2022年01月09日

【今週の風考計】1.9─コロナ「第6波」と米軍基地そして日米地位協定

★コロナ感染拡大は「第6波」に突入した。今日から沖縄・山口・広島の3県に、「まん延防止・重点措置」が、31日まで適用される。
 沖縄県では6日の1日だけで、コロナ新規感染者が981人。昨年12月12日〜18日の1週間を累計した新規感染者は27人、この数字を見ても急拡大の恐ろしさは桁はずれだ。
★沖縄にある米軍基地で発生した昨年12月末のクラスター(感染者集団)は、1月6日現在、合計4027人に達した。米国でクリスマスを過ごし、沖縄の9基地に帰ってきた海兵隊員は、PCR検査もないまま、マスクもつけず基地外に出て飲食を続けてきた。
 沖縄県民の新規感染も、この米軍基地からの「染み出し」感染によるとみられ、基地周辺の住民からは怒りの声が噴出している。

★この事態は、沖縄だけでなく日本全国の米軍基地周辺で広がる。6日までの米軍基地内の感染者は、山口県・岩国基地で529人、静岡県・御殿場の「キャンプ富士」46人。神奈川県の横須賀基地213人、東京都・横田基地85人、青森県・三沢基地133人、ここからの「染み出し」感染が、「第6波」に拍車をかけている。
★これまで米兵や軍関係者には、日本での検疫が免除されていた。まさに「穴の開いたバケツ」状態で入国し、在日米軍基地に着任していたのだ。
 昨年末になってやっと、日本政府の申し入れにより、米軍は日本到着後24時間以内のPCR検査を実施するようになった。

★こうした事態を招いたのも「日米地位協定」があるからだ。在日米軍に対しては、日本の国内法が適用されず、警察の捜査や裁判権が及ばない特権を保障している。1960年に制定されたまま、以来62年間、改定されていない。
 米軍は世界中の80カ国に800カ所を超える軍事基地を持つが、ドイツ・イタリア・ベルギー・イギリスなどの国々は、米軍基地に対して国内法を適用させている。日本だけが唯一、国内法の適用外とは、あまりにも日本の主権を疎かにしてはいないか。
★いまから18年前、日本の全国市長会が<日米地位協定の見直しに関する要望書>を国へ提出している。沖縄県もドイツやイタリアに調査団を派遣し、「日米地位協定」の不平等性を告発し、見直しを強く求めている。

★「日米地位協定」に基づき設置されている日米合同委員会もクセモノだ。日米幹部が米軍や基地の具体的な運用を図るため、実務者協議を隔週で行っている。
 そこでの合意事項は日米双方に拘束力をもつが、協議の内容は非公開、国会への報告義務もない。国民の知らない密約が数多く結ばれているといわれる。
★まさに「日米地位協定が憲法の上にあって、日米合同委員会が国会の上にある」のが実態だ。その実態を、吉田敏浩『追跡! 謎の日米合同委員会』(毎日新聞出版)が、明らかにしている。とりわけ本書の第5章で、<新型コロナと検疫と日米合同委員会の合意と米軍特権>を詳述していて参考になる。(2022/1/9)
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2022年01月08日

【月刊マスコミ評・出版】「遺族」として戦争を見る視点=荒屋敷 宏

 『週刊東洋経済』12月11日号の「稼ぐ集英社と消える書店 出版界であらわになる格差」の記事に注目した。書店や取次の苦境をよそに、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などのコミックスが大ヒットする集英社、『進撃の巨人』を抱える講談社、ライトノベルに強いKADOKAWAが業績好調だという。
 出版社や取次、書店にとって、書籍で33%、雑誌で40%という返品率は、悩ましいかぎりだろう。総合商社の丸紅と講談社、集英社、小学館の4社が出版流通の新会社設立に向けて協議を始めた。AI(人工知能)を使って配本・発行の「適正化」や在庫管理の改革に取り組むのも時代の要請なのかもしれない。
 街の書店が減少し、日販やトーハンなど「取次2強外し」と、出版業界、波高し≠セが、本当に問われているのは、出版物の量よりも企画や内容の質を高めることではないだろうか?
 『ニューズウィーク日本版』12月14日号の「桜井翔と『戦争』 戦没した家族の記憶」は、最近の週刊誌では意外性があり、意義のある企画と内容だと感じた。アイドルでありテレビのニュースキャスターでもある桜井翔氏は、海軍士官として戦没した大伯父、桜井次男氏の「遺族」として戦争の取材を続けているという。
 桜井翔氏の祖父は、戦後、上毛新聞社の記者をしていた桜井三男氏で、戦死した次兄のことを本にまとめていた。しかし、祖父は家族に戦争のことをほとんど話しておらず、ただ一つだけ「人間扱いじゃなかった」と祖母や叔母に語っていたという。
 旧帝大を出て、商工省に入省した後に海軍経理学校に入校し、海軍主計中尉となった大伯父の謎に迫る櫻井翔氏本人の記事は、読み応えがある。2年間の「短期現役主計科士官」(短現)を務めれば、元の職場に戻れるはずのところ、兵役が延長され、桜井氏の大伯父はベトナム東岸沖で、26歳の若さで戦死してしまったのである。この記事の後編は12月21日号に掲載されるが、本にまとめてほしいところだ。
 『週刊金曜日』12月3日号の特集「筑紫哲也とその時代」も興味深い記事だった。金平茂紀氏の新著『筑紫哲也「NEWS23」とその時代』(講談社)をめぐり金平氏と望月衣塑子氏が対談している。権力に対する監視役を果たすこと、少数派であることを恐れないこと、多様な意見や立場をなるべく登場させて、この社会に自由の気風を保つこと。ジャーナリズムとして当たり前の作法を復活しなければならない。 
荒屋敷 宏
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2022年01月07日

【沖縄リポート】設計変更「不承認」をめぐる闘い=浦島悦子

                          
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 11月25日、玉城デニー知事は、沖縄防衛局による辺野古新基地建設のための設計変更承認申請(軟弱地盤改良工事等)について「不承認」の判断を下し、同局に通知した。昨年4月、県に提出されてから1年半、私たち県民が一日千秋の思いで待っていた判断だ。
「辺野古新基地を造らせないオール沖縄会議」は翌26日昼休み、県庁前で、これを支持する緊急集会=写真=12月3日夜には同じく県庁前での集会と国際通りデモ行進(参加500人)を行い、辺野古ゲート前の座り込み抗議行動でも連日、「知事の不承認を支持するぞ‼ 工事を即刻中止せよ‼」のシュプレヒコールが響いた。
 4日には、コロナ禍で休止されていたゲート前県民大行動(毎月第1土曜)が1年2か月ぶりに開催された。デニー知事も駆けつけ、不承認判断の根拠や「新基地を自ら提供しない」決意を述べ、800人の参加者の熱烈な支持を受けた。
 これに対し国=沖縄防衛局は7日、行政不服審査法による審査請求(不承認の取り消し)を国土交通大臣に行った。2018年、沖縄県の埋め立て承認撤回を取り消した時と同じ手口だ。当時、行政の不当な処分に対する国民(私人)の権利救済のための法律を国家権力が悪用・濫用するものだと、全国の行政学者から非難を浴びた手法を、再び使ったのだ。全国知事会も、地方自治を脅かすものだと懸念を示している。
 国の対抗手段は県も県民も織り込み済みで、出来レースを見せられているようなうんざり感があるが、しかし国の「やりたい放題」を許せば「法治国家」は崩壊する。司法の在り方も含め、全国民的課題として取り組む必要があると思う。
 来年1月23日に投開票される名護市長選に向けても自公政権は攻勢を強めている。5日に行われた渡具知武豊現市長の選挙事務所開きには菅義偉前首相や、このほど当選した島尻安伊子衆院議員が駆け付け、また辺野古周辺3区の区長とも面談するなどテコ入れを行った。 
浦島悦子
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号
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2022年01月06日

ゲノム編集食品ラッシュだが 未知の部分置き去り禍根残す恐れも=橋詰雅博

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 本紙10月号記事でゲノム編集技術によって作られたトマトと肉厚マダイが人体に有害の可能性があると指摘したが、ゲノム編集食品の開発は止まらず大学などが市場に続々と参入中だ。
 京都大発ベンチャー企業「リージョナルフィッシュ」は肉厚マダイに続き急速成長させたトラフグ販売=写真=も開始した。
大学や研究機関などが開発中の食品はほかにもある。
 ・芽に含まれる天然毒素が少ないジャガイモ=大阪大と理化学研究所
 ・生んだ卵にアレルギー物質が少ないニワトリ=産業技術総合研究所
 ・収穫量が多いイネ=農研機構
 ・品質低下を起こしにくい小麦・大麦=岡山大など
 ・同量のエサで大きく育つ豚=徳島大発ベンチャー「セツロック」 
 ・攻撃性を弱め共食いしにくいサバ=九州大など
 ・糖度が高いトマト=名古屋大・神戸大など
  これらはやがて販売される予定だ。ゲノム編集食品に詳しい元名古屋大学理学部助手で分子生物学者の河田昌東さんは「世界で最初のゲノム編集食品は、2年前に販売されたコレストロール値を下げる米国の大豆油です。そのあと日本のトマト、肉厚マダイ、トラフグが続いた。さらに相次いで商品化が見込まれるので、日本はゲノム編集食品の最も多い国」と語る。
 ゲノム編集は、特定の遺伝子の塩基配列を切断しその遺伝子の機能を失わせる技術だ。しかし標的外遺伝子の破壊などが問題視されている。にもかかわらずゲノム編集食品は安全性の審査がない。
 「開発者は販売の1年ほど前から資料などを提出した厚労省専門調査会と話し合っている。ここで『厚労省に届け出てOK』と判定されると販売に。ところがこの事前相談≠フ内容はほとんど非公開です。外部から検証ができず、これは問題です」(河田さん)
 河田さんは警告する。
「今の状況は原発の電力が福井県の若狭湾から大阪万博に送られた1970年の時とよく似ている。当時、すでに原発事故や放射能廃棄物問題が指摘されていたが、政府や電力会社は『事故は起きない』『廃棄物は処理できる』と強弁した。それが嘘だったことは証明済み。未知の部分を置き去りのまま経済優先で進めるゲノム編集技術は未来に大きな禍根を残す恐れがあります」
 橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号

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2022年01月05日

【リアル北朝鮮】来年も金正恩氏の誕生日は平日 経済の立て直しを優先?=文聖姫

  今年も残すところあとわずか。来年のカレンダーも数々販売、配布されている。どんなものを購入しようか、あるいはいただいたカレンダーの中からどれを飾ろうか、などと悩む毎日である。
 北朝鮮もカレンダーを発行しているが、韓国のKBSが入手したものを見ると、来年も金正恩総書記の誕生日である1月8日は祝日ではない。その代わり、「先代」である故金日成主席と故金正日総書記の誕生日は祝日になっている。
 今年1月に開催された朝鮮労働党第8回大会で総書記に就任した金正恩氏は、すでに祖父や父と同じ「領袖」の位置に就いたと考えられる。それなのになぜ、いまだに誕生日は祝日にならないのか。また、肖像画や肖像バッジが出回っているという話も聞かない。
 理由は二つ考えられる。一つ目は、先代の指導者を敬う謙虚さを示すことの方が人々に受け入れられやすいという点だ。それが道徳的にも評価されるからだ。
 二点目は、いまだ人民生活の向上という執権当初からの課題を解決できていない状況で、自身の誕生日を祝日にはできないことをアピールする狙いがあるのではないかと思う。むしろ、誕生日にも精力的に働くことを示すことの方が人民受けしやすい。もちろん、北朝鮮が祝日でない理由について明らかにはしておらず、あくまで推測にしか過ぎないのだが。
 金正恩氏は12月1日に開かれた政治局会議で、経済が安定的に管理されたと発言した。農業部門と住宅建設などで成果が出ている模様だ。5カ年経済計画1年目に何としても成果をアピールしたい思惑が垣間見える。金正恩氏が自身の誕生日を心から祝ってもらうためにも、経済の立て直しは必須の課題だろう。
※  ※
 「リアル北朝鮮」は今号で終わりです。このコラムを通じて、少しでも北朝鮮の人々の息吹を感じていただけたら幸いです。ありがとうございました。
 文聖姫(ジャーナリスト・博士)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号
 


 
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2022年01月04日

【月刊マスコミ評・新聞】防衛費増 補正予算計上は姑息=白垣詔男

 今年度補正予算案などを審議する臨時国会が12月6日から開かれた。会期は2週間と短かった。これでは、過去最大の約36兆円、なかでも7738億円を計上した防衛費についての審議時間は足りなかった。
 この補正予算案は11月26日に閣議決定された。その際、各紙は「防衛費も最大 初の年6兆円超」(27日付毎日朝刊)などと一般記事で報じた。しかし、あまり目立った記事にはなっておらず、読者に問題意識を起こさせる効果はあまりなかった。
 社説では、中日・東京が29日朝刊で「防衛費補正予算 膨張に歯止めかけねば」との見出しで「審議が限られる補正予算案に計上する手法自体が適切とは、とても言えない」と、政府の姑息さを訴えた。
  同じ29日、共同通信配信の「資料版論説」を転載したと思われるいくつかの県紙の社説が政府の手法に「補正で増額する手法は『抜け道』とも言える」と指弾した。
  朝日は11月30日社説で取り上げた。見出しは「補正予算案 財政規律を無視するな」と財政規律に焦点を当てた。その中で「当初予算で財政規律を守っているかのごとく装うため、あふれる事業を補正に回す手法…ルール無視の姿勢はコロナ禍を機に一段と加速」と書き「その代表例が…防衛費だ。昨年度の3次補正の倍で、哨戒機や迎撃ミサイルの新規取得などに充てる。…主要装備品まで堂々と補正でまかなうのは、財政法の趣旨に反する」と政府を強く批判した。しかし、他紙には「防衛費の補正予算」についての社説は見当たらない。

  自民党の中には日本の防衛費をGDP(国内総生産)の2%を確保すべきだという意見がある。米国から同盟国に対しての「要望」を受けて、にわかに起こってきたが、日本の国是としてきた「専守防衛」を逸脱して「敵基地攻撃論」を声高に叫んでいる岸田文雄首相も、米国に押されたものか、安倍・菅政権を踏襲したものと考えるのが自然だろう。
 予算に限らず、「モリ、カケ、サクラ」問題など安倍・菅政権の運営には随所で「姑息さ」が付きまとっていたことを忘れるわけにはいかない。これ以上、「姑息さ」を許さないためには世論を喚起する必要がある。
白垣詔男
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年12月25日号
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2022年01月03日

【リレー時評】沖縄返還50年と「やまとんちゅ」の責務=守屋龍一(JCJ代表委員)


 軍部が暴走し、無謀な日米開戦「12・8」に突入して80年。反省どころか、いま日本の軍事費は6兆円を超え、GDP比1.09%に達した。
 日本列島を、米軍オスプレイが我が物顔に飛び回り、米軍F16戦闘機は飛行中に重さ210s・全長4.5mの燃料タンク2個を、住宅地近くに投げ捨てる。
 いまも過去最大の日米共同軍事演習「ヤマサクラ81」が自衛隊の伊丹駐屯地で行われている。6月には対中国を想定し日米共同の「オリエント・ シールド21」が矢臼別演習場、伊丹駐屯地、奄美駐屯地など、7カ所で実施された。

 政府は「沖縄の負担軽減」を、とってつけたように持ち出して、北海道から奄美・沖縄まで、各地の自衛隊駐屯地との連携を図り、年間49回の日米共同訓練を通して「日米軍事基地化」、すなわち「本土の沖縄化」へと、 地均ししているのだ。
 今年5月15日には、沖縄の本土復帰から50年を迎える。沖縄の人々はどんな思いに駆られるだろうか。復帰に込めた願いは、日本国憲法の下での基本的人権の保障と「基地のない平和な島」の実現だった。
 だが「米軍基地の全面撤退」は拒否され、「核持ち込み密約」さえ明らかとなった。「本土」にある米軍の基地施設面積の7割を沖縄へ押しつけ、さらに辺野古の米軍新基地建設を強行する。「 美(ちゅ)ら海」の埋め立てに、沖縄戦犠牲者の遺骨が混じる土砂まで投入する。
 歴代政府は、沖縄に犠牲を強いるだけでなく、人道上から見ても許されない「加害」を重ね、責任を取らないできた。

 辺野古や高江で会った「うちなんちゅ」の顔が思い出される。琉球処分や沖縄戦での悲劇、「アメリカ世(ゆ)」での「島ぐるみ闘争」、これらの経験を通して共有する「うちなんちゅ」の怒りと矜持、 私は分かっていたのか、恥ずかしい限りだ。
 「本土」からの目線で沖縄をとらえ、そこに生活している人々の苦悩や誇り、さらには歴史を踏まえた理解が浅かったのではないか。
 あらためて沖縄の基地をめぐる様々な論争を耳にするとき、その論の是非よりも、今こそ「うちなんちゅ」の気持ちは、「沖縄へ返せ」なのだ。 あの「基地のない平和な御嶽(うたき)に霊がすむ琉球の島へ返せ」なのだ。そう思わざるを得ない。

 私は月桃やデイゴの花が咲く沖縄の町を歩き、ガマを訪れ祈るとき、また「平和の礎(いしじ)」に触れるとき、「うちなんちゅ」の「命(ぬち)どぅ宝」への思いと合わせ、本土の政権が重ねてきた「加害」の重大さに気づく。そしてその責任を取らない政権を代える闘いを、「本土」でねばり強く広げることこそ、求められているのだ。
 「本土」に生きる私はもう一度、日米両政府が担うべき「加害責任」を厳しく問い糺し、泡盛とイカ墨汁で意気投合した人々と一緒に、日本から基地を撤去する闘いに、力を注ぎたい。
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2022年01月02日

【今週の風考計】1.2─年初に起きた歴史的事件から今を考える大切さ

あけましておめでとうございます。4日から開催の第10回核不拡散条約(NPT)再検討会議が、コロナ感染拡大で延期される。
 核保有国も含め191カ国・地域が加盟し、「核兵器のない世界」の早期実現に向け、具体的な行動へ踏み出す重要な会議が、7年近く開かれていない。残念でならない。
昨年1月22日、核兵器禁止条約に51カ国・地域が批准し発効した。その後、署名・批准は加速し、昨年12月15日までに計144カ国・地域に及んでいる。唯一の戦争被爆国である日本が、いまだに核保有国への「橋渡し役」や「核の傘」論を振り回し、署名も批准もしていないのは腹立たしい限りだ。

さて新年となれば<温故知新>、日本や世界が歩んできた歴史が気になる。手もとにある年表やクロニクルから、90年前にさかのぼり10年ごとに下りつつ辿ってみる。
 まず日本を見てみよう。
1932年1月3日:関東軍、錦州(中国東北部)占領─前年の柳条湖事件デッチ挙げ以降、ハルピンなど満洲の主要都市を占領し、溥儀を擁立して傀儡国家・満州国を強引に建国。さらに軍部の暴走は5・15事件、国際連盟からの脱退へと突っ走る。
1942年1月2日:日本軍、フィリピン・マニラ占領─前年の12・8真珠湾攻撃による日米開戦と同時に、日本軍はフィリピン上陸作戦を始め、年が明けるやマニラを占領。捕虜兵に強いた「バターン死の行進」で約1万人が死亡。また日本軍はフィリピン女性を「慰安婦」に強制動員し、その数は千人を超える。

 次に世界を見てみよう。
1952年1月4日:イギリス軍、エジプトのスエズ運河を封鎖─エジプト政府は、第二次世界大戦後も居すわるイギリス軍の撤退を要求。国民の間でも反イギリス行動が拡大。イギリス軍は住民デモへの発砲やスエズ運河封鎖、施設占領などの強行策に出る。
 その後、国王による妥協策で事態は収拾したが、民衆運動の高揚はエジプトの社会・経済体制の矛盾を浮き彫りにし、6カ月後にはナセルが率いる「エジプト革命」へと発展する。
1962年1月1日:南ベトナム人民革命党の結成─米軍と闘う南ベトナム民族解放戦線の中核となる。ベトナム戦争が激しくなる68年のテト攻勢で、米軍とサイゴン政権軍に大打撃を与え、翌年6月には臨時革命政府樹立への道を開いた。

 最後に50年前の日本に戻ろう。
1972年1月6日:佐藤・ニクソン会談、沖縄返還5月15日決定─3日前の「日米繊維協定」で、日本は米国から大幅な譲歩を強いられ、「糸(繊維)を売って縄(沖縄)を買う」とまで言われる。しかも沖縄返還に際し「核抜き本土並み」はタテマエ、「沖縄への核持ち込み密約」まで押しつけられるに至った。
沖縄の人々が本土復帰に込めた願いは、日本国憲法の下での基本的人権の保障と「基地のない平和な島」の実現だった。
 だが今もって日米両政府は「本土」にある米軍施設面積の7割を沖縄へ押しつけ、さらに県民の民意すら足蹴にして、辺野古に米軍新基地建設を強行する。どこまで沖縄を苦しめれば気が済むのか。新年に際し新たな怒りがわく。(2022/1/2)
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2022年01月01日

【2021年スポーツ回顧2】世界の特徴=大野晃

1年延期の東京五輪パラリンピックを無観客で異常開催
◎2021年7月8日に、東京都などの無観客実施をIOCと合意した。東京都、北海道、神奈川県、埼玉県、千葉県、福島県の1都1道4県の会場は無観客で実施された。
◎競技関係者は、多国間、多競技間の競技者同士や応援ファンらとの交流禁止で、毎日検査し、移動は選手村など宿泊施設と競技会場に限られ、選手村滞在は競技開始5日前から終了後2日までに制限された。「バブル方式」の隔離と検査漬け。それでも、東京五輪パラリンピック関係者の感染は、選手13人を含む878人に上った。
◎28競技で史上最多の321種目に加えて、日本の要望などで、スケートボード、クライミング、サーフィン、野球・ソフトボール、空手の5競技が追加競技とされ、33競技339種目に膨張した。
◎28競技では、男女均等を目指し、男子種目を5つ減らし、女子種目を11種目増やすとともに、混合団体の9種目を新設し、女子の参加可能種目を165種目に大幅拡大した。若者に人気の自転車BMX(モトクロス)フリースタイルやバスケットボールの3人制(3バイ3)を加えた。テレビ映りのいい種目増で、競技や限られたトップ競技者の商品見本市化が拡張し、五輪の興行化は頂点に達した。
◎出場選手数は制限され、28競技で男子5440人、女子5176人の計10616人、男女比は男子51.2%、女子48.8%になった。追加競技を含めると、男子5704人、女子5386人の計11090人、男女比は男子55.7%、女子44.3%。五輪の簡素化を目指した「アジェンダ2020」で種目数の上限を310種目程度、出場選手数の上限を10500人程度としていたが、一気に突破した205カ国が参加し、ロシアはドーピング違反で選手団参加が禁止され、北朝鮮は不参加を表明した.。リオデジャネイロ五輪に続き、難民選手団が結成された。
◎競技運営費用や関係者の増大、輸送などで開催地に大幅な負担増となった。

2022年北京冬季五輪・パラリンピック開催に暗雲
◎2021年9月29日にIOCが大会組織委員会の方針を承認し、観客は中国本土在住者のみ容認することが決まった。東京五輪に続いて海外からの観客受け入れは断念。大会参加者は東京五輪同様に隔離と検査漬けで、ワクチン未接種者は北京到着後に21日間の隔離措置。
◎2021年12月6日に、米国が北京冬季五輪パラリンピックに米政府の代表を派遣しない「外交的ボイコット」を表明した。「中国の新疆ウイグル自治区で進行中のジェノサイドと人道に対する罪、その他の人権侵害」を理由とした。選手団は派遣する。豪州、英国、カナダなどが同調。IOCは12月11日の五輪サミットで外交的ボイコットに「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」と宣言した。
◎五輪テスト大会でも感染者が出た。
◎北米プロアイスホッケーリーグがコロナ禍の公式戦消化のため、2018年平昌冬季五輪に続き、不参加を決定した。

五輪開催地決定方式の大幅改定で招致合戦が消える
◎五輪開催地決定方式を2017年に変更し、2024年パリ夏季大会、28年ロサンゼルス夏季大会を同時決定したIOCは、2019年6月に、さらに開催地選定方式を大幅に変更し、2021年7月21日に、2032年夏季開催地に、豪州・メルボルン市を決定した。
◎2019年の改訂に基づき、21年2月に、IOC将来開催地夏季委員会が、2032年夏季開催地に、豪州・メルボルン市を選定し、同委員会の答申に基づき、IOC理事会が決定し、IOC総会に提案して、承認を受けた。
◎膨張した大会経費で開催地立候補が極限する中で、IOCが方針転換し、IOC総会へ向けた招致合戦は姿を消すことになった。

IOCが五輪での差別撤回のパフォーマンスを認める
◎IOCが、東京五輪で、片膝をついて人種差別に抗議するなどの政治的パフォーマンスを一部認め、サッカー女子などで拡大した。米国女子選手による「抑圧された人々」への連帯行動も認めた。
◎ジェンダー平等を目指すIOCの方針により、東京五輪で性変更選手が重量挙げに登場した。性的興味の映像などを防ぐため、ドイツ女子体操チームが足首までのタイツを使用するなどスタイルに変化も出た。

大谷翔平投手が米大リーグMVPに
◎米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平投手が、最高の栄誉であるア・リーグの最優秀選手(MVP)に選出された。日本選手としては2001年のイチロー外野手(マリナーズ)以来20年ぶり2人目だった。
◎投打の二刀流で、大谷は、投手として9勝2敗、防御率3・18、156奪三振、打者で打率2割5分7厘、46本塁打、100打点、26盗塁の好成績を残した。本塁打はリーグ3位、盗塁は同5位。選手間投票による両リーグの年間最優秀選手にも選ばれた。

欧州のサッカーなども観客制限で再開
◎欧州などのサッカーやラグビーのプロ競技が、無観客や観客制限で実施されたが、サッカー欧州選手権で、英国政府がロンドンの競技場で開催し、6万人以上を収容した決勝、準決勝を含む計8試合分を集計した結果、約6400人が感染したとみられると公表した。
◎英国スコットランドの公衆衛生局は、サッカー欧州選手権の試合を観戦したり、関連イベントなどに参加したりしたスコットランド住民ら約2000人が新型コロナウイルス感染症に感染したことが確認されたと発表した。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年12月31日

【2021年スポーツ回顧1】日本の特徴=大野晃

多くの国民が反対する中で1年延期の東京五輪パラリンピックを強行開催

◎東京都、北海道、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、静岡県、宮城県、福島県の1都1道7県の42競技会場で大幅な広域開催となった。
◎東京五輪パラリンピックの大会経費が招致時の約2倍の1兆 4530億円の見通しになったと2021年12月22日に組織委員会が発表した。組織委が6343億円、東京都が6248億円、国が1939億円を負担する。
◎会計検査院の試算では、2013年度から17年度に国の関連支出が8011億円に上ったとし、都以外の自治体の開催費用などを含めると、2020年までに全体支出は3兆円規模に膨らむ可能性が高いとした。
◎聖火リレーは、全国で約4割の20都道府が一部の中止を決めたほか、実施しても、公道を使用せず、引き継ぎ式だけがほとんどだった。
◎日本国内での各国選手団の事前合宿も相次いで中止された。
◎新型コロナウイルス感染症の感染者数は、日本全国で大会中に、1日1万5000人を超え、大会終了後は2万5000人を超える感染爆発をもたらした。

日本選手団はメダルラッシュも競技拡大なし

◎日本選手団(1060人で選手583人=男子は306人、女子は277人で全体の約47.5%、役員477人)の選手数は、夏季大会史上最多だった。全競技に出場し、金メダル30個獲得が目標だった。獲得メダル総数は、58(金27、銀14、銅17)で史上最多だった。
女子30も史上最多だった。メダル獲得率は、5・70%で1964年東京大会の5.93%に次ぐ史上2位だった。
◎金メダル獲得は、女子が14、男子が12、混合1だが、7競技と新3競技の10競技に限られ、御四家と言われる柔道9、レスリング5、水泳2、体操2に集中し、従来と変わらず、新競技のスケートボード3、野球・ソフトボール2、空手1が押し上げた。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、世界の競技環境が 劣悪化した中でも、大きな地元の利は見られず、強化の偏向が顕著になった。

意思表明しないJOCに不信が広がる
◎山下泰裕会長が2期目に再任されたJOCは、開催反対の声が高まった東京五輪に対し、五輪代表の意見集約をせず、意思表明をしないまま参加した。さらに十分な総括もせず、その主体性に不信の声が広がった。
◎北京冬季五輪に対しても、沈黙のJOCは変わらず、国民と競技者の溝は、深まるばかりだった。 

プロ野球でヤクルトが20年ぶり日本一
◎延長戦なしで行われたプロ野球は、セ・リーグでヤクルトが、2 年連続最下位から、6年ぶり8回目の優勝を飾った。2015年に2年連続最下位から優勝した時と同様の下克上優勝だった。パ・リーグもオリックスが、2年連続最下位から、25年ぶり13回目の優勝を成しとげた。中嶋聡監督が就任1年目の快挙で、両リーグの前年最下位がともに優勝するのは初めてだった。
◎日本シリーズは、ヤクルトがオリックスを4勝2敗で降し、20年 ぶり6回目の日本一となった。
◎セ、パ両リーグの観客数は、前年より6割増しとなったが、201 9年の3分の1程度にとどまった。

大横綱・白鵬が引退し照ノ富士の一人横綱に
◎大相撲で歴代最多45回の幕内優勝を誇った横綱・白鵬が秋場所後に引退した。モンゴル出身で2007年夏場所後に横綱に昇進し、15年間にわたり、野球賭博問題や八百長問題、東日本大震災など大揺れの大相撲を、一人横綱などで引っ張ったが、横綱審議会などから苦言を呈されることもあった。
◎日本相撲協会は9月30日に元横綱・白鵬の引退と年寄「間垣」の襲名を、新人親方の誓約をさせた上で認める異例の手続きを踏んだ。
◎白鵬に先立って、横綱・鶴竜が引退し、白鵬の休場で横綱不在の場所が多かったが、モンゴル出身の後輩の新横綱・照ノ富士が秋場所で優勝し、一人横綱でリードすることになった。
◎大相撲春場所で、三段目力士・響龍が投げを受けた際に頭部から俵付近に落ち負傷し、1カ月の入院の末、急性呼吸不全で亡くなった。
◎力士の新型コロナウイルス感染症の感染で、宮城野部屋の全力士が休場するなど、休場が多かった。

Jリーグは川崎が2連覇
◎サッカーJリーグJ1は、観客制限で、川崎が、2年連続4度目のリーグ優勝を決めた。
◎Jリーグの多くのクラブで赤字や債務超過が進み、経営難が深 刻になった。

大学の競技会や甲子園の高校野球再開
◎大学の競技会は、無観客や観客制限で再開され、夏の甲子園全国高校野球も観客制限で再開された。
◎高校野球大会では、延長戦のタイブレーク方式が採用され、投手の1週間500球以内の投球数制限が実施された。
◎再開された全国高校総合体育大会に、8競技15校が出場を 辞退した。 

国体の中止が続き、ねんりんピックも中止に
◎三重県で開催予定だった国民体育大会と全国障害者スポーツ大会が中止された。国体中止は2年連続、障害者スポーツ大会の中止は3年連続。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大のため、「ねんりんピック(全国健康福祉祭)」が初めて中止された。

子どもの体力低下が顕著に
◎スポーツ庁が、小中学生を対象とする2021年度の全国体力テスト結果で、男子小中学生の体力合計点が2008年度の調査開始以来最低を更新したと発表した。小学校の男女と中学校の男子は肥満の割合が過去最高となった。
◎新型コロナウイルス感染症の感染拡大による一斉休校や学校での活動制限などが深刻な影響を与えているとみられた。
◎スポーツ庁はじめ、日本スポーツ協会、そしてJOCも、対策を 示さず、一般国民の運動不足解消の対応も鈍かった。

10eスポーツ人気が高まる
◎対戦型ゲームで勝敗を競う「eスポーツ」に企業、学校、自治体が群がり、人気利用に動き出した。

スポーツ・マスメディアの問題点
1、東京五輪パラリンピックの異常開催を、無観客を条件に容認し、政治利用の批判を回避した。
2、東京五輪パラリンピックのメダルラッシュには無批判に大騒ぎした。
3、東京五輪パラリンピックの異常開催に動揺する競技者が少なくなかったが、五輪代表の社会的使命を問わなかった。
4、五輪の抱える問題に対し、IOCへの揶揄はあっても、掘り下げることがなかった。
5、東京五輪パラリンピックの異常開催に沈黙したJOCへの批判が姿を消し、スポーツ庁批判は皆無だった。
6、プロ野球や大相撲の時代変化に敏感に対応できなかった。
7、感染拡大防止策による取材制限もあって、競技の内容分析を欠いた。
8、外出自粛などで制限された草の根スポーツへの関心を失った。
9、スポーツ離れの国民意識の変化に鈍感だった。
10、スポーツの力を強調しながら、人間的価値の探究を怠った。
  大野晃
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2021年12月30日

【‛21読書回顧】女性の政治リーダーが活躍した理由=清宮美稚子(「世界」前編輯長)

 今年8月、女性政治家に関する本が2冊、ほぼ同時に刊行された。マリオン・ヴァン・ランテルゲム『アンゲラ・メルケル─東ドイツの物理学者がヨーロッパの母になるまで』(東京書籍)と、岩本美砂子『百合子とたか子―女性政治リーダーの運命』(岩波書店)である。
 前者は、今年惜しまれつつ引退した「ヨーロッパの盟主」の評伝。ベルリンの壁崩壊後、政界入りしたメルケルは、すぐに頭角を表わし、時には「策略家かプロの殺し屋かと思われる才能で」政敵を葬り、「カリスマ性のないシンプルな権力」を築き上げた。
 その特異な出自から自由と民主主義の大切さを重んじる彼女は、アメリカでトランプが大統領に当選を機に、4期目も続ける決心をしたという。
 長年にわたる観察と周辺への丁寧なインタビュー取材にフランス人女性という書き手の視点も加わり、困難な時代に16年間、なぜ権力を維持できたのか、その理由の一端を垣間見ることができた。
 もちろん単なる礼賛本ではなく、金融危機の際のギリシャへの頑なな姿勢、(首相になる前だが)イラク戦争に賛成したことにも、批判的に言及している。

 後者は「日本政治史上女性首相に最も近づいた」2人の軌跡を追った上で、日本で女性政治リーダーが、なぜ育たないのか、育てるにはどうしたらいいのかを論じている。メルケル伝と合わせて読むと、近いうちに日本で女性首相が誕生することがあるだろうかと暗澹たる気持ちになる。

 もう一冊、女性に関わるテーマの意義ある出版として、メアリー・ホーランド他『子宮頸がんワクチン問題―社会・法・科学』(みすず書房)を挙げたい。
 「反ワクチン」本ではないが、副反応の問題、臨床試験の信頼性や製薬会社の宣伝戦略の実態など、多岐にわたる論点が網羅されている。2013年6月以来中止されていたHPVワクチンの「積極的勧奨」再開が、正式に承認された今、沈黙している日本のジャーナリズムでも、活発な議論を展開してほしい。
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2021年12月28日

【総選挙報道・新聞】軒並み外れ情勢調査 建設的・批判的な政策論を=徳山義雄

                             
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 大方の予想に反する衆院選結果を受けて、自民党の岸田文雄氏が特別国会で第101代首相に選出された。衆院選で自民が絶対的安定多数を確保し圧勝、立憲民主党が公示前よりも議席を減らして惨敗。枝野幸男代表は引責辞任した。
 菅義偉前政権の新型コロナウイルス対策などをめぐる相次ぐ失態、岸田内閣発足当初からの支持率低迷を考えると、意外な結果だった。だが、投票率が55・93%と戦後3番目の低さも相まって、民意は変化よりも現状維持を選択した。
 岸田首相の次の正念場は、来夏の参院選だ。過半数に達しなければ過酷な「ねじれ国会」となり、勝利すれば安倍晋三元首相に次ぐ「独裁的」な権力を手にできる。

世論調査方法
見直す時期に


 衆院選の報道各社の選挙情勢調査をみると、野党が優勢で自民は過半数割れの可能性さえあった。しかし、蓋を開けると調査結果は軒並みはずれ、自民は15議席減らしたものの国会を安定的に運営できる絶対的安定多数を獲得、立憲は大幅増が見込まれていたが、14議席減らすというどんでん返しがあった。共産党と手を組んだ野党共闘が裏目にでたのか。
 小選挙区では自民の甘利明幹事長(比例復活)が落選し、常勝の石原伸晃元幹事長も落ちた。立憲は政界大物の小沢一郎氏(比例復活)や辻元清美氏が敗れた。一方、日本維新の会が大阪15選挙区のすべてを制し、約4倍の41議席を得て、自民、立憲に次ぐ第3党に躍りでた。
 報道各社は自前の情勢調査を1面トップや準トップでセンセーショナルに扱うことが通例になっている。だが、的外れの世論調査を大々的に報じることは、いくら予想であっても「誤報」ではないか。投票前の有権者をミスリードしかねない。私は不確かな情勢調査を大きく報じることに懐疑的で、選挙報道の欠陥と考えてきた。今回の選挙では、まさに不正確な情報を有権者に提供するという失態を演じた。
 調査はコンピューターで不作為に抽出した番号に調査員が電話(固定と携帯)をかけ、得たデータをもとにされる。だが、知らない番号からかかってきた電話に応答しない人が近年増えており、妥当なデータに行き着くのか疑問だ。
 併せてインターネット調査もされるが、委託された調査会社の不正問題も発覚している。報道各社はなぜ、はずれたのか、検証し報じるとともに、調査方法を見直す必要があろう。

選挙の勝敗を
伝える報道に


 岸田首相は自民党総裁選で打ち上げた金融所得課税の強化や健康危機管理庁の創設を公約に盛り込まず、ぶれた印象を与えることになった。先にあった総裁選に比べ、衆院選報道は新聞、放送ともに「低調」で、劇場型といわれる報道もみられなかった。一方、たとえば毎日新聞の「政策を問う」や「経済政策を問う」、読売新聞の「政策分析」など、有権者に判断材料を示す各社の政策報道は充実していた。
 これは皮肉な見方をすれば、岸田首相が、政策が生煮えのまま奇襲ともいえる選挙を仕掛けたことで、突っ込みどころが多くあったということでもあろう。ふだんから、耳目を引きやすい政局報道だけでなく、成熟した地道な政策報道に力をいれる契機としたい。
 選挙結果を伝える11月1日朝刊をみると、朝日新聞は「自民伸びず 過半数維持」、毎日新聞は「自公堅調 絶対多数」という主見出しを1面に取った。毎日の見出しに違和感はないが、朝日の「自民党伸びず……」という現状認識に疑問をもたずにはいられない。
 岸田氏は情勢調査などから一時、惨敗を覚悟し、枝野氏は勝利を確信したと思われる。「現有議席を割るとは夢にも思っていなかった」という立憲の福山哲朗幹事長の言葉からも察しはつく。しかし、結果は自民が絶対的安定多数を手中にするという、くっきりとした明暗があった。自民は予想以上に伸び、「圧勝」したのである。
 読売新聞は1面の脇見出しで「立民惨敗」と取っていたが、在京紙をみるかぎり「自民勝利」という見出しも記事もみられなかった。衆院選は政権選択選挙であり、正確な現状把握のために勝ち負けをきちんと告げる必要性があろう。

首相はぶれず
野党は再編を


 かくして岸田氏は選挙に勝った。しかし、安倍氏ら党重鎮の顔色をみて政策や態度を朝令暮改しており、ひ弱さが目立つ。
 池田勇人元首相が創始者である出身母体の宏池会の、憲法を尊重する考え方や弱者救済を優先する経済政策とは相容れない発言をしている。派閥先輩の「所得倍増」計画を単にスローガンにし、旗色が悪くなると引っ込めるという態度はとらずに、岸田氏は右に大きく振れた政治を中道に戻していくべきだ。
 立憲は再建、野党は再編を進めることになろう。政治報道はこういう時だからこそ、建設的で批判的な政策論を国民に届けたい。
  徳山喜雄
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号

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2021年12月27日

IT企業が自治体支配=@民間人材 デジタル化の要職に 企業や業界に有利な政策推進か=橋詰雅博

 総務省やデジタル庁は自治体のデジタル化に躍起だ。同省の「自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)推進計画」を地方行政におしつけ2026年3月までに計画を強引に実現させようとしている。対応に迫られる自治体の多くは、IT人材が足りず民間人材の登用に向かっている。民間IT職員が自治体で大きな影響力を持つことになる。
 総務省の「自治体DX推進計画」は、計画の推進体制について首長の下に最高情報責任者のCIO(チーフインフォメーションオフィサー)あるいはCDO(チーフデジタルオフィサー)と、手助けするCIO・CDO補佐官を配置するとしている。総務省の調査によると、デジタルシステムを運用できる情報部門の人材は1990年代までは自治体に20〜30人ほどがいた。ところがそれ以降、運用・保守の外注が進んでデジタルに比較的強い人材は数人にまで減少した。外注頼みは加速する一方なので仕様書を書けないほど全体のIT能力は落ちている。

報酬国が負担も
 こうした現状では、内部からCIOやCDO、補佐官に就ける人材は決めて少ない。となると多くの自治体はIT企業から人材を登用するしかなく、企業を辞めずに役所の仕事を行う兼業も総務省は認めている。さらに自治体の民間補佐官の登用を容易にするため報酬の約半分を総務省が負担する。
 神奈川県の場合、CIOもCDO(県ではデータ統括責任者と呼ぶ)も置いており、どちらも1年ほど前からLINEの執行役員が一人で兼 務。LINEはこれまで県のデジタル化を請け負ってきた。執行役員をCIO兼CDOに任用した理由を黒岩祐治知事は「(これまで)LINEと最新のICT(情報通信技術)を組み合わせた対策を、圧倒的なスピードで導入してきたから」と述べた。
 広島県福山市は、CDO1名とCDO統括補佐官1名、CDO補佐官2名はすべてIT企業からの人材だ。
 「求人を載せた大手転職サイトを見た応募者から市は選んだ。CDO補佐官に対し市は報酬を支払っていません。企業が全額負担している。見返りを期待してか『無償でいい』と企業が提示したと思います」(自治体関係者)

計画練り上げる
 自治体DXに詳しい地方自治問題研究機構主任研究員の久保貴裕さんはこう言う。
「自治体のDX計画を進めるのは首長、最高情報責任者、補佐官です。IT通の首長はあまりいませんので、最高情報責任者と補佐官が計画を練り上げる。首長は彼らが練ったプランに多少修正を加えるかもしれませんが、大枠は同意するでしょう。民間の人材は兼業が一般的です。特別職非常勤職員などの身分で働くが、DX推進計画の実現ためトップダウンで各部門に指示を出す。正規の幹部職員でもないのに強大な権限を行使する」

守秘義務負わず
 しかも「守秘義務」「全体の奉仕者」など公務員の服務規程は、非常勤職員には適用されない。
 「企業は、わざわざ有能な社員をCIOやCDO、補佐官として自治体に送り出すからには、何らかの見返りを考えるのは自然でしょう。送り出された社員は特命≠帯びていると思います。彼らは公務員の服務規程の適用外ですから、住民の利益よりも所属する企業や業界の利益を優先して自治体のDX政策を策定し実施することはあり得ます。民間からの人材登用により公務の公平性が損なわれる利益相反が生じる可能性があります」(久保さん)
 DX推進の波に乗りIT企業が自治体を支配≠オかねない。
 橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年11月25日号
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2021年12月26日

【今週の風考計】12.26─ソ連崩壊30年と「大祖国戦争」への想い

ソ連が崩壊して30年。1991年12月25日、69年間続いたソ連が解体した。そのきっかけの大きな一つはチェルノブイリ原発事故にある。1986年4月26日に起きた未曾有の大惨事が、あまりにもひどい情報統制によって、その実態が国民から隠され、政権への大きな怒りへと爆発した。
ゴルバチョフら新指導部は、「情報の公開・言論の自由」を保障するグラスノスチを進めつつ、さらなる根本的な改革・ペレストロイカの必要性を痛感し、秋には知識人や勤労者に向けて大胆に立ち上がるよう呼びかけた。
 1988年末には大統領制を導入し、共産党の一党支配を廃止した。米ソ間の冷戦も終結し、1991年7月には戦略兵器削減条約(START)も調印され、世界の緊張緩和が一段と進んだ。
その結果、ソビエト連邦が解体され、緩やかな国家同盟を形成するロシア連邦が成立したのだ。一党独裁を明確に否定した上で自由選挙を行う共和制多党制国家となった。
 ソビエト連邦のゴルバチョフ大統領は辞任し、これまでの国旗「鎌と鎚の赤旗」に代わって、ロシア連邦の「白・青・赤の三色旗」の国旗がクレムリンに揚げられた。

いまロシアはどうなっているか。2000年に就任したプーチン大統領は、ソ連崩壊後の混乱を収束させ、ロシアを再興に導いたと自信満々。チェチェン共和国の独立紛争も、欧米諸国が企てたロシア解体策動であり、その紛争も終結させロシア解体を防いだと自負する。
 だがプーチン大統領は、国内では政敵への弾圧、独立系メディアへの規制など、強権的な政治姿勢を強め国民との対立が激しくなっている。
国際的にもロシアがウクライナ南部クリミアを強制的に編入し、欧米からの強い非難や制裁を呼んでいる。さらにロシアは、NATOが進めるウクライナでの軍事活動への対抗措置を言い分に、国境へロシア軍を集結させ緊張を高めている。

もともとプーチン大統領は、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」と呼び、「千年以上かけて獲得した領土の4割を失った」と憤慨している。
 現にロシア国民の間では約6割が、「ソ連崩壊を後悔している」と答えている。高齢者では、さらに強まる。いまから80年前、ナチ・ドイツと闘い祖国を守った「大祖国戦争」がよみがえるのだろう。特に1942年6月から8カ月に及ぶスターリングラード攻防戦≠ヨの想いは格別だ。

その想いを私たち日本人が理解するに絶好の新刊本がある。逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』(ハヤカワ書房)だ。舞台は「大祖国戦争」、主人公はソビエト赤軍の女性狙撃兵18歳。ある日、モスクワ近郊の農村がナチスに襲撃され、彼女一人だけ生き残った。
母や村人を殺したナチスに復讐するため、狙撃兵としての特訓を受け、スターリングラード攻防戦≠フ最前線に出ていく。だが戦いの中で、兵士による女性への性暴力、生死をさまよう戦場の地獄を目の当たりにする。
 そんな女性狙撃兵が、地獄巡りの果てに辿りついた先は何か。
 手に汗握るサスペンス、年末年始の休みに、ぜひ読んでほしい。(2021/12/26)
posted by JCJ at 05:00 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする