■開催趣旨:
原爆投下から79年目。広島市の平和公園は、警察による厳重警備のなかで平和記念式典が営まれました。長崎市では、イスラエルの代表を式典に招待しなかったことに抗議して、米英などG7諸国が大使級の代表を送らない事態になりました。核戦争の危機が現実化しているなかでヒロシマ、ナガサキの運動を妨げようとする動きが露骨になってきたと感じます。
いま何が起きているのか。ジャーナリズムに何が求められているのかーー市民とともに考えます。
多数ご来場ください。オンライン視聴もできます。
■プログラム:
◎基調講演
「ヒロシマ・ナガサキ」を問い直す〜被爆100年に向けて〜
高瀬 毅さん(ジャーナリスト、ノンフィクション作家)
◎市民討論
■講演者プロフィール:高瀬 毅 (たかせ つよし)
1955年長崎市生まれ。被爆二世。ノンフィクション作家。ニッポン放送に入社、記者、ディレクター。82年ラジオ・ドキュメンタリー「通り魔の恐怖」で日本民間放送連盟賞最優秀賞。放送文化基金賞奨励賞。89年よりフリー。『ナガサキ消えたもう一つの「原爆ドーム」』(2009年平凡社・のちに文春文庫)で平和・協同ジャーナリスト基金賞奨励賞。『ブラボー隠されたビキニ水爆実験の真実』『東京コンフィデンシャル』など著書多数。ピース・ボート講師として7回乗船。マーシャル諸島、タヒチ諸島の核実験被曝者取材。戦争加害問題で南京取材。
YouTubeニュース解説チャンネル「デモクラシータイムス」で政治学者、白井聡氏と対論する「白井聡のニッポンの正体」が河出書房新社で書籍シリーズ化され、2023年、24年版(共著)を刊行。
■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部
■会 場:広島弁護士会館 3階 大会議室(広島市中区上八丁堀2–73 ※広島城の東側)
■開催方式:9月15日(日)13:30〜16:30(会場リアルとzoomでのオンラインのハイブリッド開催。オンラインでの参加者には記録動画の配信有り)
■参加申し込み:会場参加、オンライン参加共に資料代 500円。(会場参加:学生・障がい者は無料)
https://jcj0915.peatix.com
■主催:日本ジャーナリスト会議広島支部(お問い合わせ先:090‑9060-1809(藤元))
https://jcj-hiroshima.jimdo.com/ 日本ジャーナリスト会議広島ホームページ
https://note.com/jcj_hiroshima/ 広島ジャーナリスト通信
■協賛:広島憲法会議、広島県文化団体連絡会議、広島県労働者学習協議会、広島マスコミ九条の会
2024年08月26日
2024年07月28日
【JCJ広島支部】学習交流会 日鉄呉跡地の軍事拠点問題を考える会参加者発言2=編集部
保革を超えた運動 伊波 洋正さん
昨年12月に突如持ち上がった、うるま市石川のゴルフ場跡地に自衛隊の訓練場を設置する計画は今年4月、木原防衛相が計画断念を表明するに至った。「市民の会」の運動によってそれを勝ち取った要因は、第1に地元自治会がいち早く反対を表明し最後までその姿勢を貫き通したこと、その背景には1959年の地元小学校近くに米軍機が墜落し、17人が死亡した悲惨な事故の記憶がある。第2は、それを全市の自治会を中心として地域全体の反対運動へと広げていったこと。第3には、自衛隊の動きの是非ではなく住環境を脅かす問題として、保革を超えた運動となり県民多数の共感を得たことだ。また、議会や行政への働きかけを精力的に行い防衛省への圧力を強めたことに加え、マスコミが問題を丁寧に拾い上げ全県に発信してくれたことも大きい。岸田政権が大軍拡に突き進む中で、このうるま市の闘いが現状を変えるターニングポイントになればと願っている。
世論で政治動く 又吉 朝香さん
記者5年目で今、うるま市の担当をしている。「陸自、うるまに訓練場」の一報があって以降、どんな思いで、どんな報道をしてきたかを話したい。木原防衛相の撤回表明に至る4カ月弱の間、活動家だけでなく幅広く一般市民の声を紙面に反映させることを心がけ取材してきたが、中でもとても印象に残ったのが、2月に防衛省が開いた住民説明会で質問に立った高校1年の女子生徒。静かな住環境が脅かされるのではないか、小学生が登校するのに使う小道を自衛隊車両が通行して安全なのかと、中学時代の「公民」の教科書を持ち込んで「憲法に反するのではないか」と問い詰めた。その勇気と問題意識の高さ、事態を「自分事」として捉えていることに感心した。当初は賛否を明らかにしていなかった市長や自民党県連などが反対に転じたのも、選挙を控え世論を気にしたから、つまり自分事として考えたからではないか。この取材を通じて「市民の声で政治は動かせるんだ」と実感した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
2024年07月27日
【JCJ広島支部】学習交流会 日鉄呉跡地の軍事拠点化問題を考える会参加者発言1=編集部
軍部復活させぬ 森 芳郎さん
昨年9月末に閉鎖された日鉄呉跡地約130fを防衛省が一括購入して「多機能な複合防衛拠点」をつくろうとしている。呉市議会や経済界には「停滞感のある呉には明るいニュース」とする声も多い。日鉄は「社の方針に合致する」と防衛省の意向を評価し、県・市との三者協議にも不参加を表明している。
だが、戦中の呉を思い起こし不安を訴える声も少なくない。4月7日発足の「日鉄呉跡地問題を考える会」は、市民の危惧を受け「子どもたちの将来のためにどのような跡地活用が最善なのか」を市長に問う署名に取り組んでいる。
このまま計画が進めば、海上自衛隊呉基地は南西諸島に戦車や弾薬を運ぶ「海上輸送群」の新設に加え、大規模な兵站も備えた軍事拠点となってしまう。
呉には、旧軍港市転換法によって平和産業港湾都市として復興してきた歴史がある。呉を戦前のような軍都に戻させないために全力を挙げる。
進む日米一体化 久米 慶典さん
岩国基地には現在、常駐の米海兵隊航空部隊のほか、米海軍の空母艦載機と米空軍が一時的に展開。海上自衛隊も配備され、米軍の統合基地化が進んでいる。「本土の嘉手納化」だ。
米軍約120機、自衛隊約35機の常駐は嘉手納を上回り極東最大級。米軍の新しい世界戦略、とりわけ対中国、ロシアのさまざまな重要任務を持つ出撃拠点となっている。その中で、呉に新たな「防衛複合施設」をつくる目的は何か。
広島湾一帯には岩国基地の他、呉の海自基地や広弾薬庫、秋月弾薬庫、川上弾薬庫、陸自第13旅団があり、日米の軍事施設集積地帯化が進む。
岩国基地と呉基地の距離は直線で約30`。岩国の海自掃海ヘリは呉の掃海艇とセットで運用される。日鉄跡地の新施設はその強化と日米共同作戦体制が進む中で地域全体の出撃拠点化を図るのが目的。呉の「防衛複合施設」化は、広い意味で米軍岩国基地の機能強化に他ならない。
市の姿勢を問う 湯浅 正恵さん
今、「平和」という言葉を「安全保障」に言い換えて戦争する国へと転換しようとしている。戦争するには、国民が「国家のためなら命の一つや二つ失ってもしようがない」「我が身を守るためなら他者の命を奪っても仕方がない」と思える大きな価値観の転換が必要だ。イスラエルのガザ侵攻はまさにそれで、自分たちの国を守るのはパレスチナ人の人権よりずっと大切だという考え方に基づくものだ。ジェノサイドは許されず、黙っていてはいけない。その思いで私たちは昨年10月13日から毎夕、原爆ドーム前に立って声を上げている。ところが、「国際文化平和都市」を名乗る広島市はイスラエルに抗議しないばかりか8・6式典には招待するという。いくつかの疑問点を挙げ公開質問状として出したが、市は「外交は国の専権事項」として独自の判断は避け、2万5千筆の署名も添えて求めたのに式典への招待を取り止めようとはしない。軍拡に走る国に追随していく広島市であってよいのか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
2024年07月26日
【被爆79年】広島市が公表の報道資料概要と広島大学名誉教授(行政法)・田村和之さんの話=JCJ広島支部
8月6日、式典(午前8時〜同50分)開始3時間前の午前5時から、開始後の9時までの4時間、公園利用者の入場を規制する。午前5時になると、公園内にいる人たちに、公園の外に出るよう要請する。午前6時30分になると、式典参列者の入場を開始する。参列者は会場入り口(6カ所)で、手荷物検査を受けて園内に入り、参列者席入り口(1か所)で金属探知検査を受ける。参列者席のうち、先着順である被爆者・遺族席(約1600席)と一般席(約1200席)は定員に達した時点で入場不可とする。
この間、式典会場の中央にある原爆慰霊碑への参拝を希望する者については、午前5時から7時までの2時間、専用出入り口と専用通路を使って手荷物検査と金属探知検査なしに参拝ができるようにする。
以上のような入場規制をしたうえで、公園内においては、午前5時から9時までの間、次のような行為を禁止する。
危険物、大きな音を発するもの(マイク・拡声機・楽器類等)、プラカード・ビラ・のぼり・横断幕等、式典の運営に支障を来すと判断されるものの持ち込み▼ゼッケン・タスキ・ヘルメット・鉢巻等の着用▼小型無人機(ドローン等)の飛行▼ものを投げる、大きな声を発する、立ち入り不可エリアに無断で侵入するなど、式典の妨げとなると判断される行為▼他の公園利用者の通行その他の公園の利用に支障を来すと判断される行為(例示された具体例は省略)◆公園の利用者間の調整を図るために市職員等が実施する警備に支障を来すと判断される行為(具体例は省略)
専制行政 猛省を
広島市の平和記念公園は、都市公園法上の都市公園で、地方自治法244条にいう公の施設だ。広島市は平和記念公園設置条例を制定していないので、同公園の管理は「広島市公園条例」の定めにより行われる。広島市公園条例6条は、公園の損壊などにより利用が危険である場合、公園工事のためやむを得ない場合その他管理上必要がある場合、「公園の利用を禁止し、または制限することができる」と定める。8・6規制がこの場合にあたらないことは言うまでもない。今年の平和記念公園の入園規制は公園条例に背くものであり、問題である。
法的根拠がなくても、都市公園の入園を制限できるのか。答えは「ノー」である。誰でもいつでも自由に利用できる都市公園の「使用の自由」を制限する場合は、法的根拠に基づかなければならない。広島市がやろうとしていることは、専制行政(支配)ともいうべきもので、猛省を求めたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
この間、式典会場の中央にある原爆慰霊碑への参拝を希望する者については、午前5時から7時までの2時間、専用出入り口と専用通路を使って手荷物検査と金属探知検査なしに参拝ができるようにする。
以上のような入場規制をしたうえで、公園内においては、午前5時から9時までの間、次のような行為を禁止する。
危険物、大きな音を発するもの(マイク・拡声機・楽器類等)、プラカード・ビラ・のぼり・横断幕等、式典の運営に支障を来すと判断されるものの持ち込み▼ゼッケン・タスキ・ヘルメット・鉢巻等の着用▼小型無人機(ドローン等)の飛行▼ものを投げる、大きな声を発する、立ち入り不可エリアに無断で侵入するなど、式典の妨げとなると判断される行為▼他の公園利用者の通行その他の公園の利用に支障を来すと判断される行為(例示された具体例は省略)◆公園の利用者間の調整を図るために市職員等が実施する警備に支障を来すと判断される行為(具体例は省略)
専制行政 猛省を
広島市の平和記念公園は、都市公園法上の都市公園で、地方自治法244条にいう公の施設だ。広島市は平和記念公園設置条例を制定していないので、同公園の管理は「広島市公園条例」の定めにより行われる。広島市公園条例6条は、公園の損壊などにより利用が危険である場合、公園工事のためやむを得ない場合その他管理上必要がある場合、「公園の利用を禁止し、または制限することができる」と定める。8・6規制がこの場合にあたらないことは言うまでもない。今年の平和記念公園の入園規制は公園条例に背くものであり、問題である。
法的根拠がなくても、都市公園の入園を制限できるのか。答えは「ノー」である。誰でもいつでも自由に利用できる都市公園の「使用の自由」を制限する場合は、法的根拠に基づかなければならない。広島市がやろうとしていることは、専制行政(支配)ともいうべきもので、猛省を求めたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
2024年07月05日
【JCJ広島リポート】「もはや戦争前夜」出撃態勢の機能強化 日鉄呉跡地を軍事拠点にするな 広島支部が学習交流会=井上俊逸
「日鉄呉跡地 止めよう軍事拠点計画 〜呉・岩国・沖縄・広島を結び考える〜」と題した学習・交流会が5月25日、広島市内で開かれた。JCJ広島支部が2024年度総会の後、一般市民にも公開して開催。オンライン視聴を含め約50人が参加し、加速する「戦争する国」への流れをどう食い止めるか、報道のあり方とも併せて議論した。
初めに、司会進行役を務めた筆者がこの会を企画した趣旨を説明。「ここまで来たのか、戦争準備は!もはや『新たな戦前』どころか『戦争前夜』の様相だ。呉では閉鎖された日本製鉄の土地を防衛省が買い上げ、軍事拠点に使おうとしている。『軍都復活』の動きが公然化してきた。片や、米軍岩国基地では日本の自衛隊と一体となって軍事作戦を展開する態勢が着々と整えられている。これらが『軍事要塞化』と表現される沖縄・南西諸島の自衛隊基地の新設・装備増強とどう繋がっているのか」と問題提起し、「再び戦争のためにペンをとらない」を合言葉に活動しているJCJとしては、こうした状況をメディアはどう報道すべきかといことも含めて、みなさんと一緒に考えてみたいと呼びかけた。
引き続き、「日鉄呉跡地問題を考える会」の森芳郎さんをトップに、岩国の「瀬戸内海の静かな海を守る住民ネットワーク」の久米慶典さん、沖縄からオンラインでうるま市の「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める市民の会」の伊波洋正さんと沖縄タイムス記者の又吉朝香さん、「広島パレスチナともしび連帯共同体」の湯浅正恵さんの順で、それぞれ報告があった。
この後、参加者からの質問や意見を交えて議論を深め、最後に久米さんの「呉の問題は岩国の問題であり、もちろん沖縄を含めて日本全体の問題でもある」という認識を共有して締めくくった。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年6月25日号
2024年04月14日
【オピニオン】広島平和公園との姉妹協定 真珠湾 まさに戦争記念館 戦争づくしの地ならし=山根岩男(広島支部)
潜水艦博物館
昨年6月29日市民や市議会に何の説明もなく広島平和記念公園とハワイ真珠湾の「パールハーバー米国立公園」の姉妹公園協定が結ばれた。平和公園の象徴「原爆ドーム」の世界遺産登録に強く反対した米国がなぜ、広島に姉妹公園協定申し入れをしてきたのか――。
私を含め5人のメンバー広島県被団協(佐久間邦事長)平和公園ガイド団有志は1月20日から24日、「パールハーバー米国立公園」を訪れた。
百聞は一見に如かず。米国ハワイ州の同公園所在地は米国インド太平洋軍のパールハーバー・ヒッカム統合基地で、各施設はまさに「戦争記念館」だった。旅行会社の案内にも「軍事施設の一部」とあった。「入館」にあたっては、兵士のチェックを受けた。荷物の持ち込みは原則禁止(財布やスマホは透明な小袋に入れる)。ビジター・センターに入ると地面には世界地図が描かれ、音声ガイドは、「米国の命運は真珠湾にかかっている」と戦争に備える軍事態勢の重要性を強調していた。
アリゾナ記念館は旧日本軍の真珠湾攻撃で海底に沈んだままの戦艦アリゾナの真上に、ちょうど十字の形になるように海面に浮かび、東京湾で戦争終結の調印をした戦艦ミズーリ号と向き合っていた。米国にとっての太平洋戦争の「始まり」と「終わり」を示しているかのようだ。
太平洋潜水艦博物館には疎開学童が乗った「対馬丸」を撃沈した潜水艦ボーフィン号を係留され、艦橋には沈めた数が「日の丸」で描かれていた。館内には冷戦時代から現在、そして未来への核兵器・核ミサイル開発の歴史展示。目についたのは「WAR」の文字だ。「原爆の子の像」のモデルになった佐々木貞子さんの「折り鶴」もあったが、広島・長崎への原爆投下も放射線被害のの記述もなかった。
日ごろ核兵器のない世界をめざし広島平和公園で修学旅行生などに「ノーモア・ヒロシマ」「核兵器廃絶で平和を」と訴えている私たちガイドは、広島とパールハーバーの違いを痛感した。
両公園の姉妹協定は、米政府が5月のG7サミットを機に強く広島市に締結を求めてきたものだ。広島市はサミット前に平和学習の教材から『はだしのゲン』と「第五福竜丸事件」を削除した。G7広島サミット開催を前に平和学習の教材から削除した。公園の姉妹協定締結後は、「未来志向の和解」を強調し、2024年度から若者・被爆者の「交流」を始めようとしている。
広島市。教材改訂によって、米国による原爆投下の責任を棚上げにしたばかりか、広島市長は過去12年間にわたり、職員研修で「教育勅語」を引用してきた事実も明らかになった。
この一連の動きは米国の原爆投下責任を免罪にして日米軍事同盟を強化し、現実に日米一体の戦争態勢づくりを進めるための地ならしにほかならない。広島市長による過去12年にわたる「教育勅語」の職員研修への引用と併せて市民への説明が求められる。
JCJ広島支部は市民討論会を3月31日に開き、この姉妹公演協定を問う。討論は、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)とともに行い、後日、内容を詳報する。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
昨年6月29日市民や市議会に何の説明もなく広島平和記念公園とハワイ真珠湾の「パールハーバー米国立公園」の姉妹公園協定が結ばれた。平和公園の象徴「原爆ドーム」の世界遺産登録に強く反対した米国がなぜ、広島に姉妹公園協定申し入れをしてきたのか――。
私を含め5人のメンバー広島県被団協(佐久間邦事長)平和公園ガイド団有志は1月20日から24日、「パールハーバー米国立公園」を訪れた。
百聞は一見に如かず。米国ハワイ州の同公園所在地は米国インド太平洋軍のパールハーバー・ヒッカム統合基地で、各施設はまさに「戦争記念館」だった。旅行会社の案内にも「軍事施設の一部」とあった。「入館」にあたっては、兵士のチェックを受けた。荷物の持ち込みは原則禁止(財布やスマホは透明な小袋に入れる)。ビジター・センターに入ると地面には世界地図が描かれ、音声ガイドは、「米国の命運は真珠湾にかかっている」と戦争に備える軍事態勢の重要性を強調していた。
アリゾナ記念館は旧日本軍の真珠湾攻撃で海底に沈んだままの戦艦アリゾナの真上に、ちょうど十字の形になるように海面に浮かび、東京湾で戦争終結の調印をした戦艦ミズーリ号と向き合っていた。米国にとっての太平洋戦争の「始まり」と「終わり」を示しているかのようだ。
太平洋潜水艦博物館には疎開学童が乗った「対馬丸」を撃沈した潜水艦ボーフィン号を係留され、艦橋には沈めた数が「日の丸」で描かれていた。館内には冷戦時代から現在、そして未来への核兵器・核ミサイル開発の歴史展示。目についたのは「WAR」の文字だ。「原爆の子の像」のモデルになった佐々木貞子さんの「折り鶴」もあったが、広島・長崎への原爆投下も放射線被害のの記述もなかった。
日ごろ核兵器のない世界をめざし広島平和公園で修学旅行生などに「ノーモア・ヒロシマ」「核兵器廃絶で平和を」と訴えている私たちガイドは、広島とパールハーバーの違いを痛感した。
両公園の姉妹協定は、米政府が5月のG7サミットを機に強く広島市に締結を求めてきたものだ。広島市はサミット前に平和学習の教材から『はだしのゲン』と「第五福竜丸事件」を削除した。G7広島サミット開催を前に平和学習の教材から削除した。公園の姉妹協定締結後は、「未来志向の和解」を強調し、2024年度から若者・被爆者の「交流」を始めようとしている。
広島市。教材改訂によって、米国による原爆投下の責任を棚上げにしたばかりか、広島市長は過去12年間にわたり、職員研修で「教育勅語」を引用してきた事実も明らかになった。
この一連の動きは米国の原爆投下責任を免罪にして日米軍事同盟を強化し、現実に日米一体の戦争態勢づくりを進めるための地ならしにほかならない。広島市長による過去12年にわたる「教育勅語」の職員研修への引用と併せて市民への説明が求められる。
JCJ広島支部は市民討論会を3月31日に開き、この姉妹公演協定を問う。討論は、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま、核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)とともに行い、後日、内容を詳報する。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年04月11日
【支部リポート】広島 松井市長に中止要請 「教育勅語」引用の講話=井上俊逸
広島支部は2月16日、教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま(教科書ネット・ひろしま)と連名で、広島市の松井一実市長に対し、新規採用職員や新任課長の研修で長年続けている「教育勅語」を引用した講話の中止を要請するとともに、教育勅語を評価する市長の見解をただす質問書を提出した。
この問題が新聞報道で明るみに出た昨年12月、支部はいち早く松井市長に抗議し、教育勅語の不使用を求める声明を発表、市長に届けた。その後、教科書ネットをはじめ、さまざまな市民団体や被爆者団体、広島弁護士会などのほか、多くの市民個人からも同様の抗議や使用中止を求める意見が市には寄せられた。
