2025年10月15日

【月刊マスコミ評・放送】終戦80年 戦争扱った印象的番組=諸川 麻衣

 終戦80年、しかも排外主義の政治勢力が伸長というこの夏、戦争を扱った番組から特に印象的なものを振り返る。
 広島テレビ『テニアン 玉砕と原爆の島』は、広島・長崎への発進基地となったテニアン島で、米軍の攻撃下で日本人移民が集団自決した悲劇や、かつての滑走路が訓練場として再整備されている実態を伝えた。NHK『BSスペシャル 原爆裁判〜被爆者と弁護士たちの闘い〜』は、1963年の東京地裁の「原爆投下は国際法違反」という判決を、提起した岡本尚一弁護士や原告の被爆者5人の側から見つめ、後の国際司法裁判所の勧告的意見や核兵器禁止条約への影響も伝えた。

 同『ETV特集 ヒロシマからの手紙 “原爆”を綴ったアメリカ人たち』は、トルーマン大統領が、日本への追加攻撃を求める議員への手紙に多くの命を奪った後悔を綴り、原爆開発に従事した物理学者アルヴァレズも息子への手紙に罪悪感を綴ったことなど、核兵器を生み出した側の後悔や葛藤を紹介、それが「核兵器は二度と使用してはならない」とする“核のタブー”を形成していったのではないかと指摘した。
 同『ETV特集 昭和天皇 終戦への道〜外相手帳が語る国際情報戦〜』は、最近全文開示された、終戦時の外相・東郷茂徳の手帳から、1945年6月から終戦への歩みをたどった。スイスを舞台とした米情報機関と日本と間の和平工作は近年注目されているが、それが天皇の終戦への決断を促したことが一級の史料で裏付けられた。同『BSスペシャル 軍神と記者 特攻 封じられた本心』は、敷島隊の隊長として出撃し、死後「軍神」と崇められた関行男大尉が、出撃直前に海軍報道班員・小野田政に「死にたくはない。死ななければならないなら…それは最愛の妻のためだ」と語っていた事実を明らかにした。検閲によって関の本心を伝えられなかった小野田の後悔から、報道が戦意高揚に果たした役割を批判的に見つめた。

 BS−TBS『報道1930スペシャル 日本人と“軍隊”〜いま見つめる戦後80年の自画像』は、日独の戦後の「再軍備」の差に着目した。ドイツでは、軍は民主主義国家を守るもの、軍人は制服を着た市民とされるが、自衛隊は教本に軍人勅諭を載せ、靖国神社での慰霊にこだわる幹部もいる。民主主義国家での軍事力のあり方を、元統合幕僚長を含む論者たちが論じた。個々の意見には賛否があろうが、意欲的な問題提起であった。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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2025年10月14日

【JCJ賞】大賞に安田浩一氏 差別偏見あおる排外主義に警鐘=JCJ賞事務局

 JCJは2025年の第68回JCJ大賞に、関東大震災で朝鮮人や中国人、そして方言などで疑われた日本人を含んだ軍や警察、自警団による虐殺の資料や新たな記録を掘り起こし、なぜ虐殺が起きたのかに独自の地道な取材の積み重ねで迫った安田浩一氏の『地震と虐殺 1923−2024』を選んだ。
 また、JCJ賞には中国新聞社の被爆80年企画「ヒロシマドキュメント」、琉球新報社の沖縄戦80年企画「新しい戦前にしない」キャンペーン、鹿児島テレビ放送のドキュメンタリー「警察官の告白」に代表される鹿児島県警情報漏洩事件をめぐる一連の報道、ネットニュースの世界で活動する調査報道グループ・フロントラインプレスと調査報道サイトのスローニュース社による、選挙運動費用や政治資金を巡る一連の報道と「選挙運動費用データベース」構築の4点を選出した。

 さらにJCJ特別賞として、戦下のガザで国際NGO「国境なき医師団」の緊急対応コーディネーターとして数百人の人道医療援助チームを指揮した萩原健氏の6週間の活動記録『ガザ、戦下の人道医療援助』を選んだ。

 大賞の『地震と虐殺 1923−2024』で、著者・安田氏の取材は虐殺の現場を訪れることを含め徹底的だ。その足跡は首都圏の東京、千葉、埼玉、神奈川のみならず、大阪や福島など広い範囲にわたる。虐殺はデマによる人災で、そのデマは警察が流し、新聞もまた政府、国、軍と共に扇動者の側にいた。日本で跋扈する不都合な歴史の否認と排外主義は、差別と偏見を煽って広がる。私たちは「虐殺の時代」を繰り返さない社会を作る、との思いを共にする。

 中国新聞社は被爆80年企画を、当時13歳の女学生が軍都の日常を綴った未公開日記から始めた。だが記述は8月5日で途絶える。被爆者の5人にひとりと言われる朝鮮半島出身者の原爆被害の実相にも迫った。メディアが米軍のプレスコードで沈黙を強いられる中、懸命に記録を残そうとした画家や作家、歌人・俳人らの存在を報じた。ノーベル賞に結実した原爆被害による人生の破壊に抗う被爆者の格闘を伝えた。被爆地の新聞社の覚悟と取材班の努力に敬意を表する。

 琉球新報社は「新しい戦前にしない」を沖縄戦80年キャンペーンの「表題」として「戦さ世」拒否の信念を示した。第5部に至る長期連載は、1931年の満州事変から顧みて、沖縄の人々が軍国日本の南方進出に組み込まれ、アジア侵略の一翼を担った加害責任にも向きあった。見開き紙面で展開の歴史地理年表は、沖縄を拠点にアジアで何がなされたか、軍による民間人の集団強制死が南洋諸島や満州などでも繰り返されたことを明らかにした。記者が聞く家族の中の沖縄戦は出色の企画。勤労奉仕や地上戦、米軍の接収などを身近に浮かび上がらせた。

 鹿児島県警が組織ぐるみでもみ消そうとしたのは、警察官やその身内のわいせつ行為やストーカー、盗撮事件等々。腐敗を公益通報した警察幹部は逮捕された。鹿児島テレビ放送は、もみ消し発覚後の警察権力監視報道を継続して取り組み、「警察官の告白」など、映像の強みを生かした一連の番組報道で問題の本質を詳らかにした。

 フロントラインプレスとスローニュースは、与野党議員の政治とカネの問題を独自に掘り下げて報じるとともに「選挙運動費用データベース」を構築。選挙費用の収支報告書をネットで閲覧できるようにして公開を開始した。スローニュースは「日本で初めての試み」としており、フロントラインプレスの、国と契約がある企業による自民の国会議員が代表の支部への選挙直前の献金問題や、自分の政治団体に寄付をしたうえで還付申告し、税額控除を受ける手口などの報道成果とあわせ評価した。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
 

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2025年10月13日

【好書耕読】烏谷昌幸『となりの陰謀論』━国際政治をも動かす陰謀論=岩下 結(「本屋とキッチン よりまし堂」店主)

 この参院選における参政党の躍進は、多くの市民を戦慄させた。それは彼らの極右的主張のみならず、荒唐無稽な陰謀論や似非科学(「メロンパン」から「文化マルクス主義」まで)を公然と語り、メディアやSNS上で、どれほど否定されようとも動じない様に、異様さを感じたからであろう。
 陰謀論や似非科学は以前から存在した。とりわけコロナ禍以降、ワクチン懐疑論やマスク不要論を通じて、政治的志向を持たないように見えた隣人が、突然陰謀論を語り始める恐怖を、多くの人が経験しているはずだ。

 そうした危機感に対応したタイムリーな書が、本書である。著者は、陰謀論に陥る人を情報弱者扱いするのではなく、誰にもある認知的バイアスの帰結と捉える。とりわけ「世界をシンプルに解釈したいという欲望」と「大切な何かが奪われる感覚」とが作用している。
 いつの時代も陰謀論は存在したが、現在の危機は、それを動員ツールとして活用する「陰謀論政治」が、国際政治をも動かす動因となったことである。
 トランプ再来を招いたQアノンは、その代表格であり、日本でも無数の亜種を生んでいる。それは「移民による侵略」といった排外主義言説と結びつき、民主主義社会を蝕む。非合理的な陰謀論を信じるか否かが、集団内で異論を排除する「踏み絵」として機能するとの指摘も重要だ。
 陰謀論者はメディアや知識人を敵視し、否定されればされるほど、「マスコミは支配されている」との確信を強めて いく。

 ではどうすればよいのか? 明確な処方箋はないが、終章で紹介されるフィリピンのドゥテルテ政権によるメディア攻撃を受けた記者らの例では、報道・法曹・学術・NGO等の重層的ネットワークによって偽情報に対抗する道が示される。日本においても市民社会の総力で臨むべき喫緊の課題であろう。(講談社現代新書900円)
                 
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2025年10月12日

【焦点】49年までに米に代わり覇権国 台湾侵攻、共産党体制に動揺 米ロに次ぐ核大国 鈴木隆講演=橋詰雅博

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 「習近平氏は建国(中華人民共和国)100周年の2049年までに米国に代わって中国が世界の覇権国になるのを本気で追求しています」「台湾有事が起きる可能性は低いと思います。武力統一に踏み切れば、共産党体制を動揺させると習氏は考えています」――。中国の習近平国家主席を長年研究する大東文化大学東洋研究所教授の鈴木隆氏=写真=は8月23日、JCJオンライン講演に出演。対米関係と台湾問題の2つの重大テーマについてこう指摘した。

 集団指導体制、高度経済成長、人口増加、この3つが終焉した中国の14億人リーダー、習近平国家主席を@秩序や規律を重んじる保守主義者、A実戦経験のない軍人政治家、B25年間の地方指導者としてのキャリアの持ち主と鈴木氏は分析した。3つの顔≠ェある習主席の政治信条は、「父親が元副首相だったゆえ血統・門閥に対する強い自負、先輩指導者から受け継いだ責任の遂行、中国の歴史、文化、伝統の重視」と鈴木氏はいう。

民主化運動を抑制

 そのうえで政治の基本は@中華民族の偉大な復興、A民主化運動の抑制、B領土拡大と海洋進出の積極化―鈴木氏はこう述べた。
 Aは共産党体制の永続には不可欠な要素であり、Bは台湾統一や東シナ海の尖閣諸島(中国名、釣魚島)、南シナ海の領有権を念頭に置いている。これにより@の偉大な復興すなわち「最大の資本主義国家の米国を最大の社会主義国家の中国が21世紀半ば(49年)までに追い抜くことが実現できる」と鈴木氏は語った。

 最近、権力の低下、健康不安、失脚といった習主席を巡る諸説が流れているが、鈴木氏は「そんなことない」と否定。習主席は世界最高水準の医療を受けており、健康に問題がないから高地、チベット自治区成立60周年式典に8月21日出席したと鈴木氏は見ている。
さらに習体制の政治と軍事両面を含む情報を@歴史、A構造、B制度、C政策、D組織など7項目に分けて検証した鈴木氏は「権力低下も失脚もない」とした。

独裁体制4期目も

 となると習独裁体制はいつまで続くのか。「オーストラリア元首相で駐米大使のケヴィン・ラッド氏は、27年から32年の4期目もトップの座にとどまると最新著書で書いています。私もその可能性は高い」と鈴木氏は述べた。
中国による台湾侵攻について鈴木氏は「台湾が独立宣言しない限り武力発動は考えにくい。28年の総統選挙に向けてSNSを用いた工作や軍事的な圧力を増大させて、中国に親和的な総裁誕生を狙う」と予測した。

日中友好は難しい

 中国の核戦力増強に関し「ロシアのウクライナ侵攻でプーチン氏の核の脅しが抑止力として有効に働くという教訓を中国は得ました。核弾頭保有数は30年までに1500発に増えるでしょう。中国は米ロに次ぐ核大国になる」と鈴木氏は説明した。
軍拡の日本、軍備増強の中国、現在は日中の友好関係を築くのは困難としたが、鈴木氏は「来日した中国の若者に権力の威圧・脅威がなく普通に暮らせる社会があることを見てもらう。こうした民主化のタネをまけばポスト習近平時代≠ノ新しい可能性が開けるかもしれません。やらないという選択肢はない」とアドバイスした。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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2025年10月11日

【フォトアングル】「原爆と人間展」、被爆者が描いた絵40点展示=8月24日、横浜市西区の新都市プラザ、伊東良平撮影

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 被爆者が描いた絵で原爆の被害を伝える「原爆と人間展」が8月22日開幕。会場では24日まで、多くの死体が浮かぶ川や変わりはてた母親にすがる子らの40点の絵に加えて被爆当時の着ていた衣類などが展示された。神奈川県原爆被災者の会などで作る運営委員会が主催。会場では日に2回、被爆者が体験を語る時間が設けられ、撮影日には14歳の時に広島で被爆し、10人の身内を失った94歳の松本正さんが被爆時の様子や思いを語った。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号

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2025年10月10日

【ジャーナリスト講座】記者の仕事明かします 講座開幕=猪股修平(ダイヤモンド編集部、JCJ講座卒業生)

 ジャーナリスト志望の学生向けにJCJが主催する「ジャーナリスト入門講座」の第1回が8月30日、東京都千代田区の東京しごとセンターで開講した。対面とオンライン合わせて学生を中心に約30人が参加した。

 初回は記者座談会の(上)で「記者の仕事、明かします。若手・中堅記者による本音トーク」と題し、例年とは一風変わった形式の講座で幕を開けた。ゲストにはMBS毎日放送で記者や人事の仕事を担当した藤澤七海さん、元毎日新聞記者で現在は弁護士ドットコム記者の一宮俊介さんを招き、筆者が司会進行を務めた。
 2020年入社の藤澤さんは神戸支局が振り出し。新型コロナウイルス禍において外来患者を受け入れ続けた医院の活躍を記録したリポートなどを手掛けた。その後、大阪府警キャップとして堺市の公務員の不正をスクープする活躍を見せた。

 報道以外の部署にも勤務した藤澤さんは「ジョブローテーションが前向きな機会としてある。報道の経験が生きることもあり、メディアの立ち位置を俯瞰して見られるようになった」とテレビ局ならではのやりがいを紹介した。

