社から待遇改善を引き出したりして、労働者の権利を守ろうと日夜奔走している。
翻ってみると、西武池袋本店で労働組合がストをしたとき、インターネット上では「迷惑」という声が相次いだだけでなく、NHKもニュースで「客は置いてけぼり」というインタビューを伝えた。今の日本ではストライキやデモも、ヤジを飛ばすことも「迷惑」だと攻撃される。
10月に行われた参院徳島・高知の補欠選挙では、応援演説する岸田文雄首相に聴衆の男性が「増税メガネ」とヤジを飛ばし、警察官が過剰警備をした。映画公開を前に日本記者クラブで記者会見し専門家の見解と合わせて報告=写真=したが、これを問題視するメディアはほとんどない。
僕たちの権利は、懸命に握っていないと常に奪われかねない。そして今は自ら放り投げているのではないかという危機感を覚える。その現状を見えなくさせているのは、人々の無関心だ。この映画についても「4年前の、終わったこと」と関心を寄せない人もいる(しかも観ないで)。違う。現在進行形の問題であり、僕やあなたに降りかかる問題なのだ。この映画が受け入れられるか否かは、この国の民主主義に危機感を持つか否かのリトマス試験紙だと感じている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
2023年12月15日
【支部リポート】北海道 北大総長解任で結審 非違行為か真っ向対立=山田寿彦
脅迫的な辞任要求に始まる不可解な経過をたどった北海道大学総長解任事件。名和豊春前総長(69)=写真=が国と大学を相手に解任処分の取り消しと損害賠償などを求めた訴訟が10月18日、札幌地裁で結審した。原告側は解任手続きの違法性を重大な争点とし、解任手続きに深く関与した総長選考会議の石山喬議長(当時)ら3人の証人を申請したが、裁判所は却下した。判決言い渡しは来年3月13日。
名和氏は同大総長選考会議の解任申し出を受けた文科省により、28件の非違行為を理由に20年6月26日付で解任された。同年12月10日に提訴。15回の口頭弁論を重ねた。
今年6月から証人尋問が始まり、北大側証人として当時の事務局職員ら15人のほか、名和氏本人の尋問が行われた。
北大側証人は非違行為の当事者とされた人たちで、名和氏から怒鳴られたり理不尽な叱責を受けたりした場面を具体的に証言した。名和氏は自身の証人尋問で、非違行為とされた事実認定に逐一反論し、双方の主張は真っ向から対立した。
名和氏は解任手続きが始まる直前の18年9月、「パワハラに関する公益通報」を止めることを条件に石山議長や顧問弁護士から辞任を迫られた。名和氏が拒否したことで調査委員会が極秘裏に設置され、解任手続きが始まった。名和氏が文科省から開示された職員らのヒアリング記録によると、個々の非違行為は調査委員会によって名和氏の弁明を聞くことなく「調査報告書」として一方的に取りまとめられた。
原告弁護団は石山氏、当時の副学長、調査委員会の委員長を務めた弁護士を証人申請したが、裁判所は認めなかった。
弁護団が別に提起した情報開示請求訴訟で、名和氏のパワハラに関する公益通報は存在しないことが明らかになっている。総長選考会議は「パワハラ」を認定しなかったが、地元紙北海道新聞は「パワハラ認定」と誤報を打ち、今日に至るまで訂正していない。
結審後の報告会で名和氏は「こんな醜い手続きにより解任が進められたことを明らかにし、二度とこのようなことが起きないでほしい」と述べた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年11月25日号
2023年01月19日
【JCJ北海道】国民欺いた安倍政権 北海道新聞JCJ賞「消えた四島返還」で講演会 「領土交渉の総括と検証を」=山田寿彦
JCJ北海道支部は11月17日、北海道新聞の長期連載「消えた『四島返還』安倍政権 日ロ交渉2800日を追う」(21年9月刊)のJCJ賞受賞を記念する講演会を札幌市で開いた。北方領土交渉で「四島返還」から「歯舞・色丹の2島返還」へと従来方針を密かに大転換しながら、「失敗」に終わった説明責任を果たさずに国民を欺き続けた安倍政権の対ロ外交を検証し、日ロ関係の今後を展望した。
中心執筆者の一人、小林宏彰記者(元モスクワ支局長、現報道センターデジタル委員)(=写真=)を講師に招き、市民約40人が聴講した。同書を加筆・再編成した長期連載は今年度の新聞協会賞も受賞している。
ロシアのプーチン大統領と27回の首脳会談を重ね、「北方領土問題に必ず終止符を打つ」と大見えを切っていた安倍晋三元首相。外務省を蚊帳の外に置き、官邸主導で進められた日ロ交渉の舞台裏では「歯舞・色丹の2島返還+α(国後・択捉での共同経済活動)による決着」という日本側のカードが秘密裏に切られていた。
大転換の舞台は「日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉加速」で両首脳が合意した18年11月14日のシンガポール会談。会談後、政府高官は「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するというわが国の一貫した立場に変更はない」と説明。全国紙は「2島先行軸に」(朝日)など、政権は「四島返還」を堅持しているとの見方で世論をミスリードした。
「大転換」のキーワードは「国後・択捉の断念」。事前取材でその感触を得ていた道新は翌日朝刊で「国後と択捉 扱いに懸念」と打ち、翌々日朝刊で「2島+共同経済活動軸」「国後、択捉断念も」と踏み込んだ。
政府が建前として言い続けた「四島の帰属の確認」とは「四島すべてが日本に帰属するとは限らない」という巧妙なレトリックが隠されていたが、大半のメディアがだまされた中にあって、道新は地元紙ならではの取材力で真実に肉薄した。
小林記者は失敗の原因として、@森政権以降の交渉の空白A内政(求心力維持)重視の外交Bプーチン盲信と歯舞・色丹だけなら返すだろうという楽観論C欧米と中国+ロシアが対抗する構図が強まった国際情勢の読み誤り――と分析する。
「日本側が対ロ関係を2国間の問題として考えていたのに対し、ロシア側は中国・米国など世界地図の中で日本との関係の位置付けを考えていた」と振り返った。両国の大きな認識のずれを自覚しない官邸サイドは「領土問題は動く」という期待感をメディアに対ししきりにあおった。
日ロの平和条約締結交渉は一向に進展しないまま20年8月、安倍氏は首相退陣を突然表明した。安倍氏の口から対ロ関係の「大転換」に関する公式の説明はなかった。
退陣後の21年12月17日、安倍氏は道新の単独インタビューに応じ、「100点を狙って零点では意味がない」との倫理で「大転換」を初めて認めた。
ロシアのウクライナ侵攻により、日本は対ロ制裁を発動。ロシアは日本を「敵国」「非友好国」とみなし、「安倍政権が積み上げたすべてが根本から崩れた」(小林記者)現状にある。
「多くのメディアが腫れ物に触るように、失敗に終わった日ロ交渉を安倍氏の遺業に盛り込むことをタブー視するような雰囲気が漂う中、膨大な政治的エネルギーを注いだ安倍政権の対ロ外交とは何だったのか、その記憶が消えてしまうのは国営期の損失」(小林記者)。安倍氏の突然の死は期せずして検証作業の意義を益々高めている。
「安倍氏の死去によりプーチンと本当のところで何を話したのかを知る人がいなくなった。安倍政権で何があったのかを踏まえてロシアとの対話を続けないと、いつの日か領土交渉再開の機会が来たとき、(空白を経て対ロ交渉を始めた)安倍政権と同じ過ちを犯すのではないか」。小林記者は対話の継続と安倍政権の総括・検証の必要性を強調した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2022年02月11日
消えた南鳥島案を追う HBC「核のごみ」で芸術祭優秀賞 学生時代の思い胸に制作=山ア裕侍
「核のごみ」処分地をめぐり揺れる北の大地。この問題を追い続ける北海道放送(HBC)の山崎裕侍報道部編集長に、文化庁芸術祭優秀賞を受賞した思いを寄稿してもらった。
◇
僕にとってこの番組はある人の存在なしには作り得なかった。番組とは2021年11月20日に放送したドキュメンタリー「ネアンデルタール人は核の夢をみるか〜核のごみ≠ニ科学と民主主義〜」。第76回文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。
高レベル放射性廃棄物、いわゆる核のごみの文献調査が全国で初めて行われている北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村。番組は寿都町長が突然、調査の応募検討を表明してから、賛成派と反対派に分断されていく小さな町や翻弄される住民を描いた。さらに地震の多い日本で地層処分は危険だと主張する地質学者などを取材し、科学的な検証を試みた。そして去年10月の寿都町長選挙に密着し、国全体の問題である核のごみが地方の問題に押し込められている現状を訴えた。
鎌田慧さんの教え
受賞理由の一つが「南鳥島を最適地とする提案があることなど知られざる事実を抉(えぐ)りだした」ことだ。この南鳥島のことを教えてくれたのがジャーナリストの鎌田慧さんだった。きっかけはドキュメンタリー番組「ヤジと民主主義」が「第3回むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」を受賞し、その贈賞式で審査員の鎌田さんと出会ったことだった。懇親会で鎌田さんの隣に座った僕は、取材中だった核のごみについて、鎌田さんの考えを聞いた。するとこう切り返された。
