日本と韓国で12月に行われた選挙で、両国ともに保守親米の指導者が政権を獲得したことも、米国からの武器輸出をさらに押し上げる可能性がある、とも指摘する。
米国の航空宇宙工業協会(AIA)には米大手防衛企業が加盟する。そのAIAの国家安保担当副会長であるフレッド・ダウニー氏は、米政権のアジア重視政策について、「友好国の武装を支援するわれわれの機会増加をもたらすだろう」と語っている。
(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)
AIAは昨年12月に報告書を発表し、そのなかで、米国製高額武器の輸出について、少なくとも今後数年は堅調を維持すると予想しており、1)中国の軍備増強に対する懸念が米国からアジア地域への武器輸出の増加につながり、2)欧州への輸出減速分を十二分に相殺するとしている。
記事は、中国が海洋領有権の主張を強め、北朝鮮がミサイルや核の開発を進める中、オバマ政権が進めるアジア重視の中核となるのは、同盟国や安全保障上の協力国との関係強化だとする。
ロックリア米太平洋軍司令官は、アジア太平洋への「リバランス」の中心は、日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイとの同盟関係の近代化および強化であり、それはすでに本格的に動き始めたと語っている。また、アンドリュー・シャピロ米国務次官補(政治・軍事担当)は12月5日の演説で、「(武器輸出は)米国の肩にのしかかる負担を軽くしてくれる可能性がある」と述べている。
アジア太平洋地域では、無人偵察システムの導入を増やし、情報収集や監視の能力強化を目指している米国防総省だが、サミュエル・ロックリア米太平洋軍司令官は、こうした「能力」が、関係国との協力を発展させるとともに、敵対国との偶発的な事故や誤解を防ぐことにもなると語っている。
外相の岸田氏が9〜14日の日程で、フィリピン、シンガポール、ブルネイ、オーストラリアを訪問し、首相の安倍氏は16日ベトナム、17日タイ、18日インドネシアと歴訪するが、その背景として「世界の成長センターの一翼を担う」各国という側面と、米国が有望な武器輸出相手国と目して動いている側面、南シナ界を巡る中国との緊張関係、解決の智恵ももたないまま尖閣をめぐる緊張の連鎖に陥る日中両国、そして相も変わらず米国べったり、虎の威をかりて「中国包囲網」らしき動きをみせる日本の政治という側面があるが、日本のマスメディアはそうした側面に傾斜し偏した状態であることに引きずられたまま、あたかも「総合的」に動いているかのように報じていないだろうか。
そうした状況も、米国の生き残り戦略やビジネスの都合、軍事予算の削減などの事情と深い関係がある。それを無視して、首相や外相の各国歴訪をお祭り気分で伝えたところでほとんど意味はない。まして、安倍政権が「中国包囲網」に乗り出しかのような報じ方(中国系メディアだけでなく、日本のマスメディアも)をしていたりする。
リーダー交代のタイミングのなか、政権や指導層への求心力を高めようとして、領土問題や軍備拡張の話題で競争心をあおり、愛国心をあおり、緊張状態や憎悪をあおることの無意味、幼稚さを市民社会が率先して指し示していかねばなるまい。
まるで、米軍産複合体のこうした動きや「期待」をうけるように、安倍政権は7日、民主党政権下で策定した防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画(中期防)について、近く閣議決定で凍結する方針を固め、2013年度予算案編成で、1年限りの防衛力整備に関する方針を提示し、防衛省はの4兆7653億円(12年度比1200億円)増を財務省に要求するとしている。(→東京新聞)
首相の安倍氏は組閣に合わせて、大綱と中期防について小野寺防衛相に見直しを指示し、その後、自民党も今月中旬以降に本格的な議論を始める動きだ。党政調の関係者は「夏の参院選前には骨格を固める」としている、という。
東京新聞によると、「防衛費の増額」が実現することになれば、11年ぶりのことになるという。その「増額」の内容には、自衛官の充足や事務官の増員のほか、尖閣諸島をはじめとする領土防衛強化のための装備品購入などを盛り込むとみられている。<自民党が衆院選の公約で掲げた「自衛隊の人員や装備、予算の拡充」に対応した内容>というわけだ。
昨年の総選挙に当たって、まだ野党党首に過ぎなかった安倍・自民党総裁は、米国の軍産複合体の「武器輸出」の増加路線・目論見にいち早く乗り、日本の「防衛費の増額」とそれを担保する「公約」を掲げて、相変わらずの「対米従属」ぶりをふりまいていたわけだが、その自民党が政権に返り咲いた。
そしてさっそく対米「ポチ」ぶりを発揮して動き出している。「改憲」など「刺激的」な冒険は、政権の安定基盤を構築することを優先させて、7月に控える参院選以降にもちこすとの見方が出ているが、それ以降も日本社会が後戻りできないように、自民党は「実態づくり」「実績づくり」にいそしむ腹のようである。
繰り返しになるが、「尖閣諸島をはじめとする領土防衛強化」の話題と「防衛費の増額」とが切っても切れない話であり、もともとセットで動いている。それを無視して、いたずらに中国の脅威を煽り、島の領有権をめぐって「愛国心」を煽り、そうしておいて、一方で、たとえば中国の出方や産業や貿易への影響をテコに「冷静」姿勢を多少打ち出してみせるような、マスメディアの浅薄な対応が目立っている。
そうした報道姿勢はおおむね「防衛費の増額」について欠落させており、結局、水面下で着々と進められようとしている、日本の管理統制国家への道、「戦争体質」への道を、結果として容認することにつながっていく。そのことを見落とすわけにはいかないのである。
断片的で、その場その場の一喜一憂に終始するような底の浅い「領土問題」の取り上げ方、「集団的自衛権」の行使問題についての取り上げ方、それらをめぐり例えば中国や韓国との「情報戦」を伝える表層的な伝え方が時として蔓延するような状況から、日本社会は早急に脱する必要がある。その意味で日本の市民社会挙げて、政権に対するウオッチだけでなく、マスメディアに対するウオッチと物言いをさらに強めていかねばなるまい。
日本維新の会代表の石原慎太郎氏は、13日のNHK番組で、今年の目標は「憲法を変えること」と宣言してみせた。外交・安全保障については、「三木武夫という非常に愚劣な総理大臣がつくった武器輸出三原則とか防衛費を国家予算の1%にとどめる根拠のないバカな政策は一変してもらいたい」などと語ってみせた。
防衛費の「国家予算の1%」枠など突破するのが当たり前、「武器輸出三原則」など取っ払うのが当たり前という、表面的な「威勢」のよさにメディアが引きずられるようなことがあれば、日本社会の凋落は単に「知性」の問題にとどまらず、よって立つ「産業」のありよう「精神文化」のありように後ろ向きの影響を与えることになり、日本の経済社会総体に国際社会から孤立させるような甚大なマイナスの影響を与え、日本がこれから築きなおしていくべき国のかたちを歪にしかねない。
石原氏は同番組で、安倍首相について「岸(信介)さんの血を受け継いでいる人」「命がけで大きな改革をやってもらいたい」と持ち上げるかたちで、「力をあわせて一番根底的な問題を根底から変える社会にしたい」と、改憲や武器輸出三原則見直しについて、「トップのリーダーの安倍君の性格次第」とあおりながらサポートする姿勢を示した。
石原慎太郎氏は国会に戻れば、ただ威勢のいいただの「たいこもち」なのかと、あきれるしかない体たらくを示したわけだが、この例などに象徴されるように、日本維新の会は、対米従属という枠のなかで米国と日本の軍産複合体の維持・存続に挺身する勢力にすぎず、自民党よりもさらに威勢のよさを示してみせながら、その実は自民党「靖国派」の補完勢力にすぎないことがわかる。
それを別の政党だからと、自民党とは取り分けあつかい、「公平」なかたちだけを強調するマスメディア。そこには、報道者としての「公正」や「深み」、時代に即した「知性」や、番組や紙面の多面的な「構成力」も、ジャーナリズムを担う者としての「矜持」も、同じ時代を生きる視聴者・読者・市民とともに直面する課題を共有し、ともに問題解決にいそしみ、たとえ一ミリずつでも時代を前進させようとする建設者の姿を見出すことは難しくなっている。
つまり先ごろの総選挙の時にも著しく見られたように、マスメディアは政党や候補者の取扱いについて、形式民主主義さえかなぐり捨てて、消費増税、TPP推進、原発維持・存続勢力に傾斜した報道た番組作りを行う姿を露呈させたが、さらに深刻なのはそうした時代の「争点」を掘り下げることよりも、一部を除いて、目先の表面的な動きを追うことに汲々としているようにしか思えない状況が続いている。
また、民主党政権に自民党と公明党が協力するかたちで、法案を通過させた消費増税については、本来、景気後退局面にあり、かつ社員の非正規化が異常なほど進行し、経済成長を牽引する産業の育成もままならないなかでの増税は危険である。まして、社会保障の充実・安定化と、そのための安定財源確保と財政健全化の同時達成をめざすとした消費増税にもかかわらず、法案が通るや否や、自民党はその大義名分をかなぐり捨てて「国土強靭化計画」なるものを打ち出し、消費増税分をあてこんで、国土再生事業を打ち出して、自民党支持層の引き締めと票固めに動いたものと思われる。
政権奪還後に繰り出した安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、デフレ克服のためにインフレターゲットを設定し、そこへむけて日銀を巻き込んでの大胆な金融緩和を講じるとした金融政策を軸に、「国土強靭化計画」なる大規模公共投資を実行しようというものだ。資金捻出策の一環として日銀法の改正を交渉材料に、日銀に建設国債の引き取りなどを行わせることや、消費増税分の財源への振り分けも念頭におく。
インフレターゲットは、インフレ抑制のためのインフレターゲットではなく、ここまで景気低迷が長引き、かつ世界不況もおさまらない不安定な経済状況のなか、経済成長の牽引車もみえないままに、強引に円高是正とデフレ脱却をはかろうとするものであり、遅れて来た大胆緩和政策である。アベノミクス打ち出しに市場は敏感に反応して、針は円安と株高に振れはしたものの口先介入の域を出していない。その状態を持続させる基本的な要因も保障もみあたらないため、逆に円安が急激な資産目減りへと転落を招く危険も秘めている。
iPS細胞技術の産業化に向けた積極投資や、非正規社員の雇用安定化にむけた施策なども打ち出すというが、基本は日銀に紙幣を大量増刷させて資金をだぶつかせ、公共投資で景気底上げの刺激を与えてデフレ脱却をめざし、かつ政策の遂行原資には消費増税を確実に遂行する地ならしとして新規増税分まで先行して当て込む(景気変動要因の打ち消し)というような不安定な内容であり、公共投資をカンフル剤として使用している間に実質的な景気底上げと経済成長の要因を総合的に整え生み出さねばならない、いわば「入り口」だけで「出口」のはっきりしない、かなりアブナイ政策といえるようにも思う。
アベノミクスは短期ではなく、中長期をイメージした政策であろうとことは明白であるが、安倍氏は「ロケットスタート」という表現を使っている。であるならばなおさら、たとえば発火点から滑走期、飛翔期、安定飛行期、着地へと至る施策のシナリオとチェック態勢・指標の共有が必要であることはいうまでもない。総合的というにはあまりにつまみ食い的な要素が目立ち、自民党の都合のいいように断片をつぎはぎした感もぬぐえない。そうした点も実に心許ないことなどから、すでにさまざまな角度から批判があがりはじめている。
先の総選挙でマスメディアが垂れ流した「自民圧勝」の事前報道が、報じさせたり報じたりする側にバンドワゴン効果を狙う意図があったにせよ、そうした意図はなかったにせよ、結局は、アナウンス効果(アンダードッグ(負け犬)効果と呼ぶべきかどうかの検証も別にすれば)はあったことは認められる。しかし、それはバンドワゴン効果とは真逆の、前の選挙より「棄権」者を1000万人も増大させるものとしてあらわれた。
自民党は09年に民主党に惨敗した総選挙よりも、今回は獲得票数を小選挙区で165万票も減らした。比例区でも219万票も減らした。しかしながら、小選挙区では大勝、比例区で微増したため、「自民圧勝」報道がもくろみどおりの効果を発揮したと思い込んでいる人もいるようだが、実際は、一部が期待したようなバンドワゴン効果は発揮することなく、選挙民は「自民圧勝」報道の洪水に嫌気して、ポリティカル・アパシーないしはそれに近い状態に陥り、「棄権」者の記録的増大へとつながった(もしも「自民圧勝」報道は、当初からバンドワゴン効果を発揮することを目的とせず、「棄権」者の増大をもくろんでのことだったとすれば、それはもはやメディアによる明白な犯罪行為であると言わざるを得なくなる)。
ここで言いたいことは、つまり、何らかの大掛かりなアクションを起こす以上、何らかの効果は表れるだろうということ。そして、その「影響」や「効果」のほどが、もくろみどおりに働くとは限らない、ということである。そのことは、しっかりと認識しておく必要があるだろう。
たとえば大胆な公共投資や、日銀による紙幣の増刷、あるいは不安定就労形態の安定化の取り組みへの支援などの施策のうち前2者は、タイミングによっては正の効果も期待できるが、異なるタイミングにおいては負の効果をもたらしかねない。世界経済が危機にあり、ここまでデフレが浸透し、税収も落ち込み、全労働者に占める非正規社員の割合が35.2%(2011年度)と拡大固定化が進行し、貧富の格差と貧困増大が実態として、また現在進行中の傾向として固定化しているいま、正規の効果を期待できるのは、非正規社員の正社員化など不安定就労形態の安定化であり、前2者、大胆な公共投資や紙幣の増刷は、一歩間違えば後代に再び甚大なツケを残しかねない。
大胆な手術も適切な栄養補給も必要だが、適切な時期に適切な方法と規模で行わなければ後遺症を残す。手術の部位を誤ったり、誤った場所に誤った栄養を補給すれば、誤った結果が待っているだけである。ビジョンと工程と実施状況を不断にチェックしていくプロセスの構築が欠かせないことはいうまでもないが、この冒険が、消費増税法案の成立を基礎に成り立っていて、さらにその先食いを前提とするものであるならば、あまりにずさん、危険すぎることは指摘しておかねばなるまい。
あまりのずさんさや危機を露呈している年金制度や健康保険制度のうえにあぐらをかき食い物にして、日本の経済社会システムをボロボロにしてきた自民党である。今回の「アベノミクス」が穴だらけであることはいうまでもなく、さらに利益を享受するのは一部に留まり、そのことが新たな利権と新たな隠蔽と新たなごまかしや目くらましを生み出す土壌となりかねない、との危惧が強まるのも当然のことであろうと思う。
自民党のお家芸(一つ覚え)の公共投資がカンフル剤として今後一時的に効くのではと期待を集めている時期に、夏の参院選をむかえるわけだから、自民党はこれで参院選を優位にたたかえるとふんでいるのだろう。奪還した政権の足場固めを着々と遂行していく腹であることは間違いない。
しかしながら、もし参院選でも自民党を大勝させるようなことが起きても、その後の数年間は「選挙空白期」が訪れるため、アベノミクスにしろ、その他の重要事案にしろ、民意を根本から裏ぎる局面が訪れても、市民社会として政権に対して有効な働きかけができなくなる可能性もある。そうなれば日本社会はこれまで以上に暗転し、完全に袋小路に迷い込みかねない。
少なくともくれぐれもアベノミクスによる公共投資を新たな利権の温床としたり、政府による公共投資の効果を過大評価して、景気や成長判断を見誤ったり、あるいはたとえば、アベノミクスによって「貧富の格差」が拡大したような際にそれを隠蔽・無視したりするような事態を引き起こしてはならない。また、増税のタイミングについての景気条項をめぐる議論のプロセスや一定の制約などを無視して、アベノミクスに消費増税分をあらかじめ組み入れて、先食いするようなルール違反は、日銀の独立性の毀損が許されないことと同様、断じて許されることではない。
日本社会はいま、そうした非常に重要な分岐点に立っている。にもかかわらず、いま日本のマスメディアはどうだろうか。日本のマスメディアについては、長きに渡って「これでは情報のリポーターではなく、ポーターに過ぎない」との厳しい指摘や批判が続いてきたが、この大事な局面において、報道・論評力の劣化は著しくないか。その果たすべき役割の停滞、混迷の度合いをいよいよ深めようとしていないか。
いまこのときにマスメディアがそうした状態に陥ったまま浮上できないというようなことがあれば、それは日本の平和主義・民主主義・人権尊重社会の危機に、マスメディアが加速をつける要因として働くことを意味する。政治家や政党の貧困に起因するだけでなく、マスメディアもそれに同調し加担した重層的な危機。それをいかに回避し、日本国憲法を軸にすえて、正しく日本社会のあるべき姿を具体的なビジョンとして広く要求し実現していくか。その先頭に立ち、かつ緻密な取材と幅と深みのある議論をもって変革の地盤となるメディアとジャーナリストの再生を急がねばなるまい。
経済や原発の問題にはこれ以上ここでは深入りしないが、この状況は単に、7月に予定される参院選に向けて、日本の市民社会のムーブメントはいかなる方向をめざすべきか、いかに米軍産複合体と日本の財界の身勝手な亡国路線だけに寄り添った政治を糾して行くかという課題に収斂されるものではないだろう。
安倍氏は16日の出発前、「今回の外遊を安倍政権の戦略的外交の皮切りとしたい」と語り、訪問を通じて「自由と民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を同じくする国々と関係を強化していく」とした。あっさり聞き流せば、実に聞こえがいい。この発言は、「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」という点で弱点を多々残す中国を念頭においたものと説明されてようやく、安倍氏のこれまでの言動と、こうした言葉の意味するところが一致したりする危うさをもっている。
その「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」という言葉と、安倍氏も含む自民党の改憲「案」の内容を付き合わせると、安倍氏はその「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」という言葉を、冷戦時代の「陣営」としてのみ表層的にとらえ、その概念も内実としての世界観も、それを実現し獲得してきた歴史もふまえずに口にしているのではないか、という疑いが生じる。もしマスメディアが、自民党が公約として掲げる改憲「案」を軽視・無視あるいは考慮せずに、安倍氏を「自由と民主主義、基本的人権、法の支配」の守護者として描き出すようなことがあれば、それはもはや「報道」ではなく「プロパガンダ」となる。それはそのまま、市民社会の政治への参加と監視のありようをミスリードするものとなることを、よく自覚しておきたいところである。
安倍自民党は、先ごろの総選挙で「改憲」を掲げたが、日本が平和国家として生きることを世界に宣言している「憲法9条」を支持する人は、当時の世論調査でも53%(朝日新聞)52%(毎日新聞)を占めており、「憲法9条」を廃棄することに賛成する層は30%台に留まる。
たとえば毎日新聞が年末26、27両日実施した緊急全国世論調査によると、自民党が衆院選公約に盛り込んだ憲法9条改正について「賛成」36%、「反対」52%。憲法9条改訂に「賛成」の人は自民党支持層で56%、公明党支持層で9%、「支持政党はない」と答えた無党派層では24%だった。
また、集団的自衛権を行使できるよう現行の憲法解釈を変更することについては「反対」37%、「賛成」28%、「よく分からない」31%。集団的自衛権の行使については、自民支持層で「賛成」は44%、「反対」は15%。公明支持層では「賛成」14%、「反対」46%となっている。
日本社会が世界に向けて平和国家であることを宣言する「憲法9条」を大切にする人が圧倒的であり、米国の戦争に加担する集団的自衛権の行使についても賛成する人は3割に満たない。それでも安倍氏は、12月26日の就任記者会見で、集団的自衛権の行使について「検討を始めたい」と表明してみせた。この有権者との極端な「乖離」。これこそが、安倍政権の本質として横たわっている。
ただ、憲法9条改定に関する「世論調査」と政治家(主に自民党)との乖離や温度差について指摘するうえでは、読売新聞社が昨年(2012年)2月25〜26日に実施した全国世論調査(面接方式)の結果にふれておく必要があるかもしれない。
同紙は「憲法改正賛成54%、3年ぶり半数超…読売調査」(2012年3月18日)と見出しを立てて、<憲法を「改正する方がよい」と答えた人は54%となり、昨年9月調査(43%)から11ポイント上昇した。改正賛成派が半数を超えたのは2009年(52%)以来で3年ぶり。「改正しない方がよい」は30%(昨年39%)に下がった>と報じた。
