2009年06月29日

政治とカネと貨物検査特措法案が問いかけるもの(2)

  「政府は国民を欺き続けて今日に至っている。首相が腹をくくればいいだけの話だ」
  元外務次官の村田良平が、西日本新聞の取材に応じて語っている。同紙は28日付朝刊にこの記事を掲載した。
  「北朝鮮の核問題もある。核について、ごまかしはやめて正直ベースの議論をやるべきだ」
  毎日新聞がこれをすばやく追い、28日夜の取材にこぎつけている。(JCJふらっしゅ:「Y記者のニュースの検証」)

  村田は、去年(08年)9月に著書『村田良平回想録』を出版、そのなかで密約に触れた。
  「この際、正直に書くべきことは書いた方がいいと思い、意識的に書いた。北朝鮮の核武装問題もある。核について、へんなごまかしはやめて正直ベースの議論をやるべきだ。政府は国会答弁などにおいて、国民を欺き続けて今日に至っている。だって、本当にそういう、密約というか、了解はあったわけだから」(西日本新聞)と、ためらいはなかった。

  <90年代末、密約の存在を裏付ける公文書が米国で開示されたが、日本政府は否定した>が――との記者の質問には、「政府の国会対応の異常さも一因だと思う。いっぺんやった答弁を変えることは許されないという変な不文律がある。謝ればいいんですよ、国民に。微妙な問題で国民感情もあるからこういう答弁をしてきたと」(同)と答えている。

  共同通信が5月末に、4人の歴代次官が密約を認めたと報じたが、その後も政府は否定した。6月1日、外務省の藪中三十二事務次官は、次官経験者証言について「そういう密約は存在しない。私自身、それ以外一切承知していない」(東京新聞等)と否定している。

  それについて村田は、「総理大臣が(認めようと)腹をくくればいいだけの話だ。簡単なこと。明日にだってできる」(同)とした。

  この西日本新聞の記事で驚いたことは、77年施行の領海法の立法作業時に、対馬東水道、同西水道、大隅など5海峡の幅員を「3カイリに留めおく」と言い出したのは外務省で、理由は「核を積んだ船が通ったときに、持ち込みじゃないか、ということになる。そうするとまずい」からだったという事実だ。担当でなかった村田は、「議論を横でながめていて、姑息(こそく)なことをするなと思っていた」という。

  米軍による核兵器の持ち込みは、1960年改定の日米安全保障が定めた「事前協議」の対象とされている。日本側には事実上の拒否権が付与されている。その事前協議は結局一度も行われず、日本政府は「事前協議がない限り、持ち込みはない」との見解を表明し、裏では核艦船などの通過・寄港を事実上、事前協議の対象としないとする「秘密議事録」(密約)交わしていたことになる。

  沖縄返還交渉における「密約」の存在についても村田は、西日本新聞の取材に以下のように答えている。
  「72年5月の沖縄返還の前後約4年、駐米大使館で1等書記官、参事官として勤務していた。若泉さんから直接聞いたわけではないが、ひそかにそういうような、どうもディール(密約)があったらしいというような格好で、(日本政府関係者から)聞いてはいた。記録を読んだわけではないが、若泉さんが書いたことが本当だ。日本政府は歴史を改ざんしている」

  取材は同氏の著書にじっくり目を通して行われているだけに、全文を繰り返し読み込む価値があろう。

  1971年、ベトナム戦争の巨大な戦費捻出にあえいでいた米国は、金=ドルの交換停止を宣言し、世界に「ドルショック」という衝撃波を放出した。沖縄返還はその翌72年5月のことだ。そして73年10月には第四次中東戦争が勃発。中東産油国は、イスラエル支援国への原油の禁輸を決定する。中東の原油に過度に依存してきた先進諸国は、「オイルショック」(第一次)の衝撃波をもろにかぶり、日本も74年にマイナス成長を初めて経験し、第二次世界大戦敗戦後の高度経済成長時代の終焉を迎えるに至る。中東産油国は、「メジャー」の独占的価格支配から脱して、自律を目指し始める。ニクソンはベトナム戦争の泥沼化をずるずると引きずり、「ウォーターゲート事件」にさらされており、石油をめぐる国際的な大転換の時代に影響力を発揮することなく、74年8月のテレビ演説で辞意を表明した。イラン革命でイランの石油生産が中断し、「第二次オイルショック」を引き起こしたのは78年だ。

  日本の政治は、戦後からこの時期にかけて、米国・米軍との間で「密約」を重ねた。
  西日本新聞は前述の記事で、菅英輝・西南女学院大教授(国際政治)からコメントをとっている。その部分をそのまま下に引用する。

――日米外交の裏面史に詳しい菅英輝・西南女学院大教授(国際政治)は「外務次官経験者の実名証言は非常に重い。密約などないと言い続ける政府は、国民の知る権利をないがしろにしている」と批判。「非核三原則を国是に掲げ、『核のない世界』実現に向け国際社会でイニシアチブを取ろうというのであれば、日本政府は核をめぐる密約をすべて公開した上で、その破棄を出発点とすべきだ」と話している。――

