2025年08月03日

【おすすめ本】 英(はなぶさ) 伸三(しんぞう)『老街(ラオジエ)茶館 中国江南を撮る 』―茶館に集う中国庶民の姿 生き生きと捉える=中村梧郎(JCJ代表委員)

 上海西郊・朱家角鎮の倶楽部茶館に始まり、永昌鎮の南に至る地域の36軒。中国の文人墨客や庶民に愛された茶館は憩いの場であり、情報交換や商談の場でもあった。

 亭主は客の大きな茶碗に安物の熱い茶を注いで歩く。朝四時に開店すると席はすぐに埋まり、十時頃に客は出てゆく。麵包を頼む者もいるが、多くは茶をすするだけ。そうした庶民の姿を写真は生き生きと捉える。
 「人を撮るのが好き」という彼のスナップは、カメラの存在を人々に気づかせない。だが隅々にまで届く視線が完璧な構図を掴み取る。
 本書の編集者をして、「一ミリのトリミングも許さない写真」と驚嘆させたほどだ。こうしたフレーミングと素早いシャッターはアンリ・カルティエ・ブレッソンのそれを想起させる。

 1967年に始まった毛沢東の「文化大革命」 は中国各地に深い傷を残した。宣伝句が今も壁に残る。当時、北京放送は ウェンファー・ダア・グ ーミン(文化大革命)と 叫び続けていたものだ。
 作家・老舎に「茶館」 という名作がある。清朝の激動期、茶館を懸命に守る主人を描く。だが老舎は文革の迫害で入水死した。苦難をくぐり抜け三百年続いた茶館群は、改革開放の21世紀前後には消える。

 1993年から撮ってきた英伸三の写真に、添えられるエッセイは中国語が堪能な愛子夫人のもの。本書は日本と中国にとり貴重な歴史遺産ともなりえよう。(東京印書 館7200円)
     
「老街茶館」.jpg

    
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2025年08月01日

【支部リポート】東海 平和への思い新たに 1月、山本事務局長が誕生=丹原美穂

                      
5面支部リポート写真@JCJ東海通信6月号1写真.png

 JCJ東海は1月の総会で長く事務局長を務められた加藤剛さんが退任され、山本邦晴・新事務局長を選出。共同代表の古木民夫さんが副代表に退かれ、新体制がスタートした。

 平和への思いを新たに毎月の「JCJ東海通信」=写真上=発行や、関連団体の2・11、5・3メーデー、11・3イベントへの協力、情報共有に取り組んでおり、良いメディアを応援しようと、JCJ賞の推薦への取り組みも試みた。
 1月の総会では、丹原が参加した「馬毛島上陸」を報告し、参加者と「基地と暮らし」の問題を考えあった。
 憲法記念日の5月3日、愛知県では「九条の会」「平和委員会」「県弁護士会」「愛知県憲法会議」他、多数の団体がイベントを開催した。岐阜県でも「沖縄の今」をテーマにした「沖縄展」(沖縄展実行委主催)=写真下=に関わり、「6・23沖縄の日連帯行動」や「沖縄のビデオを見る+各務原基地のビデオ」に取り組んだ。
5面支部リポート写真A沖縄展のチラシ写真.png

 今後の予定としては@会が所持する「ひめゆりの生き証人(宮良るりさん)の音声テープを聞き、自民・西田昌司参院議員発言について話し合うA「平和を語る八月名古屋集会」で「核兵器のない世界へ草の根運動は続く」講演B「12・8不戦の集い」C加盟団体の「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」の映画「スノーデン」上映に協力D平和委員会などが開催する「愛知軍需産業」イベントへの参加などを計画している。

 また、岐阜県では7月、「徳山ダムと導水路」の見学、8月には「太平洋戦争から80年の展示」と「岐阜空襲の講演会」、「中学生たちの『平和への思い』作品展」(15日)開催が計画されており、10月には「治安維持法100年と今」の展示と講演会。さらに、「長良川河口堰運用30年」をテーマとした展示や講演会の準備も進んでいる。
 「戦争準備が進む日本」と言われる中だからこそ、節目の年にしっかりと悔いなく、活動したいと考えている。  
     JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
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2025年07月31日

【JCJ声明】参政党の特定の記者排除は「報道の自由」を侵すもので強く抗議する

 「日本人ファースト」を掲げ参院選で躍進した参政党が、7月22日の参議院議員会館での定例記者会見の場から、神奈川新聞の記者を排除した。報道の自由を侵し、ひいては市民の知る権利を損ねるもので、公党としてあってはならない行為だ。

 参政党は、排除の理由を「(当該記者は)本党の街頭演説で大声による誹謗中傷などの妨害行為に関与していた」とした。しかし、参政党の候補者が「外国人は優遇されている」と根拠のない主張を繰り返したり、差別に抗議する市民を「非国民」と呼んだりしたことを批判的に報じ、現場でも口頭で誤りを指摘したにとどまる。つまるところ、意にそわない記事を書く記者は会見から締め出すのが理由だったと思われる。
 しかし、「広報」と「報道」は違う。報道の場である記者会見では批判も含めて多様な声を代弁する記者の質問を受け、答えることが公党には求められる。それは、オープンに渡り合う場だ。参政党はことし9億円余りの政党交付金を受ける。私党ではなく公党であることを、自覚してほしい。

 「日本人ファースト」の論理が、外国人に対し、さらに「非国民」とされた者へと広がっていけば、民主主義以前の悪夢のような社会が遠くない。少なくない市民が、その恐れを感じ始めている。今回の事態を各新聞、テレビがニュースとして報じたのも、神奈川新聞に限らず、報道の自由一般に関わる問題ととらえるからだ。
 日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、こうしたメディアの動きに連帯の声を挙げていく。
 参政党には、記者会見での特定の記者の排除が、人びとの知る権利をも奪うことを認識し、今後は繰り返さないことを強く求める。

                                 2025年7月29日     
                            日本ジャーナリスト会議(JCJ)
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2025年07月30日

【おすすめ本】井出留美『私たちは何を捨てているのか 食品ロス、コロナ、気候変動 』―食品が内包する地球規模の大テーマ=大井 洋(筑波大学名誉教授)

 著者は栄養学分野で研究を重ね博士号を取った後に、食品ロス問題ジャーナリストとして活躍している。本書は文献や情報検索に基づく明確な文章で書かれ、説得力のある内容となっている。著者のこだわりだけで書かれた本ではない。
 食品ロスの問題点と発生原因について、詳しく分析され、問題の解決方向も示されている。幾つかの講演に加筆した章を集めたもので、読み応えのある内容である。

 全体的な論理展開には、やや重複があり、一気に読もうとすると頭脳が飽和状態になってしまうかもしれないが、「食品ロ スをなくそうという結論はわかった」と、途中で 止めないで、章ごとに繰り返し読んでほしい。
 コロナ、ウクライナ、 ガザに続きトランプの登場など、世界に広がる懸念の中心に食≠フテーマがますます深く知覚されるようになってきた。そこに登場してきた本である。飼料も肥料も燃料も恐ろしく低い日本の自給率が暴露されている。

 本書は食品ロス問題を生産・流通・消費の各段 階から明らかにし、その背後にある構造的課題を気候変動による影響の観点から指摘する。食品廃棄は単なる「もったいない」ではなく、膨大な資 源とエネルギーの無駄、かつ環境破壊と直結している事実を突き付ける。

 各章の有機的なつながりが理解できる。著者は、この問題を大所高所から語るだけでなく、「自分 ごと」として向き合い、 食品を「見て、嗅いで、 味わって」判断するという小さな実践が、環境への負荷を減らし社会の構造すら変える力を持つことを訴えている。(ちくま新書920円)

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2025年07月29日

【お知らせ】『世田谷区史編纂問題─著作者人格権をめぐる闘いの記録』が完成!=出版部会

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 出版ネッツは、2年にわたって闘われてきた世田谷区史編纂争議の経過と成果を、記録に残すため報告集『世田谷区史編纂問題 著作者人格権をめぐる闘いの記録』を作成しました。
 本書は、本編と資料編で構成しています。本編では、この闘いに心を寄せてくださった方々からのメッセージを載せています。メッセージをお寄せくださった方々に、心より御礼申し上げます。
 「PART2 闘いの意義と軌跡」では、出版ネッツがどのような戦略を立て、いかに闘ってきたかについて述べています。
 「PART4 集会の記録」では、2024年7月に開かれたシンポジウム「歴史研究と著作権法」のパネラーの発言要旨を掲載しています。
 この報告書を広くご紹介いただけますようお願いいたします。
 内容については、下記のURLからご覧ください(PDF形式)
https://union-nets.org/wp-content/uploads/2025/07/1abdea99cd7bfdcb236ea09d594220d6.pdf
出版ネッツ関東支部
〒113-0033 東京都文京区本郷4-37-18 いろは本郷ビル2F 出版労連内
出版ネッツ - Creator's Union TEL:03-3816-2911 FAX :03-6369-4182
               
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2025年07月28日

【お知らせ】メディアの世界は今――。学生向け開催 JCJジャーナリスト入門講座 8月30日から11月15日まで全7回 受講生募集中!

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 ■学生向けに開く 2025年8月〜11月(全7回)「JCJジャーナリスト入門講座」
 記者の仕事って、面白い? どうしたら新聞やテレビの世界で働けるのか? SNS全盛の時代に記者は何ができるのか? こうした様々な疑問や不安に応えるために、日本ジャーナリスト会議(JCJ)は学生向けに「ジャーナリスト入門講座」をこの秋に開講します。興味はあるけれど、自分が力を発揮できるかどうかわからない、と漠然と考えている方々にぜひ受講していただきたいと思っています。「記者とは何か」。その魅力と可能性ついて知っていただくことで、これからの仕事選択の参考材料にしてください。

 JCJは1955年創設のジャーナリスト団体です。今年で創設70周年を迎えました。かつて日中戦争から太平洋戦争にかけての時代、新聞やラジオの報道は軍部を賛美し、戦争を鼓舞し、多くの市民を死地に追いやりました。その痛烈な反省から生まれたのがJCJです。「2度と戦争のためにペン、カメラ、マイクを持たない」を共通目的に、講演会や勉強会を開いてきました。今は新聞、放送、出版、広告分野のOB・OGが役員の中心を担っています。学生向けに開く講座も2011年秋から「ジャーナリスト講座」の名で始め、今年で15年目です。今回、「ジャーナリスト入門講座」と名称を改め、まだ記者志望は確定していないけれど、と考える人たちにも広く呼びかけることにしました。多くの学生の方々の受講をお待ちしています。
 《新企画、記者座談会を上下で開催!》入門講座のスタートにあたり、新企画として記者座談会を2回に分けて開きます。ざっくばらんな話の中から、多くのヒントを得ていただければうれしいです。
 《会場参加も、オンライン受講も可、事後に録画送付》講座は東京の会場に集まって対面で開きますが、オンラインでも配信もします。遠隔地の方もオンラインで受講できます。全7回のうち、第6回だけ例外で、会場開催はせず、北海道からの全面オンライン講義(Zoom利用)になります。講義の様子は毎回録画し、事後にメールでお送りします。ただしエントリーシートを講評する第4回は録画なしです。オンライン視聴用のURLは各回の数日前までに受講者にメールでお知らせします。
 《記者や研究者の参加も歓迎》すでにメディアで働き始めた記者や、ジャーリズムを研究する大学関係者もふるってご参加ください。経験交流と意見交換の場にしていきます。ジャーナリズムに関心のある市民の方の参加も歓迎します。なお例外は第4回のエントリーシート書き方講座で、学生のみ対象で、申し訳ありませんが社会人は参加できません。


◆第1回:8月30日(土)午後2時から5時まで◆
会場=東京・飯田橋の東京しごとセンター・5階セミナー室 
記者座談会【上】 記者の仕事、明かします。若手・中堅記者による本音トーク