しかし、市長は今年1月の記者会見でも「私の考え方とかけ離れた議論になっている。どういったものかをちゃんと知ったうえで対処するという大切さを職員に分かってもらうために使っている」と抗議に反発。「教育勅語の英訳を読むと民主主義のすばらしいことが書かれている」などと言い、今後も研修で教育勅語の引用を続ける意向を示した。
このため支部は、教科書ネットが開示請求をして入手した2020年度から23年度までの新任課長研修での市長講話の録画で、教育勅語を引用した部分の発言を同ネットとともに検証。浮かび上がった疑問点などを踏まえ、改めて松井市長に「教育勅語は戦後、国会において排除、失効確認が決議され廃止となっている。また、その文言は現憲法の理念・原則とは相容れないもので、憲法尊重擁護義務を負う公務員たる市長が公務員の研修に用いることは明らかに誤りである」と指摘し、研修での教育勅語引用をやめるよう申し入れた。
併せて次の3点を質問し、文書による回答を求めた。
@引用した教育勅語のどこが民主主義なのか、具体的に説明をA教育勅語全文の結論となる言葉は「天壌無窮のわが帝位の繁栄を守り維持せよ」、つまり天皇のために命を捧げよと命じるものであり、部分的な引用では職員に誤った認識を与えるのでは?B教育勅語は英文が先にあり、それを日本文に、さらに漢文に訳したとする理解は事実誤認ではないか。
これに対して2月29日付であった回答は、ほとんどまともに答えないばかりか、市長名ではなく研修センター長名の回答になっていた。支部と教科書ネットは抗議と再質問を行い、引き続きこの問題に取り組んでいくことにしている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
この問題が新聞報道で明るみに出た昨年12月、支部はいち早く松井市長に抗議し、教育勅語の不使用を求める声明を発表、市長に届けた。その後、教科書ネットをはじめ、さまざまな市民団体や被爆者団体、広島弁護士会などのほか、多くの市民個人からも同様の抗議や使用中止を求める意見が市には寄せられた。
しかし、市長は今年1月の記者会見でも「私の考え方とかけ離れた議論になっている。どういったものかをちゃんと知ったうえで対処するという大切さを職員に分かってもらうために使っている」と抗議に反発。「教育勅語の英訳を読むと民主主義のすばらしいことが書かれている」などと言い、今後も研修で教育勅語の引用を続ける意向を示した。
このため支部は、教科書ネットが開示請求をして入手した2020年度から23年度までの新任課長研修での市長講話の録画で、教育勅語を引用した部分の発言を同ネットとともに検証。浮かび上がった疑問点などを踏まえ、改めて松井市長に「教育勅語は戦後、国会において排除、失効確認が決議され廃止となっている。また、その文言は現憲法の理念・原則とは相容れないもので、憲法尊重擁護義務を負う公務員たる市長が公務員の研修に用いることは明らかに誤りである」と指摘し、研修での教育勅語引用をやめるよう申し入れた。
併せて次の3点を質問し、文書による回答を求めた。
@引用した教育勅語のどこが民主主義なのか、具体的に説明をA教育勅語全文の結論となる言葉は「天壌無窮のわが帝位の繁栄を守り維持せよ」、つまり天皇のために命を捧げよと命じるものであり、部分的な引用では職員に誤った認識を与えるのでは?B教育勅語は英文が先にあり、それを日本文に、さらに漢文に訳したとする理解は事実誤認ではないか。
これに対して2月29日付であった回答は、ほとんどまともに答えないばかりか、市長名ではなく研修センター長名の回答になっていた。支部と教科書ネットは抗議と再質問を行い、引き続きこの問題に取り組んでいくことにしている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年3月25日号
2024年03月19日
【支部リポート】香川 豊島のその後を聴く 太陽光発電で敗訴=今岡重夫
香川支部は1月20日、瀬戸内海の豊島で環境を守るために活動してきた石井亨さんを迎えて月例会を開きました。
香川県土庄町の豊島は、1960年代から島の西部地域で始まった産廃問題に苦しんできましたが、住民の長年にわたる反対運動で2000年に公害調停が成立。投棄された90万d強の廃棄物処理作業は17年に完了しました。
しかし、処理作業のめどがつくのと前後して、今度は島の東側の唐櫃(からと)地区で太陽光発電事業の計画が浮上。住民たちは21年に完成した太陽光発電施設の撤去を求めて裁判を続けてきましたが、昨年暮、高松地裁は住民の訴えを退けました。
豊島自治会連合会資料をもとに経過を説明した石井さんは、「現行制度の矛盾に門前払いされ、勉強にはなったが、地域共同体の限界を思い知らされた」と話しました。
石井さんによると、新たな闘いの発端は2015年、小豆島のホテルが共有林の隣接地に、電力買い取り保障の認可を受け、発電所を計画したこと。用地造成を巡る産廃不法投棄で住民に刑事告発され業者の有罪が確定。県も業者を自然公園法違反で指導した。
しかし、業者はその後用地を転売。住民は電気事業法による構造基準などに基づいて追及したが、業者が建設を強行したため訴訟に踏み切ることになったという。
裁判は当初の争点だった「違法建設」から、「発電収入」の権利の「費用均衡」だけで判断され、住民側の敗訴に。発電所完成と転売が繰り返されたことが棄却の理由とされました。
住民と自治会は「現時点でも違法」だと確認していますが、「転売で責任が問えない」という制度の矛盾を痛感しており、今はこの事例を報告としてまとめ、経産省に提出すべく作業に取り組んでいるという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
香川県土庄町の豊島は、1960年代から島の西部地域で始まった産廃問題に苦しんできましたが、住民の長年にわたる反対運動で2000年に公害調停が成立。投棄された90万d強の廃棄物処理作業は17年に完了しました。
しかし、処理作業のめどがつくのと前後して、今度は島の東側の唐櫃(からと)地区で太陽光発電事業の計画が浮上。住民たちは21年に完成した太陽光発電施設の撤去を求めて裁判を続けてきましたが、昨年暮、高松地裁は住民の訴えを退けました。
豊島自治会連合会資料をもとに経過を説明した石井さんは、「現行制度の矛盾に門前払いされ、勉強にはなったが、地域共同体の限界を思い知らされた」と話しました。
石井さんによると、新たな闘いの発端は2015年、小豆島のホテルが共有林の隣接地に、電力買い取り保障の認可を受け、発電所を計画したこと。用地造成を巡る産廃不法投棄で住民に刑事告発され業者の有罪が確定。県も業者を自然公園法違反で指導した。
しかし、業者はその後用地を転売。住民は電気事業法による構造基準などに基づいて追及したが、業者が建設を強行したため訴訟に踏み切ることになったという。
裁判は当初の争点だった「違法建設」から、「発電収入」の権利の「費用均衡」だけで判断され、住民側の敗訴に。発電所完成と転売が繰り返されたことが棄却の理由とされました。
住民と自治会は「現時点でも違法」だと確認していますが、「転売で責任が問えない」という制度の矛盾を痛感しており、今はこの事例を報告としてまとめ、経産省に提出すべく作業に取り組んでいるという。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年2月25日号
2024年02月22日
【JCJ広島支部】呉基地強靭化の危険 岸田大軍拡問う集い=井上 俊逸
JCJ広島支部は、岸田政権が「安保三文書」を閣議決定して丸1年となった昨年12月16日に「2023不戦のつどい」を広島市内で開いた。「岸田『大軍拡』を問う〜海上自衛隊呉基地『強靭化』の実態〜」をテーマに、呉地区平和委員会事務局長の森芳郎さんの講演などがあり、オンライン視聴を含め60人が参加した。
森さんの講演に先立ち、支部幹事の難波健治さんが「安保三文書が意味するもの」と題して問題提起。これは「日米安保体制をまさに臨戦態勢に持っていくための指針」であり、具体的には@日本が「戦争する国になった」と国内外に宣言するA自衛隊を本格的に「戦力化」し、実態として戦争できる軍隊に仕立てるB私たち国民に対して日本はもう「平和国家」ではない、「戦争国家」に変わったということを認知させる―という三つの狙いがあると指摘した。
軍事増強が具現化
続いて登壇した森さんは、安保三文書によって推し進められる敵基地攻撃能力の保有や軍備増強の動きが、海自呉基地にはどう具現化してきているかを解き明かした。
それによると、呉基地には最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の発着も可能にする空母化≠ノ向けた改修工事が進む護衛艦「かが」をはじめ、大型輸送艦、潜水艦、音響測定艦など48隻が配備されている。保有艦船数では現状も海自最大の基地だが、ここへ新たに「海上輸送群」司令部が置かれることになった。軍事要塞化の進む南西諸島などに戦車や弾薬を運ぶための部隊を、海自だけでなく陸自、空自からも要員を出して100人規模で創設する。その司令部を呉に置き25年3月に発足する予定だ。
防災対策を名目に
一方で、敵基地を攻撃すると当然反撃される、核兵器が使われることも想定し、それに耐えうるよう全国約300の自衛隊基地や防衛省関係施設を強靭化する計画が進行しており、呉地方総監部も対象施設に入っている。23年度予算で「防災対策」を名目に20億円が計上されており、太平洋戦争末期、当時の海軍司令部が米軍の空爆に備えて造った地下壕が再整備・活用されるのではないか。
また、敵基地攻撃には欠かせない長射程ミサイルを保管するための大型弾薬庫を35年までに全国で約130棟設置する計画もあり、呉湾内にある大麗女島がその一つ。戦時中は海軍の弾薬庫が置かれていた島で、現在も海自の弾薬庫になっているが、ここを改修してトマホークなどを保管できるようにしようと、23年度から2年かけて調査するための2億円の予算が付いた。既に測量等の調査を請け負う業者も決まり、具体化に向けて動き出しているという。
市長講和にも抗議
最後に、折から発覚した広島市の松井一実市長が就任翌年の2012年以降、毎年の新入職員研修で戦前の「教育勅語」を引用して講話していた問題を取り上げ、松井市長に対して「断固抗議し今後の絶対不使用を求める」声明を参加者一同で採択した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
森さんの講演に先立ち、支部幹事の難波健治さんが「安保三文書が意味するもの」と題して問題提起。これは「日米安保体制をまさに臨戦態勢に持っていくための指針」であり、具体的には@日本が「戦争する国になった」と国内外に宣言するA自衛隊を本格的に「戦力化」し、実態として戦争できる軍隊に仕立てるB私たち国民に対して日本はもう「平和国家」ではない、「戦争国家」に変わったということを認知させる―という三つの狙いがあると指摘した。