 一宮さんは毎日新聞青森支局を振り出しに、福岡、宮崎など地方でのキャリアを長く歩んだ。東京本社に異動後、支局記者の減員によって地方からの問題提起を全国紙が担いづらくなった点を懸念。記者としての専門性を高めることや家庭との両立を模索した末、現職に移った。
「全く予期していないものに出会って、それを楽しみながら伝えていけるのが記者の醍醐味だ」と業界を走り続ける理由を教えてくれた。
 質疑応答では「過去の取材経験が今の取材に生きているか」「ローカルメディアを受ける際にやはり地元愛が必要なのか」など、様々な切り口の質問が学生たちから相次いだ。この中から将来のジャーナリストが現れることを願ってやまない。

 本講座はマスメディア業界への就職やジャーナリストを目指す学生を対象に「JCJジャーナリスト講座」として2011年から毎年開く恒例のもの。本年からはよりジャーナリスト志望の学生の需要に応えるため「ジャーナリスト入門講座」と改題し、学生と世代が大きく違わない若手、中堅記者を主に講師として招聘する。11月にかけて開く講座は全7回で、すでに例年を大きく上回る40人以上の応募があった。

 実は筆者自身も学生時代に講座を受講していた。記者を目指そうにも、当時は五里霧中だった。それでも今、記者として歩めている。JCJの講座で多くのジャーナリストや同じ志を持つ学生と出会えたからに他ならない。今度は企画側として、ジャーナリストを目指す後輩たちの背中を押し続けられれば幸いである。

 10月の講座予定は@毎年多くの内定者を輩出する元毎日新聞記者・高橋弘司さんによる就活生向け講座「完璧なエントリーシートが内定への“試金石”」が10月4日A災害時の性暴力問題を取り上げた連載「なかったことにしたくない―災害時の性暴力」で疋田桂一郎賞を受賞した神戸新聞の名倉あかり記者の講座が10月25日となっている。
  受講のお申込みはPeatixのページから。https://kouza2025.peatix.com/
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
 



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2025年10月09日

【JCJオンライン講演会】イスラエルとパレスチナ2国家共存は現実的な解決策なのか 講師:大治朋子さん(毎日新聞専門編集委員)10月25日(土)16時から17時30分

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■開催趣旨
 イスラエルによるパレスチナ自治区ガザでのジェノサイドに対し国際社会の批判が高まっている。9月の国連総会では、パレスチナ国家承認とイスラエルとの2国家共存を支持する「ニューヨーク宣言」を日本も含む142カ国が賛成多数で採択。これに続き仏、英、加、豪などG7を始めとする各国がパレスチナ国家承認を表明し、その数160カ国、国連加盟国の8割にも達した。
 イスラエルへの制裁の動きもある。一方、トランプ米政権は提示したガザ和平案合意に前のめり。問題は2国家共存で中東に平和が訪れるかだ。また米に忖度しパレスチナ国家承認を拒み続ける日本はどうすればいいのか。
 中東情勢を長年ウオッチする毎日新聞専門編集委員の大治朋子氏が徹底解説する。

■講演者プロフィール:大治 朋子(おおじ・ともこ)
毎日新聞専門編集委員。東京社会部、ワシントン特派員、エルサレム特派員などを経て現職。社会部時代の2002年と2003年、個人情報不正使用に関 する調査報道で新聞協会賞を2年連続受賞。米国による「対テロ戦争」の暗部をえぐる調査報道で2010年度ボーン・上田記念 国際記者賞受賞。テルアビブ大学大学院(危機・トラウマ学)などを修了。著書に『歪んだ正義 「普通の人」がなぜ過激化するのか』『人 を動かすナラティブ なぜ、あの「語り」に惑わされるのか』など。最新刊に『「イスラエル人」の世界観」。専修大学文学部ジャーナリズム学科などで客員教授を務める。
1973年、静岡県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業、慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻、博士課程退学。専門は政治学、中国政治。日本国際問題研究所研究員、愛知県立大学外国語学部中国学科准教授を経て、2023年4月より現職。ロシア国立サンクトペテルブルグ大学訪問研究員などを歴任。

■zoomにてオンライン。見逃し視聴用配信有り。

■参加費:500円
参加希望の方はPeatix(https://jcjonline1025.peatix.com)で参加費をお支払いください。
 (JCJ会員は参加費無料。office(アットマーク)jcj.gr.jp に支部・部会名を明記の上お申し込み下さい)

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272–9781(月水金の13時から17時まで)
      https://jcj.gr.jp/
■JCJ会員の方はJCJホームページ・ユーザー登録をすることで記録動画をご覧になれます。
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2025年10月08日

【映画の鏡】「逮捕報道中心主義」を覆す『揺さぶられる正義』無罪判決の続出に問われるメディア= 鈴木 賀津彦

 
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 監督の上田大輔さん(46)は関西テレビの報道記者。上田記者が息子を自転車に乗せて登園する姿からドキュメンタリーは始まる。取材記者である自身にもカメラを向け、自社を含め過去の「逮捕報道」の呪縛に苦悩する自らの取材姿勢を問うていく。
 すごい記者がいるもんだ!「無実の人を救う弁護士を志すも、有罪率99・8%の刑事司法の現実に絶望し、企業内弁護士として関テレに入社。しかし一度は背を向けた刑事司法の問題に向き合おう」と37歳で報道記者になった。その後取材を始めた「揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome=SBS)」の検証報道は8年に及ぶ。

 2010年代、赤ちゃんを激しく揺さぶって虐待したと疑われ、母親や父親、祖母らが逮捕、起訴された事件をメディアは「虐待」と報じた。虐待をなくす正義と冤罪をなくす正義が激しく衝突し合った。そのSBS裁判で近年、無罪判決が相次いでいる。

 「冤罪事件」の捜査は批判はしても、逮捕時に容疑者の顔を晒し「悪者ぶり」を強調し報道したことを反省するなど稀な業界の現実。「無罪判決をしっかり報じることで十分ではないのか。そんな誘惑に駆られる。でも、それだと一旦起訴したら引き返さない検察と何が違うのか。これは自分には避けては通れない宿命のようにも思える」と上田監督は語る。

 「上田さん、思いませんか?一回こいつ黒やなって思われたら白に塗り替えるのは無理や」。無罪判決を勝ち取った人からの問いに悶々とする。9月20日から公開中。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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2025年10月07日

【日韓学生フォーラム】現代史の現場を歩く ソウルで開く=古川英一

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      李富栄さん(写真左)を囲む日韓の学生たち=8月23日、ソウルで

 今回で10回目を迎えた日韓学生フォーラムは、ソウルで8月22日から3日間、ジャーナリストを目指す日本と韓国の学生など約30人が参加した。
 世界を驚かせた昨年12月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の非常戒厳宣布と、わずか6時間の解除、その背景にある韓国市民の民主主義を守る意志の強さを、現代史の現場を歩きながら学ぶのが狙いだ。

市民が株主の新聞

 まず訪れたのはハンギョレ新聞社。長年の軍部独裁から民主化の転換点になったのが1987年。ハンギョレ新聞は、市民が株主になり、翌年立ち上げた。編集幹部は「民主化は一回限りの勝負ではない。だからこそ正しい情報を伝えるメディアが必要だ。政権にノーと言える新聞が一つでもあったならという市民の希望がハンギョレには託されている」と語った。昨年12月は「社内に、政権側に戒厳令を出すなど何らかの動きがあるのではないか、その時は標的になるといった危機感があった」と明かした。
       
 夕方、足を運んだ戒厳令騒動の舞台の国会議事堂にはあの日、多くの市民が駆けつけ、素手で軍隊と対峙した。裏口の柵を乗り越えて議事堂に入った国会議員もいた。今は、その周辺を市民がゆったりと通り過ぎていた。

民主化運動の発火点

 民主化運動記念館はかつて、警察の治安施設で民主化運動に携わった多くの人たちを拷問し「北のスパイ」にでっちあげた場所だ。87年6月の民主化運動は、この施設でのソウル大学の学生,朴鍾哲(パク・ジョンチル)さん拷問死亡事件が導火線になった。学生たちは、パクさんが拷問された部屋などを見て回った。
「ここで行われた拷問の手法は日本の植民地時代から引き継がれた」。学生たちは一瞬その言葉に驚いたようだった。話してくれた元新聞記者の李富栄(イ・ブヨン)さんは民主化運動の伝説的記者。「日本では学生運動が持続せず政権交代はなかったが、韓国では学生運動が進歩運動と結びつき、社会に影響を与え続けている」と指摘。「歴史学が歴史を記すように取材したことを伝えるのが記者」と学生たちを励ました。

日韓学生の結びつき

 今回のフォーラムは韓国の学生たちが中心になって企画した。その一人は「韓国現代史を貫く事件の影響を少しでも理解することができたら本当に嬉しい」とメッセージを寄せた。    
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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2025年10月06日

【出版界の動き】ガンバレ! 出版振興に向けての地道な取り組み

◆8月期・紙の出版物630億円(前年比5.0%減)
 その内訳は、書籍365億7400万円(同0.1%減)、雑誌264億7900万円(同10.9%減)。雑誌では月刊誌が同8.4%減、週刊誌が同23.8%減。返品率は書籍が36.6%(同1.2%減)、雑誌は46.3%(同0.3%増)。
 書店店頭での売れ行きは、書籍が5%増で、文芸6%増、文庫本8%増、ビジネス書11%増、学参5%増、児童書4%増、新書本4%増と、主要ジャンルすべてで前年を上回った。雑誌は定期誌が3%減、雑誌扱いコミックスが8%減、ムックは15%増。
 なお、出版科学研究所による上記の販売金額は取次ルートのみで、近年増加している出版社と書店の直接取引や出版社による直接販売は含まれていない。電子出版市場は1月と7月の年2回発表される。

