2026年05月09日

【月刊マスコミ評・新聞】高市自民・維新暴走に抗う人々も=山田 明

 新年度予算案は3月13日、与党が採決を強行して衆院本会議で可決された。毎日15日社説「国会軽視する政権の横暴」は、本来1カ月はかかるところを2週間程度で済ませ、審議時間は過去最短となったと批判する。

 高市首相は予算案の年度内成立を断念して、暫定予算を組んだ。国会軽視の予算審議は、財政民主主義の形骸化に拍車をかける。高市政権の放漫財政と円安インフレは、物価高騰により国民生活を直撃する。「軍拡増税」が4月から始まり、戦争準備の国民負担が今後さらに膨らみ続ける危険がある。トランプ政権が同盟国にGDP比5%の軍事費を要求しているからだ。

 アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は、中東をはじめ世界を揺るがす。高市首相は攻撃の「法的評価は差し控える」と、曖昧な答弁を繰り返す。先の日米首脳会談では、ホルムズ海峡への自衛隊派遣に「憲法9条の制約」と伝えたというが、9条改憲など早期の発議をめざす。改憲策動に先んじて、国家情報会議設置法案が衆院で審議入りした。高市政権は「現代の治安維持法」といわれるスパイ防止関連の法整備も視野に入れる。国会で自民が3分の2強を占め、軍拡国家の様相を強めるなか、「戦争が嫌だ。怖い。そう声を上げる人々が街頭に集まり始めた」と朝日4月2日社説、戦争反対の声「デモできる社会」の意義は伝える。

 自民と連立を組む維新は高市政権の「アクセル役」だ。連立合意書には、高市政権が進める軍拡・福祉切り捨て政策とともに、「副首都法案」にも触れている。
 自維が合意した副首都関連法案の骨子案によると、副首都の指定要件として、政令市+県(連携協約等)と特別区の設置等を挙げる。骨子案の附則に「大都市法」、政令市を廃止して特別区を設置する法律の改正も盛り込まれた。副首都構想と大都市制度は、別問題のはずだ。

 大阪府の吉村知事は、副首都法案が成立すれば、大阪市廃止・分割の賛否を問う住民投票の対象は、従来の大阪市民から大阪府民に拡大できるとの見解を示した。維新大阪市議団は拙速な法定協議会設置に慎重な姿勢だ。3度目の住民投票をめぐり、大阪は「吉村維新」の暴走に揺れ動いている。鋭い報道を期待したい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年4月25日号 
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2026年05月02日

【月刊マスコミ評・出版】官邸崩壊が噂される高市政権=荒屋敷 宏

 高市早苗首相の官邸内の近況をめぐる『選択』2026年4月号の記事が波紋を呼んでいる。「幹部が嘆く官邸機能の『崩壊』 高市が『退陣』を口にした夜」という記事だ。『選択』は会員だけが読める「三万人のための」月刊誌だ。
 3月24日夜、高市首相は官邸に招集した政府関係者の前で激昂し、「あいつに羽交い締めにされた。許せない。切るつもりでいる」と息巻いたとされる。

 早速、『週刊新潮』と『週刊文春』が4月16日号で『選択』の記事を後追いしている。新潮によると、「目下、永田町は高市氏と内閣官房参与の今井尚哉氏(67)が、大ゲンカした話で持ちきりである」といい、「記者会見に及び腰の高市氏は、自らのSNSアカウントでつぶやくことが増えている」という。
 文春によると、高市氏から嫌われている人物がいて、自民党の石井準一参院幹事長と、もう一人は今井尚哉氏だという。文春が今井氏に官邸を通じて質問状を送付したところ、「本人から編集部に電話があった」という。今号で今井氏の返事を記事にしている。

 今井氏は「高市総理に色々アドバイスを求められた時は、資料も添付してメールでやり取り」すると言い、「あの『選択』の記事は、私が部屋に乗り込んで恫喝したって言ってたでしょ? あれは一〇〇%事実ではありません! 乗り込んでいませんし、恫喝した覚えもありませんし、それから自衛隊派遣について、高市さんと直接やり取りしたこともありません」と否定している。
 高市氏の首相官邸の「隠し部屋」に出入りを許されているのは木原稔官房長官、尾ア正直官房副長官、佐藤啓官房副長官という三人の親衛隊しかいないという。

 高市首相は故・安倍晋三元首相と比較されることも増えている。『週刊ポスト』4月17日・24日合併号は、「盟友、ブレーン、番記者、天敵までが語りつくした! 安倍晋三と高市早苗どこが違うか 2人を知る8人の証言」を特集した。元経産官僚の古賀茂明氏は「高市さんと安倍さんの大きな違いは党内基盤」と指摘する。派閥もなく資金力もない高市氏が「支持率」をもとに1年半後の自民党総裁選を乗り切ることができるのか。 

 国会前をはじめ日本全国で繰り広げられる市民の反戦デモを雑誌媒体は、ほとんど取り上げていない。後世の歴史家はこの時代の雰囲気をつかむのに苦労するだろう。「支持率」頼みの高市政権を本当に揺るがしているのはデモである。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年4月25日号  
         
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2026年04月15日

【月刊マスコミ評・放送】「構造的性暴力」メディアは終止符を=岩崎 貞明

 放送業界全体を揺るがせた「フジテレビ問題」発生から一年が過ぎた。タレントによるアナウンサーへの性暴力事件を個人的なトラブルだと軽視した当時の経営陣の判断ミスによるもので、女性やマイノリティの人権を尊重しない傾向は業界全体にはびこっている。
 数年前、愛媛県のテレビ局「あいテレビ」が制作・放送していたローカル枠のバラエティ番組で司会を務めていたフリーランスのアナウンサーが、共演者やスタッフから執拗なセクシュアルハラスメントを受け、うつ病になって番組を降板した。アナウンサーは放送局を提訴して、東京地方裁判所で係争中だ。

 裁判では、テレビ局の安全配慮義務違反を追及して、アナウンサーの精神的被害や逸失利益など約4000万円の損害賠償を求めた。番組関係者にほとんど女性が存在せず、セクハラを止めるように番組側にたびたび訴えたのに聞き入れられなかったこと、アナウンサーはうつ病で現在も通院治療中のため未だに定職に就けないことなどを訴えている。
 またアナウンサーはこの事案について放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権救済申し立てを行ったが、人権侵害が認められなかった。そのBPO決定には有識者などからさまざまな批判が出されている。このため、この裁判はBPOの審議のあり方も問いかけるものとなっている。民放労連はこの裁判を支援することを決定して、早期解決を求める統一スト権の確立を春闘方針に掲げた。

 この裁判のケースなども踏まえて、2月に「メディアの構造的性暴力」をテーマにしたシンポジウムが開催された。新聞労連、民放労連、出版ネッツ、メディア総合研究所などが構成する実行委員会の主催。登壇した中野麻美弁護士は、性暴力は人権のトータルを侵害すること、侵害されるのは平和や民主主義といった社会的基盤にかかわること、情報が公共財であることから、その中に差別や暴力が含まれることの深刻さを論じ、被害者を沈黙させる構造の問題点を指摘していた。

 同様の問題はテレビに限らない。性暴力で有罪となったマンガ原作者を変名で起用し続けた小学館が厳しい批判の対象とされた件は、同社が設置した第三者委員会の調査が行われている。
 繰り返される性暴力、それが構造的に隠蔽されることを自覚して根本的に改めない限り、放送をはじめとするメディアは市民から見捨てられることになるだろう。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年3月25日号 
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2026年04月02日

【月刊マスコミ評・新聞】「原発」をどうするのか、及び腰の新聞=白垣 詔男

 「3・11東日本大震災」発生から15年たった。
 3月11日、12日の各紙朝刊社説は、この問題を2日とも1本もので取り上げた。読売だけは11日朝刊に2本立ての1本で書いただけだ。
これら2日間の各紙の主張に「現政府が推進する原発回帰」について、どう考えるのか、ほとんど触れておらず、「及び腰」とも思われても仕方がないだろう。

 そんな中で朝日は12日付で「東電の事故から15年 脱原発の土壌 再エネをさらに」との見出しで、「再生エネルギー活用で脱原発」を訴えていたのが目についた。しかし、これは、同紙が2011年7月に掲載した社説特集「原発ゼロ社会」で訴えた主張をなぞる形で持ち出したものだという。
 それでも、現在、政府が推進する「原発回帰」の方針に対する批判としての力を持っている。この中で「安全保障の砦(とりで)である原子力規制委員会の変質ぶりも気になる。60年超運転では政府の方針に沿って性急に制度を変えた」と、政府一体となった「原発推進」にあることを強調している。

 しかし、他紙は西日本が12日「遠い復興から学ぶものは」との見出しで、結論として「多くの人々から古里を奪った原発事故から、私たちはいくつもの教訓を得た。原発の安全性は確かか。国の政策に問題はないか。絶えず関心を持ち続けよう」と読者に下駄を預けているのはいただけない。
 原発事故がなければ、帰還困難にもならなかっただろうし、古里を失うこともなかった。それは、能登半島地震被害を東日本大震災と比べ、能登半島の現状をみても明らかだ。能登半島は建物の再建や町の復興が問題で「帰還困難」にはなっていない。

 一方、福島原発は廃炉までの道筋さえ、政府、東電とも二転三転させている。原発事故が起きたら、これほど人間の手に負えない原発に、なぜこうもこだわるのか。「原発ゼロ」にしたら核兵器に転用できるプルトニウムがなくなることを政府が懸念しているのではないか。この問題は、報道しないので詳細を国民は知らない。
 「原発回帰」は「戦争への道」につながっていることを国民は意識すべきだし、新聞は、この問題について、もっと情報を知らせてほしい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年3月25日号 
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2026年03月18日

【月刊マスコミ評・新聞】新聞に大義なき選挙加担の自覚は=六光寺 弦

  実績がない高市早苗首相が仕掛けた「人気投票」の衆院選で、自民党が単独で3分の2超の議席を得た。露骨に「白紙委任」を求める手法は大義を欠いていたのに、選挙は強行され「サナエ推し」の情感の高まりに、問われるべきだった「高市政治の危険性」は見えにくくなっていった。この流れに自らの政治報道、選挙報道が加担したのではないか、との自覚は新聞にあるだろうか。

 始まりは1月9日夜。読売新聞がデジタル版で、高市首相が衆院解散を検討と報じた。10日付の朝刊紙面では、早版(12版)から1面トップで「首相、衆院解散検討」「2月上中旬投開票」の見出しが躍った。総合面にも「政権安定へ勝負」「高支持率 慎重論振り切る」の記事。批判も疑義もなく、むしろ決断への賞賛がにじんでいた。
 10日には他紙も追随。野党各党も選挙の準備に入ることを表明。選挙実務の面でも、都道府県の選挙管理委員会事務局に対し、総務省が準備を進めるよう事務連絡を出した。

 高市首相が沈黙したまま、衆院解散と選挙の実施は既成事実になった。首相が記者会見したのは19日。衆院解散のわずか4日前だ。
選挙戦に入ると新聞通信各社は情勢調査の結果を相次いで報道。「与党優勢」が伝えられる中で、朝日新聞は2月1日夜、デジタル版で「自維 300議席超うかがう 中道半減も」と報じた。

 投票日まで1週間。朝日の記事は、投票態度を明らかにしていない人が選挙区で4割、比例区で3割おり、情勢は動く可能性があるとしていた。結果的に、自民党の獲得議席はこの予測を軽々と超えた。
 NHKの報道によると、高市首相のXのフォロワーは2月1日以降急増した。「300超」の予測報道の始まりと時期が符合する。有権者の「勝ち馬に乗る」心理を誘発した可能性はないか、検証が必要ではないか。
 高市政治の危険性に焦点を当てた報道もあった。「白紙委任」に警鐘を鳴らす社説もあったが、「新聞離れ」が進む中で、どこまで社会に届いたか。そんな中で、大義のない選挙に道が開かれ、独裁と戦争国家への転換が危惧される結果になったことに加担したとすれば、それこそが本当の新聞の危機ではないか。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年2月25日号 

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2026年03月10日

【月刊マスコミ評・出版】日本列島は、強く豊かになるのか=荒屋敷 宏

 あっという間の総選挙だった。解散から投票まで戦後最短の16日間。『文芸春秋』3月号の赤坂太郎氏「最強の参与・今井尚哉の解散戦略」によると、昨年の臨時国会の後、内閣官房参与の今井尚哉氏ら側近が通常国会の冒頭解散戦略を高市早苗首相に進言したという。 
1月20日公示・2月1日投開票のシナリオが1週間ずれたのは、高市首相の心の揺れで解散を一度封印したからだという。しかし、結果は見ての通りだ。

 高市政権は「日本列島を、強く豊かに。」を大量宣伝しながら、国論を二分するはずの東京電力柏崎・刈羽原発6号機の再稼働を15年ぶりに容認した。公示前の1月21日に再稼働を開始したが、制御棒のトラブルのため、たった一日で運転停止。総選挙で自民党が大勝したのを見届けるかのように投開票の翌2月9日に再稼働した。

2011年3月11日の東日本大震災による福島第第一原発事故を引き起こした東京電力の驚くべき秘密を暴露したのはノンフィクション作家の森功氏「大成建設の天皇、大いに語るD」の「柏崎・刈羽原発『再稼働工作』の内幕」(『文芸春秋』同)だ。原発事故処理や原発再稼働を進めてきた元大成建設会長の山内隆司氏の話を紹介している。

 福島原発事故から3カ月経過した2011年6月、経済産業省資源エネルギー庁長官から九州電力川内原発を再稼働第一号にしたいと山内氏に電話が入る。すぐさま三菱重工と九州電力とチームを組んで対応し、2015年8月の川内原発再稼働となったという。原発事故から5カ月後には四国電力社長が再稼働の相談で山内氏を訪ねたという。

 2012年1月には東京電力から柏崎・刈羽原発もお願いできないかと大成建設に協力要請があったと証言している。元施工の鹿島から施工データをもらってくるからお願いしたいと頼まれたという。他社の企業秘密を渡すから教えてほしいという東京電力の執拗な再稼働工作が今回の柏崎・刈羽原発再稼働となった。民主党政権時代からエネ庁と電力会社は秘密裏に計画を進めていたのだ。

 『世界』3月号の池内了氏「原発再稼働と『新たな神話』」は原発の「相対的安全論」と「新たな神話」のねつ造と流布を解説し、「このまま無批判な原発待望論が強まると、再び大事故が起こるのではないか、私はそのことを一番畏れている」と警告している。こんなことで日本列島は強く豊かになるのだろうか。 
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年2月25日号 


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2026年02月20日

【月刊マスコミ評・放送】民放地方局ドキュメンタリー健闘 =諸川 麻衣

 昨年12月は、地方民放局のドキュメンタリーの健闘が光った。
 12月6日の朝日放送テレビ『テレメンタリー2025 万博“成功”の陰で〜置き去りにされた未払い問題〜』は、大阪・関西万博の海外パビリオンの工費未払い問題を取り上げた。開幕に間に合うよう短い工期の中でパビリオンを建設した業者が、工事費の一部が億単位で未払いだと訴えている問題だ。番組は、マルタ・パビリオンの工事の下請け会社と、セルビアとドイツの工事を担当した建設会社を取材。社長2人は、建設当時の現場の混乱や、未払いによる現在の苦しい状況を語った。元請けの外資系イベント会社「GLイベンツジャパン」の主張の他、主催者である万博協会の事務総長や大阪府の吉村知事、建設トラブルに詳しい弁護士を取材、多角的に問題を考えた。

 昨年6月、改正刑法が施行され、従来の懲役刑と禁錮刑が廃止されて、受刑者の特性に応じた作業を行う「拘禁刑」に一本化された。再犯率が高止まりとなる中、懲罰ではなく受刑者の更生と社会復帰に焦点を当てる大転換だ。12月13日の名古屋テレビ『テレメンタリー2025 更生か 贖罪か〜揺れる名古屋刑務所〜』は、この拘禁刑導入に先駆けて、受刑者の社会復帰を支援する「処遇プログラム」を試験的に導入した名古屋刑務所(愛知県みよし市)を密着取材した。過去に刑務官による受刑者への暴行が問題となった施設だ。「人権軽視」と指弾された刑務所とそこで働く刑務官たちが、政策の大転換に戸惑い揺れる姿をありのままに伝えた。

 12月20日の山口朝日放送『テレメンタリー2025 回天JK 私が伝える』は、人間魚雷「回天」の歴史を伝えようと奮闘する高校生が主役。山口県周南市に住み、広島の高校に通う椎木双葉さんは、地元・大津島に基地が置かれていた回天について、広島を訪れる外国人観光客に「回天を知っているか」とアンケートを行い、広島、周南、長崎、知覧を組み込んだツアーを提案、2024年の「高校生まちづくりコンテスト」で2位に選ばれた。回天を海外に紹介するサイトも立ち上げ、周南では外国人向けの案内が整備されつつある。「戦争体験を継承する高校生」はよく目にする素材だが、実際に社会を動かしている様は出色だった。

 見過ごされる重大問題も、社会の将来を切り開く動きも、地域に確かに現れているはず。今年もそれを発掘する放送人の活躍が楽しみだ。

             JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年1月25日号 

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2026年02月19日

【月刊マスコミ評・新聞】高市首相、独断解散で政局は流動化 =山田 明

 高市政権は「責任ある積極財政」を掲げ、大型補正予算を成立させ、新年度予算案を編成した。全国紙では財政運営に責任持て(朝日)、市場の信認を得る努力尽くせ(読売)、責任の視点欠く過去最大の予算案(日経)、「責任ある」はどこに行った(毎日)などと、予算案に問題を投げかけた。

 わが国の財政は、国債発行を急膨張させ先進国有数の「軍拡国家」、「債務国家」の様相を強めている。高市政権の放漫財政により、長期金利が急上昇し、円安の為替相場で物価高に拍車がかかり、国民は生活難に苦しむ。マーケットからも金融不安の警告が発せられる。

 当面する物価高対策、中長期的な財政政策の国会審議が求められるが、高市首相は唐突に、通常国会の早期に衆院解散を独断で決め政局は一気に流動化した。立憲民主と公明の衆院「新党結成」の動きも急浮上した。
 今なぜ解散なのか。国民生活より党利党略、大義を欠いた権力の乱用、自己都合解散などと批判の声が上がる。一方、読売社説は衆院解散は首相の「専権事項」で、政策を軽視しているといった批判は当たらないと政権を擁護。高市政権の支持率は依然高いが、首相周辺の政治資金疑惑、自民党と旧統一教会との根深い癒着、さらに「台湾有事」発言以降の日中関係悪化など、課題は山積。国会での厳しい追及逃れのための衆院解散ではないのか。

 高市政権は日本維新の会と閣外協力ながら「連立」を組んで成立した。連立合意書には、福祉を削り軍拡国家への政策が満載である。維新は与党となり、大阪でも地方自治を揺るがす動きが急浮上。任期途中で辞職して、解散後の衆院選に合わせて、大阪府市のダブル首長選を実施するという。国政レベルでも「副首都」構想が検討されているが、法案作成に先駆け大阪市廃止・特別区設置の「大阪都構想」への民意を問うという。3度目の住民投票に道を開くものだ。衆院選と同じく、これもやりたい放題の大義なきダブル選である。維新の地方議員の国民健康保険逃れが批判を浴びる中、「批判の矛先をかわそうとの魂胆も透ける」(朝日1月15日社説)。
 国内外が揺れ動くなか、地に足をつけた報道を期待したい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2026年1月25日号 

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2026年01月07日

【マスコミ評・出版】現場取材から「希望」が見える=荒屋敷 宏

 『地平』1月号には@困窮ニッポン―物価高騰と排外主義、A軍拡からの脱出、Bソーシャリズム復活―連帯と自由のNYの特集3本が並ぶ。
 @の東海林智氏(毎日新聞記者)の「排外主義と低賃金―労働者の連帯と分断」は、長年、労働と貧困・格差の現場を取材してきた記者の含蓄のある論考である。

 参政党の街頭演説を聞いていた30代前半の男性の話を紹介している。「外国人にうまいことやられている感覚がある」と語る男性は参政党支持者ではなく、SNSがきっかけという。食事の配送の仕事を外国人に横取りされたと思い込み、今は隙間バイトと宅配で生計を立てているという。その男性が口にした「何かが変わる」という期待感が、参政党の街頭演説に足を運ぶ理由になっているらしいことに気づく。2009年のヘイトデモでも東海林氏は同じ出来事に出くわしたことを思い出す。

 不安定雇用のもとで、10年以上前から生活を変える何かを求める心情が、マグマのようにたまっていたのではないかと考察している。低賃金で放置された非正規労働の現場の取材は重要だ。

 『前衛』1月号に掲載された本吉真希氏(「しんぶん赤旗」日曜版記者)の「長生炭鉱遺骨収容―問われる歴史に向き合わない日本政府の態度」にも注目した。山口県宇部市の床波海岸にある長生炭鉱跡地は、1942年2月3日に大規模な水没事故(水非常)が発生し、朝鮮人136人、日本人47人の計183人が犠牲になった。
 今年8月、民間のダイバーの協力により頭蓋骨や大腿骨などの遺骨が収容された。事故から83年も経過したが、日本政府は長生炭鉱の遺骨収容をしてこなかったのである。

 水没事故の犠牲者は、アジア太平洋戦争における石炭増産の国策と人命軽視が原因だった。「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」と韓国遺族会は、日本政府に遺骨の発掘と返還を求めたが、政府は「海底のため…発掘は困難」として戦争加害国の責任と誠意を示していない。戦前の日本政府が犯した朝鮮人の強制連行・強制労働の象徴としての長生炭鉱の歴史に、少なくない市民が向き合い、遺骨の収容と返還を願って募金をしているという。

 「韓国の市民も長生炭鉱をいく度も訪れ、日本の市民との連帯を強めて」いる姿を本吉記者は現場取材で見てきたという。来年(2026年)2月には日本と世界からダイバー7人が長生炭鉱跡地で遺骨収集のために集まる。現場取材から希望が見える。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号 
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2026年01月06日

【月刊マスコミ評・新聞】思わず目を疑った読売の社説=白垣詔男

 高市早苗首相が11月26日、就任後初の国会党首討論に臨んだ。その中で、首相が衆院予算委で発言した「台湾有事について」ただしたのは立憲民主党の野田佳彦代表。日中関係の悪化を改善しなければという意思が感じられた。しかし、首相は自らの責任問題には触れず、予算委で質問した立憲民主党の岡田克也氏の質問内容が適切でなかったかのような自己弁護に終始した。
 
 この党首討論について朝日、読売は翌27日朝刊社説に、毎日は28日朝刊社説で触れた。朝日は「誠実とは遠い首相答弁」の見出しで「自身に問題がなかったかのように開き直る。唐突に論点をずらし切り返す。都合の悪い質問は無視する―。一国の指導者としての責任の重さを同考えているのか」「(予算委で)まるで質問した方に原因があると言わんばかりだ」と痛烈に批判する。毎日も「責任転嫁では解決しない」の見出しで「(こじれた日中関係の)改善につながる道筋を示せなかった」「(予算委での)軽率な答弁で緊張を高めたことへの反省がうかがえない」と指摘した。

 以上2紙はジャーナリズムからの言説で、国民の大多数が納得する内容だった。しかし、読売の社説は、目を疑う内容だった。「(予算委で岡田氏が首相に)答弁を執拗(しつよう)に迫った立民の責任を棚上げし、首相を責め立てる野田氏の姿勢は理解に苦しむ」「野田氏はまた、首相在任中の2012年に尖閣列島を国有化し、中国が猛反発したことに触れ、現状は『(当時の摩擦)より深刻ではないか』と述べた。…どちらが深刻か論じることに何の意味があるのか」と書く。

 以前から「読売は自民党の広報紙か」と思っていたが、今回の社説を読んだとき、その感を確信するとともに、首相の言い分を分析するよりも、質問内容を問題視するとは。こうした「文章を書く論説委員の非常識さに、あぜんとした。
なお、首相が野田氏に、企業・団体献金の規制を「そんなことより定数の削減をやりましょうよ」と言ったことについて、朝日は社説で「『そんなこと』とは何事だろうか」と問題視していたが、他紙は、党首討論後に野田氏や斉藤鉄夫公明党代表が発言したことによって、翌28日の紙面から問題視。政治記者の感度に「?」が付く。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年12月25日号 


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2025年12月13日

【月刊マスコミ評・放送】放送局の「ガバナンス」をめぐって=岩崎 貞明

 読売新聞など各紙は10月23日、民間放送事業者のガバナンス(企業統治)のあり方を検討する総務省の有識者会議が「国の監督機能を強化する骨子案を示した」と報道した。不祥事で経営が悪化した事業者に対し、国が事案の報告を求める制度を新たに設ける、という。報道によると「業界の自主的な取り組みを尊重しつつ、行政として一定の関与ができる枠組みが必要と判断した」。

フジテレビではタレントによるアナウンサーへの性暴力事件の発覚を契機にCMの中止・出稿見送りが相次ぎ、経営が悪化して、いまだに回復しきれていない。有識者会議では「財務基盤の弱い地方局で同様の事案が起きれば、放送事業の継続が難しくなる恐れ」があることから、国の監督機能を強化するよう求める意見が出たようだ。

 石破茂内閣当時の総務大臣は村上誠一郎氏で、自民党内ではリベラル派として知られた。フジテレビをめぐる一連の問題が発生した際にも、村上総務相は放送法の趣旨に則って「放送局の自律」を重視し、比較的慎重な対応を心がけていたように思われた。

  村上総務相当時に発足したこの有識者会議ではあるが、これが高市早苗首相による自民・維新「連立」政権の下ではどうなるのか、目が離せない。何と言っても、総務相だった2016年、政治的公平性に問題ありと政府が認定した放送局を放送法違反として処分する「停波発言」で物議を醸した張本人が内閣総理大臣になったわけだ。「国の監督機能を強化」する方向性はやむを得ないのかもしれないが、放送内容への介入になればやはり「表現の自由」との軋轢が生じよう。

 そもそも放送局の「ガバナンス」を強化するということは、局の経営が放送内容への関与を強めることになり、それは番組編集の自由への制約につながる。そこへさらに行政の関与がかぶさってくれば、制作現場への締め付けが一層厳しくなるのは必至だ。自由にモノが作れないからテレビを離れてネット配信に行きます、というクリエイターが一段と増加することになるかもしれない。

 究極のところ、表現の自由との衝突が起きるのは放送の直接免許制がネックなのではないか。しかし有識者会議の議論を見る限り、先進諸国にならった独立行政機関による間接免許制の是非が論じられた形跡は見当たらない。まあ、高市政権下では無理な注文か。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号 
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2025年12月09日

【月刊マスコミ評・新聞】首相に問うべきは自国の主権と人権=六光寺 弦

 高市早苗首相は10月28日、トランプ米大統領との初の首脳会談で軍事力強化に取り組む決意を表明。「日米同盟の新たな黄金時代をともに作りたい」と述べた。
 強調したのは安倍晋三元首相との近さ。「安倍氏に対する長きにわたる友情に感謝している」「大統領のダイナミックな外交について話を聞いていた」(読売新聞)と、大統領への賞賛も込めた。
 「シンゾーの後継者」にトランプ大統領は満足しただろう。専用ヘリに同乗させて、米国の軍事力の象徴である原子力空母へ。そこでのやり取りは各紙とも詳しい。

 「米軍兵らを前に演説していたトランプ氏は『この女性は勝者だ』と首相を壇上に招いた。首相の肩を抱き『日本の歴史上初の女性首相だ』と紹介。笑顔の首相は右拳を挙げて小躍りしながらぐるりと回り、拍手を浴びた」(朝日新聞)。
 対米追随姿勢を、毎日新聞や東京新聞は社説で批判したが、問題はそれで済まない。トランプ大統領が移動に都心の米軍施設のヘリポートを使ったこと、高市首相もヘリに同乗したことには、日本の主権にかかわる重大な意味がある。
 この施設は「米陸軍赤坂プレスセンター」。大統領は羽田空港から入国し、ヘリでこの場所に移動。車に乗り換え天皇との会見に向かった。米空母への移動にもこのヘリポートを使った。

 地元の東京都港区は返還を求めているが米国は応じない。80年前の敗戦による軍事占領が続いている点で、沖縄の米軍基地と同じだ。日本の主権が及ばないそんな場所から、高市首相は大統領専用ヘリに同乗し米空母を訪ねた。
 東京の空は沖縄の空につながっている。基地の過剰な負担の解消を求める沖縄の民意を分かっているのか―。首相に問うべきは、自国の主権と自国民の人権への意識のはずだ。

 会談翌日、東京発行の新聞各紙の朝刊1面トップは、日米首脳会談でそろった。いくつもの紙面の見出しに「黄金時代」が踊っていることに驚いた。朝日新聞は「首相『日米 新黄金時代を』」、読売新聞も「日米同盟『黄金時代を』」が主見出し。産経、東京両紙も2本目の見出しに取った。
 「黄金時代」は何を指すのか不明。勇ましいだけの空疎な言葉だ。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年11月25日号 

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2025年12月01日

【月刊マスコミ評・新聞】公明離脱で政局、万博赤字で閉幕=山田 明

 1年前と同じように、自民党の総裁選がマスコミを総動員して繰り広げられた。新しい総裁に高市早苗氏が選出されたが、「アベ政治」への回帰、さらなる右傾化、放漫財政が危惧される。公明が連立を離脱して政局は波乱含みに。

 少数与党で、連立拡大に注目が集まる。高市氏は当初、国民民主に軸足を置いていたが、日本維新の会と連立協議を進める。維新は連立入りを見据えて「副首都構想」骨子案を公表。首都の法的規定もないのに「副首都」法案とは理解に苦しむが、首都機能のバックアップ体制構築などを掲げる。今回の法案には、大都市法による特別区設置を盛り込んだ。大阪市廃止、「大阪都」3度目の挑戦への布石ではないか。連立拡大の動きと「副首都」構想から目が離せない。

 半年間にわたる大阪・関西万博へ。会場は大阪湾の人工島・夢洲で、開幕前からアクセスや公災害など危険が指摘されてきた。夢洲リスクが顕在化したが、なんとか閉幕にこぎつけた。開幕当初は低調な出足だったが、何でもありの集客優先戦略により、後半に盛り返してきた。万博運営費の黒字が喧伝されるが、巨額の会場建設費やインフラ整備など、万博収支全体は「大幅赤字」である。

 夢洲万博は閉幕しても、終わりでない。海外パビリオン工事費の下請け業者への未払い問題は深刻化している。万博協会はもちろん、国や大阪府市の責任が問われる。閉幕後の解体工事も要注意だ。万博跡地開発が検討されているが、さらなる大阪市の財政負担、環境破壊が懸念される。
 朝日新聞9月24日夕刊1面「リングの先にどんな未来が」掲載の写真は、今回の万博を象徴するものだ。酷暑のなか大勢の人が大屋根リングを歩いているが、その先には巨大クレーンが立ち並ぶ。万博会場に隣接した夢洲IRカジノの建設現場である。万博会場が軟弱地盤の埋立地・夢洲になったのは、維新がここにカジノ誘致をめざしたからだ。

 万博とカジノを一体とした夢洲開発は、維新がツ―トップの大阪府市「成長戦略」として強行されてきた。夢洲カジノについては住民訴訟が大阪地裁で係争中である。マスコミもポスト万博の夢洲開発を注視してもらいたい。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年10月25日号

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2025年10月03日

【月刊マスコミ評・新聞】各紙は「政権交代」一顧だにしない=白垣 詔男

 石破茂首相が、9月7日、辞意を表明した。翌8日の朝刊各紙は、「大ニュース」として紙面を大展開した。しかし、そこには、当然のように、これからも少数与党の「自民党主導の政権」が前提で、各紙の社説でも「政権交代」はおろか、野党の動向については全く触れていなかった。

 「国民不在の党内抗争」(朝日)、「けじめ遅れ混乱深めた」(毎日)、「自民再建へ正念場の総裁選に 連立拡大で政治の安定を図れ」(読売)、「政治停滞招いた責任は重い」(西日本)と、社説の見出しを見る限り、軸足は「自民」から1ミリも動かしていない。
 読売に至っては「(通常国会で)政府・与党が野党の手柄争いに翻弄(ほんろう)された結果…政治は混乱した。/秋の臨時国会以降、そうした混乱を繰り返さないためには、連立の枠組みを拡大し、衆参で過半数を得ることが欠かせない」とまで踏み込む。「自民からの発想」以外、考えられないのだろう。自民が混迷を極めている状況を見せられても、読売は「自民支持」をあからさまに見せつける。

 また、各紙とも、今回の参議院選で各党が掲げたスローガンを、どう実現するのかについては触れずじまいだ。与野党協議を進めて、国民に対する約束でもある「給付金支給」(自公)、「消費税などの減税」(各野党)を一刻も早く実現するのが、「国民本位の政治」、選挙で選ばれた議員の最初の仕事ではないか。
 自民の迷走を横目で見ながら、しかし、自らの選挙スローガンの実現にも動かない野党各党について、何も言わないのは、「自民党の政局」以外、考えも及ばないからだろう。

 そこに触れないのは、新聞各紙が、選挙スローガンは「叫ぶだけの空約束」と見ていることの証左ではないか。「選挙の際のスローガンと実の政治活動は別物」といった、建前的な考え方を、政治家と同様に新聞社もしていると言外に言っているようなものだ。
 これでは、国民・有権者が選択した各党の選挙公約を、ないがしろにするもので、政治不信に拍車をかける。
 政治は与党ばかりが進めるものではないのは、言うまでもない。しかし、8日の各社の社説を読む限り、野党をなおざりにしているとしか思えない。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年9月25日号

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2025年09月04日

【月刊マスコミ評・出版】人権侵害コラムと不再戦の落差=荒屋敷 宏

 高山正之氏が連載「変見自在」(『週刊新潮』7月31日号)で「創氏改名2・0」と題して徐浩予氏や東北大教授の明日香壽川氏を差別し、作家の深沢潮氏や俳優の水原希子氏に対して「日本名で日本人をあたかも内部告発するような言い方」「日本名を使うな」と恫喝して、外国にルーツを持つ人々を差別し、人権を侵害する文章を発表した。

 新潮社からデビューした深沢潮氏は8月4日、都内で記者会見し、同社に謝罪を求めた。第一に新潮社がコラムの問題点を総括して差別と人権侵害について文書で謝罪すること、第二に当該コラムに反論し、批判をする最低8ページ分のスペースを提供することを要求した。新潮社は同社ホームページに「深沢潮様の心を傷つけ、多大な精神的苦痛を負わせてしまったことをたいへん申し訳なく思っております。深くお詫び申し上げます」との「お詫び」を発表し、「今後は執筆の依頼をする時点および原稿を頂戴した時点で、必ず世論の変化や社会の要請について筆者に詳しくお伝えしていく所存」とした。

 高山コラム批判は、投稿サイトのX(旧ツイッター)に詳しい。新潮社の「お詫び」は、深沢氏以外に謝罪せず、高山氏の名前を出さず、「人権デューデリジェンス」という用語で企業のリスク回避の努力目標を述べたにすぎない。コラムを執筆した高山氏は反省していない。かろうじて、当該コラムのロゴデザインを手がけた故・平野甲賀氏の遺族の抗議を受けて、8月14・21日夏季特大号からロゴが変更になっただけである。

 『月刊Hanada』『月刊WiLL』など極右雑誌に等しいコラムを長年掲載し続けている『週刊新潮』は「世論の変化や社会の要請」を一体どう考えているのだろうか? 極右政党の国政選挙での躍進を踏まえているとでもいうのだろうか。
 『地平』9月号の特集「東アジアの不再戦のために」が優れている。河野洋平氏へのインタビュー、加治宏基氏、岡本厚氏、文京洙氏らの論考には、中国や北朝鮮の最近の動向が事実にもとづく分析で示され、具体的な提案も示されている。新潮社と地平社の雑誌を比較するのもおこがましいが、かつて、朝鮮の人々に「創氏改名」と「日本語」を強制し、連行し、徴用し、徴兵した侵略戦争の歴史を踏まえているかどうかの違いもあるだろう。戦後80年の8月は、不再戦のジャーナリズムの決意を問いかけている。
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
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2025年09月02日

【月刊マスコミ評・新聞】「選別と排除」足元から問い直せ=六光寺 弦

 「日本人ファースト」を掲げて差別と分断をあおる参政党は、気に入らないメディアや記者を露骨に選別し排除する。
7月22日の記者会見で、神奈川新聞の石橋学記者を排除した。事前登録がないことを理由にしていたが、2日後には主張を変えた。石橋記者が街頭演説の妨害に加担したと決めつけ、会見の混乱を防ぐ必要があったとした。

 石橋記者は8月1日の会見は出席できたが、参政党の神谷宗幣代表は前回の排除への謝罪を拒否。その主張に虚偽があることを石橋記者が問い始めたところで、党スタッフが「1人1問」を理由に質問を制止した。その後も神谷代表は石橋記者を一方的に批判し、反論は許さなかった。
 参政党は、会見の場では党の指示に従うことを参加条件にしている。会見場で従わなければ退場させる。気に入らない記者の発言は容易に封じることができる。事実上の「選別と排除」だ。

 石橋記者の排除は、沖縄タイムスや琉球新報がいち早く報じた。新聞労連やJCJは抗議の特別決議や声明を発している。「沈黙」は「承認」と受け取られる。石橋記者や神奈川新聞を孤立させないために、新聞界がこぞって声を挙げなければならない。だが新聞協会は8月に入っても「沈黙」を続けた。

 「選別と排除」を巡っては新聞界で看過できないことが起きている。
 東京地裁は6月30日、5年前の鹿児島県知事の就任記者会見を巡り、地元記者クラブがフリージャーナリストの寺澤有、三宅勝久両氏を排除したことを是認する判決を言い渡した。
 寺澤氏らは記者クラブ側の記者たちに立ちふさがれ、会見場に入ることを“実力”で阻止された。記者クラブ幹事社だった共同通信社側に賠償を求め提訴していた。

 東京地裁は、会見は記者クラブの主催だと認定。事前登録がないことを理由に寺澤氏らを排除したことに対して、目的は会見の円滑な運営と混乱の防止だと認めて、違法性はないとの判断を示した。
 手続き論はともかく、実績豊富なジャーナリストが記者クラブによって記者会見から排除された事実に変わりはない。
 「選別と排除」を許さない−。新聞界は足元から問い直すべきだ。
              JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年8月25日号
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2025年08月17日

【月刊マスコミ評・新聞】「極右」参政党から目が離せぬ=山田 明

 気候危機を実感させる連日の猛暑の下で、参院選が始まった。「日本は戦後80年の節目を迎え、世界はトランプ米政権による混迷の中にある。主権者たる国民が、これからの政治を選びとる重要な機会となる」(朝日7月3日社説)。

 世界は強権的なトランプ関税と軍拡圧力に振り回されている。トランプ政権からの圧力により、NATOは2035年までに防衛費をGDP比5%に引き上げる目標に合意。米国はアジアの同盟国にも、NATOと同水準まで防衛費を引き上げるよう求めている。日本の防衛費をめぐる議論に影響するのは必至だ(毎日6月26日)。  
 さらなる軍拡予算、軍事研究を加速する動きも懸念される。日本学術会議を特殊法人に改組する法律が成立した。学術会議改組というより、解体するもので、学問の自由を脅かすものだ。戦前の政府による学問・思想弾圧を想起させる。

 読売6月13日社説は、「長年にわたって軍事目的の研究に反対し、軍民共有(デュアルユース)の研究にもブレーキをかけてきた」と学術会議を批判し、「法人化を機に生まれ変われ」と主張。自公とともに法案に賛成した日本維新の会は、法案審議の過程で学術会議に根拠のない中傷を繰り返し、軍事研究への協力を強要した。維新は、自公と医療費年4兆円削減、11万床の病床削減を進めようとしている。

 与党にすり寄り、軍拡・社会保障切り捨てを煽る維新や国民民主党、さらに支持率急伸の参政党から目が離せない。参政党はトランプまがいの「日本人ファースト」を叫ぶ。外国人を敵視する排外主義、女性蔑視、明治憲法復活のような復古的な憲法構想案なるものをまとめている。欧米の「極右」化の日本版で、危険きわまりない。メディアは参政党の主張を紹介するが、正面からの批判は手控えている。選挙報道を含め、メディアのあり方が鋭く問われている。

 今回の参院選は、衆院のように自公が過半数割れするかが最大の焦点だ。既成政党離れが加速する中で、多党化する野党の勢力図にも注目が集まる。
 今年は戦後80年。戦前回帰が強まる中で、自国が戦場になった「鉄の暴風」沖縄戦から学ぶことは多い。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
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2025年08月07日

【月刊マスコミ評・放送】自己検証番組はどうあるべきか=岩崎 貞明  

 フジテレビが一連の問題を自己検証した番組が、7月6日に放送された。当初は第三者委員会の調査報告書が公表された直後にも放送されるのでは、との見通しもあったが、投資ファンドによる株主提案などの騒動が巻き起こる中で会社の体制固めが優先されたせいか、結局は株主総会終了後の7月にずれこんだものとみられる。日曜日の午前中、レギュラー番組を休止して、105分間CMなしの特番だった。

 印象として、第三者委員会の報告を忠実にたどって、関係者への取材で証言を集めて、有識者のコメントをはさみながら構成したもので、大きな新事実の発掘もなく、物足りなさを覚えた視聴者も多かったに違いない。とくに、番組冒頭に清水賢治社長が出てきてお詫びの言葉から番組が始まったあたりは、『放送レポート』でのインタビューで報道局編集長が「そういう番組にはしたくない」と言っていた番組になってしまった感が拭えない。

 自己検証番組の例として忘れられないのは、かつてテレビ朝日『ザ・スクープ』で「やらせ」の疑いが浮上した際に、それを検証した番組だ。

 その「やらせ」疑惑とは、1993年に放送された、中国で死刑囚から臓器移植手術が行われているというテーマで、全編隠し撮り映像によるものだった。「やらせ」の内容は、時間を前後させて意図的に編集したことや、証言者がインタビューに応じなかったために通訳に刑務官の服を着せて覆面インタビューを撮影したことなどだった。94年に中国政府からテレビ朝日に対して内々に猛抗議があり、それをかぎつけた週刊誌が報じて一大スキャンダルになるという段階で、同番組のスタッフが自己検証番組の制作を訴え出た。

 番組スタッフが考えた検証スタイルは、外部の第三者に関係者を取材してもらう、という手法だった。第三者として指名されたのは、元TBS報道局長で制作会社社長を務めていた吉永春子さん(故人)だった。『魔の731部隊』など優れたドキュメンタリー制作者として知られる吉永さんは、番組に企画を持ち込んで取材・制作した制作会社のスタッフや、テレビ朝日のプロデューサーなど関係者に徹底インタビュー。最後に吉永さんが番組のインタビューに答えるという形で、事実上の第三者的な検証を試みたのだ。結果、『ザ・スクープ』は番組打ち切りを免れて続行した。
 外部の視点を入れる検証の重要性は、今日も変わらないのではないか。
        JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年7月25日号
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2025年07月02日

【月刊マスコミ評・出版】絶滅か、それとも、社会を動かすのか?=荒屋敷 宏

 雑誌『プレジデント』7月4日号に経済学者の成田悠輔氏インタビュー「もうすぐ絶滅するという紙の雑誌について」が掲載されている。1997年に1兆5644億円あった雑誌市場の販売額は2022年に5000億円を割り、雑誌業界は「末期の炭鉱」「緩慢な自殺」だという。
成田氏は、「今世紀はすべての人間が発信者であり、あらゆる人間から受信する聴衆でもある、水平化し相互化した世界」であり、「偉い肩書のついたスーツの有識者がテレビや新聞で仰々しく語る見解より、SNSの匿名アカウントの暴論や陰謀論のほうが影響力」があり、「新聞や雑誌は化石おじさん的」と語る。

「情報の受信者を対等な知能を持った相手として扱ってコミュニケーションすることが必要です。受け手を恐れることが大事です」という成田氏は今でも毎年数十万円くらいを雑誌に使うという。「大好き」だからこそ「無策に沈んで海の藻屑と消えようとしている雑誌界の現状が大嫌い」なのだそうだ。成田氏にも雑誌復活のアイデアがなく、雑誌を石や金属に刻み、遺跡になれという極論を主張している。

一方、『地平』7月号のジャーナリスト・思想家の会田弘継氏「雑誌と政変 論壇誌が社会を動かす」が対照的な論陣を張っている。『地平』創刊1年を祝う論考だが、米国で今年1月、オンライン版の論壇誌「コモンプレイス」がスタートしたことに触れつつ、「政治再編プロセス」の中の日本でも新雑誌(論壇誌)がもっと現れてもいいはずだという。米国の論壇誌が政変に絡んできた歴史をひもときながら、オンライン版の論壇誌が米国で次々に出現している現状に日本も学べという。

 興味深いのは『アステイオン』102号(6月2日発行)の武田徹氏「SNS時代のジャーナリズム」である。鶴見俊輔氏から「ジャーナリズムの思想」を、玉木明氏から「ジャーナリズムの科学」を学ぶ温故知新の論文である。SNSと動画配信サービス上でマスメディアを激しく敵視する言説が拡散されている状況の打開を図りたいという。詳しく紹介できないのが残念だが、武田氏は、マスコミは嘘ばかりと決めつけるネットユーザーに対して「マスコミは間違うこともあるが、間違いを正そうとするものでもある」ことを態度で示し続けてこそ、ジャーナリズムは信頼性を回復できるのではないか」という。
 雑誌本来の役割に立ち返ることが求められているようだ。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
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2025年07月01日

【月刊マスコミ評・新聞】原発の事故責任を問わない司法とは?=白垣 詔男

 東京電力福島第1原発事故で、元役員らの賠償責任を否定する判決を6月6日、東京高裁が出した。1審判決を取り消した。東電の株主約40人が旧経営陣ら5人に対し、23兆円を東電に支払うよう求めた株主代表訴訟で、原告側は逆転敗訴≠オた。株主の1人の女性遺族が判決後、記者会見で涙ながらに「悔しさ」を訴えていたのを見て、胸が痛んだ。

 この判決について各紙は、朝刊社説で取り上げた。
読売、産経を除く朝刊各紙は「甘い判断、問わぬ理不尽」(7日・朝日)、「不問にできぬ事故責任」(10日・毎日)、「過酷事故の責任どこに」(12日・西日本)の見出しで司法判断を断罪≠オている。
 「司法は取り返しのつかない被害を正面から受け止めているのか。疑問を禁じ得ない」(朝日)、「人々の暮らしや故郷を壊した社会的責任を不問にすることはできない」(毎日)、「すぐに原発の運転を止め、事故防止策を取らねばならないほど差し迫った事態でなければ、対策を先送りして事故が起きても責任は問われない―。国民感覚と懸け離れた司法判断と言わざるを得ない」(西日本)―国民の意識に沿った、もっともな主張だ。

 これに対して読売は「賠償13兆円が一転してゼロに」(7日)の見出しで「原子力発電所の事故は仕方なかったでは済まない」と「自己主張」するだけで「司法批判」は何もなく、「巨大な地震と津波は、人知を超えていたという評価だろう」と人ごとのように書いている。産経は「原発事故の防止へ全力を」(10日)の見出し、「一転して旧経営陣の法的責任を認めなかった。妥当な判決である」。

 最近の司法(それも上級審)は、原発など政府が推進する政策について、原告の主張を排除して、国の主張に沿った判断が目につく。「三権分立」が名ばかりの司法に成り下がってしまっていると感じることが多い。「国民感情」を全く考えないで、「四角四面の法解釈」をよりどころに、判決を出す審理が目につく。今回の司法判断が、その典型だろう。

 裁判官は、法律とは不即不離と考えられる「国民感情」に寄り添わなければ、ぎすぎすした社会の風潮は改善しないのではないかとさえ考えてしまう。
          JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年6月25日号
 

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