軍事増強が具現化
続いて登壇した森さんは、安保三文書によって推し進められる敵基地攻撃能力の保有や軍備増強の動きが、海自呉基地にはどう具現化してきているかを解き明かした。
それによると、呉基地には最新鋭ステルス戦闘機「F35B」の発着も可能にする空母化≠ノ向けた改修工事が進む護衛艦「かが」をはじめ、大型輸送艦、潜水艦、音響測定艦など48隻が配備されている。保有艦船数では現状も海自最大の基地だが、ここへ新たに「海上輸送群」司令部が置かれることになった。軍事要塞化の進む南西諸島などに戦車や弾薬を運ぶための部隊を、海自だけでなく陸自、空自からも要員を出して100人規模で創設する。その司令部を呉に置き25年3月に発足する予定だ。
防災対策を名目に
一方で、敵基地を攻撃すると当然反撃される、核兵器が使われることも想定し、それに耐えうるよう全国約300の自衛隊基地や防衛省関係施設を強靭化する計画が進行しており、呉地方総監部も対象施設に入っている。23年度予算で「防災対策」を名目に20億円が計上されており、太平洋戦争末期、当時の海軍司令部が米軍の空爆に備えて造った地下壕が再整備・活用されるのではないか。
また、敵基地攻撃には欠かせない長射程ミサイルを保管するための大型弾薬庫を35年までに全国で約130棟設置する計画もあり、呉湾内にある大麗女島がその一つ。戦時中は海軍の弾薬庫が置かれていた島で、現在も海自の弾薬庫になっているが、ここを改修してトマホークなどを保管できるようにしようと、23年度から2年かけて調査するための2億円の予算が付いた。既に測量等の調査を請け負う業者も決まり、具体化に向けて動き出しているという。
市長講和にも抗議
最後に、折から発覚した広島市の松井一実市長が就任翌年の2012年以降、毎年の新入職員研修で戦前の「教育勅語」を引用して講話していた問題を取り上げ、松井市長に対して「断固抗議し今後の絶対不使用を求める」声明を参加者一同で採択した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年1月25日号
2023年10月21日
【JCJ広島支部】小山美砂さんのJCJ賞を共に喜び語らう集い=10月29日(日)午後3時〜
小山美沙さんは 元毎日新聞記者で、現在はフリージャーナリストとして広島で活動しています。このたび小山美砂さんの著した『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)が、日本ジャーナリスト会議(JCJ)が選定する2023年度のJCJ賞に輝きました。
受賞作は、被爆者運動全体の歴史と「黒い雨をめぐる被爆者運動の俯瞰図だ」と高い評価を受けました。若い一人の女性記者が高齢の黒い雨被爆者を訪ね歩き、生の声を聞き取るなどして実相をつかみ取るにはどれほどの労苦があったか、その努力が実った今回の受賞に惜しみない拍手を送ります。
この機会に、彼女がどんな理由でこうした取材を始め、なぜこの本を書こうと思ったか、そして黒い雨被爆者と訴訟から何を学んだのか…などジャーナリストとしてのこれまで、これからを語ってもらおうと受賞記念講演会を企画しました。併せて、取材を通じて心を通わせてきた黒い雨訴訟原告団や支援者、弁護団、それに彼女を知る記者仲間らにも集まってもらい受賞を祝う会を催すことにしました。みなさんの参加を心より呼びかけます。
日時:10月29日(日) 午後3時〜6時
会場:カンファレンス21広島(中区幟町14−11ウイング八丁堀ビル4階広電「銀山町」電停前)3時〜受付
受賞記念講演:小山美砂 3時15分〜
私を育ててくれた「黒い雨訴訟」ーー新聞社を辞めて、広島に帰ってきた理由
パーティー:4時20分〜 同じ場所
参加費:講演会とパーティー4500円 講演会だけ参加1000円
申し込み:お名前、住所、電話番号を明記のうえ、メール nrh39508@nifty.com あるいは 090-9416-4055 FAX082-284-9710(井上) 締め切り10月25日(水)
小山美砂さんプロフィール:1994年、大阪市生まれ。2017年、毎日新聞に入社し、希望した広島支局へ配属。被爆者や原発関連訴訟の取材に取り組んだ。
2019年以降、広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びた被害者への取材に取り組み、100人近くの証言を聞き取った。2022年7月、「黒い雨被爆者」が切り捨てられてきた戦後を記録した初のノンフィクション『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)を刊行。
大阪社会部を経て、2023年からフリー。広島を拠点に原爆被害者の取材を続けながら、雑誌やWebメディアにて幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は焚き火と料理とお酒。広島市在住。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部 広島市中区十日市町1−5−5坪池ビル2F
受賞作は、被爆者運動全体の歴史と「黒い雨をめぐる被爆者運動の俯瞰図だ」と高い評価を受けました。若い一人の女性記者が高齢の黒い雨被爆者を訪ね歩き、生の声を聞き取るなどして実相をつかみ取るにはどれほどの労苦があったか、その努力が実った今回の受賞に惜しみない拍手を送ります。
この機会に、彼女がどんな理由でこうした取材を始め、なぜこの本を書こうと思ったか、そして黒い雨被爆者と訴訟から何を学んだのか…などジャーナリストとしてのこれまで、これからを語ってもらおうと受賞記念講演会を企画しました。併せて、取材を通じて心を通わせてきた黒い雨訴訟原告団や支援者、弁護団、それに彼女を知る記者仲間らにも集まってもらい受賞を祝う会を催すことにしました。みなさんの参加を心より呼びかけます。
日時:10月29日(日) 午後3時〜6時
会場:カンファレンス21広島(中区幟町14−11ウイング八丁堀ビル4階広電「銀山町」電停前)3時〜受付
受賞記念講演:小山美砂 3時15分〜
私を育ててくれた「黒い雨訴訟」ーー新聞社を辞めて、広島に帰ってきた理由
パーティー:4時20分〜 同じ場所
参加費:講演会とパーティー4500円 講演会だけ参加1000円
申し込み:お名前、住所、電話番号を明記のうえ、メール nrh39508@nifty.com あるいは 090-9416-4055 FAX082-284-9710(井上) 締め切り10月25日(水)
小山美砂さんプロフィール:1994年、大阪市生まれ。2017年、毎日新聞に入社し、希望した広島支局へ配属。被爆者や原発関連訴訟の取材に取り組んだ。
2019年以降、広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を浴びた被害者への取材に取り組み、100人近くの証言を聞き取った。2022年7月、「黒い雨被爆者」が切り捨てられてきた戦後を記録した初のノンフィクション『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)を刊行。
大阪社会部を経て、2023年からフリー。広島を拠点に原爆被害者の取材を続けながら、雑誌やWebメディアにて幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は焚き火と料理とお酒。広島市在住。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部 広島市中区十日市町1−5−5坪池ビル2F
2023年08月11日
【広島とパールハーバー姉妹協定】被爆者ら懸念の声 2つの公園を同列に扱うとは=難波健治(広島支部)
平和記念公園は原爆の無差別殺戮の犠牲者追悼の象徴だ
G7広島サミットが閉幕して40日後の6月29日、広島市の平和記念公園と米ハワイ州のパールハーバー国立記念公園との間で、「姉妹公園協定」なるものが締結された。広島市で5月にあったサミットを機に米側から打診があり、同市が応諾の意思を公に表明したのが、調印予定日1週間前の22日のことだった。
この姉妹公園協定について松井一実市長は「かつて敵味方に分かれていた日米両国の市民にとって友好の懸け橋になる」と、その意義を強調している。しかし、あまりにも唐突な「合意」に戸惑った市民は少なくなかった。
広島県被爆者団体協議会(佐久間邦彦理事長)、県労連など10団体でつくる「G7広島サミットを考えるヒロシマ市民の会」は「協定締結をいったん保留し、全市的な議論」を始めるよう市に求めた。その後も別の団体や市民が街頭宣伝、声明を発表するなどして反対の声を上げ続けている。
地元紙中国新聞は、松井市長会見後の25日、広島大学平和センター長である川野徳幸教授の見解を掲載した。
同教授は「旧日本軍による真珠湾攻撃と米軍の広島への原爆投下が、同一線上で語られることの違和感」を述べたうえで、「真珠湾が戦争の始まりでその帰結がヒロシマだとすれば、原爆を落とされたのは『因果応報』で『正しかった』とされかねない」との危惧を表明した。
元広島市長の平岡敬氏も翌日の紙面で「(パールハーバー)国立記念公園の主要施設は軍艦の名前で、死者を戦争の英雄として顕彰する面がある。原爆投下は戦争終結のため必要で正当な行為、という歴史観と地続きだ」として、二つの公園を同列に置くことを痛烈に批判している。
日本近現代史に詳しい歴史学者、高嶋伸欣琉球大名誉教授の指摘も紹介しておきたい。
高嶋さんは、これまでに真珠湾にあるこの国立公園を2度訪問した。公園内には、アリゾナ戦勝記念館をはじめ、いくつかの戦勝記念の施設がある。その一つ、岸壁に係留された潜水艦ボーフィン号の艦橋側面には、同艦が沈めた日本艦船の数が「日の丸」の数で誇示されている。しかも、その撃沈船の中に、沖縄からの学童疎開船「対馬丸」が含まれていることを、展示場職員が高嶋さんに語ったというのだ。
公園は海軍基地内にある。立ち入るには荷物制限も受ける。出入り自由な広島平和記念公園とはさまざまな点で異なる佇まいだといえる。
いま広島では、市教委が平和教材を改訂し、「はだしのゲン」や第五福竜丸の記述を削除するとともに、「原爆を落とした米国人を恨むな」という指導を露骨に進めようとしている。
このたびの姉妹公園協定の締結はその延長上にある。被爆地の市長としてあるまじき行動というほかはない。
戦果を誇るようにボーフィン号の艦橋側面に描かれた「日の丸」群=高嶋伸欣さん撮影
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
G7広島サミットが閉幕して40日後の6月29日、広島市の平和記念公園と米ハワイ州のパールハーバー国立記念公園との間で、「姉妹公園協定」なるものが締結された。広島市で5月にあったサミットを機に米側から打診があり、同市が応諾の意思を公に表明したのが、調印予定日1週間前の22日のことだった。
この姉妹公園協定について松井一実市長は「かつて敵味方に分かれていた日米両国の市民にとって友好の懸け橋になる」と、その意義を強調している。しかし、あまりにも唐突な「合意」に戸惑った市民は少なくなかった。
広島県被爆者団体協議会(佐久間邦彦理事長)、県労連など10団体でつくる「G7広島サミットを考えるヒロシマ市民の会」は「協定締結をいったん保留し、全市的な議論」を始めるよう市に求めた。その後も別の団体や市民が街頭宣伝、声明を発表するなどして反対の声を上げ続けている。
地元紙中国新聞は、松井市長会見後の25日、広島大学平和センター長である川野徳幸教授の見解を掲載した。
同教授は「旧日本軍による真珠湾攻撃と米軍の広島への原爆投下が、同一線上で語られることの違和感」を述べたうえで、「真珠湾が戦争の始まりでその帰結がヒロシマだとすれば、原爆を落とされたのは『因果応報』で『正しかった』とされかねない」との危惧を表明した。
元広島市長の平岡敬氏も翌日の紙面で「(パールハーバー)国立記念公園の主要施設は軍艦の名前で、死者を戦争の英雄として顕彰する面がある。原爆投下は戦争終結のため必要で正当な行為、という歴史観と地続きだ」として、二つの公園を同列に置くことを痛烈に批判している。
日本近現代史に詳しい歴史学者、高嶋伸欣琉球大名誉教授の指摘も紹介しておきたい。
高嶋さんは、これまでに真珠湾にあるこの国立公園を2度訪問した。公園内には、アリゾナ戦勝記念館をはじめ、いくつかの戦勝記念の施設がある。その一つ、岸壁に係留された潜水艦ボーフィン号の艦橋側面には、同艦が沈めた日本艦船の数が「日の丸」の数で誇示されている。しかも、その撃沈船の中に、沖縄からの学童疎開船「対馬丸」が含まれていることを、展示場職員が高嶋さんに語ったというのだ。
公園は海軍基地内にある。立ち入るには荷物制限も受ける。出入り自由な広島平和記念公園とはさまざまな点で異なる佇まいだといえる。
いま広島では、市教委が平和教材を改訂し、「はだしのゲン」や第五福竜丸の記述を削除するとともに、「原爆を落とした米国人を恨むな」という指導を露骨に進めようとしている。
このたびの姉妹公園協定の締結はその延長上にある。被爆地の市長としてあるまじき行動というほかはない。
戦果を誇るようにボーフィン号の艦橋側面に描かれた「日の丸」群=高嶋伸欣さん撮影
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年7月25日号
2023年07月27日
【G7広島サミット】「抑止力」肯定 広島は「貸し舞台」に=井上俊逸(広島支部)
反核はおろか、反戦の声すら届かず―。5月19日から21日までの3日間、世界最初の原爆被爆地・広島で開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、核兵器の廃絶を願い世界の平和を希求する被爆者をはじめとする幾多の人々に失望と怒りを残して閉幕した。NATO諸国と日本がウクライナとともに対ロシアで結束を強め、「力には力を」と「核抑止論」の正当性をアピール。戒厳令下を想起させる異様な光景の中で繰り広げられた政治ショー≠フ「貸し舞台」に、ヒロシマは使われてしまったのか。報道のありようとも併せ、厳しく問い直されなければならない。
□
G7広島サミット最終日となった5月21日、岸田文雄首相は原爆慰霊碑と原爆ドームを背に記者会見。前夜発表した首脳声明と前々夜に発表した「核軍縮に関する広島ビジョン」を踏まえ、「被爆地を訪れ被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の想いに直接触れたG7首脳が、このような声明を発出することに歴史的な意義を感じる」と成果を強調した。
被爆者の怒り
しかし、誇らしげに画面に映る首相とは対照的に憤りを隠さなかったのは、カナダから広島市に帰郷していた被爆者のサーロー節子さん。首相会見終了後、原爆ドーム近くの施設にC7(C@D@ⅼ7=G7首脳に政策提言などを行う市民社会の組織)が設けた会場で会見し、「大変な失敗だった。首脳の声明からは体温や脈拍を感じなかった」と断じた。
初日にG7首脳はそろって原爆資料館を見学したが、その場面はメディアにも非公開で、首脳らがどんな表情を見せたのか、うかがい知ることはできなかった。一人の被爆者と対話をしたが、どんなやりとりがあったかもいまだに詳細は明らかにされていない。各国首脳がそれぞれ芳名録に書き残した言葉を全否定はしないが、サーローさんの「本当に我々の体験を理解してくれたのか、反応が聞きたかった」というのは誰しもの思いだろう。この一事を取ってもメディアの取材姿勢には疑問符が付く。
その声明とビジョンに核兵器廃絶の言葉はなく、核兵器禁止条約もまったく触れられていなかった―。「核なき世界」をライフワークと標榜する岸田首相の地元、広島で開くサミットだから、核兵器廃絶に前向きなメッセージが発出されよう。そんな市民の淡い期待さえ結果的には裏切られたのだが、その思いを伝えようとサミット開幕前から、広島ではいくつかの市民団体などがさまざまな取り組みを展開してきた。
その一つが、5月17日にあった「核廃絶を求めるG7サミット直前広島イベント」。TBS報道特集特任キャスターの金平茂紀さんが提唱し、日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部や教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしまなどが後押しする形で「どんな声が今、広島から世界に届けられるべきなのでしょう」をテーマにシンポジウムを開いた。
会場は超満員となり、そこにパネリストとして登場した元広島市長の平岡敬さんは「戦争反対、核抑止力否定が一貫した広島の立場。この地から戦争や核兵器を肯定するような宣言が出たら、今後は広島の声が世界で信用されなくなる」と憂慮。うなずいた金平さんは、その後に発表された声明とビジョンを読み「平岡さんが言った通りで、広島はヒロシマでなくなってしまう」と顔を一段と険しくしていた。
このほか、C7の活動を広島で担ってきたメンバーが軸になって主催した「みんなの市民サミット2023」(4月14〜16日)では、「どうやってつくったの 核兵器廃絶提言」と題した分科会があり、核兵器廃絶を成し遂げるには何が必要か、一般市民も多数参加し意見を交わし合った。予期した通り思わしい成果のなかった広島サミットだったが、世代を超えて幅広い人たちが繋がり、声を上げたことの意義は小さくないだろう。
歓迎報道盛ん
地元メディアでは、こうした取り組みを含め事前からサミット関連報道が盛んになっていたが、本番を迎えるとテレビはキー局も加わって「特番」を組み逐一生中継、新聞も全国紙、地元紙入り乱れて大々的な報道が展開された。特に焦点となった核兵器廃絶をめぐる議論、その結果として出された首脳声明と広島ビジョンについて、NHKをはじめ放送各局は総じて批判よりも評価するものが多く、新聞では従前からの報道姿勢の延長なのか、社によって論調が分かれた。紙幅の関係もあり、個々の記事についての論評はしないが、全体として現実的見地からの核抑止論是認に傾斜していた感が拭えない。
そうした中、当然ながら質量とも他を圧倒したのは地元紙の中国新聞。歓迎や期待が目立った事前の紙面づくりへの苦言は多々あるが、会期中とその前後の報道は多くの読者の共感を呼んだと思える。とりわけ21日付一面に掲載された「『広島ビジョン』と言えるのか」と題した金崎由美記者(ヒロシマ平和メディアセンター長)の署名記事は、ビジョンについて「肝心の中身は自分たちの核保有・核依存を堅持したに等しく、被爆地広島にとって受け入れがたい」と言明しており、強く印象に残った。
この後、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加してからはメディアの関心もゼレンスキー氏の動向に移り、サミットの主題もG7各国がウクライナ支援を強化する方向へ動いたことへの編集委員の署名記事も目を引いた。「『ゼレンスキー旋風』のサミットでいいのか」と疑念を呈し、「戦争当事国の一方への軍事協力や支援拡大を決めることが広島サミットの意義だろうか」と問いかけた。その通り、ゼレンスキー旋風にあおられ「岸田劇場」への喝采で「反核・平和」を願うヒロシマの声がかき消されたとすれば、メディアの責任はあまりにも重い。
メディアの役割を問いたいことは他にもある。華やかな表舞台の演出の幕裏で何が行われたのか。それも見過ごすわけにはいかない。
「有事」実験か
極めて重大なのは市民生活を圧迫してまで厳重な警備態勢が敷かれたことだ。期間中最大2万人を超える警察官が全国から広島に動員され、各国首脳らの滞在先や訪問先での立ち入り制限、移動に伴う大規模な交通規制などが行われた。特に「入域規制」というのが主会場となったプリンスホテルのある広島市南区元宇品地区のほか、世界遺産・厳島神社のある廿日市市の宮島でも実施された。島の住民と必要な業務で出入りする人には「識別証」を交付し出入りを認めるが、それ以外の観光客ら島外から来る人は入島できない措置が取られたのだ。
この入島制限に疑問を抱いた行政法学者の田村和之広島大名誉教授が「何ら法的根拠はないはずだ」と指摘したのを受け、JCJ広島のメンバー2人が廿日市市に公開質問状を出した。回答はあったが納得できなかったため、外務省を含む関係各方面に問い合わせたところ、いずれも「法的根拠はありません。規制はあくまでお願いです」との返答。そこで規制が始まった18日午後、メンバーらは田村さんとともに宮島に渡るフェリー乗り場に出向き、外務省職員とやりとりした結果、識別証なし、本人確認もなし、手荷物チェックを受けただけで島内に入ることができたという。
この顛末は何を物語るのだろうか。廿日市市や広島市が、国の意向を忖度して自主的にここまでやるとは考えにくい。識別証の発行元は外務省というのだから、政府からの指示≠ェあったとみるのは当然だ。この機(G7サミット開催)を捉え、政府が「有事」に備えた国民統制の実験を試みたという見立てはうがちすぎだろうか。「過剰警備に市民困惑」といった報道にとどめるのではなく、こうした視点からの取材こそジャーナリズムには求められるのではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
□
G7広島サミット最終日となった5月21日、岸田文雄首相は原爆慰霊碑と原爆ドームを背に記者会見。前夜発表した首脳声明と前々夜に発表した「核軍縮に関する広島ビジョン」を踏まえ、「被爆地を訪れ被爆者の声を聞き、被爆の実相や平和を願う人々の想いに直接触れたG7首脳が、このような声明を発出することに歴史的な意義を感じる」と成果を強調した。
被爆者の怒り
しかし、誇らしげに画面に映る首相とは対照的に憤りを隠さなかったのは、カナダから広島市に帰郷していた被爆者のサーロー節子さん。首相会見終了後、原爆ドーム近くの施設にC7(C@D@ⅼ7=G7首脳に政策提言などを行う市民社会の組織)が設けた会場で会見し、「大変な失敗だった。首脳の声明からは体温や脈拍を感じなかった」と断じた。
初日にG7首脳はそろって原爆資料館を見学したが、その場面はメディアにも非公開で、首脳らがどんな表情を見せたのか、うかがい知ることはできなかった。一人の被爆者と対話をしたが、どんなやりとりがあったかもいまだに詳細は明らかにされていない。各国首脳がそれぞれ芳名録に書き残した言葉を全否定はしないが、サーローさんの「本当に我々の体験を理解してくれたのか、反応が聞きたかった」というのは誰しもの思いだろう。この一事を取ってもメディアの取材姿勢には疑問符が付く。
その声明とビジョンに核兵器廃絶の言葉はなく、核兵器禁止条約もまったく触れられていなかった―。「核なき世界」をライフワークと標榜する岸田首相の地元、広島で開くサミットだから、核兵器廃絶に前向きなメッセージが発出されよう。そんな市民の淡い期待さえ結果的には裏切られたのだが、その思いを伝えようとサミット開幕前から、広島ではいくつかの市民団体などがさまざまな取り組みを展開してきた。
その一つが、5月17日にあった「核廃絶を求めるG7サミット直前広島イベント」。TBS報道特集特任キャスターの金平茂紀さんが提唱し、日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部や教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしまなどが後押しする形で「どんな声が今、広島から世界に届けられるべきなのでしょう」をテーマにシンポジウムを開いた。
会場は超満員となり、そこにパネリストとして登場した元広島市長の平岡敬さんは「戦争反対、核抑止力否定が一貫した広島の立場。この地から戦争や核兵器を肯定するような宣言が出たら、今後は広島の声が世界で信用されなくなる」と憂慮。うなずいた金平さんは、その後に発表された声明とビジョンを読み「平岡さんが言った通りで、広島はヒロシマでなくなってしまう」と顔を一段と険しくしていた。
このほか、C7の活動を広島で担ってきたメンバーが軸になって主催した「みんなの市民サミット2023」(4月14〜16日)では、「どうやってつくったの 核兵器廃絶提言」と題した分科会があり、核兵器廃絶を成し遂げるには何が必要か、一般市民も多数参加し意見を交わし合った。予期した通り思わしい成果のなかった広島サミットだったが、世代を超えて幅広い人たちが繋がり、声を上げたことの意義は小さくないだろう。
歓迎報道盛ん
地元メディアでは、こうした取り組みを含め事前からサミット関連報道が盛んになっていたが、本番を迎えるとテレビはキー局も加わって「特番」を組み逐一生中継、新聞も全国紙、地元紙入り乱れて大々的な報道が展開された。特に焦点となった核兵器廃絶をめぐる議論、その結果として出された首脳声明と広島ビジョンについて、NHKをはじめ放送各局は総じて批判よりも評価するものが多く、新聞では従前からの報道姿勢の延長なのか、社によって論調が分かれた。紙幅の関係もあり、個々の記事についての論評はしないが、全体として現実的見地からの核抑止論是認に傾斜していた感が拭えない。
そうした中、当然ながら質量とも他を圧倒したのは地元紙の中国新聞。歓迎や期待が目立った事前の紙面づくりへの苦言は多々あるが、会期中とその前後の報道は多くの読者の共感を呼んだと思える。とりわけ21日付一面に掲載された「『広島ビジョン』と言えるのか」と題した金崎由美記者(ヒロシマ平和メディアセンター長)の署名記事は、ビジョンについて「肝心の中身は自分たちの核保有・核依存を堅持したに等しく、被爆地広島にとって受け入れがたい」と言明しており、強く印象に残った。
この後、ウクライナのゼレンスキー大統領が電撃参加してからはメディアの関心もゼレンスキー氏の動向に移り、サミットの主題もG7各国がウクライナ支援を強化する方向へ動いたことへの編集委員の署名記事も目を引いた。「『ゼレンスキー旋風』のサミットでいいのか」と疑念を呈し、「戦争当事国の一方への軍事協力や支援拡大を決めることが広島サミットの意義だろうか」と問いかけた。その通り、ゼレンスキー旋風にあおられ「岸田劇場」への喝采で「反核・平和」を願うヒロシマの声がかき消されたとすれば、メディアの責任はあまりにも重い。
メディアの役割を問いたいことは他にもある。華やかな表舞台の演出の幕裏で何が行われたのか。それも見過ごすわけにはいかない。
「有事」実験か
極めて重大なのは市民生活を圧迫してまで厳重な警備態勢が敷かれたことだ。期間中最大2万人を超える警察官が全国から広島に動員され、各国首脳らの滞在先や訪問先での立ち入り制限、移動に伴う大規模な交通規制などが行われた。特に「入域規制」というのが主会場となったプリンスホテルのある広島市南区元宇品地区のほか、世界遺産・厳島神社のある廿日市市の宮島でも実施された。島の住民と必要な業務で出入りする人には「識別証」を交付し出入りを認めるが、それ以外の観光客ら島外から来る人は入島できない措置が取られたのだ。
この入島制限に疑問を抱いた行政法学者の田村和之広島大名誉教授が「何ら法的根拠はないはずだ」と指摘したのを受け、JCJ広島のメンバー2人が廿日市市に公開質問状を出した。回答はあったが納得できなかったため、外務省を含む関係各方面に問い合わせたところ、いずれも「法的根拠はありません。規制はあくまでお願いです」との返答。そこで規制が始まった18日午後、メンバーらは田村さんとともに宮島に渡るフェリー乗り場に出向き、外務省職員とやりとりした結果、識別証なし、本人確認もなし、手荷物チェックを受けただけで島内に入ることができたという。
この顛末は何を物語るのだろうか。廿日市市や広島市が、国の意向を忖度して自主的にここまでやるとは考えにくい。識別証の発行元は外務省というのだから、政府からの指示≠ェあったとみるのは当然だ。この機(G7サミット開催)を捉え、政府が「有事」に備えた国民統制の実験を試みたという見立てはうがちすぎだろうか。「過剰警備に市民困惑」といった報道にとどめるのではなく、こうした視点からの取材こそジャーナリズムには求められるのではないか。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
2023年07月24日
【支部リポート】香川 高松空襲の体験 語り継ぐ メーデーでは新聞の危機訴える=はねだ鉱造
ことしも7月4日が近づいてきました。高松空襲の日です。JCJ香川支部も参加する「8・15戦争体験を語りつぐつどい」が計画した「第33回明日に伝える高松空襲」のメイン企画として、「あのとき、7歳のぼくが見たもの…池田実さんに聞く空襲体験…」を聞きます。空襲パネルを設置した高松市の中新町交差点地下道に、夕方6時に集合し、最初の爆弾が落とされたといわれる瓦町小公園を通ってコトデン瓦町駅ビル8階で体験談を聞き、今もつづく戦争に反対する運動の現在を確かめ合うことにしています。
これに先立つ5月1日には第94回香川県メーデー集会にJCJ香川支部が来賓として招かれました。壇上からお祝いの発言をさせてもらいました。県内のメディア,とりわけ地方紙が自民党国会議員一家の支配下にあり、県民の信頼どころかという事情もあり、「深まる新聞の危機」を訴えJCJ活動の大切さを訴えました。
8・15は、世界から戦火をなくすためになにができるのか。話し合い、行動する機会をふやす契機となる行動をおこしましょう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年6月25日号
2023年06月14日
【支部リポート】広島 核兵器へ一歩も サミット祭り≠ノさせない=井上俊逸
広島支部は、原爆被爆地広島での開催(5月19〜21日)となった先進7カ国首脳会議(G7サミット)が、被爆者をはじめ多くの市民が願う核兵器廃絶の道へと向かうのではなく、逆に「核抑止力」を肯定、助長する場になるとの強い懸念を抱く支部内外の人たちと議論を重ね、浮かび上がった問題に対する意見の発信やヒロシマの声をG7首脳らに届けるための活動を展開してきた。
G7広島サミットが正式決定されて以降、支部では毎月の幹事会などを通じて、ロシアとウクライナの戦争が長期化し、核兵器の使用も現実の脅威になる中、広島選出の岸田文雄首相が議長となって開かれるG7サミットをどう見るか、「歓迎」が際立つ地元メディアの報道にも疑問の目を向けながら論議を続けた。
結果、日本以外はすべてNATO加盟国というG7のサミットが対ロシアで結束力を強めるばかりか、力対力の論理、すなわち核抑止論の正当性を世界にアピールするための「貸座敷」にヒロシマが利用されてはならないという問題意識を共有。今年に入ってから支部としてできる具体的な取り組みに踏み出した。
主には二つあり、第一は、広島サミットのG7首脳共同声明に核廃絶の方向へ一歩でも進む文言を盛り込むよう促すために、G7各国の政府関係者はもとより、世界から広島に集まってくる市民運動グループやメディア関係者らに対し、核被害(被爆)の実相をリアルに知るのに役立つ機会や資料、情報の提供。
そこで思いついたのが地元紙、中国新聞の労働組合が被爆50周年の1995年に「もし被爆直後の惨状を伝える新聞が翌日発行されていたなら」と想定し、作成した「ヒロシマ新聞」と、60周年の2005年に新聞労連が作成した英語版の「ひろしま・ながさき平和新聞」。同労組と労連に協力を求めて無償提供を受け、「みんなの市民サミット2023」(4月16・17日)と「世界の核被害者は問う G7首脳へ」(5月13日)の二つの集会で参加者に配布した。
第二が、同じように「広島サミットを単なる政治ショー、あえて言えばお祭り≠ノしてはならない」と考えるTBS報道特集特任キャスターの金平茂紀さんらが企画した「核廃絶を求めるG7サミット直前広島イベント」(5月17日)に支部として後援団体に名を連ね、この集いの準備・運営に参画。200人規模の参加実現に寄与したことだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
G7広島サミットが正式決定されて以降、支部では毎月の幹事会などを通じて、ロシアとウクライナの戦争が長期化し、核兵器の使用も現実の脅威になる中、広島選出の岸田文雄首相が議長となって開かれるG7サミットをどう見るか、「歓迎」が際立つ地元メディアの報道にも疑問の目を向けながら論議を続けた。
結果、日本以外はすべてNATO加盟国というG7のサミットが対ロシアで結束力を強めるばかりか、力対力の論理、すなわち核抑止論の正当性を世界にアピールするための「貸座敷」にヒロシマが利用されてはならないという問題意識を共有。今年に入ってから支部としてできる具体的な取り組みに踏み出した。
主には二つあり、第一は、広島サミットのG7首脳共同声明に核廃絶の方向へ一歩でも進む文言を盛り込むよう促すために、G7各国の政府関係者はもとより、世界から広島に集まってくる市民運動グループやメディア関係者らに対し、核被害(被爆)の実相をリアルに知るのに役立つ機会や資料、情報の提供。
そこで思いついたのが地元紙、中国新聞の労働組合が被爆50周年の1995年に「もし被爆直後の惨状を伝える新聞が翌日発行されていたなら」と想定し、作成した「ヒロシマ新聞」と、60周年の2005年に新聞労連が作成した英語版の「ひろしま・ながさき平和新聞」。同労組と労連に協力を求めて無償提供を受け、「みんなの市民サミット2023」(4月16・17日)と「世界の核被害者は問う G7首脳へ」(5月13日)の二つの集会で参加者に配布した。
第二が、同じように「広島サミットを単なる政治ショー、あえて言えばお祭り≠ノしてはならない」と考えるTBS報道特集特任キャスターの金平茂紀さんらが企画した「核廃絶を求めるG7サミット直前広島イベント」(5月17日)に支部として後援団体に名を連ね、この集いの準備・運営に参画。200人規模の参加実現に寄与したことだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年5月25日号
2022年06月23日
【オピニオン】被爆地から「9条守れ」広島「総がかり実行委」憲法集会=井上俊逸
広島市では5月3日、JCJ広島支部のメンバーも加わる「戦争させない・9条壊すな!ヒロシマ総がかり行動実行委員会」が主催する「2022ヒロシマ憲法集会」などがあった。
この集会は「市民がつくる新しい社会」をテーマとし、市民連合@新潟共同代表で新潟国際情報大教授の佐々木寛さんが記念講演。主会場の広島弁護士会館には約260人が集まったほか、県内5カ所をオンラインで結び、ウクライナ危機に乗じて「核共有」や敵基地攻撃能力の保有」が唱えられる中、被爆地ヒロシマから「戦争する国づくりを許さない、憲法9条守れ」の声を大きくするとともに、広範な市民参加型で県知事選や国政選挙を戦い、野党共闘候補の勝利を続けている新潟の取り組みに学び、9条の命運を決する天王山と言われる7月の参院選に臨む決意を固め合った。
また、原爆ドーム前では「5・3憲法を活かそう女たちの会」が「憲法を守り生かす社会に」と書かれた横断幕を掲げ、通りがかった人に「9条をどうすべきか」を問うシールアンケートに取り組んだ。
一方、自民党の地元支部もこの日、市内で憲法研修会を開催。約180人が参加し、支部長でもある党総裁の岸田文雄首相から寄せられたビデオメッセージが紹介され、改憲に向けて機運の盛り上げを図った。
これらの集会について地元紙の中国新聞は「改憲派、護憲派がそれぞれの主張を繰り広げた」と並列的に報じ、他紙の地域版や地元の民放各局、NHKもほぼ同様だった。その中で、3日付の中国新聞の社説は「緊急事態条項の新設を突破口に、憲法改正への道を開く構えを与党自民党が本格化させている」ことを取り上げ、「権力が暴走した戦前のような社会に逆戻りする恐れがあり、看過できない」と論じていた。
井上俊逸(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
この集会は「市民がつくる新しい社会」をテーマとし、市民連合@新潟共同代表で新潟国際情報大教授の佐々木寛さんが記念講演。主会場の広島弁護士会館には約260人が集まったほか、県内5カ所をオンラインで結び、ウクライナ危機に乗じて「核共有」や敵基地攻撃能力の保有」が唱えられる中、被爆地ヒロシマから「戦争する国づくりを許さない、憲法9条守れ」の声を大きくするとともに、広範な市民参加型で県知事選や国政選挙を戦い、野党共闘候補の勝利を続けている新潟の取り組みに学び、9条の命運を決する天王山と言われる7月の参院選に臨む決意を固め合った。
また、原爆ドーム前では「5・3憲法を活かそう女たちの会」が「憲法を守り生かす社会に」と書かれた横断幕を掲げ、通りがかった人に「9条をどうすべきか」を問うシールアンケートに取り組んだ。
一方、自民党の地元支部もこの日、市内で憲法研修会を開催。約180人が参加し、支部長でもある党総裁の岸田文雄首相から寄せられたビデオメッセージが紹介され、改憲に向けて機運の盛り上げを図った。
これらの集会について地元紙の中国新聞は「改憲派、護憲派がそれぞれの主張を繰り広げた」と並列的に報じ、他紙の地域版や地元の民放各局、NHKもほぼ同様だった。その中で、3日付の中国新聞の社説は「緊急事態条項の新設を突破口に、憲法改正への道を開く構えを与党自民党が本格化させている」ことを取り上げ、「権力が暴走した戦前のような社会に逆戻りする恐れがあり、看過できない」と論じていた。
井上俊逸(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
2022年04月12日
【支部リポート】広島 金権政治で意見交換 支配の構図の潤滑油は=難波健治
2019年の参院選をめぐる大規模買収事件で、河井克行元法相=実刑確定=や妻の案里元参院議員=有罪確定=から現金を受け取り、検察審査会が「起訴相当」と議決した広島県議ら被買収議員35人への東京地検特捜部の再捜査の結論が近々にも発表されようとしている。県議、市議ら7人が相次いで辞職する中、欠員に伴う補欠選挙も始まろうとしている。
この事態を受けてJCJ広島支部は、「広島の金権政治」をテーマにオンラインによる放談会を3月2日に開いた。会員や市民ら19人が参加し、約90分間にわたり意見を交換した。
冒頭に支部から、このたびの事件であまり問題化されていないともいえる事柄4点を、「話題提供」として紹介した。
長年にわたり県政界に「ドン」として君臨した元県議会議長らのグループが家宅捜査や聴取を繰り返し受けながらも摘発を逃れた▼19年の広島選挙区選挙では、自民党2人目の公認候補で落選した溝手顕正陣営も、地方議員にカネを振り込んだり振り込もうとしたりした▼05年の広島県知事選後、当時の知事後援会事務局長が政治資金収支報告書虚偽記載で逮捕された事件では、自民党は4年に1度の知事選でも県議らにカネを配ってきたことが明るみになった▼1979年に表面化した県庁ぐるみのカラ出張事件では、億単位の不正経理によって生み出されたカネが、知事の選挙資金として上納された疑いがある、という4点。
意見交換では、広島における公職選挙で自民党は、小学区単位につくった社会福祉協議会なるものを通して民生委員ら福祉関係者を巻き込んだ「支配の仕組み」をつくりあげている▼この構図の中でゆがんだ政治資金が組織を活性化する「潤滑油」のように使われていないか、などの情報提供や指摘もあった。
広島で市民は河井事件の先に、政治や選挙に関するどんな目標を掲げて活動すべきだろうか、という点も議論された。
オンラインによる放談会は今回、支部として初の試み。今後、さまざまな地域の課題をテーマに選び、「その問題の専門家」を招いた「オンライン記者会見」をやってみようか、と話し合っている。
難波健治
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
この事態を受けてJCJ広島支部は、「広島の金権政治」をテーマにオンラインによる放談会を3月2日に開いた。会員や市民ら19人が参加し、約90分間にわたり意見を交換した。
冒頭に支部から、このたびの事件であまり問題化されていないともいえる事柄4点を、「話題提供」として紹介した。
長年にわたり県政界に「ドン」として君臨した元県議会議長らのグループが家宅捜査や聴取を繰り返し受けながらも摘発を逃れた▼19年の広島選挙区選挙では、自民党2人目の公認候補で落選した溝手顕正陣営も、地方議員にカネを振り込んだり振り込もうとしたりした▼05年の広島県知事選後、当時の知事後援会事務局長が政治資金収支報告書虚偽記載で逮捕された事件では、自民党は4年に1度の知事選でも県議らにカネを配ってきたことが明るみになった▼1979年に表面化した県庁ぐるみのカラ出張事件では、億単位の不正経理によって生み出されたカネが、知事の選挙資金として上納された疑いがある、という4点。
意見交換では、広島における公職選挙で自民党は、小学区単位につくった社会福祉協議会なるものを通して民生委員ら福祉関係者を巻き込んだ「支配の仕組み」をつくりあげている▼この構図の中でゆがんだ政治資金が組織を活性化する「潤滑油」のように使われていないか、などの情報提供や指摘もあった。
広島で市民は河井事件の先に、政治や選挙に関するどんな目標を掲げて活動すべきだろうか、という点も議論された。
オンラインによる放談会は今回、支部として初の試み。今後、さまざまな地域の課題をテーマに選び、「その問題の専門家」を招いた「オンライン記者会見」をやってみようか、と話し合っている。
難波健治
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
2021年10月25日
被爆76年 どう引き継ぐ長崎 「市民の歴史」愚直に綴れ 二番手に悩み、資料館も=橋場紀子
首相の1分遅刻が注目された平和祈念式典から1か月後の9月9日、長崎市の平和公園では恒例の「反核9の日」の座り込みが行われた。原水禁の共同議長で被爆者の川野浩一さんはマイクを握り、平和祈念式典後の菅義偉首相とのやりとりに触れた。「広島の原爆資料館には総理をはじめ、閣僚もあわせこれまでに50数名が訪れている。では、長崎の資料館には何人が来たのかー」。
首相の訪問なし
原爆投下の翌年の「慰霊祭」以降、8月9日の「平和式典」に現職の首相が参列したのは1976年が初めてで、広島から5年遅れた。長崎原爆資料館によると、96年の開館からこれまで現職の首相が同館を訪問・視察したことはない(前身の国際文化会館には84年に中曽根康弘首相(当時)が来訪。現資料館には延べ4人の閣僚が訪れている)。「海外では『広島・長崎に来て、原爆被害の実態を見てほしい』と訴えながら、総理はなぜ、誰一人として長崎には来ないのか」、川野さんは語気を強める。
相次いで鬼籍に
今年、地元メディアは盛んに被爆者団体の活動継続への不安を書きたてた。被爆者援護と核兵器廃絶運動、そして被爆体験の継承をけん引してきたいわゆる「被爆地の顔」となる被爆者がここ数年、相次いで鬼籍に入った。あわせて、長崎被災協の場合、コロナ禍で修学旅行生や観光客がぱったりと止み、事務所1階に入った土産物屋が撤退。テナント収入を見込んでいた活動資金に大打撃を与えた。また、県被爆者手帳友愛会は、前会長の後任選びが難航した経緯を持つ。
「怒りの広島」「祈りの長崎」と長く言われ、長崎は都市の規模が大きな広島の「次」、後塵を拝するイメージがつきまとう。オバマ米大統領は長崎には来ず、ローマ教皇は広島にも寄る。常に二番手であるものの、人数が少ないからこその平和活動の「まとまり」(田上市長が「チーム長崎」と評した)は長崎の強みであった。しかし、被爆者団体だけでなく、被爆二世や労働組合までも高齢化し、平和活動を支えられなくなりつつある。
