2025年10月23日

【Bookガイド】10月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

今尾恵介+金田章裕『地図と読む 日本の街道』帝国書院 10/9刊 1800円
日本各地にある街道の地理的、歴史的な変遷をたどる道案内。古代から残る街道、江戸時代に整備された街道、鉄道開通後の近代の街道…など、時代ごとに解説する。 地図や地理関連の本を多数執筆する著者ならではの視点で読み解く一冊。
 著者の今尾氏は1959年横浜市生まれ。地図研究家。現在、地図情報センター評議員を務める。地図や地形、鉄道に関する著作が多数。
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堀部貴紀『サボテンは世界をつくり出す━「緑の哲学者」の知られざる生態』朝日新書 10/10刊 950円
日本で数少ないサボテン博士である著者が、その驚異のしくみを解き明かし、温暖化防止効果や食料の可能性にまで触れ、文化・社会・技術・信仰の交差点を行き交うサボテンの多義性を詳述し、生物の存在について思索する。サボテンのワンダーワールドを描く!
 著者は中部大学准教授。専門は園芸学、植物生理学など。岐阜放送報道部に勤務後、研究の道に戻り、現在は中部大学でサボテンを研究中。
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岡口基一『裁判官はなぜ葬られたか━絶望の弾劾裁判』講談社 10/10刊 1800円
あの裁判官をクビにしろ! 陰謀、世論、怨念、裁判官ムラ……専門書など数多くの著書を執筆してきた有名判事が、SNS投稿を理由に戦後8人目の罷免判決を受けた。裁判官が「法の良心」より大事にする「暗黙の規範」とは? 前代未聞の弾劾裁判が明らかにしたものとは? 裁判官を国会議員が裁くとは? ツイッター投稿から「罷免」にいたるまでいったい何があったのか?
 第一級の裁判官が当事者として冷静に分析し、日本社会の危うさを可視化する必読の一冊。
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鈴木宣弘『令和の米騒動━食糧敗戦はなぜ起きたか? 』 文春新書 10/17刊 900円
スーパーからコメが消え、過去最高の小売価格を記録する「令和の米騒動」。政府備蓄米の放出などによって沈静化したかに見えたが、構造的に市場へのコメ供給が足りないのが明白になった。長年にわたって推し進められてきた生産調整政策の限界、低い米価による農家の疲弊、高齢化問題などに積極的な策を講じてこなかった農政の失敗という構造的な要因だ。真に日本の農と食を救う具体策はあるのか。第一人者の著者による構造分析と未来への緊急提言!
 著者は1958年三重県生まれ。東京大学教授。「食料安全保障推進財団」理事長。著書に『食の戦争』など。
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藤井敏嗣『富士山噴火━その日に備える』岩波新書 10/20刊 1000円
富士山はいつ噴火しても不思議ではない。活発に噴火を繰り返して現在の姿に成長した富士山は、いまだに若い活火山なのだ。どんな噴火が起こりえるのか、どう備えるのか。富士山の噴火予測はなぜ難しく、そのマグマが特異であるのはなぜなのか。火山学をリードしてきた著者が富士山の成り立ちとマグマの科学を解説し、噴火への心構えを説く
 著者は1946年福岡県生まれ。東京大学名誉教授、山梨県富士山科学研究所所長。著書に『火山――地球の脈動と人との関わり』など。
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小林麻衣子『西村賢太殺人事件』飛鳥新社 10/23刊 1727円
恋人が綴った、西村賢太との3547日。「自分の人生に責任、持てよ」─彼が残したこの言葉がなかったら、ここまで書けなかった。私のせいで西村賢太<けんけん>が殺された、との認識が、突然背後から鈍器で殴りかかってきた――瞬間、左のみぞおちが反り返るようにグググと引き攣って、洗面台に駆け寄って嘔吐(えず)いていた――『西村賢太殺人事件』の爆誕である。
 著者は、1974年東京都生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。現在、立教女学院短大准教授。著書に『近世スコットランドの王権』
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2025年10月20日

【おすすめ本】国民からの信頼に背く最高裁=樋口 英明(元裁判官)

 福島原発事故による損害について、最高裁の多数意見は国に賠償責任がないとした。国に賠償責任があるとした説得力に富む三浦裁判官の意見ではなく、なぜ全く説得力のない意見が、多数意見なったのだろうか。
 本書は、その背景を綿 密な取材に基づいて明らかにしている。多数意見の3名の裁判官の内、2名は東京電力と深い繋がりのある大手法律事務所の出身者であり、1名は定年退官後間もなく同様な大手法律事務所に就職した。

 最高裁は地裁、高裁の裁判官に対し、常々「裁判官が公平であるのは当たり前である。公平であることが外からも見えるようにしなさい」と言ってきた。
 しかし本書は、当の最高裁が最も「公平らしさ」を踏みにじっていることを数々の事例によって明らかにした。このような実情を知れば、地裁や高裁の裁判官たちは驚くに違いないし、「人権擁護の最後の砦」として司法に期待を寄せている国民は失望するに違いない。

 民主主義と法の支配はこの国の基本である。法の支配とは裁判所が最終決定権を持つことをいう。選挙で選ばれていない裁判官の決定が、そのような力を持ち得るのは、裁判官は法と論理に従って公平に判断し、私利私欲に走らないという国民の信頼があればこそだ。
 この国民からの信頼こそが司法の基盤である。この基盤が今、最高裁から崩れ始めている。その崩壊を防ぐためには、広く国民が最高裁の実態を知ることが、不可欠である。目をつぶれば崩壊は進んでいく。
(地平社1800円)
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2025年10月13日

【好書耕読】烏谷昌幸『となりの陰謀論』━国際政治をも動かす陰謀論=岩下 結(「本屋とキッチン よりまし堂」店主)

 この参院選における参政党の躍進は、多くの市民を戦慄させた。それは彼らの極右的主張のみならず、荒唐無稽な陰謀論や似非科学(「メロンパン」から「文化マルクス主義」まで)を公然と語り、メディアやSNS上で、どれほど否定されようとも動じない様に、異様さを感じたからであろう。
 陰謀論や似非科学は以前から存在した。とりわけコロナ禍以降、ワクチン懐疑論やマスク不要論を通じて、政治的志向を持たないように見えた隣人が、突然陰謀論を語り始める恐怖を、多くの人が経験しているはずだ。

 そうした危機感に対応したタイムリーな書が、本書である。著者は、陰謀論に陥る人を情報弱者扱いするのではなく、誰にもある認知的バイアスの帰結と捉える。とりわけ「世界をシンプルに解釈したいという欲望」と「大切な何かが奪われる感覚」とが作用している。
 いつの時代も陰謀論は存在したが、現在の危機は、それを動員ツールとして活用する「陰謀論政治」が、国際政治をも動かす動因となったことである。
 トランプ再来を招いたQアノンは、その代表格であり、日本でも無数の亜種を生んでいる。それは「移民による侵略」といった排外主義言説と結びつき、民主主義社会を蝕む。非合理的な陰謀論を信じるか否かが、集団内で異論を排除する「踏み絵」として機能するとの指摘も重要だ。
 陰謀論者はメディアや知識人を敵視し、否定されればされるほど、「マスコミは支配されている」との確信を強めて いく。

 ではどうすればよいのか? 明確な処方箋はないが、終章で紹介されるフィリピンのドゥテルテ政権によるメディア攻撃を受けた記者らの例では、報道・法曹・学術・NGO等の重層的ネットワークによって偽情報に対抗する道が示される。日本においても市民社会の総力で臨むべき喫緊の課題であろう。(講談社現代新書900円)
                 
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2025年10月02日

【おすすめ本】山田 健太『転がる石のように 揺れるジャーナリズムと軋む表現の自由』―表面の時流に流されず 現場から説く鋭い定点時評=藤森 研(JCJ代表委員)

 戦後80年。日本の言論状況はどう変遷してきたのか。
 「約20年ごとに、構築期・躍動期・挟撃期(権力と市民双方からのメディア攻撃)・忖度期にま とめられる」と、著者は さらりと書く。テレビ誕生、ベトナム報道、報道 の人権侵害、安倍一強……。思えば、なるほどと 頷(うなず)かされる。

 本書は、琉球新報と東京新聞に載った、著者の時評の2020年以降分をまとめたもので、それ以前は既に二冊の本となって世に出ている。長期間、たゆまず現場を見続けてきた「定点観測」か ら紡ぎ出す論評は、優れて帰納的だ。
 著者は言論法学者。その視点からの指摘には、時々ドキリとする。
 女子プロレスラーの木村花さんの自殺では、SNSで中傷した者がたったの科料9千円。軽すぎないかという世論に、侮辱罪は重罰化された。
 著者は批判的だ。「侮 辱罪は名誉棄損罪の弟分のような存在だが、事実の摘示がない抽象的な表現を、幅広く対象にする代わりに、罪を極力軽くし、バランスをとってきた」。安易に変えていい のか、という原則論からの指摘である。

 再選前のトランプ氏へのアカウント停止にもいち早く懸念を示した。「『トランプだから』を 許すことが、次は自分たちに返ってくる」と。
 表面の時流に流されないこうした指摘こそ、貴重な、学者の本領だ。

 本書の題名はボブディランの詩。「転がる石」 は路傍の石ころで、 メディアの暗い現状を暗示する。上から目線のマスコミ批判に耽る学者が多い中、報道現場の苦労をよく知る著者であればこそジャーナリズムの進む明るい道も、勝手な願望だが示してほしかった。
(田畑書店2500円)
             
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【おすすめ本】 小林美穂子・小松田健一『桐生市事件 生活保護が歪められた街で 』―「命の砦」を守る闘いの記録=白井康彦(フリージャーナリスト)

 暴かれた「強者の闇」 を単行本にまとめて歴史的資料にする。ものの見事に実現した労作だ。生活保護制度は紛れもなく「命の砦」。ところが世 間には「なまけて生活保護を利用している人が多い」といった誤解が広がっている。

 誤解をさらに強めたのが、2012年に民放テレビや週刊誌などが展開した「生活保護バッシング報道」。これによって「生活保護を利用しようとしている人には厳しく接して、なるべく利用させないようにすべきだ」と考える自治体担当者は一段と増えた。
 その考え方の「行きついた先」に思えるのが群馬県桐生市の生活保護行政だった。利用者は2011年度が1163人、2022年度は547人と、ほぼ半減には驚く。

 行政職員による具体的な手口も▽利用者に一日千円ずつしか渡さない▽多くの利用者からハンコを預かって無断で押印▽担当部署に多くの警察官OBを配置して申請しようとする市民を威圧▽苛烈な就労指導・家計管理指導▽利用者の親族への無理やりの援助要請―などと凄まじい。
 小林美穂子さんは生活困窮者の支援活動で息長く活躍中。「命の砦を守 らねば」の想いは強烈である。小松田健一さんはこの事案に東京新聞前橋支局長として直面し、その重大性をしっかり受け止めた。

 桐生市の闇を暴く契機を作ったのは、行政の暴走を阻止しようとした司法書士の仲道宗弘さんの地道な活動。その仲道さんが昨年3月に急死。遺志を継いだ著者2人の姿勢に頭が下がる。(地平社1800円)
     
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2025年09月26日

【おすすめ本】春名 幹男『世界を変えたスパイたち ソ連崩壊とプーチン報復の真相』―暗躍する情報機関 その隠された真相に迫る=孫崎 享(外交評論家)

 本書の著者は、日本における情報機関、特にCIA研究の第一人者である。彼が2000年に 『秘密のファイルCIAの対日工作(上下)』(共 同通信社)を出版した時には驚愕した。
 情報機関の活動は秘密に覆われている。それを一部であれ世に知らせた功績は大きい。後に私が彼と話す機会があったとき、「あんな本を出して 命の危険を感じたことはないのか」と問うたところ、彼は笑って「それは ない」と答えた。思わず「命の危険はなかったのか」と、突っこんで 聞きたくなる類の本である。

 彼はワシントン支局長を経て、2007年共同通信を退職。早稲田大学客員教授などを歴任しつつ、同じ姿勢で情報機関の真相に迫り続ける。
 さて本書ではウクライナ戦争に関する部分が多い。第6章 プーチンは ウクライナ侵攻で復讐、第7章 トランプを操るプーチン、第8章 トラ ンプ政権が去りウクライナ侵攻へ、第9章 ウク ラ イナ侵攻まで8年間の暗闘、とある。

 日本の多くの人は「突然ロシアがウクライナを攻めた、国際法を破るロシアは許せない」との気持ちで、ほぼ一色であったが、そんな単純な話ではない。ウクライナ戦争は、まだ続いている。ウ クライナを支援してきた米国ではトランプが二期目の大統領になり、事態は一段と複雑さを増している。日本の対応も「ウ クライナ支援、ロシア糾弾」とだけでは持たなくなる時が来る。
 情報機関の動きの全容を知ることは出来ない。真実を探すには大変な労力がいる。著者は今回も一部であれ真実を示してくれた。読まないで済ませられるわけがない。
(朝日新書970円)
          
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2025年09月17日

【おすすめ本】八木 絹『ハンセン病差別の歴史を旅する 「救済」への問いかけ』―差別の事実と向き合い 「救済」への歩みを辿る=霜村三二(元都留文科大学講師)

 「ハンセン病差別の歴史を旅する」という著者の呼びかけに、私はどう答えたらいいのか。差別の事実と向き合うときの「驚き」「憤り」という 感情を丁寧に深く追うことを「歴史を旅する」と 表現した著者の真っ直ぐな言葉が迫る。
 日本のハンセン病差別は、歴史の中でも最大の差別事案であり、家族までにも人生被害を与えてきた。それにもかかわらず、重大な人権問題として日本社会には広く共有されてはいなかったことが、顕わになったのがコロナ禍での感染症差別だった。こんなにも簡単に差別感情が広く振りまかれるなどとは。

 私はハンセン病療養所多磨全生園の傍に住み、若い人たちをハンセン病資料館に案内してきた。熊本での「黒髪校事件」 は伯父が一方の関係者(入学賛成派代表)だったこともあり、授業では教育の在り方として何度も取り上げ、差別の不当さを語ってきた。
 しかし、差別に加担した不正義を衝くことだけでよかったのか。それは深い思考とは対極にあったのではないか。著者が「ハンセン病問題〈から〉学ぶ」と指摘した今を生きる、そこにつながる学びこそ、「旅する学び」 である。ハンセン病施設で暮らす元患者の平均年齢は、90歳近くになっている事情、ハンセン病差別を「知らない」と言う人が多数になり、このままではハンセン病問題は無かったことになる。

 本書で著者は、救済に尽くした宗教者たちの行動の心根を深く旅する。「差別の歴史から学び、そこから自由になる方向を問い続けたい」「一緒 に旅をしてくださる方を」という筆者の言葉に心惹かれる私も伴走者として生き、旅をしたい。(かもがわ出版1800円)
           
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2025年09月12日

【おすすめ本】 萩原 健『ガザ、戦下の人道医療援助 』―破壊しつくされる日常 その中で命を救う活動= 猫塚義夫(北海道パレスチナ医療奉仕団団長)

 イスラエルによるガザの軍事侵攻は、2年弱の 間に6万人の犠牲者と14万人の負傷者を生み出した。瓦礫と化したガザでは、多くの餓死者が出るなど、多面的なジェノサイドが進行中だ。

 著者は運動体としての国境なき医師団(MSF)に参加し、人道医療援助の活動を実践してきた。
 MSFには、医療者が中心と思われているが、その医療支援を実行するためには、水・食料や医 薬品の確保と組織の適切な運営が活動の前提である。また現地での医療団体や公的医療機関・行政との折衝も必要不可欠である。その大切な任務を遂行するのがMSF緊急対応コーディネーターである著者の働きである。

 本書での臨場感ある交渉場面は、パレスチナで医療支援活動を行う私たちに、大きな示唆を与えてくれた。また戦時下での状況判断やMSFの連携・調整活動、現地社会 との関係性構築の成否が使命達成に最重要なことがわかる。
 一方、私たち医療者の活動には国境はない。私の周りの地域医療とガザでの戦下での緊急医療には、状況の違いこそあれ理念的には連続性があるのだ。

 本書を通して、医療者以外からも、MSFなど人道支援の活動へ参加してくれる人が増える契機になることを、私は願ってやまない。
 著者も言うように、ガザ停戦と人道支援の活動は、すでに人道的視点の枠を超えて、政治の問題となっている。日本政府には外交の底力を示してほしい。そして私たちには「ガザ停戦」の声をい っそう強くすることを、著者は願っているのである。(ホーム社 2000円)

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2025年09月08日

【‛25緑陰図書─私のおすすめ】急速に進む西洋の<自己崩壊>吉原 功(JCJ代表委員)

 
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 「リベラルな世界秩序」─実は米国を盟主とし、NATO諸国、日本、韓国を従えた帝国の世界支配は、音をたてて崩壊しつつある、との見解を首肯する人は、どのくらいいるだろう。
 トランプ2の乱暴な政策に困惑はしても「民主主義・法の秩序」は戻ってくると信じている人は多いのではなかろうか。      
 エマニエル・トッド『西洋の敗北─日本と世界に何が起きるのか』(大野 舞訳 文藝春秋)は、そのような楽観論を打ち砕く。もり沢山の深刻な実相を描き出し、危機からの脱出を呼びかけているのだ。
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 危機の原因はロシアであり中国であるとの言説は、西洋=オクシダンで当然視されているが、それは間違いであり、原因は西洋にあると、トッドは断言する。
 「西洋の敗北」は「ロシアの勝利を意味するのではなく、「宗教面、教育面、産業面、道徳面における自己崩壊プロセスの帰結」であり、その西洋が世界で重要役割を担担っていることが問題なのだと。

 ウクライナ戦争についても興味深い指摘をしている。これはロシアと米国の戦争だが、まず英国国防省が「やかましい反ロ軍国主義」となり、その情報がヨーロッパに拡散、当初慎重だった仏独も並んだ。EUという国際協調の機関がNATO軍国主義の影に隠れてしまったというわけだ。ロシア経済を崩壊させるとまで豪語した制裁も失敗に終わった。

 問題は「その制裁が戦争を世界規模に拡大してしまうと予測する能力を西洋の指導者に欠けていた」こととも指摘し、西洋の指導者たちは政治的・外交的能力においてプーチンや習近平に劣っていることは明らか、と筆者は書いている。それも西洋崩壊過程の一つなのであろう。

 本書は、代表性民主主義の機能不全、エリートと民衆の相互不信、ネオ リベ・グロ−バリゼーシなども問題にしている。現代世界の理解には欠かせない著作だ。
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2025年09月03日

【‛25緑陰図書─私のおすすめ】「個人の自律」を侵すテクノ封建制=内田聖子(アジア太平洋資料センターPARC共同代表)

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 インターネットは資本主義のあり様を根本から変え、破壊的で搾取的なシステムを作り上げた。これは進歩なのか?
 ギリシャ生まれの「異端の経済学者」ヤニス・ バルファキス『テクノ封建制─デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配するとんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』 (関美和訳 集英社)は、 若き日に父と交わした会話に応える形で、資本主義の醜悪な変容の本質を解題していく。

 ブレトンウッズ体制崩壊後、資本主義の権力は経済圏から金融圏へ、つまり工業や商業から投資銀行家の世界へと移行した。その決定的な要因がコンピュータの出現だ。金融商品は複雑化・高速化して取引市場に投げ出され、人々の暮らしとは無関係の莫大な投機マネーが世界を席巻した。
 その後に訪れるのが「テクノ封建制」だ。イ ンターネットは新しい形の資本を育て、その所有者たちが新たな支配階級となった。「クラウド資 本」が、土地や生産手段 を持たない「農奴」―ス マホやパソコンを通じ、24時間クラウド資本に縛り付けられる私たち―に対し圧倒的な力を持つ。

 個人情報や行動履歴を集め、私たちの行動を予測・操作するビッグテックのビジネスモデルは、「監視資本主義」 として批判されてきたが、改めて資本主義崩壊の中に、それを位置付けたことが本書の傑出した点だ。
 テクノ封建制から「個人の自由と自律」を救うためには、生産・流通・ 協働・コミュニケーション手段の所有権を、構成しなおす必要がある。途方もない道程だが、その鍵は「民主化された企業と貨幣」、そして「共有 財としてのクラウドと土地」だと著者は述べる。

 私はテック労働者による集団行動や倫理的な技術をめざす研究者、そして草の根の市民による運動にそれを期待する。世界の市民社会は、すでにテクノ封建制と果敢に闘い続けている。まずは日々ネット上で購買やSNSを行うその一瞬一瞬にも、私たちは「農奴」 であるという現実を冷静に受け止めることから始めなければならない。
       
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2025年08月31日

【おすすめ本】前川貴行『ボノボ 最後の類人猿 』―コンゴ川流域の熱帯雨林で 出会ったボノボの生態=土居 秀夫(元「アニマ」編集長)

 ボノボはチンパンジーに似ており、かつては動物学の世界でも、ピグミーチンパンジーと称されていたことがある。20世紀に新種として認知されたゆえに、「最後の類人猿」とされる。
 しかし、チンパンジーとボノボの生態は真逆といっていい。個体や群れの間で攻撃的な行動を、しばしば見せるチンパンジーにくらべ、擬人的過ぎるかもしれないが、ボノボは融和とか寛容という表現がふさわしい動物であり、自分たちの間で激しい闘争を行うことはほとんどないという。

 異性や同性の間で、交尾あるいはそれに近いしぐさを使って緊張をほぐし、群れの調和を保持しようとする。類人猿に限らず、このような行動をとる動物は、まれといってよい。
 本書は森林から海洋まで、世界各地の野生動物の生態を、優れたカメラアイで表現してきた写真家が、踏査に最も困難な場所とされるアフリカ、コンゴ川流域の熱帯雨林でボノボに迫った写真絵本である。現地でマラリアに罹り、取材時間も限られる中、森の奥深くで捉えたボノボたちの表情から、著者が抱く彼らへの共感が伝わってくる。

 親子、果実の採取、樹上でのくつろぎ等々、警戒心が強く出会うことすら困難というボノボの姿に、読者は感銘を覚えるだろう。彼らのまなざしは、生存の危機を訴えているかのようだ。

 ボノボの生態・行動の研究は霊長類学者にとっても緒についたばかりであり、生態写真についても同様であろうが、本書は絶滅危惧種とされるこの謎に満ちた類人猿を知るきっかけとして読んでほしい。彼らと私たちが生きている地球の自然の尊さと危うさを理解するためにも。(新日本出版社1900円)
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2025年08月29日

【おすすめ本】 飯田一史『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか 知られざる戦後書店抗争史』―10年スパンで遭遇する 出版界のビッグイシュー=池田 隆(元出版取次店 勤務)

 読み終えて脳裏に浮かんだのは、1990年代の出版業界が好景気で浮かれ、遅れたバブルを謳歌していると揶揄されていた頃だ。採算など無視の新規出店が毎月30店以上、その陰でつぶれる本屋も毎月30店を超え、配本先書店一覧表の書き換えに追われていた。
 特に評者が出版業界の分岐点となったと思われるのは、1970年代「ブック戦争」、1990年 代の「須坂構想」、20 00年代の「Amazonの日本進出」である。

 「ブック戦争」とはこうだ。日本書店商業組合連合会(日書連)は、自ら 実施した加盟書店1千店の調査で人件費高騰・経営逼迫店が大半と判明したことから72年、取引条件の改訂を出版社と取次店に要望した。
 その実現のため、特定の出版社の本を棚から外すという出版史上、初の書店による13日間のストライキが決行された。その結果、取引条 件の改善は実現したが、 覚書きで交わされた「責任販売制の実施」は、具体的な取り組みがなく放置された。
 「須坂構想」は、長野 県須坂市に述べ6万平方bの出版流通の巨大基地を設け90年代当時、 業界が抱えていた諸課題を、一挙に解決しようとした大プロジェクト。だがこれもまた各業界の思惑が錯綜して、十分な機能を発揮できず頓挫してしまった。
 21世紀初頭の「Amazonの日本進出」は、結果的 には書店が求めていた改善・要望の大半を、3年 間で解消・解決してしまったと、本書は述べる。

 さらに出版業界は「雑誌と書籍の一体流通・取次寡占・再販契約」で成 長してきたが、今や、そ れが改善の阻害要因になってはいないかと、本書は指摘している。(平凡 社新書1200円)
             
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2025年08月26日

【25緑陰図書―私のおすすめ】 あるジャーナリストの重い覚悟=中川七海(報道機関Tansa リポーター)

 
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 私が所属する報道機関Tansaがニューヨークタイムスの取材を受けた際、林典子さんが、カ メ ラマンとして、同道してきた。
 後日、記事に載った写真に引き込まれた。Tansa編集長が、街路樹の下で立っている。報道機関の紹介だからといって、その作業風景に拘泥しない。独立メディアを立ち上げた編集長の眼差しが、一見孤独にも、希 望に溢れているかにも見える一枚だった。
 一記事の添え物ではなく独立した作品だ。「撮 りたいものがある人だ」と感じた。ジャーナリストとしてTansaに触れた結果を、写真に込めていた。

 彼女のルーツが知りたくて、林典子『フォト・ドキュメンタリー 人間の尊厳─今、この世界の片隅で』(岩波新書)を手 に取った。
 2006年、大学3年の林さんはガンビア共和国の新聞社で働く。記者経験ゼロだが、行動力に運が味方し、希望していた独立系新聞社「The Point」に入社。政 府批判で発行停止になった新聞社の記者で立ち上げた報道機関だ。

 意義ある仕事に励む中で、厳しい現実を知る。 政府を批判する新聞社への襲撃や記者殺害が多発していた。ある日、 同僚に匿名メールが。「何を しているのか、全て分かっている。気を付けろ。 調子にのるな」。まさに 脅しだ。それでも同僚は「殺されたってかまわない。ただガンビアから独立メディアがなくなることだけは、絶対に避けたい」と。後日、その同僚 が襲われた。

 命懸けの仕事だと知った上で、林さんは今の職業を選んだ。その理由が 私は同じ職業人として分かる気がする。一つは、 たとえ危険でもジャーナリストという仕事が、社会には必要だから。もう一つは、現実を目撃した者として、取材の手や足を止めることができないから。林さんの「撮りた いもの」 が詰まった本書をぜひ読んでほしい。
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2025年08月23日

【おすすめ本】小林 篤『see you again』─「いじめ自殺事件」の深層と真実を追う執念の凄さ!=守屋龍一(JCJ出版部会)

 本書は「いじめ自殺事件」を扱った924頁に及ぶ大巨編である。事件は1994年11月27日、愛知県西尾市立東部中学校2年生の上之郷清人くんが、自宅の柿の木にロープをかけて命を絶ったことから始まる。
 ルポライターの著者は、彼の遺書の内容や末尾に記された<see you again>に奇妙な違和感を覚え、その真相を探るべく謎解きの踏査行を始めた。
 取材を進めるにつれ、凄惨ないじめの実態が浮かび上がってくる。死の恐怖にさらされた暴行。100万円を超える恐喝。隠蔽する学校・口を閉ざす教師たち。いじめにかかわった生徒は加害者と被害者が複雑に入り組み、数十人にのぼる。

 その後も遺族や関係者と親交を重ね、断続的な取材は30年に及ぶ。得た成果を全て書こうとしたとき、関係者の不都合な事実や子細なプライバシーに踏み込まざるを得ないことに気づく。著者は事実と真実の記録レポートは諦め、限りなくノンフィクションに近いフィクションとして仕上げる道を選ぶ。そして完成したのが本書である。
 フィクションと謳うが、いやまさにドキュメントそのものだ。事件の展開と深層に迫る筆致の迫力はすさまじい。ページターナーのごとく、一気に読み進めることができる。

 「いじめ自殺事件」を巡っては、私には貴重な経験と思いがある。今から40年ほど前、1986年2月、東京都中野区立中野富士見中学校2年の男子生徒が、祖母のいる岩手県盛岡へ逃避する途中、盛岡駅ビルの公衆便所で首吊り自殺した。私の息子も通う中学校の1年先輩だった。
 その背景には悲惨な「いじめ」が隠されていた。いじめグループは、彼を対象に「葬式ごっこ」をたくらみ、本人宛の色紙を作り担任教師ら4人が加担し、弔辞めいた寄せ書きを添えていた。俗に「葬式ごっこ事件」とも言われた。

 私たち親、とりわけ父親たちは、仕事にかまけ子供や学校、地域の活動には無関心。「葬式ごっこ事件」が起きて、この無関心への反省から奮起し、「おやじの会」を作り、生徒との交流や学校行事への協力、地域での見守りなど、約6年間にわたり活動を続けてきた。
 私も事務局の一員として参加してきた。その時に気づかされた「いじめの構造」の複雑さが蘇える。今も「いじめ」は、姿かたちを変えて学校に企業に社会に潜在し、悲劇を生みだしているに違いない。
 読み終えた今、あらためて本書のカバー写真を見る。夕焼けを映した写真の撮影者は、自殺した清人くんの兄・上之郷伸人とある。著者の深い思いを感じ取り、胸に熱いものが走った。(講談社4500円)
          
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2025年08月03日

【おすすめ本】 英(はなぶさ) 伸三(しんぞう)『老街(ラオジエ)茶館 中国江南を撮る 』―茶館に集う中国庶民の姿 生き生きと捉える=中村梧郎(JCJ代表委員)

 上海西郊・朱家角鎮の倶楽部茶館に始まり、永昌鎮の南に至る地域の36軒。中国の文人墨客や庶民に愛された茶館は憩いの場であり、情報交換や商談の場でもあった。

 亭主は客の大きな茶碗に安物の熱い茶を注いで歩く。朝四時に開店すると席はすぐに埋まり、十時頃に客は出てゆく。麵包を頼む者もいるが、多くは茶をすするだけ。そうした庶民の姿を写真は生き生きと捉える。
 「人を撮るのが好き」という彼のスナップは、カメラの存在を人々に気づかせない。だが隅々にまで届く視線が完璧な構図を掴み取る。
 本書の編集者をして、「一ミリのトリミングも許さない写真」と驚嘆させたほどだ。こうしたフレーミングと素早いシャッターはアンリ・カルティエ・ブレッソンのそれを想起させる。

 1967年に始まった毛沢東の「文化大革命」 は中国各地に深い傷を残した。宣伝句が今も壁に残る。当時、北京放送は ウェンファー・ダア・グ ーミン(文化大革命)と 叫び続けていたものだ。
 作家・老舎に「茶館」 という名作がある。清朝の激動期、茶館を懸命に守る主人を描く。だが老舎は文革の迫害で入水死した。苦難をくぐり抜け三百年続いた茶館群は、改革開放の21世紀前後には消える。

 1993年から撮ってきた英伸三の写真に、添えられるエッセイは中国語が堪能な愛子夫人のもの。本書は日本と中国にとり貴重な歴史遺産ともなりえよう。(東京印書 館7200円)
     
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2025年07月30日

【おすすめ本】井出留美『私たちは何を捨てているのか 食品ロス、コロナ、気候変動 』―食品が内包する地球規模の大テーマ=大井 洋(筑波大学名誉教授)

 著者は栄養学分野で研究を重ね博士号を取った後に、食品ロス問題ジャーナリストとして活躍している。本書は文献や情報検索に基づく明確な文章で書かれ、説得力のある内容となっている。著者のこだわりだけで書かれた本ではない。
 食品ロスの問題点と発生原因について、詳しく分析され、問題の解決方向も示されている。幾つかの講演に加筆した章を集めたもので、読み応えのある内容である。

 全体的な論理展開には、やや重複があり、一気に読もうとすると頭脳が飽和状態になってしまうかもしれないが、「食品ロ スをなくそうという結論はわかった」と、途中で 止めないで、章ごとに繰り返し読んでほしい。
 コロナ、ウクライナ、 ガザに続きトランプの登場など、世界に広がる懸念の中心に食≠フテーマがますます深く知覚されるようになってきた。そこに登場してきた本である。飼料も肥料も燃料も恐ろしく低い日本の自給率が暴露されている。

 本書は食品ロス問題を生産・流通・消費の各段 階から明らかにし、その背後にある構造的課題を気候変動による影響の観点から指摘する。食品廃棄は単なる「もったいない」ではなく、膨大な資 源とエネルギーの無駄、かつ環境破壊と直結している事実を突き付ける。

 各章の有機的なつながりが理解できる。著者は、この問題を大所高所から語るだけでなく、「自分 ごと」として向き合い、 食品を「見て、嗅いで、 味わって」判断するという小さな実践が、環境への負荷を減らし社会の構造すら変える力を持つことを訴えている。(ちくま新書920円)

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2025年07月27日

【おすすめ本】吉田敏浩『ルポ 軍事優先社会 暮らしの中の「戦争準備」 』―日本各地を歩いて分析 急速に強化される戦争態勢=末浪靖司(ジャーナリスト)

 本書は、米軍と自衛隊の一体化が進み、強化されている実態を分析し、この問題に関わる情報を豊かに分かりやすく読者に提供している。
 岸田内閣が決定し石破内閣が実行している「国家安全保障戦略」などの安保3文書と、そこに書かれた敵基地攻撃能力について、日本がアメリカの中国攻撃戦略の捨石のように利用されるという指摘は、問題を国際的にも見ており興味深い。
 とくに台湾有事で中国と戦争になることを想定した九州・沖縄各地のルポは臨場感がある。
 自衛隊は18歳から22歳までの若者の名簿を市区町村から出させ、本人にダイレクトメールを送っている。著者は少子化と若年人口の減少が進む中で自衛隊の海外を含む任務の拡大、米軍との共同作戦・演習の増加があるという。軍事態勢の強化は今や国民全体に影響する問題になっている。

 本書は、軍事費の膨張が国民生活を圧迫していること、軍事大国化が進む根本には対米従属があること、横田基地で実際に見た米軍CV22オスプレイの危険な飛行、米軍と自衛隊による空港や港湾の使用が進み、自治体が戦争態勢に巻き込まれていることを指摘する。
 これまで多くの著書を刊行し、社会に警告してきた著者が、今日の時点にたって日米同盟下で進行する戦争態勢強化について書いた意味は、極めて大きい。

 外交や軍事について、平素は考えたことがない人にもやさしく読める。ビルマ(ミャンマー)北 部カチン族の人々と生活を共にして書いた『森の回廊』で、大宅壮一ノン フィクション賞を受賞の著者ならでこそと思う。
(岩波新書960円)
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2025年07月16日

【Bookガイド】7月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした本の紹介です(刊行順・販価は税別)

金子勝『フェイクファシズム─飲み込まれていく日本』日刊現代 7/15刊 1500円
 トランプ大統領は日本に25%の関税を突きつけた。関税を武器に力の外交交渉を進め、世界の経済秩序を脅かしている。さらにロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ市民虐殺など、世界はまさに「カタストロフ」の渦中に置かれている。この世界の大危機に、どう立ち向かうか。日本を創りかえるための基礎政策を提言する。
 著者は1952年東京都生まれ。経済学者。慶応義塾大学名誉教授。アベノミクス批判、脱原発などの立場から社会への提言を続けている。
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豊下楢彦『「核抑止論」の虚構』集英社新書 7/17刊 1150円
 今年は広島・長崎が核攻撃を受けて80年。この人類的な悲劇を背景に「核のタブー」が生み出されてきた。しかし核兵器の完全禁止どころか、核拡散の動きは止まらない。北朝鮮の核開発やイランの核問題、「核のボタン」を弄ぶトランプの再登場、ますます世界は核使用の危険性が高まっている。そもそも核抑止論の不毛性がはっきりしてきた。核抑止論の本質を歴史的、論理的に解き明かし、核廃絶に向かう道筋と日本の採るべき選択肢を提起。
 著者は1945年兵庫県生まれ。関西学院大学教授などを歴任。2021年に古関彰一氏と共に第8回日本平和学会平和賞を受賞。
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吉見義明『日本軍慰安婦』岩波新書 7/23刊 1120円
 1991に金学順さんが告発した証言を基に、関係文書を丹念に収集分析し、「慰安婦制度」の主体が日本の軍部であったことを明らかにした。しかし「軍慰安婦」たちの苦難を否定する声は、今も後を絶たない。前著『従軍慰安婦』の刊行後、明らかになった多数の資料や証言を駆使し、あらためてその全体像と実態を描き出す。
 著者は1946年生まれ。中央大学名誉教授、専攻は日本近現代史。著書に『買春する帝国―日本軍「慰安婦」問題の基底』(岩波書店,2019年)など。
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野添文彬『大田昌秀―沖縄の苦悶を体現した学者政治家』中公新書 7/23刊 980円
 沖縄戦で鉄血勤皇隊として死線をさまよい、戦後は米国に留学、琉球大学で沖縄学・沖縄戦の研究者となった大田昌秀。米統治下から論壇で活躍し、1990年、沖縄県知事当選以降は米軍基地問題と対峙する。米海兵隊による女子暴行事件が勃発。高揚する民意と日本政府との間で解決を模索するが、3度目の知事選で敗北する。沖縄の苦悩を自著で訴え、沖縄現代史と共に歩んだ生涯を辿る。
 著者は1984年滋賀県生まれ。2024年より沖縄国際大学教授。著書に『沖縄返還後の日米安保』(吉川弘文館)、『沖縄県知事その人生と思想』(新潮社)など。
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松島京太『汚された水道水─PFAS「発がん性物質」と米軍基地を追う』東京新聞 7/25刊 1600円
 安全であるはずの水道水が、住民の知らない間に汚染されていた! 東京・多摩地域の水道水から、発がんなどの危険性を指摘されている有機フッ素化合物「PFAS」が相次いで検出された。手探りの状態から当事者への直接取材、公表資料の分析、情報公開請求など調査報道の手法を駆使し、米軍横田基地(東京都福生市など)が汚染源であることを突き止める。
 しかし、事実が明らかになってからも米軍は有効な手を打つことなく、国や都、周辺自治体の対応も、日米地位協定が壁となって及び腰であることを浮き彫りにした。東京新聞立川支局の若手記者である著者が、PFAS汚染の実態を告発発する。
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友寄英隆『人間とAI─社会はどう変わるか』新日本出版社 7/30刊 2200円
 生成AIは私たちの生活・社会をどう変えるのか。AIは人の心の働きに近づくのか。私たちが気になる話題を科学的社会主義の立場で掘り下げる。AIのしくみと限界、労働・経済・メディア・政治・教育などへの影響、未来社会での可能性、ルールの必要性など、いま知っておきたいテーマをわかりやすく論じた一冊
 著者は1942年沖縄県生まれ。一橋大学経済学部卒業、月刊誌『経済』編集長などを歴任。著書に『AIと資本主義』(本の泉社)、『デジタル社会とは何か』(学習の友社)など。
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鈴木冬悠人『原爆誕生─「悪魔の兵器」を求めた科学者たち』 岩波書店 7/31刊 2500円
 ノーベル賞受賞者ら1200人もの科学者と空前の予算を投入したマンハッタン計画。「軍事的には不要」という軍の意見を退け、原爆開発を提案・推進し、投下を主張したのはオッペンハイマーを始めとする科学者たちだった。彼らはなぜ大量殺戮に突き進んだのか。掘り起こされた肉声から「悪魔の兵器」誕生の全貌に迫る。
 著者は1982年富山県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。NHKグローバルメディアサービス報道番組部ディレクター。
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2025年07月09日

【おすすめ本】林 博史『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』―天皇制という国家体制 押しつけた無慈悲な犠牲=鈴木 耕(編集者)

 自民党の西田昌司議員が、沖縄での講演会で述べた歴史改竄発言が、大批判を浴びている。
 沖縄戦の実相をまったく学ばずに、いい加減な思い込みで、沖縄ヘイトに加担する政治家の底の浅さ。せめて本書を読むくらいの誠実さを持ってほしいのだが、それは無理というものか。

 先の戦争において、日本政府や軍が、沖縄をどうとらえていたか。沖縄に派遣された日本軍第32軍が何をしたのか。それが本書の肝である。
 著者は長年にわたって日本の官僚の研究をしてきた。その延長線上に沖縄における日本軍の動きを考察する。1938年の国家総動員法、40年の国民徴用令によって、完全に軍の統制下に置かれた沖縄で、いったい何が進行していったのか。
 そこに県知事を始めとする官僚たちが、どう絡んだのか。なぜ沖縄県民が戦争に巻き込まれ、20万人もの犠牲者を出すに至ったか。それは天皇制という国家体制の必然的な帰結だったと、著者は説く。天皇の意志のありようと沖縄の命運は、抜き難く結びついていたのだ。

 詳細に米軍の侵攻と日本軍の退却の記述を読みながら、読者は沖縄の住民の命の軽さに慄然とするだろう。徴用で使い捨てにされる若者、スパイ視され処刑された住民、強制疎開でのマラリヤ感染死、疎開船の沈没による子どもたちの犠牲、さらにはガマ(洞窟)に逃げ込んだ住民たちの集団自決。

 まさに彼らは天皇制国家の犠牲者だった。著者は膨大な資料にあたってそれらの意味を解き明かしていく。日本軍の残虐行為だけではなく、米軍の占領下の性暴力も見落とさない。二度と戦争を繰り返さないという決意が本書に漲っている。(集英社新書1130円)
    
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2025年07月05日

【おすすめ本】 高世 仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか ジャーナリストが 戦場で見た市民と愛国』―戦場の現場で掴んだ 愛国を支えるもの=武隈 喜一(元テレビ 朝日モスクワ支局長)  

 ウクライナ停戦交渉をめぐる情報が、メディアにあふれている。だが忘れてはならないのは、今でも戦争が続き、市民の死傷者が続出していることだ。

 本書は著者がウクライナの戦場を訪れ、ロケットランチャー部隊やドローン部隊、ロシア軍が残した地雷撤去の現場に足を運び、日本の大手メディアの報道からは決して知ることのできないウクライナ人の戦いを伝えてくれる。
 2023年10月、ウクライナ取材に著者を駆り立てたのは、劣勢と恐怖のなかで、ウクライナ国民が軍事大国ロシアに抵抗し闘い続けるのはなぜなのか、という問いからであった。

 著者は民間ボランティアや市民の活動に眼差しを向ける。資金を集めてドローンを購入、兵士に操縦法や射撃法を教える民間組織、前線への幹線道路で兵士への炊き出しを続ける団体、危険を顧みず医療品を前線部隊に届ける若者組織。
 著者が「前線に近い町や村でもっとも頼りにされているのは、行政組織ではなく、これら市民ボランティアだ」と書く。 このウクライナ戦争の一面は、市民同士の助け合いが歴史的に育んできたウクライナ社会の特徴そのものだが、これまで報じられるのは稀有だ。

 前線からの9本のリポートを支えるように、本書では、ソ連史の中でのウクライナ、マイダン革命から戦争に至る過程、戦争の流れが極めて的確に記述され、リポートの理解を助けてくれる。
 「ここが日本なら、あ なたはどうする?」―これは、祖国のために戦い続けるウクライナの戦場を巡った著者が、市民と愛国について、私たちへ提起している問いかけである。(旬報社1700 円)
         
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