マラリアに罹患した人の話を初めて聞いた。
山里節子さん、家族8人のうち弟以外全員が罹患し、母と祖父を亡くした。
彼女は3日間熱を出し数日は落ち着くがまた3日間40度の熱にうなされるという繰り返し。1、2ケ月たつと髪の毛が抜けてケロイド状になる。脾臓が腫れて妊娠したように腹がふくれる。症状は人によるらしいが彼女の場合、踵がジンジンと痛く冷たくなり、それがだんだん身体の上のほうにあがっていき骨の髄まで寒くなる。どれだけ寝具を重ねてもダメ。軍部に薬はあったけど、使えたのは上官だけだったと後で聞いた。
そんなマラリアの蔓延する山の中に軍は住民を強制移動させた。
山里さんの妹は生後4ケ月で栄養失調で壕の中で死んだが、その壕は軍が住民を動員して掘らせたもの。戦争に勝つようにと勝代と命名された妹は死ぬために生まれたようなものだと淡々と話される。
そもそも軍が守るという「国」とは本来国民であり、国民の暮らしではないのか。
会議室で誰かが戦争を街に招き入れ、そこに住む人々がその犠牲になる。
山里さんが抱く国に対する不信感はこうした体験によるもので、守らなければならない住民をこのように扱った憤りが抑えられないという彼女は、いま自分の島が自衛隊基地によって無残な姿にされるのを阻止することに力をそそいでいる。
山里さんが死なないで本当によかった。しかし、いままた彼女の平穏な暮らしを守れないことに私たちも心が痛い。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
2023年05月24日
2023年05月23日
【沖縄ジャンプナイト現地調査】新安保政策が直撃!!石垣島編 平和の島、軍事要塞化 住民保護や環境なおざり=菊地正志
緑豊かな山麓に白く浮かび上がる陸自石垣駐屯地=1月28日、菊地正志撮影
石垣島は亜熱帯の自然と都市が調和した日本有数のリゾート地。戦後70年以上にわたり軍事基地がなかった。そんな平和の島にミサイル基地が開設された(3月16日)。「島を戦場にするな」。軍事要塞化に抗する市民たちは今も声を上げ続けている。
石垣島を訪れたのは1月末。ミサイル基地となる陸上自衛隊石垣島駐屯地は年度内の開設に向け、急ピッチで工事が進められていた。
軍事基地をつくらせない市民連絡会(市民連絡会)事務局、藤井幸子さん(75)の案内でバンナ公園の展望台に立った。
「於茂登岳のふもとにあるのがミサイル基地。右端が弾薬庫です」と藤井さん。約60bの高台で元ゴルフ場と市有地。クレーンが林立し、むき出しの白っぽい土砂が目に飛び込んできた。周辺に広がる緑豊かな森や畑とはまったく違う。異様な光景だ。
貴重な水源地
基地周辺は、水道水の20%を賄う地下水や農業用水の貴重な水源地。大規模で特殊な軍事基地では、化学物質などによる水の汚染や工事による水の流れへの影響が懸念されている。
「地下水への影響を調べてほしい」。市民や専門家の意見に対し防衛省は「排水は浄化槽で適正に処理するから問題ない」と繰り返し、真摯に耳を傾けてこなかった。
「地下水は一度汚染されたら回復はほぼ不可能になる」と藤井さん。環境アセスメントも、県の条件をすり抜けるような形で工事が進められた。
さらに周辺は国指定天然記念物で絶滅危惧種、カンムリワシの優良な生息域でもある。
住民投票を拒否
「非武装の島」にミサイル配備計画が浮上したのが2015年5月。その直後から配備反対の市民運動が起きた。
建設地周辺の4自治組織(嵩田=たけだ=、開南、於茂登=おもと=、川原の各公民館)は配備反対決議を上げたが、防衛省や市はその声を無視し工事を強行した。
有権者の4割が求めた住民投票も実施されていない。「(配備に反対でも賛成でも)住民同士に分断を生まないように、『ちょっと立ち止まって考えよう』が出発点だったのに…」。住民投票を求める会(求める会)の設立メンバー、宮良麻奈美さん(30)は悔しがる。
宮良さんら求める会の若者は二つの裁判の原告(一つは敗訴)となり、今も住民投票の実施を求め続けている。
ミサイルの標的
石垣島に配備されたミサイルは地対艦と地対空の2種類。12式地対艦ミサイルは、現在の射程200`bを千`b超に改良する計画。安保3文書では「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、防衛費を今後5年間で43兆円に増やす大軍拡も進んでいる。
長射程ミサイルの配備は未定だが、石垣市議会は昨年12月、「他国を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激する」とする意見書を賛成多数で可決した。
ミサイル基地容認派の中にも「長射程ミサイルを配備すれば、島が標的になる恐れがある」と不安の声が広がっている。
石垣市国民保護計画(13年3月策定、19年12月改定)によると、「ミサイル攻撃や着上陸侵攻など壊滅的な事態に6万5300人が島外に避難する」とある。民間航空機だけを使用した場合、全市民が避難するまでに10日間かかる想定だ。
同市の担当者は「市民の安全を担保できる計画を考えるが、実際に島外避難が可能かどうか分かりづらい。ハードルが高くて物理的に厳しい」と不安を口にした。
市民連絡会は4月2日、「万一に備える住民保護・避難の態勢もないままに(基地開設を)強行することに、強く抗議する」という抗議文を防衛省に提出した。
いのちと暮しを守るオバーたちのスタンディング=1月29日
「闘い続ける」
南西諸島で進む軍事要塞化に、沖縄戦の体験世代は「戦争の足音が近づいてきた」と危機感を募らせている。
「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」の会長、山里節子さん(85)もその一人。55年5月から1年半、米国の地質調査に加わったことで「軍事利用に荷担した」と償いの思いがあるからだ。
毎週日曜日、仲間のオバーたちと島内各地でスタンディングを続けている山里さん。
「自衛隊が存在する限り、生きている限り闘い続けます。オバーは神出鬼没ですよ」。ユーモアたっぷりに語る節ちゃんオバーの優しく、柔和な笑顔が忘れられない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
石垣島は亜熱帯の自然と都市が調和した日本有数のリゾート地。戦後70年以上にわたり軍事基地がなかった。そんな平和の島にミサイル基地が開設された(3月16日)。「島を戦場にするな」。軍事要塞化に抗する市民たちは今も声を上げ続けている。
石垣島を訪れたのは1月末。ミサイル基地となる陸上自衛隊石垣島駐屯地は年度内の開設に向け、急ピッチで工事が進められていた。
軍事基地をつくらせない市民連絡会(市民連絡会)事務局、藤井幸子さん(75)の案内でバンナ公園の展望台に立った。
「於茂登岳のふもとにあるのがミサイル基地。右端が弾薬庫です」と藤井さん。約60bの高台で元ゴルフ場と市有地。クレーンが林立し、むき出しの白っぽい土砂が目に飛び込んできた。周辺に広がる緑豊かな森や畑とはまったく違う。異様な光景だ。
貴重な水源地
基地周辺は、水道水の20%を賄う地下水や農業用水の貴重な水源地。大規模で特殊な軍事基地では、化学物質などによる水の汚染や工事による水の流れへの影響が懸念されている。
「地下水への影響を調べてほしい」。市民や専門家の意見に対し防衛省は「排水は浄化槽で適正に処理するから問題ない」と繰り返し、真摯に耳を傾けてこなかった。
「地下水は一度汚染されたら回復はほぼ不可能になる」と藤井さん。環境アセスメントも、県の条件をすり抜けるような形で工事が進められた。
さらに周辺は国指定天然記念物で絶滅危惧種、カンムリワシの優良な生息域でもある。
住民投票を拒否
「非武装の島」にミサイル配備計画が浮上したのが2015年5月。その直後から配備反対の市民運動が起きた。
建設地周辺の4自治組織(嵩田=たけだ=、開南、於茂登=おもと=、川原の各公民館)は配備反対決議を上げたが、防衛省や市はその声を無視し工事を強行した。
有権者の4割が求めた住民投票も実施されていない。「(配備に反対でも賛成でも)住民同士に分断を生まないように、『ちょっと立ち止まって考えよう』が出発点だったのに…」。住民投票を求める会(求める会)の設立メンバー、宮良麻奈美さん(30)は悔しがる。
宮良さんら求める会の若者は二つの裁判の原告(一つは敗訴)となり、今も住民投票の実施を求め続けている。
ミサイルの標的
石垣島に配備されたミサイルは地対艦と地対空の2種類。12式地対艦ミサイルは、現在の射程200`bを千`b超に改良する計画。安保3文書では「敵基地攻撃能力」を「反撃能力」と言い換え、防衛費を今後5年間で43兆円に増やす大軍拡も進んでいる。
長射程ミサイルの配備は未定だが、石垣市議会は昨年12月、「他国を直接攻撃することが可能となり、近隣諸外国を必要以上に刺激する」とする意見書を賛成多数で可決した。
ミサイル基地容認派の中にも「長射程ミサイルを配備すれば、島が標的になる恐れがある」と不安の声が広がっている。
石垣市国民保護計画(13年3月策定、19年12月改定)によると、「ミサイル攻撃や着上陸侵攻など壊滅的な事態に6万5300人が島外に避難する」とある。民間航空機だけを使用した場合、全市民が避難するまでに10日間かかる想定だ。
同市の担当者は「市民の安全を担保できる計画を考えるが、実際に島外避難が可能かどうか分かりづらい。ハードルが高くて物理的に厳しい」と不安を口にした。
市民連絡会は4月2日、「万一に備える住民保護・避難の態勢もないままに(基地開設を)強行することに、強く抗議する」という抗議文を防衛省に提出した。
いのちと暮しを守るオバーたちのスタンディング=1月29日
「闘い続ける」
南西諸島で進む軍事要塞化に、沖縄戦の体験世代は「戦争の足音が近づいてきた」と危機感を募らせている。
「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」の会長、山里節子さん(85)もその一人。55年5月から1年半、米国の地質調査に加わったことで「軍事利用に荷担した」と償いの思いがあるからだ。
毎週日曜日、仲間のオバーたちと島内各地でスタンディングを続けている山里さん。
「自衛隊が存在する限り、生きている限り闘い続けます。オバーは神出鬼没ですよ」。ユーモアたっぷりに語る節ちゃんオバーの優しく、柔和な笑顔が忘れられない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
2023年05月15日
【沖縄リポート】「言葉狩り」する司法を許せない=浦島悦子
耳を疑った。弁護団からも「前代未聞だ!」との声が上がった。
私たち辺野古・大浦湾沿岸住民ら20人が、玉城デニー知事の(辺野古埋め立てに関する)設計変更不承認を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だと、その取り消しを求める抗告訴訟の第3回口頭弁論が那覇地裁で開かれる(3月23日)、その前日のことだ。原告意見陳述を予定していた私の陳述内容について、裁判所から、「穏当でない」表現があるので、書き換えなければ陳述を許可できないと、担当弁護士に連絡があったという。
私は今回、辺野古新基地建設問題について、生物多様性の観点から陳述を行った。人間活動による地球環境=生物多様性の劣化がこれ以上進めば人類の生存そのものが危うくなるという危機感を共有した世界の国々が結んだ生物多様性条約を、日本政府も批准している。率先して生物多様性を保全する義務を負う政府が、それと真逆に、世界の中でも稀有の生物多様性を残す「奇跡の海」=辺野古・大浦湾を、国民の血税を使って自ら破壊していることを、私は「国家犯罪」だと指摘した。
そして、国のこの行為が合法か否かを吟味することなく「原告適格なし」と判断するなら、裁判所も後世の人々から破壊の片棒を担いだと「断罪」されるだろうと書いた。
書き換えを要請された文言は、これら「罪」という文字の入った4か所だった。「修正」を拒否して意見陳述しない選択もあったが、弁護団と相談のうえ、私は「極めて不本意だが」と前置きして陳述を行い、弁護団は厳しく抗議した。福渡裕貴裁判長は「訴訟指揮の範囲」だと居直った。
同裁判長は、埋め立て承認撤回を巡る住民の抗告訴訟で昨年、「原告適格なし」として却下した(現在控訴中)前歴がある。
原告・被告の率直な言い分を聞いて判断する中立の立場を投げ捨て、行政権力に忖度し、「言論・表現の自由」に反する検閲や「言葉狩り」を行う司法を許すわけにはいかない。原告・弁護団は今後の対応を検討中だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
私たち辺野古・大浦湾沿岸住民ら20人が、玉城デニー知事の(辺野古埋め立てに関する)設計変更不承認を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だと、その取り消しを求める抗告訴訟の第3回口頭弁論が那覇地裁で開かれる(3月23日)、その前日のことだ。原告意見陳述を予定していた私の陳述内容について、裁判所から、「穏当でない」表現があるので、書き換えなければ陳述を許可できないと、担当弁護士に連絡があったという。
私は今回、辺野古新基地建設問題について、生物多様性の観点から陳述を行った。人間活動による地球環境=生物多様性の劣化がこれ以上進めば人類の生存そのものが危うくなるという危機感を共有した世界の国々が結んだ生物多様性条約を、日本政府も批准している。率先して生物多様性を保全する義務を負う政府が、それと真逆に、世界の中でも稀有の生物多様性を残す「奇跡の海」=辺野古・大浦湾を、国民の血税を使って自ら破壊していることを、私は「国家犯罪」だと指摘した。
そして、国のこの行為が合法か否かを吟味することなく「原告適格なし」と判断するなら、裁判所も後世の人々から破壊の片棒を担いだと「断罪」されるだろうと書いた。
書き換えを要請された文言は、これら「罪」という文字の入った4か所だった。「修正」を拒否して意見陳述しない選択もあったが、弁護団と相談のうえ、私は「極めて不本意だが」と前置きして陳述を行い、弁護団は厳しく抗議した。福渡裕貴裁判長は「訴訟指揮の範囲」だと居直った。
同裁判長は、埋め立て承認撤回を巡る住民の抗告訴訟で昨年、「原告適格なし」として却下した(現在控訴中)前歴がある。
原告・被告の率直な言い分を聞いて判断する中立の立場を投げ捨て、行政権力に忖度し、「言論・表現の自由」に反する検閲や「言葉狩り」を行う司法を許すわけにはいかない。原告・弁護団は今後の対応を検討中だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年4月25日号
2023年04月12日
【沖縄リポート】70団体参加 那覇市街地で声上げる=浦島悦子
「島々を戦場にするな!沖縄を平和発信の場に!」緊急集会とデモが2月26日(日)午後、開催された。「台湾有事」を口実に、急激に進む琉球弧のミサイル基地化・軍事要塞化=「第二の沖縄戦」に危機感を募らせる県内の市民団体や個人が昨年末から議論を積み重ね、開催に漕ぎつけた。
議論の中で、シニア世代の運動スタイルに対する若者世代の違和感や、今まさに自衛隊基地が作られつつある与那国・宮古・石垣の島々(会議にはオンライン参加)と沖縄島との危機意識の落差などが率直に話し合われ、共同作業ができたことは大きな成果だ。会合を重ねるごとに参加団体も増え、70団体を超えた。
会場となった県庁前県民広場は、主催者目標の1000人を大きく上回る老若・親子連れを含む1600人の参加者で埋まり、右翼の街宣車の妨害をものともせず、ミニライブや各島々・地域からのトークが展開された。集会実行委員長を務めたガマフヤーの具志堅隆松さんは「ものが言えなくなると戦争になるのは経験済みだ。今はまだものが言える。声を上げていこう!」と呼び掛けた。
「私たち沖縄県民は平和を愛する民です」から始まる集会宣言文は、政府に対して二度と戦争を引き起こさないことを求めるとともに、全国の自治体に対し、中国との平和交流の強化を求めた。コロナ禍以来、久方ぶりのデモ行進が那覇の市街地を練り歩いた=写真=。
今後は、さらに大規模な集会、そして、戦争をさせない全県組織の結成を目指す。しかしながら一方で、それが間に合わないと感じるほど戦争への動きは待ったなしだ。
与那国・宮古に続き陸上自衛隊の駐屯地建設が進む石垣島では、16日の開設に向け5日午前、市民の猛抗議の中、ミサイルを含む車両150台が搬入された。
沖縄島でも、うるま市の自衛隊分屯地へのミサイル配備、沖縄市の自衛隊弾薬庫建設、そして米軍辺野古弾薬庫の増設&新ゲート建設工事と目白押し。住民を巻き込んだ「持久戦」の準備が着々と進むのが恐ろしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
2023年04月01日
【沖縄ジャンプナイト現地調査】 国民見捨て「米の盾」ミサイル要塞化の現場を歩く 諦めない決意、地元と共に メンバーら宮古・石垣に飛ぶ=川田マリ子
JCJ会員有志の独自の勉強会 沖縄ジャンプナイト(OJN)は南西諸島で進むミサイル基地化の現状を見ようと1月25日から29日まで、宮古・石垣両島へ飛んだ。総勢7人、10年振りの寒波の中、降り立った宮古島はダウンを着ても寒かった。