◆書店なし上郡町とトーハンが協定
 書店がない自治体の解消を目指すトーハンと兵庫県上郡町が、書店の創業支援や地域の活性化にむけ、ともに取り組む「地域連携協力に関する協定」を結んだ。トーハンによると県内では初めて、全国では7例目になるという。
 上郡町内では2018年に店舗を構える書店が姿を消し、「無書店自治体」になった。図書館はあるが、町民からは「本を買う機会がほしい」という声が根強い。上郡町とは昨年春から話し合いを始め、トーハンが町主催の催しに移動販売車を派遣するなど、関係を築き上げてきた。協定では、教育、地域の活性化、産業振興、書店の創業など7項目で協力する。

◆“本のまち”八戸「ブックフェス」盛況
 「本のまち」を掲げる青森県八戸市で、本に親しむ毎年恒例のイベント「ブックフェス」が
9月最終日の土日に実施された。全国でも珍しい公営の書店、八戸ブックセンターが毎年開いている。市の中心部にあるブックセンターと近くの市の施設などに、市内外の書店が古本を販売するコーナーや、全国の小規模な出版社がおすすめの本を展示・販売するコーナーが設けられた。訪れた人たちは、本を次々に手に取って買い求めた。

◆神保町は<世界で最もクールな街>
 世界各地の活気に満ちた魅力的な街を選出する、タイムアウトの「世界で最もクールな街」ランキングが発表された。2025年版では、東京の神保町が堂々の第1位に輝いた。
 この調査は、タイムアウトの現地ライターや編集者による広範なネットワークを通じて得られた地域の知見と内側からの専門的視点に基づき、世界各都市の街を評価したもの。基準となったのは、文化・コミュニティー・住みやすさ・ナイトライフ・飲食店・街のにぎわい、そして「今らしさ」といった要素である。その結果、神保町は「世界で最もクールな街」という枠を超え、「世界で最も活気にあふれた街」として頭角を現した。
 東京の知識人たちに何世代にもわたり愛されてきた神保町は、歴史ある大学街であり、書店好きにとっての楽園だ。東京のビジネス街からほど近い距離にありながら、独特の雰囲気を保っている。最大の魅力は約130軒に及ぶ古書店で、「小宮山書店」や「北沢書店」といった老舗もその中に含まれる。これらの店の多くは、昔ながらの喫茶店やカレー店と同じ建物に入った、やや古めかしい低層の雑居ビルに軒を連ねている。

◆「次にくるマンガ大賞 2025」1位は‥‥
 「次にくるマンガ大賞」は、これからのブレイクが予想される作品を発掘し紹介するという趣旨で2014年に創設された賞。一般ユーザーからの投票で大賞が決定する。このほど結果が発表された。コミックス部門の1位は、西修原作による宇佐崎しろ「魔男のイチ」、Webマンガ部門の1位は住吉九「サンキューピッチ」が受賞。
 「魔男のイチ」は、山暮らしをしている狩人の少年・イチを主人公に描く“魔法ハンティングファンタジー”。週刊少年ジャンプ(集英社)で連載中。「サンキューピッチ」は、少年ジャンプ+で連載中だが、「ハイパーインフレーション」の住吉が描く野球譚。1日3球しか全力投球できない天才投手と、野球部員たちの物語だ。

◆ナンバーナイン、漫画出版に参入
 9年ほど前に創業したナンバーナインは、すべての漫画を電子コミック配信するデジタル配信サービスを業務としてきたが、「漫画で待ち遠しい未来をつくる。」をモットーに掲げ、自社で発掘・育成するオリジナル作品の価値を最大化するため、紙書籍出版事業へ新規参入する。新レーベル「No.9 Comics」「Blend Comics」を創刊し、第一弾5作品を10月28日に発売する。
 今回の紙書籍出版事業への参入は、デジタルでヒットした作品や有望なクリエイターの活躍の場をリアル書店へと広げ、デジタルとリアルの両軸で作品を盛り上げていくことを目的としている。

◆「陰謀論的思考の傾向」に差出る
 スマートニュース社の社内シンクタンク・スマートニュース メディア研究所は、日本国内の政治的・社会的分断や、人々のメデイア接触状況を概観する「スマートニュース・メディア価値観全国調査」(郵送方式)の結果を公表した。
 主なニュース情報源に、ユーチューブなどの動画系SNSを多く利用している人ほど、陰謀論的な思考をする傾向があり、新聞を多く利用している人は逆の傾向があるという。調査では陰謀論的思考の強さを測るため、5項目の内容について、どの程度正しいと思うかをそれぞれ5段階で尋ねた。
 「思う」と答えた割合が、最も高かった項目は「一般の人には決して知らされない、とても重大なことが世界で数多く起きている」の87%、最も低かったのは「政府当局が、すべての市民を厳重に監視している」の22%だった。
 ここには主なニュースの情報源として、ユーチューブ、インスタグラム、TikTokを週4日以上見ると答えた人、すなわち動画系SNSでニュースを視聴する頻度が高い人ほど、陰謀論的思考が強い傾向がみられた。一方、主に新聞を週4日以上見ると答えた人では、陰謀論的思考が薄かった。
 陰謀論的思考は、社会的孤立や生活上の不満と結びついている可能性があり、特定の層に限られた現象ではない。特に動画プラットフォームでは、視聴履歴に基づいて感情的・扇情的なコンテンツがアルゴリズムによって優先的に表示されやすく、それが陰謀論的な認識を強化する構造になっている可能性がある。
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2025年10月05日

【リレー時評】 なぜ日本は、対米開戦をしたのか=藤森 研(JCJ代表委員)

 戦後80年の夏。テレビ各局は戦争関連の番組を競作した。NHKスペシャル「シミュレーション 昭和16年夏の敗戦」も、評判になった。
 日米開戦前、若い頭脳を集めた内閣の「総力戦研究所」が、鉄鋼生産、石油など彼我の国力差を机上演習した史実を、ドラマとドキュメンタリーで描いた番組だ。
 計算の結果、日米の国力比は少なく見ても1対12。仮に南方の石油を確保しても運ぶ船が足りなくなる。彼らの報告は、「日本必敗」だった。

 だが東条首相は、国力比、天皇の意向、陸、海軍の思惑、中国撤兵を巡る日米交渉などに煩悶した末、「多大な犠牲で勝ち取って来たわが国の権益の一切を捨てることはできん」と対米開戦を決断する、というのがドラマのあらすじだ。
 歴史学者の加藤陽子は『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』で、こうした国力の絶対的な差を「日本の当局はとくに国民に隠そうとはしなかった。むしろ、物的な国力の差を克服するのが大和魂なのだ」と精神力を強調した、と書く。

 経済史学者の牧野邦昭は『経済学者たちの日米開戦』で、秋丸次朗中佐らの陸軍省戦争経済研究班(秋丸機関)に注目する。有沢弘巳ら一流の経済学者を動員し、各国の経済抗戦力を調べた組織だ。牧野によれば、「秋丸機関だけでなく、陸軍省戦備課、総力戦研究所の演練など『対英米開戦の困難さ』を示す研究は無数にあった」という。
 当時の指導者が直面していた選択肢を、牧野はこんな風にまとめている。
〈米国の石油禁輸などで日本は2~3年後には「ジリ貧」になる。強大な米国と戦えば、非常に高い確率で日本の致命的な敗北を招く(ドカ貧)。しかし非常に低い確率だが、もし独ソ戦に短期間でドイツが勝ち、英国が屈服すれば、米国は講和に応じるかもしれない〉
 他力本願の賭け。牧野は武藤章陸軍省軍務局長の言葉を紹介する。
 「俺は今度の戦争は、国体変革までくることを覚悟している。(しかし)追い込まれてシャッポを脱ぐ民族は、永久にシャッポを脱ぐ民族だ」

 東条は「過去数十万の犠牲」を開戦の理由にした。だが開戦は、その数十倍の犠牲を生んだ。
 では、どうすべきだったのか。“後世の論”は承知の上で、私は中国撤兵だったと思う。加藤も書くように、「日本が戦争をしかけて、中国の対日政策を武力によって変えようとしたことからすべては始まっている」。

 敗戦は、日本の謀略での満州占領に始まる15年戦争の帰結だ。石橋湛山の「満蒙放棄論」などに耳を貸さず、指導者は国策を誤り続けた。メディアも片棒を担いだ。
 そんな痛苦の歴史を戦後日本は克服しようとして来たはずだ。しかし今、自民党実力者の麻生元首相は台湾での講演で日台米の抑止力強化を訴え、「戦う覚悟」を強調する。その言葉の軽さに、唖然とする。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号
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2025年10月03日

【月刊マスコミ評・新聞】各紙は「政権交代」一顧だにしない=白垣 詔男

 石破茂首相が、9月7日、辞意を表明した。翌8日の朝刊各紙は、「大ニュース」として紙面を大展開した。しかし、そこには、当然のように、これからも少数与党の「自民党主導の政権」が前提で、各紙の社説でも「政権交代」はおろか、野党の動向については全く触れていなかった。

 「国民不在の党内抗争」(朝日)、「けじめ遅れ混乱深めた」(毎日)、「自民再建へ正念場の総裁選に 連立拡大で政治の安定を図れ」(読売)、「政治停滞招いた責任は重い」(西日本)と、社説の見出しを見る限り、軸足は「自民」から1ミリも動かしていない。
 読売に至っては「(通常国会で)政府・与党が野党の手柄争いに翻弄(ほんろう)された結果…政治は混乱した。/秋の臨時国会以降、そうした混乱を繰り返さないためには、連立の枠組みを拡大し、衆参で過半数を得ることが欠かせない」とまで踏み込む。「自民からの発想」以外、考えられないのだろう。自民が混迷を極めている状況を見せられても、読売は「自民支持」をあからさまに見せつける。

 また、各紙とも、今回の参議院選で各党が掲げたスローガンを、どう実現するのかについては触れずじまいだ。与野党協議を進めて、国民に対する約束でもある「給付金支給」(自公)、「消費税などの減税」(各野党)を一刻も早く実現するのが、「国民本位の政治」、選挙で選ばれた議員の最初の仕事ではないか。
 自民の迷走を横目で見ながら、しかし、自らの選挙スローガンの実現にも動かない野党各党について、何も言わないのは、「自民党の政局」以外、考えも及ばないからだろう。

 そこに触れないのは、新聞各紙が、選挙スローガンは「叫ぶだけの空約束」と見ていることの証左ではないか。「選挙の際のスローガンと実の政治活動は別物」といった、建前的な考え方を、政治家と同様に新聞社もしていると言外に言っているようなものだ。
 これでは、国民・有権者が選択した各党の選挙公約を、ないがしろにするもので、政治不信に拍車をかける。
 政治は与党ばかりが進めるものではないのは、言うまでもない。しかし、8日の各社の社説を読む限り、野党をなおざりにしているとしか思えない。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号

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2025年10月02日

【おすすめ本】山田 健太『転がる石のように 揺れるジャーナリズムと軋む表現の自由』―表面の時流に流されず 現場から説く鋭い定点時評=藤森 研(JCJ代表委員)

 戦後80年。日本の言論状況はどう変遷してきたのか。
 「約20年ごとに、構築期・躍動期・挟撃期(権力と市民双方からのメディア攻撃)・忖度期にま とめられる」と、著者は さらりと書く。テレビ誕生、ベトナム報道、報道 の人権侵害、安倍一強……。思えば、なるほどと 頷(うなず)かされる。

 本書は、琉球新報と東京新聞に載った、著者の時評の2020年以降分をまとめたもので、それ以前は既に二冊の本となって世に出ている。長期間、たゆまず現場を見続けてきた「定点観測」か ら紡ぎ出す論評は、優れて帰納的だ。
 著者は言論法学者。その視点からの指摘には、時々ドキリとする。
 女子プロレスラーの木村花さんの自殺では、SNSで中傷した者がたったの科料9千円。軽すぎないかという世論に、侮辱罪は重罰化された。
 著者は批判的だ。「侮 辱罪は名誉棄損罪の弟分のような存在だが、事実の摘示がない抽象的な表現を、幅広く対象にする代わりに、罪を極力軽くし、バランスをとってきた」。安易に変えていい のか、という原則論からの指摘である。

 再選前のトランプ氏へのアカウント停止にもいち早く懸念を示した。「『トランプだから』を 許すことが、次は自分たちに返ってくる」と。
 表面の時流に流されないこうした指摘こそ、貴重な、学者の本領だ。

 本書の題名はボブディランの詩。「転がる石」 は路傍の石ころで、 メディアの暗い現状を暗示する。上から目線のマスコミ批判に耽る学者が多い中、報道現場の苦労をよく知る著者であればこそジャーナリズムの進む明るい道も、勝手な願望だが示してほしかった。
(田畑書店2500円)
             
「転がる石のように」 (1).jpg

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【おすすめ本】 小林美穂子・小松田健一『桐生市事件 生活保護が歪められた街で 』―「命の砦」を守る闘いの記録=白井康彦(フリージャーナリスト)

 暴かれた「強者の闇」 を単行本にまとめて歴史的資料にする。ものの見事に実現した労作だ。生活保護制度は紛れもなく「命の砦」。ところが世 間には「なまけて生活保護を利用している人が多い」といった誤解が広がっている。

 誤解をさらに強めたのが、2012年に民放テレビや週刊誌などが展開した「生活保護バッシング報道」。これによって「生活保護を利用しようとしている人には厳しく接して、なるべく利用させないようにすべきだ」と考える自治体担当者は一段と増えた。
 その考え方の「行きついた先」に思えるのが群馬県桐生市の生活保護行政だった。利用者は2011年度が1163人、2022年度は547人と、ほぼ半減には驚く。

 行政職員による具体的な手口も▽利用者に一日千円ずつしか渡さない▽多くの利用者からハンコを預かって無断で押印▽担当部署に多くの警察官OBを配置して申請しようとする市民を威圧▽苛烈な就労指導・家計管理指導▽利用者の親族への無理やりの援助要請―などと凄まじい。
 小林美穂子さんは生活困窮者の支援活動で息長く活躍中。「命の砦を守 らねば」の想いは強烈である。小松田健一さんはこの事案に東京新聞前橋支局長として直面し、その重大性をしっかり受け止めた。

 桐生市の闇を暴く契機を作ったのは、行政の暴走を阻止しようとした司法書士の仲道宗弘さんの地道な活動。その仲道さんが昨年3月に急死。遺志を継いだ著者2人の姿勢に頭が下がる。(地平社1800円)
     
「桐生市事件」 (1).jpg

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