2021年08月05日

【月刊マスコミ評・新聞】熱海の土砂流 朝日は実名報じずの説明を=徳山喜雄

災害時に安否不明者の名前をすみやかに公表することは、捜索を進めるうえで重要なことだ。しかし、個人情報保護法の曲解もあり、自治体が公表をしぶるケースが多発してきた。
 静岡県熱海市で7月3日朝に発生した土石流によって、多くの不明者がでた。県と市は、生存率が急激に下がるとされる「発生から72時間」が迫る5日夜、安否不明者64人の名簿を公表した。
 その後、本人や家族らからの連絡があり、6日午後7時までに44人の所在が確認された。一方、これとは別に安否不明者が2人いることも分かった。これによって、約1700人態勢で不明者の発見を急いだ県警や消防、自衛隊は、無事の人を探すという無駄な捜索をすることがなくなった。
もっと早く発表してほしかったという思いもあるが、非公表という「愚」をおかさずに公表に踏み切った県と市の判断を多としたい。
 ただ、報道をみると、たいへん残念なことがあった。在京6紙(6日朝刊最終版を参照)のなかで朝日新聞だけが公表された安否不明者の名前を掲載していなかった。経済紙の日経新聞も社会面に名前を載せている。

 熱海は著名な別荘地で、首都圏在住者らが巻き込まれたり、無事でいるにもかかわらず名簿に掲載されたりする可能性がある。部数の多い東京の最終版に名簿を入れることは報道機関としてとうぜんの役割だ。
 たとえば、2015年9月の関東・東北豪雨の際に、茨城県と常総市が連絡の取れない住民15人の名前を非公表にしたため、無意味な捜索がつづけられた。18年7月の西日本豪雨では、岡山県が不明者51人の名前を公表し、初日に半数以上の生存が確かめられた。広島と愛媛の両県は当初、「個人情報保護」などを理由に名前を公表しなかったが、岡山の発表後に公表に転じた。
新聞などのメディアは、災害時の実名公表を繰りかえし訴えてきた。ならば、自治体が名簿を公表したら、それを報道するのが基本であろう。朝日のように報じないなら、「実名公表」を求める理屈がたたないし、災害報道の土台が揺らぐことにもなりかねない。
 なぜ、在京紙で朝日新聞だけが安否不明者の名簿を掲載しなかったのか、その理由を説明してほしいものだ。
徳山喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号

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2021年08月04日

【リアル北朝鮮】男女平等まで道半ば 金総書記長 時代錯誤な書簡=文聖姫

 「夫が党と革命に忠実であるよう世話をし、子供たちを社会主義朝鮮の頼もしい担い手に育て、和やかで団らんな家庭を作るという女性たちの役割は誰も代われるものではありません」
 男性と同じように女性が活躍することが当然のこととして認識されている世の中で、少々時代錯誤な感が否めない文章だ。金正恩総書記が6月20、21日に平壌で開催された朝鮮社会主義女性同盟第7回大会参加者に送った書簡(6月20日付)に含まれているものだ。北朝鮮が厳然として男性社会であることを如実に示していると思う。
 党の幹部会議などの映像を見ても、参加者はほとんどが男性だ。たまに女性が登場しても、金総書記の妹、金与正氏や秘書的な役割を果たしていると思われる玄松月・朝鮮労働党副部長などといった「有名人」たちだ。なにしろ北朝鮮では「雌鶏歌えば家滅ぶ」ということわざが浸透しており、女性が政治に口を出すことを良しとしない雰囲気がある。金総書記の書簡も、そういった男尊女卑の考えが反映されているのではないだろうか。

 問題は女性たちにもある。北朝鮮の女性たちはいまだに、良き妻、良き母となることが最も重要だと考えている。日本の区長にあたる女性の人民委員会委員長を男女平等の企画で取材したことがある。彼女は、夫や姑、子供たちの理解があったから仕事をやってこられたと言いながら、こう続けた。「自分が仕事で家をあけたり、家事や子育てができないことを申し訳なく思った」と。
 北朝鮮で女性の社会進出率は意外と高い。日本の国会にあたる最高人民会議の代議員にも女性が多く含まれる。小学校や中学校の校長、協同農場の管理委員長などは圧倒的に女性たちだ。
 現在の北朝鮮政府ができる前に組織された北朝鮮臨時人民委員会は1946年7月30日、男女平等権法令を採択した。それから75年、真の意味での男女平等への道はまだ半ばだ。
文聖姫(ジャーナリスト・博士)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号
 


 
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2021年08月02日

【オンライン講演】キッシンジャーが角栄を潰した 米外交戦略上 邪魔だった 春名さんがロ疑獄の核心を語る=橋詰雅博

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 元共同通信記者の春名幹男さんは(写真上)6月のJCJオンライン講演会「ロッキード疑獄から45年 角栄を葬り去ったのは誰だ!」でロ疑獄の核心を語った。
  ロッキード疑獄は全日空に旅客機を買わせる見返りとしてロッキード社から5億円のワイロを受け取った田中角栄前首相が逮捕された事件だ。1976年7月のことで、世界に衝撃を与えた。田中逮捕をめぐり様々な噂が飛び交った。米国のニクソン大統領やキッシンジャー国務長官の陰謀説、独自の供給ルート開拓をめざす田中の資源外交を警戒した米政府の仕掛け説、三木武夫首相による政敵田中≠フ追い落とし説などだ。
春名さんはこれら諸説の真偽を明らかにするため日米で取材。証言を求めて事件関係者に会い、大量に入手した政府公文書を読み込んだ。ロ社副社長のコーチャン回想録『ロッキード売り込み作戦』を始め多くの関連本を熟読した。最終的に浮かび上がったのはキッシンジャーが角栄を潰した―。

内容を事前に確認

15年間の成果をまとめた著書『ロッキード疑獄』によれば、田中ら自民党国会議員名入りロッキード資料は、75年末にロ社が米証券取引委員会(SEC)に提出。76年2月米議会でコーチャンが対日工作証言をする前に、筆頭閣僚の国務長官キッシンジャーは、内容を確認していた。資料の扱いを握るキッシンジャーはロ事件で田中が訴追されても自民党政権はつぶれない、ワイロによる販売攻勢が表面化しイメージダウンだが米企業は海外で競争に負けないと判断。ロ資料はSEC・司法省から4月に東京地検特捜部に渡った。

ジャップと罵った

キッシンジャーはなぜ田中の政治生命を奪ったのか。田中の独自外交が原因と前置きし、春名さんはこう説明した。
「72年9月に日中国交正常化を実現した田中首相は、一つの中国≠ニする中国側の主張を承認し、台湾と断交。しかし、ニクソンの2月訪中で米中関係を改善した米国は、一つの中国に関し立場表明を避けた。つまり日本は米国を追い越した。大統領補佐官(当時)キッシンジャーは『ジャップが上前をはねやがった』と田中とみられる人物らを罵った。
また,北方領土返還を前進させたい田中の対ソ外交にキッシンジャーは待ったをかけた。73年10月日ソ首脳会談前に、駐米ソ連大使を通じた『北方領土問題で譲歩しないでほしい』という要求にブレジネフ共産党書記長は同意。日中国交正常化した田中に報復した」
「田中訪ソ直前に起きた第一次石油ショック時(アラブ諸国とイスラエルとの中東戦争が原因)、石油確保のため中東政策を親アラブ≠ノ舵を切りたい田中と親イスラエル≠フキッシンジャーは正面衝突。田中の親アラブ転換でキッシンジャーの怒りは増した」
米国に従わない田中に頭にきていたキッシンジャーは米外交戦略上、邪魔な田中を嵌めたのだ。

3回面談の理由は

ところでロ事件裁判中、キッシンジャーは田中と東京・目白私邸で3回面談した。面談の理由を春名さんは「殺人現場に戻る犯人と同じような心理状態。自分が裏で糸を引いたのが田中にバレていないか調べるため」と推測した。
名前が出てロ事件モミ消しに動いた中曽根康弘は逮捕を免れた。巨悪は逃げ切った。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年7月25日号

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2021年08月01日

【今週の風考計】8.1─〈‘21緑陰図書〉コロナ禍のなか、心洗われる本3冊

暑中お見舞い申し上げます。コロナに翻弄され、夏休みに入っても巣ごもり≠ェ強いられるなか、少しでも涼風の通る場所で、頁をひも解くに良い本3冊を紹介したい。
倉本聰『古木巡礼』(新潮社)─<北の国から>を演出した倉本さんが、多忙な日々の傍ら、全国各地の古木を訪ね、静かに囁く古木の声を詩という形で掬いあげ、さらに古木をカラーの点描画にして添える、ユニークな詩画集。
 開けると途端、森や林のフィトンチッドが香ってくるようだ。詩のフレーズも、倉本さんの思いのたけがいっぱい、心地よく響いてくる。
 そして古木が育んできた悠久の歴史に思いを馳せながら、私たちが開発だといって、〈鎮守の森〉を潰し、地球温暖化を導き、あげくに新型ウイルスの蔓延という事態に至った現在に目を向ける。
7月13日夜、日本テレビのラジオ特番「倉本聰・古木巡礼〜森のささやきが聞こえますか」がオンエアされた。その2時間番組のなかで、倉本さんは今の事態を見ると、「文明の進め方が間違っていた」と語っている。
 
堂場瞬一『沈黙の終わり』(上下・角川春樹事務所)─著者デビュー20年を記念する書下ろし社会派ミステリー。関東近郊で起きた幼女誘拐連続殺人事件が、30年間も隠されてきた。その理由は何か、真相を暴く。
 新鋭とベテラン、正義とプライドをかけた二人の新聞記者が、警察の隠ぺいに抗し粘り強く点と線を追い、遂に大物政治家へと辿り着く。だが官邸詰めの同僚記者から圧力が…。
 それと闘う二人の共有する信念が、今のメディア状況を顧みるとき、きわめて潔く尊い。

矢部太郎『ぼくのお父さん』(新潮社)─全編オールカラー、ほのぼのとした感動の家族マンガ。コロナ禍の重苦しさが吹き飛ぶ。
 6月30日で44歳になった矢部太郎さん。今も東京・東村山の実家に近い築50年の賃貸マンションで暮らしている。
舞台は40年前の東村山、いつも家にいる絵本作家の父・やべみつのりさんとの生活が描かれる。
 「八国山には、よく父とつくしを採りに行きました。ビニール袋にいっぱい詰めて持ち帰り、つくだ煮にして食べました。僕にとって八国山はつくしの名産地です」
 また小学1年生の友達と北山公園でザリガニを取ったり、家族そろって屋根に上がり西武園の花火を眺めたり、1頁8コマ・見開き2頁をめくるたびに、心温まる情景が溢れんばかり。
お父さんだけではない、お母さんのさっちゃんも素晴らしい。「お母さんの床屋さん」「ひょうたんと入院」に描かれる、お母さんの姿も見落とすわけにはいかない。
 子どもを見守りながら、同じ目線でともに遊び、ともに考え、ともに親自身も成長していく。なんとも新鮮な感動に胸が熱くなる。(2021/8/1)
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2021年07月31日

【おすすめ本】上西充子『政治と報道 報道不信の根源』─政治家の不誠実答弁に抗する「論点」を軸にした報道へ=菅原正伯

安倍・菅政権になって、記者会見や国会答弁で、首相や大臣が質問に正面から答えない不誠実な答弁が横行している。言質を与えない、報じる材料を与えないという政府に対し、政治報道はどうあるべきか、問題点を検証している。

 たとえば、どのように聞かれても、あらかじめ用意した同じ答弁書を棒読みする。日本学術会議6人の任命拒否問題では「総合的、俯瞰的活動」の観点で任命したと繰り返すだけで、拒否の理由は説明しないというのはその一例だ。
 あるいは記者会見やインタビューで、メディア側が「国民の間には首相の説明が分かりにくいとの声があるのですが…」と問いかける。
 これでは理解しない国民の側に問題があるかのようになり、「丁寧な説明を心がけたい」というお決まりの答弁でお仕舞となってしまう。論点を明示した質問が重要だ、と著者は指摘する。

 意図的な論点ずらしの答弁を、著者は「ご飯論法」と名づけたが、あえて論点を外して答えるカラクリを見ぬいて、メディアは問い詰めないと、報道する価値もなくなってしまう。
 メディアは「与野党攻防」といった「政局」報道に偏るため、「初陣」「防護に徹した」「決定打に欠けた」「逃げ切り」など、ゲームの実況中継みたいな言葉が飛び交い、肝心の「論点」が後景に 退いてしまう。
 著者は、こうした「政局」報道を止め、問題の「論点」を軸にした報道に重点を移せば、野党議員の役割も、より正当に伝えられ、報道もより権力監視の役割が果たせるのでないかと、繰り返し強調している。(扶桑社新書960円)
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2021年07月30日

【出版界の動き】コロナ禍と東京五輪のなかでの主な出来事=出版部会

7/24発売のKADOKAWA「東京2020オリンピック開会式公式プログラム」を販売中止。全書店に即廃棄を要請。東京五輪のディレクター・小林賢太郎氏のインタビュー記事を掲載していた。差別発言で辞職したため。

東京五輪のJOC参与であるKADOKAWA社長が、「くそなピアノの発表会」発言─夏野剛社長は21日、インターネットテレビ局「Abema TV」の番組内で、別の出演者から「子供の運動会や発表会が無観客である以上、東京五輪の無観客開催は頷ける」という見解に対し、「くそなピアノの発表会なんてどうでもいい、それを一緒にするあほな国民感情に、今年選挙があるから政府は乗らざるを得ない」などと語っていた。
 批判を浴びた夏野社長は謝罪の上、8月から3か月間、役員報酬の20%を自主返上する。

KADOKAWAは、『東京2020オリンピック公式記録集』を、10月下旬に発売する。その予約受付を書店などで始めた。同書は申込み期間に注文した人しか購入できない。本体9000円。申込み期限8月31日まで。

「漫画村」運営者に懲役3年の有罪判決。だが2019年秋ごろより海賊版サイトが再び増加してきた。今でも海賊版サイトは750もあり、上位10サイトだけで、月刊アクセス数は2万4千回を超え、「漫画村」をはるかに上回っている。
 海賊版サイトの多くはベトナムに拠点を置き、日本でコミックやアニメをいち早く入手し、翻訳するグループが存在しているようだ。

3月刊の佐高信『佐藤優というタブー』(旬報社)の内容が、名誉毀損にあたるという理由で、佐藤優氏が佐高信氏と旬報社の木内洋育社長を相手取り、1064万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
 佐藤優氏は「第一審判決が出るまで本件について、私のほうからマスメディアで発言することは差し控え」るとの「回答」をし、インタビューなどを拒否している。

さいとう・たかを「ゴルゴ13」が、「最も発行巻数が多い単一漫画シリーズ」として、ギネス世界記録に認定。7月5日に単行本201巻が発売。秋本治「こちら葛飾区亀有公園前派出所」(集英社)の巻数を越えた。「ゴルゴ13」はいまも「ビッグコミック」(小学館)にて連載され、累積発行部数は3億部を超える
出版部会
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2021年07月29日

【隅井孝雄のメディアウオッチ】AMラジオ切り捨てでいいか

 全国の民放ラジオ局44局がAM放送からFM放送に全面転換すると発表した(6/15)。FMへの移行は2028年までにはほぼ完了するという。
 ラジオといえばAMでの放送が定番だった。AM電波は広範な地域に電波を飛ばせるという特徴があるが、ビル障害に弱い。そこで設備を手軽に設置できるFM電波を併用する「ワイドFM」が採用され、2014年以降、ラジオ局がAMとFM電波の二つを使うことになった。
 ところがラジオ経営の悪化から、今度は2重負担が重荷としてのしかかるようになった。その上送信アンテナの設備更新などが迫られる時期が重なっている。いっそのこと設備が手軽なFM一本にしては、ということになった。推進したのは、高層ビルの林立で、ラジオ電波の難聴に悩んできたTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の基幹三局だ。
 今回の発表には北海道と秋田の民放3局が参加していない。広大な北海道全域をFM電波ではカバーしようとすれば、かえって膨大は経費がかかる。ABS秋田放送の場合も山間地が多く、FM放送でラジオ世帯の90%をカバーする経営体力がないという。北海道、秋田以外にも、県域局で電波が届かない山間部を取り残したままでFM転換する局も多い。
 さらに大きな問題は「ワイドFM」受信機そのものの普及率が53%にとどまることだ(三菱総研調査、19年)。「ワイドFM」を受信するためには90~94.9メガヘルツの周波数帯域を受信できることが必要だ。しかし多くの家庭で長年使われているラジオは90メガヘルツ未満の目盛りしかないので「ワイドFM」は受信できない。長年ラジオに親しんできた人の半数近くが切り捨てられる。
 ラジオの開始は1925年(大正14年)、96年の歴史を刻む。民放の開始(1951年)で一時期メディアの最先端に立った時もある。貴重なメディアだ。
 最近ラジオ聴取者が緩やかに増え、首都圏で週86万人を超えているという調査がある(20年6月ビデオリサーチ)。コロナ時代、在宅勤務など生活環境の変化から人々がラジオの有用性を見直し始めているのに、AMラジオ切り捨ては合点がいかない。
隅井孝雄(ジャーナリスト)。
               
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          大正、昭和初期のラジオ    
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2021年07月27日

【焦点】ロ疑獄から45年 売り込み工作で3大黒幕≠ェ存在=橋詰雅博

  45年前の今日7月27日、日本はもちろん世界が衝撃を受けた。旅客機の対日売り込みで米ロッキード社から5億円のワイロを受け取ったとされる田中角栄前首相が逮捕されたからだ。金脈問題で首相を辞任したとはいえ、最大派閥を維持し政界のドンとして君臨していた田中は、ロッキード疑獄で首相へのカムバックの道が閉ざされた。1976年の逮捕から17年後の93年末に田中は慶応大学病院で75歳で死去した。刑事被告人は死んだが、最高裁は首相の犯罪を認定した。
 ロ疑獄で表面化したのはロ社の売り込み工作に加担した黒幕の存在だ。中曽根康弘の盟友で戦後最大のフィクサー・児玉誉士夫、オランダの王子ベルンハルト、サウジアラビアの武器商人アドナン・カショギの3人だ。3大黒幕≠駆使して自社の航空機売り込みを画策した。  
 戦闘機輸入で影響力を発揮したベルンハルトは、ロ社に約3億円の手数料を要求する書簡が明るみに出たが、刑事責任の追及を逃れる代わりに世界自然保護基金(WWF)総裁など公的な役職からすべて退いた。2004年93歳で死亡。
 カショギはニクソン米大統領と関係が深く、64年からロ社の代理人に。ロ社だけでなく複数の米軍事企業の国際取引に関与し、80年代初めに総資産1兆円の富を築いた。2017年82歳で病死した。
 1958年からロ社の代理人だった児玉は、3人の黒幕の中で、貢献度が高いと評価されロ社から最も高い手数料を提示されていた。旅客機とP3C対潜哨戒機の売り込みで成功したら合計70億円の約束を交わした。ロ疑獄ではロ社の販売代理会社の丸紅と旅客機を購入した全日空の両ルートは解明されたが、児玉ルートは未解明で終わった。とはいえ脱税と外為法違反で在宅起訴され1984年72歳で病死。
 児玉ともちつもたれつの関係の中曽根は名前が出たことでロ事件モミ消しに動いた。春名幹男さんの著書『ロッキード疑獄』(KADOKAWA)によると、依頼を受けたCIA東京支局長から伝えられた駐日米大使が国務省に連絡した可能性が大きい。1982年11月、彼は首相に就任。巨悪は法で裁かれることなく2019年に百一歳で死去した。
 ロ疑獄の発覚で一時は政界浄化された。しかし時間の経過に伴い、政界は濁っていった。政治とカネの問題は相変わらず解決されていない。
 橋詰雅博
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2021年07月26日

【焦点】デジタル先進国・フィランド発展の秘密は国民の信頼 政治不信の日本は実現できるか=橋詰雅博

次世代通信規格6Gの研究開発で、日本は北欧のフィランドと連携協定を結んだ。フィランドは通信機器メーカーの世界大手ノキアを生んだ欧州一のデジタル国家だ。デジタル先駆者のフィランドと比べ、今の日本はデジタル敗戦。この差は何なのか。

 2年連続トップ
 欧州連合(EU)加盟28カ国のデジタル人材や技術、公共サービスなど5項目で算出した「デジタル経済社会指数」ランキングで、フィランドは2019年、20年と第一位だ。フィランドのデジタル化はどう進展してきたのか。5月21日、朝日新聞のオンラインイベント「デジタル国家の秘密とは」でフィランド発のIT企業「リアクタージャパン」のエンジニア、ラウラ・タルキアイネンさんはこう語った。
 「政府は90年代から個人ID番号(国民背番号制度、日本のマイナンバーに当たる)デジタル化を進め、IDで医療や介護、パスポート申請などの手続きがオンラインで可能にした。コロナ禍前からオンライン授業を始めた小学校は、感染拡大で完全オンライン化された。リモートワークも働き手の60%がコロナ禍前から始めており、欧州で最も高い割合だ」

  AI講座無料提供
フィランドは、国立ヘルシンキ大学とリアクター社が開発したAIを基礎から学べるオンライン講座を19年から無料で提供。今では20数カ国語で受けられ受講者は65万人に。受講した朝日の女性記者は「ITリテラシーがなくても受講できAI教育のギャップを埋められる」と体験を話した。
 録画で特別出演のマリア・ニッキラ財務省情報管理シニアアドバイザーは「デジタル化での経費削減は納税者にも恩恵がでた。基礎以上のデジタルスキルがある人材も人口の80%近くと、EUの平均以上」と述べた。デジタル国家に発展した秘密は「国民の政府への信頼」とマリアさんは指摘した。

 幸福度も第一位
 ラウラさんは「国民が政治家を身近に感じ、人口の半分近い250万人がコロナ通知確認アプリを利用。それは政府への信頼があるから」と語る。
 国連の21年版幸福度ランキングでフィランドは4年連続一位。国民の政府への信頼が厚く、政府もよりよい公共サービス提供で国民の期待に応えようとする。高い幸福度が好循環が支えているようだ。
 幸福度56位の日本では、役に立たない通知確認アプリや給付金受け取りなどで使い勝手の悪いデジタルサービスに振り回され、デジタル法成立で同意なき個人データ利活用の恐れで政治不信が深まる。フィランドの高度なデジタルネットワーク構築は政府と国民一体となって進んだ。その鍵は政府への信頼感。だが日本では政府が信頼されているか。これで血の通うネットワークが築けるのだろうか。 
 橋詰雅博
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号
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2021年07月25日

【今週の風考計】7.25─大会経費が3兆円を超える<東京五輪の闇>

★「東京五輪」が開幕した。コロナの再パンデミックが猛威を広げ、東京でも4回目の緊急事態宣言が発令、第5波の襲来がいわれている。その最中に開催を強行した。
 政府やIOCは、医療従事者や専門家の意見を無視し、中止や再延期を求める国内外からの大きな声にも、耳を傾けず突っ走った。
★閉幕する8月8日までに、コロナ変異株が若い世代へ急拡大するのは間違いない。とりわけ今夏の異常な暑さに、熱中症の頻発も重なり、医療従事者の負担や病床のひっ迫は避けられない。

★「安心・安全の祭典」どころか、入国した選手や関係者の間で、もう123人ものコロナ感染者が出ている。「バブル方式」で防ぐなど幻想だ。いかに拡大させないか、国名や氏名の公表も含め厳重管理が不可欠になっている。
 閉幕して帰国する際には、「東京五輪発」の変異株ウイルスを持ち帰らないよう、細心のチェックも必要だろう。もしアスリート人生に支障でも生じ、損害賠償などの請求が来たら、どうするのか。杞憂で済まされない。

★さらに見過ごしてならないのは、「東京五輪」の開催費用である。<#五輪の「闇」>というハッシュタグまでついて、その不明朗な実態を追究する動きが起きている。
 2013年に日本の招致委員会がIOCに行った説明では、競技会場や選手村を集約し、「世界一コンパクト」な会場による開催を計画し、開催費用も7300億円程度としていた。
★しかし、何度も経費の上積みを重ね、2019年末で1兆3500億円、2020年末には新型コロナによる延期と感染防止対策の2940億円を加え、約1兆6440億円に膨れ上がった。なんと当初の2.2倍だ。
 関連経費を加えると大会経費は3兆円を超え、五輪史上もっとも経費のかかる大会となる。この赤字の尻拭いは税金。つまり背負わされるのは国民だ。

★大会経費が膨張した背景には、IOC「五輪貴族」からの要請、電通やパソナグループなどの大企業による五輪経費の中抜き、ピンハネの横行がある。開閉式の費用に限ってみても、電通による制作に5輪史上最高額の165億円を支払う。
 メイン会場・新国立競技場の建設費用は1530億円。当時の猪瀬直樹都知事が「40年前の五輪施設を使うので世界一コンパクトな会場」との公言は、どこにいったのか。
 競技場の維持運営費だって年間24億円という。五輪が終わったら、あまりにも高い経費がネックとなり、閉鎖となりかねない。

★今や五輪は、コロナ禍でもやめられないほど、利権が絡む「巨大なスポーツ興業」と化した。IOCと契約する米国のテレビ局NBCや巨大スポンサーの意向は無視できない。開催するだけで約1300億円のテレビ・マネーが懐に入る。こうした「五輪の闇」を晴らさなければ、五輪の未来はない。(2021/7/25)
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2021年07月24日

【スポーツコラム拡大版】東京五輪の異常開催を許したマスメディア=大野晃

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 2021年東京五輪が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)拡大を増幅する危険のある緊急事態宣言下で開幕。医科学専門家の警告を無視し、開催の是非を封じ込めて、暴走した政府、東京都と国際オリンピック委員会(IOC)。追従の日本オリンピック委員会(JOC)。マスメディアは異常開催をなぜ許したのか。経緯を追って重点的に検証してみる。


テレビ向け見世物ショー

 競技は、互いに敬意をはらう競技者の友情と協力で成り立つ。 世界中の競技者に、その精神を拡大し、競技者の団結と連帯を強めて、支援者やファンなど取り巻く人々も含めた絆を深めることで世界平和実現の基礎を固めるのが五輪の基本理念だ。 単なる競技会ではなく、人類の理想を掲げた平和の祭典である。
 ところが東京五輪では、多国間、多競技間の競技者や関係者同士、そして応援ファンとの交流が禁止され、行動の自由が制限され、公平な条件での競争が保障されず、安全が確保されないまま、競技者は無批判な参加を強いられた。
 これでは、眼前にある五輪は似非五輪であり、公正な国際競技会ですらない。テレビ向けの見世物ショーにすぎない。膨大な税金を負担させられた国民のほとんどは、他国で開催された五輪同様に映像観戦に限られた。
 しかも、世界中で命の不安を膨張しかねない、スポーツに名を借りた悪質テレビ番組と言っていい。万人が楽しめるはずがない。

経済活性化国威発情を狙う

 世界の競技者を目の当りにし、世界のファンたちと一体に競技を楽しむ五輪の平和な、お祭り騒ぎに胸躍らせる国民ファンは多い。半世紀以上も前の最初の東京五輪を経験し、近年、国際競技会の拡大で、国際的な和気あいあいとした雰囲気の体験が増えた国民には、五輪人気が根深い。
 それを利用し、自民党政権は、巨額な税金を投じて、バブル崩壊後の日本経済活性化の切り札とし、それによる対外的な国力誇示と国威発揚を狙った政治的、経済的国家事業とするために、五輪開催に動いた。(→続きを読む)
 

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2021年07月23日

【事件】なぜジャーナリストは標的にされたのか 右派が仕掛けた歴史わい曲 「標的」監督・西嶋真司さん寄稿

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 元朝日新聞記者の植村隆がジャーナリストの櫻井よしこらを相手取った名誉毀損訴訟で、最高裁判所は昨年11月に上告棄却の決定を出した。この決定を受けて、安倍晋三・前総理大臣は自身のフェイスブックに「朝日新聞と植村記者の捏造が事実として確定したということですね。」とのコメントを書き込んだ。もちろんこれは荒唐無稽なデマだ。
 裁判所は櫻井の主張によって植村の社会的信用が失墜したことを認めつつも、櫻井が記事を「捏造」と信じたことに相当の理由があるとして免責したにすぎない。
 植村や弁護士からの抗議を受けて安倍は自らの投稿を削除したものの、日本の前首相が放ったフェイクニュースはインターネットを通じて今も拡散されている。

 避難と脅迫
 植村は1991年8月、元慰安婦だった韓国人女性の証言を伝えるスクープ記事を書いた。その記事には「女子挺身隊の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた」とある。報道から23年後の2014年、記事の内容をめぐって植村を「捏造記者」とするバッシングが始まった。
 植村の記事を“捏造”と決めつけたのは、右翼論客の櫻井よしこや西岡力をはじめ、不都合な歴史を消し去ろうとする日本政府の立場を支持する人々。植村を「売国奴」「国賊」などと非難し、植村が教職に就くことが内定していた大学や植村の家族までもが卑劣な脅迫に曝された。「記事が捏造と言われることは、新聞記者にとって死刑判決に等しい」と植村は言う。
 不当な攻撃によって言論を封じ込めようとする動きに対し、大勢の市民や弁護士が立ち上がった。

 20年で何が
 植村が元慰安婦の記事を書いた1991年8月、私は民放のソウル特派員として慰安婦報道の渦中にいた。当時、韓国では「挺身隊」と「慰安婦」が同義語として使われており、私をはじめ日本の多くのマスコミも慰安婦問題の記事に挺身隊という言葉を用いている。
 同じような内容を伝えた私や他のメディアはバッシングを受けずに、なぜ朝日新聞の植村だけが標的にされたのか?当時は“誤報”ですらなかった報道内容が、“捏造”と呼ばれるようになった20年余りの間に、日本に何が起きたのか?
 1997年に安倍晋三前首相を事務局長とする「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」が発足して以来、日本政府は慰安婦問題に関して自国の責任を極限まで小さくしようとし続けてきた。戦場に送られた慰安婦の強制を裏付ける資料が発見されていてないことを理由に、慰安婦の募集は国家とは無関係だと主張する一方で、歴史教科書から慰安婦の記述をなくそうという動きが政府主導で進められた。
 2019年に愛知県で開催された「あいちトリエンナーレ展」では、慰安婦を象徴する〈平和の少女像〉が「日本人の心を踏みにじる」という理由で一時展示が見送られる事態になった。
 
 報道の萎縮
 最近の20年余りの間に日本のメディア界にも変化が起きた。慰安婦を扱う特集記事や番組は姿を消し、いつしか慰安婦問題はメディア界ではタブーとなった。政府に批判的な報道を行うことによってバッシングや脅迫の標的にされる様子を目の当たりにして、メディアは明らかに萎縮した。
 歴史の真実を伝えることはジャーナリズム本来の使命である。それはあらゆる外部の圧力から自由でなければならない。不都合な歴史を報じたジャーナリストを力で抹殺しようとすれば、民主主義は崩壊する。ジャーナリストを標的にしてはならない。(敬称略)
 JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年6月25日号
                           
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2021年07月22日

【おすすめ本】半田 滋『変貌する日本の安全保障』─「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読み解く絶好の書=前田哲男(ジャーナリスト)

 本書は、学生に向けたオンライン授業を基にしているが、それにとどまらず若い世代(とりわけ記者)に「自衛隊の今」を伝える一冊となった。
 「安倍安保」ともいうべき長期政権のもと進行した「9条と同盟」の矛盾、また「専守防衛か敵基地攻撃か」をめぐる葛藤。その相克は、菅政権下においても「台湾海峡防衛」に継承され、亀裂は極限に達した観がある。若者ならずとも「法と現実」のもたらす落差に目くるめく思いだ。

 12講に区切られた各章には、著者の強みである編集委員としての現場主義と、論説委員の本領の両面、いわば“腰の軽さ”と“論の重厚さ”がほどよく溶けあい、自衛隊海外活動の現状と、そこに至った時代の流れを織りまぜ、自衛隊の歩んだ道が記述される。話し言葉による文体も説得的だ。
 読者には、自分の関心にそって読むことをお勧めする。沖縄のことなら「第3回 沖縄の米軍基地」から。最新ニュースなら「第10回 ミサイル防衛とイージス・アショア」、また「安倍安保」の本質を知るには「第12回 安全保障関連法」といったように。興味のおもむくまま読めばいい。

 そうすると、なぜ「護衛艦いずもの空母化」が必要なのか? なぜ「非核3原則が国是であるのに核兵器禁止条約を批准しないのか?」などの疑問が解けてくる。PKO派遣という “戦闘への接近” も、著者の現地取材によって容赦なく実態が暴かれる。
 コロナとオリンピック問題のあおりで、最近あまり大見出しにならない「引き裂かれた安全保障問題」の根源を読む良書である。(弓立社2500円)
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