「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の清水早子さんの案内で、島の数か所に広がる空自・陸自・海保の基地やレーダー施設、軍事衛星施設、戦跡などを見てまわり、夕方大型スーパー前でのスタンディングに参加。会のメンバーたちが道行く人に訴える。我々メンバーもマイクを持った。
翌朝は陸自基地前でのスタンディング=写真=に参加した後、建設中のミサイル弾薬庫、射撃訓練場などの現場を見て回る。夜は連絡会の皆さんが是非我々と話をしたいとのことで、それぞれの立場の活動や意見を聞いた。
一方、反対活動をしている方々は高齢者が多いなかで、子供を抱えて働きながら新しい闘いを模索している母親たちの話も聞いた。
また、宮古毎日記者や沖縄タイムス宮古支局長から地元メディアの「苦悩」を含め、意見交換したほか、宮古島市議から市議会の動静も含めての現状を聞いた。
宮古はハンセン病でも辛い歴史があり、国立療養所「宮古南静園」を訪れ、退所して人権・平和ボランティアをしている方とも交流した。
石垣では、「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」の藤井幸子さんの案内で建設中の基地を高台から、そして隣のパイン畑を歩いて工事の状況を垣間見た。正面口ではひっきりなしに大型工事車両が出入りしていた。
「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」山里節子さんは80代半ば。若い時に助手として参加した、米軍による石垣島の地質調査が、現在の状況に深く関わっていたのではという思いから、持病を抱えながらも取材を受けたり、スタンディングなどの活動を行っている。絶対にあきらめない決意がみてとれる。
石垣市の出版社「南山舎」代表の計らいで石垣市議、「石垣市住民投票を求める会」の方、平和ボランティアを育てる活動をしている方など若い方々と交流したことは貴重だった。
最後に『八重山の戦争』著者の大田静男さんのお話を伺い、4泊5日の行程を終えた。
両島とも用地の買収には不透明で理不尽な経緯がある。環境の変化がすでに住民の生活に現れており、今後危惧される問題も多く指摘された。信仰深い島の御嶽(うたき)がないがしろにされていることも見過ごせない。
渡辺白泉が詠んだ「戦争が廊下の奥に立ってゐた」の句のように、この島々では戦争がすぐ目の前にあるように感じた。
だが両島とも島中が恐怖に怯え、怒りに燃えているかと言えばそうではない。「米軍基地」ではなく「自衛隊基地」であるところに問題の難しさがあると思われる。詳細は次号以降にて。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
2023年03月03日
【沖縄リポート】有事起こさせぬ民間外交を=浦島悦子
2月1〜7日、沖縄平和紀行韓国参加団(女性6名、男性5名)が来沖した。参加団を構成するのは、韓国・群山で駐韓米軍の問題に取り組む「ピョンファパラム(平和の風)」と地域メディアプロジェクト「ナルリポプソク(日本語で「喧々諤々」)」。米軍基地問題を共有し、長年、韓国市民との交流を続けている「沖韓民衆連帯」が受け皿となり、沖縄のさまざまな現場で市民・住民との交流を深めた(=写真=)。
ナルリポプソクは、映像やメディアを通じて、群山はじめ駐韓米軍の問題を発信している韓国各地の若者たちで構成されている。今回、海外の事例についても学び、交流とともに撮影やインタビューを行いたいと、沖縄戦の戦跡や伊江島、辺野古や普天間、浦添、嘉手納、読谷、PFOS等の環境問題、うるま市や石垣島のミサイル基地の現場などを廻った。
4日には、オール沖縄会議主催の辺野古ゲート前県民集会(毎月第1土曜日開催)にも全員で参加・登壇し、韓国から持参した「沖縄から米軍は去れ!」と書かれた横断幕を沖縄に贈呈。630人余の集会参加者の熱い拍手を浴びた。
私事だが、集会の後、私も彼らから、かなり長時間のインタビューを受けた。通訳を通じてのもどかしさはありつつも、若者たちの真摯な問いかけ、向きあい方に感動を覚えた。
沖縄も含め日本の学校教育の中で、日中・日韓関係、朝鮮戦争など東アジアを含む戦後史がほとんど教えられないまま、「中国の脅威」「北朝鮮の脅威」が喧伝され、国民の「嫌中」「嫌韓」を増幅しつつ戦争への準備が急激に進んでいる。日本政府が米国の要求のままに軍備だけを増強し、外交を放棄している中で、小さくはあっても、このような「民間外交」の積み重ねが、いま極めて重要だと思う。
12日に那覇市で開催される「第一回沖縄・台湾対話シンポジウム」もその一つだ。台湾と沖縄の人々が顔を合わせ、「『台湾有事』を起こさせないために何ができるか」を対話する。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号
2023年02月06日
【沖縄リポート】建設断念求める署名活動に協力を=浦島悦子
およそ「めでたい」とは程遠い2023年の新年を迎えた。昨年12月16日、安保3文書が閣議決定された。専守防衛から敵基地攻撃へと戦後日本の進路の大転換が、国民の信を問うことも国会論議さえなく、閣議決定だけでいとも簡単に決まってしまう恐ろしさに身がすくむ。それに対する国民の広範な議論も起こらないまま、その犠牲を真っ先に強いられるのは沖縄を含む琉球の島々だ。今年はどんな年になるのだろうと、暗澹たる思いをぬぐえない。
法を無視した閣議決定の積み重ねで強行されてきた辺野古新基地建設は、1997年12月21日に行われた名護市民投票で「新基地NO‼」の市民意思が示されてから25年が過ぎた。そして2013年1月、県内全41市町村長・議会議長が署名捺印した「建白書」(オスプレイの配備撤回、普天間飛行場の閉鎖・撤去、県内移設断念を求めた)を首相と手交してから間もなく10年となる。「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」は、10年経っても県民の総意が踏みにじられたままである現状を訴え、国会論議を実現させるために、建設断念を求める国会請願署名運動を開始した。
1月7日、辺野古の座り込みテント前で署名実行委員会の結成集会が行われ、約650人の県民が参加した。実行委員長には稲嶺進・前名護市長が就任(=写真=)。3月半ばまでに県内外、オンラインも含め34万筆(昨年の県知事選での玉城デニー知事の得票数)をめざす。
当日採択されたアピール文の冒頭には、復帰前年の1971 年11 月、当時の屋良朝苗主席が国会へ携えた「建議書」の中の一文が引用されている。「沖縄は、余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となり利用され過ぎてきました。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱却していかなければなりません」
この「建議書」を踏みにじった「沖縄返還協定」。そして「建白書」を踏みにじった新基地建設強行から「再びの沖縄戦」へ。この悪い流れを止めるため請願署名に是非ご協力下さい。(署名用紙はオール沖縄会議HPからダウンロードできます。)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
法を無視した閣議決定の積み重ねで強行されてきた辺野古新基地建設は、1997年12月21日に行われた名護市民投票で「新基地NO‼」の市民意思が示されてから25年が過ぎた。そして2013年1月、県内全41市町村長・議会議長が署名捺印した「建白書」(オスプレイの配備撤回、普天間飛行場の閉鎖・撤去、県内移設断念を求めた)を首相と手交してから間もなく10年となる。「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」は、10年経っても県民の総意が踏みにじられたままである現状を訴え、国会論議を実現させるために、建設断念を求める国会請願署名運動を開始した。
1月7日、辺野古の座り込みテント前で署名実行委員会の結成集会が行われ、約650人の県民が参加した。実行委員長には稲嶺進・前名護市長が就任(=写真=)。3月半ばまでに県内外、オンラインも含め34万筆(昨年の県知事選での玉城デニー知事の得票数)をめざす。
当日採択されたアピール文の冒頭には、復帰前年の1971 年11 月、当時の屋良朝苗主席が国会へ携えた「建議書」の中の一文が引用されている。「沖縄は、余りにも国家権力や基地権力の犠牲となり手段となり利用され過ぎてきました。復帰という歴史の一大転換期にあたって、このような地位からも沖縄は脱却していかなければなりません」
この「建議書」を踏みにじった「沖縄返還協定」。そして「建白書」を踏みにじった新基地建設強行から「再びの沖縄戦」へ。この悪い流れを止めるため請願署名に是非ご協力下さい。(署名用紙はオール沖縄会議HPからダウンロードできます。)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年1月25日号
2023年01月04日
【沖縄リポート】司法と行政の茶番劇だ=浦島悦子
司法はここまで落ちぶれてしまったのか‼
沖縄県による「辺野古埋立承認撤回」を取り消した国土交通大臣の裁決は違法だと、県が裁決の取り消しを求めた抗告訴訟で12月8日、最高裁は県の上告を棄却。一度の弁論も行わないまま、「裁判の対象ではない」「県に原告の資格はない」とした一審・二審の判決が確定した。私人(国民)の権利救済のための行政不服審査法を国(行政権力)が使った裁決が、適法かどうかという中身の判断を避けた。
松野官房長官は「沖縄県の訴えを不適法とする国の主張が認められた」と語ったが、司法と行政権力が結託した茶番劇、「国の言うことに従え」という脅し以外の何物でもない。
辺野古新基地建設を巡って沖縄県がこれまでに提訴した訴訟はことごとく、県の敗訴に終わっている。訴えの中身には一切触れず門前払いする司法の在り方は、三権分立をかなぐり捨て、地方自治を踏みにじり、社会正義を実現する「最後の砦」としての役割を放棄した「自殺行為」だ。
私たち新基地予定地周辺に住む住民も、県の抗告訴訟と同様の訴訟を起こしたが、これも今年4月、那覇地裁で原告適格なしとして棄却され、現在、高裁に控訴中だ。
また、埋立予定地の大浦湾側で見つかった軟弱地盤改良工事のための設計変更申請に対する玉城デニー知事の「不承認」についても、国交大臣は同じ「手口」で取り消しの裁決を行った。これに対して沖縄県が提起した3件の訴訟の2件について1日、福岡高裁那覇支部で口頭弁論が開かれ(写真)、玉城デニー知事が意見陳述した。知事は、「これは沖縄の問題ではなく、わが国の地方自治体の自治権を守るたたかいだ」と強調した。
私たち住民も、知事の不承認を支持する新たな抗告訴訟(原告20人)を提起した。県(行政)よりも、基地の被害を直接受ける住民の方が原告適格を認められやすい。「原告適格」の関門を突破すれば、国の違法性を問う中身の審理に入れる。その可能性を探りつつ、同時に司法をただす気概を持って取り組んでいきたい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年12月25日号
2022年12月12日
【沖縄リポート】与那国 早くも「生活の場が戦場に」=浦島悦子
6年ぶりの第7回世界のウチナーンチュ大会(5年ごとに開催。昨年の予定がコロナ禍により延期)が10月30~11月3日に開催され、沖縄にルーツを持つ人々(世界13の国と地域から約1600人及び国内・県内)が、那覇市の国際通りで行われた前夜祭パレード(=写真=)を皮切りに沖縄各地で絆を確かめ合った。
1899年のハワイ移民から始まった沖縄の移民は、期待とは裏腹な移民先での並々ならぬ辛苦を乗り超えて現地に根を張ると同時に、「本家」の沖縄よりも伝統文化やしまくとぅばを残している。140万県民と、42万人と言われる海外ウチナーンチュの共同作業が、県や国の境を超えた沖縄の未来を拓くのではないか。
閉会式で主催者挨拶を行った玉城デニー知事は、「世界中から戦争の恐怖を取り除くために対話と共存を求めよう」と述べ、今大会のメッセージは「平和」だと語った。
しかしながら沖縄の現実は、真逆の事態が進行している。中国を念頭に置いた自衛隊と米軍による日米共同統合演習「キーン・ソード23」が10日から、南西諸島を主舞台に始まった。自衛隊・米軍基地や訓練区域だけでなく、「有事」を想定した民間空港・港湾施設や公道の使用も行う。台湾に近い与那国島では空港を使用し、最新鋭の機動戦闘車が公道を走る。「生活の場が戦場になる」ことを先取りするものだ。
県民は「戦争前夜」「第二の沖縄戦」の危機をひしひしと感じている。8日朝、演習に向けて沖縄島中部の中城湾港に自衛隊車両を積んだ輸送船が着岸した。港には、ミサイル配備反対の活動を続けている、うるま市島ぐるみ会議を中心に百人以上の市民が集まり、「県民の物流拠点を台湾有事に使うな!」「沖縄を再び戦場にする戦争訓練反対!」と抗議の声を上げた。陸揚げされた73台の自衛隊車両の移動を止めようと港のゲート前に座り込んだが、機動隊によって排除された。
9日、「ノーモア沖縄戦命どぅ宝の会」が演習の中止を求める緊急声明を発し、夕刻には雨の中、県庁前の県民広場で抗議集会が行われた。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年11月25日号
2022年11月17日
【沖縄リポート】座り込み3千日で「日中友好」発信=浦島悦子
9月29日、新基地建設反対の座り込みが続く辺野古ゲート前(1週間前の9月22日で座り込み3000日を迎えた)から「日中友好・不再戦」が発信された。
この日は、1972年、当時の田中角栄首相と中国の周恩来総理の「日中共同声明」による国交正常化から50周年の節目の日。弁護士として中国人強制連行補償裁判に取り組んだ経験を持ち、東京から定期的に辺野古座り込みに参加している内田雅敏氏がゲート前テントでミニ講演を行い、日中共同声明以降の50年間に両国の間で交わされてきた4つの基本文書などについて説明し、これら積み上げられてきた「平和資源」を外交に活かすべきだと述べた。
その後、参加者たちは新基地建設の資機材が搬入されるゲートに座り込み、「日中友好・不再戦、辺野古新基地建設反対」の横断幕を掲げ、中国とも、どこの国とも戦争しないという意思を改めて示し、声を上げた。「中国の脅威」や「台湾有事」が声高に叫ばれ、南西諸島の軍事化・ミサイル基地化が進んでいるのは政治・外交の不在に他ならない。不戦を願う市民の声が中国に、米国に届くことを祈った。
その2日後の10月1日、コロナ禍により中断されていたゲート前県民集会(毎月第1土曜日)が4か月ぶりに行われ750人が参加したが、ここでも前記横断幕が掲げられた。
県民集会には、9月11日の県知事選で再選を果たした玉城デニー知事が参加し、知事選で示された県民の辺野古反対の意思を受け、絶対に基地は造らせない決意を語った。前日9月30日に県が起こした「(県の設計変更不承認を取り消した国交省の裁決に対する)抗告訴訟」について、不承認は間違っておらず国の裁決は無効だと訴えると、参加者たちは一斉に「不承認支持」のプラカードを掲げて知事を激励した。
私も発言者の1人として、同様の内容で地域住民の立場からも訴訟を提起したこと、県と一体となって取り組む決意を述べた。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
この日は、1972年、当時の田中角栄首相と中国の周恩来総理の「日中共同声明」による国交正常化から50周年の節目の日。弁護士として中国人強制連行補償裁判に取り組んだ経験を持ち、東京から定期的に辺野古座り込みに参加している内田雅敏氏がゲート前テントでミニ講演を行い、日中共同声明以降の50年間に両国の間で交わされてきた4つの基本文書などについて説明し、これら積み上げられてきた「平和資源」を外交に活かすべきだと述べた。
その後、参加者たちは新基地建設の資機材が搬入されるゲートに座り込み、「日中友好・不再戦、辺野古新基地建設反対」の横断幕を掲げ、中国とも、どこの国とも戦争しないという意思を改めて示し、声を上げた。「中国の脅威」や「台湾有事」が声高に叫ばれ、南西諸島の軍事化・ミサイル基地化が進んでいるのは政治・外交の不在に他ならない。不戦を願う市民の声が中国に、米国に届くことを祈った。
その2日後の10月1日、コロナ禍により中断されていたゲート前県民集会(毎月第1土曜日)が4か月ぶりに行われ750人が参加したが、ここでも前記横断幕が掲げられた。
県民集会には、9月11日の県知事選で再選を果たした玉城デニー知事が参加し、知事選で示された県民の辺野古反対の意思を受け、絶対に基地は造らせない決意を語った。前日9月30日に県が起こした「(県の設計変更不承認を取り消した国交省の裁決に対する)抗告訴訟」について、不承認は間違っておらず国の裁決は無効だと訴えると、参加者たちは一斉に「不承認支持」のプラカードを掲げて知事を激励した。
私も発言者の1人として、同様の内容で地域住民の立場からも訴訟を提起したこと、県と一体となって取り組む決意を述べた。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年10月25日号
