2023年04月12日

【沖縄リポート】70団体参加 那覇市街地で声上げる=浦島悦子

                         
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「島々を戦場にするな!沖縄を平和発信の場に!」緊急集会とデモが2月26日(日)午後、開催された。「台湾有事」を口実に、急激に進む琉球弧のミサイル基地化・軍事要塞化=「第二の沖縄戦」に危機感を募らせる県内の市民団体や個人が昨年末から議論を積み重ね、開催に漕ぎつけた。
議論の中で、シニア世代の運動スタイルに対する若者世代の違和感や、今まさに自衛隊基地が作られつつある与那国・宮古・石垣の島々(会議にはオンライン参加)と沖縄島との危機意識の落差などが率直に話し合われ、共同作業ができたことは大きな成果だ。会合を重ねるごとに参加団体も増え、70団体を超えた。

会場となった県庁前県民広場は、主催者目標の1000人を大きく上回る老若・親子連れを含む1600人の参加者で埋まり、右翼の街宣車の妨害をものともせず、ミニライブや各島々・地域からのトークが展開された。集会実行委員長を務めたガマフヤーの具志堅隆松さんは「ものが言えなくなると戦争になるのは経験済みだ。今はまだものが言える。声を上げていこう!」と呼び掛けた。
「私たち沖縄県民は平和を愛する民です」から始まる集会宣言文は、政府に対して二度と戦争を引き起こさないことを求めるとともに、全国の自治体に対し、中国との平和交流の強化を求めた。コロナ禍以来、久方ぶりのデモ行進が那覇の市街地を練り歩いた=写真=。
今後は、さらに大規模な集会、そして、戦争をさせない全県組織の結成を目指す。しかしながら一方で、それが間に合わないと感じるほど戦争への動きは待ったなしだ。

与那国・宮古に続き陸上自衛隊の駐屯地建設が進む石垣島では、16日の開設に向け5日午前、市民の猛抗議の中、ミサイルを含む車両150台が搬入された。
沖縄島でも、うるま市の自衛隊分屯地へのミサイル配備、沖縄市の自衛隊弾薬庫建設、そして米軍辺野古弾薬庫の増設&新ゲート建設工事と目白押し。住民を巻き込んだ「持久戦」の準備が着々と進むのが恐ろしい。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
 


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2023年04月11日

【月刊マスコミ評・新聞】自民党大会に見る論調の大きな差=白垣詔男

 これほど同じ日に、自民党に対する新聞論調の姿勢に大きな差が見られるのも、珍しいだろう。2月26日に開かれた自民党大会についての翌27日の朝刊社説だ(毎日だけは28日)。見出しだけを見てもその差が分かる。
 朝日「教団問題もう忘れたか」、毎日「自民地方議員と教団 党の実態調査が不可欠だ」とジャーナリズムの基本である「権力の監視」をきちんと踏まえており、自民党には強く「異論」を唱えている。なるほど、安倍晋三元首相が亡くなってから噴出した、旧統一教会が自民党候補の選挙を支援していた問題、それに続く自民党の自浄作業不足≠ノついて、党大会で何の議論もなかったのはおかしいし、それを指摘するのは、まさに正論だろう。
 ところが、読売は「政治の安定へ足元見つめ直せ」、産経「保守の矜持で改革進めよ」と、自民党「応援団」を強く前面に打ち出し、自民党に、具体的に耳の痛いことは言わない姿勢がはっきりしている。

 読売は「岸田内閣が、防衛力の強化や原子力発電の積極的な活用などを決断してきたことは評価できる」と手放しでほめる。産経は、防衛力強化に「党を挙げて取り組んでもらいたい」と主張。その他、「憲法改正」「皇位の男系(父系)継承」を訴える。
 しかし、読売、産経とも、自民党批判は全くない。両紙は、ジャーナリズムを放棄している姿勢に終始しているうえ、こう如実に「自民党にすり寄る姿勢」を見せられると、もう、新聞の役目までも放棄していると確信する次第だ。

 一方、朝日、毎日が指摘しているように、自民党大会で演説した岸田文雄首相は、旧統一教会との関係に触れないままだった。自民党各級議員と旧統一教会との関係を語らないというのは、自民党は、自らの「汚点」は、時がたてば国民は忘れると考えているのかとも思いたくなる。
さらに、統一地方選で、旧統一教会問題について忘れたように触れないで、反省なしで選挙運動を展開する候補者ばかりになるのではないかと予想されるところだ。
 国民、有権者がなめられていると言っても過言ではなかろう。こうした自民党には猛省してもらわなければならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号

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2023年04月10日

【焦点】神宮外苑再開発 認可取り消し求め提訴 伐採知事≠フ正体は=橋詰雅博

                        
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 東京・明治神宮外苑の再開発事業をめぐり事態が大きく動いた。住民ら約60人が東京都の施行認可の手続きは違法だとして東京地裁に2月28日に提訴した。と同時に判決確定までの認可の執行停止も申し立てた。大量の樹木の伐採による景観悪化、建設される超高層ビルのビル風や日照の減少、工事に伴う騒音などの理由で1年前ほどから始まった再開発反対の住民運動は高まり、事業見直しを求めるオンライン署名も12万筆を突破した。しかし、小池百合子都知事は2月17日に認可し、工事着工へゴーサインを出した。住民は反対の声を無視する小池知事に対し反撃≠ノ出た。
 訴状の主な内容は@神宮外苑の環境を大きく毀損、A事業者の不十分な情報公開、虚偽の報告のままでの環境影響評価など重大な瑕疵がある、B13年にも及ぶ工事期間は住民生活を長期にわたり不便、不利益を与える―。

 小池知事はなぜ住民の声を黙殺するのか。反対運動を展開する住民団体が主催した2月21日のオンライン講演で元都庁幹部職員の澤 章氏=写真上=はこう解説した。
 「そもそもこの再開発事業計画は2005年夏の森喜朗元首相と石原慎太郎都知事との都庁での会談が発端。その後、庁内に東京が2度目の五輪開催を目指すという噂が流れた。後日聞いた話だが、電通がつくったとされる神宮外苑再開発に関する企画提案書(04年ごろに出回る)を森元首相は持参したという。老朽化した国立競技場の移転(当初は晴海に新競技場を建てる予定)、都営霞ヶ丘アパートの取り壊し、複合スポーツ施設や業務施設の建設などを行う外苑再開発実現のため五輪招致を2者会談で決めたようです。森元首相が電通案に乗ったのか、案作成を指示したのかは不明です。元文科相で自民党の萩生田光一現政調会長(東京24区選出)も絡んでいる。小池さんはこの案件と『私は関係ない』という姿勢です。反対の声に耳を傾けず無視を貫けるのは、3年前の都知事選で290万票獲得した自信に由来していると思います」

 知事本局計画調整部長や中央卸売市場次長などを歴任した澤氏は、20年3月出版した『築地と豊洲』で小池都政を批判したことで東京都環境公社理事長を解任された。「批判を許さず」が小池知事のやり方だという。都庁で33年間働いた澤氏は神宮外苑再開発計画の裏側で政治家や事業者などの意向を汲んだ都市整備局が暗躍したと断言する。
 「外苑再開発事業を進めるには用途地域の変更、容積率アップ、緑の量をどのくらいにするなど都市計画の大幅な変更が絶対必要です。これを司る都市整備局が各方面に根回し。ダークサイドの仕事として少数の幹部だけが関知できる案件だと思います」(澤氏)
                       
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 小池知事の「正体」を澤氏は「小池さんは、偉くなること、政敵を追い落とすこと、政治家としてランク上げることが目的化していて、何をするかが一切ないちょっと異様な人です。女性の味方や子ども味方、地球温暖化の女性戦士みたいな仮面をかぶっていますが、理想とか理念とかに裏付けられているではなくて、その着ぐるみをどう見せるか、どうカッコよく見せるか、その時々のトレンドを追っているにしか過ぎないが私の見立てです」(2月22日、自身のYouTube『都庁watchTV』)と底が浅いと指摘した。
 葛西臨海公園や日比谷公園の樹木なども都は切る計画だ。伐採知事≠フ暴走は止まらず―。
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
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2023年04月09日

【今週の風考計】4.9─またまた電気料金が値上げされるシステムの不可解さ

電力3社に1千億の課徴金
電力会社の眼を覆うような不祥事が続く。大手電力7社が新電力の顧客情報を7年間で75万件も不正に閲覧していた。再生エネルギー電力を使う顧客のニーズを探り、対策を講するために閲覧していた疑念はぬぐえない。経産省は業務改善命令を出すに至った。
さらに大手電力会社が一般企業に電力を売る際、「お互いの獲得エリアの顧客には手を出さない」とのカルテルを結び、新電力も含め他社の参入を防ぐ画策すら弄して、不正な取引制限(独禁法違反)を続けていた。
 この違反が明るみに出て、公正取引委員会はカルテルを結んだ中部電力、中国電力、九州電力3社に対し総額1010億円の課徴金の納入を命じた。そのうち中国電力は過去最大の707億円を占める。
「顧客情報の不正閲覧」や「カルテル」など、次々と明るみに出る大手電力の不正は、2016年から始まった電力販売の完全自由化を、物の見事に骨抜きにし、電気料金の低減化を妨害するものだ。国民からの信頼を裏切る、トンデモナイ悪行である。
 にもかかわらず大手電力7社は、電気代28%〜45%の値上げを申請している。利用者に負担増を求める前に、抜本的な経営改革に着手するのが先ではないか。

複雑な電気代・明細項目
電気料金の値上げは、2021年9月から続いている。この2年半で月額5,000円ほど高くなったのを実感する。
 改めて我が家の電気料金明細書を見て驚いた。その項目の多さと内容の複雑さである。基本料金、電力量料金、燃料費調整額、再生可能エネルギー発電促進賦課金の各項目からなり、そこに計上された金額の合計が電気料金となる。
基本料金は毎月定額、電力量料金は1カ月の使用量に応じての変動は理解できる。だが金額の高い「燃料費調整額」となると、内容が分からないだけに首をかしげてしまう。
 これは電気を作るに必要な燃料の調達コストに応じて決まるという。燃料の調達コストが高騰すれば、その価格を消費者に自動的に転嫁し使用量に応じて燃料費調整金を負担してもらうというシステムなのだ。
その調達コスト、電力会社は軽減する努力を十分しているのだろうか。その姿が私たちには見えない。あまりにも責任転嫁が過ぎるとの批判を受け、燃料費調整単価の上限を超えた分は電力会社の負担とする「規制料金」制度を導入、電気利用者の負担を軽減しているという。だが軽減を実感したことはない。

「再エネ促進賦課金」とは?
もっと分からないのは、「再生可能エネルギー発電促進賦課金」である。この「再エネ促進賦課金」と略されているシステムは、CO2排出量削減の解決策として再生可能エネルギーを使って作られた電気を、電力会社が一定価格・一定期間で買い取るため、国が電力会社に資金を補てんし、財政保証する制度である。その国の資金を得るために、私たちの電気料金に被せ1カ月の使用電力量に応じて徴収している。
だが待てよ、この「再エネ促進賦課金」、いかにも地球温暖化や気候変動を防ぐための賦課金だから、負担は当然とでもいうが、この賦課金はどこにどう使われ、本当に再生可能エネルギーの活用に充当されているのか、私たちに開示され説明された記憶はない。
 また託送料金の値上げも見過ごせない。託送料金とは「送配電網の利用料」をいい、電気料金の30〜40%を占め、この4月1日より託送料金が平均月額36円の値上げとなる。電柱や電線の費用まで私たちが負担すべきなのか。
これほどまでに電力という公共財への費用を、すべて消費者負担に転嫁する日本の政治システム、変えなければダメだ。(2023/4/9)
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2023年04月08日

【映画の鏡】安倍政治を本気で検証『妖怪の孫』メディア戦略奏効、マスコミ自粛=鈴木賀津彦

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2023 「妖怪の孫」製作委員会


 「昭和の妖怪」と呼ばれた岸信介の孫の安倍晋三が、こんなにもデタラメな政治をやっているのに、自民党が選挙で圧勝するのは何故なのか。安倍政治を支えている構造に切り込んだこのドキュメンタリーを、内山雄人監督ら制作陣は「政治ミステリー劇場」と位置付ける。
 菅前首相を追った前作『パンケーキを毒見する』を「政治バラエティ」として分かりやすく示した手法と同様、長期政権を支える仕組みをミス   テリーの謎解きのように提示し、観る人が「自分ごと」として受け止められる工夫をしていて面白い。

 特に誰もが発信者になれるインターネット時代の自民党のメディア戦略を深掘りし、テレビなどマスメディアが政権批判をしないよう「自粛」させ、機能不全になっている現実がなぜ起きているのかを分析しているのだ。

 それならJCJのオンライン講演会で内山監督にこの映画に込めた想いなどを語ってもらえばと、3月17日の映画公開直前の12日に「政府のメディア戦略の現状とマスメディアの機能不全」をテーマに企画した。そこに飛び出してきたのが、放送法をめぐる問題。
 政治的公平性を求める安倍政権でのやり取りを記録した総務省の行政文書が公表され、当時何があったのか、明らかになってきた。まさに、映画で描かれたテレビの報道の「自粛」の現状が何故起きているのかをさらに掘り下げなければならないと、オンライン講演会では内山監督の話を伺い、参加者と議論を深めた(詳細は次号記事で掲載予定)。
 新宿ピカデリーなど全国で公開中、まずは見てほしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号
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2023年04月07日

【リレー時評】福岡県政界に見る麻生氏の影響力=白垣詔男(JCJ代表委員)

 福岡県内の2政令市、福岡市と北九州市の市長が12年ぶりに話し合った。2月5日(日)の北九州市長選で、自民、公明、立憲民主、国民民主推薦、社民支持の多党相乗り候補、元国土交通省官僚、津森洋介氏が、自民党北九州市議の一部が支持した元厚労省官僚、武内和久氏に敗れた。武内新北九州市長は翌日、福岡市を訪れ高島宗一郎福岡市長と会うスピードぶり。
その後、2月28日(火)には、高島福岡市長が北九州市を訪問、昼食を共にした後に会談して「福北(福岡市と北九州市)連携」を強調した。

 両市長が12年ぶりに会ったということは、4期務めた北九州市長・北橋健治氏が、2期目から、福岡市長とは全く顔を合わせず会話もない異常事態≠ェなくなったということだ。北橋氏は、旧民主党から衆議院選に出馬して当選、6期務めた後、無所属で北九州市長選に立候補、当選した。北九州市長になってからは一貫して武田良太前総務相が支援していた。
  武田氏は、自民党副総裁の麻生太郎氏とは選挙区は近いが犬猿の仲=B今回は、自民党福岡県本部が、北九州市長選で津森氏を「自民党公認候補」として党中央に公認依頼を出そうとした。自民党県本部の大半は津森氏の公認申請に署名したが、県連名誉顧問、麻生氏だけが署名を拒否したため津森氏は「自民党推薦」に格下げになった。

 一方、高島福岡市長は、「麻生氏丸抱え」と言われるほど麻生氏に全面支援を受けている。武内新北九州市長と高島福岡市長は、いわば「麻生傘下」と言っていいほどで、それだから12年ぶりの会談が、和気あいあいに行われ、両陣営は「これでやっと福北連携が正常化された」と述べた。

  ところで現在、福岡市中心部の天神地区では、「天神再開発」が行われており、歴史ある多くのビルが取り壊され、新しい高層ビルが建設中だ。一番目立つ「福岡ビルなどの改築現場」には、当初、「麻生セメント」の名前入りコンクリートミキサーが目立っていたが、しばらくして、そのミキサーは消えた。
 福岡ビルや周辺のビルの中には、これまで、地元の商店や、会社員らが昼食時に行く食堂や喫茶店が多かったが、それがすべて移転したり閉店したりした。新しいビルが出来たら、どこもテナント料が大幅に上がり、移転した店が戻ってこられるかどうか分からないという。資金に余力のある、東京から進出する大手の会社や外資系の支店が大幅に増えるのは必至とみられる。テナント料の大幅アップで空室が埋まらないと予想する人もいる。

 「将来、天神地区は会社員以外には買い物客などの市民らは来なくなるのではないか」と、九州一の賑わい地区が空洞化される不安が募っている。
 こうした「不安」を福岡市長は解消できるのか。バックの麻生氏がどう考えているのか。「福北連携」が復活した裏で、こうした問題がある。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年3月25日号

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2023年04月06日

【おすすめ本】山岡淳一郎『ルポ副反応疑い死 ワクチン政策と薬害を問い直す』―機能せぬ接種被害救済制度の闇を追う=永田浩三(武蔵大学教授)

コロナ禍が始まって3年。ワクチン接種の副反応による死者の報告は1900件に迫る。最近はこの副反応への関心が高まっているが、本書はその嚆矢だ。『世界』などでの連載をもとに、ワクチンに関わる日本社会の課題に迫った。
社会防衛という名の下、ワクチンの効用がリスクを上回るとして、なかば強要されてきた。だが、免疫にはいまだ未知の領域があり、重篤な副反応や死を引き起こしてきた。

接種3日後の息子の死を追う夫妻、プロ野球救援投手の心臓突然死。著者はその謎を追う中で、日本の医療制度の闇に突き当たる。
 日本には被害の救済制度があり、独立行政法人が評価を行う。だが、死亡報告事例の99%以上は評価不能と判定されているのが現実だ。
死亡一時金の申請419件のうち、支払われたのは10件。後遺症は、申請4595件のうち5分の1に手当てが支給されただけだ。長く待たされるケースも多く、救済制度が機能していない。

目を開かれたのは、被害を受けた人々が国に挑んだ闘いの歴史の章だ。
戦後、天然痘のワクチン接種で、多くの乳幼児が亡くなり重い障害を抱えた。1947年と48年の犠牲者は天然痘の死者をはるかに上回ったが、「特異体質」として無視された。半世紀にわたり家族・遺族が国を相手に闘った結果、救済の道が開かれた。
 この本は反ワクチンの奨めではない。ワクチンの安全、被害者救済を迅速に行う制度の構築なくして、社会など守れないことを訴える。ぜひ多くの人に読んでほしい。(ちくま新書840円)
                        
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2023年04月04日

【原発】「依存」に回帰 逆行する政策大転換=編集部

 岸田政権は2月10日、次世代原発への建て替えを含む新増設や、運転期間延長を盛り込んだ原発の基本方針を閣議決定した。私たちはこの決定が、人事をテコに学問・研究全体を統制下に置こうと狙う学術会議改変」と同様、安倍政権以来の戦後政治の大転換と連動することを見すえる必要があろう。

民意無視の大転換
 閣議決定された基本方針は、@原発再稼働推進に向け、再生可能エネルギーや「脱炭素」への動きを最大限活用、A老朽原発の60年超の運転を可能化、B廃炉を決めた原発敷地内での立て替えを具体化、C次世代型原発の開発・建設への取り組み、D高レベル放射性廃棄物の最終処分地決定に向けた文献調査を受け入れた自治体支援、Eエネルギー基本計画を踏まえ、必要な規模で原発を持続的活用―など。これは3・11に学んだ国民の意思に背を向けた大転換に他ならない。

議論なき危機便乗
 「フクシマ」は、米のスリーマイル島(1979年3月)、ウクライナ(当時ロシア)のチェルノブイリ(86年4月)に続く世界的な大事故だ。日本が最悪の悲惨を免れたのは偶然だった。世界では事故後、ドイツが「脱原発」に転換、英国、スウェーデンなども原発新設再検討に動いた。日本では「脱原発」の世論が広がり、事故後の12年、政権復帰した安倍政権も「依存度を可能な限り低減」と明記した。 
 だが、岸田内閣は地球温暖化の「脱炭素」や、ロシアのウクライナ侵攻で生じた欧州のエネルギー危機に便乗。原発の使用年限や新増設規制などを撤廃し、原発の電源構成比率を2030年に20〜22%(20年3・9%)とした。この動きに、新聞各社は、読売、産経、日経が賛成。朝日、毎日、東京が反対と二分した。

メディアの役割は
 東京新聞の「原発転換、実現に疑問」(22年8月25日記事)は諸課題を指摘、@新増設の次世代原子炉技術は未確立、A既存原発の運転期間延長は危険、B既存原発再稼働への地元の反対―を挙げる。 
 問題は岸田政権の閣議決定が、課題と真摯に向き合っていないことに、及び腰のメディアだ。
 「大転換」に関して昨年12月実施したパブリック・コメントで3966件の意思が寄せられ、多数が反対だったが、大きく報道したのは1社のみ。2月8日、原発の60年超延長に向けた原子力規制員会は委員5人のうち1人が「安全側への改変と言えない」と新制度案に反対。13日、異例の多数決で決定したが、8日の議論をきちんと報道したのも1社だけだった。
  JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号   
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2023年04月03日

【おすすめ本】佐藤和孝『ウクライナの現場から』―ロシアの侵略に抗う市民の姿 戦場ジャーナリストが伝える=中村梧郎(フオトジャーナリスト)

ロシアの電撃的侵略から一年が経った。
 ジャパンプレスの佐藤和孝記者は、3月にリビウに入り、キーウなど戦場を40日間取材。その生々しいルポと写真を収載したのが本書である。
 ロシアがこれでもかと撃つミサイルは、ウクライナ市民の生命と住居、インフラを破壊し、厭戦に追い込むのが狙いだ。
 でも市民は、深さ100メートル余あるキーウの地下鉄へ逃れ、抵抗を続ける。子供たちへのオンライン授業も続く。
 ブチャでは410人が惨殺された。拷問、強姦 のあげくだ。ジャーナリストへの狙撃は18人に及ぶ。著者は「ロシアが 意図的に狙ったのは明白だ」と言う。難民は14 00人以上となった。
 リビウで市民に「前線に行くのは怖くない?」と聞くと、「それは怖いけど、でも自分の死への恐怖より、この国がなくなる方がもっと怖い」と。

 ウクライナは1991年に独立した。再びロシアに支配されるのは死ぬより怖い≠フだ。ゼレンスキーが抗戦を訴えると「41%の支持率が91%に激増」する。侵略との 戦いは国民を一つにする。侵略は許せない、抵抗は正義なのだ。
 「ウクライナは米欧の代理戦争」とする論は、ロ シアの主張である。ベトナム戦争でも「中ソの代理」説が出た。「つまら ん抵抗をやめたら」と。

 プーチンはネオナチと戦うと叫ぶ。だが本音はクリミアと東部四州の簒奪にある。
 この侵略に終わりは見えない。でもこれが通るなら「世界の独裁者らがお墨付きをもらう」こととなる。空論でなく「生 の情報から学んで頂きたい」と、著者は命がけの 取材で訴える。(有隣堂 1000円)
                     
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2023年04月02日

【今週の風考計】4.2─教科書に載る「愛国心」のウサン臭さに気を付けよ

ますます強化される教科書検定
<ピカピカの1年生>が、胸ドキドキ夢いっぱいにして学校へ通ってくる。誰もが健やかに伸び伸びと学んでほしいと願う。その大切な基礎となる教科書が大きく変わる。来年4月から小学校で使われる教科書の検定結果が公表された。
文科省は、5年前から特別教科となった「道徳の教科書」について厳しく精査し、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の項目をめぐり、「扱いが不適切」との意見を教科書会社に注文づけた。その数は13件にもおよび、過去2回の検定と比べ大幅に増えている。
 ただし、どこが不適切かについての具体的な指示は出さず、教科書会社の自主的な判断と修正にまかせ、文科省は手を汚さず、アウンのうちに「愛国心」教育をより強化する道を整えた。

「和菓子屋」から「地元のあんこ屋」へ
本来、道徳は強制的に押しつけるものではない。本人の内心から自主的に身に着けていくものだ。「伝統と文化の尊重」だからと言って、小学2年生の教科書では、急に「地元のあんこ屋」を持ち出し、昔からある食べ物や味を大切にしようなどとは苦笑してしまう。実際、身近に「地元のあんこ屋」など、あるだろうか。いや「あんこ」そのものが嫌いな子は多い。ピザのほうがいいのだ。
前の検定では「郷土愛」を扱う部分で、文科省の指摘により「パン屋」を「和菓子屋」に換えた教科書があったが、今や小学校の全教科書にQRコードがつきデジタル対応するのに、教科書の題材がガラパゴス的な懐旧の復活とも思えるものでは、子どもからソッポを向かれ、いかに苦労して教えても身につかないのは必定だ。

沖縄戦から消える日本軍による虐殺
沖縄戦についてはどうか。小学6年生用の社会科教科書を扱う全3社とも、「集団自決(強制集団死)」に触れたものの、日本軍による「強制・関与」や「軍命」の記述はなく、「アメリカ軍の攻撃で追いつめられ」といった説明しかない。
 これでは沖縄戦の実態が伝わらない。日本軍が沖縄住民にスパイの嫌疑をかけ虐殺に及んだ行為だけでなく、捕虜となることを禁じた「戦陣訓」にまで触れて、その実相を伝えるべきだ。あわせて戦前・戦中の軍国主義教育についても記述すべきではないか。
先月28日には、沖縄・渡嘉敷村が主催する「集団自決」などの犠牲者を弔う慰霊祭が4年ぶりに開かれた。生存している古老から、自決をめぐる生々しい話を聞いている子どもたちは、この教科書のゴマカシを見抜くに違いない。
その時々の権力に都合の良い記述に変える教科書では、歴史的経過や真実からもカケ離れ、他国からも信用されなくなるのは必定だ。さっそく韓国は韓国の立場で、島根県の竹島を「日本固有の領土」と明記した検定を非難している。また朝鮮人労働者の強制徴用についても、朝鮮人が自主的に応じた「日常的な労務動員」とする記述に、怒りの声を挙げている。

「はだしのゲン」などが削除される真の理由
78年前の太平洋戦争で、米軍の原爆により未曾有の被爆死傷者を出した広島。その広島市教育委員会が、あろうことか市立の小中高校を対象にした「平和教育プログラム」の教材から漫画「はだしのゲン」を削除する方針を決めた。
 さらに米国のビキニ水爆実験で被爆した静岡県焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」の記述もなくすというのだから呆れる。
「はだしのゲン」は<漫画だから実相が伝えられない>とか<第五福竜丸は被爆の記述にとどまり、被爆の実相を確実に継承する学習内容にならない>などの理由を挙げている。
 漫画「はだしのゲン」や第五福竜丸の被爆は、まさに米国が人類にもたらした「核」の実相を世界の人々に明らかにし、「核」を行使した責任を問う歴史的教材ではないか。これまでの日米関係は、米国の加害責任を免罪するため、いかにして矛先をそらすか、その工作に腐心してきた歴史だとも言える。
岸田首相は「憲法9条」を骨抜きにする「安保3文書の改訂」から「敵基地攻撃能力の保持」「軍事費GDP比2%」への仕上げとして、5月に地元の広島で開催する「G7サミット」に備え、米国の「核」への批判を封じるべく、広島の「平和教育の教材」から削除したのではないか。
 教科書の検定にしろ、平和教材の選別・排除にしろ、時の政府の見解および意向に沿った内容に仕向ける手段と化している。昨年JCJ大賞を受賞した斉加尚代さん監督のドキュメンタリー映画「教育と愛国」は、その鮮やかな検証である。(2023/4/2)
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2023年04月01日

【沖縄ジャンプナイト現地調査】 国民見捨て「米の盾」ミサイル要塞化の現場を歩く 諦めない決意、地元と共に メンバーら宮古・石垣に飛ぶ=川田マリ子

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 JCJ会員有志の独自の勉強会 沖縄ジャンプナイト(OJN)は南西諸島で進むミサイル基地化の現状を見ようと1月25日から29日まで、宮古・石垣両島へ飛んだ。総勢7人、10年振りの寒波の中、降り立った宮古島はダウンを着ても寒かった。
 「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の清水早子さんの案内で、島の数か所に広がる空自・陸自・海保の基地やレーダー施設、軍事衛星施設、戦跡などを見てまわり、夕方大型スーパー前でのスタンディングに参加。会のメンバーたちが道行く人に訴える。我々メンバーもマイクを持った。
翌朝は陸自基地前でのスタンディング=写真=に参加した後、建設中のミサイル弾薬庫、射撃訓練場などの現場を見て回る。夜は連絡会の皆さんが是非我々と話をしたいとのことで、それぞれの立場の活動や意見を聞いた。

  一方、反対活動をしている方々は高齢者が多いなかで、子供を抱えて働きながら新しい闘いを模索している母親たちの話も聞いた。
 また、宮古毎日記者や沖縄タイムス宮古支局長から地元メディアの「苦悩」を含め、意見交換したほか、宮古島市議から市議会の動静も含めての現状を聞いた。
 宮古はハンセン病でも辛い歴史があり、国立療養所「宮古南静園」を訪れ、退所して人権・平和ボランティアをしている方とも交流した。
 石垣では、「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」の藤井幸子さんの案内で建設中の基地を高台から、そして隣のパイン畑を歩いて工事の状況を垣間見た。正面口ではひっきりなしに大型工事車両が出入りしていた。

 「いのちと暮らしを守るオバーたちの会」山里節子さんは80代半ば。若い時に助手として参加した、米軍による石垣島の地質調査が、現在の状況に深く関わっていたのではという思いから、持病を抱えながらも取材を受けたり、スタンディングなどの活動を行っている。絶対にあきらめない決意がみてとれる。
  石垣市の出版社「南山舎」代表の計らいで石垣市議、「石垣市住民投票を求める会」の方、平和ボランティアを育てる活動をしている方など若い方々と交流したことは貴重だった。

 最後に『八重山の戦争』著者の大田静男さんのお話を伺い、4泊5日の行程を終えた。
両島とも用地の買収には不透明で理不尽な経緯がある。環境の変化がすでに住民の生活に現れており、今後危惧される問題も多く指摘された。信仰深い島の御嶽(うたき)がないがしろにされていることも見過ごせない。
  渡辺白泉が詠んだ「戦争が廊下の奥に立ってゐた」の句のように、この島々では戦争がすぐ目の前にあるように感じた。
 だが両島とも島中が恐怖に怯え、怒りに燃えているかと言えばそうではない。「米軍基地」ではなく「自衛隊基地」であるところに問題の難しさがあると思われる。詳細は次号以降にて。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号

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2023年03月31日

【おすすめ本】伊澤理江『黒い海 船は突然、深海へ消えた』─闇に沈む海難事故の真相を綿密な取材と証言で明かす=大治朋子(毎日新聞編集委員)

 15年前の初夏、千葉県の房総半島沖で一隻の漁船が深海に消えた。乗組員4人が死亡し13人が行方不明のままだ。
 当時、国が出した事故調査の結論は「波が原因」。だが関係者の間には釈然としない思いがくすぶり続けていた。
 2019年秋、一人のジャーナリストが偶然耳にしたこの事故に疑問を抱き、取材を始める。
 海難審判庁など役所の幹部、遺族、海に放り出されながらも生き残った乗組員――。インタビューに応じても、必ずしも取材に前向きとは限らない。生き残った乗組員らの口は重い。だが地道で実直なジャーナリストの姿勢が彼らの心を解きほぐし、一つ一つ重要な証言を取り出していく。

 沈没前、乗組員らは強い衝撃を感じている。ドスーン、バキッ。そんな奇怪な音も聞いている。
 「あれは波の音なんかじゃない」
 さまざまな証言が浮かび上がらせるのは、当時の不可思議な状況だ。
 事故直後、周辺の海は黒く染まっていた。積載していた燃料油が船底の破損で漏れ出したのか。だとすると、船は何かにぶつかったのか。だが付近は深海で、海底まで5キロはある。何らかの「動くもの」が衝突したのではないか――。
 著者はやがて「潜水艦の男」から証言を得る。
 海難事故の真相を追いかける謎解きと、緻密な構成、巧みな筆致にぐいぐいと引き込まれる。
 だが本書の魅力はそこにとどまらない。取材先に何度も足を運び、手紙を書き、公的文書を得るために情報公開請求を試みていく、そのひたむきな姿に心奪われるのだ。
 ジャーナリズムを志す、あるいは実践するすべての人に必読の書ではないだろうか。(講談社1800円)
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2023年03月29日

【オンライン講演】米の侵攻が日本の安保政策を大転換に! タリバン政権の現状 高世仁さん報告=鈴木賀津彦

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 昨年11月にアフガニスタンでタリバン政権下の現状を取材してきたジャーナリストの高世仁さん=写真=を講師に1月21日、JCJオンライン講演会「タリバン政権の現状と故中村哲氏のレガシー〜アフガン取材報告」を開いた。録画視聴を含めて約100人が参加した。
 
 11月14日から13日間取材。タリバン政権の幹部や様々な人にインタビューし、深刻な失業・生活困難、食糧不足で飢餓の危機にある現地を歩いた。高世さんは、「この危機はタリバン政権の権力復帰で起きたのではない」と強調。「現地では長く干ばつ被害による農村破壊が続いており、そこに国際社会からの制裁が追い打ちをかけた」と説明。また、「深刻な麻薬・薬物の蔓延は20年前のタリバン政権崩壊後、ケシ栽培が急増した結果だった」と語った。

地域に思い根付く<
 3年前に凶弾に倒れた医師の中村哲さん(享年73歳)の遺志が、現地の人々に受け継がれて、新たな灌漑プロジェクトが始動している様子も取材した。「中村先生は『政権は変わるが民衆は変わらない。政権を見るな。民衆とともにあれ』と教えてくれた。それを守って進みます」と語ったディダール技師は中村さんの愛弟子。中村さんの思いは地域に根付き、現地のタリバンも中村さんのプロジェクトを高く評価し、協力姿勢を打ち出していた。

ジェンダーに落差
 ジェンダーをめぐるタリバンの対女性政策は田舎では違和感を持たれていない。昨年12月の女子の大学教育禁止措置など、女性の教育・就労などの権利制限は広がるが、首都カブールでは女性たちが学びに取り組む。個人宅に少人数を集めた教室や、「研修組織」の認定で半公然の「地下学校」を取材できた。
 「学校」を黙認し、娘を通わせるタリバン幹部もおり、政権が一枚岩ではないことも分かった。 

復権したタリバン
 タリバンの基盤は人口の9割を占める農村部、大多数の国民がタリバン復権を受け入れたとみるべきだろうとも高世さんは分析する。
 「アフガニスタン侵攻はアメリカと世界の秩序の転機を招いた。巨額を注いだ日本にとり、『遠い国の関係のない話』ではない」と話し、「20年におよぶアフガン戦争とイラクで国力を消耗した米国は同盟国、特に日本に負担を求めた。それが今回の日本の安全保障政策の大転換をもたらした」とも指摘した。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2023年2月25日号

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