2025年05月22日

【オピニオン】トランプ関税の誤り 経済学からの視点 金融危機の道 毅然と望め=志田義寧

 トランプ米大統領は9日、同日発動したばかりの相互関税の上乗せ分について、報復措置を取らない国・地域に対しては90日間効力を停止すると発表した。足元では株だけでなく、米国債が急落(利回りは急上昇)するなど、金融危機に発展しかねない状況だっただけに、軌道修正を余儀なくされた可能性が高い。日本はこれから本格交渉に入るが、標準的な経済学とは相入れない誤った関税政策に対して、毅然とした態度で臨むべきだ。脅かせば屈する国という印象を与えれば、将来に禍根を残す。本稿では経済学の観点からあらためてこの問題を整理したい。

2国間の不均等は当然

 「完全に狂っている」。ノーベル経済学賞を受賞した著名経済学者であるポール・クルーグマン氏は自身のニュースレターで、トランプ大統領の関税政策を痛烈に批判した。クルーグマン氏に限らず、今回の関税政策を前向きに評価する経済学者はほとんどいない。経済学の観点からポイントを4つ紹介する。
 まず、2国間の貿易不均衡の是非についてだ。トランプ大統領は2国間の貿易不均衡を問題視しているが、国際分業の観点でみれば不均衡があるのが当然で、国別にバランスさせることにまったく意味はない。貿易は多国間で行われるものであり、特定の国だけを切り取って黒字や赤字を論じるのは本質を見誤っている。日本はサウジアラビアから原油を輸入しているため、同国との貿易収支は赤字だが、これを不公平だと思う人はいないだろう。

貿易赤字だけは無意味

 次に貯蓄・投資バランスの観点から見てみよう。一国の経済は(GDP―租税―消費)+(租税―政府支出)―投資=(輸出―輸入)と表すことができる。ここで(GDP―租税―消費)は民間貯蓄、(租税―政府支出)は政府貯蓄なので、これらを合わせて貯蓄とすると、(貯蓄―投資)=(輸出―輸入)と変換できる。この式が意味するところは、投資が貯蓄を上回っている場合、貿易収支は必然的に赤字になるということだ。米国の経済構造について触れず、貿易赤字だけを取り上げて議論することに意味はない。

【関税収入超す余剰消失】
 3つ目に、余剰(市場取引によって得られる便益)の観点から検討する。一般的に関税をかければ、余剰の一部が消失する。これを死荷重という。関税により、仮に生産者の余剰が増えたとしても、死荷重が発生して国全体で見れば余剰は減少する。トランプ大統領は関税収入が1日20億jにのぼると胸を張ったが、それ以上に余剰が減少している可能性から目を背けてはならない。

双方の利益の貿易崩す

 最後に比較優位の観点から眺めてみる。貿易のメリットを説く理論に比較優位という考え方がある。英国の経済学者デビッド・リカードが打ち立てた理論で、各国は得意な財を輸出することで、輸入する側も含めた双方に利益をもたらすというものだ。第2次世界大戦後の世界はこの考えに基づいた自由貿易の枠組みの中で成長してきた。
 以上、経済学の観点から整理したが、どの点から見ても今回の措置は正当化できない。グローバル化が進む現代において、経済の持続的な発展には開かれた市場と健全な競争が不可欠だ。輸入制限で競争がなくなれば、米企業のイノベーションが停滞し、経済の活力が失われる。中国のように相手国が報復関税を課せば、輸出産業にも影響が及ぶ。貿易戦争に勝者はいないことを肝に銘じるべきだ。

日本は米国依存下げよ

 トランプ大統領によると、交渉に向けてすでに75カ国超から接触があったという。日本もこれから本格交渉に入るが、拙速な妥協は避けるべきだ。90日という期限も意識すべきではない。持久戦になれば、米経済も負の影響が無視できなくなるだろう。中間選挙が近づいてくれば尚更だ。日本は欧州やアジア等と連携しながら米国と粘り強く交渉する一方で、これを好機と捉え産業構造の転換に着手し、米国依存度を下げていくことが求められる。  
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月21日

【オンライン講演】戦後80年の報道状況と軍事強化の重なり実感 琉球新報の南 彰記者 OJNで語る=須藤春夫(法政大学名誉教授)

 OJN(沖縄ジャンプナイト)主催のオンライン講演会は、「琉球新報」編集委員の南彰さんを講師に迎え、4月6日に開催された。参加者は30人。講演の要旨は以下の通り。

 琉球新報(以下、新報)に転職して1年5カ月、戦後80年の報道状況と台湾有事の名のもとに進む沖縄南西シフトの軍事強化が重なり合うのを日々実感している。
 国会では軍事強化に歯止めをかける議論がまったくされず、それどころか、政治家からは「闘う覚悟」「一戦を交える」などの好戦的な発言が出てくる状況である。このような発言が跋扈する言論空間に抵抗する言論空間を作っていきたい。
 新報に移ってから「闘わない覚悟」「歩く民主主義100の声」「国策と闘う」「信なき現場」「ハラスメントのない社会」の企画を手がけている。

 私の報道姿勢は、筑紫哲也さんが掲げた@権力に対する監視役、A少数派であることを恐れない、B多様な意見を登場させて社会に自由な気風を保つ、を大事にしている。

 @では、南城市長のセクハラ疑惑、辺野古新基地建設、軍事化などの報道がある。好戦的な言説の広がりに抗う軸として「国策と闘う」を企画した。住民の目線でどう抗っていくのか他紙と連携しながらさまざまな事例で取り上げている。
 辺野古新基地建設では、国策の名のもとに市民の抗議行動を潰す言説が、本土メディアや現場でのバッシングによって勢いを増している。これに対し「信なき現場」の連載(3回)では、現場取材を重ね事実関係を提示して一方的な言説への歯止めを図った。
 Aでは、「新しい戦前にしない」をテーマに「闘わない覚悟」を本土と沖縄の方の対談形式で企画。80年前と同じ過ちを繰り返さないためにどうしたらよいのかに取り組んでいる。直近では具志堅髀シさん(ノーモア沖縄戦共同代表)と古賀誠さん(元自民党幹事長)が登場、沖縄戦の教訓や国会での憲法9条議論、戦争責任への向き合い方などを議論してもらった。
 Bでは、「歩く民主主義100の声」として無作為に選んだ100人に街頭や戸別訪問で話を聞き、世論調査には現れない地域で暮らす住民の複雑な民意を汲み取るねらいがある。辺野古新基地建設、自衛隊基地建設、重要土地利用規制法などのテーマで聞いていくプロセスが、民主主義を考える場になっている。

 新報に移ってきてよかったと思うのは、読者との距離感が非常に近いこと。調査報道の重視に読者からの手応えを感じる。
 最近のフジテレビ問題は、これまで新聞労連がジャーナリズムの信頼回復のために記者会見、セクハラ、賭け麻雀など一連の問題を受けて声明や提言をだしたが、それを顧みないツケが吹き出したのだと思う。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月20日

【関西万博】これほど準備不足 世界レベルで初めて カジノ誘致の行政は危うい 山本理顕氏講演=木下 功(フリーランス記者)

 建築家の山本理顕氏が大阪市内で3月29日、開幕を目前に控えた大阪・関西万博について講演し、行政が万博と同じ会場にIR(カジノを中心とする統合型リゾート施設)を誘致することの危うさ、海外パビリオン建設に対する支援不足、意思決定過程や責任の所在のあいまいさ、過剰な個人情報収集といったさまざまな問題点を指摘し、「これほど準備の整わない博覧会は世界レベルで初めてだと思う」と開幕の1年延期を主張した。日本ジャーナリスト会議関西支部が主催した。

IRでダメージ

 山本氏は「万博とIRはセット」として、万博に先行してIRの誘致が同じ夢洲を会場に進んでいた経緯、IRの収益の大半がカジノによるものであることを解説。行政がIRを誘致する危険性について「ギャンブルであがるお金を当てにすること自体が問題。ギャンブル場として大成功してくれないと税金が入ってこないので、ギャンブル場がうまく稼働するような行政になっていく。他のカジノをみていると周辺の経済は大きな被害を受ける。大阪の健全な経済が大きなダメージを受けていくのは必定」と予測した。
 海外パビリオンの工事の遅れについては、確認申請や工事業者探し、軟弱地盤対策など参加国が対応しているとし、「博覧会協会は参加国に手当てすべきだった。未完成の状態で開催することは、前売り券を購入した人たちに対して信義則違反。参加国でなく協会の責任」と断じた。

責任者不在

 万博の目玉とされる一方で巨額のコストが批判される大屋根リングは、2017年にBIE(国際博覧会協会)に提出した立候補申請文書(ビッド・ドシエ)にはなかった上、180億円だったコストが設計変更によって350億円に増額し、現在は344億円となっている。山本氏は「ビッド・ドシエの会場案は破棄され、リングが登場する。理由は説明されず、誰が許可したか分からない。あらゆるところが責任者不在のまま進んでしまっている」と嘆く。
 個人情報の取り扱い関しても、万博のチケット購入の際のID登録や一部のパビリオンの催しへの参加の際に求められる個人情報の管理態勢に懸念を示した。

 万博の意義については「国際博覧会条約にある『公衆の教育』。みんなで未来を考えるのが博覧会」とし、「海外から来た人たちは大阪市の人たちを信頼して来ている。大阪市の人たちはおもてなしの側。国際的な約束でやめるわけにはいかない」と大阪市民の責任についても言及。  
 昨年1月の能登半島地震からの復興が遅れている現状を憂慮し、「能登との連携」を図るため、1年延期して被災地域の支援に貢献する万博となることも求めた。
 山本氏は埼玉県立大学、公立はこだて未来大学、横須賀美術館、名古屋造形大学などを手掛けており、2001年に日本芸術院賞、24年にプリツカー賞を受賞している世界的建築家。東京大学生産技術研究所の研究員として世界の伝統的な村を調査した経験も持つ。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月19日

【JCJオンライン講演会】「開かずの扉」を開く〜再審法改正に向けて〜鴨志田 祐美さん(弁護士、日弁連合会再審法改正推進室長)5月31日(土)午後2時から4時

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■開催趣旨
冤罪と闘い続けた袴田巌さんの無罪が確定したのは去年、事件発生から実に58年が経っていた。再審の開始は、その難しさから「開かずの扉」といわれている。
 その制度を見直そうと超党派の議員連盟が今の国会で議員立法での改正を目指している。日弁連で先頭にたって取り組んでいる鴨志田弁護士に「再審法」の問題点と、改正へ向けた動きについてお話をうかがいます。

■講演者プロフィール:鴨志田 祐美(かもしだ・ゆみ) 
弁護士。2004年鹿児島県弁護士会に登録。2021年4月より京都弁護士会に移籍し、Kollect京都法律事務所に所属。
大崎事件再審弁護団、日本弁護士連合会再審法改正推進室長(会長特別補佐)として、再審弁護と再審法改正運動に心血を注ぐ。
著書に、『大崎事件と私:アヤ子と祐美の40年』(LABO、2021年)『見直そう!再審のルール〜この国が冤罪と向き合うために』(共編著。現代人文社、2023年)、『再審弁護人のベレー帽日記』(創出版、2025年)など。

■参加費:500円
JCJ会員は参加費無料。office(アットマーク)jcj.gr.jp に支部・部会名を明記の上お申し込み下さい

■オンライン講演開催日時:5月31日( 土)14:00〜16:00

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272-9781(月水金の13時から17時まで)
      https://jcj.gr.jp/

■zoomでオンライン、見逃し視聴用配信有り

■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0531.peatix.com)で参加費をお支払いください。

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272-9781(月水金の13時から17時まで)
      https://jcj.gr.jp/
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2025年05月18日

【お知らせ】沖縄戦80年―戦争体験をどう引き継ぐか!? ひめゆり平和祈念資料館のこれまでとこれから 5月24日(土)午後2時から 文京シビックセンター4階 シルバーホール=沖縄戦首都圏の会

戦後80年、戦争体験者が次々と亡くなり、体験者から直接戦争体験を聞くことが難しくなっています。体験者なき後、戦争体験をどう引き継いでいくかが社会的な課題です。元ひめゆり学徒の戦争体験を伝え続けるひめゆり資料館の取り組みを紹介いただきます。
沖縄戦の実相を共有し、次世代へ平和をつなげていくためにはどうすればいいのかを考える機会になると思います。
ふるってご参加ください。
◆講師:ひめゆり平和祈念資料館館長 普天間 朝佳さん
・普天間 朝佳(ふてんま・ちょうけい)さん プロフィール
1959年沖縄県生まれ。ひめゆり同窓会が設立し、元ひめゆり学徒が中心になって運営してきた資料館に1989年開館から勤務。長年元学徒たちとともに働き、次世代継承に取り組む。2018年、初の戦後世代の館長に就任。非体験者の視点で展示会やプロジェクトを企画・実施している。

◆予約は不要です。直接会場へお越しください)
◆会場アクセス
 都営地下鉄三田線・大江戸線 春日駅 下車徒歩4分
 東京メトロ丸の内線・南北線 後楽園駅 下車徒歩3分
◆資料代 500円
※後日YouTubeで配信予定
 「20250524 UPLAN ひめゆり平和祈念資料館のこれまでとこれから」
主催:沖縄戦首都圏の会(沖縄戦の史実歪曲を許さず 沖縄の真実を広める首都圏の会)
共催:沖縄平和ネットワーク首都圏の会

 連絡先:〒101-0061 東京都千代田区神田三崎町2-19-8 杉山ビル2F
     千代田区労協気付 TEL=03-3264-2905 FAX=03-6272-5263 
     問合せ(携帯)080-5874-0724(事務局)
     郵便振替 口座番号 00150-0-706527 加入者名 沖縄戦首都圏の会
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2025年05月17日

【Bookガイド】5月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

◆黒田基樹『羽柴秀吉とその一族─秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書 5/7刊 1840円
「羽柴秀吉とその一族」.jpg 羽柴(豊臣)秀吉といえば歴史上の著名な人物。しかし父母や兄弟、親類の実態は、いまだ謎に包まれたまま。秀吉の父親はどのような職に就いていたのか。弟・秀長の妻子はどのような人物なのか。「秀吉政権」を把握するうえで不可欠な一族・親族の情報を徹底検証。通説が大きく書き改められるいま、秀吉の親族研究の到達点を示す。
 著者は駿河台大学教授。著書に『戦国大名 政策・統治・戦争』(平凡社新書)、『百姓から見た戦国大名』(ちくま新書)など。
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◆後藤秀典『ルポ 司法崩壊』地平社 5/12刊 1800円
 国策に従順な「法の番人」最高裁の<罪と罰>を検証する。国も東京電力も原発事故の責任は問わず。政府に忖度する最高裁を始め、司法全体の劣化が進む。司法の独立が内側から崩れていく現状を報告。
 著者は1964年生まれ、ジャーナリスト。著書に『東京電力の変節――最高裁・司法エリートとの癒着と原発被災者攻撃』(旬報社刊、貧困ジャーナリズム大賞、JCJ賞受賞)。
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◆福間莞爾『貶められた司令塔 ─危機に立つ巨大組織農協(JA) 求められる新基軸』社会評論社 5/13刊 2300円
 日本の農業は米の高騰・備蓄米の放出など、極めて脆弱な生産体制が露呈している。農協が組織発展に都合のよい信用・共済事業の拡大に重きを置き、生産を軽視してきたツケが回ってきた結果だ。今こそ農協本来の農業振興に全力を挙げるべきである。とくに生産段階にまで踏み込んだ農業経営への取り組みが迫られている。
 著者は農業・農協問題評論家。全国農協中央会常務理事や「新世紀JA研究会」常任幹事を歴任。
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◆渡邉大輔『ジブリの戦後−国民的スタジオの軌跡と想像力』中央公論新社 5/22刊 2100円
 ジブリスタジオが6月に40周年を迎える。宮崎駿・高畑勲両監督、鈴木敏夫や宮崎吾朗などのキーパーソンの活動を追いながら、1980年代に誕生した「ジブリ」運動体のリアルな姿を生き生きと描く。ジブリは「戦後日本」における「大きな物語の完成と解体」を体現してきた。
 著者は1982年生まれ。跡見学園女子大学准教授。専門は日本映画史・映像文化論・メディア論。著書に『新映画論』(ゲンロン)、『謎解きはどこにある』(南雲堂)がある。
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◆安田菜津紀『遺骨と祈り』産業編集センター 5/22刊 1600円
 パレスチナ訪問の2018年2月以来、この6年間に福島、沖縄をはじめ、不条理を強いられながら生きる人々の姿を追ってきた。生の人間と接し自らの行動と思考の変遷を記録しつつ、遺骨収集に取り組む2人の男性の言動を通して、歪んだ現代日本の社会構造を浮き彫りにする。「未来の人の明日をつくる」ためには何が必要なのかを提示。現地に赴き、自らの実体験から言葉を紡ぎ出した気鋭のジャーナリストの問題提起の書。
 著者は上智大学卒、フォトジャーナリスト。著書に『国籍と遺書』(ヘウレーカ)。現在、TBSテレビ「サンデーモーニング」にコメンテーターとして出演。
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◆伊古田俊夫『認知症とはどのような病気か─脳の構造としくみから全体像を理解する』講談社ブルーバックス 5/22刊 1100円
 なぜ「脳の機能低下」は起こるのか。それがどう病気につながるのか。記憶力が衰え、自分が誰かがわからなくなる「アルツハイマー型」。存在しない人や動物が、ありありと見える「レビー小体型」。歩行障害や言語障害が突然生じる「血管性」や、「記憶障害が目立たない」認知症も存在する。経験豊富な認知症サポート医が多様で複雑な病状を詳しく解説し、正確に理解するための必読書。
 著者は1949年生まれ、認知症サポート医。現在、札幌市認知症医療推進協議会会長。著書に『脳からみた認知症』(講談社ブルーバックス)がある。
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◆芝崎祐典『ベルリン・フィル─栄光と苦闘の150年史』中公新書 5/22刊 1050円
 巨匠フルトヴェングラーや帝王カラヤンが歴代指揮者に名を連ね、世界最高峰のオーケストラと称されるベルリン・フィルハーモニー。1882年に創設され、ナチ政権下で地位を確立。敗戦後はソ連・アメリカに「利用」されつつも、幅広い柔軟な音楽性を築き、数々の名演を生んできた。なぜ世界中の人々を魅了し、権力中枢をも惹きつけたのか。150年の「裏面」ドイツ史に耳をすまし、社会にとって音楽とは何かを問う。
 著者は1970年生まれ、東京大学文学部卒業。筑波大学准教授などを歴任。単著に『権力と音楽』(吉田書店)、共著に『政治と音楽』(晃洋書房)など。
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◆茶畑保夫『独立警察監視機関』新日本出版社 5/29刊 2300円
 市民を守るはずの警察が、なんと市民の人権を侵害し違法捜査を続ける。責任はとらず、被害者が深刻なダメージを負っても知らんぷり。本書は、警察による人権侵害の実例や冤罪を生みだす構造、海外の監視機関の実例をまじえ、独立警察監視機関を設ける必要性を訴えた貴重な一冊。
 著者は元京都府参与。「福崎事件」を契機に、「独立警察監視機関」の研究に携わる。日本科学者会議会員。著書に『独立警察監視機関と公職選挙法』(2020年)。
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2025年05月16日

【オピニオン】自衛隊に「統合作戦司令部」=丸山 重威

 「トランプ関税」に世論の注目が集まっている陰で、日本の3自衛隊を束ねる「統合作戦司令官」発足を受け、日米同盟の下での日米軍事一体化がまた一段進んだ。在日米軍の構想は横田に統合軍司令部を置き、六本木に戦闘司令部の拠点を置く。日本を米国の世界覇権戦略に組み込んだ危険な戦争路線がいよいよ現実化しつつある。そこで懸念されるのは、過去の「統帥権の独立」を思い起こさせる「軍令」の独走だ。沖縄では台湾有事の際、先島諸島から住民らを九州などに避難させる計画まで浮上した。公然たる「戦争準備」が罷り通っている。

「共に戦う」と米長官

 自衛隊統合作戦司令部の新設が決定したのは昨年5月、防衛省設置法の改正だった。
 3月24日の「統合作戦司令部」発足式典で中谷元・防衛相は「日本を取り巻く安全保障環境も複雑となり、日本に期待される役割も重くなっている。統合作戦司令部の新設は、日本の安全保障上、極めて大きな意義を持つ」と強調した。統合作戦司令部が果たす役割について、中谷防衛相は@各部隊を一元的に指揮し、あらゆる事態に24時間365日即応する、A同盟国、同志国の司令部との運用面での連携と情報共有などがあげられるとしている。
 米軍側も日本と連動し、ヘグセス米国防長官が3月29日来日して、中谷防衛相と会談した。31日には在日米軍を「統合軍」に格上げし、港区六本木の赤坂プレスセンターに拠点を置くことが公表された。司令部は横田基地に置かれるとみられ、日米軍事一体化の一層の緊密化がさらに押し進められた。
 ヘグセス長官は「在日米軍を戦闘司令部として再編、新司令官に新しい任務と権限を与える」と明言。「自衛隊と米軍が戦闘能力、殺傷力、即応性を向上させながら、緊密に協力していくのが楽しみ。日本は西太平洋でいかなる不測の事態に直面しても、最前線に立ち、互いに支え合いながら共に戦う」とも表明した。こうした日米双方の指揮体制の強化について、柳澤協二元内閣官房副長官補は「圧倒的な情報量を持つ米軍に攻撃対象を割り振られ、政治が熟慮する暇なく武力衝突に巻き込まれる恐れは強まる」(3月24日付東京新聞)と指摘している。
 
「作戦統制権」と「軍令」

 一方、2月5日の衆院予算委省庁別審査で「現職自衛官(制服組)の国会出席桃源を」と求めた橋本幹彦委員(国民民主)発言は波紋を広げた。安住淳委員長は「文民統制」の観点からこれを認めなかったが、同様の主張は三井康有元防衛庁官房長によって「時代に即した文民統制だ」(3月28日付朝日新聞「私の視点」=『自衛官も国会答弁すべきだ』)として展開された。
 三井氏は戦前の「軍令」と「軍政」を引き合いに、「旧軍時代はともに天皇直属で内閣も議会も関与が許されなかったがいまは違う」と強調したが、「作戦統制権」(軍令)が「指揮権」(軍政)=を越えて一人歩きして満州事変を引き起こし、その後の戦争も拡大していったことは歴史の事実だ。作戦統制権者が国会で、独自の判断や主張を報告するようになれば、どうなるのか…。問題は決して、小さくない。これも気になる動きだ。

「台湾」想定、避難計画

 政府は3月27日、有事の際、沖縄の先島諸島から、住民11万人と観光客1万人の計12万人を避難させ、九州7県と山口の計8県32市町が受け入れ先とする計画をホームページで公表した。
 「避難」自体は22年12月の「防衛3文書」の「国家安全保障戦略」で政府がすでに「住民の迅速な避難」を明記しており、その具体化だ。軽計画は「台湾有事」を想定し、船舶や航空機を利用して1日約2万人を輸送、6日間で完了させるという。住民らは民間フェリーや航空機で福岡や鹿児島に移動、それぞれの避難先に向かうこととし、福岡市が2万7千人、北九州市に1万2300人、熊本県は5市町で1万2800人を避難させるとし、期間の中長期かを見据えた就学、就労支援計画も作るという。
 避難させられる先島の住民たちも、受け入れる各県自治体も戸惑う状況だが、九州までは500`から1000`。かつての戦争で、学童避難船「対馬丸」が撃沈され、1万5000人もの子供らが犠牲になった記憶もある。
 住民を避難させて戦争を遂行する….そんな計画を作ることこそ問題ではないだろうか。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
















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2025年05月15日

【フォトアングル番外編】「日本軍の毒ガス展」を見た=5月5日、かながわ県民センター 、伊東良平撮影

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 今年は戦後80年で化学兵器禁止条約批准から30年にあたる。それを記念して5月2日から6日まで横浜市のかながわ県民センターで「日本軍の毒ガス展」が開催された。
 戦時中に日本陸軍は広島県大久野島で海軍は神奈川県寒川で毒ガス製造を行った。今回の展示では毒ガス製造に至る道筋や中国各地の作戦で行った毒ガス戦の具体的な事例をパネル展示して紹介した。会場には旧日本軍のガスマスクも展示されていた=写真=。
 また日本軍は敗戦時に毒ガスを中国国内に遺棄したために、戦後に工事現場などで掘り出された毒ガス弾に触れて被害にあった人も多数いて、現在も苦しんでいる。そうした被害者の方の写真パネルも展示された。日本政府は公式な謝罪と補償は行っていない。
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2025年05月14日

【ハラスメント事件】NHK職場パワハラに勝利和解 防止規定協議 会社が誓約 労組の力感じた=原告・原田 勤さん(元埼玉新聞記者)

 法的責任は問えなかったが和解で望みはかなった一。NHK職場でのパワハラは東京地裁の裁判長のすすめで「勝利的和解」となった。
 職場での暴力行為、さらにタクシー券の記入ミスの説明を始めると「認知(症)だ、認知だ」と叫んだ。NHK子会社グローバルメディアサービスの報道部門の元部長(元NHK記者)と会社を非正規労働者の私が訴えた。

 1年半後のことし3月25日に会社は「原告加入の労組の防止規程の協議申し入れに誠実に対応を誓約」、また認知発言だけは認めた被告元部長とは「解決金3万円を支払う」ことで和解が成立した。
 昨年12月、9回に及んだ口頭弁論ののち進行協議で鈴木昭洋裁判長から「2つが事実だとしても法的責任を問うのは難しい」と和解をすすめられた。損害賠償請求は「棄却」すなわち敗訴ということのようだ。暴力行為は「記憶にない」としたため状況証拠集めに苦労していた。
 
「あなたの望みは何ですか」と聞かれたので、調査内容を一切明らかにせず私の再調査の訴えも門前払いにした会社の「ハラスメント防止規程を変えたい」と答えると「あなたの理想とするモデル案を和解提示すれば話は早い」と言われた。
 現行規程の問題点や国家公務員のパワハラ防止の人事院規則の運用などを参考に6項目の協議事項を出した。  

 和解案がほぼ整った2月末、裁判長は「提訴された意味はおおいにあったと思います」と話された。刑事事件の人情裁判官が判決に添えて言う「諭し」が浮かんだ。代理人の青龍美和子弁護士(東京法律)もこんなコメントは「珍しい」と言った。また確定後の記者会見で青龍先生は「判決では得られない和解内容となった」と評した。

  思い返せば「勝利的和解」の予兆は第6回で裁判官が1人から3人の合議体となったことだった。毎回満杯にしてくれた支援者が、法廷が倍の広さになっても埋めてくれた。注目度から裁判所も「単なる損害賠償訴訟とは捉えていないのではないか」と推測した。

 和解調印の日。”勝利“したものの「誰でも裁判が起こせる訳ではないですよね」と話すと「原田さん、組合があったからでしょ」と青龍先生に諭された。
 職場に組合はない。迷った挙げ句、NHKの職員、OBらの「放送を語る会」に一人でも加盟できる民放労連放送スタッフニュにオンを紹介されたことが始まりだった。

NHK本体のハラスメント防止規程も私の所属する子会社の規程も同一同文である。本番の闘いはこれから始まる。76歳。来年1月の喜寿が私の退職日である。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月13日

【放送100年】考える会がシンポ開催 NHK文書開示請求 勝利和解 これからの放送は=河野 慎二

 日本でラジオ放送が始まって100年目を迎え、放送記念日の式典が行われた3月22日、「NHKメディアの今を考える会」は立教大学砂川ゼミの協力を得て「これからの放送をどうするのか〜NHK文書開示請求訴訟の成果と課題〜」と題する集会を開催した。

 この「NHK文書開示請求訴訟」とは、2018年10月に起きた森下経営委員長(当時)による放送法違反の番組干渉と議事録隠し事件のことで、昨年12月原告完全勝利和解で終結。NHKはホームページに、当時不公表としていた議事録を掲載、公表した。
自主と自立
損なわれた
 シンポでは、NHK元プロデューサーの長井暁氏が議事録不公表に至った経営委員会の審議経過を詳しく振り返り「本来は番組の自由を守るべき経営委員会が外部勢力と結託し、NHKの放送の自主自立と番組編集の自由が損なわれた」と厳しく批判した。

 続いてNHK「クローズアップ現代」の編集長を最長の10年担当した永田浩三氏(元武蔵大教授)が登壇し「番組の企画会議では政治部を通して、政治介入する動きもあったが、それを容認することは恥かしいことなんだとするカルチャーがあった」と指摘。「オープン・ジャーナリズムは当たり前のこと。世の中で起きている問題を市民と共に考える。今回の『クロ現+』事件の意味も市民と一緒に考える必要がある」と強調し、「本日は放送開始百年ですが、こうした報告、議論の場を設けてくれたことに感謝する」と述べた。
電波行政
国民視点で
 シンポでは、今後のテレビのあり方にも議論が発展。「テレビ輝け!市民ネットワーク」の杉浦ひとみ弁護士が「テレビは見易いし、よく見るが、どのチャンネルも同じような番組をやっている。どうしてこんなことにことになったのか。宝の持ち腐れになってはいけない」と注文をつけた。

 砂川浩慶教授は「G7各国の電波行政については、直接行政が司っているのは日本だけで、各国は韓国、台湾を含め、全ての国で行政府から独立した委員会が運営している。国民にとって、透明性、公明性の観点から必要とするとの考え(に基づく)ものだ」と説明した。
 NHKで番組編集の自由が損なわれたETV2001番組改変事件に関する長井、永田両氏の報告は、事件の再発を防ぎ、憲法21条が定める言論・表現の自由を放送の現場で保障するために「放送・通信独立委員会」の一日も早い実現が喫緊の課題であることを示す。
次回テーマ
フジテレビ
 同会では次回集会について 「フジテレビ問題から、テレビ放送の未来を考える」(仮題)として、5月25日開催を目指し、準備に入っている。
 報告者は田淵俊彦(桜美林大学芸術文化群教授)。「問題はなぜ起きた」「不祥事対応の誤り」などの提起を受け、大島新、村井明日香、砂川の3氏とパネルディスカッションで問題の深層に迫っていく。

         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月12日

【支部リポート】北海道 ドキュメンタリー勉強会 道内放送局合同で 製作者の危機感から実現 =小野垣 親士

 北海道の放送局の報道制作現場に新しい風が吹き始めた。
 去年秋から北海道の民放5局とN HK合同で、ドキュメンタリーの存在意義を見直し制作力を磨く勉強会が開かれている。名付けて「北海道ドキュメンタリーワークショップ」。放送文化基金の助成250万円を得て動き出したプロジェクトだが、運営は各局の有志で構成される実行委員会が自主的に行なっている。各局が回り持ちで当番となり、9月から今年3月までの間にすでに計4回開催された。週末に各局の面々が当番局に集まり、丸一日、注目の作品を視聴したりゲストの話を聞いたりしながら、制作の勘所を議論する。

 参加資格は道内の放送局で働くすべての人たち。社員だけでなくプロダクション所属の人やフリーランスも含む。参加者は、1回70人から90人。記者やディレクターのみならず、編集マンやカメラマン、アナウンサー、非現場系の人たちもいる。関心の高さは実行委員たちの予想以上だという。
 ドキュメンタリーをめぐる状況はいまちょっと複雑だ。映画の世界ではここ数年ドキュメンタリー作品への関心が高まってる。  

 札幌の映画館でも国内外のドキュメンタリー作品を上映する機会が増え、地元放送局制作の作品も話題を呼んだ。その一方で放送局のドキュメンタリー制作の環境は厳しい。視聴率や収益に結びつきにくいため隅に追いやられがち。取材を継続して「長もの」にまとめあげるには相当
に強い意思と孤独に耐える力が必要だ。このままでは放送局のドキュメンタリー文化が先細りになる…そうした危機感を共有する各局のキーパーソンが結集して放送文化基金の助成制度に応募し、採択されたのがこのプロジェクトだ。

 過去4回の「ワークショップ」では、斉加尚代さん、森達也さん、山崎エマさんらがゲストとして招かれた。しかし、単なる有名人の講演ではない。そのつど趣向が違うのだが、当番局のドキュメンタリー制作の裏側を披露したり、若手ディレクターが取材・制作したものを上映して合評するといったことも行われ、厳しい作品批評や制作の苦労話が飛び交う。

 連帯と切磋琢磨。この新しい体験がどんな果実を産むのか。ワークショップはあと2回開かれ、秋にはJ C J北海道支部の主催で市民向けの報告会を開くことも予定している。  
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号

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2025年05月11日

【沖縄リポート】戦争準備の完成形、全国規模で=新垣邦 雄(ノーモア沖縄戦 命 どぅ宝の会 事務局長)

4面 沖縄4月7日防衛局前具志堅隆松.jpg

 政府の「戦争準備」が 凄まじい。最近も「長射 程ミサイル九州先行配 備」に続き「宮古・八重 山全住民の九州・山口避 難」計画が発表された。 沖縄−奄美を最前線の戦 域に見立て、全国各地で ミサイル配備、弾薬庫建 設、「空港・港湾・道路」 軍事化、民間空港・港湾 への分散展開計画、兵 器・兵員輸送体制が完成 形となった。戦争準備の インフラ整備から有事下 「住民疎開」の最終段階 に入ったと認識している。

 ノーモア沖縄戦の会は 「長射程ミサイル九州配 備」「九州・山口疎開」に 反対する記者会見に続き、 4月7日は伊藤晋哉沖縄 防衛局長に「あらゆる戦 争準備に反対する申し入 れ」を行なった=写真= 具志堅隆松共同代表。台 湾有事「日米共同作戦計 画」の即時廃棄−など要 求・質問に、防衛局長は ほぼノーコメント。その 中で同局長からミサイル の運用(発射)は「住宅 街から離れた場所」「ミサ イル発射機は移動式」の 重要な回答を引き出した。

 陸自ミサイルは配備基 地から公道を通り民間地 に展開、移動を繰り返し、 島々の各所がミサイル発 射拠点となる−ことを防 衛局長が認めた。「小さな 島中でミサイルを発射し、 島中が攻撃目標となる」 「米軍主要基地のある沖 縄島は屋内避難では済ま ない」「日米が核抑止強化 を確認し、沖縄への核再 配備、核戦争の懸念があ る」と防衛局長を追及し た。

 また石垣島の運動団体 が政府から引き出した 「内閣官房は、武力攻撃 予測事態の認定で、住民 避難と同時に自衛隊・米 軍の大規模部隊派遣が始 まり、同じ空港・港湾を 使う。『住民避難が優先と は限らない』と回答」を 防衛局長に突きつけた。 「住民避難と自衛隊・米 軍派遣」が「同じ空港・ 港湾」で同時に行なわれ れば「攻撃目標」の危険 性は明らかで、「住民避 難」計画の即時廃棄を重 ねて要求した。

 日米の中国との戦争準 備は全国規模だ。犠牲は 沖縄だけではすまない。 当会は「沖縄・西日本ネ ットワーク」を結成、6 月6日に防衛省交渉を計 画する。東京行動への参 加・支援を呼びかける。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
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2025年05月10日

【焦点】対米従属見直す好機 瓦解パクスアメリカーナ トランプ関税で豊田祐基子氏講演=橋詰雅博

            
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 米国の同盟国や友好国に関係なく高関税を発動し各国をパニックに陥らせるトランプ米大統領。米国第一主義による自由貿易を放棄し、貿易戦争を拡大させている。ロイター通信日本支局長の豊田祐基子氏は3月8日のJCJオンライン講演でトランプの思考、願望、米国の行く末や日本の課題などを語った。

高関税狙いは3つ

 豊田氏は根拠不明の税率で不当なトランプ関税の狙いを3つ挙げた。@米国に赤字をもたらす国に投資及びモノを買わせて貿易収支を改善、Aトランプ1・0のときビジネス界が非常に喜んだ所得税恒久減税の財源にする、B米国に有利でない取り決めを関税で圧力をかけて是正させるすなわちディール(取引)の道具に使う―。
 高関税はトランプの考えが色濃く出ている。「オレが勝つか、オマエが勝つか、オレは負けない、勝つことだけを重視しています。関税政策で世界は混乱しているが、相手が悲鳴をあげれば勝ちというゼロサム(物事の白黒をはっきりさせる)思考が根底にある」「米国は例外が通用する特別な国と思っている」。豊田氏はこう指摘した。
 「目標は経済をよくすること。自分の支持層の労働者が安くモノを買えるようにする」(豊田氏)のが最優先事項とトランプ大統領は連邦議会で演説した。
だがゼロサム思考などに基づく強気な関税政策実行は裏目に出た。物価上昇、株価の乱高下、景気後退、ドル安、報復関税やGDP(国内総生産)の大幅押し下げ。
 そんなことはおり込み済み、根を上げた相手が譲歩案を提示してきたら軌道修正すれば事態は好転し、やがて国民はハッピーになれる。トランプはそんな風に考えているのかもしれない。

ノーベル賞を願望

 ウクライナ戦争は停戦・和平向けて進んでいるように見えるが、トランプは実現できるのか。豊田氏はいう。
 「和平にはそんなに関心がないが、オレが出張ってきたのだから言うことをきけという姿勢です。ロシアとウクライナのトップをテーブルにつかせ協議させたい。ただし、そのあと和平に導くことができるのか、それを誰が保つかはあまり関心がない。和平への道を開いたという功績によりノーベル平和賞をもらいたいと本気で思っています。民主党のオバマ元大統領が受け取った同じものを欲しがっている」
 トランプ2・0では、連邦職員の大量解雇、不法移民の大量送還と拘束、DEI(多様性、公平性、包摂性)制度の撤廃、石油・ガス生産の拡大規制撤廃など内政はガラリと変わった。外交も高関税発動を始めパリ協定とWTO(世界貿易機構)から離脱、対外援助の凍結などを実施した。
 豊田氏は米国の行方をこう予測した。
・広がるゼロサム・ゲームの世界
・同盟国や友好国に圧力、ロシアなど専制主義国家に親近感
・保護貿易主義と不確実性の高まりで経済減速
・軍事産業を潤す軍拡の加速
 この結果「自ら主導してきたパクスアメリカーナ(米国の覇権による平和の形成)は破壊に向かう」(豊田氏)という。それを見越してかEU(欧州連合)は米国に頼らないNATO(北大西洋条約機構)再編に積極的に取り組み、敵国ロシアと対峙しようとしている。
 豊田氏は日本の課題を挙げた。
 ・見返りを期待し機嫌をとる朝貢外交はどこまで有効か
 ・台湾統一に踏み込んでも中国とは戦争しないトランプ政権にどう向き合う
 ・北朝鮮を「核保有国」と認定した場合の対応は
 ・米国の「核の傘」が破れ依存できなくなったら
日本は対米従属体制を見直す転換点に立っている。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年4月25日号
 
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2025年05月08日

【映画の鏡】障害ある娘と家族の歩み追う『大好き〜奈緒ちゃんとお母さんの50年〜』広がる自主上映、シリーズ第5弾=鈴木 賀津彦

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                   いせフィルム

 重度のてんかんで知的障害があり、幼児期には医師から「長くは生きられない」と言われた西村奈緒さんが、一昨年50歳を元気に迎えるまでの家族の日常を撮り続けてきた伊勢真一監督。「奈緒ちゃんシリーズ」第5弾として昨春の完成以来約1年、劇場公開のほか、福祉団体などによる自主上映活動も地道な広がりをみせており、注目したい。

 「いのちのことに思いを巡らせる50年の記憶です」。伊勢監督は奈緒さんの母、信子さん(82)の弟で、初めは「元気なめいっ子を撮っておこう」という気持ちからだった。「でも奈緒ちゃんはどんどん元気になって、なんでこんなに魅力的なんだろうと思った」ことから、節目で作品にまとめてきた。

 「彼女が家族に育まれ、家族が彼女に育まれた」少女時代の12年間を記録した『奈緒ちゃん』(1995年公開)から、信子さんが地域の仲間と障害者の共働作業所を立ち上げた取り組みを柱に2作目の『ぴぐれっと』(2002年)、奈緒さんが家を離れてグループホームで自活を始めた時の『ありがとう』(06年)へと続く。相模原市内の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で多数の入所者が殺害された事件の翌年の17年には、伊勢監督の事件に対峙するメッセージとして『やさしくなあに』を公開。「けんかしちゃだめ、やさしくなあにって言わなくちゃ」と口にする奈緒さんの言葉が周りを明るく和ませる。

 今回は80代の信子さんの「終活」がきっかけ。数年前に心臓の手術を受け、最近は奈緒さんに手を引かれて坂道を上るようになった信子さんは「奈緒が力をくれたと、このごろ本当に思う」と話す。  
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