2022年10月05日
【沖縄リポート】圧勝の県知事選 6万5千票差=浦島悦子
9月11日午後8時1分、投票箱の蓋が閉まった途端の「当確」発表だった。あまりの早さに面食らったが、それはすぐに大きな喜びに替わった。「ばんざーい‼」「沖縄県民の良識が勝った‼」
再選を果たした玉城デニー氏の得票は約34万票。自公政権が推した佐喜眞淳候補に約6万5千票の差を付けた(もう一人の候補・下地幹郎氏の得票は5万3千余)。就任以来、一貫した「新基地反対」の姿勢、首里城火災や新型コロナなど困難な状況を前向きに乗り越える明るいキャラクターも支持を得た。
しかし何と言っても今回の選挙に大きな影響を与えたのは、あまり報道されないが旧統一教会問題だったと思う。佐喜眞陣営は、1万人を動員し花火まで打ち上げた決起大会や、国道を埋め尽くすVロード作戦など派手な演出を繰り返したが、それは危機感の裏返しだったと思われる。旧統一教会との密接な関係が明らかになり、同日投開票の統一地方選の保守系候補者からもセット戦術を拒否されているという話も伝わってきた。
今回、創価学会がほとんど動かなかったのも異例だった。台風接近が伝えられる中で期日前投票所には大行列ができたが、その多くが家族連れで、創価学会がよくやるワゴン車での送迎などは見かけなかった。従来、期日前投票は自公票が多いが、今回は出口調査でデニー票の多さが際立ったことも、早い「当確」報道の根拠となったのだろう。57.92%という低投票率(前回より5ポイント以上減)は、自公支持者が投票に行かなかったせいもあるのではないかと私は推察している。
一方、わが名護市の議員選挙(26議席)は、新基地建設を容認する渡具知武豊市政の与野党が同数で拮抗していたこれまでの構図が変わり、与党15人、野党11人の当選という厳しい結果となった。今後、渡具知市政の暴走をどう止められるのか、野党議員だけでなく私たち市民の大きな課題でもある。
とりわけ、新基地建設の地元である名護市東海岸地域で、私たち基地反対の住民運動が2006年に推し立て、4期を務めてきた現職市議が、最下位でどうにか当選できたものの、従来より大幅に得票を減らしたのはショックだった。
勝敗を含め今後のさまざまな課題を突き付けた選挙だったと思う。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
再選を果たした玉城デニー氏の得票は約34万票。自公政権が推した佐喜眞淳候補に約6万5千票の差を付けた(もう一人の候補・下地幹郎氏の得票は5万3千余)。就任以来、一貫した「新基地反対」の姿勢、首里城火災や新型コロナなど困難な状況を前向きに乗り越える明るいキャラクターも支持を得た。
しかし何と言っても今回の選挙に大きな影響を与えたのは、あまり報道されないが旧統一教会問題だったと思う。佐喜眞陣営は、1万人を動員し花火まで打ち上げた決起大会や、国道を埋め尽くすVロード作戦など派手な演出を繰り返したが、それは危機感の裏返しだったと思われる。旧統一教会との密接な関係が明らかになり、同日投開票の統一地方選の保守系候補者からもセット戦術を拒否されているという話も伝わってきた。
今回、創価学会がほとんど動かなかったのも異例だった。台風接近が伝えられる中で期日前投票所には大行列ができたが、その多くが家族連れで、創価学会がよくやるワゴン車での送迎などは見かけなかった。従来、期日前投票は自公票が多いが、今回は出口調査でデニー票の多さが際立ったことも、早い「当確」報道の根拠となったのだろう。57.92%という低投票率(前回より5ポイント以上減)は、自公支持者が投票に行かなかったせいもあるのではないかと私は推察している。
一方、わが名護市の議員選挙(26議席)は、新基地建設を容認する渡具知武豊市政の与野党が同数で拮抗していたこれまでの構図が変わり、与党15人、野党11人の当選という厳しい結果となった。今後、渡具知市政の暴走をどう止められるのか、野党議員だけでなく私たち市民の大きな課題でもある。
とりわけ、新基地建設の地元である名護市東海岸地域で、私たち基地反対の住民運動が2006年に推し立て、4期を務めてきた現職市議が、最下位でどうにか当選できたものの、従来より大幅に得票を減らしたのはショックだった。
勝敗を含め今後のさまざまな課題を突き付けた選挙だったと思う。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年9月25日号
2022年09月12日
【沖縄リポート】敗けるわけにはいかない県知事選=浦島悦子
8月2日のペロシ米下院議長の訪台と、それに対抗する中国軍の「台湾封鎖」と称する空・海の軍事演習で、沖縄のきな臭さが一挙に強まった。
嘉手納基地周辺では、次々と飛び立つ戦闘機、電子偵察機、空中給油機などの騒音激化が住民の生活を脅かした。台湾を包囲する中国の軍事演習場は与那国漁民の漁場から約50キロ。4日には波照間島や与那国島近海に中国軍のミサイルが落下し、漁民らは一時操業自粛を余儀なくされた。玉城デニー知事は「県民が巻き込まれることのないよう」冷静な外交を求めた。
平和な島を求める県民の願いとますます逆行していく状況の中で、沖縄県知事選が迫っている(8月25日告示、9月11日投開票)。各市町村では議員とのダブル、首長選を含むトリプル選挙も多い。
今回知事選の最大の争点はやはり辺野古新基地建設問題だ。戦争の危機が迫る中で巨大な米軍新基地を造ることが、どんな未来を引き寄せるのかを県民にしっかり訴えていきたいと思う。
県知事選には、現在までに現職デニー知事を含め3人が立候補を表明している。前回知事選で敗れた自民党公認の佐喜眞淳氏は今回、新基地容認を明確にした。前回も立候補が取り沙汰され、自民党との調整で取り下げた下地幹郎氏が今回敢えて立候補したのは、参議院沖縄選挙区での敗北に危機感を持った自民党との裏取引があるのではないかと私は勘ぐっている。
25年以上も翻弄されてきた新基地問題に県民が疲れているのは否定できない。反対しても埋め立てが止まらない現実に「あきらめ」感を持つ人も増えている。「辺野古を終わらせる」「軟弱地盤は埋め立てさせない。既に埋め立てられた場所や馬毛島を活用する」という下地氏の主張(実際には実現困難だが)に活路を見出す人もいるだろう。そうして、これまでの辺野古反対世論を分断=デニー票を減らし、結果的に佐喜眞氏(旧統一教会との関係も明らかになった)勝利を目論んでいるのではないか? 敗けるわけにはいかない‼
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年8月25日号
2022年08月01日
【沖縄リポート】「オール沖縄」薄氷の勝利=浦島悦子
大激戦だった。参議院選沖縄選挙区。自民党が圧勝した全国の一人区で最後まで勝敗が決まらず、追いつ追われつの開票速報にハラハラし、ようやく結果が出たときは日付が変わっていた。「オール沖縄」候補(無所属・現職)伊波洋一氏27万4235票、自民党公認候補(新人)古謝玄太氏27万1347票。3000票足らずの差だった。
今回、自民党は沖縄出身の元総務官僚、38歳の新人候補者に、これまでの選挙では曖昧にしていた「辺野古新基地容認」を明言させ、岸田首相をはじめ政府要人を次々と沖縄に送り込み、「新基地反対」の民意を徹底して圧し潰そうと狙っていることを、ひしひしと感じた。今年に入って行われた県内4市長選で自民党推薦候補が勝利した勢いを借り、今参議院選で自民党候補が当選すれば「新基地容認が民意」だと公言し、2か月後の知事選で「新基地容認」もしくは「推進」の知事を誕生させ、基地反対運動の息の根を止めるのが、政府の描くシナリオだろう。
そんな並々ならぬ危機感を持って、私も今回、宣伝カーでの街宣、電話掛け、スタンディング、女性集会の開催等々、やれる限りのことをやった。
新基地反対運動への影響に加え、「中国の脅威」や「台湾有事」を口実に進む南西諸島の軍事要塞化・訓練激化に拍車がかかり、沖縄が再び戦場にされるのではないかという危機感、「戦争はすべてを破壊する。平和でこそ暮らしも経済も成り立つ」ことを訴えた。
政府の目論見が成功せず、ひとまずの勝利に安堵したが、票差は決して大きくない。古謝候補は、「若さ」を武器にした「即戦力」「明るい未来」を打ち出し、40代以下の多くの支持を得た。沖縄が抱える様々な問題を解決してこそ「明るい未来」が拓けるはずだが、(基地や戦争のような暗い)問題には蓋をして、バラ色の未来を見たい傾向に危惧を感じざるを得ない。10年後、20年後の沖縄はどうなるのだろう…?
