2026年04月10日

【裁判】取材で2次被害? 記者ら訴えた女性が問うもの 記者の取材「面談」が争点に 相手に向かう姿勢問われる=編集部

3面「西日本」写真・DV・ストーカー事件西日本新聞本社前での抗議行動.jpg

 福岡市の西日本新聞社の社前で今年1月、市民たちの一団がメッセージボードを掲げて声をあげた=写真=。ボードには「DV被害者をなぜ傷つけるのか?」「被害者が訴える2次加害」「西日本新聞記者が書いた本」などの文字…。市民たちの行動は、過去のDV・ストーカー被害を連載記事やその後刊行された「評伝」に書かれた女性を支援するものだった。女性は取材のあり方を問いかけた民事訴訟を起こし、一審敗訴後、控訴審で争っている。編集部はこの問題には訴訟の行方とは別に、メディアの取材のあり方、報道することの意義と、される側へのプライバシー配慮について報道する側、される側の双方にとって真剣に検討すべき重い課題が孕まれていると考えた。

過去の被害が
ある日記事に

 女性は「1999年から2000年にかけ、元交際相手からDVと執拗なストーカー被害を受けた」。加害男性には2001年8月に懲役10カ月の判決が下り、控訴も退けられて判決は確定。民事でも被害女性への100万円の損害賠償命令が出された。
 だが、女性にとっては、終わった事件だった過去の被害は、約20年後の21年2月から3月にかけて西日本新聞の連載記事の中に掲載された。女性は「過去の被害が知らないところで記事になっていたことに、身体が震えるような衝撃を受けた」と述懐した。

「取材したい」
記者から連絡

 女性のもとには2021年3月、記者から「連載をもとに『評伝』を書くので、被害者に取材したい」と連載終了後に連絡があったという。
 女性が記事を読んだのは連絡を受けた後。記事はストーカー行為には全く触れず、「交際していた女性との関係がもつれ」殴打と表現されていた。加害男性の知人の「(男性が)一方的に悪いとは思わなかった」とのコメントが掲載されていた。女性は当時、加害男性が「痴話げんか」と主張していたことを思い出し、「加害者擁護」と疑問を持ったという。
 だが、取材を断れば、加害者に都合の良いことのみが本に書かれるのではとも懸念、取材を受けようかと考えたという。
この時点で記者からは(女性が)登場する箇所は「原稿やゲラを見せる」、「書かれると差しさわりのある事柄は修正する」などの提案があり、「編集者への確認が必要ですが、筆者の私の意向ですので問題なくお見せできると思います」と約束したと女性はいう。
 だが、ここから話はこじれ始める。その後、数日にわたってメールのやりとりをする中で、記者は「自分がいかに加害男性を尊敬しているか」というようなことを書いてきた。女性は取材を受けることに強い不安を感じ、思い切って記者に「私の被害を軽く考えているのではないか」と指摘。記者は一転して「取材申し入れを取り下げる」と言ってきたという。理由は「取材に最も重要な信頼関係を築くことは難しい」。指摘で「自分の人間性を否定された」。女性はとりあえず場をおさめ、記者と直接会って話をすることにした。

不信がつのった
ぶしつけな質問

 女性と記者は2021年4月、西日本新聞社の会議室で会った。記者からは「思いを聞かせてほしい。通常取材でするメモや録音はしない」と前もって伝えられていたが、記者は女性に、加害男性と交際当時のプライバシーについて尋ねてきた。女性は「初対面の相手には絶対しない、親しい同性の友人にも直接尋ねるのをはばかるような性的な事柄」、他に私の被害を疑問視するような「(加害男性は)こう言っているがどう思うか」と質問され、「頭が真っ白になった」。記者は後にこの日のことを「面談」と言っている。

新聞社に対し
「抗議と要請」

 女性は今後、取材には友人を同行した上で応じると表明したものの、不信を一層募らせた。
女性は翌5月、西日本新聞社に「抗議と要請」を送付。新聞に連載された記事の内容と記者の言動に抗議した。記者が「書く」予定の『評伝』については西日本新聞社と記者に「加害者側の一方的な主張のみを書かず、被害者側(女性)に取材の上、事実を正確に書く」、「原稿とゲラのチェックをさせる約束を守る」ことを要請した。
 この時点では、記者の上司は女性の「抗議と要請」に、被害女性に取材せず記事にしたことを「詰めが甘かった」と反省し、ショックを与えたことを謝罪。ゲラチェックなど『評伝』への要望にも「真摯に受け止め最善を尽くす」としていた。

私にとっては
「加害」の再来

 だが、女性と記者が会ったのは4月が最後だった。5月の西日本新聞社への「抗議と要請」送付後、記者は女性に一切取材はしていない。そして1年9カ月後の2023年1月、刊行された『評伝』には、事件の判決文をもとに女性のプライバシーが記載された。
 「記者が尋ねてきた、あの性的な事柄です」、「もし、約束が守られていたら、私はこれは書かないでほしいと言っていた。私にとっては加害の再来に他なりません」
 女性は「2次加害」だととらえ、2024年6月に、記者と西日本新聞社を相手取り、損害賠償を求める訴訟を起こしたが、一審の地裁では2025年12月敗訴した。
 争点となった「面談」でのやりとりが「取材にあたるか否か」について、判決は、「面談」ではメモも録音もせず、取材はしていないとの記者の説明を採用。取材していない=ゲラを見せなくてよい、とする論理を認めた。

 一審で女性に協力し意見書を提出した元記者のJCJ会員は、記者経験に照らせば「録音・メモ取りをせず自由に話してもらう」事前取材は重要で、「面談」は「広い意味での取材」にあたると思うと語る。記者が取材相手と話し質問もした。相手の感触を探る取材ととらえるのが常識的ではと指摘。それ以上に、取材相手に向かう姿勢が問われているのではないかと問題提起している。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年3月25日号 

posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 九州・沖縄 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック