殺害予告を受けた女性市議に、市議会が発言の自粛を求めた。女性市議はこれには応じられないとしながら、氏に誹謗中傷を繰り返し今回の事態をもたらしたジャーナリストの男性を名誉棄損で民事訴訟に訴えた。私たちに突きつけられているのは、差別を認めていいのかという問題提起だ。
7月22日夜、ネット経由で埼玉県鶴ヶ島市に福島恵美(めぐみ)市議の殺害と市役所を爆破するとの犯行予告が届いた。犯行は実行されなかったが、予告に仰天した市議会は8月4日に臨時議会を開き、あろうことか被害者ともいえる福島氏にSNSでの発信に市議の肩書を使用しないよう求める決議を可決した。
決議は、市議会が関与しないことについて「市民等から市及び市議会への問い合わせが増加し、通常業務に支障をきたしている」として「個人の発言を制限する考えはない」が、福島議員には発言の自粛を求めるとしている。一方、加害者側責任にはまったく言及しないきわめて偏ったものだった。
共産党の1人が欠席、同じく一人が反対したが、賛成多数で決まった。
報道によると、5月末から7月末までの問い合わせは約100件に上り、ほとんどが議員を批判するものだったという。
これについて、福島氏らが翌日東京地裁で開いたジャーナリストの石井孝明氏を訴えた訴訟の記者会見によると、市役所や市議会に抗議の電話などが殺到し始めたのは、福島氏が3月にさいたま市で開かれたクルド人の新春を祝う祭典であるネウロズに参加し、4月にSNSに外国人のせいで犯罪が増加したというのはデマだとデータを用いて投稿してからだった。
集中した抗議電話などは、石井氏が祭典に参加した福島氏を「テロ組織の女性要員」だとネット上で繰り返したことや、「ジョーカー議員」こと河合悠祐・戸田市議らがあおった結果である疑いが濃い。戸田氏は、ネウロズに乱入し祭典中止を叫んだ人物で、昨年の都知事選では女性のヌード写真を選挙ポスターに持ち出したことで知られる。市議会の内野嘉博議長には直接電話をかけ、抗議もしたようだ。
一連の市への迷惑行為は、一般の市民からではなく大半がこうした差別主義勢力からだったと見られる。にもかかわらず、議会運営側は、こうした事実経過を精査せず、市が抗議を受けた責任を一方的に福島氏になすりつけた格好だ。議会終了後に議長室に呼びつけられ、その後支援者と交流した福島氏は「発言を控えれば攻撃が減るのだから発言しないほうがいいとおっしゃったようだ」と打ち明けた。これこそ議会主導部側の事なかれ主義にほかならない。議会が始まる前には、市役所の前で、福島氏の支援者らが「殺害や爆破予告の責任が福島議員にあるわけがない」「議員の発言は人種差別に反対するもので、自粛の必要なんてない。議会は殺害予告された議員を守れ」などと訴えた。
根底には二つの差別
「今回の裁判の根底には、二つの差別がある」―臨時会の翌日、福島氏らは東京地裁で石井氏に対して起こした民事訴訟について記者会見を開いた。同氏に名誉を棄損されたとして220万円の損害賠償を求めたのだ。「単なる意見や批判の範囲を逸脱し、個人の尊厳を踏みにじる社会の分断をあおる差別だ」として指摘したのは、一つは、外国人に対する差別、もう一つは、女性差別だ。
日本も批准している人種差別撤廃条約は、外国人差別を含むあらゆる差別を禁止しているが、石井氏は23年6月から埼玉県南部のクルド人を差別的に報道し始め、その後のクルド人をめぐる世論変化のきっかけをつくった。原告側によると、同氏は、福島氏がネウロズに参加したときの写真だけを根拠に「テロ組織PKKの女性要員」だと決めつける名誉棄損を行ったという。福島氏は「私はもちろんテロリストではないし、ネウロズもテロリストの祭りではない」と反論した。
「石井氏の発言には扇動の効果がある。私がネウロズに行ってから、賛同者が一斉に攻撃を仕掛けてきた。クルド人と仲良くしたら自分もネットで叩かれ、関わるのはよそうとなりかねない。これが彼の狙いだろう」と話した。
女性差別については「差別に抗議する、物言う女性への差別は執拗かつ激しい。石井氏は差別をあおり、書籍やブログで稼ぐ差別ビジネスを行っている。差別を商売道具にさせてはならない」と訴えた。
記者会見で、よその市に出かけていることや、市議としての仕事をしているのかとの疑問があるとの質問については「市議の仕事は市内だけではない。人々の福祉、生活を守ることだ。いろいろな所へ出かけて学んだことが鶴ヶ島市の役に立つこともある。迷惑がかかるかもしれないから言わないが、視察なども行っており、仕事はしている」と答えた。
福島氏は会見を通して「議会での決議にはがっかりしたが、一人の物言う女性として泣き寝入りはしない」と宣言した。
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