自民党が総選挙で大勝し自信をつけた高市早苗首相は、持論の防衛力強化の目玉として原子力潜水艦導入に乗り出そうとしている。
引き金になったのは防衛省の有識者会議が作成した昨年9月の報告書だ。この中で長射程ミサイルを搭載した長距離・長時間の移動や潜航が可能な「次世代の動力」の潜水艦を保有することが望ましいと提言。報告書作成段階で原子力潜水艦の明記が検討されたが、「次世代の動力」に。9月19日付朝日新聞によると「世論のハレーションが大きいので、原潜への直接の言及は避けた」(防衛省幹部)という。
自民党と日本維新の会が締結した10月の連立合意書でも「わが国の抑止力の大幅な強化を行うため(中略)次世代の動力を活用したVLS(長射程垂直ミサイル発射装置)搭載潜水艦の保有にかかる政策を推進」と書き込んでいる。
小泉進次郎防衛相も「原子力だからだということで議論を排してはならない、こういうことが私の思いとしてはあります」と11月7日の記者会見で述べた。
韓国と豪州導入へ
政権内で原潜保有が持ち上がったのはことについて原子力資料情報室事務局長の松久保肇氏=写真=は「日本の潜水艦(22隻保持)は、中国やロシアなどの艦船動向の監視と、もう一つ大きな任務は移動する海上自衛隊艦艇のガード役です。ところがスピードの速い自衛艦に今のディーゼル発電機を使う潜水艦では追いつけないケースが少なくない。それを補うため浮上したのが原潜です」。
さらに@韓国原潜を米国内の韓国所有の造船所で建造をトランプ米大統領が承認、A米英豪3カ国の軍事協定「AUKUS(オーカス)」に基づき豪州が米国の原潜購入や自国製造を決めた―ことも日本の原潜保有推進に拍車をかけた。
ところで日本はもちろん韓国も豪州も核拡散防止条約(NPT=約190カ国加盟)に加盟する。両国は「動力に原子炉を使う通常兵器の潜水艦」なのでNPTに抵触しないとしている。
NPT体制形骸化
そのNPT体制は大きく揺らいでいる。松久保氏はこう指摘する。
「核兵器保有国と定められた米露英仏中の5カ国は核軍縮を怠りむしろ核兵器の近代化に取り組んでいる。NPTの遵守義務を守っていないので、非核兵器国は不満を抱いている。信頼低下のNPTは空文化になる可能性がある」。
NPT体制の形骸化が韓国と豪州の原潜導入や日本の原潜保有推進の要因かもしれない。
原潜保有には小型原子炉の開発が不可欠で、建造費は1隻1兆から2兆円。任務遂行には数隻が必要。コストは積みあがり、維持費も膨れ上がる。「米国からの原潜リース」(石破茂前首相)でもリース代は巨額になるだろう。
そもそも唯一の戦争被爆国、日本はこれまで世界に核廃絶を訴えてきた。原潜保有は整合性が取れない。
原子力基本法改正
原潜保有をめぐり野党は反発し国民的議論が起きるだろうが、高市首相は「原潜保有は憲法違反ではない」(2021年9月27日、FNNプライムオンライン)という姿勢は曲げることはないだろう。与党が衆議院で圧倒的多数を占める状況下では、原子力基本法第2条(原子力の研究・開発・利用を「平和の目的」に限る」)の改正は難しくない。
原潜保有が現実になったらどうなるか。松久保氏は「核兵器保有へのステップと海外は見るでしょう。世界の核をめぐる緊張は高まり、各国の安全保障に影響を及ぼすのは必至」と警鐘を鳴らす。
「核武装」につながる原潜保有は断固阻止すべきだ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年3月25日号
2026年04月06日
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