核兵器を保有するロシア軍がウクライナの首都キーウなどへの侵略戦争を開始した2022年2月24日を境にして、ニュース報道や世界情勢の見方がガラリと変化した。一部の「識者」はアメリカの外交専門家の意見を重視して冷戦の再来だと論じ、国連を軽視する意見を流布している。安倍元首相を中心とする極右集団は憲法9条をさかんに攻撃して日本における核兵器「共有」や「敵基地攻撃」を言い募っている。
ロシア国営テレビのデマ宣伝、ロシア政府による反戦運動の弾圧、報道の規制・弾圧などの映像に接すると、鏡を見るかのように、自民党・公明党政権に不都合なニュースをやり過ごす日本の大手ジャーナリズムの危うさも映し出していることに気づく。
例えば、日本のメディアには国際法学者がほとんど登場しない。辛うじて、『前衛』5月号に国際法学者の松井芳郎氏が「ウクライナ危機と国際法の到達点」と題するインタビューに答えているのは貴重である。松井氏によると、ロシアの「特別軍事作戦」なるものは国連憲章2条4項の武力行使禁止原則違反であり、不干渉原則違反、政治的独立の侵害、紛争の平和解決義務違反などに問われることを説明している。ロシアの蛮行は、岸田首相が挙げる国際人道法違反だけではないのである。
国連は無力か?という質問について松井氏によると、国連の緊急特別総会の決議は法的拘束力がないとはいえ、法的な効果が生まれるという。日本が「敵基地攻撃」論を実行に移せばロシアと同じ立場になる危険性があり、「核共有」論についても核拡散防止条約(NPT)第2条の非核兵器国の義務に違反することもさりげなく指摘している。
もう一つ、日本の雑誌では、ロシアの知識人がどのように考えているかの紹介が少ない。南ドイツ新聞や英ガーディアン紙などに掲載されたロシア人作家のウラジーミル・ソローキン氏(ドイツ在住)のエッセー「プーチン 過去からのモンスター」(松下隆志訳)が『文藝』2022年夏季号(河出書房新社)に緊急掲載された。プーチンを持ち上げる人々の姿も活写しながらイワン雷帝時代に築かれ、今なおロシア政治の基礎になっている「権力ピラミッド」を批判し、プーチン主義は破滅の運命にあると宣告している。「悪いのは誰か? 私たち、ロシア人だ」との言葉が痛々しい。
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2022年4月25日号
2022年05月24日
この記事へのトラックバック


