2024年元日、能登半島を激震が襲った。傷跡は2年後の現在も消えていない。日本政府の災害対応は酷いものだが、その陰で珠洲市の人々の闘いに、感謝しなければならない事実がある。
この地の「原発計画」を撤回させた住民運動がなければ、今回の地震で、あの福島原発と同等の、いや、もしかしたらそれ以上の災禍が日本を覆っていたに違いない。
かつて著者は、NHKディレクターとして住民運動に密着した作品〈ドキュメンタリー’90 原発立地はこうして進む―奥能登土地攻防戦〉で、過疎地の原発計画が、いかに地域住民を苦しめ分断していくかを克明に描いた。その狭間で揺れる人々の心情を表す短歌を本書で引用する。
〈原発ができれば珠洲を捨てますと少女は訴う涙ながらに〉
原発を巡る幾度もの選挙や攻防を経て、中部電力は結局、計画を断念する。それを「民主主義の学校であった」と著者は記す。住民運動の輝かしい勝利ではあったけれど深い傷跡が地域には残った。それを払拭するための人々の動きまで、丁寧に拾い上げていく。
誠実な著者のインタビューは、反対運動に携わった僧侶の塚本真如さんや落合督子さんや北野進さんたちだけではなく、原発の強力な誘致派として敵対した上田幸雄さん(元県議)にまで及ぶ。
上田さんが原発を過疎地域の振興のために必要だとして苦闘する様を、著者は優しく解きほぐしていく。人間ドラマが読む者の胸を打つ。本書は著者の祈りをも込めた奥能登からの伝言である。(地平社1800円)
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