2024年09月19日

【79年目原爆忌】長崎 祈念式典に政治的圧力=関口達夫(元長崎放送記者)

1面写真・長崎市長平和宣言_長崎・関口さんからの写真・DSC00248.JPG

 8月9日の長崎市平和祈念式典は、原爆死没者を追悼する厳粛な儀式である。その式典に今年、欧米主要国が政治的圧力をかけ、被爆者らの反発を招く異例の事態となった。

 長崎市がガザへの攻撃を続けるイスラエルを式典に招待しなかったことに日本を除くG7のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダとEU(欧州連合)が納得せず、駐日大使を式典に出席させなかったのだ。
 ガザでは子どもや老人など約4万人が殺害されており、世界各地でイスラエルに対する抗議行動が続いている。この状況を踏まえ長崎市は、式典に対する抗議行動など不測の事態が懸念されるとしてロシア、ベラルーシに加え、イスラエルを招待しなかった。その一方でパレスチナは招待した。

 欧米の主要国はこれに対して、長崎市に書簡を送り、「イスラエルのガザ攻撃は自衛権に基づくもの」で招待しないとロシア、ベラルーシと同列に扱うことになり、「誤解を招く」と牽制。式典当日には駐日大使を欠席させ、代わりに格下の領事などを出席させた。
 鈴木史朗市長=写真=は、「イスラエルを招待しなかったのは政治的な理由ではない。式典を平穏に実施するためだ」と強調した。

 長崎市の対応について被爆者団体代表田中重光さんは、「イスラエルのガザ攻撃は、自衛権の範囲を超え、虐殺だ。招待しなかったのは正しい判断」と評価した。別の被爆者団体代表川野浩一さんは、「アメリカなどが、原爆犠牲者を弔うという式典に政治的圧力をかけたのは許せない」と憤った。

 広島市は、8月6日の平和記念式典にロシアとベラルーシ、パレスチナを招待しなかった一方、イスラエルは招待しており、長崎市と対応が分かれた。
 結果だけ見ると長崎市は、欧米主要国の圧力に屈しなかったように写る。しかし、鈴木市長は、元国交省官僚で「平和宣言」では日本政府やアメリカに忖度した形跡がある。
 長崎の「平和宣言」は、学識経験者や被爆者団体代表などで作る平和宣言起草委員会の意見をもとに作成される。
 当初の宣言案では「核保有国ロシアと核保有疑惑国イスラエルによる大きな戦闘が進行している」と書かれていたが、最終の平和宣言では「中東での武力紛争」と変更された。

 これについて起草委員会では「人間の痛みを知る被爆地は、イスラエルによる人権侵害を看過できない」として、イスラエル削除に批判的な意見が出された。
 鈴木市長が、イスラエルを招待しなかったのはこうした市民の意見を無視できなかったためではないか。
 だとすれば市民意識と発言が市長の判断に影響を与え、欧米主要国の圧力を跳ね返したことになる。
 今回の問題は、国際政治と国内政治の影響を受ける被爆地の平和行政を市民が監視し、是正させる重要性を示したと感じている。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
                 
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2024年09月18日

【オピニオン】「核の傘」強化 日本が確認=丸山 重威

  日米両政府は7月28日、東京で上川外相・ブリンケン国務長官、木原防衛相・オースティン国防長官による担当閣僚会議(2+2)を開き、自衛隊と米軍の指揮、統制の「連携強化」を確認した。今回は通常の「2+2」(日米安全保障協議委員会)と併せ、「核の傘」を具体化する「拡大抑止閣僚会議」も初めて開催。日本の有事に「核を含む米国の軍事力」で対抗することを確認した、とされる。
 岸田内閣が「戦後安保政策の大転換」を打ち出し「専守防衛」から「同盟による拡大抑止」に踏み切り、「非核三原則」も捨てて、「核抑止論」に立った「日米防衛協力指針(ガイドライン)」の具体化に進んだ形だ。戦後79年、改めて、「核抑止論」では平和は守れない。核廃絶を」の声を広げていかなければならない。

 核「先制不使用」反対は日本
 米国では、2016年、終焉が近づいたオバマ政権が、戦略見直しの討議の中で「核兵器先制不使用宣言」を計画、実施しようとした。ところがこれに反対したのが日本。計画は頓挫した。

東京新聞2021年4月6日付ワシントン金杉電は、当時の国務省の担当官の証言を次のように紹介している。
 「同盟国の一部の中でも特に日本が『宣言は同盟国を守る米国の決意について、中国に間違ったサインを送る』と懸念を示したと説明。『このことがオバマ大統領が当時、先制不使用政策の断念を決定した理由だった』と明らかにした。(トーマス・カントリーマン元国務次官補)
報道によると、この意見表明を契機に、日米韓の「拡大抑止協議」が始まったが、閣僚レベルの協議は今回が初めてで、結局、日本政府が米国に抱きつく形で認めさせた「核の傘」政策を、この際、閣僚レベルで再確認。「核廃絶」に傾く世界に「待った」を掛け、「核による平和」キャンペーンにしようとの米国の世界戦略にも沿った政策だ。

朝中露「警戒論」を展開
 今回、共同発表では、@北朝鮮による安定を損なう継続的な行動と核・弾道ミサイル計画の追求A中国の加速している透明性を欠いた核戦力の拡大B北朝鮮への軍事協力を含むロシアの軍備管理態勢と国際的な不拡散体制の毀損―をあげ、「同盟の抑止態勢を強化し、軍備管理、リスク低減及び不拡散を通じて、既存の及び新たな戦略的脅威を管理する必要性を再確認した」と、朝中露3国への「警戒論」を展開。日本の非核三原則にも触れず、巧妙に「核抑止論」に誘導している。

 岸田内閣は、昨年のサミットでは「核廃絶」ではなく「核抑止論」に立った宣言を主導したが、ことしの慰霊式でも、国連事務総長メッセージや平和宣言が、日本政府の「核廃絶」や「核兵器禁止条約」への行動を促しているのに背を向け、「核兵器保有国と非保有国の仲介をする」と言うだけ。国民的批判は高まっている。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号   
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2024年09月17日

【おすすめ本】 中島京子『うらはぐさ風土記』―やさしい物語の陰に潜む社会の現実=鈴木 耕(編集者)

  懐かしい街をゆったりと歩いているような小説に出会う。寝っ転がって時折ふふふと頬を緩めながら読む。ごく普通の暮らしのようでいて、でもそれぞれに何かを抱えている人たちが、なんとなく知り合う。

 長いアメリカ生活から離婚を機に帰国し、母校の女子大で講座を持った沙希が主人公。彼女が暮らすのは伯父の家。伯父は認知症になり施設に入所した。その家がある街が「うらはぐさ」という東京の西の穏やかな街。うらはぐさとは風知草のことで花言葉は未来…。
 伯父の友人だった足袋屋の主人とその妻、沙希に懐くちょっと変わった女子大生2人組、大学教師の同僚とゲイのパートナー、沙希が幼いころに通った小学校の校長先生や、そして妙に気になるのが芝居をやっていた頃の仲間の影。
 こんな人たちが現れては、沙希との不思議な交流を重ねていく。突然の別れた夫の出現には読者も息をのむが、それも快いエピソードのひとつ。

 この著者の作品の素敵なところは、やさしい物語の裏に現代社会が持つ厳しい現実が見え隠れする部分で、この小説にもそれが反映される。沙希が通う静かだが活気のある「あけびの商店街」に道路拡張計画が持ち上がり、商店主たちが立ち退きを迫られ、それに対する抗議の住民運動が起きる。LGBT問題とパートナーシップ制度、さらには空き家問題も絡むのだから、著者の社会を見る目の確かさが伝わる。そして、ほんとうに心温まる結末が待っている。私がこの著者が大好きな理由がここにある。
(集英社1700円)  
            
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2024年09月16日

【寄稿】長崎を通して広島を見つめることによって浮かび上がる現実 平和式典は何のためか=宮崎 園子(広島支部幹事)

 「劣等被爆都市」。この夏、わたしはこんなフレーズを知った。社会学者の高橋眞司・元長崎大教授が2004年の著書『続・長崎にあって哲学する』で、長崎のことを表現したものだ。「被爆地長崎はいつも広島の陰に立ってきた」「世界の注目と脚光を浴びるのはいつも広島」と。だが、高橋氏が20年前に指摘したように、長崎は広島の陰になってきたのか。ときどき長崎も訪れながら広島で取材を続けてきたわたしはこの数年、もう一つの被爆地・長崎市の姿を見るにつけ、「平和都市」広島市の平和行政に対して疑問を抱いてきた。

 広島と長崎の違いを感じ始めたのは、2017年夏だった。122カ国の賛成によって国連で核兵器禁止条約が採択された翌月の原爆の日、広島の平和宣言は、外務省界隈の常套句「橋渡し」に引っ張られた宣言しかできなかった。だが、長崎は違った。「核兵器禁止条約の交渉会議にさえ参加しない姿勢を、被爆地は到底理解できません」と日本政府の姿勢を鋭く批判した上で、唯一の戦争被爆国として、核兵器禁止条約への一日も早い参加を目指せと、明確に求めたのだ。その後安倍晋三首相(当時)と被爆者団体の面会の際には、こんな言葉が被爆者から飛び出した。「あなたはどこの国の総理ですか」

 「怒りの広島、祈りの長崎」と言われてきたが、果たしてそうなのか――。思えばこの頃から、わたしは首を捻り続けている。国がどうであれ、被爆地には被爆地の考え・主張があるという信念は、少なくともこの数年、むしろ長崎市からしか見出せない。そしてその思いは今年、確信に変わった。それはパレスチナへの攻撃を続けるイスラエルを、平和式典に招待するか否かで、広島・長崎の態度が鮮明に分かれたからだ。
 広島市は、例年通り招待した一方で、長崎市は招待を見送った。理由は政治的なものではなく式典の平穏のためだとしたが、公式的な説明はさておき、この判断の前段階として、外務省との協議を経て、広島・長崎ともに2022年以降ロシアを不招待としてきたことが布石となっていることは想像に難くない。

 広島市の説明はこうだ。ロシアを呼ぶと、式典で自分たちの主張をほかの国に押しつける可能性があるが、イスラエルを招待してもその心配はない――。この説明とともに、広島市は前代未聞の強硬手段を打ち出した。式典を安心安全に挙行するため、式典会場のみならず平和記念公園全体に式典の前後4時間規制をかけ、さらにはゼッケンやプラカードなどの持ち込みを禁止したのだ。

 ちなみに、日本政府が国家承認していないパレスチナについては、長崎市が駐日代表を2014年以降招き続けている一方で、広島は招いていない。米英仏らG7諸国は、イスラエルを招かないなら我々も行かない、と長崎市に圧力をかけたが、長崎市長はそれでも方針を変えなかった。結果、各国は長崎の式典をボイコットした。異例の展開によって、誰もが考えざるを得なくなった。被爆地は、なんのために、原爆の日に平和式典を開くのだろうか、と。

 2016年、オバマ米大統領(当時)は広島を訪問したが、長崎は立ち寄らなかった。2023年、広島でG7サミットが開催されたが、首脳らはやはり長崎に足を伸ばさなかった。「優越被爆都市」広島は、それらの政治イベントによって何かを得たか。原爆投下国のオバマ氏が原爆投下を「死の灰が降ってきた」と他人事のように語ることを許し、G7各国が核抑止論を堂々と主張することを許しただけではないか。被爆地の叫びを封じてでも、核兵器を手放すつもりがない、大量虐殺を辞めるつもりもない政治家たちを招き入れたことで、平和式典の意味を歪めてしまった。それが、核兵器保有国に追随するばかりの日本政府と一体化し、国家主義にとらわれてしまっている広島の哀れな姿だ。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号


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2024年09月15日

【株暴落】市場との対話に課題 日銀の説明不足=志田 義寧

 日銀に対する信頼が揺らいでいる。日経平均株価は8月5日にブラックマンデーを超える過去最大の下げ幅を記録したが、その原因のひとつに日銀のコミュニケーションを問題視する声があがっている。確かに7月の利上げは、市場の意表をついた格好となり、市場との対話に課題を残した。このところの情報漏洩(リーク)疑惑も含めて、日銀はもう少し丁寧に説明すべきだ。

予想されず

 日銀は7月の金融政策決定会合で15ベーシスポイントの利上げを決めた。7月会合での利上げは直前まで予想されていなかったためサプライズとなり、5」日の暴落の遠因になった可能性は否定できない。植田和男総裁が追加利上げに前のめりな姿勢を見せたことも、市場の動揺を誘った。円キャリー取引を積み上げていた海外勢にとって植田総裁のタカ派姿勢は想定外で、これがポジションの解消につながり、「植田ショック」を招いたとの見方がある。

 日銀は会見や講演、経済・物価情勢をめぐる判断など考え方を伝える手段を数多く持っている。ただ、7月の利上げは事前の情報発信からは読み取れなかった。6月会合後は執行部の講演がなく、国会も閉会していたため、金融政策の考え方を伝える機会は限られていた。そうした中での利上げ決定。筆者は金融政策の正常化は必要との立場だが、事前の説明やタイミングに関して、もう少し考える余地があったのではないかと感じている。日銀は市場との対話に失敗したと判断していい。

リーク否定

 日銀が市場との対話に失敗すれば、その影響は報道にも及ぶ。今回も事前の情報発信から利上げが読み取れなかった中で、NHKと時事通信、日本経済新聞が相次いで追加利上げの検討について報道したため、リークが疑われた。植田総裁は会見で「ルールの中で情報管理をきちんとしている。時々出る報道は観測報道であると理解している」とリークを否定したが、X(旧ツイッター)では説明を信じる声はほとんどない。
 では、日銀は本当にリークをしているのか。筆者は2020年まで報道機関で日銀を担当していたが、筆者の経験から言えば、一般の人が想像するようなリークはないと断言できる。一般の人が想像するリークは、政策を事前に市場に織り込ませるために陰でコソコソと教えるというものだろうが、前述したように、日銀は考え方を伝える手段を数多く持っている。リスクを冒してまで、報道機関を使って織り込ませる必要はまったくない。

 日銀担当記者は日頃から、景気の現状や先行きに対する見方、リスク等について、かなり細かく取材をしている。日銀は会見や『経済・物価情勢の展望』(展望レポート)で蓋然性の高いシナリオやリスクを公表しており、記者はそのシナリオに変化はないか取材を通じて確認し、その積み上げが報道につながっている。ただ、今回のように日銀が市場との対話に失敗すれば、事前報道が癒着とみなされ、報道に対する信頼も揺らぎかねない。

軌道修正へ

 日銀は4月の展望レポートで「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」との見解を示していた。つまり利上げ自体は既定路線だった。問題は事前のコミュニケーションとタイミングだ。弱めの経済指標が目立っていたため、市場では「経済・物価の見通しが実現していくとすれば」の前提条件は成立していないと判断する参加者も少なくなかった。

 内田真一副総裁は8月7日の講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と明言、軌道修正を余儀なくされた。日銀には、より丁寧な対話を求めたい。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号     
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2024年09月14日

【オピニオン】「戦争の危機」を煽る政治とメディアの欺瞞を撃つ=梅田正己(書籍編集者)

「今日のウクライナは、明日の東アジアかもしれません」
 今年4月11日、岸田首相が米国議会で行なった演説の一節である。だから、防衛予算を倍増して大軍拡をするとともに、日米同盟の防衛力を一段と強化する必要があるのです、となる。
 しかし、本当に東アジアに戦争の危機が迫っているのだろうか?

東アジアの「脅威」の実態
 一昨年12月、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」では危機(脅威)の発生源を、ロシア、北朝鮮、中国と特定していた。
 ロシアは確かにウクライナを戦火の中にたたき込んだ。だがそれは独裁者プーチンの「大ロシア思想」によるものだ。いかに帝国主義者プーチンといえども、宗谷海峡をこえて北海道に侵攻することなどあり得ない。
 北朝鮮もミサイルと核開発に固執している。だがそれは、米国との交渉力を手に入れて、70年来の潜在的「交戦状態」を解消、経済制裁の解除とともに、日本とも国交を回復して60年前の日韓基本条約並みの植民地支配に対する補償と経済協力を得たいためだ。
 中国・習近平政権の香港問題や南シナ海問題にみるような、強引で一方的な自己主張には、たしかに目に余るものがある。しかし「中国は一つ」を振りかざしての台湾攻略のリアリティーとなると、問題は別だ。
 半導体にみるように台湾の経済発展はめざましい。それに台湾の世論は圧倒的に「現状維持」だ。その台湾を武力でねじ伏せるなんてできるわけがない。
 ウクライナに倍する軍事力をもつプーチンのロシアも、2年半を費やしながらいまだ東南部4州の制圧にも手を焼いている。
 まして中台の間は台湾海峡で隔てられている。ミサイルだけでは台湾は制圧できない。陸軍による上陸作戦が絶対に必要だ。今から79年前、面積が台湾の30分の1の沖縄本島への上陸作戦でも、米軍は1500隻の艦艇で周囲の海を埋め尽くし、55万人の兵力を必要とした。
 加えて、その上陸作戦を世界中がリアルタイムで注視することになる。台湾攻略の非現実性はこれだけでも明らかだ。

岸田発言の真偽の検証を
 にもかかわらず「台湾有事は日本有事である」とバカな政治家が言った。そして実際、岸田政権は軍事予算を増額して南西諸島にミサイル基地を新設し、日米両軍は「作戦司令部」を統合し、いまこの一文を書いている8月初旬、両軍合同による最大の訓練を実施中である。
 「今日のウクライナは明日の東アジア」の岸田発言を、マスメディアは伝えた。しかし伝えるだけで真偽については全く検証しなかった。ということは、岸田発言を容認し、結果として「東アジアの危機」なる現状認識を黙認したということだ。
 SNSの時代とはいえ、国民世論の動向にはマスメディアが決定的に影響する。私はいま、岸田発言の真偽について各新聞社の論説委員室が徹底論議し、その論議の過程と結論を読者に伝えてほしいと思う。
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2024年09月13日

【2024年度第67回 JCJ賞】JCJ大賞 しんぶん赤旗日曜版 『自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン』、 JCJ賞4点。10月5日(土)午後1時から東京・日比谷図書文化館コンベンションホールで贈賞式

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 JCJ賞作品は次の通りです。
 【JCJ大賞】  1点
● 自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン しんぶん赤旗日曜版 
       
 【JCJ賞】   4点   (順不同)
● 上丸洋一(じょうまる・よういち)『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版

● 後藤秀典(ごとう・ひでのり) 『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社

● NHKスペシャル 「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・深まる闇~」 NHK総合テレビ

● SBCスペシャル 「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡」 SBC信越放送

JCJ賞贈賞作品一覧

【JCJ大賞】    1点
● しんぶん赤旗日曜版 自民党派閥パーティー資金の「政治資金報告書不記載」報道と、引き続く政治資金、裏金問題に関する一連のキャンペーン
 自民党の主要5派閥が政治資金パーティーのパーティー券大口購入者を、政治資金報告書に記載していなかったことをスクープした報道に始まった「しんぶん赤旗日曜版」の報道は、2023年から24年にかけての日本の政治を揺り動かした。
 公開されている膨大な政治資金報告書から、一つ一つを地道に積み上げ、検察の捜査にまでつなげ、それが大政治犯罪であることを明らかにした。
 政治資金パーティーという、小さな問題に見えた事件は、実は政治資金問題の中心的問題で、事件の大きさは、自民党が公表せざるを得なかった議員が衆院51人、参院31人、計82人に上っていた(24年4月14日号)ことに示されるとおり、そのスケールの点では、1975年の「田中金脈」報道や、88年の「リクルート事件」報道を超えるものだった。
 国会は安全保障政策の大転換を迎え、極めて重要な問題を抱えていたが、この問題に多くの時間を割き、秋に予想される、総選挙もしくは自民党総裁選を控え、「政治資金改革」は、いま、最大の政治的焦点となっている。こうした事態を引き起こしたのは、「しんぶん赤旗・日曜版」の報道がなくしてはできなかったことであります。

【JCJ賞】    4点 
● 上丸洋一 『南京事件と新聞報道 記者たちは何を書き、何を書かなかったか』 朝日新聞出版 
日本の侵略戦争の犯罪を象徴する「南京大虐殺」――南京事件は、西のアウシュヴィッツでのナチス蛮行に匹敵する戦争犯罪であるが、当時の日本の新聞記者は何を書き何を書かなかったかを追跡し、検証した力作。
 筆者は、2007~2008年朝日新聞夕刊の「新聞と戦争」で戦時報道を検討する連載の取材班に参加。「南京」シリーズを担当した。2020年フリーになったのを機に再び「南京事件」に向き合って、当時の新聞報道を調べる毎日が続く。「南京事件まぼろし説」「百人斬り」はじめ日本軍の蛮行、虐殺の数々に向き合い、真偽の確かめ作業が続く。当時の報道や記録を掘り起こし、記事を追い生存の記者を取材して検証する。気の遠くなるような作業のなかから、事実としてあったことは勿論、前後左右の状況、外国の記事も使っての多角的な検討により、あったはずの事実を浮き彫りにしている意義は大きい。
 戦場に行く記者、カメラマンは厳しい報道規制のもと、軍紀服従、検閲、報道規制、従軍記者心得により、「戦場一番乗り」「報道報国」「報道戦士」に絡め取られていく様を記事で検証しながら明らかにしているのが恐ろしい。
 終戦後、生存の記者への取材、戦友会の記録のなかで、多くの人々の意識が変わらず、責任も感じず、見たくないことはなかったことにする有様を突きつけられ、日本の教育と、洗脳された日本人の状況に愕然とさせられる。
 南京事件についての研究はすすみ、書物も多いが、新聞、放送など影響力の大きなジャーナリズムの有り様がますます重大である。
岸田政権による軍備拡大と戦争準備がすすめられるこの2024年、『南京事件と新聞報道』という力作を得たことの意義は大きい。

● 後藤秀典 『東京電力の変節 最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』 旬報社 
 福島第1原発事故から14年、責任が明確にされた東京電力は避難者たちが起こした損害賠償請求訴訟を数多く抱えたままだ。その訴訟の過程で加害者である被告東電が原告の被害者たちを、あたかも安逸な生活を享受しながら無理難題を求めているかのように攻撃をする現象が生まれている。賠償を出し渋るための「変節」である。その背景にある最高裁と巨大法律事務所という司法エリートと東電との結びつきを探ったのが本書である。
著者は2022年に出された、国に原発事故の責任はないとした最高裁判決(6.17判決)を下した3名の判事の経歴・人脈を追い、彼らが巨大法律事務所をはじめ国や法曹界、産業界のさまざまな機関と密接に関わっていることを明らかにしていく。その構造は本書にある「電力会社・最高裁・国・巨大法律事務所の人脈図」を見れば一目瞭然だ。原子力規制庁のメンバーで一審では国側の指定代理人であった弁護士が控訴審では東電の代理人として登場するという事実には呆れるほかない。この弁護士はもちろん巨大法律事務所の所属である。
本書は原発問題をテーマとして書かれ、「原子力ムラ」には司法エリートも含まれていることがはっきりする。同様なことは日本の他の多くの分野でも起きているであろう。日本における司法の独立は国家の圧力との関係で問われてきたが、「民間」の巨大法律事務所というモンスター的存在が権力の補完機能として働いているという事実を具体例を挙げて告発した作品として推薦する。

● NHKスペシャル 「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・
深まる闇~」  NHK総合テレビ
 「冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部で何が~」(23年9月24日21:00~21:50)
 なぜ冤罪≠ヘ起きたのか。3年前、軍事転用が可能な精密機器を不正に輸出したとして、横浜市の中小企業の社長ら3人が逮捕された事件。長期勾留ののち、異例の起訴取り消しとなった。会社側が国と東京都に損害賠償を求めている裁判で23年6月、証人として出廷した現役捜査員は「まあ、捏造ですね」と、捜査の問題点を赤裸々に語った。公安部の中で、一体何が起きていたのか。法廷の証言と独自取材をもとに、徹底取材で検証する。
「続・冤(えん)罪≠フ深層~警視庁公安部・深まる闇~」(2月18日21:00~21:50) 
 警視庁公安部の冤(えん)罪¢{査を検証したNスぺ(昨年9月)第2弾。4年前、軍事転用可能な機器を不正輸出したとして、大川原化工機の社長ら3人が逮捕された事件。東京地裁は昨年末、捜査は違法だったと認め、国と都に賠償を命じる判決を言い渡した(国と都は控訴)。NHKは今回、さらに新たな内部資料を入手。経産省はなぜ警察の捜査方針を追認したのかそして、検察はなぜ起訴に踏み切ったのか。残された闇に迫る。

● SBCスペシャル「78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~」(3月13日19:00~20:00) SBC信越放送
 太平洋戦争の末期、現在のマレーシア、ボルネオ島で「サンダカン死の行進」と呼ばれる悲劇が起きた。日本軍の無謀な命令により、道なきジャングル横断を強制された英豪軍の捕虜2400人余が飢えや病気、銃殺で死亡。生き残ったのは、脱走した6人だけだった。悲劇から78年、豪州兵捕虜の息子、ディックさんの呼びかけで、長野県の元日本軍兵士の遺族やスパイ容疑で処刑された地元住民の孫ら関係者が戦跡をめぐり、二度とこのようなことが起きないよう合同で「和解」を誓い合った。

お問合せは下記までお願いします。
日本ジャーナリスト会議(JCJ)  
 〒101‑0061 東京都千代田区神田三崎町3−10−15 富士ビル501号 
 TEL:03−6272−9781 FAX: 03−6272−9782 (電話受付は月、水、金13時〜17時) 
 メール: office@jcj.gr.jp
 直接のお電話: 古川英一(JCJ事務局長) 090‑4070-3172、大場幸夫 (JCJ賞推薦委員会)090‑4961-1249 

■贈賞式記念講演(オンライン講演となります)
  「政治とカネ 自民党裏金問題をどのようにして暴いたのか 」 上脇 博之(かみわき ひろし)神戸学院大学大学院教授
■講師プロフィール:
 上脇 博之(かみわき ひろし)1958年7月、鹿児島県生まれ。1984年3月、関西大学法学部卒業。1991年3月、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得。北九州大学(現在の北九州市立大学)法学部 助教授・教授を経て、2004年から神戸学院大学大学院実務法学研究科教授、2015年から神戸学院大学法学部教授(現在に至る)。専門は憲法学。、政党助成金・政治資金、政治倫理、情報公開制度、改憲問題などを研究『検証 政治とカネ』(岩波新書・2024年)など著書多数。公益財団法人「政治資金センター」理事などを務める
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■オンライン参加お申し込み:
 https://jcjaward2024.peatix.com
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2024年09月12日

【シンポジウム】「取り戻せ!テレビを市民の手に」前川喜平氏らがパネリスト 9月28日(土)午後3時から5時 立教大学池袋キャンパス(JCJ共催)

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 「テレビは報道機関としての役割を果たしていない」「テレビは、政府広報か」と、放送の現状を多くの人達が怒り憂いています。
 一方で、視聴者・市民の手で「テレビを市民の手に取り戻す」運動もここ数年多彩に展開されてきました。
 市民・メディア関係者・研究者による研究プロジェクトでは、放送行政に独立行政委員会制度を導入する提言もまとめられています。
 シンポジウムでは、市民運動のリーダーたちから多様な視聴者運動の現状を聞き、新しい政権の下での放送制度改革の可能性や展望を語り合います。

■民放の改革迫る新しい市民運動 「テレビ輝け!市民ネットワーク」は、市民がテレビメディアの所有者(株主)になって、テレビを内部から変えて行こうというユニークな市民運動です。6月27日にはテレビ朝日の株主総会に乗り込み、「政治的な圧力で公正報道が難しい場合、第三者委員会設置を」などの提案を市民株主が行いました。

●パネリスト
 前川 喜平氏(現代教育行政研究会代表・テレビ輝け!市民ネットワーク共同代表)
 杉浦 ひとみ氏(弁護士・テレビ輝け!市民ネットワーク事務局)     
 砂川 浩慶氏(兼司会・立教大学社会学部教授・「放送を市民の手に:独立行政委員会 を考える」プロジェクト代表)

●日 時:2024年9月28日(土)15:00 〜 17:00(開場 14:30)
●リアル会場参加: 800円(立教大学池袋キャンパス7号館 1階7102教室)※学生無料
●オンライン参加: 800円(https://peatix.com/event/4054432/)※後日録画配信の予定
●主  催:NHKとメディアの今を考える会 + 立教大学社会学部メディア社会学科・砂川ゼミ
●共  催:日本ジャーナリスト会議、日本ジャーナリスト会議・東海、 放送を語る会、 メディアを考える市民の会ぎふ
※今企画はJCJ会員も有料での参加となります。
(問い合わせ先)小滝一志:kkotaki@h4.dion.ne.jp 
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2024年09月11日

【おすすめ本】田中敦夫 『盗伐 林業現場からの警鐘』―荒れる森林 無能な行政に最後の警告=栩木誠(元日経新聞編集員)  

 「パッと見には緑のスギ林に覆われている。が、何か変だ。スギ木立のその後ろに茶色の地肌が透けて見える。斜面の一部も崩れていた」。本書は、宮崎県中部の盗伐現場の生々しい現場ルポから始まる。

 先進国や発展途上国など地球規模で拡大の一途をたどる「違法伐採」。森林破壊が進む「森林王国」日本でも、違法伐採の輸入材が多く流入している。その一方、宮崎県はじめ全国各地で、重機を使った大規模で組織的な盗伐が頻発。東京五輪のメイン会場となった、新国立競技場の建設に使われた合板型枠も、違法伐採された木で作られた可能性が、国際的なNGO団体などから警告されたほどだ。各地で被害に逢った林業者が被害届を出しても、警察が受理しないなど、今や日本は、本書が指摘するように、無法がまかり通る「世界に冠たる盗伐天国」なのである。

 国会でも田村貴昭議員(日本共産党)などが、繰り返し行政の取り組み強化を追求し、「違法木材の流通規制」を盛り込んだ法案を提出した。しかし、警察がなかなか腰を上げす、政府は、「絶望的な感度の低さ」に終始している。

 本書は、長年にわたり全国各地の森林や林業現場を取材、『絶望の林業』を著わした筆者が、「森林行政の刷新と林業健全化の最後の機会」との熱い思いを込めた、1冊である。森林環境税の強行で国民に新たな負担を強いながら、「やってる感満載」の自公政権は、森林を荒れ放題なままに放置する。「山河壊れて国はなし」。筆者が警告する、日本の森林の危機的な状況から脱するための原動力は、「食にも森にも、ほぼ無関心だった」多くの国民の覚醒と行動である。(新泉社2000円)
       
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2024年09月10日

【シンポジウム】沖縄本島にも基地・施設 自衛隊の地対艦ミサイル連帯配備 「攻撃の的になる」危機感=古川英一

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 「日米共同作戦の拠点化許すな!」をテーマに沖縄・琉球弧の声を届ける会が7月の20日から2日間開いたシンポジウムとフィールドワーク=写真=に参加した。
 
 那覇市から車で約1時間半、うるま市の小高い丘にある陸上自衛隊勝連分屯地。ここに地元を始め多くの県民が反対する中、今年3月、第7地対艦ミサイル連隊が配備され、90人の隊員は、3倍超の290人に増員された。配備された12式地対艦ミサイルの射程は200キロ。台湾有事をにらんでだが、万が一の場合、むしろ標的になり住民が巻き込まれる恐れがある。
 何しろ地区の学校まで150メートル、集落まで490メートしか離れていないのだ。反対運動を続けている照屋寛之さんは「2025年には射程が1500キロもある能力向上型ミサイルが配備される予定だ。住民のことを考えれば、沖縄では憲法が無視されている」と憤る。ゲートの柵の向こう側では若い自衛隊員がカービン銃を手に持ち、無表情でこちらを監視していた。
 
 同じうるま市でゴルフ場の跡地に陸上自衛隊が、訓練場を新設する計画が去年12月に明きらかになり、今年4月に住民の反対で撤回された。その予定地周辺にも足を運んだ。隣には年間5万人が利用する県立石川青年の家があり、少し下った「旭区」には2500人近くが住む。 
 反対運動はまず地元「旭区」の自治会から始まり、市や県内の他の自治体にまで広がって断念に追い込んだ。反対運動の会の伊波洋正さんは「防衛省の計画はあまりにもずさんで、住民の視線がまったくない。今回は島ぐるみの闘いで、保守・革新を超えた住民運動の爆発が勝因です」と話していた。
 
 一方シンポジウムでは、沖縄市の陸自補給拠点計画についての報告があった。計画は一昨年12月の安保改定3文書に基づき沖縄市池原に防衛者が陸自の弾薬庫などを設置する。この問題で地元の市長は防衛は国の専権事項、意見を言う立場にないとコメント、市議会答弁では弾薬庫建設を容認した。
 これに反対をする市民の会の諸見里宏美さんは「市長の責務は市民の命と財産を守ることで、『容認しない』権利がある。秋田県や山口県は首長がイージスアショア配備に反対し撤回させたではないか」とその姿勢を批判した。「弾薬庫ができれば日米が共同で使用し、この一帯は攻撃の的になる。沖縄を日米軍事一体化の拠点とすることを許さない」と訴えた。

 米軍基地に加えて先島諸島から沖縄本島へと自衛隊が増強される。沖縄の人たちが直面する危機感が、夏の強い日差しのようにヒリヒリさせられた。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年8月25日号
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2024年09月09日

【Bookガイド】9月に刊行の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

  ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)。

◆武塙麻衣子『酒場の君』書肆侃侃房 9/2刊 1500円1.jpg
 『群像』2024年6月号より小説「西高東低マンション」を連載中の作家である著者が、「私には私だけの酒場白地図が頭の中にあり、好きなお店や何度も行きたいお店、行ってみたいお店などを、日々その地図に少しずつ書き込んでいく」─こうして仕上がった酒場放浪記から浮かび上がる、ホロ酔い観察のすばらしさが、何とも言えない爽快さを呼び起こす。

◆池澤夏樹 編+寄藤文平(絵)『来たよ! なつかしい一冊』毎日新聞出版 9/2刊 1800円2.jpg
 人気作家50人が夢中で読んだ「私だけの一冊」を、イラストと文章で紹介。本が醸し出す密かな楽しい世界へ誘われること間違いなし! 草野仁が選ぶ五味川純平、吉田豪が選ぶアントニオ猪木、山田ルイ53世が選ぶ西村賢太、南沢奈央が選ぶ宮本輝……まずは手に取ってみてください。寄藤文平のイラストも楽しい<とっておきのブックガイド>!

◆トマ・ピケティ『平等についての小さな歴史』(広野和美訳) みすず書房 9/17刊 2500円
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 『21世紀の資本』が刊行され、日本でピケティブームが起こって10年。だが他の著作も含め、どれも1000頁を超える大作では手が出なかった。ところが本書は、ピケティ自らが格差や平等について分かりやすく凝縮させた、初心者おすすめの1冊となっている。さらに「格差に対処し克服する野心的な計画を提示」し、学ぶところが多い。

◆栗原康『幸徳秋水伝: 無政府主義者宣言』 夜光社 9/18刊 2800円
 大杉栄の兄貴分にして元祖日本のアナーキスト・幸徳秋水。自由民権運動に触れた少年時代、中江兆民の書生時代、万朝報での記者生活、堺利彦らとの平民社時代、クロポトキンとの文通、足尾暴動、管野須賀子との恋愛、大逆事件など、波乱万丈の明治時代に生きた幸徳秋水を克明に追い、日本のアナーキズム黎明期とその青春群像を活写した力作。
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◆布施祐仁『従属の代償 日米軍事一体化の真実』講談社現代新書 9/19刊 980円
 いつの間にか日本が米国のミサイル基地になっていた! 米軍が日本全土に対中戦争を想定した、核搭載ミサイルを配備しようとしている! だが日本政府は、こうした米軍の動きを隠し、かつ巧妙な「ウソ」をつき、国民をだまくらかしている。その「ウソ」を、ノンフィクション作品でJCJ賞など多くの賞を受賞した、気鋭のジャーナリストが見破る! 多くの人たちに読んでほしい安全保障を論じた力作。
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◆ジェレミー・ドロンフィールド『アウシュヴィッツの父と息子に』(越前敏弥訳) 河出書房新社 9/27刊 2900円
 著者は、デビュー作のミステリ『飛蝗の農場』がベストセラーになった。その後2015年からは歴史ノンフィクション作家としても活動し、数多くの著書を刊行している。本書は「アウシュヴィッツに収容された父を追い、家族がいるところに希望があるとして、父を守るため、息子自らがアウシュヴィッツ行きを志願した」─さてそこでの行動は、手に汗握る感動のノンフィクション!
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2024年09月08日

【鹿児島県警不祥事隠ぺい】札幌でも緊急集会=北海道支部

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 JCJ北海道支部は7月26日、鹿児島県警の一連の不祥事で、告発文書が郵送された札幌のライター小笠原淳さん=写真=を迎え緊急集会「『事件隠ぺい』内部告発が問うもの」を札幌市内で開いた。

 小笠原さんは「県警は『重要な証拠品なので文書を押収したい』と電話で持ち掛けてきた」と、前生活安全部長逮捕の4日後、初めての接触があったことを暴露。「情報源の秘匿」を理由に拒否し、「電話してきた若い捜査員に『押収』とは?と、令状も出さずに文書提出を求める理由を質すと、電話はぷつりと途絶えた」と話した。

 小笠原さんは昨年11月、捜査記録の速やかな廃棄を促した内部文書「刑事企画課だより」をハンターで報じていた。内部文書が「なぜ札幌のあなたに届いたのか」とのメディア各社の問いには、「私が選ばれたのではなく、あなたたちが無視されただけではないか」と答える小笠原さんだが、「地元の新聞社やテレビ局に送っても書いてくれないと考えたのではないか」と自身の元に文書が送られた理由を推測。県警の隠ぺい体質は「地元の大手マスコミが育てたのかもしれない」と厳しく指摘した。

 大手メディアの報道は、不祥事が明るみに出始めた今年6月になってから。小笠原さんは北海道警によるヤジ排除事件を例に、「ヤジを飛ばした人を、道警はテレビ・新聞のカメラの前で排除した。警察は報道をコントロールできると思っているのではないか」と述べ、警察とメディアの報道姿勢にも疑問を呈した。

 鹿児島県警のハンターへの家宅捜索などにメディア関係団体や日本弁護士連合会が相次いで抗議声明を出した。しかし、小笠原さんは「業界団体の日本新聞協会や日本民間放送連盟は出さない。報道が一過性のものに終わってしまうことを心配している」と指摘。、一連の不祥事に関する息の長い報道を求めた。

 市民ら約40人が参加した集会の意見交換では「警察を監督すべき公安委員会が形がい化している」(ヤジ排除事件を担当した弁護士)、「取材源の秘匿は職業倫理のレベルではなくメディアの権利として考えるべきだ」(マスコミ論が専門の大学教授)などの発言があった。
      
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2024年09月07日

【映画の鏡】豊かな未来を築く知恵を示す『山里は持続可能な世界だった』効率重視の現代の価値観を問う=鈴木 賀津彦

             
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            映画「山里は持続可能な世界だった」製作委員会

 高度経済成長以前の農山村の暮らしから現代に生きる私たちが学ぶべきことを提示してくれる。タイトルが「世界だった」と過去形になっているが、決して当時を懐かしむのではなく、これからの社会の構築に必要な価値観を描き出そうと、伝統的林業、炭焼きや養蚕、原木椎茸栽培や鍛冶屋など、かつての生業を受け継いでいる人々を取材し、効率重視の現代的価値観に抗う新たなライフスタイルを模索する。

 原村政樹監督は「かつての山里の暮らしを記録した白黒写真をできるだけ多く紹介して、当時の暮らしと生業を克明に伝える」工夫をしている。青少年時代を山里の村で過ごした70代から90代の人たちに写真を見てもらいながら話を聞いてみると、「貧しく厳しい時代だったが張り合いがあった」「子どもや若者が大勢いて家族を超え皆が助け合いながら暮らしていた」など、生き生きと話し始める。スクリーンに紹介される当時の写真に写った人々の表情は、子どもも大人も誰もが明るい。笑顔が輝いてみんなが幸せそうだ。

 「持続可能な世界を実現するための知恵が沢山あった」山里の暮らし。題名からしてSDGs(持続可能な開発目標)の作品だと位置付けられそうだが、登場する人たちの言葉からは、そんな軽々しい言い方ではなく、もっと奥深い問い掛けが発せられている。映画のコピーに「かつて村人たちは自然を壊さずに暮らしていた!」とある。そう、山里は人間だけのためにあるのではなく、山の恵みに感謝しながら必要な分だけいただくのだ。
 9月6日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町で公開。各地で自主上映も。
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