被爆二世で、平和活動支援センターの平野伸人所長は長崎の現状について、「基礎体力がなくなっている」と憂う。平野さんの活動は幅広く、在外被爆者や中国人強制連行被害者、被爆体験者の救済・支援に加え、高校生平和大使など若い世代のサポート役も担う。8月9日を前に、メディア取材が最も集中する一人だ。しかし、ここ数年、様相が変わってきたと平野さんは感じている。
本質ぼけている
「『被爆』という言葉がつかなければメディアは興味も示さない。全国で報道されるが、広島・長崎はこうでなければいけない、と凝り固まってしまっている」と指摘する。分かりやすく共感を呼びやすいストーリーが描けたとしても、内外の戦争被害者を追い続けたり、読者・視聴者に多様な視点を提供したりはできず、「問題の本質がぼけているのではないか」(平野さん)と手厳しい。
もはや、被爆者、戦争体験者の声が聴ける本当に最後の時代だ。原爆被害だけでなく、いったい先の戦争は何だったのか、「市民の歴史」を愚直に綴れ、「取り残された者は本当にいないのか」と長崎は問われている。被爆者と共に在る残り少ない「8月9日」だったのに、政権末期を象徴したとはいえ全国からは「首相の1分遅刻」で描かれてしまう−その溝もまた、長崎の課題である。
橋場紀子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年9月25日号
2021年09月11日
【被爆から76年・広島】核禁条約に首相触れず 姿勢象徴する読み飛ばし=難波健治
核兵器禁止条約が発効して初めて迎えた「原爆の日」の6日、広島市の平和記念式典に出席した菅義偉首相は、式典あいさつで核禁条約には一言も触れず、その後開かれた記者会見で「条約には署名しない」と明言した。また、市民ら国際社会が強く求める第1回締約国会議へのオブザーバー参加さえ消極的な姿勢を示し続けた。
広島平和記念公園で行われた式典は今年もコロナ対策で一般席は設けず、被爆者や遺族、国内外の政府・政党代表や大使ら約750人が参列した。
その式典で菅首相は、事前に用意した原稿の一部を読み飛ばした。その部分には、「核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします」という自らの決意と、「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり」という政府の立場の根幹部分があった。
平和記念式典は、原爆の犠牲にあった多くの人々を弔い、世界から核兵器をなくすことを誓う特別の場である。読み飛ばした結果、意味が通らない形になったが、首相はそのまま読み続けた。まさに、菅政治を象徴する場面となった。
首相はあいさつの冒頭でも、「広島市」を「ヒロマシ」、「原爆」を「ゲンパツ」などと読み違えて言い直した。
また広島市と被爆者団体はこの日、原爆投下時刻の8時15分に東京五輪の選手村などで黙とうの呼びかけをするよう国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長や組織委員会に求めていたが、IOCは応じなかった。
難波健治(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
広島平和記念公園で行われた式典は今年もコロナ対策で一般席は設けず、被爆者や遺族、国内外の政府・政党代表や大使ら約750人が参列した。
その式典で菅首相は、事前に用意した原稿の一部を読み飛ばした。その部分には、「核兵器のない世界の実現に向けて力を尽くします」という自らの決意と、「わが国は、核兵器の非人道性をどの国よりもよく理解する唯一の戦争被爆国であり」という政府の立場の根幹部分があった。
平和記念式典は、原爆の犠牲にあった多くの人々を弔い、世界から核兵器をなくすことを誓う特別の場である。読み飛ばした結果、意味が通らない形になったが、首相はそのまま読み続けた。まさに、菅政治を象徴する場面となった。
首相はあいさつの冒頭でも、「広島市」を「ヒロマシ」、「原爆」を「ゲンパツ」などと読み違えて言い直した。
また広島市と被爆者団体はこの日、原爆投下時刻の8時15分に東京五輪の選手村などで黙とうの呼びかけをするよう国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長や組織委員会に求めていたが、IOCは応じなかった。
難波健治(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
2021年08月23日
「平和」と銘打った広島市条例に疑問と批判 賛否両論「式典を厳粛に」被爆者団体などは「言論の自由侵害する」=宮崎園子
《平和》と銘打った条例が、広島市議会(写真上)で成立した。米軍の原爆投下から76年、「平和都市」広島市民の代表である市議会が初めて議会発案で制定した「平和推進基本条例」。しかし、内容や成立過程において、被爆者団体や平和団体、専門家らの意見は蔑ろにされた。「平和」がスローガン化した被爆76年の広島。3月末までは全国紙記者として記者席で、4月以降は一市民として傍聴席で市議会の審議を見てきた筆者に条例は象徴的に見える。宮崎園子(広島支部)
「憲法という言葉がなく基軸が見えない」「今この時に条例を制定する意味は」
6月定例会最終日の6月25日、2日前に上程された条例案について、野党会派の2議員が反対討論した。だが、その後議論はなく、条例案はわずか30分で賛成多数で原案通り可決。この日までの流れには紆余曲折があった。
市議会は当初、被爆75年を意識し、2020年度内の成立を目指してきた。各会派代表でつくる政策立案検討会議は2年間の議論を経て今年1月に素案を公開。約1カ月間市民意見を募り、600近い市民・団体から1千項目超の意見が寄せられた。
平和団体などが問題視したのは主に3点。条例での平和の定義が、核兵器廃絶や武力紛争に限定されていて狭小である(第2条)▽平和の定義を核兵器廃絶に事実上限定しているのに、「核兵器禁止条約」への言及がない▽市民の役割を、「市が推進する平和施策に協力する」と、義務づける条項がある(第5条)––ことだった。「核禁条約発効の年に、広島の条例として世界に出すのが恥ずかしい」。NPO法人理事の渡部久仁子さんは言う。
意見が最も寄せられ、賛否が真二つに割れたのは、8月6日の平和記念式典を厳粛の中で行うとした第6条2項だった。これには伏線がある。
拡声器の是非
式典中、原爆ドーム周辺では、政府の核政策に抗議するデモ団体が、拡声機でシュプレヒコールをあげながら行進し、機動隊が警備にあたる光景が繰り広げられてきた。こうした中、市は、条例規制を視野に、式典中の拡声機使用について市民アンケートを実施。これに対し、被爆者団体や弁護士会が「条例による規制は言論の自由の妨げにつながる」と批判した。
デモ団体の拡声器使用には、被爆者団体や平和団体の中にも否定的な意見は根強い。「式典の時ぐらい静かにして」との声は、普段取材する中で多く聞く。だが、そんな人々からも反対の声が上がったのは、核兵器廃絶に消極的な日本政府と、核兵器を「絶対悪」とする被爆地・広島との間の温度差がゆえだ。「静かに祈るだけでは平和はこない」「批判できないならまるで戦時中だ」
式典での内閣総理大臣は、国連で採択された核禁条約に触れない形式的あいさつを繰り返してきた。政府は、条約を批准しないどころか、核兵器先制不使用方針を示した米政府に抗議するなど、核抑止力に依存し続ける。
式典のあり方を問題視するデモ団体側と市側は、音量調整などの協議を重ねてきたが、協議は膠着。そんな中浮上したのが、今回の平和推進基本条例案だった。
当然、式典の「厳粛」規定に注目が集まった。
「厳粛」規定を支持する市民団体「静かな8月6日を願う広島市民の会」は、SNSを使って市民意見の提出を呼びかけた。石川勝也代表は、「8月6日は静かに手を合わせて祈りを捧げる日。政治的主張をする場ではない」。
「歴史的な愚策」
一方、長く被爆者援護に取り組んできた田村和之・広島大名誉教授(行政法)は、「平和都市の自己否定というべき歴史的な愚策」と痛烈に批判する。「基本条例なのに第6条だけは具体的な施策を定めていて異様だ」
意見の精査に時間がかかり、年度内成立を断念。3カ月で計9回、寄せられた意見を条文ごとに検討した。だが、議員9人の全員一致でのみ意見を採用するとした結果、意見の多くは反映されなかった。その後、核禁条約については発効の事実のみが前文で挿入され、平和団体が問題視した市民の協力義務規定(第5条)は削除された。だが、狭小な平和の定義や、式典「厳粛」規定は残った。
条例を作ること自体が目的化し、条例の先にどういう市民社会づくりめざすのか、広島から訴える平和とはどういうものなのか、市民を巻き込んだ深い議論がないまま出来上がった条例。被爆者なき後、広島の街は、何を背骨として生きていくのだろうか。そのことがいま、改めて問われている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号
2021年05月25日
【支部リポート】香川 お寺で小僧生活送った会員が自分史 赤旗記者36年を振り返る=刎田鉱造
販売チラシには、「『赤旗』記者になった京都のお寺の小僧さん」とあるように、京都・花園の臨済宗総本山妙心寺の塔頭寺院で4年間、小僧生活を送った著者が、楚田という自分の名前のことを手始めに、香川へ引っ越して8年を期して、自分史のエッセンスをまとめたもの。京都の学生運動や立命館大学梅原猛ゼミ、「赤旗」記者としての36年をふり返りつつ、八鹿高校事件と但馬の日々、京都府庁の「憲法」垂れ幕が降ろされた瞬間、田中角栄と早坂茂三氏のことなど歴史の目撃者として見たことを記録。家族新聞のこと、京都の『無言宣伝』の本に寄せた「一人でもやる、一人からはじめる」、そして「オレの八十をみてろ!」などが第一部です。
「ぴーすぼーと漂流記」と船内家族「イルカ家」や2015年NPT再検討会議への要請行動ーNY・ボストンへの旅や、中国、韓国への旅の報告など反核・平和・友好・地球一周の旅のリポートが第二部です。
寄せられた感想には、「自分の人生の折々と重ね合わせて読んだ。自分史を出したいと思った」「『赤旗』が注目されているとき、こんな記者もいたんだという意味で、タイムリーだったのでは」「元気をもらった。われわれもまた志高く生きたいと感じた」などなど。
楚田さんは「読んでもらって、たよりやメールをもらう中で、旧交を温め、コロナ禍の大変な日々をお互いに意気高く過ごしていこうと気持ちを通わせることができたのは、なによりの収穫であり、うれしいことでした」。
なお、本の表紙には、香川町浅野に伝わる農民の祭り「ひょうげ祭り」の装束をした写真と、元国連軍縮担当上級代表のドウアルテ氏に2010年段ボールの署名の山とともに一緒に写した写真をみせた時の一コマを使っているのも、工夫の一つです。
刎田鉱造
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年4月25日号