「核のごみの文献調査が進んでいるけど、南鳥島が適地だという説があるの知っているかい?」
南鳥島説をこのとき僕は初めて知った。数日後、鎌田さんが僕にファックスで送ってくれたのは南鳥島が適地と紹介した静岡県立大学の尾池和夫学長のエッセイだった。番組では南鳥島案を最初に提案した平朝彦・前海洋研究開発機構理事長を取材し、経済産業省と原子力発電環境整備機構(NUMO)がその提案を蹴ったことを明らかにした。
鎌田さんにはもう一つ恩がある。著作の一つ『ぼくが世の中に学んだこと』の最後の方のページに学生時代の僕が引いた赤線が残っている。
「工場では、少数派として、仕事や昇給でどんなに差別されていても、すこしもひるむことなく、自分の主張をつらぬきとおすひとたちがいる。民主主義とは、このようなひとたちによって、ようやくもちこたえられる」
市井の人々の言葉
「国家」や「国益」という大きな言葉の前では、市井の人々の小さな言葉はかき消されてしまいがちだ。だが人々のたゆまぬ言葉が民主主義と自由を支えている。それを若い僕に教えてくれたのが鎌田さんだった。
核のごみも同じだ。国民一人一人が考えるべき問題のはずなのに、去年10月の衆議院選挙では、候補者はおろか全国紙すら争点として取り上げなかった。文献調査が行われていることで「バックエンドの問題は解決した」とばかりに推進派は原発の新規建設に向けて動きを始めている。無関心と打算のなか、寿都町の住民は切ないほど真剣だ。核ごみ受け入れ賛成派も交付金がほしいだけではない。原発の恩恵を受けた責任を自分たちが引き受けようと考える人もいる。だが国は「地元の判断」とうそぶき、国民的議論をしようとしない。
国策に振り回される住民、国に抗う科学者たちを追いかけたのがこの番組だ。賞の栄誉は、小さくても声をあげて闘っている人たちに輝いている。
山ア裕侍(北海道放送・報道部編集長)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
2021年12月20日
北海道寿都町 核のごみ最終処分場選定調査が争点 町長選は調査継続派 町議補選で撤回派勝つ=山田寿彦
同日行われた町議補欠選挙(改選数1)は両陣営が擁立した新人同士の一騎打ちとなり、越前谷陣営の支援を受けた候補が勝利した。町長選とは逆の結果となり、民意の複雑なねじれを示した。
文献調査への応募は片岡町長が議会の議決を得ずに独断で決定した。越前谷氏は片岡氏の強引な町政運営により、町民の間に大きな分断が生まれたと批判。片岡氏は文献調査の次の段階となる概要調査に進む前に賛否を問う住民投票を実施すると約束し、町民の意思を尊重して結論を出す姿勢を強調した。
北海道新聞が報道した出口調査結果によると、町長選に投票した有権者のうち44%が「調査撤回」を支持。「調査継続」に理解を示したのは33%で、撤回派が上回った。
文献調査は原子力発電環境整備機構(NUMO)により同町など2町村で昨年11月から行われている。調査を受け入れた自治体に国が支給する交付金は周辺自治体分を含め2年間で20億円。同町は今年度、9億2500万円を受け取る。配分を拒否する自治体もあり、自治体間にも分断が生まれている。
山田寿彦(北海道支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
2021年03月12日
【支部リポート】北海道 99歳「生活図画事件」語り継ぐ 最後の生き証人=高田正基
とうとう1人になってしまった。菱谷良一さん、99歳=写真、旭川市在住=。治安維持法違反容疑で当時の旭川師範学校と旧制旭川中学の美術教師や生徒ら26人が逮捕された「生活図画事件」の最後の生き証人である。
菱谷さんの師範学校生時代からの親友で、一緒に投獄された松本五郎さんが昨年10月、死去した。ともに事件の最後の証言者として、民主主義や自由が踏みにじられる恐ろしさを語り継ぐ活動に尽力していた。
2019年秋、札幌の画廊で「親友展」と題する2人の作品展が開かれた。わたしはそこで久しぶりに菱谷さんにお会いしたあと、すっかりご無沙汰していた。
コロナ禍で、高齢の菱谷さんに直接会うことが叶わないなか、先日、旭川の知人を介してビデオ通話ができた。スマホの画面越しの菱谷さんは、親友の死に気落ちしていると聞いていたが、若々しさは相変わらずだった。活舌は若い者にも負けないくらいだ。
コロナ禍が収まればぜひJCJでも講演してほしいとお願いしたら「自分にできることなら喜んで」と元気に答えてくれた。
今年11月に百歳になる。6月には旭川で百歳記念の個展を開く予定だという。
菱谷さんと松本さんについては、15年に北海道綴方教育連盟事件の実相を追った「獄中メモは問う」でJCJ賞を受賞した北海道新聞の佐竹直子記者や、昨年「ヤジと民主主義」というドキュメンタリーで同じくJCJ賞に輝いた北海道放送(HBC)の記者たちが取材を続けてきた(JCJの評価の目はやはり確かだ)。
