放送業界全体を揺るがせた「フジテレビ問題」発生から一年が過ぎた。タレントによるアナウンサーへの性暴力事件を個人的なトラブルだと軽視した当時の経営陣の判断ミスによるもので、女性やマイノリティの人権を尊重しない傾向は業界全体にはびこっている。
数年前、愛媛県のテレビ局「あいテレビ」が制作・放送していたローカル枠のバラエティ番組で司会を務めていたフリーランスのアナウンサーが、共演者やスタッフから執拗なセクシュアルハラスメントを受け、うつ病になって番組を降板した。アナウンサーは放送局を提訴して、東京地方裁判所で係争中だ。
裁判では、テレビ局の安全配慮義務違反を追及して、アナウンサーの精神的被害や逸失利益など約4000万円の損害賠償を求めた。番組関係者にほとんど女性が存在せず、セクハラを止めるように番組側にたびたび訴えたのに聞き入れられなかったこと、アナウンサーはうつ病で現在も通院治療中のため未だに定職に就けないことなどを訴えている。
またアナウンサーはこの事案について放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権救済申し立てを行ったが、人権侵害が認められなかった。そのBPO決定には有識者などからさまざまな批判が出されている。このため、この裁判はBPOの審議のあり方も問いかけるものとなっている。民放労連はこの裁判を支援することを決定して、早期解決を求める統一スト権の確立を春闘方針に掲げた。
この裁判のケースなども踏まえて、2月に「メディアの構造的性暴力」をテーマにしたシンポジウムが開催された。新聞労連、民放労連、出版ネッツ、メディア総合研究所などが構成する実行委員会の主催。登壇した中野麻美弁護士は、性暴力は人権のトータルを侵害すること、侵害されるのは平和や民主主義といった社会的基盤にかかわること、情報が公共財であることから、その中に差別や暴力が含まれることの深刻さを論じ、被害者を沈黙させる構造の問題点を指摘していた。
同様の問題はテレビに限らない。性暴力で有罪となったマンガ原作者を変名で起用し続けた小学館が厳しい批判の対象とされた件は、同社が設置した第三者委員会の調査が行われている。
繰り返される性暴力、それが構造的に隠蔽されることを自覚して根本的に改めない限り、放送をはじめとするメディアは市民から見捨てられることになるだろう。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年3月25日号
2026年04月15日
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