そして、改正賛成派を支持政党別でみると、<無党派層で55%(同40%)、民主支持層で51%(同45%)、自民支持層でも53%(同51%)に上がった>と報じたのである。当時、この調査がはじき出した数字に違和感をもった人は多かったものと思われるが、昨年末の総選挙後の朝日新聞や毎日新聞の世論調査結果を考え合わせても、やはり、読売新聞が「憲法改正賛成54%、3年ぶり半数超」と打った調査結果は「民意との乖離」を感じさせる。つまり「民意との乖離」を感じさせる危うい世論調査というものが出始めていることについても、私たちは注視していかねばならないということなのかもしれない。
喉から手が出るほど政権奪還が死活問題となっていた自民党。選挙前日の12月15日、自民党総裁の安倍氏は、東京・秋葉原で群衆の掲げる日章旗に囲まれるなかで、左手を高く振り上げ叫ぶように「3年前の自民党とは違う」と自らの「変化」を訴えた。この異常な日章旗と群集については、即座にツイッターなどで拡散されて「やっぱりキモい」「なんなのウザい」という反応が広がった。
しかしながら、選挙後の世論調査で、自民党支持層の56%が憲法9条改訂に「賛成」というわけだから、選挙前日、秋葉原に日章旗をもって集まった群集の存在は、野党・自民党にとっては自然な流れだったのかもしれない。読売新聞が打った「憲法改正賛成54%、3年ぶり半数超」のキャンペーンも、その動機付け要因となっていたのかもしれないし、それほどに着々と、政権奪還にむけ(最後には日章旗を持ち出すほどに)執念を燃やし結束を固めてきたのだろうとも思う。
読売新聞が調査結果を報じたことをうけて、「日本の右傾化が明らかに」といった論調も飛び交った。ネット上の掲示板などには「憲法9条は確かに正しいけど、9条を悪用しようとする外国が存在する限り無理」とか「憲法9条が意味を持つにはあと数百年必要」「左翼は未来に行き過ぎ、一人で現実を超越されても困る」といったコメントが載るなどした。
硬直し独りよがり、ヒステリックな「憲法改正」の論調は影を潜め、そのかわりに「憲法9条」を「理想論」として現実に合わないとする若干ソフト路線の「改憲論」の台頭がみられた。そして選挙前日の秋葉原での日章旗デモへとつながり、政権奪還後は、矢継ぎ早に民主党政権の敷いた路線の修正が始まっている。
その典型例が、前述した防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画(中期防)の凍結、防衛費の増額であり、2030年代に原発ゼロとした民主党政権の目標の見直しであり、防衛省の自衛隊へのオスプレイ導入検討方針の容認であり、そして「心のノート」の配布再開であろう。朝日新聞は12月29日、<文部科学省は28日、道徳教材「心のノート」を来年4月から小中学校に再配布する方針を決めた。数億円を2012年度補正予算に計上する>と伝えた。
文科省は同冊子を02年から児童・生徒全員に配布していた。だが、子どもたち個々が世間との向き合い方や善悪の判断を自ら学ぶためものではなく、逆に、教育勅語や修身教科の色彩が濃厚で、学校教育に愛国心教育を持込む内容との批判が高まり、民主党政権の事業仕分けで約3億円の予算は削減され、10年度の配布を最後にウェブサイト掲載に切り替えていたものである。それが、突然、自民党の政権復帰で復活しようとしている。
12日付の東京新聞によると、11日に公表された13年度予算の概算要求には、全校配布の費用が盛り込まれたという。また文科省は、13年度中に省内に有識者会議を立ち上げ、改訂版をつくる方針だという。
米国(それも軍産複合体と知日派という名のジャパン・ハンドラーたち)を崇める立場から、軍備増強(米軍と自衛隊の融合路線の促進)と思想教育(愛国心のもとにお国のために身をつくしてこそ自由は下賜される)、そして国民福祉・国民生活の安全の切捨てと重税路線である。前述したように、アベノミクス遂行の財源には、すでに消費増税分を数兆円当て込んでいるとの指摘もある。
トーンはソフトに抑制されてもいるようだが、それは周辺からのアドバイスに基づくもので、安倍氏の復古改憲路線は変わっていない。3年半に及んだ野党生活で、少しは注意深くなっているのかもしれないが、地金の対米従属、復古改憲、重税・低福祉・管理統制社会をめざして、自らの支配層の一員としての生き残りをはかろうとする姿勢は、どうも、少しも変わっていないようである。首相に「再チャレンジ」の機会を得た安倍氏だが、その風変わりな「挑戦」や「冒険」的姿勢と内容は、常に脆さを伴っている。
このまま日本社会が、旧態依然の支配構造の温存という幻想を抱え、その者たちの保身と妄執のための結託しか知らない弱肉強食の自民党政治に戻っていいはずがない。やっていけるはずもない。民主党の脆さも自民党の古さも、日々変化を遂げている時代の牽引役としては力不足である。自民党は早くも後ろ向きへの突進を開始し、鳴り物入りの経済政策ではお家芸の「身内」へのバラマキに突進としようしている。
民主党政権に対してはあれだけ騒いだ「財源」について、大規模な「アベノミクス」に対してはメディアの探求も追及も提言も弱い。欧米のジャーナリズムからも、安倍氏の掲げる「右翼政治」への回帰については警鐘が鳴らされているが、まだ誕生して間もない「ご祝儀相場」の時期にある政権に対して、日本のマスメディアは様子見を決め込んだり、あからさまな応援団だったりしている。
しかし、安倍政権による「亡国」「改憲」路線はすでに始まっている。それを見過ごすわけにはいかないのである。市民とジャーナリストは広く連帯して、安倍亡国政権の危険な流れを食い止め、かつ、成熟した日本の市民社会の今後のありようと、それに適合した政権の構築を、大急ぎで模索し見出していく必要が出ている。
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
*初出:JCJふらっしゅ 2013/01/17-2 2209号
http://archive.mag2.com/0000102032/20130117101512000.html
焦点:米国からアジアへの武器輸出、2013年は急増必至(ロイター通信1日)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE90500N20130106?sp=true
新防衛大綱 年内策定へ(東京新聞8日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013010802000096.html
維新石原氏 「愚劣」「バカ」暴言連発 改憲には協力姿勢鮮明(しんぶん赤旗14日)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2013-01-14/2013011402_03_1.html
「心のノート」配布再開へ 学力調査は全員対象に(朝日新聞12月29日)
http://digital.asahi.com/articles/TKY201212280771.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201212280771
「心のノート」復活 政権ごとに変わる教育 現場当惑(東京新聞12日)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013011290065621.html
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE90500N20130106?sp=true
新防衛大綱 年内策定へ(東京新聞8日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013010802000096.html
維新石原氏 「愚劣」「バカ」暴言連発 改憲には協力姿勢鮮明(しんぶん赤旗14日)
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「心のノート」配布再開へ 学力調査は全員対象に(朝日新聞12月29日)
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「心のノート」復活 政権ごとに変わる教育 現場当惑(東京新聞12日)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2013011290065621.html