全国的には自民党の独り勝ちを止めたかったが、はるかに及ばなかった。安倍元首相の襲撃・死亡事件の選挙への影響がどれだけあったかわからないが、岸田政権の言う「民主主義への挑戦」「選挙への冒涜」という言葉はそっくりお返ししたいものだ。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
今回、自民党は沖縄出身の元総務官僚、38歳の新人候補者に、これまでの選挙では曖昧にしていた「辺野古新基地容認」を明言させ、岸田首相をはじめ政府要人を次々と沖縄に送り込み、「新基地反対」の民意を徹底して圧し潰そうと狙っていることを、ひしひしと感じた。今年に入って行われた県内4市長選で自民党推薦候補が勝利した勢いを借り、今参議院選で自民党候補が当選すれば「新基地容認が民意」だと公言し、2か月後の知事選で「新基地容認」もしくは「推進」の知事を誕生させ、基地反対運動の息の根を止めるのが、政府の描くシナリオだろう。
そんな並々ならぬ危機感を持って、私も今回、宣伝カーでの街宣、電話掛け、スタンディング、女性集会の開催等々、やれる限りのことをやった。
新基地反対運動への影響に加え、「中国の脅威」や「台湾有事」を口実に進む南西諸島の軍事要塞化・訓練激化に拍車がかかり、沖縄が再び戦場にされるのではないかという危機感、「戦争はすべてを破壊する。平和でこそ暮らしも経済も成り立つ」ことを訴えた。
政府の目論見が成功せず、ひとまずの勝利に安堵したが、票差は決して大きくない。古謝候補は、「若さ」を武器にした「即戦力」「明るい未来」を打ち出し、40代以下の多くの支持を得た。沖縄が抱える様々な問題を解決してこそ「明るい未来」が拓けるはずだが、(基地や戦争のような暗い)問題には蓋をして、バラ色の未来を見たい傾向に危惧を感じざるを得ない。10年後、20年後の沖縄はどうなるのだろう…?
全国的には自民党の独り勝ちを止めたかったが、はるかに及ばなかった。安倍元首相の襲撃・死亡事件の選挙への影響がどれだけあったかわからないが、岸田政権の言う「民主主義への挑戦」「選挙への冒涜」という言葉はそっくりお返ししたいものだ。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年7月25日号
2022年07月18日
【支部リポート】北九州支部と保険医協会 中立地帯で平和実現を ロシア侵攻で足立氏講演=久田ゆかり
ロシアのウクライナ侵攻。JCJ北九州支部は、戦争は「手段」であって目的では無く、戦争で何を得たいのか、その後どうしようというのか等、議論してきた。福岡県歯科保険医協会の定期総会・講演会に参画。5月28日、平和学研究者でコスタリカ社会科学研究所代表理事の足立力也氏を招き、「今こそ聞きたい〜紛争解決学によるウクライナ情勢の出口戦略」を講演=写真=(撮影・久田ゆかり)してもらった。杉山正隆支部長が司会しwebを含め100人が参加した。
「紛争解決学」とは、平和学の一分野で、「平和を達成するために、平和を阻害する要因である紛争を平和へと転換する法則を考える」学問だ。紛争当事者の達成したい目標を見極め、それらを「超越」する、双方にとって利益のあるゴールを再設定することが理想とされる。
今回は「超越」までの必要はなく、より難易度が低い「妥協」で良いと考えられる。開戦のわずか4日後に停戦協議を開始しており「ロシアは解決を焦っている。最初から妥協を導きやすい環境にある」と足立氏。
ロシアが示した主な停戦条件は@ウクライナの中立化Aウクライナの非武装化Bウクライナ領だが2014年にロシアが併合したクリミア地方のロシア主権承認Cウクライナの東南部に位置するドンバス地方の独立承認。ウクライナが@とAを承諾しロシアがBとCについて譲歩することで出口が見えてくる。
「中立化」は「ウクライナの NATO 非加盟」でありハードルが低い。既にウクライナは 1 枚のカードを切れる状態にあり、ロシアに代償のカードを1枚切らせることができる。仮に「国連が担保する中立地帯」が実現すれば歴史上初のものとなると強調した。
紛争が起こると軍拡競争に陥り長期化泥沼化するのは歴史的にも明らかだ。多くの人命や財産が奪われる事態を早く終わらせるために人知を結集する必要がある。北九州支部も講演会や勉強会を通じ平和裏に解決すべく努力を尽したい。
久田ゆかり(健和会大手町リハ病院・JCJ会員)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号
2022年05月31日
【沖縄リポート】復帰50年!誰が踏み台にしたか=浦島悦子
5月15日、沖縄が「日本復帰」して50年となった。日本政府は「祝賀」ムードを演出したいようだが、県民は冷ややかだ。
「復帰」時の悲願であった「基地のない島」「平和憲法への復帰」はことごとく踏みにじられ、「復帰」後、基地負担はさらに増えたばかりか、県民投票をはじめ繰り返し示される「反対」の民意を足蹴にして辺野古新基地建設が強行されている。
4月25日、新基地建設着工5周年抗議海上集会が、大浦湾のK9護岸(最初に作られた埋立用護岸。埋立土砂陸揚げのための桟橋として使われている)前で開催され、カヌー32艇、抗議船6隻が参加した=写真=。
赤土まじりの土砂を積み上げた台船が接岸し、目の前で運搬用のダンプがひっきりなしに行き来する。かつてはジュゴンの食み跡も確認された沿岸域のあまりの変わりようにショックを受けた。
4月8日、国土交通大臣は、玉城デニー知事が昨年11月に行った、沖縄防衛局の設計変更申請に対する「不承認」を取り消す裁決を行うと同時に、20日までに「承認」するよう勧告。それに応じなかった県に対し28日、法的拘束力を伴う「是正の指示」を行った。
4月28日は、70年前のサンフランシスコ講和条約で日本の「主権回復」と同時に、その「担保」として沖縄がアメリカに売り渡された「屈辱の日」だ。しかも「是正(承認)」の期限は「復帰の日」翌日の5月16日。沖縄をどこまで「うしぇーてる(バカにしている)」のか‼と怒りは募る一方だ。
1950年代に30%だった在日米軍基地負担が今や70%を超え、米軍による事件・事故、環境汚染、生活破壊、さらに自衛隊基地も加わって軍事要塞化が進む「復帰50年」の惨憺たる状況の中で、沖縄では、「復帰」とは、この50年は何だったのか―の問い直しが始まっている。しかし、「沖縄の日本復帰」をいちばん問い直すべきは、沖縄を踏み台にし続けてきた日本人ではないか。そして、アメリカの「属国」となり果てた日本の「屈辱」についても。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年5月25日号
2022年05月06日
【沖縄リポート】基地が広げる深刻な水汚染危機=浦島悦子
「日本復帰」50年となる今も、米軍基地と自衛隊基地がひしめく沖縄。それらがもたらす数多の被害の中で最も深刻なものが、命を支える水の広範囲にわたる汚染だ。4月10日、宜野湾市民会館大ホールで開催された「PFAS汚染からいのちを守る県民集会」=写真=はそんな危機感に満ちていた。
PFASは有機フッ素化合物の総称で、1950年代以降に開発され、環境中で分解しないため「永遠の化学物質」と呼ばれる。基地での消火訓練や事故などの際の消火剤として使われ、そのまま土壌や河川に放出されて地下水や水道水を汚染してきた。
同会の伊波義安・共同代表は、「(嘉手納基地に近い)北谷浄水場から配水される7市町村45万人が50年以上汚染水を飲まされ続けてきた。ちょうど2年前の今日は、普天間基地からの泡消火剤大量放出があった。周辺住民の血液検査(血中濃度調査)をして裁判に訴えられないか検討中だ」と述べた。