  70年代の米国の戦争とエネルギー、そしてイスラエル。21世紀初頭の米国の戦争とエネルギー、そしてイスラエル。地球社会の問題は、この三点だけに絞られるわけではないし、絞り込めばよいわけでもないが、地球社会全体に重大な問題を引き起こし、その悪影響を波及させてきた点で、これらの問題は群を抜いている。70年代の米国の戦争を代表するのはベトナムだった。21世紀初頭の米国の戦争を代表するのはイラクだった。東南アジアと西アジアである。
  これからの軍縮の時代、核兵器廃絶の時代の前進を展望するうえで、アジアを戦場に戦争をしたがる軍産複合体のことを考えずに済ませることはできないだろう。
  イスラエルも西アジアに位置する。米国同様、国の産業基盤として軍産複合体がしっかりと根を延ばしている。 
  小泉―安倍の時代に自公与党は、ブッシュの戦争にいち早く賛同の声を挙げ、日本国憲法をふみにじってイラクに自衛隊を送り込み、高額の米国のミサイル防衛網(MD)を「自衛」のためと称して導入配備を急ぎ、米軍と自衛隊の「融合」を約束し、米駐留軍に対して金を注ぎ込み、財政面だけでなく犯罪についてさえ目こぼしする「密約」を結び、米国債やサブプライム関連証券を買いまくって戦費調達を間接的に支え、日本の政治は米軍の指揮下において米軍の作戦の効率的遂行をサポートすることを最優先事項として運用されるべきものであるといわんばかりに、その主旨にみあった改憲=自主憲法制定:米国の戦争の前線基地として日本列島を差し出し、作戦協力に全身全霊を傾けるのが日本国民の役割であり、それを国民自らが新憲法で宣言し約束するという内容を盛り込んだ憲法草案を打ち出して、それを先取りした政治をやろうとしてきた。

  教育改革という名や国民保護という名で、米国の戦争に忠誠を誓う日本国家づくりのために、財産をなげうち身命をかけて国家の支配層への従属と忠誠を誓う国民精神改造と国民総動員のための布石が打たれている。一般市民の思想や教育、言論・表現だけでなく、自衛隊員も含む公務員の知りえた情報を管理・統制する仕組みも、自公与党は「郵政総選挙」で獲得した大議席をつかって一つ一つ強引に法案を成立させ、国の仕組みとして組み込んできた。それが自公連立政権の歩んできた道である。米国のマネーゲームと戦争のゲームに追従し与し、日本社会を弱肉強食の論理にどっぷりと漬け込もうとしてきたのである。

  日本が米国の戦争に入れ込む以上、入れ込んだだけではカネは出しっぱなしで還流してこない。それではまずいから財閥系以外の日本企業が占めるポジションの一角を崩して、外資を招き入れるポートにする。そしてブッシュの米国がイラクやイランから巻き上げる石油の利権をおすそわけしてもらうのだ。だからこの機会に強者の仲間入りをするには、日本は貧富の差をもっと拡大し、強者を育てあげねばならない。弱者はいつまでたっても弱者なのだから、ふみつけにされることに慣れてもらわねば困る。兵隊も必要な時代がくる。だれもがどうでもいい大学に進学しているような平和ボケの日本を脱皮するというビジョンをぶち上げなければ、ニートとかいってふらふらしてる連中を甘やかすだけだ――。

  たとえば東京都の石原知事は、2005年の「石原知事と議論する会」の席上で、こんなふうに語っている。
  「ニートの問題というのは、それぞれの国家社会の緊張感の問題に関係があると思います。<中略>登校拒否とか引きこもり、ニートの連中に、もし日本に徴兵制度があったら君どうするかと聞くと、90%は自分は行きたいと言うそうです。例えば、韓国は徴兵制度がありますよね。やはりそれは軍事的な緊張があって、南北の問題はだんだん緩和されてきたけど、今でもそういう制度がある。あるいは、社会的な全体の貧困感とか豊かさ、食糧の問題、その他いろいろな問題がいろいろな緊張を生んでいて、そういう国にはニートは出ない」
  そのまま続けて、「子どものときに肉体的な苦痛を味わわなかったような子どもは、大人になって非常に不幸な人間になると。肉体的な苦痛とは何かというと、親からたたかれるとかの虐待ではなくて、我慢を強いられることです。おなかがすいたからといっても、すぐにごはんを出してもらえない、水を飲んで我慢するとか、親に言われた仕事を遊びたいけど我慢してするとか、そういう作業の中でこらえ性ができる。日本の子どもはこらえ性がないから結局ニートになってしまうし、また、それを社会全体が放置して。ニートなんて格好いいように聞こえるけど、みっともない。無気力・無能力な人間のことです」と、この発言を結んでいる(平成17年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要より)。

  我慢を強いられて、それに耐えられないやつらは無気力・無能力の人間であり、それを鍛えなおすには軍事的な緊張や貧困などの緊張があったほうがよい、という考え方のようだ。「ニート」を生み出す社会状況にはふれず、個人のこらえ性の問題へと強引に帰結させようとするところに、特徴のようなものを見出せよう。