佐竹記者の最近の記事によると、松本さんは亡くなる前の昨年8月、菱谷さんに手紙を渡していた。そこにはこう書かれていた。
「もう限界だ あと証言は君にまかせる 民主主義の力となるまでたのむよ」
事件を語り継ぐ責任はジャーナリストにもある。
高田正基
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年2月25日号
2020年12月02日
【北海道支部】核のごみ問題で講演会 北海道新聞編集委員・関口裕士さんが語る パート2=高田正基 10月27日 札幌市教育文化会館
幌延深地層研と核抜き条例
北海道は自分たちのところで核のごみの元を作り出している。自分たちが出しているのに、自分たちのところに戻ってくることは許せないという論理がどこまで通用するかはなかなか難しい。ただ、処分場を作るのは全国に1カ所とされている。全国あちこちの原発から送られてくることには反対せねばならないと思うが、泊から出た使用済み燃料をどうするかというのは難しいところがある。
幌延町商工会は3・11前後に「研究だけではもったいない。せっかく穴を掘っているので、処分場を誘致してほしい」と動いた。当時、商工会長は「誘致の意志があることを民間レベルで発信しないと、この町に何も残らない。地元の若者に将来を約束してやれない」と言っていた。今回、神恵内村でも同じようなことを聞いた。人口は800人余りで、どんどん減っていく。「交付金がなくてもいいので、仕事する場が欲しい。調査だけでなく処分場誘致もすべきだ」と言う人もいた。そんなに地元の人ばかりを責められないとも思うが、そういう弱みにつけ込んで、過疎地ばかりに原発や処分場を押しつけようとする国や電力会社のやり方はおかしいと思う。
幌延は、もともと20年間の約束で研究を始めたが、今年になって研究期間の延長が決まった。8年、9年というがよく分からない。まだまだズルズル延びそうな感じがある。地下500メートルまで掘りたいということを延長決定後に言ってきた。研究なら続けてほしいという声が地元にある。国も、幌延は手放したくないので、ズルズルと研究がいつまでも続くのだろうと思っている。
幌延で研究を受け入れるのと引き換えに、道は2000年に条例を作り、核のごみは「受け入れがたい」と宣言した。ただ、罰則のない宣言条例だ。どこまで効力があるかは疑問視されている。実際、近藤駿介原子力委委員長(当時)は「条例があるからと言って核のごみを持ち込めないなら。47都道府県全て作る。そうしたらどこにも持ち込めなくなる。だから条例は気にしない」と言っている。彼は今、NUMOの理事長となったが、「条例制定当時より処分技術は進歩している。北海道発展のために勉強してほしい」とインタビューに答えている。
道条例には、こうも書いている。「現時点では、その処分方法の信頼性向上に積極的に取り組んでいるが、処分方法が十分確立されておらず、その試験研究の一層の推進が求められており、その処分方法の試験研究を進める必要がある」と。つまり、「研究が進んでいないなら、受け入れがたい」という内容だ。近藤氏は「当時より進歩しているので、そろそろ受け入れて」ということだと思う。道条例は骨抜きにされている。ただ、全国47都道府県で条例があるのは道だけだ。そこで2カ所も候補地ができることを皆さんはどう思うか。
最近話を聞いた専門家は「道は条例があるからこそ、手を挙げやすい」と言っていた。多くの自治体では、現首長は処分場までは反対だが、交付金が欲しいので文献調査に手を挙げる。道は条例があり、知事も反対してくれるので、最終処分地の決定までは行かないだろう。だからこそ手を挙げやすい−と分析していた。なるほどな、と思った。道内で今後も名乗りを上げるところが出てこないとも限らない。
調査受諾で原発マネーの「麻薬」
寿都と神恵内が手を今挙げているのは、2年間の文献調査という第1段階。自ら手を挙げた寿都と、国が申し入れた神恵内の2パターンがある。その後、4年間の概要調査、10年間の精密調査、処分場建設という流れになる。国の資料は今も、精密調査を決めるのは平成20年代半ば、第3段階は平成40年前後をめどとしている。国の計画は完全に破綻しているが、そのまま通している。
神恵内村はほとんどが不適地だが、国は、海底下での処分も考えている。ごくわずかな陸上適地に施設を作って、そこから海にトンネルを掘り、海の底の下で処分するならできると国は言っている。
寿都町は人口2907人、本年度の一般会計52億円。神恵内は823人、35億円。財政規模の小さいマチに押しつけようとしている。文献調査を受け入れると、2年間で最大20億円が入ってくる。520万円の年収の人に100万円が入れば、それなしでは生きていけなくなる。財政がまひしてしまう。まさしく麻薬だ。しかも文献調査は、現地で行うのではなく、東京でパソコンを見て資料を調べるだけ。国は最近、「対話の期間」と強調しており、原子力マネーを実感させる期間と考えている。
候補地を手放したくない経産省
国は、核ごみ処分にかかる費用を総額3.9兆円と言っているが、全然足りないと思う。福島事故後、電力11社で工事費は5兆円以上かかっている。福島第1の後始末、廃炉、賠償などにかかる費用は16年末試算で21.5兆円だ。福島の後始末は何も生み出すものではないが、皆さんの電気料金からも回っている。
20兆円と20億円を比べると、原子力ムラから見ると、微々たるもの。小さい村が喜んでくれるなら、20億円なんて簡単なものだ。自治体からどんどん手が上がって、もし10カ所20カ所になっても、20カ所でも400億円。痛くもかゆくもない。その構図が原子力ではとても問題だ。過疎の村に原発を造るには巨額が投じられてきた。今後、処分場もカネの力に任せた形で進むのではないかと危惧している。
2000年の核ごみ処分に関する法律には「経産相は概要調査で知事、市長の意見を聞き、尊重せねばならない」と書かれており、鈴木知事は「概要調査に行くなら反対する」と明言している。「十分に尊重」というなら、反対するならやめるのかという問題になる。9月2日に梶山経産相から片岡寿都町長に届いた手紙には「途中で反対すればやめられる」と書いてあった。ただ、その直後に道新は「知事が反対しても国はその場所を諦めるわけではない」という記事を書いた。経産省は激怒したが、「白紙撤回する」とは決して言わない。なぜなら、反対している間は先に進まないが、知事も首長も代わる。あるいは代えればいいということだ。
この記事が出た後、道庁が経産省に問い合わせた。担当者は「最終処分場法上の処分地選定プロセスから外れることになる」と9月中旬以降、言い出した。初めて出てきた話だ。あえて入れたかもしれないが、「プロセスから外す」と言っても、次の段階で戻す可能性もある。白紙撤回とは決して言っていない。
関心を持ち続けてほしい
道新データベースによると、「核のごみ」が出た記事は19年に104件だったが、寿都の応募が表面化した8月13日以降で519件に上った。一方で、「原発」は11年に10539件あったが、19年は1000件台にまで減った。新聞は読者の反応で記事の取り上げ方も変わる。世間の関心を反映していると思う。核のごみも長い時間がかかる。調査だけで20年間かかる。関心を持ち続けてほしい。
私たちはどう考えるべきか。これ以上やっかいな核のごみを増やさないように原発はやめるべきではないかという議論が出ると、国は「そこは切り分けて」と言う。国は「対話」と言って「理解」を求めようとするが、対話は、相手が言ったことに反論できる関係でないとできない。もう一つ、原発の恩恵を受けてきたから一人一人が自分事として考えるべき問題なのか。北海道には核燃料があるのに、ごみは嫌と言えるのか。私にも結論がないので、皆さんご自身に考えてもらいたい。
道には省エネ新エネ促進条例というものがある。そこには「原子力は過渡的なエネルギーで、脱原発の視点に立って・・・」と書いている。条例で脱原発の視点というのをうたっている。原発はやめた方がいい。でも、核のゴミの問題はなかなか難しいところがあると思っている。
高田正基
2020年12月01日
【北海道支部】 核のごみ問題で講演会 北海道新聞編集委員・関口裕士さんが語る パート1=高田正基 10月27日、札幌市教育文化会館
メディアも追いつけぬ動き
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向けた文献調査を巡る動きには、なかなかメディアも追いつけていない。寿都町が応募を検討していることを道新が報道して表面化してから2カ月、神恵内に関しては1カ月で国の申し入れを受諾するというトントン拍子で進んでいる。私も書きたいことをいろいろと考えるが、そのタイミングが来る前に次に動いてしまうこともあって、忸怩たる思いをすることがある。
最初に私の基本的なスタンスを話したい。私は基本的に原発をやめた方がいいと思っている。3・11以前から原発について取材しているが、二つの理由を確信として持っているからだ。一つは、事故があったときの被害が大きすぎること。もう一つが、これから話す核のごみが未来に大きな負担を残すことだ。
「非科学的」な特性マップ
高レベル放射性廃棄物を埋められる適地を国が示した「科学的特性マップ」がある。札幌市でも北側の一部は緑色で塗られている、ここは国が最適地というお墨付きを与えた場所。南側のオレンジ色の部分は「ここはやめておこう」という場所だ。国は、200万年前以降に噴火した火山の半径15キロ以内とか、見つかっている活断層の周辺などを不適地と示している。札幌市の場合は、南側で藻岩山が噴火したことがあるということでオレンジ色になっている。