「沖縄のPFAS汚染」と題して講演したジャーナリストのジョン・ミッチェル氏は「2016年から沖縄の汚染調査を行い、米国とのギャップに衝撃を受けた。米国ではPFASを有害物質と認定、クリーン化に百億ドルを投資している。PFASは環境中を移動し汚染の悪循環を引き起こす。飲料水だけでなく卵・牛乳・肉・野菜などの食品を汚染し、産業や野生生物にも影響する。日本・沖縄が立ち入り調査できない日米地位協定を改定する必要がある。沖縄は米軍占領以来、神経ガス、核弾頭、ジェット燃料など様々な汚染が繰り返されてきた。PFAS汚染はその継続。復帰の際の『本土並み』はことごとく破られてきた。今日の集会は、沖縄の人権を守り公平・公正を求めていく第一歩だ」と語った。
嘉手納、金武、北谷、宜野湾、うるま、那覇の汚染の現場で取り組んでいる人々からの報告があり、3人の子育て中の母親は子どもを抱いて壇上に立ち「子どもたちに安全な水を」と訴えた。国・県あての決議を採択、血液検査のためのカンパが呼びかけられた。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
2022年04月04日
【沖縄リポート】戦場化に危機感 新運動体発足=浦島悦子
2月24日、世界中を震撼させたロシア軍によるウクライナへの武力侵攻。以来、拡大の一途を辿る戦火に逃げ惑い、死傷し、隣国への避難を余儀なくされるウクライナ市民の姿に、沖縄戦体験者たちは77年前をフラッシュバックさせ、心身を震わせている。
また、現在のウクライナの状況を、日米中のはざまに置かれ、「中国の脅威」や「台湾有事」を口実に日米による軍事拠点化・ミサイル配備が進む沖縄・琉球諸島に重ね、「明日の我が身」と感じる県民も多く、連日、沖縄各地で抗議行動や意思表示が行われている。
オール沖縄会議を構成する県内各島ぐるみ会議が毎月第1土曜日にそれぞれの地で行っている辺野古新基地建設に反対する「ブルーアクション」も、今月(3月5日)は、ウクライナ侵攻への抗議を中心に取り組まれた(写真は、島ぐるみ会議名護のスタンディング)。
そんな中で3月19日、「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」の発足集会が行われる。同会は、保革や立場の違いを超えて「沖縄の島々がふたたび戦場になることに反対する」という一点で結集する県民運動を呼び掛けて、去る1月31日に設立された。3月4日現在882人が呼びかけ人・賛同者に名を連ねる。
共同代表の1人である山城博治さん(共同代表は他に石原昌家、具志堅隆松、ダグラス・ラミス、宮城晴美の各氏)は設立に至る思いを、「台湾有事=日本有事=日米同盟の有事という理屈で日米が動いており、沖縄が再び戦場になろうとしているのに、世論が盛り上がっていないことに危機感を持った」「オール沖縄会議は辺野古新基地建設反対運動で大きな役割を果たしてきたが、自衛隊問題には踏み込めないため新しい運動体が必要だ」と語る。
私自身も、新基地建設反対だけでは、現在の事態に対処できないと痛感している。山城さんが言うように「沖縄が再び大国のエゴ・覇権主義の餌食にならないために」、武力でなく「国際対話」による解決を沖縄から発信する同会に賛同する。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年3月25日号
2022年02月21日
問われているのは日本 ベテラン記者が語る沖縄復帰50年 帰還兵の犯罪に絶望感 消えた「住民虐殺」に怒り=米倉外昭
5月に沖縄の日本「復帰」(米国から日本へ施政権返還)から満50年となる。沖縄には祝賀ムードはほとんどない。一方で、今年は1月23日の名護市長選に続き、夏の参院選、秋の知事選など、改めて民意が問われる年だ。復帰前後から現在まで沖縄を見つめてきたベテランジャーナリストに、この50年を振り返りながらジャーナリズムの課題を語ってもらった。まとめ・米倉外昭(JCJ沖縄)
◇
琉球新報で長く基地担当を務めた高嶺朝一さん(78)は1970年入社。復帰前の毒ガス移送、コザ騒動、復帰に伴う「世替わり」を支局記者として取材した。その中で、ベトナム戦争からの帰還米兵による凶悪事件に強烈な印象があると語る。
殺された青年宅へ
復帰直後の事件として注目された1972年9月のベンジャミン事件で、ベンジャミン元上等兵に射殺された青年宅を訪ねた。「暑い日で、野原の中の火葬場で、大空に煙が立っていた。人間の命がこんなに粗末にされていいのかと思った」。心神喪失だったとして無罪判決となり「こんなものか」と絶望を感じた。
諸見里道浩さん(70)は復帰の時は国費留学で山形大学の学生だった。学生運動の中で、ガリ版ビラの「沖縄情報」を作り配った。米軍基地を温存する沖縄返還協定への怒りの一方で、民族主義的な「祖国復帰」運動への批判も強まっていた。「ヤマトに行って改めて沖縄問題に出合った」と振り返る。
未解決の問題抱え
批評家の仲里効氏が言う「復帰の喰(く)ぇーぬくさー」世代と自覚する。戦後世代を「艦砲の喰ぇーぬくさー」(艦砲射撃の食い残し)と言うのをもじったもので、「復帰で解決しなかった問題を学生時代から抱えたままの世代かな」とかみしめるように話す。
沖縄タイムス記者になってからの出来事として、82年に日本軍による住民虐殺が教科書から消された問題が大きかったと言う。「怒り、憤りと共に新たな証言がどーっと出てきた。事実をもう1回掘り返そう、証言を取り直そうと、連載にも取り組んだ」
その後も沖縄県民は、沖縄戦の歴史認識を巡って 何度も怒りの声を上げてきた。2007年には強制集団死(「集団自決」)に軍の関与がなかったという文科省の検定意見が大問題となり、11万人以上が集まる県民大会が開かれた。
高嶺さんは「沖縄戦報道と基地問題報道が、1995年の少女の事件(米海兵隊員による少女暴行事件)や教科書問題によって結びついた。運動に保守陣営の人たちも加わるようになった」と振り返った。
82年は教科書で侵略を「進出」に書き換えた時であり、07年は歴史修正主義者が強制集団死を住民の自発的な死として美化しようとした。諸見里さんは「戦争の捉え直しの時にいつも沖縄戦が現れてくる」と指摘する。
日本巻き込む論を
また、県政として日本に異議申し立てをした大田昌秀知事(1990〜98年)と翁長雄志知事(2014〜18年)の時代も、それぞれ安保再定義を受けた米軍再編、米軍と自衛隊との一体化の、始まりと完成期に対応していると分析している。
これらを踏まえて、諸見里さんは「沖縄が異を唱えていることは日本の課題だ。日本を巻き込むような大きな論を立てて、巻き込んでいってほしい」と沖縄のメディアに注文をつけた。
高嶺さんは「インターネットで便利になったが、新聞が伝えるべきことは変わらない。沖縄のメディアは東京やワシントンから見るのではなく、地元の普通の人々の暮らしから、その矛盾も含めて丁寧に伝えることが大事ではないか」と提言した。
【略歴】
▼高嶺朝一(たかみね・ともかず) 1943年那覇市生まれ。1970年琉球新報社入社。論説委員長、編集局長、社長など歴任。著書「知られざる沖縄の米兵―米軍基地15年の取材メモから」(高文研、1984年)など。
▼諸見里道浩(もろみざと・みちひろ) 1951年那覇市生まれ。1974年沖縄タイムス社入社、論説委員長、編集局長、専務など歴任。21年4月に「新聞が見つめた沖縄」(沖縄タイムス社)発刊。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
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琉球新報で長く基地担当を務めた高嶺朝一さん(78)は1970年入社。復帰前の毒ガス移送、コザ騒動、復帰に伴う「世替わり」を支局記者として取材した。その中で、ベトナム戦争からの帰還米兵による凶悪事件に強烈な印象があると語る。
殺された青年宅へ
復帰直後の事件として注目された1972年9月のベンジャミン事件で、ベンジャミン元上等兵に射殺された青年宅を訪ねた。「暑い日で、野原の中の火葬場で、大空に煙が立っていた。人間の命がこんなに粗末にされていいのかと思った」。心神喪失だったとして無罪判決となり「こんなものか」と絶望を感じた。
諸見里道浩さん(70)は復帰の時は国費留学で山形大学の学生だった。学生運動の中で、ガリ版ビラの「沖縄情報」を作り配った。米軍基地を温存する沖縄返還協定への怒りの一方で、民族主義的な「祖国復帰」運動への批判も強まっていた。「ヤマトに行って改めて沖縄問題に出合った」と振り返る。
未解決の問題抱え
批評家の仲里効氏が言う「復帰の喰(く)ぇーぬくさー」世代と自覚する。戦後世代を「艦砲の喰ぇーぬくさー」(艦砲射撃の食い残し)と言うのをもじったもので、「復帰で解決しなかった問題を学生時代から抱えたままの世代かな」とかみしめるように話す。
沖縄タイムス記者になってからの出来事として、82年に日本軍による住民虐殺が教科書から消された問題が大きかったと言う。「怒り、憤りと共に新たな証言がどーっと出てきた。事実をもう1回掘り返そう、証言を取り直そうと、連載にも取り組んだ」
その後も沖縄県民は、沖縄戦の歴史認識を巡って 何度も怒りの声を上げてきた。2007年には強制集団死(「集団自決」)に軍の関与がなかったという文科省の検定意見が大問題となり、11万人以上が集まる県民大会が開かれた。
高嶺さんは「沖縄戦報道と基地問題報道が、1995年の少女の事件(米海兵隊員による少女暴行事件)や教科書問題によって結びついた。運動に保守陣営の人たちも加わるようになった」と振り返った。
82年は教科書で侵略を「進出」に書き換えた時であり、07年は歴史修正主義者が強制集団死を住民の自発的な死として美化しようとした。諸見里さんは「戦争の捉え直しの時にいつも沖縄戦が現れてくる」と指摘する。
日本巻き込む論を
また、県政として日本に異議申し立てをした大田昌秀知事(1990〜98年)と翁長雄志知事(2014〜18年)の時代も、それぞれ安保再定義を受けた米軍再編、米軍と自衛隊との一体化の、始まりと完成期に対応していると分析している。
これらを踏まえて、諸見里さんは「沖縄が異を唱えていることは日本の課題だ。日本を巻き込むような大きな論を立てて、巻き込んでいってほしい」と沖縄のメディアに注文をつけた。
高嶺さんは「インターネットで便利になったが、新聞が伝えるべきことは変わらない。沖縄のメディアは東京やワシントンから見るのではなく、地元の普通の人々の暮らしから、その矛盾も含めて丁寧に伝えることが大事ではないか」と提言した。
【略歴】
▼高嶺朝一(たかみね・ともかず) 1943年那覇市生まれ。1970年琉球新報社入社。論説委員長、編集局長、社長など歴任。著書「知られざる沖縄の米兵―米軍基地15年の取材メモから」(高文研、1984年)など。
▼諸見里道浩(もろみざと・みちひろ) 1951年那覇市生まれ。1974年沖縄タイムス社入社、論説委員長、編集局長、専務など歴任。21年4月に「新聞が見つめた沖縄」(沖縄タイムス社)発刊。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
2022年02月07日
【沖縄リポート】米軍発感染拡大の中 名護市長選=浦島悦子
米軍基地から「染み出した」と言われる新型コロナウイルス・オミクロン株が猛威を振るっている。昨年12月15日以降、米軍キャンプ・ハンセンで、沖縄に移動してきた米軍関係者の集団感染が続き、17日に基地従業員の感染が初確認。年末には県内の新規感染者数が2桁となり、年明け1月1日の52人から連日、2倍、3倍と増え、7日には1414人(+米軍254人)!!東京の人口に換算するとその十倍の数になる。
今後もさらに増えると予想され、沖縄県の「外出禁止」要請を無視し続ける米軍や、県が訴える「日米地位協定見直し」を否定する岸田政権への怒りが募っている。
そんな中で私たち名護市民は、1月23日投開票の市長選に向けて奮闘中だ。自公政権の全面支援を受け、現職市長として「顔と名前を売る」機会も多い渡具知武豊氏に対抗する新人候補・岸本洋平市議の知名度を上げようと、宣伝活動や地域回りを重ねてきた。12月23日に開催した「ようへい必勝!総決起大会」は、会場の名護市民会館大ホールが千人以上の参加者で満席となり、熱気にあふれた=写真=。岸本氏は「新基地建設は認めない」「市民の暮らし、子や孫の未来を必ず守る!」「名護市の未来は名護市民で決めよう!」と力強く語り、満場の拍手を浴びた。
しかし年明け以降、コロナ感染の爆発的拡大が選挙運動にも大きな困難をもたらしている。それは両陣営に共通だが、知名度の劣る新人候補には、より痛みが大きい。
そんな折、渡具知市長を巡る「名護版モリカケ疑惑」が浮上してきた。移転した名護消防庁舎跡地(市有地)の売却を巡る不透明性が昨年来、市議会で問題になり、百条委員会も設置されたが、市民はほとんど知らなかった。公募入札で1億3千万円も高い価格を付けた業者が選ばれず、市長の親族会社の子会社に売却されたのだ。この親族会社は辺野古埋め立て工事に係る業者でもある。
市民の判断がどう出るのか、投票率も含め気が抜けない。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年1月25日号
2022年01月07日
【沖縄リポート】設計変更「不承認」をめぐる闘い=浦島悦子
11月25日、玉城デニー知事は、沖縄防衛局による辺野古新基地建設のための設計変更承認申請(軟弱地盤改良工事等)について「不承認」の判断を下し、同局に通知した。昨年4月、県に提出されてから1年半、私たち県民が一日千秋の思いで待っていた判断だ。
「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」は翌26日昼休み、県庁前で、これを支持する緊急集会=写真=12月3日夜には同じく県庁前での集会と国際通りデモ行進(参加500人)を行い、辺野古ゲート前の座り込み抗議行動でも連日、「知事の不承認を支持するぞ‼ 工事を即刻中止せよ‼」のシュプレヒコールが響いた。
4日には、コロナ禍で休止されていたゲート前県民大行動(毎月第1土曜)が1年2か月ぶりに開催された。デニー知事も駆けつけ、不承認判断の根拠や「新基地を自ら提供しない」決意を述べ、800人の参加者の熱烈な支持を受けた。
これに対し国=沖縄防衛局は7日、行政不服審査法による審査請求(不承認の取り消し)を国土交通大臣に行った。2018年、沖縄県の埋め立て承認撤回を取り消した時と同じ手口だ。当時、行政の不当な処分に対する国民(私人)の権利救済のための法律を国家権力が悪用・濫用するものだと、全国の行政学者から非難を浴びた手法を、再び使ったのだ。全国知事会も、地方自治を脅かすものだと懸念を示している。
国の対抗手段は県も県民も織り込み済みで、出来レースを見せられているようなうんざり感があるが、しかし国の「やりたい放題」を許せば「法治国家」は崩壊する。司法の在り方も含め、全国民的課題として取り組む必要があると思う。
来年1月23日に投開票される名護市長選に向けても自公政権は攻勢を強めている。5日に行われた渡具知武豊現市長の選挙事務所開きには菅義偉前首相や、このほど当選した島尻安伊子衆院議員が駆け付け、また辺野古周辺3区の区長とも面談するなどテコ入れを行った。
浦島悦子
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号