  バブル経済崩壊とその後遺症に苦しむ日本企業は、企業の再構築(リストラ)という名目で大規模な人員整理を断行、中高年がターゲットにされて受難の時をむかえ、日本企業の特徴とされていた年功序列と終身雇用が崩壊し始める。その受け皿の拡大という名目も付加されて、専門職に絞られていた労働者派遣認可の対象業種・職種の枠が外されて全面自由化、就労人口の3分の一が非正規雇用の契約形態で働かされる異様な事態を迎えるに至っている。大競争時代の指揮を執っているつもりの「為政者」の側からみれば、そのなかの貧困にあえぐ数え切れない数の若者たちは「予備役」候補であり、同じく貧困にあえぐ中高年層は戦争のプロパガンダに踊る熱狂的支持者の候補であり、高齢者のうち後期高齢者は御用済みだから病院に通う費用ももっと自前で負担させてもかまわない――。

  「ブッシュの戦争」には、ビジネスチャンスと投機マネーの糾合と原油価格を媒介としたマネー戦略とがセットにされていたのではないか。それがイラク戦争の泥沼化で目算がくるい、アフガン戦争の再活発化で戦争ビジネスの継続を余儀なくされるなか、原油価格の暴騰、そしてサブプライムローンの破綻でそれに水をかけて、最後の帳尻を合わせる。最後は結局、米国の戦争に世界は協力しなければ終わらないことをみせつけて終わる。

  イラク戦争にうんざりした米市民は、オバマ大統領を選出して、新たな歩みを始めようとしている。しかしながら、中東エリアにおける「戦争」を失いかけていく軍産複合体は、アフガンとイラクで一息つけるところまで復活できたから、もう世界から退場すると言い出してくれるわけではないだろう。軍産複合体の命運をダイレクトに左右する軍部も、大統領が交代したからといって、そうやすやすと現在の地位と利権とを手放すはずもない。軍産複合体は新製品の出口を求め続け、軍部は存続の意義を模索し続けておかしくない。核軍縮を世界に訴える大統領のもとでも、東アジアの米軍のプレゼンスを日本の自衛隊に代替させるというプログラムが、そのまま実現にむかって動き続けても、少しもおかしくはない。そうした米軍サイドの言い分が台頭してきても、米軍追従の路線でやってきた自公政権は、自己正当化の道ができたと、もみ手をして歓迎するだけだろう。

  東アジアにおいて、北朝鮮に核を放棄させるためには、自衛隊の十分な展開をもって北朝鮮を包囲し、それに対処する必要があるという考えが、日本の核保有というばかげた意見とともに自民党の内部から出ている。その姿は、安保理が北朝鮮の2度目の核実験を受けて採択した決議が、「兵力の使用を伴わない制裁措置」を求めていることと引き比べても異様であるばかりでなく、それは米軍産複合体やそれとMD開発などで連携を進め始めている日本の軍事企業などの意を受けた動きではないのか、と勘ぐりたくなる。依然として軍需利権や軍需マネーがうごめき続けているのではないか。そんな疑念が浮かんでは消え、止んだかと思えば密かに進行し始めていたりするのだ。

  ブッシュの戦争路線に「正義」などなかった。世界に衝撃を与え、世界の常識を一夜にして覆そうとしたブッシュの戦争は、掲げた大義そのものの大嘘がばれて破綻した。兵士たちの自殺もおさまらない状況が続いている。その路線に追従してイラクに参戦し、日本社会を「戦争に与する国」へと変えようとした自民党靖国派も「正義」を標榜することはできない。対北朝鮮に対する姿勢でも、各国の足並みのそろった制裁措置の履行が求められる。日本のエキセントリックな態度は、その積み重ねのなかから抽出すべき効果的な方法を見失わせたり、だいなしにしたりしている可能性さえ感じさせる。

  ブッシュにさえ見捨てられ、世界の鼻つまみ者状態に陥った安倍外交の姿を繰り返すようなことがあってはならない。そういう政治家が生まれてくる背景に、「密約」を隠蔽するために領海を3カイリに留めたりする姑息な日本外交があったり、すでに公然の秘密となっている密約を、いつまでも「ない」といい続けたりする政府の国会対応の異常さが横たわっているのだとすれば、自民党は、自家撞着が自家中毒をもたらしそれを繰り返すという悪循環に陥っているといわねばならない。(本文中/敬称略)

(つづく)

(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)

米の核持ち込み「密約あった」 村田元次官実名で証言(西日本新聞)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/105228
村田良平回想録(上巻)戦いに敗れし国に仕えて(ミネルヴァ書房、2008年9月刊)
http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032134094&Action_id=121&Sza_id=B0&Rec_id=1008&Rec_lg=100813
米核持ち込み:密約文書引き継ぐ 村田元次官が証言(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20090629k0000m010115000c.html
『密約存在しない』 外務次官 次官経験者証言を否定(東京新聞)6月2日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2009060202000094.html

平成17年度第1回「〜東京ビッグトーク〜石原知事と議論する会」議事概要(東京都HP)
http://www.metro.tokyo.jp/POLICY/TOMIN/GIRON/eif85100.htm

posted by JCJ at 19:11 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする