2020年04月08日

3・11から10年目 福島「回復」すら程遠い 剥奪された古里 的外れ復興計画=伊東達也

 事故発生から10年目に入った福島では、安倍政権が掲げた「復興五輪」の象徴として、もともと東電が作り福島県に無償で引き渡したサッカー練習場「Jヴィレッジ」が聖火リレーの出発地とされた。3月14日には東京―仙台間の常磐線の全線が9年ぶりに開通。しかし現地は、復興どころか、いまだ「回復」にも程遠いのが実情である。
関連死2千人
 まず、東京都23区のほぼ半分の広さが帰還困難地域に指定されたままで、約2万2800人(最新の住民登録数)には、まる九年経っても帰還宣言が出ていない。今後の除染計画は地域のごく一部だけで、このままでは多くの人がふる里を「剥奪されたまま」にされてしまう深刻な事態である。
 さらに、帰還宣言が出た地域で「居住者」は28%と少なく、特に比較的人口が多かった3町では数%台。地域社会はまともに機能できていない。
 そして避難指示区域内外を問わず、人々は長期避難で人生をすっかり狂わされたばかりか、健康を損ねたうえに、様々な苦悩や不安の中に置かれている。
 その一端は直接死1605人に対し、震災関連死が2306人と大幅に上回っていることや、孤独死約70人、自殺115人などにも表れている。
国の責任断罪
 180万の県民が生業の基礎としてきた農・林・漁業や、観光業などは大きな打撃を受け、9年経っても事故前の水準に戻っていない。豊かな福島の自然を活用できていない。
 また、使用済み核燃料すら取り出せないでいる廃炉作業の危険や放射線被曝による不安など平穏生活権を阻害されている人は少なくない。
 それなのに、避難指示区域外の避難者の無償住宅支援は2017年3月、営業損害賠償は2017年7月に、避難指示区域内では解除とともに、精神的賠償は2018年3月で原則打ち切りとなった。
 事故の法的責任と損害賠償を求める集団訴訟はこれまで高裁2件を含めて16件の判決が出ているが、このうち国を被告にしている11件のうち7地裁が国の責任を断罪した。また15件が賠償基準を超える損害を認定している。
転換を求める
 今後、勝利判決をテコに、新たに裁判に加わらなかった人に呼び掛ける運動や、国に法的責任を認めた原発事故被災者・被災地救済の枠組み作りを求める運動がいよいよ大切となってくる。政府は2019年12月、2021年度以降に向けた「復興の基本方針案」を決めた。
 その中には、国の復興庁は10年間継続するが復興予算は大幅に減らすことや、原発被害が続いている福島県の事業では惨事便乗型の「イノベーション・コースト構想」を続行する一方、12市町村の旧避難区域に設定された医療と介護保険料の減免措置は見直すことが盛り込まれた。
 いま、復興のために何よりも求められているのは、住民の生活の復興であり、地域農林水産・商工業、医療・介護体制などへの支援である。今後とも復興政策の転換を求める闘いは続く。
伊東達也(原発問題住民運動全国連絡センター代表委員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号

posted by JCJ at 13:33 | 東北 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする