2021年08月29日

【今週の風考計】8.29─「ざわざわ森」のセミと米国の「ブルードX」

東京都心は35℃、厳しい猛暑が続く。さらにコロナ感染者は142万人、入院・療養中は23万7千人、自宅療養11万8千人、死者1万6千人、感染拡大はとどまるところを知らない。菅首相の言う「明かり」など、どこに見えるのか。
 「ガースー」の顔が一面に踊る新聞を見るたびに憂鬱になるが、今日も朝、新聞を取りに玄関ドアを開ける。
なんと目の前で、セミが腹を上に向け、脚を動かし必死にもがいている。見ればアブラゼミ。すぐにひっくり返してやる。勢いよく飛んでいった。そういえば「今年はセミが鳴かないなー」、ふと気づく。
 これも気候温暖化、異常気象の影響か。昔は、セミが庭の樹木や道路の電信柱に止まって、よく鳴いていたものだ。捕虫網を伸ばして取ろうとすると、セミにおしっこをひっかけられ、取り損ねたのを思い出す。

本当にセミはいなくなったのか。気になって住まいから近い「ざわざわ森」へ行ってみた。2年前の森には、ドングリの実がなる広葉樹の他に、幼いタラノキが数本、2カ所に育っていたが、タラの芽を全部摘み取ってしまった不届き者のため、幼木全体が枯れてしまった。寂しい限り。
でも、ほっと安心、ここではセミが一斉に鳴いている。もちろん全てオス。メスへの求愛のためだ。
 クヌギやコナラの森を占領するように、「ジージー」と鳴くアブラゼミ。それに割り込むように「ミーン・ミーン…ミー」のミンミンゼミ、そして時々、「オーシンツク・オーシンツク…モーイイヨー」のツクツクボウシ、まさに競演を繰り広げている。
 セミは幼虫として地中で3年から17年、地上に出て1カ月、オスはあらん限りに鳴いて短い生涯を終える。

米国では、今年は17年ゼミ「ブルードX」が、地下から数十億匹も出てくる年になっている。17年に一度のサイクルで、地面の温度が約18度になる5月下旬ごろから発生する。米国南部から北上し、大西洋岸に沿ってペンシルバニア州やニュージャージー州まで広がっていく。
米国の昆虫学者が、その様子を観察ノートに記している。
 「太陽が昇り、幼虫は穴から這い出してきて、木や茂み、ベランダの家具など、手近な背の高い物体を探してよじ登る。そして体が強く硬くなるまで数時間、セミは茶色い殻を脱ぎ捨て成虫へと姿を変える。
 大きなカエデの幹が、遠目にはニキビにでも覆われているように見える。近づくと、そのデコボコはセミの群れ。上の枝の安全な場所に向かって懸命に登っている。
 成虫になったセミの体は黒ずみ、目は真っ赤になり、銅色の力強い羽根が生える。そして一刻も早く交尾したいと、力いっぱい鳴きだす。その期間は約1カ月半。」
 米国も日本も、セミの寿命に変わりはない。(2021/8/29)
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2021年08月28日

【おすすめ本】角南圭祐『ヘイトスピーチと対抗報道』―差別を断罪しないメディアの弱さ 自省を込め現場から問う=石橋 学(神奈川新聞)

 報道に携わる者にとって必読の書である。ジャーナリズムはなぜ差別と闘わなければならないのか、そのために何をなすべきであるかが、ここに記されている。
 著者は共同通信の記者で、へイトの現場で顔を合わせてきた私にとっては、共に闘ってきた同志である。
 差別を見過ごし、偏見や差別を口にしてきた過去がある。「だからこそ 『上から目線』ではなく記者として何をして、何ができなかったかを自省しながら、現状と課題をまとめたい」という率直な筆は、私が知る真っすぐ疑問に挑戦していく角南記者の姿そのもの。だからこそ説得力がある。
 マジョリティーが差別の問題に取り組むには、ある種の「恐れ」がつき まとう。自らの特権性に無自覚であるがゆえ、言葉の使い方一つにも思いの至らなさ、傲慢さが投影してしまう。
 マイノリティーの被害の深さやヘイトデモの現場で抗議の声を上げる市民に触れ、中立を装うメディアの欺瞞に気付き、変化していった筆者の足取りは、私が経験した変化でもあり、メディアは変わり得るという希望を表している。
 差別を断罪しないメディアの弱さは、侵略の過去とその根源にある差別の歴史を顧みない日本社会にあって顕著だ。「差 別を禁止する法律をつくり、ヘイト包囲網を完成させたい。その日のために今ある差別に反対する声を共に上げていこう」との結びは、日韓の戦後補償問題を追い続けてきた著者ゆえに辿り着いた地平であるに違いない。
 戦争のお先棒を担いだ反省に立つジャーナリズムは傍観者たり得ず、差別をなくす主体として、その先陣を切らねばならないと、覚悟の筆が教えてくれる。(集英社新書880円)
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2021年08月27日

【フォトアングル】元朝日記者の植村隆さんは「戦い続ける」と語る=酒井憲太郎

                          
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「金学順さんカミングアウトから三十年」記念イベントが植村東京訴訟支援チーム主催によりコロナ対策のため、無観客、ズーム配信で開かれた。植村裁判の最終報告会を兼ねている。第1部で映画「標的」の短縮版が上映され、第2部で6人がスピーチをした。その中で元朝日新聞記者植村隆氏(写真)は「この問題は私の人生をかけて取り組むべきことだ」「これからも戦い続けなければならない」と語った。=7日、東京・日本プレスセンタービル10階、酒井憲太郎撮影
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年8月25日号
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2021年08月26日

【緑陰図書―私のおすすめ】ミャンマー少数民族の生活を探る=岸田浩和(記録映画監督)

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 民主化の象徴=アウン・サン・スー・チー氏が表舞台に登場したのは1988年。32年かけ少しずつ進んできた民主化の道が、今年2月に勃発した軍事クーデターにより、一夜にして瓦解。
 その後、ミャンマー全土で民主化を望む市民が大規模な抗議活動を展開したが、クーデター政権の容赦ない弾圧により、表面的には沈静化した。
 現在、民主派は国家統一政府(NUG)を樹立し、国民防衛部隊(PDF)を発足させた。山岳地帯に拠点を持つ、カレン族やカチン族の民兵組織が受け皿となり、参加を希望する市民に軍事訓練を行っている。
 ミャンマーには、135の少数民族が山間部を中心に暮らしている。総数は人口の3割。彼らは長年にわたり迫害を受け政府と対立してきた。だがクーデター後から、民主派の市民が少数民族の武装組織と連携し、今の軍事政権と対立する構図が浮かび上がってきた。
 ミャンマーの複雑な国情と将来を考える上で、少数民族と武装組織の関係、および彼らの資金源となる麻薬生産の長い歴史は、重要なテーマとなっている。
  高野秀行『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)は、ゴールデントライアングルと呼ばれる、メコン川流域のアヘン生産地帯に潜入し、ワ族と呼ばれる少数民族の村で、ケシ栽培の種まきから収穫までを体験した貴重なルポだ。
 辺境に追いやられた少数民族が、生活のために麻薬生産に従事し、その資金で武装組織を作って政府と対立してきた構図がよくわかる。
 人情味溢れる村人の暮らしや、不注意で著者自身がアヘン中毒に陥る様子など、潜入ルポならではの驚きや展開で、一気に読み進んでしまう。精製されたアヘンが流通する過程で、中国マフィアが暗躍し、さらにミャンマー軍事政権の組織的な関与が浮かび上がる展開は圧巻だ。
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2021年08月24日

【緑陰図書ー私のおすすめ】<東京五輪>と「言論の自由」=後藤逸郎(フリー記者)

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 日本政府は無観客のカードを切って、東京五輪・パラリンピックの強行開催へと突き進んだ。
 政府を問い糺すべきメディア、特に大会スポンサーとなった新聞大手紙は、開催自体の是非について、ついに国民的議論を呼び起こさずに来た。
 信濃毎日新聞が開催中止の論説を張るまで、大手紙は海外の批判記事を引用するなど、自らの言説で東京五輪への旗幟を鮮明にすることから逃げ続けた。報道機関の根幹である「経営と編集の分離」は崩壊していることは明白だ。
 本多勝一『職業としてのジャーナリスト』(朝 日文庫)は、ベトナム戦 争反対を唱えた北海道新聞の社説の「正論」を評 価するが、しかし地元の漁業問題には沈黙する姿勢を批判している。また信濃毎日が当時、林道建設の推進報道をしていた事実も紹介し、政治権力や経済界と新聞社の距離が、報道機関の「言論の 自由」を規定する構図を指摘した。
 北海道新聞の東京五輪を巡る社説も、ベトナム戦争時の鋭さがない。信濃毎日は長野冬季五輪でも同じことを主張したのか。同書が示した問題は現在に続いている。

 西村肇・岡本達明『水俣病の科学』(日本評論社)は、チッソが垂れ流した有機水銀による中毒メカニズムを解明した好著。
 共著者の西村肇・東大名誉教授は助教授時代、公害研究を咎められ他大学転出の危機に会い、研究を中断。退官後に再開した研究を同書に纏めた。西村氏も「言論・学問の 自由」に直面した。
 取材で面談した西村氏から「自由な活動は財政的に自立してから」と諭されたのを覚えている。
 その助言に抗し新聞社を辞めて出したのが拙著『オリンピック・マネー』(文春新書)。国際オリ ンピック委員会が神聖な組織でなく、興行主に過ぎないと指摘する内容 で、今や共感する人は多いと思うが、在職中には出版できなかった。「言 論の自由」を守るのは誰か他人ではなく、自分自身の問題と実感した。
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2021年08月23日

「平和」と銘打った広島市条例に疑問と批判 賛否両論「式典を厳粛に」被爆者団体などは「言論の自由侵害する」=宮崎園子

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《平和》と銘打った条例が、広島市議会(写真上)で成立した。米軍の原爆投下から76年、「平和都市」広島市民の代表である市議会が初めて議会発案で制定した「平和推進基本条例」。しかし、内容や成立過程において、被爆者団体や平和団体、専門家らの意見は蔑ろにされた。「平和」がスローガン化した被爆76年の広島。3月末までは全国紙記者として記者席で、4月以降は一市民として傍聴席で市議会の審議を見てきた筆者に条例は象徴的に見える。宮崎園子(広島支部)

「憲法という言葉がなく基軸が見えない」「今この時に条例を制定する意味は」
 6月定例会最終日の6月25日、2日前に上程された条例案について、野党会派の2議員が反対討論した。だが、その後議論はなく、条例案はわずか30分で賛成多数で原案通り可決。この日までの流れには紆余曲折があった。
 市議会は当初、被爆75年を意識し、2020年度内の成立を目指してきた。各会派代表でつくる政策立案検討会議は2年間の議論を経て今年1月に素案を公開。約1カ月間市民意見を募り、600近い市民・団体から1千項目超の意見が寄せられた。
 平和団体などが問題視したのは主に3点。条例での平和の定義が、核兵器廃絶や武力紛争に限定されていて狭小である(第2条)▽平和の定義を核兵器廃絶に事実上限定しているのに、「核兵器禁止条約」への言及がない▽市民の役割を、「市が推進する平和施策に協力する」と、義務づける条項がある(第5条)––ことだった。「核禁条約発効の年に、広島の条例として世界に出すのが恥ずかしい」。NPO法人理事の渡部久仁子さんは言う。
 意見が最も寄せられ、賛否が真二つに割れたのは、8月6日の平和記念式典を厳粛の中で行うとした第6条2項だった。これには伏線がある。

 拡声器の是非

 式典中、原爆ドーム周辺では、政府の核政策に抗議するデモ団体が、拡声機でシュプレヒコールをあげながら行進し、機動隊が警備にあたる光景が繰り広げられてきた。こうした中、市は、条例規制を視野に、式典中の拡声機使用について市民アンケートを実施。これに対し、被爆者団体や弁護士会が「条例による規制は言論の自由の妨げにつながる」と批判した。
 デモ団体の拡声器使用には、被爆者団体や平和団体の中にも否定的な意見は根強い。「式典の時ぐらい静かにして」との声は、普段取材する中で多く聞く。だが、そんな人々からも反対の声が上がったのは、核兵器廃絶に消極的な日本政府と、核兵器を「絶対悪」とする被爆地・広島との間の温度差がゆえだ。「静かに祈るだけでは平和はこない」「批判できないならまるで戦時中だ」
 式典での内閣総理大臣は、国連で採択された核禁条約に触れない形式的あいさつを繰り返してきた。政府は、条約を批准しないどころか、核兵器先制不使用方針を示した米政府に抗議するなど、核抑止力に依存し続ける。
 式典のあり方を問題視するデモ団体側と市側は、音量調整などの協議を重ねてきたが、協議は膠着。そんな中浮上したのが、今回の平和推進基本条例案だった。
当然、式典の「厳粛」規定に注目が集まった。
 「厳粛」規定を支持する市民団体「静かな8月6日を願う広島市民の会」は、SNSを使って市民意見の提出を呼びかけた。石川勝也代表は、「8月6日は静かに手を合わせて祈りを捧げる日。政治的主張をする場ではない」。

 「歴史的な愚策」

 一方、長く被爆者援護に取り組んできた田村和之・広島大名誉教授(行政法)は、「平和都市の自己否定というべき歴史的な愚策」と痛烈に批判する。「基本条例なのに第6条だけは具体的な施策を定めていて異様だ」
 意見の精査に時間がかかり、年度内成立を断念。3カ月で計9回、寄せられた意見を条文ごとに検討した。だが、議員9人の全員一致でのみ意見を採用するとした結果、意見の多くは反映されなかった。その後、核禁条約については発効の事実のみが前文で挿入され、平和団体が問題視した市民の協力義務規定(第5条)は削除された。だが、狭小な平和の定義や、式典「厳粛」規定は残った。
 条例を作ること自体が目的化し、条例の先にどういう市民社会づくりめざすのか、広島から訴える平和とはどういうものなのか、市民を巻き込んだ深い議論がないまま出来上がった条例。被爆者なき後、広島の街は、何を背骨として生きていくのだろうか。そのことがいま、改めて問われている。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号
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2021年08月22日

【今週の風考計】8.22─入管庁:黒塗り1万5113枚と手数料15万円の醜悪さ

★スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさん(当時33)が、名古屋の入管収容施設で死亡した事件に関連し、遺族側が17日に会見を開いた。
 名古屋入管は10日に発表した、対応を正当化し死因を特定しない96ページの最終報告書に続き、遺族側が求めていた真相究明に必要な公文書の開示請求に対し、関連の行政文書を開示した。だが肝心の監視カメラ映像は不開示とされた。その経緯に関する会見だ。

★8月2日、段ボール3箱が遺族側に届いた。開封して点検してみると、なんと1万5113枚に及ぶ文書のほぼ全てが、黒塗り状態だった。その一部が会見場の後ろの壁に貼られた。その白い壁が真っ黒な暗幕に覆われているような光景に唖然とした。
 ウィシュマさんの妹ポールニマさん(27)は17日の会見で、「文書がこんなに黒塗りされたら、報告書の内容も信用できない。入管は姉が殺されたことを隠したいのではないか」と不信感をあらわにし、「入管は意味のある部分は黒塗りした紙にし、映像も含めブラックボックスに入れ、何も情報を出さない。まったく反省していない」と、遺族側が反論した。当然だ。

★しかも入管庁は「開示実施手数料」として、遺族側に15万円を超す金額を請求し納入させている。ジャーナリストの北丸雄二さんが、この15万円について触れている(東京新聞「本音のコラム」8/20付)。
 「行政文書の開示請求に係る手数料」の規定に従った措置だとしても、黒塗りの行政文書を、「行政文書の開示」だと強弁するにも程がある。文字が真っ黒に消された1万5113枚の紙に、15万円も支払う義務があるのか。
★名古屋入管職員は、上司の顔色を窺い、黙々と命令に従い、1万5113枚に及ぶ文書の黒塗りに、Acrobat Proを使うか他の作業を加えて、懸命になっていた姿を思うと、どこか歪んでいるとしか言いようがない。誰か一人でも、異を唱える人はいなかったのか。
 ウィシュマさんの死という痛ましい事件への反省や責任、そしてこれからの対応に腐心すべきだと、進言する者はいなかったのか。

★思い返そう3月6日、ウィシュマさんは食事や薬が服用できなくなり、死亡直前にもかかわらず、収容施設の職員から「鼻から牛乳や」「ねえ、薬きまってる?」などの嘲笑が浴びせられていた。身動きできなくなる彼女を目の前にしながら病院にさえ、連れていかなかった。
 ウィシュマさんの悲痛な叫びと失われた命への想いが、半年もたたないのに、名古屋入管職員の黒塗り作業で封じられるのでは、あまりにも悲しすぎる。
★「2007年以降、ウィシュマさんを含め17人が入管施設で命を落としている。現在、日本には288万人を超える在留外国人がいる。この人たちなくして日本の経済社会は成り立たない。彼らは異質な人びとではなく、共生していく仲間なのだ」(望月衣塑子)。
 入管庁も私達も、失われた在留外国人の命の重さを、真剣に受け止めねばならない。(2021/8/22)
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2021年08月21日

【メディアウオッチ】広がる「取材は迷惑論」世界報道自由デーで澤氏 情報公開阻む壁=須貝道雄 

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 第5回世界報道の自由デー・フォーラムが6月27日、オンラインで開催された。テーマは「アジアの報道の自由とジャーナリズム」。法政大学図書館司書課程の主催でJCJも共催した。

 コロナ禍で制限
 最初に、国境なき記者団東アジア支局長のセドリック・アルビアーニさん(写真上)が世界の状況について報告。報道の自由度ランキングで180か国・地域を調べたところ、70%の人たちが環境が「悪くなった」と回答したという。「独裁的な政権の国では、コロナ問題を報道の自由を抑え込む絶好の機会ととらえ、情報を制限する動きが多くみられる」と指摘した。
 日本でもコロナを利用し報道制限をする動きがある。政府の記者会見で「開催回数と参加人数が 減らされている」と強調。「希望する記者が全員入れる大部屋を政府が用意することは可能だ」と批判し た。
 危険を冒して戦場取材をした安田純平さんと常岡浩介さんに対し、外務省がパスポートの発行を拒否している問題にも触れ、
「彼らは情報のヒーローだと思う。もっと応援すべきで罰を与えるべきではない」と語った。
 続いて元共同通信記者でジャーナリストの澤康臣さん(専修大学教授=写真下)が報道の自由に関し、日本が抱える問題点について報告した。
 冒頭に取り上げたのは、メディアの取材を「迷惑行為」と指弾し、情報公開を阻む理由にする風潮だ。たとえば6月に国が公開した赤木ファイル。森友学園問題にからむ公文書改ざん事件の経緯がファイルには書かれている。ところが400か所が黒塗りだった。改ざんを指示した財務省の係長らの名前をわからなくしていた。

 減点法の発想に
その理由を国側は「取材等が殺到することにより、当該職員はもとより、その家族の私生活の平穏が脅かされるおそれがある」と文書で説明した。
 取材は迷惑行為とする国の言い分に対し、澤さんは「文書改ざんにかかわった公務員の名前は、皆に明らかにすべき公共情報である。個人が特定できなければ事実の検証ができない」と反論。こうした「取材=迷惑行為」論が日本の報道の自由に対する圧力の典型だと訴えた。
 その関連で1980年代以降「何を報じるか」よりも、「報道被害を出さない」方向にメディア倫理の議論の軸足が移ったと澤さんは分析。より内容ある報道をする加点法の考え方は弱く、相手に迷惑をかけていないか気にする「減点法のジャーナリズム」が現場に影響を与えていると話した。それが悪用される危険性も高いと警鐘を鳴らした。
  須貝道雄
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号
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2021年08月20日

【焦点】米国の白人人口が初めて減少 少数派に転じたとき待ち受ける社会は=橋詰雅博

米国でヒスパニック系(スペイン語を母語とするラテンアメリカ系住民)を除く白人の人口が初めて減少した。
 最新の2020年国勢調査によると、白人の人口は約1億9170万人で、10年前の調査より約500万人減った。1790年の調査開始以来初めてだ。全人口(約3億3100万人)に占める白人の割合も前回調査の63・7%から57・8%にダウン。最も増えたのはヒスパニック系で、約19%占めた。アフリカ系は約12%、アジア系は約6%だった。
 白人などの人種の割合は先行きどうなるのか。18年3月発表した米国勢調査局の報告書では、「2045年ころに白人は少数派になるだろう」と予測し、その時の人種割合は白人が49・7%、有色人種の合計は50・3%(ヒスパニック24・6%、黒人13・1%、アジア系7・9%など)とはじき出した。
 その主な理由として18年から2060年の間に有色人種の人口は74%増加する、もう一つはその間に高齢化が進む白人は、自然減で減り続けることを挙げている。

 白人が少数派に転落すると米社会はどんなことが待ち受けているのだろうか。矢部武さんの最新著書『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)によると、白人の特権≠ェ失われると指摘する。白人の特権とは何かについて、ペギー・マッキントッシュ博士が挙げた具体的な事例を書いている。
@ スピード違反や飲酒運転などの理由がない限り、警察官に呼び止められることはあまりない。
A 公共の宿泊施設の利用を拒否されるなどひどい扱いを受けることを心配する必要がない。
B 小切手やクレジットカードを使う、あるいは現金払いをする時、何か不都合が生じることはない。
C 一人でショッピングに行っても、警備員に「万引きではないか」と付け回されたり、嫌がらせを受けたりすることはない。
D お金さえあればどこでも好きな場所で家を購入できる、またはアパートを借りて住むことができる。
E テレビや新聞などで自分の人種の人たちがポジティブかつ好意的に報じられることが多い。
F 国の歴史や世界文明の話になると、自分の人種がいつも創始者として見られ、その功績がたくさん紹介される。
G アファーマティブアクション(積極的差別是正策)を取り入れている職場で働いていても、同僚から「個人の能力ではなく、人種のおかげで採用された」と陰口を言われることはない。
 マッキントッシュ博士は、米国では白人に有利な社会システムができているため有色人種のように努力しなくても特権を持つ白人はある程度成功おさめることができると分析している。
 だが、やがて訪れるだろう白人の人種的な優位性がなくなった時、少数派の白人は多数派の有色人種から仕返し≠受けるかもしれない。分断を回避するためなんらかの社会システムを備えるべきだ。
 橋詰雅博
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2021年08月19日

【スポーツ】いびつなメダル獲得策あらわ=大野晃

  異常五輪は、全国に新型コロナウイルス感染症の感染爆発をもたらした。
命の危険をメダル獲得が相殺するとでも言うように、テレビはメダルラッシュに大はしゃぎで、新聞は日本勢の競技ばかりに大きく紙面を割いた。
 コロナ禍で、海外代表が練習不足に追い込まれ、酷暑に悩まされる中での有利な条件下でも、日本代表のメダル獲得の内実は、5年前の五輪と大差なかった。
 獲得競技の極端な偏向が継続し、地の利は東京特薦の新競技に集中した。28競技306種目の前回から33競技339種目にも膨れたが、27の金メダル獲得のうち、24は、柔道、レスリング、水泳、体操の御四家計18と特薦3競技6が占めた。
 特薦競技を除けば3競技だけで、全競技の3分の1に満たない。58の総メダル獲得競技も、特薦競技を除くと前回から4競技増にとどまった。
 少ない競技で世界の頂点に挑む傾向は、21世紀に入ってから、ほぼ変わらない。

 人気の集団球技は、特薦競技で東京五輪後は消える野球とソフトボールで金メダルを確保し、女子バスケットが初めて銀メダルを獲得したが、他はほとんどがメダルには遠かった。
 開催国特権で全競技に出場した日本代表だが、政府主導のいびつなメダル獲り策では、広く多くの競技が発展する大きなバネにはならなかった。
 強引な開催は、日本代表を飛躍させることができず、世界新記録はわずかで、国際総合競技会としても、異様なほど低調だったことを示した。
 巨額な税金で整備された競技会施設を有効に利用するには、スポーツ基本法に基づく国民のスポーツ権を重視したスポーツ政策が不可欠である。
 マスメディアは、相変わらず日本勢の動きしか伝えず、世界が見えない鎖国的報道に終始した。映像観戦を強いられたファンが、会場などに詰めかけ、世界を知りたがったのは無理もない。
大野晃(スポーツジャーナリスト)
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2021年08月17日

【焦点】五輪選手村訴訟 31日の結審では原告2人が口頭陳述=橋詰雅博

  
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            「晴海・正す会」ニュース8月8日号
都民33人が小池百合子都知事らを相手に損害賠償を求めた五輪選手村訴訟は8月31日(火)に東京地裁で結審(103号法廷 15時から)する。
 7月30日に裁判所に提出した原告弁護団の最終準備書面は、@不動産鑑定基準に則らず、採用する数値で価格を大きく操作できる「開発法」だけで算出した超格安な都有地の売却価格の不当性A都議会や都財産価格審議会にも諮らず、秘密裏に土地投げ売りを企んだ都の財務会計行為の違法性B1者入札で特定建築者(11社グループ)に工事を受注させる官製談合疑惑―などこれまでの裁判で被告の東京都を追及して明らかになったことなどを整理して盛り込んでいる。
 この中で注目されるのは、4月8日の証人尋問で日本不動産研究所(不動研)の不動産鑑定士・水戸部茂樹氏の証言から、都が不動研に予め目標価格を示して価格調査報告書を作成させた疑惑が浮上したことを新たに加えたことだ。
 結審では、中野幸則原告団長と原告の岩見良太郎埼玉大名誉教授の2人が合わせて15分以内の口頭陳述を行う。2017年8月17日の提訴以来、まる4年で一審は終了する。判決は早ければ年末にも。
 橋詰雅博
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2021年08月16日

【隅井孝雄メディアウオッチ】キューバでSNS活用の大規模デモ 政権崩壊も=隅井孝雄

                       
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 キューバ全土で、SNSと連動して反政府デモの波が7月11日、国中で一斉に起きた。この国では、反政府をスローガンに市民が立ち上がったことは珍しいが、市民の武器がSNSだったことも初めてだ。11日は日曜だった。そしてキューバのネット上にはこの日一日街頭デモの動画であふれた。しかしキューバ系の市民が多数いるアメリカ以外あまり伝えられていないので、私の知ることを、この場を借りてお伝えしたい。
 
数十年ぶり
 SNSと連動した抗議デモはキューバ全土で100か所に及んだとみられる。勇気をもって街頭に出た市民は3,000~6,000人に達するものとみられる
キューバでケータイを使ったデーター通信が使えるようになったのは2018年12月だった。政府は「近代化」の証として導入したとみられる。しかしその結果市民の側は政府の思惑を超えて「横のつながりを強める道具」としてネットを活用するようになり、情報統制と市民分断に風穴があくに至った。
  ワシントンポスト紙の報道によれば、人口の4割に当たる420万人の市民が携帯電話でネットを利用しているという(キューバの総人口、1132万人)。2019年にはLGBTの権利確立を求めるデモ,ゲーム好き集団SNETをつぶすな、デモなどがあった。また20年11月と21年1月には若手アーチストや知識人による文化省庁舎前での、表現の自由を求める大規模集会などが、ひんぱんに開かれていた。
活動家や独立系ジャーナリストはフェイスブックよりも、ワッツアップ、シグナル、テレグラムのアプリを好んで使っている。通信内容の暗号化しやすく警察や政府に傍受・妨害されにくいという特徴があるからだ。

日曜日早朝
 今回の7月11日のデモは3GのSNSにつながったキューバ市民が国中で一斉に街頭に繰り出し、政府への抗議の声をあげた。政治的自由と抑圧への抗議はもとよりだが、食料不足、コロナの感染拡大など、政府への批判の矢が放たれた。キューバでは停電が珍しいことではない。国の財政不足から、停電がひんぱんに起きている。医療品不足も深刻だ。病院に運ばれても薬がない。特にペニシリンやアスピリンなど、基本的な医薬品が全く不足している、

政府強権的
 こうした市民の行動に対し、キューバ政府は抑圧に乗り出した。キューバ内務省は13日、ハバナ郊外で暴徒となった複数の市民を拘束、うち一人が死亡したと発表した。しかし反政府グループは行方不明者が100人以上に達していると反論している。
 11日の街頭デモは当初は平穏な行動だった。しかしミゲル・ディアスカネル国家評議会議長が国営テレビに現れ、抗議の市民を「反革命分子、アメリカに操られて虫けら」と呼んだことで事態は一変した。治安部隊が出動、市民を次々に拘束する一方、デモ参加者はパトカーを転覆させ、政府の運営する店舗を略奪、放火の対象にした。
 SNS上には警察官や私服警察官らが、デモ参加の市民を殴る動画や、デモ後に行方が分からなくなった子供を捜している母親たち」と名乗る、警察署前の女性たちの動画などがみられたが、この日の夕方までにはインターネットがつながらなくなった。

 米強硬姿勢
 米国、バイデン大統領は12日、声明を発表,「われわれは、キューバの人々の自由への明確な呼びかけに賛同する。キューバ政府は、人々の声を封じ込める行動や暴力を控えるように求める」とのべた。また国務省プライス報道官は、13日の会見で「キューバ政府はインターネットの遮断、ジャーナリストや活動家への恣意的な拘束など、抑圧的な方法で人々の声を封じ込めている」と強い懸念を表明した。
 オバマ元大統領の時期に、一時的に両国関係の緊張が緩和の方向に向かったものの、今回のキューバ政権の抑圧的姿勢は許しがたいものと市民は受け止めている。

 国民の信えず
 キューバ当局は「国民は彼らの苦しみを食い物にする外国のプロパガンダに操られてきた」と主張する。ロドリゲス外相は11日の会見で「必ずしも意図的にネットを遮断しているわけではない。状況は複雑だ。停電が通信サービスに影響した可能性もある」とのやり取りがあった。
 表面で強権姿勢に見えるキューバ政府も、国民の痛みを意識していることが想像される。フィデル・カストロが亡くなった後、弟ラウル・カストロが一時継いだ。しかし、現政権を率いるディアスカネル政権は国民の信を得ているとはいいがたい。
アラブの春の再現もありうるように思われる。
隅井孝雄(ジャーナリスト)

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2021年08月15日

【今週の風考計】8.15─クラウドファンディング:コロナ禍で出会った「忘れたくない本」

コロナ感染拡大が深刻となり、13日には東京の感染者が5773人、1日当たり過去最多となった。新聞1面には「制御不能、病床ほぼ枯渇、自分で身を守る段階」の大見出しが躍る。
 もし罹ったら、どう対応したらよいか、自宅待機・療養というが、もし病状が悪くなったら、どこが受け入れてくれるのか、不安は限りなく募る。
帰省どころか、家に蟄居するしかない。無策の政府に腹が立つ。実態を隠した数値を振り回し、ワクチン供給は滞り、病床確保の対策はとらず、自粛・我慢の掛け声だけ。すべて責任を現場に押しつけてやり過ごす。もう「ガースー政権」は死に体、誰も信頼しないのははっきりした。

感染しないよう“巣ごもり”の日々、ツンドク本の中から、興味を覚えた数冊を手もとに置き、読書にふける。都心から郊外の筆者宅に避難してきた小学4年の孫は、コミック「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」に夢中だ。
 これまで勤めてきた出版界だけに、コロナの影響が気になる。このほど今年上半期(1〜6月期)の出版物の販売金額が発表された。紙と電子を合わせ8632億円(前年比8.6%増)となった。
とりわけ電子版出版物の売り上げが2187億円(同24.1%増)となり、全体の4分の1を占める。どうもコロナの影響はないかに見える。
 だが町の本屋さんは緊急事態宣言により営業時間の短縮や休業を強いられただけでなく、営業収益が減り、この1年間で484店が閉鎖に追い込まれた。大型書店の郊外チェーン店も、「閉店ドミノ・閉店ラッシュ」から逃れる術はなく、その結果、これまで駅の近くに必ずあった本屋さんが一軒もない事態となった。

本屋さんがなくなれば、本と出会う機会も減る。でも若い人には本を読んでほしい、感銘を受けた本を広く伝えたい、どうしたらよいか。そんな願いに応える企画が立ち上がった。
 日本出版クラブが主宰する「忘れたくない本のはなし 未来にのこすブックガイド」と銘打ったクラウドファンディングの登場だ。
コロナという未曾有の災禍の日々で出会った、「忘れたくない本」に関する話をまとめ、1冊の本をつくるプロジェクトだ。イタリアの作家パオロ・ジョルダーノの「コロナの時代の僕ら」というエッセイに刺激されて誕生した企画だという。
 目標額は100万円。支援金の調達期間は8月31日まで。その後、9月1日から10月31日までメッセージを募集し、11月1日から来年4月までにデジタルアーカイブとブックガイドを制作。4月末までにメッセージの公開とブックガイドを発送する予定という。詳細は下記にアクセスを!(2021/8/15)
https://www.kickstarter.com/projects/nihon-shuppan-club/660435252?lang=ja
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