「記者に興味があるけれど、仕事のイメージが湧かない」「朝から晩まで働き通しで辛いのでは」。そんな疑問に答えるべく、若手、中堅記者が経験談を交えて語り合います。初回はテレビ、ネットメディア、出版社から現役記者が登壇予定。新人時代の苦労、取材や執筆のコツ、ワークライフバランス……記者のリアルを届ける日本一解像度の高い「しごトーク」です。


◆第2回:9月7日(日)午後2時から5時まで◆
会場=東京・飯田橋の東京しごとセンター・5階セミナー室
記者の仕事と昨今のメディア就活事情  
 講師:共同通信記者・新崎盛吾さん

 新聞労連の委員長を務めていた2014年以降、本業の傍らで記者を目指す学生の就職活動支援に取り組み、約300人の学生をメディア業界に送り出してきた。支援を続ける原点は、30年以上の経験を通じて実感した記者のやりがいと面白さだ。講座では、昨今のメディア就活事情や内定を得るためのノウハウを、網羅的に紹介する。【事後に録画送付あり】
《略歴》あらさき・せいご 1967年生まれ。沖縄県出身、千葉県在住。90年に共同通信入社。山形、千葉、成田支局を経て、社会部で警視庁公安や国交省を担当。イラク戦争、北朝鮮、赤軍派などを取材した。2014年から16年まで日本新聞労働組合連合(新聞労連)委員長を務めた後に復職し、現在はデジタル編成部デスク。法政大学兼任講師、「金曜ジャーナリズム塾」事務局長、「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」実行委員。

◆第3回:9月20日(土)午後6時半から9時半まで◆
会場=東京・飯田橋の東京しごとセンター・5階セミナー室
記者座談会【下】 記者の仕事、明かします。若手・中堅記者による本音トーク

2回目の座談会には新聞社、通信社、出版社から現役記者が登壇予定。1回目に引き続き、仕事の細部まで明かします。深夜・早朝に取材先の家を訪ねる「夜討ち朝駆け」の実態とは。できる記者に共通することは。記者になるためには何をすればいいのか……。素朴な疑問から意外な疑問まで、何でもお答えします。

◆第4回:10月4日(日)午後2時から5時まで(長引いた場合、延長の可能性も)◆
会場=未定(東京・中央区の区民館など、決まり次第ご連絡します
完璧なエントリーシートが内定への“試金石”
講師:元横浜国立大学教授、元毎日新聞記者・高橋弘司さん

【注】この第4回講座だけは学生のみ対象です。
 マスコミを目指す就活で成功のカギを握るのは、「いかに中身の濃いエントリーシートを書けるか」です。自分はなぜメディアの世界をめざすのか、何を取材したいのかが明確でないと通過は困難です。一般企業向けとは異なる書き方が求められます。大学でマスコミ志望の学生を数多く指導してきた経験をもとに、ノウハウを伝授します。受講生はまず「同じ目標を持った就活仲間」とともにエントリーシートを互いに講評し合います。その上で講師の講評、助言を受けつつ、自分で内容を磨く中で、入社動機が鮮明になって行きます。

 【ESフォームについて】第一志望の会社を想定して、その会社のESフォームのQ&A形式や質問に添った形で作成すること(まだ固まっていない場合も、最も入りたい会社を選んで)。インターンシップ用のESでも可。2027年3月卒業見込み学生用のESフォームが公開されていない場合は、直近のものを探して参考にしてください。*問い合わせや疑問点などは、上記アドレスまで。

 《略歴》たかはし・ひろし 1981年毎日新聞入社。大阪社会部、調査報道部記者を経て、カイロ、ニューヨーク各支局長、紙面審査委員などを歴任。帯状疱疹の新薬「ソリブジン」による副作用死続出をめぐる薬害調査報道で1994年度日本ジャーナリスト会議(JCJ)賞受賞。32年の記者生活の後、横浜国立大学で10年間ジャーナリズムを教え、ゼミ生ら卒業生40人以上をテレビ、新聞・通信社などマスコミに輩出した。2023年退官後、放送大学などで非常勤講師。共著に『自己検証・危険地報道』(集英社新書)、『イスラーム圏で働く』(岩波新書)、『僕らはまだテレビをあきらめない』(緑風出版)など。


◆第5回:10月25日(土)午後2時から5時まで◆
会場=未定(決まり次第ご連絡します)
災害時の性暴力――震災後生まれの記者として
講師:神戸新聞記者・名倉あかりさん

 性暴力は、災害時に起こり得るリスクの一つとして社会で認識されつつある。「神戸でもあったのに、マスコミは『デマだ』と相手にしてくれなかった」。女性団体の訴えを聞いたのは、1995年の阪神・淡路大震災の発生から30年が経過するころだった。当時は神戸新聞の中でも「性被害の話はデマだ」と注意喚起があったそうだ。「なかったこと」にしてきた一因が自分たちメディアにもあるのではないか-。内省から神戸や東北で取材を始めた。自分は震災が発生した年生まれで、当時の空気感を知らない。「性暴力」の定義も時代とともに変化している。震災の負の側面を今、どのように伝えるべきか。取材や執筆中に抱いた迷い、震災報道への向き合い方について語る。
【略歴】なぐら・あかり 阪神・淡路大震災が発生した1995年、兵庫県生まれ。2018年に神戸新聞社へ入社。西宮市の阪神総局を経て21年に神戸本社へ異動し、警察や行政を担当した。23年から2年間、震災30年報道取材班として被災地などを取材。災害時の性暴力問題を取り上げた連載「なかったことにしたくない―災害時の性暴力」で第19回疋田桂一郎賞を受賞した。25年春からは東京支社へ配属。


◆第6回:11月8日(土)午後2時から5時まで◆
ふとした疑問を出発点に、若手記者の今(仮題・全面的にオンラインで開催)
講師:HBC北海道放送記者・貴田岡結衣さん

「なぜ女性ばかりが責められるのか?」 記者になったばかりで、「事件に慣れてなかった頃に」ふと感じた疑問だった。駅のコインロッカーに乳児が遺棄された事件では、同い年の女が逮捕され、彼女の人となりや足跡を辿ろうと取材をしたが、そこに男性が不在だったことが心に引っかかった。
 裁判で彼女の人生が明らかになっていく中で、性風俗・発達障害グレーゾーンなど野背景が見えてきた。「ただの悪人」で事件を終わらせたくないという気持ちになり、少しずつ理解を深めていこうと一歩一歩取材を進めていった。「社会を変える証言」や「新事実」にたどり着いたわけではないが、彼女の世界は、私たちが見ようとしてこなかった、見えにくい生きづらさを抱えた同じ境遇の女性たちがたくさん存在していた。
どう疑問を抱え、どう取材を展開していったのか――取材での出会いや葛藤も含めてこれまでの一連の流れを紹介。
【略歴】きたおか・ゆい 2000年生まれ、北海道旭川市出身。22年HBC北海道放送入社。道警・司法担当を経て、現在札幌市政担当。入社直後に乳児遺棄事件の現場に行ったことをきっかけに、「思いがけない妊娠」をテーマに取材を続ける。23年に事件の被告を題材にした、ドキュメンタリー番組「閉じ込められた女性たち~孤立出産とグレーゾーン~」を制作し、メディアアンビシャス賞を受賞。趣味は、取材の道中に回る、道内各地の道の駅のスタンプラリー。


◆第7回:11月15日(土)午後2時から5時まで◆
会場=未定(決まり次第ご連絡します)
「永遠の戦後」のためにーー戦争報道とジャーナリズム
講師:毎日新聞学芸部専門記者・栗原俊雄さん`

「戦後80年」。マスコミはしばしば、そう表現する。しかし、本当に戦争は終わったのか。米軍の無差別爆撃で保護者を殺された遺族たちは、今も国に補償求めて戦っている。あるいは、戦没者の遺骨は100万体以上が行方不明。首都東京の一部である硫黄島ですら、1万体以上が収容されていない。この先、国がすべて収容するのは不可能だろう。つまり戦闘は終わったが、戦争被害は終わっていない。広義の戦争は未完なのだ。私は20年以上、この「未完の戦争」の実態を取材し、報道している。その成果を紹介しつつ、「二度と戦争を繰り返さない」ために必要な報道について考えてみたい。
【略歴】くりはら・としお 1967年生まれ、東京都出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒、政治学研究科修士課程修了(日本政治史)。1996年毎日新聞入社。2020年から専門記者(日本近現代史・戦後補償史)。マスコミが8月を中心に行う戦争報道を一年中行う「常夏記者」。著書に『戦後補償裁判 民間人たちの終わらない「戦争」』(NHK出版新書)『硫黄島に眠る戦没者 見捨てられた兵士たちの戦後史』(岩波書店)他。

■受講生募集要項
◯受講料
・学生向け7回通し券 3,500円(先着35人まで)
・社会人向け6回通し券 6,000円(先着35人まで)(※作文講座は対象外)
・好きな講座が選べる1回券(複数枚購入可)学生600円/回、社会人1,200円/回
 お申し込み、参加費のお支払いはPeatix(https://kouza2025.peatix.com/)からお願いします。
※オンライン視聴用のURLは各回の数日前までに受講者にメールでお知らせします。
◯講座後には懇親会も開きます
オンライン講座の日を除き、毎回、講座後には講師や企画スタッフを囲んで、参加者同士の懇親会を近くの店で開きます。様々な体験を詳しく聞いたり、細かい疑問・質問をぶつけたりできるまたとない機会です。学生は学割とします。ふるってご参加ください。

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
〒101‑0061 東京都千代田区神田三崎町3−10−15 富士ビル501号
  ・電話:03・6272・9781(月水金の午後1時から6時)
  ・ホームページ:https://jcj.gr.jp  
  ・JCJ X(旧twitter):https://twitter.com/jcj_online
  ・ジャーナリスト講座・お問い合わせ先(担当・須貝):onlinejcj20@gmail.com
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2025年07月27日

【おすすめ本】吉田敏浩『ルポ 軍事優先社会 暮らしの中の「戦争準備」 』―日本各地を歩いて分析 急速に強化される戦争態勢=末浪靖司(ジャーナリスト)

 本書は、米軍と自衛隊の一体化が進み、強化されている実態を分析し、この問題に関わる情報を豊かに分かりやすく読者に提供している。
 岸田内閣が決定し石破内閣が実行している「国家安全保障戦略」などの安保3文書と、そこに書かれた敵基地攻撃能力について、日本がアメリカの中国攻撃戦略の捨石のように利用されるという指摘は、問題を国際的にも見ており興味深い。
 とくに台湾有事で中国と戦争になることを想定した九州・沖縄各地のルポは臨場感がある。
 自衛隊は18歳から22歳までの若者の名簿を市区町村から出させ、本人にダイレクトメールを送っている。著者は少子化と若年人口の減少が進む中で自衛隊の海外を含む任務の拡大、米軍との共同作戦・演習の増加があるという。軍事態勢の強化は今や国民全体に影響する問題になっている。

 本書は、軍事費の膨張が国民生活を圧迫していること、軍事大国化が進む根本には対米従属があること、横田基地で実際に見た米軍CV22オスプレイの危険な飛行、米軍と自衛隊による空港や港湾の使用が進み、自治体が戦争態勢に巻き込まれていることを指摘する。
 これまで多くの著書を刊行し、社会に警告してきた著者が、今日の時点にたって日米同盟下で進行する戦争態勢強化について書いた意味は、極めて大きい。

 外交や軍事について、平素は考えたことがない人にもやさしく読める。ビルマ(ミャンマー)北 部カチン族の人々と生活を共にして書いた『森の回廊』で、大宅壮一ノン フィクション賞を受賞の著者ならでこそと思う。
(岩波新書960円)
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2025年07月26日

【JCJ8月集会】戦後80年〜私たちは今どこにいるのか 8月9日(土)13時30分から16時30分 エデュカス東京

集会.jpg

■開催趣旨と呼びかけ
 戦後80年の今年は、JCJ(日本ジャーナリスト会議)がスタートしてから70年にあたります。戦時中ジャーナリズムが政府や軍部に抗うことなく戦争へ加担した反省からJCJは「再び戦争のためにペンを、カメラを、マイクをとらない」を誓い、活動を続けてきました。戦後80年をジャーナリズムの立場から検証していく、今回の集会では戦後の日本社会の転換点を見つめ、これからの私たちの歩む道を考えます。


■報告とシンポジウム
 片 山  夏 子 さん(かたやま なつこ 東京新聞福島特別支局記者)
 斎 藤  貴 男 さん(さいとう たかお ジャーナリスト)
 山 口  昭 男 さん(やまぐち あきお 編集者・評論家 JCJ代表委員 )
 古 川  英 一   (ふるかわ えいいち JCJ事務局長 コーディネーター)

■登壇者プロフィール
●片山夏子さん(かたやま なつこ)
 東京新聞(中日新聞東京本社)の福島特別支局記者。化粧品会社の営業、ニート、埼玉新聞に。埼玉新聞で、出生前診断の連載「いのち生まれるときに」でアップジョン医学記事賞の特別賞受賞。その後、中日新聞社に入社し、臓器移植問題や原発作業員の労災の問題などを取材。東日本大震災翌日から原発事故の取材をし、2011年8月から作業員の日常や家族への思いなどを綴った「ふくしま作業員日誌」を連載。同連載が「むのたけじ地域・民衆ジャーナリズム賞」大賞受賞。連載に作業員1人1人の9年間を加筆した書籍「ふくしま原発作業員日誌〜イチエフの真実、9年間の記録〜」(朝日新聞出版)が講談社本田靖春ノンフィクション賞と早稲田ジャーナリズム大賞の奨励賞など3賞受賞。

●斎藤貴男さん(さいとう たかお)
 フリージャーナリスト。1958年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒、英国バーミンガム大学大学院修了(国際学MA)。日本工業新聞記者、週刊文春記者、プレジデント編集部などを経て独立。主な著書に、『カルト資本主義』『機会不平等』『夕やけを見ていた男――評伝梶原一騎』『安心のファシズム』『空疎な小皇帝 「石原慎太郎」という問題』『民意のつくられ方』『消費税のカラクリ』『ルポ改憲潮流』『「東京電力」研究 排除の系譜』『子宮頸がんワクチン事件』『戦争経済大国』『失われたもの』『ジャーナリストという仕事』『国民のしつけ方』『「明治礼賛」の正体』など。

●山口昭男さん(やまぐち あきお)
 編集者・評論家。日本ペンクラブ会員、日本ジャーナリスト会議代表委員、井上ひさし研究会会長、ふくい風花随筆文学賞実行委員会理事、樫の会理事、日本学基金理事。1949年東京生まれ。73年東京都立大学経済学部卒業。同年、岩波書店入社、雑誌『世界』編集部に配属され、以後一貫して『世界』編集部に所属。88年〜96年編集長。編集部長、取締役編集担当を経て、2003年〜13年代表取締役社長。出版界にかかわりながら、評論活動を続ける。現在、中央経済社HD常勤監査役。著書に『辻井喬=堤清二 文化を創造する文学者』(共著、平凡社、2016年)、『メディア学の現在 新訂第2版』(共著、世界思想社、2015年)など多数。

●古川英一(ふるかわ えいいち) JCJ事務局長 コーディネーター

■実施要項
 開催日時: 8月 9日(土) 13:30〜16:30(開場13:00) 
 会  場: エデュカス東京(JR四ッ谷、市ヶ谷から徒歩7分)
 参 加 費 : 会場、オンライン共に会員・一般1000円、学生500円
 賛同団体: 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)、放送を語る会、マスコミ市民、メディア総合研究所、沖縄・琉球弧の声を届ける会、市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会

■会場参加される方は事前にJCJ事務局への連絡をお願い致します。
  メール:office(アットマーク)jcj.gr.jp 電話:03–6272-9781(月・水・金 13:00〜17:00)
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2025年07月25日

【フォトアングル番外編】横浜市長選の新人候補4人、合同演説会実施=7月20日、横浜駅西口、伊東良平撮影

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 7月20日に横浜市長選が告示され、現職の山中竹春氏を含めて6人が立候補した。参議院選挙の投開票日と重なったため選挙運動が制限されるという異例な中で選挙戦がスタート。その影響で4人の新人は、揃って主要駅で合同演説会を行った。演説終了後、各候補は握手でエール交換を。元長野県知事で作家の田中康夫氏は今回で2度目の挑戦となる。投開票は8月3日。

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2025年07月24日

【学術会議法人化法】抗議のなか強硬 戦前の轍を踏むのか 市民・研究者400人「闘い新た」=藤森 研・山中賢司

 日本学術会議を特殊法人化し、政府の管理の下に置こうとする法律が、6月11日に成立した。反対運動は、力及ばなかったが新しい結集の形を示して広がった。日本の「平和と民主主義」をめぐる一つの象徴的な攻防となった。

軍事研究の「壁」崩す
 2020年秋、菅内閣は唐突に学術会議会員候補6名の任命を拒否した。これは安倍内閣の時から画策されていたことが、後に情報公開裁判で分かった。拒否の理由を聞かれても菅首相は「総合的・俯瞰的に判断」という答弁を繰り返すだけだった。
多くの学会や団体が抗議の声を挙げたが、政府・自民党はこれに応えず、逆に日本学術会議自体の組織改変(法人化)を持ち出した。典型的な問題のすり替えで、アンフェアなやり方である。

 学術会議は、戦前の科学が軍国主義に従属したことへの反省に基づき、1949年に発足。50年に「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」との声明、67年には「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発し、2017年にも「上記2つの声明を継承する」と宣言した。
 防衛研究を推し進めたい保守派にとって、学術会議という「壁」を崩すことは宿願だった。今度の法案を内閣府で立案した笹川武氏は24年4月のインタビューでこう語っている。「政府と学術会議、ひいてはアカデミー全体が連携して同じ方向で進んでいきたいと考えています。連携して日本を強くしていこうよと」
 新法案の目的が、日本の「強国化」だという本音が露呈した。

政権御用機関化狙う
 学術会議改変は、民主主義の点でも大きな問題だった。現代国家が三権分立だけでなく、各種の独立機関をビルトインしているのは成熟した民主主義の知恵である。権力は暴走しがちだからだ。
 しかし安倍政権下で、独立的な公的機関が次々に政権の御用機関に変えられてきた。日本銀行、NHK経営委員、内閣法制局。検察は賭麻雀のチョンボで失敗したが、学術会議改変もそうした流れの一環とも言えた。
 つまり、学術会議への攻撃は、狭い学界の問題ではなく、戦後日本の「平和」と「民主主義」をめぐる一つの象徴的な攻防だった。

広がる運動 尻上がり
 有志の学者たちが細々と始めた反対運動は、やがてジャーナリスト、市民らにも広がる。個人的な話になるが、私も佐藤学・東大名誉教授らと共に21年、「学問と表現の自由を守る会」という組織を立ち上げた。任命拒否に危機感を持つ学者やジャーナリスト、映画人ら128人が呼び掛け人となった。学問の自由が侵される時には言論・表現の自由も奪われる。力を合わせてここで食い止めよう、というのが結成の趣旨だった。

 今回の法案の具体的な姿が見えてくるに従い、危機感は高まった。学術会議を特殊法人に変えて、首相が任命する監事が学術会議の業務を監査し、首相は事務所に立ち入り検査もできる。首相が任命する評価委員会のほか、運営助言委員会や選定助言委員会を設置。会員らが職務上知った秘密を漏らせば1年以下の拘禁刑、などの条項が並び、学術会議の独立性を失わせることは明白だった。

 学者たちで作る「大学フォーラム」などは25年2月、学術会議の特殊法人化反対のオンライン署名を開始した。そこに「軍学共同反対連絡会」「学術会議会員の任命拒否理由の情報公開を求める弁護団」や私たちの会など、計16団体が結集した。連日ML(メーリングリスト)上で情報や意見を交換し、皆で次の行動を決めて行った。その結果、3回の院内集会、国会前での座り込みや「人間の鎖」が15回実現。6月10日にはJCJ有志を含む約400人が国会前に集まった。署名は尻上がりに増えて、7万筆を超えた。
 16団体は、いつからか「日本学術会議『特殊法人化』法案に反対する学者・市民の会」という名になった。連携して梶田隆章氏ら学術会議元会長らは法案反対の記者会見を重ね、弁護士会など各団体の反対声明も、延べ約280に上った。

連帯の姿 敗北感なし
 メディアの報道には濃淡があった。朝日新聞は20年10月から25年6月までの間、学術会議関係の社説を少なくとも23回掲載。今年3月8日の一本社説の見出しは、「学術会議の法案 学問の自由を脅かし 禍根を残す」だった。
 運動の評価は立場により様々だろう。早くから16団体の集まりに参加した一人は、「数少ないメンバーが臨機応変に役割を分担し、お互いにリスペクトしながら、協業的分業で多くの成果を生み出した。それぞれの経験と現場を持つ人が『廃案』という一つの目標に向かう姿は、見たことのない景色だった。敗北感はない」と書いた。これからの一つの運動の形として、私の胸にも落ちる感想だった。

              梅雨空き「人間の鎖」
 日本学術会議法人化法案が参議院内閣委員会で可決された6月10日、朝からの雨にも関わらず、議員会館前には採決強行に反対する市民や研究者ら400人超が集結。「人間の鎖」を作り、「学問の自由を殺すな」とプラカードを掲げ抗議の声を上げた。

 集会では、国会審議で政府側が任命拒否の理由を記した文書の開示や、会員有志との対話を拒絶するなど、学術会議側の意見を無視して審議を強行している状況が報告された。法案は政府による学術への不当な介入を強め、独立性を揺るがすものだと批判が相次いだ。

 マイクを握った学者や教職員、弁護士らは「法案は、戦争協力への反省から生まれた学術会議の理念と、平和と人類の福祉に貢献する決意を破壊するものだ」と強調。学問の自由が脅かされれば、真実を追求する教育も歪められ、子どもたちの未来が危うくなると指摘。「政府に都合の悪い研究を封じ、軍事研究へ道を開くものだ」と強い危機感を表明した。

 歩道に流れる委員会音声で、委員長が討論の終結を宣し、採決に向かった瞬間、参加者から怒りのどよめきが上がり、梅雨空を揺るがせた。集会は本会議での廃案を求めるとともに、「たとえ可決されても終わりではない。監視と抵抗を続ける新たな闘いの始まりだ」と決意を新たにした。 
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号

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2025年07月22日

【出版トピックス】7月─猛暑を吹き飛ばす出版界の大ヒット・好企画=出版部会

◆『8番出口』初版10万部で発売・即重版
 水鈴社は7月9日、川村元気『8番出口』(文庫サイズ・本体888円)を初版10万部で発売。強い反響を受け、同日には早くも2刷1万5000部の発売日重版を決めた。
 同書は、8月29日公開の映画「8番出口」(配給=東宝)の監督と脚本を務めた川村氏が、自ら書き下ろした小説版。原作の無限ループゲームは2023年にリリースされ、全世界で社会現象になるほどの人気を集め、累計180万のダウンロードを記録している。
 発行元の水鈴社(東京都渋谷区)は、設立2020年7月7日、主な刊行本は、瀬尾まいこ『夜明けのすべて』『ありか』、YOASOBIと直木賞作家のコラボ小説『はじめての』、夏川草介『スピノザの診察室』など。

◆「夏の100分de名著フェア」受注額過去最高
 毎年恒例の同フェアに968書店から申込みがあり、その受注金額が過去最高の約1億658万円となった。「100分de名著ブックシリーズセット」(書籍)は30点と10点、「別冊100分de名著シリーズセット」(ムック)は20点と10点と計4種のセットがある。いずれも各5冊。書店には7月中旬以降に着荷するという。参加書店にはパネル、しおり、POPの拡材を、1500円以上の購入した読者には抽選で図書カードを進呈する。
 このシリーズはNHKで放映し、人気を博している。めったに手にして読まない難解な書物を取り上げ、懇切丁寧な解説を施し、読んでみたくなるか、理解が進む内容が好評だ。
 例えばサン=テグジュペリ『人間の大地』を講師・野崎歓氏が解説(8月放映)。このテキストは7月26日発売。フッサール『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』は、講師・西 研氏が解説(7月放映)。このテキストは6月25日に発売されている。放映の約1か月前に書籍が刊行される。

◆『ババヤガの夜』文庫版21万部を重版
 英国版の同書が翻訳部門で受賞したことを受け、河出書房新社は、書店からの問合せが殺到したため、文庫版21万部、単行本4000部の重版を決めた。重版分は7月10日以降順次、書店へ出荷する。国内の同書の累計発行部数は電子版を含め、26万部を超える。
 英国ではFaber & Faber社が版権を取得。サム・ベット氏による翻訳で昨年9月に刊行した。「ダガー賞」の日本人受賞は史上初めて。受賞作は文芸誌「文藝」2020年秋季号で全文発表し、同年10月に河出書房新社で単行本化、2023年5月に同社で文庫化された。

◆永井豪氏ら日本漫画協会が石川県に寄付
 石川県輪島市出身の漫画家・永井豪さんらが7月11日、石川県庁を訪れ、チャリティーオークションの収益金、1億2300万円余りを石川県に寄付した。「マジンガーZ」で知られる永井豪さん、「はじめの一歩」で知られる漫画家の森川ジョージさんらの呼びかけで、能登半島地震の被災者を支援しようと、4月から205人の漫画家が描き下ろした278枚の色紙をオークションに出品。
 色紙には被災地へのメッセージがつづられているものや、能登の景色が描かれたものもあった。最も高い落札額は諫山創さんの色紙620万円。他にも30枚以上の色紙が100万円以上で落札されたという。

◆秀和システムの出版事業 他社が承継
 破産手続きに入った秀和システムの出版事業は、出版社トゥーヴァージンズが承継し、株式会社秀和システム新社として再出発することに決まった。トゥーヴァージンズ(東京都千代田区九段)は、2015年4月創業、資本金2000万円、パソコン関係の本は出していない。
 その上で、承継して発足の秀和システム新社は、負債・未払金(従業員の給与、著者への原稿料や印税、編集費やデザイン料、印刷製本、倉庫、運搬費など)は、承継しないという。
 こうした内容で、秀和システム新社が出版事業を継続できるのか、さらに取次との「委託販売」契約がどうなるのか、数多くの疑問が残る。委託販売といっても基本は「返品条件付き売買契約」である以上、所有権は取次や書店に移転しているのではないか。取次や書店にある出版物は債権回収の対象になるのか、「返品条件付き」をどう解釈するかで動きが変わるだろう。

◆雑誌オンライン書店、サイバー攻撃で混乱
 富士山マガジンサービス(東京都渋谷区)は、雑誌のオンライン書店「Fujisan.co.jp」を運営し、雑誌の定期購読に特化。2002年に設立、資本金2億6千万、売上高36億円。
 6月中旬にサイバー攻撃に会い、システム障害に陥った。最大で顧客250万人超の住所情報が閲覧された可能性がある。7月4日にサイトを公開停止にし、同8日に再開したものの、カスタマーサポートへの問合わせが殺到し、「状況がひっ迫している」という。7月11日、まずはメールでの対応に集中するため、電話対応を一時的に停止する可能性があると発信した。取引する出版関係者の不安感が高まっている。
 ただし不正アクセスの遮断システムを修正する措置を実施した。漏洩した可能性のある個人情報には、クレジットカードや銀行口座等の決済に関する情報は含まれていないという。
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2025年07月21日

【焦点】台湾有事 戦争回避の道 ASEANと連携強化 米中緊張緩和へGDP4位と6位タッグを 対米追従から独立自尊へ 布施祐仁氏オンライン講演=橋詰雅博

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 東アジアにおける紛争の火種は台湾有事だ。宿願の統一をめざし中国が台湾に侵攻と喧伝する米国と日本は、軍備増強の中国への抑止力という名の下で日米軍事一体化による対中臨戦態勢を進める。台湾有事では「日本は最前線に立つ」と3月末に来日したヘグセス米国防長官は明言した。敗戦後80年、非戦の日本が戦争に加担しない道はないのか。『従属の代償 日米軍事一体化の真実』(講談社現代新書、昨年9月刊行)の著者のジャーナリスト・布施祐仁氏は=写真=5月20日JCJオンライン講演で「回避の道」を提示した。
 米国は台湾が中国の支配下になればアジアでの権益を失うのを恐れる。中国軍の台湾上陸と中国海軍の太平洋進出を阻止する米国の作戦を布施氏はこう語った。沖縄南西諸島、台湾、フィリピン・ルソン島などに配備の地対艦・地対空ミサイルを発射する。日本の自衛隊やフィリピンと台湾の軍隊が主力として最前線で戦う。米軍主導で作戦を遂行する。
 石破茂首相は「米国が(中国に)反撃する状況となれば、在日米軍基地はフル活動となるでしょう。そうなれば、日本は中国から直接の脅迫、あるいは武力行使を受ける可能性は高まります」と最新著書『保守政治家 わが政策、わが天命』(講談社、昨年8月刊行)で述べている。

「計算違い」怖い

 布施氏によると、臨戦態勢に向けて防衛省は「統合作戦司令部」を3月に東京の陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地に新設した。陸海空自衛隊を一元指揮する。米軍も東京・横田基地の在日米軍司令部を「統合軍司令部」に改称。日米の最高司令部が緊密に連携し、台湾有事では一体で行動する。
 布施氏は「5月亡くなった米国政治学者のジョセフ・ナイ氏は『米中双方が計算違い≠ノ注意しなければならない。直面する最大のリスクは、我々自身の失敗の可能性なのだ』と語っています。双方が一歩も引かない状態だと、偶発的な事故・事件で戦争につながるリスクがあります。これが怖い」と警鐘を鳴らす。

仲介者かって出る

 日本が戦争を回避できる方法について布施氏は、ASEAN(東南アジア諸国連合)との連携を挙げた。ASEANは地域の平和の安定、経済成長の促進などを目的に1967年に設立された。米中どちらの側にもつかず、今ではインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、シンガポールなど10カ国が加盟する。南シナ海の領土権をめぐり中国との争いはあるものの平和を堅持。19年首脳会議で採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック構想(AOIP)」策定をまとめたインドネシア外相は「米中関係を対抗から対話と協力を促していくために仲介者の役割を果たすと内外に宣言した」と布施氏は述べた。
 「ASEANはGDP世界第6位まで成長した。米中ともその実力を認識しています。GDP世界第4位の日本がASEANとタッグを組めば、『第3極』として米中の政策に大きな影響を与えます。それゆえ日本は米国に追従して中国を敵性視する外交安全保障を改め自主外交を展開すべきです」(布施氏)

権威におもねるな

 4月27日付朝日新聞の世論調査では、対米外交から「自立」と答えた人が7割にも達した。とはいえ中国を含むアジア諸国との連携強化への転換の賛否は「反対」が66%で、「賛成」は16%にとどまる。自国ファーストのトランプ米政権の影響で世界は多極化にガラリと変わった。気持ちが揺れ動く国民はどうすればいいのか。布施氏は「石橋湛山元首相は『独立自尊』という言葉を好ました。権威におもねらず徹頭徹尾考え、進むべき道を自己決定するという意味です。日本を再び戦場にしないため独立自尊の精神を持ち立ち上がることが必要です」と語った。
 外交も「独立自尊」で臨む時が訪れたと布施氏は指摘した。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号


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2025年07月20日

【連続公開講座】フジから見えた テレビの未来=河野慎二

「市民とともに歩み自立したNHK会長を求める会」は5月25日、連続公開講座「フジテレビ問題からテレビの未来を考える」を第1回目として開催した。

業界の3大病巣 
 田淵俊彦・桜美林大学教授(テレビ東京出身)は講演で、「フジは23年5月の事件発生時から、性暴力、性被害の事実を知っていたが、日枝(元社長の支配)体制下で現場が経営にモノが言えない弊害が出て、1年半も事実を隠蔽した」と批判。
 「テレビ業界には@隠ぺい主義A横並び体質B忖度の3大病巣がある」と指摘した上で「今回の問題をテレビがフジだけの『他人ごと』と捉えていると第2第3の『フジ問題』が発生が危惧される」と警鐘を鳴らした。

「権力勾配」が阻害
 続いて講演した大島新・東京工芸大学芸術学部教授は、元フジテレビ社員。「フジのキャッチコピー『楽しくなければテレビじゃない』は、1995年1月の阪神淡路大震災、3月の地下鉄サリン事件で時代に合わなくなり、フジはバブルを象徴するテレビ局になった」と指摘した。

 フジは97年、お台場新社屋に移転。「大手企業」のイメージを強めたが、2022年には100人が早期退職するという異常事態が起きた。
こうした中、タレント依存と他局のマネが強まり、視聴率は4年連続4位と低迷。チャレンジングな作品がなくなり、フジは20年、タレントの中居正広に依存した、何の工夫もないトーク番組を始めた。大島氏はこれを「フジの貧すれば鈍する時代だ」と指摘。中居と女性アナの問題で「フジは中居を選択した。ありえないことだ」と批判した。
 大島氏は入社4年後の98年にフジを退社。周囲は不思議がったが、フジの『上を向いて歩こう』の時代、『上』とは日枝さんだった」語った。
 
 映画監督でもある大島氏は、さらに番組制作現場のテレビ局と制作会社の間には「ピラミッド構造の上下関係がある」と指摘。それを「テレ局の権力勾配」と呼び、テレビの優れた政策能力を阻害する。一日も早くなくすべきだ」と提言した。
              
若い人を活かせ
 村井明日香・昭和女子大学准教授は、フジテレビ問題表面化で学生には「テレビ局は男性優位の社会」「職場環境に恐怖心が多数」などの反応が多かったと報告。「その反面、『女性も番組作りの分野で力を発揮できる』との声もある」。「面白いコンテンツを作りたいという若い人たちが沢山いるが、(テレビ局ではなく)制作会社に集まっている」とも指摘し、「テレビ局が情報発信機能を取り戻すには、若い人材をもっと積極的に採用し、番組に活かすべきだ」と提言した。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号

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2025年07月19日

【お知らせ】出版流通を振り返り・未来を議論するセッションの開催=出版部会

 2022年、日本出版学会出版産業研究部会では『平成の出版が歩んだ道――激変する「出版業界の夢と冒険」30年史』をテーマに、平成の出版産業を振り返った。それから3年の短い間に、出版産業をめぐる動きは大きく変わり、特に出版流通は大規模な変化に直面しようとしている。
 そのような状況において、このたび能勢 仁・八木壯一・樽見博『出版流通が歩んだ道――近代出版流通誕生150年の軌跡』が刊行された。
 著者の一人・能勢仁さんから本書の2・3章の内容を下敷きに、「第4章 出版業界の生き残り策」を軸として、過去を踏まえて未来を見据えた議論を行う場を設ける。
日時:2025年7月25日(金) 17:30〜19:00
会場:八木書店本社ビル6F(東京都千代田区神田小川町3-8)
    https://company.books-yagi.co.jp/access
交通:JR御茶ノ水駅 徒歩10分、都営地下鉄新宿線・三田線、東京メトロ半蔵門線 神保町駅 徒歩5分
参加費:500円 日本出版学会員および学部生は無料
定員:30名
申し込み方法:Googleフォームにて受け付け。https://forms.gle/hgsi2fYyJeSXDxM86 をクリックし、登録してください。

主催:日本出版学会 出版産業研究部会
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