この科学的特性マップは、2017年に国が発表した。全国を4色に色分けしている。核のごみは青森・六ケ所村の再処理工場から海上輸送するので、海に近い方がいいということで、沿岸20キロ以内のところを濃い緑色の最適地と示している。国によると、最適地とは「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い場所」。国もだいぶ気を使っているようだ。
科学的な地図だと言うので、いかにも専門家が議論して決めたように思うが、マップが発表される1週間前に、こんな地図になるのではないかと私が考えて作った地図を道新に掲載した。ほとんど同じだ。科学的特性マップと言うが、いろんな条件を単に拾い上げているだけで、専門家でなくても素人でも資料さえ手に入れば作れるということを示したかったからだ。
「科学的特性マップ」と言われると、専門家が決めたと思いがちで、一般の人はメディアも含めてなかなか反論できない。科学者の持っている資料の方が圧倒的に多いと思ってしまいがちだが、実は全然科学的ではないということを最初に言っておきたい。だから、「おたくの村で受け入れてくれ」という話をされるのは、全くおかしい。神恵内村は、ほとんどがオレンジ色でわずかに緑色があるだけだ。そんなところに国が「処分地になってくれないか」と申し入れた。おかしいと思わないか。
私は、原発はなくした方がいいと思っているが、核のごみをどうすればいいのかということに関しては極めて難しい。すでにある核のごみをどうすればいいかということについては、なかなか答えが出ない。メディア関係者の多くもどうしたらいいかと思っており、きっぱりとした結論を私自身持っているわけではない。ただ、そんな難しい問題なのに、専門家や国、NUMOだったりがあまりにもずさんで、いいかげんで、適当なことをしているということに極めて腹を立てている。
私は10年以上、核のごみについて取材しているが、経産省のこの問題の担当者はもう6代目だ。1年か2年でころころ変わる。それで長期間にわたる核のごみの事業を本当にやれるのかという不信感もある。
20秒で死に至る放射線量
日本では、原発の使用済み核燃料は青森・六ケ所村にある再処理工場に持って行き、再利用できるウランとプルトニウムが取り出される。そして、再処理で残った5%ほどの液体をガラスと混ぜ固め(ガラス固化体)、それを30〜50年冷やした後、金属製の容器に入れて特殊な粘土「ベントナイト」でくるみ、地下300メートルより深い地下に埋めようとしている。それを地層処分と言う。
ガラス固化体は高さ1.3メートル、直径45センチ、重さは500キロ。日本国内では、使用済み核燃料がすべて再処理されると2万6千本分になる。国はまだ原発を再稼働しようとしているので、4万本分にまで増える見通し。それを全国で1カ所に作る最終処分場に埋めようとしている。
ガラス固化体で鍵となる数字が「1500シーベルト」と「10万年」。毎時1500シーベルトはガラス固化体が作られた直後の表面の放射線量だ。2人が被ばくして亡くなった東海村のJCO事故では、多い人で16〜20シーベルト、もう一人が6〜10シーベルトの被ばくだった。人間は7シーベルト分の被ばくをすると、間違いなく死ぬ。核のごみの表面は毎時1500シーベルト。20秒ぐらいで7シーベルトに達する。
札幌の放射線量は今、0.03マイクロシーベルトぐらい。福島第1原発3号機の前で測ると、332マイクロシーベルト。私が行った中で一番放射線量が高いところで700マイクロシーベルトぐらいだった。重装備でないと行けない。1000マイクロシーベルトが1ミリシーベルト。1ミリの1000倍が1シーベルト。さらにその1600倍が核のごみ。どれくらい放射線量が強いかということが分かると思う。
10万年は、核のごみがウラン鉱山にあるウランと同じレベルの放射線に下がるまでにかかる時間。過去にさかのぼると10万年前はネアンデルタール人の時代。言葉も通じない時代だ。1世代を33年と考えると10万年後は3000世代先になる。そこまで負担を残してしまう。東日本大震災は1000年に一度起こる地震、津波と言われたが、10万年の間には100回起こる。こんなものを埋めてしまって大丈夫なのか。
地層処分うまくいくのか
六ケ所村にはすでに、海外で再処理してもらったガラス固化体が2千本以上ある。将来的には4万本分を全国で1カ所作る最終処分場に埋めようとしているが、処分地を探す動きは昔からあった。
海底に投棄する議論もあったし、宇宙に捨てようという議論もあった。しかし、宇宙に運ぶ途中で爆発すれば地上に降り注いでしまうので諦めた。南極の氷の下に埋めてしまおうという氷床処分も真剣に考えられた。
しかし、三つともダメだったので、世界的には今、地下深くに埋める地層処分が考えられている。原子力資料情報室共同代表の西尾漠さんは「危険の埋め捨てだ。危ないものを地下に埋めておくのは良くない。時限爆弾のようなものだ」と批判しているが、地層処分の推進を研究している原子力安全研究協会技術顧問の栃山修さんは「安全のための隔離だ。今、原発の利益もあるうちに、その金を使って地下深くに埋めれば、将来世代に負担を掛けなくて済む」と言っている。なかなか結論が出ない話だ。日本でも地層処分を国策で進めているが、日本学術会議は2015年に「地下に埋める技術は確立しておらず、国民の合意形成もできていないので、原則これから50年は地上で保管すべきだ」という提言もしている。
狙われ続けてきた北海道
北海道は昔から、核のごみの処分地として国や電力会社に狙われ続けてきた。1980年代には動燃の極秘調査で、処分場の適地として道南の一部やオホーツク海側の猿払村辺りが挙げられた。それにつられて興部町では、住民が町に処分地に手を挙げるよう陳情した。代表を務めた生コン会社の社長になぜ応募を働き掛けたかと聞くと「生コン売れるべさ」。あからさまだ。適地には挙げられていないが、夕張商工会議所も2008年、市長に出した「地域振興に関する検討について」という要望書に、自衛隊基地誘致やカジノ誘致とともに高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致を盛り込んだ。
全国では、高知県東洋町が2007年、実際に処分地調査を受け入れると応募した。しかし、町民から反対の声が上がり、出直し選挙で現職町長が大敗して、次の町長が応募を取り下げた。全国の地図を見たら、本当に端っこばかり。辺境、過疎、財政難の自治体、そういうところが手を挙げてしまう。国もそういうところを目掛けてやってみないかと言い続けてきた歴史がある。
北海道で興部や夕張よりも関係が深いのが、核のごみを処分するための技術を研究している幌延深地層研だ。全国ではもう1カ所、岐阜県瑞浪市でもやっているが、2022年で研究をやめるので、幌延だけが残る。今、地下350メートルまで掘っている。1980年に幌延町長と町議が福島第1原発を視察し、2年後に町長が放射性廃棄物施設の誘致を表明。動燃が84年に貯蔵工学センター計画を公表した。これは、道民の反対運動を受けて撤回したが、2000年に地層処分の法律制定後、核のごみは持ってこないが研究だけしようということで設置が決まった。
80年代の幌延では、反対運動がさかんだった。当時、動燃が開いた住民説明会では、「核のごみから放射線が出ると、医療機器の殺菌ができる、汚泥を改良できる、ばい菌が死ぬ」といった資料を配っていた。核のごみはすごい熱が出るので、持ってくればロードヒーティングも無料、温水プールも無料と住民に説明して回った。その程度のばかばかしい説明を続けていたことが腹立たしい。
8月に、新潟・旧巻町を取材で訪れた。巻原発建設に関する全国初の住民投票が行われ、住民の意思で原発を拒否した。今、寿都町内でも住民投票の動きがある。住民投票は公選法の縛りが掛からないので、お金があるところが広告を打つし、いろんな行動をする。寿都で住民投票が始まれば、NUMOや北電が町民向けにチラシを配布したり、テレビCMをやったり、説明会を開いたりなどということも起きてくると思う。住民投票となれば、国やNUMOの人が「こんなに安全だ、こんなに多重防護しているので放射能の心配はない、こんなに経済効果がある、恩恵がある」という説明を繰り返すだろう。
高田正基
2020年07月21日
【支部リポート】 北海道 2年ぶり 総会を開催 例会活性化などを提起=山田寿彦
北海道支部は6月13日、2020年度総会を札幌市内で開き、今年度の活動方針案、予算案などを決めた(写真)。総会開催は2年ぶり。代表委員に林秀起(朝日新聞OB、再任)と高田正基(北海道新聞OB、新任)、事務局長に山田寿彦・毎日新聞OBを選出し、この間の活動の停滞と支部立て直しに向けて意見交換した。
18〜19年度の総括として、歴史修正主義との闘いを継続している「植村裁判」への会員個々の支援を通してさまざまな市民運動との連携・協力関係を構築できたことを評価。一方で、昨年7月の参院選の際、安倍首相の札幌市内での街頭演説にヤジを飛ばした市民が警察権力に排除された問題に「支部として機敏に対応できなかった」点を「痛恨の反省事」とした。
支部主催の活動として望月衣塑子・東京新聞記者講演会、野田正彰氏講演会「優生手術の推進者は誰か〜大学精神科が犯した罪」、沖縄への公募記者派遣と報告会の取り組みなどを挙げた。
今年度の活動方針に「例会の活性化、他組織との連携強化」「事務局体制・情報発信の強化」「財政基盤の確立」を掲げた。
例会活性化については「市民の注目を集める講演会やシンポジウムだけではなく、会員や読者が講師にもなる気楽な勉強会や懇談会」を積極的に企画していくことを盛り込んだ。
新型コロナウイルスの感染防止のため、多くの参加者を集める従来型のイベント開催は札幌においても極めて困難になっている。こうした状況下での効果的な情報発信のためにはホームページやSNSの活用、イベントを「やりっぱなし」にするのではなく、デジタルコンテンツとしてのデータベース化にも取り組まなければならない。
機関紙も一件一件の封筒詰めと郵送というアナログ作業の軽減化を図り、可能な限りPDF送信に切り替える必要がある。「パソコンは苦手だから」では済まされない環境がコロナ禍により加速度的に深化しそうな現実を見据えなければ、JCJの活動は停滞を免れない。そんな危機感を共有する総会となった。
山田寿彦
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号
2017年02月25日
【支部リポート】多様なテーマで講演会を開く=岩井善昭
沖縄調査団報告集会は16年12月19日に開催。市民85人が参加した。川村さんが映像を交えて現地の状況を報告したほか、沖縄の問題に詳しい堀元進医師、橋本祐樹弁護士を弁士に迎え、徃住事務局長が司会し沖縄でいま何が起きているかを討論した。
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2008年10月19日
「財政再建」のマチ、肌で実感=夕張でJCJ全国交流集会
日本ジャーナリスト会議は10月4、5の両日、5年ぶりとなる全国交流集会を夕張市内で開いた。北海道支部のほか、東京、東海、広島、徳島のJCJ会員ら32人が参加、財政破綻に伴い2年前に「財政再建団体」として新たなスタートを切ったばかりの夕張で、初日は「炭都」と呼ばれた時代を振り返る取材ツアーを実施。夕張再生に向けて奮闘する市民を交えた2日目のパネル討論では、パネリストから洪水のような一連の「夕張報道」に対する厳しい問題提起を受け、参加者は、地域からの情報発信という今後のメディアのあり方について認識を新たにした。
2008年06月05日
06・07 G8洞爺湖サミットを前に考える「サミットで強化、固定化される監視社会」
―JCJ北海道支部6月例会のご案内―
日 時:6月7日(土)午後3時から5時
会 場:北海道クリスチャンセンター301号室(札幌市北区北7西6)
参加費:無料
講 師:清水雅彦さん(札幌学院大学法学部教授)
G8北海道洞爺湖サミットを控え、道内では歓迎ムードが演出されている一方で、「テロ防止」を掲げて各地で訓練が実施されたり、地下鉄駅や公共施設に監視カメラが増設されるなど、緊張感を高める動きも加速しています。この例会では、サミットを口実にして強化、固定化されようとしている「監視社会」の実態とその問題点について、治安政策に詳しい清水さんにご講演いただきます。
問い合わせ先:
日本ジャーナリスト会議北海道支部
Eメール:hokkaido@jcj.gr.jp
入国審査強化は日本人社会にもつながる問題=JCJ北海道支部
―G8サミットを前に学習会 難波弁護士が「監視強化」の可能性指摘―
JCJ北海道支部は、北海道洞爺湖サミットに向けた学習会「G8サミットと外国人の入国」を五月二十五日、札幌市中央区の「かでる2・7」で開いた。講師に招いたサミット人権監視弁護士ネットワーク「WATCH」事務局次長の難波満弁護士(東京)は、指紋読み取りや顔画像撮影システムが昨年から導入されるなど、入国審査が強化されている現状について「情報がデータベース化され、各国が犯罪捜査で共有することも遠くないうちに現実化する。これは外国人だけの問題ではなく、日本人自身にもつながる問題だ」と指摘。監視強化に対して「市民社会という観点から再認識していくことが必要だ」と語った。【JCJ北海道サイト発】
JCJ北海道サイトに飛びます。難波弁護士の講演要旨も読むことができます。
2007年09月05日
09・07−09 市民メディアサミット07 札幌で開催
インターネットやデジタルメディアが高度に普及する中、市民からの情報発信が急速に成長している。
市民からの情報発信の在り方を考える「市民メディアサミット」が04年の名古屋を皮切りに、これまで4回開催されてきた。その「07」
年版が9月7日から9日まで札幌市などで開かれる。【編集部】
第5回市民メディア全国交流集会@北海道07 詳細ページ
http://07hokkaido.alternative-media.jp/nucleus/
市民メディアの役割は 7日から札幌でサミット(北海道新聞)
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/society/47576.php