2013年05月02日

【インタビュー】五十嵐仁さん=小選挙区制に根本的欠陥 多様な民意の排除=社会の統合機能低下 「身を切る」なら政党助成金こそ

 前回の選挙から得票数を減らしたにもかかわらず、自民党が過半数の議席を獲得した昨年の総選挙結果は、改めて小選挙区制の欠陥を浮き彫りにした。
 現在の小選挙区比例代表並立制は、1993年の「政治改革」の時に導入が図られ、94年に区割り法案が成立。マスメディアもこの制度を強力に支持し世論に影響を与えた。当時から小選挙区制の矛盾を指摘してきた五十嵐仁氏は、マスメディアは当事者意識を持って小選挙区制について検証すべきだという。


五十嵐仁(いがらし・じん)=1951年生まれ。法政大学大原社会問題研究所教授。政治学、労働問題等を研究。著書に「一目で分かる小選挙区比例代表並立制」(93年)「徹底検証 政治改革神話」(97年)いずれも旬報社。「18歳から考える日本の政治」(2010年)法律文化社。ブログは「五十嵐仁の転成仁語」
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/


  ●――小選挙区制度の矛盾を示した総選挙結果でした。

 小選挙区制は、本来、選挙に求められている機能を果たせません。選挙は選出母体が代表を選ぶ仕組みですから、選出母体と代表の関係が歪むことがあってはならないからです。しかし、この点で小選挙区制には根本的な欠陥があります。
 第一に、票の分布によっては、総得票数の多い政党より少ない政党が多数の議席を占めることがあります。実際にイギリスでは2回ありました。
 第二に、少数の得票で多数の議席をとることができる。5人が立候補し、うち一人が21%の得票、一人が19%で残りの候補が20%だったら、21%で当選できる。全選挙区でそうなれば、議席を独占することも可能で、あとの89%は議席に反映されない「死票」になります。
 今回の選挙では「死票」が56%と半数を超え、約3730万票の票が「殺され」ました。その結果、自民党は小選挙区でも比例区でも得票数を減らしたにもかかわらず、議席を増やして勝利したわけです。
 第三に、僅差によって、簡単に政権交代が起きます。直近でみても、小泉郵政選挙では自民党が大勝し、09年の選挙では民主党が大勝して政権交代、今回の選挙ではまた自民党が勝って政権が交代しました。
 こうして政治が不安定になります。今回のように、有権者の4分の1(小選挙区)、6分の1(比例区)しか支持していないのに、望まれざる政権交代も起きる。
 第四に、「選挙互助会」のような政党ができることです。その典型は民主党でしょう。考え方がバラバラなのに、当選のために一緒になり、当選できないとなると飛び出す。
 今回は当選目的の政党間の野合も目立ちました。政党の形もゆがめられたのです。
 さらにもう一つ、「一票の格差」の問題があります。小選挙区では、どうしても区割りをいじらなければなりません。中選挙区制でも一票の不平等がありましたが、小選挙区では定数を変えることができず、格差の是正はより難しくなります。

  ●――小選挙区制につながった「政治改革」が問題だと思いますが。

 リクルート事件や金丸金脈問題などを契機に金権・腐敗政治批判が高まり、小選挙区比例代表並立制が出てきたのは海部内閣の時でした。第8次選挙制度審議会が提案したのが最初です。
 審議会の構成は27人で、うち11人がマスコミ関係者でした。会長が小林与三次読売新聞社長で、大手メディアの論説委員クラスが並んだ。
 その結果、新聞各紙は社説などで並立制導入の大キャンペーンを張りました。その後につくられた民間政治臨調にもマスコミ関係者が名前を連ねました。
 政治改革の時に自分たちがどういう議論をしたのか。その結果はどうだったのか。マスメディアには当事者意識を持って検証してもらいたいものです。
 小選挙区制にすることでサービス合戦がなくなり政治に金がかからなくなる、二大政党になって政権交代が起きる、政策本位の政治になるなどと言われた。実際には、金がかからなくなったわけでも、政策本位になったわけでもない。今回の選挙で二大政党制は崩れ、政策本位ならマニフェスト違反などは起こらなかったはずです。
 確かに、政権交代は起こりましたが、有権者の望まない政権交代まで起きてしまった。
 そもそも制度によって選挙結果や政党を誘導しようというのが間違いです。政権交代をできやすくするという発想も間違っています。政権交代は、有権者が望んでいるかどうかが基本でしょう。

  ●――財界・企業も第二自民党のスペアを作ろうとしたのでしょうね。

 自民党と似た第二保守党を作り、政権がどちらに行っても都合がいいようにするのが目的でした。その結果、多様な民意が閉め出され、間接民主主義が機能せず、社会の統合機能も低下した。
 TPPも脱原発も消費税反対の世論も国会に反映されない。消費増税など望んでもいないことが決まってしまうので、政治への信頼は低下します。
 政治改革の時に、「民意の反映」か「民意の集約」か、という議論がありました。しかし、民意の集約は議会の役目です。民意を反映する選挙で議会に民意の縮図を作り、そこでの議論を通じて民意を集約するわけですから。
 選出母体の民意が正確に反映されなければ、このような役割を果たせない。しかし、小選挙区制を廃止せよという意見はマスメディアではほとんど見当たりません。
 これがベストだという選挙制度はありませんが、ワーストだという制度はあります。それが小選挙区制です。このような最悪の制度はとっととやめて、比例代表制か中選挙区制にするべきでしょう。

  ●――国会議員の定数削減が身を切る改革だという議論も変ですね。

 国会議員を減らして困るのは、意思反映のチャンネルを減らされる国民の方です。国会議員や政党が「身を切る」というなら、政党助成金を減らすべきでしょう。
 そもそも企業・団体献金を廃止する代わりに、政党助成金を出すという約束でした。企業・団体献金が禁止されないのに政党助成金を受け取るのは二重取りです。
 国会議員の数は、アメリカを別とすれば決して多くはない。あまり議員の数を減らすと議会の活動にも支障が出ますから、これ以上減らすべきではありません。

  ●――あの政権交代は何だったのかという気もします。

 09年の政権交代は小選挙区制でなくても起こりえたでしょう。鳩山政権は「普天間移設は最低でも県外」というなど自民党とは違う方向性を打ち出そうとしました。
 けれども鳩山首相が辞任して菅政権になり、民主党支持率はV字回復したのに、参議院選挙前に消費税増税を打ち出して大敗北しました。その原因も1人区です。
 その結果、衆・参の「ねじれ」が起こり、民主党政権は自民党の顔色をうかがわなければならなくなった。これがマニフェスト違反につながっていくわけです。
 民主党政権初期に「政治主導」を掲げたのは良いとしても、官僚を敵に回したのは問題でした。政治家は経験も能力もなかったため、大混乱になったからです。
 その後の菅・野田政権は官僚依存を強め、自民党と変わらない政権になっていきます。しかし、自民党を追い出して政権交代を実現したのは、今後に生かすべき貴重な経験だったと思います。

聞き手=保坂義久

*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」4月25日号8面


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JCJ機関紙「ジャーナリスト」見本(2013年4月25日号1面、8面)
http://www.jcj.gr.jp/JCJ2013042501men.pdf
http://www.jcj.gr.jp/JCJ2013042508men.pdf

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