2026年05月13日

【自民党大会】陸自隊員が国歌 首相「法的問題ない」=編集部

 「時は来た。憲法改正の発議について、めどが立ったと言える状態で来年の党大会を迎えたい」。高市首相が師と仰ぐ安倍元首相にならい「来年の党大会」と改憲の国会発議の期限を表明した12日の自民党大会で、陸上自衛隊中央音楽隊に所属の陸曹が制服(音楽隊の演奏服)で登壇し、国歌を斉唱した。自衛官は登壇に際して「陸上自衛隊が誇るソプラノ歌手」と司会者から会場に紹介されたという。自民党、防衛省は「国歌の斉唱は政治行為にあたらない」とするが、問題は国会でも取り上げられ、「自衛隊の中立性に疑念をもたれる軽率な行為との指摘もされる。何がどう問題なのか。関係者の説明を紹介し整理した。

自衛隊法61条

 自衛隊法61条は自衛官の政治的行為禁止を定めており、「隊員は選挙権行使を除き、政治的行為をしてはならない」と条文にある。
これについて防衛省はメディアの取材に「国歌を歌唱することは政治的行為にあたらないと認識している」と回答した。
 自衛隊所管大臣の小泉防衛相も「国歌の歌唱は政治的行為にあたらない」と述べ、自衛隊法抵触を否定。関係者から依頼されての陸曹の自民党大会出演は自衛官の職務ではなく私人としての行為とする一方、「私は事前に知らされていなかった」とも語った。
また、高市首相も「会場に着くまで知らなかった。特定の政党への支援を呼びかけたわけではなく、陸曹の国歌斉唱は法律的に問題はない」とした。

問題点すり替え

 自民党サイドでは鈴木俊一幹事長は「個人に対してお願いした。国歌を歌うこと自体に政治的な意味はなく、特に問題ない」。萩生田光一幹事長代行は「陸曹への依頼は党の要請でなく、党大会の演出を企画する会社の推薦だった」と説明。事前に同社を通じて現役自衛官が特定政党の大会で歌唱しても問題ないか防衛省に確認し、「問題ない」と言われたので党大会運営委員会で決定したとも語った。
 一方、防衛省の担当部署は事前に、演出企画会社に歌唱依頼された陸曹から連絡を受けていた。また、陸自トップの荒井正芳陸上幕僚長は、陸曹の出演を事前に把握していたと明かし、「その自民党大会出演が不適切とは考えていない」との認識を示している。
 さらに、国会で、自民党大会は「党の最高意思決定機関、政治的行為では」と指摘された防衛省幹部は、集会などで「政治的目的を有する意見を述べることなどが政治的行為」。「国歌斉唱自体に特定の政党を支持や反対する目的はない」と答えた。
 だが、防衛省や自民党の「国歌斉唱は政治的行為でない」との主張は問題のすり替えだ。
問題の根幹は特定の政党の党大会に、自衛官が誰が見ても自衛官だとわかる形でステージに上がり、参加していることだ。国民から見れば自衛官(公務員)の政治活動参加に見える。
 自衛官(公務員)の政治的中立に疑念を抱かせる自民党と防衛省の判断は軽率に過ぎる。政府の「私人としての行為」という説明もおかしい。

処分すべきは誰

 「私人としての行為」なら、陸曹は自衛隊法46条1項の「職務上の義務に違反」で、懲戒処分を受けることになる。だが、制服(演奏服)は陸上幕僚長の指示で着用するものであり、国会でこの規定を指摘された防衛省の担当者は、幕僚長の指示を受けたものではないとした上で、「職務外に演奏服着用が禁止されているわけではない。今回、私的な場面で演奏服を着たから規律違反とは評価しない」と答弁した。
 また、自民党大会には音楽隊副隊長も陸曹に同行していた。しかも陸幕長は陸曹の出演を事前に了解していた。
 つまり陸上自衛隊が自民党に忖度し、問題点を知りながら組織的に党大会に協力したのではないのかということだ。
 それなら責任を問い、処分されるべきは陸自のトップ幕僚長だ。当然だが、小泉防衛相も監督責任を免れない。「省内の報告態勢に問題があった。報告のあり方について改善が必要」などと他人事のように語っている場合ではなかろう。

自民政権に懸念

 さらに今回の一件で明らかになったことがもう一つある。政権与党としての自民党の実務能力だ。萩生田幹事長代行は、陸曹の起用は党大会を演出した企画会社の推薦。問題がないかどうか、企画会社を通じて防衛省に確認したと語った。
 ちょっと待て。自民党は政権党=政府そのものだ。法的な懸念があれば、法務省があり、内閣法制局がある。最高の専門機関に党として直接確かめることが当たり前にできる立場にある。防衛省に直接照会することも当然可能だ。
にもかかわらずその確認を企画会社に委ね、丸投げした。
 1年後には改憲発議にめどをつけたい。「時は来た」と言うが…。これで本当に大丈夫なのか。党大会で露わになったこの一件で不安はますます募る。自衛隊が組織として政治に介入しないようにしてきたのは、戦前、戦中の苦い記憶への反省からだ。自民も防衛省も麻痺していないか。
 だが、おかしいと思った議員もいる。岩屋毅元防衛相は記者団に問われ「制服を着て、階級を含め自衛官と紹介されていたので違和感を覚えた。政府は反省する必要がある」と指摘したという。
改憲に前のめりの高市政権だけに、いま改めて権力監視の重要さを確認したい。まさにここが正念場だ。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年4月25日号 
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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